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特開2024-143391メタルマスク用基材、メタルマスク用基材の製造方法、および、メタルマスクの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143391
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】メタルマスク用基材、メタルマスク用基材の製造方法、および、メタルマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20241003BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20241003BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20241003BHJP
   C23F 1/00 20060101ALI20241003BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20241003BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20241003BHJP
   H10K 71/16 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
C23C14/04 A
B21B3/02
B21B1/22 B
B21B1/22 A
C23F1/00 102
H10K50/00
H10K59/10
H10K71/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056040
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】橋本 有史
【テーマコード(参考)】
3K107
4E002
4K029
4K057
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC35
3K107CC45
3K107FF15
3K107GG12
3K107GG26
3K107GG28
3K107GG33
4E002AD12
4E002BC05
4E002CA08
4K029BA62
4K029BD01
4K029CA01
4K029DB06
4K029HA02
4K029HA03
4K057WA13
4K057WB02
4K057WB03
4K057WB12
4K057WB20
4K057WC01
(57)【要約】
【課題】メタルマスクが備える複数の貫通孔のうちの一部の貫通孔が大きくなることを抑えることを可能としたメタルマスク用基材、メタルマスク用基材の製造方法、および、メタルマスクの製造方法を提供する。
【解決手段】メタルマスク用基材10は、鉄‐ニッケル系合金から構成される。メタルマスク用基材10では、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上である。メタルマスク用基材10は、10μm以上30μm以下の厚さを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄ニッケル系合金から構成される金属板であるメタルマスク用基材であって、
ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上であり、
10μm以上30μm以下の厚さを有する
メタルマスク用基材。
【請求項2】
前記KAM値が、2.76°以下である
請求項1に記載のメタルマスク用基材。
【請求項3】
鉄ニッケル系合金から構成される金属板であるメタルマスク用基材の製造方法であって、
前記金属板の母材を圧延し、これによって圧延材を得ることと、
前記圧延材を、720℃以下の温度で焼鈍することと、を含み、
前記金属板において、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上であり、
前記金属板は、10μm以上30μm以下の厚さを有する
メタルマスク用基材の製造方法。
【請求項4】
焼鈍することは、前記圧延材を300℃以上の温度で焼鈍することを含み、
前記KAM値が、2.76°以下である
請求項3に記載のメタルマスク用基材の製造方法。
【請求項5】
金属板にレジスト層を形成すること、
レジスト層からレジストパターンを形成すること、および、
レジストパターンを用いたウェットエッチングによって前記金属板に複数の貫通孔を形成すること、を含み、
前記金属板において、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上であり、
前記金属板は、10μm以上30μm以下の厚さを有する
メタルマスクの製造方法。
【請求項6】
前記複数の貫通孔を形成することは、各貫通孔が前記金属板の第1面に開口を有し、かつ、各開口の面積が1600μm以下であるように前記複数の貫通孔を形成することを含む
請求項5に記載のメタルマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタルマスク用基材、メタルマスク用基材の製造方法、および、メタルマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置が備える画素を形成する方法の一例は、真空蒸着法である。真空蒸着法では、複数の貫通孔を有した金属製のメタルマスクが用いられる。各貫通孔は、画素の形状に応じた形状を有し、かつ、複数の貫通孔は、画素の配列に応じて配列されている。各貫通孔は、画素を形成するための蒸着材料が通る通路である。メタルマスクを形成するための材料には、鉄ニッケル系合金製の金属薄板が用いられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
金属薄板からメタルマスクを製造する際には、まず、金属薄板の表面にレジスト層を形成し、次いで、レジスト層からレジストパターンを形成する。そして、レジストパターンを用いたウェットエッチングによって金属薄板に複数の貫通孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/235862号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、有機EL表示装置が搭載された各種の電子機器において、高精細な映像を表示することが求められている。そのため、有機EL表示装置が備える画素、ひいては画素を形成するためのメタルマスクにも高精細化が求められている。例えば、500ppi程度の高精細な画素を形成するためのメタルマスクでは、金属薄板の表面に位置する開口での最大寸法が数十μmにまで微細化される。微細化された開口を有した貫通孔の形成では、複数の貫通孔のうちの一部の貫通孔においてウェットエッチングが過剰に進行し、これによって貫通孔が大きくなるという新たな課題が生じている。
