(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143420
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20241003BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056089
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】薄田 莉沙
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 梓
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350GA03
2C350GA04
4J039AD08
4J039AD10
4J039BC10
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE22
4J039BE23
4J039BE30
4J039CA06
4J039DA05
4J039EA38
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 濃い筆跡が形成可能であり、筆跡の耐水性に優れる筆記具用水性インキ組成物と、それを収容してなる筆記具を提供する。
【解決手段】 着色剤と、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションと、水とからなる筆記具用水性インキ組成物とし、前記樹脂エマルション中の樹脂が、コア部とそれを囲むシェル部とからなるコアシェル構造を有し、前記コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、前記シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなる構造とし、前記インキ組成物の総質量に対する、前記樹脂エマルション中の樹脂の含有率を、1~7質量%の範囲とする。また、前記筆記具用水性インキ組成物を収容してなる筆記具とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションと、水とを含んでなる、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記樹脂エマルション中の樹脂が、コア部とそれを囲むシェル部とからなるコアシェル構造を有してなり、前記コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、前記シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなる、請求項1記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記インキ組成物の総質量に対する、前記樹脂エマルション中の樹脂の含有率が、1~7質量%の範囲である、請求項1又は2記載のインキ組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインキ組成物を収容してなる、筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。さらに詳細には、濃度と耐水性に優れる筆跡を形成できる筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具に収容されるインキとして水を主溶媒としたインキ(水性インキ)が知られ、低臭気で安全性が高いことから盛んに利用されている。そして、水性インキに関して、筆跡の濃度や耐水性を向上させる検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、平均粒子径が60~150nmの自己分散型カーボンブラックと、ガラス転移温度が0℃以下のアクリル系樹脂エマルションとからなる筆記具用水性インキ組成物が開示されている。
上記のインキ組成物は、特定の平均粒子径を有する自己分散型カーボンブラックを特定の含有量で含み、加えて、特定のガラス転移温度を有するアクリル系樹脂エマルションを含むものである。これにより、このインキ組成物を収容した筆記具により形成される筆跡は十分な黒色度(黒色の濃度)と優れた耐水性を有する。
【0004】
しかしながら、上記のインキ組成物は、特定の自己分散型カーボンブラックと特定のアクリル系樹脂エマルションを組み合わせることにより、筆跡の濃度と耐水性を向上させるものであり、種々の着色剤を用いたインキ組成物による筆跡の濃度と耐水性を向上させることができる樹脂に関して検討の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
種々の着色剤を用いた筆記具用水性インキ組成物に適用される樹脂について検討した結果、特定の樹脂エマルションを用いることによって、筆跡濃度と耐水性を向上させることができることを見出した。本発明は、濃い筆跡が形成可能であると共に、筆跡の耐水性に優れる筆記具用水性インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、着色剤と、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションと、水とからなる、筆記具用水性インキ組成物を要件とする。
また、前記樹脂エマルション中の樹脂が、コア部とそれを囲むシェル部とからなるコアシェル構造を有してなり、前記コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、前記シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなること、前記インキ組成物の総質量に対する、前記樹脂エマルション中の樹脂の含有率が、1~7質量%の範囲であることを要件とする。
さらには、前記インキ組成物を収容してなる筆記具を要件とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、濃い筆跡が形成可能であり、筆跡の耐水性に優れる筆記具用水性インキ組成物と、それを収容してなる筆記具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明による筆記具(筆ペン)の一実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、「インキ組成物」または「インキ」と表すことがある)は、着色剤と、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションと、水とを含んでなる。以下に、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0011】
本発明によるインキ組成物は、着色剤を含んでなる。
着色剤としては、水性媒体中に溶解あるいは分散可能な、染料または顔料であれば特に限定されるものではない。ここで、水性媒体としては特に制限されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等の水を例示できる。
【0012】
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等が挙げられる。
【0013】
顔料としては、無機顔料、有機顔料、光輝性顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。さらには、予め界面活性剤や樹脂を用いて顔料を微細に安定的に水性媒体中に分散させた、水分散顔料を用いることもできる。
【0014】
また、必要に応じて顔料分散剤を用いることもできる。顔料分散剤としては、アニオン系、ノニオン系等の界面活性剤;ポリアクリル酸、スチレン-アクリル酸等のアニオン性高分子;PVP、PVA等の非イオン性高分子等が挙げられる。
【0015】
本発明による顔料には自己分散型顔料も含まれる。
自己分散型顔料とは、樹脂や界面活性剤等の分散剤を用いることなく水性媒体中に分散することが可能な顔料のことである。ここで、水性媒体としては特に制限されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等の水を例示できる。
顔料に物理的処理または化学的処理を施して、顔料の表面に親水性の官能基(以下、「親水基」と表すことがある)を形成させることにより、分散剤を用いなくても水性媒体中に顔料を分散させることが可能となる。
適用される顔料としては、カーボンブラック、ベンズイミダゾリン系顔料、縮合アゾ系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、アルミニウム等が挙げられる。
【0016】
親水性の官能基としては、例えば、-COOM、-SO3M、-SO2M、-CO-、-COO-、-OM、-SO2NH2、-RSO2M、-PO3HM、-PO3M2、-SO2NHCOR、-NH3、-NR3等を例示できる。
上記した官能基中のMは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、置換基を有していてもよいフェニル基、有機アンモニウムである。また、官能基中のRは、それぞれ独立に、C1-12のアルキル基、または置換基を有していてもよいナフチル基である。
【0017】
物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理等を例示できる。
