(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143338
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリマーの付着量の評価方法、およびポリマー付き基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N21/3563
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055960
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中木 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】福谷 実希
(72)【発明者】
【氏名】林 恭平
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB08
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059MM01
2G059MM04
2G059MM12
2G059MM17
(57)【要約】
【課題】基材に付着したポリマーの付着量の定量が可能な評価方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリマー付着量の評価方法は、基材の表面の少なくとも一部に、分子内に1種または2種以上の官能基を有するポリマーが形成されたポリマー付き基材において、赤外分光法を用いて、ポリマーの付着量を定量する定量工程を含み、定量工程は、赤外分光法により得られたポリマー付き基材における赤外吸収スペクトル(AS)から、ポリマー中の官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(S)を算出し、当該ピーク面積(S)に基づいてポリマーの付着量(W)を定量するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面の少なくとも一部に、分子内に1種または2種以上の官能基を有するポリマーが形成されたポリマー付き基材において、赤外分光法を用いて、前記ポリマーの付着量を定量する定量工程を含み、
前記定量工程は、赤外分光法により得られた前記ポリマー付き基材における赤外吸収スペクトル(AS)から、前記ポリマー中の前記官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(S)を算出し、当該ピーク面積(S)に基づいて前記ポリマーの付着量(W)を定量する、ポリマーの付着量の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、前記ポリマーの付着量(w)と前記官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(s)との相関関係を示す検量線を用いて、前記ポリマー中の前記官能基の1種に由来する前記ピーク面積(S)から前記ポリマーの付着量(W)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、前記基材由来のピーク強度を用いて規格化した前記赤外吸収スペクトル(AS)から、前記ピーク面積(S)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、波形分離処理した前記赤外吸収スペクトル(AS)から、前記ピーク面積(S)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、前記基材由来の芳香環の倍音の吸収ピークのピーク強度を用いて前記赤外吸収スペクトル(AS)を規格化し、規格化した前記赤外吸収スペクトル(AS)から、C=O吸収を有する前記官能基に由来する前記ピーク面積(S)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記基材が、有機粒子または無機粒子である、ポリマー付着量の評価方法。
【請求項7】
ポリマー付き基材の製造方法であって、
基材の表面の少なくとも一部にポリマーを形成する、表面改質工程と、
請求項1または2に記載のポリマー付着量の評価方法に基づいて、前記ポリマーの付着量が所定範囲にあることを判断する品質判断工程と、を含む、