【0006】
こうした課題は、有機EL表示装置が備える画素を形成するためのメタルマスクに限らず、例えば、有機EL表示装置以外の電子機器や電子部品に用いられるパターンを形成するためのメタルマスクにも共通する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためのメタルマスク用基材は、鉄ニッケル系合金から構成される金属板である。ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上であり、10μm以上30μm以下の厚さを有する。
【0008】
上記課題を解決するためのメタルマスク用基材の製造方法は、鉄ニッケル系合金から構成される金属板であるメタルマスク用基材の製造方法である。前記製造方法は、前記金属板の母材を圧延し、これによって圧延材を得ることと、前記圧延材を、720℃以下の温度で焼鈍することと、を含む。前記金属板において、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上であり、前記金属板は、10μm以上30μm以下の厚さを有する。
【0009】
上記課題を解決するためのメタルマスクの製造方法は、金属板にレジスト層を形成すること、レジスト層からレジストパターンを形成すること、および、レジストパターンを用いたウェットエッチングによって前記金属板に複数の貫通孔を形成すること、を含む。前記金属板において、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上であり、前記金属板は、10μm以上30μm以下の厚さを有する。
【0010】
上記メタルマスク用基材によれば、メタルマスク用基材のKAM値が2.18°以上であることによって、メタルマスク用基材に複数の貫通孔を形成した際に、複数の貫通孔のうちの一部の貫通孔が大きくなることが抑えられる。
【0011】
上記メタルマスク用基材において、前記KAM値が、2.76°以下であってよい。
上記メタルマスク用基材の製造方法において、前記焼鈍することは、前記圧延材を300℃以上の温度で焼鈍することを含み、前記KAM値が、2.76°以下であってよい。
【0012】
上記メタルマスク用基材によれば、メタルマスク用基材のウェットエッチング後においてメタルマスク用基材の反りが生じない程度に、メタルマスク用基材の残留ひずみを抑えることが可能である。
【0013】
上記メタルマスクの製造方法において、前記複数の貫通孔を形成することは、各貫通孔が前記金属板の第1面に開口を有し、かつ、各開口の面積が1600μm以下であるように前記複数の貫通孔を形成することを含んでもよい。
【0014】
上記メタルマスクの製造方法によれば、メタルマスクの開口を形成するためのレジストパターンが有する開口の面積も微小であり、これによってレジストパターンの開口にエッチング液が浸入しにくい。結果として、メタルマスク用基材の面内においてエッチングのばらつきが生じやすいから、メタルマスク用基材のKAM値が2.18°以上であることによる効果をより顕著に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
上記メタルマスク用基材、メタルマスク用基材の製造方法、および、メタルマスクの製造方法によれば、メタルマスクが備える複数の貫通孔のうちの一部の貫通孔が大きくなることが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、メタルマスク用基材を示す斜視図である。
図2図2は、図1が示すメタルマスク用基材の断面図である。
図3図3は、KAM値を算出する際にメタルマスク用基材の観察面に設定されるピクセルを模式的に示した平面図である。
図4図4は、メタルマスク用基材の局所において過剰なウェットエッチングが進行する工程を示す工程図である。
図5図5は、メタルマスク用基材の局所において過剰なウェットエッチングが進行する工程を示す工程図である。
図6図6は、メタルマスク用基材の局所において過剰なウェットエッチングが進行する工程を示す工程図である。
図7図7は、メタルマスク用基材において生じる孔食を説明するための模式図である。
図8図8は、メタルマスク用基材の局所において過剰なウェットエッチングが進行する工程を示す工程図である。
図9図9は、メタルマスクを示す平面図である。
図10図10は、図9が示すメタルマスクの一部を拡大した平面図である。
図11図11は、図9が示すメタルマスクの構造における第1例を示す断面図である。
図12図12は、図9が示すメタルマスクの構造における第2例を示す断面図である。
図13図13は、メタルマスク用基材の製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図14図14は、メタルマスク用基材の製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図15図15は、メタルマスクの製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図16図16は、メタルマスクの製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図17図17は、メタルマスクの製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図18図18は、メタルマスクの製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図19図19は、メタルマスクの製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図20図20は、メタルマスクの製造方法に含まれる一工程を示す工程図である。
図21図21は、KAM値と局所的なエッチングの発生率との関係を示すグラフである。
図22図22は、開口を含む試験片の表面を撮像したSEM画像であって、局所的なエッチングが進行した開口と、局所的なエッチングが生じていない開口とを含むSEM画像である。
図23図23は、焼鈍温度とKAM値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から図23を参照して、メタルマスク用基材、メタルマスク用基材、および、メタルマスクの製造方法の一実施形態を説明する。本実施形態のメタルマスクは、メタルマスクの一例であって、有機EL表示装置が備える画素を形成するために用いられる蒸着マスクである。
【0018】
[メタルマスク用基材]
図1から図8を参照して、メタルマスク用基材を説明する。
