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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143366
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ステアリングコラム装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/18 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B62D1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055999
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000237307
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトコラムシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】仲秋 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 友紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一喜
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 荘
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC01
(57)【要約】
【課題】内部への異物の侵入を抑制することができるステアリングコラム装置を提供する。
【解決手段】ステアリングコラム装置は、インナチューブ17と、インナチューブ17の外周面に嵌め込まれるアウタチューブ16と、インナチューブ17の外周面とアウタチューブ16の内周面との間に介在される筒状のリテーナ18とを有する。リテーナ18は、アウタチューブ16に対して、周方向の移動と、軸方向の移動とが規制されるように構成される。アウタチューブ16とインナチューブ17とは、リテーナ18を介して軸方向に相対的に移動可能である。アウタチューブ16は、軸方向に延びる第1のスリット16Aを有する。リテーナ18は、互いに分離された第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとを有している。第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとは、リテーナ18が弾性的に縮径可能となるように、互いに径方向に重ね合わせられている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングコラム装置であって、
インナチューブと、
前記インナチューブの外周面に嵌め込まれるアウタチューブと、
前記インナチューブの外周面と前記アウタチューブの内周面との間に介在される筒状のリテーナであって、前記アウタチューブに対して、周方向の移動と、軸方向の移動とが規制されるように構成されるリテーナと、を有し、
前記アウタチューブと、前記インナチューブとは、前記リテーナを介して軸方向に相対的に移動可能であって、
前記アウタチューブは、軸方向に延びるスリットを有し、
前記リテーナは、互いに分離された第1の周方向端部と、第2の周方向端部とを有し、
前記第1の周方向端部と、前記第2の周方向端部とは、前記リテーナが弾性的に縮径可能となるように、互いに径方向に重ね合わせられているステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記第1の周方向端部の厚みと、前記第2の周方向端部の厚みとの合計は、前記リテーナのうち前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とを除く部分の厚みと同じである請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記第1の周方向端部は前記第2の周方向端部に対して径方向内側に位置する一方、前記第2の周方向端部は前記第1の周方向端部に対して径方向外側に位置し、
前記リテーナのうち、前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分の周方向位置は、前記スリットの周方向位置と異なっており、
前記第2の周方向端部は、前記アウタチューブの内周面によって、前記第1の周方向端部に押し付けられている請求項1または請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項4】
前記第1の周方向端部は前記第2の周方向端部に対して径方向外側に位置する一方、前記第2の周方向端部は前記第1の周方向端部に対して径方向内側に位置し、
前記第2の周方向端部は、前記第1の周方向端部の内面に対して、径方向外側に向けて弾性的に当接している請求項1または請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項5】
前記アウタチューブを車体に支持するチルトブラケットであって、前記アウタチューブを介して互いに対向する第1の側板および第2の側板を有するチルトブラケットと、
前記第1の側板と、前記第2の側板とを互いに近接する方向に締め付けることが可能に構成される締め付け軸と、を有し、
前記アウタチューブおよび前記リテーナは、前記締め付け軸によって前記第1の側板と前記第2の側板とが互いに近接する方向に締め付けられることに伴って、弾性的に縮径され、それにより、前記アウタチューブと前記インナチューブとの相対的な移動を規制するように構成され、
前記第1の側板の剛性と、前記第2の側板の剛性とが同等である請求項1または請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項6】
前記アウタチューブを車体に支持するチルトブラケットであって、前記アウタチューブを介して互いに対向する第1の側板および第2の側板を有するチルトブラケットと、
前記第1の側板と、前記第2の側板とを互いに近接する方向に締め付けることが可能に構成される締め付け軸と、を有し、
前記アウタチューブおよび前記リテーナは、前記締め付け軸によって前記第1の側板と前記第2の側板とが互いに近接する方向に締め付けられることに伴って、弾性的に縮径され、それにより、前記アウタチューブと前記インナチューブとの相対的な移動を規制するように構成され、
前記第1の側板の剛性が、前記第2の側板の剛性よりも高く、
前記リテーナのうち、前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分の周方向位置は、前記リテーナにおいて、前記第1の側板と向き合う半周分の範囲内に設定されている請求項1または請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項7】
前記アウタチューブを車体に支持するチルトブラケットであって、前記アウタチューブを介して互いに対向する第1の側板および第2の側板を有するチルトブラケットと、
前記第1の側板と、前記第2の側板とを互いに近接する方向に締め付けることが可能に構成される締め付け軸と、を有し、
前記アウタチューブと前記リテーナとは、前記締め付け軸によって前記第1の側板と前記第2の側板とが互いに近接する方向に締め付けられることに伴って、弾性的に縮径され、それにより、前記アウタチューブと前記インナチューブとの相対的な移動を規制するように構成され、
