(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143368
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】航空機用の翼体、回転翼機、固定翼機、および、航空機の製造方法
(51)【国際特許分類】
B64U 30/21 20230101AFI20241003BHJP
B64U 10/13 20230101ALI20241003BHJP
B64U 20/20 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
B64U30/21
B64U10/13
B64U20/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056007
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196003
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】劉 浩
(72)【発明者】
【氏名】戎 佳欣
(57)【要約】
【課題】比較的シンプルな構成で、飛行時における静音化を実現することができる航空機用の翼体、回転翼機、固定翼機、および、航空機の製造方法を提供する。
【解決手段】航空機の翼体は、翼前縁部分2と、翼後縁部分3とを具備する。翼後縁部分3の後端縁Eの少なくとも一部は、マクロ波状形状WSを有する。翼後縁部分3から翼前縁部分2に向かう方向を第1方向DR1と定義するとき、翼後縁部分3は、後端縁Eから第1方向DR1に延在する複数の溝31を有する。複数の溝31の各々は、マクロ波状形状WSの一部を切り欠くように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼前縁部分と、
翼後縁部分と
を具備し、
前記翼後縁部分の後端縁の少なくとも一部は、マクロ波状形状を有し、
前記翼後縁部分から前記翼前縁部分に向かう方向を第1方向と定義するとき、前記翼後縁部分は、前記後端縁から前記第1方向に延在する複数の溝を有し、
複数の前記溝の各々は、前記マクロ波状形状の一部を切り欠くように配置されている
航空機用の翼体。
【請求項2】
前記マクロ波状形状の波長は、3mm以上60mm以下である
請求項1に記載の航空機用の翼体。
【請求項3】
前記溝の幅は、0.1mm以上3mm以下である
請求項2に記載の航空機用の翼体。
【請求項4】
前記マクロ波状形状の1つの波長に対応する領域に、2個以上50個以下の前記溝が形成されている
請求項2に記載の航空機用の翼体。
【請求項5】
前記溝の深さは、1.5mm以上15mm以下である
請求項2に記載の航空機用の翼体。
【請求項6】
前記マクロ波状形状のうちの前記第1方向側の部分を波状形状底部と定義し、前記マクロ波状形状のうちの前記第1方向とは反対の第2方向側の部分を波状形状頂部と定義するとき、
前記波状形状頂部における前記溝の配置密度は、前記波状形状底部における前記溝の配置密度よりも高い
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の航空機用の翼体。
【請求項7】
1つの部品に前記マクロ波状形状および複数の前記溝の両方が形成されている
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の航空機用の翼体。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の航空機用の翼体と、
前記翼体を回転させる回転駆動部と
を具備する
回転翼機。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の航空機用の翼体と、
前記翼体が取り付けられる胴体と
を具備する
固定翼機。
【請求項10】
翼体を製造する工程と、
前記翼体を、航空機の胴体または航空機の回転駆動部に取り付ける工程と
を具備し、
前記翼体は、
翼前縁部分と、
翼後縁部分と
を備え、
前記翼後縁部分の後端縁の少なくとも一部は、マクロ波状形状を有し、
前記翼後縁部分から前記翼前縁部分に向かう方向を第1方向と定義するとき、前記翼後縁部分は、前記後端縁から前記第1方向に延在する複数の溝を有し、
複数の前記溝の各々は、前記マクロ波状形状の一部を切り欠くように配置されており、
前記翼体を製造する工程は、下記(A)、(B)、(C)のいずれか一つを含む、
(A)型あるいは3Dプリンタを用いて、前記マクロ波状形状および複数の前記溝の両方を有する部品を一体成形すること、
(B)型あるいは3Dプリンタを用いて、前記マクロ波状形状を有する中間体を作製すること、および、切削加工またはレーザ加工によって、前記中間体に、複数の前記溝を形成すること、
(C)型あるいは3Dプリンタを用いて、前記マクロ波状形状を有さない中間体を作製すること、および、切削加工またはレーザ加工によって、前記中間体に、前記マクロ波状形状および複数の前記溝を形成すること、
航空機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用の翼体、回転翼機、固定翼機、および、航空機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用の翼体に毛を取り付けて静音化を図る技術が知られている。
【0003】
関連する技術として、特許文献1には、騒音低減構造が開示されている。特許文献1に記載の騒音低減構造では、航空機の翼の外表面に柔毛材が密に取り付けられ、当該外表面が柔毛材によって覆われている。
【0004】
また、特許文献2の
図5A乃至
図5Dには、プロペラブレードの後縁部から伸長できるフリンジが記載されている。当該フリンジは、羽毛等によって構成され、プロペラブレード内に格納可能である。
