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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143370
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】制動システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/26 20060101AFI20241003BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20241003BHJP
   B60L 7/12 20060101ALI20241003BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241003BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20241003BHJP
   B60W 10/188 20120101ALI20241003BHJP
【FI】
B60T8/26 H
B60T8/17 Z
B60T8/17 C
B60L7/12 Q
B60W10/08
B60W10/00 120
B60W10/188
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056013
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 佑介
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓也
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D241AA65
3D241AC26
3D241AE41
3D246BA02
3D246CA03
3D246DA01
3D246EA05
3D246GA22
3D246GB12
3D246GB37
3D246GB39
3D246GC14
3D246HA03A
3D246HA43A
3D246HA44A
3D246HA46A
3D246JA12
3D246JB11
3D246JB12
3D246JB22
3D246JB27
3D246JB32
3D246JB41
3D246LA01Z
3D246LA04Z
3D246LA15Z
3D246LA16Z
3D246LA33Z
3D246LA40Z
3D246LA41Z
3D246LA43Z
3D246LA52Z
3D246LA73Z
5H125AA01
5H125AB01
5H125CB07
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】下流液圧調整弁の開度を大きくすることによって第2車輪で発生する摩擦制動力を増大させる場合、当該摩擦制動力の増大速度の制御性を高くできること。
【解決手段】制動システム200の制御装置100は、第1ホイール液圧と第2ホイール液圧とを個別に調整する2チャンネル調整処理と、サーボ圧を増大させることによって第1ホイール液圧及び第2ホイール液圧の何れをも増大させる1チャンネル調整処理とを実行できる。制御装置100は、2チャンネル調整処理の実行中に後輪RR,RL用の保持弁66を閉弁させる場合には、2チャンネル調整処理を終了して1チャンネル調整処理を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ホイールシリンダと第2ホイールシリンダとを備えた車両に適用されるとともに、前記第1ホイールシリンダの液圧である第1ホイール液圧を調整することによって前記車両の第1車輪で摩擦制動力を発生させ、前記第2ホイールシリンダの液圧である第2ホイール液圧を調整することによって前記車両の第2車輪で摩擦制動力を発生させる制動システムであって、
前記第1ホイールシリンダ及び前記第2ホイールシリンダにブレーキ液を供給する制動装置と、前記制動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制動装置は、
電気モータを動力源として有し、ブレーキ液を吐出する加圧装置と、
前記加圧装置から吐出されたブレーキ液が流動する吐出流路と、
前記第1ホイールシリンダに連通するブレーキ液の流路であって、前記吐出流路のブレーキ液圧であるサーボ圧が高いほどブレーキ液圧が高くなる第1供給流路と、
前記第2ホイールシリンダに連通するブレーキ液の流路であって、前記サーボ圧が高いほどブレーキ液圧が高くなる第2供給流路と、
前記第2供給流路に設けられた電磁弁であって、開弁している場合には前記第2ホイール液圧の増大を許容する一方、閉弁している場合には前記第2ホイール液圧の増大を規制する下流液圧調整弁と、
前記第2供給流路のうち、前記下流液圧調整弁を挟んだ前記第2ホイールシリンダの反対側の部分の液圧である上流液圧を調整すべく作動する上流液圧調整部と、
前記サーボ圧を検出するサーボ圧センサと、
前記第2供給流路のうち、前記下流液圧調整弁よりも前記第2ホイールシリンダ側の部分に接続されており、前記第2ホイール液圧を検出するホイール液圧センサと、を備え、
前記制御装置は、
前記第1ホイール液圧と前記第2ホイール液圧とを個別に調整する処理であって、前記サーボ圧センサの検出値に基づいて前記サーボ圧及び前記第1ホイール液圧を調整し、前記ホイール液圧センサの検出値に基づいて前記上流液圧調整部を制御することによって、前記第2ホイール液圧が前記サーボ圧よりも低くなるように当該第2ホイール液圧を調整する2チャンネル調整処理と、
前記サーボ圧を増大させることによって前記第1ホイール液圧及び前記第2ホイール液圧の何れをも増大させる処理であって、前記サーボ圧センサの検出値に基づいて前記サーボ圧を調整することによって前記第1ホイール液圧及び前記第2ホイール液圧を調整する1チャンネル調整処理と、を実行するようになっており、
前記制御装置は、前記2チャンネル調整処理の実行中に前記下流液圧調整弁を閉弁させる場合には、前記2チャンネル調整処理を終了して前記1チャンネル調整処理を実行する
制動システム。
【請求項2】
前記車両は、前記第2車輪で回生制動力を発生させる回生装置を備えるものであり、
前記制御装置は、前記下流液圧調整弁を閉弁させており、且つ前記1チャンネル調整処理を実行している状況下で、前記第2車輪で発生する回生制動力を摩擦制動力にすり替える場合に、回生制動力の減少に合わせて前記第2ホイール液圧が高くなるように前記下流液圧調整弁の開度を制御することによって前記第2車輪で発生する摩擦制動力を増大させる
請求項1に記載の制動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、少なくとも、前記下流液圧調整弁を閉弁させており、且つ前記1チャンネル調整処理を実行している状況下で、前記第2車輪で発生する回生制動力を摩擦制動力にすり替える場合に、前記サーボ圧が前記第2ホイール液圧よりも高くなるように前記サーボ圧を調整する
請求項2に記載の制動システム。
【請求項4】
前記制御装置は、少なくとも、前記下流液圧調整弁を閉弁させており、且つ前記1チャンネル調整処理を実行している状況下で、前記第2車輪で発生する回生制動力を摩擦制動力にすり替える場合に、前記上流液圧が前記サーボ圧と等しくなるように前記上流液圧調整部を制御する
請求項3に記載の制動システム。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記下流液圧調整弁が開弁している状態を維持することによって前記第2車輪で発生する摩擦制動力の増大を規制しない場合に、前記2チャンネル調整処理を実行し、
前記下流液圧調整弁を閉弁させることによって前記第2車輪で発生する摩擦制動力の増大を規制する場合に、前記1チャンネル調整処理を実行する
請求項1~請求項4のうち何れか一項に記載の制動システム。
【請求項6】
前記制動装置は、第1制動装置と第2制動装置とを備え、
前記第2制動装置は、前記第1供給流路と、前記第2供給流路と、前記下流液圧調整弁と、前記ホイール液圧センサと、を有し、
前記第1制動装置は、前記加圧装置と、前記吐出流路と、前記上流液圧調整部と、前記サーボ圧センサと、を有しており、
前記上流液圧調整部は、前記サーボ圧を調整すべく作動するサーボ圧調整部と、前記サーボ圧と前記上流液圧との差圧を調整する差圧調整部と、を有しており、
前記2チャンネル調整処理及び前記1チャンネル調整処理は、前記第1制動装置を作動させるための処理であり、
前記制御装置は、