前記第2の側板の剛性が、前記第1の側板の剛性よりも高く、
前記リテーナのうち、前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分の周方向位置は、前記リテーナにおいて、前記第2の側板と向き合う半周分の範囲内に設定されている請求項1または請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【請求項8】
前記アウタチューブは、前記アウタチューブが車体に搭載されたとき、前記スリットが上向き、または下向きとなるように構成される請求項1または請求項2に記載のステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングコラム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングコラム装置は、ステアリングシャフトを回転可能に支持する。ステアリングコラム装置には、テレスコピック機能を有するものがある。テレスコピック機能は、ステアリングホイールの位置を、車両の前後方向に調整する機能である。
【0003】
たとえば、特許文献1のステアリングコラム装置は、インナチューブと、アウタチューブと、リテーナとを有している。アウタチューブは、インナチューブの外周面にリテーナを介して嵌め込まれている。リテーナは、アウタチューブに対して、軸方向の移動と、周方向の移動とが規制されている。インナチューブと、アウタチューブとは、リテーナを介して軸方向に相対的に移動可能である。アウタチューブは、軸方向に延びる第1のスリットを有している。リテーナは、軸方向に延びる第2のスリットを有している。アウタチューブとリテーナとは、第1のスリットの周方向位置と、第2のスリットの周方向位置とが、互いに一致するように組み付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-112959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1を含め、スリットを有するステアリングコラム装置には、つぎのような懸念がある。すなわち、スリットから、ステアリングコラム装置の内部に、水あるいは粉塵などの異物が入るおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得るステアリングコラム装置は、車両のステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングコラム装置である。ステアリングコラム装置は、インナチューブと、前記インナチューブの外周面に嵌め込まれるアウタチューブと、前記インナチューブの外周面と前記アウタチューブの内周面との間に介在される筒状のリテーナであって、前記アウタチューブに対して、周方向の移動と、軸方向の移動とが規制されるように構成されるリテーナと、を有している。前記アウタチューブと、前記インナチューブとは、前記リテーナを介して軸方向に相対的に移動可能である。前記アウタチューブは、軸方向に延びるスリットを有している。前記リテーナは、互いに分離された第1の周方向端部と、第2の周方向端部とを有している。前記第1の周方向端部と、前記第2の周方向端部とは、前記リテーナが弾性的に縮径可能となるように、互いに径方向に重ね合わせられている。
【0007】
この構成によれば、リテーナの第1の周方向端部と、第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた状態に維持される。すなわち、リテーナは、閉じた筒状に維持される。スリットは、リテーナによって、アウタチューブの内側から塞がれる。このため、アウタチューブとインナチューブとが径方向に重ならない領域が生じたとしても、スリットからの異物の侵入を抑制することができる。
【0008】
上記のステアリングコラム装置において、前記第1の周方向端部の厚みと、前記第2の周方向端部の厚みとの合計は、前記リテーナのうち前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とを除く部分の厚みと同じであってもよい。
【0009】
この構成によれば、アウタチューブは、リテーナを介して、インナチューブに安定して保持される。
上記のステアリングコラム装置において、前記第1の周方向端部は前記第2の周方向端部に対して径方向内側に位置する一方、前記第2の周方向端部は前記第1の周方向端部に対して径方向外側に位置していてもよい。前記リテーナのうち、前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分の周方向位置は、前記スリットの周方向位置と異なっていてもよい。前記第2の周方向端部は、前記アウタチューブの内周面によって、前記第1の周方向端部に押し付けられていてもよい。
【0010】
この構成によれば、第1の周方向端部と、第2の周方向端部とを、互いに径方向に重ね合わせられた状態に維持することができる。
上記のステアリングコラム装置において、前記第1の周方向端部は前記第2の周方向端部に対して径方向外側に位置する一方、前記第2の周方向端部は前記第1の周方向端部に対して径方向内側に位置していてもよい。前記第2の周方向端部は、前記第1の周方向端部の内面に対して、径方向外側に向けて弾性的に当接していてもよい。
【0011】
この構成によれば、第2の周方向端部を、アウタチューブの内周面によって、第2の周方向端部に押し付ける必要がない。このため、リテーナをアウタチューブに取り付ける際、リテーナの周方向の取り付け位置を調節する必要がない。したがって、ステアリングコラム装置の組立作業効率を向上させることができる。
【0012】
上記のステアリングコラム装置において、前記アウタチューブを車体に支持するチルトブラケットであって、前記アウタチューブを介して互いに対向する第1の側板および第2の側板を有するチルトブラケットと、前記第1の側板と、前記第2の側板とを互いに近接する方向に締め付けることが可能に構成される締め付け軸と、を有していてもよい。前記アウタチューブおよび前記リテーナは、前記締め付け軸によって前記第1の側板と前記第2の側板とが互いに近接する方向に締め付けられることに伴って、弾性的に縮径され、それにより、前記アウタチューブと前記インナチューブとの相対的な移動を規制するように構成されてもよい。前記第1の側板の剛性と、前記第2の側板の剛性とが同等であってもよい。
【0013】
この構成によれば、アウタチューブの弾性的な縮径に伴い、内向きの力である保持力が、リテーナを介して、インナチューブに適切に与えられる。このため、アウタチューブを、インナチューブに対して、安定して保持することができる。
【0014】
上記のステアリングコラム装置において、前記アウタチューブを車体に支持するチルトブラケットであって、前記アウタチューブを介して互いに対向する第1の側板および第2の側板を有するチルトブラケットと、前記第1の側板と、前記第2の側板とを互いに近接する方向に締め付けることが可能に構成される締め付け軸と、を有していてもよい。前記アウタチューブおよび前記リテーナは、前記締め付け軸によって前記第1の側板と前記第2の側板とが互いに近接する方向に締め付けられることに伴って、弾性的に縮径され、それにより、前記アウタチューブと前記インナチューブとの相対的な移動を規制するように構成されてもよい。前記第1の側板の剛性が、前記第2の側板の剛性よりも高くてもよい。前記リテーナのうち、前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分の周方向位置は、前記リテーナにおいて、前記第1の側板と向き合う半周分の範囲内に設定されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、軸方向からみて、インナチューブの外周面のうち、剛性の低い第2の側板と向き合うインナチューブの半分程度が、リテーナを介して、アウタチューブの内周面に接触している。リテーナにおいて、第2の側板と向き合う半周分の範囲に、第1の周方向端部と第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分が存在しない。このため、アウタチューブが、剛性の低い第2の側板と向き合う側から締め付けられるとき、この締め付ける力が、リテーナを介してインナチューブに伝わりやすくなる。したがって、インナチューブに対するアウタチューブの保持力を確保することができる。
