(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143323
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】偏光子、偏光板、および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055939
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 優
(72)【発明者】
【氏名】井ノ原 拓実
(72)【発明者】
【氏名】森坂 雄介
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB13
2H149AB15
2H149BA02
2H149BA14
2H149CA02
2H149EA12
2H149FA05W
2H149FA24W
2H149FA52W
2H149FA58W
2H149FC01
2H149FD47
(57)【要約】
【課題】高温環境下におけるクラックが抑制された偏光子を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による偏光子は、二色性染料を含む液晶化合物の配向固化層として構成され、一方の主面にクラック抑制層を有する。クラック抑制層は、チキソトロピー性材料のゲル化層である。チキソトロピー性材料は、例えばコロイド溶液であり;コロイドは、例えば、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイドまたはアマイドコロイドであり;金属化合物コロイドは、例えばアルミナコロイドである。クラック抑制層の厚みは、例えば30nm~1000nmである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性染料を含む液晶化合物の配向固化層として構成され、一方の主面にクラック抑制層を有する偏光子であって、
該クラック抑制層が、チキソトロピー性材料のゲル化層である、
偏光子。
【請求項2】
前記チキソトロピー性材料がコロイド溶液である、請求項1に記載の偏光子。
【請求項3】
前記コロイドが、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイドまたはアマイドコロイドである、請求項2に記載の偏光子。
【請求項4】
前記コロイドが金属化合物コロイドであり、該金属化合物コロイドが、アルミナコロイド、シリカコロイド、ジルコニアコロイド、チタニアコロイドおよび酸化スズコロイドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の偏光子。
【請求項5】
前記金属化合物コロイドがアルミナコロイドである、請求項4に記載の偏光子。
【請求項6】
前記クラック抑制層の厚みが30nm~1000nmである、請求項1に記載の偏光子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の主面に配置された保護層とを有する、偏光板。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光板を備える、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子、偏光板、および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、無機EL表示装置)には、その画像形成方式に起因して、多くの場合、画像表示パネルの少なくとも一方の側に偏光板が配置されている。偏光板は、代表的には偏光子を含む。偏光子の一形態として、液晶化合物を配向させてその配向状態を固定した偏光子(以下、液晶偏光子と称する)が知られている。液晶偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光子に比べて薄く、かつ、ヨウ素を用いないので脱色しにくいという特徴がある。さらに、液晶偏光子は延伸することなく形成されるので、優れた平滑性および表面安定性を有する。一方で、液晶偏光子は、高温環境下においてクラックが発生しやすいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高温環境下におけるクラックが抑制された液晶偏光子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の実施形態による偏光子は、二色性染料を含む液晶化合物の配向固化層として構成され、一方の主面にクラック抑制層を有する。該クラック抑制層は、チキソトロピー性材料のゲル化層である。
[2]上記[1]において、上記チキソトロピー性材料はコロイド溶液である。
[3]上記[2]において、上記コロイドは、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイドまたはアマイドコロイドである。
[4]上記[2]または[3]において、上記コロイドは金属化合物コロイドであり、該金属化合物コロイドは、アルミナコロイド、シリカコロイド、ジルコニアコロイド、チタニアコロイドおよび酸化スズコロイドからなる群から選択される少なくとも1種である。
[5]上記[3]または[4]において、上記金属化合物コロイドはアルミナコロイドである。
[6]上記[1]から[5]のいずれかにおいて、上記クラック抑制層の厚みは30nm~1000nmである。
