(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143421
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂線状体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/34 20060101AFI20241003BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20241003BHJP
D01D 5/08 20060101ALI20241003BHJP
B29C 70/10 20060101ALI20241003BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D01D5/34
D01F8/06
D01D5/08 Z
B29C70/10
B29C70/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056091
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000120010
【氏名又は名称】宇部エクシモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】槻川原 遼
【テーマコード(参考)】
4F205
4L041
4L045
【Fターム(参考)】
4F205AA07
4F205AD16
4F205AG14
4F205HA05
4F205HA27
4F205HA34
4F205HB02
4F205HC02
4F205HC12
4F205HK22
4F205HK25
4L041AA07
4L041BA21
4L041BB07
4L041BC04
4L041BD03
4L041CA36
4L041CA38
4L041DD01
4L041DD05
4L041EE20
4L045AA05
4L045BA18
4L045BA37
4L045DA35
4L045DA41
4L045DB11
(57)【要約】
【課題】紡糸繊維同士の融着不良を抑制し、かつ、太さや幅にばらつきが少ない繊維強化熱可塑性樹脂線状体が得られる繊維強化樹脂線状体の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなる1又は2種以上の紡糸繊維を複数本集束した糸条20を加熱条件下で延伸しつつ紡糸繊維同士を熱融着して繊維強化樹脂線状体30を製造するにあたり、糸条20を加熱しながら延伸する加熱延伸部4と、加熱延伸部4内に設置され糸条を挿通させるための孔を備える1又は2以上のガイド部材5とを有する製造装置を用い、糸条20を延伸融着する際に、開口面積比(=糸条を構成する各紡糸繊維の総断面積/開口面積)が0.2~1.7であるガイド孔に糸条を通過させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる1又は2種以上の紡糸繊維を複数本集束した糸条を、加熱条件下で延伸しつつ前記紡糸繊維同士を熱融着する延伸融着工程を有し、
前記延伸融着工程において、開口面積比(=糸条を構成する各紡糸繊維の総断面積/開口面積)が0.2~1.7であるガイド孔に前記糸条を通過させる繊維強化樹脂線状体の製造方法。
【請求項2】
前記延伸融着工程では、前記糸条を複数のガイド孔に通過させる請求項1に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
【請求項3】
糸条搬送方向下流側になるに従い前記ガイド孔の開口面積を小さくする請求項2に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
【請求項4】
前記延伸融着工程の開始から中間位置までの間に、少なくとも1回前記ガイド孔に前記糸条を通過させる請求項1に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
【請求項5】
前記紡糸繊維は、成分が異なる2以上の熱可塑性樹脂を複合ノズルから同時に押し出して複合紡糸した複合繊維である請求項1に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
【請求項6】
前記紡糸繊維は、鞘成分と芯成分とを備え、前記鞘成分の融点が前記芯成分の融点より20℃以上低い熱可塑性樹脂からなる鞘芯型複合紡糸繊維であり、
