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特開2024-143411液体及び固体粒子を含む混合物の付着力の低減方法、及び当該混合物による配管閉塞の防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143411
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液体及び固体粒子を含む混合物の付着力の低減方法、及び当該混合物による配管閉塞の防止方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/00 20230101AFI20241003BHJP
   C02F 5/08 20230101ALI20241003BHJP
   C02F 5/10 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
C02F5/00 620B
C02F5/08 B
C02F5/10 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056072
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】橋元 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡部 雄太
(57)【要約】
【課題】簡便かつ排水処理に適合したやり方で、液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させる方法、及び当該混合物による配管閉塞を防止する方法の提供。
【解決手段】液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させる方法は、混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子を添加することを含む。液体は有機溶媒を含み、固体粒子の平均粒径が50μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させる方法であって、
前記液体が有機溶媒を含み、
前記固体粒子の平均粒径が50μm以下であり、
前記混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子を添加することを含む、方法。
【請求項2】
前記固体粒子が無機塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体が有機金属化合物を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機金属化合物がアルキルアルミニウムを含み、前記有機溶媒が炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を含み、前記固体粒子が塩化マグネシウムを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物に前記水溶性無機塩の粒子が2質量%~10質量%含まれるように、前記混合物に前記水溶性無機塩の粒子を添加する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性無機塩の粒子が塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、及びミョウバンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を防止する方法であって、
前記液体が有機溶媒を含み、
前記固体粒子の平均粒径が50μm以下であり、
前記混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子を添加して、前記混合物の付着力を低減させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体及び固体粒子を含む混合物の付着力の低減方法、及び当該混合物による配管閉塞の防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末又はそのような粉末を含有する混合物は、配管、壁体等に付着して蓄積し、配管内でスケーリング、閉塞、ブリッジなどのトラブルを招き、その結果、工場の操業又は生産体制に大きな影響を与える場合がある。工場を安定的に操業するために、このようなトラブルの予防及び適切な対処方法を確立することが求められている。
【0003】
配管内でスケーリング、閉塞、ブリッジなどが生じたときに、手又はハンマーで配管に衝撃を与えて、これらの現象を物理的に解消する方法が知られている。しかし、この方法は、作業員の負担が大きく、配管の変形又は損傷が生じるおそれもあるため、一時的な対処方法として採用することが望ましい。
【0004】
配管内でのスケーリングを防止するため、付着性の高い物質に添加剤を加えてその付着性を低減させる方法が提案されている。例えば、付着性が高いことで知られている消石灰に、粉末生石灰、及びグリコール類、グリコールエーテル類又はエタノールアミン類を添加し混合し、得られた化合物を加熱することにより、消石灰の付着性を低減させることが知られている(特許文献1~特許文献3)。添加剤として平均粒子径が50μm以下のパーライトを消石灰の1~5重量%含む、付着性が改善された消石灰が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-73216号公報
【特許文献2】特開平8-73217号公報
【特許文献3】特開平8-109016号公報
【特許文献4】特開2003-252621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グリコール類、エタノールアミン類などの有機物を添加する方法は、排水処理に適合しない場合があり、排水中の生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、全有機炭素(TOC)、又は全窒素量を上昇させるおそれがある。パーライトは水に不溶であるため、排水中の浮遊物質量(SS)を増加させるおそれがある。また、平均粒子径が50μm以下のパーライトのような微粉末の使用は、粉塵対策を必要とする場合が多い。
