(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143415
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/042 20060101AFI20241003BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20241003BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20241003BHJP
H01S 5/20 20060101ALI20241003BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H01S5/042 610
H01L33/32
H01S5/343 610
H01S5/20 610
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056078
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 陽
(72)【発明者】
【氏名】張 梓懿
(72)【発明者】
【氏名】久志本 真希
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千秋
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
【テーマコード(参考)】
5F045
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F045AA04
5F045AB17
5F045AC08
5F045AC09
5F045AC12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045AE23
5F045AE25
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5F045CA10
5F045CA12
5F045DA58
5F173AF22
5F173AF33
5F173AF38
5F173AG17
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5F173AK22
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5F173AR23
5F173AR96
5F241AA03
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5F241CA58
5F241CA60
5F241CA65
5F241CA66
5F241CA74
5F241CA76
5F241CB11
(57)【要約】
【課題】窒化物半導体素子において、クラッド層の劣化抑制とキャリアの注入効率向上を両立する。
【解決手段】窒化物半導体素子は、Alを含む窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板上に配置される半導体積層部と、を備えている。半導体積層部は、第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層と、第1導電型クラッド層上に配置され、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体で形成された発光層と、発光層上に配置され、第2導電型のAlを含む窒化物半導体で形成された第2導電型クラッド層と、を有している。第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で窒化物半導体基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む窒化物半導体基板と、
前記窒化物半導体基板上に配置される半導体積層部と、
を備え、
前記半導体積層部は、
第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層と、
前記第1導電型クラッド層上に配置され、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体で形成された発光層と、
前記発光層上に配置され、第2導電型のAlを含む窒化物半導体で形成された第2導電型クラッド層と、
を有し、
前記第2導電型クラッド層は、前記第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で前記窒化物半導体基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を有する
窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記濃度プロファイルが不連続に減少する領域は、前記第2導電型クラッド層の前記窒化物半導体基板側から5nm以上110nm以下の領域に存在する
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記第2導電型クラッド層のうち前記濃度プロファイルが不連続に減少する領域は、AldGa(1-d)N(0.80≦d≦1.0)で形成されている
請求項1又は2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記第2導電型クラッド層の前記濃度プロファイルが不連続に減少する領域よりも前記窒化物半導体基板側の領域における前記炭素の濃度は、1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下である
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記第2導電型クラッド層は、前記濃度プロファイルが不連続に減少する領域よりも前記窒化物半導体基板側の領域における前記酸素の濃度は、1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下である
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記窒化物半導体基板は、AlN単結晶基板である
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記第1導電型クラッド層は、AlaGa(1-a)N(0.65<a≦0.9)で形成されている
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記第1導電型クラッド層の厚さは、250nm以上800nm以下である、
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記第1導電型クラッド層と前記発光層との間に配置されて、前記発光層へ光を閉じ込める第1導電型導波路層と、
前記第2導電型クラッド層と前記発光層との間に配置されて、前記発光層へ光を閉じ込める第2導電型導波路層と、
を備える、
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記第2導電型クラッド層上に配置され、GaNを含む窒化物半導体で形成された第2導電型コンタクト層を備え、
前記第2導電型クラッド層は、AldGa(1-d)N(0.1≦d≦1)を含み、前記窒化物半導体基板から遠ざかるにつれてAl組成dが小さくなる組成傾斜を有し、膜厚が500nm以下である
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記第2導電型クラッド層は、前記窒化物半導体基板側から遠ざかるにつれて前記Al組成比dが1から0.7まで変化する組成傾斜を有する
請求項10に記載の窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記第2導電型クラッド層の膜厚は250nm以上500nm以下である
請求項10または11に記載の窒化物半導体素子。
【請求項13】
前記第1導電型クラッド層の膜厚T0は、3500a-2150nm以上26500a-17850nm以下(aは、前記第1導電型クラッド層を構成する窒化物半導体のAl組成a)である
請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項14】
前記第1導電型クラッド層の抵抗率は、1×10-3Ωcm以上5×10-3Ωcm以下である
請求項13に記載の窒化物半導体素子。
【請求項15】
Alを含む窒化物半導体基板上に第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層を形成し、
前記第1導電型クラッド層上に、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体により発光層を形成し、
ウエハ温度が900℃以上1000℃以下であり、リアクタ圧力が15mbar以上350mbar以下の条件で、第2導電型の窒化物半導体を含む第2導電型クラッド層の一部を形成し、
前記ウエハ温度が1030℃以上1100℃以下であり、リアクタ圧力が15mbar以上350mbar以下の条件で前記第2導電型クラッド層の残りの一部を形成して、前記窒化物半導体基板上に半導体積層部を形成する
窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項16】
前記第2導電型クラッド層の一部を形成する際の前記リアクタ圧力が15mbar以上100mbar以下である
請求項15に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項17】
前記第1導電型クラッド層、前記発光層及び前記第2導電型クラッド層の形成時に、有機金属ガスを流入させ、
前記発光層を形成した後、前記第2導電型クラッド層の一部を形成する前に前記有機金属ガスの流入を一時的に停止させ、
前記第2導電型クラッド層の一部を形成した後、前記第2導電型クラッド層の残りの一部を形成する前に、前記有機金属ガスの流入を一時的に停止させる
請求項15又は16に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ライトエミッティングダイオード(LED)およびレーザダイオード(LD)等を形成するための材料として窒化物半導体が用いられている。窒化物半導体は、直接遷移の再結合形態を有することから、高い再結合効率および高い光学利得を得ることができる点で、LEDおよびLDのための材料として適している。このような窒化物半導体が用いられたレーザダイオードの一例として、紫外領域での電流注入型のレーザダイオードを発振させる技術が開示されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Zhang et at., Applied Physics Express 12、124003(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したレーザダイオード等の窒化物半導体素子は、キャリア(電子又は正孔)の注入効率を向上させることはできるものの、クラッド層の劣化抑制が十分でなかった。