図1が示すメタルマスク用基材10は、鉄ニッケル系合金から構成される金属板である。メタルマスク用基材10は、10μm以上30μm以下の厚さTを有している。メタルマスク用基材10は、表面10Fと表面10Fとは反対側の面である裏面10Rとを備えている。メタルマスク用基材10の厚さTは、表面10Fと裏面10Rとの間の距離である。メタルマスク用基材10の取り扱い性を高める観点では、メタルマスク用基材10の厚さは、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。メタルマスク用基材10に形成された貫通孔が貫通孔に進入した蒸着材料に対して影になることを抑える観点では、メタルマスク用基材10の厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。なお、蒸着材料に対して影になることをメタルマスクのシャドウ効果と称する。メタルマスク用基材10の取り扱い性を高め、かつ、メタルマスクのシャドウ効果を抑える観点では、メタルマスク用基材10の厚さは、10μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0019】
メタルマスク用基材10は、35質量%以上36.5質量%以下のニッケル元素と、残部の鉄元素とを含むことが好ましい。メタルマスク用基材10は、ニッケル元素および鉄元素以外の添加元素を含んでもよい。添加元素は、金属元素でもよいし、非金属元素でもよい。金属元素は、例えば、マンガン(Mn)、元素マグネシウム(Mg)元素、アルミニウム(Al)元素、クロム(Cr)元素、モリブデン(Mo)元素、コバルト(Co)元素であってよい。非金属元素は、ケイ素元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素、塩素(Cl)元素であってよい。メタルマスク用基材10において、添加元素の総和は、例えば1質量%以下であってよい。
【0020】
図2は、メタルマスク用基材10の断面構造を示している。
図2が示すように、メタルマスク用基材10は、主層10A、第1表層10B1、および第2表層10B2から構成されている。第1表層10B1と第2表層10B2との間に、主層10Aが位置している。第1表層10B1は、メタルマスク用基材10の表面10Fを含んでいる。第2表層10B2は、メタルマスク用基材10の裏面10Rを含んでいる。第1表層10B1および第2表層10B2は、それぞれ鉄ニッケル系合金の自然酸化膜である。これに対して主層10Aでは、鉄ニッケル系合金が当該合金の周囲に存在する酸化剤によって酸化されていない。そのため、各表層10B1,10B2における酸素元素の含有率は、主層10Aにおける酸素元素の含有率よりも高い。各表層10B1,10B2の厚さは、例えば0nmよりも大きく10nm以下であり、また、0nmよりも大きく5nm以下であってよい。
【0021】
メタルマスク用基材10が含む金属元素のうち、鉄元素、ニッケル元素は酸化によって不導体を形成する。第1表層10B1および第2表層10B2は、鉄元素およびニッケル元素を含むから、不導体から構成されている。なお、メタルマスク用基材10に含まれうる元素のうち、アルミニウム元素、クロム元素、コバルト元素も酸化によって不導体を形成する。
【0022】
図3はメタルマスク用基材10において測定されるKAM値を説明するための模式図である。
本開示のメタルマスク用基材10において、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上である。本開示のメタルマスク用基材10によれば、メタルマスク用基材10のKAM値が2.18°以上であることによって、メタルマスク用基材10に複数の貫通孔を形成した際に、複数の貫通孔のうちの一部の貫通孔が大きくなることが抑えられる。
【0023】
メタルマスク用基材10のKAM値を測定する際には、まず、メタルマスク用基材10の表面10Fを調製し、これによって観察面を作成する。この際に、メタルマスク用基材10の表面10Fからメタルマスク用基材10の厚さに対する1/10をバフ研磨およびイオンミリングによって除去する。次いで、電界放出型走査電子顕微鏡(FE‐SEM)を用いて、観察面における50μm四方の測定領域について、電子線後方散乱回折(EBSD)法によってKAM値を測定する。この際に、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合におけるKAM値を測定する。KAM値の測定は、観察面において無作為に選択した重複しない5箇所の測定領域について行った後、各測定領域において得られたKAM値の平均値をメタルマスク用基材10のKAM値に設定する。
【0024】
図3が示すように、0.5μmのステップサイズSSで配置された電子線の照射点SPに電子線を照射する。測定領域において照射点SPを中心とする六角形の領域をピクセルPXと定義し、かつ、そのピクセルPXに含まれる照射点SPでの結晶方位をそのピクセルPXの結晶方位とみなす。なお、測定領域に含まれる複数のピクセルPXにおいて、互いに隣り合うピクセルPXは、ピクセルPXの外縁における1辺を共有している。
【0025】
KAM値を算出する際には、各ピクセルPXでの結晶方位を算出する。次いで、そのピクセルPXに隣接する6つのピクセルPXのなかで、同一の結晶粒に属するピクセルPXにおいて、結晶方位の平均値を算出する。この際に、算出対象であるピクセルPXの結晶方位に対して、結晶方位の差が5°以上であるピクセルPXは、同一の結晶粒に属しないピクセルPXであると認定する。続いて、算出対象のピクセルPXにおける結晶方位と隣接するピクセルPXでの結晶方位の平均値との差分値を算出する。当該差分値の絶対値を算出対象であるピクセルPXにおけるKAM値に設定する。
【0026】
例えば、図3が示す複数のピクセルPXのうち、高密度の網点が付されたピクセルPXを第1ピクセルPX1に設定する。第1ピクセルPX1のKAM値を算出する際には、第1ピクセルPX1に隣接するピクセルPXであって、低密度の網点が付された6つの第2ピクセルPX2における結晶方位の平均値を算出する。この際に、第2ピクセルPX2のうちで、第1ピクセルPX1の結晶方位との差が5°以上である結晶方位を有した第2ピクセルPX2を平均値の算出対象から除く。そして、第1ピクセルPX1の結晶方位と第2ピクセルPX2における結晶方位の平均値との差分値を算出する。当該差分値の絶対値が、第1ピクセルPX1のKAM値である。
【0027】
測定領域に含まれる全てのピクセルPXについてKAM値を算出する。そして、全てのピクセルPXにおける平均値を算出し、かつ、当該平均値を測定領域におけるKAM値に設定する。5箇所の測定領域についてKAM値を算出した後、5箇所の測定領域の平均値を算出し、これによってメタルマスク用基材10のKAM値を得る。
【0028】
KAM値は、結晶粒内に含まれる結晶格子における歪みの度合いを表す指標である。KAM値は、その結晶粒内におけるKAM値が大きいほど、結晶格子の歪みが大きいことを表す。