ポリマー付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの付着量の評価方法、およびポリマー付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで赤外分光法を用いてポリマーに関する評価方法について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、ポリマー試験片表面の薬品の厚みを評価する、及び/又は、該ポリマー試験片表面の変色度合いを評価することを特徴とする評価方法が記載されている(特許文献1の表1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のポリマーの評価方法では、基材に付着したポリマーの付着量を定量する方法について具体的に検討がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、赤外分光法を用いて測定されるポリマー付き基材の赤外吸収スペクトル(AS)には、基材を構成する材料由来の吸収ピークの他に、ポリマーが分子内に有する官能基の少なくとも1種に由来する吸収ピークも検出されることを見出した。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、赤外分光法を用いて測定されるポリマー付き基材の赤外吸収スペクトル(AS)において、ポリマーが分子内に有する官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(S)と、基材に付着するポリマーの付着量(W)とが、相関関係にあることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下のポリマーの付着量の評価方法、およびポリマー付き基材の製造方法が提供される。
1. 基材の表面の少なくとも一部に、分子内に1種または2種以上の官能基を有するポリマーが形成されたポリマー付き基材において、赤外分光法を用いて、前記ポリマーの付着量を定量する定量工程を含み、
前記定量工程は、赤外分光法により得られた前記ポリマー付き基材における赤外吸収スペクトル(AS)から、前記ポリマー中の前記官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(S)を算出し、当該ピーク面積(S)に基づいて前記ポリマーの付着量(W)を定量する、ポリマーの付着量の評価方法。
2. 1.に記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、前記ポリマーの付着量(w)と前記官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(s)との相関関係を示す検量線を用いて、前記ポリマー中の前記官能基の1種に由来する前記ピーク面積(S)から前記ポリマーの付着量(W)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
3. 1.または2.に記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、前記基材由来のピーク強度を用いて規格化した前記赤外吸収スペクトル(AS)から、前記ピーク面積(S)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、波形分離処理した前記赤外吸収スペクトル(AS)から、前記ピーク面積(S)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記定量工程において、前記基材由来の芳香環の倍音の吸収ピークのピーク強度を用いて前記赤外吸収スペクトル(AS)を規格化し、規格化した前記赤外吸収スペクトル(AS)から、C=O吸収を有する前記官能基に由来する前記ピーク面積(S)を算出する、ポリマー付着量の評価方法。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載のポリマー付着量の評価方法であって、
前記基材が、有機粒子または無機粒子である、ポリマー付着量の評価方法。
7. ポリマー付き基材の製造方法であって、
基材の表面の少なくとも一部にポリマーを形成する、表面改質工程と、
1.~6.のいずれか一つに記載のポリマー付着量の評価方法に基づいて、前記ポリマーの付着量が所定範囲にあることを判断する品質判断工程と、を含む、
ポリマー付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材に付着したポリマーの付着量の定量が可能な評価方法、それを用いたポリマー付き基材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】基材単体サンプルの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図2】FT-IR測定用サンプルの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図3】ポリマー濃度とポリマー由来の各官能基の吸収ピークに対応するピーク面積との関係を示す図である。
【
図4】ポリマーの付着量を算出するための検量線を示す図である。
