(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143319
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】積層構造体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/365 20060101AFI20241003BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20241003BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241003BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241003BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/365
C23C16/40
H01L29/78 653A
H01L29/78 652T
H01L29/78 652D
H01L29/78 652C
H01L21/368 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055932
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】片岡 光浩
(72)【発明者】
【氏名】星 真一
(72)【発明者】
【氏名】金村 高司
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
4K030BA01
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5F053RR20
(57)【要約】
【課題】半導体特性に優れた積層構造体を提供する。
【解決手段】第1層及び第2層を含むp型半導体領域を備え、前記第1層及び前記第2層の各々は、酸化ガリウム系半導体とは組成が異なるp型の金属酸化物半導体を含み、前記第2層の金属酸化物半導体は、前記第1層の金属酸化物半導体に含まれる金属元素とは異なる金属元素を含む積層構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層及び第2層を含むp型半導体領域を備え、
前記第1層及び前記第2層の各々は、酸化ガリウム系半導体とは組成が異なるp型の金属酸化物半導体を含み、
前記第2層の金属酸化物半導体は、前記第1層の金属酸化物半導体に含まれる金属元素とは異なる金属元素を含む積層構造体。
【請求項2】
前記第1層と前記第2層とが交互に積層された請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記第1層の前記金属酸化物半導体及び前記第2層の前記金属酸化物半導体の各々は、dブロック金属元素を含み、且つ、コランダム構造を有する請求項1又は請求項2に記載の積層構造体。
【請求項4】
前記第2層の前記金属酸化物半導体は、α-Ir2O3である請求項3に記載の積層構造体。
【請求項5】
前記第1層の前記金属酸化物半導体は、α-Rh2O3である請求項3に記載の積層構造体。
【請求項6】
前記第1層の前記金属酸化物半導体は、α-Cr2O3である請求項3に記載の積層構造体。
【請求項7】
前記第1層の前記金属酸化物半導体は、α-Co2O3である請求項3に記載の積層構造体。
【請求項8】
n型半導体領域をさらに備え、
前記p型半導体領域は、前記n型半導体領域上に形成された請求項1又は請求項2に記載の積層構造体。
【請求項9】
前記n型半導体領域は、α-Ga2O3を含む請求項8に記載の積層構造体。
【請求項10】
前記第1層と前記第2層の各々の厚みは、5nm以下である請求項1又は請求項2に記載の積層構造体。
【請求項11】
前記第1層と前記第2層の各々の厚みは、2nm以下である請求項10に記載の積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属酸化物を主成分として含むp型酸化物半導体膜が開示されている。金属酸化物は、コランダム構造の結晶層を含む。特許文献1においては、金属酸化物として、α-Ir2O3が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、半導体特性に優れた積層構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本開示の一態様の積層構造体は、第1層及び第2層を含むp型半導体領域を備え、前記第1層及び前記第2層の各々は、酸化ガリウム系半導体とは組成が異なるp型の金属酸化物半導体を含み、前記第2層の金属酸化物半導体は、前記第1層の金属酸化物半導体に含まれる金属元素とは異なる金属元素を含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、半導体特性に優れた積層構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の積層構造体を示す模式断面図である。
【
図2】積層構造体の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】積層構造体を備えた半導体装置の一例を示す断面図である。
【
図4】積層構造体を備えた半導体装置の他の例を示す断面図である。
【
図5】積層構造体を備えた半導体装置の更に他の例を示す断面図である。
【
図6】積層構造体を備えた半導体装置の更に他の例を示す断面図である。
【
図7】電源システムの一例を模式的に示す図である。
【
図8】システム装置の一例を模式的に示す図である。
【
図9】電源装置の電源回路図の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて説明する。尚、特許請求の範囲にかかる発明は、実施形態に限定されない。また、実施形態の中で説明される構成の組み合わせの全てが課題の解決手段に必須であるとして限定するものでもない。また、本開示の各構成は、本開示の課題の解決を妨げない範囲で説明されている。なお、同一構成要素には同一符号を付すことで、重複する説明を省略する。
【0009】
また、当業者にとって明らかなように、本明細書において述べられていなくとも、図面中において示される特徴は必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではない。また、1つの形態における1つの特徴は別の形態においても用いられ得ることに留意されたい。周知の要素及び加工技術についての記載は、本開示の形態を必要に不明確にすることのないように省略され得る。本明細書において用いられる例は、単に本開示の理解を助けること、またさらに当業者が本開示の形態を実施できるようにすることを目的としている。したがって、本明細書における形態及び例は本開示の範囲に限定されて解釈されず、特許請求の範囲及び適用可能な法律によってのみ定められる。