本開示の目的は、クラッド層の劣化抑制とキャリアの注入効率向上を両立可能な窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本開示の一態様に係る窒化物半導体素子は、Alを含む窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板上に配置される半導体積層部と、を備えている。半導体積層部は、第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層と、第1導電型クラッド層上に配置され、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体で形成された発光層と、発光層上に配置され、第2導電型のAlを含む窒化物半導体で形成された第2導電型クラッド層と、を有している。第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で前記窒化物半導体基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を有している。
【0006】
また、本開示の他の態様に係る窒化物半導体素子の製造方法は、Alを含む窒化物半導体基板上に、第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層を形成し、第1導電型クラッド層上に、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体により発光層を形成し、ウエハ温度が900℃以上1000℃以下であり、リアクタ圧力が15mbar以上350mbar以下の条件で、第2導電型の窒化物半導体を含む第2導電型クラッド層の一部を形成し、ウエハ温度が1030℃以上1100℃以下であり、リアクタ圧力が15mbar以上350mbar以下の条件で第2導電型クラッド層の残りの一部を形成して、窒化物半導体基板上に半導体積層部を形成する。
なお、上述した発明の概要は、本開示にかかる発明の特徴の全てを列挙したものではない。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、クラッド層の劣化抑制とキャリアの注入効率向上を両立可能な窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る窒化物半導体素子におけるAl組成比の一構成例を示すグラフである。
【
図2A】本開示の実施形態に係る窒化物半導体素子の第2導電型クラッド層上面の構造を示すAFM写真である。
【
図2B】本開示の実施形態に係る窒化物半導体素子の第2導電型クラッド層上面の構造を示すSEM写真である。
【
図3】従来の窒化物半導体素子の第2導電型クラッド層上面の構造を示すAFM写真である。
【
図4】本開示の実施形態に係る窒化物半導体素子の一構成例を示す平面模式図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る窒化物半導体素子の一構成例を示す断面模式図である。
【
図6】本開示の実施形態に係る窒化物半導体素子の一構成例を示す断面模式図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る窒化物半導体素子の一構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を通じて本開示に係る窒化物半導体素子を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
また、以下の説明では、「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」及び「下」は、面、膜及び基板等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎず、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、紙面を180度回転すれば「上」が「下」に、「下」が「上」になることは勿論である。
【0010】
1.第1の実施形態
本開示の第1の実施形態に係る窒化物半導体素子について説明する。本実施形態に係る窒化物半導体素子は、例えばレーザダイオードである。
以下、窒化物半導体素子がレーザダイオードである場合について説明する。
【0011】
(1.1)レーザダイオードの構成
本実施形態に係るレーザダイオードは、Alを含む窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板上に配置され、窒化物半導体基板上に配置される半導体積層部と、を備えている。半導体積層部は、第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層と、第1導電型クラッド層上に配置され、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体で形成された発光層と、第1導電型クラッド層と発光層との間に配置されて、発光層へ光を閉じ込める第1導電型導波路層と、第2導電型クラッド層と発光層との間に配置されて、発光層へ光を閉じ込める第2導電型導波路層と、発光層上に配置され、第2導電型の窒化物半導体で形成された第2導電型クラッド層と、を有している。そして、第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で窒化物半導体基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を有している。
以下、レーザダイオードの各層について詳細に説明する。
【0012】
<窒化物半導体基板>
窒化物半導体基板(以下、基板と記載することがある)は、Alを含む窒化物半導体を含んでいる。Alを含む窒化物半導体は、例えばAlNである。すなわち、基板はAlN単結晶基板であることが好ましい。また、Alを含む窒化物半導体は、AlNに限定されず、例えばAlGaNであってよい。例えば、基板がAlN、AlGaN等の窒化物半導体単結晶基板である場合、基板の上側に形成される窒化物半導体層との格子定数差が小さくなり、窒化物半導体層を格子整合系で成長させることで貫通転位を少なくできる。
基板の貫通転位密度は、5×104cm-2以下であることが好ましい。特に、発光強度の向上および発振閾値電流の低減の観点から、貫通転位密度は1×103以上1×104cm-2以下であることがより好ましい。
なお、基板はAlを含む窒化物半導体を含んでいれば、異種基板上に形成されていてよい。たとえばサファイア(Al2O3)基板上にAlNが成長されていてもよい。
【0013】
ここで、「窒化物半導体を含む」という表現における「含む」とは、窒化物半導体を主に層内に含むことを意味するが、その他の元素を含む場合もこの表現に含まれる。具体的には、窒化物半導体以外の元素を少量(例えばGa(Gaが主元素でない場合)、In、As、P、またはSb等の元素を数%以下)加える等してこの層の組成に軽微な変更を加える場合についてもこの表現に含まれる。その他の層の組成の表現においても、「含む」という文言は、同様の意味を有する。また、含まれる少量元素については前述の限りではない。
【0014】
基板は、一例として100μm以上600μm以下の層厚を有することが好ましい。また、面方位はc面(0001)、a面(11-20)、m面(10-10)などが挙げられるが、c面(0001)基板がより好ましい。さらに、c面(0001)法線方向からいくらかの角度(例えば-4°~4°、好ましくは-0.4°~0.4°)に傾いた面上に形成することができるが、これに限らない。
【0015】
<バッファ層>
基板上、すなわち基板と第1導電型クラッド層との間には、バッファ層が形成されていてもよい。バッファ層は、基板の全面に形成されていることが好ましい。バッファ層を備えることにより、バッファ層上には格子定数差及び熱膨張係数差が小さく欠陥の少ない窒化物半導体層が形成される。
バッファ層は、Alを含んだ窒化物半導体層であることが好ましく、例えばAlN、AlGaN等の窒化物半導体で形成される。また、バッファ層には、C,Si,Fe、Mg等の不純物を含んでいても良い。
【0016】
バッファ層は、例えば数μmの厚さを有している。具体的には、バッファ層の厚さは、10nmより厚く10μmより薄いことが好ましい。バッファ層の厚さが10nmより厚い場合、AlN等の窒化物半導体の結晶性が高くなる。また、バッファ層の厚さが10μmより薄い場合、ウエハ全面に結晶成長により形成されたバッファ層にクラックが発生しにくくなる。
【0017】
<第1導電型クラッド層>
第1導電型クラッド層は、基板上に形成される。ここで、例えば「第1導電型クラッド層は基板上に形成される」という表現における「上に」という文言は、基板の一方の面上に第1導電型クラッド層が形成されることを意味する。また、基板と第1導電型クラッド層との間に別の層がさらに存在する場合も上述の表現に含まれる。その他の層同士の関係においても、「上の」という文言は、同様の意味を有する。例えば、後述する第1導電型導波路層上に電子ブロック層を介して第2導電型クラッド層が形成される場合も、「第2導電型クラッド層は第1導電型導波路層上に形成される」という表現に含まれる。
また、本実施形態の説明において、「第1導電型」および「第2導電型」は、それぞれ異なる導電型を示す半導体であることを意味し、例えば、一方がn型導電性である場合は、他方がp型導電性となる。
【0018】
第1導電型クラッド層は、AlおよびGaを含む窒化物半導体の層である。第1導電型クラッド層は、例えばAlaGa(1-a)N(0<a<1)により形成される。これにより、深紫外領域のバンドギャップエネルギーに対応する材料を発光層として形成する場合に、発光層の結晶性を高め、発光効率を向上させることが可能となる。高い発光効率を実現する観点から、第1導電型クラッド層を構成する窒化物半導体は、AlNおよびGaNの混晶であることが好ましい。また、第1導電型クラッド層及びより上層に形成された各層を基板に対して完全歪で成長させる観点から、第1導電型クラッド層は、AlaGa(1-a)N(0.65<a≦0.9)により形成されることがより好ましい。
【0019】
第1導電型クラッド層は、縦伝導率を制御する目的などから、Al組成が基板から遠ざかるほど増加するような傾斜層であって良い。この場合、上述したAl組成に対する限定は、第1導電型クラッド層内の膜厚方向の位置におけるAl組成を第1導電型クラッド層の膜厚で平均したAl組成とすることができる。
第1導電型クラッド層がn型導電性半導体層の場合は、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si等の不純物を含んでいてもよいが、不純物の元素の種類としてはこの限りではない。電気抵抗を低減する観点および原料の入手難易度の観点から、第1導電型クラッド層に含まれる不純物はSiであることが好ましく、不純物濃度は5×1018cm-3以上5×1019cm-3であることが好ましい。
また、第1導電型クラッド層の抵抗率は、1×10-3Ωcm以上5×10-3Ωcm以下であることが好ましい。これによりキャリア注入を効率よく行うことができる。
【0020】
第1導電型クラッド層は、第1導電型クラッド層内での格子緩和の観点と膜抵抗の観点から、250nm以上800nm以下の層厚を有することが好ましく、300nm以上450nm以下の層厚を有することがより好ましい。
【0021】
<発光層>
発光層は、AlおよびGaを含む窒化物半導体の層である。発光層が含む窒化物半導体は、高い発光効率を実現する観点から例えばAlN、GaNの混晶であることが好ましく、たとえばAlbGa(1-b)N(0<b<1)により形成される。発光層は、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si等の不純物を含んでいてよいが、不純物の元素の種類としてはこの限りではない。
