(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143377
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置、および半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 21/337 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20241003BHJP
H01L 23/34 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L29/80 C
H01L29/80 H
H01L29/80 F
H01L23/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056022
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】舘 毅
【テーマコード(参考)】
5F102
5F136
【Fターム(参考)】
5F102FA10
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD04
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GK08
5F102GL04
5F102GM04
5F102GQ01
5F102GS08
5F102GT03
5F102GT06
5F102GV03
5F102GV05
5F102GV07
5F102GV08
5F136DA31
5F136FA15
(57)【要約】
【課題】窒化物半導体装置の放熱性を高める。
【解決手段】窒化物半導体装置10は、基板上面12Aおよび基板下面12Bを有する半導体基板12と、基板上面12Aの上に形成され、半導体基板12よりも薄い窒化物半導体層50と、窒化物半導体層50を用いて構成される素子51と、窒化物半導体層50の上に形成された絶縁体層60と、絶縁体層60の上に形成され、素子51に電気的に接続された電極パッド70と、を含む。半導体基板12は、厚さが相対的に薄い薄肉部81と、厚さが相対的に厚い厚肉部82とを含む。平面視において、厚肉部82は、薄肉部81と半導体基板12の外周縁12C,12Dとの間に配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上面、および前記基板上面と反対側を向く基板下面を有する半導体基板と、
前記基板上面の上に形成され、前記半導体基板よりも薄い窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層を用いて構成される素子と、
前記窒化物半導体層の上に形成された絶縁体層と、
前記絶縁体層の上に形成され、前記素子に電気的に接続された電極パッドと、
を含み、
前記半導体基板は、厚さが相対的に薄い薄肉部と、厚さが相対的に厚い厚肉部とを含み、
前記半導体基板の厚さ方向に視た平面視において、
前記厚肉部は、前記薄肉部と前記半導体基板の外周縁との間に配置されている、
窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記薄肉部の厚さ(T1)に対する前記厚肉部の厚さ(T2)の比(T2/T1)は、0.1以上0.8以下である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記薄肉部の厚さ(T1)は50μm以上200μm以下であり、
前記厚肉部の厚さ(T2)は250μm以上500μm以下である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記薄肉部は、前記基板下面に設けられた凹部によって形成されている、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記半導体基板は、平面視において、第1方向、および前記第1方向に直交する第2方向に延びる矩形状であり、
前記厚肉部は、前記薄肉部と前記第1方向における一方側の外周縁との間、および前記薄肉部と前記第1方向における他方側の外周縁との間の両方に配置されている、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記厚肉部は、前記薄肉部と前記第2方向における一方側の外周縁との間、および前記薄肉部と前記第2方向における他方側の外周縁との間の両方に配置されている、請求項5に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記窒化物半導体層の厚さ(T3)に対する前記厚肉部の厚さ(T2)の比(T2/T3)は、20以上180以下である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
平面視において、前記半導体基板上の中央部分に位置するとともに前記素子が形成されているアクティブ領域と、前記半導体基板上の外周側に位置するとともに前記アクティブ領域を囲む枠状の周辺領域とを含み、
前記薄肉部の少なくとも一部は、平面視において前記アクティブ領域と重なっている、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
前記素子が形成されている複数の素子領域を含み、
前記薄肉部は、平面視において、少なくとも1つの前記素子領域と重なっている、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項10】
前記素子は、
前記半導体基板の上に形成され、窒化物半導体によって構成された電子走行層と、
前記電子走行層の上に形成され、前記電子走行層よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層と、
前記電子供給層の上に形成され、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層と、
前記ゲート層の上に形成されたゲート電極と、
前記電子供給層の上に形成されたソース電極およびドレイン電極と、を備える、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項11】
前記半導体基板は、Si基板である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項12】
前記窒化物半導体層は、GaN層である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置と、
前記半導体基板の前記基板下面に取り付けられた放熱部材と、を含む、半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体装置、および半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物半導体(以下、単に「窒化物半導体」と言う場合がある)を用いた高電子移動度トランジスタ(HEMT)の製品化が進んでいる。HEMTは、半導体ヘテロ接合の界面付近に形成された二次元電子ガス(2DEG)を導電経路(チャネル)として使用する。HEMTを利用したパワーデバイスは、典型的なシリコン(Si)パワーデバイスと比較して低オン抵抗および高速・高周波動作を可能にしたデバイスとして認知されている。