前記2チャンネル調整処理において、前記サーボ圧センサの検出値に基づいた前記サーボ圧調整部の制御を通じて前記サーボ圧及び前記第1ホイール液圧を調整し、前記ホイール液圧センサの検出値に基づいた前記差圧調整部の制御を通じて前記サーボ圧と前記上流液圧との差圧を調整することによって、前記第2ホイール液圧を調整し、
前記1チャンネル調整処理において、前記サーボ圧センサの検出値に基づいた前記サーボ圧調整部の制御を通じて前記サーボ圧を調整することによって、前記第1ホイール液圧及び前記第2ホイール液圧を調整する
請求項1に記載の制動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールシリンダの液圧を制御することによって車両の車輪で摩擦制動力を発生させる制動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、前輪用のホイールシリンダの液圧である前輪ホイール液圧及び後輪用のホイールシリンダの液圧である後輪ホイール液圧を調整する制動装置を開示している。当該制動装置の制御装置は、車両の制動時に前輪に先行して後輪がロックする傾向がある場合に、後輪ホイール液圧の増大を禁止する前後制動力配分制御を実施する。具体的には、制御装置は、前後制動力配分制御において、後輪用のホイールシリンダに接続されている流路に設けられた増圧弁を閉弁させる。
【0003】
なお、制御装置が前後制動力配分制御を実施している場合などのように増圧弁が閉弁されている場合では、増圧弁が設置された上記流路のうち、増圧弁を挟んだホイールシリンダの反対側の部分のブレーキ液圧である上流液圧と、後輪ホイール液圧との間に乖離が生じうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-199270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の制御装置は、前後制動力配分制御を実施している場合などのように増圧弁を閉弁させている状況下で、後輪で発生する摩擦制動力の増大が要求されることがある。この場合、制御装置は、増圧弁の開度を調整することによって後輪ホイール液圧を増大させる。これにより、後輪で発生する摩擦制動力が増大する。しかしながら、上流液圧を制御装置が正確に把握できていない場合にあっては、増圧弁の開度の増大速度を制御しても、後輪で発生する摩擦制動力の増大速度の目標と実際の増大速度との間にずれが生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための制動システムは、第1ホイールシリンダと第2ホイールシリンダとを備えた車両に適用されるとともに、前記第1ホイールシリンダの液圧である第1ホイール液圧を調整することによって前記車両の第1車輪で摩擦制動力を発生させ、前記第2ホイールシリンダの液圧である第2ホイール液圧を調整することによって前記車両の第2車輪で摩擦制動力を発生させるシステムである。当該制動システムは、前記第1ホイールシリンダ及び前記第2ホイールシリンダにブレーキ液を供給する制動装置と、前記制動装置を制御する制御装置と、を備えている。前記制動装置は、電気モータを動力源として有し、ブレーキ液を吐出する加圧装置と、前記加圧装置から吐出されたブレーキ液が流動する吐出流路と、前記第1ホイールシリンダに連通するブレーキ液の流路であって、前記吐出流路のブレーキ液圧であるサーボ圧が高いほどブレーキ液圧が高くなる第1供給流路と、前記第2ホイールシリンダに連通するブレーキ液の流路であって、前記サーボ圧が高いほどブレーキ液圧が高くなる第2供給流路と、前記第2供給流路に設けられた電磁弁であって、開弁している場合には前記第2ホイール液圧の増大を許容する一方、閉弁している場合には前記第2ホイール液圧の増大を規制する下流液圧調整弁と、前記第2供給流路のうち、前記下流液圧調整弁を挟んだ前記第2ホイールシリンダの反対側の部分の液圧である上流液圧を調整すべく作動する上流液圧調整部と、前記サーボ圧を検出するサーボ圧センサと、前記第2供給流路のうち、前記下流液圧調整弁よりも前記第2ホイールシリンダ側の部分に接続されており、前記第2ホイール液圧を検出するホイール液圧センサと、を備えている。前記制御装置は、前記第1ホイール液圧と前記第2ホイール液圧とを個別に調整する処理であって、前記サーボ圧センサの検出値に基づいて前記サーボ圧及び前記第1ホイール液圧を調整し、前記ホイール液圧センサの検出値に基づいて前記上流液圧調整部を制御することによって、前記第2ホイール液圧が前記サーボ圧よりも低くなるように当該第2ホイール液圧を調整する2チャンネル調整処理と、前記サーボ圧を増大させることによって前記第1ホイール液圧及び前記第2ホイール液圧の何れをも増大させる処理であって、前記サーボ圧センサの検出値に基づいて前記サーボ圧を調整することによって前記第1ホイール液圧及び前記第2ホイール液圧を調整する1チャンネル調整処理と、を実行するようになっている。そして、前記制御装置は、前記2チャンネル調整処理の実行中に前記下流液圧調整弁を閉弁させる場合には、前記2チャンネル調整処理を終了して前記1チャンネル調整処理を実行する。
【0007】
上記制動システムの制御装置は、第1ホイール液圧及び第2ホイール液圧を調整するための処理として、1チャンネル調整処理又は2チャンネル調整処理を実行できる。制御装置は、2チャンネル調整処理を実行している場合に、第2車輪で発生する摩擦制動力の増大を規制すべく下流液圧調整弁を閉弁させることがある。
【0008】
ここで、下流液圧調整弁が閉弁されると、上記上流液圧と第2ホイール液圧との間に乖離が生じうる。
そこで、上記制動システムでは、下流液圧調整弁を閉弁させることによって第2車輪で発生する摩擦制動力の増大を規制する場合には、1チャンネル調整処理が実行される。1チャンネル調整処理では、サーボ圧センサの検出値に基づいて上流液圧を取得できる。そのため、この状態で第2車輪で発生する摩擦制動力の増大が要求された場合には、前記上流液圧に基づいて下流液圧調整弁の開度を調整することにより、当該摩擦制動力の増大を適切に制御できるようになる。
【0009】
したがって、上記制動システムは、下流液圧調整弁の開度を大きくすることによって第2車輪で発生する摩擦制動力を増大させる場合、当該摩擦制動力の増大速度の制御性を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態の制動システムを備える車両の概略を示す構成図である。
図2図2は、図1の制動システムが備える制御装置が実行する処理の内容を説明する図である。
図3図3は、図1の制動システムが備える制御装置で実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
図4図4は、図1の制動システムが備える制御装置で実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
図5図5は、2チャンネル調整処理から1チャンネル調整処理に切り替えられる場合の一例を示すタイミングチャートである。
図6図6は、1チャンネル調整処理から2チャンネル調整処理に切り替えられる場合の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、制動システムの一実施形態を図1から図6に従って説明する。
図1は、制動システム200を備える車両を示している。車両は、車輪として4つの車輪FL,FR,RL,RRを備えるとともに、車輪FL,FR,RL,RRと同数の摩擦ブレーキ10を備えている。また、車両は、後輪RL,RRで回生制動力を発生させる回生装置90を備えている。
【0012】
<回生装置>
回生装置90は、後輪RL,RR用のモータジェネレータ91と、モータジェネレータ91を制御する回生制御装置92とを備えている。モータジェネレータ91は、電動機として機能することにより、後輪RL,RRに駆動力を伝達する。一方、モータジェネレータ91は、発電機として機能することにより、モータジェネレータ91の発電量に応じた回生制動力を後輪RL,RRで発生させる。
【0013】
回生制御装置92は、モータジェネレータ91を制御する処理回路93を有している。例えば、処理回路93は電子制御装置である。この場合、処理回路93はCPU及びメモリを有している。メモリは、CPUが実行する制御プログラムを記憶している。CPUが当該制御プログラムを実行することにより、処理回路93はモータジェネレータ91を制御する。なお、回生制御装置92は、後述する制動システム200の制御装置100と各種の情報の送受信が可能である。そのため、処理回路93は、車両制動時には、制動システム200の制御装置100と協調して回生制動力を調整する。
