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特開2024-143324偏光子、偏光板、および画像表示装置
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  • 特開-偏光子、偏光板、および画像表示装置 図1
  • 特開-偏光子、偏光板、および画像表示装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143324
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】偏光子、偏光板、および画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055940
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 優
(72)【発明者】
【氏名】井ノ原 拓実
(72)【発明者】
【氏名】森坂 雄介
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB13
2H149AB15
2H149AB18
2H149BA02
2H149BA12
2H149CA02
2H149EA12
2H149FA02X
2H149FA03W
2H149FA12Z
2H149FC01
2H149FD47
(57)【要約】
【課題】高温環境下における寸法変化が抑制された偏光子を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、一方の主面に寸法変化抑制層を有する。寸法変化抑制層は、チキソトロピー性材料のゲル化層である。チキソトロピー性材料は、例えばコロイド溶液であり;コロイドは、例えば、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイドまたはアマイドコロイドであり;金属化合物コロイドは、例えばアルミナコロイドである。寸法変化抑制層の厚みは、例えば30nm~1000nmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、一方の主面に寸法変化抑制層を有する偏光子であって、
該寸法変化抑制層が、チキソトロピー性材料のゲル化層である、
偏光子。
【請求項2】
前記チキソトロピー性材料がコロイド溶液である、請求項1に記載の偏光子。
【請求項3】
前記コロイドが、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイドまたはアマイドコロイドである、請求項2に記載の偏光子。
【請求項4】
前記コロイドが金属化合物コロイドであり、該金属化合物コロイドが、アルミナコロイド、シリカコロイド、ジルコニアコロイド、チタニアコロイドおよび酸化スズコロイドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の偏光子。
【請求項5】
前記金属化合物コロイドがアルミナコロイドである、請求項4に記載の偏光子。
【請求項6】
前記寸法変化抑制層の厚みが30nm~1000nmである、請求項1に記載の偏光子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の主面に配置された保護層とを有する、偏光板。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光板を備える、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子、偏光板、および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置(例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置、無機EL表示装置)には、その画像形成方式に起因して、多くの場合、画像表示パネルの少なくとも一方の側に偏光板が配置されている。偏光板は、代表的には、二色性物質を含むポリビニルアルコール(PVA)系樹脂で構成された偏光子を含む。偏光子はPVA系樹脂フィルムの延伸フィルムであるので、高温環境下において寸法変化が大きいという継続的な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-091980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、高温環境下における寸法変化が抑制された偏光子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の実施形態による偏光子は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、一方の主面に寸法変化抑制層を有する。該寸法変化抑制層は、チキソトロピー性材料のゲル化層である。
[2]上記[1]において、上記チキソトロピー性材料はコロイド溶液である。
[3]上記[2]において、上記コロイドは、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイドまたはアマイドコロイドである。
[4]上記[2]または[3]において、上記コロイドは金属化合物コロイドであり、該金属化合物コロイドは、アルミナコロイド、シリカコロイド、ジルコニアコロイド、チタニアコロイドおよび酸化スズコロイドからなる群から選択される少なくとも1種である。
[5]上記[3]または[4]において、上記金属化合物コロイドはアルミナコロイドである。
[6]上記[1]から[5]のいずれかにおいて、上記寸法変化抑制層の厚みは30nm~1000nmである。