【0007】
液体及び固体粒子を含有する湿潤状態の混合物は、乾燥状態の粉体と比較して、付着力が大きく配管閉塞を引き起こしやすい。そのような混合物の付着及び凝集には、多くの因子、例えば、固体粒子間にはたらくファンデルワールス力、静電気力、液架橋力が複雑に作用しており、それらの現象の原因を解明するまでに数多くの解析が必要である。
【0008】
したがって、長期間にわたって安定的にプラントを運転するために、排水処理に適合しており簡便に使用できる、付着性の高い物質の付着力を低減する方法が望まれている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、簡便かつ排水処理に適合したやり方で、液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させる方法、及び当該混合物による配管閉塞を防止する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、有機溶媒及び粒径の小さい固体粒子を含む混合物に、粒径の大きい水溶性無機塩の粒子を添加することにより、当該混合物の付着力を低減できることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本願は以下の発明を包含する。
[1]液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させる方法であって、
前記液体が有機溶媒を含み、
前記固体粒子の平均粒径が50μm以下であり、
前記混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子を添加することを含む、方法。
[2]前記固体粒子が無機塩を含む、項目1に記載の方法。
[3]前記液体が有機金属化合物を含む、項目1又は2に記載の方法。
[4]前記有機金属化合物がアルキルアルミニウムを含み、前記有機溶媒が炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を含み、前記固体粒子が塩化マグネシウムを含む、項目3に記載の方法。
[5]前記混合物に前記水溶性無機塩の粒子が2質量%~10質量%含まれるように、前記混合物に前記水溶性無機塩の粒子を添加する、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記水溶性無機塩の粒子が塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、及びミョウバンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
[7]液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を防止する方法であって、
前記液体が有機溶媒を含み、
前記固体粒子の平均粒径が50μm以下であり、
前記混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子を添加して、前記混合物の付着力を低減させることを含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便かつ排水処理に適合したやり方で、液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させることができる。これにより、配管閉塞を抑止してプラントを安定的かつ効率的に操業することができ、配管のメンテナンス作業に係る運転員の作業負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させる方法、及び当該混合物による配管閉塞を防止する方法を提供する。一実施形態の液体及び固体粒子を含む混合物の付着力を低減させる方法は、当該混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子を添加することを含む。ここで、液体は有機溶媒を含み、固体粒子の平均粒径は50μm以下である。
【0014】
液体及び固体粒子を含む混合物(以下、本開示において「湿潤混合物」ともいう。)は、ダイラタンシーなど複雑な流体挙動を示すことが知られている。湿潤混合物は、塊状、粘土状、クリーム状、ペースト状、スラリー状など様々な形態をとり、硬さ、脆さ、流動性、べたつき(stickiness)など様々な異なる物性を有する。配管閉塞には、湿潤混合物の様々な物性が複合して関与すると考えられる。例えば、湿潤混合物の流動性が高ければ、凝集せずに配管内を流れることができるため、配管閉塞は生じない。一方で、湿潤混合物のべたつきが低ければ、凝集物の形態であっても配管に付着せず、配管内を転がって移動及び落下できるため、配管閉塞は生じない。いかなる理論に拘束される訳ではないが、配管閉塞に関係する付着力(adhesion)は、流動性及びべたつきが複合して関係する特性であると考えられる。
【0015】
本発明者らは、液体及び固体粒子を含む混合物の付着力に固体粒子の粒度分布が大きく影響することから、粒径の大きい水溶性無機塩の粒子を添加することにより、湿潤混合物の付着力を速やかに低減させることができることを見出した。いかなる理論に拘束される訳ではないが、粒径の大きい水溶性無機塩の粒子が、固体粒子間のファンデルワールス力及び液架橋力に作用して、より粒径の小さい固体粒子の凝集が抑制されると考えられる。例えば、例示的なトリメチルアルミニウム(TMAL)製造プラントで副生する塩化マグネシウムとn-ドデカンを含む混合物の付着力は、n-ドデカンの含有率が同等であっても、粒径の小さい塩化マグネシウムが多く含まれると高くなる傾向がある。この混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩、例えば塩化ナトリウムの粒子を添加することにより、当該混合物の付着力を低減させることができる。
【0016】
水溶性無機塩は、排水中の水相に溶解し、有機分を含まないため、排水中の生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、全有機炭素(TOC)などを上昇させず、排水中の浮遊物質量(SS)も増加させない。そのため、本発明の方法は、プラントにおける排水処理に適合しており、設備投資及び操業に係るコスト、エネルギー、環境負荷などの観点から有利である。
【0017】
