(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014334
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/06 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B29D30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117080
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 昂平
【テーマコード(参考)】
4F215
【Fターム(参考)】
4F215AA45A
4F215AH20
4F215VC03
4F215VP41
(57)【要約】
【課題】タイヤに形成されるシーラント層の凹凸を低減可能な空気入りタイヤの製造方法及び空気入りタイヤの製造装置を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤの製造方法は、タイヤの内面に向けたノズルをタイヤの軸心回りに相対的に回転させながら、ノズルの吐出口から吐出される帯状のシーラント材をタイヤの内面に塗布してタイヤの内面にシーラント層を形成することを含む。吐出口は、ノズルの進行方向の前側に位置する第1辺と、ノズルの進行方向の後側に位置する第2辺と、を有する。第1辺及び第2辺の少なくとも一方は、吐出口の内側に突出するくびれを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの内面に向けたノズルを前記タイヤの軸心回りに相対的に回転させながら、前記ノズルの吐出口から吐出される帯状のシーラント材を前記タイヤの内面に塗布して前記タイヤの内面にシーラント層を形成すること、
を含み、
前記吐出口は、前記ノズルの進行方向の前側に位置する第1辺と、前記ノズルの進行方向の後側に位置する第2辺と、を有し、
前記第1辺及び前記第2辺の少なくとも一方は、前記吐出口の内側に突出するくびれを有する、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記吐出口は、第1角部、第2角部、第3角部、第4角部、第3辺及び第4辺を有し、
前記第1辺は、前記第1角部と前記第2角部とを接続する第1直線または前記第1直線よりも前記吐出口の内側に突出する辺であり、
前記第2辺は、前記第3角部と前記第4角部とを接続する第2直線または前記第2直線よりも前記吐出口の内側に突出する辺であり、
前記第3辺は、前記第1角部と前記第3角部とを接続する第3直線または前記第3直線よりも前記吐出口の内側に突出する辺であり、
前記第4辺は、前記第2角部と前記第4角部とを接続する第4直線または前記第4直線よりも前記吐出口の内側に突出する辺である、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記第3辺及び前記第4辺のうち少なくとも一方は、前記吐出口の内側に突出するくびれを有する、請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記吐出口は、前記ノズルの進行方向の長さが前記進行方向に直交する直交方向の長さよりも短い扁平形状である、請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記第1辺の前記進行方向に直交する直交方向の長さは、前記第2辺の前記直交方向の長さよりも短い、請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
タイヤを支持する支持装置と、
帯状のシーラント材を吐出口から吐出可能なノズルと、を備え、
前記タイヤの内面に向けたノズルを前記タイヤの軸心回りに相対的に回転させながら、前記ノズルの吐出口から吐出される帯状のシーラント材を前記タイヤの内面に塗布することが可能に構成されており、
前記吐出口は、前記ノズルの進行方向の前側に位置する第1辺と、前記ノズルの進行方向の後側に位置する第2辺と、を有し、
