(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143381
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】スラブの誘導加熱を行う方法及び誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20241003BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20241003BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C21D9/00 101P
H05B6/10 381
C21D1/42 G
C21D1/42 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056028
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】吉本 宗司
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AB19
3K059AB26
3K059AB28
3K059AD05
(57)【要約】
【課題】方向性電磁鋼板用スラブの誘導加熱において、スラブの転倒防止のための支持装置がスラブに接触するスラブ上面での当該スラブの温度低下を防止する誘導加熱の方法を提供する。
【解決手段】短辺方向を竪向きにした方向性電磁鋼板用スラブの上面に押し当てたロールを長手方向に移動させながらスラブの転倒防止をはかりつつ、かかるスラブの誘導加熱を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短辺方向を竪向きにした方向性電磁鋼板用スラブの上面に押し当てたロールを長手方向に移動させながらスラブの転倒防止をはかりつつ、かかるスラブの誘導加熱を行う方法。
【請求項2】
前記ロールを、少なくとも中央部とエッジ部とで直径が一律では無い段付きロールとする請求項1に記載の誘導加熱を行う方法。
【請求項3】
前記ロールの移動を周期的な移動とする請求項1または2に記載の誘導加熱を行う方法。
【請求項4】
前記ロールの移動を0.1m/s以上の速度とする請求項1または2に記載の誘導加熱を行う方法。
【請求項5】
前記周期的な移動を、0.1m/s以上の速度とする請求項3に記載の誘導加熱を行う方法。
【請求項6】
短辺方向を竪向きにした方向性電磁鋼板用スラブ1を収容し、誘導加熱コイル5を付帯する炉壁4と、該炉壁4に対して昇降可能に設けられる昇降炉床3と、該昇降炉床3上に載置される前記スラブ1の上面に沿って転動可能に設けられるスラブ上面側ロール2と、を有する誘導加熱装置。
【請求項7】
前記スラブ上面側ロール2は、少なくとも中央部とエッジ部とで直径が一律では無い段付きロールである請求項6に記載の誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板用スラブの誘導加熱において、スラブの転倒防止用支持装置が接触したスラブの上面でのスラブの温度低下を防止する誘導加熱の方法及びかかる方法に用いる誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に知られているように、方向性電磁鋼板の優れた磁気特性は、板面に(110)面、圧延方向に<001>軸の2次再結晶粒を、それぞれ最終焼鈍で優先して発達させることによって得られる。
そのため、鋼中にインヒビターとよばれる微細な析出物、たとえば、MnS、MnSe、AlNを均一に分散析出させることが重要であり、これらインヒビターの分散形態のコントロールは、熱間圧延に先立つスラブ加熱中にこれらの析出物を一旦固溶させた後の、熱間圧延時の冷却過程で行われる。
【0003】
このような目的で行われるスラブ加熱は、インヒビターを十分に固溶させるため、通常、誘導加熱炉にスラブを直立させた(短辺方向を竪向きにした)状態で1300℃以上の高温に加熱して行なわれる。
ここで、上記誘導加熱炉では、スラブの転倒を防止するためにスラブの上面に設けられる支持装置(傾倒防止体)が必要であるものの、かかる支持装置がスラブに接触する場所(スラブ上面)では、かかる支持されたスラブの温度が低下するという問題があった。
【0004】
かようにスラブ上面の支持装置がスラブに接触する場所におけるスラブの温度低下を防止するために、従来、様々な手法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、複数の傾倒防止体を個別に駆動して、順次被加熱物に当接する傾倒防止体を選択的に被加熱物から離間する手法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、スラブ上面支持装置を1台ずつもしくは複数台ずつ、順次交互に上昇と下降を繰り返してスラブの上側面を支持する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-166933号公報