【0003】
たとえば、特許文献1に記載の窒化物半導体装置は、半導体基板と、半導体基板の上に形成された電子走行層および電子供給層とを含む。電子走行層は、窒化ガリウム(GaN)層によって構成されている。電子供給層は、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層によって構成されている。これら電子走行層と電子供給層とのヘテロ接合の界面付近において電子走行層中に2DEGが形成される。
【0004】
また、特許文献1の窒化物半導体装置では、アクセプタ型不純物を含むゲート層(たとえばp型GaN層)が、電子走行層上であってゲート電極の直下の位置に設けられている。この構成では、ゲート層の直下の領域において、ゲート層が電子走行層と電子供給層との間のヘテロ接合界面付近における伝導帯のバンドエネルギーを持ち上げることによりゲート層の直下のチャネルが消失し、ノーマリーオフが実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体装置の高機能化・多機能化に伴って、ウエハ状態でパッケージを完成させるチップサイズパッケージの実用化が進んでいる。半導体基板の上にGaN層等の窒化物半導体層が形成されている窒化物半導体装置をチップサイズパッケージに適用する場合、窒化物半導体層を用いて構成されるHEMT等の素子が発する熱を放熱する放熱性を高めることが難しいという問題がある。
【0007】
すなわち、チップサイズパッケージとして構成された上記窒化物半導体装置は、窒化物半導体層の上に絶縁体層を介して電極パッドが形成される。そして、上記窒化物半導体装置は、電極パッドが位置する表面側を実装基板に対向させた状態として実装基板に実装される。そのため、上記窒化物半導体装置に含まれる素子が発する熱は、電極パッドが位置する表面の反対側の面であって、半導体基板が位置する裏面側から放熱される。そのため、上記窒化物半導体装置の放熱性を高めるためには、半導体基板を薄く形成して、半導体基板の熱抵抗を小さくすることが考えられる。
【0008】
しかしながら、窒化物半導体層を用いて構成されるHEMT等の素子を含む窒化物半導体装置においては、半導体基板の厚さに対して、窒化物半導体層の厚さが非常に薄いため、半導体基板の厚さを薄くすると強度を確保することが難しくなる。たとえば、半導体基板の厚さを過度に薄くした場合、半導体基板の上に形成されている窒化物半導体層の応力を受けてウエハが割れてしまうこともある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様である窒化物半導体層は、基板上面、および前記基板上面と反対側を向く基板下面を有する半導体基板と、前記基板上面の上に形成され、前記半導体基板よりも薄い窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層を用いて構成される素子と、前記窒化物半導体層の上に形成された絶縁体層と、前記絶縁体層の上に形成され、前記素子に電気的に接続された電極パッドと、を含み、前記半導体基板は、厚さが相対的に薄い薄肉部と、厚さが相対的に厚い厚肉部とを含み、前記半導体基板の厚さ方向に視た平面視において、前記厚肉部は、前記薄肉部と前記半導体基板の外周縁との間に配置されている。
【0010】
本開示の一態様である半導体モジュールは、上記窒化物半導体装置と、前記半導体基板の前記基板下面に取り付けられた放熱部材と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の窒化物半導体装置、および半導体モジュールによれば、放熱性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、窒化物半導体装置の例示的な概略平面図である。
【
図5】
図5は、半導体基板の基板下面を示す概略平面図である。
【
図6】
図6は、実装基板に実装された状態の窒化物半導体装置の例示的な概略断面図である。
【
図7】
図7は、変更例の半導体基板の基板下面を示す概略平面図である。
【
図8】
図8は、変更例の半導体基板の基板下面を示す概略平面図である。
【
図9】
図9は、変更例の窒化物半導体装置を示す概略断面図である。
【
図10】
図10は、変更例の半導体基板の基板下面を示す概略平面図である。
【
図11】
図11は、変更例の半導体基板の基板下面を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示における窒化物半導体装置の実施形態を説明する。
なお、説明を簡単かつ明確にするために、図面に示される構成要素は必ずしも一定の縮尺で描かれていない。また、理解を容易にするために、断面図では、ハッチング線が省略されている場合がある。添付の図面は、本開示の実施形態を例示するに過ぎず、本開示を制限するものとみなされるべきではない。
【0014】
以下の詳細な記載は、本開示の例示的な実施形態を具体化する装置、システム、および方法を含む。この詳細な記載は本来説明のためのものに過ぎず、本開示の実施形態またはこのような実施形態の適用および使用を限定することを意図していない。
【0015】
[窒化物半導体装置の概略構造]
図1は、実施形態に係る例示的な窒化物半導体装置10の概略平面図である。
図2は、窒化物半導体装置10の概略断面図であり、
図1の2-2線断面図である。
【0016】
本開示において使用される「平面視」という用語は、
図1に示される互いに直交するXYZ軸のZ軸方向に窒化物半導体装置10を視ることをいう。また、
図1および
図2に示される窒化物半導体装置10において、便宜上、+Z方向を上、-Z方向を下、+X方向を右、-X方向を左と定義する。明示的に別段の記載がない限り、「平面視」とは、窒化物半導体装置10をZ軸に沿って上方から視ることを指す。
【0017】
窒化物半導体装置10は、ウエハ状態でパッケージを完成させるチップサイズパッケージである。
図1および
図2に示すように、窒化物半導体装置10は、チップ表面10sとチップ裏面10rを含む。さらに、窒化物半導体装置10は、チップ表面10sとチップ裏面10rとを接続する第1~第4チップ側面10A~10Dを含む。平面視における窒化物半導体装置10の形状、換言すると平面視におけるチップ表面10sおよびチップ裏面10rの形状は矩形状である。第1チップ側面10Aおよび第2チップ側面10Bは、X軸方向に沿って延びるとともに、Y軸方向を向くように配置されている。第3チップ側面10Cおよび第4チップ側面10Dは、Y軸方向に沿って延びるとともに、X軸方向を向くように配置されている。
【0018】
図2に示すように、窒化物半導体装置10は、半導体基板12と、半導体基板12上に形成された窒化物半導体層50と、窒化物半導体層50を用いて構成される素子51と、窒化物半導体層50の上に形成された絶縁体層60と、絶縁体層60の上に形成された電極パッド70とを含む。
【0019】
