(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014339
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20240125BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117096
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】田窪 孝康
(72)【発明者】
【氏名】杉山 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】西口 航平
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701EA31
3J701EA36
3J701EA63
3J701FA41
3J701FA51
3J701GA01
3J701GA24
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】保持爪に遠心力が負荷されても、保持爪と玉との接触圧が抑えられ、保持器の振れ回りに伴う異音・異常振動、抵抗増大を抑制することができる玉軸受を提供する。
【解決手段】冠型の保持器24の保持爪32を、内径側よりも遠心加速度が大きい外径側を、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32aと、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32bと、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32cとの三部位からなり、爪中央部32bの外径の輪郭は、玉23およびポケット31の中心P1よりも大径側で構成されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に内側軌道溝が形成されている内側軌道部材と、内周に外側軌道溝が形成されている外側軌道部材と、内側軌道溝と外側軌道溝との間に介装される複数の玉と、この玉を周方向に等間隔に保持する保持器とを備え、前記保持器は、玉の軸方向一方側に位置する円環基部と、この円環基部から軸方向他方側に延びる複数対の保持爪とを有し、各対の保持爪の対向面と前記円環基部の軸方向一端面に、玉を軸方向及び径方向に抜けないように収容する球状凹面のポケットを形成している玉軸受であって、前記保持爪が、円環基部側に位置する爪基底部と、爪基底部の先端側に位置し、爪基底部の外径よりも小径の外径を有する爪中央部と、爪中央部の先端側に位置し、爪中央部の外径よりも小径の外径を有する爪先端部との三部位からなることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記玉の中心球状凹面ポケットの中心が、前記爪中央部の軸方向の幅内に位置する請求項1記載の玉軸受。
【請求項3】
前記爪中央部の外径が、前記玉のピッチ円径よりも大径に設定されている請求項2記載の玉軸受。
【請求項4】
前記爪先端部の外径が、前記玉のピッチ円径よりも小径に設定されている請求項3記載の玉軸受。
【請求項5】
前記爪先端部の軸方向先端が、前記玉の輪郭内に収まることを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載の玉軸受。
【請求項6】
前記保持爪のポケット内周面に、内径側から外径側に至る凹溝を設けている請求項1~5のいずれかの項に記載の玉軸受。
【請求項7】
前記保持器の回転運動が、玉によって案内される転動体案内であることを特徴とする請求項1~6のいずれかの項に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高速回転時に生じる保持器と玉との干渉による発熱・損傷を予防することができる、自動車部品または産業機械ほか、あらゆる高速回転の用途に適用可能な玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、玉軸受は、
図15に示すように、外周に内側軌道溝1aが形成されている内側軌道部材1と、内周に外側軌道溝2aが形成されている外側軌道部材2と、内側軌道溝1aと外側軌道溝2aとの間に介装される転動体としての複数の玉3と、玉3を円周方向に等間隔に保持する保持器4とを備える。
【0003】
そして、前記保持器4として、
図16に示すような、冠型の保持器4を使用する場合がある(特許文献1)。
【0004】
冠型の保持器4は、転動体としての玉3の軸方向一方側に位置する円環基部4aと、この円環基部4aから軸方向他方側に延びる複数対の保持爪5aとを有し、各対の保持爪5aの対向面及び円環部4aの軸方向一端面に、玉3が軸方向及び径方向に抜けないように抱え込む球状凹面のポケット5を形成している。保持器4は、球状凹面のポケット5に玉3を抱え込むので、軸方向に位置決めされ、転動体としての玉3の回転運動によって周方向に案内される。