化学的処理としては、例えば、水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることにより、フェニル基を介してカルボキシ基を結合させる方法、スルホラン等のスルホン化溶剤中で、酸化硫黄やスルファミン酸等のスルホン化剤により顔料表面をスルホン化し、その後水系に転相させる方法等を例示できる。
【0018】
本発明によるインキ組成物が自己分散型顔料を含む場合、インキ組成物の紙面浸透性に優れながらも、濃く鮮やかな筆跡を形成することができる。特に、自己分散型カーボンブラックを用いる場合には、濃く鮮やかな黒色の筆跡を形成することができる。
また、自己分散型顔料を用いることにより、筆跡の滲みを抑制することもできる。これは、自己分散型顔料の表面に存在する親水基と紙繊維のセルロースとが高い親和性を有することにより、インキが紙面に接触した際に自己分散型顔料は表面に存在する親水基を介して紙表面のセルロースに速やかに吸着し、自己分散型顔料が紙内部に侵入することや、紙面に接触したインキが接触部の周辺に広がることが抑制されるためであると推察される。
【0019】
自己分散型顔料としては自己分散型カーボンブラックや、自己分散型有機顔料等が挙げられ、具体的には、オリヱント化学工業(株)製のBONJET BLACKシリーズ、キャボットコーポレーション社製のCAB-O-JETシリーズ、東海カーボン(株)製のAqua-Blackシリーズ、冨士色素(株)製のFUJI JET BLACK シリーズ等を例示できる。
【0020】
本発明に適用される顔料にはマイクロカプセル顔料も含まれる。
マイクロカプセル顔料は、壁膜形成材料により形成される壁膜に芯物質を内包したものである。芯物質はマイクロカプセルに内包させることにより外部環境から隔離、保護されるため、芯物質の耐水性や耐光性を向上させることができる。
【0021】
芯物質としては、着色材料と媒体とからなる着色組成物が挙げられる。着色組成物としては、例えば、着色材料としての染料または顔料を、水性媒体または油性媒体中に溶解あるいは分散させたものを例示できる。
染料または顔料は、上記したものを用いることができる。
【0022】
水性媒体としては、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等の水を例示できる。
油性媒体としては、例えば、一塩基酸エステル、二塩基酸モノエステル、二塩基酸ジエステル、多価アルコールの部分エステルないし完全エステル等のエステル類、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素類、高級アルコール類、ケトン類、エーテル類等を例示できる。
水性媒体あるいは油性媒体は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0023】
着色組成物として、光の照射により色変化する光変色性材料を用いることもできる。この色変化は可逆的であっても不可逆的であってもよいが、光の照射により繰り返し色変化を発現できることから可逆光変色性材料が好適である。
着色組成物として用いられる光変色性材料としては、例えば、着色材料としてのフォトクロミック化合物を、媒体としてのオリゴマーに溶解させた着色組成物、すなわち、フォトクロミック化合物とオリゴマーとから少なくともなる可逆光変色性組成物を例示できる。
【0024】
フォトクロミック化合物としては、太陽光、紫外光、またはピーク発光波長が400~495nmの範囲にある青色光を照射すると発色し、照射を止めると消色する従来公知のスピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体、ナフトピラン誘導体等が挙げられ、例えば、特開2021-120493号公報、国際公開第2020/137469号パンフレットに記載された化合物を例示できる。
さらに、光メモリー性(色彩記憶性光変色性)を有するフォトクロミック化合物を用いることもできる。このようなフォトクロミック化合物としては、ジアリールエテン誘導体等が挙げられ、例えば、特開2021-120493号公報に記載された化合物を例示できる。
【0025】
オリゴマーとしては、例えば、スチレン系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、テルペン系オリゴマー、テルペンフェノール系オリゴマー等が挙げられる。
フォトクロミック化合物は各種オリゴマーに溶解させることにより、耐光性と発色濃度を共に向上させることができ、さらには変色感度を調整することができる。
オリゴマーは一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0026】
スチレン系オリゴマーはスチレン骨格を有する化合物またはその水添物であり、例えば、低分子量ポリスチレン、スチレン・α-メチルスチレン共重合体、α-メチルスチレン重合体、α-メチルスチレン・ビニルトルエン共重合体等を例示できる。
アクリル系オリゴマーとしては、例えば、アクリル酸エステル共重合体等を例示できる。
テルペン系オリゴマーはテルペン骨格を有する化合物であり、例えば、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、d-リモネン重合体等を例示できる。
テルペンフェノール系オリゴマーは環状テルペンモノマーとフェノール類とを共重合させた化合物またはその水添物であり、例えば、α-ピネン・フェノール共重合体等が挙げられる。
【0027】
着色組成物として、温度変化により色変化する熱変色性材料を用いることもできる。この色変化は可逆的であっても不可逆的であってもよいが、温度変化により繰り返し色変化を発現できることから可逆熱変色性材料が好適である。
着色組成物として用いられる熱変色性材料としては、着色材料として(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、媒体として(ロ)電子受容性化合物とから少なくともなる着色組成物を例示できる。さらには、着色材料として(イ)成分と、媒体として(ロ)成分ならびに(ハ)(イ)成分および(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体との均質相溶体から少なくともなる着色組成物、すなわち、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)(イ)成分および(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体から少なくともなる可逆熱変色性組成物を例示できる。
【0028】
可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、ヒステリシス幅(ΔH)が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることができる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱または冷熱が適用されている間は維持されるが、熱または冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る。
【0029】
可逆熱変色性組成物としては、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報、特開2005-1369号公報等に記載されているヒステリシス幅が大きい特性(ΔH=8~80℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、温度変化による発色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度t1以下の温度域での発色状態、または完全消色温度t4以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔発色開始温度t2~消色開始温度t3の間の温度域(実質二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する。
【0030】
なお、本発明に上記の色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を適用する場合、可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度t1を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、かつ、完全消色温度t4を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0031】
冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度は-50~0℃であり、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃の範囲である。
ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度は50~95℃であり、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲である。
【0032】
可逆熱変色性組成物として、特公昭51-44706号公報、特開2003-253149号公報等に記載された、没食子酸エステルを用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱発色型とは、加熱により発色し、冷却により消色することを意味する。
【0033】