【0029】
図4から図8を参照して、メタルマスク用基材10において局所的なエッチングが進行するメカニズムを説明する。図4から図6、および、図8は、メタルマスク用基材10の裏面10Rに形成された第2レジストパターンを用いてメタルマスク用基材10をウェットエッチングする工程を模式的に示している。図7は、メタルマスク用基材10がウェットエッチングされる際に生じる孔食を説明するための模式図である。
【0030】
図4が示すように、メタルマスク用基材10がウェットエッチングされる際には、メタルマスク用基材10の裏面10Rに、第2レジストパターンRP2が形成される。第2レジストパターンRP2は、第2貫通孔RP2Aを有している。裏面10Rと対向する視点から見て、第2レジストパターンRP2は、第2貫通孔RP2Aを介したウェットエッチングによって、メタルマスク用基材10の裏面10Rに1600μm以下の面積を有した開口を形成することが可能に構成されてもよい。なお、より高精細な画素の形成を可能にする観点では、開口の面積は900μm以下であることが好ましい。
【0031】
図5が示すように、メタルマスク用基材10の裏面10Rからメタルマスク用基材10をウェットエッチングする際には、第2レジストパターンRP2にエッチング液ESが供給される。エッチング液は、例えば塩化物イオンを含むエッチング液であり、塩化第二鉄液であってよい。ウェットエッチングの方式は、例えばスプレーエッチングであってよい。ウェットエッチングの方式がスプレーエッチングである場合には、第2レジストパターンRP2に供給されたエッチング液ESは、所定の方向に沿った流れを有する。
【0032】
第2レジストパターンRP2に供給されたエッチング液ESの一部は、第2貫通孔RP2A内に流入する。この際に、上述したように第2貫通孔RP2Aの開口面積は1600μm以下の面積を有した開口を形成する程度に小さいから、第2貫通孔RP2Aの全体に対して均一にはエッチング液ESが供給されにくい。
【0033】
図6が示すように、第2貫通孔RP2Aの一部に供給されたエッチング液ESによって、裏面10Rのうちで第2貫通孔RP2A内に露出した部分の一部がエッチングされる。上述したように、メタルマスク用基材10の裏面10Rは第2表層10B2に含まれるから、第2表層10B2の一部がエッチングされる。
【0034】
図7が示すように、第2表層10B2にエッチング液ESが供給されると、第2表層10B2の一部のみにおいて塩化物イオンの濃度が高くなる。これにより、不動態である第2表層10B2が塩化物イオンによって局所的に破壊されるから、メタルマスク用基材10の一部において孔食が生じる。主層10Aのうち、第2表層10B2から露出した部分がアノードとして機能し、かつ、第2表層10B2がカソードとして機能する。これにより、以下の反応が生じる。
【0035】
(アノード反応) Fe → Fe2++2e
(加水分解反応) Fe2++2HO → Fe(OH)+2H
(カソード反応) O+2HO+4e → 4OH
すなわち、アノードにおいて溶解した鉄イオンが加水分解反応を生じ、これによって孔食された部分が酸性化することで不動態化が抑えられるから、孔食された部分でのエッチングがさらに進行する。
【0036】
そのため、図8が示すように、主層10Aのうち、第2表層10B2から露出した部分において、第2貫通孔RP2Aから露出する部分の全体がエッチングされる場合に比べて、より高い速度でエッチングが進む。これにより、局所的なエッチングによって凹部10AHが形成されるから、複数の貫通孔のうちの一部の貫通孔において、裏面10Rに位置する開口が大きくなり、ひいては貫通孔の大きさが大きくなる。
【0037】
この点、本開示のメタルマスク用基材10によれば、主層10Aでの結晶格子における歪みが大きくなるから、主層10Aの表面に形成される第1表層10B1および第2表層10B2における結晶格子の歪みも大きくなる。これにより、第1表層10B1および第2表層10B2が粗くなるから、第1表層10B1および第2表層10B2のなかで、エッチング液ESが入り込み易い箇所が多くなる。結果として、主層10Aにおいて孔食によって削られる量を複数の箇所において分散することが可能であるから、メタルマスク用基材10の一部において局所的にエッチングが進行することが抑えられる。すなわち、複数の貫通孔の一部の貫通孔において、裏面10Rに位置する開口が大きくなることが抑えられ、ひいては貫通孔が大きくなることが抑えられる。
【0038】
メタルマスク用基材10のKAM値は、2.76°以下であってよい。これにより、メタルマスク用基材10のウェットエッチング後においてメタルマスク用基材10の反りが生じない程度に、メタルマスク用基材10の残留ひずみを抑えることが可能である。メタルマスク用基材10のKAM値は、メタルマスク用基材10の製造工程において、圧延材に対して行われる焼鈍の温度に負の相関を有している。KAM値は、焼鈍の温度が高くなるほど低くなる傾向を有する。
【0039】
上述したように、メタルマスク用基材10のKAM値が2.76°以下であれば、メタルマスク用基材10に残留するひずみがウェットエッチング後においてメタルマスク用基材10にひずみを生じさせない程度に抑えることが可能な温度で、圧延材を焼鈍することが可能である。
【0040】
[メタルマスク]
図9から図12を参照して、メタルマスクを説明する。
図9が示すメタルマスク20は、鉄ニッケル系合金から構成されるメタルマスク用基材10から形成されている。メタルマスク20の厚さにおける最大値が10μm以上30μm以下である。メタルマスク20は、裏面20Rと、裏面20Rに開口を有した複数の貫通孔20Hとを備えている。裏面20Rは、第1面の一例である。開口の面積は、1600μm以下であってよい。より高精細な画素の形成を可能にする観点では、開口の面積は900μm以下であることが好ましい。
【0041】
本開示のメタルマスク20によれば、メタルマスク用基材10のKAM値、ひいてはメタルマスク20のKAM値が2.18°以上であるから、1600μm以下という微細化された開口を有する貫通孔20Hを形成する場合でも、メタルマスク用基材10の局所においてウェットエッチングが過剰に進行することが抑えられる。そのため、複数の貫通孔20Hのうちの一部の貫通孔20Hが大きくなることが抑えられる。
【0042】
メタルマスク20は、裏面20Rと、裏面20Rとは反対側の面である表面20Fとを備えている。メタルマスク20を用いて蒸着パターンが形成される際には、裏面20Rが蒸着対象に面し、かつ、表面20Fが蒸着源に面する。メタルマスク20は、有機EL表示装置が備える画素の形成に用いられる。
【0043】
