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特開2024-143428ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143428
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K7/14
C08K9/04
C08L101/00
C08J3/20 Z CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056098
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA04
4F070AA32
4F070AA47
4F070AB11
4F070AB24
4F070AB26
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC06
4J002AC08X
4J002BB05X
4J002BB06X
4J002BB07X
4J002BB08X
4J002BB09X
4J002BB10X
4J002BB15X
4J002BC02X
4J002BN12X
4J002CF07W
4J002CP03X
4J002DL006
4J002FB086
4J002FB136
4J002FB236
4J002FD016
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】耐加水分解性に優れ、かつ、未解繊のガラス繊維束が低減された、ガラス繊維を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、
カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記ガラス繊維(B)の平均繊維径が3~50μmであり、前記ガラス繊維(B)100質量部に対する前記集束剤の含有量が0.1~3.0質量部である、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
エラストマー(C)をさらに含む、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)は、機械特性、電気特性、耐熱性、成形性に優れている。特に、ガラス繊維を加えることで機械特性や耐熱性が向上することから、自動車用部品、電気電子機器用部品、精密機器用部品等、様々な分野に幅広く使用されている。そのような部品は射出成形により生産されることが多く、押出機で溶融したPBT樹脂、チョップドストランド状のガラス繊維及び各種添加剤を混練し、ペレット状に加工したガラス繊維強化PBT樹脂組成物が使用される。
【0003】
一方、PBT樹脂は、分子中にエステル基を有しているため、高温多湿な環境下では加水分解が起こりやすく、環境変化の大きい自動車用部品においては、常に耐加水分解性の向上が望まれている。例えば、自動車用部品では安全性や自動運転などを制御するセンサーやECU等の筐体にガラス繊維等で強化されたPBT樹脂が使用されており、端子やカラー等の金属部品と複合されるためヒートショックによる割れを生じる場合がある。特に湿熱環境下ではPBT樹脂が加水分解されることで、割れが促進される。
【0004】
PBT樹脂自体の耐加水分解性を向上させるに当たり、末端カルボキシル基量を低減するためにエポキシ樹脂又はカルボジイミド化合物を添加することが一般的に知られている(特許文献1~2参照)。
【0005】
特許文献1には、末端カルボキシル基量が30meq/kg以下であるPBT樹脂とカルボジイミド化合物、繊維状充填剤、エラストマーからなる樹脂組成物についてPBT樹脂の末端カルボキシル基量を1とした場合、カルボジイミド官能基量が0.3~1.5当量を配合することで耐ヒートショック性及び耐加水分解性が改善されることが示されている。
【0006】
特許文献2には、末端カルボキシル基濃度が0.1μeq/g以上6μeq/g未満、固有粘度が0.75~1dL/gのPBT樹脂にエポキシ化合物を配合することで耐加水分解性が改善されることが示されている。
【0007】
また、ガラス繊維自体においても、集束剤にエポキシ樹脂を用いることで耐加水分解性を改善できることが知られている(特許文献3~4参照)。特許文献3には、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸の無水物と不飽和単量体との共重合物及びエポキシ樹脂を必須成分とする集束剤で表面処理されたガラス繊維を用いることが示されている。また特許文献4には、ノボラック型エポキシ樹脂を含有する表面処理ガラス繊維が長期耐熱性に優れることが示されている。
【0008】
一方、射出成形に使用する樹脂ペレットにおいて、ガラス繊維を配合した樹脂ペレットでは、押出時のフィード性から複数のガラス繊維を一つの束にして数mmの長さでカットされたチョップドストランドが一般的に使用される。しかし、押出混練時にガラス繊維束が解繊されない未解繊が生じることが知られている(特許文献5)。特許文献5には、混練時にガラス繊維束が解繊されないことを防止するため、押出機のスクリューとダイとの間の樹脂流路途中に、それぞれの開口面積が38.47mm未満の複数の流路を設け、複数の流路の開口が属する面の面積の40%未満である複数の流路を設けることにより未解繊が防止できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/150831号
【特許文献2】特開2004-277718号公報
【特許文献3】特開2003-201671号公報
【特許文献4】特開2015-129073号公報
