(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143439
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】生体情報計測装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/276 20210101AFI20241003BHJP
A61B 5/332 20210101ALI20241003BHJP
A61B 5/308 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
A61B5/276 100
A61B5/332
A61B5/308
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056119
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 健児
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127BB03
4C127CC01
4C127LL15
(57)【要約】
【課題】精度の良い心電波形を得るとともに各電極の接触状態を検知することができる心電計測装置を提供する。
【解決手段】第1電極と、第2電極と、第3電極とを備え、前記第3電極の電位を基準電位として、前記第1電極及び前記第2電極の電位差に基づいて計測対象の生体情報を計測する生体情報計測装置であって、第1非反転増幅回路と、1プルアップ抵抗と、第1接触信号出力手段と、第2非反転増幅回路と、2プルアップ抵抗と、第2接触信号出力手段と、前記第1非反転増幅回路により増幅されて出力される第1増幅電位、及び前記第2非反転増幅回路により増幅されて出力される第2増幅電位、の差分を増幅して前記生体情報を出力する差動増幅回路と、前記生体情報を計測する処理を実行する制御手段と、を有する生体情報計測装置。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、第3電極とを備え、前記第3電極の電位を基準電位として、前記第1電極及び前記第2電極の電位差に基づいて計測対象の生体情報を計測する生体情報計測装置であって、
前記第1電極の電位が非反転入力端子に入力される第1増幅器を備える第1非反転増幅回路と、
前記第1電極と前記第1非反転増幅回路との間に接続される第1プルアップ抵抗と、
前記第1非反転増幅回路を含み、前記第1非反転増幅回路からの出力信号を用いて前記第1電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力する第1接触信号出力手段と、
前記第2電極の電位が非反転入力端子に入力される第2増幅器を備える第2非反転増幅回路と、
前記第2電極と前記第2非反転増幅回路との間に接続される第2プルアップ抵抗と、
前記第2非反転増幅回路を含み、前記第2非反転増幅回路からの出力信号を用いて前記第2電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力する第2接触信号出力手段と、
前記第1非反転増幅回路により増幅されて出力される第1増幅電位、及び前記第2非反転増幅回路により増幅されて出力される第2増幅電位、の差分を増幅して前記生体情報を出力する差動増幅回路と、
前記生体情報を計測する処理を実行する制御手段と、
を有する生体情報計測装置。
【請求項2】
前記第1接触信号出力手段は前記第1増幅電位を用いて前記第1電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力し、
前記第2接触信号出力手段は前記第2増幅電位を用いて前記第2電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の生体情報計測装置。
【請求項3】
少なくとも前記生体情報の計測処理中の、前記第1電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号、及び前記第2電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号、を記憶する記憶手段をさらに有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の生体情報計測装置。
【請求項4】
前記第1接触信号出力手段及び前記第2接触信号出力手段はそれぞれA/D変換器を備えており、
前記A/D変換器から出力されるデジタル信号を用いて、前記第1電極及び前記第2電極の前記計測対象に対するそれぞれの前記接触状態を少なくとも3段階に分類する接触状態分類手段、をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の生体情報計測装置。
【請求項5】
少なくとも前記生体情報の計測処理中の、前記分類された前記接触状態の情報、を記憶する記憶手段をさらに有する、
ことを特徴とする、請求項4に記載の生体情報計測装置。
【請求項6】
