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特開2024-143365抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス用化粧料組成物
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  • 特開-抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス用化粧料組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143365
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス用化粧料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20241003BHJP
   A61K 35/68 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 8/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20241003BHJP
   A61Q 90/00 20090101ALI20241003BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K35/68
A61P43/00 121
A61P31/16
A61K8/00
A61K8/99
A61Q90/00
A23L33/10
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055998
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(71)【出願人】
【識別番号】599125249
【氏名又は名称】学校法人武庫川学院
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】中島 綾香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】伊勢川 裕二
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB03
4B018LB06
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD89
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF12
4C083AA031
4C083AA032
4C083CC01
4C083EE50
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB01
4C087CA11
4C087CA47
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZB33
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス用化粧料組成物を提供する。
【解決手段】ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防又は治療に用いられる抗ウイルス剤、ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防又は改善に用いられる抗ウイルス用食品組成物、ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防に用いられる抗ウイルス用化粧料組成物により、解決される。このとき、ユーグレナ抽出物がユーグレナ属に属する藻類の細胞の熱水抽出物であると良い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、
インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防又は治療に用いられる抗ウイルス剤。
【請求項2】
前記ユーグレナ抽出物がユーグレナ属に属する藻類の細胞の熱水抽出物である請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、
インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防又は改善に用いられる抗ウイルス用食品組成物。
【請求項4】
前記ユーグレナ抽出物がユーグレナ属に属する藻類の細胞の熱水抽出物である請求項3に記載の抗ウイルス用食品組成物。
【請求項5】
ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、
インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防に用いられる抗ウイルス用化粧料組成物。
【請求項6】
前記ユーグレナ抽出物がユーグレナ属に属する藻類の細胞の熱水抽出物である請求項5に記載の抗ウイルス用化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス用化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症は、環境中(大気、水、土壌、動物など)に存在する病原体であるウイルスが、ヒトの体内に侵入することで引き起こされる感染性疾患であって、局地的な流行で終息することもあるが、動物(特にヒト)の移動によって世界的な規模で感染が拡大し、公衆衛生上の問題となることがある。
