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特開2024-143355低温用ニッケル含有鋼板およびこれを用いた低温用タンク
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143355
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】低温用ニッケル含有鋼板およびこれを用いた低温用タンク
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241003BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20241003BHJP
C21D 8/02 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D8/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055986
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA01
4K032CA02
4K032CD05
4K032CF02
(57)【要約】
【課題】大入熱溶接を適用しても溶接継手の十分な低温靭性を確保できる低温用ニッケル含有鋼板および当該鋼板を使用した低温用タンクを提供する。
【解決手段】C:0.01~0.12質量%、Si:0.01~0.18質量%、Mn:0.2~1.8質量%、P:0.0100質量%以下(0質量%を含む)、S:0.0100質量%以下(0質量%を含む)、Al:0.001~0.100質量%以下、N:0.0080質量%以下(0質量%を含む)、Mo:0.01~0.10質量%、Ni:8.75~10.0質量%、Cu:0.70質量%以下(0質量%を含む)、およびCr:0.20質量%以下(0質量%を含む)を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、DI値が1.03以上、1.65以下であり、所定の式を用いて計算した値が7.06以下である低温用ニッケル含有鋼板である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C :0.01~0.12質量%、
Si:0.01~0.18質量%、
Mn:0.2~1.8質量%、
P :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.001~0.100質量%以下、
N :0.0080質量%以下(0質量%を含む)、
Mo:0.01~0.10質量%、
Ni:8.75~10.0質量%、
Cu:0.70質量%以下(0質量%を含む)、および
Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で表されるDI値が1.03以上、1.65以下であり、且つ下記の式(2)を用いて計算した値が7.06以下である低温用ニッケル含有鋼板。
DI=1.16×√([C]/10)×(0.7[Si]+1)×(3.33[Mn]+1)×(0.35[Cu]+1)×(0.36[Ni]+1)×(2.16[Cr]+1)×(3[Mo]+1)×(1.75[V]+1)×(200[B]+1) ・・・(1)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
5.0×103[C]×[Si]2.3+1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1) ・・・(2)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
【請求項2】
請求項1に記載の低温用ニッケル含有鋼板を用いた低温用タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温用ニッケル含有鋼板およびこれを用いた低温用タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国内ではエネルギー産業の規制緩和が進み、二酸化炭素(CO2)排出係数が大きい石炭や石油から排出係数が小さいクリーンなエネルギーであるLNGへのシフトが進んでいる。また、世界中で環境保護活動が活発化していることもあり、液化天然ガス(LNG)の需要が拡大している。このため、舶用LNG燃料タンク向け等に用いることができる極低温(-196℃)で用いる低温用タンクの建造が増加している。9%Ni鋼に代表されるような低温用ニッケル含有鋼板は極低温における靭性、すなわち低温靭性に優れることから、LNG等の液化低温ガスの輸送用および貯蔵用タンクの材料として広く使用されている。LNGタンクは、安全性に特に配慮した設計施工がなされており、従って、使用される鋼材および溶接材料に加え、溶接継手においても低温靭性が重要視されており、ASTM(米国材料試験協会規格)を始めとした各規格においてもシャルピー衝撃吸収エネルギー値が規定されている。
【0003】
このようなニッケル含有鋼板を用いて低温用タンク等の構造物を建造する際には溶接作業が不可欠であり、溶接により生じる溶接継手部(溶接部)の低温靭性を確保することが不可欠である。
【0004】
特許文献1は、2相域HAZ(Intercritically reheated Heat-Affected Zone、以下「IC-HAZ」という場合がある。)の低温靭性を向上する方法として、SiおよびPの低減が有効であることを開示している。特許文献1には、IC-HAZ部において局部的に生成するマルテンサイトの微細化が低温靭性改善に寄与することも記載されている。
【0005】
特許文献2はHAZ部のCTOD特性を改善できる方法として、Siの低減およびMoの添加を開示している。
【0006】
特許文献3には、9%Ni鋼の製造方法として低Si化により溶接継手部の靭性が改善することが記載されている。低Si化によってフェライトおよびオーステナイトの2相域に加熱されたHAZ部のMA量が減少することが示されている。
【0007】
特許文献4は、Toe部(止端部)のHAZ靭性を改善する方法として、Si、AlおよびNの低減を開示している。SiおよびAl低減によるオートテンパーの促進、およびAlN介在物の低減による効果であることも示されている。
【0008】
特許文献5は、母材および溶接継手部の靭性を改善する方法として、C、Si、Al、およびMoの含有量を制御することを開示している。Mo添加による焼戻時の組織微細化と、硬化相の生成の抑制による効果であることも示されている。
【0009】
特許文献6は、母材および溶接継手部の靭性に優れる9%Ni鋼の製造方法として、Siの削減と2段階の熱間圧延を施す方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61-238911号公報
【特許文献2】特開平4-371520号公報
【特許文献3】特開平7-126749号公報
【特許文献4】特許第5126780号公報
【特許文献5】特開2002-129280号公報
【特許文献6】特開2013-142197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
