IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 理想科学工業株式会社の特許一覧

特開2024-143410水性顔料分散体の製造方法、水性インクジェットインクの製造方法、及び水性顔料複合体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143410
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水性顔料分散体の製造方法、水性インクジェットインクの製造方法、及び水性顔料複合体
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20241003BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20241003BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20241003BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20241003BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241003BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/326
C09C3/10
C09C3/08
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056071
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】浜田 司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正規
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056FC02
2H186BA08
2H186DA10
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB48
2H186FB50
2H186FB55
2H186FB58
4J037AA02
4J037AA30
4J037CB09
4J037CC17
4J037EE08
4J037EE28
4J037FF23
4J039AD21
4J039BE01
4J039BE22
4J039EA44
4J039EA48
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れるインクを提供可能な水性顔料分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】高分子化合物と顔料と水とを含む混合物に、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を添加することを含み、高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含む、水性顔料分散体の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物と顔料と水とを含む混合物に、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を添加することを含み、
前記高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含む、水性顔料分散体の製造方法。
【請求項2】
前記高分子化合物のβ-ジカルボニル基に対する前記(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物の(メタ)アクリロイル基の割合で表される架橋度が下記式を満たす、請求項1に記載の水性顔料分散体の製造方法。
架橋度=((メタ)アクリロイル基のモル濃度)/(β-ジカルボニル基のモル濃度))×100=50~200(%)
【請求項3】
前記顔料に前記高分子化合物が吸着した状態で、前記高分子化合物と前記(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物とを架橋反応させる、請求項1に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法にしたがって前記水性顔料分散体を製造すること、及び前記水性顔料分散体に水溶性有機溶剤及び界面活性剤を添加することを含む、水性インクジェットインクの製造方法。
【請求項5】
顔料と、高分子化合物と、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物とを含む顔料複合体であって、
前記高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含み、前記顔料に前記高分子化合物が吸着し、前記顔料の表面において前記高分子化合物のβ-ジカルボニル基に前記(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物が結合し架橋構造を形成する、水性顔料複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水性顔料分散体の製造方法、水性インクジェットインクの製造方法、及び水性顔料複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは、流動性の高い液体インクを微細なノズルから噴射し、基材に付着させて印刷を行う印刷システムである。このシステムは、比較的安価な装置で、高解像度、高品位の画像を、高速かつ低騒音で印刷可能という特徴を有する。インクとしては、安価に高画質の印刷物が得られることから、水性タイプのインクが普及している。水性インクは、水分を含有することにより乾燥性を高めたインクであり、さらに環境性に優れるという利点もある。一方で、水性インクは、溶媒が水及び水溶性有機溶剤であるため、水性インク中に顔料を微細に分散させ、さらに顔料の分散安定性を確保することは難しく、技術開発が望まれる。
【0003】
特許文献1には、カルボキシ基を含むモノマー等の所定のモノマーを含むモノマー混合物の共重合体であって架橋構造を有する分散剤を用いて、水性インクジェットインク中で顔料を分散させ、保存安定性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-135519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水性インクは表面張力が高く基材によっては濡れにくい傾向がある。この対策として、低極性の水溶性有機溶剤を水性インクに添加することで基材への濡れ性を改善する方法がある。このように水溶性有機溶剤の種類が異なる水性インクを提供するために、予め水性顔料分散体を準備しておき、各種の基材に適する水溶性有機溶剤及び界面活性剤等と組み合わせて、水性インクを提供する方法がある。この際に、水溶性有機溶剤及び界面活性剤等の種類によって、水性インクの増粘又はゲル化が発生することがあり、改善が期待されている。
【0006】
本発明の一目的としては、保存安定性に優れるインクを提供可能な水性顔料分散体の製造方法及びこれを用いる水性インクジェットインクの製造方法、並びに水性顔料複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、高分子化合物と顔料と水とを含む混合物に、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を添加することを含み、前記高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含む、水性顔料分散体の製造方法が提供される。
【0008】
他の実施形態によれば、上記製造方法にしたがって前記水性顔料分散体を製造すること、及び前記水性顔料分散体に水溶性有機溶剤及び界面活性剤を添加することを含む、水性インクジェットインクの製造方法が提供される。
【0009】
さらに他の実施形態によれば、顔料と、高分子化合物と、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物とを含む顔料複合体であって、前記高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含み、前記顔料に前記高分子化合物が吸着し、前記顔料の表面において前記高分子化合物のβ-ジカルボニル基に前記(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物が結合し架橋構造を形成する、水性顔料複合体が出提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、保存安定性に優れるインクを提供可能な水性顔料分散体の製造方法及びこれを用いる水性インクジェットインクの製造方法、並びに水性顔料複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をいくつかの実施形態を用いて説明する。本発明は以下の実施形態における例示によって限定されるものではない。