【0016】
上記のステアリングコラム装置において、前記アウタチューブを車体に支持するチルトブラケットであって、前記アウタチューブを介して互いに対向する第1の側板および第2の側板を有するチルトブラケットと、前記第1の側板と、前記第2の側板とを互いに近接する方向に締め付けることが可能に構成される締め付け軸と、を有していてもよい。前記アウタチューブと前記リテーナとは、前記締め付け軸によって前記第1の側板と前記第2の側板とが互いに近接する方向に締め付けられることに伴って、弾性的に縮径され、それにより、前記アウタチューブと前記インナチューブとの相対的な移動を規制するように構成されてもよい。前記第2の側板の剛性が、前記第1の側板の剛性よりも高くてもよい。前記リテーナのうち、前記第1の周方向端部と前記第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分の周方向位置は、前記リテーナにおいて、前記第2の側板と向き合う半周分の範囲内に設定されていてもよい。
【0017】
この構成によれば、軸方向からみて、インナチューブの外周面のうち、剛性の低い第1の側板と向き合うインナチューブの半分程度が、リテーナを介して、アウタチューブの内周面に接触している。リテーナにおいて、第1の側板と向き合う半周分の範囲に、第1の周方向端部と第2の周方向端部とが互いに径方向に重ね合わせられた部分が存在しない。このため、アウタチューブが、剛性の低い第1の側板と向き合う側から締め付けられるとき、この締め付ける力が、リテーナを介してインナチューブに伝わりやすくなる。したがって、インナチューブに対するアウタチューブの保持力を確保することができる。
【0018】
上記のステアリングコラム装置において、前記アウタチューブは、前記アウタチューブが車体に搭載されたとき、前記スリットが上向き、または下向きとなるように構成されてもよい。
【0019】
この構成によれば、アウタチューブのスリットがリテーナの周壁によって塞がれる。したがって、スリットからの異物の侵入を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のステアリングコラム装置によれば、内部への異物の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ステアリングコラム装置の一実施の形態の模式図である。
図2図1のII-II線に沿って切断した断面模式図である。
図3】ステアリングコラムの比較例の要部を示す斜視図である。
図4】一実施の形態にかかるリテーナの斜視図である。
図5】一実施の形態にかかるリテーナであって、アウタチューブに装着される前のリテーナの要部を軸方向からみた側面図である。
図6】一実施の形態にかかるリテーナであって、アウタチューブに装着された後のリテーナの要部を軸方向からみた側面図である。
図7】一実施の形態にかかるステアリングコラムの斜視図である。
図8】一実施の形態にかかるリテーナの重ね合わせ部の周方向位置を示すステアリングコラムの断面図である。
図9】他の実施の形態にかかるリテーナの要部を軸方向からみた側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一実施の形態に係るステアリングコラム装置を説明する。
<ステアリングコラム装置1の全体構成>
図1に示すように、車両のステアリングコラム装置1は、ステアリングシャフト2を回転可能に支持する。ステアリングシャフト2の第1の端部は、ステアリングホイール3に連結されている。ステアリングシャフト2の第2の端部は、中間軸とピニオン軸とを介して、ラック軸に噛み合わせられる。ラック軸は、車体の左右方向に沿って延びている。ラック軸の両端部は、各々、タイロッドを介して転舵輪に連結される。ステアリングホイール3の操作に伴い、転舵輪の向きが変更される。
【0023】
ステアリングシャフト2は、アウタシャフト11と、インナシャフト12とを有している。アウタシャフト11とインナシャフト12とは、たとえば、スプライン結合によって連結される。アウタシャフト11とインナシャフト12とは、一体的に回転可能である。また、アウタシャフト11と、インナシャフト12とは、軸方向に相対的に移動可能である。ステアリングシャフト2は、ステアリングホイール3が上側に位置するように、車両の前後方向X1に対して斜めに設けられる。
【0024】
ステアリングコラム装置1は、ステアリングコラム15を有している。ステアリングコラム15は、車体のフレームなどの固定部13に固定される。ステアリングシャフト2は、ステアリングコラム15に軸方向に挿通されている。ステアリングシャフト2は、軸受を介してステアリングコラム15に対して回転可能に支持される。
【0025】
ステアリングコラム15は、アウタチューブ16と、インナチューブ17と、リテーナ18とを有している。
アウタチューブ16は、金属製であって、円形の断面形状を有する筒状である。アウタチューブ16は、第1の端部と、第2の端部とを有している。第1の端部は、ステアリングホイール3に近い側のアウタチューブ16の軸方向の端部である。第2の端部は、ステアリングホイール3から遠い側のアウタチューブ16の軸方向の端部である。
【0026】
インナチューブ17は、金属製であって、円形の断面形状を有する筒状である。インナチューブ17は、第1の端部と、第2の端部とを有している。第1の端部は、ステアリングホイール3に近い側のインナチューブ17の軸方向の端部である。第2の端部は、ステアリングホイール3から遠い側のインナチューブ17の軸方向の端部である。
【0027】
リテーナ18は、樹脂製であって、円形の断面形状を有する筒状である。リテーナ18の軸方向の長さは、アウタチューブ16の軸方向の長さよりも短い。リテーナ18の第1の端部は、アウタチューブ16の第2の端部から、アウタチューブ16の内部に挿入されている。リテーナ18の外周面は、アウタチューブ16の内周面に嵌め込まれている。
【0028】
リテーナ18は、径方向外側に張り出すフランジ部18Bを有している。フランジ部18Bは、リテーナ18の第2の端部の外周面に設けられている。フランジ部18Bが、アウタチューブ16の第2の端部に軸方向に当接することによって、アウタチューブ16の第2の端部から第1の端部へ向かう方向のリテーナ18の移動が規制される。
【0029】
リテーナ18は、アウタチューブ16に対して、周方向の移動と、軸方向の移動とが規制されるように構成される。リテーナ18は、たとえば、位置決め突部を有する。位置決め突部は、リテーナ18の外周面に設けられる。アウタチューブ16は、嵌合凹部または嵌合孔を有する。嵌合凹部は、アウタチューブ16の内周面に設けられる。嵌合孔は、アウタチューブ16の周壁を径方向に貫通して設けられる。位置決め突部は、アウタチューブ16の嵌合凹部または嵌合孔に嵌合する。これにより、リテーナ18は、アウタチューブ16に対して、周方向の移動と、軸方向の移動とが規制される。