クリーンなエネルギーであるLNG等の低温用タンク製造に際して、溶接部の大半を占めるタンク側板縦継手および側板横継手の溶接施工法は、自動TIG溶接(GTAW)およびSAWが主流である。しかしながら、GTAWは能率に劣る溶接方法であることに加え、SAWにおいても溶接熱影響部からの脆性破壊発生リスクを低減するため、最大入熱は50kJ/cm以下で施工されるため、能率に劣るという問題がある。このため、施工効率向上および溶接コスト低減を目的に溶接入熱量が50kJ/cmを超える大入熱溶接を適用したいとの要望が強くなっている。しかし、大入熱溶接では溶接による熱影響部の影響が従来の溶接法(低入熱溶接)と比べてより大きく、十分な低温靭性を確保することが困難であるという問題がある。特許文献1~6が開示するニッケル含有鋼板はいずれも溶接入熱量が50kJ/cm以下の低入熱溶接継手を対象に評価を実施しており、低温用ニッケル含有鋼板を大入熱溶接する際に最も靭性の劣化するIC-HAZ部におけるMAの形成抑制、およびPによる粒界脆化の観点から十分な検討がされていない。それゆえ特許文献1~6に記載の鋼板では、大入熱溶接を適用した際にタンクの脆性破壊を抑制するのに十分な溶接継手の低温靭性を確保できない虞がある。
【0012】
本開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、大入熱溶接を適用しても溶接継手の十分な低温靭性を確保できる低温用ニッケル含有鋼板および当該鋼板を使用した低温用タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様1は、
C :0.01~0.12質量%、
Si:0.01~0.18質量%、
Mn:0.2~1.8質量%、
P :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.001~0.100質量%以下、
N :0.0080質量%以下(0質量%を含む)、
Mo:0.01~0.10質量%、
Ni:8.75~10.0質量%、
Cu:0.70質量%以下(0質量%を含む)、および
Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で表されるDI値が1.03以上、1.65以下であり、且つ下記の式(2)を用いて計算した値が7.06以下である低温用ニッケル含有鋼板である。
DI=1.16×√([C]/10)×(0.7[Si]+1)×(3.33[Mn]+1)×(0.35[Cu]+1)×(0.36[Ni]+1)×(2.16[Cr]+1)×(3[Mo]+1)×(1.75[V]+1)×(200[B]+1) ・・・(1)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
5.0×103[C]×[Si]2.3+1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1) ・・・(2)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
【0014】
本発明の態様2は、態様1に記載の低温用ニッケル含有鋼板を用いた低温用タンクである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1つの実施形態によれば、大入熱溶接を適用しても溶接継手の十分な低温靭性を確保できる低温用ニッケル含有鋼板を提供することができ、本発明の別の1つの実施形態によれば溶接継手が十分な低温靭性を有する低温用タンク(例えば、クリーンなエネルギーであるLNG等の低温液化ガス貯蔵用タンク)を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】DI値と母材強度(降伏応力および引張強さ)の関係を示すグラフである。
【
図2】式(2)の第1項の値とMA面積分率の関係を示すグラフである。
【
図3】式(2)の値と-196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、個々の元素の含有量の範囲を適正化するだけでなく、後述する式(1)で規定されるDI値を適切な値とすることで母材および継手の低温靭性を損なうことなく所望の引張強さを得ることができること、さらに後述の式(2)で規定される値を所定の範囲内とすることで、大入熱溶接時のIC-HAZ部におけるMA(Martensite-Austenite constituent、島状マルテンサイト)の形成および粒界脆化を抑制し低温靭性をより確実に向上できることを見出し本発明に至ったものである。
以下、本発明の実施形態で規定する各要件について詳細に説明する。
【0018】
1.化学組成
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板は、以下に説明する化学組成を有す。
【0019】
1-1.個々の元素の含有量
[C:0.01質量%以上、0.12質量%以下]
Cは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、その含有量が0.12質量%を超えると大入熱溶接時のIC-HAZ部におけるMA(島状マルテンサイト)形成を促進し、継手部の低温靭性を劣化させる。このためC量の上限を0.12質量%とする。一方、Cは鋼の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するためには0.01質量%以上含有させる必要がある。したがって、C含有量は0.01~0.12質量%の範囲とする。なお、C含有量の上限は、好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.08質量%である。
【0020】
[Si:0.01質量%以上、0.18質量%以下]
Siは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、Si量を0.18質量%以下とすることにより、溶接継手部におけるMA形成を抑制し、継手の低温靭性を改善する。一方でSiは脱酸剤として、また強度を確保する上で必要な元素であり、含有量が0.01質量%未満であるとその効果が十分でない。したがって、Si含有量は0.01~0.18質量%の範囲とする。なお、Si含有量は低いほどIC-HAZ部におけるMAの形成は抑制されるため、Si含有量の上限は好ましくは0.14質量%である。
【0021】
[Mn:0.2質量%以上、1.8質量%以下]
Mnは鋼の焼入れ性を向上し強度を確保するために必要な元素であるが、その含有量が0.2質量%未満ではその効果が十分でなく、また1.8質量%を超えると靭性が劣化する。したがって、Mn含有量は0.2~1.8質量%の範囲とする。尚、好ましいMn含有量の範囲は、0.3~1.2質量%である。
【0022】
[P:0.0100質量%以下(0質量%を含む)]
Pは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、不純物として鋼中に不可避的に存在し、粒界に偏析して母材および溶接継手部の低温靭性を劣化させる。よって上限を0.0100質量%とした。溶接継手部の低温靭性を向上するためには、Pの含有量は少ないほど望ましい。
【0023】
なお、本明細書において「0質量%を含む」とは、意図的に添加しない実施形態に係る含有量、例えば不可避不純物レベルの含有量である場合を包含する(所定の範囲内であれば意図的に添加した場合を排除するものではない)ことを意味する。
一方、本明細書において「0質量%を含まず」とは、当該元素が意図的に添加されていることを意味する。
【0024】
