(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143389
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水素輸送用ホース
(51)【国際特許分類】
F16L 11/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F16L11/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056038
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【弁理士】
【氏名又は名称】赤木 啓二
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
(72)【発明者】
【氏名】眞榮田 大介
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111BA15
3H111DA14
3H111DA26
3H111DB08
3H111DB11
(57)【要約】
【課題】取扱い性に優れ、かつ耐久性にも優れた水素輸送用ホースを提供する。
【解決手段】内層、補強層および外層を含む水素輸送用ホースであって、内層が熱可塑性樹脂(Aa)およびエラストマー(Ab)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含み、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、熱可塑性樹脂組成物(A)が30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度vが3.7~7.1質量ppm/minであることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層、補強層および外層を含む水素輸送用ホースであって、内層が熱可塑性樹脂(Aa)およびエラストマー(Ab)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含み、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、熱可塑性樹脂組成物(A)が30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度vが3.7~7.1質量ppm/minであることを特徴とする水素輸送用ホース。
【請求項2】
水素脱離速度v[質量ppm/min]に対する内層の厚みT[mm]の比T/vが0.16~0.30であることを特徴とする請求項1に記載の水素輸送用ホース。
【請求項3】
エラストマー(Ab)を30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上曝露した後に大気圧に減圧した際の最大体積VMAXと曝露前の体積VOの比VMAX/VOが5.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の水素輸送用ホース。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(Aa)の曲げ弾性率が500~2000MPaであることを特徴とする請求項1に記載の水素輸送用ホース。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物(A)がマトリックスとマトリックス中に分散したドメインとからなる海島構造を有し、マトリックスが熱可塑性樹脂(Aa)を含み、ドメインがエラストマー(Ab)を含むことを特徴とする請求項1に記載の水素輸送用ホース。
【請求項6】
ドメインの平均粒子径が2.0μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の水素輸送用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素輸送用ホースに関する。より詳しくは、本発明は、取扱い性および耐久性に優れた水素輸送用ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車等の開発が盛んに行なわれている。これに伴って、水素ステーションに設置されたディスペンサーから燃料電池自動車等に水素ガスを輸送するホースの開発も進められている。この水素輸送用ホースには、水素ガスバリア性、低温環境下での柔軟性、耐久性等が求められる。
【0003】
国際公開第2018/155491号(特許文献1)には、ポリアミド11と変性オレフィン系エラストマーとを含む樹脂組成物からなる水素ガスバリア層と、前記水素ガスバリア層の外側に配設された補強層と、前記補強層の外側に配設されたポリアミド樹脂を含む外被層とを有する水素輸送用ホースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された水素輸送用ホースは、水素ガスバリア層の水素脱離速度が小さいために、水素によるダメージが大きく、耐久性が必ずしも充分ではない。
【0006】