前記延伸融着工程では、飽和水蒸気圧下において、前記鞘成分の融点以上かつ前記芯成分の融点よりも低い温度で、前記糸条を延伸しつつ前記鞘成分を溶融して紡糸繊維同士を熱融着する請求項5に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂からなる紡糸繊維を複数本集束した糸条を、加熱しながら延伸する加熱延伸部と、
前記加熱延伸部内に設置され、前記糸条を挿通させるための孔を備える1又は2以上のガイド部材と、を有し、
前記ガイド部材の孔は、開口面積比(=糸条を構成する各紡糸繊維の総断面積/開口面積)が0.2~1.7である繊維強化樹脂線状体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強繊維及びマトリクス樹脂の両方が熱可塑性樹脂で構成されている繊維強化樹脂線状体の製造方法及び繊維強化樹脂線状体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維や炭素繊維を使用せず、補強繊維を熱可塑性樹脂で構成することにより、環境負荷の低減を図った繊維強化熱可塑性樹脂線状体が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂線状体は、鞘成分と芯成分とを備え、鞘成分の融点が芯成分の融点より20℃以上低い熱可塑性樹脂からなる鞘芯型複合紡糸繊維を集束し、鞘成分の融点以上かつ芯成分の融点以下の温度で、延伸しつつ鞘成分を融合させることで製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の製造方法では、延伸しながら紡糸繊維同士を融着する際に融着不良が発生し、得られる繊維強化樹脂線状体に分割や裂け目が生じることがある。また、従来の製造方法には、繊維強化樹脂線状体の太さや幅にばらつきが発生しやすいという課題もある。そして、分割している箇所や裂け目がある繊維強化樹脂線状体、或いは太さや幅が一定でない繊維強化樹脂線状体を用いてファブリックなどの製品を製造すると、製織工程などのその後の工程でトラブルが発生したり、製品に外観不良が発生することがある。
【0005】
そこで、本発明は、紡糸繊維同士の融着不良を抑制し、かつ、太さや幅にばらつきが少ない繊維強化熱可塑性樹脂線状体が得られる繊維強化樹脂線状体の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る繊維強化樹脂線状体の製造方法は、熱可塑性樹脂からなる1又は2種以上の紡糸繊維を複数本集束した糸条を、加熱条件下で延伸しつつ前記紡糸繊維同士を熱融着する延伸融着工程を有し、前記延伸融着工程において、開口面積比(=糸条を構成する各紡糸繊維の総断面積/開口面積)が0.2~1.7であるガイド孔に前記糸条を通過させる。
前記延伸融着工程では、前記糸条を複数のガイド孔に通過させることもできる。その場合、糸条搬送方向下流側になるに従い前記ガイド孔の開口面積を小さくしてもよい。
本発明の繊維強化樹脂線状体の製造方法では、例えば、前記延伸融着工程の開始から中間位置までの間に、少なくとも1回前記ガイド孔に前記糸条を通過させる。
前記紡糸繊維としては、例えば、成分が異なる2以上の熱可塑性樹脂を複合ノズルから同時に押し出して複合紡糸した複合繊維を用いることができる。
また、前記紡糸繊維は、鞘成分と芯成分とを備え、前記鞘成分の融点が前記芯成分の融点より20℃以上低い熱可塑性樹脂からなる鞘芯型複合紡糸繊維でもよく、その場合、前記延伸融着工程では、飽和水蒸気圧下において、前記鞘成分の融点以上かつ前記芯成分の融点よりも低い温度で、前記糸条を延伸しつつ前記鞘成分を溶融して紡糸繊維同士を熱融着すればよい。
【0007】
本発明に係る繊維強化樹脂線状体の製造装置は、熱可塑性樹脂からなる紡糸繊維を複数本集束した糸条を、加熱しながら延伸する加熱延伸部と、前記加熱延伸部内に設置され、前記糸条を挿通させるための孔を備える1又は2以上のガイド部材とを有し、前記ガイド部材の孔は、開口面積比(=糸条を構成する各紡糸繊維の総断面積/開口面積)が0.2~1.7である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、紡糸繊維同士の融着不良を抑制しつつ、太さや幅にばらつきが少ない繊維強化熱可塑性樹脂線状体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造装置の構成例を示す図である。
【
図3】A~Cは複合繊維の構造例を示す断面図であり、Aは鞘芯型、Bは偏心鞘芯型、Cはサイドバイサイド型である。
【
