(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143296
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】軸受室の給油構造
(51)【国際特許分類】
F04C 29/02 20060101AFI20241003BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20241003BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20241003BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20241003BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20241003BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F04C29/02 311L
F16H57/04 Q
F16C33/66 Z
F16C19/26
F16C33/78 Z
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055895
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000241795
【氏名又は名称】北越工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 太一
【テーマコード(参考)】
3H129
3J042
3J063
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3H129AA03
3H129AB01
3H129BB01
3H129CC17
3H129CC33
3J042AA09
3J042BA05
3J042CA01
3J042CA10
3J063AA40
3J063XD47
3J063XD73
3J216AA03
3J216AA12
3J216AB19
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA05
3J216CB03
3J216CB12
3J216CC45
3J216CC68
3J701AA13
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701BA80
3J701CA04
3J701CA08
3J701CA17
3J701EA67
3J701FA13
3J701FA32
3J701FA60
3J701GA29
(57)【要約】
【課題】軸封装置に対する給油の衝撃を減らし,軸封装置からの油漏れを防止できる軸受室の給油構造を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の軸受室の給油構造は,スクリュ圧縮機1のケーシング2に設けた軸孔8内に形成されると共に,軸受12と,軸封装置14とを機内側から順に収容する軸受室10への給油構造において,前記ケーシング2内に給油通路31及び,該給油通路31と前記軸受室10を連通する給油孔30を穿設し,前記給油孔30を前記軸受室10内において前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bに向けて開口させ,前記軸受12と前記軸封装置14の間に,前記ケーシング2の内壁面から前記ロータ軸6に向けて突出する遮蔽スペーサ20を設けると共に,前記遮蔽スペーサ20の内周面と前記ロータ軸6の外周面によって隙間Δを形成したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュ圧縮機のケーシングに設けた軸孔内に形成される軸受室であって,前記軸孔に挿入されるスクリュロータのロータ軸を支承する軸受と,前記軸孔の内周と前記ロータ軸の外周間を封止する軸封装置とを収容する前記軸受室への給油構造において,
前記軸受室内に,機内側から順に前記軸受と前記軸封装置を配設し,
前記ケーシング内に給油通路及び,該給油通路と前記軸受室を連通する給油孔を穿設し,前記給油孔を前記軸受室内において前記軸受の外輪の機外側の端面に向けて開口させ,