【0012】
(水性顔料分散体の製造方法)
一実施形態による水性顔料分散体の製造方法は、高分子化合物と顔料とを含む混合物に、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を添加することを含み、高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含むことを特徴とする。
【0013】
以下、水性顔料分散体を単に「顔料分散体」又は「分散体」と称することがあり、水性インクジェットインクを単に「水性インク」又は「インク」と称することがある。また、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を単に「多官能化合物」と称することがある。
【0014】
本明細書において、(メタ)アクリロイル基はメタクリル基、アクリロイル基、又はこれらの組み合わせを総称して意味し、(メタ)アクリル酸はメタクリル酸、アクリル酸、又はこれらの組み合わせを総称して意味し、(メタ)アクリレートはメタクリレート、アクリレート、又はこれらの組み合わせを総称して意味する。類似の表記も同様に扱う。
【0015】
一実施形態によれば、保存安定性に優れるインクを提供可能な水性顔料分散体の製造方法及びこれを用いる水性インクジェットインクの製造方法を提供することができる。この理由について以下に説明するが、本発明は以下の理論に拘束されるものではない。
【0016】
水性インク中に顔料を分散させる方法として顔料分散剤を用いる方法、顔料を樹脂で被覆したカプセル化顔料を用いる方法等がある。これらに用いられる高分子化合物が水性インクの水性媒体に溶出すると、水性インクが増粘又はゲル化するという問題がある。一実施形態の製造方法にしたがって製造される水性顔料分散体及びこれを用いる水性インクでは、高分子化合物によって顔料分散性を高めながら、高分子化合物の水性媒体への溶出を抑制することができる。水性インクが水溶性有機溶剤、特に低極性の水溶性有機溶剤を含む場合は、これらの溶剤に高分子化合物が溶解しやすくなる。この場合においても、一実施形態によれば、高分子化合物の溶出を抑制することができ、保存安定性を良好に維持することができる。
【0017】
水性顔料分散体において、高分子化合物はβ-ジカルボニル基と、カルボキシル基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含むことで、顔料の分散剤として作用することができる。この高分子化合物が架橋構造を有することで、水性インクに低極性の水溶性有機溶剤が含まれる場合であっても、架橋構造によって顔料から高分子化合物が脱離することを抑制し、顔料の分散性を維持するとともに、脱離した高分子化合物による水性インクの増粘又はゲル化を抑制し、長期に渡って優れた保存安定性を得ることができる。詳しくは、顔料表面において、高分子化合物のβ-ジカルボニル基の活性メチレンを、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物によってマイケル付加反応によって架橋することで、高分子化合物による顔料の被覆を安定して形成することができる。
【0018】
特許文献1に開示の技術では、カルボキシ基を架橋部位としているが、カルボキシ基は静電反発による分散安定化に関わる官能基であるため、分散安定化のためのイオン性基を架橋部位とは別に追加しなければならないという制約があった。また、カルボキシ基は水溶性が幾分あり、顔料から離れた位置に存在する傾向にあるため、架橋において顔料粒子間で橋掛け凝集が発生しやすく、また高分子化合物による顔料の被覆等が不十分なことがある。一実施形態によれば、高分子化合物がβ-ジカルボニル基を有することで、顔料表面に対して、互変異性体による相互作用が期待され、キレート効果により顔料等への吸着力の向上も期待され、より顔料表面で架橋反応を進行させやすくなる。これによって、架橋による顔料複合体の粒子径の増大、顔料粒子間の凝集等を抑えることも可能となる。
【0019】
水性顔料分散体の製造方法は、高分子化合物と顔料と水とを含む混合物に、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を添加することを含むことができる。高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含むことができる。
【0020】
この製造方法にしたがうことで、顔料に高分子化合物が吸着した状態で、高分子化合物と(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物が架橋反応し、顔料の表面に架橋構造を形成することができる。顔料の表面に架橋構造が形成されることで、高分子化合物の顔料からの脱離及び高分子化合物の溶剤への溶解を抑制することができる。
【0021】
混合物は、高分子化合物と顔料と水とを含む。混合物は、高分子化合物の合成で得た高分子化合物組成物を用いて得たものであってもよい。この場合、混合物は、重合開始剤及び連鎖移動剤等をさらに含んでもよい。以下、各成分について説明する。
【0022】
高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含むことができる。
【0023】
高分子化合物は、β-ジカルボニル基を有することで、各種顔料に対して顔料吸着性を備えることができる。また、β-ジカルボニル基は、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物との架橋反応の起点となる。そのため、顔料表面において架橋構造が形成され、高分子化合物の顔料からの脱離を抑制することができる。さらに、架橋構造によって高分子化合物の溶剤への溶解を抑制することができる。
【0024】
β-ジカルボニル基としては、β-ジケトン基(-C(=O)-C-C(=O)-)、β-ケト酸エステル基(-C(=O)-C-C(=O)OR、Rは炭化水素基)、又はこれらの組み合わせを用いることができる。β-ジケトン基としては、アセトアセチル基、プロピオンアセチル基等が挙げられ、β-ケト酸エステル基としては、アセトアセトキシ基、プロピオンアセトキシ基等が挙げられる。高分子化合物は、1分子中に1種のβ-ジカルボニル基が含まれればよく、2種以上のβ-ジカルボニル基が含まれてもよい。
【0025】
β-ジカルボニル基は、β-ジカルボニル基を有する重合性化合物に由来して高分子化合物に含まれるものであってよい。β-ジカルボニル基を有する重合性化合物はモノマー又はオリゴマーであってよいが、好ましくはモノマーである。以下、β-ジカルボニル基を有するモノマーを単にモノマー(A)とも記す。
【0026】
β-ジカルボニル基を有するモノマー(A)としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アリル化合物、エチレン又はこれらの誘導体に、β-ジカルボニル基が導入された化合物を用いることができる。なかでも、β-ジカルボニル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。これによって、主鎖が(メタ)アクリル骨格となる共重合体を提供することができる。主鎖が(メタ)アクリル骨格となる共重合体は、顔料の表面においてある程度の硬さと柔軟性を備え、高分子化合物として好ましく用いることができる。
【0027】
モノマー(A)としては、例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールモノアセトアセタートモノ(メタ)アクリレート、2,3-ジ(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2,4-ヘキサジオン(メタ)アクリレート;アセト酢酸アリル、アセト酢酸ビニル;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。モノマー(A)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
高分子化合物は、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方を有することで、静電反発による分散安定化に寄与することができる。
