(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143390
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1004 20160101AFI20241003BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M8/0273
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056039
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 茂幹
(72)【発明者】
【氏名】茅根 博之
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126AA13
5H126AA15
5H126BB06
5H126FF04
5H126GG18
(57)【要約】
【課題】枚葉方式での製造とロール・トゥ・ロール方式での製造との双方の利点を得ることができる膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法を提供する。
【解決手段】膜電極接合体の集合ロール100は、複数の層状体10を備える帯状体が巻かれたロールである。層状体10は、高分子電解質膜11、および、高分子電解質膜11が有する面に接する電極触媒層12A,12Cを備え、帯状体において、複数の層状体10は1つの方向に沿って並んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層状体を備える帯状体が巻かれたロールであって、
前記層状体は、高分子電解質膜、および、前記高分子電解質膜が有する面に接する電極触媒層を備え、
前記帯状体において、前記複数の層状体は1つの方向に沿って並んでいる
膜電極接合体の集合ロール。
【請求項2】
前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、
前記帯状体にて隣り合う前記層状体の前記ガスケット部同士が融着されている
請求項1に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【請求項3】
前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、
前記帯状体は、隣り合う前記層状体の前記ガスケット部の間に、これらのガスケット部の各々に接合した接合部であって、樹脂を含む前記接合部を有する
請求項1に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【請求項4】
前記帯状体は、1つの方向に沿って並ぶ複数の開口部を有した支持部材を備え、
各開口部内に前記層状体が1つずつ位置する
請求項1に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【請求項5】
前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、
前記支持部材における前記開口部の内周縁と前記層状体の前記ガスケット部とが融着されている
請求項4に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【請求項6】
前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、
前記帯状体は、前記支持部材における前記開口部の内周縁と前記層状体の前記ガスケット部との間に、これらの内周縁およびガスケット部の各々に接合した接合部であって、樹脂を含む前記接合部を有する
請求項4に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【請求項7】
前記帯状体は、前記層状体における前記電極触媒層が配置されていない領域にて前記層状体に接合された固定部であって、前記複数の層状体上を前記帯状体の長さ方向に沿って延びる前記固定部を備え、前記固定部によって前記複数の層状体が繋がれている
請求項1に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の集合ロールから分割された前記層状体を備える
膜電極接合体。
【請求項9】
高分子電解質膜、および、前記高分子電解質膜が有する面に接する電極触媒層を各々が有する複数の層状体を、1つの方向に沿って並べ、これらの層状体を備える帯状体を形成することと、
前記帯状体をロール状に巻き取ることと、
を含む膜電極接合体の集合ロールの製造方法。
【請求項10】
前記帯状体を形成することは、前記層状体を吸着装置によって吸着保持した状態で、2以上の前記層状体を並べ、これらの層状体を繋ぐことを含む
請求項9に記載の膜電極接合体の集合ロールの製造方法。
【請求項11】
前記帯状体を形成することは、前記層状体を微粘着シート上に配置した状態で、2以上の前記層状体を並べ、これらの層状体を繋ぐことを含む
請求項9に記載の膜電極接合体の集合ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素等の燃料と酸素等の酸化剤との化学反応を利用して、電力を生成する。燃料電池のなかでも、固体高分子形燃料電池は、低温での作動や小型化が可能であるため、携帯用電源、家庭用電源、車載用電源等としての利用が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、アノードである燃料極を構成する電極触媒層と、カソードである空気極を構成する電極触媒層と、これら2つの電極触媒層に挟まれた高分子電解質膜とを有する膜電極接合体を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜電極接合体の製造方式には、枚葉方式あるいはロール・トゥ・ロール方式が利用できる。枚葉方式は、膜電極接合体を、例えば1つずつのように少数に分離された状態で製造する方式である。ロール・トゥ・ロール方式は、ロール状の材料を利用して、複数の膜電極接合体を、これらが連続して並ぶ状態に製造する方式である。
【0006】
枚葉方式は、製造装置の大型化や製造装置にかかるコストを抑えることが可能であり、また、材料の余計な消費を抑えやすいという利点を有する。一方、ロール・トゥ・ロール方式によって製造された複数の膜電極接合体からなるロールは、膜電極接合体の輸送や保管を容易にするという利点を有する。また、複数の膜電極接合体がロール状であれば、膜電極接合体を用いた燃料電池の製造工程において、大量生産が容易に可能である。
【0007】
したがって、枚葉方式とロール・トゥ・ロール方式との双方の利点を有するように、膜電極接合体を製造することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法の各態様を記載する。
[態様1]複数の層状体を備える帯状体が巻かれたロールであって、前記層状体は、高分子電解質膜、および、前記高分子電解質膜が有する面に接する電極触媒層を備え、前記帯状体において、前記複数の層状体は1つの方向に沿って並んでいる、膜電極接合体の集合ロール。
【0009】
上記構成によれば、個々に製造した層状体から集合ロールを形成することができる。したがって、層状体の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストを抑えることが可能であり、また、材料の余計な消費の抑制や精密な製造による膜電極接合体の品質の向上も可能である。一方で、複数の層状体がロール状に巻かれていることから、膜電極接合体の輸送や保管が容易である。そして、膜電極接合体を用いた燃料電池の組立工程では、分割した膜電極接合体を用いた枚葉方式の利用による生産と、ロール・トゥ・ロール方式を利用した効率の高い生産とのいずれにも対応可能である。このように、枚葉方式とロール・トゥ・ロール方式との双方の利点が得られる。
【0010】
[態様2]前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、前記帯状体にて隣り合う前記層状体の前記ガスケット部同士が融着されている、[態様1]に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【0011】
上記構成によれば、隣り合う層状体同士がテープで固定される場合等と比べて、層状体の境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロールに皺等の変形が生じることが抑えられる。また、上記突出部分が、集合ロールにて重ねられた他の層状体の電極触媒層に接触して傷等の変形を生じさせることも抑えられる。
【0012】
[態様3]前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、前記帯状体は、隣り合う前記層状体の前記ガスケット部の間に、これらのガスケット部の各々に接合した接合部であって、樹脂を含む前記接合部を有する、[態様1]に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【0013】
上記構成によれば、隣り合う層状体同士がテープで固定される場合等と比べて、層状体の境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロールに皺等の変形が生じることが抑えられる。また、上記突出部分が、集合ロールにて重ねられた他の層状体の電極触媒層に接触して傷等の変形を生じさせることも抑えられる。
【0014】
[態様4]前記帯状体は、1つの方向に沿って並ぶ複数の開口部を有した支持部材を備え、各開口部内に前記層状体が1つずつ位置する、[態様1]に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【0015】