[S:0.0100質量%以下(0質量%を含む)]
Sは不可避不純物として鋼中に存在する元素であり、その含有量が多過ぎると延伸したMnSが脆性破壊の起点となり、母材および溶接継手部の靭性を劣化させる。よってS量の上限を0.0100質量%とした。なお、継手部の靭性を向上するためには、S含有量は少ないほど好ましい。
【0025】
[Al:0.001質量%以上、0.100質量%以下]
Alは脱酸剤であり、また結晶粒の粗大化を抑制し靭性を確保するために有効な元素であるが、その含有量が0.001質量%未満であると十分な効果が得られない。一方で、その含有量が0.100質量%を超える場合は、アルミナ介在物を起点として脆性破壊を生じることにより、靭性を劣化させる。したがって、Al含有量は、0.001~0.100質量%の範囲とする。
【0026】
[N:0.0080質量%以下(0質量%を含む)]
Nは不純物であり、AlN等の析出物の形成を通じて、母材および溶接継手部の靭性を劣化させるため、上限を0.0080質量%とする。なお、継手部の靭性を向上するためには、N含有量は少ないほど好ましい。
【0027】
[Ni:8.75質量%以上、10.0質量%以下]
Niは極低温における靭性(低温靭性)を確保するために添加される基本的な元素であり、本発明の実施形態ではNi量を8.75質量%以上とする。Ni量が多いほど優れた低温靭性が得られるが、10.0質量%を超える添加では、合金コスト上昇に対する特性改善効果が小さくなる。したがって、Ni含有量は、8.75~10.0質量%の範囲とする。なお、低温靭性確保と合金コスト抑制の観点から、より好ましいNi含有量の範囲は、8.95~9.85質量%である。
【0028】
[Mo:0.01質量%以上、0.10質量%以下]
Moは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、Moを0.01質量%以上含有させることにより溶接後の冷却過程でのPによる粒界脆化が抑制され、靭性向上に寄与する。一方で、Mo含有量が0.10質量%を超える場合には、炭化物形成による靭性劣化の影響の方が大きくなる。したがって、Mo含有量は、0.01~0.10質量%の範囲とする。なお、0.10質量%以下の範囲であれば、Moの添加量の増加に伴い、粒界脆化抑制効果も大きくなるため、Mo含有量の下限は好ましくは0.02質量%、より好ましくは0.03質量%である。
【0029】
[Cu:0.70質量%以下(0質量%を含む)]
Cuは不可避的不純物として鋼中に微量含まれる元素である。Cuは、通常、不純物レベルとしては0.03質量%以下程度含まれる。
一方、微量の添加であれば靭性を損なわずに強度を向上する作用があるため、必要に応じて意図的に添加してもよい。一方で、Cu含有量が0.70質量%を超える場合は靭性を劣化させる。従って、意図的にCuを添加する場合、Cu含有量は0.70質量%以下(0質量%を含まず)とする。上述の強度向上の効果を確実に得るためにCu含有量の下限は好ましくは0.05質量%である。
【0030】
[Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)]
Crは不可避的不純物として鋼中に微量含まれる元素である。Crは、通常、不純物レベルとしては0.08質量%以下程度含まれる。
Crは、鋼の焼入れ性を向上し強度を向上するため、必要に応じて意図的に添加してもよい。一方で、含有量が0.20質量%を超える場合、靭性を劣化させる。従って、意図的にCrを添加する場合、Cr含有量は0.20質量%以下(0質量%を含まず)とする。上述の効果を確実に得るためにCr含有量の下限は好ましくは0.10質量%である。
【0031】
[残部]
本発明の好ましい実施形態の1つにおいて、残部は鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素(例えば、As、Sb、Nb、O、H等)の混入が許容される。
なお、例えば、PおよびSのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
【0032】
1-2.DI値
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板は、下記の式(1)で表されるDI値が1.03以上、1.65以下である。
DI=1.16×√([C]/10)×(0.7[Si]+1)×(3.33[Mn]+1)×(0.35[Cu]+1)×(0.36[Ni]+1)×(2.16[Cr]+1)×(3[Mo]+1)×(1.75[V]+1)×(200[B]+1) ・・・(1)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。すなわち、例えば[C]は、質量%で示されたCの含有量を意味する。
【0033】
9%Ni鋼板等のニッケル含有鋼板をLNGタンクの材料として使用するためには、降伏応力を590MPa以上、引張強さを680MPa以上としなければならない。一方で、材料の靭性と強度はトレードオフの関係であり、過度に強度が高い場合、母材および継手靭性の靭性を損なうため、引張強さ(TS)の上限は830MPa以下、より好ましくは800MPa以下とした方がよい。
【0034】
上記式(1)に規定されるDI値は、鋼材の焼入性を表すパラメータとして一般的なものであり、DI値が高いほど焼入時に材料に導入される転位密度も大きくなる。このことから、DI値を制御することによって、低温用ニッケル含有鋼板に一般的に適用される製造方法である、焼入-焼戻、焼入-中間熱処理-焼戻、または直接焼入-焼戻によって製造される低温用ニッケル含有鋼板の強度を制御することが可能である。DI値が1.03~1.65の範囲であれば、母材および溶接継手の靭性を損なうことなく強度を上記範囲内とすることが可能である。
【0035】
1-3.式(2)の値
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板は、式(2)を用いて計算した値(「式(2)の値」という場合がある)が7.06以下である。
5.0×103[C]×[Si]2.3+1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1) ・・・(2)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。すなわち、例えば[P]は、質量%で示されたPの含有量を意味する。
【0036】
発明者らの検討の結果、次のことが明らかになった。
大入熱溶接を低温用ニッケル含有鋼板に適用した場合、溶接入熱量の増加に伴いHAZ部の冷却速度が低下する。このため、フェライト-オーステナイトの2相状態まで加熱されるIC-HAZ部において部分的に逆変態して形成されたオーステナイトの粒界から比較的高い温度域で形成される上部ベイナイトの量が増加する。この結果、未変態オーステナイトへのCの濃縮が促進され、硬質相であるMAの形成が顕著となる。これによりMAを起点として脆性破壊が生じることにより、IC-HAZ部のシャルピー衝撃吸収エネルギーが顕著に劣化する。
【0037】
上記のように、Cは未変態オーステナイト相へ濃縮することによりMAの形成を促進する。またSiは未変態オーステナイト相のセメンタイト化抑制を通じてMAを増加させることから、IC-HAZ部におけるMA低減にはCおよびSiの低減が有効である。さらに、MAの形成量に対する成分の影響を調査した結果、IC-HAZ部におけるMA量はC×Si2.3によって整理できることが明らかとなった。したがって、式(2)の第1項「5.0×103[C]×[Si]2.3」は、IC-HAZ部におけるMAの形成のし易さを表す。