【0003】
インフルエンザは、A型、B型、C型の3種類のインフルエンザウイルスによって引き起こされる気道感染症である。高齢者や慢性疾患をもつインフルエンザ患者では、呼吸器系の細菌二次感染を起こしやすく、重症化し死亡率が高くなっている。
【0004】
現在、インフルエンザウイルス感染症の予防にはワクチンが、治療には抗ウイルス剤が使用されている。しかし、既存のインフルエンザワクチンには、アジュバントによる副作用や新型ウイルスへの迅速な対応ができないこと、他のウイルスに対するワクチンと比較して予防効果が低いことなどが懸念されている。
【0005】
さらに、抗ウイルス剤の副作用もあり、薬剤耐性株の出現も懸念されています。したがって、これらの課題を克服するための新しい予防法・治療法の開発が求められている。そこで、我々は食品の機能性に着目し、抗ウイルス活性を有する成分を探索してきた。
【0006】
一方で、食糧、飼料、燃料等としての利用が有望視されている生物資源として、ユーグレナ(属名:Euglena,和名:ミドリムシ)が注目されている。ユーグレナは、ビタミン,ミネラル,アミノ酸,不飽和脂肪酸など、人間が生きていくために必要な栄養素の大半に該当する幅広い種類の栄養素を備え、多種類の栄養素をバランスよく摂取するためのサプリメントとしての利用や、必要な栄養素を摂取できない貧困地域での食糧供給源としての利用の可能性が提案されている。
【0007】
特許文献1には、ユーグレナ由来物質を有効成分とし、インフルエンザウイルス感染症の予防又は治療に用いられる抗ウイルス剤が記載されている。具体的には、ユーグレナ、パラミロン又はアモルファスパラミロンを経口摂取させたマウスでは、コントロールのマウスと比較して、インフルエンザウイルス感染後の生存率が有意に高く、ウイルス力価が低下したことが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、ユーグレナ、ユーグレナの熱水抽出物、パラミロン又はアモルファスパラミロンであるユーグレナ由来物質に抗ロタウイルス作用があることが記載されている。さらに、特許文献3には、ユーグレナに抗ノロウイルス作用があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6307153号公報
【特許文献2】特許第6114484号公報
【特許文献3】特許第6139813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1乃至3に示されるように、ユーグレナに抗ウイルス作用があることが知られていたが、抗ウイルス作用を向上させることが望まれていた。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、抗ウイルス作用が向上した抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物抗ウイルス用化粧料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ケルセチンが、ユーグレナのインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス作用を向上させることを見出した。
【0013】
したがって、前記課題は、本発明の抗ウイルス剤によれば、ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防又は治療に用いられること、により解決される。
また、前記課題は、本発明の抗ウイルス用食品組成物によれば、ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防又は改善に用いられること、により解決される。
また、前記課題は、本発明の抗ウイルス用化粧料組成物によれば、ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症の予防に用いられること、により解決される。
このとき、前記ユーグレナ抽出物がユーグレナ属に属する藻類の細胞の熱水抽出物であると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス作用が向上した抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物抗ウイルス用化粧料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ユーグレナ抽出物の抗ウイルス活性を示すグラフである。
図2】ユーグレナ抽出物(EU)にケルセチン(QER)を添加した場合の24時間後の抗ウイルス活性を示すグラフである。
図3】コルビーの式を用いて算出したユーグレナとケルセチンの阻害率の理論値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図1~3を参照しながら説明する。本実施形態は、ユーグレナ抽出物と、ケルセチンを含有し、インフルエンザウイルスに対して用いられる抗ウイルス剤、抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス用化粧料組成物に関するものである。
【0017】
<インフルエンザウイルス>