[7]本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。当該偏光板は、上記[1]から[6]のいずれかの偏光子と、該偏光子の少なくとも一方の主面に配置された保護層とを有する。
[8]本発明のさらに別の局面によれば、画像表示装置が提供される。当該画像表示装置は、上記[1]から[6]のいずれかの偏光子、あるいは、上記[7]の偏光板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、高温環境下における寸法変化が抑制された偏光子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による偏光子の概略断面図である。
図2】本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光子
以下、図面を参照して本発明の代表的な実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。また、見やすくかつ理解を容易にするために、図面は模式的または概念的に描かれており、厚み、長さ、幅、形状、大きさ、比率等は実際と異なっている場合があり、図面間で対応していない場合がある。
【0010】
A-1.偏光子の概要
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光子の概略断面図である。図示例の偏光子10は、2つの主面を有する偏光子本体11と、偏光子本体11の一方の主面に形成された寸法変化抑制層12と、を有する。寸法変化抑制層12は、チキソトロピー性材料のゲル化層である。このような構成であれば、高温環境下における偏光子の寸法変化が抑制され得る。チキソトロピー性材料のゲル化層は強固であるので、高温環境下において適切に偏光子本体を拘束し、その結果、高温環境下における偏光子の寸法変化が抑制され得ると推定される。ただし、このようなメカニズムはあくまで推定であり、当該推定は本発明の実施形態を限定的に解釈するものではなく、かつ、本発明の実施形態はこのようなメカニズムに拘束されない。
【0011】
A-2.偏光子本体
偏光子本体(以下、単に偏光子と称する場合がある)11は、代表的には、二色性物質(例えば、ヨウ素)を含むポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成されている。PVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン―酢酸ビニル共重合体系部分ケン化物が挙げられる。
【0012】
PVA系樹脂は、好ましくはアセトアセチル変性されたPVA系樹脂を含む。このような構成であれば、所望の機械的強度を有する偏光子が得られ得る。アセトアセチル変性されたPVA系樹脂の配合量は、PVA系樹脂全体を100重量%としたときに、好ましくは5重量%~20重量%であり、より好ましくは8重量%~12重量%である。配合量がこのような範囲であれば、より優れた機械的強度を有する偏光子が得られ得る。
【0013】
偏光子は、好ましくは、ヨウ化物または塩化ナトリウム(まとめてハロゲン化物と称する場合がある)を含む。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウムが挙げられる。偏光子におけるハロゲン化物の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対して、好ましくは5重量部~20重量部であり、より好ましくは10重量部~15重量部である。ハロゲン化物は、後述の製造方法において、偏光子の前駆体であるPVA系樹脂層を形成する塗布液に配合され、最終的に偏光子に導入され得る。偏光子にハロゲン化物を導入することにより、偏光子におけるPVA分子の配向性を高めることができるので、優れた光学特性(代表的には、高い偏光度と高い単体透過率との両立)を有する偏光子を実現することができる。
【0014】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは41.0%~46.0%であり、より好ましくは42.0%~45.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。本発明の実施形態によれば、単体透過率が上記のような範囲であっても、偏光度をこのような範囲に維持することができる。
【0015】
偏光子の厚みは、例えば15μm以下であり、好ましくは12μm以下であり、より好ましくは1μm~8μmであり、さらに好ましくは3μm~7μmである。このような薄い偏光子と液晶配向固化層とを組み合わせることにより、光学積層体の顕著な薄型化が可能となる。また、偏光子の厚みが上記のような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制することができ、および、良好な加熱時の外観耐久性が得られる。
【0016】
偏光子は、任意の適切な方法により作製され得る。例えば、偏光子を形成する樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。
【0017】
単層の樹脂フィルムから構成される偏光子の具体例としては、PVA系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、PVA系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
【0018】