【0010】
「第1」及び「第2」等の用語は、本明細書において用いられる様々な要素を記述するために用いられるが、要素は、これらの用語によって限定されない。「第1」及び「第2」等の用語は、1つの要素を別の要素から区別するためにのみ用いられる。例えば、本開示の範囲から逸脱することなく、第1の要素は第2の要素と称することができ、また、第2の要素は第1の要素と称することができる。本明細書において用いられるように、用語「及び/又は」は、挙げられた項目のうち1つまたは複数のいくつかまたは全ての組み合わせを包含する。
【0011】
本明細書において用いられる用語は、特定の形態のみを記述することを目的としており、本開示を限定することを意図していない。本明細書において用いられる「備える」、「有する」又は「含む」等は、記載された要素の存在を表すものであり、1つまたは複数の他の要素の存在を排除するものではない。
【0012】
別途定義されない限り、本明細書において用いられる全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を持つ。本明細書において用いられる用語は本明細書の文脈及び関連技術における意味と矛盾しない意味を有するように解釈される。また、本明細書において定義されない限り、本明細書において用いられる用語は、理想化された、または過度に形式的な意味で解釈されるべきでないことを理解されたい。
【0013】
(実施形態)
図1は、本実施形態の積層構造体100を模式的に示した断面図である。積層構造体100は、例えば、半導体装置の一要素として用いられ、とりわけ、パワーデバイスに有用である。
【0014】
積層構造体100が用いられる半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、ジャンクションバリアショットキーダイオード(JBS)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)又は発光ダイオード等が挙げられる。半導体装置は、横型デバイスであってもよいし、縦型デバイスであってもよい。「横型デバイス」は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子である。「縦型デバイス」は、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子である。
【0015】
積層構造体100は、p型半導体領域101を備えている。この実施形態では、積層構造体100は、n型半導体領域102を更に備えている。尚、積層構造体100は、n型半導体領域102を備えなくてもよく、例えば、p型半導体領域101だけで形成されてもよい。本開示において「p型」及び「n型」とは、ホール効果測定、走査型静電容量顕微鏡(SCM:Scanning Capacitance Microscopy)又は走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM:Scanning Nonlinear Dielectric Microscopy)等によって判定されるキャリアタイプをいう。n型半導体領域102は、n型半導体層として機能する。p型半導体領域101は、p型半導体層として機能する。
【0016】
本開示では、便宜的にp型半導体領域101の厚み方向を「上下方向」と定義する。また、p型半導体領域101の厚み方向のうちの一方を「上方」と定義し、他方を「下方」と定義する。尚、これら方向は、重力方向や使用時における方向等を限定するものではない。
【0017】
(n型半導体領域)
n型半導体領域102は、厚み方向を有している。n型半導体領域102の厚み方向は、上下方向と実質的に一致している。n型半導体領域102は、例えば、酸化物半導体を含む。以下、n型半導体領域102の酸化物半導体を「第1半導体」という。n型半導体領域102は、第1半導体を主成分として含むことが好ましい。「主成分」とは、全体に対して原子比で50%以上含むことを意味する。n型半導体領域102は、第1半導体を原子比で70%以上含むことが好ましく、90%以上含むことが更に好ましい。この実施形態では、n型半導体領域102は、第1半導体である。すなわち、n型半導体領域102は、原子比で100%の第1半導体を含んでいる。尚、n型半導体領域102に含まれる第1半導体の割合は、原子比で50%未満であってもよい。
【0018】
第1半導体は、第13族金属を含むことが好ましい。「第13族金属」とは、周期表において第13族に属する金属を意味する。「周期表」とは、国際純正応用化学連合(IUPAC:International Union of Pure and Applied Chemistry)にて定められた周期表を意味する。第13族金属としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)又はニホニウム(Nh)が挙げられる。第1半導体は、アルミニウム、ガリウム又はインジウムを含むことが好ましく、ガリウムを含むことが特に好ましい。
【0019】
第1半導体は、結晶であってもよいし、非晶質であってもよいが、結晶であることが好ましい。第1半導体の結晶構造としては、例えば、コランダム構造、β-ガリア構造、六方晶構造(例えば、ε型構造)、直方晶構造(例えば、κ型構造)、立方晶構造又は正方晶構造等が挙げられる。第1半導体は、コランダム構造を有することが好ましい。第1半導体は、第13族金属を含み、且つ、コランダム構造を有することが更に好ましい。第1半導体は、α-Ga2O3であることが更に好ましい。
【0020】
(p型半導体領域)
p型半導体領域101は、n型半導体領域102上に形成されている。p型半導体領域101の厚み方向は、上下方向と実質的に一致している。p型半導体領域101は、n型半導体領域102と接している。
【0021】
p型半導体領域101は、第1層111及び第2層112を含んでいる。この実施形態では、p型半導体領域101は、複数の第1層111と、複数の第2層112とを含んでいる。尚、p型半導体領域101が第1層111と第2層112との両者を含むのであれば、p型半導体領域101に含まれる第1層111の数、及びp型半導体領域101に含まれる第2層111の数の各々は、限定されない。例えば、p型半導体領域101は、第1層111及び第2層112の各々を1層だけ含んでもよい。この実施形態では、p型半導体領域101は、第1層111及び第2層112とは組成が異なる別の層を含んでおらず、複数の第1層111と複数の第2層112とによって形成されている。尚、p型半導体領域101は、第1層111及び第2層112とは組成が異なる別の層を更に含んでもよい。
【0022】