半導体基板12は、シリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、GaN、サファイア、または他の基板材料で形成することができる。一例では、半導体基板12は、Si基板であってよい。半導体基板12は、厚さ方向(Z軸方向)の一方側を向く面である基板上面12Aと、基板上面12Aの反対側を向く面である基板下面12Bとを有する。半導体基板12の基板下面12Bは、窒化物半導体装置10のチップ裏面10rを構成している。なお、半導体基板12形状の詳細については後述する。
【0020】
窒化物半導体層50は、窒化物半導体により形成された層である。窒化物半導体層50の厚さT3は、たとえば1μm以上10μm以下である。詳細は後述するが、窒化物半導体層50は、窒化物半導体により形成される複数の層を含む。したがって、窒化物半導体層50の厚さT3は、窒化物半導体層50の全体の厚さ、すなわち、複数の層の合計厚さを意味する。素子51は、熱を発生する発熱素子であり、窒化物半導体層50を用いて構成されている。窒化物半導体層50および素子51の詳細については後述する。
【0021】
絶縁体層60は、たとえば窒化シリコン(SiN)、二酸化シリコン(SiO2)、酸窒化シリコン(SiON)、アルミナ(Al2O3)、AlN、および酸窒化アルミニウム(AlON)のうちいずれか1つを含む材料によって構成され得る。一例では、絶縁体層60は、SiNを含む材料によって形成されている。
【0022】
電極パッド70は、絶縁体層60の上面に形成されている。電極パッド70は、単数又は複数のソースパッド71、単数又は複数のドレインパッド72、および単数又は複数のゲートパッド73を含む。ソースパッド71は、後述するソース電極28に電気的に接続されている。ドレインパッド72は、後述するドレイン電極30に電気的に接続されている。ゲートパッド73は、後述するゲート電極24に電気的に接続されている。電極パッド70の各々は、たとえば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、AlCu合金、タングステン(W)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)のうち少なくとも1つを含む任意の導体材料によって構成することができる。
【0023】
電極パッド70の各々の上面には、外部との電気接続のための接合材ボール74が形成されていてもよい。接合材ボール74は、半田等の接合材を用いて、たとえば略球状に形成されている。1つの電極パッド70の上面に形成される接合材ボール74の個数は特に限定されない。また、1つの電極パッド70において、接合材ボール74は、電極パッド70の上面の一部を覆うように形成されていてもよいし、上面の全体を覆うように形成されていてもよい。
【0024】
[窒化物半導体層および素子の詳細]
(素子の概略構造)
図1に示すように、窒化物半導体装置10は、半導体基板12上の中央部分に位置するアクティブ領域A1と、半導体基板12上の外周側に位置してアクティブ領域A1を囲む枠状の周辺領域A2とを含む。アクティブ領域A1は、素子51が形成されている領域であり、周辺領域A2は、素子51が形成されていない領域である。
【0025】
図3は、アクティブ領域A1に形成されている素子51の概略平面図である。
図3では、絶縁体層60および電極パッド70が省略されている。
図4は、素子51の概略断面図であり、
図3の4-4線断面図である。一例では、素子51は、GaNを用いたHEMTであってよい。以下では、
図4を参照して、素子51の断面構造について説明した後、
図3を参照して素子51の平面構造について説明する。
【0026】
図4に示すように、素子51は、半導体基板12と、半導体基板12上に形成された窒化物半導体層50とを含む。窒化物半導体層50は、半導体基板12上に形成されたバッファ層14と、バッファ層14上に形成された電子走行層16と、電子走行層16上に形成された電子供給層18とを含む。
【0027】
バッファ層14は、半導体基板12の基板上面12Aの上に形成されている。バッファ層14は、半導体基板12と電子走行層16との間に位置し得る。一例では、バッファ層14は、電子走行層16のエピタキシャル成長を容易にすることができる任意の材料によって構成され得る。バッファ層14は、1つまたは複数の窒化物半導体層を含み得る。
【0028】
一例では、バッファ層14は、窒化アルミニウム(AlN)層、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層、および異なるアルミニウム(Al)組成を有するグレーテッドAlGaN層のうちの少なくとも1つを含み得る。たとえば、バッファ層14は、単一のAlN層、単一のAlGaN層、AlGaN/GaN超格子構造を有する層、AlN/AlGaN超格子構造を有する層、またはAlN/GaN超格子構造を有する層によって構成され得る。なお、バッファ層14におけるリーク電流を抑制するために、バッファ層14の一部に不純物を導入してバッファ層14を半絶縁性にしてもよい。その場合、不純物は、たとえば炭素(C)または鉄(Fe)であり、不純物の濃度は、たとえば4×1016cm-3以上とすることができる。
【0029】
電子走行層16は、窒化物半導体によって構成されている。電子走行層16は、たとえばGaN層である。電子走行層16の厚さは、たとえば、0.5μm以上2μm以下である。なお、電子走行層16におけるリーク電流を抑制するために、電子走行層16の一部に不純物を導入して電子走行層16の表層領域以外を半絶縁性にしてもよい。その場合、不純物は、たとえばCであり、電子走行層16中の不純物のピーク濃度は、たとえば1×1019cm-3以上である。
【0030】
電子供給層18は、電子走行層16よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成されている。電子供給層18は、たとえばAlGaN層である。この場合、Al組成が大きいほどバンドギャップが大きくなるため、AlGaN層である電子供給層18は、GaN層である電子走行層16よりも大きなバンドギャップを有する。一例では、電子供給層18は、AlxGa1-xNによって構成され、xは0.1<x<0.4であり、より好ましくは、0.2<x<0.3である。電子供給層18の厚さは、たとえば5nm以上20nm以下である。
【0031】
電子走行層16と電子供給層18とは、互いに異なる格子定数を有する窒化物半導体によって構成されている。したがって、電子走行層16を構成する窒化物半導体(たとえば、GaN)と電子供給層18を構成する窒化物半導体(たとえば、AlGaN)とは、格子不整合系のヘテロ接合を形成する。電子走行層16および電子供給層18の自発分極と、ヘテロ接合界面付近の電子供給層18が受ける応力に起因するピエゾ分極とによって、ヘテロ接合界面付近における電子走行層16の伝導帯のエネルギーレベルはフェルミ準位よりも低くなる。これにより、電子走行層16と電子供給層18とのヘテロ接合界面に近い位置(たとえば、界面から数nm程度の範囲内)において電子走行層16内には二次元電子ガス(2DEG)20が広がっている。
【0032】
素子51は、電子供給層18の上に形成されたゲート層22と、ゲート層22上に形成されたゲート電極24と、パッシベーション層26とをさらに含む。パッシベーション層26は、電子供給層18、ゲート層22、およびゲート電極24の上に形成されるとともに、第1開口部26Aおよび第2開口部26Bを含む。また、素子51は、第1開口部26Aを介して電子供給層18の上面18Aに接するソース電極28と、第2開口部26Bを介して電子供給層18の上面18Aに接するドレイン電極30とをさらに含む。