前記軸受と前記軸封装置の間に,前記ケーシングの内壁面から前記ロータ軸に向けて突出し,前記給油孔から前記端面を介して軸封装置に向けて飛散する潤滑油を遮断する遮蔽スペーサを設けると共に,前記遮蔽スペーサの先端面と前記ロータ軸の外周面によって隙間を形成したことを特徴とする軸受室の給油構造。
【請求項2】
前記遮蔽スペーサが,前記軸封装置の機内側内周縁から前記軸受の外輪の機外側端面の内周縁を結ぶ線よりも内周側に突出するよう設けられたことを特徴とする請求項1記載の軸受室の給油構造。
【請求項3】
前記遮蔽スペーサが,前記ケーシングの内壁に内嵌される環状板体又は,前記ケーシングの内壁に係止されるスナップリングにより形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の軸受室の給油構造。
【請求項4】
円筒状の本体部と該本体部の外周方向に突設される凸部を有すると共に,前記ロータ軸に外嵌される外嵌スペーサを設け,前記隙間を,前記遮蔽スペーサの先端面と前記凸部の外周面によって形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の軸受室の給油構造。
【請求項5】
前記遮蔽スペーサに前記軸封装置側と前記軸受側を連通する連通孔を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の軸受室の給油構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,スクリュ圧縮機内に設けられる軸受室の給油構造であって,前記軸受室内において軸封装置に対する給油の勢いを緩和する遮蔽スペーサを設け,前記軸封装置に対する給油の衝撃を減らし,軸封装置からの油漏れを防止できる軸受室の給油構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,スクリュ圧縮機のケーシングに形成した軸孔内に軸受室が設けられ,該軸受室内には,スクリュロータのロータ軸を支承する軸受と,前記軸孔の内周と該軸孔に挿入された前記ロータ軸の外周間を封止し潤滑油の漏出を防ぐ軸封装置とが設けられている。
【0003】
そして,前記軸受と前記軸封装置とを冷却及び潤滑するために前記軸受室への給油を行っている。
【0004】
この軸受室への給油の方法としては,例えば,
図15に示すスクリュ圧縮機100のように,スクリュロータ102を収容する圧縮機本体のケーシング101内に形成した軸受室105内において,前記スクリュロータ102の吸入側のロータ軸103を軸承する軸受106と,前記ケーシング101に設けた軸孔104の内周と該軸孔104に挿入した前記ロータ軸103の外周との間隔を封止する軸封装置(シールリップを備えたオイルシール)107とを収容する。そして,前記ケーシング101内に給油通路108を穿設すると共に該給油通路108と前記軸受室105を連通する給油孔109を穿設し,前記給油孔109を前記軸受室105内で開口させ,該軸受室105への給油を可能としたものがある(特許文献1)。
【0005】
図15に示すスクリュ圧縮機100のように,前記給油孔109を前記ロータ軸103に対して垂直に設ける構造は,前記ケーシング101を加工して内部通路を設けたり,外部配管を設けたりする等の際にスペースが必要となるのに対し,
図16に示す従来例のように,給油孔209をロータ軸203に対して水平に設け,省スペース化を図ったスクリュ圧縮機200もある。
【0006】
図16のスクリュ圧縮機200の例では,圧縮機本体のケーシング201に設けた軸孔204内に形成される軸受室205内において,スクリュロータ202のロータ軸203を支承する軸受206と,前記軸孔204の内周と該軸孔204に挿入した前記ロータ軸203の外周間を封止する軸封装置(シールリップ207aを備えたオイルシール)207を収容している。そして,前記軸受室205と前記ケーシング201内に穿設された給油通路208とを連通する給油孔209をケーシング201内に穿設し,前記給油孔209を前記軸受室205内で前記軸受206の外輪206aの機外側の端面206bに向かって開口させ,前記軸受206に向けて給油して前記軸受206を潤滑及び冷却するとともに,前記軸受206を潤滑及び冷却した潤滑油が前記軸封装置207側に流れ前記軸封装置207を潤滑及び冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,前記スクリュ圧縮機200において前記給油孔209から前記軸受室205へ潤滑油が図示しないレシーバタンク内圧力により圧送給油されると,軸受206の外輪206aの端面206bに当たり跳ね返った潤滑油が,
