(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143363
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法
(51)【国際特許分類】
E04B 5/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
E04B5/02 J
E04B5/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055996
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595027099
【氏名又は名称】株式会社ニッケンビルド
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】牛米 歩
(72)【発明者】
【氏名】井澤 祐衣
(72)【発明者】
【氏名】平原 章次
(57)【要約】
【課題】たわみを適正に評価することができる鋼製床材のたわみ算定に関する設計方法を提供する。
【解決手段】接合部材20は、鋼製床板1に対して配置される上金具21と、支持部材10に対して配置される下金具22と、上金具21及び下金具22同士を締め付けることで鋼製床板1を支持部材10に接合する締結部23と、を備える。従って、鋼製床板1は、支持部材10に対して接合部材20の締結力によって接合される。すなわち、鋼製床板1は、単なるピン接合よりもたわみが低減される態様にて、支持部材10に接合されている。従って、たわみ算定において、設計に対して接合部材20による締結力を設計因子として組み込む。これにより、ピン接合のモデルでたわみを算定する方法に比して、実体に則して精度よくたわみの評価を行うことができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材で支持されると共に、接合部材によって前記支持部材に接合された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法であって、
前記接合部材は、前記鋼製床板に対して配置される上金具と、前記支持部材に対して配置される下金具と、前記上金具及び前記下金具同士を締め付けることで前記鋼製床板を前記支持部材に接合する締結部と、を備え、
前記たわみ算定において、設計に対して前記接合部材による締結力を設計因子として組み込む、鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
【請求項2】
前記たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式を用いる、請求項1に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
【請求項3】
前記たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式にたわみ低減係数を乗じた算出式を用いる、請求項1に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
【請求項4】
前記たわみ低減係数は、前記鋼製床板と前記支持部材との単位投影面積あたりに作用する荷重を変数とする線形近似関数で表される、請求項3に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
【請求項5】
前記たわみ低減係数の算定に用いられる前記線形近似関数は、前記鋼製床板の断面形状と支持スパンの組み合わせによって定められ、
前記単位投影面積あたりに作用する荷重を設定することで前記たわみ低減係数を定める、請求項4に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
【請求項6】
前記鋼製床板は、板厚tの鋼板を幅W及び高さHにて断面コ字状に形成され、上面にスリットを有し、下面にリップ加工部を有し、
前記たわみ低減係数αは、前記鋼製床板と前記支持部材との単位投影面積あたりに作用する荷重wとすると、式(12)の範囲内に分布する、請求項3に記載した鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
-9.2399w+1≦α≦-2.2234w+1 …(12)