前記第1辺及び前記第2辺の少なくとも一方は、前記吐出口の内側に突出するくびれを有する、空気入りタイヤの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パンク防止機能を備えた空気入りタイヤとして、タイヤ内面にシーラント材を塗布してなるシーラント層を備えた空気入りタイヤ(シーラントタイヤとも称される)が知られている。シーラントタイヤでは、パンク時に形成される貫通孔がシーラント材によって自動的に塞がれて、タイヤからの空気の漏れが防止される。
【0003】
特許文献1には、タイヤの内面に螺旋状にシーラント材を塗布することが開示されている。
特許文献2には、タイヤの内面に塗布した帯状のシーラント材の隣に次のシーラント材が粘着されるまでの間にローラで押さえることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/060236号
【特許文献2】特開2020-23152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、ノズルの吐出口から吐出されたシーラント材が幅方向に膨らんでしまうおそれがある。その場合、既に塗布された隣接するシーラント材を側方から押し上げてしまい、タイヤ内面に形成されたシーラント層に凹凸が生じるおそれがある。
特許文献2では、ノズルで塗布したシーラント材をローラで押さえるのは、シーラントが高温であり、ローラに張り付いてタイヤの内面からローラにシーラントが移行してしまうために、実際に利用できる技術とはいいがたい。
【0006】
本開示は、タイヤに形成されるシーラント層の凹凸を低減可能な空気入りタイヤの製造方法及び製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の空気入りタイヤの製造方法は、タイヤの内面に向けたノズルを前記タイヤの軸心回りに相対的に回転させながら、前記ノズルの吐出口から吐出される帯状のシーラント材を前記タイヤの内面に塗布して前記タイヤの内面にシーラント層を形成すること、を含み、前記吐出口は、前記ノズルの進行方向の前側に位置する第1辺と、前記ノズルの進行方向の後側に位置する第2辺と、を有し、前記第1辺及び前記第2辺の少なくとも一方は、前記吐出口の内側に突出するくびれを有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】シーラント層を形成してシーラントタイヤを製造するためのタイヤ製造装置の構成図。
【
図4】シーラント材の塗布構成を説明するためのシーラント層の平面模式図。
【
図5】第1実施形態のノズルがシーラント材を吐出する様子を示す側面図およびノズルの底面図。
【
図6】第2実施形態のノズルがシーラント材を吐出する様子を示す側面図およびノズルの底面図。
【
図7】(a)比較例1のノズルにより塗布したシーラント層の形状を示す図。(b)
図6に示す第2実施形態のノズルにより塗布したシーラント層の形状を示す図。(c)
図5に示す第1実施形態のノズルにより塗布したシーラント層の形状を示す図。
【
図8】(a)及び(b)第2実施形態のノズルによりタイヤ内面上に塗布されたシーラント材の断面形状を示す図。(c)第1実施形態のノズルによりタイヤ内面上に塗布されたシーラント材の断面形状を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ内面に帯状のシーラント材をタイヤ周方向に沿って塗布してなるシーラント層を備えるシーラントタイヤである。タイヤは、いわゆるチューブレスタイヤであり、内部に空気等の気体が充填された状態で使用される。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、タイヤ1を示すタイヤ子午線断面図である。タイヤ1は、路面に接地する環状のトレッド2と、トレッド2のタイヤ径方向RDの内側に位置する左右一対のビード部3,3と、トレッド2とビード部3,3の間に位置する左右一対のサイドウォール4,4とを備える。タイヤ1は、ビード部3に埋設されたビードコア5と、左右のビード部3,3間にトロイダル状に延びるカーカスプライ6と、トレッド2におけるカーカスプライ6の外周側に設けられたベルト7及びトレッドゴム8と、カーカスプライ6のタイヤ内面側に設けられたインナーライナー9と、インナーライナー9のタイヤ内面側に設けられたシーラント層10とを備える。