第1層111と第2層112とは、上下方向において並んでいる。すなわち、第1層111と第2層112との積層方向は、上下方向と一致する。具体的には、第1層111と第2層112とは、交互に積層されている。p型半導体領域101のうちn型半導体領域102側の端に位置する層は、第1層111である。この第1層111は、n型半導体領域102に接している。尚、p型半導体領域101のうちn型半導体領域102側の端に位置する層は、第2層112であってもよい。p型半導体領域101のうちn型半導体領域102とは反対側の端に位置する層は、第2層112である。尚、p型半導体領域101のうちn型半導体領域102とは反対側の端に位置する層は、第1層111であってもよい。第1層111及び第2層112の各々は、酸化ガリウム系半導体とは組成が異なるp型の金属酸化物半導体を含んでいる。ここで、「酸化ガリウム系半導体」とは、酸化ガリウムと、一部の原子サイトが他の原子に置換された酸化ガリウムとの両者を含む。したがって、「酸化ガリウム系半導体とは組成が異なる金属酸化物半導体」とは、ガリウムを含まない金属酸化物半導体を意味する。以下、第1層111の金属酸化物半導体を「第2半導体」という。第2層112の金属酸化物半導体を「第3半導体」という。以下、第1層111及び第2層112について更に詳述する。
【0023】
(第1層)
第1層111は、n型半導体領域102及び第2層112、あるいは2つの第2層112に接している。第1層111の厚み方向は、上下方向と実質的に一致している。第1層111は、第2半導体を主成分として含んでいる。第1層111は、第2半導体を原子比で70%以上含むことが好ましく、90%以上含むことが更に好ましい。この実施形態では、第1層111は、第2半導体である。尚、第1層111に含まれる第2半導体の割合は、原子比で50%未満であってもよい。
【0024】
第2半導体は、dブロック金属元素を含むことが好ましい。「dブロック金属元素」とは、周期表においてdブロックに属する金属元素を意味する。具体的には、dブロックの元素は、3d、4d、5d及び6d軌道を満たす電子を有する。dブロック金属元素としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、ルテチウム(Lu)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、水銀(Hg)、ローレンシウム(Lr)、ラザホージウム(Rf)、ドブニウム(Db)、シーボーギウム(Sg)、ボーリウム(Bh)、ハッシウム(Hs)、マイトネリウム(Mt)、ダームスタチウム(Ds)、レントゲニウム(Rg)又はコペルニシウム(Cn)が挙げられる。第2半導体は、ロジウム、クロム又はコバルトを含むことが好ましい。尚、第2半導体は、dブロック金属元素を含まなくてもよい。
【0025】
第2半導体は、結晶であってもよいし、非晶質であってもよいが、結晶であることが好ましい。第2半導体は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。第2半導体は、混晶ではない金属酸化物半導体、即ち単一成分結晶の金属酸化物半導体であることが好ましい。尚、第2半導体は、2種以上の化合物半導体を含んだ混晶、あるいは、化合物半導体と元素半導体とを含んだ混晶であってもよい。
【0026】
第2半導体が有する結晶構造としては、例えば、コランダム構造、β-ガリア構造、六方晶構造(例えば、ε型構造)、直方晶構造(例えば、κ型構造)、立方晶構造又は正方晶構造等が挙げられる。第2半導体は、コランダム構造を有することが好ましい。第2半導体は、dブロック金属元素を含み、且つ、コランダム構造を有することが更に好ましい。第2半導体は、α-Rh2O3、α-Cr2O3又はα-Co2O3であることが更に好ましい。
【0027】
第2半導体は、所定のキャリア濃度を有している。尚、第2半導体のキャリア濃度は、全ての第1層111において実質的に同じであってもよいし、第1層111毎に異なっていてもよい。
【0028】
第1層111におけるキャリア濃度の変動要因となる欠陥の発生を抑制し、且つ、p型半導体領域101のキャリア濃度を均一化するため、第1層111の厚みは、5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることが更に好ましい。尚、第1層111の厚みは、限定されず、5nmを超えてもよい。また、第1層111の厚みは、全ての第1層111の厚みが実質的に同じであってもよいし、第1層111毎に異なってもよい。
【0029】
(第2層)
第2層112は、1つの第1層111のみ、あるいは2つの第2層112に接している。第2層112の厚み方向は、上下方向と実質的に一致している。第2層112の組成は、第1層111の組成と異なる。第2層112は、第3半導体を主成分として含んでいる。第2層112は、第3半導体を原子比で70%以上含むことが好ましく、90%以上含むことが更に好ましい。この実施形態では、第2層112は、第3半導体である。尚、第2層112に含まれる第3半導体の割合は、原子比で50%未満であってもよい。
【0030】
第3半導体は、dブロック金属を含むことが好ましい。第2半導体及び第3半導体の両者が、dブロック金属を含むことが更に好ましい。第3半導体は、イリジウムを含むことが更に好ましい。尚、第3半導体は、dブロック金属を含まなくてもよい。
【0031】
第3半導体は、結晶であってもよいし、非晶質であってもよいが、結晶であることが好ましい。第3半導体は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。第3半導体は、単一成分結晶の金属酸化物半導体、即ち混晶ではない金属酸化物半導体であることが好ましい。尚、第3半導体は、2種以上の化合物半導体を含んだ混晶、あるいは、化合物半導体と元素半導体とを含んだ混晶であってもよい。
【0032】
第3半導体の結晶構造としては、例えば、コランダム構造、β-ガリア構造、六方晶構造(例えば、ε型構造)、直方晶構造(例えば、κ型構造)、立方晶構造又は正方晶構造等が挙げられる。第3半導体は、コランダム構造を有することが好ましい。第2半導体及び第3半導体の両者が、コランダム構造を有することが更に好ましい。
【0033】
第3半導体は、dブロック金属を含み、且つ、コランダム構造を有することが更に好ましい。第2半導体及び第3半導体の両者が、dブロック金属を含み、且つ、コランダム構造を有することが更に好ましい。第3半導体は、α-Ir2O3であることが更に好ましい。
【0034】
第3半導体は、第2半導体のキャリア濃度とは異なるキャリア濃度を有している。具体的には、第3半導体のキャリア濃度は、第2半導体のキャリア濃度よりも大きい。尚、第3半導体のキャリア濃度は、全ての第2層112において実質的に同じであってもよいし、第2層112毎に異なっていてもよい。
【0035】