ただし、前記板厚tは1.6~2.0mmであり、前記幅Wは200~250mmであり、前記高さHは40~60mmである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持部材で支持されると共に、接合部材によって支持部材に接合された鋼製床板が知られている(例えば、特許文献1)。鋼製床板は、建築物の梁材などの支持部材に載せ架けられ、専用の接合部材で支持部材とともに挟み込んで接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述のような鋼製床板は、支持部材で支持された状態で上面を作業者が歩行することで、当該上面に荷重が作用する。そのため、鋼製床板に荷重によるたわみが発生する。従って、上述のような鋼製床板の支持構造において、鋼製床板のたわみを算定して安全性を確保することが求められていた。しかしながら、従来の設計方法では、安全性を過大に評価していたため、適正なたわみの評価を行うことが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、たわみを適正に評価することができる鋼製床材のたわみ算定に関する設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法は、支持部材で支持されると共に、接合部材によって支持部材に接合された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法であって、接合部材は、鋼製床板に対して配置される上金具と、支持部材に対して配置される下金具と、上金具及び下金具同士を締め付けることで鋼製床板を支持部材に接合する締結部と、を備え、たわみ算定において、設計に対して接合部材による締結力を設計因子として組み込む。
【0007】
本発明に係る鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法において、接合部材は、鋼製床板に対して配置される上金具と、支持部材に対して配置される下金具と、上金具及び下金具同士を締め付けることで鋼製床板を支持部材に接合する締結部と、を備える。従って、鋼製床板は、支持部材に対して接合部材の締結力によって接合される。すなわち、鋼製床板は、単なるピン接合よりもたわみが低減される態様にて、支持部材に接合されている。従って、たわみ算定において、設計に対して接合部材による締結力を設計因子として組み込む。これにより、ピン接合のモデルでたわみを算定する方法に比して、実体に則して精度よくたわみの評価を行うことができる。以上より、たわみを適正に評価することができる。
【0008】
たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式を用いてよい。このように、たわみの算出における一般的な算出式を用いることで、計算が複雑になることを抑制することができる。
【0009】
たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式にたわみ低減係数を乗じた算出式を用いてよい。このように、たわみの算出における一般的な算出式にたわみ低減係数を乗じるだけの簡便な算出式を用いることで、計算が複雑になることを抑制することができる。
【0010】
たわみ低減係数は、鋼製床板と支持部材との単位投影面積あたりに作用する荷重を変数とする線形近似関数で表されてよい。この場合、接合部材による締結力の設計因子として、単位投影面積あたりに作用する荷重を変数として組み込み、線形近似関数で表したシンプルな態様でたわみ低減係数を算出することができる。
【0011】
たわみ低減係数の算定に用いられる線形近似関数は、鋼製床板の断面形状と支持スパンの組み合わせによって定められ、単位投影面積あたりに作用する荷重を設定することでたわみ低減係数を定めてよい。この場合、鋼製床板の条件に合わせて適切に線形近似関数を設定することができる。
【0012】
鋼製床板は、板厚tの鋼板を幅W及び高さHにて断面コ字状に形成され、上面にスリットを有し、下面にリップ加工部を有し、たわみ低減係数αは、鋼製床板と支持部材との単位投影面積あたりに作用する荷重wとすると、式(12)の範囲内に分布してよい。
-9.2399w+1≦α≦-2.2234w+1 …(12)
ただし、板厚tは1.6~2.0mmであり、幅Wは200~250mmであり、高さHは40~60mmであってよい。上記範囲内に入ったたわみ低減係数を採用することで、たわみを適正に評価された範囲に抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、たわみを適正に評価することができる鋼製床材のたわみ算定に関する設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る設計方法の対象となる鋼製床板の支持構造を示す平面図である。