【0009】
本実施形態のポリマー付着量の評価方法の概要を説明する。
【0010】
本実施形態のポリマー付着量の評価方法は、赤外分光法を用いて、基材の表面の少なくとも一部に、分子内に1種または2種以上の官能基を有するポリマーが形成されたポリマー付き基材において、ポリマーの付着量を定量する定量工程を含むものである。この定量工程において、赤外分光法により得られたポリマー付き基材における赤外吸収スペクトル(AS)から、ポリマー中の官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(S)を算出し、そのピーク面積(S)に基づいてポリマーの付着量(W)を定量する。
【0011】
本発明者の知見によれば、赤外分光法を用いて測定されるポリマー付き基材の赤外吸収スペクトル(AS)において、ポリマーが分子内に有する官能基の1種に由来する吸収ピークのピーク面積(S)と、基材に付着するポリマーの付着量(W)とが、相関関係にあることが見出された。したがって、ポリマーの付着量(W)を、ポリマー中の官能基由来の吸収ピークのピーク面積(S)という指標により定量化できる。
【0012】
また、ポリマーの付着量が異なる複数サンプルを用いて、ポリマーの官能基由来の吸収ピークのピーク面積(s)とポリマーの付着量(w)との相関関係を示す検量線を作成する。かかる検量線を利用することにより、ポリマー付き基材中における未知のポリマーの付着量(W)を、ポリマー質量という指標により定量することが可能となる。なお、この指標は、ポリマー質量に限らず、ポリマー質量をポリマー分子量または基材質量で除した指標など、ポリマー質量を変形した指標であっても活用できる。
【0013】
また、波形分離手法を用いることにより、赤外分光法を用いて測定されるポリマー付き基材の赤外吸収スペクトル(AS)から、ポリマーの官能基由来の吸収ピークに対応するピーク面積(S)を安定的に取得することが可能になる。このため、ポリマー付着量の評価方法において、測定バラツキが抑制されるため、測定安定性を高められる。なお、この手法は上記の検量線の作成時にも活用できる。
【0014】
以下、本実施形態のポリマー付着量の評価方法の各構成を詳述する。
【0015】
基材は、その表面の少なくとも一部または全面にポリマーが被覆されたものでもよく、ポリマーの足場となるベース(支持体)であれば特に限定されない。
【0016】
基材の形状は、とくに限定されないが、球状、板状、または用途に応じた各種形状のいずれでもよい。基材が球状の場合、真球状、真球状以外の略球状、楕円状等でもよい。
また、基材の表面は、少なくとも一部が、平滑面でもよく、例えば凹凸などの非平滑面で構成されてもよい。
【0017】
基材の材料は、とくに限定されないが、有機材料および無機材料の少なくとも一方が用いられる。この場合、基材は、有機粒子および無機粒子のいずれか一方で構成されたコア粒子であってもよい。
【0018】
有機材料として、例えば、有機高分子が用いられる。
有機高分子として、例えば、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、(メタ)アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート、シリコンラバー等の合成樹脂、ニトロセルロース、セルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、フェノール樹脂、ポリ乳酸、ポリエチレン、メラミンフェノール等、これらの1種を主成分とする共重合体(例えば、スチレンを主成分とする共重合体)、または、これらの2種以上を含む共重合体等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
無機粒子は、無機物で構成された粒子を用いることができる。
無機物として、たとえば、金属、セラミック、ガラス等の無機材料が挙げられる。無機物の具体例は、例えば、シリカ等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、無機物として、磁性を有する無機材料を使用してもよい。
このように無機粒子として、非磁性粒子または磁性粒子を用いてもよい。
【0020】
ここで、本実施形態のポリマー付着量の評価方法について、ラテックス粒子を基材に使用した例を用いて説明する。
ラテックス粒子とは、ポリスチレンなどの有機高分子で構成されたコア粒子である。つまり、本実施形態の評価方法では、ラテックス粒子の表面にポリマーが形成されたポリマー付き基材において、ポリマーの付着量を定量化できる。ただし、基材は、ラテックス粒子に限定されるものではない。
【0021】
