(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143314
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】脂肪酸コレステロール溶液の製造方法、脂肪酸コレステロール溶液、及び、溶解度の向上方法
(51)【国際特許分類】
C07J 9/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C07J9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055927
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塚田 みどり
(72)【発明者】
【氏名】木内 美月
【テーマコード(参考)】
4C091
【Fターム(参考)】
4C091AA01
4C091BB06
4C091CC01
4C091DD01
4C091EE05
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ03
4C091KK01
4C091LL01
4C091MM03
4C091PA01
4C091PB05
4C091QQ01
4C091RR20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コレステロールエステラーゼ活性基質溶液等として用いられる脂肪酸コレステロール溶液の調製方法を提供すること。
【解決手段】本発明の脂肪酸コレステロール溶液の製造方法は、(a)脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを混合する工程を包含し、前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する溶液の温度と近い温度であり、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、30~78℃であり、前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、30~78℃であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸コレステロール溶液の製造方法であって、
(a)脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを混合する工程を包含し、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する溶液の温度と近い温度であり、
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、30~78℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、30~78℃であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記脂肪酸コレステロールは、リノール酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、ベヘン酸コレステロール、イソステアリン酸コレステロール、オレイン酸コレステロール、パルミトオレイン酸コレステロール、ベヘン酸コレステロール、及びリノレン酸コレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、65~78℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液は、65~78℃である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、69~72℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液は、69~72℃である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度と、前記非イオン界面活性剤含有液の温度との差は、10℃以内である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(b)前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を調製する工程であって、前記脂肪酸コレステロールと前記溶媒とを混合し、120~140℃の熱源温度で10分以上加熱する工程を更に包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(c)非イオン界面活性剤含有液を加温して65~78℃にする工程を更に包含し、
前記工程(c)は、前記工程(b)の前に、前記工程(b)と同時に、または、前記工程(c)の後に行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(c)において、非イオン界面活性剤含有液を加温して69~72℃にする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(a)において、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液との混合が、65~78℃の温度で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(a)において、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液との混合が、69~72℃の温度で行われる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコール、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、コカミドDEA、アルキルグリコシド、及び高級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(a)において、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液に対して前記非イオン界面活性剤含有液を添加し撹拌する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(a)において、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液1体積部に対して前記非イオン界面活性剤含有液を7~12体積部添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記脂肪酸コレステロール溶液がコレステロールエステラーゼ活性基質溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記脂肪酸コレステロール溶液が澄明である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法によって製造された脂肪酸コレステロール溶液。