【特許文献2】特開2000-273534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~2に記載された方法では、スラブ上面の支持装置(傾倒防止体)がスラブに接触する場所でのスラブの温度低下の防止が未だ不十分であるという課題が残っていた。
【0009】
すなわち、スラブの誘導加熱炉では、スラブの転倒を防止するために、スラブの上面にスラブを支持する支持装置等が必要不可欠であるものの、かかる支持装置等がスラブに接触する場所は、接触していない場所よりも温度が低下してしまう。
【0010】
よって、例え、スラブの支持装置等を交互に昇降して一定周期で交替したとしても、スラブは誘導加熱炉の中で静止しているため、支持装置等が一定時間スラブの同じ場所に接触することになり、温度低下に係る上記課題は解消されない。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、方向性電磁鋼板用スラブの誘導加熱において、スラブの転倒防止のための支持装置等がスラブに接触するスラブ上面での当該スラブの温度低下を防止する誘導加熱の方法及びかかる方法に用いる誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
1.短辺方向を竪向きにした方向性電磁鋼板用スラブの上面に押し当てたロールを長手方向に移動させながらスラブの転倒防止をはかりつつ、かかるスラブの誘導加熱を行う方法。
【0013】
2.前記ロールを、少なくとも中央部とエッジ部とで直径が一律では無い段付きロールとする前記1に記載の誘導加熱を行う方法。
【0014】
3.前記ロールの移動を周期的な移動とする前記1または2に記載の誘導加熱を行う方法。
【0015】
4.前記ロールの移動を0.1m/s以上の速度とする前記1~3のいずれか1項に記載の誘導加熱を行う方法。
【0016】
5.短辺方向を竪向きにした方向性電磁鋼板用スラブ1を収容し、誘導加熱コイル5を付帯する炉壁4と、該炉壁4に対して昇降可能に設けられる昇降炉床3と、該昇降炉床3上に載置される前記スラブ1の上面に沿って転動可能に設けられるスラブ上面側ロール2と、を有する誘導加熱装置。
【0017】
6.前記スラブ上面側ロール2は、少なくとも中央部とエッジ部とで直径が一律では無い段付きロールである前記5に記載の誘導加熱装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、方向性電磁鋼板用スラブの誘導加熱において、スラブ上面の支持装置がスラブに接触する場所でのスラブの温度低下を効果的に防止することができる。
また、かかるスラブ上面の支持装置を有する装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る誘導加熱装置を示す図である。
【
図2】
図1に示した誘導加熱装置の断面を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る他の誘導加熱装置を示す図である。
【
図4】
図3に示した誘導加熱装置の断面を示す図である。
【
図5】本発明例と比較例の結果(温度偏差)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る誘導加熱装置を示す図である。また、
図2は、
図1に示した誘導加熱装置の断面を示す図である。
図1および
図2中の誘導加熱装置11は、熱間圧延ラインのガス式加熱炉の出側に設けられた誘導加熱設備に適用することができる。
【0021】
図1に示したように、本発明に係る誘導加熱装置11は、短辺方向を竪向きにした方向性電磁鋼板用スラブ1を収容し、誘導加熱コイル5を付帯する炉壁4と、該炉壁4に対して昇降可能に設けられる昇降炉床3と、該昇降炉床3上に載置される前記スラブ1の上面に沿って転動可能に設けられるスラブの上面を支持するスラブ上面側ロール2とを備えている。
なお、
図3および4の符号1、2、3、4、5、11は、上述した、スラブ1、スラブ上面側ロール2、昇降炉床3、炉壁4、誘導加熱コイル5および誘導加熱装置11と、後述するスラブ上面側ロール2の形状を除き、同程度の物、機器または装置等を意味する。
【0022】
まず、ガス式加熱炉で加熱された短辺方向が水平となった状態の方向性電磁鋼板用スラブを、転回装置によって短辺方向を堅向きにする。ついで、かかる堅向きとなったスラブ1を昇降炉床3に載置し、スラブ上面側ロール2を下降させ、上記堅向きとなったスラブ1の上側面に上記スラブ上面側ロール2を接触させることでスラブ1を支持する。その後、昇降炉床3とスラブ上面側ロール2を、上記堅向きとなったスラブ1を支持しつつ上昇させて、堅向きとなったスラブ1を炉壁4の内部に収容する。
【0023】