p型半導体領域101のキャリア濃度を均一化し、且つ、第2層112におけるキャリア濃度の変動要因となる欠陥の発生を抑制するため、第2層112の厚みは、5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることが更に好ましい。尚、第2層112の厚みは、限定されず、5nmを超えてもよい。第1層111及び第2層112の各々の厚みが、5nm以下であることが更に好ましい。第1層111及び第2層112の各々の厚みが、2nm以下であることが更に好ましい。尚、第2層112の厚みは、全ての第2層112の厚みが実質的に同じであってもよいし、第2層112毎に異なってもよい。
【0036】
n型半導体領域102とこれに積層される第1層111との格子定数差に起因する歪の発生を抑制するため、第1半導体の格子定数と第2半導体の格子定数との差は、第1半導体の格子定数と第3半導体の格子定数との差よりも小さいことが好ましい。さらに、第1層111とこれに積層される第2層112との格子定数差に起因する歪の発生を抑制するため、第2半導体の格子定数と第3半導体の格子定数との差は、第1半導体の格子定数と第3半導体の格子定数との差よりも小さいことが好ましい。
【0037】
(積層構造体の製造方法)
続いて、積層構造体100の製造方法について説明する。積層構造体100の製造方法は、p型半導体領域101を形成する工程を含んでいる。積層構造体100の製造方法は、n型半導体領域102を形成する工程を更に含んでもよい。以下、n型半導体領域102を形成する工程を「第1工程」という。p型半導体領域101を形成する工程を、「第2工程」という。この実施形態では、第2工程は、第1工程の後に実行される。すなわち、第2工程では、第1工程において形成されたn型半導体領域102上にp型半導体領域101が形成される。尚、積層構造体100の製造方法は、第1工程を含まなくてもよい。
【0038】
第2工程は、第1層111を形成する工程と、第2層112を形成する工程とを含んでいる。以下、第1層111を形成する工程を「第1層形成工程」という。第2層112を形成する工程を「第2層形成工程」という。
【0039】
第2工程では、例えば、第1層形成工程と第2層形成工程とが交互に実行される。具体的には、第2工程では、まず第1層形成工程が実行されてn型半導体領域102上に第1層111が形成される。次に、第2層形成工程が実行されて第1層111上に第2層112が形成される。次に、第1層形成工程が実行されて第2層112上に第1層111が形成される。このように第1層形成工程及び第2層形成工程は、p型半導体101の全体が形成されるまで交互に実行される。
【0040】
第1工程、第1層形成工程及び第2層形成工程の各々は、例えば、同様の方法によって実行される。そのため、以下では、第1層形成工程について詳述し、第2層形成工程及び第1工程の各々については、第1層形成工程と異なる点だけを説明し、重複する説明を省略する。また、以下の説明では、第1層形成工程において形成される第1層111、第2層形成工程において形成される第2層112、及び第1工程において形成されるn型半導体領域102の各々を「形成層」という場合がある。
【0041】
(第1層形成工程)
図2は、第1層形成工程において用いられる製造装置29の概略説明図である。この実施形態の製造装置29は、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置であり、詳しくは、ミストCVDによって成膜する成膜装置である。第2層形成工程及び第1工程の各々においては、例えば、製造装置29と同様の製造装置が用いられる。尚、製造装置29は、CVD装置に限定されず、公知の他の成膜装置であってもよい。
【0042】
第1層形成工程は、形成層(即ち、第1層111)の原料を含む原料溶液を霧化して液滴を浮遊させて霧化液滴を生成する工程(以下、霧化工程という)と、キャリアガスによって基体の表面まで霧化液滴を搬送する工程(以下、搬送工程という)と、霧化液滴を熱反応させることによって基体の表面上に形成層を成膜する工程(以下、成膜工程)とを含む。
【0043】
(基体)
第1工程において用いられる基体は、基板である。基板は、絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、導電性基板であってもよい。基板は、絶縁体基板であることが好ましく、また、表面に金属膜を有する基板であることも好ましい。基板は、コランダム構造を有することが好ましい。コランダム構造を有する基板としては、例えば、コランダム構造を有する材料を主成分とする下地基板が挙げられる。基板としては、例えば、サファイア基板(好ましくはm面サファイア基板)及びα型酸化ガリウム基板等が挙げられる。尚、第1層形成工程及び第2層形成工程の各々において用いられる基体は、基板、基板上に形成されたn型半導体領域102並びにそれまでに形成された第1層111及び第2層112を含む。
【0044】
基体は、形成層を支持できれば特に限定されない。また、基体材料も、本開示の目的を阻害しない限り特に限定されず、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。また、基体の形状は限定されず、あらゆる形状に対して有効である。基体の形状としては、例えば、板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状又はリング状等が挙げられる。
【0045】
(霧化工程)
霧化工程では、例えば、超音波を用いた霧化方法によって、原料溶液を霧化して霧化液滴(ミストを含む)を生成する。超音波を用いて得られた霧化液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊する。そのため、霧化液滴をスプレーのように基体に吹き付けるのではなく、空間に浮遊させてガスとして基体へ搬送することができる。したがって、形成層には、衝突エネルギーによる損傷が少なく、非常に好適である。尚、霧化方法は、原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の方法であってよい。霧化液滴のサイズは、特に限定されず、数mm程度であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは100nm以上10μm以下である。
【0046】
原料溶液は、例えば、形成層に含まれる金属を錯体又は塩の形態で有機溶媒又は水に溶解又は分散させた原料溶液であることが好ましい。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体等が挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩又はハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)等が挙げられる。本実施形態において用いられるミストCVD法によれば、原料濃度が低くても、好適に成膜することができる。尚、原料溶液には、無機材料が含まれていてもよいし、有機材料が含まれていてもよい。