本発明は、適切な水素脱離速度を有する材料を内層に用いるとともに、補強層として有機繊維からなる層を少なくとも1層用いることにより、取扱い性に優れ、かつ耐久性にも優れた水素輸送用ホースを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内層、補強層および外層を含む水素輸送用ホースであって、内層が熱可塑性樹脂(Aa)およびエラストマー(Ab)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含み、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、熱可塑性樹脂組成物(A)が30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度が3.7~7.1質量ppm/minであることを特徴とする。
【0008】
本発明は以下の実施態様を含む。
[1]内層、補強層および外層を含む水素輸送用ホースであって、内層が熱可塑性樹脂(Aa)およびエラストマー(Ab)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含み、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、熱可塑性樹脂組成物(A)が30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度vが3.7~7.1質量ppm/minであることを特徴とする水素輸送用ホース。
[2]水素脱離速度v[質量ppm/min]に対する内層の厚みT[mm]の比T/vが0.16~0.30であることを特徴とする[1]に記載の水素輸送用ホース。
[3]エラストマー(Ab)を30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上曝露した後に大気圧に減圧した際の最大体積VMAXと曝露前の体積VOの比VMAX/VOが5.0以下であることを特徴とする[1]に記載の水素輸送用ホース。
[4]熱可塑性樹脂(Aa)の曲げ弾性率が500~2000MPaであることを特徴とする[1]に記載の水素輸送用ホース。
[5]熱可塑性樹脂組成物(A)がマトリックスとマトリックス中に分散したドメインとからなる海島構造を有し、マトリックスが熱可塑性樹脂(Aa)を含み、ドメインがエラストマー(Ab)を含むことを特徴とする[1]に記載の水素輸送用ホース。
[6]ドメインの平均粒子径が2.0μm以下であることを特徴とする[5]に記載の水素輸送用ホース。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水素輸送用ホースは、取扱い性に優れ、かつ耐久性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の水素輸送用ホースの一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、内層、補強層および外層を含む水素輸送用ホースであって、内層が熱可塑性樹脂(Aa)およびエラストマー(Ab)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含み、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、熱可塑性樹脂組成物(A)が30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度vが3.7~7.1質量ppm/minであることを特徴とする。
【0012】
水素輸送用ホースは、タンクやボンベなどから水素を他のタンクやボンベなどに輸送するために用いられるホースであり、好ましくは、水素ステーションに設置されたディスペンサーから燃料電池自動車等に水素ガスを輸送するホースである。
【0013】
図1は、本発明の水素輸送用ホースの斜視図であり、層構成を明瞭に示すために、一部破断して示す。ただし、本発明は、図面に示されたものに限定されない。
水素輸送用ホース1は、内層2、補強層3および外層4を含む。補強層3は内層2の外側に配置される。外層4は補強層3の外側に配置される。補強層3は有機繊維からなる層5を少なくとも1層含む。
図1の水素輸送用ホースの補強層3は、有機繊維からなる層5を3層含み、さらに金属線材からなる層6を1層含むが、本発明の水素輸送用ホースの補強層3は、有機繊維からなる層5が1層でもよく、また、金属線材からなる層6は必須ではない。
【0014】
内層は熱可塑性樹脂組成物(A)を含む。
【0015】
熱可塑性樹脂組成物(A)は、30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度vが3.7~7.1質量ppm/minである。
ここで、減圧から30~90min時点における水素脱離速度とは、減圧した時点から30分経過した時点と90分経過した時点の間の60分間に、熱可塑性樹脂組成物から脱離した水素の量(g)を、熱可塑性樹脂組成物の質量(g)で除した値を百万分率で表示し、さらに1分あたりに換算したもの(単位:質量ppm/min)である。
「30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度」を、以下、単に「水素脱離速度」ともいう。
水素脱離速度は、好ましくは3.9~7.0質量ppm/minであり、より好ましくは4.1~6.9質量ppm/minである。
水素脱離速度が上記数値範囲内のとき、熱可塑性樹脂組成物(A)は、水素曝露しても、水素によるダメージが小さく、耐疲労性が落ちない。
【0016】
水素脱離速度v[質量ppm/min]に対する内層の厚みT[mm]の比T/vは、好ましくは0.16~0.30であり、より好ましくは0.17~0.28であり、さらに好ましくは0.18~0.26である。T/vが上記数値範囲内であれば、水素曝露による熱可塑性樹脂組成物(A)へのダメージが少ない。T/vが大きすぎると水素が系内から抜けず欠陥ができやすく、T/vが小さすぎると水素脱離に伴う変形に材料が追従できず欠陥ができやすい。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物(A)は、熱可塑性樹脂(Aa)およびエラストマー(Ab)を含む。