可逆熱変色性組成物は、上記の(イ)成分、(ロ)成分、および(ハ)成分を必須成分とする相溶体であり、各成分の割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1~100、好ましくは0.1~50、より好ましくは0.5~20、(ハ)成分1~800、好ましくは5~200、より好ましくは5~100、さらに好ましくは10~100の範囲である(上記した割合はいずれも質量部である)。
【0034】
可逆熱変色性材料または可逆光変色性材料は、マイクロカプセルに内包して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料とすることにより、化学的、物理的に安定なマイクロカプセル顔料とすることができる。さらに、種々の使用条件において可逆熱変色性材料または可逆光変色性材料は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができる。
【0035】
壁膜形成材料、すなわち壁膜を構成する樹脂としては、例えば、ウレア樹脂、ウレタン樹脂、ウレアウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、イソシアネート樹脂等を例示できる。
【0036】
マイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐剤、防黴剤等の各種添加剤を配合することもできる。
【0037】
マイクロカプセル顔料はマイクロカプセル化法により製造することができる。マイクロカプセル化法としては、従来公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン-ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等が挙げられ、用途に応じて適宜選択される。
また、マイクロカプセル顔料の表面には、目的に応じてさらに二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供したりすることもできる。
【0038】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料は、芯物質:壁膜の質量比が7:1~1:1であることが好ましく、芯物質と壁膜の質量比が上記の範囲内にあることにより、発色時の色濃度および鮮明性の低下を防止することができる。より好ましくは、芯物質:壁膜の質量比が6:1~1:1である。
【0039】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル中に一般の染料または顔料等の非変色性着色剤を配合させることにより、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈するマイクロカプセル顔料とすることもできる。
【0040】
樹脂粒子としては、上記した染料、顔料、あるいは熱変色性材料や光変色性材料を含有する樹脂粒子が挙げられる。
【0041】
染料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に染料が均質に溶解あるいは分散された着色樹脂粒子や、樹脂粒子に染料が染着された着色樹脂粒子が挙げられる。
【0042】
顔料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に顔料が均質に分散された着色樹脂粒子や、樹脂粒子の表面が顔料で被覆された着色樹脂粒子等が挙げられる。ここで顔料は、樹脂粒子を構成する樹脂に対する分散性や吸着性を向上させる目的で、従来公知の種々の方法により表面処理したものであってもよい。
【0043】
熱変色性材料または光変色性材料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に可逆熱変色性組成物が均質に分散された着色樹脂粒子(以下、「可逆熱変色性樹脂粒子」と表すことがある)や、樹脂粒子中に可逆光変色性組成物が均質に分散された着色樹脂粒子(以下、「可逆光変色性樹脂粒子」と表すことがある)が挙げられる。
【0044】
樹脂粒子を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリメタクリル酸メチル、アクリル-ウレタン共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール、エチレン-プロピレン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン-アクリル共重合樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合樹脂等の熱可塑性樹脂や、
エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グアナミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドエステル、尿素樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂を、
それぞれ例示できる。
【0045】
本発明による樹脂粒子には、粒子内部に空隙のない中実樹脂粒子や、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子も含まれる。
【0046】
樹脂粒子は、粉砕法、スプレードライング法、あるいは、水性または油性媒体中において染料、顔料、あるいは熱変色性材料や光変色性材料の存在下で重合する重合法により製造することができる。重合法としては、懸濁重合法、懸濁重縮合法、分散重合法、乳化重合法等が挙げられる。
【0047】
樹脂粒子の形状としては特に限定されるものではなく、真球状、楕円球状、略球状等の球状、多角形状、偏平状等の樹脂粒子を用いることができる。これらの中でも、球状の樹脂粒子が好適である。
【0048】
本発明による着色剤は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0049】
着色剤が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料もしくは可逆光変色性マイクロカプセル顔料、または可逆熱変色性樹脂粒子もしくは可逆光変色性樹脂粒子である場合、これら着色剤の平均粒子径は特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~5μm、より好ましくは0.1~3μm、さらに好ましくは0.5~3μmの範囲である。着色剤の平均粒子径が5μmを超えると、筆記具に用いた場合に良好なインキ吐出性が得られ難くなる。一方、平均粒子径が0.01μm未満では、高濃度の発色性を示し難くなる。
【0050】
なお、平均粒子径の測定は、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア〔マウンテック(株)製、製品名:マックビュー〕を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
【0051】
また、全ての粒子あるいは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置〔ベックマン・コールター(株)製、製品名:Multisizer 4e〕を用いて、コールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することも可能である。
【0052】
さらに、上記したソフトウェアまたはコールター法による測定装置を用いて計測した数値を基にして、キャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製、製品名:LA-300〕を用いて、体積基準の粒子径および平均粒子径を測定しても良い。
【0053】
インキ組成物の総質量に対する、着色剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~15質量%、より好ましくは3~10質量%の範囲である。含有率が15質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し易く、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、含有率が1質量%未満では、筆記具としての好適な筆跡濃度が得られ難くなる。
【0054】
着色剤が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料もしくは可逆光変色性マイクロカプセル顔料、または可逆熱変色性樹脂粒子もしくは可逆光変色性樹脂粒子である場合、インキ組成物の総質量に対する、着色剤の含有率は、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%の範囲である。含有率が40質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、含有率が5質量%未満では、筆記具としての好適な変色性および筆跡濃度が得られ難く、変色機能を十分に満たすことができ難くなる。
【0055】
本発明によるインキ組成物は、さらにバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションを含んでなる。
樹脂エマルションとは、樹脂が水性媒体に溶解せず、水性媒体中に粒子状で分散したものである。ここで、水性媒体としては特に制限されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等の水を例示できる。