【0022】
また、発光層は、多重量子井戸構造も単層量子井戸構造も取り得る。第1導電型クラッド層および第2導電型クラッド層の縦伝導率によって異なるが、量子井戸構造の数は好ましくは1から5のいずれかであることが好ましい。
【0023】
本実施形態のレーザダイオードにおいて、窒化物半導体層のポテンシャル揺らぎを間接的に表すαが130meV以上350meV以下であることが好ましい。このようなαで示される窒化物半導体層は、発光層のみでなく、後述する第1導電型導波路層又は第2導電型導波路層であってもよい。発光層、第1導電型導波路層又は第2導電型導波路層のαが130meV以上350meV以下である場合、局在化したキャリアの再結合が効率的に生じ、発光効率を向上させることができる。
ここで、「窒化物半導体層のポテンシャル揺らぎ」は、窒化物半導体層の面方向におけるGaの分布状態を特定するための指標であり、「ポテンシャル揺らぎを間接的に表すα」は窒化物半導体層の面方向における合金の均一性からの乖離を示す指標である。上述したαが30meV(程度)の場合、窒化物半導体層面方向においてGaが均一に分布している、すなわちAlとGaとが均一に並んでいることを示している。
このようなポテンシャル揺らぎは、窒化物半導体層の発光スペクトルの半価幅に現れる。すなわち、窒化物半導体層を構成する窒化物半導体が完全に均一な結晶に近づくほど発光スペクトルの半価幅は狭くなる。一方で、窒化物半導体のAl組成によっても発光スペクトルの半価幅の取りうる値は異なる。そこで、各Al組成における均一な状態における発光スペクトルの半価幅からの乖離を表現するαを用いて、窒化物半導体層のポテンシャル揺らぎを評価する。窒化物半導体層のAl組成xと、発光波長における発光スペクトルの半価幅FWHMとは、FWHM(meV)=αx+10meVの式で表現できる。このとき、αが大きいと、均一な状態から遠い、つまりGaなどが偏析や局在化しているといえる。
【0024】
また、発光層における井戸層とバリア層との界面において、Alの濃度プロファイルが傾斜的に変化する領域の厚さは、0.3nm以上0.6nm以下であることが好ましい。これにより、キャリアの閉じ込めを向上させ、発光強度を向上させることができる。
【0025】
<導波路層>
本実施形態のレーザダイオードは、レーザダイオードとしての光閉じ込めの観点から、発光層を挟み込むように発光層の上下に形成され、発光層から放出された光を発光層内に閉じ込める効果を有する導波路層を備えていても良い。導波路層は、第1導電型クラッド層と発光層との間に配置された第1導電型導波路層と、第2導電型クラッド層と発光層との間に配置された第2導電型導波路層との2層から構成されることが好ましい。
すなわち、本実施形態のレーザダイオードは、例えば、第1導電型クラッド層と発光層との間に配置されて、発光層へ光を閉じ込める第1導電型導波路層と、第2導電型クラッド層と発光層との間に配置されて、発光層へ光を閉じ込める第2導電型導波路層と、を備えていても良い。
【0026】
導波路層は、光閉じ込めの観点から、発光層よりエネルギーの高いバンドギャップを持つAl、Gaを含む窒化物半導体であることが好ましい。導波路層は、デバイス内で定在する光の電界強度分布と発光層の重なりを増大させるAl組成と膜厚とを有することが好ましい。発光層へのキャリア閉じ込めの観点から、発光層をAlbGa(1-b)N(0<b<1)とし、導波路層をAlcGa(1-c)N(0<c<1)としたとき、b<cであり、c≧b+0.05であることがより好ましい。たとえば発光波長が265nmの発光層を例とした場合、bは0.52であり、cは0.57以上であることが好ましい。また、光閉じ込めと、層抵抗の観点から、導波路層の総膜厚(第1導電型導波路層の膜厚と第2導電型導波路層の膜厚との合計膜厚)は70nm以上150nm以下であることが好ましい。
【0027】
導波路層は、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si等の不純物が混入していてよいが、不純物の元素の種類としてはこの限りではない。電気抵抗を低減する観点および原料の入手難易度の観点から、第1導電型導波路層に含まれる不純物はSiであることが好ましく、不純物濃度は5×1018cm-3以上5×1019cm-3であることが好ましい。
【0028】
第1導電型導波路層および第2導電型導波路層のAl組成のそれぞれは、膜厚方向において均一であることが好ましいが、この限りではない。後述する第2導電型クラッド層の上方に存在する金属(例えば第2電極)への光吸収を回避するために、第2導電型導波路層のAl組成が第1導電型導波路層のAl組成より高くなっていてもよい。同様の目的で、第2導電型導波路層の膜厚が第1導波路の膜厚より厚くなっていてもよい。
【0029】
<第2導電型クラッド層>
第2導電型クラッド層は、発光層上に形成され、第2導電型の導電性を有するAlおよびGaを含む窒化物半導体層である。第2導電型クラッド層は、例えばAldGa(1-d)N(0.1≦d≦1)により形成される。具体的には、第2導電型クラッド層は、第2導電型導波路層上に形成される。これにより、第2導電型クラッド層は、発光層または導波路層に対して格子整合が容易であり、貫通転位密度の抑制が可能となる。
【0030】
第2導電型クラッド層は、キャリア(電子または正孔)を発光層へ注入するに足りる導電性を有しており、デバイス内で定在する光モードの電界強度分布と発光層の重なりを増大させる(すなわち光閉じ込めを増大させる)ことが可能であれば、導電型は特に限定されない。第2導電型クラッド層は、たとえばMgをドーピングしたp型AlGaNであってよい。また、第2導電型クラッド層は、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si等の不純物が混入していてよいが、不純物の元素の種類としてはこの限りではない。
【0031】
キャリアをより効率よく発光層へ注入する観点から、第2導電型クラッド層は、層全体として基板から遠ざかるにつれてAl組成dが小さくなる様に組成傾斜したAldGa(1-d)N(0.1≦d≦1)で形成された組成傾斜層となっているが、第2導電型クラッド層の一部では、基板から遠ざかるにつれてAl組成dが大きくなっている。
第2導電型クラッド層は、窒化物半導体基板側から遠ざかるにつれてAl組成比dが1から0.7まで変化する組成傾斜を有することが好ましい。第2導電型クラッド層におけるAl組成dのプロファイル(傾斜)は、連続的に減少してもよいし、断続的に減少してもよい。ここで、「断続的に減少する」とは、第2導電型クラッド層の膜中の一部にAl組成dが同じ(膜厚方向に一定)になっている部分を含むことを意味する。つまり、第2導電型クラッド層には、基板から遠ざかる方向にAl組成dが減少しない部分が含まれていてもよい。
【0032】
第2導電型クラッド層の膜厚は、格子整合の観点から500nm以下であることが好ましい。また、光閉じ込めの観点から、250nm以上500nm以下であることがより好ましい。
【0033】
図1に、レーザダイオードの各層におけるAl組成比(太線で示す)及び不純物の組成比(実線で示す)を示している。なお、
図1では、バッファ層を有していない構造を一例として示している。
図1に示すように、第2導電型クラッド層は、基板から遠ざかるにつれてAl組成dが小さくなる様に組成傾斜している。第2導電型クラッド層の一部の領域では、炭素又は酸素等の不純物がドープされている。不純物は、例えば第2導電型導波路層と第2導電型クラッド層との間に設けられた組成傾斜層にもドープされ、当該組成傾斜層の始点(第2導電型導波路層側の界面)において濃度プロファイルが不連続に減少する。
従来、第2導電型クラッド層は、不純物の拡散を抑制して注入効率を向上させる目的などから、不純物がほとんどドープされていない窒化物半導体により形成されている場合が多い。しかしながら、本実施形態に係るレーザダイオードでは、第2導電型クラッド層のうちの一部に不純物を多く含むことにより、第2導電型クラッド層において劣化の抑制と注入効率の向上を両立することができる。
【0034】
また、第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を有することが好ましい。すなわち、不純物の濃度プロファイルが、濃度が高くなる方向に凸となる領域を有する。このような不連続領域を有することにより、第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層の劣化抑制効果を奏する第2導電型クラッド層の一部と、発光層へのキャリア(電子または正孔)の注入効率の向上効果を奏する第2導電型クラッド層の残りの一部を有する。この場合、第2導電型クラッド層における炭素または酸素の濃度プロファイルが急峻な傾きで傾斜し、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果が向上するとともに、第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と発光層へのキャリアの注入効率の向上効果を両立することができる。一般的に、不純物の濃度プロファイルが、濃度が高くなる方向に凸となる領域を有する場合は発光層へのキャリアの注入効率の点で不利であるが、第2クラッド層の厚さによっては炭素または酸素の濃度プロファイルが急峻な傾きで傾斜する領域を設けた方が、全体として発光層へのキャリアの注入効率の点で有利となる。
【0035】
ここで、「濃度プロファイルが少なくとも1か所で基板(窒化物半導体基板)から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域」とは、ある領域における不純物濃度(当該領域中の測定点で測定した不純物濃度)と、周辺の不純物濃度(隣接する領域中の測定点で測定した不純物濃度)とが2倍以上異なる領域をいう。例えば、
図1に示すように、不純物の濃度プロファイルが急激に変化する領域Pを有している。
【0036】
第2導電型クラッド層は、上述したように、不純物の濃度プロファイルが不連続に減少する領域Pを有している。濃度プロファイルが不連続に減少する領域Pは、第2導電型クラッド層の基板側から5nm以上110nm以下の領域に存在することが好ましい。これにより、発光層へのキャリアの注入効率の向上を阻害することなく第2導電型クラッド層の劣化を抑制することができる。
【0037】
また、第2導電型クラッド層のうち、不純物の濃度プロファイルが不連続に減少する領域Pは、AleGa(1-e)N(0.80≦e≦1.0)で形成されていることが好ましい。これにより、発光層へのキャリアの注入効率の向上を阻害することなく第2導電型クラッド層の劣化を抑制することができる。
第2導電型クラッド層のうち、不純物の濃度プロファイルが不連続に減少する領域Pよりも基板側の領域における炭素の濃度は、1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下であることが好ましい。同様に、第2導電型クラッド層のうち、不純物の濃度プロファイルが不連続に減少する領域Pよりも基板側の領域における酸素の濃度は、1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下であることが好ましい。これにより、第2導電型クラッド層の劣化抑制に効果を奏する層と、発光層へのキャリアの注入効率向上に効果を奏する層とがそれぞれ良好に形成される。このため、レーザダイオードにおける第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とをより良好に両立することができる。