【0029】
カルボキシ基及びスルホン酸基は、それぞれカルボキシ基を有する重合性化合物及びスルホン酸基を有する重合性化合物に由来して高分子化合物に含まれるものであってよい。カルボキシ基を有する重合性化合物及びスルホン酸基を有する重合性化合物はそれぞれモノマー又はオリゴマーであってよいが、好ましくはモノマーである。以下、カルボキシ基を有するモノマー及びスルホン酸基を有するモノマーを単にモノマー(B)とも記す。
【0030】
カルボキシ基は、高分子化合物の主鎖が炭素鎖である場合に、主鎖の炭素鎖の炭素原子に直接結合していることが好ましい。このようなカルボキシ基を導入するためのモノマー(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等が挙げられる。なかでもアクリル酸、メタクリル酸、又はこれらの組み合わせが好ましい。
【0031】
カルボキシ基は、高分子化合物の主鎖に任意の官能基を介して導入されてもよい。このようなカルボキシ基を導入するためのモノマー(B)としては、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、4-[2-(メタクリロイルオキシ)エトキシ]-4-オキソ-2-ブテン酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2-アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、メタクリロイルオキシメチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、メタクリロイルオキシプロピルフタル酸、メタクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0032】
モノマー(B)としてスルホン酸基を導入するためのモノマーとしては、メタクリル酸2-スルホエチル、3-(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、4-ビニルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-メチルアリルスルホン酸等が挙げられる。スルホン酸基を有するモノマーは、ナトリウム塩、カリウム塩等として合成に供されてもよい。
【0033】
モノマー(B)は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。モノマー(B)は、(メタ)アクリル酸、カルボキシ基又はスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。これによって、主鎖が(メタ)アクリル骨格となる共重合体を提供することができる。
【0034】
モノマー(B)に由来するカルボキシ基及びスルホン酸基はそれぞれ、静電反発力向上の観点から、中和されていてもよい。中和剤としては、代表的に、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。水性顔料複合体において、中和剤は、モノマー(B)に由来するカルボキシ基及びスルホン酸基の合計に対して80~120モル比で用いられることが好ましく、80~100モル比で用いられることがより好ましい。
【0035】
高分子化合物は、β-ジカルボニル基を有する単位、カルボキシ基を有する単位、及びスルホン酸基を有する単位以外に、他の単位をさらに含んでもよい。他の単位としては、β-ジカルボニル基、カルボキシ基、及びスルホン酸基以外に、他の官能基を有する単位であってよい。他の官能基としては、例えば、アルキル基、芳香族炭化水素基、ポリオキシアルキレングリコール鎖を有する基、酢酸エステル基、ニトリル基等が挙げられる。これらの官能基は、高分子化合物に1種単独で、又は2種以上組み合わせて含まれてもよい。
【0036】
他の官能基は、他の官能基を有する重合性化合物に由来して高分子化合物に含まれるものであってよい。他の官能基を有する重合性化合物はモノマー又はオリゴマーであってよいが、好ましくはモノマーである。以下、他の官能基を有するモノマーを単にモノマー(C)とも記す。
【0037】
他の官能基を有するモノマー(C)の具体例としては、(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー;マレイン酸エステル;フマル酸エステル;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;α-オレフィン等が挙げられる。
【0038】
モノマー(A)及び(B)のうち少なくとも1つが(メタ)アクリレート系モノマーである場合は、モノマー(C)として(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0039】
モノマー(C)としての(メタ)アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、炭素数が1~20、好ましくは1~8、より好ましくは1~4のアルキル(メタ)アクリレート、炭素数が6~20、好ましくは6~12のシクロアルキル(メタ)アクリレート、炭素数が6~20、好ましくは6~12のアリール(メタ)アクリレートが好ましい。
【0040】
モノマー(C)としての(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート)、ネオペンチル(メタ)アクリレート)、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。モノマー(C)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
また、他の官能基のなかで芳香族炭化水素基は、高分子化合物の顔料への吸着性をより高めることができるため好ましい。また、ポリオキシアルキレングリコール鎖を有する基は、長鎖による立体構造によって、水性顔料複合体中において分散安定性をより高めることができるため好ましい。
【0042】
モノマー(C)としての芳香族炭化水素基を有するモノマー(以下、単にモノマー(C1)とも記す。)の具体例としては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート等、これらのエチレンオキシド変性品等が挙げられる。
【0043】
芳香族炭化水素基を有するモノマーのエチレンオキシド変性品として、エトキシ化フェニルフェノール(メタ)アクリレート等が挙げられる。エトキシ化フェニルフェノール(メタ)アクリルの一例は、ポリエチレングリコール変性したビフェニルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化反応によって合成することができる。エトキシ化フェニルフェノール(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、新中村化学工業株式会社製「A-LEN-10」(商品名)等が挙げられる。
【0044】
モノマー(C)としてのポリオキシアルキレングリコール鎖を有するモノマー(以下、単にモノマー(C2)とも記す。)としては、例えば、(メタ)アクリル酸とポリアルキレングリコールとのエーテル、ポリアルキレングリコールによって変性された(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリアルキレングリコール変性(メタ)アクリレートは、例えば、イソシアネート基等の起点となる官能基を導入した(メタ)アクリレートにポリアルキレングリコールを反応させて得ることができる。
【0045】
ポリオキシアルキレングリコール鎖を有するモノマーの具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール変性の2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-トリメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコール-アリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-アリルエーテル、ポリプロピレングリコール-アリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
ポリオキシアルキレングリコール鎖を有するモノマーの市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製「アデカリアソープER-20」、日油株式会社製「ブレンマーPME-400」、「ブレンマーPME-1000」、「ブレンマーPME-4000」、新中村化学工業株式会社製の「NKエステルM-230G」、共栄社化学株式会社製「ライトエステル041MA」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0047】