[7]本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。当該偏光板は、上記[1]から[6]のいずれかの偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の主面に配置された保護層とを有する。
[8]本発明のさらに別の局面によれば、画像表示装置が提供される。当該画像表示装置は、上記[1]から[6]のいずれかの偏光子、あるいは、上記[7]の偏光板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、高温環境下におけるクラックが抑制された偏光子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による偏光子の概略断面図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光子
以下、図面を参照して本発明の代表的な実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。また、見やすくかつ理解を容易にするために、図面は模式的または概念的に描かれており、厚み、長さ、幅、形状、大きさ、比率等は実際と異なっている場合があり、図面間で対応していない場合がある。
【0010】
A-1.偏光子の概要
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光子の概略断面図である。図示例の偏光子10は、2つの主面を有する偏光子本体11と、偏光子本体11の一方の主面に形成されたクラック抑制層12と、を有する。クラック抑制層12は、チキソトロピー性材料のゲル化層である。このような構成であれば、高温環境下における偏光子のクラックが抑制され得る。チキソトロピー性材料のゲル化層は強固であるので、高温環境下において適切に偏光子本体を保護し、その結果、高温環境下における偏光子のクラックが抑制され得ると推定される。ただし、このようなメカニズムはあくまで推定であり、当該推定は本発明の実施形態を限定的に解釈するものではなく、かつ、本発明の実施形態はこのようなメカニズムに拘束されない。
【0011】
A-2.偏光子本体
偏光子本体(以下、単に偏光子と称する場合がある)11は、代表的には、二色性染料を含む液晶化合物の配向固化層(以下、液晶配向固化層と称する)として構成されている。偏光子を液晶配向固化層として構成することにより、薄く、脱色しにくく、かつ、優れた平滑性および表面安定性を有する偏光子を実現することができる。なお、本明細書において「液晶配向固化層」とは、液晶化合物が層内で所定の方向に配向し、その配向状態が固定されている層をいう。「液晶配向固化層」は、液晶モノマーを硬化させて得られる配向硬化層を包含する概念である。液晶配向固化層の1つの実施形態においては、棒状の液晶化合物の配向に合わせて二色性染料が並んでおり、その結果、液晶化合物の配向方向と実質的に同じ方向に吸収軸が発現する。
【0012】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは35%~48%であり、より好ましくは37%~45%であり、さらに好ましくは39%~43%である。偏光子の偏光度は、好ましくは95.0%~99.9%であり、より好ましくは97.0%~99.9%であり、さらに好ましくは98.5%~99.9%である。
【0013】
偏光子の厚みは、好ましくは2μm~8μmであり、より好ましくは3μm~7μmであり、さらに好ましくは3μm~6μmである。液晶化合物を用いて偏光子を構成することにより、このような非常に薄い厚みが実現され得る。
【0014】
A-2-1.液晶化合物
液晶化合物としては、二色性染料と組み合わせて、所定の配向状態において偏光子として機能するに十分な二色性(光選択吸収性能)を発現し得る限りにおいて、任意の適切な液晶化合物が採用され得る。液晶化合物は、好ましくは、重合可能(すなわち、液晶モノマー)である。液晶化合物が重合可能であると、液晶化合物を配向させた後に重合させることで、液晶化合物の配向状態を固定できる。ここで、重合により形成されたポリマーは非液晶性である。したがって、形成された液晶配向固化層は、例えば、液晶性化合物に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が起きることはない。その結果、液晶配向固化層は、温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた偏光子となる。
【0015】
液晶化合物の液晶性の発現機構は、サーモトロピックであってもよく、リオトロピックであってもよい。また、液晶相の構成としてはネマチック液晶であってもよく、スメクチック液晶であってもよい。
【0016】
液晶化合物が液晶性を示す温度範囲は、その種類に応じて異なる。具体的には、当該温度範囲は、好ましくは10℃~120℃であり、さらに好ましくは20℃~110℃であり、最も好ましくは30℃~100℃である。
【0017】
1つの実施形態においては、液晶化合物は、式(1)で表される液晶モノマーである。
R1-A1-Y1-A2-Y2-A3-R2 ・・・(1)
式(1)において、
R1およびR2は、それぞれ独立に、鎖状有機基を表し;
R1およびR2の少なくとも一つの鎖状有機基が、-(CH2)n-CH2-重合性基または-O-(CH2)n-CH2-重合性基を表し、ここで、nは、1~24の整数であり;
A1およびA3は、それぞれ独立に、式(2)で表される部分構造、2価有機基、または単結合を表し;