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載の技術では、翼体に多数の毛を取り付ける必要があり、毛を有する翼体を作製するのに多大な労力を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-301696号公報
【特許文献2】特表2019-513602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、比較的シンプルな構成で、飛行時における静音化を実現することができる航空機用の翼体、回転翼機、固定翼機、および、航空機の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。よって、括弧付きの記載により、特許請求の範囲は、限定的に解釈されるべきではない。
【0009】
いくつかの実施形態における航空機用の翼体は、翼前縁部分(2)と、翼後縁部分(3)とを具備する。前記翼後縁部分(3)の後端縁(E)の少なくとも一部は、マクロ波状形状(WS)を有する。前記翼後縁部分(3)から前記翼前縁部分(2)に向かう方向を第1方向(DR1)と定義するとき、前記翼後縁部分(3)は、前記後端縁(E)から前記第1方向(DR1)に延在する複数の溝(31)を有する。複数の前記溝(31)の各々は、前記マクロ波状形状(WS)の一部を切り欠くように配置されている。
【0010】
上記航空機用の翼体において、前記マクロ波状形状(WS)の波長(λ)は、3mm以上60mm以下であってもよい。
【0011】
上記航空機用の翼体において、前記溝(31)の幅(W)は、0.1mm以上3mm以下であってもよい。
【0012】
上記航空機用の翼体において、前記マクロ波状形状(WS)の1つの波長に対応する領域(RG)に、2個以上50個以下の前記溝(31)が形成されていてもよい。
【0013】
上記航空機用の翼体において、前記溝(31)の深さ(D)は、1.5mm以上15mm以下であってもよい。
【0014】
上記航空機用の翼体において、前記マクロ波状形状(WS)のうちの前記第1方向(DR1)側の部分を波状形状底部(BP)と定義し、前記マクロ波状形状(WS)のうちの前記第1方向(DR1)とは反対の第2方向(DR2)側の部分を波状形状頂部(TP)と定義するとき、前記波状形状頂部(TP)における前記溝(31)の配置密度は、前記波状形状底部(BP)における前記溝(31)の配置密度よりも高くてもよい。
【0015】
上記航空機用の翼体において、1つの部品(CP)に前記マクロ波状形状(WS)および複数の前記溝(31)の両方が形成されていてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態における回転翼機は、上記航空機用の翼体(1)と、前記翼体(1)を回転させる回転駆動部(110)とを具備する。
【0017】
いくつかの実施形態における固定翼機は、上記航空機用の翼体(1)と、前記翼体(1)が取り付けられる胴体(120)とを具備する。
【0018】
いくつかの実施形態における航空機の製造方法は、翼体(1)を製造する工程と、前記翼体(1)を、航空機(100)の胴体(120)または航空機(100)の回転駆動部(110)に取り付ける工程とを具備する。前記翼体(1)は、翼前縁部分(2)と、翼後縁部分(3)とを備える。前記翼後縁部分(3)の後端縁(E)の少なくとも一部は、マクロ波状形状(WS)を有する。前記翼後縁部分(3)から前記翼前縁部分(2)に向かう方向を第1方向(DR1)と定義するとき、前記翼後縁部分(3)は、前記後端縁(E)から前記第1方向(DR1)に延在する複数の溝(31)を有する。複数の前記溝(31)の各々は、前記マクロ波状形状(WS)の一部を切り欠くように配置されている。前記翼体(1)を製造する工程は、下記(A)、(B)、(C)のいずれか一つを含む。(A)型あるいは3Dプリンタを用いて、前記マクロ波状形状(WS)および複数の前記溝(31)の両方を有する部品(CP)を一体成形すること。(B)型あるいは3Dプリンタを用いて、前記マクロ波状形状(WS)を有する中間体(10A)を作製すること、および、切削加工またはレーザ加工によって、前記中間体(10A)に、複数の前記溝(31)を形成すること。(C)型あるいは3Dプリンタを用いて、前記マクロ波状形状(WS)を有さない中間体(10B)を作製すること、および、切削加工またはレーザ加工によって、前記中間体(10B)に、前記マクロ波状形状(WS)および複数の前記溝(31)を形成すること。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、比較的シンプルな構成で、飛行時における静音化を実現することができる航空機用の翼体、回転翼機、固定翼機、および、航空機の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、第1の実施形態における航空機用の翼体の一例を模式的に示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、翼体のマクロ波状形状が、溝によって切り欠かれている様子を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、マクロ波状形状を有さない翼体の周囲の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図4】
図4は、マクロ波状形状を有さない翼体の上面近傍の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】
図5は、マクロ波状形状を有する翼体の周囲の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】
図6は、マクロ波状形状を有する翼体の上面近傍の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図7は、マクロ波状形状および複数の溝を有する翼体の周囲の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】