【0038】
また、Pは低温用ニッケル含有鋼において粒界脆化を引き起こすことにより靭性を低下させることが知られている。Moは旧オーステナイト粒界上においてPと反発的相互作用を有することから、Pを粒界から排斥する作用を有する。本発明者らの検討の結果、微量のMo添加によってPによる粒界脆化を大きく抑制することが可能であり、粒界脆化の程度はPとMoの含有量比によって決定されることが明らかとなった。したがって、式(2)の第2項「1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1)」は、Pによる粒界脆化の程度を示す。
【0039】
式(2)の値を7.06以下とすることにより、大入熱溶接時のIC-HAZ部におけるMAの形成、および粒界脆化を抑制し、後述する実施例の実験結果(特に詳細の後述する
図3の2次近似曲線)に示すように、大入熱溶接時においても-196℃における溶接継手のIC-HAZ部のシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196が34J以上となりLNGタンク等の極低温での靭性が要求される用途においても脆性破壊が抑制され、溶接継手の優れた靭性を確保できる。なお、シャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196が34J以上であることは、ASTM規格(ASTM A553/A553M:2022およびASTM A844/A844M:2022)で規定されている9%Ni鋼(継手)のL方向シャルピー衝撃吸収エネルギー値の規格値(平均34J以上)を満足することを意味する。
【0040】
2.製造方法
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板の製造に際して、上述の化学成分を満足し、式(1)に示すDI値および式(2)の値が上述の適正な範囲内である限り、通常の低温用ニッケル含有鋼板の製造に適用している周知の製造方法を用いることができる。
例えば、上記の要件を満たす、スラブ等の鋼片に熱間圧延を施し所定の板厚の熱延鋼板とした後、当該熱延鋼板をAc3点以上の温度域に加熱して焼入れた後、Ac1点以下の温度域にて焼戻すことによって得ることができる。
また、焼入と焼戻の間に、Ac1点以上Ac3点以下の2相域から焼入れる工程を含んでもよく、または熱間圧延後の熱延鋼板をオンラインで直接焼入れた後、Ac1点以下の温度域で焼戻すことにより製造してもよい。
【0041】
このようにして得られた本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板を用い、これらを溶接することで本発明の実施形態に係る低温用タンク(例えば、クリーンなエネルギーであるLNG等の低温液化ガス貯蔵用タンク)を得ることができる。とりわけ、本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板を用いることで、溶接を大入熱溶接法により実施しても溶接継手が優れた低温靭性を有し、従って、十分な低温靭性を有する低温用タンクを得ることができる。
【0042】
なお、大入熱溶接とは、例えば、一般財団法人日本海事協会発行の「2021 鋼船規則 M編」16ページの表M4.2 備考(6)に記載されているように、溶接入熱量が50kJ/cmを超える溶接法を意味する。
【実施例0043】
1.サンプル作製
表1に示す化学組成を有する、転炉-連続鋳造により作製した連鋳スラブまたは真空溶製スラブを1000℃以上1200℃以下まで加熱した後熱間圧延により、表2に示す板厚に圧延し、空冷により室温まで冷却し熱延サンプルを得た。表1にはそれぞれのサンプルの式(1)を用いて計算したDI値、式(2)の第1項「5.0×103[C]×[Si]2.3」の値(表1の「式(2)の第1項」欄)、式(2)の第2項「1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1)」(表1の「式(2)の第2項」欄)および式(2)の値も記載した。
【0044】
次に、得られた熱延サンプルを780℃に加熱後水焼入を行い、590℃で焼戻を行って鋼板サンプルを得た。なお、鋼板サンプルの製造条件の詳細は表2に示した。
得られた鋼板サンプルのt/4位置(鋼板の表面(主面)から中心に向かって板厚tの4分の1の距離にある位置)から、板厚方向を12mmとして、圧延方向が55mm方向と平行となるよう12mm×33mm×55mmのサイズで切り出した熱サイクル試験用サンプルを得た。
また、鋼板サンプルのt/4位置の圧延方向と直角な方向から棒状試験片を採取しこれを引張試験用サンプルとした。
【0045】
【0046】
2.サンプル評価
(低温靭性評価)
上述の熱サイクル試験用サンプルを高周波加熱により950℃まで50℃/秒の昇温速度で加熱し10秒保持した後、950℃から900℃までを6秒、900℃から800℃までを80秒、800℃から500℃までを240秒、500℃から50℃までを765秒で冷却することにより、入熱約380kJ/cmでの1パス溶接における溶接継手IC-HAZ部の再現熱履歴を付与した。その後、それぞれの熱サイクル試験用サンプルからJIS2242:2018に則ったVノッチシャルピー標準試験用サンプルを作製した。そして、Vノッチシャルピー標準試験用サンプルを用い、-196℃でのシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃吸収エネルギー値vE-196を測定した。1種類のサンプルについて(1つのサンプルNo.について)衝撃試験は3回行った。3回の試験それぞれのvE-196の測定結果を表2の「each」欄に、平均値を表2の「ave.」欄に示す。
【0047】
(MA面積分率)
上述の再現熱履歴を付与した後の熱サイクル試験用サンプルのMA量を測定した。再現熱履歴を付与した熱サイクル試験用サンプルの端部3mmを除く位置について、湿式研磨後にレペラー腐食を行い、155μm×202μmの領域を光学顕微鏡によって倍率400倍で組織観察しコントラストからMAを識別し、MAの面積分率を求めた。その結果を表2に示す。
【0048】
(引張試験)
上述の棒状試験片を用いて、JIS Z2241:2022に準じた引張試験により、降伏応力および引張強さを測定した。測定した結果を「母材強度」(溶接継手IC-HAZ部の再現熱履歴を付与する前の材料の強度)として表2に示す。
【0049】
図1にDI値と母材強度(降伏応力および引張強さ)の関係を示し、
図2に式(2)の第1項の値とMA面積分率の関係を示し、
図3に式(2)の値と-196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196(3サンプルの平均値)の関係を示す。
図3の点線は2次近似曲線である。
【0050】
(良否判定)