【0012】
シーラント層10は、タイヤ1の内面1A、詳細にはインナーライナー9の内側に重ねて設けられている。この例では、シーラント層10は、トレッド2におけるタイヤ内面1Aにおいて、タイヤ軸方向ADの一方側の端部から他方側に端部にかけて設けられている。このようにシーラント層10は、トレッド2の内面の全体にわたって設けられることが好ましく、トレッド2の内面のみに設けてもよいが、トレッド2の内面を含むより広い範囲で設けてもよい。すなわち、シーラント層10は、トレッド2の内面を含むタイヤ1の内面1Aに設けられることが好ましい。
【0013】
ここで、タイヤ径方向RDとは、タイヤ回転軸に垂直な方向を示し、タイヤ径方向RDの内側とはタイヤ回転軸に近づく方向をいい、タイヤ径方向RDの外側とはタイヤ回転軸から離れる方向をいう。タイヤ軸方向ADとは、タイヤ幅方向とも称され、タイヤ回転軸に平行な方向である。タイヤ周方向CD(
図4参照)とは、タイヤ回転軸を中心とした円周上の方向である。
【0014】
第1実施形態のタイヤ製造方法では、加硫済のタイヤ1の内面1Aに、帯状のシーラント材11(
図4参照)をタイヤ軸方向ADの一方側から他方側に変位させつつタイヤ周方向CDに沿って連続的に塗布することによりシーラント層10を形成して、シーラント層10を備えるタイヤ1を製造する。
【0015】
加硫済のタイヤを製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。すなわち、ビードコア5やカーカスプライ6、ベルト7とともにトレッドゴム8などのタイヤ構成部材を用いてグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を作製し、得られたグリーンタイヤを加硫成型することにより、加硫済のタイヤが得られる。そして、グリーンタイヤの加硫成型後に、シーラント材11を用いてシーラント層10を形成する。
【0016】
シーラント材11としては、特に限定されず、公知のシーラント材を用いることができる。一般にシーラント材としては、粘着性のあるゴム材料が用いられる。詳細には、例えば、ブチル系ゴム及び/又はエチレンプロピレンジエンゴムをゴム成分とし、これに液状ゴム、可塑剤、充填材、架橋剤(有機過酸化物)及び架橋助剤(加硫促進剤)などを配合したゴム組成物を用いることができるが、これに限定されるものではない。ブチル系ゴムとしては、ブチルゴムの他、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴムなどのハロゲン化ブチルゴムが挙げられる。
【0017】
図2は、シーラント層10を形成してシーラントタイヤを製造するためのタイヤ製造装置20の構成図であり、タイヤ1を切断して示している。タイヤ製造装置20は、タイヤ1を支持する支持装置30と、シーラント材11を吐出する吐出機40と、支持装置30と吐出機40によるシーラント層10の形成動作を制御する不図示の制御部とを備える。
【0018】
支持装置30は、この例では、タイヤ回転軸を水平にした状態でタイヤ1の外周を支持する外周支持部31と、支持したタイヤ1をタイヤ回転軸周りに回転させる駆動装置32とを備える。但し、これに限定されるものではなく、例えば、外周支持部は、タイヤ回転軸を水平方向に対して傾斜させてタイヤの外周を支持するものであってもよい。
【0019】
吐出機40は、シーラント材11を吐出するノズル41と、ノズル41にシーラント材11を供給する供給装置42と、ノズル41を移動させる移動装置43とを備える。
【0020】
供給装置42は、加熱されたシーラント材11を、供給管44を介してノズル41に供給する装置であり、例えばギアポンプのような定容量式ポンプを用いて構成することができる。
【0021】
ノズル41は、供給装置42から供給されたシーラント材11を吐出する部材であり、
図3に示すように、ノズル41の先端にシーラント材11を吐出する吐出口45を有する。ノズル41は、シーラント材11を所定の断面形状に吐出するダイ(口金)であり、吐出口45がノズル41に形成された開口部である。