図4】A~Cはガイド部材の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂線状体の製造方法は、補強繊維とマトリクス樹脂の両方が熱可塑性樹脂である繊維強化熱可塑性樹脂線状体を製造する方法であり、糸条を延伸融着する際に開口面積比が特定範囲にあるガイド孔に糸条を通過させる。本実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造方法は、例えば、熱可塑性樹脂からなる紡糸繊維を複数本集束した糸条を加熱しながら延伸する加熱延伸部と、該加熱延伸部内に設置され、糸条を挿通させるための孔を備える1又は2以上のガイド部材とを有する繊維強化樹脂線状体の製造装置により実施することができる。
【0012】
図1は本実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造方法を示すフローチャートであり、
図2は
図1の製造方法を実施するための繊維強化樹脂線状体の製造装置の構成例を示す図である。本実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造方法では、例えば、
図2に示す製造装置により、
図1に示す溶融紡糸工程S1と、集束工程S2と、延伸融着工程S3と、巻取工程S4を実行し、繊維強化熱可塑性樹脂線状体を製造する。
【0013】
[溶融紡糸工程S1]
溶融紡糸工程S1では、溶融紡糸用ノズル1を用いて熱可塑性樹脂を溶融紡糸して紡糸繊維10を得る。溶融紡糸の条件は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂の種類などに応じて適宜選択することができる。ここで、紡糸繊維10を形成する熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などの結晶性ポリエステル、及びポリアミド(PA)などを用いることができる。
【0014】
紡糸繊維10の構造も特に限定されるものではなく、1種の熱可塑性樹脂で形成されている単一繊維でもよく、また、2種以上の熱可塑性樹脂を複合ノズルから同時に押し出して複合紡糸した複合繊維でもよい。
図3A~Cは複合繊維の構造例を示す断面図である。例えば、紡糸繊維10が、
図3Aに示す鞘芯型複合繊維11や、
図3Bに示す偏心鞘芯型複合繊維12の場合は、鞘成分(第1熱可塑性樹脂11a,12a)には、芯成分(第2熱可塑性樹脂11b,12b)よりも融点が20℃以上低い樹脂を用いることが好ましい。また、紡糸繊維10が、
図3Cに示すサイドバイサイド型複合繊維13の場合は、一の側の成分(第1熱可塑性樹脂13a)を、他の側の成分(第2熱可塑性樹脂13b)よりも融点が20℃以上低い樹脂とすることが好ましい。
【0015】
ここで、複合繊維11~13を構成する第1熱可塑性樹脂11a,12a,13aは、第2熱可塑性樹脂11b,12b,13bよりも融点が低いものであればよく、例えばオレフィン系重合体を主成分とする樹脂を用いることができる。オレフィン系重合体には、例えば高密度・中密度・低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、具体的にはプロピレン-ブテン-1-ランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1ランダム共重合体、あるいは軟質ポリプロピレンなどの非結晶性プロピレン系重合体、ポリ4-メチルペンテン-1などを用いることができ、特に、繊維物性の点から高密度ポリエチレンが好適である。これらのオレフィン系重合体は、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
一方、第2熱可塑性樹脂11b,12b,13bとしては、例えばポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどを用いることができるが、延伸性、繊維物性及び熱収縮抑制の観点から、アイソタクチックポリプロピレンが好適である。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
[集束工程S2]
集束工程S2では、例えば、所定の間隔で配置されたセラミックなどからなる棒状の集束ガイド2により、前述した溶融紡糸工程S1で得た紡糸繊維10を複数本集束し、糸条20とする。糸条20は、1種類の紡糸繊維10で構成してもよいが、2種以上の紡糸繊維10を所定の割合で混合して構成することもできる。
【0018】
[延伸融着工程S3]