【0033】
ゲート層22は、パッシベーション層26の第1開口部26Aと第2開口部26Bとの間に位置しており、第1開口部26Aおよび第2開口部26Bの各々から離間している。ゲート層22は、第2開口部26Bよりも第1開口部26Aの近くに位置している。ゲート層22の詳細な構造については後述する。
【0034】
ゲート層22は、電子供給層18よりも小さなバンドギャップを有するとともに、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されている。ゲート層22は、たとえばAlGaN層である電子供給層18よりも小さなバンドギャップを有する任意の材料によって構成され得る。一例では、ゲート層22は、アクセプタ型不純物がドーピングされたGaN層(p型GaN層)である。
【0035】
アクセプタ型不純物は、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、およびCのうち少なくとも1つを含むことができる。アクセプタ型不純物の一例は、Mgである。ゲート層22中のアクセプタ型不純物の最大濃度は、たとえば1×1018cm-3以上、または1×1019cm-3以上である。ゲート層22中のアクセプタ型不純物の最大濃度は、たとえば1×1020cm-3以下である。
【0036】
上記のように、ゲート層22にアクセプタ型不純物が含まれることによって、電子走行層16および電子供給層18のエネルギーレベルが引き上げられる。このため、ゲート層22の直下の領域において、電子走行層16と電子供給層18との間のヘテロ接合界面付近における電子走行層16の伝導帯のエネルギーレベルは、フェルミ準位とほぼ同じか、またはそれよりも大きくなる。したがって、ゲート電極24に電圧を印加していないゼロバイアス時において、ゲート層22の直下の領域における電子走行層16には、2DEG20が形成されない。一方、ゲート層22の直下の領域以外の領域における電子走行層16には、2DEG20が形成されている。
【0037】
このように、アクセプタ型不純物がドーピングされたゲート層22の存在によってゲート層22の直下の領域で2DEG20が消滅している。その結果、トランジスタのノーマリーオフ動作が実現される。ゲート電極24に適切なオン電圧が印加されると、ゲート電極24の直下の領域における電子走行層16に2DEG20によるチャネルが形成されるため、ソース-ドレイン間が導通する。
【0038】
ゲート電極24は、1つまたは複数の金属層によって構成されている。ゲート電極24は、一例では窒化チタン(TiN)層である。あるいは、ゲート電極24は、Tiを含む材料によって形成された第1金属層と、第1金属層上に積層され、TiNを含む材料によって形成された第2金属層とによって構成されていてもよい。ゲート電極24は、ゲート層22とショットキー接合を形成することができる。ゲート電極24は、平面視でゲート層22よりも小さい領域に形成され得る。ゲート電極24の厚さは、たとえば50nm以上200nm以下である。
【0039】
パッシベーション層26は、電子供給層18上に形成されている。パッシベーション層26は、電子供給層18の上面18Aを覆っているともいえる。パッシベーション層26は、たとえば窒化シリコン(SiN)、二酸化シリコン(SiO2)、酸窒化シリコン(SiON)、アルミナ(Al2O3)、AlN、および酸窒化アルミニウム(AlON)のうちいずれか1つを含む材料によって構成され得る。一例では、パッシベーション層26は、SiNを含む材料によって形成されている。パッシベーション層26のうちゲート層22およびゲート電極24を覆う部分は、ゲート層22およびゲート電極24の表面に沿って形成されているため、非平坦な表面を有する。パッシベーション層26は、たとえば、200nm以下の厚さを有する。ここで、パッシベーション層26の厚さは、たとえば、電子供給層18に接する部分の厚さであってよいし、ゲート電極24の上面に接する部分の厚さであってもよい。
【0040】
ソース電極28およびドレイン電極30は、電子供給層18の上面18Aにおいて、ゲート層22を挟むように配置されている。以下では、電子供給層18の上面18Aにおいて、ゲート層22、ソース電極28およびドレイン電極30は、X軸方向に並んでいる。
【0041】
ソース電極28およびドレイン電極30は、1つまたは複数の金属層によって構成され得る。たとえば、ソース電極28およびドレイン電極30は、Ti層、TiN層、Al層、AlSiCu層、およびAlCu層等を含む群から選択された2つ以上の金属層の組み合わせによって構成され得る。ソース電極28の少なくとも一部は、第1開口部26A内に充填されており、第1開口部26Aを介して電子供給層18直下の2DEG20とオーミック接触している。同様に、ドレイン電極30の少なくとも一部は、第2開口部26B内に充填されており、第2開口部26Bを介して電子供給層18直下の2DEG20とオーミック接触している。
【0042】
一例では、ソース電極28は、第1開口部26Aに充填されたソースコンタクト部28Aと、パッシベーション層26の上に形成されたソースフィールドプレート部28Bとを含み得る。ソースフィールドプレート部28Bは、ソースコンタクト部28Aと連続しており、ソースコンタクト部28Aと一体に形成されている。ソースフィールドプレート部28Bは、平面視で第2開口部26Bとゲート層22との間に位置する端部28Cを含む。ソースフィールドプレート部28Bは、ドレイン電極30からは離間している。ソースフィールドプレート部28Bは、ゲート電極24にゲート電圧が印加されていないゼロバイアス状態でドレイン電極30にドレイン電圧が印加された場合にゲート電極24の端部近傍およびゲート層22の端部近傍の電界集中を緩和する役割を果たす。
【0043】
上で述べたとおり、ソース電極28は、絶縁体層60内に形成された配線(図示略)を介して、ソースパッド71に電気的に接続されている。ドレイン電極30は、絶縁体層60内に形成された配線(図示略)を介して、ドレインパッド72に電気的に接続されている。ゲート電極24は、絶縁体層60内に形成された配線(図示略)を介して、ゲートパッド73に電気的に接続されている。また、絶縁体層60は、パッシベーション層26、ソース電極28、およびドレイン電極30の上に形成されている。絶縁体層60は、パッシベーション層26、ソース電極28、およびドレイン電極30を覆っているともいえる。
【0044】
(素子の平面構造)
次に、
図3を参照して、素子51の平面構造について説明する。
図3では、パッシベーション層26、ソース電極28の図示は省略されており、パッシベーション層26の第1開口部26Aおよび第2開口部26B、並びにソース電極28の端部28Cが破線で描かれている。
【0045】
素子51は、アクティブ領域A1内において、トランジスタ動作に寄与する第1アクティブ領域と、トランジスタ動作に寄与しない第2アクティブ領域(図示略)を有する。一例では、第1アクティブ領域と第2アクティブ領域とは、Y軸方向に交互に配置されている。
【0046】
素子51の第1アクティブ領域において、ソース電極28(
図4参照)と、ゲート電極24と、ドレイン電極30とは電子供給層18(
