(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143302
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】植物プランクトン培養システム及び培養植物プランクトンの生産方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/00 20170101AFI20241003BHJP
A01K 61/20 20170101ALI20241003BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01K61/00 302
A01K61/20
C12M1/00 E
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055905
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】中西 弘文
(72)【発明者】
【氏名】石井 健知
【テーマコード(参考)】
2B104
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2B104AA34
2B104AA38
2B104FA03
4B029AA02
4B029BB04
4B029CC01
4B029DB01
4B029DB11
4B029DG08
4B065AA83X
4B065AC09
4B065BB02
4B065BB03
4B065BC11
4B065BC13
4B065BC15
4B065BC48
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】複数のパイプを使って植物プランクトンを培養するに当たり、植物プランクトン量を制御するためのパイプの構造や培養方法の複雑さを回避し、海洋生物資源生産の観点で複数のパイプからなるシステムのメリットを活かすことが可能な、植物プランクトン培養システム及び培養植物プランクトンの生産方法を提供する。
【解決手段】使用時に海洋深層領域側に位置する下部開口と、使用時に海洋表層領域側に位置する開閉可能な蓋を有する上部排出口とを有する複数のパイプを、並列した配置で備え、各パイプの蓋の開閉を制御する制御部をさらに備える、植物プランクトン培養システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に海洋深層領域側に位置する下部開口と、
使用時に海洋表層領域側に位置する開閉可能な蓋を有する上部排出口と
を有する複数のパイプを、並列した配置で備え、
各パイプの蓋の開閉を制御する制御部をさらに備える、
植物プランクトン培養システム。
【請求項2】
全てのパイプの蓋の開閉が、1つの制御部で制御される、請求項1に記載の植物プランクトン培養システム。
【請求項3】
前記制御部が、各パイプにおいて、以下のステップ(a)~(d):
(a)各パイプに植物プランクトンを含有する海洋深層水を充填するステップと、
(b)蓋を閉鎖して、パイプ中で植物プランクトンを培養するステップと、
(c)蓋を開放して、海洋深層水を下部開口を介してパイプ中に汲み上げて、パイプ中の培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口を介してパイプ外に排出するステップと、
(d)ステップ(b)に戻るステップと
を行わせ、
ステップ(b)~(d)を行っている間は、蓋が開放したパイプが少なくとも1つ存在する状態が継続するように各パイプの蓋が制御される、
請求項2に記載の植物プランクトン培養システム。
【請求項4】
前記制御部が、ステップ(b)の後かつステップ(c)の前に、以下のステップ(j):
(j)パイプ中の植物プランクトンの量が十分であるかどうかを判定し、前記植物プランクトンの量が十分であると判定された場合に、ステップ(c)に進み、前記植物プランクトンの量が十分でないと判定された場合に、ステップ(b)に戻るステップ
をさらに行わせる、請求項3に記載の植物プランクトン培養システム。
【請求項5】
各パイプ中の植物プランクトン量を測定するセンサをさらに備える、請求項1又は2に記載の植物プランクトン培養システム。
【請求項6】
各パイプの内部に光を供給する機構をさらに備える、請求項1又は2に記載の植物プランクトン培養システム。
【請求項7】
各パイプが、蓋が開放した時に海洋深層水を下部開口を介して汲み上げ、かつ蓋が閉鎖した時に海洋深層水の汲み上げを停止するように制御される海洋深層水汲み上げ手段をさらに有する、請求項1又は2に記載の植物プランクトン培養システム。
【請求項8】
各パイプが、植物プランクトン補給手段をさらに有する、請求項1又は2に記載の植物プランクトン培養システム。
【請求項9】
海洋深層領域側に位置する下部開口と、海洋深層領域側に位置する開閉可能な蓋を有する上部排出口とを有する複数のパイプを、並列した配置で備える、植物プランクトン培養システムを用いた、培養植物プランクトンの生産方法であって、以下のステップ(a)~(d):