【
図5】鋼製床板のたわみを算定するモデルを示す図である。
【
図6】鋼製床板のたわみを算定するモデルを示す図である。
【
図7】鋼製床板のたわみを算定するモデルを示す図である。
【
図9】解析モデルにおけるたわみ分布を示す結果である。
【
図10】解析モデルにおけるたわみ分布を示す結果である。
【
図11】解析モデルにおけるたわみ分布を示す結果である。
【
図12】解析モデルにおけるたわみ分布を示す結果である。
【
図13】単位投影面積あたりの荷重wとたわみ低減係数αの関係の一例を示すグラフである。
【
図14】単位投影面積あたりの荷重wとたわみ低減係数αの関係の一例を示すグラフである。
【
図15】単位投影面積あたりの荷重wとたわみ低減係数αの関係の一例を示すグラフである。
【
図16】各線形近似関数における係数一覧を示す表である。
【
図17】単位投影面積あたりの荷重wとたわみ低減係数αの関係の一例を示すグラフである。
【
図18】単位投影面積あたりの荷重wとたわみ低減係数αの関係の一例を示すグラフである。
【
図19】たわみ低減設計法の算定結果を示す表である。
【
図20】たわみ低減設計法の算定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、鋼製床板1の支持構造100を示す。
図1に示すように、鋼製床板1は、多数列状に敷き並べることで水平構面を形成する多機能建材である。鋼製床板1は、工場や倉庫等の軽便な床材やビル屋上の通路板として使用される。鋼製床板1は、使用用途や要求仕様に応じて各種材料・形状・仕上げが用意されており、例えば,有孔鋼板で構成される場合は、良好な採光や通気性が確保され、各種建築用途に適した特長を有している。また、鋼製床板1は、薄い鋼板で成形されているため、人力での運搬が可能で、施工も容易である。鋼製床板1は、支持部材10で支持されると共に、接合部材20によって支持部材10に接合される。鋼製床板1は、一対の支持部材10の上面に架け渡されるように配置され(
図5参照)、各支持部材10に対して接合部材20で接合される。
【0017】
図2に示すように、鋼製床板1は,鋼板をコ字状に成形することで鋼製される。鋼製床板1は、板厚tの鋼板を幅W及び高さHにて断面コ字状に形成される。鋼製床板1は、上面1aにスリットやエンボスのような各種加工が施されている場合がある。本実施形態では、上面1aにスリット2が形成されている(
図1参照)。さらに、支持部材10の上フランジ12と接するように鋼製床板1の下面にリップ加工が施されている。鋼製床板1は、上壁部3と、一対の側壁部4と、一対のリップ加工部6と、を有する。板厚tは1.6~2.0mmであり、幅Wは200~250mmであり、高さHは40~60mmである。
【0018】
図3及び
図4に示すように、鋼製床板1は建築物の梁材などの支持部材10に載せ架け、専用の接合部材20で支持部材10とともに挟み込んで接合される。支持部材10は、ウェブ11と、ウェブ11の上端から幅方向の両側へ延びる上フランジ12と、を備える。接合部材20は、鋼製床板1に対して配置される上金具21と、支持部材10に対して配置される下金具22と、上金具21及び下金具22同士を締め付けることで鋼製床板1を支持部材10に接合する締結部23と、を備える。
【0019】
図3(a)(b)及び
図4(a)は、鋼製床板1の上面1aにスリット2が形成されている場合の例である。
図4(b)は、鋼製床板1の上面1aにスリット2が形成されていない場合の例である。
【0020】
図3(a)に示すように、上金具21は、鋼製床板1の上面1aに配置され、スリット2を跨ぐように配置される。下金具22は、断面L字状の形状を有する。下金具22は、上フランジ12の下面に配置される支持部22aと、支持部22aから上金具21へ向かって延在する延在部22bと、を有する。締結部23は、上金具21及び下金具22に挿入されるボルト等によって構成される。締結部23は、上金具21及びスリット2を貫通して、上フランジ12の外側の位置にて、下金具22を貫通する。締結部23による締結力を調整することで、上金具21と下金具22とで鋼製床板1及び支持部材10の上フランジ12を挟み込むことによって両者を接合する。
【0021】
図3(b)では、下金具22の形状が複数回屈曲した形状を有する。