A2は、式(2)で表される部分構造または2価有機基を表し;
-Y1-および-Y2-は、それぞれ独立に、単結合、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=S)O-、-OC(=S)-、-C(=O)S-、-SC(=O)-、-CH2CH2-、-CH=CH-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、-CH2O-、-OCH2-、-CH2S-、または-SCH2-を表し;
A1およびA3の一方は、式(2)で表される部分構造または2価有機基であり;
A1、A2、およびA3のうち、少なくとも一つは、式(2)で表される部分構造である。
-Cy-X2-C≡C-X- ・・・(2)
式(2)において、
Cyは、炭化水素環基または複素環基を表し;
-X-は、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=S)O-、-OC(=S)-、-C(=O)S-、-SC(=O)-、-CH2CH2-、-CH=CH-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、-CH2O-、-OCH2-、-CH2S-、または-SCH2-を表し;
-X2-は、単結合、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=S)O-、-OC(=S)-、-C(=O)S-、-SC(=O)-、-CH2CH2-、-CH=CH-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-、-CH2O-、-OCH2-、-CH2S-、または-SCH2-を表す。
【0018】
式(1)で表される液晶モノマーの具体例としては以下が挙げられる。
【化1】
【化2】
【0019】
液晶化合物は、例えば、特許第6798600号、特開2022-181212号公報、特開2022-176121号公報、国際公開第2019/182133号に記載されている。これらの公報の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0020】
A-2-2.二色性染料
二色性染料は、可視光領域(380nm~780nm)の波長の少なくとも一部を吸収して二色性を示す物質または化合物である。二色性染料は、代表的にはアゾ系染料である。アゾ系染料は、分子中に少なくとも1つのアゾ基(-N=N-)を有する。アゾ系染料の分子中のアゾ基の数は、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上である。一方、アゾ系染料の分子中のアゾ基の数は、好ましくは6以下であり、より好ましくは4以下であり、さらに好ましくは3以下である。アゾ基の数がこのような範囲であれば、溶媒に対する溶解性、液晶化合物に対する相溶性、および色調に優れたアゾ系染料が得られ得る。
【0021】
1つの実施形態においては、二色性染料は黒色であり得る。二色性染料が黒色であれば、黒色の偏光子が得られ得る。その結果、画像表示装置の色調に対する悪影響を抑制することができる。黒色染料は、例えば、赤色染料と青色染料、あるいは、赤色染料と黄色染料と青色染料とを適切な割合で混合することにより調製され得る。赤色染料と青色染料とを混合する場合、赤色染料/青色染料の配合比(重量比)は、好ましくは1/200~5/1であり、より好ましくは1/100~4/1であり、さらに好ましくは1/10~3/1である。赤色染料と黄色染料と青色染料とを混合する場合、黄色染料を基準(1)とすると、赤色染料の配合比(重量比)は、好ましくは0.1~5であり、より好ましくは0.5~2であり;青色染料の配合比(重量比)は、好ましくは0.1~5であり、より好ましくは0.2~2であり、さらに好ましくは0.5~2である。このような構成であれば、偏光子に所望の黒の色調が実現され得る。
【0022】
本発明の実施形態において好適な黄色染料(黄二色性染料)の具体例としては以下が挙げられる。
【化3】
【0023】
本発明の実施形態において好適な赤色染料(赤二色性染料)の具体例としては以下が挙げられる。
【化4】
【化5】
【0024】
本発明の実施形態において好適な青色染料(青二色性染料)の具体例としては以下が挙げられる。
【化6】
【0025】
二色性染料の配合量は、液晶化合物100重量部に対して、好ましくは1重量部~50重量部であり、より好ましくは2重量部~40重量部である。このような構成であれば、液晶化合物の配向を乱すことなく液晶化合物を重合させることができる傾向にある。なお、二色性染料が各色染料の混合物である場合には、二色性染料の配合量は各色染料の合計量である。
【0026】