【0056】
バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションは、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂を含んでなる。バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂は、バーサチック酸ビニルエステルと、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー〔以下、「(メタ)アクリロイルモノマー」と表すことがある〕との共重合体である。
【0057】
バーサチック酸ビニルエステルは、下記式(1)で示される化合物である。
【化1】
(式中、RおよびR′は、それぞれ独立に、C
1-7のアルキル基を示し、RおよびR′の炭素数の合計は6~8であり、式全体の炭素数の合計は11~13である。)
本発明によるインキ組成物は、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションを含むことにより、インキ組成物を収容した筆記具により形成される筆跡の濃度と耐水性を良好なものとする効果を奏する。これは、バーサチック酸ビニルエステルにおけるバーサチック酸の構造によるものと推察される。すなわち、バーサチック酸の由来の構造はアルキル鎖が長く、さらに分岐構造であり、インキ組成物が紙面に接触した際に着色剤が紙内部に侵入することを適度に抑制するため、筆跡の濃度を向上させることができると推察される。また、バーサチック酸由来の分岐構造は強い疎水性を示すため、インキを収容した筆記具により形成される筆跡に優れた耐水性を付与することができると推察される。
【0058】
C1-7のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基等を例示できる。
RおよびR′は、直鎖状または分岐状のアルキル基であっても、環状のアルキル基であってもよいが、直鎖状または分岐状のアルキル基であることが好適である。
【0059】
バーサチック酸ビニルエステルと共重合させる(メタ)アクリロイルモノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を有するものであれば特に限定されるものではない。(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基(CH2=CH-COO-)またはメタクリロイル基〔CH2=C(-CH3)-COO-〕を意味する。すなわち、(メタ)アクリロイルモノマーとしては(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等を、
(メタ)アクリル酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等を、
それぞれ例示できる。
【0060】
本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂としては、バーサチック酸ビニルエステルと(メタ)アクリロイルモノマーとがランダムに共重合した共重合体(バーサチック酸ビニルエステル-アクリルランダム共重合体)を用いることができる。また、バーサチック酸ビニルエステル由来の構成単位(以下、「バーサチック酸ビニルエステル系構成単位」と表すことがある)を主成分とするバーサチック酸ビニルエステル系樹脂と、(メタ)アクリロイルモノマー由来の構成単位(以下、「アクリル系構成単位」と表すことがある)を主成分とするアクリル系樹脂とを構造中に有する共重合体を用いることもできる。
バーサチック酸ビニルエステル系構成単位とアクリル系構成単位とを構造中に有する共重合体としては、バーサチック酸ビニルエステル系樹脂とアクリル系樹脂の端部同士が結合したバーサチック酸ビニルエステル-アクリルブロック共重合体、バーサチック酸ビニルエステル系樹脂とアクリル系樹脂が交互に結合したバーサチック酸ビニルエステル-アクリル交互共重合体、これらの共重合体同士をさらに結合させた共重合体等を例示することができる。
【0061】
本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂は、上記した交互共重合体、ブロック共重合体等のほか、コア部と、それを囲むシェル部とからなるコアシェル構造を有するものであってもよい。
コアシェル構造としては、コア部とシェル部の少なくとも一方がバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂を含有してなる構造が挙げられる。すなわち、コア部がバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂を含有してなる構造、シェル部がバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂を含有してなる構造、コア部とシェル部の両方がバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂を含有してなる構造等を例示できる。
さらには、コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなる構造も例示できる。このようなバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂を含む樹脂エマルションを用いたインキ組成物は、紙面に接触させると、シェル部のバーサチック酸ビニルエステル系樹脂が紙表面に吸着する。その後水分蒸発により、シェル部に含有されるバーサチック酸ビニルエステル系樹脂同士が融着して疎水性に優れる被膜を形成する。同時に、コア部に含有されるアクリル系樹脂がコア部から放出され、アクリル系樹脂同士でも融着して、バーサチック酸ビニルエステル系樹脂による被膜を強固なものとする。以上より、被膜自体が疎水性に優れると共に強固となり、筆跡の耐水性を優れたものとすることができる。
よって、本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションとして、コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなるコアシェル構造を有するバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションを用いることも好適である。
【0062】
本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂としては、バーサチック酸ビニルエステルと、(メタ)アクリロイルモノマーと、これらに対して共重合可能な他のモノマーとの共重合体を用いることもできる。
バーサチック酸ビニルエステルおよび(メタ)アクリロイルモノマーに対して共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル等を例示できる。
【0063】
本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂における、バーサチック酸ビニルエステルのモノマー単位の含有率は、全モノマー単位を100%とした場合に、10~70%であることが好ましく、20~65%であることがより好ましく、40~60%であることがさらに好ましい。
【0064】
本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が0℃以上であることも好適である。
ガラス転移温度(以下、「Tg」と表すことがある)は、例えば、示差熱分析(DTA)、示差走査熱量測定(DSC)、熱機械分析(TMA)、動的粘弾性測定(DMA)等の方法により求めることができる。また、単独のモノマーiによる重合体のTgをTgi、モノマーiの質量分率をWiとして、下記式(2)によりTgを求めることもできる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+・・・+(Wn/Tgn) (2)
〔式中、W1+W2+・・・+Wn=1であり、iは1~nの整数である。(nは2以上の整数を示す。)〕
ガラス転移温度は、0℃以上30℃以下であることが好ましく、0℃以上25℃以下であることがより好ましい。
【0065】
インキ組成物の総質量に対する、樹脂エマルション中の樹脂の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~7質量%、より好ましくは2~5質量%の範囲である。樹脂の含有率が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物を収容した筆記具により形成される筆跡の濃度と耐水性を向上させる効果に優れる。
【0066】
本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションとして具体的には、VANORA社製のVANORA AVE.191、同DXV.4051、同DXV.4198、同DXV.4140、同M.1630.AV、同DSV.4116、同DSV.4135、同DSV.4176、同DSV.4186等を例示できる。
【0067】
本発明によるバーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルションは一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0068】
本発明によるインキ組成物は、さらに水を含んでなる。