【請求項18】
脂肪酸コレステロールの溶解度を向上させる方法であって
(a)脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを混合する工程を包含し、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する溶液の温度と近い温度であり、
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、30~78℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、30~78℃であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸コレステロール溶液の製造方法、脂肪酸コレステロール溶液、及び、脂肪酸コレステロールの溶解度を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸コレステロールは、コレステロールエステラーゼの活性測定に用いる基質として従来用いられてきた。例えば、特許文献1には、リノール酸コレステロールをイソプロパノール溶液中で湯浴・攪拌等して、コレステロールエステラーゼ活性測定用の基質溶液を調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO03/066792号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、脂肪酸コレステロールを溶媒に混合する従来の方法では、混濁が生じるなど基質溶液の調製に失敗することも多く、何度も再調製をするために時間を要することも多かった。また、特許文献1に記載の方法では、基質溶液の調製に30分以上の湯浴を必要とする等の点でも長時間を要していた。そして、従来の方法で調製された基質溶液で濁りが出た場合には、活性測定に用いたときの失敗率が高く、測定値のバラツキが大きかったことを本発明者らは過去の経験から把握していた。また、従来の方法では、基質溶液の調製に失敗することが多く、調製の過程で行われる130℃の高温でのエタノールの加熱操作を再調製の度に何度も繰り返す必要があり、引火や熱傷の危険が大きかった。そこで、更なる優れた脂肪酸コレステロール溶液の調製方法の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを、それらの液の温度を所定温度で、かつ互いに近い温度として混合することによって、濁りの少ない脂肪酸コレステロール溶液を簡便に効率よくで得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、代表的な本発明は、以下の構成を有する。
[項1]
脂肪酸コレステロール溶液の製造方法であって、
(a)脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを混合する工程を包含し、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する溶液の温度と近い温度であり、
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、30~78℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、30~78℃であることを特徴とする方法。
[項2]
前記脂肪酸コレステロールは、リノール酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、ベヘン酸コレステロール、イソステアリン酸コレステロール、オレイン酸コレステロール、パルミトオレイン酸コレステロール、ベヘン酸コレステロール、及びリノレン酸コレステロールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
[項3]
前記溶媒は、エタノール、メタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の方法。
[項4]
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、65~78℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液は、65~78℃である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
[項5]
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、69~72℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液は、69~72℃である請求項1~4のいずれかに記載の方法。
[項6]
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度と、前記非イオン界面活性剤含有液の温度との差は、10℃以内である請求項1~5のいずれかに記載の方法。
[項7]
(b)前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を調製する工程であって、前記脂肪酸コレステロールと前記溶媒とを混合し、120~140℃の熱源温度で10分以上加熱する工程を更に包含する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
[項8]
(c)非イオン界面活性剤含有液を加温して65~78℃にする工程を更に包含し、
前記工程(c)は、前記工程(b)の前に、前記工程(b)と同時に、または、前記工程(c)の後に行われる、請求項7に記載の方法。
[項9]
前記工程(c)において、非イオン界面活性剤含有液を加温して69~72℃にする、請求項8に記載の方法。
[項10]
前記工程(a)において、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液との混合が、65~78℃の温度で行われる請求項1~9のいずれかに記載の方法。
[項11]
前記工程(a)において、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液との混合が、69~72℃の温度で行われる請求項1~10のいずれかに記載の方法。
[項12]
