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特開2024-1434マリンホースの流体漏れ検知システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001434
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】マリンホースの流体漏れ検知システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 55/00 20060101AFI20231227BHJP
   F17D 5/06 20060101ALI20231227BHJP
   F16L 11/12 20060101ALI20231227BHJP
   F16L 11/133 20060101ALI20231227BHJP
   G01M 3/16 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F16L55/00 D
F17D5/06
F16L11/12 H
F16L11/133
G01M3/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100069
(22)【出願日】2022-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和4年5月13日、掲載場所:横浜ゴム株式会社のウェブサイト https://www.y-yokohama.com/release/?id=3804
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 裕輔
【テーマコード(参考)】
2G067
3H111
3J071
【Fターム(参考)】
2G067AA17
2G067CC03
2G067DD23
3H111AA02
3H111DA24
3H111DB08
3H111DB27
3J071CC07
3J071EE33
3J071EE37
3J071FF02
(57)【要約】
【課題】様々なタイプのマリンホースの流体漏れの有無を精度よく検知できるマリンホースの流体漏れ検知システムおよび方法を提供する。
【解決手段】パッシブ型のICタグ11に接続されたループ回路17を形成する検出素子15として、流体Lが含侵することで電気抵抗値が基準以上に変化する導電ゴムまたは導電ペーストを採用して、内面層3と第一補強層4との間でホース本体の長手方向に連続して延在させ、ICタグ11をマリンホース1の表面に配置し、通信機19から送信した発信電波R1によりICタグ11を起動させた際のループ回路17での電気抵抗値データDrを、発信電波R1に応じてICタグ11から送信される返信電波R2によって通信機19に送信して演算装置20に入力し、電気抵抗値データDrと基準抵抗値データDcとの差異の大きさに基づいて流体Lの漏れの有無を判断する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの流体漏れ検知システムにおいて、
前記マリンホースと、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続された検出素子により形成されたループ回路を有する検知器と、前記マリンホースの外側に配置されて前記ICタグと無線通信する通信機と、前記通信機による取得データが入力される演算装置とを備えて、
前記ICタグが前記マリンホースの表面に配置されていて、前記検出素子が、前記流路を流れる流体が含侵することにより電気抵抗値が予め設定された基準以上に変化する導電ゴムまたは導電ペーストにより形成されて、前記内面層と前記補強層との間で前記ホース本体の長手方向に連続して延在していて、
前記通信機から送信された発信電波により前記ICタグが起動し、起動した前記ICタグから前記発信電波に応じて返信電波が送信されることにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信が行われ、
前記ICタグが起動した際の前記ループ回路での電気抵抗値データが前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信されて前記取得データとして前記演算装置に入力されて、入力された前記取得データと予め設定されている基準抵抗値データとの差異の大きさに基づいて前記流路からの前記流体の漏れの有無が前記演算装置により判断されるマリンホースの流体漏れ検知システム。