(a)各パイプに植物プランクトンを含有する海洋深層水を充填するステップと、
(b)蓋を閉鎖して、パイプ中で植物プランクトンを培養するステップと、
(c)蓋を開放して、海洋深層水を下部開口を介してパイプ中に汲み上げて、一部の培養植物プランクトンをパイプ中に残存させながら、パイプ中の培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口を介してパイプ外に排出するステップと、
(d)ステップ(b)に戻るステップと
を含み、
ステップ(b)~(d)を行っている間は、蓋が開放したパイプが少なくとも1つ存在する状態が継続するように各パイプの蓋が制御される、
培養植物プランクトンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物プランクトン培養システム及び培養植物プランクトンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海洋の深層領域に存在する深層水は、リン酸塩や硝酸塩などの栄養塩に富んでいるので、これを汲み上げて利用することが提案されている。例えば、特許文献1には、パイプを用いて深層水を深層領域から表層領域まで汲み上げ、汲み上げた深層水を栄養源として、魚介類の餌となるプランクトンを生産することが記載されている。
【0003】
この方法では、植物プランクトンが深層水に流されて移動しながら増殖する。したがって、植物プランクトンを持続的に生産するには、流れの上流から植物プランクトン(またはその休眠状態の細胞(休眠期細胞、休眠細胞、休眠胞子))を供給し続ける必要がある。深層水に含まれる植物プランクトンの細胞は休眠状態にあると考えられるから、上記方法は、汲み上げた海洋深層水中に「常に」休眠状態の細胞が含まれている場合か、培養する植物プランクトンを上流側から供給する設備を別に備える必要があると考えられる。
【0004】
ここで、特許文献1では、1つのパイプで完結した植物プランクトン培養システムの運用方法を提案している。このようなパイプを複数設置した際には、それぞれのパイプが独立した運用となると考えられる。この運用では、植物プランクトンの総量を制御するためのパイプ構造が複雑になり、海洋生物資源生産の観点で複数のパイプからなるシステムのメリットが活かされていない、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、複数のパイプを使って植物プランクトンを培養することにより、植物プランクトン量を制御するための方法・パイプの構造を従来よりも簡単なものにすることができれば、植物プランクトンの総量を制御するためのパイプ構造が複雑になるという問題を解決することができる。また、複数のパイプで植物プランクトンを培養し、動物プランクトンや魚介類の飼料として利用する際、パイプを独立に制御するよりも効果的な運用方法を提供することができれば、海洋生物資源生産の観点で複数のパイプからなるシステムのメリットを活かすことができる。
【0007】
本開示は、複数のパイプを使って植物プランクトンを培養するに当たり、植物プランクトン量を制御するためのパイプの構造や培養方法の複雑さを回避し、海洋生物資源生産の観点で複数のパイプからなるシステムのメリットを活かすことが可能な、植物プランクトン培養システム及び培養植物プランクトンの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下のとおりである。
〔1〕使用時に海洋深層領域側に位置する下部開口と、
使用時に海洋表層領域側に位置する開閉可能な蓋を有する上部排出口と
を有する複数のパイプを、並列した配置で備え、
各パイプの蓋の開閉を制御する制御部をさらに備える、
植物プランクトン培養システム。
〔2〕全てのパイプの蓋の開閉が、1つの制御部で制御される、上記〔1〕に記載の植物プランクトン培養システム。
〔3〕前記制御部が、各パイプにおいて、以下のステップ(a)~(d):
(a)各パイプに植物プランクトンを含有する海洋深層水を充填するステップと、
(b)蓋を閉鎖して、パイプ中で植物プランクトンを培養するステップと、
(c)蓋を開放して、海洋深層水を下部開口を介してパイプ中に汲み上げて、パイプ中の培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口を介してパイプ外に排出するステップと、
(d)ステップ(b)に戻るステップと
を行わせ、
ステップ(b)~(d)を行っている間は、蓋が開放したパイプが少なくとも1つ存在する状態が継続するように各パイプの蓋が制御される、
上記〔2〕に記載の植物プランクトン培養システム。
〔4〕前記制御部が、ステップ(b)の後かつステップ(c)の前に、以下のステップ(j):