前記非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコール、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、コカミドDEA、アルキルグリコシド、及び高級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~11のいずれかに記載の方法。
[項13]
前記工程(a)において、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液に対して前記非イオン界面活性剤含有液を添加し撹拌する、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
[項14]
前記工程(a)において、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液1体積部に対して前記非イオン界面活性剤含有液を7~12体積部添加する、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
[項15]
前記脂肪酸コレステロール溶液がコレステロールエステラーゼ活性基質溶液である、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
[項16]
前記脂肪酸コレステロール溶液が澄明である、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
[項17]
請求項1~16のいずれかに記載の方法によって製造された脂肪酸コレステロール溶液。
[項18]
脂肪酸コレステロールの溶解度を向上させる方法であって
(a)脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを混合する工程を包含し、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する溶液の温度と近い温度であり、
前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、30~78℃であり、
前記非イオン界面活性剤含有液の温度は、30~78℃であることを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、澄明な脂肪酸コレステロール溶液を簡便に効率よく製造することができる。本発明の脂肪酸コレステロール溶液をコレステロールエステラーゼ活性測定用の基質溶液として用いた場合、正確で再現性の高い測定結果を得ることができる。また、本発明によれば、脂肪酸コレステロールの溶解度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1のコレステロールリノレート溶液の濁り判定の結果を示す。(左:加熱時間5分、右:加熱時間10分)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。また本明細書中の「及び/又は」は、いずれか一方または両方を意味する。また本明細書において、単数形の表現は、他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
【0009】
本発明の脂肪酸コレステロール溶液の製造方法は、(a)脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを混合する工程を包含する。
脂肪酸コレステロールとしては、特に限定されないが、リノール酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、ベヘン酸コレステロール、イソステアリン酸コレステロール、オレイン酸コレステロール、パルミトオレイン酸コレステロール、ベヘン酸コレステロール、リノレン酸コレステロール等が例示される。好ましくは、不飽和脂肪酸コレステロールであり、より好ましくは、リノール酸コレステロール、リノレン酸コレステロールであり、更に好ましくは、リノール酸コレステロールである。これらの脂肪酸コレステロールは、1種を単独で、若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
溶媒としては、特に限定されないが、低級アルコール等の有機溶媒、水等の水性溶媒等が例示される。溶媒は、好ましくは、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等のC1~4の低級アルコールであり、より好ましくはエタノールである。これらの溶媒は、1種を単独で、若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液における脂肪酸コレステロールの濃度は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、一例として、20~60mg/100mlとすることができ、30~50mg/100mlとすることが好ましい。
【0012】
脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液は、上記の脂肪酸コレステロールの少なくとも一部が上記の溶媒中に溶解した状態であってもよいし、全く溶解していない状態(例えば、懸濁した状態等)であってもよい。また、脂肪酸コレステロールと溶媒以外の成分(例えば、界面活性剤、緩衝剤等)を含んでいてもよい。
脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、30~78℃である限り特に限定されないが、好ましくは65~78℃であり、より好ましくは69~72℃である。
【0013】
本発明の脂肪酸コレステロール溶液の製造方法は、前記工程(a)の前に、任意に、(b)前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を調製する工程であって、前記脂肪酸コレステロールと前記溶媒とを混合して加熱する工程を更に包含していてもよい。工程(b)を実施することによって、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を所望の温度とすることができる。
【0014】
工程(b)において、脂肪酸コレステロールと溶媒との混合物を加熱する際の熱源の温度は、特に限定されないが、好ましくは120~140℃、より好ましくは125~135℃である。このような温度に設定した熱源に、一定時間にわたって前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を直接的又は間接的に配置して加熱することにより、該前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を30~78℃に調整することができる。