図17中の矢印a1や矢印a2が示す方向に勢いよく飛散する。このうち矢印a1の方向に飛んだ潤滑油は,前記軸封装置207のシールリップ207aに勢いよく当たり,その衝撃でシールリップ207aが損傷したり,浮いたりして前記軸封装置207からの油漏れを引き起す恐れがあった。また,軸封装置207を潤滑するための給油は少量で良いところ,軸封装置207へ必要以上の潤滑油が流入する(給油される)ことで,軸封装置207から油漏れを引き起こすことがあった。
【0009】
一方,特許文献1に開示のスクリュ圧縮機100は,前記軸封装置107の外周側に前記軸封装置107外周を囲繞するように油案内壁110を形成して外周通路111を設けている。そして,前記軸受室105内において前記給油孔109を前記油案内壁110に向けて開口させると共に,下方の給油孔109に対して前記油案内壁110の上部に前記外周通路111に対峙して切欠溝112を設けている。これらの構成により,前記給油孔109から軸受室105内に圧送給油された潤滑油は前記油案内壁110に当たった後,前記軸受106を潤滑及び冷却しつつ前記外周通路111を伝って上方へ流れ,その後,前記切欠溝112を流下して軸封装置107へと流れるようになっており,給油孔109から軸受室105内に圧送給油された潤滑油の流速を抑え,軸封装置107に対する給油の衝撃を減らすことを可能にしている。
【0010】
しかしながら,前記外周通路111内に溜まった潤滑油が前記切欠溝112から軸封装置107側へ一挙に流れ出ることで,軸封装置107へ必要以上の潤滑油が給油され,軸封装置107から機外へ潤滑油が漏れ出ることがあった。また,上述したような油案内壁110を形成して外周通路111を設ける構造の他に,簡単な構造で軸封装置に対する給油の衝撃を減らすことができる対策が望まれていた。
【0011】
そこで,本発明は,上述の従来技術における欠点を解消するために成されたもので,軸封装置への給油の勢いを緩和して軸封装置に対する給油の衝撃を減らすと共に,軸封装置側への給油量を制限して前記軸封装置からの油漏れを防ぐことを可能とする軸受室の給油構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0013】
上記目的を達成するために,本発明の軸受室の給油構造は,スクリュ圧縮機1のケーシング2に設けた軸孔8内に形成される軸受室10であって,前記軸孔8に挿入されるスクリュロータ4,5のロータ軸(実施形態においてオスロータ4の吸入側のロータ軸6)を支承する軸受12と,前記軸孔8の内周と前記ロータ軸6の外周間を封止する軸封装置14とを収容する前記軸受室10の給油構造において,
前記軸受室10内に,機内側から順に前記軸受12と前記軸封装置14を配設し,
前記ケーシング2内に給油通路31及び,該給油通路31と前記軸受室10を連通する給油孔30を穿設し,前記給油孔30を前記軸受室10内において前記軸受12の外輪12aの機外側の端面12bに向けて開口させ,
前記軸受12と前記軸封装置14の間に,前記ケーシング2の内壁面から前記ロータ軸6に向けて突出し,前記給油孔30から前記端面12bを介して前記軸封装置14に向けて飛散する潤滑油を遮断する遮蔽スペーサ20を設けると共に,前記遮蔽スペーサ20の先端面と前記ロータ軸6の外周面によって隙間Δを形成したことを特徴とする(請求項1:
図1~3参照)。
【0014】
なお,前記遮蔽スペーサ20は,前記軸封装置14の機内側内周縁(実施形態においては,シールリップ15の先端縁)E1から前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bの内周縁E2を結ぶ線Lよりも内周側に突出するよう設けることが好ましい(請求項2:
図3参照)。
【0015】
前記遮蔽スペーサ20は,前記ケーシング2の内壁に内嵌される環状板体又は,前記ケーシング2の内壁に係止されるスナップリング25により形成することが好ましい(請求項3:
図2~7参照)。
【0016】
また,円筒状の本体部27aと該本体部27aの外周方向に突設される凸部27bを有すると共に,前記ロータ軸6に外嵌される外嵌スペーサ27を設け,前記隙間Δを,前記遮蔽スペーサ20の先端面と前記凸部27bの外周面によって形成しても良い(請求項4:
図10~11参照)。
【0017】
また,前記遮蔽スペーサ20に前記軸封装置14側と前記軸受12側を連通する連通孔21を設けても良い(請求項5:
図12~14参照)。
【発明の効果】
【0018】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の軸受室の給油構造を備えたスクリュ圧縮機では,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0019】
前記給油孔30から前記軸受室10へ圧送給油される潤滑油のうち,前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bに当たり跳ね返って前記軸封装置14に向かって飛散する潤滑油を前記遮蔽スペーサ20により遮断することができた。従って,前記遮蔽スペーサ20により,圧送給油される潤滑油の勢いを緩和すると共に,前記軸封装置14に直接当たり前記軸封装置14が損傷することを抑制でき,前記軸封装置14から潤滑油が漏れるのを防ぐことができた。特に,前記軸封装置14としてシールリップを備えるオイルシールを使用する場合には,前記シールリップの損傷や浮きが生じるのを抑制できた。
【0020】
また,前記軸受室10へ給油された潤滑油は,前記軸受12を潤滑及び冷却した後,遮蔽スペーサ20の先端面とロータ軸6との間に形成された前記隙間Δを介して前記軸封装置14側に流れるが,前記隙間Δにより潤滑油の通過流量が制限されるため,軸封装置14へ過剰に給油することを抑制でき,前記軸封装置14から潤滑油が漏れるのを防ぐことができた。
【0021】
前記遮蔽スペーサ20が前記軸封装置14の機内側内周縁E1から前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bの内周縁E2を結ぶ線Lよりも内周側に突出するよう設ける構成では,前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bに当たり跳ね返って前記軸封装置14に向かって飛散する潤滑油が,軸封装置14に直接当たることを確実に防止することができた。
【0022】
前記ロータ軸6に凸部27bを備えた外嵌スペーサ27を外嵌させ,遮蔽スペーサ20の先端面と外嵌スペーサ27の凸部27b間で前記隙間Δを形成する構成では,前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bで跳ね返りロータ軸6に対して垂直方向に飛散し,勢いを維持したままロータ軸6に沿って軸封装置14に流入することを前記凸部27bにより阻止することができた(
図10を参照)。
【0023】
また,遮蔽スペーサ20を設けることで軸封装置14側に給油された潤滑油が軸受12側に抜けにくくなる恐れがあるところ,遮蔽スペーサ20に前記連通孔21を設けることで,軸封装置14を潤滑及び冷却した後の潤滑油を軸受12側に流す流路を確保することができ,これにより,前記軸封装置14から潤滑油が漏れるのを防ぐことができた(
図14を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態における軸受室10の給油構造を備えるスクリュ圧縮機1の全体図。
【
図2】
図1のスクリュ圧縮機1の軸受室10の給油構造を説明する図。
【
図3】
図1のスクリュ圧縮機1の軸受室10内における潤滑油の流れを説明する図。
【
図5】
図4の遮蔽スペーサ20を有する軸受室10の給油構造を説明する図。
【
図6】遮蔽スペーサ20のさらに他の形態を示す図。
【
図7】
図6の遮蔽スペーサ20を有する軸受室10の給油構造を説明する図。
【
図8】給油孔30及び給油通路31の他の形態を示す図。
【
図10】第2実施形態における軸受室10の給油構造を説明する図。
【
図11】
図10の軸受室10内における潤滑油の流れを説明する図。
【
図12】第3実施形態における軸受室10の給油構造を説明する図。
【
図14】
図12の軸受室10内における潤滑油の流れを説明する図。
【
図15】従来のスクリュ圧縮機100が備える軸受室105の給油構造を示す図。
【
図16】他の従来のスクリュ圧縮機200が備える軸受室205の給油構造を示す図。
【
図17】
図16のスクリュ圧縮機200の軸受室205内における潤滑油の流れを説明する図。
【
図18】
図16のスクリュ圧縮機200の軸受室205内における潤滑油の流れを説明する他の図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
つぎに,本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら以下説明する。