ポリマー付着量の評価方法の一形態では、ポリマー中の所定の官能基由来する吸収ピークのピーク面積(s)とポリマーの付着量(w)と相関関係を示す検量線(以下、「検量線(sw)」と呼称する)を用いて、赤外分光法により得られたポリマー中の官能基に由来するピーク面積(S)に基づいて、ポリマー付き基材におけるポリマーの付着量(W)を算出する、定量工程を含む。
【0022】
まず、検量線(sw)を準備する手順を説明する。
検量線(sw)は、ポリマーの付着量(w)が異なるポリマー付き基材のn個の複数サンプルを用いて、例えば、下記の工程iおよび工程iiに沿って作成できる(ただし、nは、2以上の自然数であれば特に限定されないが、3個以上でもよく、5個以上でもよい)。
・工程i:赤外分光法により、複数サンプルに対応する複数の赤外吸収スペクトルデータ(as1、as2、・・・asn)を得る。
・工程ii:得られた複数の赤外吸収スペクトルデータのそれぞれにおいて、ポリマー中の所定の官能基(f1)由来する吸収ピークに対する複数のピーク面積データ(s1、s2、・・・sn)を取得する。
・工程iii:複数のピーク面積データ(s1、s2、・・・sn)と、複数のポリマーの付着量データ(w1、w2、・・・wn)、との相関関係に基づいて、上記の検量線(sw)を作成する。
【0023】
(検量線作成工程i)
上記赤外分光法には、フーリエ変換赤外線分光法(FIIR)に用いることができる。
赤外分光法に用いる測定試料(複数サンプル)の調整(前処理)は、とくに限定されず、錠剤法やプレート法等の透過法またはATR法等の反射法による公知の固体試料の作製手法を活用できる。
スペクトル精度の観点から、錠剤法が好ましい。錠剤法には、圧力を受けると赤外領域で透明になる性質を用いる材料が使用でき、例えば、臭化カリウム(KBr)などのハロゲン化アルカリを使用できる。
【0024】
KBr錠剤法による測定試料の作製手順は、以下に示すが、これに限定されない。
まず、ラテックス粒子の分散液を所定温度で真空乾燥させ、基材単体サンプルを得る。例えば、10質量%のラテックス粒子の水分散液を10μL、乳鉢に入れ、40℃、オーバーナイトで真空乾燥させる。
続いて、ポリマーを含むポリマー溶液を、(ポリマーの質量/基材単体サンプルの質量)×100で表されるポリマー濃度が、w1(質量%)、w2(質量%)、・・・wn(質量%)となるように基材単体サンプルに添加し、溶媒を揮発させて、複数の複合サンプルを得る。例えば、ポリマーのメタノール溶液を、ポリマー濃度が0、1、5、10、15、・・・20質量%等となるように基材単体サンプルに滴下し、常温でメタノールを揮発させて、複数の複合サンプルを得る。
続いて、KBr錠剤法により、ポリマー濃度が異なる複数サンプル(固体の測定試料)を作製する。KBr錠剤法では、例えば、KBr粉末と複合サンプルとを混合し、加圧することにより、ポリマー濃度が異なる複数の錠剤(複数サンプル)を得る。
なお、KBr錠剤法による測定試料を使用する場合、赤外吸収スペクトルの測定前に、KBr単体を用いてバックグランド測定しておくと良い。
【0025】
(検量線作成工程ii)
本実施形態では、赤外分光法により取得されたサンプルの赤外吸収スペクトル(as)に対して、波形分離処理を施すことが好ましい。これにより、ポリマーの官能基由来の吸収ピークに対応するピーク面積(s)を安定的に取得することが可能になる。
【0026】
波形分離処理は、概ね、基材由来の所定の吸収ピークを用いて、赤外吸収スペクトル(as)を規格化すること、その後、ポリマーの官能基由来の吸収を用いて規格化された赤外吸収スペクトル(as)を波形分離すること、により行われる。
【0027】
波形分離処理の具体例として、次の手順1~4に基づく方法がある。ただし、この手順に限定される訳ではない。
・手順1:基材由来の所定の吸収ピークを用いて、赤外吸収スペクトル(as)におけるピーク強度を規格化する。
・手順2:必要に応じて、赤外吸収スペクトル(as)から、基材単体の赤外吸収スペクトル(ピーク面積)を差し引く。ただし、使用する基材単体の赤外吸収スペクトルについても、基材由来の所定の吸収ピークを用いて、予め規格化しておく。
・手順3:ポリマーの官能基由来の吸収を用いて、規格化された赤外吸収スペクトル(as)を波形分離する
・手順4:波形分離後、ポリマーの官能基(f)由来の吸収ピークに対応するピーク面積(s)を取得する。
なお、測定された赤外吸収スペクトルについては、例えば1400~2000cm-1等の測定波数域においてベースが水平となるようにベースライン補正をしたものを使用できる。
【0028】
上記手順1では、検量線作成工程iで得られたサンプルの赤外吸収スペクトル(as)のピーク強度を規格化する処理を行う。規格化の基準には、基材由来の所定の吸収ピークを活用できるが、基材が有機材料(ラテックス粒子など)の場合、例えば、芳香環の倍音の吸収ピークを用いることができる。また、基材が無機材料の場合、例えば、SiO2、TiO2、Al2O3、Fe2O3、Fe3O4、MgO、ZnO、ZrO2、CuOなどの酸化物由来の吸収ピークを用いてもよい。