【0030】
インナチューブ17の第1の端部は、リテーナ18の第2の端部から、リテーナ18の内部に挿入されている。インナチューブ17の外周面は、リテーナ18の内周面に嵌め込まれている。すなわち、アウタチューブ16の内周面は、リテーナ18を介して、インナチューブ17の外周面に嵌め込まれている。アウタチューブ16の内周面と、インナチューブ17の外周面との間には、リテーナ18が介在されている。アウタチューブ16と、インナチューブ17とは、リテーナ18を介して軸方向に相対的に移動可能である。アウタチューブ16は、コラムブラケット21を介して車体の固定部13に固定される。
【0031】
<コラムブラケット21>
図2に示すように、コラムブラケット21は、アッパーブラケット22と、チルトブラケット23と、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとを有している。
【0032】
アッパーブラケット22は、金属製であって、車体の左右方向に延びる平板状である。アッパーブラケット22の第1の端部と、第2の端部とには、各々、取付座22Aが設けられている。第1の端部は、車両の進行方向に対して左側のアッパーブラケット22の端部である。第2の端部は、車両の進行方向に対して右側のアッパーブラケット22の端部である。アッパーブラケット22は、取付座22Aを介して車体の固定部13に固定される。
【0033】
固定部13には、2つのボルト31が突出して設けられている。ボルト31の軸方向Z1は、鉛直方向に対して交わる方向である。ステアリングシャフト2の軸方向からみて、ボルト31は、ステアリングシャフト2を基準として車体の左側と右側とに一つずつ設けられている。ボルト31は、その両端に雄ねじが設けられたスタッドボルトである。ボルト31の第1の端部は、固定部13にねじ込まれている。ボルト31の第2の端部は、取付座22Aを貫通している。ボルト31の第2の端部にナット32を締め付けることにより、取付座22Aが固定部13に固定される。ナット32と取付座22Aとの間には、座金33が介在されている。
【0034】
チルトブラケット23は、アッパーブラケット22に固定されている。チルトブラケット23は、金属製であって、角型U字状の断面形状を有している。チルトブラケット23は、固定部13と反対側が開放されている。チルトブラケット23は、第1の側板23Aと、第2の側板23Bと、連結板23Cとを有している。
【0035】
連結板23Cは、平板状であって、アッパーブラケット22の固定部13とは反対側の面に固定されている。第1の側板23Aは、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、連結板23Cの第1の側縁部に連結されている。第1の側縁部は、車両の進行方向に対する左側の連結板23Cの側縁部である。第2の側板23Bは、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、連結板23Cの第2の側縁部に連結されている。第2の側縁部は、車両の進行方向に対する右側の連結板23Cの側縁部である。第1の側板23Aと、第2の側板23Bとは、各々、ボルト31の軸方向Z1に沿って、固定部13と反対方向に延びている。第1の側板23Aと、第2の側板23Bとは、互いに平行である。第1の側板23Aと、第2の側板23Bとは、各々、ボルト31の軸方向Z1に延びる第1の長孔を有している。第1の側板23Aの剛性は、第2の側板23Bの剛性と同等である。
【0036】
第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、各々、金属製であって、角型U字状の断面形状を有している。第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、各々、アウタチューブ16の外周面に固定されている。第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、アウタチューブ16の軸方向に直交する方向において、互いに反対側に位置している。第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、車体の左右方向において、互いに対向している。
【0037】
第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、各々、ボルト31の軸方向Z1に沿って、固定部13に近接する方向に延びている。第1のクランプブラケット24Aの第1の端部と、第2のクランプブラケット24Bの第1の端部とは、各々、アウタチューブ16の外周面に固定される固定端である。第1のクランプブラケット24Aの第2の端部と、第2のクランプブラケット24Bの第2の端部とは、各々、他の部材に固定されない自由端である。
【0038】
第1のクランプブラケット24Aは、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、チルトブラケット23の第1の側板23Aの内側に位置している。第1のクランプブラケット24Aの外面は、第1の側板23Aの内面に接触している。第2のクランプブラケット24Bは、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、チルトブラケット23の第2の側板23Bの内側に位置している。第2のクランプブラケット24Bの外面は、第2の側板23Bの内面に接触している。第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、各々、ステアリングシャフト2の軸方向に延びる第2の長孔を有している。第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、各々、チルトブラケット23に対して相対的に移動可能である。
【0039】
第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、各々、締め付け軸51を介して、チルトブラケット23に連結されている。締め付け軸51は、たとえば、ボルトである。ステアリングシャフト2の軸方向からみて、締め付け軸51は、たとえば、連結板23Cと、アウタチューブ16との間に位置している。締め付け軸51は、ステアリングシャフト2の軸方向に対して交わる方向に延びている。
【0040】
締め付け軸51は、頭部52を有している。頭部52は、締め付け軸51の第1の端部に設けられている。締め付け軸51は、2つの側板(23A,23B)の第1の長孔と、2つのクランプブラケット(24A,24B)の第2の長孔とを、各々貫通して配置されている。締め付け軸51の第2の端部は、第2の側板23Bの外側に突出している。締め付け軸51の第2の端部には、ナット53が締め付けられている。頭部52と、第1の側板23Aとの間には、レバー54が回転可能に支持されている。レバー54の締め付け軸51に沿った方向の移動は、規制されている。
【0041】
レバー54は、第1のカム55を有している。第1のカム55は、レバー54の基端部に一体的に設けられている。基端部は、締め付け軸51に支持される側のレバー54の端部である。第1のカム55は、レバー54に対して頭部52の反対側に配置されている。第1の側板23Aの外面には、第2のカム56が設けられている。第2のカム56は、第1の側板23Aに対して相対的に回転することが規制されている。
【0042】