【0014】
<摩擦ブレーキ>
複数の摩擦ブレーキ10は、対応する車輪FL,FR,RL,RRで摩擦制動力を発生させる。摩擦ブレーキ10は、ホイールシリンダ11と回転体12と摩擦部13とを有している。回転体12は車輪FL,FR,RL,RRと共に回転するため、摩擦部13を回転体12に押し付けることにより、車輪FL,FR,RL,RRで摩擦制動力が発生する。回転体12に摩擦部13を押し付ける力は、ホイールシリンダ11内の液圧であるホイール液圧が高いほど大きくなる。そのため、摩擦ブレーキ10は、ホイール液圧が高いほど大きい摩擦制動力を車輪FL,FR,RL,RRで発生させることができる。
【0015】
<制動システム>
制動システム200は、複数のホイールシリンダ11のホイール液圧を調整することによって、車両で発生する摩擦制動力を制御する。制動システム200は、制動操作部材21と制動装置と制御装置100とを備えている。制動操作部材21は、例えば、ブレーキペダル又はブレーキレバーである。制動システム200は、制動装置として上流制動装置22と下流制動装置23とを備えている。上流制動装置22及び下流制動装置23は、複数のホイールシリンダ11のホイール液圧を調整できるようにそれぞれ構成されている。本実施形態では、上流制動装置22が「第1制動装置」に対応するとともに、下流制動装置23が「第2制動装置」に対応する。
【0016】
<上流制動装置>
上流制動装置22は、マスタ装置30と加圧ユニット50とを有している。車両の運転者によって制動操作部材21が操作されている場合、上流制動装置22は、制動操作部材21の操作量に応じたホイール液圧を複数のホイールシリンダ11に発生させることができる。上流制動装置22の作動によって発生したホイール液圧に応じた摩擦制動力を「基礎制動力」という。詳しくは後述するが、加圧ユニット50は、マスタ装置30及び下流制動装置23にブレーキ液を供給できる。
【0017】
<マスタ装置>
マスタ装置30は、マスタシリンダ31と、ストロークシミュレータ32と、マスタシリンダ31に繋がる複数の流路331,332,333と、ブレーキ液の流れを制御する複数の制御弁341,342とを備えている。マスタ装置30は、液圧を検出する複数の液圧センサ351,352,353を備えている。
【0018】
ストロークシミュレータ32は、制動操作部材21の操作量に応じた反力を発生させることができる。
マスタシリンダ31は、メインシリンダ41とカバーシリンダ42とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43と入力ピストン44とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43を付勢するマスタスプリング45と、入力ピストン44を付勢する入力スプリング46とを備えている。マスタピストン43及び入力ピストン44は、メインシリンダ41及びカバーシリンダ42に対して相対移動することができる。
【0019】
マスタシリンダ31のメインシリンダ41は、板状の底壁411と、底壁411から底壁411の軸線に沿って延びる第1周壁412とを有している。メインシリンダ41は、第1周壁412の後端から第1周壁412の軸線に沿って延びる第2周壁413と、第2周壁413の後端から第2周壁413の軸線に向かって延びる第1環状壁414とを有している。第1周壁412及び第2周壁413の各々は筒状をなしている。第1環状壁414には、後述するマスタピストン43の後端部が挿し込まれている孔が形成されている。第1周壁412の内径は第2周壁413の内径よりも小さくなっている。
【0020】
メインシリンダ41内には、底壁411及び第1周壁412とマスタピストン43とによってマスタ室Rmが区画されている。以降では、マスタシリンダ31において、図1における左方、すなわちマスタ室Rmの容積を小さくするマスタピストン43の移動方向を「前方」という一方、前方の反対方向を「後方」という。後方は、マスタ室Rmの容積を大きくする方向でもある。
【0021】
メインシリンダ41内には、第2周壁413とマスタピストン43とによって第1液室R1が区画されているとともに、第2周壁413及び第1環状壁414とマスタピストン43とによってサーボ室Rsが区画されている。マスタ室Rmは、マスタシリンダ31の前端寄りの位置に形成されている。第1液室R1は、マスタ室Rmよりも後方に位置している。サーボ室Rsは、第1液室R1よりも後方に位置している。メインシリンダ41の内部において、マスタ室Rm、第1液室R1及びサーボ室Rsは、互いに接続していない。また、マスタ室Rmの断面積とサーボ室Rsの断面積とは等しくなっている。ここで、サーボ室Rsの断面積とは、マスタピストン43が収容された状態でのサーボ室Rsの断面積である。
【0022】
マスタシリンダ31のカバーシリンダ42は、筒状をなす第3周壁421と、第3周壁421の後端から第3周壁421の軸線に向かって延びる第2環状壁422とを有している。第3周壁421は、メインシリンダ41の第2周壁413と軸線が一致するように、第1環状壁414に取り付けられている。第2環状壁422には、後述する入力ピストン44の後端部が挿し込まれている孔が設けられている。
【0023】
カバーシリンダ42内には、第3周壁421と第2環状壁422とメインシリンダ41の第1環状壁414とによって第2液室R2が区画されている。マスタシリンダ31において、第2液室R2はサーボ室Rsよりも後方に位置している。
【0024】
マスタピストン43は、メインシリンダ41の第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、マスタピストン43が軸方向に移動する場合には、マスタピストン43が第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面と摺動する。マスタピストン43の後端部は、第1環状壁414よりも後方に突出して、第2液室R2内に位置している。マスタピストン43の後端部の面積(第2液室R2の液圧により軸方向に力を受ける面積)と第1液室R1の断面積とは等しくなっている。ここで、第1液室R1の断面積とは、マスタピストン43が収容された状態での第1液室R1の断面積である。
【0025】
入力ピストン44は、カバーシリンダ42の第2環状壁422の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、入力ピストン44が軸方向に移動する場合には、入力ピストン44が第2環状壁422の内周面と摺動する。入力ピストン44の後端部は、第2環状壁422よりも後方に突出している。入力ピストン44の先端部の面積はマスタピストン43の後端部の面積と等しくなっている。そして、入力ピストン44の後端部に制動操作部材21が連結されている。このため、入力ピストン44は、制動操作部材21の操作量に応じて、マスタピストン43に接近する方向に移動する。また、第2液室R2において、入力ピストン44とマスタピストン43との間には隙間が形成されている。
【0026】
マスタスプリング45は、メインシリンダ41の底壁411とマスタピストン43との間に配置されている。マスタスプリング45はマスタピストン43を後方に付勢するため、マスタピストン43が前方に移動すると、マスタスプリング45は弾性的に圧縮される。
【0027】
入力スプリング46は、メインシリンダ41の第1環状壁414と入力ピストン44との間に配置されている。入力スプリング46は入力ピストン44を後方に付勢するため、入力ピストン44が前方に移動すると、入力スプリング46は弾性的に圧縮される。
【0028】
マスタシリンダ31において、マスタ室Rmはリザーバタンク24と接続されている。詳しくは、マスタ室Rmの後端寄りの部分がメインシリンダ41の第1周壁412に形成されるポートを介してリザーバタンク24と接続されている。このため、マスタピストン43が図1に示す初期位置から前方に移動する場合には、マスタ室Rmとリザーバタンク24とが接続しなくなる。その結果、マスタピストン43の前方への移動に伴い、マスタ室Rmの液圧が増大する。例えばサーボ室Rsの液圧が高くなると、サーボ室Rsの液圧によってマスタピストン43が前方に移動する。これにより、マスタ室Rmの液圧が増大する。
【0029】
第1流路331は、マスタ室Rmと下流制動装置23とを接続している。第2流路332は、第1液室R1及び第2液室R2を接続している。第3流路333は、リザーバタンク24と第2流路332とを接続している。