本実施形態で対象となるウイルスは、インフルエンザウイルスである。インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属するRNAウイルスであって、呼吸器に炎症を誘発させ、感染者の咳及び唾液で空気中に直接伝達されるか、インフルエンザ患者の接触物などによって間接的にもヒトに伝染し得る伝染力の強いウイルスである。
【0018】
インフルエンザウイルスは、ウイルス表面に存在する抗原性糖タンパク質であるヘマグルチニン(Hemagglutinin:HA)とノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA)の活性によって宿主細胞へ吸着し、また、ノイラミニダーゼの活性によって宿主細胞内に侵入することができる。インフルエンザウイルスは、これら抗原性糖タンパク質の違いによってA型、B型及びC型に分類されている。特に、A型インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン16種と、ノイラミニダーゼ9種との型によって144種類の亜型に分けられる。そして、これらの組み合わせが頻繁に変化し、これに起因して抗原性の異なる新たな亜型のウイルスが出現することが知られている。
【0019】
インフルエンザウイルスは、急性の呼吸器感染症を引き起こし、その臨床症状は、急激な発熱、頭痛、関節痛、全身倦怠などの全身症状とともに、鼻汁、咳などの風邪にみられる種々の呼吸器症状および38℃以上の高熱を伴うのが特徴である。
【0020】
健常人では、通常約24~48時間の潜伏期間をおいて発症し、1~2週間程度で治癒するが、乳幼児、高齢者や呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患や免疫機能が低下している患者などでは、細菌などによる二次感染や肺炎を併発して死に至る場合も少なくない。また、呼吸器の局所感染にとどまらず、インフルエンザ脳炎・脳症などに代表される重症神経系合併症といった極めて重篤な症例も報告されている。このほか、腹痛、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状がみられることもあり、特に小児では注意を要する。
【0021】
<ユーグレナ>
本実施形態において、「ユーグレナ」とは、分類学上、ユーグレナ属(Euglena)に分類される微生物、その変種、その変異種及びユーグレナ科(Euglenaceae)の近縁種を含む。ここで、ユーグレナ属(Euglena)とは、真核生物のうち、エクスカバータ、ユーグレノゾア門、ユーグレナ藻綱、ユーグレナ目、ユーグレナ科に属する生物の一群である。
【0022】
ユーグレナ属に含まれる種として、具体的には、Euglena chadefaudii、Euglena deses、Euglena gracilis、Euglena granulata、Euglena mutabilis、Euglena proxima、Euglena spirogyra、Euglena viridisなどが挙げられる。ユーグレナとして、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のE. gracilis var. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株、Astasia longa等のその他のユーグレナ類であってもよい。
【0023】
ユーグレナ属は、池や沼などの淡水中に広く分布しており、これらから分離して使用しても良く、また、既に単離されている任意のユーグレナ属を使用してもよい。ユーグレナ属は、その全ての変異株を包含する。また、これらの変異株の中には、遺伝的方法、たとえば組換え、形質導入、形質転換等により得られたものも含有される。
【0024】
(ユーグレナ藻体)
本実施形態では、ユーグレナとしてユーグレナ藻体を用いることが可能である。ユーグレナ藻体として、遠心分離,濾過又は沈降等によって分離したユーグレナ生細胞をそのまま用いることができる。ユーグレナ生細胞は、培養槽から収穫後そのままの状態で使用することもできるが、水若しくは生理食塩水で洗浄するのが好ましい。また、ユーグレナ藻体が水などの液体に分散した分散液の状態で用いてもよい。本実施形態において、ユーグレナ生細胞を凍結乾燥処理やスプレー乾燥処理して得たユーグレナの乾燥藻体(ユーグレナ粉末)をユーグレナ藻体として用いると好適である。
【0025】
更に、ユーグレナ生細胞を超音波照射処理や、ホモゲナイズ等の機械処理を行うことにより得た藻体の機械的処理物をユーグレナ藻体として用いてもよい。また、機械的処理物に乾燥処理を施した機械的処理物乾燥物をユーグレナ藻体として用いてもよい。
【0026】
(ユーグレナ抽出物)
本実施形態では、有効成分としてユーグレナ抽出物(ユーグレナエキス)を用いるものである。本実施形態において、「ユーグレナ水性溶媒抽出物」とは、水性溶媒を用いてユーグレナから抽出される抽出物を意味し、特に、水性溶媒として水やアルコール類、グリコール類を用い、5℃~600℃で、数秒~数十時間抽出したユーグレナの水抽出物、熱水抽出物、アルコール抽出物、グリコール抽出物を用いることが好ましい。抽出に使用する水は、必ずしも蒸留水や、純水、又は超純水である必要はなく、例えば、水道水や不純物を含むものであってもよいが、活性成分の抽出を妨げる成分を含まない水が好ましい。
【0027】
本実施形態において、「水抽出物」とは、0~50℃(0℃を除く。)の水による抽出物を意味する。ここで、「水」とは、0~50℃(0℃を除く。)の水を意味する。水の温度は、活性成分に影響を与えずに、活性成分を十分に抽出できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、好ましくは1~40℃、より好ましくは5~35℃、特に好ましくは10~30℃である。