【0005】
ところで、電動自動車では、電費・走行性能の向上のために、電動機の回転速度を高めて電動機を小型・軽量化する必要がある。この電動機の高速回転化に伴って使用する軸受の最高回転速度も上昇し、軸受を構成する内部部品に作用する遠心力が増大する。
【0006】
このような高速回転用途の玉軸受の保持器4に、冠型の保持器4を使用した場合、遠心力の作用により保持爪5aが外径方向に開き、玉3と保持爪5aとの接触・抵抗が強まって円滑な転がり回転が阻害され、保持爪5aや玉3に摩耗・発熱といった課題が生じる。
【0007】
特許文献2には、このような冠型の保持器における遠心力による保持爪の変形を、保持爪を軽量化することにより抑制した玉軸受が開示されている。
【0008】
この特許文献2に開示された玉軸受は、
図17に示すように、保持爪5aの外径部と内径部に、軸方向先端に向かって縮径した外径側縮径部6と、軸方向先端に向かって拡径した内径側拡径部7を設けることにより、保持爪5aを軽量化し、遠心力による保持爪5aの変形を抑制している。即ち、保持爪5aは、円環基部4aの内径(径方向寸法d
1)よりも先端部の内径(径方向寸法d
2)が大径に形成され、円環基部4aの外径(径方向寸法D
2)よりも先端部の外径(径方向寸法D
1)が小径に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-125256号公報
【特許文献2】特開2002-147463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献2の玉軸受のように、保持爪5aの内径部に内径側拡径部7を形成すると、玉3による保持器4の径方向の案内が損なわれ、保持器4の回転中心が定まらなくなる。これによって保持器4の振れ周りが生じ、異音・異常振動、抵抗の増大といった懸念が生じる。
【0011】
そこで、この発明は、保持爪を軽量化しても、玉による保持器の径方向、軸方向の案内を損なうことなく、かつ、軸受への組込みが容易な保持器を採用した、高速回転への適用が可能な玉軸受を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するために、この発明に係る玉軸受は、外周に内側軌道溝が形成されている内側軌道部材と、内周に外側軌道溝が形成されている外側軌道部材と、内側軌道溝と外側軌道溝との間に介装される複数の玉と、この玉を周方向に等間隔に保持する保持器とを備え、前記保持器は、玉の軸方向一方側に位置する円環基部と、この円環基部から軸方向他方側に延びる複数対の保持爪とを有し、各対の保持爪の対向面と前記円環基部の軸方向一端面に、玉を軸方向及び径方向に抜けないように収容する球状凹面のポケットを形成している玉軸受であって、前記保持爪が、円環基部側に位置する爪基底部と、爪基底部の先端側に位置し、爪基底部の外径よりも小径の外径を有する爪中央部と、爪中央部の先端側に位置し、爪中央部の外径よりも小径の外径を有する爪先端部との三部位からなることを特徴とする。
【0013】
転動体としての玉による保持器の案内を安定した状態で維持し、保持器の振れ回りに伴う異音・異常振動を抑制するためには、前記玉の中心球状凹面ポケットの中心は、前記爪中央部の軸方向の幅内に位置し、また、前記爪中央部の外径は、前記玉のピッチ円径よりも大径に設定され、さらに、前記爪先端部の外径は、前記玉のピッチ円径よりも小径に設定され、前記爪先端部の軸方向先端が、前記玉の輪郭内に収まっていることが望ましい。
【0014】
また、前記保持爪のポケット内周面に、内径側から外径側に至る凹溝を設けることにより、潤滑剤である油がポケット内に流入しやすくなり、玉と保持爪との摩擦抵抗を軽減することができる。
【0015】
前記保持器の回転運動は、玉によって案内される転動体案内である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、この発明に係る冠型の保持器の保持爪は、内径側よりも遠心加速度が大きい外径側を、円環基部から軸方向他方側に向かって、円環基部側に位置する爪基底部と、爪基底部の先端側に位置し、爪基底部の外径よりも小径の外径を有する爪中央部と、爪中央部の先端側に位置し、爪中央部の外径よりも小径の外径を有する爪先端部との三部位で構成することで、保持爪の内径側を拡径させなくても、保持爪に負荷される遠心力が緩和され、保持爪の変形を抑制することが可能となる。そして、保持爪が遠心力で拡径しても、玉との接触圧が抑えられた状態で径方向の案内機能や回転中心が維持されるので、保持器の振れ回りに伴う異音・異常振動を抑制することができる。
【0017】
