(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143384
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 37/02 20060101AFI20241003BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241003BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P3/00
A01N25/00 102
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056031
(22)【出願日】2023-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-10
(71)【出願人】
【識別番号】000115083
【氏名又は名称】ユシロ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】中村 元太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏明
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA03
4H011BB06
4H011BC04
4H011BC09
4H011DA02
4H011DD05
(57)【要約】
【課題】機能性成分の徐放性を備える組成物を提供すること。
【解決手段】光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有し、前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成している、組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有し、
前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成している、組成物。
【請求項2】
前記光増感剤(A)が、イソアロキサジン、アロキサジン、フェノチアジン、フルオレセイン、アントラキノン及びアクリジンより選択される骨格を有する化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アミン化合物(B)が、アミノ基のα水素を有する化合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記アミン化合物(B)が、アミノ基と、親水性基とを有する化合物を含む、請求項1又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記親水性基が、アミノ基、グアニジノ基、カルボキシ基、及びヒドロキシ基より選択される1種以上を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記アミン化合物(B)が、アルカノールアミン、アミノ酸、及びアミノ糖より選択される1種以上を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記カルボン酸化合物(C)が、脂肪酸及びケイ皮酸類より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記アミン化合物(B)が有するアミノ基と前記カルボン酸化合物(C)が有するカルボキシ基とのモル比(アミノ基/カルボキシ基)が1.0以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
更に、ゲル化剤を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記カルボン酸化合物(C)を徐放する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
光照射により、前記カルボン酸化合物(C)を徐放する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記カルボン酸化合物(C)が、炭素数3~15の脂肪酸、又はケイ皮酸類を含み、コケ除去性を有する、請求項1又は10に記載の組成物。
【請求項13】
前記カルボン酸化合物(C)が、炭素数3~15の脂肪酸を含み、防カビ性を有する、請求項1又は10に記載の組成物。
【請求項14】
光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有し、
前記光増感剤(A)が、イソアロキサジン及びアロキサジンより選択される骨格を有する化合物を含み、
前記アミン化合物(B)が、アミノ基のα水素を有する化合物を含み、
前記カルボン酸化合物(C)が、脂肪酸を含み、
前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成しており、
光照射により、前記カルボン酸化合物(C)を徐放する、徐放性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、詳しくは特定物質を徐放する徐放性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、香料、農薬、肥料等の機能性成分の効果を持続させるために、これらの機能性成分を徐々に放出する徐放性材料が検討されている。
当該徐放性材料としては、マイクロカプセルや、多孔質基材を有するもの等が挙げられる。
例えば特許文献1には、ポリマーと機能性成分を含むコア粒子と、当該コア粒子を覆う微細化セルロースを有する特定の徐放性複合粒子が記載されている。
特許文献2には、油相と、特定の感光性ポリマーと、光触媒とを含むコアと、界面重合により形成される特定のシェルを含むマイクロカプセルが記載されており、光照射により油相を放出することが記載されている。
また特許文献3には、特定の金属酸化物多孔質粒子と、特定の徐放性物質と、を含む徐放性材料が開示されている。
【0003】
また、特定の化合物を放出する化合物として、ケージド化合物が知られている。ケージド化合物は、生理活性物質等を光で脱保護可能な保護基で修飾し、不活性化状態にした化合物である。ケージド化合物は、通常、分子内に光吸収性部位を有し、光を照射することで前記化合物を放出する。