【0022】
移動装置43は、この例では少なくとも3軸の自由度を有する多軸ロボットで構成されており、そのアーム43Aの先端にノズル41が取り付けられている。移動装置43により、ノズル41はタイヤ1内に配置されて、ノズル41の吐出口45が下方に向けて配置される。
【0023】
図5は、第1実施形態のノズル41がシーラント材11を吐出する様子を示す側面図およびノズル41の底面図である。移動装置43は、
図3及び
図5に示すように吐出口45、即ちノズル41の底面をタイヤ内面1Aに対向配置させた状態で、ノズル41をタイヤ1内で移動させる。吐出口45は、
図5に示すように、ノズル41の進行方向TDの長さH1は、ノズル41の進行方向TDに直交する直交方向DDの長さW2よりも短い扁平形状である。この例の吐出口45は、細長い台形状をベースとする開口部である。本実施形態では、吐出口45の短手方向が進行方向TDと一致しており、吐出口45の短手方向TDに直交する長手方向が直交方向DDと一致している。
【0024】
図5に示すように、吐出口45は、ノズル41の進行方向の前側TD1に位置する第1辺51と、ノズル41の進行方向の後側TD2に位置する第2辺52と、ノズル41の進行方向に直交する直交方向DDの両側に位置する第3辺53及び第4辺54と、第1角部55と、第2角部56と、第3角部57と、第4角部58と、を有する。第1辺51は、第1角部55と第2角部56とを接続する第1直線51s(仮想直線)よりも吐出口45の内側に突出するくびれを有する辺である。くびれは、吐出口45の開口厚みを狭くする。
図5の例では、第1辺51は1つの曲線であり、その曲率半径は8.2mmであるが、これに限定されない。第2辺52は、第3角部57と第4角部58とを接続する第2直線52s(仮想直線)よりも吐出口45の内側に突出するくびれを有する辺である。くびれは、吐出口45の開口厚みを狭くする。
図5の例では、第2辺52は1つの曲線であり、その曲率半径は8.2mmであるが、これに限定されない。第3辺53は、第1角部55と第3角部57とを接続する第3直線53sである。第4辺54は、第2角部56と第4角部58とを接続する第4直線54sである。
本実施形態における各々の角部55,56,57,58は屈曲しているが、多少の丸みを帯びていてもよい。
このように、吐出口45は、台形を含む四角形をベースとする形状であり、各々の辺(第1辺51、第2辺52、第3辺53、第4辺54)が吐出口45の外側に膨らむ形状ではない。よって、シーラント材11のスウェル(膨張)を抑制できる。
【0025】
同図に示すように、直交方向DDにおいて、第1辺51の長さW1は、第2辺52の長さW2よりも短い。W1は、4.0mmであり、W2は9.0mmである。吐出口45の進行方向TDの長さH1は3.28mmである。本実施形態における吐出口45の長手方向DDの最大の長さW2は、9.0mmであるが、特に限定されず、例えば8~20mmであってもよい。吐出口45の短手方向TDの長さH1も特に限定されず、例えば2~5mmでもよい。また、第1角部55は、第3角部57よりも直交方向DDの内側に位置することが好ましい。第2角部56は、第4角部58よりも直交方向DDの内側に位置することが好ましい。
【0026】
第1実施形態では、吐出口45とタイヤ内面1Aとの距離D1は、吐出口45の長手方向DDにおける寸法W2以下に設定されており、この例ではD1=W2に設定されている。移動装置43は、
図3に示すように吐出口45、即ちノズル41の底面をタイヤ内面1Aに対向配置させた状態で、ノズル41をタイヤ1内で移動させる。これにより、後述するように回転する吐出口45の姿勢にかかわらず、吐出口45から吐出されるシーラント材11の厚みを、吐出口45とタイヤ内面1Aとの間隙により規定することが容易になり、上記距離D1に相当する厚みを持つ帯状のシーラント材11をタイヤ内面1A上に形成することができる。
【0027】