【特許文献5】国際公開第2022/202096号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、PBT樹脂の耐加水分解性を改善するための提案がなされているものの、未だ十分ではなく更なる向上が期待されている。また、ガラス繊維強化されたPBT樹脂のもう一つの課題として、ガラス繊維の未解繊による射出成形機のノズル詰まりや成形品の強度低下を防止することが期待されている。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、耐加水分解性に優れ、かつ、未解繊のガラス繊維束が低減された、ガラス繊維を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに当該樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるPBT樹脂と、カルボン酸等を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤により表面処理されたガラス繊維とを含むPBT樹脂組成物を用いることで従来に比べ、耐加水分解性が大幅に向上し、更に未解繊のガラス繊維束が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、
カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0014】
(2)前記ガラス繊維(B)の平均繊維径が3~50μmであり、前記ガラス繊維(B)100質量部に対する前記集束剤の含有量が0.1~3.0質量部である、前記(1)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0015】
(3)エラストマー(C)をさらに含む、前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0016】
(4)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂成形品。
【0017】
(5)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【0018】
(6)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐加水分解性に優れ、かつ、未解繊のガラス繊維束が低減された、ガラス繊維を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに当該樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<PBT樹脂組成物>
本実施形態のPBT樹脂組成物は、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるPBT樹脂(A)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)を含む。
【0021】
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、所定の固有粘度で、かつ、所定のカルボン酸末端基量のPBT樹脂(A)と、所定の集束剤で表面処理されたガラス繊維(B)とを用いることで、耐加水分解性に優れ、かつ、未解繊のガラス繊維束が低減される。
以下に、本実施形態のPBT樹脂組成物の各成分について説明する。
【0022】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
PBT樹脂(A)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるPBT系樹脂である。PBT樹脂(A)はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
また、本実施形態において、PBT樹脂の原料である1,4-ブタンジオールブタンジオール及びテレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルは化石資源由来又はバイオマス資源由来のいずれでもよい。
【0023】
PBT樹脂(A)のカルボン酸末端基量は、5meq/kg以上、18meq/kg以下であり、5meq/kg以上、13meq/kg以下が好ましい。かかる範囲のカルボン酸末端基量のPBT樹脂を用いることで、得られるPBT樹脂組成物が湿熱環境下での加水分解による強度低下を受けにくくなる。また、集束剤で表面処理されたガラス繊維の分散性を確保し、未分散物の混入を避けるため、カルボン酸末端基量は5meq/kg以上としている。カルボン酸末端基量が5meq/kg未満の場合、溶融加工時のガラス繊維とPBT樹脂の反応性が低下することでガラス繊維の分散性が低下し、未分散物が混入しやすくなる。
【0024】
PBT樹脂(A)の固有粘度(IV)は0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、0.80dL/g以上、1.00dL/g以下であることが好ましく、0.83dL/g以上、0.90dL/g以下であることがより好ましい。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られるPBT樹脂組成物の耐加水分解性と成形性に優れたものとなる。固有粘度が0.70dL/g未満のPBT樹脂を用いると、溶融加工時に集束剤で表面処理されたガラス繊維に加わるせん断応力が低下する。そのため、ガラス繊維の分散性が低下し、未分散物が混入しやすくなる。固有粘度が1.10dL/g超のPBT樹脂を用いると、溶融加工時にガラス繊維が折損するため強度低下が生じ、また溶融粘度が上昇するため成形性が悪化する。