延伸融着工程S3では、前述した集束工程S2で形成した糸条20を、例えば導入ローラー3を介して、水蒸気などにより内部を加熱可能な延伸槽を備える加熱延伸部4に導入し、加熱条件下で延伸しつつ紡糸繊維10同士を熱融着して一体化し、線状体30を得る。この延伸融着工程S3は、常圧下で行ってもよいが、延伸槽内を加圧して加圧条件下で行ってもよい。
【0019】
本実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造方法では、例えば加熱延伸部4内に糸条20を挿通させるための孔を備える1又は2以上のガイド部材5が設置されており、延伸融着工程S3においてこのガイド部材5の孔(ガイド孔)に糸条20を通過させる。
図4A~Cはガイド部材の構成例を示す模式図である。ガイド部材5の構成は、特に限定されるものではなく、例えば、
図4Aに示す棒材51bを井桁状に組み、平面視で矩形状の開口部(ガイド孔51a)を有するガイド部材51の他、
図4Bに示す板材52bに平面視で楕円形状又は円形状の開口部(ガイド孔52a)が形成されたガイド部材52、
図4Cに示す板材53bに平面視で矩形状の開口部(ガイド孔53a)が形成されたガイド部材53などを用いることができる。
【0020】
また、ガイド孔の形状も、前述した形状に限定されず、例えば、平面視で、菱形状、台形状、三角形状及び多角形状など種々の形状を採用することができる。なお、ガイド孔が平面視で角のある形状の場合、その角の部分は丸みを帯びた形状である(孔の隅部が曲面で形成されている)ことが好ましい。
【0021】
ここで、ガイド孔51a,52a,53aは、開口面積比R(=糸条20を構成する各紡糸繊維10の総断面積/開口面積)が0.2~1.7である。ガイド孔51a,52a,53aの開口面積比が0.2未満の場合、糸条20の太さに比べてガイド孔51a,52a,53aの大きさが過剰に大きくなり、集束の効果を安定的に得ることが難しくなって、線状体30に分割や裂け目が発生しやすくなる。一方、開口面積比Rが1.7を超えると、通過する糸条20に対してガイド孔51a,52a,53aの大きさが過剰に小さくなるため、通過時の抵抗が大きくなり、糸切れを引き起こしやすくなる。なお、走行する糸条20の揺動抑制の観点から、ガイド孔51a,52a,53aの開口面積比Rは0.25~1.0であることが好ましい。
【0022】
ガイド部材5は、例えばアルミナなどのセラミックス材料、ステンレス鋼、銅、亜鉛及び真鍮などの金属材料やこれらの金属材料をめっき処理して表面にニッケルめっき膜などを形成したもの、又は各種の複合材料で形成することができるが、これに限定されるものではなく、延伸融着工程において加えられる熱や水分により溶融又は溶解しない材料で形成されていればよい。また、ガイド部材5の表面粗さも、特に限定されるものではないが、ガイド孔内に針状のような鋭利な突起があると、そこに接触した繊維が裂けたり、切れたりする虞があるため、このような突起がないことが好ましい。
【0023】
本実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造方法では、加熱延伸部4内に複数のガイド部材5を設置し、延伸融着工程S3において、糸条20をガイド孔に複数回通過させてもよい。その場合、糸条搬送方向下流側になるに従いガイド孔の開口面積が小さくなるようにすることが好ましい。これにより、集束時に各繊維に加わる負荷を軽減し、繊維が切れることを抑制しつつ集束の度合いを高めることができる。
【0024】
また、ガイド部材5は、加熱延伸部4内の前半部分(糸条入口と糸条出口の中間位置よりも搬送方向上流側)に、少なくとも1個設置されていることが好ましい。即ち、延伸融着工程S3では、開始から中間位置までの間に、少なくとも1回ガイド孔に糸条を通過させることが好ましい。これにより、糸条20を構成する各紡糸繊維10が融着一体化しやすくなる。更に、加熱延伸部4に複数の延伸槽を設け、延伸又は延伸融着を多段で行ってもよく、その場合、ガイド部材5は、紡糸繊維10の融着一体化を行う延伸槽に設けることが好ましい。
【0025】
一方、糸条20を構成する紡糸繊維10が鞘芯複合繊維である場合、延伸融着工程S3は、飽和水蒸気圧下において、鞘成分の融点以上かつ芯成分の融点よりも低い温度で、糸条20を延伸しつつ鞘成分を溶融して紡糸繊維10同士を熱融着することが好ましい。これにより、芯成分を溶融させずに鞘成分を溶融して、紡糸繊維10同士を確実に融着することができる。
【0026】
[巻取工程S4]
延伸融着工程S3で形成された線状体30は、例えば引き出しローラー6により引き出され、巻取機7によって巻き取られる。
【0027】