図4参照)上でX軸方向に隣り合って配置されている。X軸方向に隣り合うソース電極28、ゲート電極24、およびドレイン電極30の組み合わせは、1つのHEMTセル51HCを構成する。
図3の例では、アクティブ領域において、X方向に2つのHEMTセル51HCが配置されている。なお、実際には、より多くのHEMTセル51HCが各アクティブ領域に配置され得る。
【0047】
(ゲート層の詳細な構造)
ゲート層22の一例は、ステップ構造を有する。以下、
図4を参照してステップ構造を有するゲート層22の詳細について説明する。
【0048】
図4に示すように、ゲート層22は、リッジ部42と、リッジ部42よりも薄い延在部43とを含む。延在部43は、リッジ部42のX軸方向における側面42Cの各々からX軸方向に向かって延びている。
【0049】
リッジ部42は、ゲート層22の相対的に厚い部分に相当する。ゲート電極24は、リッジ部42に接している。リッジ部42は、
図4のXZ平面に沿った断面において矩形状または台形状を有し得る。リッジ部42は、たとえば100nm以上200nm以下の厚さT4を有し得る。リッジ部42の厚さT4とは、リッジ部42の上面42Aから下面42Bまでの距離のことである。リッジ部42の厚さT4は、ゲート耐圧等の種々のパラメータを考慮して決定され得る。
【0050】
延在部43は、ソース側延在部44およびドレイン側延在部46を含む。ソース側延在部44およびドレイン側延在部46は、X軸方向における互いに反対となる方向に延びている。詳述すると、ソース側延在部44は、リッジ部42からパッシベーション層26の第1開口部26Aに向かって延びている。ドレイン側延在部46は、リッジ部42からパッシベーション層26の第2開口部26Bに向かって延びている。ソース側延在部44とドレイン側延在部46は同じ長さであってもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
延在部43の各々の厚さT5は、たとえば30nm以下、25nm以下、20nm以下、または15nm以下である。延在部43の厚さT5は、たとえば5nm以上である。一例では、ソース側延在部44の厚さT5Aとドレイン側延在部46の厚さT5Bは、互いに等しい。ここで、ソース側延在部44の厚さT5Aとドレイン側延在部46の厚さT5Bの差がたとえばソース側延在部44の厚さの10%以内であれば、ソース側延在部44の厚さT5Aとドレイン側延在部46の厚さT5Bとが互いに等しいといえる。
【0052】
ソース側延在部44は、リッジ部42から第1開口部26Aに向かう方向において、例えば、100nm以上の長さL1を有し得る。ソース側延在部44の長さL1は、例えば、200nm以上300nm以下である。ドレイン側延在部46は、リッジ部42から第2開口部26Bに向かう方向において、例えば200nm以上600nm以下の長さL2を有し得る。一例では、ドレイン側延在部46の長さL2は、ソース側延在部44の長さL1よりも長い。
【0053】
ゲート層22は、上面および下面を有する。ゲート層22の下面は、ゲート層22における電子供給層18の上面18Aに対向する面である。ゲート層22の上面は、ゲート層22における下面の反対側に位置する面である。ステップ構造を有するゲート層22の上面は、リッジ部42の上面42A、および延在部43の上面(ソース側延在部44の上面44Aおよびドレイン側延在部46の上面46A)を含む面を意味する。ステップ構造を有するゲート層22の下面は、リッジ部42の下面42B、ソース側延在部44の下面44B、およびドレイン側延在部46の下面46Bを含む面を意味する。
【0054】
ステップ構造を有するゲート層22の断面形状は、上記の形状に限定されない。たとえば、ソース側延在部44の厚さT5とドレイン側延在部46の厚さT5が異なっていてもよい。また、ソース側延在部44およびドレイン側延在部46のうちのいずれか一方が省略されていてもよいし、ソース側延在部44およびドレイン側延在部46の両方が省略されていてもよい。
【0055】
[半導体基板の詳細な構造]
次に、
図2および
図5を参照して、半導体基板12の詳細な構造について説明する。
図5は、半導体基板12の基板下面12Bを示す概略平面図である。
【0056】
図2および
図5に示すように、半導体基板12は、基板上面12Aと基板下面12Bとを含む。さらに、半導体基板12は、基板上面12Aと基板下面12Bとを接続する外周縁12C~12Fとを含む。平面視における半導体基板12の形状は、矩形状である。換言すると、基板上面12Aおよび基板下面12Bの形状は、外周縁12C、12DがX軸方向(第1方向)に延びるとともに、外周縁12E、12FがY軸方向(第1方向に直交する第2方向)に延びる矩形状である。
【0057】
半導体基板12は、厚さが相対的に薄い薄肉部81と、厚さが相対的に厚い厚肉部82とを含む。平面視において、厚肉部82は、薄肉部81と、半導体基板12の外周縁12C~12Fとの間に配置されている。具体的には、厚肉部82は、薄肉部81と半導体基板12の外周縁12Cとの間、薄肉部81と半導体基板12の外周縁12Dとの間、薄肉部81と半導体基板12の外周縁12Eとの間、および薄肉部81と半導体基板12の外周縁12Fとの間の各々に配置されている。厚肉部82は、平面視において、薄肉部81を囲む矩形枠状に配置されているともいえる。
【0058】
薄肉部81および厚肉部82は、平板状である半導体基板12の基板下面12Bに1つの凹部83を設けることにより形成されている。半導体基板12において、凹部83は、基板下面12B側に開口するとともに、基板下面12B側から基板上面12A側へ向かって凹んでいる。凹部83は、凹部底面83A、および凹部底面83Aと基板下面12Bとを接続する凹部側面83Bとを含む。凹部底面83Aは、たとえば半導体基板12の厚さ方向(Z軸方向)に直交する面であり、凹部側面83Bは、たとえば半導体基板12の厚さ方向と平行な面である。
【0059】
平面視において、薄肉部81は、X軸方向およびY軸方向に延びる矩形状である。換言すると、凹部83の凹部底面83Aは、X軸方向およびY軸方向に延びる矩形状である。薄肉部81の平面視形状の一例は、半導体基板12の基板下面12Bと相似形状である。平面視において、基板下面12B全体の面積に占める薄肉部81の面積割合は、たとえば10%以上である。上記面積割合は、たとえば40%以下であり、好ましくは34%以下である。
【0060】
凹部83の少なくとも一部は、平面視において、アクティブ領域A1と重なる位置に配置されている。換言すると、凹部83の少なくとも一部は、アクティブ領域A1の直下に配置されている。
図2および
図5に示す凹部83の一例は、凹部83の全体がアクティブ領域A1と重なっている。
【0061】
厚肉部82は、幅Wを有する。厚肉部82の幅Wは、平面視において、薄肉部81と半導体基板12の外周縁12C~12Fとの間の距離を意味する。厚肉部82の幅Wは、たとえば50μm以上であり、好ましくは200μm以上である。厚肉部82の幅Wは、たとえば600μm以下であり、好ましくは350μm以下である。厚肉部82の幅Wは一定であってもよいし、部分ごとに変化してもよい。厚肉部82の幅Wが部分ごとに変化する場合、厚肉部82の最も狭い部分における幅Wが50μm以上であることが好ましい。