また、PBT樹脂(A)の固有粘度(IV)は、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.8dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.85dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂(A)の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0025】
PBT樹脂(A)において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0027】
PBT樹脂(A)において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0029】
以上説明したコモノマー成分を共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体は、いずれもPBT樹脂(A)として好適に使用できる。また、PBT樹脂(A)として、ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体とを組み合わせて使用してもよい。
【0030】
PBT樹脂(A)は固有粘度とカルボン酸末端基量が上記範囲内であれば、市場回収品を使用することができる(マテリアルリサイクル)。また、PBT樹脂廃棄物から1,4-ブタンジオールやテレフタル酸などをモノマーレベルまで分解し(ケミカルリサイクル)、得られた原料を重縮合して製造されたPBT樹脂も使用することができる。当該PBT樹脂を用いる製造方法の形態については後述する。
【0031】
[ガラス繊維(B)]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、ガラス繊維(B)は、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されている。ガラス繊維(B)を含有することにより、成形品の機械強度の向上の効果が得られ、更に、所定の集束剤による表面処理により耐加水分解性に優れる。さらに、集束剤を原因とするガラス繊維の未解繊を大幅に減少させることができる。
【0032】
ガラス繊維(B)の原料となるガラスの種類は特に限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0033】
ガラス繊維(B)の平均繊維径は、機械特性と射出成形時のゲート詰まり防止等の観点から、3~50μmであることが好ましく、6~15μmであることがより好ましい。ガラス繊維(B)の平均繊維長は特に制限されず、例えば0.1~20mmとすることができる。なお、ガラス繊維(B)の平均繊維径及び平均繊維長とは、樹脂組成物に配合後のガラス繊維について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値である。例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3等を用いて算出することができる。配合後のガラス繊維(B)は例えば恒温槽600℃で2~3時間程度処理することで得ることができる。
【0034】
ガラス繊維(B)としては、円形断面を有するもの及び非円形断面を有するもののいずれも用いることができる。非円形断面としては、長円形、楕円形、繭形等が挙げられる。非円形断面の異形比(長軸径:短軸径)は、特に限定されないが、1.5:1~6:1であることが好ましく、2:1~5:1であることがより好ましく、2.5:1~4:1であることが更に好ましい。異形比が1.5:1~6:1の範囲であると、断面を扁平にしたことによる寸法安定性、反り低減等の効果が得られ易く、また、扁平になり過ぎ割れやすくなることによる強度の低下も抑制し易い。
【0035】
ガラス繊維(B)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
また、ガラス繊維(B)と非繊維状無機充填材とを組み合わせて用いてもよい。ガラス繊維(B)と非繊維状無機充填材とを組み合わせて用いることにより、低反り性と、引張り強度等の機械的特性とを両立させることができる。ガラス繊維(B)と非繊維状無機充填材との比率は特に限定されるものではないが、ガラス繊維(B)/非繊維状無機充填材(質量比)=80/20~45/55であることが好ましく、75/25~55/45であることがより好ましく、70/30~60/40であることが更に好ましい。非繊維状無機充填材の含有量がガラス繊維の20質量%以上であるとより優れた低反り性が得られ易く、55質量%以下であるとより優れた引張り強度が得られ易い。ガラス繊維(B)と非繊維状無機充填材の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、ガラス繊維(B)と、ガラスフレーク、マイカ、タルク等の非繊維状無機充填材との組み合わせが挙げられる。
【0037】
次いで、ガラス繊維(B)において、表面処理に用いられる集束剤に含まれる、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物及びエポキシ樹脂について以下に説明する。
【0038】
(カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物)
カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物(以下、単に「重合物」とも呼ぶ。)において、カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、ケイ皮酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは置換基を有してもよい。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、が好ましい。また、カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水クロレンディック酸等の不飽和カルボン酸の無水物が挙げられる。