また、この発明に係る保持器の形状は、従来形状に比べ保持爪が軽量化されるため、材料の量を低減させることができ、原材料コストの低価格化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明に係る玉軸受の第1実施形態を示す縦断面図である。
【
図2】
図1の玉軸受に使用する保持器の部分拡大図である。
【
図3】
図1の玉軸受に使用する保持器を径方向外面から見た部分拡大図である。
【
図4】
図1の玉軸受に使用する保持器の斜視図である。
【
図5】
図1の玉軸受に使用する保持器と従来の保持器とを単体で回転させたときにおける保持爪の外径側への変形量を実験した結果を示すグラフである。
【
図6】この発明に係る玉軸受の第2実施形態を示す縦断面図である。
【
図7】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
【
図9】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
【
図11】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
【
図13】この発明に係る玉軸受に使用する保持器の別の実施形態を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明の第1の実施形態に係る油潤滑タイプの玉軸受20を示している。この玉軸受20は、電気自動車用駆動モータやハイブリッド電気自動車用駆動モータ、自動車の駆動装置、電装部品や補機部品等に組み込まれ、高速回転で使用される。
図1は玉軸受20の縦断面図、
図2は
図1の玉軸受20に使用している保持器24の部分拡大図、
図3は
図2の保持器24を径方向外面から見た図、
図4は
図2の保持器24の斜視図である。
【0021】
玉軸受20は、外周面に内側軌道溝21aが形成された内側軌道部材21と、その内側軌道部材21の外側に配置され、内周面に外側軌道溝22aが形成された外側軌道部材22と、内側軌道溝21aと外側軌道溝22aとの間に転動自在に介装される転動体としての複数の玉23と、この玉23を周方向に等間隔に保持する保持器24とを備える。
【0022】
この
図1に示す玉軸受20は、外側軌道部材22がハウジングなどの静止部材に装着され、内側軌道部材21が電動モータなど機力で回転駆動する回転軸に装着されるものであるが、この発明は、内側軌道部材21がシャフトなどの静止部材に装着され、外側軌道部材22が回転軸に装着されて回転するタイプにも適用可能である。
【0023】
この玉軸受20に使用する保持器24は、回転運動が、玉23によって案内される転動体案内で使用することができる。また、この発明が適用される軸受は、dmN値で100万を超える回転領域での使用が可能である。
【0024】
保持器24は、玉23の軸方向一方側に位置する円環基部30(軸方向幅L1)と、この円環基部30から軸方向他方側に延びる複数対の保持爪32とを有し、各対の保持爪32の対向面及び円環基部4aの軸方向一端面に、玉23が軸方向及び径方向に抜けないように抱え込む球状凹面のポケット31を形成している。
【0025】
保持爪32は、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32a(軸方向幅L3)と、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32b(軸方向幅L4)と、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32c(軸方向幅L5)との三部位からなる。
【0026】
円環基部30は、保持爪32を周方向に配置するものであり、内側軌道部材21との間にクリアランスCLi、外側軌道部材22との間にクリアランスCLoがそれぞれ確保され、このクリアランスCLiとクリアランスCLoによって軸受内部への潤滑剤である油の供給と軸受外部への油の排出が行われる。
【0027】
円環基部30は、爪基底部32aに連なり、円環基部30の軸方向先端(
図1のL1の左端)は、玉23の中心かつポケット31の中心P1と、ポケット31の底部P2との間に位置している。
【0028】
円環基部30の外径D1は、外側軌道部材22の内径よりも小さく、前記のように、外側軌道部材22との間にクリアランスCLoが確保されている。円環基部30の外径D1を大きくし過ぎると、クリアランスCLoが小さくなり、円環基部30と外側軌道部材22とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。反対に、円環基部30の外径D1を小さくし過ぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。なお、高速運転による遠心力によって円環基部30が遠心膨張し、円環基部30の外径D1と外側軌道部材22の内径が接触する懸念がある場合は、予め外側軌道部材22の内径に研削加工を施し、外側軌道部材22の内径と保持器の摩擦を抑える仕様としてもよい。