上記構成によれば、層状体同士を繋ぐ場合と比較して、層状体の位置決めに要する負担の軽減が可能である。また、帯状体の剛性が得られやすいため、帯状体の巻き取りも容易となる。
【0016】
[態様5]前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、前記支持部材における前記開口部の内周縁と前記層状体の前記ガスケット部とが融着されている、[態様4]に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【0017】
上記構成によれば、支持部材と層状体との境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロールに皺等の変形が生じることが抑えられる。また、上記突出部分が、集合ロールにて重ねられた他の層状体の電極触媒層に接触して傷等の変形を生じさせることも抑えられる。
【0018】
[態様6]前記層状体は、前記電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を覆う枠状のガスケット部を備え、前記帯状体は、前記支持部材における前記開口部の内周縁と前記層状体の前記ガスケット部との間に、これらの内周縁およびガスケット部の各々に接合した接合部であって、樹脂を含む前記接合部を有する、[態様4]に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【0019】
上記構成によれば、支持部材と層状体との境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロールに皺等の変形が生じることが抑えられる。また、上記突出部分が、集合ロールにて重ねられた他の層状体の電極触媒層に接触して傷等の変形を生じさせることも抑えられる。
【0020】
[態様7]前記帯状体は、前記層状体における前記電極触媒層が配置されていない領域にて前記層状体に接合された固定部であって、前記複数の層状体上を前記帯状体の長さ方向に沿って延びる前記固定部を備え、前記固定部によって前記複数の層状体が繋がれている、[態様1]に記載の膜電極接合体の集合ロール。
【0021】
上記構成によれば、帯状体に、長さ方向に沿って高さの変化する段差が形成されることが抑えられるため、帯状体の巻き取りの際に集合ロールに皺等が生じることが抑えられる。また、幅方向の端部に固定部が配置されるため、固定部が突出しても、この突出部分が集合ロールにて重ねられた層状体の電極触媒層と接することが抑えられる。そのため、電極触媒層に傷等の変形が生じることが抑えられる。
【0022】
[態様8][態様1]~[態様7]のいずれか一項に記載の集合ロールから分割された前記層状体を備える、膜電極接合体。
上記構成によれば、層状体の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストを抑えることが可能であり、また、材料の余計な消費を抑えることもできるとともに、膜電極接合体の輸送や保管が容易である。
【0023】
[態様9]高分子電解質膜、および、前記高分子電解質膜が有する面に接する電極触媒層を各々が有する複数の層状体を、1つの方向に沿って並べ、これらの層状体を備える帯状体を形成することと、前記帯状体をロール状に巻き取ることと、を含む膜電極接合体の集合ロールの製造方法。
【0024】
上記製法によれば、個々に製造した層状体から集合ロールを形成することができる。したがって、層状体の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストを抑えることが可能であり、また、材料の余計な消費を抑えることもできる。一方で、複数の層状体がロール状に巻かれていることから、膜電極接合体の輸送や保管が容易である。このように、枚葉方式とロール・トゥ・ロール方式との双方の利点が得られる。
【0025】
[態様10]前記帯状体を形成することは、前記層状体を吸着装置によって吸着保持した状態で、2以上の前記層状体を並べ、これらの層状体を繋ぐことを含む、[態様9]に記載の膜電極接合体の集合ロールの製造方法。
上記方法によれば、層状体を繋ぐときに、層状体に皺等の変形が生じることを抑えることができる。
【0026】
[態様11]前記帯状体を形成することは、前記層状体を微粘着シート上に配置した状態で、2以上の前記層状体を並べ、これらの層状体を繋ぐことを含む、[態様9]に記載の膜電極接合体の集合ロールの製造方法。
【0027】
上記方法によれば、層状体を繋ぐときや帯状体を巻き取るときに、層状体に皺等の変形が生じることを抑えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、枚葉方式での製造とロール・トゥ・ロール方式での製造との双方の利点を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態の膜電極接合体の集合ロールの斜視構造を示す図。
【
図2】第1実施形態の膜電極接合体の集合ロールの断面構造を示す図。
【
図3】第1実施形態の膜電極接合体の断面構造を示す図。
【
図4】第1実施形態の固体高分子形燃料電池の斜視構造を分解して示す図。
【
図5】第1実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造装置を示す図。
【
図6】第1実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造装置を示す図。
【
図7】第2実施形態の膜電極接合体の集合ロールの斜視構造を示す図。
【
図8】第2実施形態の膜電極接合体の集合ロールの断面構造を示す図。
【
図9】第2実施形態の膜電極接合体の断面構造を示す図。
【
図10】第3実施形態の膜電極接合体の集合ロールの斜視構造を示す図。
【
図11】第3実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造工程を示す図。
【
図12】第3実施形態の変形例の膜電極接合体の集合ロールの斜視構造を示す図。
【
図13】第4実施形態の膜電極接合体の集合ロールの斜視構造を示す図。
【
図14】第4実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造装置を示す図。
【
図15】第4実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造装置が含む吸着装置を示す図。
【
図16】第4実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造装置が含む吸着装置および搬送装置を示す図。
【
図17】第5実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造工程を示す図。
【
図18】第5実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造工程を示す図。
【
図19】第5実施形態の膜電極接合体の集合ロールの製造工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施形態)
図1~
図6を参照して、膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法の第1実施形態を説明する。
【0031】
[集合ロール]
図1に示すように、膜電極接合体の集合ロール100は、複数の膜電極接合体に分割可能な帯状体がロール状に巻かれた構造を有する。膜電極接合体に対応する部分が層状体10である。
【0032】
複数の層状体10は、集合ロール100の長さ方向、言い換えれば、集合ロール100の巻き取り方向に沿って並んでいる。互いに隣り合う層状体10同士は、隙間なく接合されている。
【0033】
図1および
図2に示すように、層状体10は、高分子電解質膜11、一対の電極触媒層12A,12C、および、一対のガスケット部13A,13Cを備えている。
高分子電解質膜11は、厚さ方向において、電極触媒層12Aと電極触媒層12Cとの間に挟まれている。電極触媒層12Aは、高分子電解質膜11が有する2つの面の一方に接し、電極触媒層12Cは、高分子電解質膜11が有する2つの面の他方に接している。電極触媒層12Aは、固体高分子形燃料電池のアノードである燃料極を構成する。電極触媒層12Cは、固体高分子形燃料電池のカソードである空気極を構成する。
【0034】
高分子電解質膜11の厚さ方向に沿った方向から見たとき、層状体10は矩形形状を有する。電極触媒層12Aと電極触媒層12Cとの外形は同一であり、これらの電極触媒層12A,12Cの外形よりも、高分子電解質膜11の外形は大きい。すなわち、上記厚さ方向に沿った方向から見たとき、高分子電解質膜11は、電極触媒層12A,12Cからはみ出している部分である環状の外周部11eを有する。なお、高分子電解質膜11および電極触媒層12A,12Cの外形の形状は特に限定されず、例えば、矩形であればよい。
【0035】
上記厚さ方向に沿った方向から見て、ガスケット部13Aは、電極触媒層12Aを囲む枠状を有し、ガスケット部13Aが有する開口内に電極触媒層12Aが位置する。電極触媒層12Aの端面は、ガスケット部13Aにおける開口の内周面に接している。また、ガスケット部13Cは、電極触媒層12Cを囲む枠状を有し、ガスケット部13Cが有する開口内に電極触媒層12Cが位置する。電極触媒層12Cの端面は、ガスケット部13Cにおける開口の内周面に接している。そして、高分子電解質膜11の外周部11eが、厚さ方向において、ガスケット部13Aとガスケット部13Cとの間に挟まれている。言い換えれば、ガスケット部13Aは、電極触媒層12Aの外側で外周部11eを覆い、ガスケット部13Cは、電極触媒層12Cの外側で外周部11eを覆っている。