(j)パイプ中の植物プランクトンの量が十分であるかどうかを判定し、前記植物プランクトンの量が十分であると判定された場合に、ステップ(c)に進み、前記植物プランクトンの量が十分でないと判定された場合に、ステップ(b)に戻るステップ
をさらに行わせる、請求項7に記載の植物プランクトン培養システム。
〔5〕各パイプ中の植物プランクトン量を測定するセンサをさらに備える、上記〔3〕に記載の植物プランクトン培養システム。
〔6〕各パイプの内部に光を供給する機構をさらに備える、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の植物プランクトン培養システム。
〔7〕各パイプが、蓋が開放した時に海洋深層水を下部開口を介して汲み上げ、かつ蓋が閉鎖した時に海洋深層水の汲み上げを停止するように制御される海洋深層水汲み上げ手段をさらに有する、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の植物プランクトン培養システム。
〔8〕各パイプが、植物プランクトン補給手段をさらに有する、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の植物プランクトン培養システム。
〔9〕海洋深層領域側に位置する下部開口と、海洋深層領域側に位置する開閉可能な蓋を有する上部排出口とを有する複数のパイプを、並列した配置で備える、植物プランクトン培養システムを用いた、培養植物プランクトンの生産方法であって、以下のステップ(a)~(d):
(a)各パイプに植物プランクトンを含有する海洋深層水を充填するステップと、
(b)蓋を閉鎖して、パイプ中で植物プランクトンを培養するステップと、
(c)蓋を開放して、海洋深層水を下部開口を介してパイプ中に汲み上げて、一部の培養植物プランクトンをパイプ中に残存させながら、パイプ中の培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口を介してパイプ外に排出するステップと、
(d)ステップ(b)に戻るステップと
を含み、
ステップ(b)~(d)を行っている間は、蓋が開放したパイプが少なくとも1つ存在する状態が継続するように各パイプの蓋が制御される、
培養植物プランクトンの生産方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、複数のパイプを使って植物プランクトンを培養するに当たり、植物プランクトン量を制御するためのパイプの構造や培養方法の複雑さを回避し、海洋生物資源生産の観点で複数のパイプからなるシステムのメリットを活かすことが可能な、植物プランクトン培養システム及び培養植物プランクトンの生産方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の植物プランクトン培養システム(1)の構成例を示す。
【
図2】本開示の植物プランクトン培養システムを構成するパイプ(12)及びそれに付随する部材の構成例を示す。
【
図3】本開示の植物プランクトン培養システムを作動させるフローチャートの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明を詳細に説明するが、図面は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲は図面による例示により限定されるものではない。
【0012】
(植物プランクトン培養システム)
本開示の植物プランクトン培養システムは、植物プランクトンを海洋深層水で培養するために用いられるシステムであり、海洋中に設置して内部で植物プランクトンを海洋深層水で培養するために用いられる本体部と、本体部分を制御する制御部から構成される。
【0013】
図1に例示されるように、一実施形態において、本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、使用時に海洋深層領域側に位置する下部開口(15)と、使用時に海洋表層領域側に位置する開閉可能な蓋(13)を有する上部排出口(16)とを有する複数のパイプ(12)を、並列した配置で備え、各パイプ(12)の蓋(13)の開閉を制御する制御部(20)をさらに備える。本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、複数のパイプ(12)が並列して配置された、比較的単純化された構成を有しているので、植物プランクトン量を制御するためのパイプの構造や培養方法の複雑さを回避することができる。
【0014】