高分子化合物は、カルボキシ基及びスルホン酸基のうち少なくとも一方を含むことから、アニオン性を示すことで顔料分散性を発揮することができる。このような観点から、高分子化合物はカチオン性官能基を含まないことが好ましく、他の官能基はノニオン性基であることが好ましい。
【0048】
高分子化合物は、モノマー(A)及びモノマー(B)を含むモノマー混合物の共重合体であってよい。他の例では、高分子化合物は、モノマー(A)、モノマー(B)、及びモノマー(C)を含むモノマー混合物の共重合体であってよい。さらに他の例では、高分子化合物は、モノマー(A)、モノマー(B)、モノマー(C1)、及びモノマー(C2)を含むモノマー混合物の共重合体であってよい。
【0049】
高分子化合物の全単位に対して、モノマー(A)に由来する単位は、顔料吸着性及び架橋反応性の観点から、1~50モル%が好ましく、10~35モル%がより好ましく、20~30モル%がさらに好ましい。モノマー(A)が1モル%、10モル%以上、または20モル%以上であることで、顔料の表面において架橋反応の起点を十分に設けて、架橋構造によって顔料からの高分子化合物の脱離をより抑制することができる。
【0050】
高分子化合物の全単位に対して、モノマー(B)に由来する単位は、静電反発による顔料分散性の観点から、1~50モル%が好ましく、10~35モル%がより好ましく、20~30モル%がさらに好ましい。
【0051】
モノマー(A)及びモノマー(B)の合計に対しモノマー(A)のモル比は20~80モル%が好ましく、30~70モル%がより好ましく、40~60モル%がより好ましい。
【0052】
高分子化合物の全単位に対して、モノマー(C1)に由来する単位は、顔料吸着性の観点から、1~50モル%が好ましく、10~30モル%がより好ましく、20~30モル%がさらに好ましい。高分子化合物の全単位に対して、モノマー(C2)に由来する単位は、分子構造の立体構造によって顔料分散性を付与する観点から、1~30モル%が好ましく、5~20モル%がより好ましく、5~15モル%がさらに好ましい。高分子化合物の全単位に対して、他のモノマー(C)の総量として、モノマー(C)に由来する単位は、1~80モル%が好ましく、10~60モル%がより好ましく、20~40モル%がさらに好ましい。
【0053】
水性顔料分散体の全質量に対し、高分子化合物は、0.5~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましく、5~10質量%がさらに好ましい。この高分子化合物の含有量が、0.5質量%、1質量%、又は5質量%以上であることで顔料被覆性をより高め顔料分散性をより改善することができる。この高分子化合物の含有量が30質量%以下、20質量%以下、または10質量%以下であることで余剰の高分子化合物によって水性インクの増粘又はゲル化を引き起こさないようにすることができる。
【0054】
同様の観点から、高分子化合物は、質量比で、顔料1に対し、0.1~5が好ましく、0.2~3がより好ましく、0.4~1がさらに好ましい。
【0055】
高分子化合物の合成方法の一例を以下に説明する。なお、高分子化合物は、特定の合成方法によって合成されたものに限定されない。
【0056】
高分子化合物の合成方法の一例は、モノマー混合物を共重合することを含み、モノマー混合物は、モノマー(A)及びモノマー(B)を含む。モノマー混合物はさらにモノマー(C)を含んでもよい。モノマー(A)、モノマー(B)及びモノマー(C)の詳細については上記した通りである。
【0057】
高分子化合物は、モノマー混合物を公知のラジカル重合等により共重合させて合成することができる。重合は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれであってもよい。高分子化合物は、ランダム共重合でよく、一部ブロック単位が含まれてもよく、特に規則性は必要とされない。重合は、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等にしたがって行うことができ、好ましくは溶液重合法である。
【0058】
溶液重合において用いる重合溶媒としては、例えば、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の炭素数1~3の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。
【0059】
重合に際して、ラジカル重合開始剤、重合連鎖移動剤、RAFT剤等の各種添加剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビスブチレート、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物を好ましく用いることができる。また、ラジカル重合開始剤として、t-ブチルペルオキシオクトエート、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物を用いることができる。ラジカル重合開始剤の添加量は、モノマー100質量部に対し0.1~5質量部が好ましい。
【0060】
重合連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、2-メルカプトエタノール等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン等の炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2-エチルヘキシルチオグリコレート、タービノーレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、ジペンテン、α-メチルスチレンダイマー、9,10-ジヒドロアントラセン、1,4-ジヒドロナフタレン、インデン、1,4-シクロヘキサジエン等の不飽和環状炭化水素化合物;2,5-ジヒドロフラン等の不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられる。
【0061】
重合条件は、用いるモノマー、ラジカル重合開始剤等の添加剤、重合溶媒等に応じて適宜調節することができる。通常、重合温度は、好ましくは30~120℃、より好ましくは50~100℃である。重合時間は、好ましくは10分~20時間であり、より好ましくは1時間~10時間である。また、反応雰囲気は、非酸化性雰囲気が好ましく、不活性雰囲気がより好ましく、具体的には窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等が好ましい。
【0062】
高分子化合物の重量平均分子量は特に限定されないが、架橋反応前の高分子化合物の重量平均分子量(Mw)において、10,000~300,000であることが好ましく、20,000~200,000であることがより好ましく、30,000~100,000であることがさらに好ましい。架橋反応前の高分子化合物の重量平均分子量が10,000以上であることで、十分な粒子間反発の効果が得られ、保存安定性をより良好に維持することができる。架橋反応前の高分子化合物の重量平均分子量が100,000以下であることで、この水性顔料分散体を用いる水性インクのインク粘度の上昇を抑制し吐出性をより改善することができる。ここで、架橋反応前の高分子化合物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法で標準ポリスチレン換算で求めた値である。
【0063】
高分子化合物の合成後に、高分子化合物を含む組成物をそのまま水性顔料分散体として用いてもよいし、高分子化合物を含む組成物から溶剤除去又は溶剤置換して任意的に精製してから水性顔料分散体の一部として用いてもよい。
【0064】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0065】
顔料の平均粒子径としては、吐出性と分散安定性の観点から、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは200nm以下である。ここで、顔料の平均粒子径は、体積基準の平均粒子径であり、動的光散乱法によって測定した数値である。
【0066】
顔料は1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。顔料の含有量は、特に限定されないが、水性顔料分散体全質量に対し、1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