【0030】
第1制御弁341は常閉型の電磁弁であり、第2制御弁342は常開型の電磁弁である。第1制御弁341は、第2流路332における第3流路333との接続点よりも第2液室R2側に設けられている。第2制御弁342は、第3流路333における第2流路332との接続点の近くに設けられている。制御装置100が稼働している場合には、第1制御弁341は開弁され、第2制御弁342は閉弁される。
【0031】
マスタ液圧センサ351は、第1流路331に設けられているとともに、マスタ室Rm内の液圧を検出する。入力液圧センサ352は、第2流路332において、第1制御弁341より第2液室R2側に設けられているとともに、第2液室R2内の液圧を検出する。シミュレータ液圧センサ353は、第2流路332における第3流路333との接続点よりも第1液室R1側に設けられているとともに、ストロークシミュレータ32が接続される第2流路332内の液圧を検出する。以降の説明では、マスタ液圧センサ351が検出する液圧を「マスタ圧」といい、入力液圧センサ352が検出する液圧を「入力液圧」といい、シミュレータ液圧センサ353が検出する液圧を「シミュレータ液圧」という。
【0032】
<加圧ユニット>
加圧ユニット50は加圧装置54を有している。加圧装置54は、第1電気モータ541を動力源として有している。加圧装置54は、第1電気モータ541の駆動によってブレーキ液を吐出するポンプ543と、逆止弁545とを有している。
【0033】
加圧ユニット50は、上流液圧調整部51Aと、逆止弁53と、サーボ圧センサ55とをさらに有している。加圧ユニット50は、ブレーキ液が流れる流路として、第4流路56、第5流路57、第6流路58、第7流路59及び第8流路60を有している。第4流路56は、リザーバタンク24に接続されている。そして、第4流路56に加圧装置54が設置されている。第5流路57は、サーボ室Rsに接続されている。そして、加圧装置54から吐出されたブレーキ液が第5流路57を流れる。第6流路58は、下流制動装置23とリザーバタンク24とを接続する。第7流路59は、第5流路57と第6流路58とを接続する。第8流路60は、第6流路58と第7流路59とを接続する。
【0034】
上流液圧調整部51Aは、第1液圧調整弁51と第2液圧調整弁52とを有している。第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52は、常開型のリニア電磁弁である。第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52は、第7流路59に設けられている。具体的には、第1液圧調整弁51は、第7流路59のうち、第5流路57との接続点と第8流路60との接続点との間の部分に配置されている。第2液圧調整弁52は、第7流路59のうち、第8流路60との接続点と第6流路58との接続点との間の部分に配置されている。
【0035】
逆止弁53は、第6流路58のうち、第7流路59との接続点と第8流路60との接続点との間の部分に配置されている。逆止弁53は、リザーバタンク24から下流制動装置23に向かうブレーキ液の流れを許容する一方、下流制動装置23からリザーバタンク24に向かうブレーキ液の流れを規制する。
【0036】
加圧装置54のポンプ543は、第4流路56に設けられている。ポンプ543は、リザーバタンク24から汲み上げたブレーキ液を、第4流路56のうちの第5流路57との接続点に向けて吐出する。逆止弁545は、第4流路56のうち、ポンプ543の出力ポートと第5流路57との接続点との間に配置されている。逆止弁545は、ポンプ543から第5流路57に向かう吐出方向へのブレーキ液の流れを許容する一方、吐出方向とは逆方向へのブレーキ液の流れを規制する。そのため、本実施形態では、第5流路57が、加圧装置54のポンプ543から吐出されたブレーキ液が流動する「吐出流路」に対応する。
【0037】
サーボ圧センサ55は、第4流路56のうちの第5流路57との接続点に設けられている。そのため、サーボ圧センサ55は、第5流路57のブレーキ液圧であるサーボ圧を検出する。以降の説明では、サーボ圧センサ55の検出値に基づいたサーボ圧を「サーボ圧検出値PsevS」という。
【0038】
加圧ユニット50は、加圧装置54を作動させた状況下において、上流液圧調整部51Aを作動することによって、下流制動装置23及びマスタシリンダ31に調圧したブレーキ液を供給できる。具体的には、上流液圧調整部51Aの第1液圧調整弁51によって調圧されたブレーキ液は、第5流路57を介してマスタシリンダ31のサーボ室Rsに供給される。すると、第5流路57の液圧及びサーボ室Rsの液圧が高くなるため、マスタピストン43が前方に移動する。これにより、マスタ室Rmの液圧が高くなるので、マスタ室Rmから下流制動装置23における後述する第1液圧回路611にブレーキ液が供給される。その結果、複数のホイールシリンダ11のうち、第1液圧回路611に接続されている2つのホイールシリンダ11にブレーキ液が供給されるため、当該2つのホイールシリンダ11のホイール液圧が増大される。上流液圧調整部51Aの第2液圧調整弁52によって調圧されたブレーキ液は、第8流路60及び第6流路58を介して下流制動装置23における後述する第2液圧回路612に供給される。すると、複数のホイールシリンダ11のうち、第2液圧回路612に接続されている2つのホイールシリンダ11にブレーキ液が供給されるため、当該2つのホイールシリンダ11のホイール液圧が増大される。
【0039】
すなわち、上流液圧調整部51Aは、第1液圧調整弁51の開度を調整することによってサーボ圧を制御できる。上流液圧調整部51Aは、第2液圧調整弁52の開度を調整することにより、第6流路58と第5流路57との差圧を調整できる。つまり、第1液圧調整弁51が「サーボ圧調整部」に対応するとともに、第2液圧調整弁52が「差圧調整部」に対応する。
【0040】
<下流制動装置>
下流制動装置23は、複数のホイールシリンダ11のホイール液圧を個別に調整できる。下流制動装置23は、ブレーキ液を吐出するポンプ631,632を備えている。ポンプ631,632は、第2電気モータ64によって駆動される。
【0041】
下流制動装置23は、加圧ユニット50が作動していない場合でもホイール液圧を増大させることができる。すなわち、制動システム200は冗長構成を有している。
下流制動装置23は、2系統の液圧回路611,612を有している。第1液圧回路611には、第1車輪用のホイールシリンダである第1ホイールシリンダが接続されている。第2液圧回路612には、第2車輪用のホイールシリンダである第2ホイールシリンダが接続されている。図1に示す例では、第1液圧回路611には前輪FL,FR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。第2液圧回路612には後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11が接続されている。したがって、前輪FL,FRが「第1車輪」に対応し、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11が「第1ホイールシリンダ」に対応する。後輪RL,RRが「第2車輪」に対応し、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11が「第2ホイールシリンダ」に対応する。前輪FL,FR用のホイールシリンダ11のホイール液圧が「第1ホイール液圧」に対応し、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11のホイール液圧が「第2ホイール液圧」に対応する。
【0042】
第1液圧回路611は、第1流路331及びマスタ室Rmを介してリザーバタンク24に接続されている。第1液圧回路611において、第1流路331との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第1差圧調整弁621が設けられている。第2液圧回路612は、第6流路58を介してリザーバタンク24に接続されている。第2液圧回路612において、第6流路58との接続点とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路には、常開型のリニア電磁弁である第2差圧調整弁622が設けられている。
【0043】