また、本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、制御部(20)の作動をより適したものにする観点から、各パイプ(12)中の植物プランクトン量を測定するセンサ(21)をさらに備えてもよい。本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、植物プランクトン(14)の活性化及び増殖を促進して植物プランクトン(14)の培養効率を向上させる観点から、各パイプ(12)の内部に光を供給する機構をさらに備えてもよい。各パイプ(12)は、植物プランクトン(14)の培養効率を向上させる観点から、蓋(13)が開放した時に海洋深層水(11)を下部開口(15)を介して汲み上げ、かつ蓋(13)が閉鎖した時に海洋深層水(11)の汲み上げを停止するように制御される海洋深層水汲み上げ手段をさらに有してもよい。各パイプ(12)は、培養系に最低限の植物プランクトンの量を維持する観点から、植物プランクトン補給手段をさらに有してもよい。各パイプ(12)は、パイプ(12)中での培養効率を向上させる観点から、撹拌手段をさらに有してもよい。
【0015】
<パイプ>
図2に例示されるように、本開示の植物プランクトン培養システム(1)が備える「パイプ(12)」とは、内部が空洞であり、両端に開口部を有する、長尺型形状を有する容器である。パイプ(12)は、使用時に、一方の開口部(下部開口(15))が海洋深層領域側に位置し、他方の開口部(上部排出口(16))が海洋表層領域側に位置するように海洋中に設置される。また、上部排出口(16)は、開閉可能な蓋(13)を有する。各パイプ(12)の蓋(13)の開閉は、制御部(20)により制御される。蓋(13)が開放している時、パイプ(12)は、海洋深層水(11)を下部開口(15)を介して内部空洞の中へ流入させ、内部空洞中にある培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口(16)を介して外部へ排出するための「流路」として機能する(以下、パイプ(12)が「流路モード」にあるということがある。)。蓋(13)が閉鎖している時、パイプ(12)は、内部空洞中において植物プランクトンを海洋深層水で培養するための「培養容器」として機能する(以下、パイプ(12)が「培養容器モード」にあるということがある。)。
【0016】
<センサ>
本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、各パイプ(12)中の植物プランクトン(14)の量を測定するセンサ(21)をさらに備えてもよい。センサ(21)の測定対象となる植物プランクトン(14)の量の指標となるパラメータとしては、例えば、培養植物プランクトン含有海洋深層水の栄養塩濃度(数値が低いほど植物プランクトン量が多いことを示す。)、生物量、クロロフィル量、濁度(以上、数値が高いほど植物プランクトン量が多いことを示す。)等が挙げられる。
【0017】
<光を供給する機構>
植物プランクトン(14)の増殖には光が必要である一方で、海中では深くなるにつれて太陽光が到達しなくなる。そこで、植物プランクトン(14)の活性化及び増殖を促進する観点から、本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、各パイプ(12)の内部空洞に光を供給する機構をさらに備えてもよい。光を供給する機構としては、例えば、太陽光線を導光する装置等が挙げられる。また、パイプ(12)は、光の供給が容易になる観点から、透明であってもよい。
【0018】
<海洋深層水汲み上げ手段>
本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、海洋深層水(11)を海洋深層領域から汲み上げて各パイプ(12)の下部開口(15)へ供給するための手段(以下、「海洋深層水汲み上げ手段」という。)をさらに備えてもよい。「海洋深層水汲み上げ手段」は、例えば、
使用時に海洋深層領域中に位置する、海洋深層領域から海洋深層水(11)を汲み上げるための汲み上げ口と、
汲み上げた海洋深層水(11)を各パイプ(12)の下部開口(15)へ供給するための、下部開口(15)に接続された供給口と、
海洋深層水(11)の汲み上げ及び下部開口(15)への供給を促進する水流を駆動させるための水流駆動手段と
を備えるものであってもよい。
【0019】
<植物プランクトン補給手段>
各パイプ(12)は、パイプ(12)の内部空洞へ植物プランクトンを補給する手段(以下、「植物プランクトン補給手段」という。)をさらに備えてもよい。植物プランクトン補給手段としては、例えば、植物プランクトンをあらかじめ封入した容器、パイプ(12)に設置又は接続された植物プランクトン供給手段等が挙げられる。
【0020】
<撹拌手段>
各パイプ(12)は、内部空洞中の海洋深層水(11)を均一化させて植物プランクトン(14)の培養効率を向上させるため、内部空洞中に撹拌手段を備えてもよい。撹拌手段としては、回転羽根、バブリング等が挙げられる。
【0021】
<制御部>