【0029】
上記手順2では、手順3で使用するポリマーの官能基由来の吸収ピーク中に、基材由来の吸収ピークが重複または一部重複する場合、予め、赤外吸収スペクトル(as)から、基材単体の赤外吸収スペクトル(ピーク面積)を差し引くことが好ましい。ただし、重複が見られない場合や重複が許容できる程度に微小の場合には、手順2を実施しなくても構わない。
なお、基材単体の赤外吸収スペクトルについては、検量線作成工程iで説明したKBr錠剤法の測定試料として、基材単体(例えば、ラテックス粒子)を使用することにより得られる。また、基材が有機材料の場合、使用する基材単体の赤外吸収スペクトルについては、芳香環の倍音の吸収ピークを用いて、規格化しておく。
【0030】
上記手順3では、規格化された赤外吸収スペクトル(as)について波形分離処理を行う。
ポリマーの官能基由来の吸収として、ピークが観察できるものであればとくに限定されないが、例えば、C=O、CH、C=C、COC、NH、CN、NO2、SO2等が挙げられる。この中でも、少量でも明瞭に観察できる点で、強い吸収を持つC=Oの吸収を用いるのが好ましい。
また、基材由来の芳香環吸収がC=Oに重複する部分に存在することを考慮して、基材由来の芳香環吸収を基材単体の波形分離結果で得たピーク(中心位置、半値幅、高さ)で固定して、C=O吸収を有する各種の官能基(不飽和エステル基、飽和エステル基、カルボン酸基、環状無水物基等)由来のピークを、それぞれ、ガウス関数でフィッティングすること(波形分離処理)が好ましい。ガウス関数以外にも、ローレンツ関数、またはフォークト関数等によりフィッティングしてもよい。
なお、基材が有機材料の場合、基材単体の波形分離結果で得たピークとは、規格化後における基材単体の赤外吸収スペクトルを、ガウス関数等の同様の手法によりフィッティングしたもののうち、芳香族の倍音に対応するピークを意味する。
【0031】
上記手順4では、波形分離後、ポリマーの官能基(f)由来の吸収ピークに対応するピーク面積(s)を取得する。
C=Oを有するポリマーの官能基(f1~f4)としては、例えば、不飽和エステル基、飽和エステル基、カルボン酸基、環状無水物基(無水マレイン酸基)等が挙げられる。いずれの官能基においても、ピーク面積(s)を取得できる。
【0032】
(検量線作成工程iii)
検量線(sw)として、検量線作成工程iiで取得されたピーク面積(s)と、ポリマーの付着量(w)との相関関係を表す近似線を作成する。
近似線とは、単調関係を表すものであればよく、例えば、線形関数、2次または3次関数、指数関数、対数関数等のいずれでもよい。
例えば、複数のピーク面積データと複数のポリマーの付着量データとを表す複数のプロットを、最小自乗法などの公知の手法を用いて近似して得られた、近似直線を検量線(sw)として利用できる。
【0033】
なお、複数のポリマーの付着量データ(w1、w2、・・・wn)は、例えば、複数サンプルのそれぞれに対応する仕込み量を用いて算出できる。ポリマーが全て基材表面に反応して付着した場合には、仕込み量をポリマーの付着量と考えてよい。また、ポリマーと基材との反応液から残存したポリマーの残存量を取得し、ポリマー付着量を、仕込み量から残存量を差し引きした値としてもよい。
ここで、ポリマー付着量は、ポリマーを乾燥させた状態で測定した乾燥質量(g)を採用できる。
【0034】
検量線作成工程iiiで作成された検量線(sw)について、発明者が検討したところ、不飽和エステル基、飽和エステル基、カルボン酸基、環状無水物基(無水マレイン酸基)のいずれの場合も、ピーク面積(s)とポリマーの付着量(w)とが比例関係を示す近似直線が得られることが分かった。
さらに検討した結果、基材にラテックス粒子を使用した場合、飽和エステル基、カルボン酸基は、ポリマー以外の吸収と重複する部分があること、無水マレイン酸基は水中で開環するため経時変化する恐れがあることを考慮すると、精度や安定性の観点から、C=Oを有するポリマーの官能基(f)には、不飽和エステル基(f1)を用いることが好ましいことが判明した。
【0035】
次に、予め準備した上述の検量線(sw)を用いて、赤外分光法により得られたポリマー中の官能基(f)に由来するピーク面積(S)に基づいて、ポリマー付き基材におけるポリマーの付着量(W)を算出する。
【0036】
ポリマー中の官能基(f)に由来するピーク面積(S)の取得には、上述のピーク面積(s)の取得で使用した方法と同様の方法が採用できる。
具体的な方法の一例は、以下の通り。ただし、これに限定されない。
まず、KBr錠剤法により測定試料を作製し、フーリエ変換赤外線分光法(FIIR)によりポリマー付き基材における赤外吸収スペクトル(AS)する。
続いて、基材由来の所定の吸収ピークを用いて、赤外吸収スペクトル(AS)を規格化する。