前記第1プルアップ抵抗及び前記第2プルアップ抵抗は、200MΩ以上の抵抗値を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の生体情報計測装置。
【請求項7】
前記第1プルアップ抵抗及び前記第2プルアップ抵抗は、300MΩ以上の抵抗値を有
する、
ことを特徴とする、請求項6に記載の生体情報計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルスケア関連の技術分野に属し、特に、生体情報計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血圧値、心電波形などの、個人の身体・健康に関する情報(以下、生体情報ともいう)を計測機器によって計測し、当該計測結果を情報端末で記録、分析することで、健康管理を行うことが普及しつつある。
【0003】
上記のような計測機器の一例として、日常生活において胸部の痛みや動悸などの異常発生時にすぐに心電波形を計測する携帯型の心電計測装置が提案されており、心疾患の早期発見や適切な治療への貢献が期待されている(例えば、特許文献1など)。
【0004】
特許文献1には、被験者に装着した3つの電極によって心電図を取得する携帯型生体信号用テレメータ装置において、被験者への電極の装着状態を検出し、電極装着異常の際には電極外れ信号を出力する電極異常検出回路を有する構成が開示されている。このような構成によれば、電極の装着状態に異常がある場合にはユーザーがこれを認知し、電極の装着し直しなどを行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の技術によれば、電極装着異常がある場合にはこれを報知するとともに、心電波形計測(及び波形データの外部への送信)のための回路への電力供給を遮断するようになっている。しかしながら、実際には、心電計測中においても体動などに起因して電極の電位が変動して、電極の装着異常と判定されてしまうおそれがある。また、特に肌が乾燥しやすい冬場などでは電極を皮膚に接触させていたとしても、電極が正常に装着されていないと判定されてしまうおそれもある。これでは、心電計測が途中で何度も中断する、或いはそもそも開始できないといった問題が生じ得る。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑み、精度の良い心電波形を得るとともに各電極の接触状態を検知することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る生体情報計測装置は以下の構成を採用する。即ち、
第1電極と、第2電極と、第3電極とを備え、前記第3電極の電位を基準電位として、前記第1電極及び前記第2電極の電位差に基づいて計測対象の生体情報を計測する生体情報計測装置であって、
前記第1電極の電位が非反転入力端子に入力される第1増幅器を備える第1非反転増幅回路と、
前記第1電極と前記第1非反転増幅回路との間に接続される第1プルアップ抵抗と、
前記第1非反転増幅回路を含み、前記第1非反転増幅回路からの出力信号を用いて前記第1電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力する第1接触信号出力手段と、
前記第2電極の電位が非反転入力端子に入力される第2増幅器を備える第2非反転増幅回路と、
前記第2電極と前記第2非反転増幅回路との間に接続される第2プルアップ抵抗と、
前記第2非反転増幅回路を含み、前記第2非反転増幅回路からの出力信号を用いて前記第2電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力する第2接触信号出力手段と、
前記第1非反転増幅回路により増幅されて出力される第1増幅電位、及び前記第2非反転増幅回路により増幅されて出力される第2増幅電位、の差分を増幅して前記生体情報を出力する差動増幅回路と、
前記生体情報を計測する処理を実行する制御手段と、
を有する生体情報計測装置である。
【0009】
なお、前記プルアップ抵抗の抵抗値は、例えば200MΩ以上、より望ましくは300MΩ以上とすることができる。上記のような構成により、第1電極と第2電極の電位差を増幅して出力する差動増幅器の入力前段において第1電極と第2電極の電位を示す信号が増幅されるため、S(Signal)/N(Noise)比の高い信号を用いて精度よく生体情報を計測することが可能になる。また、第1電極と第2電極と、それぞれが接続される非反転増幅回路との間にプルアップ抵抗が配置されるため、各電極の電位を示す信号のノイズを低減することができる。そして、このような信号を入力とする非反転増幅回路からの出力信号を用いて、各電極の計測対象との接触状態に係る信号を出力する構成としているため、接触検知のための回路が心電波形に影響を与える虞がなく、精度の良い心電波形の計測と電極の接触状態の検知を並行して行うことができる。
【0010】