【0018】
熱可塑性樹脂(Aa)は、熱可塑性樹脂組成物(A)が所望の水素脱離速度を有する限り限定されないが、好ましくは、ポリアミド、ポリエステル、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリケトン、ポリフェニレンスルフィドである。
ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド46、ポリアミド410、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11/10Tなどが挙げられるが、好ましくは、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド1010、ポリアミド6/66共重合体である。
【0019】
熱可塑性樹脂(Aa)は、曲げ弾性率が、好ましくは500~2000MPaであり、より好ましくは600~1800MPaであり、さらに好ましくは700~1600MPaである。熱可塑性樹脂の曲げ弾性率が上記範囲内のとき、ホース柔軟性とホース加工性に優れる。
【0020】
エラストマー(Ab)は、熱可塑性樹脂組成物(A)が所望の水素脱離速度を有する限り限定されないが、好ましくは、スチレン系熱可塑性エラストマー、ブチル系エラストマー、アイオノマー系熱可塑性エラストマーである。
【0021】
スチレン系熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメントとしてポリスチレンを、ソフトセグメントとしてポリジエンなどを用いたブロック共重合体をいう。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、ならびにそれらの酸変性品、アミン変性品またはエポキシ変性品が挙げられる。なかでも、無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(MahSBS)、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(MahSEBS)が、高圧水素曝露後に減圧されたときの体積変化やポリアミド樹脂への分散性の観点から好ましい。
【0022】
ブチル系エラストマーとは、ポリイソブチレン骨格(-[-CH2-C(CH3)2-]n-(ただし、nは2以上の整数である。))を有するエラストマーをいう。ブチル系エラストマーとしては、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体、ハロゲン化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体などが挙げられるが、なかでも臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体が好ましい。
【0023】
アイオノマー系熱可塑性エラストマーとは、側鎖にカルボキシル基(または有機酸基)を導入した直鎖状ポリマーを金属イオンが介在して金属結合により架橋した網目状ポリマーをいう。アイオノマー系熱可塑性エラストマーとしては、エチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで架橋してなるアイオノマーが挙げられる。
【0024】
エラストマー(Ab)を30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上曝露した後に大気圧に減圧した際の最大体積VMAXと曝露前の体積VOの比VMAX/VOが5.0以下であることが好ましい。VMAX/VOは、より好ましくは0.9~4.0であり、さらに好ましくは1.0~3.0である。エラストマー単体の水素曝露に伴う体積膨張が小さい方が、耐久性に優れる。
「30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上曝露した後に大気圧に減圧した際の最大体積VMAXと曝露前の体積VOの比」を、以下、「水素曝露前後の体積比」ともいう。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物(A)は、好ましくは、マトリックスとマトリックス中に分散したドメインとからなる海島構造を有し、マトリックスが熱可塑性樹脂(Aa)を含み、ドメインがエラストマー(Ab)を含む。熱可塑性樹脂組成物(A)が、このような相構造を有するとき、水素バリア性と柔軟性を両立できる。
【0026】
ドメインの平均粒子径は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは0.05~1.6μmであり、さらに好ましくは0.1~1.2μmである。ドメインの平均粒子径が上記数値範囲内のとき、水素曝露によるダメージが少なく、特に低温耐久性に優れる。
【0027】
内層の厚みTは、比T/vが上記数値範囲内である限り限定されないが、好ましくは0.4~2.0mmであり、より好ましくは0.5~1.8mmであり、さらに好ましくは0.6~1.5mmである。
【0028】