図4(a)では、下金具22が、支持部材10の上フランジ12を挟み込む構成を有している。
図4(b)では、鋼製床板1の上面1aがスリット2を有していないため、上金具21は、リップ加工部6の上面に配置される。これにより、上金具21と下金具22が、リップ加工部6及び上フランジ12を挟み込む。
【0022】
ここで、鋼製床板1を使用するにあたり、使用用途に応じて適用範囲が設定されている。一般的には、鋼製床板1に作用すると想定される作用荷重に対して、支持条件に応じて曲げモーメントM、曲げ応力度σb、たわみδを算定し、各種判定条件に適合する範囲で許容スパンが設定される。作用荷重は屋内外の歩廊を想定した人的集中荷重や等分布風荷重、屋内の倉庫床や物置棚を想定した等分布積載荷重等が想定され、使用状況により長期・短期許容曲げ応力度σbの検定やたわみ率δ/Lの上限値が与えられる。たわみ率δ/Lの上限値は、1/300以下に設定されることが多い。ここで、Lは、鋼製床板1を支持する部材のスパンである支持スパンを意味する。支持スパンLは、一般的に支持部材10の中心間距離で定義される。
【0023】
図5に示すように、上記の算定において,設計時に与えられる境界条件は,作用荷重をスパン中央への集中荷重Pで、支持点をピン支持で与えることが一般的である(以下、「ピン接合モデル」と称する)。曲げモーメントM,曲げ応力度σb,たわみδはそれぞれ式(1),(2)(3)で与えられる。これらの算出式は、集中荷重Pが作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式である。なお、式(2)は支持条件によらず共通となる。Pは、集中荷重(N)である。Zは、鋼製床板1の断面係数(mm
3)である。Eは、鋼製床板1のヤング係数(N/mm
2)である。Iは、鋼製床板1の断面二次モーメント(mm
4)である。これらの式(1),(2),(3)は、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式である。後述のように、本実施形態におけるたわみ算定において、このようなたわみの算出における一般的な算出式が用いられる。
M=PL/4 …(1)
σb=M/Z …(2)
δ=PL
3/(48EI) …(3)
【0024】
上述の通り、曲げモーメントM、曲げ応力度σb、及びたわみδの算定時には簡易的な力学モデルとしてピン接合モデル(
図5(a)参照)で評価されており、設計者の理解としては把握しやすい整理である。一方、鋼製床板1の支持点15は接合部材20(
図3、
図4参照)により一定の締結力で鋼製床板1と支持部材10を挟み込んでおり、支持点15はある大きさの回転剛性kを有しているものと推定される。すなわち、鋼製床板1の支持点における境界条件はピン支持に対して一定の固定度を有する力学モデルで表現されるのが適切である。一方、ピン支持に対して十分な回転剛性kを有する場合、鋼製床板1の支持点における境界条件は固定支持とみなし、回転剛性kは無限の値として評価される(以下、固定支持の境界条件を「剛接合モデル」と称する)。本発明では、回転剛性kが無限の値を意図したものではなく,一定の回転剛性kを評価することが必要である。
また、接合部材20は支持部材10間の内法位置に接合されるため,実態としてはスパンLの取り方が支持部材10間の内法距離L’(L’=L‐B、B:梁の上フランジ幅(mm)
図7参照)とするのが精緻な値である。すなわち,ピン接合モデルで仮定した支持スパンLはとりわけ短スパン時に曲げモーメントM(式(1)),たわみδ(式(3))を過大に評価する場合がある。そのため、本実施形態に係る鋼製床板1のたわみ算定に関する設計方法は、鋼製床板1の接合において支持点の固定度を適切に評価できる力学モデルの構築と評価・設計方法にを提供する。本実施離形態は、支持点の境界条件を半固定支持の力学モデル(
図5(b)、以下、「半剛接合モデル」と称する)で表現し、ピン接合モデルに対するたわみδの低減を評価するとともに,鋼製床板1におけるたわみδの評価式を提案することができる。
【0025】
[力学モデル]
本実施形態の設計方法における力学モデルは、
図5(b)に示すように、両端の支持点15を回転バネでモデル化した半剛接合モデルで表現することができる。その理由は、前出のように支持点15に一定の締結力が作用することである大きさの回転剛性kを有しているものと推定されるためである。半剛接合モデルは、ピン接合モデルのように支持点15が回転する(回転剛性k=0)モデルと、剛接合モデルのように回転しない(回転剛性=∞)モデルの中間的な固定度である。回転剛性kは式(4)の範囲に分布する。また、たわみδは式(5)の範囲に分布する。ここで、剛接合モデルのたわみδは、「δ=PL