水としては特に制限されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等を例示できる。
インキ組成物の総質量に対する水の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~80質量%の範囲である。
【0069】
本発明によるインキ組成物には、界面活性剤を配合させることもでき、インキ組成物を所望の粘度、表面張力に調整し、インキ吐出安定性を向上させて筆記不良を抑制すると共に、紙面における筆跡の滲みや裏抜けを抑制して、より良好な筆跡を形成できるインキ組成物とすることができる。
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。これらの中でもインキ吐出安定性を向上させ易いことから、リン酸エステル系界面活性剤が好ましい。
【0070】
界面活性剤として下記式(3)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤を用いることもできる。
【化2】
(式中、
R
1、R
2、R
3、およびR
4は、それぞれ独立に、アルキル基であり、
R
5はエチレン基であり、
lおよびmは、それぞれ独立に、0以上の整数である。)
【0071】
界面活性剤として上記のアセチレン結合を有する特定の界面活性剤を用いることにより、インキ組成物の紙面浸透性を良好とすることができる。
例えば、筆ペンのようなペン先にインキが潤沢にある筆記具は、紙面に筆記した場合に多量のインキが紙面に塗布されるため、筆跡の乾燥性を損ない易い傾向にある。しかしながら、上記式(3)で示される界面活性剤を含むことにより紙面浸透性に優れ、紙面に多量のインキが塗布された場合であっても筆跡の乾燥性を良好とすることができる。
【0072】
式(3)で示される界面活性剤は、インキ組成物の紙面浸透性を良好とし易いことから、HLB値が4~18であるものが好ましく、8~17であるものがより好ましく、12~16であるものがさらに好ましい。HLB値はグリフィン法に基づく数値であり、下記式(4)により算出される値である。なお、グリフィン法によるHLB値は、0~20の範囲にあり、数値が大きいほど化合物が親水性であることを示す。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量) (4)
また、式(3)におけるlとmの合計(l+m)は、0≦(l+m)≦30であることが好ましく、0≦(l+m)≦20であることがより好ましい。
【0073】
界面活性剤は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0074】
式(3)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤として具体的には、日信化学工業(株)製のオルフィンD-10A、同D-10PG、同E1004、同E1010、同E1020、同E1030W、同PD-001、同PD-002W、同PD-003、同PD-004、同PD-201、同PD-301、同EXP.4001、同EXP.4200、同EXP.4123、同EXP.4300、日信化学工業(株)製のサーフィノール82、同104E、同104H、同104A、同104PA、同104-PG50、同104S、同420、同440、同465、同485、同2502、日信化学工業(株)製のダイノール604、同607、川研ファインケミカル(株)製のアセチレノールE13T、同EX、同EL、同E40、同E60、同E81、同E100、同85を例示できる。これらの中でも、インキ組成物の紙面浸透性およびインキ吐出性を良好とし易いことから、オルフィンE1010、オルフィンE1020、サーフィノール485が好ましい。
【0075】
インキ組成物の総質量に対する、式(3)で示されるアセチレン結合を有する界面活性剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5~3質量%、より好ましくは0.5~2.5質量%の範囲である。界面活性剤の含有率が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の紙面浸透性をより良好として筆跡の乾燥性を高めると共に、筆跡の滲みをより抑制することができる。
【0076】
本発明によるインキ組成物には、その他必要に応じて、各種添加剤を配合させることもできる。
添加剤としては、例えば、水溶性有機溶剤、比重調整剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤あるいは防黴剤、気泡吸収剤、消泡剤、湿潤剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を例示できる。
【0077】
着色剤が、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料もしくは可逆光変色性マイクロカプセル顔料、または、可逆熱変色性樹脂粒子もしくは可逆光変色性樹脂粒子を含む場合、一般の染料または顔料等の非変色性着色剤を配合させることにより、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈するインキ組成物とすることもできる。
【0078】
本発明によるインキ組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、従来知られている任意の方法を用いることができる。具体的には、上記の各成分を配合した混合物を、プロペラ攪拌、ホモディスパー、もしくはホモミキサー等の各種攪拌機で攪拌することにより、またはビーズミル等の各種分散機等で分散することにより、インキ組成物を製造することができる。
【0079】
本発明によるインキ組成物が収容される筆記具としては、例えば、ボールペン、マーキングペン、万年筆、筆ペン、カリグラフィーペン等の各種筆記具を例示できる。
【0080】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、その粘度は、20℃の環境下において、回転速度1rpm(剪断速度3.84sec-1)の条件で測定した場合、好ましくは1~2000mPa・s、より好ましくは3~1500mPa・s、さらに好ましくは100~1000mPa・sの範囲である。また、20℃の環境下において、回転速度100rpm(剪断速度384sec-1)の条件で測定した場合、好ましくは1~200mPa・s、より好ましくは10~100mPa・s、さらに好ましくは10~50mPa・sの範囲である。粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の安定性や、ボールペンの機構内におけるインキ組成物の易流動性を高いレベルで維持することができる。
なお、インキ組成物の粘度は、例えば、レオメーター〔TAインスツルメンツ社製、製品名:Discovery HR-2、コーンプレート(直径40mm、角度1°)〕を用いて、インキを20℃の環境下に置いて、回転速度1rpm(剪断速度3.84sec-1)、または、回転速度100rpm(剪断速度384sec-1)の条件で測定することができる。
【0081】
本発明によるインキ組成物がマーキングペンに用いられる場合、その粘度は、20℃の環境下において、好ましくは1~30mPa・s、より好ましくは1~20mPa・s、さらに好ましくは1~10mPa・sの範囲である。粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の安定性と流動性を高いレベルで維持することができる。
なお、インキ組成物の粘度は、例えば、E型回転粘度計〔東機産業(株)製、製品名:RE-85L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)〕を用いて、インキ組成物を20℃の環境下に置いて、回転速度20rpmまたは回転速度50rpmの条件で測定することができる。
【0082】
本発明によるインキ組成物が筆ペンに用いられる場合、その粘度は、特に限定されるものでないが、20℃の環境下において、好ましくは1~6mPa・s、より好ましくは2~5mPa・sの範囲である。粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の吐出性を良好とすることができる。
なお、インキ組成物の粘度は、例えば、E型回転粘度計〔東機産業(株)製、製品名:RE-85L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)〕を用いて、インキ組成物を20℃の環境下に置いて、回転速度50rpmの条件で測定することができる。
【0083】
本発明によるインキ組成物の表面張力は、20℃の環境下において、好ましくは20~50mN/m、より好ましくは25~40mN/mの範囲である。表面張力が上記の範囲内にあることにより、筆記線の滲みや、紙面への裏抜けを抑制することが容易であると共に、インキの紙面に対する濡れ性を向上させることができる。
なお、表面張力は、表面張力計測器〔協和界面科学(株)製、製品名:DY-300〕を用いて、インキを20℃の環境下に置いて、白金プレートを用いた垂直平板法により測定することができる。
【0084】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンレフィルまたはボールペンに充填して用いられる。
【0085】