特許文献4には、短時間の光照射で化合物を放出する方法として、特定のケージド化合物に対し、光増感剤の存在下に光照射する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/208801号
【特許文献2】特表2017-538815号公報
【特許文献3】特開2019-089976号公報
【特許文献4】国際公開第2021/177343号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3の徐放性材料は、ポリマー及びマイクロカプセルの合成や、多孔質粒子の製造が必須であり、より生産性に優れた徐放性材料が求められている。また、マイクロカプセルのポリマー(マイクロプラスチック)や多孔質粒子は使用後に残留し環境に影響し得る問題があった。
【0006】
本発明は、機能性成分の徐放性を備える組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[14]の構成を有する組成物を提供する。
[1] 光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有し、
前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成している、組成物。
[2] 前記光増感剤(A)が、イソアロキサジン、アロキサジン、フェノチアジン、フルオレセイン、アントラキノン及びアクリジンより選択される骨格を有する化合物を含む、上記[1]に記載の組成物。
[3] 前記アミン化合物(B)が、アミノ基のα水素を有する化合物を含む、上記[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 前記アミン化合物(B)が、アミノ基と、親水性基とを有する化合物を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記親水性基が、アミノ基、グアニジノ基、カルボキシ基、及びヒドロキシ基より選択される1種以上を含む、上記[4]に記載の組成物。
[6] 前記アミン化合物(B)が、アルカノールアミン、アミノ酸、及びアミノ糖より選択される1種以上を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 前記カルボン酸化合物(C)が、脂肪酸及びケイ皮酸類より選択される1種以上を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 前記アミン化合物(B)が有するアミノ基と前記カルボン酸化合物(C)が有するカルボキシ基とのモル比(アミノ基/カルボキシ基)が1.0以上である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] 更に、ゲル化剤を含有する、上記[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] 前記カルボン酸化合物(C)を徐放する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] 光照射により、前記カルボン酸化合物(C)を徐放する、上記[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12] 前記カルボン酸化合物(C)が、炭素数3~15の脂肪酸、又はケイ皮酸類を含み、コケ除去性を有する、上記[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13] 前記カルボン酸化合物(C)が、炭素数3~15の脂肪酸を含み、防カビ性を有する、上記[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14] 光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有し、
前記光増感剤(A)が、イソアロキサジン及びアロキサジンより選択される骨格を有する化合物を含み、
前記アミン化合物(B)が、アミノ基のα水素を有する化合物を含み、
前記カルボン酸化合物(C)が、脂肪酸を含み、
前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成しており、
光照射により、前記カルボン酸化合物(C)を徐放する、徐放性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、機能性成分の徐放性を備える組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】気相防カビ性試験を説明するための模式図である。
【
図2】ゲル状組成物の気相防カビ性試験を説明するための模式図である。
【
図3】光照射によるアミン化合物の分解の様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る組成物について説明する。
なお本発明において「機能性成分」とは、放出されることにより有用な効果を発揮し得る成分をいう。
数値範囲を示す「~」は、特に断りのない限りその下限値及び上限値を含むものとする。
【0011】
[組成物]
本組成物は、光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有し、前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成している。
本組成物は、上記の構成により、機能性成分としてカルボン酸化合物を徐放する組成物となる。本組成物中で、アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)は塩を形成(中和)しており、光を照射すると、光増感剤(A)の作用により、アミン化合物(B)が分解すると推定される。その結果、カルボン酸化合物(C)は徐々に放出される。本組成物においてカルボン酸化合物(C)の徐放は光応答性を有するため、光の照射によりカルボン酸化合物(C)の放出量をコントロールすることも可能である。また本組成物は後述の方法により容易に調製でき、生産性にも優れている。
【0012】