ポンプ631は、第1液圧回路611に設けられている。ポンプ631は、第1差圧調整弁621とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。ポンプ632は、第2液圧回路612に設けられている。ポンプ632は、第2差圧調整弁622とホイールシリンダ11とを繋ぐ液路にブレーキ液を供給する。
【0044】
第1液圧回路611において第1差圧調整弁621よりもホイールシリンダ11側には、第1液圧回路611に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65a,65bが設けられている。2つの経路65a,65bは、第1流路331とそれぞれ連通している。そのため、第5流路57の液圧であるサーボ圧が高くなってマスタ室Rmのマスタ圧が高くなると、2つの経路65a,65bのブレーキ液圧が高くなる。さらに、経路65aは前輪FL用のホイールシリンダ11と連通しているとともに、経路65bは前輪FR用のホイールシリンダ11と連通している。すなわち、経路65a,65bの各々が、「第1供給流路」に対応する。
【0045】
第2液圧回路612において第2差圧調整弁622よりもホイールシリンダ11側には、第2液圧回路612に接続されるホイールシリンダ11と同数の経路65c,65dが設けられている。2つの経路65c,65dは、第6流路58とそれぞれ連通している。そのため、第5流路57の液圧であるサーボ圧が高くなって第6流路58のブレーキ液圧が高くなると、2つの経路65a,65bのブレーキ液圧が高くなる。さらに、経路65cは後輪RL用のホイールシリンダ11と連通しているとともに、経路65dは後輪RR用のホイールシリンダ11と連通している。すなわち、経路65c,65dの各々が、「第2供給流路」に対応する。
【0046】
複数の経路65a~65dには、ホイール液圧の増大を規制する際に閉弁される保持弁66がそれぞれ設けられている。保持弁66は常開型の電磁弁である。経路65a、65bに設けられた保持弁66は、開弁している場合には前輪FL,FR用のホイールシリンダ11の第1ホイール液圧の増大を許容する一方、閉弁している場合には当該第1ホイール液圧の増大を規制する。経路65c,65dに設けられた保持弁66は、開弁している場合には後輪RL,RR用のホイールシリンダ11の第2ホイール液圧の増大を許容する一方、閉弁している場合には当該第2ホイール液圧の増大を規制する。本実施形態では、経路65c,65dが第2供給流路に対応しているため、経路65c,65dに設けられた保持弁66が、「下流液圧調整弁」に対応する。
【0047】
複数の経路65a~65dの各々には、保持弁66をバイパスするバイパス経路が接続されている。バイパス経路の第1端は、経路65a~65dのうち、保持弁66よりも差圧調整弁621,622側の部分に接続されている。バイパス経路の第2端は、経路65a~65dのうち、保持弁66よりもホイールシリンダ11側の部分に接続されている。複数のバイパス経路にはチェック弁66Aがそれぞれ設けられている。すなわち、チェック弁66Aは、保持弁66に対して並列となるように設置されている。複数のチェック弁66Aは、ホイールシリンダ11側から差圧調整弁621,622側へのブレーキ液の流通を許容する一方、差圧調整弁621,622側からホイールシリンダ11側へのブレーキ液の流通を規制する。すなわち、経路65a~65dのうち、差圧調整弁621,622側の部分の液圧がホイールシリンダ11側の部分の液圧よりも低くなると、ホイールシリンダ11側の部分から差圧調整弁621,622側の部分に向けてチェック弁66Aをブレーキ液が流れる。
【0048】
第1液圧回路611には、前輪FL用のホイールシリンダ11の第1ホイール液圧を減少させる際に開弁される減圧弁67と、前輪FR用のホイールシリンダ11の第1ホイール液圧を減少させる際に開弁される減圧弁67とが設けられている。第2液圧回路612には、後輪RL用のホイールシリンダ11の第2ホイール液圧を減少させる際に開弁される減圧弁67と、後輪RR用のホイールシリンダ11の第2ホイール液圧を減少させる際に開弁される減圧弁67とが設けられている。複数の減圧弁67は常閉型の電磁弁である。
【0049】
第1液圧回路611及び第2液圧回路612には、減圧弁67が開弁しているときにホイールシリンダ11から減圧弁67を介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ681,682がそれぞれ接続されている。リザーバ681,682は、吸入用流路691,692を介してポンプ631,632に接続されている。
【0050】
リザーバ681は、タンク側流路701を介して差圧調整弁621とマスタ室Rmとを繋ぐ液路に接続されている。リザーバ682は、タンク側流路702を介して、第2液圧回路612における第6流路58との接続点と差圧調整弁622とを繋ぐ液路に接続されている。
【0051】
複数のポンプ631,632は、リザーバタンク24内のブレーキ液をリザーバ681,682を介して汲み取り、当該ブレーキ液を差圧調整弁621,622と保持弁66との間の液路に吐出する。当該液路とポンプ631,632との間の液路を「中間液路711,712」という。
【0052】
第1液圧回路611には、前輪FL用のホイールシリンダ11の第1ホイール液圧を検出する第1ホイール液圧センサ81が設けられている。第1ホイール液圧センサ81は、経路65aのうち、保持弁66よりもホイールシリンダ11側の部分に接続されている。第2液圧回路612には、後輪RR用のホイールシリンダ11の第2ホイール液圧を検出する第2ホイール液圧センサ82が設けられている。第2ホイール液圧センサ82は、経路65dのうち、保持弁66よりもホイールシリンダ11側の部分に接続されている。第2ホイール液圧センサ82が、第2ホイール液圧を検出する「ホイール液圧センサ」に対応する。なお、第1ホイール液圧センサ81の検出値に基づいた第1ホイール液圧を「第1ホイール液圧検出値Pwc1S」とする。第2ホイール液圧センサ82の検出値に基づいた第2ホイール液圧を「第2ホイール液圧検出値Pwc2S」とする。
【0053】
<制動システムの検出系>
制動システム200は、検出系として、上記の複数の液圧センサ351,352,353、サーボ圧センサ55及び2つのホイール液圧センサ81,82に加え、ストロークセンサ152を有している。これら各種のセンサの検出信号は制御装置100に入力される。ストロークセンサ152は、制動操作部材21の操作量を検出する。ストロークセンサ152の検出値に基づいた操作量を「制動操作量Boa」という。
【0054】
<制動システムの制御装置>
制御装置100は、制動装置である上流制動装置22及び下流制動装置23を制御する。また、制御装置100は、回生装置90の回生制御装置92と通信を行う。
【0055】
制御装置100は処理回路101を備えている。例えば、処理回路101は電子制御装置である。この場合、処理回路101はCPU及びメモリを有している。メモリは、CPUによって実行される制御プログラムを記憶している。CPUが当該制御プログラムを実行することにより、処理回路101は、上流制動装置22の各種の電磁弁341,342,51,52及び第1電気モータ541と、下流制動装置23の各種の電磁弁621,622,66,67及び第2電気モータ64とを制御する。
【0056】
<回生協調制御>
制御装置100の処理回路101が実行する回生協調制御について説明する。処理回路101は、車両に対する制動力の要求値である要求制動力FbpRを導出する。処理回路101は、制動操作部材21が操作されている場合、制動操作量Boaに応じた値を要求制動力として導出する。また、処理回路101は、他の制御装置から車両の減速が要求された場合、車両の減速度の要求値に応じた値を要求制動力FbpRとして導出する。処理回路101は、回生制御装置92に要求制動力FbpRを送信する。すると、処理回路101は、回生装置90が実際に後輪RL、RRで発生させる回生制動力である実回生制動力FbpEを回生制御装置92から受信する。
【0057】
処理回路101は、実回生制動力FbpEと要求制動力FbpRとに基づいて、車両に対する摩擦制動力の目標である目標摩擦制動力を導出する。処理回路101は、実回生制動力FbpEが要求制動力FbpRと等しい場合、0(零)を目標摩擦制動力として導出する。一方、処理回路101は、実回生制動力FbpEが要求制動力FbpR未満である場合、要求制動力FbpRと実回生制動力FbpEとの差分を目標摩擦制動力として導出する。そして、処理回路101は、第1電気モータ541を駆動させることによってポンプ543からブレーキ液を吐出させつつ、目標摩擦制動力に基づいて上流液圧調整部51Aを作動させる。