【0029】
円環基部30の内径D2は、内側軌道部材21の内径よりも大きく、前記のように、内側軌道部材21との間にクリアランスCLiが確保されている。円環基部30の内径D2を小さくし過ぎると、クリアランスCLiが小さくなり、円環基部30と内側軌道部材21とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。反対に、円環基部30の内径D2を大きくし過ぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。
【0030】
円環基部30の軸方向幅L1は、円環基部30の一方端(保持爪32が延びる方向と反対側の端、
図1における右端)からポケット31の底部P2までの軸方向幅L2よりも大きく、即ち、
図1におけるL1の左端がポケット31の底部P2よりも
図1における左側に位置している。円環基部30の軸方向幅L1が小さすぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。
【0031】
保持爪32の爪基底部32aは、円環基部30に連なって保持爪32を含む保持器24の全体形状を維持し、保持器24の軸方向と径方向の位置決めを行う部位である。
【0032】
爪基底部32aの軸方向先端位置は、玉23の中心かつポケット31の中心P1と、ポケット31の底部P2との間にある。
【0033】
爪基底部32aの外径の上限は、円環基部30の外径D1と同等であり、外側軌道部材22の内径よりも小さく、外側軌道部材22との間にクリアランスCLoが確保されている。爪基底部32aの外径を大きくし過ぎると、クリアランスCLoが小さくなり、爪基底部32aと外側軌道部材22とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。爪基底部32aの外径の下限は、爪中央部32bの外径よりも大きい。なお、高速運転による遠心力によって爪基底部32aの外径が遠心膨張し、爪基底部32aの外径と外側軌道部材22の内径が接触する懸念がある場合は、予め外側軌道部材22の内径に研削加工を施し、外側軌道部材22の内径と保持器の摩擦を抑える仕様としてもよい。
【0034】
爪基底部32aの内径の上限は、円環基部30の内径D2と同等に設定されている。爪基底部32aの内径の下限は、玉23の輪郭内に収まる範囲内に設定されている。
【0035】
爪基底部32aの内径を大きくし過ぎると、保持爪32を含む保持器24全体の剛性が低下し、保持器24としての形状が維持できなくなる。また、爪基底部32aの内径を小さくし過ぎると、爪基底部32aと内側軌道部材21とが干渉して保持器24が破損する懸念があると共に、通油性が悪化する懸念がある。
【0036】
爪基底部32aの軸方向先端は、円環基部30の軸方向先端よりも軸方向先端側(
図1の左側)に位置する。爪基底部32aの軸方向幅L3は、小さいほど、保持器24の質量の軽量化が図れ、回転時の慣性モーメントを低下させることが可能になるが、過少に設定すると、爪基底部32aの剛性が低下し、保持爪32における爪先の変形を増大させる懸念がある。
【0037】
図3に示すように、爪基底部32aにおける円環基部30側の周方向幅T1は、過大にすると保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。反対に、爪基底部32aの円環基部30側の周方向幅T1を過少にすると、爪基底部32aの強度が低下し、保持爪32が破損する懸念がある。爪基底部32aの周方向幅T1は、爪中央部32bに向かって次第に狭くなるように形成することができる。
【0038】
次に、爪中央部32bは、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有し、爪基底部32aと爪先端部32cに連なり、玉23の周方向位置を決める部位になっている。
【0039】
爪中央部32bの外径は、上限を爪基底部32aの外径D1と同等かそれよりも小さく、下限を玉23の中心かつポケット31の中心P1とポケット31の底部P2とを通る玉23のピッチ円径dAよりも大きく設定している。これにより、転動体としての玉23による保持器24の案内を安定した状態で維持することができ、保持器24の振れ回りに伴う異音・異常振動を抑制することができる。
【0040】
爪中央部32bの外径が爪基底部32aの外径D1よりも大きくなると、保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。反対に、爪中央部32bの外径が、玉23のピッチ円径dAよりも小さくなると、保持器32、玉23間の周方向の接触圧に対して、径方向の分力が増大し、玉23の保持ができなくなり、保持器24の周方向の位置決め及び玉23の円滑な転動ができなくなる可能性がある。