上記ヨウ素による染色は、例えば、PVA系フィルムをヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3~7倍である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系フィルムに、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系フィルムを水に浸漬して水洗することで、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系フィルムを膨潤させて染色ムラなどを防止することができる。
【0019】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。加えて、本実施形態においては、好ましくは、積層体は、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。代表的には、本実施形態の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性は向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離した剥離面に、もしくは、剥離面とは反対側の面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0020】
A-3.寸法変化抑制層
寸法変化抑制層12は、上記のとおり、チキソトロピー性材料のゲル化層である。チキソトロピーとは、流体がせん断(例えば、撹拌、圧送、塗工)を受けた時、時間経過とともに粘度が低下し、せん断を止めて静止させておくと元の粘度にもどる現象をいう。したがって、チキソトロピー性材料とは、せん断応力下において粘度が低下して流動性の高いゾル(液体状)となり、静置するとゲル(固体状)となる材料をいう。チキソトロピー性材料は、その性質から明らかなとおり、せん断下の(例えば、撹拌による)ゾルを偏光子本体に塗布すると、塗布膜は自発的にゲル化してゲル化層となる。したがって、チキソトロピー性材料を用いることにより、寸法変化抑制層の形成に際して、加熱、紫外線照射(架橋または硬化)、貼り合わせ、転写等の付加的な工程および操作は一切必要とされない。したがって、きわめて簡便かつ高効率で寸法変化抑制層を形成することができる。さらに、偏光子本体に(例えば、熱または紫外線による)悪影響を与えることなく寸法変化抑制層を形成することができる。加えて、貼り合わせまたは転写のための接着層を必要としないので、偏光子(最終的には、偏光板および画像表示装置)の薄型化に貢献し得る。
【0021】
チキソトロピー性材料は、代表的にはコロイド溶液である。コロイド溶液は、代表的には、せん断下においてゾルであり、静置するとゲル化する。コロイド溶液は、代表的には、液状媒体(分散媒)と当該液状媒体に分散したコロイド粒子とを含む。
【0022】
分散媒としては、代表的には、水または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエ-テル類が挙げられる。
【0023】
コロイド(コロイド粒子)としては、例えば、金属化合物コロイド、フィロケイ酸塩コロイド、アマイド(酸アミド)コロイドが挙げられる。コロイド(コロイド粒子)は、好ましくは金属化合物コロイドである。金属化合物コロイドとしては、例えば、アルミナコロイド、シリカコロイド、ジルコニアコロイド、チタニアコロイド、酸化スズコロイドが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。金属化合物コロイドは、好ましくはアルミナコロイドである。
【0024】
コロイド溶液におけるコロイド粒子の濃度は、好ましくは0.1重量%~30.0重量%であり、より好ましくは0.15重量%~20.0重量%であり、さらに好ましくは0.15重量%~15.0重量%である。コロイド粒子の濃度がこのような範囲であれば、適切な機械的強度を有するゲル化層(寸法変化抑制層)が形成され得る。
【0025】
コロイド粒子の形状としては、任意の適切な形状が採用され得る。コロイド粒子の形状としては、例えば、球状、楕円球状、針状、棒状、繊維状、不定形が挙げられる。
【0026】
コロイド粒子のサイズは、目的、形状等に応じて適切に設定され得る。例えばコロイド粒子が球状である場合、平均一次粒子径は、好ましくは1nm~200nmであり、より好ましくは20nm~180nmであり、さらに好ましくは50nm~120nmである。例えばコロイド粒子が細長形状(例えば、針状、棒状、繊維状)である場合、平均アスペクト比(長径/短径)は、好ましくは30~5000であり、より好ましくは100~3000であり;平均短径は、好ましくは1nm~10nmであり、より好ましくは2nm~5nmであり;平均長径は、好ましくは100nm~10000nmであり、より好ましくは500nm~7000nmである。コロイド粒子のサイズが大きすぎると、透明性および流動性が不十分となる場合がある。コロイド粒子のサイズが小さすぎると、保存安定性が不十分となる場合がある。
【0027】
コロイド溶液のpHは、例えば2.5~4.0であり得、また例えば3.0~3.6であり得る。必要に応じて、pH調整剤を用いてもよい。pH調整剤を用いることにより、コロイド溶液を中性にすることができる。その結果、偏光子本体に対する化学的な悪影響を抑制することができる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、尿素が挙げられる。
【0028】
コロイド溶液の粘度(25℃)は、好ましくは300mPa・s以下であり、より好ましくは1mPa・s~200mPa・sである。コロイド溶液の粘度がこのような範囲であれば、所望の厚みを有するゲル化層(寸法変化抑制層)が形成され得る。
【0029】
コロイド溶液は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、分散安定剤、カップリング剤、帯電防止剤が挙げられる。添加剤の種類、数、組み合わせ、配合量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0030】