3/192EI」に設定している。また、ピン接合モデルのたわみδは、前述の式(3)である「PL
3/(48EI)」に設定している。
図6に各接合モデルのたわみδを模式的に表す。
図6(a)はピン接合モデルを示す。
図6(b)は半剛接合モデルを示す。
図6(c)は剛接合モデルを示す。なお、
図6(b)(c)では、ピン接合モデルが破線で示されている。
0<k<∞ …(4)
PL
3/(192EI)<δ<PL
3/(48EI) …(5)
【0026】
[接合金具のモデル化]
上述の通り,鋼製床板1の接合部材20は鋼製床板1と支持部材10とを挟み込む形式であり、ボルト等の締結力により接合される。一般的に、支持部材10は鋼製床板1に対して十分に剛であるため、
図3(a)に示すように、鋼製床板1を鉛直下向きに押さえ付ける締結力F1が作用する。すなわち、
図7に示すように、鋼製床板1と支持部材10が接触する領域(B/2の領域)には鉛直下向きに仮想荷重P’が作用する。これにより、支持点の回転剛性kを向上させる効果が期待できる。よって,仮想荷重P’が作用することで半剛接合の境界条件が模擬されるものと推定する。仮想荷重P’は鋼製床板1の上壁部3に作用した荷重が支持部材10との接触により応力伝達する荷重である。仮想荷重P’は、接合部材20による締結力F1の大きさによって調整される。支持スパンと支持部材10の幅の長さの比B/Lは構造物の条件により多種多様であるため、仮想荷重P’は鋼製床板1と支持部材10との単位投影面積あたりに作用する荷重w(N/mm
2)として、基準化する。このように締結力F1に起因する仮想荷重P’をモデル化に組み込むことにより、たわみ算定において、設計に対して接合部材20による締結力F1を設計因子として組み込むことができる。
【0027】
[有限要素解析による検証]
本実施形態の力学モデルの再現性を確認し、実態に則した境界条件の下、半剛接合でモデル化した鋼製床板1のたわみδを評価することを目的に有限要素解析を実施する。解析モデルは支持部材10上に鋼製床板1を載せ架けた状態で中央に集中荷重Pを与え、鋼製床板1が支持部材10の内法位置で仮想のピン支持となる境界条件を設定する。すなわち、支持部材10は不動であり、鋼製床板1は支持部材10の内側方向に水平移動するものの、不動である支持部材10の内法位置で支持されて内法距離L’(
図7参照)が一定のもとで鉛直方向にたわみδが生じる状態を模擬している。さらに、支持部材10の中心位置に接合部材20の締結力を模擬した鉛直下向きの仮想荷重P’を与えた。鋼製床板1はシェル要素とし、ヤング係数E=205,000N/mm
2、降伏応力度σy=235N/mm
2の完全弾塑性の材料特性を与える。なお、材料特性は一般構造用圧延鋼材SS400を想定している。支持部材10は梁材の上フランジ12のみを模擬し、ビーム要素で剛体とした。
【0028】
本解析で示す解析対象は、スリット2ありの鋼製床板1とした。二断面で解析を実施した。1つ目の断面は板厚t=1.6mm、幅W=200mm、高さH=40mm、リップ長C=25mm(以下、「MN200-40-1.6」と称する)とした。2つ目の断面は、板厚t=2.0mm、幅W=250mm、高さH=60mm、リップ長C=25mm(以下、「MN250-60-2.0」と称する)とする。なお、前者は鋼製床板1の断面性能が小さい仕様を模擬し、後者は大きい仕様を模擬しており、たわみδに占める部材の曲げ変形と支持点の回転変形の比率が異なる状況を再現している。また、支持スパンLを1,000mm、1,600mm、2,400mm、3,200mmの4仕様とした。支持部材10の幅Bは200mmで一定とした。
【0029】
本実施形態における主要な変数である支持点に対する仮想荷重P’は,鋼製床板1が長期許容耐力Palに達する際の集中荷重換算値を基準に0%、20%(0.2Pal)、50%(0.5Pal)、100%(1.0Pal)とした。なお,鋼製床板1の長期許容耐力Palは以下の式(6)(7)式で表される。なお、Malは、鋼製床板1の長期許容モーメント(N・mm)である。
Mal=σy・Z/1.5 …(6)
Pal=Mal/(L/4) …(7)
【0030】
図8は、解析モデル一覧を示す。No.1,5,9,13はピン接合モデルを模擬し、No.2~4,6~8,10~12,14~16は半剛接合モデルを模擬している。
【0031】
[解析結果]
図9~