本組成物は、少なくとも光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有するものであり、本発明の効果を奏する範囲で更に他の成分を含有してもよいものである。以下、本組成物に含まれ得る各成分について説明する。
【0013】
<光増感剤(A)>
光増感剤(A)は、光触媒反応によりアミン化合物(B)を分解し得るものであればよく、公知の光増感剤の中から適宜選択して用いることができる。
光増感剤(A)としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ベンゾフェノン、フルオレン、ナフトキノン、アントラキノン、キサンテン、チオキサンテン、キサントン、イソアロキサジン、アロキサジン、フェノキサジン、フルオレセイン、フロキシン、チオキサントン、クマリン、ケトクマリン、シアニン、メロシアニン、オキソノール、ベンゾチアゾール、アクリジン、チアジン、オキサジン、インドリン、アズレン、アズレニウム、ポルフィリン、トリアリールメタン、フタロシアニン、フェノチアジン、スピロピラン、スピロオキサジン等の骨格を有する化合物;アクリドン、カルコン、ジベンザルアセトンなどの不飽和ケトン類;ベンジル、カンファーキノン等の1,2-ジケトン類;アゾ化合物、有機金属錯体などが挙げられる。光増感剤(A)は1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
上記各種骨格を有する化合物は、骨格を構成する炭素原子、窒素原子などが、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、ハロゲン原子、水酸基;カルボキシ基、スルホ基等の酸性基;アミノ基、有機基などが挙げられ、酸性基及びアミノ基は塩形成していてもよく、有機基は更に置換基を有していてもよい。
光増感剤(A)は、アニオン性、カチオン性、中性のいずれであってもよいが、アミン化合物(B)との反応性の点から、中でも、アニオン性又は中性が好ましい。
【0014】
光増感剤(A)は、優れた光触媒作用が得られ、入手が容易な点から、三環系縮合環(Tricyclic)を有するものが好ましい。三環系縮合環としては、例えば、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、アントラキノン、キサンテン、チオキサンテン、キサントン、イソアロキサジン、アロキサジン、フェノキサジン、フルオレセイン、チオキサントン、アクリジン、フェノチアジンなどの骨格を有する化合物が挙げられ、中でも、イソアロキサジン、アロキサジン、フェノチアジン、フルオレセイン、アントラキノン及びアクリジンより選択される骨格を有する化合物が好ましく、更に、可視光(例えば波長400~600nm)による光触媒性能の点からイソアロキサジン骨格又はアロキサジン骨格を有する化合物がより好ましい。
フェノチアジン骨格を有する化合物の具体例としては、ペルフェアジン、クロルプロマジン、アセプロマジン、フェノチアジン、メチルフェノチアジン、メチレンブルーなどが挙げられ、組成物の徐放性の点から、ペルフェアジン、クロルプロマジン又はアセプロマジンが好ましい。
フルオレセイン骨格を有する化合物の具体例としては、フルオレセイン、フロキシン、ジブロモフルオレセイン、エオシンY、エオシンB、ローダミンB、ローダミン6G、ローズベンガルなどが挙げられ、組成物の徐放性の点から、フルオレセイン、フロキシン、ジブロモフルオレセイン、エオシンY、エオシンB、又はローズベンガルが好ましい。
アントラキノン骨格を有する化合物の具体例としては、アントラキノンスルホン酸、アントラキノジスルホン酸、アントラキノンカルボン酸、2-アントラキノンスルホン酸、及びこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。
アクリジン骨格を有する化合物の具体例としては、アクリジンオレンジ、アクリジンカルボン酸などが挙げられる。
【0015】
イソアロキサジン骨格又はアロキサジン骨格を有する化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物、又は下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物によれば、例えば白色LEDなど比較的出力の小さい光源を用いた場合でも優れた光触媒効果が得られる。
【0016】
【化1】
式(1)中、
R
1、R
2、R
3及びR
4は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、
R
5及びR
6は、各々独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、
式(2)中、
R
11、R
12、R
13及びR
14は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、
R
15及びR
16は、各々独立に、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭化水素基である。
【0017】
R1~R4、R11~R14におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
R1~R4、R11~R14における炭化水素基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐を有するアルキル基、置換基として直鎖又は分岐を有するアルキル基を有していてもよい炭素数6~12のシクロアルキル基又はアリール基などが挙げられる。直鎖又は分岐を有するアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基などが挙げられる。またアリール基としてはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。R1~R4、R11~R14における炭化水素基が有していてもよい置換基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子などが挙げられ、ヒドロキシ基、カルボキシ基は更にエステル化された誘導体であってもよい。
光触媒能の点から、R1、R4、R11及びR14は各々独立に水素原子であることが好ましい。また、光触媒能の点から、R2、R3、R12及びR13は各々独立に、置換基を有しない直鎖又は分岐を有するアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0018】