【0028】
本実施形態において、「熱水抽出物」とは、50℃よりも高い温度の水による抽出物を意味し、「温水抽出物」とも呼ぶことができる。ここで、「熱水」とは、50℃よりも高温の水を意味し、「熱湯」も含む概念であり、沸騰状態にある水も含まれる。また、液体状態の熱水に限定されることなく、気体状態及び超臨界状態の熱水も含まれる。熱水の温度は、活性成分に影響を与えずに、活性成分を十分に抽出できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、好ましくは50℃より高く120℃以下、より好ましくは50℃より高く100℃以下である。
【0029】
抽出に使用する水のpHは、活性成分に影響を与えずに、活性成分を十分抽出できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、好ましくはpH4~10、より好ましくはpH5~9、特に好ましくはpH6~8であるとよい。
【0030】
なお、本実施形態では、水性溶媒として、活性成分に影響を与えずに、活性成分を十分抽出できるものであって、通常、抽出に用いることができる溶媒を1種または2種以上選択して用いてもよい。例えば、水、アルコール類、グリコール類などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。アルコール類としては、エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。グリコール類としては、1,3-ブチレングリコール(BG)及びプロピレングリコール等が挙げられる。その他の水性溶媒としては、アセトン等が挙げられる。これらの溶媒は単独或いは水溶液として用いても良く、任意の2種または3種以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0031】
抽出に用いる水性溶媒の温度は、例えば、0℃以上であり、活性成分に影響を与えないのであれば特に限定されることはない。沸騰状態又は超臨界状態にある水性溶媒を使用することもできるが、5℃~600℃の水性溶媒を使用するのが好ましく、10℃~200℃の水性溶媒を使用するのがより好ましい。したがって、抽出用の水性溶媒とは、沸騰状態や超臨界状態にある水性溶媒も含むものである。抽出に使用する水性溶媒の量は、ユーグレナ中に含まれる水溶性活性成分を十分に溶解することができる量であることが好ましい。
【0032】
抽出方法も特に限定されず、例えば、以下に示す方法により抽出を行うことができるが、これに限定されることなく、通常の抽出方法を自由に選択して用いることができる。例えば、ユーグレナの藻体乾燥粉末を水性溶媒に所定時間浸漬した後に遠心分離又は濾過する方法、ユーグレナの藻体乾燥粉末を水性溶媒に加えて震盪して均一に分散させた後に遠心分離又は濾過する方法、などが挙げられる。また、抽出を促進するために、ユーグレナを添加後の水性溶媒を加熱することも可能である。
【0033】
ユーグレナの水抽出は、以下に示すような通常の方法で行うことができるが、これに限定されるものではない。例えば、ユーグレナ組織及び水を容器に入れ、適宜攪拌又は震盪しながら所定時間静置し、得られた抽出液は、そのまま水抽出物として使用可能である。また、例えば、そのような抽出液を遠心して得られる上清を水抽出物として使用することもできる。また、そのような抽出液又は上清を濃縮、乾燥して水分を除去し、これを水抽出物として使用することもできる。水抽出は、抽出効率を上げて抽出時間を短縮するために、水に、少量、例えば、10質量%以下のアルコール、好ましくはエタノールを添加して行ってもよい。水抽出を行う場合の抽出時間は、活性成分が抽出される時間であれば特に限定されず、数秒~数十時間の範囲で、抽出の温度に応じて適宜設定することができる。
【0034】
熱水による抽出は、以下に示すような、通常用いられている方法で行なうことができるが、これに限定されるものではない。ユーグレナを、通常用いられる抽出器に水とともに導入した後に、加熱することで抽出を行う。沸騰水または超臨界状態にある水を使用して抽出する場合には、水の蒸気圧に耐え得る抽出器を使用する必要がある。抽出時の圧力は1~5000気圧に設定することができ、60~400気圧に設定するのが好ましい。
【0035】
高温高圧下で抽出を行なう場合には、抽出時間が長過ぎると活性成分が分解したり、化学反応を起こすことがある。従って、高温高圧下で抽出を行なうときには、抽出時間を短時間、例えば、3分以内とするのが好ましく、1分以内とするのがより好ましく、30秒以内とすることが特に好ましい。
【0036】
抽出したユーグレナ抽出物は、そのままでも本実施形態に係る抗ウイルス剤の有効成分として用いることができるが、当該抽出物を更に、適当な分離手段(例えば、分配抽出、ゲル濾過法、シリカゲルクロマトグラフィー、逆相若しくは順相の高速液体クロマトグラフィーなど)により活性の高い画分を分画して用いることも可能である。また、ユーグレナ抽出物やその画分を、濃縮、乾燥して水性溶媒を除去し、これを水性溶媒抽出物として使用することもできる。
【0037】
(加水分解ユーグレナエキス)
ユーグレナ抽出物として、ユーグレナ属に属する藻類の細胞を蛋白質酵素分解して抽出される水溶性成分、具体的には、ユーグレナ粉末(ユーグレナ藻体)を酵素で加水分解抽出した加水分解ユーグレナエキスを用いると特に好適である。加水分解ユーグレナエキスは、特開2010-90065号記載の方法に従い、調製することが可能である。