以上の重合物は、それぞれのカルボン酸又はカルボン酸無水物が単独で重合した単独重合体でもよいし、2以上のカルボン酸又はカルボン酸無水物が共重合した共重合体でもよい。
【0039】
本実施形態において、以上の重合物の重量平均分子量は特に限定はないが、10,000~1,000,000が特に好ましい。当該重量平均分子量が10,000~1,000,000の範囲内であると、十分な耐加水分解性が得られるとともに、ガラス繊維の表面への付着が十分となる。
【0040】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ダイマー酸グリシジルエステル、アロマティックジグリシジルエステル、シクロアリファティックジグリシジルエステルなど)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-パラアミノフェノール、トリグリシジル-メタアミノフェノール、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンなど)、複素環式エポキシ樹脂(トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、ヒダントイン型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂(ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレートなど)、エポキシ化ポリブタジエンなどが挙げられる。
【0041】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂には、ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル[ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂など)、レゾルシン型エポキシ樹脂などの芳香族ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル;脂肪族エポキシ樹脂(アルキレングリコールやポリオキシアルキレングリコールのグリシジルエーテルなど)など]、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)などが含まれる。
【0042】
エポキシ樹脂のうち、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。中でも、グリシジルエーテル型芳香族エポキシ樹脂、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、100~1600g/eq、好ましくは100~800g/eq、更に好ましくは150~500g/eq程度であってもよい。
【0044】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、例えば、200~50,000、好ましくは300~10,000、更に好ましくは400~6,000程度であってもよい。
【0045】
本実施形態において、集束剤中の重合物(X)とエポキシ樹脂(Y)との質量比率(X/Y)は、成形品の機械強度の向上の観点から、0.001~1.500とすることが好ましい。
【0046】
集束剤は、ガラス繊維(B)100質量部に対して0.1~3.0質量部含有していることが好ましく、0.3~2.5質量部含有していることがより好ましい。当該集束剤の含有量が0.1~3.0質量部であることで、耐加水分解性の向上を図ることができる。
【0047】
また、集束剤中には、上記成分以外に、ウレタン樹脂、シランカップリング剤、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、帯電防止剤等の各成分を含むことができ、それぞれの成分の配合比は、必要に応じて決定すればよい。ウレタン樹脂はガラス繊維の結束性や分散性に寄与し、ポリイソシアネートとポリオールなどより得られる。シランカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ビニルシラン、アクリルシランなどが使用できる。潤滑剤としては、脂肪酸アミド、第4級アンモニウム塩などが使用できる。また、ノニオン系の界面活性剤としては、合成アルコール系、天然アルコール系、脂肪酸エステル系などが使用できる。
【0048】
本実施形態のPBT樹脂組成物において、ガラス繊維(B)は、PBT樹脂(A)100質量部に対して、10~100質量部含有することが好ましく、20~80質量部含有することがより好ましい。
【0049】
[エラストマー(C)]
本実施形態のPBT樹脂組成物は、エラストマー(C)をさらに含むことが好ましい。 エラストマー(C)を含むことにより、PBT樹脂組成物からなる成形品が、加熱冷却が繰り返される環境で使用される場合において要求される、耐ヒートショック性を向上させることができる。
【0050】
エラストマー(C)はPBT樹脂組成物に靭性を付与することで、成形品に発生する歪を吸収でき、成形時や熱処理時の収縮率及び/又は線膨張係数が小さいのみならず、PBT樹脂(A)との相溶性の良い樹脂を好ましく用いることができる。このようなエラストマー(C)の例としては、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、コアシェル系エラストマー、スチレン系エラストマー、シリコーン系エラストマー及びこれらの組み合わせを挙げることができる。中でも、オレフィン系エラストマー、コアシェル系エラストマーは優れた耐ヒートショック性が得られるため好ましい。なお、これらのエラストマー(C)とPBT樹脂(A)との親和性を向上させるために、公知の相溶化剤を併用してもよい。