【0026】
図1及び
図2において,符号1は本発明の軸受室の給油構造を備えたスクリュ圧縮機であり,このスクリュ圧縮機1は,オスロータ4及びメスロータ5から成る一対のスクリュロータ4,5と,このスクリュロータを噛み合い状態で収容するロータ室3を備えたケーシング2を備えている。
【0027】
前記ケーシング2の吸入側の端部には,オスロータ4のロータ軸6を受け入れてケーシング2外に突出させるための貫通孔である軸孔8を設けると共に,この軸孔8内に,前記オスロータ4のロータ軸6を,図示せざる例えばモータやエンジン等の駆動源からの回転駆動力を入力するための駆動軸として挿着している。
【0028】
また,前記スクリュ圧縮機1は,前記ケーシング2の前記軸孔8内に軸受室10を形成し,前記軸受室10内において,前記オスロータ4のロータ軸6を支承する軸受12と,前記軸孔8内に挿入された前記ロータ軸6の外周と前記軸孔8の内周間を封止する軸封装置14とを機内側から順に収容している(
図2参照)。
【0029】
本実施形態では,
図2に示すように,前記軸封装置14として,前記軸孔8内に固定される環状のハウジング16と,このハウジング16の内周より突出する環状のシールリップ15とを備えたオイルシールを使用している。
【0030】
また,本実施形態では,軸封を行う部分の前記ロータ軸6の外周に外嵌されて前記ロータ軸6と共に回転する円筒状のカラー18を備え,前記カラー18の外周面を前記シールリップ15が摺接するよう構成されている。なお,本発明においては,必ずしも前記カラー18を設ける必要は無く,前記シールリップ15が前記ロータ軸6の外周面に摺接されるよう構成されても良い。
【0031】
前記軸受室10内において,
図2に示すように,前記軸受12と前記軸封装置14の間に前記ケーシング2の内壁面から前記ロータ軸6に向けて突出するように遮蔽スペーサ20が設けられている。なお,本実施形態では,前記遮蔽スペーサ20として環状板体を前記ケーシング2内に内嵌させ,前記軸孔8の内周にスナップリング(C字型止め輪)25を嵌合するための溝を形成し,前記溝内にスナップリング25を嵌合することで,前記スナップリング25が前記遮蔽スペーサ20に当接して前記環状板体(遮蔽スペーサ20)を固定している。
【0032】
そして,前記軸受室10内において,前記遮蔽スペーサ20の先端面(本実施形態では,前記環状板体の内周面)と前記カラー18の外周面との間に隙間Δが形成されている。
【0033】
また,
図1及び
図2に示すように,前記ケーシング2には,給油通路31が穿設されていると共に,該給油通路31と前記軸受室10を連通する給油孔30が前記ロータ軸6に対して水平方向に穿設されている。そして,前記軸受室10内において,前記給油孔30が前記軸受12の外輪12aの機外側の端面12bに向けて開口しており,前記給油孔30から前記軸受12に向かって潤滑油が供給され,前記軸受12の潤滑と冷却を行うように構成されている。
【0034】
以上のように構成された本実施形態の軸受室の給油構造では,
図3中の矢印で示すように,潤滑油が圧送給油される場合に,前記給油孔30から前記軸受12の外輪12aの機外側の端面12bに向かって噴射され,前記端面12bで跳ね返り前記軸封装置14に向かって勢いよく飛散しても該潤滑油は,前記遮蔽スペーサ20に当たる,つまり,遮蔽スペーサ20により遮断される。従って,前記遮蔽スペーサ20により,潤滑油の勢いが緩和されると共に,潤滑油が軸封装置14に直接当たり軸封装置14を損傷することが抑制される。特に,本実施形態のようにシールリップ15を備える軸封装置(オイルシール)14を使用する場合には,シールリップ15の破損や浮きが生じるのを抑制でき,軸封装置14から潤滑油が漏れることを防止できる。
【0035】
なお,本発明では,前記ケーシング2の内壁面から前記ロータ軸6に向けて突出するよう設けられた前記遮蔽スペーサ20について,前記給油孔30から前記軸受室10内に圧送給油された潤滑油が,前記軸受12の外輪12aの機外側の端面12bで跳ね返り軸封装置14に向かって勢いよく飛散して軸封装置14へ衝突することを前記遮蔽スペーサ20により確実に阻止するためには,
図3に示すように,前記軸封装置14の機内側内周縁(本実施形態では,前記シールリップ15の先端縁)E1から前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bの内周縁E2を結ぶ線Lよりも内周側に突出するよう前記遮蔽スペーサ20を設ける(本実施形態においては,環状の前記遮蔽スペーサ20の内径を設定する)ことが好ましい。