【請求項2】
前記ループ回路が前記ホース本体に対してスパイラル状に巻回されて延在している請求項1に記載のマリンホースの流体漏れ検知システム。
【請求項3】
前記ループ回路を複数有して、それぞれの前記ループ回路が前記ホース本体に対して周方向に間隔をあけて配置されて前記ホース本体の長手方向に直線状に延在している請求項1に記載のマリンホースの流体漏れ検知システム。
【請求項4】
前記マリンホースが前記補強層として1つの補強コード層群のみを有するシングルカーカスタイプであり、前記ループ回路が前記内面層の外周面に配置されている請求項1~3のいずれかに記載のマリンホースの流体漏れ検知システム。
【請求項5】
前記マリンホースが流体滞留層を介在させて前記ホース本体の半径方向に間隔をあけて積層された2つの前記補強層を有するタブルカーカスタイプであり、前記ループ回路が前記内面層の外周面または前記流体滞留層に配置されている請求項1~3のいずれかに記載のマリンホースの流体漏れ検知システム。
【請求項6】
内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの流体漏れ検知方法において、
パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続された検出素子により形成されたループ回路を有する検知器と、前記マリンホースの外側に配置されて前記ICタグと無線通信する通信機と、この通信機による取得データが入力される演算装置とを用いて、
前記ICタグを前記マリンホースの表面に配置し、前記検出素子を、前記流路を流れる流体が含侵することにより電気抵抗値が予め設定された基準以上に変化する導電ゴムまたは導電ペーストにより形成して、前記内面層と前記補強層との間で前記ホース本体の長手方向に連続して延在させ、
前記通信機から送信した発信電波により前記ICタグを起動させ、前記発信電波に応じて返信電波を前記ICタグから前記通信機に送信することにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信を行い、前記ICタグを起動させた際の前記ループ回路での電気抵抗値データを、前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信して前記取得データとして前記演算装置に入力し、
入力された前記取得データと予め設定されている基準抵抗値データとの差異の大きさに基づいて前記流路からの前記流体の漏れの有無を前記演算装置により判断するマリンホースの流体漏れ検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マリンホースの流体漏れ検知システムおよび方法に関し、さらに詳しくは、様々なタイプのマリンホースの流体漏れの有無を精度よく検知できるマリンホースの流体漏れ検知システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆるダブルカーカスタイプのマリンホースでは、ホース半径方向に間隔をあけて積層された補強層どうしの間に形成された流体滞留層に、流路から漏出した流体を一時的に貯留してホース外部への漏出を防止するようにしている。この流体滞留層に配置されたICタグを利用して流体が漏出したことを検知する流体漏れ検知システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、マリンホースには流体滞留層を備えていないシングルカーカスタイプが存在している。シングルカーカスタイプのマリンホースにおいても、流路からの流体の漏出を検知できることが望ましいが、適切な検知手段が確立されていない。それ故、様々なタイプのマリンホースの流体漏れの有無を精度よく検知するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-133766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、様々なタイプのマリンホースの流体漏れの有無を精度よく検知できるマリンホースの流体漏れ検知システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のマリンホースの流体漏れ検知システムは、内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの流体漏れ検知システムにおいて、前記マリンホースと、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