【0058】
なお、処理回路101は、回生制動力が後輪RL,RRで発生している場合に、回生制動力を摩擦制動力にすり替えるすり替え制御を実施することがある。処理回路101は、すり替え制御において、回生制動力の減少を回生制御装置92に要求しつつ、車両に対する摩擦制動力を増大させる。
【0059】
<上流液圧調整部の制御>
図2を参照し、処理回路101が実行する上流制動装置22の制御について説明する。処理回路101は、上流制動装置22の上流液圧調整部51Aを制御することにより、第1ホイール液圧Pwc1と第2ホイール液圧Pwc2とを調整できる。処理回路101は、第1ホイール液圧Pwc1及び第2ホイール液圧Pwc2を調整するための上流液圧調整部51Aの制御として、2チャンネル調整処理と1チャンネル調整処理とを実行する。
【0060】
なお、制動システム200にあっては、第5流路57のサーボ圧Psevは第1ホイール液圧Pwc1とほぼ等しくなる。そのため、処理回路101は、サーボ圧Psevを増大させることによって第1ホイール液圧Pwc1を増大でき、サーボ圧Psevを減少させることによって第1ホイール液圧Pwc1を減少できる。
【0061】
2チャンネル調整処理は、上流液圧調整部51Aを制御することによって、第1ホイール液圧Pwc1と第2ホイール液圧Pwc2とを個別に調整する処理である。2チャンネル調整処理において、処理回路101は、サーボ圧センサ55の検出値であるサーボ圧検出値PsevSに基づいてサーボ圧Psev及び第1ホイール液圧Pwc1を調整する。処理回路101は、第2ホイール液圧センサ82の検出値である第2ホイール液圧検出値Pwc2Sに基づいて第2ホイール液圧Pwc2を調整する。
【0062】
具体的には、処理回路101は、第1ホイール液圧Pwc1の目標である第1ホイール液圧目標値と、第2ホイール液圧の目標である第2ホイール液圧目標値とを設定する。処理回路101は、目標摩擦制動力に基づいて第1ホイール液圧目標値及び第2ホイール液圧目標値を設定する。回生協調制御によって後輪RL,RRに回生制動力が付与されている場合、処理回路101は、第1ホイール液圧目標値が第2ホイール液圧目標値よりも高くなるように、第1ホイール液圧目標値及び第2ホイール液圧目標値を設定する。処理回路101は、サーボ圧Psevの目標であるサーボ圧目標値として、第1ホイール液圧目標値に応じた値を設定する。例えば、処理回路101は、第1ホイール液圧目標値と等しい値、又は第1ホイール液圧目標値よりも僅かに高い液圧を、サーボ圧目標値として設定する。そして、処理回路101は、サーボ圧検出値PsevSがサーボ圧目標値と等しくなるように第1液圧調整弁51の開度の指示値を設定し、当該指示値に応じた電流を第1液圧調整弁51に供給する。処理回路101は、第2ホイール液圧検出値Pwc2Sが第2ホイール液圧目標値と等しくなるように第2液圧調整弁52の開度の指示値を設定し、当該指示値に応じた電流を第2液圧調整弁52に供給する。
【0063】
1チャンネル調整処理は、第1ホイール液圧Pwc1と第2ホイール液圧Pwc2とを同時に調整する処理である。すなわち、1チャンネル調整処理は、サーボ圧Psevを増大させることによって第1ホイール液圧Pwc1及び第2ホイール液圧Pwc2の何れをも増大させる処理である。1チャンネル調整処理において、処理回路101は、サーボ圧検出値PsevSに基づいて第1ホイール液圧Pwc1及び第2ホイール液圧Pwc2を調整する。
【0064】
具体的には、処理回路101は、サーボ圧目標値として、目標摩擦制動力に応じた値を設定する。そして、処理回路101は、サーボ圧検出値PsevSがサーボ圧目標値と等しくなるように第2液圧調整弁52の開度の指示値を設定し、当該指示値に応じた電流を第2液圧調整弁52に供給する。この際、処理回路101は、第1液圧調整弁51を開弁させておく。第1液圧調整弁51が開弁して全開状態にある場合、第7流路59のうち、第1液圧調整弁51と第2液圧調整弁52との間の部分と、第1液圧調整弁51を挟んで第2液圧調整弁52の反対側の部分との差圧はほぼ0(零)である。また、第5流路57の液圧と第7流路59の液圧とは概ね等しくなる。処理回路101は、1チャンネル調整処理を実行する場合、第2ホイール液圧検出値Pwc2Sを用いなくても第2ホイール液圧Pwc2を調整できる。
【0065】
詳しくは後述するが、後輪RL,RRで発生する摩擦制動力の増大を規制するために、後輪RL,RR用の保持弁66が閉弁されることがある。例えば、処理回路101は、後輪RL,RR用の保持弁66が開弁している状態を維持することによって後輪RL,RRで発生する摩擦制動力の増大を規制しない場合に、2チャンネル調整処理を実行する。また例えば、処理回路101は、後輪RL,RR用の保持弁66を閉弁させることによって後輪RL,RRで発生する摩擦制動力の増大を規制する場合に、1チャンネル調整処理を実行する。
【0066】
<下流制動装置の制御>
処理回路101は、下流制動装置23を作動させることによって、複数のホイールシリンダ11のホイール液圧を調整することがある。例えば、処理回路101は、複数のホイールシリンダ11のうちの一部のホイールシリンダ11のホイール液圧の増大を規制する場合、当該一部のホイールシリンダ11に対応する保持弁66を閉弁させる。
【0067】
複数のホイールシリンダ11のうちの一部のホイールシリンダ11のホイール液圧の増大を規制する制御は、例えば、前後制動力配分制御及びアンチロックブレーキ制御を含んでいる。以降では、前後制動力配分制御を「EBD」といい、アンチロックブレーキ制御を「ABS」という。EBDは、車両の制動時に前輪FL,FRに先行して後輪RL,RRがロックすることを抑制する制御である。例えば、処理回路101は、EBDにおいて、第2車輪である後輪RL,RR用のホイールシリンダ11の第2ホイール液圧Pwc2の増大を規制するために、後輪RL,RR用の2つの保持弁66を閉弁させる。処理回路101がEBDを実行すると、経路65c,65dのうち、保持弁66よりも第2差圧調整弁622側の部分のブレーキ液圧である上流液圧Puhと第2ホイール液圧Pwc2との間に乖離が生じうる。
【0068】
図3に示す処理ルーチン>
図3を参照し、2チャンネル調整処理から1チャンネル調整処理に切り替えるための処理ルーチンを説明する。処理回路101は、2チャンネル調整処理で上流液圧調整部51Aを制御している場合に本処理ルーチンを繰り返し実行する。
【0069】
ステップS11において、処理回路101は、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11の第2ホイール液圧Pwc2の増大を規制する制御の介入条件が成立したか否かを判定する。例えば、処理回路101は、EBDの実施条件が成立した場合、当該制御の介入条件が成立したと判定する。また例えば、処理回路101は、後輪RL,RRの減速スリップを解消するためのABSの実施条件が成立した場合、当該制御の介入条件が成立したと判定する。処理回路101は、上記制御の介入条件が成立したと判定した場合(S11:YES)、処理をステップS15に移行する。一方、処理回路101は、上記制御の介入条件が成立していないと判定した場合(S11:NO)、処理をステップS13に移行する。
【0070】
ステップS13において、処理回路101は、2チャンネル調整処理で上流液圧調整部51Aを制御することを継続する。そして、処理回路101は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0071】
ステップS15において、処理回路101は、上流液圧調整部51Aを制御するための処理として1チャンネル調整処理を選択する。その後、処理回路101は本処理ルーチンを終了する。この場合、本処理ルーチンの終了後からは、処理回路101は1チャンネル調整処理を実行することによって上流液圧調整部51Aを制御する。
【0072】
ここで、EBDが実行されている場合の1チャンネル調整処理について説明する。後輪RL,RRで回生制動力が発生している状況下で処理回路101が2チャンネル調整処理を実行していた場合、第1ホイール液圧目標値は第2ホイール液圧目標値よりも高い。こうした状況下でEBDの開始条件が成立すると、処理回路101は、EBDにおいて、後輪RL,RR用の2つの保持弁66を閉弁させる。また、処理回路101は、第1液圧調整弁51を開弁させた上で、サーボ圧目標値に基づいて第2液圧調整弁52の開度を制御する。サーボ圧目標値は、第1ホイール液圧目標値とほぼ等しい上に第2ホイール液圧目標値よりも高い。その結果、処理回路101が1チャンネル調整処理を開始したことにより、第2液圧調整弁52の開度が小さくなる。これにより、処理回路101は、処理を2チャンネル調整処理から1チャンネル調整処理に切り替えても第1ホイール液圧Pwc1が変化することを抑制できる。さらにいうと、このように1チャンネル調整処理が実行されると、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2よりも高くなる。