第1のカム55は、第1のカム面を有している。第1のカム面は、第1のカム55のうち、第2のカム56の方を向いている面である。第1のカム面の周縁部には、複数の突部が、周方向に間隔をあけて設けられている。第2のカム56は、第2のカム面を有している。第2のカム面は、第2のカム56のうち、第1のカム55の方を向いている面である。第2のカム面の周縁部には、複数の突部が、周方向に間隔をあけて設けられている。
【0043】
第1のカム55の回転位置は、レバー54の操作を通じて、第1の回転位置と第2の回転位置との間で切り替わる。第1の回転位置は、第1のカム55の突部が、第2のカム56の2つの突部の間に嵌まり込む位置である。第2の回転位置は、第1のカム55の突部が、第2のカム56の突部に乗り上げる位置である。
【0044】
レバー54の操作を通じて、第1のカム55の回転位置が、第1の回転位置から第2の回転位置へ切り替えられるとき、第1のカム55は第2のカム56に対して相対的に回転する。第1のカム55の回転に伴い、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げる。レバー54の締め付け軸51の軸方向への移動が規制されている。このため、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げることによって、第2のカム56は、ナット53に近づく方向に力を発揮する。力は、締め付け軸51の軸方向の力である。このため、第2のカム56とナット53との間において、第1の側板23Aと第2の側板23Bとが、互いに近接する方向に向かって弾性変形する。
【0045】
すなわち、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとが、第1の側板23Aと第2の側板23Bとによって、互いに近接する方向に挟み込まれる。第1の側板23Aの内面は、第1のクランプブラケット24Aの外面に押し付けられる。第2の側板23Bの内面は、第2のクランプブラケット24Bの外面に押し付けられる。これにより、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、チルトブラケット23に対する相対的な移動が規制される。また、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとは、第1の側板23Aと第2の側板23Bとに挟み込まれることにより、互いに近接する方向に弾性変形する。
【0046】
アウタチューブ16は、第1のスリット16Aを有している。第1のスリット16Aは、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとの間に位置している。第1のスリット16Aは、アウタチューブ16の第2の端部から第1の端部へ向かって延びている。第1のスリット16Aは、軸方向の所定範囲にわたって設けられている。第1のスリット16Aは、チルトブラケット23の連結板23Cに向かって開口している。ステアリングコラム装置1を車体に搭載した状態において、第1のスリット16Aは上を向く。
【0047】
リテーナ18は、第2のスリット18Aを有している。第2のスリット18Aは、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとの間に位置している。第2のスリット18Aは、リテーナ18の第2の端部から第1の端部へ向かって延びている。第2のスリット18Aは、軸方向の所定範囲にわたって設けられている。この所定範囲は、リテーナ18の軸方向全長であることを含む。
【0048】
第2のスリット18Aの周方向位置は、たとえば、第1のスリット16Aの周方向位置と一致させることが考えられる。この場合、第2のスリット18Aは、第1のスリット16Aを介して、チルトブラケット23の連結板23Cに向かって開口する。ステアリングコラム装置1を車体に搭載した状態において、第2のスリット18Aは上を向く。
【0049】
したがって、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとが、互いに近接する方向に弾性変形することによって、アウタチューブ16は、第1のスリット16Aの間隔が狭くなるように、かつ内径が小さくなるように、弾性変形する。アウタチューブ16の縮径に伴い、リテーナ18は、第2のスリット18Aの間隔が狭くなるように、かつ内径が小さくなるように、弾性変形する。リテーナ18は、縮径することによって、インナチューブ17の外周面を締め付ける。すなわち、アウタチューブ16は、リテーナ18を介して、インナチューブ17の外周面を締め付ける。これにより、リテーナ18を介したアウタチューブ16と、インナチューブ17との軸方向の相対移動が規制される。
【0050】
ステアリングホイール3の位置を変更する際には、レバー54の操作を通じて、第1のカム55の回転位置を、第2の回転位置から第1の回転位置へ切り替える。第1の回転位置において、第1のカム55の突部が、第2のカム56の2つの突部の間に嵌る。これにより、第1の側板23Aと第2の側板23Bとの互いに近接する方向の締め付けが解除される。また、第1のクランプブラケット24Aと第2のクランプブラケット24Bとの互いに近接する方向の締め付けが解除される。このため、第1の側板23Aと第2の側板23Bとが、各々、原位置へ弾性復帰することにより、第1の側板23Aと第2の側板23Bとの間隔が広がる。また、第1のクランプブラケット24Aと第2のクランプブラケット24Bとが、各々、原位置へ弾性復帰することにより、第1のクランプブラケット24Aと第2のクランプブラケット24Bとの間隔が広がる。
【0051】
第1の側板23Aと第2の側板23Bとの間隔が広がることによって、第1の側板23Aと第2の側板23Bとが、第1のクランプブラケット24Aと第2のクランプブラケット24Bとを挟み込む力が弱まる。このため、アウタチューブ16は、チルトブラケット23に対して上下方向に移動することが可能となる。ステアリングホイール3を上下方向へ移動させることにより、ステアリングホイール3の上下方向の位置を調節することが可能である。
【0052】
また、第1のクランプブラケット24Aと、第2のクランプブラケット24Bとの間隔が広がることによって、アウタチューブ16は、第1のスリット16Aの間隔が広がるように、かつ内径が大きくなるように、弾性的に元の形状に復帰する。これに伴い、リテーナ18は、第2のスリット18Aの間隔が広がるように、かつ内径が大きくなるように、弾性的に元の形状に復帰する。すなわち、アウタチューブ16とリテーナ18とは、インナチューブ17の外周面の締め付けを解除する。このため、リテーナ18を介して、アウタチューブ16とインナチューブ17との軸方向の相対移動が可能となる。ステアリングホイール3を軸方向に移動させることにより、ステアリングホイール3の軸方向位置を調節することが可能である。
【0053】
<異物の侵入について>
第1のスリット16Aの周方向位置と、第2のスリット18Aの周方向位置とが、互いに一致する場合、つぎのような懸念がある。すなわち、ステアリングホイール3の軸方向位置を調節する際、ステアリングホイール3の軸方向の移動に伴い、アウタチューブ16とインナチューブ17との嵌合長さが変化する。
【0054】
図3に示すように、ステアリングホイール3の軸方向位置によっては、アウタチューブ16とインナチューブ17とが径方向に重ならない領域A0が生じる。領域A0においては、第1のスリット16Aと第2のスリット18Aとを介して、ステアリングコラム15の内側と、ステアリングコラム15の外側とが連通した状態となる。このため、第1のスリット16Aと第2のスリット18Aとを介して、ステアリングコラム15の内側に、水あるいは粉塵などの異物が入るおそれがある。
【0055】