二色性染料は、例えば、特許第6076528号、特許第6798600号、特開2013-228706号公報の[0067]~[0071]、特開2013-227532号公報の[0008]~[0026]、特開2013-209367号公報の[0008]~[0015]、特開2013-14883号公報の[0045]~[0058]、特開2013-109090号公報の[0012]~[0029]、特開2013-101328号公報の[0009]~[0017]、特開2013-37353号公報の[0051]~[0065]、特開2012-63387号公報の[0049]~[0073]、特開平11-305036号公報の[0016]~[0018]、特開2001-133630号公報の[0009]~[0011]、特開2011-215337号公報の[0030]~[0169]、特開2010-106242号公報の[0021]~[0075]、特開2010-215846号公報の[0011]~[0025]、特開2011-048311号公報の[0017]~[0069]、特開2011-213610号公報の[0013]~[0133]、特開2011-237513号公報の[0074]~[0246]、特開2016-006502号公報の[0005]~[0051]、国際公開第2016/060173号の[0005]~[0041]、国際公開第2016/136561号の[0008]~[0062]、国際公開第2017/154835号の[0014]~[0033]、国際公開第2017/154695号の[0014]~[0033]、国際公開第2017/195833号の[0013]~[0037]に記載されている。これらの公報の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0027】
A-2-3.偏光子の形成方法
偏光子(液晶配向固化層)は、例えば、液晶化合物(好ましくは、液晶モノマー)と二色性染料と必要に応じて光重合開始剤とを任意の適切な溶媒に溶解した溶液(液晶性組成物)を所定の配向基材に塗布し、加熱により液晶状態として液晶モノマーを配向させた後、冷却により配向を固定化し、光照射により液晶モノマーを重合または架橋することにより形成され得る。
【0028】
配向基材としては、所定の配向規制力を有する限りにおいて任意の適切な樹脂フィルム(代表的には、延伸樹脂フィルム)が用いられ得る。配向基材を構成する樹脂としては、液晶性組成物の溶媒に溶解せず、かつ液晶モノマーを配向させるための加熱時の耐熱性を有する限りにおいて、任意の適切な樹脂が用いられ得る。具体例としては、シクロオレフィン系樹脂(例えば、ノルボルネン系樹脂)が挙げられる。配向規制力は、代表的には、ラビング配向、延伸基材配向、光配向によって付与することができる。好ましくは、延伸基材配向または光配向である。
【0029】
A-3.クラック抑制層
クラック抑制層12は、上記のとおり、チキソトロピー性材料のゲル化層である。チキソトロピーとは、流体がせん断(例えば、撹拌、圧送、塗工)を受けた時、時間経過とともに粘度が低下し、せん断を止めて静止させておくと元の粘度にもどる現象をいう。したがって、チキソトロピー性材料とは、せん断応力下において粘度が低下して流動性の高いゾル(液体状)となり、静置するとゲル(固体状)となる材料をいう。チキソトロピー性材料は、その性質から明らかなとおり、せん断下の(例えば、撹拌による)ゾルを偏光子本体に塗布すると、塗布膜は自発的にゲル化してゲル化層となる。したがって、チキソトロピー性材料を用いることにより、クラック抑制層の形成に際して、加熱、紫外線照射(架橋または硬化)、貼り合わせ、転写等の付加的な工程および操作は一切必要とされない。したがって、きわめて簡便かつ高効率でクラック抑制層を形成することができる。さらに、偏光子本体に(例えば、熱または紫外線による)悪影響を与えることなくクラック抑制層を形成することができる。加えて、貼り合わせまたは転写のための接着層を必要としないので、偏光子(最終的には、偏光板および画像表示装置)の薄型化に貢献し得る。
【0030】
チキソトロピー性材料は、代表的にはコロイド溶液である。コロイド溶液は、代表的には、せん断下においてゾルであり、静置するとゲル化する。コロイド溶液は、代表的には、液状媒体(分散媒)と当該液状媒体に分散したコロイド粒子とを含む。
【0031】
分散媒としては、代表的には、水または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエ-テル類が挙げられる。
【0032】
コロイド(コロイド粒子)としては、例えば、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイド、アマイド(酸アミド)コロイドが挙げられる。コロイド(コロイド粒子)は、好ましくは金属化合物コロイドである。金属化合物コロイドとしては、例えば、アルミナコロイド、シリカコロイド、ジルコニアコロイド、チタニアコロイド、酸化スズコロイドが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。金属化合物コロイドは、好ましくはアルミナコロイドである。
【0033】
コロイド溶液におけるコロイド粒子の濃度は、好ましくは0.1重量%~30.0重量%であり、より好ましくは0.15重量%~20.0重量%であり、さらに好ましくは0.15重量%~15.0重量%である。コロイド粒子の濃度がこのような範囲であれば、適切な機械的強度を有するゲル化層(クラック抑制層)が形成され得る。
【0034】
コロイド粒子の形状としては、任意の適切な形状が採用され得る。コロイド粒子の形状としては、例えば、球状、楕円球状、針状、棒状、繊維状、不定形が挙げられる。
【0035】
コロイド粒子のサイズは、目的、形状等に応じて適切に設定され得る。例えばコロイド粒子が球状である場合、平均一次粒子径は、好ましくは1nm~200nmであり、より好ましくは20nm~180nmであり、さらに好ましくは50nm~120nmである。例えばコロイド粒子が細長形状(例えば、針状、棒状、繊維状)である場合、平均アスペクト比(長径/短径)は、好ましくは30~5000であり、より好ましくは100~3000であり;平均短径は、好ましくは1nm~10nmであり、より好ましくは2nm~5nmであり;平均長径は、好ましくは100nm~10000nmであり、より好ましくは500nm~7000nmである。コロイド粒子のサイズが大きすぎると、透明性および流動性が不十分となる場合がある。コロイド粒子のサイズが小さすぎると、保存安定性が不十分となる場合がある。