【0047】
溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒の混合溶液であってもよい。本開示においては、溶媒が水を含むことが好ましく、水と酸の混合溶媒であることも好ましい。水としては、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水又は海水が挙げられる。水は、超純水であることが好ましい。酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の有機酸;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸が挙げられる。酸は、酢酸であることが好ましい。
【0048】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスによって霧化液滴を基体へ搬送する。キャリアガスの種類としては、例えば、酸素、オゾン、窒素若しくはアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガス若しくはフォーミングガス等の還元ガス等が挙げられる。キャリアガスは、酸素を含むことが好ましい。酸素を含むキャリアガスとしては、例えば空気、酸素ガス又はオゾンガス等が挙げられるが、とりわけ酸素ガス及び/又はオゾンガスが好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)等を、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。尚、キャリアガスは、本開示の目的を阻害しない限り特に限定されない。
【0049】
キャリアガスの供給箇所は、1箇所だけであってもよいし、2箇所以上あってもよい。本開示においては、霧化室、供給管及び成膜室を用いる場合には、霧化室及び供給管の各々にキャリアガスの供給箇所を設けることが好ましく、霧化室にはキャリアガスの供給箇所を設け、供給管には希釈ガスの供給箇所を設けることが更に好ましい。また、キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01L/分以上20L/分以下であることが好ましく、1L/分以上10L/分以下であることが更に好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001L/分以上5L/分以下であることが好ましく、0.1L/分以上3L/分以下であることが更に好ましい。
【0050】
(成膜工程)
成膜工程では、霧化液滴を基体表面近傍で反応させて、基体表面の一部または全部に成膜する。熱反応は、霧化液滴から膜が形成される熱反応であれば特に限定されず、熱によって霧化液滴が反応すればよく、反応条件等も本開示の目的を阻害しない限り特に限定されない。成膜工程においては、熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、あまり高すぎない温度以下で行うことが好ましい。第1工程、第1層形成工程及び第2層形成工程の各々においては、熱反応を、1200℃以下で行ってもよく、300℃以上700℃以下の温度で行うことが好ましく、350℃以上600℃以下で行うことが最も好ましい。尚、第1工程、第1層形成工程及び第2層形成工程の各々においては、熱反応を、750℃以上1200℃以下で行ってもよいし、750℃以上1100℃以下で行ってもよい。また、熱反応は、本開示の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下及び酸化雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下及び減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本開示においては、酸化雰囲気下で行われることが好ましく、大気圧下で行われることも好ましく、酸化雰囲気下でかつ大気圧下で行われることが更に好ましい。なお、「酸化雰囲気」は、形成層が熱反応により形成できる雰囲気であれば特に限定されない。例えば、酸素を含むキャリアガスを用いたり、酸化剤を含む原料溶液からなるミストを用いたりして酸化雰囲気とすること等が挙げられる。また、膜厚は、成膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0051】
第1工程において、形成層は、基体上に直接成膜されてもよいし、基体上に形成層とは異なる他の層を介して成膜されてもよい。他の層としては、例えば、半導体層(例えば、n型半導体層、n+型半導体層又はn-型半導体層等)、絶縁体層(半絶縁体層も含む)又はバッファ層等が挙げられる。半導体層又は絶縁体層としては、例えば、第13族金属を含む半導体層又は絶縁体層等が挙げられる。バッファ層としては、例えば、コランダム構造を含む半導体層、絶縁体層又は導電体層等が好適な例として挙げられる。コランダム構造を含む半導体層としては、例えば、α―Fe2O3、α―Ga2O3又はα―Al2O3等が挙げられ、混晶であってもよい。バッファ層の積層方法は特に限定されず、例えば、形成層を形成する方法と同様の方法であってもよい。
【0052】
以上説明した実施形態の積層構造体100は、p型半導体領域101の伝導制御を行い、p型半導体領域101のキャリア濃度を所望の値とすることができる。すなわち、第1層111の第2半導体に含まれる金属元素と、第2層112の第3半導体に含まれる金属元素とは異なるため、第1層111のキャリア濃度と、第2層112のキャリア濃度とを大きく異ならせることができる。そのため、例えば、第2層112のキャリア濃度が第1層111のキャリア濃度よりも大きい場合、p型半導体領域101全体の厚みに対する第2層112の厚みの合計値の割合を大きくすると、p型半導体領域101全体のキャリア濃度は大きくなる。逆にp型半導体領域101全体の厚みに対する第1層111の厚みの合計値の割合を大きくすると、p型半導体領域101全体のキャリア濃度は小さくなる。仮にp型半導体領域101が1種類の金属酸化物半導体からなる単層であると、金属酸化物半導体のキャリア濃度を精度良く制御することが難しく、結果としてp型半導体領域101のキャリア濃度の調整も難しくなる。しかし、本実施形態の積層構造体100は、p型半導体領域101における第1層111の厚みと第2層112の厚みとを調整することによって、p型半導体領域101の伝導制御を精度良く行うことが可能になる。
【0053】