【0062】
次に、薄肉部81の厚さT1および厚肉部82の厚さT2について説明する。
図2に示すように、薄肉部81の厚さT1は、半導体基板12における基板上面12Aと凹部底面83Aとの間の距離を意味する。薄肉部81の厚さT1は、たとえば250μm以下、200μm以下、または50μm以下である。薄肉部81の厚さT1は、たとえば50μm以上、または200μm以上である。薄肉部81の厚さT1は一定であってもよいし、部分ごとに変化してもよい。
【0063】
厚肉部82の厚さT2は、半導体基板12における基板上面12Aと基板下面12Bとの間の距離を意味する。厚肉部82の厚さT2は、たとえば500μm以下、または250μm以下である。厚肉部82の厚さT2は、たとえば150μm以上、または250μm以上である。薄肉部81の厚さT1に対する厚肉部82の厚さT2の比(T2/T1)は、たとえば1.25以上10.0以下であり、好ましくは2.5以上5.0以下である。厚肉部82の厚さT2は一定であってもよいし、部分ごとに変化してもよい。
【0064】
ここで、窒化物半導体層50は、半導体基板12よりも薄い。つまり、窒化物半導体層50の厚さT3は、厚肉部82の厚さT2より薄く、かつ薄肉部81の厚さT1よりも薄い。薄肉部81の厚さT1に対する窒化物半導体層50の厚さT3の比(T3/T1)は、たとえば0.2以下であり、好ましくは0.028以下である。上記比(T3/T1)は、たとえば0.014以上である。また、厚肉部82の厚さT2に対する窒化物半導体層50の厚さT3の比(T3/T2)は、たとえば0.0056以上0.05以下である。また、窒化物半導体層50の厚さT3に対する厚肉部82の厚さT2の比(T2/T3)は、20以上180以下である。
【0065】
[半導体モジュールおよび実装構造]
図6は、窒化物半導体装置10を含む半導体モジュール100の実装構造を示す例示的な概略断面図である。
【0066】
半導体モジュール100は、窒化物半導体装置10と、放熱部材101とを含む。放熱部材101は、窒化物半導体装置10のチップ裏面10r、すなわち半導体基板12の基板下面12Bに対して、接合材102を用いて取り付けられている。放熱部材101は、たとえば放熱フィンである。放熱部材101は、熱伝達性の良い材料により形成されている。放熱部材101は、たとえばセラミックス、金属から構成されている。セラミックスは、たとえばアルミナ(Al2O3)を主成分として含む。接合材102としては、半田、銀(Ag)ペースト等の金属材料、および熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の樹脂系材料が挙げられる。放熱部材101は、その少なくとも一部が、直接または接合材102を介して、基板下面12Bにおける薄肉部81が位置する部分(凹部底面83A)に接している。
【0067】
半導体モジュール100は、窒化物半導体装置10のチップ表面10sを実装基板90に対向させた状態として、各電極パッド70の各接合材ボール74を実装基板90のパッド部(図示略)に接続することによって実装基板90に実装される。実装基板90は、たとえばプリント配線基板である。なお、半導体モジュール100の状態で実装する構成に代えて、窒化物半導体装置10を実装基板90に実装した後、実装基板90に実装された状態の窒化物半導体装置10のチップ裏面10rに対して放熱部材101を取り付けてもよい。
【0068】
[作用]
次に、実施形態の窒化物半導体装置10の作用を説明する。
チップサイズパッケージとして構成されている窒化物半導体装置10は、基板上面12Aおよび基板下面12Bを有する半導体基板12と、基板上面12Aの上に形成されている窒化物半導体層50、絶縁体層60、および電極パッドと、窒化物半導体層50を用いて構成される素子51とを含む。この窒化物半導体装置10において、素子51から発生した熱は、半導体基板12を通じてチップ裏面10r(半導体基板12の基板下面12B)から放熱される放熱経路を通じて放熱される。半導体基板12において、上記放熱経路としては、平面視における半導体基板12の中央部分が主に利用される。そのため、素子51の発熱時の半導体基板12における熱分布は、平面視における中央部分が最も温度が高くなり、外周側に近づくにしたがって徐々に温度が低くなる。
【0069】
ここで、窒化物半導体装置10に用いられている半導体基板12は、厚さが相対的に薄い薄肉部81と、厚さが相対的に厚い厚肉部82とを含む。平面視において、厚肉部82は、薄肉部81と半導体基板12の外周縁12C~12Fとの間に配置されている。換言すると、半導体基板12において、上記放熱経路としての大きく寄与する部分である中央に位置する部分が相対的に薄く形成されるとともに、上記放熱経路として寄与し難い部分である外周側に位置する部分が相対的に厚く形成されている。これにより、半導体基板12の強度の確保と、半導体基板12を通じた放熱性の向上とを両立させることができる。
【0070】
つまり、上記放熱経路としての大きく寄与する部分である中央に位置する部分を相対的に薄く形成することにより、上記放熱経路における半導体基板12に起因する熱抵抗を大きく低下させることができる。その結果、上記放熱経路における放熱性が大きく向上する。一方、半導体基板12の外周側に位置する部分に厚肉部82が形成されていることにより、半導体基板12の強度を確保できる。上記のとおり、半導体基板12の外周側に位置する部分は、上記放熱経路としてあまり寄与しない部分であるため、厚く形成したとしても半導体基板12を通じた放熱性に与える影響は小さい。したがって、半導体基板12の外周側に位置する部分を厚く形成することは、半導体基板12を通じた放熱性を低下させない。このように、薄肉部81および厚肉部82を含む半導体基板12を用いた窒化物半導体装置10の構成によれば、半導体基板12の強度を確保しながらも、半導体基板12を通じた放熱性を向上させることができる。
【0071】
[効果]
実施形態の窒化物半導体装置10によれば、以下の効果が得られる。
(1)窒化物半導体装置10は、基板上面12Aおよび基板下面12Bを有する半導体基板12と、基板上面12Aの上に形成され、半導体基板12よりも薄い窒化物半導体層50と、窒化物半導体層50を用いて構成される素子51と、窒化物半導体層50の上に形成された絶縁体層60と、絶縁体層60の上に形成され、素子51に電気的に接続された電極パッド70と、を含む。半導体基板12は、厚さが相対的に薄い薄肉部81と、厚さが相対的に厚い厚肉部82とを含む。平面視において、厚肉部82は、薄肉部81と半導体基板12の外周縁12C~12Fとの間に配置されている。この構成によれば、半導体基板12の強度の確保しながらも、半導体基板12を通じた放熱性を向上させることができる。
【0072】
(2)薄肉部81の厚さT1に対する厚肉部82の厚さT2の比(T2/T1)は、1.25以上10.0以下である。上記比(T2/T1)が1.25以上であることにより、厚肉部82によって半導体基板12の強度を高める効果が向上する。上記比(T2/T1)が10.0以下であることにより、薄肉部81において、半導体基板12の放熱性を高める効果が顕著に得られる。
【0073】
