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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143444
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】毛髪用バーム
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/98 20060101AFI20241003BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K8/98
A61Q5/00
A61K8/9789
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056134
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】595082283
【氏名又は名称】株式会社アリミノ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西垣 祥子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA081
4C083AA082
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC421
4C083AC422
4C083BB12
4C083BB13
4C083CC32
4C083CC33
4C083DD21
4C083DD28
4C083DD30
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE28
(57)【要約】
【課題】本発明は、45℃で固形状を保つ安定性を有し、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後でも固形状を保つ安定性に優れ、20℃において指ですくい取りやすい硬さと滑らかさのある固形状の剤型を有し、かつ、整髪しやすく、毛髪に塗布した際にべたつかない毛髪用バームを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の毛髪用バームは、融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)を5質量%以上40質量%以下と、融点が65℃以上85℃以下の固形油(B)と、液状油(D)とを含み、固形油(A)の質量から固形油(B)の質量を減じた値と、固形油(A)の質量との比((A-B)/A)が、(1)固形油(A)を5質量%以上10質量%未満含む場合、0.950以上0.995以下、(2)固形油(A)を10質量%以上30質量%以下含む場合、0.750以上0.995以下、(3)固形油(A)を30質量%より多く40質量%以下含む場合、0.750以上0.900以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)を5質量%以上40質量%以下と、
融点が65℃以上85℃以下の固形油(B)と、
液状油(D)とを含み、
固形油(A)の質量から固形油(B)の質量を減じた値と、固形油(A)の質量との比((A-B)/A)が、
(1)固形油(A)を5質量%以上10質量%未満含む場合、0.950以上0.995以下、
(2)固形油(A)を10質量%以上30質量%以下含む場合、0.750以上0.995以下、
(3)固形油(A)を30質量%より多く40質量%以下含む場合、0.750以上0.900以下である、
毛髪用バーム。
【請求項2】
さらに、20℃でペースト状の油脂(C)を1質量%以上15質量%含む、請求項1に記載の毛髪用バーム。
【請求項3】
前記液状油(D)を50質量%以上94.97質量%以下含む、請求項1に記載の毛髪用バーム。
【請求項4】
前記固形油(A)が、ミツロウ、モクロウ、合成モクロウ、水添パーム油、およびウルシ果皮ロウからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の毛髪用バーム。
【請求項5】
前記固形油(B)が、カルナバロウ、ヒマワリ種子ロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、およびサトウキビロウからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の毛髪用バーム。
【請求項6】
前記油脂(C)が、シアバター、(マカデミア種子油/水添マカデミア種子油)エステルズ、(ヒマワリ種子油/水添ヒマワリ種子油)エステルズ、および(ユチャ種子油/水添ユチャ種子油)エステルズからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の毛髪用バーム。
【請求項7】
前記液状油(D)が、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル/ホホバ種子油エステルズ、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、エチルヘキサン酸セチル、炭酸ジカプリリル、シクロメチコン、オリーブ油、マカダミアナッツ油、アーモンド油、植物性スクワラン、スクワラン、ドデカン、およびイソドデカンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の毛髪用バーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪用バームに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バームと呼ばれる毛髪のスタイリングや毛髪をケアするための固形状毛髪化粧料が開発されている(特許文献1)。バームは、ミツロウやシアバターなどの天然油脂を含むことが多いため、自然素材を好む消費者から人気が高い。