以上、詳述したように、本実施形態の繊維強化樹脂線状体の製造方法では、糸条を延伸溶融する際に、開口面積比が0.2~1.7であるガイド孔に糸条を通過させるため、糸条の集束度合いが向上し、紡糸繊維同士を確実に融着させることができると共に、得られる線状体に太さや幅にばらつきが発生することを防止できる。これにより、紡糸繊維の融着不良に由来する分割や割れ目がなく、太さや幅にばらつきが少ない繊維強化熱可塑性樹脂線状体を製造することが可能となる。
【0028】
そして、本実施形態により製造した繊維強化熱可塑性樹脂線状体を用いることにより、製織工程などの後工程でトラブルが発生しにくく、外観も良好な製品を製造することができる。更に、本実施形態により製造した繊維強化熱可塑性樹脂線状体は、補強繊維及びマトリクス樹脂の両方が熱可塑性樹脂で構成されており、ガラス繊維や炭素繊維を使用していないため、リサイクルしやすく、環境負荷が小さい。
【実施例0029】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、
図2に示す製造装置を用いて、下記の方法で実施例及び比較例の繊維強化樹脂線状体を作製し、太さや幅のばらつきを評価した。
【0030】
具体的には、先ず、芯成分に230℃におけるMFR(Melt Flow Rate)が18g/10分のポリプロピレン、鞘成分に230℃におけるMFRが6.3g/10分のLLDPE(Linear Low Density Polyethylene:直鎖状低密度ポリエチレン)を用い、定法の複合紡糸装置と芯鞘型複合紡糸ノズル(ホール数:480)を使用して、
図3Aに示す構造の鞘芯型複合繊維を溶融紡糸した。その際、紡糸温度は250℃、芯鞘比は、断面比で、芯/鞘=65/35とした。そして、得られた紡糸繊維(鞘芯型複合繊維)を集束した糸条を、加熱延伸部4において延伸融着し、繊度が約1850dtexの繊維強化線状体30を作製した。
【0031】
<実施例1>
図4Aに示す井桁状ガイド部材51を、加熱延伸部4の糸条入口から2m以内の前方部分、入口と出口の中間位置から前後1m以内の中央部分、出口から2m以内の後方部分の3箇所に設置し、延伸融着工程においてガイド孔に糸条を3回通過させて繊維強化線状体を作製した。その際、加熱延伸部4の全長は10mとし、各ガイド部材51の開口面積比Rは1.7とした。
【0032】
<実施例2>
前方部分に設置したガイド部材51の開口面積比Rを0.25に変更し、後方部分のガイド部材51を取り除いた以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0033】
<実施例3>
前方部分のガイド部材51を取り除き、中央部分及び後方部分でガイド孔に糸条を通過させる構成にした以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0034】
<実施例4>
前方部分及び後方部分のガイド部材51を取り除き、中央部分だけでガイド孔に糸条を通過させる構成にした以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0035】
<実施例5>
前方部分に設置したガイド部材51の開口面積比Rを0.2に変更し、中央部分のガイド部材51を取り除いた以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0036】
<実施例6>
中央部分及び後方部分のガイド部材51を取り除き、前方部分だけでガイド孔に糸条を通過させる構成にした以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0037】
<実施例7>
前方部分及び中央部分のガイド部材51を取り除き、後方部分だけでガイド孔に糸条を通過させる構成にした以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0038】
<比較例1>
前方・中央・後方の各部分に設置されているガイド部材51の開口面積比Rを、全て0.1とした以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0039】
<比較例2>
前方・中央・後方の各部分に設置されているガイド部材51の開口面積比Rを、全て2.0とした以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0040】
<比較例3>
後方部分のガイド部材51を取り除き、前方部分及び中央部分でガイド孔に糸条を通過させる構成にした以外は、前述した比較例2と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0041】