ボールペンチップは、チップ本体と、チップ本体の前端に備えられるボールとからなる。ボールペンチップは、例えば、金属製のパイプからなるチップ本体の先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属材料からなるチップ本体に、ドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属またはプラスチック製チップ本体の内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、あるいは、上記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を例示できる。
【0086】
チップ本体およびボールの材質としては特に限定されるものではなく、例えば、超硬合金(超硬)、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等を例示できる。さらに、ボールにはDLCコート等の表面処理を施すこともできる。
【0087】
ボールの直径は、一般的には0.2~3mmであり、好ましくは0.2~2mm、より好ましくは0.2~1.5mm、さらに好ましくは0.2~1mmの範囲である。
【0088】
インキ充填機構としては、例えば、インキを直に充填することのできるインキ収容体を例示できる。
インキ収容体には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体を用いることができる。
【0089】
インキ収容体に、ボールペンチップを直接、または接続部材を介して連結させ、インキ収容体にインキを直接充填することにより、ボールペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒内に収容することでボールペンを形成することができる。
【0090】
インキ収容体に充填されるインキの後端にはインキ逆流防止体が充填される。インキ逆流防止体としては、液栓または固体栓が挙げられる。
【0091】
液栓は不揮発性液体および/または難揮発性液体からなり、例えば、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等を例示できる。
不揮発性液体および/または難揮発性液体は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0092】
不揮発性液体および/または難揮発性液体には、増粘剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましい。
増粘剤としては、例えば、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイト等の粘土系増粘剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸;トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物;セルロース系化合物等を例示できる。
【0093】
固体栓としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等からなる固体栓を例示できる。
インキ逆流防止体として、固体栓と上記した液栓とを併用して用いることもできる。
【0094】
また、軸筒自体をインキ充填機構することもできる。軸筒内にインキを直接充填すると共に、軸筒の前端部にボールペンチップを装着することで、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンを形成することもできる。
【0095】
インキ充填機構に充填されるインキが低粘度である場合、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンは、さらにインキ供給機構を備えていてもよい。インキ供給機構は、インキ充填機構に充填されるインキをペン先に供給するためのものである。
【0096】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節体を備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝および該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
【0097】
ペン芯の材質としては、多数の円盤体を櫛溝状とした構造に射出成形できる合成樹脂であれば特に制限されるものではない。成形性が高く、ペン芯性能を得られ易いことから、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)が好適に用いられる。
【0098】
本発明によるインキ組成物を収容するボールペンの構成として具体的には、(1)インキを充填したインキ収容体を軸筒内に有し、インキ収容体には、直接または接続部材を介してボールペンチップが連結され、インキの端面にはインキ逆流防止体が充填されたボールペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や、繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン等を例示できる。
【0099】
本発明によるインキ組成物がマーキングペンに用いられる場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンレフィルまたはマーキングペンに充填して用いられる。
【0100】
マーキングペンチップとしては、例えば、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30~70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材、または、軸方向に延びる複数のインキ導出孔を有する合成樹脂の押出成形体等を例示でき、一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工して実用に供される。
【0101】
インキ充填機構としては、例えば、インキを充填できるインキ吸蔵体を例示できる。
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させた繊維集束体であり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲に調整して構成される。
【0102】
インキを含浸させたインキ吸蔵体を軸筒内に収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介して軸筒に連結させることにより、マーキングペンを形成することができる。
【0103】
また、インキを含浸させたインキ吸蔵体をインキ収容体に収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介してインキ収容体に連結させることにより、マーキングペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒に収容することでマーキングペンを形成することができる。
【0104】
インキ収容体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体が用いられる。
【0105】
マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンは、さらにインキ供給機構を備えていてもよい。インキ供給機構は、インキ充填機構に充填されるインキ組成物をペン先に供給するものである。
【0106】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、上記したボールペンに備えられるインキ供給機構に加えて、(4)弁機構によるインキ流量調節体を備え、開弁によりインキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
弁機構は、チップの押圧により開放する、従来より汎用のポンピング式形態が使用でき、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0107】
マーキングペンがインキ供給機構を備えてなる場合、インキ充填機構としては、上記したインキ吸蔵体のほか、インキを直接充填できるインキ収容体を用いることができる。また、軸筒自体をインキ充填機構として、インキを直接充填してもよい。
【0108】
本発明によるインキ組成物を収容するマーキングペンの構成として具体的には、(1)繊維集束体からなるインキ吸蔵体にインキが含浸されると共に軸筒内に収容され、毛細間隙が形成された、繊維加工体または樹脂成形体からなるマーキングペンチップが、インキ吸蔵体とチップが接続するように、直接または接続部材を介して軸筒に連結されたマーキングペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(4)チップの押圧により開弁する弁機構を介してチップとインキ収容体とが備えられ、インキ収容体に直接インキが充填されるマーキングペン等を例示できる。
【0109】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具は、着脱可能な構造としてインキカートリッジ形態とすることもできる。この場合、筆記具のインキカートリッジに収容されるインキを使い切った後に、新たなインキカートリッジと取り替えることで、再び筆記具を使用することができる。
インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが用いられる。なお、後者においては、インキカートリッジ単体で用いるほか、使用前の筆記具において、筆記具本体とインキカートリッジが接続されているものや、筆記具のユーザーが使用時に軸筒内のインキカートリッジを接続して使用を開始するように非接続状態で軸筒内に収容したもののいずれであってもよい。
【0110】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、キャップを設けてキャップ式筆記具とすることができる。ペン先(筆記先端部)を覆うようにキャップを装着させることにより、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
また、軸筒内にレフィルが収容されるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、出没機構を設けて出没式筆記具とすることができる。出没機構は軸筒内に設けられ、軸筒から筆記先端部を出没可能とするものであり、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
【0111】
出没式筆記具は、筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収容されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
また、軸筒内に複数のレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのレフィルの筆記先端部を軸筒開口部から出没させる複合タイプの出没式筆記具とすることもできる。
【0112】
出没機構としては、例えば、(1)軸筒の後部側壁より前後方向に移動可能な操作部(クリップ)を径方向外方に突設させ、操作部を前方にスライド操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドスライド式の出没機構、(2)軸筒後端に設けた操作部を前方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる後端ノック式の出没機構、(3)軸筒側壁外面より突出する操作部を径方向内方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドノック式の出没機構、(4)軸筒後部の操作部を回転操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる回転式の出没機構等を例示できる。
【0113】
ボールペンやマーキングペンの形態は上記した構成に限らず、複合式筆記具(両頭式やペン先繰り出し式等)であってもよい。複合式筆記具としては、(1)相異なる形態のチップを装着させた筆記具、(2)相異なる色調あるいは色相のインキを導出させるチップを装着させた筆記具、(3)相異なる形態のチップを装着させると共に、各チップから導出されるインキの色調あるいは色相が相異なる筆記具等を例示できる。
【0114】
本発明によるインキ組成物が筆ペンに用いられる場合、筆ペンの構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、筆形態のペン先と、インキ充填機構とを備えた筆ペンを例示できる。
【0115】
ペン先としては、筆形態であれば特に限定されるものではなく、例えば、繊維相互を長手方向に密接状に束ねた毛筆等の繊維集束体、連続気孔を有するプラスチックポーラス体、合成樹脂繊維の熱融着体もしくは樹脂加工体、または、軟質性樹脂もしくはエラストマーの押出成形加工体からなる筆形態のチップを例示できる。
チップは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、アラビアガム等の水溶性物質で糊付けされたものであってもよい。
【0116】
インキ充填機構としては特に限定されるものではなく、例えば、インキを直に充填することのできる、内側にインキ収容室を設けた軸筒を例示できる。
軸筒の材質としては特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリウレタン、ポリスチレン等の合成樹脂、金属、ガラス、ゴムを例示できる。これらの中でも、ポリエチレンまたはポリプロピレンが好ましい。
【0117】
インキ充填機構としては、インキを充填することのできるインキ収容体、またはインキ吸蔵体であってもよい。
インキ収容体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体が用いられる。
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させた繊維集束体であり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲になるように調整して構成されたものが用いられる。
【0118】
インキ充填機構はインキカートリッジであってもよく、筆ペン等の筆記具のインキ充填機構を着脱可能な構造とすることができる。この場合、筆記具のインキカートリッジに収容されるインキを使い切った後に、新たなインキカートリッジと取り換えることにより、再び筆記具を使用することが可能となる。
インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが適用できる。後者においては、筆記具本体とインキカートリッジが接続されているものや、筆記具のユーザーが使用時に軸筒内のインキカートリッジを接続して使用を開始するように非接続状態で軸筒内に収容したもののいずれであってもよい。
【0119】
インキカートリッジの構造としては特に限定されるものではなく、例えば、長手方向に対して直交する直交断面が円形状である有底筒体が例示できる。なお、筒体とは中空の細長い棒状体のことである。また、インキカートリッジは、押圧変形および復元可能な構造を有していたり、筒体の外面や内面がテーパー状に傾斜していたりしてもよい。
また、内部に、前述のインキ供給機構を設けた構造を有するインキカートリッジであってもよい。
【0120】
ペン先と、インキ充填機構を備えた筆ペンには、さらに、インキ充填機構に充填されるインキをペン先に供給するためのインキ供給機構を備えさせてもよい。
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、上記したボールペンあるいはマーキングペンに備えられるインキ供給機構等が挙げられる。
【0121】
本発明による筆ペン等の筆記具には、ペン先を覆うようにキャップを設けてキャップ式筆記具とすることにより、ペン先が乾燥して筆記できなくなることや、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
また、本発明による筆記具の形態は上記した構成に限らず、相異なる形態のチップを装着させた複合式筆記具(両頭式筆記具)であってもよい。
【0122】
本発明によるインキ組成物を収容する筆ペンの構成として具体的には、(1)インキ充填機構が、内側にインキ収容室を設けた軸筒からなり、インキ供給機構が、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝および該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構であり、ペン先とインキ充填機構とが、インキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン、(2)インキ充填機構としてインキカートリッジを備えてなり、インキ供給機構が、インキを含浸可能な連続気孔を有する多孔体を介してインキをペン先に供給する機構であり、ペン先とインキ充填機構とが、インキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン、(3)インキ充填機構が、内側に2つのインキ収容室を設けた軸筒からなり、インキ供給機構が、多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝および該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構であり、軸筒の一端および他端のそれぞれに、ペン先がインキ供給機構を介して接合されてなる筆ペン(両頭式筆ペン)等を例示できる。
【0123】
上記(1)において、より具体的な構造としては、有底筒体よりなる軸筒の前部にペン先とインキ供給機構が装着され、インキ供給機構の後方の軸筒内にインキ収容室が形成されてなる構造が挙げられる。
上記(2)において、より具体的な構造としては、ペン先とインキ供給機構とが装着された前軸筒と、インキカートリッジからなる後軸筒とが離合可能に接続されてなる構造や、ペン先とインキ供給機構とが装着された前軸筒と、インキカートリッジが離合可能に接続され、インキカートリッジが後軸筒で被覆されてなる構造が挙げられる。
上記(3)において、より具体的な構造としては、両端が開口されてなる軸筒の一端および他端のそれぞれに、ペン先とインキ供給機構が装着され、軸筒内には、隔壁が設けられることにより形成された2つのインキ収容室を有し、各インキ収容室は互いにインキが流通しないように遮断されてなる構造が挙げられる。なお、軸筒の一端および他端のそれぞれに装着されるペン先は、相異なる形態のチップであってもよい。
【0124】
本発明によるボールペン、マーキングペン、筆ペン等の筆記具がインキを直接充填するものである場合、着色剤の再分散を容易とするために、インキが充填されるインキ収容体または軸筒に、インキを攪拌する攪拌ボール等の攪拌体を内蔵させることもできる。攪拌体の形状としては、球状体、棒状体等が挙げられる。攪拌体の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、金属、セラミック、樹脂、硝子等を例示できる。