図8は、マクロ波状形状および複数の溝を有する翼体の上面近傍の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】
図9は、マクロ波状形状および溝のサイズについて説明するための図である。
【
図10】
図10は、マクロ波状形状と、溝との間の配置関係の一例を模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、第1の実施形態における航空機用の翼体の一部または全部を構成する部品の一例を模式的に示す概略斜視図である。
【
図12】
図12は、マクロ波状形状と、溝との間の配置関係の一例を模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、マクロ波状形状の一例を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、第1の実施形態における航空機用の翼体の一部分を模式的に示す概略平面図である。
【
図16】
図16は、マクロ波状形状および複数の溝の両方を有する部品が、翼本体に取り付けられた様子を模式的に示す図である。
【
図17】
図17は、第2の実施形態における回転翼機の一例を模式的に示す概略平面図である。
【
図18】
図18は、第3の実施形態における固定翼機の一例を模式的に示す概略平面図である。
【
図19】
図19は、翼体製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図20】
図20は、翼体製造工程の他の一例を示すフローチャートである。
【
図21】
図21は、翼体製造工程の更に他の一例を示すフローチャートである。
【
図22】
図22は、実施形態における航空機の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、実施形態における航空機用の翼体1、回転翼機100A、固定翼機100B、および、航空機100の製造方法について説明する。なお、以下の説明において、同じ機能を有する部材、部位については同一の符号が付され、同一の符号が付されている部材、部位について、繰り返しの説明は省略される。
【0022】
(方向の定義)
本明細書において、翼後縁部分から翼前縁部分に向かう方向を第1方向DR1と定義し、第1方向DR1とは反対の方向を第2方向DR2と定義する。本明細書において、翼根から翼端に向かう方向を第3方向DR3と定義する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1乃至
図16を参照して、第1の実施形態における航空機用の翼体1について説明する。
図1は、第1の実施形態における航空機用の翼体1の一例を模式的に示す概略斜視図である。
図2は、翼体のマクロ波状形状WSが、溝31によって切り欠かれている様子を模式的に示す図である。なお、
図2において、マクロ波状形状WSのうちの溝31によって切り欠かれている部分は、一点鎖線によって示されている。
図3は、マクロ波状形状を有さない翼体の周囲の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
図4は、マクロ波状形状を有さない翼体の上面近傍の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
図5は、マクロ波状形状を有する翼体の周囲の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
図6は、マクロ波状形状を有する翼体の上面近傍の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
図7は、マクロ波状形状および複数の溝を有する翼体の周囲の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
図8は、マクロ波状形状および複数の溝を有する翼体の上面近傍の圧力変動についてのシミュレーション結果を示す図である。
図9は、マクロ波状形状WSおよび溝31のサイズについて説明するための図である。
図10は、マクロ波状形状WSと、溝31との間の配置関係の一例を模式的に示す図である。
図11は、第1の実施形態における航空機用の翼体1の一部または全部を構成する部品CPの一例を模式的に示す概略斜視図である。
図12は、マクロ波状形状WSと、溝31との間の配置関係の一例を模式的に示す図である。
図13は、マクロ波状形状WSの一例を模式的に示す図である。
図14は、第1の実施形態における航空機用の翼体1の一部分を模式的に示す概略平面図である。
図15は、
図14におけるB-B矢視断面図である。
図16は、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を有する部品CPが、翼本体MBに取り付けられた様子を模式的に示す図である。
【0024】
図1に例示されるように、第1の実施形態における航空機用の翼体1は、翼前縁部分2と、翼後縁部分3と、翼前縁部分2と翼後縁部分3との間の中央部分4とを有する。
【0025】
航空機の飛行時に、空気は、翼前縁部分2から翼後縁部分3に向かって流れる。翼上面を流れる空気の流速と、翼下面を流れる空気の流速とが異なることにより、翼体1には浮力が生じる。また、翼体近傍の圧力が変動し、当該圧力変動に起因して騒音が生じる。
【0026】
図1に例示されるように、翼後縁部分3の後端縁Eは、マクロ波状形状WSを有する。また、翼後縁部分3は、当該後端縁Eから第1方向DR1に延在する複数の溝31を有する。
図2に例示されるように、複数の溝31の各々は、マクロ波状形状WSの一部を切り欠くように配置される。なお、
図2において、マクロ波状形状WSのうちの複数の溝31によって切り欠かれている部分は、一点鎖線によって示されている。
【0027】