R6、R15及びR16における炭化水素基としては、前記R1等と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。光触媒能の点から、R6、R15及びR16は各々独立に水素原子が好ましい。
【0019】
R5における炭化水素基としては、前記R1等と同様のものが挙げられる。R5における炭化水素基が有していてもよい置換基としては、ヒドロキシ基又はそのエステル化体などが挙げられる。R5における置換基としては、中でも、リビチル基(-CH2-CHOH-CHOH-CHOH-CH2OH)又は、当該リビチル基のエステル化体が好ましい。
【0020】
更に前記イソアロキサジン骨格又はアロキサジン骨格を有する化合物は、リボフラビン又はリボフラビン誘導体が特に好ましい。リボフラビンはビタミンB2としても知られ、安全性が高く、例えば、本組成物を、土壌や大気中に散布する用途や、ヒトや生物の体内に取り込まれる可能性のある用途にも好適に用いることができる。
リボフラビン誘導体の具体例としては、リボフラビンテトラブチレート、リボフラビンテトラアセテート、ルミクローム(7,8-ジメチルアロキサジン)、リボフラビンリン酸エステル、及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、フラビンアデニンジヌクレオチドなどが挙げられる。
【0021】
光増感剤(A)はこれらの中でも、光触媒能、安全性、工業的入手の容易性などから、リボフラビン、リボフラビンテトラブチレート、ルミクローム、リボフラビンリン酸エステルナトリウムが好ましい。
【0022】
<アミン化合物(B)>
アミン化合物(B)は、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を有し、カルボン酸化合物(C)と塩形成し得る成分であり、また、光触媒作用により分解し得る成分である。
アミン化合物(B)中のアミノ基は、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基のいずれであってもよい。光触媒作用による分解性の点から、アミン化合物(B)は、アミノ基のα水素を有すること、即ち、アミノ基を構成する窒素原子に隣接する炭素原子が水素原子を有すること(アミン化合物(B)が「>N-CH<」の構造を有すること)が好ましい。
【0023】
また、本組成物を水溶液などとして使用する場合には、アミン化合物(B)とカルボン酸化合物(C)との塩形成物の溶解性などの点から、アミン化合物(B)がアミノ基と、親水性基を有することが好ましい。親水性基としては、アミノ基、グアニジノ基(-NHC(=NH)(-NH2))、カルボキシ基、ヒドロキシ基などが挙げられる。アミン化合物(B)中の親水性基は1個であっても2個以上であってもよい。また1分子中に2個以上の親水性基を有する場合、当該2個以上の親水性基は互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、親水性基がアミノ基の場合、アミン化合物(B)は2個以上のアミノ基を有する。また、親水性基がカルボキシ基の場合、後述するカルボン酸化合物(C)にも含まれ得るが、本組成物中での作用を考慮しアミン化合物(B)に含めるものとする。
【0024】
アミン化合物(B)は、低分子であってもよく、高分子であってもよい。なお本発明において、低分子とは分子量が1,000以下のものを表し、高分子とは分子量が1,000を超えるものを表すものとする。
【0025】
低分子のアミン化合物(B)は、光触媒作用による分解性、塩形成物の溶解性や、工業的入手性などの点から、中でも、アルカノールアミン、アミノ酸、又はアミノ糖が好ましい。
アルカノールアミンの具体例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミンなどが挙げられる。
アミノ酸の具体例としては、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリン、システイン、プロリン、チロシンなどが挙げられ、中でも塩基性アミノ酸が好ましく、アルギニンがより好ましい。
また、アミノ糖の具体例としては、グルコサミン、フルクトサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ペロサミン、シアル酸、ムラミン酸、ノイラミン酸などが挙げられ、中でもグルコサミンが好ましい。
【0026】
低分子のアミン化合物(B)の分子量は、1,000以下であればよく、特に限定されないが、組成物中のアミン化合物(B)の割合を抑える点から、500以下が好ましく、300以下がより好ましい。アミン化合物(B)の分子量の下限値は特に限定されないが、通常、30以上である。
【0027】
また高分子のアミン化合物(B)としては、質量当たりのアミノ基の数が多く、カルボン酸化合物(C)と塩形成しやすい点から、キトサン又はポリエチレンイミンが好ましい。
【0028】
上記キトサンは、グルコサミン由来の構成単位を2個以上有し、アセチルグルコサミン由来の構成単位を有していてもよい化合物であり、更に他の構成を有していてもよい。また、キトサンオリゴ糖に分類され得る比較的低分子量の化合物であってもよい。当該キトサンとしては、光触媒能などの点から、中でも、複数のD-グルコサミンの1位と4位が結合して重合したキトサン(ポリ-1,4-β-D-グルコサミン)又はキトサンオリゴ糖が好ましい。キトサンは、グルコサミン由来の構成単位のみからなるポリグルコサミンであってもよく、N-アセチルグルコサミン由来の構成単位を有していてもよい。
【0029】
上記キトサンは、例えば、エビ、カニ、キノコ、昆虫、菌の細胞壁などから得られるキチンをアルカリで脱アセチル化することによって得られる。キトサンの脱アセチル化度は、光触媒効果の点や、光触媒効果の持続性のなどの点から50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、90%以上が特に好ましい。
なお、キトサンの脱アセチル化度は{グルコサミン由来の構成単位数/(グルコサミン由来の構成単位数+アセチルグルコサミン由来の構成単位数)}×100(%)を表し、例えば、ポリビニル硫酸カリウム(PVSK)を用いたコロイド滴定法などにより測定できる。