【0003】
天然油脂を含むバームは、熱に安定な品質とするために、硬い固形状の剤型が主流である。しかしながら、硬い固形状のバームは、使用時に指でなめらかにすくい取ることが難しいという問題があった。また、硬い固形状のバームは、手のひらおよび毛髪での伸びが悪く、毛髪に均一に塗布しにくいという問題があった。
【0004】
先行技術としては、例えば、(A)融点が70℃以上の植物性ロウ類、(B)融点が30℃以上60℃未満のダイマー酸のエステルおよび融点が30℃以上60℃未満の脂肪酸硬化ヒマシ油から選択される一種以上、および(C)脂肪酸と多価アルコールとをエステル化して得られる25℃で液状のエステル油を含有する油性固形化粧料が挙げられる(特許文献2)。特許文献2には、剤を人差し指ですくい取るときの取りやすさを改善した油性固形化粧料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-50612号公報
【特許文献2】特開2020-40917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された油性固形化粧料は、剤の取りやすさは改善されているものの、剤の安定性が充分ではなく、夏場の保管時に剤の表面に油浮きが起こる問題があった。つまり、特許文献2の技術は、高温下でも固形状の剤型を保持できる安定性と、指でのすくい取りやすさとを両立できていなかった。
【0007】
バームは、夏場の40℃以上となる高温下で保管されることが想定されるため、45℃程度の高温下で長期間安定性を有することが望ましい。また、バームを保管する際に想定される温度変化において、固形状を保つ安定性を有することも求められている。
【0008】
このようなことから、本発明は、45℃で固形状を保つ安定性を有し、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後でも固形状を保つ安定性に優れ、20℃において指ですくい取りやすい硬さと滑らかさのある固形状の剤型を有し、かつ、整髪しやすく、毛髪に塗布した際にべたつかない毛髪用バームを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有する毛髪用バームは上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の[1]~[7]である。
【0010】
[1]融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)を5質量%以上40質量%以下と、融点が65℃以上85℃以下の固形油(B)と、液状油(D)とを含み、固形油(A)の質量から固形油(B)の質量を減じた値と、固形油(A)の質量との比((A-B)/A)が、(1)固形油(A)を5質量%以上10質量%未満含む場合、0.950以上0.995以下、(2)固形油(A)を10質量%以上30質量%以下含む場合、0.750以上0.995以下、(3)固形油(A)を30質量%より多く40質量%以下含む場合、0.750以上0.900以下である、毛髪用バーム。
【0011】
[2]さらに、20℃でペースト状の油脂(C)を1質量%以上15質量%含む、[1]に記載の毛髪用バーム。
【0012】
[3]前記液状油(D)を50質量%以上94.97質量%以下含む、[1]または[2]に記載の毛髪用バーム。
【0013】
[4]前記固形油(A)が、ミツロウ、モクロウ、合成モクロウ、水添パーム油、およびウルシ果皮ロウからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の毛髪用バーム。
【0014】
[5]前記固形油(B)が、カルナバロウ、ヒマワリ種子ロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、およびサトウキビロウからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載の毛髪用バーム。
【0015】
[6]前記油脂(C)が、シアバター、(マカデミア種子油/水添マカデミア種子油)エステルズ、(ヒマワリ種子油/水添ヒマワリ種子油)エステルズ、および(ユチャ種子油/水添ユチャ種子油)エステルズからなる群より選択される少なくとも1種である、[2]に記載の毛髪用バーム。
【0016】
[7]前記液状油(D)が、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル/ホホバ種子油エステルズ、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、エチルヘキサン酸セチル、炭酸ジカプリリル、シクロメチコン、オリーブ油、マカダミアナッツ油、アーモンド油、植物性スクワラン、スクワラン、ドデカン、およびイソドデカンからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[6]のいずれかに記載の毛髪用バーム。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、45℃で固形状を保つ安定性を有し、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後でも固形状を保つ安定性に優れ、20℃において指ですくい取りやすい硬さと滑らかさのある固形状の剤型を有し、かつ、整髪しやすく、毛髪に塗布した際にべたつかない毛髪用バームを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の毛髪用バームについて具体的に説明する。
本発明において、各成分の含有量は毛髪用バームを100質量%とした場合の含有量を示しており、純分換算した値である。
【0019】
本発明において、常温とは、15℃以上25℃以下を指す。