【0038】
上述したように、第2導電型クラッド層は、AldGa(1-d)N(0.1≦d≦1)を含み、窒化物半導体基板から遠ざかるにつれてAl組成dが小さくなる組成傾斜を有している。また、第2導電型クラッド層の少なくとも一部は、基板から遠ざかる方向においてAl組成が不連続な組成不連続領域Qであり、組成不連続領域Qにおいては基板から遠ざかるにつれてAl組成dが大きくなっている。このように、第2導電型クラッド層が組成不連続領域Qを有することにより、レーザダイオードは、第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とを両立することができる。
【0039】
組成不連続領域Qは、第2導電型クラッド層の窒化物半導体基板側から5nm以上110nm以下の領域に存在することが好ましい。すなわち、組成不連続領域Qの始点は、領域Pの始点と一致することが好ましい。第2導電型クラッド層の窒化物半導体基板側に組成不連続領域Qを有することにより、発光層へのキャリアの注入効率の向上を阻害することなく第2導電型クラッド層の劣化を抑制することができる。
また、組成不連続領域Qは、基板から遠ざかるにつれてAl組成dが0.2%以上5%以下大きくなる組成傾斜を有していることが好ましい。組成不連続領域Qがこのような組成傾斜を有していることにより、第2導電型クラッド層の劣化抑制に効果を奏する層と、発光層へのキャリアの注入効率向上に効果を奏する層とがそれぞれ形成される。このため、レーザダイオードにおける第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とをより良好に両立することができる。
【0040】
また、第2導電型クラッド層の基板側の界面(すなわち第2導電型導波路層との界面)には、水素が1×1017cm-3以上5×1019cm-3以下含まれていることが好ましい。第2導電型クラッド層の少なくとも一部の領域には、第2導電型クラッド層の他の領域よりも高い濃度で水素が含まれていることが好ましい。なお、第2導電型クラッド層には全体的に微量の水素が含まれているが、第2導電型クラッド層は、部分的に高濃度の水素が含まれた領域(当該一部の領域)を含んでいる。これにより、レーザダイオードは、点欠陥を補償することができ、第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とを両立することができる。
【0041】
また、第2導電型クラッド層の他の領域よりも高い濃度で水素が含まれている領域は、第2導電型クラッド層の基板側から5nm以上110nm以下の領域であることが好ましい。これにより、点欠陥を補償することができ、発光層へのキャリアの注入効率の向上を阻害することなく第2導電型クラッド層の劣化を抑制することができる。
さらに、第2導電型クラッド層の他の領域よりも高い濃度で水素が含まれている領域における水素の濃度プロファイルの半価幅は、5nm以上10nm以下であることが好ましい。これにより、点欠陥を効果的に補償することができ、発光層へのキャリアの注入効率を向上させることができる。
【0042】
また、第2導電型クラッド層の基板側の界面には、シリコンが1×1017cm-3以上5×1019cm-3以下含まれていてもよい。第2導電型クラッド層の少なくとも一部の領域には、第2導電型クラッド層の他の領域よりも高い濃度でシリコンが含まれていてもよい。第2導電型クラッド層の他の領域よりも高い濃度でシリコンが含まれている領域は、第2導電型クラッド層の基板側から5nm以上110nm以下の領域であることが好ましい。
【0043】
上述したような第2導電型クラッド層の表面は、
図2Aに示すように、平面視で直線状以外のテラスと段差とを有するステップテラス構造を有している。ここで、比較のために、平面視で直線状のテラスと段差とを有するステップテラス構造を
図3に示す。これにより、レーザダイオードにおける第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とをより良好に両立することができる。
より具体的に、第2導電型クラッド層の表面は、複数の凹凸を含む凹凸形状であることが好ましい。このような第2導電型クラッド層の表面の凹凸は、平面視で六角形または円形であってもよく、また平面視で渦巻き状のステップテラス構造を有していてもよい。このような第2導電型クラッド層は、従来よりも低温(のちに詳細に説明する)で成長させて形成することにより、直線状のステップテラス構造から六角形もしくは円形、又は渦巻き状等の直線状以外のステップテラス構造に推移する。ここで、
図2Aは、渦巻き状のステップテラス構造を示す原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)写真であり、
図2Bは、円形状のステップテラス構造を示す走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)写真である。第2導電型クラッド層の表面に六角形もしくは円形、又は渦巻き状のステップテラス構造が形成されている場合、より高い第2導電型クラッド層の発光効率向上の効果が得られる。これは、六角形もしくは円形、又は渦巻き状のステップテラス構造の膜が成長する過程でGaが偏析して、電流注入効率が向上するためであると考えられる。
【0044】
渦巻き状のステップテラス構造の高さは、0.2nm以上0.4nm以下であることが好ましい。
また、複数の凹凸の分布密度は、1×107cm-2以上5×108cm-2以下であることが好ましい。
これにより、さらに高い第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と電流注入効率の向上とが得られる。
【0045】
なお、ステップテラス構造を有する窒化物半導体層を形成した後に、従来の方法で窒化物半導体層を成膜して第2導電型クラッド層を形成した場合、第2導電型クラッド層の表面にもステップテラス構造が現れる。このため、第2導電型クラッド層の表面形状を観察することで、第2導電型クラッド層の表面のステップテラス構造を確認することができる。また、第2導電型クラッド層上に後述する第2導電型コンタクト層を形成した場合、第2導電型コンタクト層表面にはステップテラス構造が現れなくなる。しかしながら、例えば六フッ化硫黄(SF6)ガス等により第2導電型コンタクト層のみを除去して第2導電型コンタクト層を露出させてSEM等により観察することにより、第2導電型クラッド層表面のステップテラス構造を確認することができる。
【0046】
<組成傾斜層>
本実施形態に係るレーザダイオードは、発光層(第2導電型導波路)と第2導電型クラッド層との間に、AlgGa(1-g)N(0.1≦g≦1)を含み、窒化物半導体基板から遠ざかるにつれてAl組成gが大きくなる組成傾斜層を有していてもよい。本実施形態のような組成傾斜層が設けられることにより、電解が緩和されて、劣化抑制効果が向上する。
また、組成傾斜層の膜厚は、2nm以上5nm以下であることが好ましく、2nm以上3nm以下であることが好ましい。この場合、劣化抑制効果がより向上する。
【0047】
<第2導電型コンタクト層>
本実施形態のレーザダイオードの半導体積層部は、第2導電型クラッド層上に配置された第2導電型コンタクト層を更に備えていても良い。第2導電型コンタクト層を構成する窒化物半導体は、例えばGaN、AlNまたはInNおよび、それらを含む混晶で形成されることが好ましく、GaNを含む窒化物半導体であることがより好ましい。
【0048】
第2導電型コンタクト層は、p型コンタクト層の場合、P、As、Sb等のN以外のV族元素、C、H、F、O、Mg、Si、Be等の不純物が混入していてよい。原料ガスの汎用性から、第2導電型コンタクト層に含まれる不純物はMgであることが好ましい。コンタクト抵抗低減の観点から、Mgの濃度が8×1019cm-3以上5×1021cm-3以下であることが好ましく、5×1020cm-3以上5×1021cm-3以下であることがより好ましい。
【0049】
また、第2導電型コンタクト層の層厚は、1nm以上20nm以下であることが好ましい。第2導電型コンタクト層の層厚が薄いほど発光層のキャリア注入効率が向上し、層厚が厚いほどキャリア注入効率が低下する。
【0050】
<電子ブロック層>
本実施形態のレーザダイオードの半導体積層部は、発光層よりも上方に、バンドギャップが発光層より大きい電子ブロック層を更に有していても良い。電子ブロック層は、例えば発光層の上に設けてもよく、第2導電型導波路層の内部、第2導電型導波路層と発光層との間または第2導電型導波路層と第2導電型クラッド層との間に設けることもできる。
電子ブロック層の層厚は、電子ブロック層をキャリア(正孔)が量子貫通しやすいように、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。
【0051】
<電極>
レーザダイオードは、第2導電型クラッド層上に配置された第2電極と、第1導電型クラッド層上に配置された第1電極によって電流を注入することにより発光または発振を行うことができる。このとき、第1電極は、第1導電型クラッド層と電気的に接触するように形成されており、第2電極は、第2導電型クラッド層と電気的に接触するように形成されている。
【0052】
第1電極は、例えば、基板の裏側に電極を配置することができる。また、第1電極は、半導体積層部の第1導電型クラッド層よりも上部の層を例えば化学エッチングまたはドライエッチングによって除去することにより露出した第1導電型クラッド層上に配置される。つまり、第1電極は、第1導電型クラッド層においてメサ構造を形成しない領域上に配置 される。
【0053】
第1導電型クラッド層がn型クラッド層の場合、第1電極は、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zr等の金属、これらの混晶、または、ITOもしくはGa2O3等の導電性酸化物等により形成される。
第1導電型クラッド層がp型クラッド層の場合、第1電極は、Ni、Au、Pt、Ag、Rh、Pd、Pt、Cu、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Ir、Zr等の金属、これらの混晶、または、ITOもしくはGa2O3等の導電性酸化物等により形成される。
【0054】
第2導電型クラッド層がn型クラッド層の場合、第2電極は、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zr等の金属、これらの混晶、または、ITOもしくはGa2O3等の導電性酸化物等により形成される。
第2導電型クラッド層がp型クラッド層の場合、第2電極は、Ni、Au、Pt、Ag、Rh、Pd、Pt、Cu、Al、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Co、Ir、Zr等の金属、これらの混晶、または、ITOもしくはGa2O3等の導電性酸化物等により形成される。
【0055】
第1電極および第2電極の配置領域および形状は、第1導電型クラッド層と第2導電型クラッド層(第2導電型コンタクト層を備える場合には第2導電型コンタクト層)とのそれぞれと電気的接触が得られていれば限定はされない。
【0056】
(1.2)窒化物半導体素子の製造方法
本実施形態の窒化物半導体素子であるレーザダイオードは、基板上に各層を形成する工程を経て製造される。以下、レーザダイオードの製造方法を説明する。