【0067】
水性顔料分散体は水を含むことができる。水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、顔料分散安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
【0068】
水は、特に限定されないが、水性顔料分散体全質量に対して20~90質量%で含まれることが好ましく、40~80質量%で含まれることがより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。
【0069】
水性顔料分散体には、水溶性有機溶剤がさらに含まれてもよい。例えば、水溶性有機溶剤として、高分子化合物の合成で用いた水溶性有機溶剤が含まれてもよい。水溶性有機溶剤として、後述する水性インクに使用可能な水溶性有機溶剤が含まれてもよい。水溶性有機溶剤は、特に限定されないが、水性顔料分散体全質量に対して0.1~30質量%、1~20質量%、又は5~10質量%であってよい。
【0070】
混合物は、高分子化合物と顔料と水とを混合することで得ることができる。混合物には、水溶性有機溶剤、中和剤等の任意の添加剤がさらに含まれてもよい。
【0071】
上記混合物に、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を添加する方法について以下に説明する。高分子化合物と多官能化合物とが塩基存在下で反応することで、高分子化合物のβ-ジカルボニル基と多官能化合物の(メタ)アクリロイル基とが選択的に反応し、顔料の表面においてβ-ジカルボニル基を起点として架橋構造を形成可能になる。
【0072】
(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物は、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物であり、1分子中の(メタ)アクリロイル基の個数が2~10、2~6、又は2~4であってよい。より好ましくは(メタ)アクリロイル基を2個又は3個有する多官能化合物であり、さらに好ましくは(メタ)アクリロイル基を2個有する多官能化合物である。ここで、多官能化合物の官能基数は1分子内の(メタ)アクリロイル基の個数である。
【0073】
多官能化合物は、(メタ)アクリロイルオキシ基を複数有する多官能(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2官能(メタ)アクリレート化合物、3官能(メタ)アクリレート化合物、4官能(メタ)アクリレート化合物、5官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0074】
多官能(メタ)アクリレート化合物は、低分子化合物であることが好ましい。多官能(メタ)アクリレート化合物の分子量は1000未満が好ましく、100~800又は200~500であってよい。多官能(メタ)アクリレート化合物は、モノマー又はオリゴマーのいずれであってもよいが、モノマーが好ましい。
【0075】
多官能(メタ)アクリレート化合物は、例えば、ジオール、トリオール、テトラオール、ポリアルキレングリコール等の多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物等が挙げられる。なかでも、多価アルコール由来の部位が炭化水素基、エーテル結合を有する炭化水素基、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。炭化水素基としては、直鎖又は分岐の、鎖式又は脂環式のアルキル基が好ましく、直鎖又は分岐の鎖式アルキル基がより好ましい。エーテル結合を有する炭化水素基としては、オキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基等であってよい。
【0076】
2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカメチレングリコール(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、4,4’-ビフェノールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-メタクリルプロピルアクリレート等が挙げられる。
【0077】
3官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0079】
なかでも、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、又はこれらの組み合わせが好ましく、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。より具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリル、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、又はこれらの組み合わせが好ましく、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの付加モル数は2~6が好ましく、3~5がより好ましく、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの混合物の平均値で4であってよい。
【0080】
市販品例としては、共栄化学株式会社のライトアクリレート「ライトアクリレート4EG-A」(PEG#200ジメタクリレート)、ライトアクリレート「ライトエステル4EG」(PEG200#ジアクリレート)、ライトアクリレート「ライトアクリレートTMP-A」(トリメチロルプロパントリアクリレート)等が挙げられる。
【0081】
また、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物としては、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能(メタ)アクリルアミド化合物であってもよい。多官能(メタ)アクリルアミド化合物としては、例えば、メチレンジアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド等の2官能(メタ)アクリルアミド化合物、ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド等の3官能(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。多官能(メタ)アクリルアミド化合物の市販品例としては、富士フイルム和光純薬株式会社製の「FOM-03006、FOM-03007、FOM-03008、FOM-03009」等が挙げられる。
【0082】
(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
塩基としては、無機塩基及び有機塩基のいずれであってもよい。塩基としては、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の無機塩基;アミノメチルプロパノール、アミノエチルプロパノール、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルアミノプロパノール、トリエタノールアミン、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン等のアミン類等が挙げられる。塩基は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0084】
なかでも、無機塩基としては、炭酸塩が好ましく、具体的には炭酸カリウム及び炭酸カルシウム等が挙げられる。有機塩基としては、窒素含有塩基が好ましく、第3級アミンがより好ましく、具体的にはトリエチルアミン及びジアザシクロノネン等が挙げられる。
【0085】
上記混合物に塩基存在下で多官能化合物を添加する方法としては、例えば、混合物に塩基及び多官能化合物を添加して加熱し、架橋反応を行うことができる。
【0086】
水性顔料分散体において、高分子化合物のβ-ジカルボニル基に対する(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物の(メタ)アクリロイル基の割合で表される架橋度が下記式を満たすことが好ましい。
架橋度=((メタ)アクリロイル基のモル濃度)/(β-ジカルボニル基のモル濃度))×100=50~200(%)
【0087】