特に、α-Rh2O3、α-Cr2O3、α-Co2O3及びα-Ir2O3等のdブロック金属を含む金属酸化物は、(IrxGa1-x)2O3(ここで、Xは、0<x<1を満足する数を表す)等の混晶と比較して、金属元素の含有率の変動に応じたキャリア濃度の変化量が小さいことが第1原理計算により確認できた。そのため、第1層111のキャリア濃度及び第2層112のキャリア濃度を安定させることができ、ひいてはp型半導体領域101の伝導制御を精度良く行うことが可能になる。更にこれらdブロック金属を含む金属酸化物は、バンドギャップが広い層を形成できる。したがって、半導体特性に優れた積層構造体100を製造することができる。
【0054】
(実施例)
続いて、積層構造体100の実施例について説明する。
【0055】
(実施例1)
実施例1の積層構造体100は、n型半導体領域102がα-Ga2O3であり、各第1層111がα-Rh2O3であり、各第2層112がα-Ir2O3である。第1層111と第2層112とは、交互に積層されている。
【0056】
本実施例の積層構造体100にあっては、p型半導体領域101における第1層111の厚みの合計値d1と、p型半導体領域101における第2層112の厚みの合計値d2との比率を変更することにより、p型半導体領域101のキャリア濃度を調整することができる。具体的には、d2/d1=1とすることにより、p型半導体領域101のキャリア濃度を約1×1018にすることができる。
【0057】
また、第1原理計算より、α-Rh2O3とα-Ir2O3との格子不整合度は、約1.1%と小さいことを確認できた。さらに、α-Ga2O3とα-Rh2O3との格子不整合度は、約3.3%であり、α-Ga2O3とIr2O3との格子不整合度とは約4.6%であり、α-Ga2O3とα-Rh2O3との格子不整合度は、α-Ga2O3とIr2O3との格子不整合度とよりも小さいことを確認できた。そのため、歪の影響が少なく、結晶性の優れた積層構造体100とすることができる。特にn型半導体領域102上の第1層111の結晶性を向上できるため、pn接合面であるn型半導体領域102と第1層111との界面において耐電界強度を向上できる。
【0058】
(実施例2)
実施例2の積層構造体100は、n型半導体領域102がα-Ga2O3であり、各第1層111がα-Cr2O3であり、各第2層112がα-Ir2O3である。第1層111と第2層112とは、交互に積層されている。
【0059】
本実施例の積層構造体100にあっては、p型半導体領域101における第1層111の厚みの合計値d1と、p型半導体領域101における第2層112の厚みの合計値d2との比率を変更することにより、p型半導体領域101のキャリア濃度を調整することができる。
【0060】
また、第1原理計算より、α-Cr2O3とα-Ir2O3との格子不整合度は、約0.7%と小さいことを確認した。そのため、歪の影響が少なく、結晶性の優れた積層構造体100とすることができる。特にn型半導体領域102上の第1層111の結晶性を向上できるため、pn接合面であるn型半導体領域102と第1層111との界面において耐電界強度を向上できる。
【0061】
また、第1原理計算により、α-Cr2O3のバンドギャップは約3.56eVであり、α-Ir2O3のバンドギャップは約2.84eVであり、α-Ga2O3のバンドギャップは、約4.08eVであることを確認した。すなわち、α-Cr2O3のバンドギャップは、α-Ga2O3のバンドギャップに匹敵する。そのため、p型半導体領域101のバンドギャップを広くすることができ、高耐圧のpn接合に好適である。
【0062】
(実施例3)
実施例3の積層構造体100は、n型半導体領域102がα-Ga2O3であり、各第1層111がα-Co2O3であり、各第2層112がα-Ir2O3である。第1層111と第2層112とは、交互に積層されている。
【0063】
本実施例の積層構造体100にあっては、p型半導体領域101における第1層111の厚みの合計値d1と、p型半導体領域101における第2層112の厚みの合計値d2との比率を変更することにより、p型半導体領域101のキャリア濃度を調整することができる。
【0064】
また、第1原理計算より、α-Co2O3のバンドギャップは約3.6eVであり、α-Ir2O3のバンドギャップは約2.84eVであり、α-Ga2O3のバンドギャップは、約4.08eVであることを確認した。すなわち、α-Co2O3のバンドギャップは、α-Ga2O3のバンドギャップに匹敵する。そのため、p型半導体領域101のバンドギャップを広くすることができ、高耐圧のpn接合に好適である。
【0065】
(半導体装置)
続いて、積層構造体100を備えた半導体装置について説明する。
図3は、積層構造体100を備えた一例の半導体装置105Aを示している。半導体装置105Aは、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)である。半導体装置105Aは、積層構造体100に電気的に接続された電極をさらに備えている。具体的には、半導体装置105Aは、n+型半導体層(ドレイン層)1、n-型半導体層(ドリフト層)2、p+型半導体層(ディープp層)6、p-型半導体層(チャネル層)7、n+型半導体層(n+ソース層)11、ゲート絶縁膜(層間絶縁膜)13、ゲート電極3、p+型半導体層16、ソース電極24及びドレイン電極26を備えている。p+型半導体層(ディープp層)6は、少なくともその一部が、ゲート電極3の埋設下端部3aよりも深い位置にまでn-型半導体層2内に埋設されている。ゲート電極3、ソース電極24及びドレイン電極26の各々は電極の一例である。以下、ゲート電極3、ソース電極24及びドレイン電極26の各々を単に「電極」という場合がある。半導体装置105Aにおいて、p型半導体領域101は、例えば、半導体装置105Aにおけるp+型半導体層6、p-型半導体層7又はp+型半導体層16として用いられる。n型半導体領域102は、n+型半導体層1又はn-型半導体層2として用いられる。
【0066】
半導体装置105Aは、ソース電極24とドレイン電極26との間に電圧が印加された状態で、ゲート電極3にソース電極24に対して正の電圧が与えられることによってターンオンする。半導体装置105Aのオン状態では、p-型半導体層7とゲート絶縁膜13との界面にチャネルが形成される。半導体装置は、ゲート電極3の電圧が0Vになることにより、ターンオフする。半導体装置105Aのオフ状態では、チャネルが形成されない。
【0067】
半導体装置105Aは、p+型半導体層6が、ゲート電極3よりも深くn-型半導体層2に埋め込まれている。そのため、ゲート電極3の下部近傍の電界を緩和することができ、ゲート絶縁膜13内及びn-型半導体層2内の電界分布をより良好なものとすることができる。
【0068】