コロイド溶液は、代表的にはバインダー樹脂を含まない。言い換えれば、コロイド溶液は、代表的には接着機能を有さない。チキソトロピー性材料であるコロイド溶液は、自発的な膜形成機能(ゲル化機能)を有するので、バインダー樹脂を用いる必要がない。その結果、バインダー樹脂を硬化させるための加熱および/または活性エネルギー線(例えば、紫外線)照射が不要となるので、寸法変化抑制層の形成に際し、偏光子本体に対する悪影響を回避することができる。
【0031】
金属化合物コロイドは、好ましくは、上記のとおりアルミナコロイドである。したがって、チキソトロピー性材料は、好ましくはアルミナゾルである。アルミナには、ギブサイト、バイヤライト、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイアスポア、無定形などの水酸化アルミニウム(アルミナ水和物)、ならびに、γ、η、δ、ρ、κ、θ、χ、α形のアルミナ結晶が包含される。アルミナとしては、好ましくは、ベーマイトまたは擬ベーマイトである。
【0032】
コロイド溶液として市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、川研ファインケミカル社製の商品名「アルミナゾル-F1000」(アルミナコロイド)、BYK社製の商品名「BYK-AQUAGEL 7100」(フィロケイ酸塩コロイド)、楠本化成社製の商品名「ディスパロン」(アマイドコロイド)が挙げられる。
【0033】
寸法変化抑制層の厚みは、好ましくは30nm~1000nmであり、より好ましくは50nm~700nmであり、さらに好ましくは70nm~500nmであり、特に好ましくは80nm~400nmであり、とりわけ好ましくは100nm~300nmである。寸法変化抑制層の厚みがこのような範囲であれば、偏光子(結果として、偏光板)の薄型化と偏光子の寸法変化抑制とを両立し得る。
【0034】
B.偏光板
図2は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。偏光板100は、偏光子10と、偏光子10の一方の主面に配置された第1の保護層20と、偏光子10の他方の主面に配置された第2の保護層30とを有する。偏光子10は、上記A項で説明した本発明の実施形態による偏光子である。第1の保護層20および第2の保護層30のうち一方の保護層は省略されてもよい。この場合、寸法変化抑制層側の保護層が省略されてもよく、寸法変化抑制層と反対側の保護層が省略されてもよい。第1の保護層および第2の保護層のうち一方は、上記の偏光子の製造に用いられる樹脂基材であってもよい。
【0035】
第1の保護層および第2の保護層は、任意の適切な樹脂フィルムで構成される。樹脂フィルムを構成する材料としては、代表的には、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリノルボルネン等のシクロオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂の代表例としては、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、特開2005-146084号公報に記載されている。これらの公報は、本明細書に参考として援用されている。異形加工の容易性等の観点から、セルロース系樹脂が好ましく、TACがより好ましい。透湿度が低く、耐久性に優れた偏光板が得られるという観点からは、シクロオレフィン系樹脂および(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0036】
第1の保護層および第2の保護層の厚みは、それぞれ、好ましくは10μm~80μmであり、より好ましくは12μm~40μmであり、さらに好ましくは15μm~35μmである。
【0037】
偏光板100を画像表示装置に適用したときに画像表示パネル側に配置される保護層(内側保護層)は、1つの実施形態においては、光学的に等方性を有する。本明細書において「光学的に等方性」とは、面内位相差Re(550)が10nm以下、好ましくは7nm以下、より好ましくは5nm以下であり;厚み方向位相差Rth(550)が-10nm~10nm、好ましくは-7nm~7nm、より好ましくは-5nm~5nmであることをいう。別の実施形態においては、内側保護層は、任意の適切な位相差値を有する位相差層である。この場合、位相差層の面内位相差Re(550)は、例えば120nm~160nmである。「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差であり、式:Re=(nx-ny)×dにより求められる。「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向位相差であり、式:Re=(nx-nz)×dにより求められる。ここで、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率であり、「d」は層(フィルム)の厚み(nm)である。
【0038】
C.画像表示装置
上記A項に記載の偏光子または上記B項に記載の偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、そのような偏光子または偏光板を含む画像表示装置もまた、本発明の実施形態に包含され得る。画像表示装置としては、代表的には、液晶表示装置、有機エレクトロルミネセンス(EL)表示装置、無機EL表示装置が挙げられる。
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例における各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