そこで、本実施の形態では、リテーナ18として、つぎの構成を採用している。
<リテーナ18の構成>
図4に示すように、リテーナ18は、C字形の断面形状を有する筒状であって、その周壁の一箇所が周方向に分断されている。すなわち、リテーナ18は、矩形の平板を円筒状に丸めた形状を有している。リテーナ18は、径方向外側に張り出すフランジ部18Bを有している。フランジ部18Bは、リテーナ18の第2の端部の外周面に設けられている。第2の端部は、アウタチューブ16に挿入される第1の端部と反対側のリテーナ18の端部である。ただし、リテーナ18の軸方向からみて、フランジ部18Bの形状は、閉じた環状ではなく、開いた環状である。リテーナ18は、樹脂製であって、たとえば、射出成形によって形成することが可能である。
【0056】
リテーナ18は、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとを有している。第1の周方向端部18Cは、リテーナ18の周方向の端部である。第2の周方向端部18Dは、第1の周方向端部18Cと反対側のリテーナ18の周方向の端部である。第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとは、互いに分離されている。リテーナ18は、第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとの間の間隔が狭くなるように、かつ内径が小さくなるように、弾性変形することが可能である。リテーナ18は、全体的に縮径することによって、弾性エネルギを蓄える。
【0057】
図5に示すように、リテーナ18が自由状態である場合、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとは、互いに離隔した状態に維持される。自由状態は、アウタチューブ16から取り外されたときのリテーナ18の状態であって、リテーナ18がアウタチューブ16によって拘束されていない状態である。リテーナ18が自由状態である場合、リテーナ18の軸方向からみた形状は、開いた環状である。
【0058】
リテーナ18が自由状態である場合、第1の周方向端部18Cは、第2の周方向端部18Dに対して、径方向内側に位置している。第1の周方向端部18Cは、リテーナ18の内周面の一部を構成する。また、リテーナ18が自由状態である場合、第2の周方向端部18Dは、第1の周方向端部18Cに対して、径方向外側に位置している。第2の周方向端部18Dは、径方向外側に若干開いている。第2の周方向端部18Dは、リテーナ18の外周面の一部を構成する。
【0059】
第1の周方向端部18C、および第2の周方向端部18Dは、各々、周方向に所定の長さを有している。第1の周方向端部18Cの周方向長さ、および第2の周方向端部18Dの周方向長さは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。周方向長さは、リテーナ18のうち、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとを除く部分からの長さである。周方向長さは、たとえば、リテーナ18をアウタチューブ16に挿入可能となる程度に縮径させたとき、第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとが、径方向に互いに重なる程度の長さに設定される。
【0060】
第1の周方向端部18Cの厚み、および第2の周方向端部18Dの厚みは、各々、リテーナ18のうち、第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとを除く部分の厚みよりも薄い。厚みは、リテーナ18の周壁の径方向の長さであって、たとえば、周方向において一定である。
【0061】
第1の周方向端部18Cの厚み、および第2の周方向端部18Dの厚みは、たとえば、リテーナ18のうち、第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとを除く部分の厚みの半分に設定される。すなわち、第1の周方向端部18Cの厚みと、第2の周方向端部18Dの厚みとの合計は、リテーナ18のうち、第1の周方向端部18Cおよび第2の周方向端部18Dを除く部分の厚みと等しい。
【0062】
図6に示すように、リテーナ18をアウタチューブ16に装着する際には、リテーナ18に外力を付与することによって、リテーナ18をアウタチューブ16に挿入可能となる程度に縮径させる。ただし、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとが、互いに径方向に重なるように、リテーナ18を弾性変形させる。この状態を維持しつつ、リテーナ18がアウタチューブ16の内部に挿入される。
【0063】
リテーナ18のアウタチューブ16への装着が完了した後、リテーナ18に対する外力が解除される。このとき、リテーナ18には、拡径する方向の反発力が作用する。反発力は、リテーナ18の形状を、図5に示される元の形状に戻すように作用する力である。しかし、リテーナ18の原形への弾性復帰は、アウタチューブ16の内周面により規制される。すなわち、リテーナ18の外周面は、アウタチューブ16の内周面に対して径方向外側に向けて押し付けられた状態に維持される。
【0064】
また、リテーナ18がアウタチューブ16の内部に装着された状態において、第2の周方向端部18Dは、アウタチューブ16の内周面によって、第1の周方向端部18Cに径方向内側に向けて押し付けられた状態に維持される。すなわち、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとは、互いに径方向に重ね合わせられた状態に維持される。このため、リテーナ18の形状は、閉じた円筒状に維持される。第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとは、重ね合わせ部18Eを構成する。重ね合わせ部18Eは、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとが、互いに径方向に重ね合わせられたリテーナ18の部分である。
【0065】
図6に示すように、リテーナ18がアウタチューブ16の内部に装着された状態において、第1の周方向端部18Cと、リテーナ18のうち第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとを除く部分との間には、第1の周方向隙間δ1が形成されている。第2の周方向端部18Dと、リテーナ18のうち第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとを除く部分との間には、第2の周方向隙間δ2が形成されている。このため、リテーナ18は、第1の周方向隙間δ1および第2の周方向隙間δ2の範囲内で縮径することが可能である。第1の周方向隙間δ1と、第2の周方向隙間δ2とは、同じ長さであってもよいし、異なる長さであってもよい。図6は、第1の周方向隙間δ1と、第2の周方向隙間δ2とが、同じ長さである場合を示している。
【0066】
レバー54の操作を通じて、アウタチューブ16が、第1のスリット16Aの間隔が狭くなるように、かつ内径が小さくなるように弾性変形すると、リテーナ18も、アウタチューブ16の縮径に伴い、内径が小さくなるように弾性変形する。リテーナ18は、縮径することにより、インナチューブ17の外周面を締め付ける。これにより、リテーナ18を介したアウタチューブ16と、インナチューブ17との軸方向の相対移動が規制される。
【0067】
<重ね合わせ部の周方向位置>