【0036】
図面においては、ガスケット部13Aが、ガスケット基材14Aと粘着層15Aとを備え、ガスケット部13Cが、ガスケット基材14Cと粘着層15Cとを備え、粘着層15A,15Cが外周部11eに接している例を示している。これに限らず、ガスケット部13A,13Cは、単層構造を有していてもよいし、三層以上の積層構造を有していてもよい。ガスケット部13A,13Cが設けられていることにより、層状体10の剛性が高められるため、複数の層状体10が連なった帯状体をロール状に巻き取ることが容易になる。
【0037】
隣り合う層状体10の端部同士は、厚さ方向に重なりを有しておらず、当該端部に位置するガスケット部13A,13C同士は、融着により接合されている。融着されている部分は、ガスケット部13A,13Cの他の部分よりも薄くてもよい。
【0038】
外周部11eは、隣り合う層状体10の境界までは延びていないことが好ましい。すなわち、層状体10は、ガスケット部13A,13Cのみからなる部分を集合ロール100の長さ方向の端部に有し、隣り合う層状体10において、このガスケット部13A,13Cのみからなる端部同士が接合されていることが好ましい。この場合、隣り合う層状体10において、高分子電解質膜11同士は離れており、また、電極触媒層12A,12C同士も離れている。ガスケット部13A,13Cのみからなる部分は、すなわち、ガスケット部13Aとガスケット部13Cとが直接に貼り合わされた部分である。
【0039】
高分子電解質膜11のなかでガスケット部13A,13Cに挟まれている外周部11eは、発電には寄与しない部分である。外周部11eが層状体10の端部まで延びていない形態であれば、高分子電解質膜11が層状体10の全体に位置する形態と比べて、層状体10の形成に要する高分子電解質膜11の材料の削減が可能である。
【0040】
集合ロール100は、枚葉方式を用いて複数の層状体10を製造し、これらの層状体10を繋げることによって形成することができる。それゆえ、層状体10の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストを抑えることが可能であり、また、高分子電解質膜11や電極触媒層12A,12Cが帯状に連続して形成される場合と比較して、材料の余計な消費を抑えることもできる。
【0041】
一方で、複数の層状体10がロール状に巻かれていることから、膜電極接合体の輸送や保管が容易である。本実施形態では、隣り合う層状体10同士が融着により接合されているため、隣り合う層状体10の境界部分にテープが貼られて当該テープにより層状体10同士が固定される場合と比較して、層状体10の境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロール100に皺等の変形が生じることが抑えられる。また、上記突出部分が、集合ロール100にて重ねられた他の層状体10の電極触媒層12A,12Cに接触して傷等の変形を生じさせることも抑えられる。また、電極触媒層12A,12Cは、厚さ方向においてガスケット部13A,13Cから突出していないため、これによっても、集合ロール100における層状体10の重ね合わせに際して電極触媒層12A,12Cに変形が生じることが抑えられる。
【0042】
集合ロール100を、隣り合う層状体10の境界部分で分断することにより、集合ロール100が個々の膜電極接合体に分かれる。分断には、例えば、カッター等の刃物や、レーザーが用いられる。
【0043】
[膜電極接合体]
図3は、上述した集合ロール100の分割によって形成された膜電極接合体20を示す。膜電極接合体20は、層状体10を含み、層状体10の端部に、集合ロール100の分断によって形成された面である端面20Sを有している。すなわち、端面20Sは、集合ロール100の長さ方向に対応する方向での膜電極接合体20の端部に位置し、ガスケット部13A,13Cの端部が含む面である。
【0044】
膜電極接合体20が、集合ロール100の長さ方向において両隣に位置する層状体10から切り離されることによって形成されているとき、膜電極接合体20は、集合ロール100の長さ方向に対応する方向での両端の各々に、端面20Sを有する。
【0045】
端面20Sは、ガスケット部13A,13Cが融けた跡である融着痕を有する。また、集合ロール100がカッター等の刃物によって切断されたとき、端面20Sは平面である。あるいは、集合ロール100がレーザーによって切断されたとき、端面20Sは、レーザーの熱による変形や変質を含む面である。予めガスケット部13A,13Cをそれぞれ切断した後に貼り合わせた場合、膜電極接合体の端面には、部材同士の微細なずれである段差、すなわち、不連続な部分が形成される。これに対し、本実施形態の膜電極接合体20が有する端面20Sは、上記不連続な部分を含まない、1つの連続した面である。
【0046】
[集合ロールおよび膜電極接合体の材料]
以下、集合ロール100および膜電極接合体20が備える部材の材料について説明する。
【0047】
高分子電解質膜11は高分子電解質を含む。高分子電解質膜11に用いられる高分子電解質は、プロトン伝導性を有する高分子電解質であればよく、例えば、フッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質であればよい。フッ素系高分子電解質は、例えば、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質であり、当該高分子電解質の一例は、Nafion(登録商標:デュポン社製)である。炭化水素系高分子電解質の一例は、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等である。
【0048】
電極触媒層12A,12Cは、触媒物質と、導電性担体と、高分子電解質の凝集体とを含む。さらに、電極触媒層12A,12Cは、繊維状物質を含んでいてもよい。なお、2つの電極触媒層12Aおよび電極触媒層12Cの組成は互いに一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0049】
触媒物質は、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素や、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属や、これらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物等である。特に、触媒物質は、白金または白金合金であることが好ましい。
【0050】
導電性担体は、導電性を有し、触媒に侵されない担体であればよい。導電性担体は、触媒物質を担持している。導電性担体は、例えば、炭素粒子である。炭素粒子として用いられる炭素材料は、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等からなる粉末状の炭素材料である。炭素粒子の平均一次粒径は、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましい。炭素粒子の平均一次粒径が上記下限値以上であれば、電極触媒層12A,12C中において炭素粒子が密に詰まりすぎないため、電極触媒層12A,12Cのガス拡散性の低下を抑えることができる。炭素粒子の平均一次粒径が上記上限値以下であれば、電極触媒層12A,12Cにおけるクラックの発生が抑えられる。
【0051】
高分子電解質の凝集体は、アイオノマーである高分子電解質が凝集力によって凝集した塊である。凝集力は、アイオノマー間に働くクーロン力やファンデルワールス力を含む。
凝集体を構成する高分子電解質は、プロトン伝導性を有する高分子電解質であればよく、上記にて高分子電解質膜11の材料として例示した各種の電解質を用いることができる。高分子電解質膜11と凝集体との各々に用いられる高分子電解質は、互いに一致していてもよいし、異なっていてもよい。高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとの界面における抵抗の低減や、湿度変化による高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとでの寸法変化率の差の低減のためには、高分子電解質膜11と凝集体との各々に用いられる高分子電解質は、互いに同じ電解質であるか、類似の電解質であることが好ましい。
【0052】
繊維状物質は、電子伝導性繊維またはプロトン伝導性繊維である。電子伝導性繊維は、例えば、炭素を構成元素とする繊維状の構造体である。電子伝導性繊維として用いられる材料は、例えば、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等である。なかでも、導電性や分散性が良好である観点から、カーボンナノファイバーを用いることが好ましい。
【0053】
電子伝導性繊維は触媒能を有していてもよい。電子伝導性繊維が触媒能を有していると、貴金属からなる触媒物質の使用量を低減できるため好ましい。空気極を構成する電極触媒層12Cに含有させる触媒能を有する電子伝導性繊維としては、例えば、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒を挙げることができる。また、触媒能を有する電子伝導性繊維は、燃料極用の電極活物質から形成される繊維であってもよい。電極活物質には、Ta、Nb、Ti、および、Zrから構成される群から選択される少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を用いることができる。遷移金属元素を含む物質は、例えば、遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、遷移金属元素の導電性酸化物、遷移金属元素の導電性酸窒化物である。