湿潤混合物は、有機溶媒を含む液体及び平均粒径50μm以下の固体粒子を含むものであれば特に限定されない。湿潤混合物の液体として前記有機溶媒、及び前記有機溶媒に溶解した成分を含む溶液が挙げられる。
【0018】
有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、スルホキシド及びアミドが挙げられる。有機溶媒は、好ましくは炭素原子数6~18の飽和脂肪族炭化水素、炭素原子数6~18の不飽和脂肪族炭化水素、及び炭素原子数6~20の芳香族炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素である。
【0019】
固体粒子としては、例えば、金属、金属合金、無機塩、無機酸化物、無機窒化物、又は有機高分子を含む粒子が挙げられる。固体粒子は、好ましくは金属、金属合金、及び無機塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、金属アルミニウム、金属マグネシウム、及びアルミニウム合金からなる群より選ばれる少なくとも1種である。一実施形態の湿潤混合物において、固体粒子は無機塩を含む。
【0020】
固体粒子の平均粒径は50μm以下であり、好ましくは1μm~30μm、より好ましくは1μm~20μmである。固体粒子の平均粒径が50μm以下であることにより、粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子の添加により、湿潤混合物の付着力を効果的に低減することができる。固体粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱法を用いて決定される累積体積中位径D50である。
【0021】
固体粒子の累積体積径D90は、好ましくは250μm以下、より好ましくは150μm以下、更に好ましくは100μm以下である。固体粒子の累積体積径D90が250μm以下であることにより、粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子の添加による付着力の低減効果をより高めることができる。固体粒子の累積体積径D90も平均粒径と同様にレーザー回折散乱法を用いて決定される。
【0022】
湿潤混合物中の液体の含有量は、特に限定されないが、例えば1質量%~99質量%である。
【0023】
一実施形態の湿潤混合物において、液体は有機金属化合物を含み、有機金属化合物は有機溶媒に溶解していてもよい。この実施形態において、固体粒子は無機塩を含んでもよい。有機金属化合物は、例えば、金属と有機ハロゲン化物を触媒の存在下、有機溶媒中で反応させることにより合成される。その際に、金属ハロゲン化物が無機塩として副生し、液相に有機金属化合物及び有機溶媒、固相に無機塩を含む粗生成物が得られる。粗生成物から有機金属化合物及び有機溶媒を蒸留により無機塩と分離することにより、無機塩を主成分とする残渣が生じる場合もある。これらの粗生成物及び残渣は、塊状、粘土状、クリーム状、ペースト状、スラリー状など性状が変化し、他の表面に対する付着性も変化する場合がある。本発明の方法により、有機溶媒及び任意に有機金属化合物を含む液体と、無機塩を含む固体粒子とを含む湿潤混合物の付着力を低減し、当該湿潤混合物による配管閉塞を防止することができる。
【0024】
有機金属化合物としては、例えば、アルキルアルミニウム、アルキルインジウム、及びアルキル亜鉛が挙げられる。この実施形態における有機溶媒は、炭素原子数6~18の飽和脂肪族炭化水素、炭素原子数6~18の不飽和脂肪族炭化水素、及び炭素原子数6~20の芳香族炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0025】
この実施形態において、有機金属化合物はアルキルアルミニウムを含み、有機溶媒は炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を含み、固体粒子は塩化マグネシウムを含むことが好ましい。例示的なトリメチルアルミニウム(TMAL)製造プラントでは、溶媒としてn-ドデカン中で、触媒の存在下、アルミニウムマグネシウム合金(固体)と塩化メチル(気体)とを反応させて、トリメチルアルミニウム及び副生物として塩化ジメチルアルミニウム(DMAC)を含む粗トリメチルアルミニウムを生成する反応工程、及び粗トリメチルアルミニウムに含まれる副生したDMACを同様の触媒存在下、アルミニウムマグネシウム合金と更に反応させて、トリメチルアルミニウムに還元する還元工程が実施される。反応工程及び還元工程のいずれにおいても無機塩である塩化マグネシウムが副生する。塩化マグネシウムは、反応工程後の粗蒸留及び還元工程後の精密蒸留における釜残に主成分として含まれる。釜残には一般に、有機溶媒であるn-ドデカン、蒸留時に残留したTMAL又はDMACも含まれる。ろ過によりn-ドデカンを分離した後のろ物をフィーダーにより次工程に輸送する際に、当該フィーダー内又はその下流のシュート内などでろ物による配管閉塞が生じる場合がある。本発明の方法は、TMALなどのアルキルアルミニウム製造プラントにおける、釜残又はろ物の付着力の低減、及び当該釜残又はろ物による配管閉塞の防止に好適に使用することができる。
【0026】
一実施形態では、湿潤化合物は、アルキルアルミニウムを0.1質量%~10質量%、炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を10質量%~60質量%、塩化マグネシウムを35質量%~70質量%、その他の成分を0~20質量%含む。
【0027】
水溶性無機塩の粒子は、水又は酸性水溶液に溶解することが好ましく、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、及びミョウバンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが更に好ましく、塩化ナトリウムを含むことが特に好ましい。これらの水溶性無機塩を含む排水は、プラントの排水処理設備で容易に処理することができる。塩化ナトリウムは入手が容易であり安価であるため、本発明の方法に特に有利に使用することができる。
【0028】