図7に示すように、重ね合わせ部18Eの周方向位置は、第1のスリット16Aの周方向位置と異なっている。すなわち、重ね合わせ部18Eの周方向位置は、第1のスリット16Aの周方向位置と一致していない。第1のスリット16Aは、リテーナ18の周壁によって、アウタチューブ16の内側から塞がれている。また、リテーナ18の外周面が、アウタチューブ16の内周面に嵌め込まれることによって、リテーナ18は、閉じた円筒状に維持される。このため、アウタチューブ16とインナチューブ17とが径方向に重ならない領域A0が生じたとしても、第1のスリット16Aを介して、ステアリングコラム15の内側と、ステアリングコラム15の外側とが互いに連通することがない。
【0068】
図8に示すように、重ね合わせ部18Eの周方向位置は、軸方向からみて、第1のスリット16Aを除く周方向範囲に設定される。重ね合わせ部18Eの周方向位置は、軸方向からみた重ね合わせ部18Eの中心線O1の位置である。中心線O1は、軸方向からみて、重ね合わせ部18Eの周方向の中心と、リテーナ18の中心とを通る直線である。
【0069】
第1のスリット16Aは、軸方向からみて、たとえば12時位置に配置されている。12時位置は、ステアリングコラム装置1が車体に搭載されたときの上方位置である。リテーナ18の重ね合わせ部18Eは、軸方向からみて、たとえば、10時位置と、11時位置との間の周方向位置に配置されている。
【0070】
ただし、重ね合わせ部18Eの周方向位置は、第1のスリット16Aの周方向位置と一致していなければよく、重ね合わせ部18Eを何時の位置に配置してもよい。重ね合わせ部18Eを何時の位置に配置しても、第1のスリット16Aは、リテーナ18の周壁によって、アウタチューブ16の内側から塞がれる。
【0071】
<アウタチューブ16の保持力について>
アウタチューブ16の第1のスリット16Aの周縁部分は、第1の周縁部と、第2の周縁部とを含む。第1の周縁部と、第2の周縁部とは、第1のスリット16Aを挟んで、周方向に対向するアウタチューブ16の一部分である。
【0072】
図8に示すように、レバー54の操作を通じて、アウタチューブ16が、第1のスリット16Aの間隔が狭くなるように、かつ内径が小さくなるように弾性変形するとき、第1の周縁部は、第1の保持力F1を、リテーナ18を介してインナチューブ17に付与する。第1の保持力F1は、内向きの力である。第1の保持力F1は、リテーナ18を介して、インナチューブ17の第1の保持部P11に与えられる。第1の保持部P11は、アウタチューブ16を保持するインナチューブ17の部分であって、第1の保持力F1がリテーナ18を介して付与されるインナチューブ17の部分である。図8では、軸方向からみて、第1の保持部P11を1つの点で示す。
【0073】
レバー54の操作を通じて、アウタチューブ16が、第1のスリット16Aの間隔が狭まるように、かつ内径が小さくなるように弾性変形するとき、第2の周縁部は、第2の保持力F2を、リテーナ18を介してインナチューブ17に付与する。第2の保持力F2は、内向きの力であって、第1の保持力F1と交わる方向の力である。第2の保持力F2は、リテーナ18を介して、たとえば、インナチューブ17の第2の保持部P12に与えられる。第2の保持部P12は、アウタチューブ16を保持するインナチューブ17の部分であって、第2の保持力F2がリテーナ18を介して付与されるインナチューブ17の部分である。図8では、軸方向からみて、第2の保持部P12を1つの点で示す。
【0074】
レバー54の操作を通じて、アウタチューブ16が、第1のスリット16Aの間隔が狭まるように、かつ内径が小さくなるように弾性変形するとき、アウタチューブ16の径方向における第1のスリット16Aと反対側の部分は、第3の保持力F3を、リテーナ18を介してインナチューブ17に付与する。第3の保持力F3は、内向きの力であって、径方向において6時位置から12時位置へ向かう方向の力を含む。6時位置は、ステアリングコラム装置1が車体に搭載されたときの下方位置である。第3の保持力F3は、リテーナ18を介して、たとえば、インナチューブ17の第3の保持部P13に与えられる。第3の保持部P13は、アウタチューブ16を保持するインナチューブ17の部分であって、第3の保持力F3がリテーナ18を介して付与されるインナチューブ17の部分である。図8では、軸方向からみて、第3の保持部P13を1つの点で示す。
【0075】
図8に二点鎖線で示すように、軸方向からみて、第1の保持部P11と、第2の保持部P12と、第3の保持部P13とを結ぶと、二等辺三角形になる。第1の保持部P11と、第3の保持部P13とを結ぶ線分は、二等辺三角形の第1の辺である。第2の保持部P12と、第3の保持部P13とを結ぶ線分は、二等辺三角形の第2の辺である。第1の保持部P11と、第2の保持部P12とを結ぶ線分は、二等辺三角形の第3の辺である。第1の辺と、第2の辺とは、等辺であって、互いに長さが等しい。第3の辺は、底辺である。第1の辺と、第2の辺との交点は、二等辺三角形の頂点である。
【0076】
第1の側板23Aの剛性と、第2の側板23Bの剛性とが同等である。また、インナチューブ17に3つの保持力(F1~F3)を付与するアウタチューブ16の3つの部分と、インナチューブ17との間には、リテーナ18の周壁が適切に介在されている。3つの部分は、アウタチューブ16の第1のスリット16Aに対する第1の周縁部と、アウタチューブ16の第1のスリット16Aに対する第2の周縁部と、アウタチューブ16の径方向における第1のスリット16Aと反対側の部分とである。
【0077】
この場合、軸方向からみて、第1の保持部P11と、第2の保持部P12と、第3の保持部P13とを結ぶと、左右対称の理想的な二等辺三角形になる。左右対称とは、たとえば、軸方向からみて、二等辺三角形の底辺の垂直二等分線と、第1のスリット16Aの中心線O2とが一致することである。中心線O2は、軸方向からみて、第1のスリット16Aの周方向の中心と、アウタチューブ16の中心とを通る直線である。
【0078】
<実施の形態の効果>
本実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1)リテーナ18がアウタチューブ16に装着された状態において、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとは、リテーナ18が弾性的に縮径可能となるように、互いに径方向に重ね合わせられている。すなわち、リテーナ18は、閉じた筒状に維持される。第1のスリット16Aは、リテーナ18の周壁によって、アウタチューブ16の内側から塞がれる。このため、アウタチューブ16とインナチューブ17とが径方向に重ならない領域A0が生じたとしても、第1のスリット16Aからの異物の侵入を抑制することができる。異物は、水あるいは粉塵などを含む。したがって、防水性、あるいは防塵性が向上する。
【0079】
(2)第1の周方向端部18Cの厚みと、第2の周方向端部18Dの厚みとの合計は、リテーナ18のうち、第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとを除く部分の厚みと同じである。このため、アウタチューブ16は、リテーナ18を介して、インナチューブ17に安定して保持される。
【0080】