また、前記第1接触信号出力手段は前記第1増幅電位を用いて前記第1電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力し、前記第2接触信号出力手段は前記第2増幅電位を用いて前記第2電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号を出力するのであってもよい。これとは逆に、各接触信号出力手段は、増幅率が1である信号を用いて、各電極の計測対象に対する接触状態に係る信号を出力するのであってもよい。
【0011】
また、前記生体情報計測装置は少なくとも前記生体情報の計測処理中の、前記第1電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号、及び前記第2電極の前記計測対象に対する接触状態に係る信号、を記憶する記憶手段をさらに有していてもよい。これにより、心電計測時の電極の接触状態を後から確認することができる。
【0012】
また、前記第1接触信号出力手段及び前記第2接触信号出力手段はそれぞれA(Analog)/D(Digital)変換器を備えており、前記生体情報計測装置は、前記A/D変換器から出力されるデジタル信号を用いて、前記第1電極及び前記第2電極の前記計測対象に対するそれぞれの前記接触状態を少なくとも3段階に分類する接触状態分類手段、をさらに有していてもよい。また、少なくとも前記生体情報の計測処理中の、前記分類された前記接触状態の情報を前記記憶手段に記憶するようにしてもよい。
【0013】
なお、デジタル化された信号の前記分類のための閾値は、接触抵抗と心電記録品質などに基づいてユーザーが適宜設定することができる。このような構成によれば、ユーザーはアナログ値としてではなく、接触レベルに応じて段階別に分類された接触状態を確認することができ、容易に電極の接触状態を把握することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、精度の良い心電波形を得るとともに各電極の接触状態を検知することができる生体情報計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1Aは、実施形態に係る携帯型心電計測装置の構成を示す正面図である。
図1Bは、実施形態に係る携帯型心電計測装置の構成を示す背面図である。
図1Cは、実施形態に係る携帯型心電計測装置の構成を示す左側面図である。
図1Dは、実施形態に係る携帯型心電計測装置の構成を示す右側面図である。
図1Eは、実施形態に係る携帯型心電計測装置の構成を示す平面図である。
図1Fは、実施形態に係る携帯型心電計測装置の構成を示す底面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る携帯型心電計測装置の機能構成を説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る携帯型心電計測装置の電気回路構成の一部を示す回路図である。
図4Aはプルアップ抵抗値が100MΩの際に計測された心電波形の一例、
図4Bはプルアップ抵抗値が200MΩの際に計測された心電波形の一例、
図4Cはプルアップ抵抗値が300MΩの際に計測された心電波形の一例、
図4Dはプルアップ抵抗値が400MΩの際に計測された心電波形の一例、をそれぞれ示している。また、
図5は、100MΩ、200MΩ、300MΩ、400MΩそれぞれの抵抗値で計測した心電波形について、基線の安定度に関する合否基準を満たした個数を示したグラフである。
【
図4】
図4Aは、実施形態に係る携帯型心電計測装置のプルアップ抵抗値と心電波形の関係を示す第1の図である。
図4Bは、実施形態に係る携帯型心電計測装置のプルアップ抵抗値と心電波形の関係を示す第2の図である。
図4Cは、実施形態に係る携帯型心電計測装置のプルアップ抵抗値と心電波形の関係を示す第3の図である。
図4Dは、実施形態に係る携帯型心電計測装置のプルアップ抵抗値と心電波形の関係を示す第4の図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る携帯型心電計測装置についての実験例を説明するための説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る携帯型心電計測装置が行う心電計測に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、変形例に係る携帯型心電計測装置の電気回路構成の一部を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
(心電計測装置)
図1は、本実施形態における携帯型心電計10の構成を示す図である。
図1Aは本体の正面を示す正面図であり、同様に
図1Bは背面図、
図1Cは左側面図、
図1Dは右側面図、
図1Eは平面図、
図1Fは底面図、となっている。
【0018】
携帯型心電計10の底面には、心電計測時に身体の左側に接触させる左側電極12aが設けられており、反対側面の上面側には、同様に右手人差し指の中節を接触させる第一右側電極12bと、右手人指し指の基節を接触させる第二右側電極12cが設けられている。
【0019】