図12に、各解析モデルにおけるたわみ分布を示す。ここで,たわみの抽出はピン接合モデルを模擬したNo.1,5,9,13が鋼製床板1のたわみ上限値にあたるδ=L/300到達時の荷重(No.1~4はP=3,313N、No.5~8はP=467N、No.9~12はP=3,534N、No.13~16はP=773N)に達するタイミングで行った。各解析モデルにおけるたわみδをプロットしたグラフを
図9(a)~
図12(a)に示す。なお、横軸は、鋼製床板1の長手方向を示すX座標(
図7参照)の位置を示す。支持スパンが同一の解析モデルでは、ピン接合モデルに対して半剛接合モデルはいずれも中央たわみδcは低減されており、仮想荷重P’が大きい解析モデルほどその影響が大きいことが確認できた。以下、ピン接合モデルに対する半剛接合モデルのたわみの比を「たわみ低減係数α」と称する。各解析モデルにおけるたわみ低減係数αを
図9(b)~
図12(b)に示す。
【0032】
[評価式の導出]
解析結果より、支持部材10に載せ架けられた領域に仮想荷重P’が作用することで鋼製床板1のたわみδが低減されることが確認された。なお、当該領域は、
図7の「B/2」の領域であり、「支持領域」と称する。支持領域に作用する単位投影面積あたりの荷重w(N/mm
2)からたわみ低減係数αとの相関関係を導出する。評価式は式(8)(9)とする。Aは、鋼製床板と支持部材との投影面積(mm
2)である。Wは、鋼製床板1の幅(mm)である。Bは、支持部材の幅(梁の上フランジ幅)(mm)である。
w=P’/A …(8)
A=W・B/2 …(9)
【0033】
図13及び
図14に単位投影面積あたりの荷重wとたわみ低減係数αの関係の一例を示す。
図13及び
図14より、両者の関係は線形性が強く、線形近似関数(y=ax+b)から決定係数はR
2≒1の高い相関がみられた。接合部材20の締結力を模擬した鉛直下向きの仮想荷重P’は支持点の回転剛性k及び固定度に影響を及ぼし、たわみ低減効果が確認できた。なお、単位投影面積あたりの荷重w=0にあたるy切片の値は工学的に1とみなせる値であり、
図13及び
図14に記載の線形近似関数における係数bは1とみなすことができる。よって,ピン接合モデルではα=1、半剛接合モデルではα<1の範囲に分布する。たわみ低減係数αは、「MN200-40-1.6」については、支持スパン1,000mm≦L≦2,400mmの範囲で、式(10)の範囲内に分布する(
図13(c)参照)。たわみ低減係数αは、「MN250-60-2.0」については、支持スパン1,600mm≦L≦3,200mmの範囲で、式(11)の範囲内に分布する(
図14(c)参照)。各線形近似関数における係数一覧を
図16に示す。また、本解析の実施例の範囲では、スリット2ありの鋼製床板1において、支持スパン1,000mm≦L≦3,200mmの範囲で、式(12)の範囲がたわみ低減係数αの分布範囲と定義でき(
図15参照)、合理的な設計が可能となる。以上のように、たわみ低減係数αは、鋼製床板1と支持部材10との単位投影面積あたりに作用する荷重を変数とする線形近似関数で表される。
-9.2399w+1≦α≦―3.3944w+1 …(10)
-5.0797w+1≦α≦―2.2234w+1 …(11)
-9.2399w+1≦α≦―2.2234w+1 …(12)
【0034】
なお、本解析の実施例におけるたわみ低減係数αの分布範囲は上述の式(12)の通りであり、支持スパンLが大きい仕様ほど線形近似関数における係数aが小さい値を示し、たわみ低減係数αは大きい値となる。すなわち、支持スパンLが上述の範囲を超える場合はたわみ低減係数αが小さくなり、たわみ算定上優位となる。また、式(3)より支持スパンが小さい範囲ではたわみδが小さくなるため、ピン接合モデルを適用した場合でもたわみ算定結果が適用範囲(δ/L≦1/300)に収まるため、たわみ低減の効果は期待できない。よって、本解析の実施例で示した断面性能の範囲において、たわみ低減係数αの適用範囲を設定する場合、支持スパンLの大小に関わらず適用範囲は「MN200-40-1.6」については式(13)の範囲とし(
図17参照)、「MN250-60-2.0」については式(14)の範囲とすることで(
図18参照)、たわみ低減係数αを過小評価することなく安全な設計が可能である。また、本解析の実施例の範囲で断面性能を考慮せずに安全側の設計とする場合には、線形近似関数の係数aの小さいMN250-60-2.0の値を採用し、たわみ低減係数αを式(14)の範囲に設定することが有効である。
―3.3944w+1≦α<1 …(13)
―2.2234w+1≦α<1 …(14)
【0035】