続された検出素子により形成されたループ回路を有する検知器と、前記マリンホースの外側に配置されて前記ICタグと無線通信する通信機と、前記通信機による取得データが入力される演算装置とを備えて、前記ICタグが前記マリンホースの表面に配置されていて、前記検出素子が、前記流路を流れる流体が含侵することにより電気抵抗値が予め設定された基準以上に変化する導電ゴムまたは導電ペーストにより形成されて、前記内面層と前記補強層との間で前記ホース本体の長手方向に連続して延在していて、前記通信機から送信された発信電波により前記ICタグが起動し、起動した前記ICタグから前記発信電波に応じて返信電波が送信されることにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信が行われ、前記ICタグが起動した際の前記ループ回路での電気抵抗値データが前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信されて前記取得データとして前記演算装置に入力されて、入力された前記取得データと予め設定されている基準抵抗値データとの差異の大きさに基づいて前記流路からの前記流体の漏れの有無が前記演算装置により判断されることを特徴とする。
【0007】
本発明のマリンホースの流体漏れ検知方法は、内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの流体漏れ検知方法において、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続された検出素子により形成されたループ回路を有する検知器と、前記マリンホースの外側に配置されて前記ICタグと無線通信する通信機と、この通信機による取得データが入力される演算装置とを用いて、前記ICタグを前記マリンホースの表面に配置し、前記検出素子を、前記流路を流れる流体が含侵することにより電気抵抗値が予め設定された基準以上に変化する導電ゴムまたは導電ペーストにより形成して、前記内面層と前記補強層との間で前記ホース本体の長手方向に連続して延在させ、前記通信機から送信した発信電波により前記ICタグを起動させ、前記発信電波に応じて返信電波を前記ICタグから前記通信機に送信することにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信を行い、前記ICタグを起動させた際の前記ループ回路での電気抵抗値データを、前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信して前記取得データとして前記演算装置に入力し、入力された前記取得データと予め設定されている基準抵抗値データとの差異の大きさに基づいて前記流路からの前記流体の漏れの有無を前記演算装置により判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記ICタグを前記マリンホースの表面に配置し、前記ループ回路を前記内面層と前記補強層との間で前記ホース本体の長手方向に連続して延在させることにより前記検知器を前記マリンホースに設置するので、いわゆる、シングルカーカスタイプとダブルカーカスタイプのいずれのタイプにも前記検知器を設置できる。そして、前記流路から前記流体が内面層の外周側に漏出して前記ループ回路を形成している前記検出素子に含侵すると、前記発信電波により前記ICタグを起動させた際の前記ループ回路での電気抵抗値が、予め設定された基準以上に大きく変化する。それ故、前記取得データとして前記演算装置に入力された前記電気抵抗値データと予め設定されている基準抵抗値データとの差異の大きさに基づいて、前記流路からの前記流体の漏れの有無を精度よく把握することが可能になる。前記電気抵抗値データは、前記通信機からの発信電波に応じてパッシブ型の前記ICタグから前記通信機に送信される前記返信電波を利用して無線通信によって取得できるので、流体漏れの確認作業の軽労化にも大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】検知システムの実施形態が適用されたマリンホースを例示する説明図である。
図2図1のマリンホースの一部を拡大して縦断面視で例示する説明図である。
図3図2のA-A断面視でマリンホースの一部を例示する説明図である。
図4】検知器を上面視で例示する説明図である。
図5図4の検知器を側面視で例示する説明図である。
図6図2のケーシングおよび検知器を縦断面視で例示する説明図である。