【0073】
また、EBDが実行されている場合の1チャンネル調整処理中では、保持弁66が閉弁しているため、上流液圧Puhが増大しても第2ホイール液圧Pwc2は増大しない。すなわち、上流液圧Puhが増大しても、後輪RL,RRで発生する摩擦制動力が増大しない。例えば1チャンネル調整処理の実行中に、車両の減速度の要求値が増大するなどして要求制動力FbpRが増大したためにサーボ圧を高くする場合を考える。この場合、EBDが実行されておらず後輪RL,RRで発生する摩擦制動力を増大可能である場合のサーボ圧目標値と比較し、EBDが実行されている場合のサーボ圧目標値のほうが高くなるように、サーボ圧目標値が設定される。より具体的には、EBDが実行されている場合の1チャンネル調整処理中では、目標摩擦制動力の増大分を全て前輪FL,FRで発生する摩擦制動力の増大で補うように、サーボ圧目標値が設定される。
【0074】
図4に示す処理ルーチン>
図4を参照し、1チャンネル調整処理によって上流液圧調整部51Aが制御されている場合に、処理回路101が実行する処理ルーチンを説明する。1チャンネル調整処理で上流液圧調整部51Aが制御されている場合、処理回路101は本処理ルーチンを繰り返し実行する。
【0075】
ステップS21において、処理回路101は、すり替え制御を実施しているか否かを判定する。処理回路101は、すり替え制御を実施している場合(S21:YES)、処理をステップS23に移行する。一方、処理回路101は、すり替え制御を実施していない場合(S21:NO)、処理をステップS31に移行する。
【0076】
ステップS23において、処理回路101は、すり替え制御において、後輪RL,RR用の2つの保持弁66の開度の指示値である指示開度を増大させる。これにより、処理回路101は、後輪RL,RR用の2つのホイールシリンダ11の第2ホイール液圧Pwc2を増大させることができる。その後、処理回路101は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0077】
なお、処理回路101は、回生制動力が0(零)になるまですり替え制御を実施する。
そして、回生制動力が0(零)になった以降において、車両に対する要求制動力FbpRが0(零)になると、処理回路101は、1チャンネル調整処理を終了して2チャンネル調整処理を実行する。
【0078】
ステップS31において、処理回路101は、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11の第2ホイール液圧Pwc2の増大を規制する制御の終了条件が成立したか否かを判定する。例えば、処理回路101は、EBDを実施している最中にEBDの終了条件が成立した場合、当該制御の終了条件が成立したと判定する。また例えば、処理回路101は、後輪RL,RRの減速スリップを解消するためのABSを実施している最中に当該ABSの終了条件が成立した場合、当該制御の終了条件が成立したと判定する。処理回路101は、上記制御の終了条件が成立したと判定した場合(S31:YES)、処理をステップS35に移行する。一方、処理回路101は、上記制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S31:NO)、処理をステップS33に移行する。
【0079】
ステップS33において、処理回路101は、1チャンネル調整処理で上流液圧調整部51Aを制御する状況を継続する。そして、処理回路101は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0080】
ステップS35において、処理回路101は、上流液圧調整部51Aを制御するための処理として2チャンネル調整処理を選択する。次のステップS37において、処理回路101は、2チャンネル調整処理において、上述したように第1ホイール液圧目標値及び第2ホイール液圧目標値を設定し、第1ホイール液圧目標値に基づいてサーボ圧目標値を設定する。そして処理回路101は、サーボ圧目標値に基づいて第1液圧調整弁51を制御し、第2ホイール液圧目標値に基づいて第2液圧調整弁52を制御する。
【0081】
2チャンネル調整処理が開始されると、1チャンネル調整処理が実行されていた場合よりも上流液圧Puhが減少する。
ステップS39において、処理回路101は、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2と実質的に等しくなったか否かを判定する。例えば、処理回路101は、第1液圧調整弁51及び第2液圧調整弁52の制御に基づいた上流液圧の推定値を導出する。そして、処理回路101は、上流液圧の推定値が第2ホイール液圧Pwc2と等しいと判定できる場合に、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2と実質的に等しくなったと判定するとよい。あるいは、処理回路101は、上流液圧Puhを減少させていく際に第2ホイール液圧Pwc2が減少を開始した場合に、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2と実質的に等しくなったと判定することもできる。処理回路101は、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2と実質的に等しくなっていないと判定した場合(S39:NO)、処理をステップS37に移行する。一方、処理回路101は、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2と実質的に等しくなったと判定した場合(S39:YES)、本処理ルーチンを終了する。
【0082】
<作用及び効果>
図5を参照し、2チャンネル調整処理から1チャンネル調整処理に切り替わる際の制動システム200の作用及び効果について説明する。図5に示す例では、後輪RL,RRで回生制動力が発生している。
【0083】
図5の(A)、(B)及び(C)に示すように、タイミングt11以前では、上流液圧調整部51Aを制御する処理として、2チャンネル調整処理が実行されている。さらに、後輪RL,RRで回生制動力が発生している。そこで、2チャンネル調整処理において、処理回路101は、サーボ圧検出値PsevSに基づいた第1液圧調整弁51の制御を通じてサーボ圧Psev及び第1ホイール液圧Pwc1を調整する。また処理回路101は、第2ホイール液圧検出値Pwc2Sに基づいた第2液圧調整弁52の制御を通じてサーボ圧Psevと上流液圧Puhとの差圧を制御することによって、第2ホイール液圧Pwc2を調整する。タイミングt11以前では、後輪RL,RR用の保持弁66が開弁されているため、第2ホイール液圧Pwc2は上流液圧Puhと実質的に等しい。
【0084】
処理回路101が2チャンネル調整処理を実行している最中のタイミングt11でEBDの開始条件が成立する。すると、処理回路101は、後輪RL,RR用の保持弁66を閉弁させる。また、処理回路101は、上流液圧調整部51Aを制御する処理を2チャンネル調整処理から1チャンネル調整処理に切り替える。
【0085】
すると、1チャンネル調整処理において、処理回路101は、サーボ圧検出値PsevSに基づいた上流液圧調整部51Aの制御を通じてサーボ圧Psevを調整することによって、第1ホイール液圧Pwc1及び上流液圧Puhを調整する。具体的には、処理回路101は、第1液圧調整弁51を開弁させた上で、サーボ圧Psevがサーボ圧目標値となるように第2液圧調整弁52を制御する。
【0086】
これにより、図5の(B)に示すように、第2ホイール液圧Pwc2が保持された状態で上流液圧Puhが増大される。そして、タイミングt12で上流液圧Puhが第1ホイール液圧Pwc1とほぼ等しくなる。本実施形態では、1チャンネル調整処理では、サーボ圧目標値に基づいて第2液圧調整弁52が制御される。そのため、図5の(A)に示すように車両に対する要求制動力FbpRが保持されている場合、制動システム200は、2チャンネル調整処理から1チャンネル調整処理への切り替えによって車両の減速度が変化することを抑制できる。この際、処理回路101は、第2ホイール液圧Pwc2よりも高い液圧をサーボ圧目標値として設定している。そのため、サーボ圧Psevは第2ホイール液圧Pwc2よりも高い。