続いて、規格化された赤外吸収スペクトル(AS)から、ポリマー中の官能基(f)に由来するピーク面積(S)を取得する。
ポリマー中の官能基(f)には、精度や安定性の観点から、C=Oを有するポリマーの官能基(f)には、不飽和エステル基を用いてもよい。
必要に応じて、規格化された赤外吸収スペクトル(AS)から、基材単体の赤外吸収スペクトル(ピーク面積)を差し引いてもよい。
また、赤外吸収スペクトル(AS)に対して、上述のように、ガウス関数で波形分離処理を施してもよい。
【0037】
以上により得られたポリマー中の官能基(f)に由来するピーク面積(S)を、検量線(sw)に代入することにより、ポリマー付き基材におけるポリマーの付着量(W)を算出できる。
【0038】
本実施形態のポリマー付き基材の製造方法は、基材の表面の少なくとも一部にポリマーを形成する、表面改質工程と、上述のポリマー付着量の評価方法に基づいて、ポリマーの付着量が所定範囲にあることを判断する品質判断工程と、を含むものである。
【0039】
上記のポリマー付き基材は、一例として、凝集法による標的物質の検出に用いる凝集法用粒子として使用することが可能である。
凝集法とは、分散媒中で、標的物質(例えば、抗原)を含む試料と、標的物質を特異的に認識(結合)するリガンド(例えば、抗体)を担持するポリマー付き基材とを接触させ、標的物質にリガンドを結合させ、標的物質とリガンドとポリマー付き粒子と複合体を形成させ、ポリマー付き基材を選択的に凝集させる方法である。
凝集法の一つである免疫凝集法(免疫比濁法ともいう)は、抗原抗体反応を利用して、ポリマー付き基材が表面に備える抗体に抗原を反応させ、ポリマー付き基材を凝集させる。
凝集法を用いた標的物質の検出方法では、ポリマー付き基材の凝集度合について、吸光度、散乱光強度、透過光強度等の光学的測定法により、有無の特性や定量できる。
このような凝集法に用いるポリマー付き基材は、体外診断薬等に好適に用いることが可能である。
ただし、原料であるラテックス粒子のロット変更毎にリガンド(抗体)の固定化条件を検討する必要があった。その理由として、ラテックス粒子表面がロット毎に変わることが予想されている。
そこで、ポリマー付き基材の製造方法において、上記のポリマー付着量の評価方法に基づく品質判断工程を行うことにより、粒子の表面状態として、ポリマー付着量を所定の範囲内とすることができるため、ポリマー付き基材のロット間バラツキを抑制できる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0041】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0042】
<ポリマーの合成>
ノルボルネンと無水マレイン酸とを、所定の仕込み比で、アゾ化合物(重合開始剤)を用いて、ラジカル重合により反応させることにより、ポリマー前駆体Aを得た。続いて、下記の機能性基1~3を有する各種の機能性モノマーを、所定の仕込み比で、機能性モノマー中のアルコールで開環反応させ、各ポリマー前駆体Aの側鎖(開環した無水マレイン酸基)に導入した後、ヘキサン、もしくは、ジエチルエーテルで再沈殿処理を施し、無水マレイン酸系ポリマー(表1に示すポリマーA1~A4)を得た。
【0043】
【0044】
【0045】
<検量線の準備>
(1)FT-IR測定用サンプルの作成
ラテックス粒子の分散液(ポリスチレンラテックス粒子、JSR製、商品名:IMMUNTEX、平均粒子径:351nm、固形分:10質量%)を10μL、乳鉢に入れ、40℃、オーバーナイトで真空乾燥させ、「基材単体サンプル」を得た。
続いて、上記で合成したポリマーA1を含むメタノール溶液を、ポリマー濃度が0、1、2.5、5、7.1、8.5、10、11.5、12.5、13、15、17.5、20質量%となるように、上記の基材単体サンプルに添加させ、常温でメタノールを揮発されて、ポリマー濃度が異なる複数の「複合サンプル」を得た。
ただし、ポリマー濃度は、(ポリマーの質量/基材単体サンプルの質量)×100から算出した。
続いて、KBr粉末と複合サンプルとを混合し、加圧することにより、ポリマー濃度が異なる複数の錠剤(FT-IR測定用サンプル)を作成した。
【0046】
(ii)FI-IRの測定
フーリエ変換赤外線分光光度計(日本分光社製、製品名:FT-IR6100)を用いて、上記で得られた複数のFT-IR測定用サンプルに対して、下記の手順1~4に従って、赤外吸収スペクトル(as)を取得した。
得られた赤外吸収スペクトル(as)に基づいて、ポリマーの官能基由来の吸収ピークに対応するピーク面積(s)を取得した。
【0047】
・手順1:ラテックス粒子(基材)由来の芳香環の倍音の吸収ピークを用いて、各FT-IR測定用サンプルの赤外吸収スペクトル(as)におけるピーク強度を規格化した。
【0048】