図7】ループ回路の配置をマリンホースの一部を切欠いて上面視で例示する説明図である。
図8】検知器の変形例を上面視で示す説明図である。
図9図8の検知器のループ回路の配置をマリンホースの一部を切欠いて上面視で例示する説明図である。
図10図9のB-B断面図である。
図11】検知システムが適用された別のマリンホースの一部を拡大して縦断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のマリンホースの流体漏れ検知システム(以下、検知システムという)および方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1に例示する検知システムの実施形態は、水面に浮かんだ状態で使用されるフローティング仕様のマリンホース1に適用されて、流路1aからの流体Lの漏れの有無を検知する。マリンホース1は、円筒状のホース本体と、このホース本体の長手方向両端にそれぞれ連接された連結金具2と、で構成されている。それぞれの連結金具2は、ホース本体の長手方向に延在するニップル2bと、ニップル2bの長手方向一端に接合されたフランジ2aとを有している。マリンホース1どうしは互いの連結金具2を介して連結され、一般的には10本程度のマリンホース1が連結されて使用される。
【0012】
図2図3に例示するように、マリンホース1の長手方向両端のニップル2bの間のホース本体には、内周側から外周側に向かって、内面層3、第一補強層4、浮力層8、外面層9が順に積層されている。このホース本体は後述する流体滞留層7を有していないので、このマリンホース1はシングルカーカスタイプである。内面層3の内周側領域が流体Lの流路1aになる。流体Lとしては、原油、重油、ガソリン、LPG、水、海水、薬品(ガソリンから精製されたアルコール類)等を例示できる。
【0013】
内面層3は、流体Lの種類に応じて適切な材質が選択され、流体Lに対する耐久性および耐浸食性に優れた材質により構成されている。流体Lが原油、重油、ガソリン等の場合は、内面層3は耐油性に優れたニトリルゴム等で構成される。
【0014】
第一補強層4は、並列した多数の補強コードがゴムで被覆された補強コード層4A~4Hが複数積層されて構成されている。この実施形態では、8層の補強コード層4A~4Hが積層された1つの補強コード層群が第一補強層4になっているが、補強コード層4A~4Hの積層数はマリンホース1に対する要求性能に基づいて適宜決定される。第一補強層4は、両端部にあるニップルワイヤ4wと、それぞれのニップル2bの外周面に突設された固定リング2c等を用いて、それぞれのニップル2bに固定されている。
【0015】
浮力層8は、スポンジゴムや発泡ポリウレタン等のマリンホース1を海上に浮上させる浮力を発揮する材料で構成されている。外面層9は、ゴム等の非透水性材料で構成されていて、かつ、その表面には視認性に優れたライン模様等が付される。
【0016】
この検知システムは、マリンホース1と、検知器10と、通信機19と、演算装置20とを備えている。通信機19はマリンホース1とは分離してマリンホース1の外側に配置される。この実施形態では、通信機19と演算装置20とが一体化されているが、それぞれを分離独立した構成にすることもできる。
【0017】
図4図5に例示するように検知器10は、パッシブ型のICタグ11およびICタグ11に接続されたループ回路17を有している。ICタグ11は、マリンホース1の表面に配置されて水上に位置する。ループ回路17は検出素子15により形成されていて、内面層3と第一補強層4との間でホース本体の長手方向に連続して延在する。
【0018】
詳述すると、ICタグ11は、ICチップ12と、ICチップ12に接続されたアンテナ部13とを有している。ICチップ12およびアンテナ部13は、基板14の上に配置されている。ICチップ12およびアンテナ部13は絶縁層14aによって覆われていて、ICタグ11の全体は外部と電気的に絶縁されている。ただし、ICタグ11と検出素子15とは電気的に通電可能に接続されている。絶縁層14aは例えば絶縁ゴム、ポリエステルなどの樹脂、天然繊維などの公知の絶縁材料によって形成される。
【0019】
ICチップ12には、そのICタグ11の識別番号などのタグ固有情報、ICタグ11に接続される検出素子15を特定する素子識別情報、その他に必要な情報が任意で記憶されている。アンテナ部13は公知の種々のタイプを用いることができるが、この実施形態ではICチップ12から左右対称に延在するダイポールアンテナが採用されている。このアンテナ部13は、限られたスペースで延在長さを大きくするように適宜折り返した形状になっている。