制御部(20)は、各パイプ(12)の蓋(13)の開閉を制御する。各パイプ(12)の蓋(13)の開閉が制御部(20)で制御されることにより、海洋生物資源生産の観点で複数のパイプからなるシステムのメリットを活かすことが可能となる。上述のとおり、蓋(13)を開放することにより、パイプ(12)が「流路モード」になり、一方、蓋(13)が閉鎖することにより、パイプ(12)が「培養容器モード」になる。蓋(13)の開閉は、パイプ(12)の内部空洞中の植物プランクトン量に応じて制御してもよく、一定時間経過ごとに制御してもよい。蓋(13)の開閉をパイプ(12)の内部空洞中の植物プランクトン量に応じて制御する場合、本開示の植物プランクトン培養システム(1)は、各パイプ(12)中の植物プランクトン量を測定するセンサ(21)をさらに備えてもよい。本開示の植物プランクトン培養システム(1)において、全てのパイプ(12)の蓋(13)の開閉が、1つの制御部(20)で制御されてもよく、あるいは、各パイプ(12)の蓋(13)の開閉が、各々別個の制御部(20)で制御されてもよい。植物プランクトン培養システム(1)全体としての海洋深層水の流入及び排出を継続的にする観点から、全てのパイプ(12)の蓋(13)の開閉が、1つの制御部(20)で制御される(即ち、一元的に制御される)ことが好ましい。
【0022】
<制御方法>
制御部は、蓋(13)を開放することによりパイプ(12)を「流路モード」にすることと、蓋(13)を閉鎖することによりパイプ(12)を「培養容器モード」にすることを交互に繰り返すように、蓋(13)を制御する。このような制御は、具体的には、制御部に以下のステップ(a)~(d)を行わせることによって実現することができる。
(a)各パイプ(12)に植物プランクトン(14)を含有する海洋深層水(11)を充填するステップ。
(b)蓋(13)を閉鎖して、パイプ(12)中で植物プランクトン(14)を培養するステップ(パイプ(12)が「培養容器モード」になる。)。
(c)蓋(13)を開放して、海洋深層水(11)を下部開口(15)を介してパイプ(12)中に汲み上げて、パイプ(12)中の培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口(16)を介してパイプ(12)外に排出するステップ(パイプ(12)が「流路モード」になる。)。
(d)ステップ(b)に戻るステップ。
ここで、ステップ(b)~(d)を行っている間は、蓋(13)が開放したパイプ(12)が少なくとも1つ存在する状態が継続するように各パイプ(12)の蓋が制御される。
【0023】
また、十分な量の培養源となる植物プランクトンを培養系に確保するために、制御部は、任意の段階で、以下のステップ(p)をさらに行わせるものであってもよい。
(p)パイプ(12)中に、植物プランクトンを補給するステップ。
ステップ(p)は、例えば、上述した植物プランクトン補給手段を用いて行うことができる。
【0024】
また、十分な培養量の植物プランクトンを得るために、制御部は、ステップ(b)の後かつステップ(c)の前に、以下のステップ(j)をさらに行わせるものであってもよい。
(j)パイプ(12)中の植物プランクトン(14)の量が十分であるかどうかを判定し、前記植物プランクトン(14)の量が十分であると判定された場合に、ステップ(c)に進み、前記植物プランクトン(14)の量が十分でないと判定された場合に、ステップ(b)に戻るステップ。
【0025】
上記の制御方法は、例えば、
図3に示すように、以下の制御フローチャートとして表すこともできる。
・工程S1:パイプ(12)の蓋(13)を開放する。
・工程S2:パイプ(12)に海洋深層水(11)と植物プランクトン(14)を充填する。
・工程S3:パイプ(12)の蓋(13)を閉鎖する(パイプ(12)が「培養容器モード」になる。)。
・工程S4:パイプ(12)中で植物プランクトン(14)を培養する。
・工程S5:パイプ(12)中で培養した植物プランクトン(14)の量が十分量になったかどうかを判定する。植物プランクトン(14)の量が十分量でなければ、工程S4に戻り、植物プランクトン(14)の量が十分量であれば、工程S6に進む。
・工程S6:パイプ(12)の蓋(13)を開放して、海洋深層水(11)を下部開口(15)を介してパイプ(12)中に汲み上げて、パイプ(12)中の培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口(16)を介してパイプ(12)外に排出する(パイプ(12)が「流路モード」になる。)。
【0026】
また、別の実施形態において、本開示の植物プランクトン培養システムは、蓋を有するパイプ(以下、「生産パイプ」という。)に加えて、生産パイプと並列に配置され、海洋深層領域側に位置する常時開放した下部開口と、海洋表層領域側に位置する常時開放した上部排出口とを有するパイプ(以下、「補助パイプ」という。)をさらに備えてもよい。この場合、「補助パイプ」は、海洋深層水を海洋表層領域側に継続的に供給し、海洋表層領域側に供給された海洋深層水は、「生産パイプ」から海洋表層領域側に排出された植物プランクトンの栄養源となり、海洋表層領域側での植物プランクトンの培養を可能にする。このようにすれば、例えば、気象条件の変化等の要因により「生産パイプ」での植物プランクトンの生産量が減少した場合に、海洋表層領域側での植物プランクトンの培養により、植物プランクトンの最終生産量を補充することが可能となる。