【0057】
(1.2.1)レーザダイオードの製造方法
(基板の形成)
基板は、昇華法、ハイドライド気相成長(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等の気相成長法および液相成長法等の一般的な基板成長法により形成される。
【0058】
(半導体積層部の形成)
基板上に形成される半導体積層部の各層は、例えば、分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法または有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等により形成することができる。
ここで、基板上に形成された各層のうち窒化物半導体の層は、例えばトリメチルアルミニウム(TMAl)を含むAl原料、トリメチルガリウム(TMGa)またはトリエチルガリウム(TEGa)等を含むGa原料、もしくはアンモニア(NH3)を含むN原料を用いて形成することができる。
【0059】
基板上に半導体積層部を形成する。このとき、半導体積層部形成空間には、有機金属ガスを流入させる。まず、基板上に第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層を形成する。
【0060】
次いで、第1導電型クラッド層上に、AlGaN等の窒化物半導体による第1導電型導波路層を形成した後、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体(AlGaN等)により発光層を形成する。続いて、発光層上に、AlGaN等の窒化物半導体による第2導電型導波路層を形成する。
【0061】
このとき、第1導電型導波路層、発光層及び第2導電型導波路層の形成は、ウエハ温度をTw、リアクタ圧力をVwとしたとき、-2Tw+2050<Vw<-2Tw+2350を満たす(850℃<Tw<970℃)条件下で形成することが好ましい。
これにより、窒化物半導体層面方向においてGaが不均一に分布している発光層、を形成することができ。また、同様に、窒化物半導体層面方向においてGaが不均一に分布した第1導電型導波路及び第2導電型導波路を形成することができる。これによりキャリアを局在化することで再結合割合が高まり、発光効率を高めることができる。
【0062】
続いて、第2導電型導波路層上に第2導電型クラッド層を形成する。
まず、第2導電型クラッド層の一部を形成する前に有機金属ガスの流入を一時的に停止して窒化物半導体層の成長を中断させ、成膜条件を変更する。
続いて、ウエハ温度を900℃以上1000℃以下、リアクタ圧力を15mbar以上350mbar以下の条件に変更し、有機金属ガスの流入を再開させて、第2導電型の窒化物半導体により第2導電型クラッド層の一部を形成することが好ましい。
【0063】
第2導電型クラッド層の一部を形成した後、第2導電型クラッド層の残りの一部を形成する前に、再度有機金属ガスの流入を一時的に停止して窒化物半導体層の成長を中断させ、成膜条件を変更する。
続いて、ウエハ温度を1030℃以上1100℃以下、リアクタ圧力を15mbar以上350mbar以下の条件に変更し、有機金属ガスの流入を再開させて、第2導電型クラッド層の残りの一部を形成する。
【0064】
以上のようにして第1導電型クラッド層、第1導電型導波路層、発光層及び第2導電型導波路層を形成することにより、キャリアの再結合割合を高めたり、各層の点欠陥が低減したりして、劣化抑制や発光効率を向上させることができる。
また、第2導電型クラッド層の一部を形成する際のウエハ温度を第2導電型クラッド層の残りの一部を形成する際のウエハ温度よりも低温にすることにより、第2導電型クラッド層の一部と、第2導電型クラッド層の残りの一部とにおける炭素または酸素の濃度プロファイルが基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を少なくとも1か所形成することができる。すなわち、第2導電型クラッド層の一部は、第2導電型クラッド層の残りの一部と比較して炭素または酸素を多く含むように形成することができる。これにより、第2導電型クラッド層において劣化の抑制と注入効率の向上を両立することができる。
また、第2導電型クラッド層の一部を形成する際のリアクタ圧力を、第2導電型クラッド層の残りの一部を形成する際のリアクタ圧力よりも低圧にすることにより、第2導電型クラッド層の一部が、第2導電型クラッド層の残りの一部と比較して不純物である炭素または酸素をより多く含むように形成することができる。
【0065】
さらに、第2導電型クラッド層の一部を形成する前に有機金属ガスの流入を一時的に停止させることにより、水素やシリコンが第2導電型クラッド層の基板側の界面に局在する。これは、例えばキャリアガスとして水素ガス(H2)を用いた場合に、成長を中断させている窒化物半導体層の最上層(例えば第2導電型導波路層と第2導電型クラッド層との界面及び第2導電型クラッド層の層中の一部)に水素(H)が局在しやすくなるためである。これにより、レーザダイオードは、第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とをさらに向上させることができる。
【0066】
従来、窒化物半導体層の成長を中断させる場合、一部の元素(例えばAlGaNの場合はGa)が抜けてしまうため、成長の中断は極力行わないようにしている。しかしながら、成長中断を行って水素を積極的に導入し、第2導電型導波路層と第2導電型クラッド層との界面及び第2導電型クラッド層の層中の一部に水素を局在させることにより、界面の点欠陥をVIII-H3となるように補償して、劣化抑制効果を向上させることができる。
また、従来、第2導電型クラッド層がp型半導体層である場合、n型不純物となるシリコンを含まないことが好ましい。しかしながら、成長中断を行ってシリコンを積極的に導入し、第2導電型導波路層と第2導電型クラッド層との界面及び第2導電型クラッド層の層中の一部に原料やサセプタ由来のシリコンを局在させることにより、界面の点欠陥を補償して、劣化抑制効果を向上させることができる。
【0067】
なお、上述したように、本実施形態では第2導電型クラッド層の一部を形成する際のウエハ温度を第2導電型クラッド層の残りの一部を形成する際のウエハ温度よりも低温にすることにより、第2導電型クラッド層の一部と、第2導電型クラッド層の残りの一部とにおける炭素または酸素の濃度プロファイルが基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を少なくとも1か所形成したが、このような製造方法に限られない。例えば、第2導電型クラッド層形成中に意図的に有機金属ガスの流量を変化させて炭素または酸素の濃度プロファイルが基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を形成してもよい。
【0068】
また、必要に応じて、第2導電型クラッド層および第2導電型導波路層の間にAlGaN等の窒化物半導体により中間層を形成してもよく、第2導電型クラッド層上にGaN等を含む窒化物半導体により第2導電型コンタクト層を設けてもよく、発光層よりも上方に電子ブロック層を形成してもよい。
【0069】
レーザダイオードは、基板上に形成された半導体積層部の各層の不要部分をエッチングによって除去する工程(メサ構造形成工程)を経て製造される。半導体積層部の各層の不要部分の除去は、例えば誘導結合型プラズマ(ICP)エッチング等で行うことができる。
メサ構造形成工程では、エッチングによって導体積層部の各層の不要部分が除去されることで、第1導電型クラッド層の一部が露出される。
【0070】
(電極の形成)
また、レーザダイオードは、電極を形成する工程を経て製造され得る。第1電極および第2電極等の電極は、例えば抵抗加熱蒸着、電子銃蒸着またはスパッタ等のように電子線蒸着(EB)法によって金属を蒸着させる種々の方法により形成されるが、これらの方法には限定されない。各電極は、単層で形成してもよく、複数層積層して形成してもよい。また、各電極は、層の形成後に酸素、窒素または空気雰囲気等で熱処理が行われてもよい。
最後に、上述した工程を経て各層が形成された基板を、ダイシングにより個片へと分割してレーザダイオードが製造される。
【0071】
具体的には、第1導電型クラッド層上において、表面上に第1電極を形成する。また、第2電極は、半導体積層部の一部形成されるメサ構造の最上層(例えば、第2導電型クラッド層)に形成される。形成された電極は、赤外線ランプによる加熱処理であるラピッドサーマルアニーリング(RTA:Rapid Thermal Anneal)装置による加熱や、レーザパルスによる加熱処理であるレーザアニーリングによって合金化され、窒化物半導体層とのコンタクト得ることができる。このとき、窒化物半導体層との十分なコンタクトが得られれば合金化の手法は特に限定されない。
このように、本実施形態によるレーザダイオードの製造方法によれば、キャリア注入効率を高めることができ、発光強度を高めることができる。
【0072】
(1.3)レーザダイオードの物性等の測定方法
上述したレーザダイオードの物性等は、以下のようにして測定することができる。
【0073】
(層厚の測定方法)
レーザダイオードを構成する各層の層厚は、基板に垂直な所定断面を切り出して、この断面を透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により観察し、TEMの測長機能を使用することで測定できる。測定方法としては、先ず、TEMを用いて、レーザダイオードの基板の主面に対して垂直な断面を観察する。具体的には、例えば、レーザダイオードの基板の主面に対して垂直な断面を示すTEM画像内の、基板の主面に対して平行な方向において2μm以上の範囲を観察幅とする。この観察幅の範囲において、組成の異なる2層の界面にはコントラストが観察されるので、この界面までの厚さを、幅200nmの連続する観察領域で観察する。この200nm幅の観察領域内に含まれる各層の厚さの平均値を、上述した2μm以上の観察幅から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層の層厚を得ることができる。
【0074】
(不純物濃度およびドーピング濃度の測定)
レーザダイオードを構成する各層に含まれるドーパントや不純物の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定することができる。
各層に含まれるドーパントや不純物の濃度を、デバイスに加工された後にSIMSで測定する場合は、化学的なエッチングや物理研磨により電極を除去した状態で行うことができる。また、各層に含まれるドーパントや不純物の濃度は、電極が形成されていない基板側からスパッタして測定することもできる。
具体的には、エバンス・アナリティカル・グループ(EAG)社が提供する測定条件によりSIMS測定を実施する。測定時の試料のスパッタには、14.5keVのエネルギーを有したセシウム(Cs)イオンビームを用いる。
【0075】
(各層の原子濃度の測定方法)
レーザダイオードを構成する各層に含まれる原子濃度を測定する方法としては、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)法による逆格子マッピング測定(RSM:Reciprocal Space Mapping)が挙げられる。具体的には、非対称面を回折面として得られる回折ピーク近傍の逆格子マッピングデータを解析することにより、下地に対する格子緩和率とAl組成が得られる。回折面としては、例えば(10-15)面や(20-24)面が挙げられる。