メタルマスク20は、マスク部20Aと、マスク部20Aを取り囲む周辺部20Bとを備えている。図8が示す例では、メタルマスク20は、複数のマスク部20Aを備えている。各マスク部20Aには、複数の貫通孔20Hが形成されている。各貫通孔20Hは、メタルマスク20の厚さ方向において、メタルマスク20を貫通している。各貫通孔20Hは、蒸着材料の通路である。蒸着材料が貫通孔20Hを通過することによって、蒸着対象に所定の形状を有した蒸着パターンが形成される。周辺部20Bは、貫通孔20Hを有していない。メタルマスク20のうち、周辺部20Bが厚さにおける最大値を有する。なお、マスク部20Aは、厚さにおける最大値を有してもよいし、有しなくてもよい。
【0044】
メタルマスク20は、鉄ニッケル系合金の酸化物から構成される酸化物層を含んでもよい。酸化物層は、メタルマスク20の裏面20Rを含んでいる。すなわち、酸化物層は、上述したメタルマスク用基材10の第1表層10B1に対応する。メタルマスク20によれば、メタルマスク20が酸化物層を含むから、メタルマスク20が備える貫通孔20Hの形成時において、メタルマスク20を形成するためのメタルマスク用基材10において孔食が生じやすい。そのため、メタルマスク用基材10においてKAM値が2.18°以上であることの実効性が高まる。
【0045】
図10は、メタルマスク20の裏面20Rと対向する視点から見た貫通孔20Hの形状を示している。
図10が示すように、貫通孔20Hの第2開口20H2は、例えば正方形状を有してもよい。図10が示す例では、第2開口20H2は、各角部が曲率を有した正方形状を有している。各角部の曲率中心は、第2開口20H2内に位置している。各第2開口20H2において、一辺の長さLは、例えば40μm以下であるから、第2開口20H2の面積は1600μm以下である。なお、第2開口20H2の形状は正方形状に限らず、正方形状以外の四角形状であってもよいし、円形状を有してもよい。第2開口20H2の面積が900μm以下である場合には、第2開口20H2における一辺の長さは30μm以下である。
【0046】
表面20Fにおいて、複数の第2開口20H2は、所定の規則に従って並んでいる。図9が示す例では、複数の第2開口20H2は格子状に並んでいる。複数の第2開口20H2は、例えば千鳥配列状にならんでもよい。
【0047】
図11および図12は、メタルマスク20の表面20Fに直交する平面に沿うメタルマスク20の断面構造を示している。図11は、メタルマスク20の第1例における断面構造を示す一方で、図12は、メタルマスク20の第2例における断面構造を示している。なお、図11は、メタルマスク用基材10が表面10Fのみからエッチングされた場合におけるメタルマスク20の断面構造を示している。これに対して、図12は、メタルマスク用基材10が表面10Fと裏面10Rとの両方からエッチングされた場合におけるメタルマスク20の断面構造を示している。
【0048】
図11が示すように、メタルマスク20の第1例において、貫通孔20Hの第1開口20H1は表面20Fに位置し、かつ、第2開口20H2は裏面20Rに位置している。貫通孔20Hは、表面20Fから裏面20Rに向けて先細る形状を有している。すなわち、厚さ方向と直交する平面における貫通孔20Hの面積は、表面20Fから裏面20Rに向けて単調減少している。貫通孔20Hは、略円弧状を有している。
【0049】
図12が示すように、メタルマスク20の第2例において、貫通孔20Hの第1開口20H1は表面20Fに位置し、かつ、第2開口20H2は裏面20Rに位置している。貫通孔20Hは、大孔部20HLと小孔部20HSとを有している。大孔部20HLは、表面20Fから裏面20Rに向かう方向に沿って先細る形状を有し、かつ、小孔部20HSは、裏面20Rから表面20Fに向かう方向に沿って先細る形状を有している。
【0050】
すなわち、厚さ方向と直交する平面における大孔部20HLの面積は、表面20Fから裏面20Rに向かう方向に沿って単調減少し、かつ、小孔部20HSの面積は、裏面20Rから表面20Fに向かう方向に沿って単調減少する。そのため、厚さ方向と直交する平面における貫通孔20Hの面積は、大孔部20HLと小孔部20HSとの接続部において最も小さい。
【0051】
本開示のメタルマスク用基材10を用いて形成されたメタルマスク20であれば、上述した第1例および第2例のいずれであっても、複数の貫通孔20Hにおける一部の貫通孔20Hにおいて第2開口20H2が大きくなることが抑えられ、ひいては貫通孔20Hの大きさが大きくなることが抑えられる。
【0052】
[メタルマスク用基材の製造方法]
図13および図14を参照して、メタルマスク用基材の製造方法を説明する。
本開示のメタルマスク用基材の製造方法は、鉄ニッケル系合金から構成される金属板であるメタルマスク用基材を製造する方法である。当該製造方法は、金属板の母材を圧延し、これによって圧延材を得ることと、圧延材を、720℃以下の温度で焼鈍することと、を含んでいる。上述したように、金属板において、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上である。金属板は、10μm以上30μm以下の厚さを有する。以下、図面を参照して、メタルマスク用基材の製造方法を詳細に説明する。
【0053】
図13が示すように、メタルマスク用基材10の製造方法では、まず、鉄ニッケル系合金から構成される母材31Aを準備する。母材31Aは、延伸方向D1に沿って延びる帯状を有している。次いで、母材31Aを圧延することによって、圧延材31Bを得る。この際に、例えば、熱間圧延を行った後に、冷間圧延と焼鈍とを交互に行うことを1回以上行うことによって、圧延材31Bを得る。
【0054】
母材31Aを圧延する際には、例えば、母材31Aの延伸方向D1と、母材31Aを搬送する搬送方向D2とが平行になるように、母材31Aを一対の圧延ローラー51,52を備える圧延装置50に向けて搬送方向D2に沿って搬送する。
【0055】
なお、母材31Aは、例えばスラブの熱間鍛造によって得られた鋼片であってよい。鋼片の厚さは、例えば150mm以上250mm以下であってよい。熱間圧延では、鋼片が3mm以上20mm以下の厚さを有するまで鋼片を圧延し、これによって熱間圧延材を得る。冷間圧延と焼鈍とを交互に行うことでは、熱間圧延材が10μm以上30μm以下の厚さを有するまで熱間圧延材を圧延し、これによって圧延材31Bを得る。圧延材31BはコアCに巻き取られるが、圧延材31Bは、コアCに巻き取られることなく、帯状に伸ばされた状態で取り扱われてもよい。
【0056】
冷間圧延を複数回行う場合には、最終の冷間圧延における圧下率が、30%以上95%以下であってよい。冷間圧延を複数回行う場合には、1回目の冷間圧延から最終の冷間圧延に向けて、回数を重ねる毎に冷間圧延時の圧下率を下げてもよい。圧下率は、以下の式によって算出される。
【0057】
圧下率(%)={(T0-T1)/T0}×100
上記式において、T0は圧延対象の厚さであり、T1は圧延によって得られた板材における厚さである。