【0054】
プロトン伝導性繊維は、プロトン伝導性を有する高分子電解質を繊維状に加工した繊維である。プロトン伝導性繊維を構成する高分子電解質は、例えば、フッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質であればよい。フッ素系高分子電解質の一例は、Nafion(登録商標:デュポン社製)、Flemion(登録商標:旭硝子社製)、Aciplex(登録商標:旭化成社製)、Gore Select(登録商標:ゴア社製)である。炭化水素系高分子電解質の一例は、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリイミド、酸ドープ型ポリベンゾアゾール類等である。
【0055】
プロトン伝導性繊維を構成する高分子電解質は、高分子電解質膜11や上記凝集体を構成する高分子電解質と一致していてもよいし、異なっていてもよい。高分子電解質膜11、凝集体、および、プロトン伝導性繊維を構成する高分子電解質が、互いに同じ電解質であるか、類似の電解質であると、高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとの界面における抵抗の低減や、湿度変化による高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとでの寸法変化率の差の低減が可能である。
【0056】
電極触媒層12A,12Cが含む繊維状物質は、電子伝導性繊維のみであってもよいし、プロトン伝導性繊維のみであってもよい。あるいは、電極触媒層12A,12Cが含む繊維状物質には、電子伝導性繊維とプロトン伝導性繊維との双方が含まれてもよい。電極触媒層12A,12Cは、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、および、プロトン伝導性繊維の少なくとも1つを含むことが好ましい。ただし、電極触媒層12A,12Cは繊維状物質を含んでいなくてもよい。
【0057】
繊維状物質の繊維径は、0.5nm以上500nm以下であることが好ましく、5nm以上200nm以下であることがより好ましい。繊維径が上記範囲内であれば、電極触媒層12A,12C内に空隙が的確に形成されるため、燃料電池の出力の向上が可能である。
【0058】
繊維状物質の繊維長は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがより好ましい。繊維長が上記範囲内であれば、電極触媒層12A,12Cの強度が的確に高められるため、電極触媒層12A,12Cの形成時にクラックが生じることを抑制できる。また、電極触媒層12A,12C内に空隙が的確に形成されるため、燃料電池の出力の向上が可能である。
【0059】
ガスケット部13A,13Cの材料について、ガスケット部13A,13Cがガスケット基材14A,14Cを備える場合、ガスケット基材14A,14Cは、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、あるいは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド等からなるフィルムである。
【0060】
また、ガスケット部13A,13Cが粘着層15A,15Cを備える場合、粘着層15A,15Cの材料は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等である。
【0061】
[固体高分子形燃料電池]
図4を参照して、上述の膜電極接合体20を備える固体高分子形燃料電池40について説明する。
【0062】
図4に示すように、固体高分子形燃料電池40は、膜電極接合体20と、一対のセパレータ41A,41Cと、一対のガス拡散層44A,44Cとを備えている。膜電極接合体20は、ガス拡散層44Aとガス拡散層44Cとの間に挟まれており、ガス拡散層44Aは電極触媒層12Aに接し、ガス拡散層44Cは電極触媒層12Cに接している。ガス拡散層44A,44Cは、導電性を有するとともに、電極触媒層12A,12Cに供給されるガスを拡散させる機能を有する。ガス拡散層44A,44Cとしては、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパー等が用いられる。
【0063】
膜電極接合体20とガス拡散層44A,44Cとの積層体は、セパレータ41Aとセパレータ41Cとの間に挟持されている。セパレータ41A,41Cは、導電性で、かつ、ガス不透過性の材料から形成されている。セパレータ41Aにて、ガス拡散層44Aと向かい合う面には、ガス流路42Aが形成され、ガス拡散層44Aとは反対側の面には、冷却水流路43Aが形成されている。同様に、セパレータ41Cにて、ガス拡散層44Cと向かい合う面には、ガス流路42Cが形成され、ガス拡散層44Cとは反対側の面には、冷却水流路43Cが形成されている。
【0064】
上記構成では、電極触媒層12Aとガス拡散層44Aとから、アノードである燃料極が構成され、電極触媒層12Cとガス拡散層44Cとから、カソードである空気極が構成される。
【0065】
固体高分子形燃料電池40の使用時には、燃料極側のセパレータ41Aのガス流路42Aに水素等の燃料ガスが流され、空気極側のセパレータ41Cのガス流路42Cに空気や酸素等の酸化剤ガスが流される。また、各セパレータ41A,41Cの冷却水流路43A,43Cには、冷却水が流される。そして、ガス流路42Aから燃料極に燃料ガスが供給され、ガス流路42Cから空気極に酸化剤ガスが供給される。これにより、燃料極では下記(式1)に示す反応が生じ、空気極では下記(式2)に示す反応が生じ、燃料極と空気極との間に起電力が生じる。なお、燃料極には、メタノール等の有機物燃料が供給されてもよい。
H2 → 2H+ + 2e- ・・・(式1)
1/2O2+2H++ 2e-→H2O ・・・(式2)
【0066】
なお、固体高分子形燃料電池40は、
図4に示した単セルの状態で用いられてもよいし、複数の単セルが積層されて直列接続されることにより1つの固体高分子形燃料電池として用いられてもよい。
【0067】
[集合ロールの製造方法]
上述した集合ロール100の製造方法を説明する。まず、層状体10の製造方法を説明する。
【0068】
電極触媒層12A,12Cは、電極触媒層12A,12Cの材料を分散させた触媒層用スラリーを基材に塗布して塗膜を形成し、塗膜を乾燥することによって形成される。触媒層用スラリーの分散媒には、電極触媒層12A,12Cの材料を浸食せず、かつ、分散媒の流動性が高い状態で、高分子電解質を溶解することが可能である、または、高分子電解質を微細なゲルとして分散することが可能である液体が用いられればよい。
【0069】
触媒層用スラリーを塗布する基材には、電極触媒層12A,12Cの形成後に剥離される転写用基材、または、高分子電解質膜11を用いることができる。触媒層用スラリーを基材に塗布する方法は、特に限定されない。触媒層用スラリーの塗布方法は、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、スキージーを用いた塗布方法等である。
【0070】
触媒層用スラリーを塗布する基材に転写用基材を用いる場合、塗膜の形成と乾燥によって、電極触媒層が積層された転写用基材を得る。そして、熱圧着等を利用して、転写用基材上の電極触媒層を高分子電解質膜11に接合させた後、転写用基材を電極触媒層から剥離する。高分子電解質膜11の両面に電極触媒層を接合することによって、高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとの積層体が得られる。転写用基材には、例えば、フッ素系樹脂によって形成されたフィルム等の各種の樹脂フィルムを用いることができる。
【0071】
高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとの接合の後、もしくは前に、高分子電解質膜11に対してガスケット部13A,13Cを配置することにより、層状体10が得られる。
【0072】
触媒層用スラリーを塗布する基材に高分子電解質膜11を用いる場合、塗膜の形成と乾燥によって、高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとの積層体を得る。この際、当該積層体の形成後に高分子電解質膜11に対してガスケット部13A,13Cを配置してもよいし、触媒層用スラリーの塗布前に高分子電解質膜11に対してガスケット部13A,13Cを配置し、ガスケット部13A,13Cをマスクとして用いて、ガスケット部13A,13Cの開口内に電極触媒層12A,12Cを形成してもよい。これにより、層状体10が得られる。
【0073】
続いて、複数の層状体10を繋げて集合ロール100を製造する方法を説明する。
図5に示すように、集合ロール100の製造装置200は、接合台70と、接合処理部71とを備えている。
【0074】
接合台70上に接合対象の2つの層状体10が配置される。2つの層状体10は、集合ロール100の幅方向となる方向において2つの層状体10の端部にずれが生じず、かつ、端面同士が接するように、並べられる。例えば、接合台70に設けられた位置決めのためのマーク等を基準として層状体10が配置されることにより、2つの層状体10の位置合わせが実施されればよい。接合台70における層状体10が配置される面は耐熱性を有している。
【0075】