脂肪酸コレステロールと溶媒とを混合物の加熱時間の下限は、特に限定されないが、好ましくは7分以上、より好ましくは10分以上である。とりわけ、10分以上加熱することによってより確実に本発明の効果を発揮することができる。加熱時間の上限は特に限定されないが、好ましくは60分以下、より好ましくは45分以下、更に好ましくは30分以下であり、更により好ましくは20分以下である。
脂肪酸コレステロールと溶媒との混合物を加熱する際、これら混合物を攪拌してもよい。攪拌の方法は特に限定されず、ガラス棒又はマグネティックスターラーを用いて攪拌する等の公知の方法を用いることができる。攪拌速度等の攪拌条件も特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0015】
脂肪酸コレステロールと溶媒とを混合する際の加熱方法は特に限定されず、容器中又は金属板等の伝熱性物質を介して溶媒を加熱することができ、金属等の伝熱性容器中で溶媒を加熱することが好ましい。
工程(b)を含む場合であっても、本発明においては、120℃以上の熱源温度で溶媒を加熱する操作はこの一回に限られる。従来の方法では、溶媒としてエタノール等の引火性溶媒を用いる場合、溶液調整の失敗率の高さから、引火や熱傷の危険が大きかったが、本発明の製造方法では、簡便でありながら、失敗が少なく効率よく脂肪酸コレステロール溶液を調製できるため、工程(b)を含む場合であっても、そのような危険を減らすことができる。
無論、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度を上記の温度とする際、必ずしも工程(b)を経なくてもよい。例えば、予め所望の温度とした溶媒中に脂肪酸コレステロールを添加する等、その他の方法を採ることもできる。
【0016】
非イオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリエチレングリコール、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、コカミドDEA、アルキルグリコシド、高級アルコール等が例示される。非イオン界面活性剤は、好ましくはポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤であり、より好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールであり、更に好ましくはTritonX-100(TX-100と略記する場合もある)等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルであり、更により好ましくはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルであり、なかでも好ましくはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである。ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルは、任意の鎖長(n)のポリオキシエチレン鎖を有するものであり得るが、一例としてn=8~16であり、好ましくはn=8~12であり、特に好ましくはn=10のポリオキシエチレン鎖を有するTX-100である。これらの非イオン界面活性剤は、1種を単独で、若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
非イオン界面活性剤含有液の溶媒としては、特に限定されないが、低級アルコール等の有機溶媒、水等の水性溶媒等が例示される。溶媒は、好ましくは、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等のC1~4の低級アルコールであり、より好ましくはエタノールである。これらの溶媒は、1種を単独で、若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
非イオン界面活性剤含有液における非イオン界面活性剤の濃度は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、一例として、0.3~2%(W/V)とすることができ、0.5~1.5%(W/V)とすることが好ましい。
【0019】
非イオン界面活性剤含有液の温度は、30~78℃である限り特に限定されないが、好ましくは65~78℃、より好ましくは69~72℃である。
本発明では、非イオン界面活性剤含有液の温度と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度とを近い温度とすることに一つの特徴を有する。具体的には、本明細書において「近い温度」とは、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度と、前記非イオン界面活性剤含有液の温度との差が、±10℃、好ましくは±5℃、より好ましくは±3℃であることをいう。
非イオン界面活性剤含有液と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液との混合は、特に限定されないが、好ましくは30~78℃、より好ましくは65~78℃、更に好ましくは69~72℃の温度で行われる。
【0020】
非イオン界面活性剤含有液と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液との混合物を加熱する際の熱源の温度は、特に限定されないが、好ましくは30~78℃、より好ましくは65~78℃、更に好ましくは69~72℃である。
非イオン界面活性剤含有液と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液との混合物の加熱時間の下限は、特に限定されないが、好ましくは7分以上、より好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上である。加熱時間の上限は特に限定されないが、好ましくは60分以下、より好ましくは45分以下、更に好ましくは30分以下であり、更により好ましくは20分以下である。
非イオン界面活性剤含有液と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液との混合物を加熱する際、混合物を攪拌してもよい。攪拌の方法は特に限定されず、ガラス棒又はマグネティックスターラーを用いて攪拌する等の公知の方法を用いることができる。攪拌速度等の攪拌条件も特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0021】