【0058】
図14が示すように、鋼片の圧延によって得られた圧延材31Bを、アニール装置53を用いて焼鈍する。これによって、圧延によって圧延材31Bに生じた残留応力を減らすことが可能であるから、残留応力が低減されたメタルマスク用基材10を得ることが可能である。上述したように、本開示のメタルマスク用基材10の製造方法では、圧延を経て得られた圧延材31Bを720℃以下の温度で焼鈍する。これにより、2.18°以上のKAM値を有したメタルマスク用基材10を得ることが可能である。
【0059】
なお、上述したように、母材31Aに対して、熱間圧延を行った後に、冷間圧延と焼鈍とを繰り返すことを1回以上行う場合には、これらの処理が行われることによって得られた圧延材31Bに対して行われる焼鈍での温度が720℃以下の温度に設定される。
【0060】
圧延材31Bは、300℃以上の温度で焼鈍されてもよい。これにより、2.76°以下のKAM値を有したメタルマスク用基材10を得ることができる。エッチング後におけるメタルマスク用基材10の反りを抑え、かつ、局所的なエッチングの発生を抑える観点では、圧延後に行われる最終焼鈍での温度が、300℃以上720℃以下であることが好ましい。最終焼鈍での温度が300℃以上であることによって、圧延によって圧延材31Bに生じた残留応力を減らすことができ、これによってエッチング後における反りを抑えることが可能である。
【0061】
圧延後の焼鈍では、圧延材31Bを搬送方向D2に沿って引っ張りながら圧延材31Bを焼鈍してもよい。すなわち、圧延材31Bに対してテンションアニールを行ってもよい。これにより、圧延によって圧延材31Bに生じた残留応力をさらに減らすことが可能である。
【0062】
なお、上述した圧延および焼鈍の各々を、以下のように変更して実施してもよい。すなわち、例えば、圧延では、複数対の圧延ローラーを備える圧延装置を用いてもよい。また、圧延後の焼鈍では、圧延材31Bを搬送方向D2に沿って引っ張りながら圧延材31Bに対して焼鈍を行うのではなく、コアCに巻き取られた状態の圧延材31Bに対して焼鈍を行ってもよい。
【0063】
なお、コアCに巻き取られた状態の圧延材31Bに対して圧延後の焼鈍を行ったときには、圧延材31BがコアCに巻き取られたことにより、焼鈍後に得られるメタルマスク用基材10には、メタルマスク用基材10の径に応じた反りが生じてしまう場合がある。そのため、メタルマスク用基材10がコアCに巻かれたときの径の大きさや母材31Aを構成する材料によっては、圧延材31Bを搬送方向D2に沿って引っ張りながら圧延材31Bを焼鈍することが好ましい。
【0064】
[メタルマスクの製造方法]
図15から図20を参照して、メタルマスクの製造方法を説明する。
本開示のメタルマスク20の製造方法は、金属板にレジスト層を形成すること、レジスト層からレジストパターンを形成すること、および、レジストパターンを用いたウェットエッチングによって金属板に複数の貫通孔を形成すること、を含んでいる。上述したように、金属板において、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなす場合において、電子線後方散乱回折法によって得られたKAM値が2.18°以上である。金属板は、10μm以上30μm以下の厚さを有している。以下、図面を参照して、メタルマスク20の製造方法を詳細に説明する。なお、図15から図20では、図示の便宜上、上述したメタルマスク20の第2例における1つの貫通孔を形成する過程が図示されている。
【0065】
図15が示すように、メタルマスク用基材10の表面10Fには、第1レジスト層R1が位置している。第1レジスト層R1は、例えばネガ型のレジストから形成されている。裏面10Rには、第2レジスト層R2が位置している。第2レジスト層R2は、例えばネガ型のレジストから形成されている。第1レジスト層R1および第2レジスト層R2は、ポジ型のレジストから形成されてもよい。各レジスト層R1,R2はドライフィルムレジストでもよいし、塗布型のレジストから形成されてもよい。
【0066】
図16が示すように、第1レジスト層R1と第2レジスト層R2とを露光した後に、第1レジスト層R1および第2レジスト層R2を現像する。これにより、第1レジスト層R1から第1レジストパターンRP1が形成され、かつ、第2レジスト層R2から第2レジストパターンRP2が形成される。各レジスト層R1,R2の現像には、例えば炭酸ナトリウム水溶液などの現像液が用いられる。
【0067】
第1レジストパターンRP1は、第1貫通孔RP1Aを備えている。第1貫通孔RP1Aは、第1レジストパターンRP1を第1レジストパターンRP1の厚さ方向に沿って貫通している。第2レジストパターンRP2は、第2貫通孔RP2Aを備えている。第2貫通孔RP2Aは、第2レジストパターンRP2を第2レジストパターンRP2の厚さ方向に沿って貫通している。第1レジストパターンRP1が広がる平面と対向する視点から見て、第2貫通孔RP2Aは、第1貫通孔RP1A内に位置している。
【0068】
図17が示すように、第1レジストパターンRP1の表面上に第1保護層PL1を形成する。第1保護層PL1を形成することによって、第1貫通孔RP1Aを塞ぎ、これによって、第1貫通孔RP1Aを介してメタルマスク用基材10にエッチング液が達することを防ぐ。次いで、第2レジストパターンRP2を用いてメタルマスク用基材10を裏面10Rからエッチングする。メタルマスク用基材10のエッチングには、例えば塩化物イオンを含むエッチング液を用いる。エッチング液は、上述したように塩化第二鉄液であってよい。これにより、裏面10Rに開口した小孔部10HSを形成する。
【0069】
レジストパターンRP1,RP2の厚さは、10μm以下であってよく、7μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。レジストパターンRP1,RP2の厚さが薄いほど、レジストパターンRP1,RP2が有する貫通孔RP1A,RP2A内にエッチング液が浸入しやすい。
【0070】
この際に、各小孔部10HSがメタルマスク用基材10の裏面10Rに開口を有し、かつ、各開口の面積が1600μm以下であるように複数の小孔部10HSを形成してよい。すなわち、裏面10Rに位置する各開口の面積は、例えば1600μm以下であってよい。さらには、各開口の面積は、900μm以下であることが好ましい。
【0071】
この場合には、メタルマスク20の開口を形成するための第2レジストパターンRP2が有する開口の面積も微小であり、これによって第2レジストパターンRP2の開口にエッチング液が浸入しにくい。結果として、メタルマスク用基材10の面内においてエッチングのばらつきが生じやすいから、メタルマスク用基材10のKAM値が2.18°以上であることによる効果をより顕著に得ることができる。
【0072】