[たわみ低減設計法]
本実施形態における鋼製床板1のたわみ算定に関する設計方法は、従来のピン接合モデルにおいて算出される式(3)のたわみδ(mm)にたわみ低減係数αを乗じることで、半剛接合モデルで定義する鋼製床板1のたわみδ’(mm)を定義できる。δ’は以下の式で定義される。前述のように、たわみ低減係数αは線形関数で定義され、支持スパン1,000mm≦L≦3,200mmの範囲で、式(12)の範囲で分布する(単位投影面積あたりの荷重w>0)。このように、たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式(δを算出する式(3))にたわみ低減係数αを乗じた算出式を用いている。
δ’=α・δ …(15)
【0036】
本実施形態の設計法を用いることで、従来のピン接合モデルにおいてたわみ上限値を超えて適用範囲外となる支持スパンにおいてもたわみが低減されることで適用範囲内に収まる場合があり、設計上優位となる。前述の通り、支持スパンLを包括的に含める場合、たわみ低減係数αの適用範囲は、「MN200-40-1.6」については式(13)となり、「MN250-60-2.0」については式(14)となる。
【0037】
式(14)の条件で、従来設計法(ピン接合モデル)、及びたわみ低減設計法(半剛接合モデル)を用いてたわみ算定を行う。ボルトの締結力は実態に合わせて調整可能であるが、検討結果の一例として、次の様な「算定条件」と仮定して算定する。
【0038】
[算定条件]
鋼製床板1及び支持部材10に対してM6ボルト(Fb=235N/mm
2,Ab=20.1mm
2)の降伏耐力の20%(945N)の締結力を与える。支持部材10への載せ架け幅は100mmとし、単位投影面積あたりの荷重w(N/mm
2)を算定する。算定結果を
図19及び
図20に示す。
図19及び
図20のうち、グレーで示す欄は、適用範囲外(δ/L>1/300)であることを示す。
図19及び
図20のうち、模様が付されている欄は、従来設計法で適用範囲外だったものが、低減設計法によって適用可能となったことを示す。
・単位投影面積あたりの荷重w
(a)MN200-40-1.6:w=0.0472(N/mm
2)
(b)MN250-60-2.0:w=0.0378(N/mm
2)
・たわみ低減係数α
(a)MN200-40-1.6:α=-3.3944・0.0472+1=0.8397
(b)MN250-60-2.0:α=-2.2234・0.0378+1=0.9160
【0039】
次に、本実施形態に係る鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法の作用・効果について説明する。
【0040】
本実施形態に係る鋼製床板1のたわみ算定に関する設計方法において、接合部材20は、鋼製床板1に対して配置される上金具21と、支持部材10に対して配置される下金具22と、上金具21及び下金具22同士を締め付けることで鋼製床板1を支持部材10に接合する締結部23と、を備える。従って、鋼製床板1は、支持部材10に対して接合部材20の締結力によって接合される。すなわち、鋼製床板1は、単なるピン接合よりもたわみが低減される態様にて、支持部材10に接合されている。従って、たわみ算定において、設計に対して接合部材20による締結力を設計因子として組み込む。これにより、ピン接合のモデルでたわみを算定する方法に比して、実体に則して精度よくたわみの評価を行うことができる。以上より、たわみを適正に評価することができる。
【0041】
たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式を用いてよい。このように、たわみの算出における一般的な算出式を用いることで、計算が複雑になることを抑制することができる。
【0042】
たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式にたわみ低減係数αを乗じた算出式を用いてよい。このように、たわみの算出における一般的な算出式にたわみ低減係数を乗じるだけの簡便な算出式を用いることで、計算が複雑になることを抑制することができる。
【0043】
たわみ低減係数は、鋼製床板1と支持部材10との単位投影面積あたりに作用する荷重を変数とする線形近似関数で表されてよい。この場合、接合部材20による締結力の設計因子として、単位投影面積あたりに作用する荷重を変数として組み込み、線形近似関数で表したシンプルな態様でたわみ低減係数を算出することができる。
【0044】