補強層は、内層と外層の間に設けられる層であり、通常、有機繊維または金属線材を編組して形成されたブレード層またはスパイラル層からなる。有機繊維としては、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、炭素繊維などが挙げられるが、好ましくはPBO繊維である。有機繊維の線径は、好ましくは0.25~0.30mmである。金属線材としては、鋼線、銅および銅合金の線、アルミニウムおよびアルミニウム合金の線、マグネシウム合金の線、チタンおよびチタン合金の線などが挙げられるが、好ましくは鋼線である。金属線材の線径は、好ましくは0.25~0.40mmである。
本発明の水素輸送用ホースは、有機繊維からなる層を少なくとも1層含む。本発明の水素輸送用ホースは、好ましくは、
図1に示すように、有機繊維からなる層を3層含み、さらにその外側に金属線材からなる層を1層含む。
【0029】
外層4を構成する材料としては、限定するものではないが、熱可塑性エラストマー、加硫ゴムなどが挙げられ、好ましくは熱可塑性エラストマーである。熱可塑性エラストマーとしては、限定するものではないが、好ましくはポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマーが挙げられる。
【0030】
外層の厚みは、本発明の効果を奏する限り限定されないが、好ましくは0.2~1.2mmであり、より好ましくは0.3~1.0mmであり、さらに好ましくは0.4~0.8mmである。
【0031】
水素輸送用ホースの製造方法は、特に限定されないが、次のようにして製造することができる。まず内層(内管)を押出成形によりチューブ状に押出し、次いでそのチューブ上に補強層となる繊維を編組し、さらにその繊維上に外層(外管)を押出成形により被覆することで、水素輸送用ホースを製造することができる。
【実施例0032】
[原材料]
以下の実施例および比較例において使用した原材料は次のとおりである。
PA11: アルケマ社製ポリアミド11「RILSAN」(登録商標)BESN OTL
PA12: UBE株式会社製ポリアミド12「UBESTA」(登録商標)3020U
PA1010: ポリプラ・エボニック株式会社製ポリアミド1010「VESTAMID」(登録商標)Terra DS16
PA6/66: UBE株式会社製ポリアミド6/66共重合体「UBE NYLON」(登録商標)5023B
EVOH: 三菱ケミカル株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)E3808
MahSEBS: 旭化成株式会社製無水マレイン酸変性スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体「タフテック」(登録商標)M1943
MahEBR: 三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体「タフマー」(登録商標)MH7010
SIBS: 株式会社カネカ製スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体「SIBSTAR」(登録商標)102T-UC
BrIPMS: ExxonMobil Chemical社製臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体「EXXPRO」(登録商標)3745
アイオノマー: 三井・ダウポリケミカル株式会社製アイオノマー「SURLYN」(登録商標)1855
PBO: 線径0.28mmのポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維
鋼線: 線径0.35mmの鋼線
TPC: 東レ・デュポン株式会社製熱可塑性ポリエステルエラストマー「ハイトレル」(登録商標)4057N
【0033】
(1)熱可塑性樹脂組成物の調製
シリンダー温度を260℃に設定した二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に、表1~4に記載の処方で原材料を導入し、滞留時間約5分で溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイスからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0034】
(2)熱可塑性樹脂組成物の水素脱離速度の測定
(1)で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を熱可塑性樹脂の融点+20℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度1m/minの条件で平均厚み2.0mmのシートに成形した。
このシートを直径13mmの円盤状に切り出し、切り出した円盤状サンプルを耐圧容器に入れ、30℃、90MPaで24時間、水素曝露を行った。
大気圧まで減圧した直後に、一端からアルゴンガスをフローさせた30℃の石英管内に円盤状サンプルを静置した。石英管のもう一端は、計量管を通った後、排気する経路とガスクロマトグラフィーへ通じる経路に接続されており、計量管内の気体は、常時排気経路に通じているが、5分に一度経路を切り替え、所定の時間(5秒程度)だけ計量管内の気体をガスクロマトグラフィーに導入することで、円盤状サンプルから脱離した時間あたりの水素量を定量し、5分ごとの水素脱離量を算出した。水素が検出されなくなるまで測定を継続し、各測定における5分ごとの水素脱離量を積算することで円盤状サンプルに溶解していた全水素量(質量ppm)を求めた。減圧した時点を0分とし、減圧した時点から30分経過した時点と90分経過した時点の間の60分間における水素の脱離量から、水素脱離速度(質量ppm/min)を求めた。