【0036】
コロイド溶液のpHは、例えば2.5~4.0であり得、また例えば3.0~3.6であり得る。必要に応じて、pH調整剤を用いてもよい。pH調整剤を用いることにより、コロイド溶液を中性にすることができる。その結果、偏光子本体に対する化学的な悪影響を抑制することができる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、尿素が挙げられる。
【0037】
コロイド溶液の粘度(25℃)は、好ましくは300mPa・s以下であり、より好ましくは1mPa・s~200mPa・sである。コロイド溶液の粘度がこのような範囲であれば、所望の厚みを有するゲル化層(クラック抑制層)が形成され得る。
【0038】
コロイド溶液は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、分散安定剤、カップリング剤、帯電防止剤が挙げられる。添加剤の種類、数、組み合わせ、配合量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0039】
コロイド溶液は、代表的にはバインダー樹脂を含まない。言い換えれば、コロイド溶液は、代表的には接着機能を有さない。チキソトロピー性材料であるコロイド溶液は、自発的な膜形成機能(ゲル化機能)を有するので、バインダー樹脂を用いる必要がない。その結果、バインダー樹脂を硬化させるための加熱および/または活性エネルギー線(例えば、紫外線)照射が不要となるので、クラック抑制層の形成に際し、偏光子本体に対する悪影響を回避することができる。
【0040】
金属化合物コロイドは、好ましくは、上記のとおりアルミナコロイドである。したがって、チキソトロピー性材料は、好ましくはアルミナゾルである。アルミナには、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイアスポア、無定形などの水酸化アルミニウム(アルミナ水和物)、ならびに、γ、η、δ、ρ、κ、θ、χ、α形のアルミナ結晶が包含される。アルミナとしては、好ましくは、ベーマイトまたは擬ベーマイトである。
【0041】
コロイド溶液として市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、川研ファインケミカル社製の商品名「アルミナゾル-F1000」(アルミナコロイド)、BYK社製の商品名「BYK-AQUAGEL 7100」(フィロケイ酸塩コロイド)、楠本化成社製の商品名「ディスパロン」(アマイドコロイド)が挙げられる。
【0042】
クラック抑制層の厚みは、好ましくは30nm~1000nmであり、より好ましくは50nm~700nmであり、さらに好ましくは80nm~600nmであり、特に好ましくは100nm~500nmであり、とりわけ好ましくは120nm~400nmである。クラック抑制層の厚みがこのような範囲であれば、偏光子(結果として、偏光板)の薄型化と偏光子のクラック抑制とを両立し得る。
【0043】
B.偏光板
図2は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。偏光板100は、偏光子10と、偏光子10の一方の主面に配置された第1の保護層20と、偏光子10の他方の主面に配置された第2の保護層30とを有する。偏光子10は、上記A項で説明した本発明の実施形態による偏光子である。第1の保護層20および第2の保護層30のうち一方の保護層は省略されてもよい。この場合、クラック抑制層側の保護層が省略されてもよく、クラック抑制層と反対側の保護層が省略されてもよい。第1の保護層および第2の保護層のうち一方は、上記の偏光子の製造に用いられる配向基材であってもよい。
【0044】
第1の保護層および第2の保護層は、任意の適切な樹脂フィルムで構成される。樹脂フィルムを構成する材料としては、代表的には、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂の代表例としては、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、特開2005-146084号公報に記載されている。これらの公報は、本明細書に参考として援用されている。異形加工の容易性等の観点から、セルロース系樹脂が好ましく、TACがより好ましい。透湿度が低く、耐久性に優れた偏光板が得られるという観点からは、シクロオレフィン系樹脂および(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0045】
第1の保護層および第2の保護層の厚みは、それぞれ、好ましくは10μm~80μmであり、より好ましくは12μm~40μmであり、さらに好ましくは15μm~35μmである。
【0046】