たわみ低減係数の算定に用いられる線形近似関数は、鋼製床板1の断面形状と支持スパンの組み合わせによって定められ、単位投影面積あたりに作用する荷重を設定することでたわみ低減係数を定めてよい。この場合、鋼製床板1の条件に合わせて適切に線形近似関数を設定することができる。
【0045】
鋼製床板1は、板厚tの鋼板を幅W及び高さHにて断面コ字状に形成され、上面にスリット2を有し、下面にリップ加工部6を有し、たわみ低減係数αは、鋼製床板1と支持部材10との単位投影面積あたりに作用する荷重wとすると、式(12)の範囲内に分布してよい。
-9.2399w+1≦α≦-2.2234w+1 …(12)
ただし、板厚tは1.6~2.0mmであり、幅Wは200~250mmであり、高さHは40~60mmであってよい。上記範囲内に入ったたわみ低減係数を採用することで、たわみを適正に評価された範囲に抑えることができる。
【0046】
本実施形態により、鋼製床板1の実態の使用方法に則した支持点の回転剛性kおよび固定度を適切に評価し、半剛接合モデルとして鋼製床板の精緻なたわみを算定することが可能となる。従来の設計では過大に評価していたピン接合モデルで定義するたわみ算定結果に対して精緻なたわみを評価することで、たわみ評価の適正化および設計値に対するたわみの低減が可能となり、支持スパンの伸長,断面設計の効率化が可能となる。
【0047】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。上述の実施形態で説明した具体的な数式などは一例にすぎず、たわみ算定において、設計に対して接合部材による締結力を設計因子として組み込むものであれば、具体的な計算方法は適宜変更可能である。
【0048】
また、上述の実施形態ではたわみ低減係数の算定に用いられる線形近似関数を用いたが、具体的な算出方法は特に限定されず、線形近似関数をかならずしも用いなくともよい。
【0049】
[形態1]
支持部材で支持されると共に、接合部材によって前記支持部材に接合された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法であって、
前記接合部材は、前記鋼製床板に対して配置される上金具と、前記支持部材に対して配置される下金具と、前記上金具及び前記下金具同士を締め付けることで前記鋼製床板を前記支持部材に接合する締結部と、を備え、
前記たわみ算定において、設計に対して前記接合部材による締結力を設計因子として組み込む、鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
[形態2]
前記たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式を用いる、形態1に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
[形態3]
前記たわみ算定において、集中荷重が作用する両端支持部材のたわみの算出における一般的な算出式にたわみ低減係数を乗じた算出式を用いる、形態1又は2に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
[形態4]
前記たわみ低減係数は、前記鋼製床板と前記支持部材との単位投影面積あたりに作用する荷重を変数とする線形近似関数で表される、形態3に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
[形態5]
前記たわみ低減係数の算定に用いられる前記線形近似関数は、前記鋼製床板の断面形状と支持スパンの組み合わせによって定められ、
前記単位投影面積あたりに作用する荷重を設定することで前記たわみ低減係数を定める、形態4に記載された鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
[形態6]
前記鋼製床板は、板厚tの鋼板を幅W及び高さHにて断面コ字状に形成され、上面にスリットを有し、下面にリップ加工部を有し、
前記たわみ低減係数αは、前記鋼製床板と前記支持部材との単位投影面積あたりに作用する荷重wとすると、式(12)の範囲内に分布する、形態3~5の何れか一項に記載した鋼製床板のたわみ算定に関する設計方法。
-9.2399w+1≦α≦-2.2234w+1 …(12)
ただし、前記板厚tは1.6~2.0mmであり、前記幅Wは200~250mmであり、前記高さHは40~60mmである。
【符号の説明】
【0050】
1…鋼製床板、10…支持部材、20…接合部材、21…上金具、22…下金具、23…締結部。