【0036】
また,本実施形態の軸受室10の給油構造においては,前記軸受12を冷却した潤滑油は,軸封装置14に向かって流れ前記軸封装置14を潤滑及び冷却するが,その際に潤滑油は前記隙間Δを通過する必要があるため,この隙間Δにより軸封装置14への潤滑油の給油量(通過流量)が制限される。従来の軸受室には,前記遮蔽スペーサ20が設けられていないため潤滑油が制限なしに軸封装置14に給油されたのに対し,前記遮蔽スペーサ20が設けられたことで前記隙間Δが形成され,上述の通り,潤滑油の給油量(通過流量)が制限され,軸封装置14に対する給油が過剰となることが阻止される。
【0037】
一方,前記隙間Δにより潤滑油が通過できれば良いので,前記隙間Δを可及的に狭くしても構わない。この場合でも,毛管現象によって潤滑油が隙間Δを通って軸封装置14側へ流れる。また,前記隙間Δを可及的に狭くした場合,前記遮蔽スペーサ20により,前記軸受12の外輪12aの機外側の端面12bで跳ね返り軸封装置14に向かって勢いよく飛散する潤滑油の遮断が確実に成される。
【0038】
なお,本実施形態では,上述のように軸封装置14としてオイルシールを使用しているが,本発明の軸受室の給油構造は,給油の衝撃による損傷の防止,その他給油の衝撃による不具合発生の防止や,潤滑油の供給量を制限すること等が望まれる軸封装置14に対して適用することが可能で,例えば,前記軸封装置14として,微量な潤滑油の供給を必要とするメカニカルシール等を使用しても良い。
【0039】
また,本実施形態では遮蔽スペーサ20として環状板体を使用したが,
図4,5に示すように,スナップリング25に前記環状板体を一体形成したものを使用しても良い。この場合,前記スナップリング25が遮蔽スペーサ20として機能し,
図5に示すように,前記給油孔30から前記軸受室10内に圧送給油された潤滑油は,図中の矢印が示すように,前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bで跳ね返り軸封装置14に向かって勢いよく飛散しても前記スナップリング25(20)により軸封装置14へ衝突することが阻止される。さらに,
図6,7に示すように,前記ケーシング2の内壁面に環状板体の遮蔽スペーサ20を嵌合するための固定溝40を形成して,前記遮蔽スペーサ20を前記固定溝40に固定させるよう構成して,前記スナップリング25を使用しないようにしても良い。
【0040】
なお,遮蔽スペーサ20は,前記給油孔30から前記軸受12の外輪12aの機外側の端面12bを介して軸封装置14に向けて飛散する潤滑油を遮断することができれば良く,つまりは,少なくとも前記給油孔30から圧送給油された潤滑油が前記端面12bで跳ね返り軸封装置14に向かって飛散する方向の延長線上に(少なくとも給油孔30の軸受室10内での開口部に対してその近傍に)配設されていれば良く,従って,必ずしも本実施形態のように環状板体を使用して前記遮蔽スペーサ20を環状に形成する必要は無い。そこで,例えば,上述の
図4及び
図5に示すスナップリング25を使用して遮蔽スペーサ20をC字状に形成したり,半円状の板体又は円弧状板体を使用して遮蔽スペーサ20を半円状又は円弧状に形成したりしても良い。
【0041】
また,本発明の軸受室の給油構造においては,
図8,9に示すように,前記給油通路31と前記軸受室10を連通する給油孔30が前記ロータ軸6に対して垂直方向に穿設されてもよい。この場合でも,
図9に示すように,前記軸受室10内において,前記給油孔30が前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bに向けて開口しており,前記給油孔30から前記軸受12を介して軸封装置14に向けて飛散する潤滑油の流れが発生するが,その流れを遮蔽スペーサ20により遮断することができる。
【0042】
次に,本発明の第2実施形態について説明する。
【0043】
なお,以下においては,本実施形態について,上述の第1実施形態と異なる点を中心に説明し,同様の箇所については説明を省略する。また,第1実施形態と対応する箇所には,同一の符号を付して説明する。
【0044】
本実施形態では,
図10に示すように,前記カラー18と前記軸受12との間のロータ軸6に外嵌される外嵌スペーサ27を備えている。
【0045】