【0020】
ICタグ11には一般に流通している仕様が採用され、例えばRFIDタグを用いることができる。ICチップ12のサイズは非常に小さく、例えば、縦寸法および横寸法がそれぞれ50mm以下(外径相当で50mm以下)、厚みが5mm以下である。アンテナ部13のサイズも非常に小さく、例えば、縦寸法および横寸法がそれぞれ50mm以下(外径相当で50mm以下)、厚みが10mm以下である。
【0021】
検出素子15は、導電性を有する線状体であり、流路1aを流れる流体Lが含侵することにより電気抵抗値が予め設定された基準以上に変化する導電ゴムまたは導電ペースト(金属粒子を含有するペースト)により形成されている。流体Lの含侵の有無に応じた検出素子15の電気抵抗値の違いが過小であると、流体Lの漏れを検知する感度が低くなる。そのため、流体Lが含侵した場合は含侵していない場合に対して検出素子15の電気抵抗値の違いがより大きいことが好ましい。そこで、流体Lが含侵していない状態の検出素子15の単位断面積で単位長さ当たりの電気抵抗値を基準にして、流体Lが含侵した場合の検出素子15の単位断面積で単位長さ当たりの電気抵抗値を、例えばこの基準の2倍以上、好ましくは3倍以上、より好ましくは5倍以上にする。尚、この流体Lが含侵した場合の電気抵抗値は、直線状態の検出素子15の外周面全体に流体Lが付着している状態で測定した値とする。上述のように流体Lが含侵することで検出素子15の電気抵抗値を予め設定された基準以上にするには、例えば検出素子15の導電成分と絶縁成分との含有比率を調整する。
【0022】
マリンホース1の局部的な屈曲に伴い、検出素子15が屈曲されると検出素子15の電気抵抗値はある程度大きくなる。それ故、検出素子15の電気抵抗値の変化が、検出素子15に流体Lが含侵したことが原因であるのか、検出素子15が屈曲したことが原因であるのか曖昧になる。そのため、検出素子15が屈曲していていない場合に対して屈曲している場合の電気抵抗値の違いがより小さいことが好ましい。そこで、直線状態の検出素子15の単位断面積で単位長さ当たりの電気抵抗値を基準にして、屈曲した状態の検出素子15の単位断面積で単位長さ当たりの電気抵抗値を、例えばこの基準の1.5倍以下、好ましくは1.3倍以下、より好ましくは1.1倍以下にする。尚、この検出素子15が屈曲した状態の電気抵抗値は、検出素子15を90°屈曲した状態で測定した値とする。上述のように屈曲状態の検出素子15の電気抵抗値を、予め設定された基準以下にするには、例えば検出素子15の弾性成分の含有比率を調整する。
【0023】
検出素子15の外径(幅)は例えば1mm以上20mm以下、より好ましくは5mm以上10mm以下である。検出素子15は、単純な断面円形の線材でもよいが、扁平した線状体(帯状の線材)にすることが好ましい。
【0024】
検出素子15は、外周面が絶縁体16により被覆されていて、検出素子15は外部と電気的に絶縁されている。絶縁体16は、絶縁層14aと同様に公知の絶縁材料によって形成される。ただし、絶縁体16は流体Lが浸透する材質で形成され、或いは、貫通孔を有していて、流体Lは絶縁体16を通過して検出素子15に到達可能になっている。
【0025】
検出素子15の長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、ICチップ12と通電可能に接続されて、ICタグ11の外部でループ回路17を形成している。ループ回路17で平行に延在する検出素子15どうしの間隔は例えば5mm以上50mm以下である。ICタグ11(基板14)には、ICチップ12に接続された多数の一対の端子が設けられている。検出素子15の長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、この一対の端子に接続されることでICチップ12と電気的に接続されている。検出素子15と一対の端子とは、ハトメおよび圧着端子を用いて接続したり、導電性接着剤、溶接、ハンダなどで接続する。この実施形態では、一対の端子が5つ設けられているが、ICタグ11(基板14)に設けられる一対の端子の数は特に限定されず1個でもよい。スペースの制約があるため、1つのICタグ11(基板14)に設けられる一対の端子の数は、例えば1個~6個程度である。
【0026】