【0030】
またキトサンは、キトサン誘導体を含んでいてもよい。キトサン誘導体としては、例えば、上記キトサンと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを反応させて得られる、ヒドロキシエチルキトサン等のヒドロキシアルキレンキトサン;
上記キトサンと、(1)モノクロロ酢酸とを反応させ、又は(2)グリオキサール酸を還元的アミノ化させて得られる、カルボキシメチル化キトサン;
上記キトサンにアジピン酸ジクロリド等のジクロリドを反応させて得られる架橋構造を有するキトサン等が挙げられる。
【0031】
キトサンの分子量は、5,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、40,000以上が更に好ましい。一方、溶液の粘度を抑制する点から、キトサンの分子量は1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、200,000以下が更に好ましい。
なお本発明において高分子化合物の分子量は、水系ゲル濾過クロマトグラフィー(Chromaster(登録商標)、株式会社日立ハイテクサイエンス社製)により、標準プルラン換算値として求めたピークトップ分子量(Mp)である。
【0032】
ポリエチレンイミンは、-CH2-CH2-NH-で表される構成単位、及び-CH2-CH2-N<で表される構成単位より選択される1種以上の構成単位を1分子中に2個以上有する化合物であり、直鎖状であっても分岐状であってもよく、デンドリマー型であってもよい。ポリエチレンイミンは、他の構成単位を有していてもよく、ポリエチレンイミン誘導体を含んでいてもよい。
ポリエチレンイミン誘導体としては、例えば、上記ポリエチレンイミンと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを反応させて得られる、ヒドロキシエチルポリエチレンイミン等のヒドロキシアルキレンポリエチレンイミン;
上記ポリエチレンイミンと、(1)モノクロロ酢酸とを反応させ、又は(2)グリオキサール酸を還元的アミノ化させて得られる、カルボキシメチル化ポリエチレンイミン;
上記ポリエチレンイミンにアジピン酸ジクロリド等のジクロリドを反応させて得られる架橋構造を有するポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0033】
ポリエチレンイミンのピークトップ分子量(Mp)は、10,000以上が好ましく、25,000以上がより好ましい。一方、ポリエチレンイミンの分子量は合成の容易性などの点から、1,000,000以下が好ましく、800,000以下がより好ましく、500,000以下が更に好ましい。
【0034】
ポリエチレンイミンは、例えばアジリジンを開環重合することにより合成することができる。また、ポリエチレンイミンは市販品を用いてもよい。
【0035】
アミン化合物(B)は1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができ、例えば低分子のアミン化合物(B)と高分子のアミン化合物(B)を組み合わせてもよい。
【0036】
<カルボン酸化合物(C)>
カルボン酸化合物(C)は、1分子中に少なくとも1個のカルボキシ基を有する化合物である。本組成物中で、カルボン酸化合物(C)は、アミン化合物(B)と塩形成し、光照射により放出される成分である。なおカルボン酸化合物(C)はカルボキシ基以外の置換基を有していてもよいが、アミノ基を有するものは、前記アミン化合物(B)に含めるものとする。
【0037】
本組成物においてカルボン酸化合物(C)は徐放される機能性成分であり、本組成物の用途に応じて適宜選択すればよい。徐放を制御しやすい点からは1価のカルボン酸が好ましい。当該1価のカルボン酸としては、例えば、脂肪酸やケイ皮酸類が挙げられる。
【0038】
脂肪酸が有する炭化水素基は、直鎖であってもよく分岐を有していてもよい。また飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。
脂肪酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸、カプリル酸、イソノナン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデセン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、パクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸などが挙げられ、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、アマニ油脂肪酸、桐油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヌカ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸などを用いてもよい。
【0039】
また、ケイ皮酸類としては、ケイ皮酸及びその誘導体が挙げられる。なお本発明において、「ケイ皮酸」はE体((2E)-3-phenyl-prop-2-enoic acid)とZ体((2Z)-3-phenyl-prop-2-enoic acid;アロケイ皮酸)を含む。
【0040】
ケイ皮酸及びその誘導体としては、下記式(11)で表される化合物が挙げられる。
【0041】
【化2】
式(11)中、
R
21~R
25は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、又は、炭素数1~6のアルコキシ基である。
【0042】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられる。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。また上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
【0043】
ケイ皮酸及びその誘導体としては、中でも、ケイ皮酸、フェルラ酸、カフェ酸、クマル酸、シナピン酸などが好ましく、ケイ皮酸、フェルラ酸がより好ましい。