非イオン界面活性剤含有液と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液との混合物の加熱方法は特に限定されないが、溶媒を直に熱源に晒して加熱してもよいし、溶媒を容器中又は金属板等の伝熱性物質を介して加熱してもよいが、溶媒を金属等の容器中で加熱することが好ましい。1つの実施形態では、非イオン界面活性剤含有液と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液との混合物の加熱は、50~90℃(例えば、70℃)のウォーターバス中で10~20分間(例えば、15分間)攪拌することによって行われる。
【0022】
工程(a)は、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液に対して非イオン界面活性剤含有液を添加し撹拌する工程であってもよいし、逆に、非イオン界面活性剤含有液に対して脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を添加し撹拌する工程であってもよい。いずれの場合であっても、添加速度等の条件は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。一つの実施形態として、本発明により調製する脂肪酸コレステロール溶液が、コレステロールエステラーゼ活性基質溶液として用いられる溶液である場合、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液に対して非イオン界面活性剤含有液を添加し撹拌することによって、コレステロールエステラーゼ活性測定において基準値との乖離がより一層少ない良好な基質溶液とすることができることが後述の実施例において確認されている。
工程(a)において、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液1体積部に対して、非イオン界面活性剤含有液は、特に限定されないが、好ましくは10~15体積部、より好ましくは7~12体積部添加される。例えば、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液8mLに対して、非イオン界面活性剤含有液を60~95mL混合することによって本発明の脂肪酸コレステロール溶液を調製することができる。
【0023】
従来、脂肪酸コレステロール溶液の調製において、非イオン界面活性剤含有液を混合する際の脂肪酸コレステロール含有液の温度は特に着目されていなかった(特許文献1)。本発明では全く予想外のことに、非イオン界面活性剤含有液と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液との混合する際、それらの液温を近い温度とすることによって、澄明な脂肪酸コレステロール溶液を簡便に効率よく製造できることを見出したことに基づいている。
特定の理論に縛られることを意図しないが、非イオン界面活性剤含有液の温度と、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度とを近い温度とすることによって、混液時にできる比較的高温の液相と比較的低温の液相との間で温度差が少なくなり、双方の液相でミセル形成の条件が均一化されることによってミセルの粒径が揃うようになるために、コレステロールエステラーゼ活性基質溶液として用いる場合に基準値との乖離が小さく、測定値のバラツキが抑制された脂肪酸コレステロール溶液となるものと考察される。
【0024】
本発明の脂肪酸コレステロール溶液の製造方法は、前記工程(a)の前に、任意に、(c)非イオン界面活性剤含有液を加温する工程を更に包含していてもよい。工程(c)を実施することによって、非イオン界面活性剤含有液を所望の温度とすることができる。工程(c)は、工程(b)の前に、工程(b)と同時に、または、工程(c)の後に行うことができる。
工程(c)において、非イオン界面活性剤含有液を加温して、好ましくは30~78℃、より好ましくは65~78℃、更に好ましくは69~72℃にすることができる。
【0025】
工程(c)において、非イオン界面活性剤含有液を加熱する際の熱源の温度は、特に限定されないが、好ましくは30~78℃、より好ましくは65~78℃、更に好ましくは69~75℃である。このような温度に設定した熱源に、一定時間にわたって前記非イオン界面活性剤含有液を直接的又は間接的に配置して加熱することにより、該前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液を30~78℃に調整することができる。非イオン界面活性剤含有液の加熱は、たとえば非イオン界面活性剤含有液が入ったビーカーを72~73℃のウォーターバスで湯浴することによって行われる。熱源の温度は、非イオン界面活性剤含有液が所望の温度となるように適宜調節してもよい。
非イオン界面活性剤含有液の加熱時間の下限は、特に限定されないが、好ましくは30分以上、より好ましくは45分以上である。加熱時間の上限は特に限定されないが、好ましくは100分以下、より好ましくは90分以下、更に好ましくは70分以下である。
非イオン界面活性剤含有液を加熱する際、非イオン界面活性剤含有液を攪拌してもよい。攪拌の方法は特に限定されず、ガラス棒又はマグネティックスターラーを用いて攪拌する等の公知の方法を用いることができる。攪拌速度等の攪拌条件も特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0026】
非イオン界面活性剤含有液の加熱方法は特に限定されないが、溶媒を直に熱源に晒して加熱してもよいし、溶媒を容器中又は金属板等の伝熱性物質を介して加熱してもよいが、溶媒を金属等の容器中で加熱することが好ましい。
無論、非イオン界面活性剤含有液の温度を上記の温度とする際、必ずしも工程(c)を経なくてもよい。例えば、予め所望の温度とした溶媒中に非イオン界面活性剤を添加する等、その他の方法を採ることもできる。
【0027】
別の実施形態では、本発明は、上記の方法によって製造された脂肪酸コレステロール溶液を提供する。
本発明の脂肪酸コレステロール溶液は澄明でありうる。澄明度は、当該分野で公知の方法で測定することができ、例えば、目視により確認してもよいし、光線透過率を測定すること等によっても測定することができる。 本発明の脂肪酸コレステロール溶液の用途は特に限定されず、例えばコレステロールエステラーゼ活性基質溶液として好適に用いることができる。本発明の方法により調製された脂肪酸コレステロール溶液は、コレステロールエステラーゼ活性基質溶液として用いられた場合に、基準値との乖離が低い良好な基質溶液として機能し得ることが後述の実施例において確認されている。
【0028】
別の実施形態では、本発明の脂肪酸コレステロール溶液の製造方法は、脂肪酸コレステロールの溶解度を向上させる方法であるということもできる。