ICタグ11は、マリンホース1の長手方向端部に配置することが好ましい。ループ回路17(検出素子15)は、ホース本体の長手方向一端部から他端部まで連続して延在させてホース本体の全長を網羅させることが好ましい。この実施形態では、ホース本体の長手方向一方端部の連結金具2の表面(ニップル2bの外周面)にICタグ11が配置されている。詳述すると、図6に例示するようにICタグ11は、ケーシング18の内部に設置されている。ケーシング18は、筒状のベース部18aと、ベース部18aの上端部に取付けられる蓋部18bとを有している。
【0027】
ベース部18aは、外面層9に被覆されたニップル2bの外周面に立設されている。ベース部18aは例えばステンレス鋼などの金属で形成される。蓋部18bは、ベース部18aの上端部と螺合してその上端開口を水密に塞ぎ、ICタグ11はケーシング18の水密に塞がれた内部空間に配置されている。蓋部18bは、発信電波R1および返信電波R2を透過させる材質で形成されていて、その材質として例えばポリカーボネート、ポリアミド、エポキシ樹脂などが採用される。ケーシング18(蓋部18b)は海洋で目立つように例えばオレンジ色にするとよい。
【0028】
検出素子15(ループ回路17)は、ケーシング18の内部からホース本体に向かって延在し、ホース本体では内面層3と第一補強層4との間に配置されてホース本体の長手方向一端部から他端部に連続して延在している。この実施形態では、図7に例示するようにループ回路17は、ホース本体に対してスパイラル状に巻回されてホース本体の長手方向一方端部から他方端部まで延在している。即ち、ループ回路17は内面層3の外周面にスパイラル状に巻き付けられている。ループ回路17のスパイラルピッチは例えば20cm以上50cm以下である。尚、図中の一点鎖線CLは、マリンホース1(ホース本体)の横断面中心CLを通る軸心である。ループ回路17をこのようにスパイラル状にして延在させると、1つのループ回路17であってもホース本体の全範囲を効率的に網羅できるメリットがある。
【0029】
通信機19は、電波発信部19aおよび電波受信部19bを備えている。電波発信部19aからICタグ11に対して発信電波R1が送信され、ICタグ11から送信された返信電波R2が電波受信部19bにより受信される。発信電波R1によりICタグ11が起動し、起動したICタグ11から発信電波R1に応じて返信電波R2が送信されることによりICタグ11と通信機19との間で無線通信が行われる。
【0030】
通信機19としては、パッシブ型のRFIDタグとの間で無線通信を行うことができる一般に流通している仕様が採用される。これにより、ICタグ11と通信機19とがRFID(RadioFrequencyIDentification)システムを構成する。パッシブ型のICタグ11を使用するので、ICタグ11と通信機19との間の電波R1、R2の通信距離は例えば数十cm~数m程度になる。
【0031】
ICタグ11と通信機19との間での無線通信に使用される電波(R1、R2)の周波数は主にUHF帯(国によって異なるが860MHz以上930MHz以下の範囲、日本では915MHz以上930MHz)であり、HF帯(13.56MHz)が用いられることもある。通信機19には例えばモニタなどが付設されることもある。
【0032】
演算装置20は、入力されたデータを用いて様々な演算処理を行う。演算装置20としては公知のコンピュータが用いられ、演算装置20には基準抵抗値データDcが予め入力されている。この基準抵抗値データDcとは、流路1aから流体Lが漏出していないマリンホース1が健全な状態において、ICタグが起動した際のループ回路17での電気抵抗値である。基準抵抗値データDcは事前テストなどを行って把握、決定される。演算装置20には通信機19による取得データも入力される。演算装置20には例えばモニタなどの出力手段が接続される。
【0033】
以下、この検知システムを使用して流路1aから流体Lの漏れが生じているか否かを判断する検知の手順の一例を説明する。
【0034】
例えば作業者は、流体Lの漏れ確認作業のために定期的に、或いは、必要な時期に作業船などに乗ってマリンホース1に近づいて、通信機19をICタグ11と無線通信可能な確認位置にセットする。この確認位置では、図2に例示するように電波発信部19aからICタグ11に向かって発信電波R1を送信し、この発信電波R1を利用してICタグ11に電力を生じさせて起動させる。
【0035】
詳述すると、アンテナ部13が受信した発信電波R1によって、ICタグ11には電力が発生してICタグ11が起動する。起動したICタグ11はこの電力によってアンテナ部13を通じて返信電波R2を送信し、この返信電波R2を電波受信部19bが受信する。ICタグ11が起動した際にループ回路17には電流が流れてループ回路17での電気抵抗値データDrがICタグ11に記憶される。この電気抵抗値データDrは、返信電波R2によってICタグ11から通信機19に送信される。この電気抵抗値データDrは電波受信部19bにより受信され、その後、通信機19による取得データとして演算装置20に入力される。