第1の実施形態における航空機用の翼体1では、翼後縁部分3の後端縁Eが、マクロ波状形状WSを有する。後端縁Eがマクロ波状形状WSを有することにより、翼体1の移動時に(換言すれば、飛行時に)、翼後縁部分3の上面における流体剥離が抑制され、且つ、翼体1の後端縁Eの近傍に大スケールの渦が形成されることが抑制される。
【0028】
第1の実施形態における航空機用の翼体1では、マクロ波状形状WSが、複数の溝31によって切り欠かれている。当該構成により、翼体1の移動時に(換言すれば、飛行時に)、翼後縁部分3の上面における流体剥離が抑制され、且つ、翼体1の後端縁Eの近傍に小スケールの渦が形成されることが抑制される。
【0029】
また、第1の実施形態では、翼体1の移動時に(換言すれば、飛行時に)、流体剥離、大スケールの渦の形成、および、小スケールの渦の形成が抑制されることにより、翼後縁部分3の近傍における圧力変動が抑制される。こうして、翼体1の移動時に(換言すれば、飛行時に)、翼体1の近傍の圧力変動に起因する騒音が低減される。
【0030】
(シミュレーション結果)
図3乃至
図8には、シミュレーション結果が示されている。
図3および
図4は、マクロ波状形状WSおよび溝31の両方を有さない翼体の近傍における圧力変動の大きさを示す。
図5および
図6は、マクロ波状形状WSを有し、溝31を有さない翼体の近傍における圧力変動の大きさを示す。
図7および
図8は、マクロ波状形状WSおよび溝31の両方を有する翼体1(換言すれば、第1の実施形態における航空機用の翼体1の一例)の近傍における圧力変動の大きさを示す。
図3乃至
図8において、ドットによるハッチングの密度が高い領域が、圧力変動(より具体的には、圧力の2乗平均の平方根、すなわち、RMS Pressure)の大きな領域に対応し、ドットによるハッチングの密度が低い領域が、圧力変動(より具体的には、圧力の2乗平均の平方根、すなわち、RMS Pressure)の小さな領域に対応する。
【0031】
図4および
図6を参照すると、マクロ波状形状の存在によって、圧力変動が抑制されることが把握される。
図6および
図8を参照すると、マクロ波状形状が複数の溝によって切り欠かれていることにより、圧力変動が更に抑制されることが把握される。マクロ波状形状が、複数の溝によって切り欠かかれているにも関わらず(換言すれば、マクロ波状形状の完全性が損なわれているにも関わらず)、マクロ波状形状による圧力変動の抑制効果が減らず、むしろ、圧力変動の抑制が強化されている。すなわち、マクロ波状形状と複数の溝との組み合わせによって、相乗的に圧力変動が抑制されている。
【0032】
複数の溝の存在に伴う翼上面および翼下面の面積の減少は僅かである。また、マクロ波状形状と複数の溝との組み合わせによって、翼後縁部分の上面における流体剥離が抑制されるため、翼体の空力性能は維持または改善される。一般的には、空力性能(例えば、揚抗比)と、音響学的性能とはトレードオフの関係にある。これに対し、第1の実施形態では、マクロ波状形状と複数の溝との組み合わせによって、空力性能が維持された状態で、音響学的性能が大きく改善される(より具体的には、騒音が大きく低減される。)。
【0033】
また、第1の実施形態では、空力性能(例えば、揚抗比)が維持されるため、滞空時間あるいは飛行時間を減らす必要がない。また、第1の実施形態では、空力性能(例えば、揚抗比)が維持されるため、エネルギ効率が良い(換言すれば、省エネを実現できる。)。更に、高エネルギ効率と、静音性能とが両立されるため、第1の実施形態における航空機用の翼体1を有する航空機を、様々な用途に使用することができ、様々な地域で使用することができる。
【0034】
シミュレーションの結果に整合する実験結果が得られた。実験では、マクロ波状形状と、複数の溝とによって、相乗的に圧力変動に起因する騒音が低減されることが確認された。すなわち、マクロ波状形状、および、複数の溝のうちの一方のみが存在する場合と比較しても、顕著に騒音が低減されることが確認された。マクロ波状形状、および、複数の溝の両方が存在する場合、マクロ波状形状、および、複数の溝の両方が存在しない場合と比較して、1キロヘルツ以上10キロヘルツ以下の騒音が、50%以下に低減された(4~5デシベル程度減少した。)。
【0035】
(任意付加的な構成)
図9乃至
図16を参照して、第1の実施形態における航空機用の翼体1において採用可能な任意付加的な構成について説明する。
【0036】
(マクロ波状形状のサイズ)
マクロ波状形状WSの波長λ(
図9を参照。)は、例えば、3mm以上60mm以下、より好ましくは、5mm以上45mm以下、更により好ましくは、7mm以上30mm以下である。波長λが過度に大きくないことにより、
図3および
図4に示されるような大きな圧力変動が抑制される。また、波長λが過度に小さくないことにより、マクロな波状形状とミクロな複数の溝31との組み合わせによって奏される圧力変動抑制の効果が顕著となる。マクロ波状形状WSの波長λは、翼体1のコード長(例えば、翼体1の中央部コード長、あるいは、翼体1の平均コード長)の0.05倍以上0.1倍以下であってもよい。
【0037】
マクロ波状形状WSの振幅A(
図9を参照。)は、例えば、2mm以上40mm以下、より好ましくは、4mm以上35mm以下、更により好ましくは、6mm以上25mm以下である。振幅Aが過度に小さくないことにより、
図3および
図4に示されるような大きな圧力変動が抑制される。また、振幅Aが過度に大きくないことにより、マクロな波状形状とミクロな複数の溝31との組み合わせによって奏される圧力変動抑制の効果が顕著となる。マクロ波状形状WSの振幅Aは、翼体1のコード長(例えば、翼体1の中央部コード長、あるいは、翼体1の平均コード長)の0.025倍以上0.05倍以下であってもよい。
【0038】
なお、第1の実施形態において、マクロ波状形状WSの波長λおよび振幅Aは、上述の例に限定されない。すなわち、マクロ波状形状WSと複数の溝31との組み合わせによって、圧力変動抑制の効果が好適に奏される限りにおいて、波長λの値および振幅Aの値は任意に設定され得る。