【0125】
着色剤が可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆熱変色性樹脂粒子を含む場合、本発明によるインキ組成物を収容した筆記具を用いて被筆記面に形成される筆跡は、指による擦過や、加熱具または冷却具により変色させることができる。
【0126】
加熱具としては、PTC素子等の抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等の媒体を充填した加熱変色具、スチームやレーザー光等を用いた加熱変色具、ヘアドライヤーの適用等が挙げられるが、簡便な方法により変色させることができることから、摩擦部材および摩擦体が好ましい。
【0127】
冷却具としては、ペルチエ素子を用いた通電冷熱変色具、冷水や氷片等の冷媒を充填した冷熱変色具、畜冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用等が挙げられる。
【0128】
摩擦部材および摩擦体としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好ましいが、プラスチック成形体、石材、木材、金属、布帛等を用いることもできる。なお、鉛筆による筆跡を消去するために用いられる一般的な消しゴムを使用して、筆跡を擦過してもよいが、擦過時に消しカスが発生するため、消しカスが殆ど発生しない上記の摩擦部材および摩擦体が好適に用いられる。
【0129】
摩擦部材および摩擦体の材質としては、例えば、シリコーン樹脂、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS樹脂)等を例示できる。シリコーン樹脂は擦過により消去した部分に樹脂が付着し易く、繰り返し筆記した際に筆跡がはじかれる傾向にあるため、SEBS樹脂がより好適に用いられる。
【0130】
上記の摩擦部材または摩擦体は、筆記具とは別体の任意形状の部材であってもよいが、筆記具に設けることにより携帯性に優れるものとすることができる。また、筆記具と、筆記具とは別体の任意形状の摩擦部材または摩擦体とを組み合わせて、筆記具セットを得ることもできる。
【0131】
キャップを備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)あるいは軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)等に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【0132】
出没機構を備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、さらにクリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)、あるいはノック部に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【実施例0133】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
【0134】
実施例1
インキ組成物の調製
黒色染料溶液〔オリヱント化学工業(株)製、製品名:WATER BLACK 191-L(固形分:15%)〕37.5部と、バーサチック酸ビニルエステル-アクリル系樹脂エマルション〔VANORA社製、製品名:VANORA DXV.4198(固形分:50%)〕10部と、リン酸エステル系界面活性剤〔第一工業製薬(株)製、製品名:プライサーフAL〕0.5部と、トリエタノールアミン0.5部と、エチレングリコール10部と、グリセリン5部と、防腐剤〔アークサーダジャパン(株)製、製品名:プロキセルXL-2(S)〕0.4部と、水36.1部とを混合して、インキ組成物を調製した。インキ組成物の総質量に対する、樹脂エマルション中の樹脂の含有率は、5質量%である。
【0135】
筆記具の作製
ペン先として筆形態のチップと、インキ充填機構として、内側にインキ収容室を設けた軸筒と、インキ供給機構とを備えてなり、ペン先とインキ充填機構とが、インキ供給機構を介して接合されてなる構成の筆ペンのインキ充填機構に、実施例1のインキ組成物を充填し、キャップを装着して筆記具(筆ペン)を作製した。
筆記具の構成としては、下記に記載のとおりである。
【0136】
筆記具(筆ペン)の構成(
図1参照)
筆ペン(11)は、ポリエチレン製有底筒体からなる軸筒(12)の前部に、ポリウレタンで表面を被覆した軟質性樹脂の押出成形加工体からなるペン先(14)を備えてなるインキ供給機構(13)が装着され、インキ供給機構(13)の後方の軸筒内にインキ収容室(15)が形成されてなる。インキ供給機構(13)は、多数の円盤体(16)が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体(16)を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝(17)および該溝より太幅の通気孔(18)が設けられ、軸心にインキ誘導芯(19)が配置され、インキ誘導芯(19)がペン先(14)と接続されてなる。
【0137】
実施例2~8、ならびに、比較例1~3
配合する材料の種類と配合量を以下の表1に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして、インキ組成物を調製した。インキ組成物の総質量に対する、樹脂エマルション中の樹脂の含有率は、表1に記載のとおりである。
また筆記具は、実施例1と同様にして作製した。
【0138】
【0139】
表1中の材料の内容を、注番号に沿って説明する。
(1)黒色染料溶液〔オリヱント化学工業(株)製、製品名:WATER BLACK191-L(固形分:15%)〕
(2)自己分散型カーボンブラック(表面処理によって表面にカルボキシ基が結合したカーボンブラックが分散されてなる分散体、分散剤非含有)〔東海カーボン(株)製、製品名:Aqua-Black 162(固形分:20%)〕
(3)VANORA社製、製品名:VANORA DXV.4198(固形分:50%,コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなる,バーサチック酸ビニルエステルのモノマー単位の含有率:60%,ガラス転移温度:10℃)
(4)VANORA社製、製品名:VANORA DXV.4051(固形分:50%,コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなる,バーサチック酸ビニルエステルのモノマー単位の含有率:60%,ガラス転移温度:10℃)
(5)VANORA社製、製品名:VANORA DSV.4135(固形分:52%,コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなる,バーサチック酸ビニルエステルのモノマー単位の含有率:50%,ガラス転移温度:21℃)
(6)VANORA社製、製品名:VANORA AVE.191(固形分:50%,コア部がアクリル系樹脂を含有してなり、シェル部がバーサチック酸ビニルエステル系樹脂を含有してなる,バーサチック酸ビニルエステルのモノマー単位の含有率:40%,ガラス転移温度:0℃)
(7)リン酸エステル系界面活性剤〔第一工業製薬(株)製、製品名:プライサーフAL〕
(8)アセチレン結合を有する界面活性剤〔日信化学工業(株)製、製品名:オルフィンE1010(HLB値:13.3)〕
(9)アークサーダジャパン(株)製、製品名:プロキセルXL-2(S)
【0140】
[表面張力測定]
実施例1~8、ならびに、比較例1~3で調製した各インキ組成物について、自動表面張力計〔協和界面科学(株)製、製品名:DY-300〕を用いて、室温(20℃)環境下で、白金プレートを用いた垂直平板法により表面張力を測定した。測定結果は、表1に記載のとおりである。
【0141】
[濃度測定]
実施例1~8、ならびに、比較例1~3で調製したインキ組成物それぞれを、バーコーター(No.10)を用いて試験用紙に均一に塗工し、乾燥させて試験試料を得た。試験試料における塗工箇所を蛍光分光濃度計〔コニカミノルタ(株)製、製品名:FD-7型〕の測定部分にセットし、蛍光分光濃度計のK値から塗工箇所の濃度値を測定した。試験用紙には旧JIS P3201に準拠した筆記用紙Aを用いた。評価結果は、以下の表2に記載のとおりである。
なお、濃度値(K値)は3回の測定の平均値であり、数値が大きいほど濃度が高いことを示す。
【0142】
[筆跡耐水性評価]
実施例1~8、ならびに、比較例1~3で作製した筆記具のキャップを外し、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)に手書きで、文字「永」を筆記した。筆記から24時間経過後に「永」の文字上に水を1滴垂らし、その後水を自然乾燥させ、筆跡に滲みが発生しているかを目視にて確認した。筆跡の状態から、下記基準で筆跡耐水性を評価した。評価結果は、以下の表2に記載のとおりであり、評価「A」および「B」を合格とした。試験用紙には、書道用半紙を用いた。
A:筆跡に滲みは確認されなかった。
B:筆跡にやや滲みが確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
C:筆跡に顕著な滲みが確認された。
【0143】