母材強度については、降伏応力:590MPa以上および引張強さ:680MPa以上830MPa以下であり、且つ-196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE-196については平均値が34J以上および3つのサンプル全てのvE-196が27J以上であるサンプルを「良好」、いずれか1つでも満足しないサンプルを「不良」判断し、良否判定結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表1および表2から分かるように、本発明の実施形態が規定する化学組成を有し、DI値および式(2)の値が所定の範囲内にある、サンプルNo.1~8は、十分な強度と低温靭性を有している。すなわち、LNG等の低温用タンクに適用するために必要な構造材料としての強度を備え、かつ大入熱溶接時に靭性劣化の生じやすいIC-HAZ部の熱履歴を付与した際にも低温用タンクとして十分な低温靭性を確保できるため、大入熱溶接適用による溶接施工効率の向上に資するといえる。
【0053】
一方、サンプルNo.9はSiが過剰で、Moが過少であり、式(2)の値も所定の範囲から外れている。このため、大入熱溶接の熱履歴を付与した場合のMAの形成が顕著であり、さらにPによる粒界脆化の影響が大きく、大入熱溶接を適用した際に十分な低温靭性を確保することができない。
また、サンプルNo.10は、Pに対するMoの含有量比が小さいため式(2)の値が所定の範囲から外れている。このため、Pによる粒界脆化の影響が顕著となり、大入熱溶接を適用した際に十分な低温靭性を確保することができない。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C :0.01~0.12質量%、
Si:0.01~0.18質量%、
Mn:0.2~1.8質量%、
P :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.001~0.100質量%、
N :0.0080質量%以下(0質量%を含む)、
Mo:0.01~0.10質量%、
Ni:8.75~10.0質量%、
Cu:0.70質量%以下(0質量%を含む)、および
Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で表されるDI値が1.03以上、1.65以下であり、且つ下記の式(2)を用いて計算した値が7.06以下である低温用ニッケル含有鋼板。
DI=1.16×√([C]/10)×(0.7[Si]+1)×(3.33[Mn]+1)×(0.35[Cu]+1)×(0.36[Ni]+1)×(2.16[Cr]+1)×(3[Mo]+1)×(1.75[V]+1)×(200[B]+1) ・・・(1)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
5.0×103[C]×[Si]2.3+1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1) ・・・(2)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
【請求項2】
請求項1に記載の低温用ニッケル含有鋼板を用いた低温用タンク。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、低温用ニッケル含有鋼板およびこれを用いた低温用タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国内ではエネルギー産業の規制緩和が進み、二酸化炭素(CO2)排出係数が大きい石炭や石油から排出係数が小さいクリーンなエネルギーであるLNGへのシフトが進んでいる。また、世界中で環境保護活動が活発化していることもあり、液化天然ガス(LNG)の需要が拡大している。このため、舶用LNG燃料タンク向け等に用いることができる極低温(-196℃)で用いる低温用タンクの建造が増加している。9%Ni鋼に代表されるような低温用ニッケル含有鋼板は極低温における靭性、すなわち低温靭性に優れることから、LNG等の液化低温ガスの輸送用および貯蔵用タンクの材料として広く使用されている。LNGタンクは、安全性に特に配慮した設計施工がなされており、従って、使用される鋼材および溶接材料に加え、溶接継手においても低温靭性が重要視されており、ASTM(米国材料試験協会規格)を始めとした各規格においてもシャルピー衝撃吸収エネルギー値が規定されている。
【0003】
このようなニッケル含有鋼板を用いて低温用タンク等の構造物を建造する際には溶接作業が不可欠であり、溶接により生じる溶接継手部(溶接部)の低温靭性を確保することが不可欠である。
【0004】
特許文献1は、2相域HAZ(Intercritically reheated Heat-Affected Zone、以下「IC-HAZ」という場合がある。)の低温靭性を向上する方法として、SiおよびPの低減が有効であることを開示している。特許文献1には、IC-HAZ部において局部的に生成するマルテンサイトの微細化が低温靭性改善に寄与することも記載されている。
【0005】
特許文献2はHAZ部のCTOD特性を改善できる方法として、Siの低減およびMoの添加を開示している。
【0006】
特許文献3には、9%Ni鋼の製造方法として低Si化により溶接継手部の靭性が改善することが記載されている。低Si化によってフェライトおよびオーステナイトの2相域に加熱されたHAZ部のMA量が減少することが示されている。
【0007】
特許文献4は、Toe部(止端部)のHAZ靭性を改善する方法として、Si、AlおよびNの低減を開示している。SiおよびAl低減によるオートテンパーの促進、およびAlN介在物の低減による効果であることも示されている。
【0008】
特許文献5は、母材および溶接継手部の靭性を改善する方法として、C、Si、Al、およびMoの含有量を制御することを開示している。Mo添加による焼戻時の組織微細化と、硬化相の生成の抑制による効果であることも示されている。
【0009】
特許文献6は、母材および溶接継手部の靭性に優れる9%Ni鋼の製造方法として、Siの削減と2段階の熱間圧延を施す方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭61-238911号公報
【特許文献2】特開平4-371520号公報
【特許文献3】特開平7-126749号公報
【特許文献4】特許第5126780号公報
【特許文献5】特開2002-129280号公報
【特許文献6】特開2013-142197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
クリーンなエネルギーであるLNG等の低温用タンク製造に際して、溶接部の大半を占めるタンク側板縦継手および側板横継手の溶接施工法は、自動TIG溶接(GTAW)およびSAWが主流である。しかしながら、GTAWは能率に劣る溶接方法であることに加え、SAWにおいても溶接熱影響部からの脆性破壊発生リスクを低減するため、最大入熱は50kJ/cm以下で施工されるため、能率に劣るという問題がある。このため、施工効率向上および溶接コスト低減を目的に溶接入熱量が50kJ/cmを超える大入熱溶接を適用したいとの要望が強くなっている。しかし、大入熱溶接では溶接による熱影響部の影響が従来の溶接法(低入熱溶接)と比べてより大きく、十分な低温靭性を確保することが困難であるという問題がある。特許文献1~6が開示するニッケル含有鋼板はいずれも溶接入熱量が50kJ/cm以下の低入熱溶接継手を対象に評価を実施しており、低温用ニッケル含有鋼板を大入熱溶接する際に最も靭性の劣化するIC-HAZ部におけるMAの形成抑制、およびPによる粒界脆化の観点から十分な検討がされていない。それゆえ特許文献1~6に記載の鋼板では、大入熱溶接を適用した際にタンクの脆性破壊を抑制するのに十分な溶接継手の低温靭性を確保できない虞がある。