【0041】
爪中央部32bの内径の上限は、爪基底部32aの内径D2と同等に設定されている。爪中央部32bの内径の下限は、玉23の輪郭内に収まる範囲内に設定されている。
【0042】
爪中央部32bの内径を大きくし過ぎると、爪中央部32bの強度が低下し、保持器24が破損する恐れがある。また、爪中央部32bの内径を小さくし過ぎると、通油性が悪化する懸念がある。
【0043】
爪中央部32bの軸方向先端は、玉23の中心かつポケット31の中心P1よりも軸方向先端側(
図1の左側)に位置する。爪中央部32bの軸方向先端が、玉23の中心かつポケット31の中心P1よりも爪基底部32aに位置すると、玉23の安定した保持ができなくなり、保持器24と玉23との周方向の接触圧に対して、径方向の分力が増大し、周方向の位置決め及び玉23の円滑な転動ができなくなる可能性がある。
【0044】
図3に示すように、爪中央部32bの爪基底部32a側の周方向幅T2は、爪基底部32aの周方向幅T1の同等以下であり、過大にすると保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。反対に、爪中央部32bの爪基底部32a側の周方向幅T2を過少にすると、爪中央部32bの強度が低下し、保持爪32が破損する恐れが生じる。爪中央部32bの周方向幅T2は、爪先端部32cに向かって次第に狭くなるように形成することができる。
【0045】
次に、爪先端部32cは、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有し、爪中央部32bに連なり、ポケット31の内周面及び先端部で、保持器24の軸方向と径方向の位置を決める部位になっている。
【0046】
爪先端部32cの外径は、遠心力に伴う爪先の拡径を抑える観点より、玉23のピッチ円径dAよりも小さい設定にする。
【0047】
爪先端部32cの外径が、玉23のピッチ円径dAよりも大きくなると、保持爪32に負荷される遠心力が増大し、保持爪32の径方向への変形量が増加する。
【0048】
爪先端部32cの内径の上限は、爪中央部32bの内径D2と同等に設定されている。爪先端部32cの内径の下限は、玉23の輪郭内に収まる範囲内にある。
【0049】
爪先端部32cの軸方向先端は、玉23の輪郭内に収まる範囲内にある。爪先端部32cの軸方向先端が、玉23の輪郭から外れた位置にあると、内輪軌道部材21との干渉や遠心力の増大による変形量の増加、組込み性の低下が生じる。
【0050】
図3に示すように、爪先端部32cの周方向幅T3は、爪中央部32bの周方向幅T2と同等以下であり、先端に向かって幅を狭く形成することができる。
【0051】
次に、
図1~
図4の実施形態における爪中央部32bの外径形状は、爪基底部32a側から軸方向先端側に、玉23の中心かつポケット31の中心P1辺りまでが外径が次第に小さくなるように円弧形状に湾曲し、中心P1付近から先端に向けて外径が同一径で直線状に延び、先端から爪先端部32cに向けて次第に外径が次第に小さくなるように円弧形状に湾曲している。
【0052】
爪先端部32cの外径形状は、爪中央部32bに連なる部分が湾曲し、先端が同一径で直線状に延びている。
【0053】
次に、保持爪32の先端寄りのポケット31内周面には、内径側から外径側に至る凹溝35を設けている。この凹溝35を設けることにより、潤滑剤である油がポケット31内に流入しやすくなり、玉23と保持爪32との摩擦抵抗を軽減することができる。
【0054】
以上のように、この発明に係る冠型の保持器24の保持爪32は、内径側よりも遠心加速度が大きい外径側を、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32aと、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32bと、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32cとの三部位で構成されているので、保持爪32の内径側を拡径しなくても、保持爪32に負荷される遠心力が緩和され、保持爪32の変形を抑制することが可能となる。
【0055】
これにより、保持爪32に遠心力が負荷されても、保持爪32と玉23との接触圧が抑えられた状態で径方向の案内機能が維持され、また、転動体としての玉23の公転中心と同心に保持器24の回転中心が維持されるので、保持器24の振れ回りに伴う異音・異常振動、抵抗増大を抑制することができる。
【0056】