【0036】
演算装置20は、入力された電気抵抗値データDrと予め設定されている基準抵抗値データDcとの差異の大きさに基づいて流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断する。内面層3が健全で流体Lが内面層3から漏出していない場合は、ループ回路17の電気抵抗値データDrと基準抵抗値データDcとは実質的に同じであり殆ど差異がない。
【0037】
一方、内面層3が破損して、流体Lが流路1aから内面層3の外側に漏出していると、流体Lがループ回路17を形成している検出素子15に接触してループ回路17の電気抵抗値が急速に大きく変動して(極めて大きくなって)、絶縁状態または絶縁に近い状態になる。即ち、ICタグ11が起動した際のループ回路17の電気抵抗値データDrは、基準抵抗値データDcに比して著しく大きくなる。
【0038】
そこで演算装置20は、入力された電気抵抗値データDrと基準抵抗値データDcとを比較する。その結果、電気抵抗値データDrが基準抵抗値データDcに対して許容範囲ARを超えて大きい場合は、流体Lが流路1aから漏れていると判断し、その結果をモニタ表示や音声で知らせる。電気抵抗値データDrが基準抵抗値データDcに対して許容範囲AR内の差異の場合は、流体Lが流路1aから漏れていないと判断し、その結果を例えばモニタ表示により知らせる。
【0039】
このようにして、電波受信部19bにより受信された電気抵抗値データDrと基準電気抵抗値データDcとの差異の大きさに基づいて、流体Lの漏れの有無を精度良く判断することができる。この許容範囲ARは、事前テストなどを行って適切に設定すればよい。この実施形態によれば、内面層3に亀裂が入って流体Lが内面層3の外周面に沿って徐々に漏出する微小な漏れを精度良く検知できる。
【0040】
演算装置20は、マリンホース1の使用現場とは離れた位置(遠隔地)にあるコンピュータやスマートフォンなどの端末機器に対してインターネットなどの通信網を介して接続された構成にすることもできる。この構成によれば、演算装置20は通信網を通じて、電気抵抗値データDrや演算装置20による判断結果(流体Lの漏れの有無)をマリンホース1の使用現場に対して離れた位置にある端末機器に対して送信できる。例えば、マリンホース1の使用現場に対して遠隔地にあるマリンホース1の運用会社(ユーザ)の管理室、マリンホース1の販売会社、製造会社などの関係者の端末機器に電気抵抗値データDrや演算装置20による判断結果が送信されて、これら関係者はマリンホース1の使用場所に対して遠隔地に居ながらマリンホース1の状況を把握できる。
【0041】
図8に例示する検知器10を用いることもできる。この検知器10は、1個のICタグ11に対して複数本(4本)の検出素子15a、15b、15c、15dが接続されている。それぞれの検出素子15a、15b、15c、15dの外周面は絶縁体16により被覆されている。それぞれの検出素子15a、15b、15c、15dは、独立したループ回路17a、17b、17c、17dを形成している。したがって、1個のICタグ11には複数(4つ)の独立したループ回路17a~17dが接続されている。
【0042】
図9図10に例示するように、この検知器10を備えたマリンホース1では、独立したそれぞれのループ回路17a~17dがホース本体に対して周方向に間隔をあけて配置されて、ホース本体の長手方向に直線状に延在している。それぞれのループ回路17a~17dはホース本体の周方向に等間隔で配置されることが好ましい。
【0043】
この検知器10を使用すると、1つのループ回路17が何らかの理由によって故障しても他のループ回路17によって流体Lの漏れの有無を検知できるメリットがある。また、ループ回路17をスパイラル状の延在させる場合に比して、それぞれのループ回路17a~17dの全長を短くできるので、それぞれのループ回路17a~17dでの電気抵抗値の変化をより敏感に(高感度で)検知するには有利になる。尚、この検知器10を使用する場合に、それぞれのループ回路17a~17dをホース本体の長手方向にずらしてホース本体に対してスパイラル状に巻回して延在させることもできる。
【0044】