【0076】
また、発光層や傾斜層、各層に形成されたヒロックなどのXRDで十分な反射強度が得られない層や領域は、X線光電分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)、及び電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)によって測定することができる。
【0077】
EELSでは、電子線が試料を透過する際に失うエネルギーを測定することで、試料の組成を分析する。具体的には、例えば、TEM観察等で使用する薄片化試料において、透過電子線の強度のエネルギー損失スペクトルを測定・解析する。そして、エネルギー損失量20eV付近に現れるピーク位置が、各層の組成に応じて変化することを利用し、ピーク位置から組成を求めることができる。
【0078】
上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2μm以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
【0079】
EDXでは、上述のTEM観察等で使用する薄片化試料において電子線によって発生する特性X線を測定・解析する。上述のTEM観察による層厚算出方法と同様にして、観察幅200nmにおけるAl組成の平均値を、2μm以上の観察領域から任意に抽出した5箇所から算出することで、各層のAl組成を得る。
【0080】
XPSでは、イオンビームを用いたスパッタエッチングを行いながらXPS測定を行うことで、深さ方向の評価が可能である。イオンビームには一般的にAr+が用いられるが、XPS装置に搭載されたエッチング用イオン銃で照射できるイオンであれば、例えばArクラスターイオンなどの他のイオン種でもよい。Al、Ga、NのXPSピーク強度を測定・解析して各層のAl組成の深さ方向分布を得る。スパッタエッチングの代わりに、基板の主面に対して垂直な断面が拡大されて露出されるようにレーザダイオードを斜め研磨して、露出断面をXPSで測ってもよい。
【0081】
XPSだけでなくオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)を用いても各層の組成を測定できる。この場合、スパッタエッチングあるいは斜め研磨により露出させた断面においてオージェ電子分光法による測定を行うことで、組成を測定できる。また、斜め研磨により露出させた断面に対するSEM-EDX測定によっても、各層の組成を測定できる。
【0082】
(ポテンシャル揺らぎの測定方法)
ポテンシャル揺らぎを間接的に表すαは、窒化物半導体層のAl組成xと発光波長における半価幅FWHMとを用いてFWHM(meV)=αx+10meVの式から算出される。具体的には窒化物半導体層にフォトルミネッセンス測定を実施して得られる発光スペクトルからFWHMを得る。また、窒化物半導体層のAl組成xを用いることでαが得られる。このとき、フォトルミネッセンス測定は励起する窒化物半導体層のバンドギャップよりもよりも波長の短い光源を用いる。例として213nmのYAGの3倍派レーザなどを用いる。サンプルを10K以下まで冷却しながら測定することで、より正確な値を得ることが可能になる。また、励起したい窒化物半導体層よりもバンドギャップの小さい層が存在する場合はエッチングなどによって除去することで特定の層を測定することができる。具体的には第1導電型導波路層の上に発光層が存在する場合、励起光によって量子化した発光層が励起されるため、発光層をエッチングにて除去してから第1導電型導波路層を測定することで正確な値が得られる。
【0083】
(表面形状の測定方法)
第2導電型クラッド層の表面形状を測定する方法としては、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や原子間力顕微鏡法(AFM:Atomic Force Microscopy)が挙げられる。
第2導電型クラッド層表面の凹凸形状は、具体的には、日立ハイテク社製の走査電子顕微鏡SU9000を用いて加速電圧30kVにて観察を行う。このとき、倍率を10K~50K倍にすることにより、第2導電型クラッド層の表面形状を明瞭に観察できる。この条件で観測範囲内に含まれる六角形または円形の凹凸の数を計測し、面積で割り返した値を凹凸の密度とする。このとき、六角形の角がなだらかになっている場合もありうるが、その場合も六角形として扱う。
第2導電型クラッド層の表面の凹凸の段差高さは、AFMによって測定することができる。具体的には、日立ハイテク社製の走査型プローブ顕微鏡を用いて観察を行う。走査型プローブ顕微鏡での観察時にAFMモードを使用して、2μm角の範囲を観察する。得られたAFM増からステップ高さを求めることができる。
【0084】
(窒化物半導体素子の適用分野)
本開示に係るレーザダイオードは、例えば、医療・ライフサイエンス分野、環境分野、産業・工業分野、生活・家電分野、農業分野、その他分野の装置に適用可能である。レーザダイオードは、薬品または化学物質の合成・分解装置、液体・気体・固体(容器、食品、医療機器等)殺菌装置、半導体等の洗浄装置、フィルム・ガラス・金属等の表面改質装置、半導体・FPD(Flat Panel Display)・PCB(Printed Wiring Board)・その他電子品製造用の露光装置、印刷・コーティング装置、接着・シール装置、フィルム・パターン・モックアップ等の転写・成形装置、紙幣・傷・血液・化学物質等の測定・検査装置に適用可能である。
【0085】
液体殺菌装置の例としては、冷蔵庫内の自動製氷装置・製氷皿および貯氷容器・製氷機用の給水タンク、冷凍庫、製氷機、加湿器、除湿器、ウォーターサーバの冷水タンク・温水タンク・流路配管、据置型浄水器、携帯型浄水器、給水器、給湯器、排水処理装置、ディスポーザ、便器の排水トラップ、洗濯機、透析用水殺菌モジュール、腹膜透析のコネクタ殺菌器、災害用貯水システム等が挙げられるが、この限りではない。
【0086】
気体殺菌装置の例としては、空気清浄器、エアコン、天井扇、床面用または寝具用の掃除機、布団乾燥機、靴乾燥機、洗濯機、衣類乾燥機、室内殺菌灯、保管庫の換気システム、靴箱、タンス等が挙げられるが、この限りではない。
固体殺菌装置(表面殺菌装置を含む)の例としては、真空パック器、ベルトコンベヤ、医科用・歯科用・床屋用・美容院用のハンドツール殺菌装置、歯ブラシ、歯ブラシ入れ、箸箱、化粧ポーチ、排水溝のふた、便器の局部洗浄器、便器フタ等が挙げられるが、この限りではない。
【0087】
2.第2の実施形態
本開示の第2の実施形態に係る窒化物半導体素子について説明する。本実施形態に係る窒化物半導体素子は、例えば発光素子である。
以下、窒化物半導体素子が発光素子である場合について説明する。
【0088】
(2.1)発光素子の構成
本実施形態に係る発光素子は、Alを含む窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板上に配置される半導体積層部と、を備えている。半導体積層部は、第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層と、第1導電型クラッド層上に配置され、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体で形成された発光層と、発光層上に配置され、第2導電型の窒化物半導体で形成された第2導電型クラッド層と、を有している。そして、第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で窒化物半導体基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を有している。
【0089】
本実施形態の発光素子は、第1導電型導波路層及び第2導電型導波路層を備えていない点で第1の実施形態のレーザダイオードと相違する。また、本実施形態に係る発光素子において、第2導電型クラッド層はバリア層として用いられることがある。
また、本実施形態の発光素子は、第1の実施形態のレーザダイオードの第1導電型クラッド層と異なる構成を有する。このため、以下、発光素子の第1導電型クラッド層及び第2導電型クラッド層について詳細に説明する。
なお、第1導電型クラッド層以外の各層、すなわち窒化物半導体基板、バッファ層及び発光層は、第1の実施形態で説明した各層と同様であるため説明を省略する。
【0090】
<第1導電型クラッド層>
第1導電型クラッド層は、AlおよびGaを含む窒化物半導体の層である。第1導電型クラッド層は、例えばAlaGa(1-a)N(0<a<1)により形成されており、例えばAlaGa(1-a)N(0.7≦a≦1)により形成されていることが好ましい。
第1導電型クラッド層は、n型半導体により形成されていることが好ましい。
また、第1導電型クラッド層の膜厚T0は、(3500a-2150)nm以上(26500a-17850)nm以下である(aは、第1導電型クラッド層を構成する窒化物半導体のAl組成a)ことが好ましい。
さらに、第1導電型クラッド層の抵抗率は、1×10-3Ωcm以上5×10-3Ωcm以下であることが好ましい。
これ以外の構成は、第1の実施形態に記載の第1導電型クラッド層と同様の構成を有している。
【0091】
<第2導電型クラッド層>
発光素子では、Al組成が傾斜した第2導電型クラッド層ではなく、発光層上にAl組成が一定の電子ブロック層が設けられ、電子ブロック層の上にAl組成が傾斜した第2導電型コンタクト層が設けられている。このAl組成が傾斜した第2導電型コンタクト層が、クラッド層の役目を果たしている。
このとき、電子ブロック層を従来よりも低温で成長させることで第1の実施形態にかかるレーザダイオードと同様に電子ブロック層及び第2導電型コンタクト層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とを両立する効果が得られる。電子ブロック層と第2導電型コンタクト層とを第2導電型クラッド層とみなす場合、電子ブロック層の成長前に有機金属ガスの流入を一時的に停止して窒化物半導体層の成長を中断させて、電子ブロック層の一部のみを低温で成長させる。この結果、レーザダイオードの第2導電型クラッド層と同様に、炭素または酸素の濃度プロファイルが不連続に減少し、界面に水素が局在し、電子ブロック層に従来より多くの不純物が含まれる発光素子が得られる。
【0092】
電子ブロック層の膜厚は、10nm以上15nm以下であることが好ましい。すなわち、発光素子において、電子ブロック層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが不連続に減少する領域は、電子ブロック層の基板側から10nm以上15nm以下の領域に存在することが好ましい。
【0093】
なお、本実施形態に係る発光素子は、第1の実施形態に係るレーザダイオードと異なり、第1導電型導波路層及び第2導電型導波路層を備えていない。このため、ポテンシャル揺らぎを間接的に表すαを評価することが困難である。これは、ポテンシャル揺らぎを間接的に表すαを評価しようとすると、量子化された発光層が励起されてしまい正しい結果が得られないためである。しかしながら、第1の実施形態と同様の条件により窒化物半導体層を形成することで、同様のポテンシャル揺らぎを間接的に表すαを有する窒化物半導体層を形成することができる。
【0094】
3.窒化物半導体素子の具体例
以下、
図4から
図7の各図を参照して、本実施形態の窒化物半導体素子をより具体的に説明する。なお、以下の各例の各層の詳細な構成は、上述した通りである。