水溶性無機塩の粒子の粒径は300μm以上であり、好ましくは300μm~5,000μmの範囲内、より好ましくは300μm~1,000μmの範囲内にある。水溶性無機塩の粒子の粒径が300μm以上であることにより、その添加により湿潤混合物の付着力を効果的に低減することができる。水溶性無機塩の粒子の粒径は、JIS Z 8801-1:2019で規定される金属製網ふるいを用いて測定されるふるい径である。
【0029】
水溶性無機塩の粒子の添加量は、湿潤混合物の組成及び性状、水溶性無機塩の種類、水溶性無機塩の粒子の粒径などに応じて、適宜設定することができる。水溶性無機塩の粒子の添加量は、例えば、添加後の混合物の質量を基準として0.1質量%~50質量%、1質量%~25質量%、又は2質量%~10質量%となるように設定することができる。有機金属化合物がアルキルアルミニウムを含み、有機溶媒が炭素原子数8~16の脂肪族炭化水素を含み、固体粒子が塩化マグネシウムを含む実施形態において、水溶性無機塩の粒子の添加量は、添加後の混合物の質量を基準として2質量%~10質量%となるように設定することが好ましい。
【0030】
水溶性無機塩の粒子を湿潤混合物に添加した後、湿潤混合物を撹拌装置、混練装置などを用いて混合することにより、湿潤混合物の付着力を速やかに低減させることができる。撹拌装置及び混練装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いることができる。水溶性無機塩の粒子は、湿潤混合物への添加後、湿潤混合物が配管内を移動することにより混合されてもよい。
【0031】
一実施形態の液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞を防止する方法は、前記混合物に粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子を添加して、前記混合物の付着力を低減させることを含む。液体及び固体粒子を含む混合物、粒径300μm以上の水溶性無機塩の粒子及びその添加方法については、前記のとおりである。
【0032】
例えば、トリメチルアルミニウム製造プラントの配管閉塞を対象とする実施形態では、付着力が高く配管を閉塞させるおそれのある湿潤混合物に塩化ナトリウムが2質量%~10質量%含まれるように、当該湿潤混合物に塩化ナトリウムを添加することが好ましい。
【0033】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0034】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0035】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0036】
液体及び固体粒子を含む混合物として、トリメチルアルミニウムの製造プラントで副生した塩化マグネシウムを主成分として含み、有機溶媒の含有率の異なる数種類の釜残を使用した。釜残の組成は、MgCl50.0質量%、n-ドデカン(有機溶媒)38.0質量%、AlMg合金7.0質量%、トリメチルアルミニウム2.0質量%、その他未同定の成分(残部)3.0質量%であった。混合物中のMgClの平均粒径は15.5μmであり、D90は50.0μmであった。
【0037】
水溶性無機塩の粒子として、粒径が300μm~1,000μmの範囲内の市販の食塩(塩化ナトリウム)を使用した。
【0038】
液体及び固体粒子を含む混合物の性状評価は、以下の装置及び条件を使用して行った。
測定装置:テクスチャーアナライザー(Brookfield製、製品名CT-3、荷重レンジ1.0g~10kg)
初期負荷荷重:10gf
圧縮荷重値:1,000gf
プローブ移動速度:1mm/s
プローブ:TA44(アクリル製、円筒型、38mmΦ×20mmH)
試料フォルダー:ステンレス製円筒型容器(44mmΦ×17mmH)
測定試料量:10g
測定温度:25℃
【0039】
液体及び固体粒子を含む混合物による配管閉塞については、当該混合物が生成する工程から別工程に移送する際に、配管径10~14インチ、傾斜45度のシュート内で配管閉塞が生じるか否かにより判断した。
【0040】
<比較例1>
試料フォルダーに、測定試料として釜残を10g投入し、テクスチャーアナライザーのサンプル台に設置した。テクスチャーアナライザーのプローブを1mm/sの速度で下降させて、プローブが測定試料に接触しかつ10gfの初期荷重を加えた時点を測定開始時とした。1,000gfの圧縮荷重値に到達するまでプローブを下降させた後、1mm/sの速度でプローブを上昇させたときにプローブに作用した引張最大荷重を測定したところ、634gf(絶対値表記)であった。引張最大荷重を釜残の付着力と定義した。この釜残は、濃いクリーム状で粘着性を有しており、配管閉塞を生じさせた。
【0041】
<実施例1>
比較例1の釜残に食塩を添加して混練した。食塩の添加量は、食塩添加後の釜残に含まれる食塩含有量が2.0質量%となるように調整した。食塩の添加と合わせてn-ドデカンを添加して、食塩添加後の釜残中のn-ドデカン含有率を38.0質量%に維持した。比較例1に記載の手順で食塩添加後の釜残の付着力を測定したところ500gfであった。この釜残は、粘土状で部分的に塊状物を含んでおり、配管閉塞を生じさせなかった。
【0042】
<実施例2>
食塩添加後の釜残に含まれる食塩含有量が4.6質量%となるように食塩の添加量を調整した以外は、実施例1に記載の手順で食塩添加後の釜残の付着力を測定したところ424gfであった。この釜残は、粘土状で部分的に塊状物を含んでおり、配管閉塞を生じさせなかった。
【0043】
<実施例3>
食塩添加後の釜残に含まれる食塩含有量が9.7質量%となるように食塩の添加量を調整した以外は、実施例1に記載の手順で食塩添加後の釜残の付着力を測定したところ368gfであった。この釜残は、粘土状で部分的に塊状物を含んでおり、配管閉塞を生じさせなかった。
【0044】
実施例1~実施例3及び比較例1の結果を以下の表1にまとめる。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなように、粒径の大きな食塩粒子(300μm~1,000μm)を添加することにより、釜残の付着力を約半分にまで低減させることができた。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、使用する装置、材料、各種条件等は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。