【0087】
なお、2チャンネル調整処理が実行されている場合、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2よりも高い。より具体的には、上流液圧Puhはサーボ圧Psevと等しい。若しくは、上流液圧Puhはサーボ圧Psevとほぼ等しい。そのため、タイミングt13ですり替え制御が開始されると、処理回路101は、回生制動力の減少に合わせて第2ホイール液圧Pwc2が高くなるように後輪RL,RR用の保持弁66の開度を徐々に大きくする。すると、保持弁66を介して後輪RL,RR用のホイールシリンダ11にブレーキ液が流入するため、第2ホイール液圧Pwc2が増大する。これにより、第2ホイール液圧Pwc2の増大に連動して後輪RL,RRで発生する摩擦制動力が増大する。すなわち、制動システム200は、下流制動装置23のポンプ632及び第2差圧調整弁622を作動させなくても、第2ホイール液圧Pwc2及び後輪RL,RRで発生する摩擦制動力を増大させることができる。
【0088】
さらに、処理回路101は、1チャンネル調整処理において、サーボ圧センサ55の検出値であるサーボ圧検出値PsevSに基づいて上流液圧Puhを取得できる。すなわち、処理回路101は、上流液圧Puhを正確に把握できる。そのため、制動システム200は、後輪RL,RR用の保持弁66の開度を増大させる場合、第2ホイール液圧Pwc2の増大、すなわち後輪RL,RRで発生する摩擦制動力の増大を適切に制御できる。したがって、制動システム200は、回生制動力から摩擦制動力へのすり替え中に車両の減速度がばらつくことを抑制できる。
【0089】
図5に示す例では、タイミングt14で回生制動力が0(零)になるため、すり替え制御が終了される。そのため、処理回路101は、後輪RR,RL用の保持弁66の開度を保持することにより、第2ホイール液圧Pwc2、すなわち後輪RL,RRで発生する摩擦制動力を保持する。
【0090】
図6を参照し、1チャンネル調整処理から2チャンネル調整処理に切り替わる際の制動システム200の作用及び効果について説明する。図6に示す例では、EBDによって後輪RL,RR用の保持弁66が閉弁されている状況下で車両に対する要求制動力FbpRが減少したためにEBDが終了する。
【0091】
図6の(A)、(B)及び(C)に示すように、処理回路101は、EBDによって後輪RL,RR用の保持弁66を保持した上で、1チャンネル調整処理によって上流液圧調整部51Aを制御している。そのため、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2よりも高い状態が維持されている。この状態のタイミングt21から要求制動力FbpRが減少し始める。すると、要求制動力FbpRの減少に応じてサーボ圧目標値が減少する。そのため、処理回路101がサーボ圧目標値に基づいて第2液圧調整弁52を制御することにより、サーボ圧Psev、第1ホイール液圧Pwc1及び上流液圧Puhが減少する。この際、後輪RL,RR用の保持弁66は閉弁されているため、第2ホイール液圧Pwc2は保持される。
【0092】
要求制動力FbpRが減速している最中のタイミングt22で、EBDの終了条件が成立する。すると、処理回路101は、上流液圧調整部51Aを制御する処理を1チャンネル調整処理から2チャンネル調整処理に切り替える。
【0093】
2チャンネル調整処理において、処理回路101は、サーボ圧検出値PsevSに基づいた第1液圧調整弁51の制御を通じてサーボ圧Psev及び第1ホイール液圧Pwc1を調整する。また処理回路101は、第2ホイール液圧検出値Pwc2Sに基づいた第2液圧調整弁52の制御を通じてサーボ圧Psevと上流液圧Puhとの差圧を調整する。これにより、上流液圧Puhの減少速度が大きくなる。そして、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2未満になると、後輪RL,RR用のチェック弁66Aを介して、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11のブレーキ液が上流制動装置22に向けて流出する。その結果、上流液圧Puhの減少に連動して第2ホイール液圧Pwc2が減少する。
【0094】
したがって、制動システム200は、1チャンネル調整処理から2チャンネル調整処理に切り替わった場合でも車両の減速度を適切に制御できる。
なお、この場合においては、EBDの終了条件が成立するタイミングt22から、要求制動力FbpRの保持が開始されるタイミングt23までの任意のタイミングで、望ましくは第2ホイール液圧Pwc2が減少を開始した以降のタイミングで、処理回路101は後輪RL,RRの保持弁66を開弁させればよい。より具体的には、処理回路101は、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2と実質的に等しくなったと判定した時点、あるいは、上流液圧Puhが第2ホイール液圧Pwc2と実質的に等しくなったと判定して以降の所定のタイミングで、後輪RL,RR用の保持弁66を開弁させればよい。
【0095】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0096】
・上流制動装置は、1チャンネル調整処理と2チャンネル調整処理とを実現できる構成であれば、図1に示した上流制動装置22とは異なる構成であってもよい。例えば、上流制動装置は、加圧装置54が吐出したブレーキ液が流れる流路が第1液圧回路611に接続される装置であってもよい。また、上流制動装置の加圧装置は、電気モータと、電気モータを動力源とする電動シリンダとを備えた装置であってもよい。また、上流制動装置の加圧装置は、高圧のブレーキ液圧を蓄積するアキュムレータを備えた構成であってもよい。
【0097】
・制動システムは、前輪FL,FRで回生制動力を発生させる回生装置を備えた車両に適用してもよい。この場合、上流制動装置は、2チャンネル調整処理が実行されている場合には、サーボ室Rsのブレーキ液圧よりも第5流路57のブレーキ液圧が高くできる構成であることが好ましい。
【0098】
・上流液圧調整部は、下流制動装置に設けられていてもよい。例えば、下流制動装置において、保持弁66よりも上流制動装置側の部分に上流液圧調整部を設けるとよい。
・処理回路101は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、処理回路101は、以下(a)、(b)及び(c)の何れかの構成であればよい。
【0099】
(a)処理回路101は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0100】
(b)処理回路101は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記である。FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0101】
(c)処理回路101は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0102】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
[付記1]前記第1車輪は前輪であり、前記第2車輪は後輪であり、
前記制御装置は、前記前輪よりも先行して前記後輪がロックすることを抑制する前後制動力配分制御を実施する場合に、前記下流液圧調整弁を閉弁させることによって前記後輪で発生する摩擦制動力の増大を規制する。
【符号の説明】
【0103】
11…ホイールシリンダ
22…上流制動装置(制動装置、第1制動装置の一例)
23…下流制動装置(制動装置、第2制動装置の一例)
51A…上流液圧調整部
51…第1液圧調整弁(サーボ液圧調整部の一例)
52…第2液圧調整弁(差圧調整部の一例)
54…加圧装置
541…第1電気モータ
55…サーボ圧センサ
57…第5流路(吐出流路)
65a,65b…経路(第1供給流路)
65c,65d…経路(第2供給流路)
66…保持弁(下流液圧調整弁)
82…第2ホイール液圧センサ
90…回生装置
91…モータジェネレータ
100…制御装置
101…処理回路
200…制動システム
FL,FR…前輪
RL,RR…後輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6