【0095】
(3.1)第1の例
図4は、第1の例であるレーザダイオード1の断面模式図である。
図4に示すように、レーザダイオード1は、基板11と、基板上に配置される半導体積層部10と、第1電極13と、第2電極14とを備えている。半導体積層部10は、n型の導電型を有する第1導電型クラッド層101、第1導電型導波路層102、発光層103、第2導電型導波路層104、およびp型の導電型を有する第2導電型クラッド層105を備えている。
【0096】
(3.2)第2の例
図5は、第2の例であるレーザダイオード2の断面模式図である。
図5に示すように、レーザダイオード2は、基板11と、バッファ層12と、基板11(バッファ層12)上に配置される半導体積層部10と、第1電極13と、第2電極14とを備えている。半導体積層部10は、n型の導電型を有する第1導電型クラッド層101、第1導電型導波路層102、発光層103、第2導電型導波路層104、およびp型の導電型を有する第2導電型クラッド層105を備えている。
すなわち、レーザダイオード2は、バッファ層12を備えている点でレーザダイオード1と相違する。
【0097】
(3.3)第3の例
図6は、第3の例であるレーザダイオード3の断面模式図である。
図6に示すように、レーザダイオード3は、基板11と、バッファ層12と、基板上に配置される半導体積層部10と、第1電極13と、第2電極14とを備えている。半導体積層部10は、n型の導電型を有する第1導電型クラッド層101、第1導電型導波路層102、発光層103、第2導電型導波路層104、p型の導電型を有する第2導電型クラッド層105およびコンタクト層106を備えている。
すなわち、レーザダイオード3は、コンタクト層106を備えている点でレーザダイオード1と相違する。
なお、本開示のレーザダイオードは、第2の例に記載のバッファ層12及び第3の例に記載のコンタクト層106を備える構成であっても良い。
【0098】
(3.4)第4の例
図7は、第1の例である発光素子4の断面模式図である。
図7に示すように、発光素子4は、基板11と、基板上に配置される半導体積層部10と、第1電極13と、第2電極14とを備えている。半導体積層部10は、n型の導電型を有する第1導電型クラッド層101、発光層103、およびp型の導電型を有する第2導電型クラッド層105を備えている。なお、発光素子4では、電子ブロック層と第2導電型コンタクト層とが設けられて第2導電型クラッド層105の役割を果たしている。
すなわち、発光素子4は、第1導電型導波路層102および第2導電型導波路層104を備えていない点でレーザダイオード1と相違する。また、発光素子4は、電子ブロック層と第2導電型コンタクト層とが設けられて第2導電型クラッド層105の役割を果たす点でレーザダイオード1と相違する。
なお、本開示の発光素子は、第2の例に記載のバッファ層12を備える構成であっても良い。
【0099】
4.効果
上述した窒化物半導体素子は、以下の効果を有する。
【0100】
(1)本開示の窒化物半導体素子は、Alを含む窒化物半導体基板と、窒化物半導体基板上に配置される半導体積層部と、を備えている。半導体積層部は、第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層と、第1導電型クラッド層上に配置され、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体で形成された発光層と、発光層上に配置され、第2導電型の窒化物半導体で形成された第2導電型クラッド層と、を有している。第2導電型クラッド層は、第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で窒化物半導体基板から遠ざかるにつれて不連続に減少する領域を有している。
これにより、第2導電型クラッド層では、第2導電型クラッド層における炭素または酸素の濃度プロファイルが急峻な傾きで傾斜し、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果が向上するとともに、第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と発光層へのキャリアの注入効率の向上効果を両立することができる。
【0101】
(2)本開示の窒化物半導体素子では、濃度プロファイルが不連続に減少する領域が第2導電型クラッド層の基板側から5nm以上110nm以下の領域に存在することが好ましい。
これにより、発光層へのキャリアの注入効率の向上を阻害することなく第2導電型クラッド層の劣化を抑制することができる。
【0102】
(3)本開示の窒化物半導体素子では、第2導電型クラッド層のうち濃度プロファイルが不連続に減少する領域がAldGa(1-d)N(0.80≦d≦1.0)で形成されていることが好ましい。
これにより、発光層へのキャリアの注入効率の向上を阻害することなく第2導電型クラッド層の劣化を抑制することができる。
【0103】
(4)本開示の窒化物半導体素子では、第2導電型クラッド層の濃度プロファイルが不連続に減少する領域よりも窒化物半導体基板側の領域における炭素の濃度が1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下であることが好ましい。
これにより、レーザダイオードにおける第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とをより良好に両立することができる。
【0104】
(5)本開示の窒化物半導体素子では、第2導電型クラッド層の濃度プロファイルが不連続に減少する領域よりも窒化物半導体基板側の領域における酸素の濃度が1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下であることが好ましい。
これにより、レーザダイオードにおける第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とをより良好に両立することができる。
【0105】
(6)本開示の窒化物半導体素子の製造方法は、Alを含む窒化物半導体基板上に第1導電型の窒化物半導体を含む第1導電型クラッド層を形成し、第1導電型クラッド層上に、一つ以上の量子井戸を含む窒化物半導体により発光層を形成し、ウエハ温度が900℃以上1000℃以下であり、リアクタ圧力が15mbar以上350mbar以下の条件で、第2導電型の窒化物半導体を含む第2導電型クラッド層の一部を形成し、ウエハ温度が1030℃以上1100℃以下であり、リアクタ圧力が15mbar以上350mbar以下の条件で第2導電型クラッド層の残りの一部を形成して、窒化物半導体基板上に半導体積層部を形成する。
これにより、第2導電型クラッド層の一部は、第2導電型クラッド層の残りの一部と比較して炭素または酸素を多く含むように形成することができ、第2導電型クラッド層において劣化の抑制と注入効率の向上を両立することができる。
【0106】
(7)本開示の窒化物半導体素子の製造方法では、第2導電型クラッド層の一部を形成する際のリアクタ圧力が15mbar以上100mbar以下であることが好ましい。
これにより、第2導電型クラッド層の一部が、第2導電型クラッド層の残りの一部と比較して炭素または酸素をより多く含むように形成することができ、第2導電型クラッド層における劣化抑制効果及び注入効率をより向上させることができる。
【0107】
(8)本開示の窒化物半導体素子の製造方法では、第1導電型クラッド層、発光層及び第2導電型クラッド層の形成時に、有機金属ガスを流入させ、発光層を形成した後、第2導電型クラッド層の一部を形成する前に有機金属ガスの流入を一時的に停止させ、第2導電型クラッド層の一部を形成した後、第2導電型クラッド層の残りの一部を形成する前に、有機金属ガスの流入を一時的に停止させることが好ましい。
これにより、窒化物半導体を含む層の成長を一時的に中断させて水素やシリコンを第2導電型クラッド層の基板側の界面に局在化させ、第2導電型クラッド層の劣化抑制効果と、発光層へのキャリアの注入効率の向上効果とをさらに向上させることができる。
【実施例0108】
<サンプル1>
以下、本開示のレーザダイオードを実施例及び比較例により説明する。なお、本開示のレーザダイオードは、これら実施例に限定されない。
基板として厚さ550μmの(0001)面AlN単結晶基板を用いた。
次に、基板上に、ホモエピタキシャル層であるAlN層を形成した。AlN層は、1200℃の環境下において500nmの厚さで形成した。このとき、III族元素原料ガスの供給レートと窒素原料ガスの供給レートとの比率(V/III比)は50とした。このときのAlN層の成長レートは0.5μm/hrであった。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH3)を用いた。
【0109】
この基板上に、第1導電型クラッド層を形成した。第1導電型クラッド層は、Siをドーパント不純物として用いたn型AlGaN層(Al:75%、すなわちAl0.75Ga0.25N層)とした。第1導電型クラッド層は、1050℃の温度で、リアクタ圧力を50mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で400nmの厚さで形成した。このときの第1導電型クラッド層の成長レートは0.4μm/hrであった。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH3)を用いた。また、Si原料としてモノシラン(SiH4)を用いた。
【0110】
続いて、第1導電型クラッド層上に第1導波路層であるn型導波路層を形成した。n型導波路層は、Siをドーパント不純物として用いたn型AlGaN層(Al:63%、すなわちAl0.63Ga0.37N層)とした。n型導波路層は、950℃の温度で、リアクタ圧力を300mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で40nmの厚さで形成した。このときのn型導波路層の成長レートは0.35μm/hrであった。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。また、N原料としてアンモニア(NH3)を用いた。
【0111】
続いて、n型導波路層上に発光層を形成した。発光層は、量子井戸層とバリア層とを2周期積層させた多重量子井戸構造を有するように成膜して形成した。ここで、量子井戸層は、4.5nmの厚さを有するAlGaN層(Al:52%、すなわちAl0.52Ga0.48N層)とした。また、6.0nmの厚さを有するバリア層は、AlGaN層(Al:63%、すなわちAl0.63Ga0.37N層)とした。
発光層は、950℃の温度で、リアクタ圧力を300mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で形成した。このときの量子井戸層の成長レートは0.18μm/hrであった。また、バリア層の成長レートは0.15μm/hrであった。
【0112】
続いて、発光層上に第2導波路層であるp型導波路層を形成した。p型導波路層は、ドーパントを含まないAlGaN層(Al:63%、すなわちAl0.63Ga0.37N層)とした。p型導波路層は、950℃の温度で、リアクタ圧力を300mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で70nmの厚さで形成した。このときのp型導波路層の成長レートは0.35μm/hrであった。また、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。