【0051】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPD共重合体)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体(エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等)などが含まれる。好ましいオレフィン系エラストマーには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれ、特にエチレンエチルアクリレートが好ましい。これらのオレフィン系エラストマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0052】
コアシェル系エラストマーは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーであり、コア層のゴム成分としてはアクリル系ゴム等を用いるものである。コア層に用いるゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0053】
ゴム成分としてアクリル系ゴムを用いる場合、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC2~C6のアルキルエステルがより好ましい。
【0054】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0055】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるコアシェル系エラストマーのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0056】
[エポキシ化合物]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、耐加水分解性の更なる向上のためのエポキシ化合物を添加剤として使用することができる。本実施形態におけるエポキシ化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族エポキシ化合物を挙げることができる。エポキシ化合物は、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、200~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0057】
本実施形態におけるエポキシ化合物の添加量はPBT樹脂(A)100質量部に対し0.5~5質量部含有することが好ましい。含有量が0.5質量部以上であると、耐加水分解性の向上を図ることができ、5質量部以下であると、成形加工時に炭化物の生成が抑制され、粘度上昇により未充填や、変色を抑えることができる。
【0058】
[他の成分]
本実施形態のPBT樹脂組成物は、必要に応じて、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、ガラス繊維(B)以外の無機充填材、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、近赤外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、有機充填剤、着色剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0059】
以上説明した本実施形態のPBT樹脂組成物は、未解繊のガラス繊維束が低減されるため、ガラス繊維の分散性が向上する。また、PBT樹脂組成物の流動性としては、ISO11443に準拠し、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec-1にて測定した溶融粘度が、0.15kPa・s以上0.30kPa・s以下であることが好ましく、0.16kPa・s以上0.25kPa・s以下であることがより好ましく、0.17kPa・s以上0.23kPa・s以下であることがさらに好ましい。当該溶融粘度を0.30kPa・s以下にすることで、射出成形に必要な流動性を確保でき、ガラス繊維の分散性に優れ、ガラス繊維折れの抑制を図ることができる。そのため、本実施形態のPBT樹脂組成物は高強度で外観に優れる。また、当該溶融粘度を0.16kPa・s以上にすることでガラス繊維の未分散を低減することができる。
【0060】
<樹脂成形品>
本実施形態の樹脂成形品は、以上説明した本実施形態のPBT樹脂組成物を成形してなる。従って、本実施形態のPBT樹脂組成物と同様に、耐加水分解性が従来よりも大幅に向上し、未解繊のガラス繊維がない又は少ないという効果を奏する。
【0061】
本実施形態のPBT樹脂組成物を用いて樹脂成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態のPBT樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0062】
本実施形態の樹脂成形品としては、自動車や電車、航空産業用用途などの高温高湿環境に長期間曝される成形品用の樹脂組成物として好適に用いることができる。この樹脂組成物からなる成形品では、十分な高温高湿環境下で長期間使用した場合でも、加水分解による劣化が生じることを防ぐことができ、さらに流動性に優れるため狭小で薄肉なリレーやコネクタなどに用いることができる。特にガラス繊維の未分散が低減するため薄肉部の詰まりによる充填不良や成形品表面に未分散のガラス繊維束が突き出すといったことが低減される。またエラストマーを配合した場合、耐ヒートショック性が向上するため車載のエンジンやモーター、電池周辺に設置される電装部品ECUや筐体、センサー等に使用することができる。