【0012】
本開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、大入熱溶接を適用しても溶接継手の十分な低温靭性を確保できる低温用ニッケル含有鋼板および当該鋼板を使用した低温用タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様1は、
C :0.01~0.12質量%、
Si:0.01~0.18質量%、
Mn:0.2~1.8質量%、
P :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
S :0.0100質量%以下(0質量%を含む)、
Al:0.001~0.100質量%、
N :0.0080質量%以下(0質量%を含む)、
Mo:0.01~0.10質量%、
Ni:8.75~10.0質量%、
Cu:0.70質量%以下(0質量%を含む)、および
Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)
を含み、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
下記の式(1)で表されるDI値が1.03以上、1.65以下であり、且つ下記の式(2)を用いて計算した値が7.06以下である低温用ニッケル含有鋼板である。
DI=1.16×√([C]/10)×(0.7[Si]+1)×(3.33[Mn]+1)×(0.35[Cu]+1)×(0.36[Ni]+1)×(2.16[Cr]+1)×(3[Mo]+1)×(1.75[V]+1)×(200[B]+1) ・・・(1)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
5.0×103[C]×[Si]2.3+1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1) ・・・(2)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。
【0014】
本発明の態様2は、態様1に記載の低温用ニッケル含有鋼板を用いた低温用タンクである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1つの実施形態によれば、大入熱溶接を適用しても溶接継手の十分な低温靭性を確保できる低温用ニッケル含有鋼板を提供することができ、本発明の別の1つの実施形態によれば溶接継手が十分な低温靭性を有する低温用タンク(例えば、クリーンなエネルギーであるLNG等の低温液化ガス貯蔵用タンク)を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】DI値と母材強度(降伏応力および引張強さ)の関係を示すグラフである。
【
図2】式(2)の第1項の値とMA面積分率の関係を示すグラフである。
【
図3】式(2)の値と-196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、個々の元素の含有量の範囲を適正化するだけでなく、後述する式(1)で規定されるDI値を適切な値とすることで母材および継手の低温靭性を損なうことなく所望の引張強さを得ることができること、さらに後述の式(2)で規定される値を所定の範囲内とすることで、大入熱溶接時のIC-HAZ部におけるMA(Martensite-Austenite constituent、島状マルテンサイト)の形成および粒界脆化を抑制し低温靭性をより確実に向上できることを見出し本発明に至ったものである。
以下、本発明の実施形態で規定する各要件について詳細に説明する。
【0018】
1.化学組成
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板は、以下に説明する化学組成を有す。
【0019】
1-1.個々の元素の含有量
[C:0.01質量%以上、0.12質量%以下]
Cは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、その含有量が0.12質量%を超えると大入熱溶接時のIC-HAZ部におけるMA(島状マルテンサイト)形成を促進し、継手部の低温靭性を劣化させる。このためC量の上限を0.12質量%とする。一方、Cは鋼の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するためには0.01質量%以上含有させる必要がある。したがって、C含有量は0.01~0.12質量%の範囲とする。なお、C含有量の上限は、好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.08質量%である。
【0020】
[Si:0.01質量%以上、0.18質量%以下]
Siは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、Si量を0.18質量%以下とすることにより、溶接継手部におけるMA形成を抑制し、継手の低温靭性を改善する。一方でSiは脱酸剤として、また強度を確保する上で必要な元素であり、含有量が0.01質量%未満であるとその効果が十分でない。したがって、Si含有量は0.01~0.18質量%の範囲とする。なお、Si含有量は低いほどIC-HAZ部におけるMAの形成は抑制されるため、Si含有量の上限は好ましくは0.14質量%である。
【0021】
[Mn:0.2質量%以上、1.8質量%以下]
Mnは鋼の焼入れ性を向上し強度を確保するために必要な元素であるが、その含有量が0.2質量%未満ではその効果が十分でなく、また1.8質量%を超えると靭性が劣化する。したがって、Mn含有量は0.2~1.8質量%の範囲とする。尚、好ましいMn含有量の範囲は、0.3~1.2質量%である。
【0022】
[P:0.0100質量%以下(0質量%を含む)]
Pは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、不純物として鋼中に不可避的に存在し、粒界に偏析して母材および溶接継手部の低温靭性を劣化させる。よって上限を0.0100質量%とした。溶接継手部の低温靭性を向上するためには、Pの含有量は少ないほど望ましい。
【0023】
なお、本明細書において「0質量%を含む」とは、意図的に添加しない実施形態に係る含有量、例えば不可避不純物レベルの含有量である場合を包含する(所定の範囲内であれば意図的に添加した場合を排除するものではない)ことを意味する。
一方、本明細書において「0質量%を含まず」とは、当該元素が意図的に添加されていることを意味する。
【0024】
[S:0.0100質量%以下(0質量%を含む)]
Sは不可避不純物として鋼中に存在する元素であり、その含有量が多過ぎると延伸したMnSが脆性破壊の起点となり、母材および溶接継手部の靭性を劣化させる。よってS量の上限を0.0100質量%とした。なお、継手部の靭性を向上するためには、S含有量は少ないほど好ましい。
【0025】
[Al:0.001質量%以上、0.100質量%以下]
Alは脱酸剤であり、また結晶粒の粗大化を抑制し靭性を確保するために有効な元素であるが、その含有量が0.001質量%未満であると十分な効果が得られない。一方で、その含有量が0.100質量%を超える場合は、アルミナ介在物を起点として脆性破壊を生じることにより、靭性を劣化させる。したがって、Al含有量は、0.001~0.100質量%の範囲とする。
【0026】