図18が示すように、第1レジストパターンRP1の表面から第1保護層PL1を取り除く。また、メタルマスク用基材10の裏面10Rから第2レジストパターンRP2を取り除く。次いで、メタルマスク用基材10の裏面10Rを第2保護層PL2によって覆う。この際に、第2保護層PL2の一部が小孔部10HS内を埋めるように、裏面10Rに第2保護層PL2が形成される。
【0073】
図19が示すように、第1レジストパターンRP1を用いてメタルマスク用基材10を表面10Fからエッチングする。メタルマスク用基材10のエッチングには、小孔部10HSを形成する際と同様に、例えば塩化物イオンを含むエッチング液を用いる。上述したように、エッチング液は塩化第二鉄液であってよい。これにより、表面10Fに開口した大孔部10HLを形成する。大孔部10HLは、小孔部10HS内に充填された第2保護層PL2の一部に達するように形成され、これによって、小孔部10HSに大孔部10HLが接続される。
【0074】
図20が示すように、メタルマスク用基材10の表面10Fから第1レジストパターンRP1を取り除き、かつ、裏面10Rから第2保護層PL2を取り除く。これにより、貫通孔20Hを備えるメタルマスク20を得ることができる。貫通孔20Hにおいて、大孔部20HLは、メタルマスク用基材10に形成された大孔部10HLに対応し、かつ、小孔部20HSは、メタルマスク用基材10に形成された小孔部10HSに対応する。また、メタルマスク20の表面20Fはメタルマスク用基材10の表面10Fに対応し、かつ、メタルマスク20の裏面20Rはメタルマスク用基材10の裏面10Rに対応する。
【0075】
なお、メタルマスク用基材10の裏面10Rに第2保護層PL2が形成される際に、第2レジストパターンRP2がメタルマスク用基材10の裏面10Rから取り除かれなくてもよい。この場合には、第2保護層PL2は、第2レジストパターンRP2上に形成される。なお、第2保護層PL2の一部が小孔部10HS内に充填され、かつ、第2レジストパターンRP2の第2貫通孔RP2A内に充填されるように、第2保護層PL2が形成される。メタルマスク用基材10に大孔部10HLが形成された後に、第2レジストパターンRP2は第2保護層PL2とともにメタルマスク用基材10から取り除かれる。
【0076】
また、メタルマスク20の第1例が製造される際には、メタルマスク用基材10を裏面10Rからエッチングする工程が省略される。そのため、裏面10Rに第2レジストパターンRP2が形成されるための工程も省略される。なお、メタルマスク用基材10が表面10Fからエッチングされる際には、メタルマスク用基材10の裏面10Rに保護層が形成される。
【0077】
[実施例]
図21から図23、および、表1を参照して、実施例および比較例を説明する。
[実施例1]
鉄ニッケル系合金から構成され、かつ、200mmの厚さを有したスラブを準備した。次いで、スラブに対して熱間鍛造を行うことによって鋼片を製造した。そして、鋼片を400μmの厚さになるまで熱間圧延を施すことによって、熱間圧延材を得た。続いて、冷間圧延と焼鈍とを交互に行うことを3回行うことによって、25μmの厚さを有した圧延材を得た。この際に、1回目の冷間圧延における圧下率を70%に設定し、2回目の冷間圧延における圧下率を62.5%に設定し、3回目の冷間圧延における圧下率を44.4%に設定した。これにより、冷間圧延前の熱間圧延材に対する3回の冷間圧延が行われた後における圧延材での総圧下率を93.8%に設定した。その後、圧延材に対してテンションアニールを行った。この際に、テンションアニールでの圧延材の焼鈍温度を620℃に設定し、かつ、保定時間を4.5秒に設定した。これにより、25μmの厚さを有した実施例1のメタルマスク用基材を得た。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、テンションアニールでの焼鈍温度を680℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2のメタルマスク用基材を得た。
【0079】
[実施例3]
実施例1において、テンションアニールでの焼鈍温度を720℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例3のメタルマスク用基材を得た。
【0080】
[比較例1]
実施例1において、テンションアニールでの焼鈍温度を760℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1のメタルマスク用基材を得た。
【0081】
[比較例2]
実施例1において、テンションアニールでの焼鈍温度を800℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例2のメタルマスク用基材を得た。
【0082】
[比較例3]
実施例1において、テンションアニールでの焼鈍温度を900℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例3のメタルマスク用基材を得た。
【0083】
[評価方法]
[KAM値]
KAM値を測定する際には、まず、バフ研磨およびイオンミリングを行うことによって、各メタルマスク用基材の表面から2.5μmの厚さだけ除去した。これにより、観察面を作成した。次いで、FE‐SEM(SU-70、(株)日立ハイテクノロジーズ製)、および、OIM(Orientation Imaging Microscopy)結晶方位測定装置(Digiview5型、TSLソリューションズ(株)製)を用いて、観察面における50μm四方の観察領域について、EBSD法によってKAM値を測定した。この際に、ステップサイズを0.5μmに設定し、かつ、結晶方位の差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした。各メタルマスク用基材の観察面において、無作為に選択した重複しない5箇所の測定領域についてKAM値の測定を行った後、各測定領域において得られたKAM値の平均値を各メタルマスク用基材のKAM値に設定した。なお、KAM値の算出には、OIM結晶方位測定装置が含むデータ収集ソフトウェア、および、データ解析ソフトウェアを用いた。
【0084】
[エッチング]
各メタルマスク用基材の表面に、10μmの厚さを有したドライフィルムレジストを貼り付けた。次いで、フォトリソグラフィによって、1辺の長さが25μmである正方形状を有した貫通孔をドライフィルムレジストに形成し、これによってレジストパターンを得た。この際に、貫通孔のピッチを50μmに設定した。その後、塩化第二鉄液を用いて、エッチングの深さが8μmになるようにメタルマスク用基材をエッチングした。この際に、エッチング液の濃度を50度ボーメに設定し、かつ、エッチング液の温度を50℃に設定した。続いて、蒸着用メタルマスク基材の表面からレジストパターンを除去することによって、エッチング済の試験片を得た。