【0044】
カルボン酸化合物(C)は、1種類を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
カルボン酸化合物(C)を機能性成分とする用途としては、例えば、コケ除去剤、防カビ剤、農薬等の展着剤などが挙げられる。
本組成物をコケ除去剤として用いる場合、カルボン酸化合物(C)は、炭素数3~15の脂肪酸、又はケイ皮酸類が好ましく、中でも、炭素数6~15の脂肪酸、又はケイ皮酸類がより好ましい。
本組成物を防カビ剤として用いる場合、カルボン酸化合物(C)は、炭素数3~15の脂肪酸が好ましく、中でも、炭素数6~15の脂肪酸がより好ましい。
また本組成物を農薬の展着剤として用いる場合、カルボン酸化合物(C)は、脂肪酸が好ましく、炭素数8以上の脂肪酸がより好ましく、炭素数12~24の脂肪酸が更に好ましい。炭素数8以上の脂肪酸を用いることで、アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)との塩と、放出後のカルボン酸化合物(C)単体とのHLB値の差が大きくなり、植物や害虫の表面に薬剤を付着させやすい。
【0046】
本組成物は、カルボン酸化合物(C)の代わりに、又は、カルボン酸化合物(C)と併用して、他の酸性化合物を用いてもよい。他の酸性化合物は、アミン化合物(B)と塩形成し得るものであればよく、例えば、スルホン酸化合物、酸性リン酸エステルなどが挙げられる。
スルホン酸化合物は、1分子中に少なくとも1個のスルホ基を有する化合物であり、有機酸が好ましい。スルホン酸化合物の具体例としては、オクタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸などのアルキルスルホン酸;デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸;ドデシル硫酸、ラウリル硫酸などのアルキル硫酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンイソトリデシル硫酸などのアルキルエーテル硫酸等が挙げられる。
また、酸性リン酸エステルは、分子内にP-OHと、リン酸エステル構造を有する化合物である。酸性リン酸エステルの具体例としては、イソトリデシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェートなどのアルキルリン酸エステルや、エチレングリコールアシッドホスフェートなどが挙げられる。これらの酸性化合物は、上記展着剤として好適に用いることができる。
【0047】
(各成分の含有割合)
本組成物中の光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)の含有割合は、用途に応じて適宜調整すればよい。
光増感剤(A)の割合は、光照射量に対する機能性成分の発生量と、効果の持続性を考慮して例えば、光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)の合計質量100質量%に対して、0.1×10-5質量%~40質量%の範囲で適宜調整できる。
本組成物の効果の持続性の点、及び本組成物のコストメリットの点からは、光増感剤(A)の前記合計質量に対する割合は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が極めて好ましい。なお、本組成物は光増感剤(A)が比較的高濃度(例えば30質量%以上)であっても、日光を当てた際、カルボン酸化合物(C)を一度に放出することなく、機能性成分の効果が持続できる。
また、本組成物を光応答性に優れた徐放性組成物とする点からは、前記光増感剤(A)の前記割合は、0.1×10-5質量%以上が好ましく、0.2×10-4質量%以上がより好ましく、0.1×10-3質量%以上が更に好ましい。
【0048】
本組成物に含まれる、前記アミン化合物(B)が有するアミノ基と前記カルボン酸化合物(C)が有するカルボキシ基とのモル比(アミノ基/カルボキシ基)は1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましい。上記モル比が1.0以上であれば、組成物中のカルボン酸化合物(C)の多くが塩形成しているため、機能性成分の効果を長期間持続することができる。上記モル比の上限は特に限定されないが、例えば3.0以下で十分であり、2.5以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
また、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)のモル比(アミン化合物(B)/カルボン酸化合物(C))は、1.0~3.0が好ましく、1.2~2.5がより好ましく、1.5~2.0が更に好ましい。組成物中のアミノ基とカルボキシ基のモル比は、組成物のアミン価及び酸価から求めることができる。
【0049】
<任意成分>
本組成物は本発明の効果を奏する範囲で他の成分を含有してもよい。他の成分としては、溶媒や、界面活性剤、ゲル化剤、消泡剤、防腐剤、pH調整剤などの各種添加剤が挙げられる。
【0050】
溶媒としては、本組成物の各成分を溶解又は分散するものの中から適宜選択して用いることができる。各成分が溶解又は分散しやすい点から、溶媒として、水及び水溶性溶媒より選択される1種以上の溶媒を含むことが好ましく、水を含むことがより好ましい。水溶性溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。
水と水溶性溶媒との混合溶媒を用いる場合、溶媒100質量%中、水溶性溶媒は10質量%以下が好ましく、5質量%以下が好ましい。更に、溶媒は、種々の用途に使用可能な点あら、実質的に水のみからなる溶媒であることが好ましい。
例えば水を含む本組成物は、カルボン酸化合物(C)がアミン化合物(B)を塩形成している際は溶解し、アミン化合物(B)が分解されるとカルボン酸化合物(C)が析出する形態とすることもできる。また、溶媒を含む本組成物は、土壌への散布や、壁面への塗布など取り扱い性に優れている。
【0051】
界面活性剤は、基材等への濡れ性を付与することなどを目的に用いられ、用途に応じて、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤など、公知の界面活性剤の中から適宜選択して用いることができる。