層状体10は、接合台70上に固定されることが好ましい。層状体10の固定方法としては、例えば、真空吸引法、ベルヌーイ吸着法、ピンチング、微粘着剤を利用する方法、静電気を利用する方法、圧縮空気を利用する方法等を用いることができる。層状体10の材料の特性等に応じて固定方法が選択されればよい。
【0076】
なお、
図5には、1台の接合台70上に接合対象の2つの層状体10が配置される例を示したが、2台の接合台70が用いられ、1つの接合台70上に1つの層状体10が配置されて、接合台70同士の位置合わせによって、2つの層状体10が隙間なく並べられてもよい。
【0077】
接合台70上の層状体10に対し、接合処理部71による接合処理が行われることによって、2つの層状体10の端部同士が融着される。例えば、接合処理部71は、レーザー光の照射装置や加熱板によるプレス機構を備える。接合処理部71は、接合処理として、2つの層状体10が接している部分の付近に、ガスケット部13A,13Cの材料の融点よりも高い温度の熱を与えることで、層状体10の端部におけるガスケット部13A,13Cを溶融させて、2つの層状体10の端部同士を接合する。
【0078】
集合ロール100の製造装置200は、冷却機構を備え、接合処理後の2つの層状体10の境界部分が、冷却機構によって冷却されてもよい。冷却機構は、例えば、冷風の発生機構や、冷却板を含む。
【0079】
以上のように、2つの層状体10の端部同士が融着されることが繰り返されることにより、集合ロール100が製造される。層状体10の接合は、集合ロール100にて層状体10が並ぶ順に実施されてもよいし、少数の層状体10が接合された層状体10の集合体が複数作製された後、これらの集合体同士が接合されることによって、集合ロール100が製造されてもよい。また、1つの接合台70上に3以上の層状体10が配置されて、層状体10の接合がまとめて行われてもよい。
【0080】
なお、接合台70にて層状体10が配置される面は、平面に限らず、曲面であってもよい。例えば、
図6に示す接合台72のように、接合台は、回転可能な円柱状を有していてもよい。接合台の形状は、層状体10の材料の特性や、製造工程への接合台の組み込みの態様等を考慮して選択されればよい。
【0081】
以上、第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1-1)膜電極接合体の集合ロール100が、複数の層状体10を並べた帯状体から構成されている。そのため、個々に製造した層状体10から集合ロール100を形成することができる。したがって、層状体10の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストを抑えることが可能であり、また、材料の余計な消費の抑制や精密な製造による膜電極接合体の品質の向上も可能である。一方で、複数の層状体10がロール状に巻かれていることから、膜電極接合体の輸送や保管が容易である。そして、膜電極接合体を用いた燃料電池の組立工程では、分割した膜電極接合体を用いた枚葉方式の利用による生産と、ロール・トゥ・ロール方式を利用した効率の高い生産とのいずれにも対応可能である。このように、枚葉方式とロール・トゥ・ロール方式との双方の利点が得られる。
【0082】
(1-2)帯状体にて隣り合う層状体10同士が融着されている。したがって、隣り合う層状体10同士がテープで固定される場合等と比べて、層状体10の境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロール100に皺等の変形が生じることが抑えられる。また、上記突出部分が、集合ロール100にて重ねられた他の層状体10の電極触媒層12A,12Cに接触して傷等の変形を生じさせることも抑えられる。これにより、電極触媒層12A,12Cの変形による膜電極接合体の性能の低下が抑えられる。
【0083】
(1-3)層状体10を保持可能な接合台70上で、帯状体を構成する層状体10の位置合わせおよび接合が行われる。これにより、帯状体の形成時に層状体10に皺等の変形が生じることが抑えられ、また、層状体10同士の繋ぎ合わせを円滑に進めることができる。
【0084】
(第2実施形態)
図7~
図9を参照して、膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法の第2実施形態を説明する。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0085】
図7に示すように、第2実施形態の膜電極接合体の集合ロール110においては、互いに隣り合う層状体10が、接合部30を介して繋がっている。詳細には、互いに隣り合う2つの層状体10の間に、幅方向に延びる帯状の接合部30が位置し、接合部30は、これら2つの層状体10の各々に接合している。
【0086】
接合部30の材料は、層状体10に接合可能な樹脂であればよく、例えば、接着性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化樹脂等である。光硬化樹脂は、紫外線硬化樹脂および電子線硬化樹脂を含む。接合部30の材料の具体例は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等である。接合部30の材料は、ガスケット部13A,13Cと同種の樹脂であってもよい。
【0087】
図8に示すように、接合部30は、層状体10の表面や裏面には広がっておらず、隣り合う層状体10の間のみに位置する。したがって、隣り合う層状体10の境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロール110に皺等が生じることや、上記突出部分との当接によって他の層状体10の電極触媒層12A,12Cに変形が生じることが抑えられる。なお、接合部30は、層状体10におけるガスケット部13A,13Cが位置する端部よりも薄くてもよい。
【0088】
集合ロール110の長さ方向に沿った接合部30の幅W1は、0.5mm以上3.0mm以下であることが好ましい。幅W1が0.5mm以上であれば、隣り合う層状体10の間の隙間に接合部30の材料を注入する際に、隙間から接合部30の材料が溢れることを抑えやすい。幅W1が3.0mm以下であれば、接合部30の材料の消費量が抑えられ、また、接合部30にかかる応力が大きくなって接合部30に変形が生じることを抑えることもできる。
【0089】
第2実施形態においても、枚葉方式を用いて複数の層状体10を製造し、これらの層状体10を繋げることによって集合ロール110を形成することができる。それゆえ、層状体10の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストの抑制、および、材料の余計な消費が可能であるとともに、膜電極接合体の輸送や保管が容易となる。
【0090】
第2実施形態において、集合ロール110は、第1実施形態と同様の接合台70を用いて製造することができる。具体的には、接合台70上に、接合対象の2つの層状体10を、集合ロール110の長さ方向に対応する方向に沿って隙間をあけて並べる。そして、接合処理部71が、接合処理として、上記隙間に接合部30の材料を注入する。接合処理部71は、ノズル等を含む。接合部30の材料の特性に応じて、接合処理としてさらに、光の照射や冷却が行われることにより、接合部30が形成される。接合部30の形成に際しては、フレーム処理や超音波溶着が用いられてもよい。
【0091】
図9は、第2実施形態の集合ロール110の分割によって形成された膜電極接合体21を示す。膜電極接合体21は、層状体10を含む。接合部30にて集合ロール110が分断された場合、膜電極接合体21は、集合ロール110の長さ方向に対応する方向での端部に、接合片31を有する。接合片31は、分断された接合部30であって、層状体10の端面、すなわち、ガスケット部13A,13Cの端面を覆っている。
【0092】
膜電極接合体21が、集合ロール100の長さ方向において両隣に位置する層状体10から切り離されることによって形成されているとき、膜電極接合体20は、集合ロール100の長さ方向に対応する方向での両端部の各々に、接合片31を有する。
【0093】
膜電極接合体21の端面21Sは、集合ロール110の分断によって形成された面であり、接合片31が有する面である。集合ロール110がカッター等の刃物によって切断されたとき、端面21Sは平面である。また、集合ロール110がレーザーによって切断されたとき、端面21Sは、レーザーの熱による変形や変質を含む面である。
【0094】
なお、集合ロール110から膜電極接合体21を分割する際に、長さ方向の少なくとも一方において、層状体10と接合部30との境界が切断されてもよい。この場合、膜電極接合体21は、少なくとも一方の接合片31を有していない。
【0095】
以上、第2実施形態によれば、第1実施形態の(1-1),(1-3)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(2-1)帯状体にて隣り合う層状体10同士が接合部30を介して繋がっている。したがって、隣り合う層状体10同士がテープで固定される場合等と比べて、層状体10の境界部分が盛り上がることが抑えられる。そのため、境界部分の突出に起因して集合ロール110に皺等が生じることや、上記突出部分との当接によって他の層状体10の電極触媒層12A,12Cに変形が生じることが抑えられる。
【0096】
また、層状体10同士を直接に接合する場合と比較して、ガスケット部13A,13Cの材料の自由度が高められ、さらに、層状体10の位置合わせに要する負荷の軽減が可能である。
【0097】
(2-2)接合部30の幅が、0.5mm以上3.0mm以下である。これにより、隣り合う層状体10の間の隙間に接合部30の材料を注入する際に、隙間から接合部30の材料が溢れることを抑えやすく、また、接合部30にかかる応力が大きくなって接合部30に変形が生じることを抑えることができる。