次に、保持器24の材料としては、耐摩耗性や耐焼き付等に優れた樹脂を用いることができ、特に、引張伸び、引張強さ、耐衝撃性、耐摩耗性、潤滑性等に優れたポリアミド樹脂、例えば、PA66(ポリアミド66)、PA46(ポリアミド46)、PA6T(ポリアミド6T)、PA9T(ポリアミド9T)、あるいはPA6(ポリアミド6)などが望ましい。また、これらの樹脂には、炭素繊維,ガラス繊維あるいはアラミドなど、繊維状強化材を複合することで、弾性率、強度、耐衝撃性を高め、かつ、寸法変化、クリープ変形を抑えることができる。
【0057】
この発明では、保持器24の保持爪32の外径側を、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32aと、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32bと、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32cとの3部位で構成するので、組込み時に保持爪32が内径側に倒れやすくなる。このため、PA9T(ポリアミド9T)などの強度が高い硬質樹脂を保持器24の材料としても組込みを容易に行うことができる。
【0058】
また、この発明に係る保持器24は、保持爪32の外径側に、爪基底部32a、爪中央部32b及び爪先端部32cを形成するので、保持器24を合成樹脂の射出成型で製作する際に、型から抜き易く、射出成型が容易である。
【0059】
前記内側軌道部材21、外側軌道部材22及び玉23は、例えば軸受鋼、浸炭鋼等の金属で形成される。
【0060】
次に、
図1~
図4に示す第1の実施形態の保持器24、即ち、内径側よりも遠心加速度が大きい保持爪32の外径側を、円環基部30から軸方向他方側に向かって、円環基部30側に位置する爪基底部32aと、爪基底部32aの先端側に位置し、爪基底部32aの外径よりも小径の外径を有する爪中央部32bと、爪中央部32bの先端側に位置し、爪中央部32bの外径よりも小径の外径を有する爪先端部32cとの三部位で構成した保持器24と、保持爪の外径が直線形状である従来の
図15及び
図16に示す従来例の保持器4とを単体で回転させ、その時の保持爪の外径側への変形量を実測した実験結果をグラフにして
図5に示した。測定は、保持器表面温度を25℃と100℃に調整して実施した。いずれの温度においても、
図1~
図4に示す第1の実施形態の保持器24は、従来の保持器4と比較して、
図5のグラフに示すとおり、変形量を大きく抑制できるということを確認することができた。
【0061】
次に、
図6は、
図1~
図4に示す第1の実施形態と同様の保持器24を使用し、内側軌道部材21と外側軌道部材22間の軸方向両側に、内側軌道部材21と外側軌道部材22間に形成された環状空間25を密封するシール部材26を設け、このシール部材26により密封された環状空間25に、グリース等の潤滑剤を封入した第2の実施形態に係る玉軸受20を示している。
【0062】
グリース潤滑を想定した
図6に示す玉軸受20の場合、転動体としての玉23の公転に伴い軸受内部グリースの多くは外側軌道部材22側へ移動する。この発明に係る保持器24によれば、保持器24の外径部とグリースの接触が抑えられ、攪拌抵抗を減少させ、低トルクでの運転が可能となる。また、軸受内部の空間容積に対する保持器24の体積が減少するため、空間容積あたりのグリースの体積が低下する。これにより、グリース漏れを起こし難くする効果も期待できる。
【0063】
シール部材26は、環状の芯金26aとこの芯金26aに一体に固着されるゴム状部材26bとで構成され、外側軌道部材22の内周面に形成されたシール取付溝27に外周部が嵌合状態に固定されている。内側軌道部材21は、シール部材26の内周部に対応する位置に、円周溝からなるシール溝28を備え、シール部材26の内周側端に形成されたシールリップ26cが内側軌道部材21のシール溝28に摺接または非接触で近接している。
【0064】
この第2の実施形態に係る玉軸受20は、運転中、シール部材26の先端のシールリップ26cが内側軌道部材21の外周端部に摺接、または、非接触で近接した状態を維持しながら、内側軌道部材21が回転する。これにより、水やダスト等の異物が軸受内部に侵入したり、あるいは、軸受内部から潤滑剤が外部へ漏れたりすることを未然に防止している。
【0065】
また、この第2の実施形態に係る玉軸受20に充填される潤滑剤としては、基油、増ちょう剤及び添加剤から成る半固体状のグリースを使用することができる。このグリースを構成する基油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などの鉱油、ポリブデン、ポリ-α-オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、または、天然油脂やポリオールエステル油、リン酸エステル、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等、一般に潤滑グリースの基油として使用されている油であれば特に限定することなく使用できる。