【0038】
以下、加水分解ユーグレナエキスの調製方法について説明をする。ユーグレナの乾燥体(重量)に対し、好ましくは100倍量(重量)の精製水を加え、加圧加熱処理を行う。その後、蛋白質分解酵素を添加し藻体を処理する。処理終了後、例えば90℃で失活し、遠心分離または濾過することにより、残渣と水溶性成分を分離する。
【0039】
具体的には、加圧加熱処理条件は、オートクレーブを用いて100~150℃、大気圧~0.255MPa、1分~30分の加熱加圧処理であることが好ましく、例えば、0.1~0.14MPa、121℃で10分間の加熱加圧処理をするとよい。蛋白質分解酵素としては、例えばペプシン、パンクレアチン、パパインなど一般的に用いられるプロテアーゼ活性を有する酵素を単独または併用すればよい特に、ポリペプチド鎖の途中のペプチド結合を加水分解し、幾つかのペプチドに分解するためにエンド型ペプチダーゼを採用することが好ましい。
【0040】
市販の蛋白質分解酵素としては、ヤクルト薬品工業社製のパンチダーゼMP、アロアーゼAP-10なども採用できる。酵素の添加濃度、反応液のpHや反応温度、その他の条件等は、各酵素剤にとって最適な条件を選択すればよい。
【0041】
このようにして得られた水溶性成分は、そのまま用いることもできるが、本発明の効果を失わない範囲内で分画、脱臭,脱色,濃縮等の精製操作を加えて用いることもできる。
【0042】
また、ユーグレナ抽出物として、BGを用いて抽出したエキスを用いてもよい。
【0043】
<抗ウイルス剤>
本実施形態の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルスを病原体とするウイルス感染症患者、インフルエンザウイルス感染症に罹患したヒト以外の動物に投与されることで、インフルエンザウイルス感染症の治療剤として、またインフルエンザウイルス性疾患の治療剤として用いることができる。また、インフルエンザウイルス感染症を罹患する前のヒト、インフルエンザウイルス感染症予備軍のヒト、これらヒト以外の動物を対象としたインフルエンザウイルス感染症の予防剤として、またインフルエンザウイルス性疾患の予防剤として用いることもできる。また、本実施形態の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルスを病原体とする肺炎の予防剤又は治療剤として用いることもできる。
【0044】
<用途>
本実施形態に係る抗ウイルス剤は、医薬組成物、健康食品等の食品組成物、化粧料組成物として構成され、インフルエンザウイルスの増殖を阻害するために、予防的に使用・摂取・投与される。ユーグレナ抽出物などのユーグレナ由来物質は、食品としても摂取可能で副作用がないため、継続的に使用・摂取・投与可能である。
【0045】
(医薬組成物)
本実施形態の抗ウイルス剤は、医薬の分野では、インフルエンザウイルスの増殖阻害作用を有効に発揮できる量のユーグレナ抽出物と共に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、当該作用を有する医薬組成物が提供される。当該医薬組成物は、医薬品であっても医薬部外品であってもよい。
【0046】
当該医薬組成物は、内用的に適用されても、また外用的に適用されても良い。従って、当該医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/又は腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用することができる。当該医薬組成物の剤型としては、適用の形態により、適当に設定できるが、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤などの液状製剤、軟膏剤、またはゲル剤等の半固形剤が挙げられる。
【0047】
本実施形態に係る医薬組成物には、薬学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。例えば、本実施形態に係る医薬組成物を経口剤に適用させる場合、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。また、ドラックデリバリーシステム(DDS)を利用して、徐放性製剤等にすることもできる。
【0048】
(食品組成物)
本実施形態の抗ウイルス剤は、食品の分野では、インフルエンザウイルスの増殖阻害作用を有効に発揮できる有効な量のユーグレナ抽出物を食品素材として、各種食品に配合することにより、当該作用を有する食品組成物を提供することができる。すなわち、本発明は、食品の分野において、抗ウイルス用等と表示された食品の食品組成物を提供することができる。当該食品組成物としては、一般の食品のほか、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等が挙げられる。また、食品添加物として用いることもできる。
【0049】
当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(乳酸菌飲料、清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チュアブル、タブレット剤、チョコレート等)、パン、シリアル等が挙げられる。また、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の場合、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であっても良い。