【0098】
(第3実施形態)
図10~
図12を参照して、膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法の第3実施形態を説明する。以下では、第3実施形態と第1,2実施形態との相違点を中心に説明し、第1,2実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0099】
図10に示すように、第3実施形態の膜電極接合体の集合ロール120は、支持部材50と、複数の層状体10とを備える。支持部材50は、集合ロール120の長さ方向に延びる帯状を有し、当該長さ方向に並ぶ複数の開口部51を有している。平面視における開口部51の形状は、層状体10の外形と一致しており、各開口部51に1つずつ層状体10が嵌められている。開口部51は、支持部材50を貫通していてもよいし、底を有していてもよい。
【0100】
層状体10は、開口部51内を隙間なく埋めている。すなわち、開口部51の内周縁と層状体10とは接しており、当該内周縁と層状体10の外縁に位置するガスケット部13A,13Cとは融着によって接合されている。
【0101】
支持部材50の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等の樹脂である。支持部材50は、単層構造を有していてもよいし、複数の層の積層構造を有していてもよい。支持部材50の厚さは、層状体10の厚さと同程度であるか、層状体10の厚さよりもやや大きければよい。
【0102】
第3実施形態においても、枚葉方式を用いて複数の層状体10を製造し、これらの層状体10を支持部材50に組み付けることによって集合ロール120を形成することができる。それゆえ、層状体10の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストの抑制、および、材料の余計な消費が可能であるとともに、膜電極接合体の輸送や保管が容易となる。
【0103】
また、支持部材50と層状体10との境界部分が盛り上がることが抑えられるため、境界部分の突出に起因して集合ロール120に皺等が生じることや、上記突出部分との当接によって他の層状体10の電極触媒層12A,12Cに変形が生じることが抑えられる。
【0104】
第3実施形態では、集合ロール120から層状体10を切り出すことによって、膜電極接合体が得られる。第3実施形態の膜電極接合体は、第1実施形態の膜電極接合体20において端面20Sが膜電極接合体20の全周に位置する形態に相当する。なお、層状体10の周囲に支持部材50の一部が残された状態に層状体10を切り出し、この支持部材50の一部を燃料電池の部材として用いてもよい。すなわち、第3実施形態の膜電極接合体は、支持部材50の一部を含んでいてもよい。
【0105】
第3実施形態の集合ロール120は、支持部材50と層状体10とを仮固定して、支持部材50と層状体10とを接合することによって製造される。仮固定の方法は限定されないが、例えば、微粘着シートを用いることができる。微粘着シートを用いた集合ロール120の製造方法を、
図11を参照して説明する。この場合、開口部51は支持部材50を貫通している。
【0106】
図11に示すように、微粘着シート55上に支持部材50が配置され、支持部材50の開口部51に層状体10が配置される。これにより、開口部51内で層状体10が微粘着シート55に貼り付き、支持部材50に対する層状体10の位置が仮固定される。微粘着シート55の幅は、層状体10の幅と同程度以上であればよい。
【0107】
微粘着シート55は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等からなる樹脂フィルム上に粘着層が積層された構成を有する。層状体10のガスケット部13A,13Cに対する微粘着シート55の粘着力は、0.02N/25mm以上25N/25mm以下であることが好ましい。上記粘着力は、ガスケット部13A,13Cの材料や集合ロール120の製造工程にて層状体10にかかる力の大きさ等に応じて選択されればよい。
【0108】
微粘着シート55は、支持部材50と、層状体10の少なくともガスケット部13A,13Cのうちの層状体の10の裏面に位置する部分に接していればよく、電極触媒層12A,12Cには接していなくてもよい。
【0109】
支持部材50と層状体10とが仮固定された状態で、開口部51の内周縁と層状体10の外縁とが融着される。融着には、第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
なお、微粘着シート55も、集合ロール120の構成部材の1つとされてもよい。すなわち、微粘着シート55が貼り付けられた状態で、支持部材50および層状体10を含む帯状体が巻き取られて集合ロール120を構成してもよい。
【0110】
[変形例]
図12は、第3実施形態の変形例の膜電極接合体の集合ロール130を示す。集合ロール130においては、支持部材50と層状体10とが、接合部32を介して接合されている。詳細には、開口部51の内周縁と層状体10の外縁との間に、接合部32が位置し、接合部32は、開口部51の内周縁と層状体10の外縁に位置するガスケット部13A,13Cとの各々に接合している。
【0111】
接合部32は、開口部51の内周縁に沿って層状体10を囲む環状を有している。接合部32の材料には、第2実施形態の接合部30と同様の材料が用いられればよい。また、接合部32の幅は、第2実施形態の接合部30と同様に、0.5mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0112】
接合部32の位置で集合ロール130から層状体10を切り出すことによって得られる膜電極接合体は、第2実施形態の膜電極接合体21において端面21Sが膜電極接合体21の全周に位置する形態に相当する。
【0113】
集合ロール130は、開口部51の内周縁との間に隙間をあけて層状体10が開口部51内に配置された状態で、支持部材50に対する層状体10の位置が仮固定され、上記隙間に接合部32が形成されることにより製造される。接合部32は、第2実施形態と同様の接合処理によって形成することができる。
【0114】
なお、融着や接合部32による接合に代えて、支持部材50が、2枚の微粘着シートの貼り合わせにより形成され、開口部51の縁に沿って層状体10の端部が2枚の微粘着シートの間に挟み込まれることによって、支持部材50に層状体10が組み付けられてもよい。微粘着シートは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等からなる樹脂フィルム上に粘着層が積層された構成を有する。この場合、層状体10から微粘着シートが剥がされることによって、層状体10である膜電極接合体が得られる。層状体10のガスケット部13A,13Cに対する微粘着シートの粘着力は、0.02N/25mm以上25N/25mm以下であることが好ましく、微粘着シート同士の粘着力は、0.3N/25mm以上75N/25mm以下であることが好ましい。微粘着シート同士の粘着力が0.3N/25mm以上であれば、巻き取りの際に微粘着シート同士が剥がれることが抑えられ、微粘着シート同士の粘着力が75N/25mm以下であれば、巻き取りの際の皺の形成が抑えられる。
【0115】
以上、第3実施形態によれば、第1実施形態の(1-1)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(3-1)支持部材50の開口部51に層状体10が配置されるため、層状体10同士を繋ぐ場合と比較して、層状体10の位置決めに要する負担の軽減が可能である。また、帯状体の剛性が得られやすいため、帯状体の巻き取りも容易となる。
【0116】
(3-2)支持部材50と層状体10とが、融着されている、もしくは、接合部32を介して繋がっている。したがって、支持部材50と層状体10との境界部分が盛り上がることが抑えられるため、境界部分の突出に起因して集合ロール120に皺等が生じることや、上記突出部分との当接によって他の層状体10の電極触媒層12A,12Cに変形が生じることが抑えられる。
【0117】
また、支持部材50と層状体10とが接合部32を介して繋がっている形態では、支持部材50やガスケット部13A,13Cの材料の自由度が高められ、さらに、支持部材50に対する層状体10の位置合わせに要する負荷の軽減が可能である。
【0118】
(3-3)接合部32の幅が、0.5mm以上3.0mm以下である。これにより、支持部材50と層状体10との間の隙間に接合部32の材料を注入する際に、隙間から接合部32の材料が溢れることを抑えやすく、また、接合部32にかかる応力が大きくなって接合部32に変形が生じることを抑えることができる。
【0119】
(3-4)微粘着シート55上に支持部材50および層状体10を配置することにより、支持部材50と層状体10との位置を仮固定した状態で、支持部材50と層状体10とを繋ぐ。これにより、支持部材50と層状体10との位置決めが容易に可能である。
【0120】
(3-5)層状体10のガスケット部13A,13Cに対する微粘着シート55の粘着力が、0.02N/25mm以上25N/25mm以下であれば、支持部材50と層状体10との的確な固定が可能である一方で、帯状体の形成後に支持部材50および層状体10から微粘着シート55を剥がすことが容易である。
【0121】
(第4実施形態)
図13~
図16を参照して、膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法の第4実施形態を説明する。以下では、第4実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0122】