【0085】
各試験片の表面をレーザー顕微鏡(VK-X3000、(株)キーエンス製)を用いて撮像することによって、複数の開口を含む表面の画像を得た。そして、画像解析によって、表面に含まれる1000個の開口における面積を算出した。1000個の開口のうち、面積が最も小さい開口から面積が10番目に小さい開口までの10個の開口における面積の平均値を算出し、当該平均値を基準値に設定した。そして、基準値に対して1.2倍以上大きい面積を有した開口を局所的なエッチングが進行した開口であって、他の開口よりも大きい開口とみなした。そして、1000個の開口における局所的なエッチングが進行した開口の百分率を算出した。
【0086】
[評価結果]
各実施例および各比較例のメタルマスク用基材について、テンションアニール時に設定された焼鈍温度、KAM値、および、局所的なエッチングが進行した開口の百分率である発生率は、以下の表1に示す通りであった。
【0087】
【表1】
【0088】
表1が示すように、メタルマスク用基材のKAM値は、実施例1において2.31°であり、実施例2において2.23°であり、実施例3において2.18°であることが認められた。また、比較例1において2.11°であり、比較例2において2.07°であり、比較例3において1.92°であることが認められた。このように、実施例1から3では、KAM値が2.18°以上であり、かつ、2.31°以下であることが認められた。これに対して、比較例1から3では、KAM値が1.92°以上であり、かつ、2.11°以下であることが認められた。
【0089】
また、局所的なエッチングの発生率は、実施例1から実施例3において0%であり、比較例1において20.0%であり、比較例2において69.5%であり、比較例3において95.6%であることが認められた。
【0090】
このように、KAM値が2.18°以上であることによって、局所的なエッチングの進行が抑えられることが認められた。また、図21が示すように、KAM値が2.11°であることによって、KAM値が2.11°よりも大きい場合に比べて、局所的なエッチングの進行が急峻に抑えられることが認められ、さらには、KAM値が2.18°以上であることによって局所的なエッチングの進行が生じていないことが認められた。
【0091】
図22は、比較例1のメタルマスク用基材から得られた試験片の表面を撮像したSEM画像の一例である。
図22が示すように、試験片の表面40Fに位置する複数の開口には、局所的なエッチングが生じていない第1開口40A1と、局所的なエッチングが進行した第2開口40A2とが含まれることが認められた。第2開口40A2の面積は、第1開口40A1よりも大きく、かつ、第2開口40A2を有する凹部の深さは、第1開口40A1を有する凹部の深さよりも深いことが認められた。また、第2開口40A2を有する凹部では、凹部の底部における表面粗さが大きいから、底部が撮像されないことが認められた。
【0092】
図23は、テンションアニール時の焼鈍温度とメタルマスク用基材が有するKAM値との関係を示している。
図23が示すように、テンションアニール時の焼鈍温度とメタルマスク用基材が有するKAM値とは、負の相関を有することが認められた。また、焼鈍温度とKAM値とから、以下の式によって表される近似曲線が得られた。図23では、近似曲線が破線で示されている。
【0093】
y=-0.0014x+3.1764
上記式に基づいて、得られるKAM値は以下の通りであることが認められた。すなわち、焼鈍温度が550℃である場合のKAM値は2.41°であり、焼鈍温度が500℃である場合のKAM値は2.48°であり、焼鈍温度が450℃である場合のKAM値は2.55°であることが認められた。また、焼鈍温度が400℃である場合のKAM値は2.62°であり、焼鈍温度が350℃である場合のKAM値は2.69°であり、焼鈍温度が300℃である場合のKAM値は2.76°であることが認められた。
【0094】
テンションアニールでの焼鈍温度が300℃以上である場合に、メタルマスク用基材に対するウェットエッチング後においてメタルマスク用基材に反りが生じることが抑えられるから、メタルマスク用基材の反りを抑える観点では、KAM値が2.76°以下であることが好ましいといえる。
【0095】
以上説明したように、メタルマスク用基材、メタルマスク用基材の製造方法、および、メタルマスクの製造方法の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)メタルマスク用基材10のKAM値が2.18°以上であることによって、メタルマスク用基材10に複数の貫通孔を形成した際に、複数の貫通孔のうちの一部の貫通孔が大きくなることが抑えられる。
【0096】
(2)メタルマスク用基材10のKAM値が2.76°以下である場合には、メタルマスク用基材10のウェットエッチング後においてメタルマスク用基材の反りが生じない程度に、メタルマスク用基材の残留ひずみを抑えることが可能である。
【0097】
(3)メタルマスク用基材10の裏面10Rに形成される開口の面積が1600μm以下である場合には、開口を形成するための第2レジストパターンRP2が有する開口の面積も微小であり、これによって第2レジストパターンRP2の開口にエッチング液が浸入しにくい。結果として、メタルマスク用基材10の面内においてエッチングのばらつきが生じやすいから、メタルマスク用基材10のKAM値が2.18°以上であることによる効果をより顕著に得ることができる。
【0098】
上述した実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
[用途]
・メタルマスクは、有機EL表示装置が備える画素の形成に用いられるメタルマスクに限らない。メタルマスクは、例えば、有機EL表示装置以外の電子機器や電子部品に用いられるパターンを形成するためのマスクであってもよい。メタルマスクの用い方は、蒸着法でもよいしスパッタ法でもよい。なお、メタルマスクが備える貫通孔は、裏面と対向する平面視において、メタルマスクを用いて形成されるパターンに応じた配列を有してよい。こうしたメタルマスクによれば、パターンの高精細化が可能であるから、ひいては、高精細なパターンを必要とする電子機器や電子部品の小型化、軽量化、薄型化を実現することが可能にもなる。
【符号の説明】
【0099】
10…メタルマスク用基材
10A…主層
10B1…第1表層
10B2…第2表層
10F…表面
10R…裏面
20…メタルマスク
20H…貫通孔
図1
図2
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図5
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図10
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