図9に記載の例では、波長λの値および振幅Aの値が、第3方向DR3(換言すれば、翼根から翼端に向かう方向)に沿って変化せず一定である。代替的に、波長λの値および振幅Aの値が、第3方向DR3に沿って変化してもよい。
【0039】
(溝31)
図10に記載の例では、複数の溝31がマクロ波状形状WSの一部を切り欠くように配置されている。マクロ波状形状WSと、このような複数の溝31との組み合わせは、鳥類の羽毛を単に模倣する特許文献1(特開2001-301696号公報)および特許文献2(特表2019-513602号公報)における技術的思想とは大きくに異なる。ただし、第1の実施形態において、マクロ波状形状WSと複数の溝31との組み合わせによる圧力変動の抑制効果が大きく損なわれない程度に、翼体1に羽毛が付加されても構わない。
図11に記載の例では、特許文献2(特表2019-513602号公報)とは異なり、マクロ波状形状WSと複数の溝31とを有する翼後縁部分3は、翼体1内に格納可能でない。翼体1が翼後縁部分3の格納機構を有さない場合、翼体1の構造をシンプルにすることができる。
【0040】
図11に記載の例では、特許文献2(特表2019-513602号公報)とは異なり、翼前縁部分2にセレーション(換言すれば、鋸刃状の凹凸)が設けられていない。このようなセレーションは、空力性能(例えば、揚抗比)を損なう可能性がある。ただし、第1の実施形態において、空力性能が大きく損なわれない程度に、翼前縁部分2にセレーションが付加されても構わない。
【0041】
(溝31の幅W)
図9等に示される溝31の幅W(より具体的には、複数の溝31の各々の幅W)は、例えば、0.1mm以上3mm以下あるいは0.1mm以上2mm以下、より好ましくは、0.2mm以上1.5mm以下、更により好ましくは、0.3mm以上1mm以下である。溝31の幅W(より具体的には、複数の溝31の各々の幅W)は、マクロ波状形状WSの波長λの1/50以上1/4以下(より好ましくは、マクロ波状形状WSの波長λの1/30以上1/6以下)であってもよい。溝31の幅Wが過度に大きくないことにより、マクロな波状形状とミクロな複数の溝31との組み合わせによって奏される圧力変動抑制の効果が顕著となる。また、溝31の幅Wが過度に小さくないことにより、溝31の存在意義が失われない。
【0042】
なお、第1の実施形態において、溝31の幅Wは、上述の例に限定されない。すなわち、マクロ波状形状WSと複数の溝31との組み合わせによって、圧力変動抑制の効果が好適に奏される限りにおいて、溝31の幅Wの値は任意に設定され得る。
図9に記載の例では、全ての溝31の幅Wが同一である。代替的に、1つの溝31の幅Wが、他の1つの溝31の幅と異なっていてもよい。
【0043】
(隣接する2つの溝31の間隔T)
隣接する2つの溝31の間隔T(
図10を参照。)は、例えば、0.1mm以上3mm以下あるいは0.2mm以上2mm以下、より好ましくは、0.3mm以上1.5mm以下、更により好ましくは、0.5mm以上1.5mm以下である。隣接する2つの溝31の間隔Tは、溝31の幅Wと同程度であってもよい。また、隣接する2つの溝31の間隔Tは、マクロ波状形状WSの波長λの1/50以上1/4以下(より好ましくは、マクロ波状形状WSの波長λの1/30以上1/6以下)であってもよい。
図10に記載の例では、隣接する2つの溝31の間隔Tは、全てが同じ間隔ではない。代替的に、隣接する2つの溝31の間隔Tは、全てが同じ間隔であってもよい。
【0044】
(マクロ波状形状WSの1つの波に対する溝31の数)
図9に例示されるように、マクロ波状形状WSの1つの波に対して、2個以上の溝31(より好ましくは、4個以上の溝31)が配置されていることが好ましい。換言すれば、マクロ波状形状WSの1つの波長λに対応する領域RGに、2個以上の溝31(より好ましくは、4個以上の溝31)が形成されていることが好ましい。この場合、溝31の幅Wが、波長λの1/2未満(あるいは、1/4未満)となり、マクロな波状形状に対して溝31の幅Wが過大にならない。すなわち、マクロな波状形状とミクロな溝31との組み合わせが好適に構成される。
【0045】
図9に例示されるように、マクロ波状形状WSの1つの波に対して、50個以下の溝31(より好ましくは、20個以下の溝31)が配置されていることが好ましい。換言すれば、マクロ波状形状WSの1つの波長λに対応する領域RGに、50個以下の溝31(より好ましくは、20個以下の溝31)が形成されていることが好ましい。この場合、マクロな波状形状に対して溝31の幅Wが過小にならない。すなわち、マクロな波状形状と、ミクロな溝31との組み合わせが好適に構成される。
【0046】
(溝31の深さD)
溝31の深さD(より具体的には、第1方向DR1に沿う方向における複数の溝31の各々の長さ)は、例えば、1.5mm以上15mm以下あるいは1.5mm以上10mm以下、より好ましくは、1.5mm以上5mm以下、更により好ましくは、2mm以上4mm以下である。溝31の深さDが過度に小さくないことにより、溝31の存在意義が失われない。また、溝31の深さDが過度に大きくないことにより、空力性能の低下が抑制され、また、翼後縁部分3の強度の低下が抑制される。
【0047】
図10に例示されるように、複数の溝31の各々は、マクロ波状形状WSの第1方向DR1側の頂点C1を順番に結ぶ仮想線L1を横切らないように配置されていてもよい。この場合、空力性能の低下が十分に抑制され、また、翼後縁部分3の強度の低下が十分に抑制される。
【0048】
複数の溝31の各々は、翼体1の移動時に(換言すれば、飛行時に)、空気に対して翼体1が相対移動する方向に沿うように延在していることが好ましい。例えば、マクロ波状形状WSの第2方向DR2側の頂点C2を順番に結ぶ仮想線L2が、空気に対して翼体1が相対移動する方向に対して垂直である場合には、複数の溝31の各々の延在方向は、当該仮想線L2に対して略垂直であることが好ましい。
【0049】
(溝31の配置密度)