この架橋度が200モル%以下、150モル%以下、又は100モル%以下であることで、顔料粒子間で架橋が発生することを抑制し、顔料の凝集が防止されることから、保存安定性をより改善することができる。この架橋度が50モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上であることで、高分子化合物による顔料の被覆を促進し、保存安定性をより改善することができる。例えば、この架橋度は、50~200モル%、80~150モル%、又は90~100モル%が好ましい。なお、この架橋度は50~200モル%が好ましい範囲だが、10~500モル%であってもよく、30~250モル%であってもよい。
【0088】
水性顔料分散体全質量に対し、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物は、0.1~10質量%、0.5~5質量%、又は1~2質量%が好ましい。水性顔料分散体全質量に対し、塩基は、0.1~5質量%、0.3~2質量%、又は0.5~1質量%が好ましい。なお、ここでの塩基の含有量は高分子化合物の中和に用いる中和剤は除く含有量である。
【0089】
(水性インクジェットインクの製造方法)
一実施形態による水性顔料分散体の製造方法は、上記した実施形態の製造方法にしたがって水性顔料分散体を製造すること、及び水性顔料分散体に水溶性有機溶剤及び界面活性剤を添加することを含むことを特徴とする。
【0090】
一実施形態によれば、保存安定性に優れるインクを提供可能な水性インクジェットインクの製造方法を提供することができる。以下、各成分について説明する。
【0091】
水性インクは、水性顔料分散体を用いて製造される。水性インクは、水性顔料分散体に水溶性有機溶剤及び界面活性剤を添加することで製造される。水性インクは、水性顔料分散体をそのまま用いてもよいが、水性顔料分散体に追加的に水を添加したものであってもよい。水溶性有機溶剤としては、高極性水溶性有機溶剤及び低極性水溶性有機溶剤の一方又は両方であってよい。以下、水性インクが含み得る成分について説明する。
【0092】
水性インクは水を含むことができる。水は、水性顔料分散体に含まれるものであるが、水性顔料分散体に追加的に添加されてもよい。水は、水性インクの粘度調節の観点から、水性インク全質量に対して20~90質量%で含まれることが好ましく、40~80質量%で含まれることがより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。
【0093】
水性インクは水溶性有機溶剤を含むことができる。水溶性有機溶剤は、水と相溶性を示すことが好ましい。水溶性有機溶剤としては、濡れ性及び保湿性の観点から、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0094】
水溶性有機溶剤の沸点は170~250℃が好ましい。水溶性有機溶剤の沸点が170℃以上、より好ましくは200℃以上であることで、水性インクからの水溶性有機溶剤の蒸発を抑制して機上安定性をより改善することができる。水溶性有機溶剤の沸点が250℃以下であることで、印刷物の乾燥性をより高めることができる。
【0095】
水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のグリコールエーテル類;1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン、トリメチロールプロパン等を用いることができる。水溶性有機溶剤は1種単独で用いてもよく、単一相を形成する限り2種以上を混合して用いてもよい。
【0096】
水溶性有機溶剤は、濡れ性、保湿効果、インク粘度の調節等の観点から、インク全量に対して1~80質量%で含まれることが好ましく、10~50質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。
【0097】
水性インクは、基材の材質にもよるが基材に濡れにくいため、基材表面に十分に定着せず、さらに基材表面からはじかれる場合もある。例えば、プラスチック基材、金属基材等の非浸透性基材等が挙げられる。このような基材へも印刷を可能とする観点から、水性インクに低極性の水溶性有機溶剤が含まれることが好ましい。一方で、低極性の水溶性有機溶剤に対し一部の樹脂は溶解性を示すことから、顔料の分散剤に用いる樹脂が溶剤へ溶出するという問題がある。しかし、上記説明した通り、一実施形態による水性顔料分散体は、低極性の水溶性有機溶剤を含む溶剤全般に対して、架橋構造によって高分子化合物が溶出しにくい設計になっていることから、各種の水溶性有機溶剤と併用することが可能となった。このような観点から、各種基材へ対応可能なように低極性の水溶性有機溶剤を用いることが可能である。
【0098】
低極性の水溶性有機溶剤は、多価アルコールの炭素数1~4の低級アルキルエーテルであることが好ましく、多価アルコールのn-ブチルエーテルであることが好ましい。例えば、水溶性有機溶剤は、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等が好ましい。多価アルコールの炭素数1~4の低級アルキルエーテルは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
水溶性有機溶剤の極性の指標として、SP値がある。一実施形態では、低極性の水溶性有機溶剤としてSP値が13(cal/cm1/2以下、さらには12(cal/cm1/2以下の水溶性有機溶剤を用いることができる。このSP値の範囲を満たすように上記した中から低極性の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。なお、水との相溶性の観点から、水溶性有機溶剤のSP値は、7(cal/cm1/2以上が好ましく、8(cal/cm1/2以上がより好ましい。SP値が13(cal/cm1/2以下である低極性の水溶性有機溶剤は、基材への濡れ性の観点から、水性インク全量に対し、1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。
【0100】
本明細書において、SP値は、Fedors式で求められるSP値であり、具体的には、Fedorsの提唱した下記式により算出した値である。下記式において、Δeiは、i成分の原子または原子団の蒸発エネルギーであり、Δviは、i成分の原子または原子団のモル体積である(Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook,Second Edition,Charles M.Hansen,CRC Press,2007参照)。
δ=[(sumΔei)/(sumΔvi)]1/2
【0101】
水性インクは、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤は、基材へのインクの浸透性又は濡れ広がり性をより高め、インクの塗工性をより改善することができる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、又はこれらの組み合わせを好ましく用いることができ、非イオン性界面活性剤を含むことがより好ましい。
【0102】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤等を挙げることができる。非イオン性界面活性剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
非イオン性界面活性剤は、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましい。シリコーン系界面活性剤の市販品として、例えば、「シルフェイスSAG014」、「シルフェイスSAG002」(商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品として、例えば、アセチレングリコールの「オルフィンE1010」、「オルフィンE1020」、「サーフィノール440」(いずれも商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0104】
界面活性剤は、有効成分量で、水性インク全量に対し、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~2質量%であることがより好ましい。
【0105】
水性インクには、上記した各成分に加え、任意的に、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、防腐剤、定着剤、酸化防止剤等の各種添加剤を適宜配合してもよい。
【0106】
水性インクの粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1~12mPa・sであることが好ましく、5~10mPa・sであることがより好ましく、8~10mPa・sであることがより好ましい。水性インクの粘度は回転粘度計を用いて測定することができる。