このように上記距離D1に相当する厚みを持つシーラント材11をタイヤ内面1Aに形成する場合、例えばギアポンプによりノズル41からの吐出量を制御することが好ましい。詳細には、タイヤ内面1A上に形成されるシーラント材11の厚みは上記距離D1に、当該シーラント材11の幅は吐出口45の長手方向DDの長さW2にそれぞれ対応するので、「距離D1(mm)」と「長さW2(mm)」と「ノズル41に対するタイヤ内面1Aの回転速度(即ち、両者の相対速度)(mm/秒)」との積が「単位時間当たりの吐出量(mm3/秒)」となるように、ギアポンプを制御することが好ましい。
【0028】
ノズル41は、移動装置43により、タイヤ軸方向ADとタイヤ径方向RDに移動する。また、ノズル41は、移動装置43により、タイヤ径方向RDに対する角度が変更可能である。これにより、ノズル41は、トレッド2における湾曲するタイヤ内面1Aに対して吐出口45を対向配置させかつ一定の距離D1を保ちながら、タイヤ軸方向ADに移動可能である。
【0029】
移動装置43には、ノズル41を回転させるノズル回転装置46が設けられている。ノズル回転装置46はアーム43Aの先端に設けられており、ノズル回転装置46を介してノズル41がアーム43Aに取り付けられている。ノズル41を回転させることで、その先端の吐出口45が回転するように構成されている。
【0030】
タイヤ製造装置20を用いてタイヤ1を製造する際には、加硫済のタイヤ1を支持装置30に配置し、吐出機40のノズル41をタイヤ1内に移動させて吐出口45をタイヤ内面1Aに対向配置させる。その際、この例では、シーラント層10をトレッド2の内面において、タイヤ軸方向ADの一方側の端部から他方側に端部にかけて設けるため、ノズル41を当該一方側の端部におけるタイヤ内面1Aに対向させて配置させる。
【0031】
次いで、駆動装置32によりタイヤ1を回転させて、ノズル41をタイヤ周方向CDに沿って相対的に移動させながら、供給装置42によりシーラント材11をノズル41に供給し、ノズル41の吐出口45からシーラント材11を吐出して、タイヤ内面1Aに帯状のシーラント材11をタイヤ周方向CDに沿って塗布する。より詳細には、
図3に示すように、タイヤ内面1Aとこれに対向するノズル41の底面との間隙を通ってタイヤ内面1A上に帯状のシーラント材11が形成される。
【0032】
このようにシーラント材11をタイヤ周方向CDに沿って塗布しながら、移動装置43によりノズル41をタイヤ軸方向ADに次第に移動させる。これにより、吐出口45から吐出されるシーラント材11は、タイヤ軸方向ADの一方側から他方側に変位しつつ、タイヤ周方向CDに沿って連続的に塗布され、タイヤ軸方向ADにおいて隣接するシーラント材11,11間において隙間なく貼り付けられて、シーラント層10が形成される。
【0033】
その際、ノズル41をタイヤ軸方向ADに一定速度で移動させることにより、帯状のシーラント材11をタイヤ周方向CDに対してわずかに傾斜した姿勢で螺旋状に配置されるように塗布(螺旋塗布)してもよい。
【0034】
好ましい実施形態では、
図4に示すように、帯状のシーラント材11をタイヤ周方向CDに平行に塗布し、1周塗布する毎に、タイヤ周方向CDの所定の領域Gにおいて、シーラント材11の幅寸法(吐出口45の長手方向DDにおける寸法W2と略同一)に相当するピッチの送りを与えるようにタイヤ周方向CDに対して傾斜させて塗布することで、平行塗布部12と傾斜塗布部13とを有するように塗布してもよい。この塗布構成をステップ塗布という。
【0035】
図4に示す例では、トレッド2のタイヤ内面1Aにおけるタイヤ軸方向ADの一方側の端部2Aを左側とし、他方側の端部2Bを右側として、当該一方側の端部2Aから他方側の端部2Bにかけて、帯状のシーラント材11をステップ塗布している。該一方側の端部2Aにおけるタイヤ周方向CDの一箇所を塗布開始位置として、シーラント材11の塗り始め端部14を形成し、そこからタイヤ周方向CDに平行に塗布して1周目の平行塗布部12Aを形成し、一周塗布した後、タイヤ軸方向ADの他方側にノズル41を1ピッチ分移動させて1つ目の傾斜塗布部13Aを形成する。次いで2周目の平行塗布部12Bを形成した後、2つ目の傾斜塗布部13Bを形成し、以下これを繰り返して他方側の端部2Bまで至る。そして、他方側の端部2Bにおいて最後の平行塗布部12Yを形成し、直前の傾斜塗布部13Xと合致する位置でシーラント材11の塗り終わり端部15を形成して終端させる。