<比較例4>
前方部分のガイド部材51を取り除き、中央部分及び後方部分でガイド孔に糸条を通過させる構成にした以外は、前述した比較例2と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0042】
<比較例5>
ガイド部材51を設置せずに延伸溶融した以外は、前述した実施例1と同様の方法・条件で繊維強化線状体を作製した。
【0043】
[評価]
実施例及び比較例で作製した線状体の糸幅をノギスにて計測した。1つの試験体につき評価数30とし、評価に用いる試験体の数2以上とした。その計測値を元に糸幅の標準偏差を算出した。その結果、最大値が0.25以下のものは○(合格)とし、0.25を超えていたものは×(不合格)とした。
【0044】
以上の結果を、下記表1及び表2に示す。
【0045】
【0046】
【0047】
上記表2に示すように、ガイド孔の開口面積比が0.2未満である比較例1及びガイド孔を通過させなかった比較例5は、製造された線状体の糸幅の標準偏差の最大値が0.3以上となり、幅のばらつきが大きかった。また、ガイド孔の開口面積比が1.7を超えている比較例2~4では、糸切れが発生し、線状体を作製することはできなかった。これに対して、本発明の範囲内で作製した実施例1~7の線状体は、糸幅のばらつきが小さく、分割や裂け目も発生しなかった。
【0048】
以上の結果から、本発明によれば、紡糸繊維同士の融着不良を抑制し、かつ、太さや幅にばらつきが少ない繊維強化熱可塑性樹脂線状体が得られることが確認された。
【0049】
なお、本発明は、以下の構成を採ることもできる。
〔1〕
熱可塑性樹脂からなる1又は2種以上の紡糸繊維を複数本集束した糸条を、加熱条件下で延伸しつつ前記紡糸繊維同士を熱融着する延伸融着工程を有し、
前記延伸融着工程において、開口面積比(=糸条を構成する各紡糸繊維の総断面積/開口面積)が0.2~1.7であるガイド孔に前記糸条を通過させる繊維強化樹脂線状体の製造方法。
〔2〕
前記延伸融着工程では、前記糸条を複数のガイド孔に通過させる〔1〕に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
〔3〕
糸条搬送方向下流側になるに従い前記ガイド孔の開口面積を小さくする〔2〕に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
〔4〕
前記延伸融着工程の開始から中間位置までの間に、少なくとも1回前記ガイド孔に前記糸条を通過させる〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
〔5〕
前記紡糸繊維は、成分が異なる2以上の熱可塑性樹脂を複合ノズルから同時に押し出して複合紡糸した複合繊維である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
〔6〕
前記紡糸繊維は、鞘成分と芯成分とを備え、前記鞘成分の融点が前記芯成分の融点より20℃以上低い熱可塑性樹脂からなる鞘芯型複合紡糸繊維であり、
前記延伸融着工程では、飽和水蒸気圧下において、前記鞘成分の融点以上かつ前記芯成分の融点よりも低い温度で、前記糸条を延伸しつつ前記鞘成分を溶融して紡糸繊維同士を熱融着する〔5〕に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
〔7〕
熱可塑性樹脂からなる紡糸繊維を複数本集束した糸条を、加熱しながら延伸する加熱延伸部と、
前記加熱延伸部内に設置され、前記糸条を挿通させるための孔を備える1又は2以上のガイド部材と、を有し、
前記ガイド部材の孔は、開口面積比(=糸条を構成する各紡糸繊維の総断面積/開口面積)が0.2~1.7である繊維強化樹脂線状体の製造装置。
〔8〕
前記加熱延伸部内には開口面積が異なる複数のガイド部材が設けられており、
前記複数のガイド部材は、搬送方向下流側になるに従い開口面積が小さくなるよう配置されている〔7〕に記載の繊維強化樹脂線状体の製造装置。
〔9〕
前記加熱延伸部内には、前記糸条の入口と出口の中間位置よりも搬送方向上流側に、前記ガイド部材が少なくとも1個配置されている〔7〕又は〔8〕に記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。
〔10〕
前記加熱延伸部は、蒸気延伸装置である〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の繊維強化樹脂線状体の製造方法。