[集合ロール]
図13に示すように、第4実施形態の膜電極接合体の集合ロール140は、長さ方向に沿って並ぶ複数の層状体10と、複数の層状体10を繋ぐための固定部60とを備えている。固定部60は、集合ロール140の長さ方向に沿って、複数の層状体10上に延びている。
【0123】
固定部60は、集合ロール140における幅方向の端部にて、層状体10のガスケット部13A,13Cに接合されている。固定部60は、例えば、粘着テープであってもよいし、ホットメルト接着剤や紫外線硬化型の接着剤から形成されていてもよい。
【0124】
なお、層状体10は、少なくとも高分子電解質膜11および電極触媒層12A,12Cを備えていればよく、固定部60は、電極触媒層12A,12Cが配置されていない領域に接合されればよい。
【0125】
固定部60による複数の層状体10の固定を強めるためには、固定部60は、集合ロール140における幅方向の両端部のそれぞれに配置されていることが好ましい。すなわち、幅方向における層状体10の両端部のそれぞれに固定部60が配置される。また、固定部60は、層状体10の表面と裏面との少なくとも一方に配置されていればよいが、固定を強めるためには、固定部60は、層状体10の表面と裏面との双方に配置されていることが好ましい。なお、層状体10の表面は、高分子電解質膜11に対して電極触媒層12Aおよび電極触媒層12Cのいずれが位置する側の面であってもよい。
【0126】
第4実施形態においても、枚葉方式を用いて複数の層状体10を製造し、これらの層状体10を固定部60で繋ぐことによって集合ロール140を形成することができる。それゆえ、層状体10の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストの抑制、および、材料の余計な消費が可能であるとともに、膜電極接合体の輸送や保管が容易となる。
【0127】
また、隣り合う層状体10を、幅方向に沿って延びる固定部によって繋ぐ形態と比較して、複数の層状体10からなる帯状体に、長さ方向に沿って高さの変化する段差が形成されることが抑えられる。したがって、帯状体の巻き取りの際に集合ロール140に皺等の変形が生じることが抑えられる。また、層状体10の幅方向の端部は、巻き取りにより層状体10が他の層状体10と重ねられた場合でも、電極触媒層12A,12Cと重なることが避けられる部分である。それゆえ、幅方向の端部に固定部60が配置されることにより当該端部が突出しても、この突出部分が電極触媒層12A,12Cと接することが抑えられる。そのため、電極触媒層12A,12Cに傷等の変形が生じることが抑えられる。
【0128】
第4実施形態では、隣り合う層状体10の境界部分で固定部60を切断することによって、膜電極接合体が得られる。第4実施形態の膜電極接合体は、層状体10における集合ロール140の幅方向に対応する方向の端部上に、切断された固定部60である固定片を備えた構造を有する。当該固定片は、集合ロール140の長さ方向に対応する方向に沿って、層状体10の全体に延びる。なお、膜電極接合体として用いる際に、固定片が層状体10から剥がされてもよい。
【0129】
[集合ロールの製造方法]
上述のように、第4実施形態の膜電極接合体の集合ロール140は、複数の層状体10を固定部60で繋ぐことによって製造される。
図14は、集合ロール140の製造装置210の一例を示す。製造装置210は、層状体10を繋いでロール状に巻き取る工程を実施する装置である。
【0130】
製造装置210は、吸着装置80と、固定部形成装置81と、巻き取り装置82とを備える。
吸着装置80は、吸着面を有し、保管庫85から搬送された層状体10を、吸着面に吸着保持する。吸着装置80に吸着保持された状態で、複数の層状体10が一列に並べられる。1つの吸着装置80には、1つの層状体10が保持されてもよいし、複数の層状体10が保持されてもよい。吸着装置80が並べられることにより層状体10が隙間なく並ぶように、1つの吸着装置80に1つの層状体10が保持される形態であれば、層状体10が1つずつ適切に取り扱われるため、電極触媒層12A,12Cの変形等の不具合が抑えられ、複数の層状体10からなる帯状体の円滑な形成が可能である。
【0131】
固定部形成装置81は、並べられた層状体10に対して固定部60を配置することにより、層状体10を繋ぐ。巻き取り装置82は、繋がれた層状体10からなる帯状体を巻き取る。これにより、集合ロール140が形成される。
【0132】
製造装置210は、層状体10の表面を覆う保護シート65を供給する保護シート供給装置83を備えてもよい。この場合、繋がれた層状体10からなる帯状体は、保護シート65が重ねられた状態で、巻き取られる。保護シート65によって、電極触媒層12A,12Cを保護することができる。
【0133】
層状体10の表裏に固定部60が配置される場合には、少数の層状体10の表面が固定部60によって繋がれた後、この繋がれた層状体10の集合体が反転されて、当該層状体10の集合体の裏面が、他の層状体10の集合体の裏面と、固定部60によって繋がれてもよい。こうした場合、吸着装置80に層状体10を搬送する搬送装置は、複数の層状体10を一度に搬送可能であることが好ましい。製造装置210には、こうした搬送装置や層状体10の集合を反転させる装置が含まれてもよい。
【0134】
図15および
図16を参照して、吸着装置80の詳細な構成を説明する。
図15に示すように、吸着装置80は、有底の箱形状を有するケース90と、ケース90内に収容されている台座部91と、台座部91の上面に配置された吸着部92とを備えている。
【0135】
ケース90は、矩形状の開口部を上面に有し、この開口部から吸着部92の上面である吸着面が露出している。ケース90の材料は、例えば、耐熱性および耐衝撃性を有する合成樹脂である。
【0136】
台座部91は、ケース90の外部に延びる吸引管94に連通する吸引路93を有している。吸引路93は、台座部91の上面に開口している。吸引管94は、吸引機構に接続されている。
【0137】
吸着部92は、多数の細孔を有する多孔質体から形成されており、吸引路93の開口も含めて台座部91の上面を覆っている。吸引機構の駆動によって吸引管94および吸引路93内が吸引されることにより、吸着部92の吸着面が吸着力を発揮する。
【0138】
吸着部92の材料は、金属、不織布、紙、セラミックス、石材、樹脂、ガラスのうち少なくとも1つである。例えば、吸着部92は、セラミックスからなる単層構造を有していてもよいし、多孔質体からなる複数の層が積層された構造を有していてもよい。
【0139】
吸着部92の厚さは、0.5mm以上100mm以下であることが望ましい。また、吸着部92の吸着面は、0.5μm以上1200μm以下の平均孔径を有することが好ましく、0.5μm以上100μm以下の平均孔径を有することがより好ましい。吸着面の平均孔径が小さいほど、層状体10を吸着保持したときに電極触媒層12A,12Cが高分子電解質膜11から剥離することを抑制する効果が期待できる。また、吸着面における開口率は、10%以上80%以下であることが好ましい。
【0140】
台座部91の材料は、金属、不織布、紙、セラミックス、石材、樹脂、ガラスのうち少なくとも1つであることが好ましい。例えば、台座部91は、石材の単体から構成されていてもよいし、互いに異なる材料からなる複数の層が積層された構造を有していてもよい。
【0141】
図16に示すように、吸着装置80に対して、搬送装置86が保管庫85から層状体10を搬送する。
図16においては、便宜上、層状体10を一層のシートとして示している。
【0142】
搬送装置86は、層状体10を吸着保持した状態で、層状体10を搬送する。搬送装置86における層状体10の吸着の方法は特に限定されない。例えば、搬送装置86は、吸着装置80と同様に層状体10の全面を吸着して層状体10を搬送してもよいし、産業用ロボットの利用により、層状体10における電極触媒層12A,12C以外の領域を吸着して層状体10を搬送してもよい。層状体10が吸着保持された状態で搬送されることにより、搬送中に層状体10に皺等の変形が生じることが抑えられる。
【0143】
搬送装置86は、層状体10を吸着装置80の吸着面上まで搬送する。層状体10が吸着面の全体を覆うことにより、層状体10の全面が吸着面に吸着される。吸着装置80による層状体10の吸着保持が開始された後、搬送装置86による層状体10の吸着保持が解除される。
【0144】
なお、吸着装置80の構成は、本実施形態のように固定部60によって層状体10を繋ぐ場合に限らず、第1実施形態や第2実施形態のように、層状体10を融着や接合部30により繋ぐ場合に用いる製造装置にも適用可能である。
【0145】
以上、第4実施形態によれば、第1実施形態の(1-1)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(4-1)帯状体の長さ方向に沿って延びる固定部60によって、複数の層状体10が繋がれている。これにより、帯状体に、長さ方向に沿って高さの変化する段差が形成されることが抑えられるため、帯状体の巻き取りの際に集合ロール140に皺等が生じることが抑えられる。また、幅方向の端部に固定部60が配置されるため、固定部60が突出しても、帯状体が巻き取られたときに、この突出部分が電極触媒層12A,12Cと接することが抑えられる。そのため、電極触媒層12A,12Cに傷等の変形が生じることが抑えられる。
【0146】
(4-2)集合ロール140の製造装置210が、吸着装置80と、固定部形成装置81と、巻き取り装置82とを備えている。層状体10が吸着装置80に吸引保持された状態で固定部60による固定が行われるため、層状体10における皺等の変形が抑えられる。
【0147】