図12に例示されるように、マクロ波状形状WSのうちの第1方向DR1側の部分(より具体的には、マクロ波状形状WSのうちの第1方向DR1側の半分)を波状形状底部BPと定義し、マクロ波状形状WSのうちの第1方向DR1とは反対の第2方向DR2側の部分(より具体的には、マクロ波状形状WSのうちの第2方向DR2側の半分)を波状形状頂部TPと定義する。
【0050】
図12に記載の例では、波状形状頂部TPにおける溝31の配置密度は、波状形状底部BPにおける溝31の配置密度よりも高い。マクロ波状形状WSと、波状形状頂部TPにおける複数の溝31との組み合わせによって、圧力変動が効果的に抑制される。また、波状形状底部BPに配置される溝31の密度が低いか、あるいは、当該密度がゼロであることにより、空力性能の低下、および、翼後縁部分3の強度の低下が抑制される。
【0051】
(波状形状頂部TPの端部の丸み)
図12に記載の例では、波状形状頂部TPは、第2方向DR2側の端部において丸みR2を有する。波状形状頂部TPの端部が丸みR2を有する場合、波状形状頂部TPの端部が尖っている場合と比較して、波状形状頂部TPの近傍の圧力変動が抑制される。
【0052】
(波状形状底部BPの端部の丸み)
図12に記載の例では、波状形状底部BPは、第1方向DR1側の端部において丸みR1を有する。波状形状底部BPの端部が丸みR1を有する場合、波状形状底部BPの端部が尖っている場合と比較して、翼後縁部分3の強度が高くなる。波状形状底部BPの第1方向DR1側の端部には、溝31が形成されていないことが好ましい。波状形状底部BPの第1方向DR1側の端部に溝31が形成されていないことにより、翼後縁部分3の強度が高くなる。
【0053】
図12に記載の例では、マクロ波状形状WSは、正弦波形状を有する。代替的に、
図13に例示されるように、マクロ波状形状WSにおいて、波状形状頂部TPの丸みR2を有する端部と、波状形状底部BPの丸みR1を有する端部とが、直線SLによって結ばれていてもよい。
【0054】
(突出部32)
図10に記載の例では、翼後縁部分3は、2つの隣接する溝31の間に配置される突出部32を有する。突出部32は、翼体1の移動時に(換言すれば、飛行時に)、空気に対して翼体1が相対移動する方向に沿うように延在していることが好ましい。例えば、マクロ波状形状WSの第2方向DR2側の頂点C2を順番に結ぶ仮想線L2が、空気に対して翼体1が相対移動する方向に対して垂直である場合には、突出部32の延在方向は、当該仮想線L2に対して略垂直であることが好ましい。
【0055】
図14に記載の例では、翼後縁部分3は、第1溝31-1と第2溝31-2との間に配置される第1突出部32aと、第2溝31-2と第3溝31-3との間に配置される第2突出部32bとを有する。付加的に、翼後縁部分3は、第1溝31-1と第4溝31-4との間に配置される第3突出部32cを有していてもよい。
【0056】
図14に記載の例では、マクロ波状形状WSの1つの波長に対応する領域に、第1溝31-1、第2溝31-2、第3溝31-3、第4溝31-4、第1突出部32a、第2突出部32b、および、第3突出部32cが配置されている。
【0057】
図14に記載の例では、第1突出部32aは、波状形状頂部TPの中央部分に配置されている。
図14に記載の例では、第1突出部32aの基端部の幅は一定であり、第1突出部32aの先端部の幅は、第2方向DR2に向かうにつれて減少する。また、第1突出部32aの第2方向DR2側の縁部は、マクロ波状形状WSの一部を構成する。
【0058】
第1突出部32aの厚さは、第2方向DR2に向かうにつれて、徐々に減少するように構成されていてもよい。
【0059】
第2突出部32bは、第1突出部32aと比較して、波状形状頂部TPの頂点C2から遠い位置に配置されている。より具体的には、第3方向DR3に平行な方向において、第2突出部32bの全体は、第1突出部32aと比較して、波状形状頂部TPの頂点C2から遠い位置に配置されている。また、第2突出部32bの第2方向DR2側の先端P2は、第1突出部32aの第2方向DR2側の先端(すなわち、頂点C2)よりも第1方向DR1側に配置されている。
【0060】
図14に記載の例では、第2突出部32bの基端部の幅は一定であり、第2突出部32bの先端部の幅は、第2方向DR2に向かうにつれて減少する。また、第2突出部32bの第2方向DR2側の縁部は、マクロ波状形状WSの一部を構成する。
図14に記載の例では、第2突出部32bの先端P2は尖っているが、第2突出部32bの先端P2は丸みを有していてもよい。
【0061】
第2突出部32bの厚さは、第2方向DR2に向かうにつれて、徐々に減少するように構成されていてもよい。
【0062】
第3突出部32cは、第1突出部32aと比較して、波状形状頂部TPの頂点C2から遠い位置に配置されている。より具体的には、第3方向DR3に平行な方向において、第3突出部32cの全体は、第1突出部32aと比較して、波状形状頂部TPの頂点C2から遠い位置に配置されている。また、第3突出部32cの第2方向DR2側の先端P3は、第1突出部32aの第2方向DR2側の先端(すなわち、頂点C2)よりも第1方向DR1側に配置されている。
【0063】
図14に記載の例では、第3突出部32cの基端部の幅は一定であり、第3突出部32cの先端部の幅は、第2方向DR2に向かうにつれて減少する。また、第3突出部32cの第2方向DR2側の縁部は、マクロ波状形状WSの一部を構成する。
図14に記載の例では、第3突出部32cの先端P3は尖っているが、第3突出部32cの先端P3は丸みを有していてもよい。
【0064】
第3突出部32cの厚さは、第2方向DR2に向かうにつれて、徐々に減少するように構成されていてもよい。
【0065】
図14に例示されるように、第3突出部32cは、第1突出部32aの中心軸に対して、第2突出部32bと対称に配置されていてもよい。
【0066】
図14に記載の例では、第1突出部32aの幅w1が、第2突出部32bの幅w2(あるいは、第3突出部32cの幅w3)よりも大きいが、第1突出部32aの幅w1は、第2突出部32bの幅w2(あるいは、第3突出部32cの幅w3)と同じであってもよい。
【0067】