【0035】
(3)エラストマーの水素曝露前後の体積比VMAX/VOの測定
(2)と同様に円盤状サンプルを水素曝露し、大気圧まで減圧した直後に、株式会社キーエンス製2次元多点寸法測定器TM-3000にて円盤状サンプルの面積を測定し、円盤状サンプルの面積の平方根の3乗を見かけの体積として、体積変化を求めた。水素の脱離とともに体積は小さくなっていくが、その過程でもっとも大きい見かけの体積(最大値)VMAXを、同様に測定した曝露前の見かけの体積VOで割った値を水素曝露前後の体積比VMAX/VOとした。
【0036】
(4)ドメインの平均粒子径の測定
(2)と同様に成形した平均厚み2.0mmの熱可塑性樹脂組成物のシートを切り出し、剃刀で押出方向に垂直な面を出した後、液体窒素を用いて冷却した状態でダイヤモンドナイフにより平滑な面を作製した。この面をAsylum Research製の原子間力顕微鏡AFM MFP3Dを用いて、タッピングモードにより位相像として、マトリックスとドメインにコントラストの付いた画像を取得した。得られた画像を二値化処理した後、ドメイン約500個に対し、画像解析ソフトを用いて粒子解析を行い、数平均粒子径を求め、ドメインの平均粒子径とした。
【0037】
(5)曲げ弾性率の測定
熱可塑性樹脂を、Moldlock製卓上射出成型機を用いて成型し、樹脂用多目的試験片タイプA1のダンベル状試験片を作製した。この試験片を用いて、JIS K7171:2016「プラスチックの曲げ特性の求め方」に準拠し、23℃、50%RHで曲げ弾性率を求めた。
【0038】
(6)ホースの作製
(1)の手順で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を内径8mm、厚さ1mmのチューブ状に押出した。このチューブを内層とし、その外側に補強層として、PBO繊維のブレード層を3層編組し、さらにその外側に鋼線のブレード層を1層編組し(実施例1~8および10~18ならびに比較例1、3および4)、または補強層としてPBO繊維のブレード層を4層編組し(実施例9)、または補強層として鋼線のブレード層を4層編組した(比較例2および5)。さらに、補強層の外側に熱可塑性ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)4057N)を厚さ0.7mmで押出して外層とし、ホースを作製した。
【0039】
(7)ホースの曲げ剛性力の測定
(6)で作製したホースを所定の長さに切断し、JIS K6330-9「ゴム及び樹脂ホース試験方法-第9部 ホースおよび管の曲げ特性」に準じて、室温で曲げ半径180mmにおける曲げ剛性力を測定した。
曲げ剛性力は、ホースの取扱い性の指標であり、曲げ剛性力が5~20Nであれば、ホースは取扱い性に優れる。
【0040】
(8)水素曝露あり/なし内層材の定歪疲労破断回数の比R
(2)と同様に、押出成形において引取り速度を適宜変更し、表1~4に示す内層の厚みに相当するシートを作製した。そのシートから幅5mm、長さ200mmの短冊を24本切り出し、12本はそのまま、残り12本は30℃、90MPaで24時間水素曝露を行った後、株式会社上島製作所製の定歪定荷重疲労試験機に仕掛け、温度-35℃、ひずみ13.5%、速度100rpmの条件で繰返し伸張変形を与えた。仕掛けた12本の7本以上が破断する回数を求め、水素曝露したものと水素曝露していないものの破断回数の比R
R=水素曝露後サンプルの破断回数/未処理サンプルの破断回数
を求めた。Rが1に近いほど、水素曝露によるダメージが小さくホース寿命を延ばせることが期待され、Rが0.90以上を「優」、Rが0.80以上0.90未満を「良」、Rが0.70以上0.80未満を「可」、Rが0.70未満を「不可」と判定した。「不可」と判定した材料は、水素曝露による物性低下が顕著で、ホース内層として実用に耐えないものと判断した。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] 内層、補強層および外層を含む水素輸送用ホースであって、内層が熱可塑性樹脂(Aa)およびエラストマー(Ab)を含む熱可塑性樹脂組成物(A)を含み、補強層が有機繊維からなる層を少なくとも1層含み、熱可塑性樹脂組成物(A)が30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上保持された状態から大気圧に減圧されたとき、減圧から30~90min時点における水素脱離速度vが3.7~7.1質量ppm/minであることを特徴とする水素輸送用ホース。
発明[2] 水素脱離速度v[質量ppm/min]に対する内層の厚みT[mm]の比T/vが0.16~0.30であることを特徴とする発明[1]に記載の水素輸送用ホース。
発明[3] エラストマー(Ab)を30℃、90MPaの水素雰囲気で24h以上曝露した後に大気圧に減圧した際の最大体積VMAXと曝露前の体積VOの比VMAX/VOが5.0以下であることを特徴とする発明[1]または[2]に記載の水素輸送用ホース。
発明[4] 熱可塑性樹脂(Aa)の曲げ弾性率が500~2000MPaであることを特徴とする発明[1]~[3]のいずれか一つに記載の水素輸送用ホース。
発明[5] 熱可塑性樹脂組成物(A)がマトリックスとマトリックス中に分散したドメインとからなる海島構造を有し、マトリックスが熱可塑性樹脂(Aa)を含み、ドメインがエラストマー(Ab)を含むことを特徴とする発明[1]~[4]のいずれか一つに記載の水素輸送用ホース。
発明[6] ドメインの平均粒子径が2.0μm以下であることを特徴とする発明[5]に記載の水素輸送用ホース。