既述した検知システムは、シングルカーカスタイプのマリンホース1に限らず、ホース本体に流体滞留層7を有するタブルカーカスタイプのマリンホース1に適用することもできる。図11に例示するマリンホース1のホース本体には、内周側から外周側に向かって、内面層3、第一補強層4、本体ワイヤ層5、流体滞留層7、第二補強層6、浮力層8、外面層9が順に積層されている。このマリンホース1は、流体滞留層7を介在させてホース本体の半径方向に間隔をあけて積層された第一補強層4および第二補強層6を有するタブルカーカスタイプである。本体ワイヤ層5は任意で設けることができる。
【0045】
第一補強層4、第二補強層6はそれぞれ、並列した多数の補強コードがゴムで被覆された補強コード層が複数積層されて構成されている。本体ワイヤ層5は、第一補強層4の外周面に金属ワイヤが所定間隔をあけて螺旋状に巻付けられて構成されている。第一補強層4、本体ワイヤ層5、第二補強層6は、それぞれの両端部にあるニップルワイヤ4w、5w、6wと、ホース本体の両端部のニップル2bの外周面に突設された固定リング2c等を用いて、それぞれのニップル2bに固定されている。第一補強層4と第二補強層6との間に形成されている流体滞留層7は、流路1aから漏出した流体Lを貯留する空間になっている。
【0046】
このマリンホース1では、ループ回路17は流体滞留層7の内部に配置されている。したがって、内面層3が損傷して漏出した流体Lが本体ワイヤ層5を通過して流体滞留層7に流入すると、流体Lがループ回路17を形成している検出素子15に接触してループ回路17の電気抵抗値が急速に大きく変動して(極めて大きくなって)、絶縁状態または絶縁に近い状態になる。即ち、ICタグ11が起動した際のループ回路17の電気抵抗値データDrは、基準抵抗値データDcに比して著しく大きくなる。内面層3が健全で流体Lが内面層3から漏出していない場合は、ループ回路17の電気抵抗値データDrと基準抵抗値データDcとは殆ど差異がない。したがって、既述したように、電波受信部19bにより受信された電気抵抗値データDrと基準電気抵抗値データDcとの差異の大きさに基づいて、流体Lの漏れの有無を精度よく判断することができる。
【0047】
流体滞留層7の一部に流体Lが流入すると、流体Lは次第に流体滞留層7の全長に行き渡る。そのため、流体滞留層7の内部にループ回路17を配置する場合は、ループ回路17をそれ程長く延在させなくてもよい。そこで、ループ回路17は、ホース本体の長手方向一端からホース本体の全長の例えば20%以上50%以下の位置まで連続して延在させる。
【0048】
このマリンホース1においても、図2に例示したマリンホース1と同様に、ループ回路17が内面層3の外周面に配置された仕様にすることもできる。ループ回路17を内面層3の外周面に配置する場合は、ホース本体の長手方向一端部から他端部に連続して延在させることが好ましい。また、このマリンホース1においても、ループ回路17は図7に例示するように、ホース本体に対してスパイラル状に巻回されて延在している仕様にすることも、図9図10に例示するように、複数のループ回路17がホース本体に対して周方向に間隔をあけて配置されてホース本体の長手方向に直線状に延在している仕様にすることもできる。
【0049】
上述したように、この検知システムは、いわゆる、シングルカーカスタイプとダブルカーカスタイプのいずれのタイプのマリンホース1にも適用できるので高い汎用性を有している。また、電気抵抗値データDrは、通信機19からの発信電波R1に応じてICタグ11から通信機19に送信される返信電波R2を利用して無線通信によって取得できるので、流体漏れの確認作業の軽労化にも大きく寄与する。パッシブ型のICタグ11を用いるので、ICタグ11のバッテリの消耗具合を監視する作業も不要になる。
【符号の説明】
【0050】
1 マリンホース
1a 流路
2 連結金具
2a フランジ
2b ニップル
2c 固定リング
3 内面層
4 第一補強層
4A~4H 補強コード層
4w ニップルワイヤ
5 本体ワイヤ層
5w ニップルワイヤ
6 第二補強層
6w ニップルワイヤ
7 流体滞留層
8 浮力層
9 外面層
10 検知器
11 ICタグ
12 ICチップ
13 アンテナ部
14 基板
14a 絶縁層
15(15a、15b、15c、15d) 検出素子
16 絶縁体
17(17a、17b、17c、17d) ループ回路
18 ケーシング
18a ベース部
18b 蓋部
19 通信機
19a 電波発信部
19b 電波受信部
20 演算装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11