前記外嵌スペーサ27は,円筒状の本体部27aと,この本体部27aの一端側(図において機外側)において外周方向に突設された凸部27bを備えている。
【0046】
本実施形態の前記軸受室10においては,前記ケーシング2の内壁面から前記ロータ軸6に向けて突出するよう設けられた前記遮蔽スペーサ20の先端面と前記外嵌スペーサ27の凸部27bの外周面との間に,潤滑油の通過流量を制限する前記隙間Δが形成されている。
【0047】
本実施形態においては,給油孔30から前記軸受12に向かって噴射された潤滑油が前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bで跳ね返り,
図11中の矢印A1のように軸封装置14に向かって勢いよく飛散して軸封装置14へ衝突することを,前記遮蔽スペーサ20により阻止することができる他,図中の矢印A2のように前記軸受12の外輪12aの機外側端面12bで跳ね返り前記ロータ軸6に対して垂直方向に飛散し,図中の矢印A3が示すように勢いを維持したままロータ軸6に沿って軸封装置14に流入することを前記凸部27bにより阻止することができる。
【0048】
また,遮蔽スペーサ20により勢いが緩和された潤滑油を含め軸受を冷却した潤滑油は,軸封装置14に向けて流れ前記軸封装置14を潤滑及び冷却するが,その際に潤滑油は前記隙間Δを通過する必要があるため,この隙間Δにより軸封装置14への潤滑油の給油(通過)量が制限される。
【0049】
次に,本発明の第3実施形態について説明する。
【0050】
なお,以下においては,本実施形態について,上述の第1実施形態と異なる点を中心に説明し,同様の箇所については説明を省略する。また,第1実施形態と対応する箇所には,同一の符号を付して説明する。
【0051】
本実施形態では,
図12及び
図13に示すように,遮蔽スペーサ20に前記軸封装置14側と前記軸受12側を連通する連通孔21が設けられている。
【0052】
図18に示す従来のスクリュ圧縮機200の軸受室205の給油構造において,前記給油孔209から供給され軸受206を潤滑及び冷却した後に軸封装置207に流れ軸封装置207を潤滑及び冷却した潤滑油は,図中の矢印a3が示すように,圧縮機本体の吸入側が負圧になることで発生した圧力差により軸受206側へ流れるところ,本発明のように遮蔽スペーサ20を設けることで軸封装置14側に給油された潤滑油が軸受12側に流れにくくなり,これにより,軸封装置14側に潤滑油が留まり,軸封装置14に対する給油が過剰となり軸封装置14から潤滑油が機外に漏れる恐れがある。これに対し,本実施形態では前記遮蔽スペーサ20に前記連通孔21を設けることで,
図14中の矢印が示すように,軸封装置14を潤滑及び冷却した後の潤滑油が前記連通孔21を介して軸受12側に流れる流路を確保することができる。これにより,軸封装置14に対する必要以上の給油を防ぎ,軸封装置14から潤滑油が機外に漏れることが防止できる。
【0053】
なお,連通孔21の形成される数及び位置については特に限定されるものではないが,連通孔21は複数設けることが好ましく,また,連通孔21の形成位置については,スクリュ圧縮機の停止時に潤滑油は下方に垂れることを考慮して,
図13に示すように,遮蔽スペーサ20の下端側に設けると潤滑油の回収が円滑に行うことができ好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 スクリュ圧縮機
2 ケーシング
3 ロータ室
4 オスロータ
5 メスロータ
6 ロータ軸
8 軸孔
10 軸受室
12 軸受
12a 外輪
12b 端面
14 軸封装置(オイルシール)
15 シールリップ
16 ハウジング
18 カラー
20 遮蔽スペーサ
21 連通孔
25 スナップリング
27 外嵌スペーサ
27a 本体部
27b 凸部
30 給油孔
31 給油通路
40 固定溝
100 スクリュ圧縮機
101 ケーシング
102 スクリュロータ
103 ロータ軸
104 軸孔
105 軸受室
106 軸受
107 軸封装置
108 給油通路
109 給油孔
110 油案内壁
111 外周通路
112 切欠溝
200 スクリュ圧縮機
201 ケーシング
202 スクリュロータ
203 ロータ軸
204 軸孔
205 軸受室
206 軸受
206a 外輪
206b 端面
207 軸封装置
207a シールリップ
208 給油通路
209 給油孔
Δ 隙間
E1 軸封装置の機内側内周縁
E2 軸受の外輪の機外側端面の内周縁