図15に記載の例では、第1方向DR1に垂直な断面において、突出部32は、矩形形状を有する。第1方向DR1に垂直な断面において、突出部32は、長方形形状を有していてもよい。複数の突出部32のうちの少なくとも1つは、幅wが厚さhよりも大きな板状の突出部であってもよい。
【0068】
(翼後縁部分3の厚さ)
翼後縁部分3の厚さは、構造強度および空力性能を考慮して設定される。
図11に記載の例において、マクロ波状形状WSの波の底(換言すれば、マクロ波状形状WSのうちの最も第1方向DR1側の部分)において、翼体1の厚さHは、例えば、0.5mm以上2mm以下である。マクロ波状形状WSを構成する部分の厚さは、第2方向DR2に向かうにつれて減少するように構成されていてもよい。
【0069】
(マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の形成)
図11に例示されるように、1つの部品CPに、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方が形成されていてもよい。この場合、マクロ構造であるマクロ波状形状WSとミクロ構造である複数の溝31とを有する部品CPを、低コスト且つ効率的に製造することができる。より具体的には、1つの部品に羽毛模擬部品などの他の部品を取り付ける場合と比較して、マクロ波状形状WSと複数の溝31とを有する一体成形部品(すなわち、接着剤あるいは機械的接合を用いずに一体物として形成された部品)を、低コスト且つ効率的に製造することができる。
【0070】
図11に例示されるように、1つの一体成形された部品CPが、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を有する翼後縁部分3と、翼前縁部分2と、翼後縁部分3と翼前縁部分2との間の中央部分4と、を含んでいてもよい。この場合、
図16に例示されるように、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を有する部品CPを、翼本体MBに取り付ける場合と比較して、翼体1を、低コスト且つ効率的に製造することができる。なお、翼体1のサイズが大きい場合(例えば、翼体1が有人航空機の翼体である場合等)には、第1の実施形態において、
図16に例示される態様(すなわち、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を有する部品CPが、翼本体MBに取り付けられた態様)が採用されてもよい。
【0071】
第1の実施形態における航空機用の翼体1は、翼体1の翼根を回転シャフトまたは胴体に取り付ける部品を除いて、1つの部品CPによって構成されていてもよい。代替的に、翼体1のスパン(換言すれば、第3方向DR3に沿う方向における長さ)が大きい場合には、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方が形成されている部品CPが複数個用意され、当該複数の部品CPが、スパン方向に沿って、配置されていてもよい。
【0072】
(マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を含む部品CPの材質)
マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を含む部品CPは、例えば、カーボン製、樹脂製、繊維強化複合材製、または、金属製である。マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を含む部品CPは、少なくとも、翼体1の移動時に(換言すれば、飛行時に)バタつかないように剛性を有することが好ましい。気流に対する部品CP(すなわち、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を含む部品CP)のバタつきが防止されることにより空力性能の低下が抑制される。
【0073】
(第2の実施形態)
図1乃至
図17を参照して、第2の実施形態における回転翼機100Aについて説明する。
図17は、第2の実施形態における回転翼機100Aの一例を模式的に示す概略平面図である。
【0074】
図17に例示されるように、第2の実施形態における回転翼機100Aは、航空機用の翼体1と、翼体1を回転させる回転駆動部110とを備える。
【0075】
翼体1については、第1の実施形態において説明済みであるため、翼体1についての繰り返しとなる説明は省略する。なお、
図17に記載の例では、翼体1は、回転軸まわりに回転する翼体である。
図17に記載の例において、回転翼機100Aは、8個の翼体1を有し、翼体1の各々は、マクロ波状形状WSと、マクロ波状形状WSの一部を切り欠くように配置される複数の溝31とを含む。なお、回転翼機100Aが有する翼体1の数は、8個に限定されない。
【0076】
回転駆動部110は、翼体1を回転させる。当該翼体1の回転により回転翼機100Aは揚力を得て浮上あるいは浮遊する。回転駆動部110は、エンジンまたはモータ等の動力源と、動力源からの動力を翼体1に伝達する回転シャフト115とを有する。
【0077】
図17に記載の例では、回転翼機100Aは、無人機(例えば、ドローン)である。翼体1の翼長LTは、例えば、1m以下、50cm以下、あるいは、25cm以下である。代替的に、回転翼機100Aは、有人機であってもよい。また、翼体1の翼長LTは、1m以上であってもよい。
【0078】
図17に記載の例では、回転翼機100Aの翼体1が、マクロ波状形状WSと、マクロ波状形状WSの一部を切り欠くように配置される複数の溝31とを有する。よって、飛行時における回転翼機100Aの静音化が実現される。
【0079】
(第3の実施形態)
図1乃至
図16、および、
図18を参照して、第3の実施形態における固定翼機100Bについて説明する。
図18は、第3の実施形態における固定翼機100Bの一例を模式的に示す概略平面図である。
【0080】