【0066】
増ちょう剤としては、アルミニウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん、複合リチウム石けん、複合カルシウム石けん、複合アルミニウム石けんなどの金属石けん系増ちょう剤、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられる。これらの増ちょう剤は、単独または2種類以上組み合せて用いてもよい。
【0067】
グリース用の公知の添加剤としては、例えば極圧剤、アミン系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合せて添加できる。
【0068】
次に、
図7及び
図8に示す保持器24は、保持爪32の爪中央部32bと爪先端部32cの外径形状が、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる形状をしている。
【0069】
第1の実施形態及び第2の実施形態の玉軸受20に使用している保持器24の保持爪32は、爪中央部32bの外径形状が、爪基底部32a側から軸方向に、玉23の中心かつポケット31の中心P1辺りまでが外径が次第に小さくなるように円弧形状に湾曲している。これに対し、
図7及び
図8に示す保持器24は、爪中央部32bの外径形状が、爪基底部32a側から軸方向に湾曲することなく、直線状に傾斜している。
【0070】
また、第1の実施形態及び第2の実施形態の玉軸受20に使用している保持器24は、爪先端部32cの外径形状が、爪中央部32bに連なる部分が湾曲している。これに対し、
図7及び
図8に示す保持器24は、爪先端部32cの外径形状が、爪中央部32b側から軸方向に湾曲することなく、直線状に傾斜している。
【0071】
なお、
図7及び
図8に示す保持器24の他の構成は、
図1~
図4に示す第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0072】
次に、
図9及び
図10に示す保持器24は、爪中央部32bと爪先端部32cを形成する保持爪32の外径形状が、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる形状をしている。
【0073】
この
図9及び
図10に示す保持器24の保持爪32の外径形状は、爪基底部32aの軸方向先端側が2段に傾斜する傾斜面に形成され、先端側の傾斜面が爪基底部32a側の傾斜面よりも傾斜勾配が大きなっている。
【0074】
なお、
図9及び
図10に示す保持器24の他の構成は、
図1~
図4に示す第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0075】
次に、
図11及び
図12に示す保持器24は、爪中央部32bと爪先端部32cを形成する保持爪32の外径形状が、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる形状をしている。
【0076】
この
図11及び
図12に示す保持器24の保持爪32の外径形状は、爪基底部32aの軸方向先端側が2段に傾斜する傾斜面に形成され、先端側の傾斜面が爪基底部32a側の傾斜面よりも傾斜勾配が小さくなっている。
【0077】
なお、
図11及び
図12に示す保持器24の保持器24の他の構成は、
図1~
図4に示す第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0078】
次に、
図13及び
図14に示す保持器24は、爪中央部32bと爪先端部32cを形成する保持爪32の外径形状が、第1、第2及び第3の実施形態と異なる形状をしている。
【0079】
この
図13及び
図14に示す保持器24の保持爪32の外径形状は、爪基底部32aの軸方向先端側が2段の湾曲面に形成されている。
【0080】
なお、
図13及び
図14に示す保持器24の他の構成は、
図1~
図4に示す第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0081】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、第1から第4の実施形態の爪各部位・形状を組み合わせるなど、種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0082】
20 玉軸受
21 内側軌道部材
21a 内側軌道溝
22 外側軌道部材
22a 外側軌道溝
23 玉
24 保持器
30 円環基部
31 ポケット
32 保持爪
32a 爪基底部
32b 爪中央部
32c 爪先端部
35 凹溝