【0107】
水性インクジェットインクを用いて基材に画像を形成する方法としては、インクジェット印刷方法を用いて行うことができる。インクジェット印刷方法は、基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができる。インクジェット印刷方法は、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、例えば、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を基材に付着させるようにすることができる。
【0108】
一実施形態による水性インクジェットインクは、未処理の基材に対して印刷を施してもよく、又は、前処理液によって処理された基材に対して印刷を施してもよい。前処理液は、例えば、水及び水溶性有機溶剤の一方又は両方とともに、界面活性剤、凝集剤、無機粒子等を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて含むことが好ましい。
【0109】
基材に水性インクを印刷した後に、基材を後処理してオーバーコート層を形成する工程をさらに設けてもよい。基材を後処理する方法としては、基材に後処理液を付与して行うことができる。後処理液としては、例えば、皮膜を形成可能な樹脂と、水性溶媒又は油性溶媒とを含む後処理液を用いることができる。
【0110】
なお、一実施形態による水性インクジェットインクは保存安定性を良好に維持しながら、低極性の水溶性有機溶剤を用いることができ、基材への濡れ性を備えることができる。そのため、未処理の基材に対しても良好な画像を形成可能であり、さらには未処理の非浸透性基材に対しても良好な画像を形成可能である。また、一実施形態による水性インクが低極性の水溶性有機溶剤を含むことで、基材への画像の定着性をより高めることができるため、印刷後の後処理を不要とすることができる。
【0111】
水性インクは、浸透性基材及び非浸透性基材のいずれにも適用することができる。非浸透性基材は、基材内部に液体が染み込んでいかない基材であり、具体的には、水性インク中の液体の大部分が基材の表面上に留まる基材である。非浸透性基材としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、チタン、錫、クロム、カドミウム、合金(例えばステンレス、スチール等)等の金属板等の金属基材;ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス等の板ガラス等のガラス基材;ポリエステルフィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、オーバーヘッド透明シート(OHTシート)、ポリエステルシート、ポリプロピレンシート等の樹脂製シート、アクリル板、ポリ塩化ビニル板等の樹脂基材;アルミナ、ジルコニア、ステアタイト、窒化ケイ素等の成形体等のセラミック基材等が挙げられる。これらの基材は、メッキ層、金属酸化物層、樹脂層等が形成されていてもよく、又はコロナ処理等を用いて表面処理されていてもよい。
【0112】
浸透性基材としては、例えば、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙;織布、編物、不織布等の布;調湿用、吸音用、断熱用等の多孔質建材;木材、コンクリート、多孔質材等が挙げられる。ここで、普通紙は、通常の紙の上にインクの受容層やフィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、普通紙複写用紙(PPC用紙)、更紙、再生紙等を挙げることができる。また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙や中質紙の表面にクレーや炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量や塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【0113】
布を構成する繊維としては、例えば、金属繊維、ガラス繊維、岩石繊維および鉱サイ繊維等の無機繊維;セルロース系、たんぱく質系等の再生繊維;セルロース系等の半合成繊維;ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフッ化エチレン等の合成繊維;綿、麻、絹、毛等の天然繊維等の各種の繊維から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
【0114】
一実施形態によれば、上記した実施形態の製造方法にしたがって水性インクジェットインクを製造し、水性インクジェットインクを基材にインクジェット方式によって付与し印刷物を製造する印刷物の製造方法を提供することができる。
【0115】
(他の実施形態)
他の実施形態によれば、顔料と、高分子化合物と、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物とを含む顔料複合体であって、高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含み、顔料に高分子化合物が吸着し、顔料の表面において高分子化合物のβ-ジカルボニル基に(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物が結合し架橋構造を形成する、水性顔料複合体を提供することができる。詳細については上記した説明した通りである。
【0116】
さらに他の実施形態によれば、上記顔料複合体及び水を含む水性顔料分散体を提供することができる。この水性顔料分散体に水溶性有機溶剤、界面活性剤等の成分を加えて、水性インクを提供することができる。詳細については上記説明した通りである。
【0117】
本開示は以下の実施形態を含む。
<1>高分子化合物と顔料と水とを含む混合物に、塩基存在下で(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物を添加することを含み、前記高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含む、水性顔料分散体の製造方法。
【0118】
<2>前記高分子化合物のβ-ジカルボニル基に対する前記(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物の(メタ)アクリロイル基の割合で表される架橋度が下記式を満たす、<1>に記載の水性顔料分散体の製造方法。
架橋度=((メタ)アクリロイル基のモル濃度)/(β-ジカルボニル基のモル濃度))×100=50~200(%)
【0119】
<3>前記顔料に前記高分子化合物が吸着した状態で、前記高分子化合物と前記(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物とを架橋反応させる、<1>又は<2>に記載の水性顔料分散体の製造方法。
【0120】
<4>上記<1>から<3>のいずれかに記載の製造方法にしたがって前記水性顔料分散体を製造すること、及び前記水性顔料分散体に水溶性有機溶剤及び界面活性剤を添加することを含む、水性インクジェットインクの製造方法。
【0121】
<5>顔料と、高分子化合物と、(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物とを含む顔料複合体であって、前記高分子化合物は、β-ジカルボニル基と、カルボキシ基及びスルホン酸基の少なくとも一方とを含み、前記顔料に前記高分子化合物が吸着し、前記顔料の表面において前記高分子化合物のβ-ジカルボニル基に前記(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能化合物が結合し架橋構造を形成する、水性顔料複合体。
【実施例0122】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。以下の説明において、特に説明のない箇所では、「%」は「質量%」を示す。各表に示す含有量は、溶液又は分散体として配合される成分はその溶液又は分散体の全体量で示す。各表において「-」は未添加又は未測定を表す。
【0123】
(高分子化合物の合成方法)
表1に高分子化合物の合成処方を示す。
4つ口フラスコに、表中に示すモノマー及び溶剤、連鎖移動剤を入れて、室温で30分間窒素をバブリングし、液中の溶存酸素を窒素に置換した。その後、重合開始剤を加え、70℃6時間加熱撹拌した。その後、エバポレーターで溶剤を留去し、高分子化合物を得た。得られた高分子化合物の重量平均分子量は、いずれも約30,000であった。