【0063】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のPBT樹脂組成物の製造方法は、第1形態及び第2形態の2つの形態があり、いずれの形態も、以上の本実施形態のPBT樹脂組成物を製造する一形態である。
第1形態においては、ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるPBT樹脂(A)を得る工程、及びPBT樹脂(A)と、ガラス繊維(B)とを混合する工程を含む。
【0064】
また、第2形態においては、マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるPBT樹脂(A)を得る工程、及びPBT樹脂(A)と、ガラス繊維(B)とを混合する工程を含む。
【0065】
以上の第1形態及び第2形態においては、それぞれ、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルを利用してPBT樹脂(A)を得るが、上述の本実施形態のPBT樹脂組成物の製造は、第1形態及び第2形態に係る製造方法に限定されることはない。すなわち、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるPBT樹脂が得られれば、PBT樹脂(A)を得る方法について限定はない。
【0066】
第1形態及び第2形態においては、PBT樹脂(A)を得る工程において異なる。すなわち、第1形態は、ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いてPBT樹脂(A)を得るのに対し、第2形態においては、マテリアルリサイクルによりPBT樹脂(A)を得る。
【0067】
第1形態及び第2形態のいずれにおいても、廃プラスチックたるPBT樹脂を再利用できため、天然資源の節約と環境負荷の軽減に資する。
【0068】
第1形態においては、PBT樹脂(A)を、PBT樹脂廃棄物等から1,4-ブタンジオールやテレフタル酸等をモノマーレベルまで分解し(ケミカルリサイクル)、得られた原料を重縮合して製造する。ケミカルリサイクルは、PBT樹脂とアルコール類を反応容器に充填し加熱してアルコール類を超臨界条件として解重合し、1,4-ブタンジオールやテレフタル酸を回収することができる。
【0069】
第2形態においては、PBT樹脂(A)を、マテリアルリサイクルにより得る。すなわち、固有粘度とカルボン酸末端基量が上記規定範囲内であれば、市場回収品を使用することができる。市場回収品は単軸粉砕機、二軸粉砕機、三軸粉砕機、カッターミル等の粉砕機を用いて粉砕し、使用することができる。また、粉砕品を単軸押出機、二軸押出機を用いて溶融混練し、造粒化によりペレットとして使用することもできる。また、溶融混練時にブレーカープレート部にステンレス鋼製フィルター類をセットして異物を排除することができる。異物は破壊の起点となるため、異物を排除することで、PBT樹脂組成物からなる成形品の機械特性の維持と外観の改善を行うことができる。
【0070】
いずれの形態においても、PBT樹脂(A)を得る工程において、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が5meq/kg以上、18meq/kg以下であるPBT樹脂が得られれば、製法上の制限は特にない。
【0071】
成分(A)~(B)を混合する工程において、各成分を混合する手法としては特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、各成分を押出機に投入して溶融混練してペレット化するといった方法が挙げられる。
【実施例0072】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1~8、比較例1~6]
各実施例・比較例において(A)~(C)成分を表2~3に示す比率(質量部)で、30mmφの2軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30C)を用い、原料供給部とダイ先端部をシリンダー温度260℃、その間を220~260℃とし、吐出量15kg/h、スクリュー回転数130rpmで溶融混練して押出し、PBT樹脂組成物からなるペレットを得た。また、以下に示す未分散物の評価には、スクリュー回転数70rpmで溶融混錬して押出し、PBT樹脂組成物からなるペレットを得た。表2~3に示す各成分の詳細を以下に示す。
【0074】
(1)PBT樹脂:
(A-1):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂 固有粘度:0.86dL/g カルボン酸末端基量:12meq/kg
(A-2):ポリプラスチックス(株)製、ジュラネックス500FPを、140℃で3時間乾燥させた後、FANUC社製射出成形機「ROBOSHOT S-2000i 100B」を用いてシリンダー温度260℃、金型温度80℃でISO3167に準拠した1AタイプのISO試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、得られたISO試験片を小型粉砕機で粉砕したPBT樹脂。固有粘度:0.89dL/g、カルボン酸末端基量:14meq/kg
(A-3):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂、固有粘度:0.91dL/g、カルボン酸末端基量:7meq/kg