電極の材料は、特に限定されず、導電性無機材料であってもよいし、導電性有機材料であってもよい。本開示においては、電極の材料は、金属、金属化合物、金属酸化物又は金属窒化物であることが好ましい。金属としては、好適には例えば、周期表第4族~第11族から選ばれる少なくとも1種の金属等が挙げられる。周期表第4族の金属としては、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)又はハフニウム(Hf)等が挙げられる。周期表第5族の金属としては、例えば、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)又はタンタル(Ta)等が挙げられる。周期表第6族の金属としては、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。周期表第7族の金属としては、例えば、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)等が挙げられる。周期表第8族の金属としては、例えば、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)又はオスミウム(Os)等が挙げられる。周期表第9族の金属としては、例えば、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)又はイリジウム(Ir)等が挙げられる。周期表第10族の金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)又は白金(Pt)等が挙げられる。周期表第11族の金属としては、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)又は金(Au)等が挙げられる。
【0069】
電極の形成手段としては、例えば、ドライ法又はウェット法等の公知の手段が挙げられる。ドライ法としては、例えば、スパッタ、真空蒸着又はCVD等の公知の手段が挙げられる。ウェット法としては、例えば、スクリーン印刷又はダイコート等が挙げられる。
【0070】
ゲート絶縁膜13の構成材料は、特に限定されず、公知の材料であってもよい。ゲート絶縁膜13の材料としては、例えば、SiO2膜、SiON膜、AlON膜、AlN膜、Al2O3膜又はHfO2膜等が挙げられる。ゲート絶縁膜13の形成方法としては、例えば、CVD法、大気圧CVD法、プラズマCVD法、ALD法又はミストCVD法等が挙げられる。ゲート絶縁膜13の形成方法は、ミストCVD法又は大気圧CVD法であることが好ましい。
【0071】
半導体装置105Aの各層の形成手段は、本開示の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の手段であってよい。各層の形成手段としては、例えば、真空蒸着法やCVD法、スパッタ法、各種コーティング技術等により成膜した後、フォトリソグラフィー法によりパターニングする手段、又は印刷技術等を用いて直接パターニングを行う手段等が挙げられる。各層の形成手段は、ミストCVD法が好ましい。
【0072】
図4は、積層構造体100を備えた他の一例の半導体装置105Bを示している。半導体装置105Bは、p+型半導体層6とn-型半導体層2との間にi型半導体層28が設けられている点で
図3に示す半導体装置105Aと異なる。半導体装置105Bは、その他の点で
図3に示す半導体装置10Aと同様の構成を備える。そのため、以下の半導体装置105Bの説明では、半導体装置105Aと異なる点について説明し、半導体装置105Aと共通する点については、共通する要素に同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
i型半導体層28は、n-型半導体層2よりもキャリア密度が小さいものであれば、特に限定されない。i型半導体層28の主成分は、n-型半導体層2の主成分と同一であることが好ましい。
【0074】
図5は、積層構造体100を備えた更に他の一例の半導体装置105Cを示している。半導体装置105Cは、ゲート絶縁膜13の底部付近にp型半導体層27を備える点で
図4に示す半導体装置105Bと異なる。半導体装置105Cは、その他の点で半導体装置105Bと同様の構成を備える。そのため、そのため、以下の半導体装置105Cの説明では、半導体装置105Bと異なる点について説明し、半導体装置105Bと共通する点については、共通する要素に同一の符号を付して説明を省略する。半導体装置105Cにおいて、p型半導体層27として用いられてもよい。
【0075】
図6は、積層構造体100を備えた更に他の一例の半導体装置201を示している。半導体装置201は、冷却器を備えたパワーカードである。この例の半導体装置201は、両面冷却型のパワーカードであり、積層構造体100を含む半導体素子と、半導素子の両側にそれぞれ配置された2つの冷却器とを備えている。第1層111及び第2層112の各々は、例えば、半導体素子の一要素として用いられる。半導体装置201は、半導体素子と冷却器との間に配置される絶縁部材をさらに備えることが好ましい。半導体装置201は、半導体素子と絶縁部材との間に配置される放熱層をさらに備えることが好ましい。この例の半導体装置201は、冷媒チューブ202、スペーサ203、絶縁板208、封止樹脂部209、半導体チップ301a、フライホイルダイオード301b、金属伝熱板(突出端子部)302b、ヒートシンク及び電極303、金属伝熱板(突出端子部)303b、はんだ層304、制御電極端子305及びボンディングワイヤ308を備えている。冷媒チューブ202は、冷却器の一例である。絶縁板208は、絶縁部材の一例である。半導体チップ301a及びフライホイルダイオード301bの各々は、半導素子の一例である。金属電熱板302b及び金属伝熱板303bの各々は、放熱層の一例である。
【0076】
半導体チップ301aは、金属伝熱板302bの内側の主面上にはんだ層304で接合され、半導体チップ301aの残余の主面には、金属伝熱板303bがはんだ層304で接合されている。これによりIGBTのコレクタ電極面及びエミッタ電極面にフライホイルダイオード301bのアノード電極面及びカソード電極面がいわゆる逆並列に接続されている。金属伝熱板302b及び303bの各々の材料としては、例えば、Mo又はW等が挙げられる。金属伝熱板302b及び303bは、半導体チップ301aとフライホイルダイオード301bの厚みの差を吸収する厚みの差をもち、これにより金属伝熱板302b及び303bの外表面は平面となっている。
【0077】
樹脂封止部209は、例えばエポキシ樹脂からなる。半導体チップ301a、フライホイルダイオード301b、金属伝熱板302bの一部、金属伝熱板303bの一部及び制御電極端子305の一部は、樹脂封止部209でモールドされている。但し、金属伝熱板302b及び303bの外主面、即ち接触受熱面は完全に露出している。金属伝熱板302bの一部及び金属伝熱板303bの一部は、樹脂封止部209から