心電計測時には、右手で携帯型心電計10を保持し、右手人差し指を、第一右側電極12b、第二右側電極12cに正しく接触するように携帯型心電計10の上面部に配置する。そのうえで、左側電極12aを所望の計測法に対応する位置の皮膚に接触させる。例えば、いわゆるI誘導で計測を行う場合には、左側電極12aを左手の掌に当てて接触させ、いわゆるV4誘導で計測を行う場合には、左胸部の心窩部やや左方・乳頭下方の肌に接
触させる。
【0020】
また、携帯型心電計10の左側面には各種の操作部、及びインジケータが配置されている。具体的には、電源スイッチ16、電源LED16a、BLE(Bluetooth(登録商標) Low Energy)通信ボタン17、BLE通信LED17a、メモリー残表示LED18、電池交換LED19、等を備えている。
【0021】
また、携帯型心電計10の正面には、計測状態通知LED13、解析結果通知LED14、が設けられ、携帯型心電計10の背面には、バッテリーの収容口、電池カバー15が配置されている。
【0022】
図2は、携帯型心電計10の機能構成を示すブロック図である。
図2に示すように、携帯型心電計10は制御部101、電極部12、アンプ部102、A/D変換部103、タイマ部104、記憶部105、表示部106、操作部107、電源部108、通信部109、接触検知部111、A/D変換部112の各機能部を備える構成となっている。
【0023】
制御部101は、携帯型心電計10の制御を司る手段であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)などを含んで構成される。制御部101は、操作部107を介してユーザーの操作を受け付けると、所定のプログラムに従って心電計測、情報通信など各種の処理を実行するように携帯型心電計10の各構成要素を制御する。なお、所定のプログラムは後述の記憶部105に保存され、ここから読み出される。
【0024】
また、制御部101は、機能モジュールとして、心電波形の解析を行う解析部110、接触状態分類部113を備えている。解析部110は計測された心電波形について、波形の乱れの有無などを解析し、少なくとも計測時の心電波形が正常か否かの結果をアウトプットする。また、接触状態分類部113は、接触検知部111によって検知される、左側電極12a、第一右側電極12bの接触状態のレベルを4段階に分類する。接触状態の検出及びそのレベル分類については後述する。
【0025】
電極部12は、左側電極12a、第一右側電極12b、第二右側電極12cからなり、心電波形を検出するセンサとして機能する。具体的には、第二右側電極12cをグランド(GND)電極として、その基準電位に対する左側電極12aの電位と、第一右側電極12bの電位との電位差を連続的に計測することにより、心電波形を取得する。なお、心電波形検出のための具体的な回路構成は後述する。
【0026】
アンプ部102は、後述するように電極部12から出力された心電波形を示す信号を増幅する機能を有している。A/D変換部103は、アンプ部102で増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部101へ伝送する機能を有している。
【0027】
タイマ部104はRTC(Real Time Clock)を参照して、時間を計測する機能を有している。例えば、後述するように、電極接触検知の処理を行う際、左側電極12a、第一右側電極12b、第二右側電極12cの全ての電極が身体に接触している時間をカウントする。また、心電計測時に計測終了までの時間をカウントし、これをアウトプットしてもよい。
【0028】
記憶部105は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの主記憶装置を含んで構成され、アプリケーションプログラム、計測心電波形、解析結果などの各種の情報を記憶する。また、記憶部105は、RAMやROMに加えて、例えばフラッシュメモリなどの長期記憶媒体を備えている。
【0029】
表示部106は、計測状態通知LED13、解析結果通知LED14、電源LED16a、BLE通信LED17a、メモリー残表示LED18、電池交換LED19などを含んで構成され、LEDの点灯、点滅などによって装置の状態をユーザーに伝達する。また、操作部107は、電源スイッチ16、通信ボタン17等を含み、ユーザーからの入力操作を受け付け、制御部101に操作に応じた処理を実行させるための機能を有する。
【0030】
電源部108は、装置の稼働に必要な電力を供給するバッテリーを含んで構成される。バッテリーは、例えばリチウムイオンバッテリーなどの二次電池であっても良いし、一次電池としても良い。
【0031】
通信部109は、無線通信用のアンテナを含み、少なくともBLE通信により、情報処理端末などの他の機器と通信する機能を有する。また、有線による通信のための端子を備えていても良い。
【0032】