(3)第1の周方向端部18Cは、第2の周方向端部18Dに対して、径方向内側に位置している。第2の周方向端部18Dは、第1の周方向端部18Cに対して、径方向外側に位置している。リテーナ18のうち、第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとが互いに径方向に重ね合わせられた部分の周方向位置は、第1のスリット16Aの周方向位置と異なっている。第2の周方向端部18Dは、アウタチューブ16の内周面によって、第1の周方向端部18Cに押し付けられている。このため、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとを、互いに径方向に重ね合わせられた状態に維持することができる。
【0081】
(4)第1の側板23Aの剛性と、第2の側板23Bの剛性とが同等である。また、3つの保持力(F1~F3)を付与するアウタチューブ16の3つの部分と、インナチューブ17との間には、リテーナ18の周壁が介在されている。このため、3つの保持力(F1~F3)は、リテーナ18を介して、インナチューブ17に適切に与えられる。したがって、軸方向からみて、第1の保持部P11と、第2の保持部P12と、第3の保持部P13とを結ぶと、左右対称の理想的な二等辺三角形になる。この状態が、アウタチューブ16を保持するうえで、最も効率がよい。したがって、アウタチューブ16は、インナチューブ17に対して、安定して保持される。
【0082】
(5)アウタチューブ16を車体に搭載したとき、第1のスリット16Aは上向きとなる。このため、アウタチューブ16の上方からの異物が、第1のスリット16Aに入り込みやすい。この点、第1のスリット16Aが、リテーナ18の周壁によって塞がれている。このため、ステアリングコラム15の上方からの異物が、第1のスリット16Aを介してステアリングコラム15の内部に侵入することを抑えることができる。
【0083】
<他の実施の形態>
本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
図9に示すように、第1の周方向端部18Cと、第2の周方向端部18Dとの径方向位置を逆にしてもよい。すなわち、第1の周方向端部18Cは、第2の周方向端部18Dに対して、径方向外側に位置している。また、第2の周方向端部18Dは、第1の周方向端部18Cに対して、径方向内側に位置している。第2の周方向端部18Dは、第1の周方向端部18Cの内面に対して、径方向外側に向けて弾性的に当接している。リテーナ18が自由状態である場合であれ、リテーナ18の軸方向からみた形状が閉じた環状に維持される。この構成を採用する場合、重ね合わせ部18Eの周方向位置は、第1のスリット16Aの周方向位置と一致していてもよい。これは、第2の周方向端部18Dを、リテーナ18の内周面によって、第1の周方向端部18Cに押し付ける必要がないからである。このため、リテーナ18をアウタチューブ16に取り付ける際、リテーナ18の周方向の取り付け位置を調節する必要がない。したがって、ステアリングコラム装置1の組立作業効率を向上させることができる。
【0084】
・リテーナ18の厚みは、周方向において一定でなくてもよい。第1の周方向端部18Cの厚みと、第2の周方向端部18Dの厚みとの合計が、リテーナ18のうち、第1の周方向端部18Cと第2の周方向端部18Dとを除く部分の厚みと同じであればよい。たとえば、第1の周方向端部18Cの外面は、周方向先端に向かうにつれて、第1の周方向端部18Cの内面に近づくように傾斜していてもよい。また、第2の周方向端部18Dの内面は、周方向先端に向かうにつれて、第2の周方向端部18Dの外面に近づくように傾斜していてもよい。
【0085】
・製品仕様によっては、締め付け軸51は、ステアリングコラム15に対して、連結板23Cと反対側に配置されていてもよい。この場合、第1のスリット16Aは、アウタチューブ16のうち、締め付け軸51と同じ側の部位に設けられる。アウタチューブ16を車体に搭載したとき、第1のスリット16Aは下向きとなる。リテーナ18の重ね合わせ部18Eの周方向位置は、図8に示されるアウタチューブ16の第1のスリット16Aを除く周方向範囲に設定される。このため、第1のスリット16Aがリテーナ18の周壁によって塞がれる。したがって、ステアリングコラム15の下方からの異物が、第1のスリット16Aを介してステアリングコラム15の内部に侵入することを抑えることができる。
【0086】
・製品仕様によっては、第1の側板23Aの剛性と、第2の側板23Bの剛性とが異なることがある。これは、チルトブラケット23全体の剛性を確保しつつ、締め込み時の操作性を確保するためである。たとえば、第1の側板23Aの剛性が、第2の側板23Bの剛性よりも高い場合、剛性の高い第1の側板23Aが締め付け軸51の軸力を受ける。剛性の低い第2の側板23Bは、締め付け軸51の軸力を受けて、アウタチューブ16を締め込む。すなわち、レバー54の操作を通じて、アウタチューブ16と、インナチューブ17との相対移動を規制するとき、第2の側板23Bが、第1の側板23Aに近づくように弾性変形する。
【0087】
このため、軸方向からみて、第1の保持部P11と、第2の保持部P12と、第3の保持部P13とを結んだとき、左右対称の理想的な二等辺三角形にはならない。第1の側板23Aと、第2の側板23Bとの剛性差によって、第1の保持部P11と、第2の保持部P12とが、若干、剛性の高い第1の側板23Aに近づく方向に移動する。また、第3の保持部P13の位置が、若干、剛性の高い第1の側板23Aから離れる方向に移動する。すなわち、第1の保持部P11と、第2の保持部P12と、第3の保持部P13が、反時計回りに移動する。第1の保持部P11と、第2の保持部P12と、第3の保持部P13とを結んだ二等辺三角形は、図8に二点鎖線で示される二等辺三角形を、若干、反時計回りに回転させたものになる。
【0088】
第1の側板23Aの剛性が、第2の側板23Bの剛性よりも高い場合、重ね合わせ部18Eの周方向位置は、リテーナ18において、剛性の高い第1の側板23Aと向き合う半周分の範囲内に設定される。軸方向からみて、インナチューブ17の外周面のうち、剛性の低い第2の側板23Bと向き合うインナチューブ17の半分程度が、リテーナ18を介して、アウタチューブ16の内周面に接触している。リテーナ18において、第2の側板23Bと向き合う半周分の範囲に、重ね合わせ部18Eが存在しない。このため、アウタチューブ16が、剛性の低い第2の側板23Bと向き合う側から締め付けられるとき、この締め付ける力が、リテーナ18を介してインナチューブ17に伝わりやすくなる。したがって、インナチューブ17に対するアウタチューブ16の保持力を確保することができる。
【0089】
第2の側板23Bの剛性が、第1の側板23Aの剛性よりも高い場合、重ね合わせ部18Eの周方向位置は、リテーナ18において、剛性の高い第2の側板23Bと向き合う半周分の範囲内に設定される。軸方向からみて、インナチューブ17の外周面のうち、剛性の低い第1の側板23Aと向き合うインナチューブ17の半分程度が、リテーナ18を介して、アウタチューブ16の内周面に接触している。リテーナ18において、第1の側板23Aと向き合う半周分の範囲に、重ね合わせ部18Eが存在しない。このため、アウタチューブ16が、剛性の低い第1の側板23Aと向き合う側から締め付けられるとき、この締め付ける力が、リテーナ18を介してインナチューブ17に伝わりやすくなる。したがって、インナチューブ17に対するアウタチューブ16の保持力を確保することができる。
【符号の説明】
【0090】
1…ステアリングコラム装置
2…ステアリングシャフト
16…アウタチューブ
16A…第1のスリット(スリット)
17…インナチューブ
18…リテーナ
18C…第1の周方向端部
18D…第2の周方向端部
23…チルトブラケット
23A…第1の側板
23B…第2の側板
51…締め付け軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9