【0036】
なお、
図4では帯状のシーラント材11の巻き数、即ち平行塗布部12の周回数が7周であるが、シーラント材11の巻き数は、シーラント材11の塗布幅やシーラント層10の形成幅に応じて適宜設定することができる。上記では、螺旋塗布及びステップ塗布を説明したが、これに限定されず、種々の塗布方法が採用可能である。
【0037】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態のノズル41がシーラント材11を吐出する様子を示す側面図およびノズル41の底面図である。
図6に示すように、吐出口45は、ノズル41の進行方向TDの長さH2は、ノズル41の進行方向TDに直交する直交方向DDの長さW2よりも短い扁平形状である。この例の吐出口45は、四角形状をベースとする開口部である。
【0038】
第1辺51は、第1角部55と第2角部56とを接続する第1直線51s(仮想直線)よりも吐出口45の内側に突出するくびれを有する辺である。くびれは、吐出口45の開口厚みを狭くする。
図6の例では、第1辺51は1つの曲線であり、その曲率半径は8.2mmであるが、これに限定されない。第2辺52は、第3角部57と第4角部58とを接続する第2直線52s(仮想直線)よりも吐出口45の内側に突出するくびれを有する辺である。くびれは、吐出口45の開口厚みを狭くする。
図6の例では、第2辺52は1つの曲線であり、その曲率半径は8.2mmであるが、これに限定されない。第3辺53は、第1角部55と第3角部57とを接続する第3直線53sである。第4辺54は、第2角部56と第4角部58とを接続する第4直線54sである。
このように、吐出口45は、台形を含む四角形をベースとする形状であり、各々の辺(第1辺51、第2辺52、第3辺53、第4辺54)が吐出口45の外側に膨らむ形状ではない。よって、シーラント材11のスウェル(膨張)を抑制できる。
【0039】
同図に示すように、直交方向DDにおいて、第1辺51の長さ及び第2辺52の長さW2は同一であり、双方ともW2=9.0mmである。
【0040】
[比較例1の結果]
比較例1のノズルは、図示しないが、底面視で吐出口の形状が直径4.0mmの新円である。
図7(a)は、比較例1のノズルにより塗布したシーラント層10の形状を示す模式図である。比較例1のノズル41の吐出口の形状は、吐出口の外側に膨らむ円形であるため、吐出されたシーラント材のスウェル(膨張)が発生する。よって、タイヤ内面1Aに形成されたシーラント層10の表面には円形の凹凸形状が形成されてしまう。
【0041】
[第2実施形態の結果]
図7(b)は、
図6に示す第2実施形態のノズル41により塗布したシーラント層10の形状を示す模式図である。
図6に示すように吐出口45の第1辺51及び第2辺52にくびれが形成されているため、くびれの無い四角形状の吐出口に比べてスウェル(膨張)が抑制され、吐出直後のシーラント材の断面形状は四角形に近くなる。しかし、
図6の側面図に示すように、吐出口45から吐出されたシーラント材11が進行方向TDの後側TD2へ曲がるために、コーナー内側R1を通るシーラント材の量よりもコーナー外側R2を通るシーラント材の量が多くなる。吐出されたシーラント材11はノズル41の底面で押さえられた状態であり、余分なシーラント材11は側方に逃げるしかない。その結果、
図8(a)に示すように、タイヤ内面1A側の余分なシーラント材が側方に逃げてしまう。本来の好ましい断面形状は四角形であるところ、シーラント材11の側面が突出する形状になる。次に、
図8(b)に示すように、タイヤ内面1A上に形成したシーラント材11に隣接する位置でノズル41からシーラント材11を吐出すれば、タイヤ内面1A側の余分なシーラント材が側方に逃げてしまい、逃げたシーラント材11が隣接するシーラント材11を押し上げてしまい、その結果、シーラント層10に凹凸が生じやすくなる、と考えられる。
【0042】
[第1実施形態の結果]
図7(c)は、
図5に示す第1実施形態のノズル41により塗布したシーラント層10の形状を示す模式図である。