[N:0.0080質量%以下(0質量%を含む)]
Nは不純物であり、AlN等の析出物の形成を通じて、母材および溶接継手部の靭性を劣化させるため、上限を0.0080質量%とする。なお、継手部の靭性を向上するためには、N含有量は少ないほど好ましい。
【0027】
[Ni:8.75質量%以上、10.0質量%以下]
Niは極低温における靭性(低温靭性)を確保するために添加される基本的な元素であり、本発明の実施形態ではNi量を8.75質量%以上とする。Ni量が多いほど優れた低温靭性が得られるが、10.0質量%を超える添加では、合金コスト上昇に対する特性改善効果が小さくなる。したがって、Ni含有量は、8.75~10.0質量%の範囲とする。なお、低温靭性確保と合金コスト抑制の観点から、より好ましいNi含有量の範囲は、8.95~9.85質量%である。
【0028】
[Mo:0.01質量%以上、0.10質量%以下]
Moは本発明に係る実施形態の特徴を示す元素の一つであり、Moを0.01質量%以上含有させることにより溶接後の冷却過程でのPによる粒界脆化が抑制され、靭性向上に寄与する。一方で、Mo含有量が0.10質量%を超える場合には、炭化物形成による靭性劣化の影響の方が大きくなる。したがって、Mo含有量は、0.01~0.10質量%の範囲とする。なお、0.10質量%以下の範囲であれば、Moの添加量の増加に伴い、粒界脆化抑制効果も大きくなるため、Mo含有量の下限は好ましくは0.02質量%、より好ましくは0.03質量%である。
【0029】
[Cu:0.70質量%以下(0質量%を含む)]
Cuは不可避的不純物として鋼中に微量含まれる元素である。Cuは、通常、不純物レベルとしては0.03質量%以下程度含まれる。
一方、微量の添加であれば靭性を損なわずに強度を向上する作用があるため、必要に応じて意図的に添加してもよい。一方で、Cu含有量が0.70質量%を超える場合は靭性を劣化させる。従って、意図的にCuを添加する場合、Cu含有量は0.70質量%以下(0質量%を含まず)とする。上述の強度向上の効果を確実に得るためにCu含有量の下限は好ましくは0.05質量%である。
【0030】
[Cr:0.20質量%以下(0質量%を含む)]
Crは不可避的不純物として鋼中に微量含まれる元素である。Crは、通常、不純物レベルとしては0.08質量%以下程度含まれる。
Crは、鋼の焼入れ性を向上し強度を向上するため、必要に応じて意図的に添加してもよい。一方で、含有量が0.20質量%を超える場合、靭性を劣化させる。従って、意図的にCrを添加する場合、Cr含有量は0.20質量%以下(0質量%を含まず)とする。上述の効果を確実に得るためにCr含有量の下限は好ましくは0.10質量%である。
【0031】
[残部]
本発明の好ましい実施形態の1つにおいて、残部は鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素(例えば、As、Sb、Nb、O、H等)の混入が許容される。
なお、例えば、PおよびSのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
【0032】
1-2.DI値
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板は、下記の式(1)で表されるDI値が1.03以上、1.65以下である。
DI=1.16×√([C]/10)×(0.7[Si]+1)×(3.33[Mn]+1)×(0.35[Cu]+1)×(0.36[Ni]+1)×(2.16[Cr]+1)×(3[Mo]+1)×(1.75[V]+1)×(200[B]+1) ・・・(1)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。すなわち、例えば[C]は、質量%で示されたCの含有量を意味する。
【0033】
9%Ni鋼板等のニッケル含有鋼板をLNGタンクの材料として使用するためには、降伏応力を590MPa以上、引張強さを680MPa以上としなければならない。一方で、材料の靭性と強度はトレードオフの関係であり、過度に強度が高い場合、母材および継手靭性の靭性を損なうため、引張強さ(TS)の上限は830MPa以下、より好ましくは800MPa以下とした方がよい。
【0034】
上記式(1)に規定されるDI値は、鋼材の焼入性を表すパラメータとして一般的なものであり、DI値が高いほど焼入時に材料に導入される転位密度も大きくなる。このことから、DI値を制御することによって、低温用ニッケル含有鋼板に一般的に適用される製造方法である、焼入-焼戻、焼入-中間熱処理-焼戻、または直接焼入-焼戻によって製造される低温用ニッケル含有鋼板の強度を制御することが可能である。DI値が1.03~1.65の範囲であれば、母材および溶接継手の靭性を損なうことなく強度を上記範囲内とすることが可能である。
【0035】
1-3.式(2)の値
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板は、式(2)を用いて計算した値(「式(2)の値」という場合がある)が7.06以下である。
5.0×103[C]×[Si]2.3+1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1) ・・・(2)
ここで[ ]はその内部に示された元素の質量%で示された含有量である。すなわち、例えば[P]は、質量%で示されたPの含有量を意味する。
【0036】
発明者らの検討の結果、次のことが明らかになった。
大入熱溶接を低温用ニッケル含有鋼板に適用した場合、溶接入熱量の増加に伴いHAZ部の冷却速度が低下する。このため、フェライト-オーステナイトの2相状態まで加熱されるIC-HAZ部において部分的に逆変態して形成されたオーステナイトの粒界から比較的高い温度域で形成される上部ベイナイトの量が増加する。この結果、未変態オーステナイトへのCの濃縮が促進され、硬質相であるMAの形成が顕著となる。これによりMAを起点として脆性破壊が生じることにより、IC-HAZ部のシャルピー衝撃吸収エネルギーが顕著に劣化する。
【0037】
上記のように、Cは未変態オーステナイト相へ濃縮することによりMAの形成を促進する。またSiは未変態オーステナイト相のセメンタイト化抑制を通じてMAを増加させることから、IC-HAZ部におけるMA低減にはCおよびSiの低減が有効である。さらに、MAの形成量に対する成分の影響を調査した結果、IC-HAZ部におけるMA量はC×Si2.3によって整理できることが明らかとなった。したがって、式(2)の第1項「5.0×103[C]×[Si]2.3」は、IC-HAZ部におけるMAの形成のし易さを表す。
【0038】
また、Pは低温用ニッケル含有鋼において粒界脆化を引き起こすことにより靭性を低下させることが知られている。Moは旧オーステナイト粒界上においてPと反発的相互作用を有することから、Pを粒界から排斥する作用を有する。本発明者らの検討の結果、微量のMo添加によってPによる粒界脆化を大きく抑制することが可能であり、粒界脆化の程度はPとMoの含有量比によって決定されることが明らかとなった。したがって、式(2)の第2項「1.5×1010×[P]3.5/√(133[Mo]+1)」は、Pによる粒界脆化の程度を示す。
【0039】
式(2)の値を7.06以下とすることにより、大入熱溶接時のIC-HAZ部におけるMAの形成、および粒界脆化を抑制し、後述する実施例の実験結果(特に詳細の後述する