(A-4):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂、固有粘度:0.86dL/g、カルボン酸末端基量:3meq/kg
(A-5):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂、固有粘度:0.86dL/g、カルボン酸末端基量:20meq/kg
(A-6):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂、固有粘度:0.66dL/g、カルボン酸末端基量:13meq/kg
【0075】
(4)ガラス繊維(B)
(B-1)ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維、平均繊維径13μm(集束剤:フェノールノボラック樹脂0.5質量%、無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物(0.2質量%)
(B-2)ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維 平均繊維径13μm(集束剤:フェノールノボラック樹脂0.5質量%)
(B-3)ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維 平均繊維径13μm(集束剤:無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物(0.2質量%)
【0076】
一方、ガラス繊維(B-1)~(B-3)の表面処理に用いた集束剤の成分を表1に示す。表1における数値は、それぞれのガラス繊維全体に対する各成分の含有量(質量%)である。なお、ガラス繊維(B-1)において、集束剤は、ガラス繊維(B-1)100質量部に対して0.7質量部含有している。
【0077】
【表1】
【0078】
(5)エラストマー(C)
(C-1)エラストマー:(株)ENEOS NUC製エチレンエチルアクリレート共重合物NUC-6570
(C-2)エラストマー:ダウケミカル製コアシェルエラストマー パラロイドEXL-2311
(6)エポキシ化合物:三菱ケミカル(株)製、エピコート1004
【0079】
[評価]
各実施例・比較例で得られたペレットを用い、以下の評価試験を実施した。
【0080】
(1)耐加水分解性
表2~3の組成で得られた各実施例及び比較例のPBT樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、ISO3167に準拠した1Aタイプの引張試験片を作製した。得られた試験片について、ISO527-1,2に準拠し、引張強さの測定をした。測定結果を表2~3に示す。次に、PCT処理装置(高加速寿命試験装置)を用い、試験片を121℃、100%RH下に曝露し、湿熱試験後(50時間後、100時間後、150時間後)の引張強さを測定し湿熱処理前後での強度保持率を算出した。算出結果を表2~3に示す。
(2)未解繊ペレット数
表2~3の組成で得られた各実施例及び比較例のPBT樹脂組成物ペレット1kgを1層に広げて目視で観察し、ペレット表面又は断面にガラス繊維の塊が確認されたペレットの数を測定した。各組成物の測定結果を表2~3に示す。
(3)溶融粘度
表2~3の組成で得られた各実施例及び比較例のPBT樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、ISO11443に準拠し、キャピログラフ1B(東洋精機製作所(株)製)を用いて、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec-1にて測定した。溶融粘度が0.30kPa・s以下であると溶融粘度が低く、流動性が良好であると言える。
(4)耐ヒートショック性
表2~3の組成で得られた各実施例及び比較例のPBT樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥した後、樹脂温度260℃、金型温度65℃、射出時間25秒、冷却時間10秒で、試験片成形用金型(縦22mm、横22mm、高さ51mmの角柱内部に縦18mm、横18mm、高さ30mmの鉄芯をインサートする金型)に、一部の樹脂部の最小肉厚が1mmとなるようにインサート射出成形し、インサート成形品を製造した。得られたインサート成形品について、冷熱衝撃試験機を用いて140℃にて1時間30分加熱後、-40℃に降温して1時間30分冷却後、さらに140℃に昇温する過程を1サイクルとする耐ヒートショック試験を行い、インサート成形品にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、耐ヒートショック性を評価した。
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
表2~3より、実施例1~8においては、耐加水分解性及びガラス繊維束の解繊が良好な評価結果が得られたことが分かる。
一方、フェノールノボラック樹脂の集束剤で表面処理したガラス繊維(B-2)を用いたことのみが実施例1と異なる比較例1、及び無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物の共重合物のみを含む集束剤で表面処理したガラス繊維(B-3)を用いたことのみが実施例1と異なる比較例2は耐加水分解性に劣っていた。
カルボン酸末端基量が高いPBT樹脂(A-5)を用いた比較例4と、カルボン酸末端基量の低いPBT樹脂(A-4)を用いた比較例6は耐加水分解性に劣っていた。
更に、カルボン酸末端基量が低いPBT樹脂(A-4)を用いた比較例3と、固有粘度が低いPBT樹脂(A-6)を用いた比較例5はガラス繊維束の解繊性に劣っていた。
なお、エラストマー(C)が添加された実施例5~8は耐加水分解性、ガラス繊維束の解繊性に加え、耐ヒートショック性にも優れていた。