【0027】
また、さらに別の実施形態において、本開示の植物プランクトン培養システム中の蓋を有するパイプの一部を、通常の使用時に常時蓋を開放して使用するパイプ(以下、「予備パイプ」という。)として割り当ててもよい。予備パイプとして割り当てられたパイプは、通常の使用時に、上記「補助パイプ」として機能させることができる。そして、蓋を有するパイプのうち予備パイプとして割り当てなかったパイプ(「生産パイプ」として機能する)で培養した植物プランクトンの生産量が、気象条件の変化等の要因により減少した場合に、予備パイプを、蓋の開閉を制御部で制御して「生産パイプ」として機能するように切り換えれば、植物プランクトンの生産量を補充することが可能となる。
【0028】
また、別の実施形態において、本開示の植物プランクトン培養システムの制御部が、開放した蓋の位置的分布を制御することによって、海洋表層領域中の植物プランクトン濃度分布を、開放した蓋の近傍エリアで植物プランクトンが高濃度となるように制御し、開放した蓋の近傍に、餌となる高濃度の植物プランクトンを求めて魚類が集まるように、海洋表層領域中の魚類の分布を制御してもよい。このように魚類の分布を制御することができれば、魚類の捕獲を効率的に行うことが可能となる。
【0029】
また、別の実施形態において、本開示の植物プランクトン培養システムは、海流測定装置をさらに備えてもよい。この場合、海流測定装置から得た海流の方向に従って、パイプの蓋の開閉を制御する。具体的には、パイプの蓋を開放してパイプを「流路モード」にする(上記のステップ(c)及び工程S5に相当)際に、海流の上流側領域に位置するパイプの蓋を開放するように制御する。このように制御することによって、パイプから排出された植物プランクトンが、本開示の植物プランクトン培養システムが制御する海洋表層領域の範囲外へと流出することを防止し、本開示の植物プランクトン培養システム周辺の魚類に効率的に給餌することが可能となる。
【0030】
また、別の実施形態において、本開示の植物プランクトン培養システムは、魚類量測定装置をさらに備えてもよい。この場合、魚類量測定装置は、海洋表層領域中の魚類の量を測定し、測定した魚類の量に基づいて、海洋表層領域中の生態系が処理可能な植物プランクトンの最大量を見積もる。そして、パイプの蓋を開放してパイプを「流路モード」にする(上記のステップ(c)及び工程S5に相当)際に、パイプから排出される植物プランクトンの量を、見積もった処理可能な植物プランクトンの最大量を超えないように制御する。このように制御することによって、生態系が処理できない程度の大量の植物プランクトンの海洋表層領域への放出を防止することができる。
【0031】
〔培養植物プランクトンの生産方法〕
本開示の植物プランクトン培養システムは、培養植物プランクトンの生産方法に用いることができる。培養植物プランクトンの生産方法は、例えば、海洋深層領域側に位置する下部開口と、海洋深層領域側に位置する開閉可能な蓋を有する上部排出口とを有する複数のパイプを、並列した配置で備える、植物プランクトン培養システムを用いた、培養植物プランクトンの生産方法であって、以下のステップ(a)~(d):
(a)各パイプに植物プランクトンを含有する海洋深層水を充填するステップと、
(b)蓋を閉鎖して、パイプ中で植物プランクトンを培養するステップと、
(c)蓋を開放して、海洋深層水を下部開口を介してパイプ中に汲み上げて、一部の培養植物プランクトンをパイプ中に残存させながら、パイプ中の培養植物プランクトン含有海洋深層水を上部排出口を介してパイプ外に排出するステップと、
(d)ステップ(b)に戻るステップと
を含み、
ステップ(b)~(d)を行っている間は、蓋が開放したパイプが少なくとも1つ存在する状態が継続するように各パイプの蓋が制御される、
培養植物プランクトンの生産方法であってもよい。
【0032】
培養植物プランクトンの生産方法に用いる植物プランクトン培養システムは、本開示の植物プランクトン培養システムについて上記で説明した任意の構成をさらに備えてもよい。また、培養植物プランクトンの生産方法を行うためのステップは、本開示の植物プランクトン培養システムの制御部が行う制御方法として上記で説明したステップであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本開示によれば、複数のパイプを使って植物プランクトンを培養するに当たり、植物プランクトン量を制御するためのパイプの構造や培養方法の複雑さを回避し、海洋生物資源生産の観点で複数のパイプからなるシステムのメリットを活かすことが可能な、植物プランクトン培養システム及び培養植物プランクトンの生産方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 植物プランクトン培養システム
11 海洋深層水
12 パイプ
13 蓋
14 植物プランクトン
15 下部開口
16 上部排出口
20 制御部
21 センサ