図5に示すように吐出口45の第1辺51及び第2辺52にくびれが形成されているため、くびれの無い四角形状の吐出口に比べてスウェル(膨張)が抑制され、吐出直後のシーラント材の断面形状は四角形に近くなる。
図5の側面図に示すように、吐出口45から吐出されたシーラント材11が進行方向TDの後側TD2へ曲がるために、コーナー内側R1を通るシーラント材の量よりもコーナー外側R2を通るシーラント材の量が多くなる。そこで、
図5の底面図に示すように、吐出口45の進行方向TDの前側TD1に位置する第1辺51の長さW1は、吐出口45の進行方向TDの後側TD2に位置する第2辺52の長さW2よりも短い。その結果、第1辺51の付近から吐出されるシーラント材11の量が、第2辺52の付近から吐出されるシーラント材11の量よりも多くなることを抑制でき、タイヤ内面1A側に余分なシーラント材が生じることを抑制できる。シーラント材11の断面形状を、
図8(c)に示すように、本来の好ましい四角形に近づけることができ、シーラント層10の凹凸を低減可能となる。
【0043】
[変形例]
(A)第1実施形態では、第1辺51及び第2辺52の両方にくびれが形成されているが、
図9(a)に示すように、第1辺51及び第2辺52のいずれか一方にくびれが形成されていてもよい。
図9(a)の例では、第1辺51にくびれが形成されており、第2辺52がくびれの無い第2直線52sであるが、これに限定されない。例えば、第1辺51がくびの無い第1直線51sとし、第2辺52がくびれを有するとしてもよい。
第1辺51及び第2辺52のいずれか一方にくびれが形成されていてもよいのは、第2実施形態も同じである。
【0044】
(B)
図9(b)に示すように、第3辺53及び第4辺54の少なくとも一方の辺は、吐出口45の内側に突出するくびれを有するとしてもよい。
図9(b)の例では、第3辺53及び第4辺54の双方がくびれを有しているが、これに限定されない。
【0045】
(C)上記実施形態におけるくびれは、1つの曲線(円弧)であるが、これに限定されない。くびれを有する辺は、複数の曲線、複数の直線、または、1つ以上の直線と1つ以上の曲線の組み合わせで構成されていてもよい。
【0046】
[1]
以上のように、空気入りタイヤの製造方法は、タイヤの内面1Aに向けたノズル41をタイヤの軸心回りに相対的に回転させながら、ノズル41の吐出口45から吐出される帯状のシーラント材11をタイヤの内面1Aに塗布してタイヤの内面1Aにシーラント層10を形成すること、を含み、吐出口45は、ノズル41の進行方向TDの前側TD1に位置する第1辺51と、ノズル41の進行方向TDの後側TD2に位置する第2辺52と、を有し、第1辺51及び第2辺52の少なくとも一方は、吐出口45の内側に突出するくびれを有する、としてもよい。
【0047】
ノズル41の第1辺51の付近から吐出されたシーラント材11は、タイヤ内面1Aに形成されたシーラント層10のタイヤ内面1A側の部位となり、ノズル41の第2辺52の付近から吐出されたシーラント材11は、タイヤ内面1Aに形成されたシーラント層10のタイヤ内面1A側とは反対側の部位となる。ノズル41の第1辺51及び第2辺52はそれぞれタイヤ内面1Aに形成されたシーラント層10の厚み方向の両辺に対応する。ノズル41の第1辺51及び第2辺52の少なくともいずれか一方がくびれを有するので、余るシーラント材11の量を低減でき、シーラント層の凹凸を低減可能となる。
シーラント層は、タイヤに開いた穴をふさぐために所定必要厚みを確保する必要があり、シーラント層に生じる凹凸のうち、最も薄い凹部分を所定必要厚みに設定する。シーラント層の凹凸を低減できれば、パンク防止機能に寄与しない凸部分のシーラント層を低減でき、タイヤの重量増を抑制でき、ひいてはタイヤの重量増による燃費悪化を抑制可能となる。
【0048】
[2]
上記[1]に記載の空気入りタイヤの製造方法において、吐出口45は、第1角部55、第2角部56、第3角部57、第4角部58、第3辺53及び第4辺54を有し、第1辺51は、第1角部55と第2角部56とを接続する第1直線51sまたは第1直線51sよりも吐出口45の内側に突出する辺であり、第2辺52は、第3角部57と第4角部58とを接続する第2直線52sまたは第2直線52sよりも吐出口45の内側に突出する辺であり、第3辺53は、第1角部55と第3角部57とを接続する第3直線53sまたは第3直線53sよりも吐出口45の内側に突出する辺であり、第4辺54は、第2角部56と第4角部58とを接続する第4直線54sまたは第4直線54sよりも吐出口45の内側に突出する辺である、としてもよい。