図3の2次近似曲線)に示すように、大入熱溶接時においても-196℃における溶接継手のIC-HAZ部のシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196が34J以上となりLNGタンク等の極低温での靭性が要求される用途においても脆性破壊が抑制され、溶接継手の優れた靭性を確保できる。なお、シャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196が34J以上であることは、ASTM規格(ASTM A553/A553M:2022およびASTM A844/A844M:2022)で規定されている9%Ni鋼(継手)のL方向シャルピー衝撃吸収エネルギー値の規格値(平均34J以上)を満足することを意味する。
【0040】
2.製造方法
本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板の製造に際して、上述の化学成分を満足し、式(1)に示すDI値および式(2)の値が上述の適正な範囲内である限り、通常の低温用ニッケル含有鋼板の製造に適用している周知の製造方法を用いることができる。
例えば、上記の要件を満たす、スラブ等の鋼片に熱間圧延を施し所定の板厚の熱延鋼板とした後、当該熱延鋼板をAc3点以上の温度域に加熱して焼入れた後、Ac1点以下の温度域にて焼戻すことによって得ることができる。
また、焼入と焼戻の間に、Ac1点以上Ac3点以下の2相域から焼入れる工程を含んでもよく、または熱間圧延後の熱延鋼板をオンラインで直接焼入れた後、Ac1点以下の温度域で焼戻すことにより製造してもよい。
【0041】
このようにして得られた本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板を用い、これらを溶接することで本発明の実施形態に係る低温用タンク(例えば、クリーンなエネルギーであるLNG等の低温液化ガス貯蔵用タンク)を得ることができる。とりわけ、本発明の実施形態に係る低温用ニッケル含有鋼板を用いることで、溶接を大入熱溶接法により実施しても溶接継手が優れた低温靭性を有し、従って、十分な低温靭性を有する低温用タンクを得ることができる。
【0042】
なお、大入熱溶接とは、例えば、一般財団法人日本海事協会発行の「2021 鋼船規則 M編」16ページの表M4.2 備考(6)に記載されているように、溶接入熱量が50kJ/cmを超える溶接法を意味する。
【実施例0043】
1.サンプル作製
表1に示す化学組成を有する、転炉-連続鋳造により作製した連鋳スラブまたは真空溶製スラブを1000℃以上1200℃以下まで加熱した後熱間圧延により、表2に示す板厚に圧延し、空冷により室温まで冷却し熱延サンプルを得た。表1にはそれぞれのサンプルの式(1)を用いて計算したDI値、式(2)の第1項「5.0×103[C]×[Si]2.3」の値(表1の「式(2)の第1項」欄)、式(2)の第2項「1.5×10
10
×[P]
3.5
/√(133[Mo]+1)」(表1の「式(2)の第2項」欄)および式(2)の値も記載した。
【0044】
次に、得られた熱延サンプルを780℃に加熱後水焼入を行い、590℃で焼戻を行って鋼板サンプルを得た。なお、鋼板サンプルの製造条件の詳細は表2に示した。
得られた鋼板サンプルのt/4位置(鋼板の表面(主面)から中心に向かって板厚tの4分の1の距離にある位置)から、板厚方向を12mmとして、圧延方向が55mm方向と平行となるよう12mm×33mm×55mmのサイズで切り出した熱サイクル試験用サンプルを得た。
また、鋼板サンプルのt/4位置の圧延方向と直角な方向から棒状試験片を採取しこれを引張試験用サンプルとした。
【0045】
【0046】
2.サンプル評価
(低温靭性評価)
上述の熱サイクル試験用サンプルを高周波加熱により950℃まで50℃/秒の昇温速度で加熱し10秒保持した後、950℃から900℃までを6秒、900℃から800℃までを80秒、800℃から500℃までを240秒、500℃から50℃までを765秒で冷却することにより、入熱約380kJ/cmでの1パス溶接における溶接継手IC-HAZ部の再現熱履歴を付与した。その後、それぞれの熱サイクル試験用サンプルからJIS2242:2018に則ったVノッチシャルピー標準試験用サンプルを作製した。そして、Vノッチシャルピー標準試験用サンプルを用い、-196℃でのシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃吸収エネルギー値vE-196を測定した。1種類のサンプルについて(1つのサンプルNo.について)衝撃試験は3回行った。3回の試験それぞれのvE-196の測定結果を表2の「each」欄に、平均値を表2の「ave.」欄に示す。
【0047】
(MA面積分率)
上述の再現熱履歴を付与した後の熱サイクル試験用サンプルのMA量を測定した。再現熱履歴を付与した熱サイクル試験用サンプルの端部3mmを除く位置について、湿式研磨後にレペラー腐食を行い、155μm×202μmの領域を光学顕微鏡によって倍率400倍で組織観察しコントラストからMAを識別し、MAの面積分率を求めた。その結果を表2に示す。
【0048】
(引張試験)
上述の棒状試験片を用いて、JIS Z2241:2022に準じた引張試験により、降伏応力および引張強さを測定した。測定した結果を「母材強度」(溶接継手IC-HAZ部の再現熱履歴を付与する前の材料の強度)として表2に示す。
【0049】
図1にDI値と母材強度(降伏応力および引張強さ)の関係を示し、
図2に式(2)の第1項の値とMA面積分率の関係を示し、
図3に式(2)の値と-196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE
-196(3サンプルの平均値)の関係を示す。
図3の点線は2次近似曲線である。
【0050】
(良否判定)
母材強度については、降伏応力:590MPa以上および引張強さ:680MPa以上830MPa以下であり、且つ-196℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値vE-196については平均値が34J以上および3つのサンプル全てのvE-196が27J以上であるサンプルを「良好」、いずれか1つでも満足しないサンプルを「不良」判断し、良否判定結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
表1および表2から分かるように、本発明の実施形態が規定する化学組成を有し、DI値および式(2)の値が所定の範囲内にある、サンプルNo.1~8は、十分な強度と低温靭性を有している。すなわち、LNG等の低温用タンクに適用するために必要な構造材料としての強度を備え、かつ大入熱溶接時に靭性劣化の生じやすいIC-HAZ部の熱履歴を付与した際にも低温用タンクとして十分な低温靭性を確保できるため、大入熱溶接適用による溶接施工効率の向上に資するといえる。
【0053】
一方、サンプルNo.9はSiが過剰で、Moが過少であり、式(2)の値も所定の範囲から外れている。このため、大入熱溶接の熱履歴を付与した場合のMAの形成が顕著であり、さらにPによる粒界脆化の影響が大きく、大入熱溶接を適用した際に十分な低温靭性を確保することができない。
また、サンプルNo.10は、Pに対するMoの含有量比が小さいため式(2)の値が所定の範囲から外れている。このため、Pによる粒界脆化の影響が顕著となり、大入熱溶接を適用した際に十分な低温靭性を確保することができない。