図18に例示されるように、第3の実施形態における固定翼機100Bは、航空機用の翼体1と、翼体1が取り付けられる胴体120とを備える。
【0081】
翼体1については、第1の実施形態において説明済みであるため、翼体1についての繰り返しとなる説明は省略する。なお、
図18に記載の例では、翼体1は、胴体120に取り付けられた翼体である。翼体1は、主翼130を構成する翼体であってもよいし、尾翼140を構成する翼体であってもよい。翼体1は、マクロ波状形状WSと、マクロ波状形状WSの一部を切り欠くように配置される複数の溝31とを含む。
【0082】
図18に記載の例では、固定翼機100Bは、無人機である。翼体1の翼長LTは、例えば、2m以下、1m以下、あるいは、50cm以下である。代替的に、固定翼機100Bは、有人機であってもよい。また、翼体1の翼長LTは、2m以上であってもよい。
【0083】
図18に記載の例では、固定翼機100Bの翼体1が、マクロ波状形状WSと、マクロ波状形状WSの一部を切り欠くように配置される複数の溝31とを有する。よって、飛行時における固定翼機100Bの静音化が実現される。
【0084】
(航空機用の翼体1の製造方法)
図1乃至
図22を参照して、実施形態における航空機100の製造方法について説明する。
図19は、翼体製造工程の一例を示すフローチャートである。
図20は、翼体製造工程の他の一例を示すフローチャートである。
図21は、翼体製造工程の更に他の一例を示すフローチャートである。
図22は、実施形態における航空機100の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0085】
実施形態における航空機100の製造方法は、第1の実施形態における翼体1を有する航空機を製造する方法である。翼体1については、第1の実施形態において説明済みであるため、翼体1についての繰り返しとなる説明は省略する。実施形態における航空機100の製造方法によって製造される航空機は、回転翼機100A(必要であれば、
図17を参照。)であってもよいし、固定翼機100B(必要であれば、
図18を参照。)であってもよい。
【0086】
第1ステップST1において、翼体1が製造される。第1ステップST1は、翼体製造工程である。
【0087】
翼体製造工程(第1ステップST1)は、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を有する部品CPを製造することを含む。当該部品CPは翼体1の全体であってもよいし、翼体1の一部であってもよい。当該部品CPが翼体1の一部である場合には、第1ステップST1は、(A)マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を有する部品CPを製造することと、(B)当該部品CPを、翼本体MBに取り付けること(必要であれば、
図16を参照。)と、を含んでいてもよい。
【0088】
図19に例示されるように、翼体製造工程(第1ステップST1)は、型(mold)あるいは3Dプリンタを用いて、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31の両方を有する部品CPを一体成形することを含んでいてもよい。
【0089】
代替的に、
図20に例示されるように、翼体製造工程(第1ステップST1)は、(1)型(mold)あるいは3Dプリンタを用いて、マクロ波状形状WSを有する中間体10A(より具体的には、マクロ波状形状WSを有する翼部材中間体)を作製することと、(2)切削加工またはレーザ加工によって、当該中間体10A(より具体的には、マクロ波状形状WSを有する翼部材中間体)に、複数の溝31を形成すること、とを含んでいてもよい。
【0090】
更に代替的に、
図21に例示されるように、翼体製造工程(第1ステップST1)は、(1)型(mold)あるいは3Dプリンタを用いて、マクロ波状形状WSを有さない中間体10B(より具体的には、マクロ波状形状WSを有さない翼部材中間体)を作製することと、(2)切削加工またはレーザ加工によって、当該中間体10B(より具体的には、マクロ波状形状WSを有さない翼部材中間体)に、マクロ波状形状WSおよび複数の溝31を形成すること、とを含んでいてもよい。
【0091】
第2ステップST2において、翼体1が、航空機の胴体120、または、航空機の回転駆動部110(より具体的には、回転シャフト115)に取り付けられる(必要であれば、
図17、または、
図18を参照。)。第2ステップST2は、取付工程である。
【0092】
実施形態における航空機の製造方法では、空力性能が維持され、且つ、静音性能が改善された翼体1を有する航空機100が、低コスト且つ効率的に製造される。
【0093】
本発明は上記各実施形態または各変形例に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施形態または各変形例は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。また、各実施形態または各変形例で用いられる種々の技術は、技術的矛盾が生じない限り、他の実施形態または他の変形例にも適用可能である。さらに、各実施形態または各変形例における任意付加的な構成は、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 :翼体
2 :翼前縁部分
3 :翼後縁部分
4 :中央部分
10A :中間体
10B :中間体
31 :溝
31-1 :第1溝
31-2 :第2溝
31-3 :第3溝
31-4 :第4溝
32 :突出部
32a :第1突出部
32b :第2突出部
32c :第3突出部
100 :航空機
100A :回転翼機
100B :固定翼機
110 :回転駆動部
115 :回転シャフト
120 :胴体
130 :主翼
140 :尾翼
BP :波状形状底部
CP :部品
E :後端縁
MB :翼本体
P2 :先端
P3 :先端
TP :波状形状頂部
WS :マクロ波状形状