接触検知部111は、左側電極12a及び第一右側電極12bと接続される電気回路を含んで構成され、左側電極12a及び第一右側電極12bと、計測対象の皮膚表面との接触状態を検知しその接触状態のレベルに応じた信号を出力する。A/D変換部112は、接触検知部111が出力したアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部101へ伝送する。
【0033】
(電気回路構成)
以下では、
図3に基づいて、本実施形態に係る携帯型心電計10における、接触状態検知及び心電波形計測について説明する。
図3は、携帯型心電計10の各電極を含む電気回路の概略を示す回路図である。
【0034】
図3に示すように、第二右側電極12cは基準電位GNDに接続され、グランド電極として機能する。また、第一右側電極12bは右側プルアップ抵抗911を介して電源電位V1と接続される。また、左側電極12aは左側プルアップ抵抗921を介して電源電位V1に接続される。電源電位V1は基準電位GNDよりも高電位の、充分なバイアスを確保できるような電位(例えば4Vなど)に設定されている。
【0035】
このため、電源がONの状態であり、第一右側電極12bと第二右側電極12cとが、ともに身体の皮膚に正しく接触されていると、人体のインピーダンスを経由して第一右側電極12bよりも低電位の第二右側電極12cに電流が流れ、第一右側電極12bの電位が変動する。このような電位の変動は、第一右側電極12b(及び、第二右側電極12c)と皮膚表面との接触状態に応じたものとなる。
【0036】
即ち、第一右側電極12bがしっかりと皮膚に接触しているほど電位がより低くなるため、当該電位に基づいて、第一右側電極12bと皮膚の接触状態を判定することができる。左側電極12aについても同様である。なお、
図3中において破線部で示す回路が人体のインピーダンスを経由した電流の経路を示している。
【0037】
また、右側プルアップ抵抗911及び左側プルアップ抵抗921は、検出される心電波形の精度を担保するために、十分に高い抵抗値(例えば200MΩ、望ましくは300MΩ以上)に設定される。なお、心電波形とプルアップ抵抗の値との関係は後に詳述する。
【0038】
また、
図3に示す回路には、右側非反転増幅器912、右側バッファアンプ913、左側非反転増幅器922、左側バッファアンプ923、差動増幅器94、の5つのアンプが配置されている。
【0039】
図3に示すように、右側非反転増幅器912の+入力端子に第一右側電極12bの電位が入力される。そして、第1増幅率決定抵抗931及び第3増幅率決定抵抗933によって定義される増幅率で増幅された右側増幅信号が右側非反転増幅器912の出力端子から出力され、差動増幅器94の-端子に入力される。一方、右側非反転増幅器912の+入力端子に入力されたのと同電位の信号が右側非反転増幅器912を介して右側バッファアンプ913の+入力端子に入力される。即ち、右側非反転増幅器912は通常のアンプ(信号の増幅器)としても機能するとともに、バッファ(ボルテージフォロワ)としても機能する。
【0040】
右側バッファアンプ913は、バッファとして機能し、+入力端子に入力された電位と同電位の信号が出力端子から出力される。出力された信号は右側接触状態信号915として、A/D変換部112に入力され、デジタル信号に変換されて制御部101に伝送される。即ち、本実施形態の右側バッファアンプ913は本発明に係る第1接触信号出力手段に含まれる構成である。
【0041】
また、左側非反転増幅器922の+入力端子に左側電極12aの電位が入力される。そして、第2増幅率決定抵抗932及び第3増幅率決定抵抗933によって定義される増幅率で増幅された左側増幅信号が左側非反転増幅器922の出力端子から出力され、差動増幅器94の+端子に入力される。一方、左側非反転増幅器922の+入力端子に入力されたのと同電位の信号が左側非反転増幅器922を介して左側バッファアンプ923の+入力端子に入力される。即ち、左側非反転増幅器922も、右側非反転増幅器912と同様に、通常のアンプとしても機能するとともに、バッファとしても機能する。なお、第1増幅率決定抵抗931及び第2増幅率決定抵抗932の抵抗値は同じ値に設定される。
【0042】
左側バッファアンプ923はバッファとして機能し、+入力端子に入力された電位と同電位の信号が出力端子から出力される。出力された信号は左側接触状態信号925として、A/D変換部112に入力され、デジタル信号に変換されて制御部101に伝送される。即ち、本実施形態の左側バッファアンプ923は本発明に係る第2接触信号出力手段に含まれる構成である。
【0043】
差動増幅器94は、-入力端子に入力される右側非反転増幅器912によって増幅して出力された第一右側電極12bの電位と、+入力端子に入力される左側非反転増幅器922によって増幅して出力された左側電極12aの電位と、の差分を増幅して出力する差動増幅器である。即ち、差動増幅器94はアンプ部102に含まれる構成であり、差動増幅器94から出力される信号が計測対象の心電信号である。該心電信号はさらにA/D変換部103に入力され、デジタル変換された信号が制御部101に伝送されて、制御部101により記憶部105に心電波形として記録される。
【0044】