【0052】
また本組成物はゲル化剤を含有し、ゲル状の形態として用いてもよい。ゲル化剤としては、食品用途にも用いられ、環境負荷を抑える点から、ゼラチン、増粘性多糖類又はこれらの架橋物が好ましい。なお、ゲル化剤を用いる場合、組成物は水を含有することが好ましい。なおゲル化剤がカルボキシ基を有する場合も、機能性を考慮して上記カルボン酸化合物(C)には含めないものとする。
【0053】
上記ゼラチンは、コラーゲンを水と煮沸して水溶性とした蛋白質変性物を表し、例えば、牛、豚、魚類など各種の動物種の皮膚、骨、腱などの部位から採取できるコラーゲンをアルカリ加水分解、酸加水分解、及び酵素分解等の種々の処理によって変性させたものなどが挙げられる。
また増粘多糖類は、糖類の重合体であり分子内に水素結合基を多数有するものでゲル化し得るものをいう。増粘性多糖類は、一般に知られている天然単純多糖類、天然複合多糖類、合成単純多糖類及び合成複合多糖類の中から用途に合わせて適宜選択して用いることができる。増粘性多糖類の具体例としては、デンプン、グリコーゲン、アガロース、アガロペクチン、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、ジェランガム、アラビアガム、アルギン酸、ヘミセルロース、タラガム、タマリンドシードガム、キチン、キトサン、グルコマンナンなどが挙げられ、アガロースとアガロペクチンの混合物である寒天などであってもよい。
【0054】
<組成物の調製方法>
本組成物の調製方法は、前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成するように混合すればよく、具体的には、例えば、(I)水及び/又は水溶性溶媒に、アミン化合物(B)とカルボン酸化合物(C)とを添加して混合することで塩形成させた後に、光増感剤(A)と、必要に応じて用いられる他の成分を添加する方法;(II)水及び/又は水溶性溶媒に、光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)と、必要に応じて用いられる他の成分を添加して混合することで、アミン化合物(B)とカルボン酸化合物(C)とを塩形成させながら組成物を調製する方法などが挙げられる。
また、上記の方法で高濃度の組成物を調製し、使用時に水等の溶媒で希釈して用いてもよい。
本組成物を展着剤として用いる場合は、上記調製後の組成物に、公知の乳剤と、農薬等の薬剤を添加して用いることができる。
【0055】
本組成物は、光照射によりカルボン酸化合物(C)を徐放する徐放性組成物として、好適に用いることができる。光増感剤(A)の含有量を調整することで直射日光照射下においてもカルボン酸化合物(C)を一度に放出することなく徐放性を有する組成物とすることができる。また、光増感剤(A)の選択により、例えば、白色LEDなど比較的出力の小さい光源を用いた場合でも優れた徐放性が得られる。
本組成物は、カルボン酸化合物を機能性成分とする公知の用途に適用することができ、例えば、室外などにおけるコケの除去剤;冷却塔(クーリングタワー)の循環液として又は循環液へ添加して用いる、コケ発生抑制剤;物品表面や気相中の防カビ剤などとして好適に用いることができる。
【実施例0056】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下「ppm」は「μg/g」を表す。
【0057】
[光増感剤(A)]
光増感剤として下記(A1)~(A7)を使用した。
・(A1):リボフラビン
・(A2):リボフラビンリン酸エステルナトリウム
・(A3):ルミクローム
・(A4):ローズベンガル
・(A5):エオシンY
・(A6):アクリジンオレンジ
・(A7):2-アントラキノンスルホン酸ナトリウム
【0058】
[アミン化合物(B)]
アミン化合物として下記(B1)~(B6)を使用した。
・(B1):L-アルギニン
・(B2):モノイソプロパノールアミン
・(B3):ジエタノールアミン
・(B4):トリエタノールアミン
・(B5):トリイソプロパノールアミン
・(B6):テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン
【0059】
[カルボン酸化合物(C)]
カルボン酸化合物として下記(C1)~(C11)を使用した。
・(C1):ヘキサン酸
・(C2):カプリル酸
・(C3):イソノナン酸
・(C4):ペラルゴン酸
・(C5):カプリン酸
・(C6):ネオデカン酸
・(C7):ウンデセン酸
・(C8):ラウリン酸
・(C9):ミリスチン酸
・(C10):ヤシ油脂肪酸(炭素数8~12の脂肪酸を含む)
・(C11):フェルラ酸
【0060】
[実施例1:組成物の調製]
リボフラビン5ppm相当と、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン2.3質量%相当と、ヘキサン酸1.3質量%相当とを混合し、水を加えて表1に記載の組成となるように調製し、実施例1の組成物を得た。なお表1~3中、光増感剤(A)の数値はppmを表し、他の成分の数値は質量%を表す。
【0061】
[実施例2~31、比較例1~9:組成物の調製]
実施例1において、配合する各成分及びその配合量を表1~表3に記載の組成となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、各組成物を調製した。
【0062】
[評価]
<コケ除去性>
コンクリートに自生しているホソウリゴケ(ハリガネゴケ科)をマスキングテープで囲い、各10cm×10cmの区画を設けた。実施例1の組成物の5mLを、1区画にスプレーで散布した。同様にしてもう1区画にも実施例1の組成物のスプレー散布を行った。
スプレー散布を行ったうちの1区画は下記暗条件、もう1区画は下記明条件とし、4日間保持し、コンクリート表面がむき出しになった面積(露出面積)の割合から下記評価基準に従い5段階で評価した。また、明条件の露出面積/暗条件の露出面積(コンクリート露出面積比)を算出した。実施例2~23及び比較例1~5の組成物も同様の試験を行った。結果を表1~2に示す。
暗条件:アルミ箔で表面を覆い、光を遮った。
明条件:アルミ箔で覆わずに太陽光が当たる状態とした。
(評価基準)
◎:100%のコンクリート露出
〇:80%以上100%未満のコンクリート露出