(3)半導体基板12は、平面視において、第1方向(X軸方向)、および第1方向(X軸方向)に直交する第2方向(Y軸方向)に延びる矩形状である。厚肉部82は、薄肉部81と第1方向(X軸方向)における一方側の外周縁12Cとの間、および薄肉部81と第1方向(X軸方向)における他方側の外周縁(12D)との間の両方に配置されている。この構成によれば、第1方向(X軸方向)の両側に厚肉部82が設けられていることにより、厚肉部82によって半導体基板12の強度を高める効果が向上する。
【0074】
(4)厚肉部82は、薄肉部81と第2方向(Y軸方向)における一方側の外周縁12Eとの間、および薄肉部81と第2方向(Y軸方向)における他方側の外周縁12Fとの間の両方に配置されている。この構成によれば、第1方向(X軸方向)の両側および第2方向(Y軸方向)の両側に厚肉部82が設けられていることにより、厚肉部82によって半導体基板12の強度を高める効果が更に向上する。
【0075】
(5)窒化物半導体層50の厚さT3に対する厚肉部82の厚さT2の比(T2/T3)は、20以上である。この構成は、半導体基板12に対して、窒化物半導体層50が非常に薄く形成されていることを意味する。この場合、素子51から発生した熱が半導体基板12を通じて半導体基板12の基板下面12Bから放熱される放熱経路に占める半導体基板12の割合が大きくなる。そのため、上記(1)の半導体基板12の放熱性を高める効果がより顕著に得られる。
【0076】
(6)窒化物半導体装置10は、平面視において、半導体基板12上の中央部分に位置するとともに素子51が形成されているアクティブ領域A1と、半導体基板12上の外周側に位置するとともにアクティブ領域A1を囲む枠状の周辺領域A2とを含む。薄肉部81の少なくとも一部は、平面視においてアクティブ領域A1と重なっている。半導体基板12におけるアクティブ領域A1と重なる部分は、アクティブ領域A1に設けられている素子51の熱が伝わりやすい部分である。そのため、当該部分に薄肉部81を設けることにより、上記(1)の半導体基板12の放熱性を高める効果がより顕著に得られる。
【0077】
<変更例>
上記実施形態はたとえば以下のように変更できる。上記実施形態と以下の各変更例は、技術的な矛盾が生じない限り、互いに組み合せることができる。なお、以下の変更例において、上記実施形態と共通する部分については、上記実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0078】
・上記実施形態では、素子51は、ノーマリーオフ型HEMTとして構成されたが、本開示の構成は、ノーマリーオフ型HEMTに限定されずノーマリーオン型HEMTにも適用可能である。たとえば、素子51からゲート層22を省略すること、またはゲート層22がアクセプタ型不純物を含まない窒化物半導体層として形成されることで、素子51をノーマリーオン型HEMTとして構成することができる。
【0079】
・上記実施形態では、窒化物半導体装置10の素子51は、窒化物半導体HEMTとして構成されたが、窒化物半導体HEMTに限定されず、窒化物半導体ダイオードとして構成されてもよい。
【0080】
・半導体基板12に設けられる薄肉部81の形状は、矩形状に限定されるものでなく、任意の形状とすることができる。たとえば、薄肉部81の平面視形状は、円形状、楕円形状、多角形状であってもよい。また、半導体基板12に設けられる薄肉部81の個数は特に限定されるものでなく、複数個であってもよい。
【0081】
図7および
図8は、複数の薄肉部81が設けられている変更例の半導体基板12の基板下面12Bを示す概略平面図である。
図7に示す変更例では、平面視矩形状である4個の薄肉部81が2×2で配列されている。なお、
図7に示すように、薄肉部81は、平面視における半導体基板12の中心に配置されていなくてもよい。また、
図8に示す変更例では、平面視円形状である複数の薄肉部81が設けられている。これら複数の薄肉部81は、相対的に直径が大きいものと、小さいものとを含むとともに、半導体基板12の中央側から外周縁12C~12Fに近づくにしたがって、薄肉部81の直径が小さくなるように配置されている。
【0082】
また、
図9に示すように、薄肉部81は、半導体基板12の中央側から外周縁12C~12Fに近づくにしたがって、徐々に厚さT1が厚くなる形状であってもよい。
図9に示す一例では、凹部83の凹部側面83Bを段状に形成することによって、上記の形状の薄肉部81を実現している。
【0083】
また、
図10に示すように、薄肉部81は、平面視において、半導体基板12の外周縁12C~12Fに接する部分を有していてもよい。
図10に示す一例では、薄肉部81は、平面視において、Y軸方向(第2方向)における一方側の外周縁12EおよびY軸方向(第2方向)における他方側の外周縁12Fに接する形状である。この場合、厚肉部82は、平面視において、薄肉部81とX軸方向における一方側の外周縁12Cとの間、および薄肉部81とX軸方向における他方側の外周縁12Dとの間に形成される。一方、薄肉部81とY軸方向における一方側の外周縁12Eとの間、および薄肉部81とY軸方向における他方側の外周縁12Fとの間には、厚肉部82は形成されない。
【0084】
・
図11は、変更例の窒化物半導体装置10における基板下面12B(チップ裏面10r)の模式的な平面図である。
図12は、
図11の12-12線断面図である。
図11および
図12に示す窒化物半導体装置10は、アクティブ領域A1内において、平面視における異なる位置に設けられた複数の素子領域52を含む。複数の素子領域52は、素子51が形成されている領域である。素子領域52の各々に形成されている素子51は同じであってもよいし、異なっていてもよい。素子領域52の個数、配置および形状は任意であり、特定の個数、配置および形状に限定されない。
【0085】
複数の素子領域52のうち、素子51の発熱に起因して温度が高くなりやすい領域を高温素子領域52Aとする。高温素子領域52Aは、1つであってもよいし、複数であってもよい。
図11および
図12では、高温素子領域52Aが1つである場合を示している。当該窒化物半導体装置10の半導体基板12は、上記の実施形態と同様に薄肉部81および厚肉部82を有する。薄肉部81は、平面視において、少なくとも一部が高温素子領域52Aに重なる位置に配置されている。そして、半導体基板12における高温素子領域52Aに重ならない部分は、厚肉部82として形成されている。このように、素子領域52を有する構成において、放熱性を高めることが必要な素子領域52に限定して、薄肉部81を配置してもよい。この場合には、薄肉部81を設ける範囲が大きく限定されるため、薄肉部81を設けることに起因する半導体基板12の強度の低下を抑制できる。
【0086】
本開示で使用される「~上に」という用語は、文脈によって明らかにそうでないことが示されない限り、「~上に」と「~の上方に」との双方の意味を含む。したがって、「第1層が第2層上に形成される」という表現は、或る実施形態では第1層が第2層に接触して第2層上に直接配置され得るが、他の実施形態では第1層が第2層に接触することなく第2層の上方に配置され得ることが意図される。すなわち、「~上に」という用語は、第1層と第2層との間に他の層が形成される構造を排除しない。
【0087】