上述のように、差動増幅器94に入力される信号は、その入力段の前に右側非反転増幅器912、左側非反転増幅器922によって既に増幅された信号であるため、信号のS/N比の高い信号を心電計測に用いることができ、電磁ノイズなどに対する耐性能向上を図ることができる。
【0045】
(プルアップ抵抗値に関する実験例)
心電計測中に体動が発生した場合、人体抵抗や電極と皮膚の接触抵抗が変化するため、各電極の電位が変動することとなる(この現象は特に肌が乾燥しやすい冬場の心電計測時に顕著に現れる)。そのためプルアップ抵抗値は、体動の影響を受けないように数百メガオームと高めに設定することが望ましい。以下に、プルアップ抵抗値に関する実験例の結果を説明する。
【0046】
本実験例に係る実験では、プルアップ抵抗値を100MΩ、200MΩ、300MΩ、400MΩとして心電計測(記録)を実施した。この結果を
図4A乃至D、及び
図5に示す。
図4Aはプルアップ抵抗値が100MΩの際に計測された心電波形の一例、
図4Bはプルアップ抵抗値が200MΩの際に計測された心電波形の一例、
図4Cはプルアップ抵抗値が300MΩの際に計測された心電波形の一例、
図4Dはプルアップ抵抗値が400MΩの際に計測された心電波形の一例、をそれぞれ示している。また、
図5は、100MΩ、200MΩ、300MΩ、400MΩそれぞれの抵抗値で計測した心電波形について、基線の安定度に関する合否基準を満たした個数を示したグラフである。
【0047】
図4A乃至Dが示すように、プルアップ抵抗値が高くなるほど、心電波形が正確に計測されることがわかる。特に、抵抗値が100MΩである場合には、心電図の基線が大きく変動している様子を読み取ることができる。一方、抵抗値を400MΩとした場合には、このような基線の変動は見られず波形が安定している様子が読み取れる。
【0048】
図5に示すグラフには、心電基線の中心となるAD値1024LSB(Least Significant Bit)に対して±500LSBの範囲に入るかどうかを合否基準とし、各26個の心電波形のうちの何個の心電波形が合格するかを示している。100MΩでは半数以下の9個の心電波形しか合格できないのに対し、200MΩ以上のプルアップ抵抗値では20個以上の心電波形が合格基準を満たしている。このことから、プルアップ抵抗値としては200MΩ以上にすることが望ましいと考えられる。さらに200MΩ、300MΩ、400MΩの場合の合格の個数に鑑みると、プルアップ抵抗値としては、300MΩ以上が、より望ましい。
【0049】
(記憶部に記憶される情報)
制御部101の機能モジュールである接触状態分類部113は、A/D変換部112でデジタル変換された右側接触状態信号915及び左側接触状態信号925を用いて、第一右側電極12b及び左側電極12aそれぞれの皮膚への接触状態のレベルを「接触良好」「接触やや悪い」「接触不良」「未接触」の4段階に分類する。当該分類が行われた接触状態のレベルは、右側接触状態信号915及び左側接触状態信号925が経時的に変動すると、当該変動を反映して接触状態を示すレベルも変動することになる。このため、分類済の接触状態のレベルを示す情報は時系列データとして記憶部105に記録される。
【0050】
なお、計測された心電波形、分類済の接触状態のレベルは、それぞれの情報が取得された時刻の情報と紐づけて記憶部105に格納される。このため、心電波形と接触状態のレベルとを同期させて利用することができ、例えば記憶された心電波形を後にディスプレイに表示するなどして確認する際には、心電波形とともにその波形が検知された際の第一右側電極12b及び左側電極12aそれぞれの接触状態のレベルを併せて確認することができる。
【0051】
また、解析部110は計測された心電波形について、波形の乱れの有無などを解析し、少なくとも計測時の心電波形が正常か否かの結果をアウトプットする。当該解析結果は解析結果通知LED14の点灯、点滅によってユーザーに報知されるとともに、記憶部105に記録される。このように記憶された情報を用いて、心電波形及び接触レベルの情報に、解析部110による解析結果の情報、及び計測時刻に係る情報も関連付けて表示できるようにすることで、よりユーザーの利便性を高めることができる。
【0052】
(携帯型心電計を用いた心電計測処理)
次に、心電計測を行う際の携帯型心電計10の動作について説明する。
図6は、携帯型心電計10を用いて心電計測を行う際の処理の手順を示すフローチャートである。
【0053】
図6を参照すると、ユーザーはまず、計測に先立ち、電源スイッチ16を操作し携帯型心電計10の電源をONにする。そうすると、電源LED16aが点灯して電源がONであることを表示する。そして、右手で携帯型心電計10を保持し、右手人差し指を、第一右側電極12b、第二右側電極12cに接触させ、計測を行う箇所の肌に、左側電極12aを接触させる。そうすると、制御部101は電極部12、接触検知部111を介して、各電極の接触状態の検知及び接触レベルの分類を開始する(S101)。
【0054】
次に、制御部101は心電計測処理を実行する(S102)。制御部101は、心電計測を行っている間は、随時計測値を記憶部105に保存するとともに、本体正面の計測状態通知LED13を所定のリズムで点滅させることにより、心電計測中であることを表示する(S103)。