なお、スラブ上面側ロール2と昇降炉床3は、高温環境で優れた耐圧縮変形および耐酸化性を備えた材質が望ましく、例えば、高温圧縮強度材としてKHR50CM(株式会社クボタ製)や、耐熱合金としてUMCo50(日立金属株式会社製)が挙げられる。
【0024】
また、スラブ上面側ロール2は、スラブを支持しながらかかるスラブの上面を転動可能なロールであって、スラブ1の転倒を防止するために、
図3および4に記載したように、少なくとも中央部とエッジ部とで直径が一律では無い段付きロールとすることが望ましい。さらに、かかるロールにおいて、ロール中央部の直径が100mm以上300mm以下、ロールエッジ部の直径が300mm以上500mm以下程度であることがより望ましい。
【0025】
なお、上記スラブ上面側ロール2は、本発明におけるスラブ上面の支持装置である。
ここで、本発明において、ロール中央部とは、ロールの中心を含み少なくとも誘導加熱を施すスラブ1の厚みを覆う200~250mm程度の範囲を意味する。また、ロールエッジ部とは、ロールの端(先尾端)を含み少なくともロール中心部以外の範囲を意味する。
【0026】
その後、誘導加熱コイル5に通電してスラブ1が目標温度に到達するまで誘導加熱を行うが、その間、スラブ上面側ロール2が回転しながらスラブ1の長手方向に移動(転動)する。かかる動きをすることで、スラブ1が加熱されている間、スラブ上面側ロール2がスラブ1に接触する場所は、スラブ1側、ロール2側共、効果的に変化することになる。
【0027】
ここで、スラブ上面側ロール2の移動は周期的に移動することが好ましい。温度分布の均一化がより一層図れるからである。
【0028】
また、スラブ上面側ロール2の移動速度は、温度分布の均一化の観点から、速い方が好ましく、0.10m/s以上が好ましい。一方、かかる移動速度が速すぎるとスラブ1が転倒するリスクが増大する。そのため、かかる速度は、1.00m/s以下であることが好ましい。
【0029】
スラブ1が目標温度に到達した後は、スラブ上面側ロール2の移動を止め、昇降炉床3とスラブ上面側ロール2を同時に下降させてスラブ1を炉壁4の外部に抽出し、スラブ1を転回装置に移した後に、スラブ上面側ロール2を待機位置まで上昇させる。その後、転回装置を用いてスラブ1の幅方向を水平向きに戻してから、後続する圧延ラインに搬送し、圧延を実施する。
【0030】
なお、本発明の実施形態は、方向性電磁鋼板用スラブを加熱する例に限定されるものではなく、誘導加熱装置で加熱される金属板であれば、鋼板以外の金属板全般の加熱に適用することができる。
【0031】
本発明に従う誘導加熱の方法及び誘導加熱装置において、本明細書に記載のない項目は、いずれも、常法および公知の設備機器を用いることができる。
【実施例0032】
本発明の実施例を述べる。
本発明例1として、
図1および2に記載の本発明の実施形態に係る誘導加熱装置を用い、本発明例2、3、4として、
図3および4に記載の本発明の実施形態に係る誘導加熱装置を用いた。また、いずれも、幅:1000mm×厚さ:230mm×長さ:10000mmの寸法の鋼スラブをスラブ幅中央部が1420℃になるまで加熱した。
なお、上記スラブ幅中央部とは、スラブの幅:500mm、長さ:5000mmの位置を中心として直径:2mmのスラブの表面を意味する。
【0033】
本発明例1に用いたスラブ上面支持装置のロールの移動速度は0.05m/sであって、1秒移動して1秒静止を繰り返す間欠の動きで移動した。
【0034】
本発明例2に用いたスラブ上面支持装置のロールの移動速度は0.05m/sであって、1秒移動して1秒静止を繰り返す間欠の動きでに移動した。
【0035】
本発明例3に用いたスラブ上面支持装置のロールの移動速度は0.05m/sであって、スラブ上面の端から端までの移動を繰り返し周期的に移動した。
【0036】
本発明例4に用いたスラブ上面支持装置のロールの移動速度は0.10m/sであって、スラブ上面の端から端までの移動を繰り返し周期的に移動した。
【0037】
これに対して、比較例1として、前記特許文献1に記載された誘導加熱装置を用い、その他の条件は、本発明例1と同じにして、鋼スラブを加熱した。
【0038】
また、比較例2として、前記特許文献2に記載された誘導加熱装置を用い、その他の条件は、本発明例1と同じにして、鋼スラブを加熱した。
【0039】
そして、それぞれの場合(本発明例1~4、比較例1~2)について、加熱後の鋼スラブの上面の温度偏差を調査した。本発明例と比較例の結果を
図5に示す。
なお、上記温度偏差の調査は、サーモグラフィカメラ(FLIR製のGF309)を使用して、加熱後の鋼スラブ上面全体の温度分布を測定し、温度偏差(最大温度と最小温度の差)を算出した。
【0040】
図5に示した通り、本発明例1~4は、いずれも比較例1~2よりも温度偏差が小さくなっていることが分かる。
これによって、本発明の有効性が確認された。また、本発明の好適な要件を満足することで、より温度偏差が小さくなっていることが分かる。