本開示で使用されるZ方向は必ずしも鉛直方向である必要はなく、鉛直方向に完全に一致している必要もない。したがって、本開示による種々の構造は、本明細書で説明されるZ方向の「上」および「下」が鉛直方向の「上」および「下」であることに限定されない。たとえば、X軸方向が鉛直方向であってもよく、またはY軸方向が鉛直方向であってもよい。
【0088】
本開示における「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、単に対象物を区別するために用いられており、対象物を順位づけするものではない。
<付記>
本開示から把握できる技術的思想を以下に記載する。なお、限定する意図ではなく理解の補助のために、付記に記載される構成要素には、実施形態中の対応する構成要素の参照符号が付されている。参照符号は、理解の補助のために例として示すものであり、各付記に記載された構成要素は、参照符号で示される構成要素に限定されるべきではない。
【0089】
[付記1]
基板上面(12A)、および前記基板上面(12A)と反対側を向く基板下面(12B)を有する半導体基板(12)と、
前記基板上面(12A)の上に形成され、前記半導体基板(12)よりも薄い窒化物半導体層(50)と、
前記窒化物半導体層(50)を用いて構成される素子(51)と、
前記窒化物半導体層(50)の上に形成された絶縁体層(60)と、
前記絶縁体層(60)の上に形成され、前記素子(51)に電気的に接続された電極パッド(70)と、
を含み、
前記半導体基板(12)は、厚さが相対的に薄い薄肉部(81)と、厚さが相対的に厚い厚肉部(82)とを含み、
前記半導体基板(12)の厚さ方向に視た平面視において、
前記厚肉部(82)は、前記薄肉部(81)と前記半導体基板(12)の外周縁(12C~12F)との間に配置されている、窒化物半導体装置(10)。
【0090】
[付記2]
前記薄肉部(81)の厚さ(T1)に対する前記厚肉部(82)の厚さ(T2)の比(T2/T1)は、0.1以上0.8以下である、付記1に記載の窒化物半導体装置(10)。
【0091】
[付記3]
前記薄肉部の厚さ(T1)は50μm以上200μm以下であり、
前記厚肉部の厚さ(T2)は250μm以上500μm以下である、付記1または付記2に記載の窒化物半導体装置(10)。
【0092】
[付記4]
前記薄肉部(81)は、前記基板下面(12B)に設けられた凹部(83)によって形成されている、付記1~3のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0093】
[付記5]
前記半導体基板(12)は、平面視において、第1方向(X軸方向)、および前記第1方向(X軸方向)に直交する第2方向(Y軸方向)に延びる矩形状であり、
前記厚肉部(82)は、前記薄肉部(81)と前記第1方向(X軸方向)における一方側の外周縁(12C)との間、および前記薄肉部(81)と前記第1方向(X軸方向)における他方側の外周縁(12D)との間の両方に配置されている、付記1~4のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0094】
[付記6]
前記厚肉部(82)は、前記薄肉部(81)と前記第2方向(Y軸方向)における一方側の外周縁(12E)との間、および前記薄肉部(81)と前記第2方向(Y軸方向)における他方側の外周縁(12F)との間の両方に配置されている、付記5に記載の窒化物半導体装置(10)。
【0095】
[付記7]
前記窒化物半導体層(50)の厚さ(T3)に対する前記厚肉部(82)の厚さ(T2)の比(T2/T3)は、20以上180以下である、付記1~6のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0096】
[付記8]
平面視において、前記半導体基板(12)上の中央部分に位置するとともに前記素子(51)が形成されているアクティブ領域(A1)と、前記半導体基板(12)上の外周側に位置するとともに前記アクティブ領域(A1)を囲む枠状の周辺領域(A2)とを含み、
前記薄肉部(81)の少なくとも一部は、平面視において前記アクティブ領域(A1)と重なっている、付記1~7のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0097】
[付記9]
前記素子(51)が形成されている複数の素子領域(52)を含み、
前記薄肉部(82)は、平面視において、少なくとも1つの前記素子領域(52)と重なっている、付記1~8のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0098】
[付記10]
前記素子(51)は、
前記半導体基板(12)の上に形成され、窒化物半導体によって構成された電子走行層(16)と、
前記電子走行層(16)の上に形成され、前記電子走行層(16)よりも大きなバンドギャップを有する窒化物半導体によって構成された電子供給層(18)と、
前記電子供給層(18)の上に形成され、アクセプタ型不純物を含む窒化物半導体によって構成されたゲート層(22)と、
前記ゲート層(22)の上に形成されたゲート電極(24)と、
前記電子供給層(18)の上に形成されたソース電極(28)およびドレイン電極(30)と、を備える、付記1~9のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0099】
[付記11]
前記半導体基板(12)は、Si基板である、付記1~10のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0100】
[付記12]
前記窒化物半導体層は、GaN層である、付記1~11のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)。
【0101】
[付記13]
付記1~12のいずれか1つに記載の窒化物半導体装置(10)と、
前記半導体基板(12)の前記基板下面(12B)に取り付けられた放熱部材(101)と、を含む、半導体モジュール(100)。
【符号の説明】
【0102】
A1…アクティブ領域
A2…周辺領域
L1,L2…長さ
T1~T5…厚さ
T5A…厚さ
T5B…厚さ
W…幅
10…窒化物半導体装置
10A~10D…第1~第4チップ側面
10HC…HEMTセル
10r…チップ裏面
10s…チップ表面
11…チップ裏面
12…半導体基板
12A…基板上面
12B…基板下面
12C~12F…外周縁
14…バッファ層
16…電子走行層
18…電子供給層
18A…上面
20…二次元電子ガス
22…ゲート層
24…ゲート電極
26…パッシベーション層
26A…第1開口部
26B…第2開口部
28…ソース電極
28A…ソースコンタクト部
28B…ソースフィールドプレート部
28C…端部
30…ドレイン電極
42…リッジ部
42A…上面
42B…下面
42C…側面
43…延在部
44…ソース側延在部
44A…上面
44B…下面
46…ドレイン側延在部
46A…上面
46B…下面
50…窒化物半導体層
51…素子
51HC…HEMTセル
52…素子領域
52A…高温素子領域
60…絶縁体層
70…電極パッド
71…ソースパッド
72…ドレインパッド
73…ゲートパッド
74…接合材ボール
81…薄肉部
82…厚肉部
83…凹部
83A…凹部底面
83B…凹部側面
90…実装基板
100…半導体モジュール
101…放熱部材
102…接合材