【0055】
次に、制御部101は心電計測の時間が所定の計測時間(例えば30秒)を経過したか否かを判定する処理を行う(S104)。ここで、まだ所定の時間を経過していないと判断した場合には、ステップS102に戻って以降の処理を繰り返す。一方、所定の計測時間が経過したと判断した場合には、計測を終了するとともに、計測状態通知LED13の点滅を終了する処理を行う(S105)。
【0056】
次に、制御部101の解析部110により、記憶部105に保存された計測データ(心電波形)の解析が行われ(S106)、解析結果は、心電波形及び分類済の接触状態レベルと共に長期記憶媒体に保存される(S107)。そして、制御部101は、解析結果通知LED14により、解析の結果を表示して(S108)、一連の処理を終了する。なお、解析結果の表示は、例えば、心電波形に異常がみられる場合のみLEDを点灯するのであっても良いし、解析結果に応じた点灯・点滅方法によりLEDを点灯させるようにしても良い。
【0057】
以上のような構成の本実施形態に係る携帯型心電計10によれば、ユーザーは電源スイッチ16を操作した後、計測部位に電極を接触させる以外の操作をすることなく計測を開始することができる。また、第一右側電極12b及び左側電極12aの各電極とバッファ及び増幅のためのアンプとの間に(バイアス電位に接続される)プルアップ抵抗が配置されるため、各電極の電位を示す信号のノイズを低減することができる。これにより、電極接触状態の検知と心電計測を同時に行ったとしても、S/N比の高い信号で精度のよい心電波形を得ることができる。
【0058】
また、第一右側電極12b及び左側電極12aの計測対象に対する接触状態のレベルを段階別に分類して心電波形と同期して記録することができる。このため、後に心電波形をディスプレイなどに出力して確認する際には、心電波形とともにその波形が検知された際の各電極の接触状態を示すレベルを併せて確認することができる。
【0059】
<変形例>
なお、上記の実施形態の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形及び組み合わせが可能である。
【0060】
例えば、上記の実施形態に係る電気回路では、接触状態検知のために、第一右側電極12bの電位を示す信号が右側非反転増幅器912を介して右側バッファアンプ913に入力され、その後A/D変換部112に出力される構成であったが、接触状態検知のためには必ずしも右側バッファアンプ913を設ける必要はない。
【0061】
図7に、このような変形例に係る電気回路図を示す。
図7に示すように、第一右側電極12bの電位を示す信号は、右側非反転増幅器912において増幅されて出力され、当該増幅された信号が差動増幅器94の入力端子に入力されるとともに、そのまま右側接触状態信号915として出力される構成になっている。左側電極12aの接触状態の検知に係る回路についても同様である。
【0062】
なお、ここでは図示しないが、右側バッファアンプ913を省いたうえで、(
図3に示す実施形態の回路図と同様に)右側非反転増幅器912の-入力端子と同電位の信号を、そのまま右側接触状態信号915として出力するような変形例も可能である。左側電極12aの接触状態の検知に係る回路についても同様である。
【0063】
<その他>
この他、上記実施形態においては、右側接触状態信号915及び左側接触状態信号925は、A/D変換部112に出力される構成であったが、必ずしもこれに限られず、例えば接触状態を2段階で判定するためのコンパレータに対して出力されるような構成としてもよい。また、上記の実施形態では詳しく説明していないが、通信部109によるBLE通信機能によって、心電計と他の情報端末機器とを連携して活用することも可能である。逆に、通信機能やLED表示部を備えない心電計とすることも可能である。
【0064】
なお、上記では本発明を携帯型の心電計に適用したが、本発明は携帯型でない心電計にも適用可能であるし、心電計以外の生体情報計測装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
10・・・携帯型心電計
12a・・・左側電極
12b・・・第一右側電極
12c・・・第二右側電極
13・・・計測状態通知LED
14・・・解析結果通知LED
15・・・電池カバー
16・・・電源スイッチ
16a・・・電源LED
17・・・通信ボタン
17a・・・BLE通信LED
18・・・メモリー残表示LED
19・・・電池交換LED
911・・・右側プルアップ抵抗
912・・・右側非反転増幅器
913・・・右側バッファアンプ
915・・・右側接触状態信号
921・・・左側プルアップ抵抗
922・・・左側非反転増幅器
923・・・左側バッファアンプ
925・・・左側接触状態信号
931・・・第1増幅率決定抵抗
932・・・第2増幅率決定抵抗
933・・・第3増幅率決定抵抗
94・・・差動増幅器
941・・・心電信号
GND・・・基準電位
V1・・・電源電位