【0040】
(1)厚み
実施例で得られた偏光子を切削し、偏光板断面を走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製 「JSM7100F」)を用いて観察し、寸法変化抑制層の厚みを測定した。偏光子本体の厚みについては、干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD-3000」)を用いて測定した。
【0041】
(2)偏光子の収縮率
実施例および比較例で得られた偏光子を加熱TMA試験に供した。具体的には以下のとおりである:偏光子を20mm(吸収軸方向)×4mm(透過軸方向)にカットして測定サンプルとした。熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、型番「TMA7100」)を用いて、測定サンプルを30℃から120℃まで昇温して再度30℃に冷却することを3サイクル繰り返した後、測定サンプルの長さ方向(吸収軸方向)における寸法変化率(収縮率)を測定した。なお、昇温速度は5℃/minとし、各温度での保持時間は10分とした。
昇温温度を120℃から80℃に変更したこと以外は上記と同様にして、測定サンプルの幅方向(透過軸方向)における寸法変化率(収縮率)を測定した。
【0042】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が所望の値となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。
このようにして、樹脂基材上に厚み約5μmの偏光子を形成し、樹脂基材/偏光子の積層体を得た。偏光子の単体透過率Tsは43.3%であった。
【0043】
得られた積層体の偏光子表面に、バーコーターによりアルミナコロイド溶液(川研ファインケミカル社製、商品名「アルミナゾル-F1000」)を塗布した。塗布膜は自発的にゲル化し、ゲル化層としての寸法変化抑制層を形成した。寸法変化抑制層の厚みは146nmであった。寸法変化抑制層が形成された偏光子の収縮率を上記(2)のようにして測定した。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
実施例1で得られた樹脂基材/偏光子の積層体をそのまま(すなわち、寸法変化抑制層を形成することなく)、上記(2)の収縮率の測定に供した。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
厚み30μmのポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルム(クラレ製、製品名「PE3000」)の長尺ロールを、ロール延伸機により長手方向に5.9倍になるように長手方向に一軸延伸しながら同時に膨潤、染色、架橋、洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μmの偏光子を作製した。
具体的には、膨潤処理は20℃の純水で処理しながら2.2倍に延伸した。次いで、染色処理は得られる偏光子の単体透過率が45.0%になるようにヨウ素濃度が調整されたヨウ素とヨウ化カリウムの重量比が1:7である30℃の水溶液中において処理しながら1.4倍に延伸した。更に、架橋処理は、2段階の架橋処理を採用し、1段階目の架橋処理は40℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.2倍に延伸した。1段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は5.0重量%で、ヨウ化カリウム含有量は3.0重量%とした。2段階目の架橋処理は65℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.6倍に延伸した。2段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は4.3重量%で、ヨウ化カリウム含有量は5.0重量%とした。また、洗浄処理は、20℃のヨウ化カリウム水溶液で処理した。洗浄処理の水溶液のヨウ化カリウム含有量は2.6重量%とした。最後に、乾燥処理は70℃で5分間乾燥させて偏光子を得た。
【0046】
得られた偏光子表面に、バーコーターによりアルミナコロイド溶液(川研ファインケミカル社製、商品名「アルミナゾル-F1000」)を塗布した。塗布膜は自発的にゲル化し、ゲル化層としての寸法変化抑制層を形成した。寸法変化抑制層の厚みは62.5nmであった。寸法変化抑制層が形成された偏光子の収縮率を上記(2)のようにして測定した。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例2]
実施例2で得られた偏光子をそのまま(すなわち、寸法変化抑制層を形成することなく)、上記(2)の収縮率の測定に供した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から明らかなように、本発明の実施例の偏光子は、高温環境下における寸法変化(熱収縮)が抑制されている。特に、透過軸方向の寸法変化が良好に抑制されている。また、寸法変化抑制の効果は、寸法変化抑制層の厚みが大きい方が顕著であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の実施形態による偏光子および偏光板は、画像表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0051】
10 偏光子
11 偏光子本体
12 寸法変化抑制層
20 第1の保護層
30 第2の保護層
100 偏光板
図1
図2