△:50%以上80%未満のコンクリート露出
▲:30%以上50%未満のコンクリート露出
×:30%未満のコンクリート露出
【0063】
<気相防カビ性>
図1を参照して気相防カビ性試験方法を説明する。カビは、黒黴(NBRC9455)を用いた。深型の滅菌シャーレ20(深さ2cm、直径90mm)に、オートクレーブで滅菌溶解した培地21(ツァペックドックス寒天培地、CDA培地)を注入し,固化させた。ここに白金耳を用いて上記カビの混濁液を描線塗布した。
一方、別の滅菌シャーレ10(直径60mm)に実施例24の組成物11を5mL分注した。
図1のようにシャーレ20に対応する蓋30に、シャーレ10を静置し、シャーレ20をかぶせ、シャーレ20と蓋30の外周をビニールテープで密封した。これを2セット作成した。一方を下記暗条件、もう一方を下記明条件とし、20℃の条件下で5日間培養し、培地上の菌糸を目視で観察した。実施例25~31及び比較例5~9も同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
暗条件:暗所で培養した。
明条件:白色LEDを用い、1,000lxの強度で1日あたり16時間光照射を行った。
(評価基準)
◎:カビの育成を十分に阻害した。
〇:カビの育成をある程度阻害した。
×:カビの育成を阻害できなかった。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
[結果のまとめ]
アミン化合物(B)とカルボン酸化合物(C)を含有するが、光増感剤(A)を含有しない比較例3の組成物は、明条件と暗条件でコケ除去性が同等であった。比較例3の組成物に抗菌剤として知られているチモールを添加した組成を有する比較例4も、明条件と暗条件でコケ除去性が同等であった。これに対し、光増感剤(A)とアミン化合物(B)とカルボン酸化合物(C)を含有する実施例1~23の組成物は、いずれもコンクリート露出面積比が1.1以上であり、光照射下でコケ除去性が向上していることが示された。比較例1に示される通り、アミン化合物(B)の代わりに水酸化カリウムを用いた場合にはこの効果は得られなかった。
気相防カビ性に関し、その効果はより顕著にみられ、光増感剤(A)とアミン化合物(B)とカルボン酸化合物(C)を含有する実施例24~31の組成物は、光照射により発生したカルボン酸が揮発して培地に到達し、カビの育成を阻害したものと推定される。
【0068】
[実施例32:気相防カビゲルの製造]
リボフラビン5ppm相当と、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン1.5質量%相当と、カプリル酸0.8質量%相当と、ゲル化剤(伊那食品工業社製「カリコリカン」(寒天))0.8質量%相当を混合し、水を加えて実施例32のゲル状組成物を得た。
図2を参照して気相防カビ性試験方法を説明する。深型の滅菌シャーレ20(深さ2cm、直径90mm)に、オートクレーブで滅菌溶解したポテトデキストロース寒天培地21を20ml注入し、固化させた。ここに黒黴(NBRC9455)懸濁液を一文字に描線塗布した。
上記のシャーレ20と、ゲル状組成物11の9gを体積(200mm×170mm×30mm)の容器に収容し蓋をした。これを2セット作成した。またシャーレ20のみを収容し、ゲル状組成物を収容しないものも作成した。
一方を下記暗条件、もう一方と、ゲル状組成物を収容しないものを下記明条件の条件下20℃で7日間培養し、培地上の菌糸を目視で観察した。
暗条件:暗所で培養した。
明条件:白色LEDを用い、500lxの強度で1日あたり16時間光照射を行った。
上記試験の結果、暗条件及びゲル状組成物を収容しないものは、カビの育成が確認されたのに対し、明条件では、カビの育成を十分に阻害されていることが確認された。
以上の通り、本組成物はゲル状とした場合でも効果が確認され、例えば、食品と共に容器内に収容することで、食品の鮮度維持などの効果を奏することができる。
【0069】
[試験例1:光照射によるアミンの分解]
トリエタノールアミン1%水溶液に、リボフラビン50ppm相当を添加して試験液を調製した。当該試験液に青色LEDを5,500lxで照射し、トリエタノール量をイオンクロマトグラフィーにより測定した。対照実験として、リボフラビンを添加していないトリエタノールアミン1%水溶液に対しても同様に光照射を行った。結果を
図3に示す。
図3に示される通り、光増感剤(A)とアミン化合物(B)を含有する組成物に光照射を行うことで、アミン化合物(B)が分解されている。
【0070】
[試験例2:光照射によるカルボン酸化合物の発生]
リボフラビン20ppm相当と、トリイソプロパノールアミン1.77質量%相当と、イソノナン酸0.8質量%相当と水を混合し、試験液を調製した。当該試験液の5mLをバイアル瓶に採取し、試験液に下記の条件で光照射を行った。光照射前後のバイアルの気相をヘッドスペースガスクロマトグラフ分析法により測定した。
光照射後のイソノナン酸にアサインされるピークの面積は、光照射前の1.32倍であった。
<光照射条件>
白色LEDを500lxで5時間照射した。
<ガスクロマトグラフィー条件>
ヘッドスペースサンプラー:アジレントテクノロジー製 7697A
カラム:HP-5MS(内径0.25mm,30m,膜厚0.25μm)
キャリアーガス:ヘリウム(2.0ml/min)
【0071】
試験例1と試験例2の結果から、光増感剤(A)とアミン化合物(B)とカルボン酸化合物(C)を含有する組成物に光を照射すると、カルボン酸化合物(C)と塩形成しているアミン化合物(B)の分解が促進され、カルボン酸化合物(C)が放出するものと推定される。
以上のことから、光増感剤(A)と、アミン化合物(B)と、カルボン酸化合物(C)とを含有し、前記アミン化合物(B)と前記カルボン酸化合物(C)の少なくとも一部が塩を形成している、本発明の組成物は、光照射により、前記カルボン酸化合物(C)を徐放することが示された。
本発明に係る組成物は、光の照射によりカルボン酸化合物(C)を徐放するものであり、カルボン酸化合物を機能性成分とし効果を持続させることが望ましい、コケ除去剤、防カビ材、抗菌剤、香料などとして、好適に用いることができる。
前記アミン化合物(B)が有するアミノ基と前記カルボン酸化合物(C)が有するカルボキシ基とのモル比(アミノ基/カルボキシ基)が1.0以上である、請求項1に記載の組成物。