具体的には、本発明によれば、脂肪酸コレステロールの溶解度を向上させる方法であって、(a)脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液と、非イオン界面活性剤含有液とを混合する工程を包含し、非イオン界面活性剤含有液の温度は、前記脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する溶液の温度と近い温度であり、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液の温度は、30~78℃であり、非イオン界面活性剤含有液の温度は、30~78℃であることを特徴とする方法が提供される。この溶解度向上方法において用いられる脂肪酸コレステロール、溶媒、非イオン界面活性剤の種類及び量、好ましい温度、加熱条件等の詳細は、上記脂肪酸コレステロール溶液の製造方法について詳述したものと同様であり得る。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により特に限定されるものではない。
【0030】
<実施例1:コレステロールリノレート溶液の加熱時間における濁り確認>
(コレステロールリノレート溶液の調製)
コレステロールリノレート(ナカライテスク株式会社製)40mgをエタノール(ナカライテスク株式会社製)8mLと混合し、130℃(熱源温度)に設定したホットプレート上で5分間又は10分間にわたりガラス棒で撹拌しながら加熱した。得られたコレステロールリノレート/エタノール混合液の液温はいずれもおよそ70℃であった。その後、これらのコレステロールリノレート/エタノール混合液に対して、予め70℃に加熱した1%(W/V)TritonX-100(和光純薬株式会社製)を90mL添加して70℃のウォーターバス下で15分間攪拌し、1%(W/V)TritonX-100で100mLにフィルアップし、コレステロールリノレート溶液とした。
【0031】
(判定方法)
調製したコレステロールリノレート溶液の濁りを目視により判定した。この結果を表1及び
図1に示す。
図1より明らかなように、コレステロールリノレート/エタノール混合液の加熱時間を5分間として調製した場合には白濁が認められたものの、その加熱時間を10分間に変更して調製した場合には白濁が認められず背面を容易に視認でき、澄明なコレステロールリノレート溶液となることが確認された。この結果から、コレステロールリノレート/エタノール混合液を10分加熱して調製することにより、濁りが少ない良好な脂肪酸コレステロール溶液を調製できることが分かった。
【0032】
【0033】
<実施例2:コレステロールリノレート溶液および非イオン界面活性剤の添加方法の評価>
(試薬の調製)
下記のようにして、添加方法(添加順序)の異なる試薬を調合した。
1. コレステロールリノレート溶液(添加方法1)
コレステロールリノレート(ナカライテスク株式会社製)40mgをエタノール(ナカライテスク株式会社製)8mLと混合し、130℃(熱源温度)に設定したホットプレート上で10分間にわたりガラス棒で撹拌しながら加熱した。得られたコレステロールリノレート/エタノール混合液の液温はおよそ70℃であった。その後、このコレステロールリノレート/エタノール混合液に対して、予め70℃に加熱した1%(W/V)TritonX-100(富士フイルム和光純薬株式会社製)を90mL添加し、70℃のウォーターバス下で15分間攪拌した。そして、1%(W/V)TritonX-100で100mLにフィルアップし、基質試薬1とした。
【0034】
2. コレステロールリノレート溶液(添加方法2)
コレステロールリノレート40mgをエタノール8mLと混合し、130℃(熱源温度)に設定したホットプレート上で10分間にわたりガラス棒で撹拌しながら加熱した。得られたコレステロールリノレート/エタノール混合液の液温はいずれもおよそ70℃であった。予め70℃に加熱した90mLの1%(W/V)TritonX-100に対して、このコレステロールリノレート/エタノール混合液を添加し、70℃のウォーターバス下で15分間攪拌した。そして、1%(W/V)TritonX-100で100mLにフィルアップし、基質試薬2とした。
【0035】
(コレステロールエステラーゼ活性測定方法)
コレステロールエステラーゼの活性測定は、以下の方法で行う。
(測定試薬)
下記のCOD-POD溶液1.0mL、DMA-MBTH溶液1.0mL、酵素(コレステロールエステラーゼ)溶液0.1mLを混合して反応試液とする。
<COD-POD溶液>
1.44% リン酸水素二ナトリウム十二水和物
3.10% ホウ酸
15U/mL コレステロールオキシダーゼ(COD)
25U/mL ペルオキシダーゼ(POD)
0.029% コール酸ナトリウム
【0036】
<DMA-MBTH溶液>
0.50M 酢酸緩衝液(pH4.7)
0.040% EDTA・2Na
0.070% ジメチルアニリン(DMA)
0.015% 3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)
【0037】
(測定条件)
(1)反応液2.1mLを37℃で約5分間予備加温する。
(2)基質溶液1.0mLを加え、反応を開始する。
(3)正確に37℃で10分間反応させた後、1.0N HCl 1.0mLを加えて反応を停止させる。この液につき590nmにおける吸光度を測定する(ODTEST)。
(4)盲検は、酵素溶液の代わりに酵素希釈液0.1mLを添加した反応液2.1mLを、以下上記同様に操作して吸光度を測定する(ODBLANK)。
(5)これらの値から以下の式に従ってCOE活性を求める。
・コレステロールエステラーゼの活性(U/ml)=ΔODmin(ΔODTEST-ΔODBLANK)×4.1×希釈倍率/{39.0×10(分)×0.1(mL)}
【0038】
(判定方法)
上記のとおり調製した基質試薬1及び2を使用してコレステロールエステラーゼ(東洋紡社製COE-302;基準値3.79U/mL)の活性を上記コレステロールエステラーゼ活性測定方法で測定し、この基準値と比較して回収率(乖離率)を評価した。乖離率は以下の式(I)で算出した。
乖離率={(測定値-基準値)÷基準値}×100(%)・・・式(I)
表2より、添加方法1の基質試薬でより基準値に近い活性値を示した。従って、コレステロールエステラーゼ活性基質溶液として用いるための脂肪酸コレステロール溶液の調製方法としては、脂肪酸コレステロールと溶媒とを含有する液に対して前記非イオン界面活性剤含有液を添加するという添加順序で調製することがより好ましいことが確認された。
【0039】
【0040】
また、本実施例の脂肪酸コレステロール溶液調製方法(添加方法1)を複数の異なる試薬調製者で実施したところ、誰もが失敗せずに一回で澄明なコレステロールエステラーゼ活性基質溶液として乖離率の低いコレステロールリノレート溶液を調製することに成功できた。従って、本発明の製造方法によれば、簡便な方法でありながら、失敗が少なく効率よく脂肪酸コレステロール溶液を調製できることが確認された。