【0113】
続いて、p型導波路層上に第2導電型クラッド層を形成した。第2導電型クラッド層は、Al組成比が傾斜する組成傾斜層である。基板から遠ざかる方向にAl組成が分布をもち、Al=0.63から1.0まで変化する、層厚2.5nmのAlGaN層と、基板から遠ざかる方向にAl組成が分布をもち、Al=1.0から0.7まで変化する、層厚330nmのp型AlGaN層とした。
第2導電型クラッド層を成長する前に、有機金属ガスの流入を一時的に停止させ、水素とNH3のみを照射した状態で950℃の温度で、リアクタ圧力を50mbarに設定した。最初の層厚72.5nm、Al組成が0.63→1.0→0.95に相当する層(A)をV/III比を4000とした条件で形成した。このときの成長レートは0.3~0.5μm/hrであった。次に有機金属ガスの流入を一時的に停止させ、水素とNH3のみを照射した状態で1050℃の温度で、リアクタ圧力を50mbarに設定した。残りの層厚257.5nm、Al組成が0.95→0.7に相当する層(B)をV/III比を4000とした条件で形成した。このときの成長レートは0.3~0.5μm/hrであった。
また、全体を通して、Al原料としてトリメチルアルミニウム(TMAl)を用いた。また、Ga原料としてトリエチルガリウム(TEGa)を用いた。なお、上述した層(A)と層(B)の界面が、不純物の濃度プロファイルが急激に変化する領域P又は基板から遠ざかる方向においてAl組成が不連続な組成不連続領域Qに相当する。
【0114】
続いて、第2導電型クラッド層上に第2導電型コンタクト層であるp型コンタクト層を形成した。ここで、p型コンタクト層は、AlGaN層とGaN層とにより形成した。AlGaN層は、Mgをドーパント不純物として用い、基板から遠ざかる方向にAl組成が分布をもち、Al=0.7から0.4まで変化する、層厚30nmのp型窒化物半導体層とした。また、GaN層は、10nmの厚さを有するGaN(すなわちAl:0%)で形成した。
第2導電型コンタクト層は、950℃の温度で、リアクタ圧力を150mbarに設定し、V/III比を3650とした条件で形成した。このときの第2導電型コンタクト層の成長レートは0.2μm/hrであった。
【0115】
以上のようにして得られた窒化物半導体積層体に対して、種々の解析を実施した。その結果、発光層における井戸層とバリア層との界面でのAl組成が傾斜している領域は2.5nmであった。ポテンシャル揺らぎを間接的に表すαは146meVであった。
次に、第2導電型クラッド層(A)と(B)の界面ではAl組成に不連続点が観測され、(B)の開始組成は(A)よりも3%高かった。また(A)と(B)との界面では水素が5×1018cm-3、Siが5×1018cm-3観測された。この時の水素のピークのFWHMは7.5nmであった。同様に(A)では(B)よりも酸素と炭素が多く検出され(A)と(B)との界面で濃度プロファイルは不連続に変化していた。この時の酸素濃度と炭素濃度はそれぞれ、3×1017cm-3と3×1017cm-3であった。また第2導電型コンタクト層をSF6ガスによって除去し、表面を観察した結果、表面形状は六角形の凹凸を有しており、ステップの高さは0.3nm、ステップ密度は5×107cm-2であった。
【0116】
上述したように形成された半導体積層部に対して、N2雰囲気中、700℃で10分以上アニーリングを行うことによって、第2導電型コンタクト層を更に低抵抗化した。ICPを用いてCl2を含むガスによりドライエッチングを行うことによって、第1導電型クラッド層を露出させたメサ構造を形成した。
形成されたメサ構造は<1-100>方向の長さが700μmであり、<11-20>方向の長さが40μmであった。ここで、メサ構造の<1-100>方向の長さは平面視における共振器ミラー端面同士の間の距離であり、<11-20>方向の長さはメサ構造の側面同士の間の距離である。
【0117】
メサ構造における第2導電型コンタクト層上に、<1-100>方向に長い矩形状にNiおよびAuを順に成膜して電極金属領域を複数形成してp型の第2電極とした。このとき、第2電極の幅は5μmであり、長さは600μm以上であった。また、メサ構造のn型クラッド層が露出した領域において、<1-100>方向に長い矩形状にV、Al、Ni、Ti及びAuを順に成膜して電極金属領域を複数形成してn型の第1電極とした。RTA装置によって、第1電極及び第2電極に対して窒素雰囲気下で550℃のアニールを60秒間実施した。
さらに、電極金属領域内において、<11-20>方向に平行に複数回劈開させることによって、基板をストライプ状に分割し、個片化されたレーザダイオードを形成した。分割後のメサ構造の<1-100>方向の長さは600μmであった。
このようにして得られたレーザダイオードに対して電流注入による電流-端面発光強度測定を実施したところ、閾値電圧は8V、発振閾値電流は3kA/cm2であった。この時の発振時間は100秒であった。
【0118】
<サンプル2>~<サンプル5>
第1導電型クラッド層を構成するSiをドーパント不純物として用いたn型AlGaN層のAl組成比を表1に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル2~サンプル5のレーザダイオードを形成した。
【0119】
<サンプル6>~<サンプル9>
第1導電型クラッド層の膜厚を表1に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル6~サンプル9のレーザダイオードを形成した。
【0120】
<サンプル10>~<サンプル28>
発光層並びに第1導電型導波路および第2導電型導波路層形成時の窒化物半導体層成長時のウエハ温度及びリアクタ圧力を表1に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル10~サンプル28のレーザダイオードを形成した。なお、表1の発光層の項目にて記載した成長温度及び成長圧力は、発光層並びに第1導波路層及び第2導波路層形成時の温度である。このときの第1導波路層のポテンシャル揺らぎを間接的に表すαは、それぞれ表1に示す値となった。
【0121】
<サンプル29>~<サンプル32>
第2導電型クラッド層形成時の窒化物半導体層成長時のウエハ温度を表1に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル29~サンプル32のレーザダイオードを形成した。このときのAl組成の不連続点における不連続度と第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度は、それぞれ表1に示す値となった。
【0122】
<サンプル33>~<サンプル35>
第2導電型クラッド層の基板側の一部形成時の窒化物半導体層成長時のリアクタ圧力を表2に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル33~サンプル35のレーザダイオードを形成した。このときのAl組成の不連続点における不連続度と第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度は、それぞれ表2に示す値となった。
【0123】
<サンプル36>~<サンプル39>
第2導電型クラッド層の残りの一部形成時の窒化物半導体層成長時のウエハ温度を表2に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル36~サンプル39のレーザダイオードを形成した。このときのAl組成の不連続点における不連続度と第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度は、それぞれ表2に示す値となった。
【0124】
<サンプル40>~<サンプル42>
第2導電型クラッド層の残りの一部形成時の窒化物半導体層成長時のリアクタ圧力を表2に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル40~サンプル42のレーザダイオードを形成した。このときのAl組成の不連続点における不連続度と第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度は、それぞれ表2に示す値となった。
【0125】
<サンプル43>~<サンプル46>
第2導電型クラッド層の厚さを表2に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル43~サンプル46のレーザダイオードを形成した。このときのAl組成の不連続点における不連続度と第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度は、それぞれ表2に示す値となった。
【0126】
<サンプル47>~<サンプル50>
第2導電型導波路層と第2導電型クラッド層との間に形成された組成傾斜層の厚さを表2に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル47~サンプル50のレーザダイオードを形成した。
【0127】
<サンプル51>~<サンプル55>
第2導電型クラッド層の基板側の一部の厚さを表2に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル51~サンプル55のレーザダイオードを形成した。ここで、第2導電型クラッド層の基板側の一部の厚さは、Al組成が不連続となる、もしくは炭素又は酸素の濃度プロファイルが不連続に減少する領域の基板側からの距離となる。
【0128】
<サンプル56>~<サンプル59>
第2導電型クラッド層の基板側の一部の厚さを表2に示すように変化させた以外はサンプル1と同様にしてサンプル56~サンプル59のレーザダイオードを形成した。ここで、第2導電型クラッド層の基板側の一部の厚さは、Al組成が不連続となる、もしくは炭素又は酸素の濃度プロファイルが不連続に減少する領域の基板側からの距離となる。
【0129】
<サンプル60>~<サンプル61>
第2導電型クラッド層の基板側の一部を形成する前後で窒化物半導体層の成長中断を行なわなかった以外はサンプル1と同様にしてサンプル60~サンプル61のレーザダイオードを形成した。
【0130】
<サンプル60>
第2導電型クラッド層の基板側の一部と残りの部分との界面にAl組成の不連続点がないように第2導電型クラッド層を形成した以外はサンプル1と同様にしてサンプル60のレーザダイオードを形成した。
【0131】
<サンプル61>
第2導電型クラッド層の基板側の一部と残りの部分との界面のAl組成が不連続に減少している第2導電型クラッド層を形成した以外はサンプル1と同様にしてサンプル61のレーザダイオードを形成した。
【0132】
【0133】
【0134】
表1及び表2のサンプル1~59のように、第2導電型クラッド層の基板側の一部を形成する前後で窒化物半導体層の成長中断を行い、第2導電型クラッド層に含まれる炭素または酸素の濃度プロファイルが少なくとも1か所で不連続に減少する領域を形成したレーザダイオードは、サンプル60~63と比較して閾値電圧及び発振閾値が全体的に低下し、発振時間が長くなった。これによりクラッド層の劣化抑制とキャリアの注入効率向上が両立することが確認された。
【0135】
以上、本開示の実施形態を説明したが、上記実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。