偏光板100を画像表示装置に適用したときに画像表示パネル側に配置される保護層(内側保護層)は、1つの実施形態においては、光学的に等方性を有する。本明細書において「光学的に等方性」とは、面内位相差Re(550)が10nm以下、好ましくは7nm以下、より好ましくは5nm以下であり;厚み方向位相差Rth(550)が-10nm~10nm、好ましくは-7nm~7nm、より好ましくは-5nm~5nmであることをいう。別の実施形態においては、内側保護層は、任意の適切な位相差値を有する位相差層である。この場合、位相差層の面内位相差Re(550)は、例えば120nm~160nmである。「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差であり、式:Re=(nx-ny)×dにより求められる。「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向位相差であり、式:Re=(nx-nz)×dにより求められる。ここで、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率であり、「d」は層(フィルム)の厚み(nm)である。
【0047】
C.画像表示装置
上記A項に記載の偏光子または上記B項に記載の偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、そのような偏光子または偏光板を含む画像表示装置もまた、本発明の実施形態に包含され得る。画像表示装置としては、代表的には、液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置、無機EL表示装置が挙げられる。
【実施例0048】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
【0049】
(1)厚み
実施例で得られた偏光子を切削し、偏光板断面を走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製 「JSM7100F」)を用いて観察し、クラック抑制層の厚みを測定した。
【0050】
(2)偏光子のクラック
実施例および比較例で得られた偏光子を、室温から昇温速度30℃/minで140℃まで加熱した。加熱しながら偏光子を偏光顕微鏡で観察し、クラックが発生した温度を測定した。なお、加熱にはリンカム社製の顕微鏡用冷却加熱ステージを用いた。
【0051】
[実施例1]
下記式(I-1)で表される液晶化合物28.57部、下記式(II-1)で表されるアゾ系染料0.43部、下記式(II-2)で表されるアゾ系染料0.29部、光重合開始剤(BASF社製、製品名「IRGACURE369」)0.29部、および、レベリング剤(BYK-Chemie社製、製品名「BYK-361N」)0.43部をシクロペンタノン69.99部に加え、80℃で加熱撹拌後、シリンジフィルター(Membrane Solutions社製、PTFE13045、口径0.45μm)を備えたシリンジを用いて濾過することにより、液晶性組成物を調製した。
【化7】
【化8】
【化9】
【0052】
上記液晶性組成物をバーコーターにより、配向基材としての二軸延伸ノルボルネン系フィルム(日本ゼオン製「ゼオノアフィルム」、厚み;52μm、Re(550);50nm、液晶性組成物塗布面のRa;1.2nm)の表面に成膜し、120℃で2分間加熱乾燥した後、液晶相まで冷却し露光量500mJ/cm2(365nm基準)で重合し、配向基材/偏光子の積層体を得た。得られた偏光子の厚みは約4.5μmであった。
【0053】
得られた積層体の偏光子表面に、バーコーターによりアルミナコロイド溶液(川研ファインケミカル社製、商品名「アルミナゾル-F1000」)を塗布した。塗布膜は自発的にゲル化し、ゲル化層としてのクラック抑制層を形成した。クラック抑制層の厚みは169nmであった。クラック抑制層が形成された偏光子を上記(2)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
クラック抑制層の厚みを372nmとしたこと以外は実施例1と同様にして、クラック抑制層が形成された偏光子を作製した。得られた偏光子を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
実施例1で得られた配向基材/偏光子の積層体をそのまま(すなわち、クラック抑制層を形成することなく)、実施例1と同様に供した。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度:1200,ケン化度:98.5モル%,アセトアセチル化度:5モル%)100部に対し、メチロールメラミン50部を、30℃の温度条件下に、純水に溶解し、固形分濃度3.7%に調整した水溶液を調製した。この水溶液100部に対し、アルミナコロイド水溶液(平均粒子径15nm,固形分濃度10%,正電荷)18部を加えて接着剤水溶液を調製した。接着剤水溶液の粘度は9.6mPa・sであった。この接着剤水溶液を実施例1のアルミナコロイド溶液の代わりに用いて、接着剤層(厚み199nm)が形成された偏光子を作製した。得られた偏光子を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例3]
接着剤層の厚みを442nmとしたこと以外は比較例2と同様にして、接着剤層が形成された偏光子を作製した。得られた偏光子を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
表1から明らかなように、本発明の実施例の偏光子は、高温環境下におけるクラックが抑制されている。クラック抑制の効果は、クラック抑制層の厚みが大きい方が顕著であることがわかる。さらに、比較例2および3から明らかなように、コロイド溶液がバインダー樹脂を含む(したがって、接着機能を有する)場合には、クラック抑制効果はかえって低下することがわかる。