【0124】
用いた成分は以下の通りである。
モノマー(A):アクリル酸、メタクリル酸2-スルホエチル、メタクリル酸:いずれも富士フイルム和光純薬株式会社製。
モノマー(B):AAEM:エチレングリコールモノアセトアセタートモノメタクリラート、東京化成工業株式会社製。
モノマー(C1):A-LEN-10(商品名):エトキシ化フェニルフェノールアクリレート、新中村化学工業株式会社製。
モノマー(C1):メタクリル酸ベンジル、富士フイルム和光純薬株式会社製。
モノマー(C2):プレンマーPME-1000(商品名):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、日油株式会社製。
モノマー(C2):プレンマーPME-400(商品名):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、日油株式会社製。
モノマー(C3):メタクリル酸ブチル:富士フイルム和光純薬株式会社製。
【0125】
重合開始剤のAIBN(2,2’-アゾビスブチロニトリル)及び連鎖移動剤のラウリルメルカプタンは、いずれも東京化成工業株式会社から入手可能である。溶剤の2-プロパノールは富士フイルム和光純薬株式会社より入手可能である。
【0126】
【表1】
【0127】
(水性顔料分散体の作製方法)
表2~表4に水性顔料分散体及びインクの処方を示す。表中に示す顔料(1-1)、高分子化合物(1-2)、顔料分散体処方の水(1-6)、及び中和剤を、ジルコニアビーズとともに撹拌容器に入れ、ロッキングミルで3時間分散し、プレ顔料分散体を得た。ジルコニアビーズを濾別後、プレ顔料分散体をガラス瓶に移し、表中に示す多官能(メタ)アクリレート化合物(1-3)、及び塩基を添加し、マグネチックスターラーで加熱及び撹拌して架橋反応させ、水性顔料分散体を得た。中和剤は水性顔料分散体のカルボキシ基に対して中和度100%になる量で用いた。比較例1及び5では、それぞれ多官能(メタ)アクリレート化合物(1-3)に代えて単官能(メタ)アクリレート化合物(1-4)及び多官能エポキシ化合物(1-5)を用いた。
【0128】
表中に示す架橋度は、高分子化合物のβ-ジカルボニル基のモル濃度に対する多官能(メタ)アクリレート化合物の(メタ)アクリロイル基のモル濃度から、下記式より求めた。比較例1では、多官能(メタ)アクリレート化合物の(メタ)アクリロイル基の代わりに単官能アクリレートの(メタ)アクリロイル基で換算し、比較例5では、多官能(メタ)アクリレート化合物の(メタ)アクリロイル基の代わりに多官能エポキシのエポキシ基で換算した。
架橋度=(((メタ)アクリロイル基のモル濃度)/(β-ジカルボニル基のモル濃度))×100
【0129】
(水性インクの作製方法)
上記して得た水性顔料分散体に、表中に示す高極性水溶性有機溶剤(2-1)、低極性水溶性有機溶剤(2-2)、界面活性剤(2-3)、及びインク処方の水(2-4)を添加し、フィルターでろ過して水性インクを得た。
【0130】
用いた成分は以下の通りである。
(1-1:顔料)
MA8:カーボンブラック顔料、三菱ケミカル株式会社製。
クロモファイン4927:銅フタロシアニン顔料、大日精化工業株式会社製。
FASTOGEN(登録商標) SUPER MAGENTA R:キナクリドン顔料、DIC株式会社製。
Hansa Brilliant Yellow 5GX:縮合ジスアゾ系顔料、クラリアント社製。
#45:カーボンブラック顔料、三菱ケミカル株式会社製。
【0131】
(1-2:高分子化合物):上記合成した高分子化合物を用いた。固形分100質量%。
(1-3:多官能(メタ)アクリレート化合物)
3官能アクリレート:共栄化学株式会社製「ライトアクリレートTMP-A」。
2官能アクリレート:共栄化学株式会社製「ライトアクリレート4EG-A」。
2官能メタクリレート:共栄化学株式会社製「ライトエステル4EG」。
(1-4:単官能(メタ)アクリル化合物)
単官能アクリレート:共栄化学株式会社製「ライトアクリレートMTG-A」。
(1-5:多官能エポキシ化合物)
多官能エポキシ:ナガセケムテックス株式会社製「デナコールEX-521」。
【0132】
中和剤には、水酸化ナトリウムを用いた。塩基には、炭酸カルシウム、ジアザビシクロノネン(サンアプロ株式会社製「DBN」)を用いた。
【0133】
(2-1:高極性水溶性有機溶剤)
トリメチロールプロパン:SP値=16.38(cal/cm1/2、富士フイルム和光純薬株式会社製。
(2-2:低極性水溶性有機溶剤)
1,2-ヘキサンジオール:SP値=11.8(cal/cm1/2、東京化成工業株式会社製。
ジエチレングリコールモノブチルエーテル:SP値=10.51(cal/cm1/2、東京化成工業株式会社製。
(2-3:界面活性剤)
サーフィノール440(商品名):アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業株式会社製。
【0134】
(評価方法)
「高分子化合物の分子量」
得られた高分子化合物の重量平均分子量の測定を、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により次のように行った。
標準物質:ポリスチレン、溶媒:10mMのリチウムブロマイド及び50mMリン酸含有N-メチルピロリドン、流速:0.7ml/分の条件で、RID(示差屈折率検出器)を用い、GPCにより高分子化合物の重量平均分子量(Mw)を測定した。測定器は株式会社島津製作所製「LC-10Aシリーズ」を用い、カラムはショウデックス(Shodex)GPC KF-804(株式会社レゾナック)を使用した。結果を表1に示す。
【0135】
「保存安定性評価」
まず、インク作製直後のインクの粘度を測定した。次に、インクを密閉容器に入れ、70℃環境下で4週間放置した。その後、インクの粘度を測定し、以下の計算式にしたがって粘度変化率を求めた。そして、以下の基準にしたがって保存安定性を評価した。インク粘度は、アントンパール社製レオメーター「MCR302」(コーン角度1°、直径50mm)を用いて、23℃で測定した。結果を表2~表4に示す。
粘度変化率:[((4週間後の粘度)-(粘度の初期値))/(粘度の初期値)]×100(%)
【0136】
AA:粘度変化率の絶対値が5%以下。
A:粘度変化率の絶対値が5%超過10%以下。
B:粘度変化率が絶対値が10%超過、あるいはインクがゲル化して測定できない。
【0137】
「印刷評価」
得られたインクを用いて以下の条件で印刷物を作製した。
プリンタ:解像度300npiのピエゾ式プリントヘッドを備えるシャトル式プリンタ。
印刷基材:塩ビ基材、AveryDennison MPI3002P WPE。
印刷条件:解像度:1200×600dpi、画像:30cm×30cm角のベタ画像。
得られた印刷物の画質について、目視で観察し、以下の基準で評価した。結果を表2~表4に示す。
【0138】
A:均一なベタが形成。
B:ムラが発生。
C:吐出不良が発生し、正しく印刷できない。
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
各表に示す通り、各実施例のインクは保存安定性が良好であった。さらに、各実施例のインクを用いて作製した印刷物は画質が良好であった。
【0143】
実施例1~8を通して、各種溶剤及び各種顔料に対して、インクの保存安定性及び印刷物の画質が良好であることがわかる。また、インクに低極性溶剤が含まれることで、塩ビ基材への濡れ性が改善され、印刷物のムラが低減され、印刷物の画質がより優れた。実施例9~13を通して、各種塩基、並びに各種多官能(メタ)アクリレート化合物及びその使用量に対して、インクの保存安定性及び印刷物の画質が良好であることがわかる。実施例14~16を通して、高分子化合物の合成でモノマー種類が異なる場合も、インクの保存安定性及び印刷物の画質が良好であることがわかる。
【0144】
比較例1では、水性顔料分散体において単官能(メタ)アクリレート化合物を用いており、架橋構造が形成されないため、高分子化合物が顔料から脱離してしまい、保存安定性が悪化したと考えられる。比較例2では、水性顔料分散体に(メタ)アクリレート化合物が含まれず、保存安定性が悪化した。比較例3では、高分子化合物の合成でモノマー混合物にモノマー(A)が含まれず、インクにおいて静電反発力が低下し保存安定性が低下した。比較例3は、分散性も低下したためインクジェット吐出において不吐出が発生した。比較例4では、高分子化合物の合成でモノマー混合物にモノマー(B)が含まれず、水性顔料分散体において架橋構造が形成しにくくなり、また顔料吸着力も低下し、インクの保存安定性が低下した。比較例5では、高分子化合物がエポキシ化合物であり、架橋構造が異なり、インクの保存安定性が低下した。