このように、吐出口45は、長方形や台形を含む四角形をベースとする形状であり、各々の辺は吐出口45の外側に広がる形状ではないので、シーラント材11のスウェルを抑制でき、余ったシーラント材が凹凸を形成することを低減可能となる。
【0049】
[3]
上記[2]に記載の空気入りタイヤの製造方法において、第3辺53及び第4辺54のうち少なくとも一方は、吐出口45の内側に突出するくびれを有する、としてもよい。
吐出口45から吐出されるシーラント材11が側方にスウェル(膨張)することを抑制可能となるので、タイヤ内面1Aに形成されるシーラント層10の凹凸を低減可能となる。
【0050】
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法において、吐出口45は、ノズル41の進行方向TDの長さW2が進行方向TDに直交する直交方向DDの長さH1よりも短い扁平形状である、としてもよい。
この構成によれば、タイヤの内面1Aに、厚みが薄く幅が広いシーラント層10を形成しやすく、好適である。
【0051】
[5]
上記[1]~[4]のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法において、第1辺51の進行方向TDに直交する直交方向DDの長さW1は、第2辺52の直交方向DDの長さW2よりも短い、としてもよい。
ノズル41から吐出されるシーラント材11は、ノズル41の進行に伴って曲がりながらタイヤ内面1Aに形成される。第1辺51の付近から吐出されるシーラント材11の経路R2は、第2辺52の付近から吐出されるシーラント材11の経路R1よりも外回りとなるため、第1辺51の付近から吐出されるシーラント材11の量が、第2辺52の付近から吐出されるシーラント材11の量よりも多くなる。その結果、タイヤ内面1Aに至り必要量を超える余りシーラント材11が、シーラント層10の厚み方向に直交する幅方向(ノズル41の直交方向DD)に逃げ、既に形成されたシーラント材11を押し上げ、シーラント層10に凹凸が形成される。
上記構成により、第1辺51の付近から吐出されるシーラント材11の量が、第2辺52の付近から吐出されるシーラント材11の量よりも多くなることを抑制するので、余りシーラント材11の量を低減でき、シーラント層10の凹凸の形成を抑制可能となる。
【0052】
[6]
空気入りタイヤの製造装置は、タイヤ1を支持する支持装置30と、帯状のシーラント材11を吐出口45から吐出可能なノズル41と、を備え、タイヤ1の内面1Aに向けたノズル41をタイヤ1の軸心回りに相対的に回転させながら、ノズル41の吐出口45から吐出される帯状のシーラント材11をタイヤの内面1Aに塗布することが可能に構成されており、吐出口45は、ノズル41の進行方向TDの前側TD1に位置する第1辺51と、ノズル41の進行方向TDの後側TD2に位置する第2辺52と、を有し、第1辺51及び第2辺52の少なくとも一方は、吐出口45の内側に突出するくびれを有する、としてもよい。
【0053】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0054】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0055】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0056】
1…タイヤ、1A…内面、10…シーラント層、11…シーラント材、30…支持装置、41…ノズル、45…吐出口、51…第1辺、51s…第1直線、52…第2辺、52s…第2直線、53…第3辺、53s…第3直線、54…第4辺、54s…第4直線、55…第1角部、56…第2角部、57…第3角部、58…第4角部、TD…進行方向(短手方向)、TD1…進行方向の前側、TD2…進行方向の後側、DD…直交方向(長手方向)。