(4-3)層状体10が、搬送装置86に吸引保持された状態で吸着装置80まで搬送され、吸着装置80に受け渡される。これにより、吸着装置80に保持されるまでに層状体10に皺等の変形が生じることが抑えられる。
【0148】
(4-4)吸着装置80が、多孔質体からなる平板状の吸着部92と、吸着部92を支持する台座部91とを備える。これにより、層状体10の全面を的確に吸着することができるため、層状体10における皺等の発生が的確に抑えられる。
【0149】
(4-5)吸着部92の材料が、金属、不織布、紙、セラミックス、石材、樹脂、および、ガラスのうち少なくとも1つを含む。これにより、吸着部92における良好な吸着力の発揮が可能である。
【0150】
(4-6)台座部91の材料が、金属、不織布、紙、セラミックス、石材、樹脂、および、ガラスのうち少なくとも1つを含む。これにより、台座部91を通じて吸着部92における良好な吸着力の発揮が可能である。
【0151】
(4-7)台座部91が、外部の吸引機構に連通する吸引路93を有する。これにより、吸着部92における吸引力を的確に発揮させることができる。
(4-8)吸着部92の厚さが0.5mm以上100mm以下であれば、吸着部92において良好な吸着力が得られやすい。また、吸着部92の吸着面が0.5μm以上1200μm以下の平均孔径を有していれば、吸着部92において良好な吸着力が得られやすい。また、吸着面における開口率が10%以上80%以下であれば、吸着部92において良好な吸着力が得られやすい。
【0152】
(第5実施形態)
図17~
図19を参照して、膜電極接合体の集合ロール、膜電極接合体、および、膜電極接合体の集合ロールの製造方法の第5実施形態を説明する。以下では、第5実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0153】
第5実施形態は、膜電極接合体の集合ロールの製造方法の実施形態である。第5実施形態では、複数の層状体10を繋げるときに、微粘着シートを利用する。
図17に示すように、微粘着シート66によって層状体10の裏面を支持し、微粘着シート66によって支持された層状体10を、1つの方向に沿って並べる。互いに隣り合う層状体10を支持する微粘着シート66は、別々のシートであってもよいし、連続したシートであってもよい。層状体10は、少なくとも、高分子電解質膜11および電極触媒層12A,12Cを有していればよい。また、層状体10の裏面は、高分子電解質膜11に対して電極触媒層12Aおよび電極触媒層12Cのいずれが位置する側の面であってもよい。
【0154】
微粘着シート66は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等からなる樹脂フィルム上に粘着層が積層された構成を有する。微粘着シート66は、層状体10に対する貼り付けと剥離とが可能な程度の粘着力を有していればよい。
【0155】
並べられた層状体10の表面、すなわち、微粘着シート66によって支持されていない面に、固定部61が配置されることによって、複数の層状体10が繋がれる。固定部61は、例えば、粘着テープであってもよいし、ホットメルト接着剤や紫外線硬化型の接着剤から形成されていてもよい。
【0156】
また、固定部61は、隣り合う層状体10の境界部分に、境界の延びる方向に沿って、言い換えれば、層状体10の並ぶ方向と直交する方向に沿って配置されてもよいし、電極触媒層12A,12Cの配置されていない領域に、層状体10の並ぶ方向に沿って配置されてもよい。
【0157】
これにより、表面のみが繋がれた層状体10と微粘着シート66とからなる帯状体67が形成され、帯状体67がロール状に巻き取られる。微粘着シート66で支持されることにより、層状体10のみの場合と比較して帯状体67が補強されて剛性が高くなるため、帯状体67の巻き取りに際して、帯状体67に皺等の変形が生じることが抑えられる。また、層状体10を固定部61で繋ぐ際にも、層状体10に皺等の変形が生じることが抑えられる。
【0158】
続いて、
図18に示すように、帯状体67が巻き取られたロールから帯状体67が引き出され、帯状体67の表裏が反転される。こうした帯状体67の引き出しの際にも、微粘着シート66によって帯状体67が補強されていることから、帯状体67に皺等の変形が生じることが抑えられる。
【0159】
そして、
図19に示すように、微粘着シート66が剥離され、層状体10の裏面が、固定部61によって繋がれる。このとき、既に固定部61が配置されている層状体10の表面に微粘着シートが貼られることで、帯状体が補強されてもよい。
【0160】
これによって、複数の層状体10の表面と裏面とがそれぞれ繋がれた膜電極接合体の集合ロール150が形成される。なお、複数の層状体10の表面と裏面とがそれぞれ繋がれた後、集合ロール150の巻き取りに際して、層状体10の表面または裏面に保護シートが積層されてもよい。また、こうした保護シートとして微粘着シートが用いられてもよい。
【0161】
第5実施形態においても、枚葉方式を用いて複数の層状体10を製造し、これらの層状体10を固定部61で繋ぐことによって集合ロール150を形成することができる。それゆえ、層状体10の製造装置の大型化や製造装置にかかるコストの抑制、および、材料の余計な消費が可能であるとともに、膜電極接合体の輸送や保管が容易となる。
【0162】
なお、第5実施形態のような微粘着シートによる層状体10の補強は、第1実施形態や第2実施形態のように、層状体10を融着や接合部30によって繋ぐ場合にも利用されてもよい。また、集合ロール150においては、層状体10の表面のみが固定部61で繋がれていてもよく、この場合、層状体10の裏面は微粘着シート66で支持されていてもよい。すなわち、集合ロール150は、微粘着シート66を備えていてもよい。さらには、1つの微粘着シート66上に複数の層状体10が配置される場合には、層状体10同士が繋げられなくてもよい。層状体10に対する微粘着シート66の粘着力は、例えば、0.02N/25mm以上25N/25mm以下であることが好ましい。
【0163】
以上、第5実施形態によれば、第1実施形態の(1-1)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(5-1)複数の層状体10が、微粘着シート66に支持された状態で、固定部61によって繋げられて、巻き取られる。こうした構成においては、層状体10が微粘着シート66によって補強されるため、固定部61の配置や帯状体67の巻き取りに際して、層状体10に皺等の変形が生じることが抑えられる。
【0164】
(5-2)複数の層状体10の一方の面が固定部61によって繋がれた後、巻き取られた帯状体67が、層状体10の他方の面への固定部61の配置のために引き出されるまで、微粘着シート66による層状体10の支持が継続される。言い換えれば、微粘着シート66が残されたまま、帯状体67の巻き取りと引き出しとが行われる。これにより、帯状体67の引き出しの際にも、層状体10に皺等の変形が生じることが抑えられる。
【0165】
(変形例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
膜電極接合体の集合ロールにおいて、層状体10は、高分子電解質膜11の一方の面にのみ、電極触媒層を備えていてもよい。そして、集合ロールから層状体10が分割される前また後に、他方の面に電極触媒層が形成されて、膜電極接合体として用いられてもよい。
【0166】
(付記)
上記課題を解決するための手段には、上記実施形態から導き出される技術的思想として以下の付記が含まれる。
【0167】
[付記1]
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜を厚さ方向に挟んで当該高分子電解質膜に接する一対の電極触媒層と、
前記一対の電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を厚さ方向に挟む一対のガスケット部と、を備え、
前記ガスケット部の端部に位置する面であって、厚さ方向に連続する1つの面である端面を有し、前記端面が融着痕を含む
膜電極接合体。
【0168】
[付記2]
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜を厚さ方向に挟んで当該高分子電解質膜に接する一対の電極触媒層と、
前記一対の電極触媒層の外側で前記高分子電解質膜の外周部を厚さ方向に挟む一対のガスケット部と、
前記一対のガスケット部の端面を覆う接合片であって、樹脂を含む前記接合片と、を備える膜電極接合体であって、
前記接合片が、前記膜電極接合体の端面を含む
膜電極接合体。
【0169】
[付記3]
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜を厚さ方向に挟んで当該高分子電解質膜に接する一対の電極触媒層と、を備える膜電極接合体であって、
前記膜電極接合体は、さらに、前記膜電極接合体の表面および裏面の少なくとも一方において、前記電極触媒層の位置しない領域に接合した固定片であって、1つの方向に沿って前記膜電極接合体の全体に延びる前記固定片を備える
膜電極接合体。
【符号の説明】
【0170】
10…層状体
11…高分子電解質膜
11e…外周部
12A,12C…電極触媒層
13A,13C…ガスケット部
14A,14C…ガスケット基材
15A,15C…粘着層
20,21…膜電極接合体
20S,21S…端面
30,32…接合部
31…接合片
40…固体高分子形燃料電池
41A,41C…セパレータ
42A,42C…ガス流路
43A,43C…冷却水流路
44A,44C…ガス拡散層
50…支持部材
51…開口部
55,66…微粘着シート
61,61…固定部
70…接合台
80…吸着装置
100,110,120,130,140,150…集合ロール