・手順2:各FT-IR測定用サンプルの赤外吸収スペクトル(as)から、ラテックス粒子(基材単体)の赤外吸収スペクトル(ピーク面積)を差し引いた。ただし、使用する基材単体の赤外吸収スペクトルについては、KBr錠剤法を用いて測定サンプルを準備し、芳香環の倍音の吸収ピークを用いて、ピーク強度を予め規格化したものを使用した。
ただし、測定された赤外吸収スペクトルについては、1400~2000cm
-1等の測定波数域においてベースが水平となるようにベースライン補正をしたものを使用した。また、赤外吸収スペクトルの測定前に、KBr単体を用いてバックグランド測定した。
ここで、ラテックス粒子(基材単体)の赤外吸収スペクトルを
図1に示し、FT-IR測定用サンプルの一つの赤外吸収スペクトル(as)を
図2に示す。
【0049】
・手順3:ラテックス粒子(基材単体)芳香環吸収がC=Oに重複する部分に存在することを考慮して、基材由来の芳香環吸収を基材単体の波形分離結果で得たピーク(中心位置、半値幅、高さ)で固定して、C=O吸収を有する各種の官能基(不飽和エステル基、飽和エステル基、カルボン酸基、環状無水物基等)由来のピークを、それぞれ、ガウス関数でフィッティングした(波形分離処理)。ただし、基材単体の波形分離結果で得たピークとは、規格化後における基材単体の赤外吸収スペクトルを、ガウス関数でフィッティングしたもののうち、芳香族の倍音に対応するピークを意味する。
【0050】
・手順4:波形分離処理後、C=Oを有するポリマーの官能基(f1~f4)として、不飽和エステル基、飽和エステル基、カルボン酸基、環状無水物基(無水マレイン酸基)における、ピーク面積(s)を取得した。
【0051】
以上の手順1~4に基づくFT-IR測定により、複数のFT-IR測定用サンプル(ポリマーA1および基材を含むサンプル)のそれぞれにおいて、ポリマーA由来の各官能基(不飽和エステル基、飽和エステル基、カルボン酸基、環状無水物基)の吸収ピークに対応するピーク面積(s)を取得した。
【0052】
(iii)検量線の作成
横軸にポリマー濃度、縦軸に不飽和エステル基、飽和エステル基、カルボン酸基、環状無水物基の吸収ピークに対応するピーク面積をプロットした。ポリマー濃度とポリマー由来の各官能基の吸収ピークに対応するピーク面積との関係を
図3に示す。
図3より、上記4つの官能基のいずれも、ポリマー濃度とピーク面積とが比例関係を示すことが示された。この中でも、測定安定性の観点から、不飽和エステル基におけるポリマー濃度とピーク面積とが比例関係を用いて、最小自乗法により、検量線を作成した。ポリマーの付着量を算出するための検量線を
図4に示す。
【0053】
上記で準備した検量線に基づいて、ポリマー濃度=(ポリマーの質量/基材単体サンプルの質量)×100という式を変形して、ピーク面積(s)を変数とし、「ラテックス粒子(基材)100mgに対するポリマーの付着量(mg)」を算出する関数を導出した。
以降、ポリマー付き基材の赤外吸収スペクトル(AS)を測定し、不飽和エステル基等のポリマーの官能基の吸収ピークに対応するピーク面積(S)を算出し、その値を上記の式に導入することで、不飽和エステル基のポリマーの付着量を定量することが可能となった。
【0054】
<ポリマー付き基材におけるポリマーの付着量の定量>
(他のポリマーA2~A4の検量線の準備)
また、上記のポリマーA2~A4を用いて、ポリマーA1と同様にして、FT-IR測定用サンプルを準備して、不飽和エステル基の吸収ピークのピーク面積(s)を利用して検量線を作成し、検量線から、ポリマーの付着量を算出する関数をそれぞれ導出した。
【0055】
(ポリマー付き基材の準備)
上記で使用したラテックス粒子の分散液にジアミンを混合して、ポリスチレンラテックス粒子のカルボキシ基に、ジアミンと反応させて、第一級アミノ基を導入し、精製した(アミノ処理)。
続いて、第一級アミノ基を有するポリスチレンラテックス粒子を含む溶液に、上記のポリマーA1~A4の仕込み量を振って、所定の混合割合で混合して、第一級アミノ基と無水マレイン酸基とを反応させ、精製し、表面にポリマーが導入されたコア粒子(ポリマー付き基材)を含む分散液を得た(ポリマー導入処理)。
得られた各ポリマー付き基材について、上記の<検量線の準備>の手順に従って、赤外吸収スペクトル(AS)を取得し、不飽和エステル基の吸収ピークに対応するピーク面積(S)を算出した。このピーク面積(S)は、各ポリマーA1~A4において、仕込み量毎に算出した。
【0056】
上記で導出された関数に、得られたピーク面積(S)を導入して、ポリマーの付着量を求めた。
そして、関数から算出されたポリマーの付着量と、上記(ポリマー付き基材の準備)における仕込みのポリマー量との関係について評価した結果、ポリマーA1~A4のいずれの場合においても、両者の間に相関関係があることを確認できた。したがって、実施例の手法によりポリマーの付着量を定量できることが確認された。