【0050】
ここで特定保健用食品とは、生理学的機能等に影響を与える保健機能成分を含む食品であって、消費者庁長官の許可を得て特定の保健の用途に適する旨を表示可能なものである。本発明においては、抗ウイルス作用に関する特定の保健用途を表示して販売される食品となる。
【0051】
また栄養機能食品とは、栄養成分(ビタミン、ミネラル)の補給のために利用される食品であって、栄養成分の機能を表示するものである。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が定められた上限値、下限値の範囲内にある必要があり、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等もする必要がある。
【0052】
また機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品である。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものである。
【0053】
本実施形態に係る食品組成物には、ユーグレナ抽出物に加え、通常食品組成物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤などの、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0054】
(化粧料組成物)
本実施形態に係る抗ウイルス剤の有効成分であるユーグレナ抽出物は、化粧料組成物に配合することも可能である。つまり、本実施形態に係る抗ウイルス剤は、ユーグレナ抽出物の抗ウイルス作用を利用して、化粧料組成物に好適に用いることができる。該化粧料組成物は、あらゆる形態の化粧料に適用することができる。例えば、クレンジング剤、洗顔材、化粧水、ローション、乳液、クリーム、美容液、パック、スクラブ剤などのスキンケア化粧料、ファンデーション、コンシーラー、化粧下地、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナーなどのメイクアップ化粧料、日焼け止め化粧料などに適用することができる。
【0055】
本実施形態に係る化粧料組成物には、本実施形態に係る抗ウイルス剤の有効成分であるユーグレナ抽出物に加え、通常化粧料組成物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、香料、防腐防黴剤、体質顔料、着色顔料、アルコール、水などの、化粧品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0056】
本実施形態に係る化粧料組成物において、抗ウイルス剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能である。
【実施例0057】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
<実施例1:ユーグレナ熱水抽出物>
実施例1のユーグレナ抽出物として、ユーグレナ熱水抽出物を用いた。ユーグレナ熱水抽出物は、以下の手順により調製した。ユーグレナ・グラシリス粉末(ユーグレナ藻体、(株)ユーグレナ製)を、常圧下、95℃の熱水で抽出処理した後、減圧濾過して残渣を分離し、熱水抽出液を得た。得られた熱水抽出液を0.45μmフィルター滅菌したサンプルを、ユーグレナ熱水抽出物原液100%とした。
【0059】
コントロール(C)として、必要量のDMSOを用いた。
【0060】
使用した細胞:MDCK細胞
使用したウイルス:A/PR/8/34
【0061】
(方法)
・添加実験
(1)24wellプレートで24時間培養し、無血清MEMで2回洗浄した。
(2)ウイルス溶液(0.001moi)を添加し37℃で1時間インキュベートした。
(3)無血清MEMで1回洗浄し、試料を含むDMEMで24時間、培養した。
(4)上清をインフルエンザ試料として回収した。
【0062】
・フォーカス実験
(1)MDCK細胞を96wellプレートに24時間培養し、2回無血清MEMで洗浄した。
(2)添加実験で得られたウイルス希釈液を30μL添加し37℃1時間インキュベートした。
(3)ウイルス溶液を除去し無血清MEMで洗浄し、0.4%BSAを含むMEMで37℃、18時間インキュベートした。
(4)無血清MEMで洗浄しエタノールで固定し、染色した。
【0063】
図1は、ユーグレナ抽出物の抗ウイルス活性を示すグラフである。図1に示されるように、ユーグレナ抽出物では、強い抗ウイルス作用が見られ、50%のウイルスを阻害する濃度であるIC50は0.0892mg/mlであった。
【0064】
図2は、ユーグレナ抽出物とケルセチン(QER)を添加した場合の24時間後の抗ウイルス活性を示すグラフである。ユーグレナ抽出物単体、ケルセチン単体ではウイルス阻害が見られなかったが、ユーグレナ抽出物とケルセチンを添加した場合に大きな阻害効果が見られた。図3は、ユーグレナ抽出物とケルセチンの阻害率の数値を示す表である。ウイルスの阻害率は、ユーグレナ抽出物(EU)で17.7%、ケルセチン(QER)で14.5%、ユーグレナ抽出物とケルセチン(EU+QER)で66.1%であった。
【0065】
コルビーの式を用いて算出したユーグレナ抽出物とケルセチンの阻害率の理論値は29.6%であり、実際の阻害率はそれを上回っているため、ユーグレナ抽出物とケルセチン(EU+QER)の抗ウイルス効果は相乗効果があると判断された。
図1
図2
図3