図6中、右方に突出している。いわゆるリードフレーム端子である制御電極端子305の一部は、例えばIGBTが形成された半導体チップ301aのゲート(制御)電極面と制御電極端子305とを接続している。
【0078】
絶縁スペーサである絶縁板208は、例えば、窒化アルミニウムフィルムで構成されているが、他の絶縁フィルムであってもよい。絶縁板208は金属伝熱板302b及び303bを完全に覆って密着しているが、絶縁板208と金属伝熱板302b及び303bとは、単に接触するだけでもよいし、シリコングリス等の良熱伝熱材を塗布してもよいし、それらを種々の方法で接合させてもよい。また、セラミック溶射等で絶縁層を形成してもよく、絶縁板208を金属伝熱板302b及び303b上に接合してもよく、冷媒チューブ202上に接合又は形成してもよい。
【0079】
冷媒チューブ202は、例えば、アルミニウム合金を引き抜き成形法あるいは押し出し成形法で成形された板材を必要な長さに切断して作製される。冷媒チューブ202の厚み方向断面は、互いに所定間隔を隔てて流路方向に延在する多数の隔壁221で区画された流路222を多数有している。このような好適なパワーカードによればより高い放熱性を実現することができ、より高い信頼性を満たすことができる。
【0080】
スペーサ203は、例えば、はんだ合金等の軟質の金属板であってよいが、金属伝熱板302b及び303bの接触面に塗布等によって形成したフィルム(膜)としてもよい。軟質のスペーサ203の表面は、容易に変形して、樹脂封止部209の微小凹凸や反り、冷媒チューブ202の微小凹凸や反りになじんで熱抵抗を低減する。なお、スペーサ203の表面等に公知の良熱伝導性グリス等を塗布してもよく、スペーサ203を省略してもよい。
【0081】
本開示の半導体装置105A~105C及び201は、上記した事項に加え、さらに公知の方法を用いて、パワーモジュール、インバータまたはコンバータとして好適に用いられ、さらには、例えば電源装置を用いた半導体システム等に好適に用いられる。電源装置は、公知の方法を用い、半導体装置105A~105C,201を配線パターン等に接続する等して作製することができる。
図7に電源システムの例を示す。
図7に示す例では、複数の電源装置171、172と制御回路173を用いて電源システム170が構成されている。電源システム170は、
図8に示すように、電子回路181と組み合わせてシステム装置180に用いることができる。尚、電源装置の電源回路図の一例を
図9に示す。
図9は、パワー回路と制御回路からなる電源装置の電源回路を示しており、インバータ192(MOSFET A~Dで構成)によりDC電圧を高周波でスイッチングしACへ変換後、トランス193で絶縁及び変圧を実施し、整流MOSFET194で整流後、DCL195(平滑用コイルL1,L2)とコンデンサにて平滑し、直流電圧を出力する。この時に電圧比較器197で出力電圧を基準電圧と比較し、所望の出力電圧となるようPWM制御回路196でインバータ192及び整流MOSFET194を制御する。
【0082】
(付記)
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0083】
(付記1)
第1層及び第2層を含むp型半導体領域を備え、前記第1層及び前記第2層の各々は、酸化ガリウム系半導体とは組成が異なるp型の金属酸化物半導体を含み、前記第2層の金属酸化物半導体は、前記第1層の金属酸化物半導体に含まれる金属元素とは異なる金属元素を含む積層構造体。
【0084】
(付記2)
前記第1層と前記第2層とが交互に積層された付記1に記載の積層構造体。
【0085】
(付記3)
前記第1層の前記金属酸化物半導体及び前記第2層の前記金属酸化物半導体の各々は、dブロック金属元素を含み、且つ、コランダム構造を有する付記1又は付記2に記載の積層構造体。
【0086】
(付記4)
前記第2層の前記金属酸化物半導体は、α-Ir2O3である付記3に記載の積層構造体。
【0087】
(付記5)
前記第1層の前記金属酸化物半導体は、α-Rh2O3である付記3又は付記4に記載の積層構造体。
【0088】
(付記6)
前記第1層の前記金属酸化物半導体は、α-Cr2O3である付記3又は付記4に記載の積層構造体。
【0089】
(付記7)
前記第1層の前記金属酸化物半導体は、α-Co2O3である付記3又は付記4に記載の積層構造体。
【0090】
(付記8)
n型半導体領域をさらに備え、
前記p型半導体領域は、前記n型半導体領域上に形成された付記1乃至付記7のいずれか1つに記載の積層構造体。
【0091】
(付記9)
前記n型半導体領域は、α-Ga2O3を含む付記8記載の積層構造体。
【0092】
(付記10)
前記第1層と前記第2層の各々の厚みは、5nm以下である付記1乃至付記9のいずれか1つに記載の積層構造体。
【0093】
(付記11)
前記第1層と前記第2層の各々の厚みは、2nm以下である付記10に記載の積層構造体。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本開示の積層構造体は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材等あらゆる分野に用いることができるが、半導体特性に優れているため、特に、半導体装置等に有用である。
【符号の説明】
【0095】
1 n+型半導体層
2 n-型半導体層
3 ゲート電極
6 p+型半導体層
7 p-型半導体層
11 n+型半導体層
13 ゲート絶縁膜
16 p+型半導体層
24 ソース電極
26 ドレイン電極
27 p型半導体層
28 i型半導体層
29 製造装置
32a キャリアガス供給装置
32b キャリアガス(希釈)供給装置
33a 流量調節弁
33b 流量調節弁
34 ミスト発生源
34a 原料溶液
34b ミスト
35 容器
35a 水
36 超音波振動子
37 供給管
38 ヒーター
40 成膜室
100 積層構造体
101 p型半導体領域
102 n型半導体領域
105A 半導体装置
105B 半導体装置
105C 半導体装置
111 第1層
112 第2層
170 電源システム
171 電源装置
172 電源装置
173 制御回路
180 システム装置
181 電子回路
182 電源システム
192 インバータ
193 トランス
194 整流MOSFET
195 DCL
196 PWM制御回路
197 電圧比較器
201 半導体装置
202 冷媒チューブ
203 スペーサ
208 絶縁板(絶縁スペーサ)
209 封止樹脂部
221 隔壁
222 流路
301a 半導体チップ
301b フライホイルダイオード
302b 金属伝熱板(突出端子部)
303 ヒートシンク及び電極
303b 金属伝熱板(突出端子部)
304 はんだ層
305 制御電極端子
308 ボンディングワイヤ