本発明において、融点とは、各成分の融点の中間値を意味する。固形油は融点に幅があることから、各成分の融点の中間値を融点とした。例えば、ミツロウの融点は60℃以上67℃であるため、中間値は63.5℃である。本発明において、ミツロウの融点は63.5℃として取り扱うこととした。
【0020】
本発明において、固形状とは、常温下の静止状態で自らの空間形状を維持でき、完全に固化して流動性を示さない状態を指す。また、固形状には、ペースト状のものは含まれない。例えば、ワセリンは常温下でペースト状のため、固形状には含まれない。
【0021】
<毛髪用バーム>
本発明の毛髪用バームとは、毛髪に用いる油性固形化粧料の一種のことを指し、剤型が常温で固形状のものを指す。
【0022】
本発明の毛髪用バームは、実質的に水を含まないことが好ましい。
本発明の毛髪用バームは、融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)を5質量%以上40質量%以下と、融点が65℃以上85℃以下の固形油(B)と、液状油(D)とを含み、固形油(A)の質量から固形油(B)の質量を減じた値と、固形油(A)の質量との比((A-B)/A)が、(1)固形油(A)を5質量%以上10質量%未満含む場合、0.950以上0.995以下、(2)固形油(A)を10質量%以上30質量%以下含む場合、0.750以上0.995以下、(3)固形油(A)を30質量%より多く40質量%以下含む場合、0.750以上0.900以下である。
【0023】
本発明の毛髪用バームは、さらに、20℃でペースト状の油脂(C)を1質量%以上15質量%以下含むことが好ましい。
本発明者は、45℃で固形状を保つ安定性と、20℃において指ですくい取りやすい滑らかさのある固形状の剤型とを両立させる検討を行い、融点の異なる固形油を組み合わせ、それらが特定の質量比であれば、両立できることを見出した。
【0024】
従来では、毛髪に適用する油性固形化粧料の技術分野において、融点が高い固形油は、例えば、「融点が60℃以上のロウ類および水素添加植物油」、「融点が70℃以上の植物性ロウ類」と表現され、まとめて検討されてきた(特開2021-130632号公報、特開2020-40917号公報等)。
【0025】
しかしながら、本発明は、新たに、常温で固形の固形油の中でも、融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)と、融点が65℃以上85℃以下の固形油とに分け、固形油(A)の質量から前記固形油(B)の質量を減じた値と、固形油(A)の質量との比((A-B)/A)が特定の値である場合に、45℃で固形状を保つ安定性と、20℃において指ですくい取りやすい硬さおよび滑らかさとを両立できることを見出した。
【0026】
本発明の構成を有する場合に、45℃で固形状を保つ安定性と、20℃において指ですくい取りやすい硬さおよび滑らかさとを両立でき、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後でも固形状を保つ安定性に優れる理由は不明であるが、本発明者は以下のように推測している。
【0027】
成分ごとに固有の結晶構造を有する固形油では、固形油が1種の場合には単一な結晶構造となるため、剤が硬くなりすぎてしまう。しかし、固形油(A)、固形油(B)、および液状油(D)の特定成分を特定量混合することで、固形油の単一な結晶構造が崩れて、剤に柔らかさが出たと考えられる。
【0028】
また、本発明の毛髪用バームが、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後でも固形状を保つ安定性に優れるのは、特に、固形油(A)、固形油(B)という、特定の融点で分類した異なる固形油の混合比が関連していると考えられる。
本発明者は、固形油(A)および固形油(B)を絶妙なバランスで特定比で混合することにより、これまでにない、毛髪用バームの物性を見出した。
【0029】
<融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)>
本発明において、融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)を、単に、固形油(A)とも記す。
【0030】
本発明の毛髪用バームは、融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)を5質量%以上40質量%以下含み、10質量%以上30質量%以下含むことが好ましく、15質量%以上25質量%以下含むことがより好ましく、20質量%以上25質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0031】
本発明の毛髪用バームは、固形油の中でも、融点が50℃以上65℃未満の固形油(A)を上記の量含むことによって、常温で固形状を保ちつつ、剤を指で取る際の柔らかさを付与することができる。また、45℃で固形状を保つ安定性を付与することができる。
【0032】
固形油(A)が、5質量%より少ないと、45℃で固形状を保ちにくい傾向がある。また、固形油(A)が、40質量%より多いと、常温での柔らかさが悪化してしまい、指ですくい取りにくくなる傾向がある。
【0033】
固形油(A)が、20質量%以上25質量%以下であると、指ですくい取りやすい剤の柔らかさと、45℃で固形状を保つ安定性との両立に特に優れ、使用感およびセット力も良好であるため、特に好ましい。
【0034】
固形油(A)として、具体的には、ミツロウ(融点63.5℃)、モクロウ(融点51.5℃)、合成モクロウ(融点50℃)、水添パーム油(融点59℃)、ウルシ果皮ロウ(融点50℃)が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、固形油(A)が、ミツロウ、モクロウ、合成モクロウ、水添パーム油、およびウルシ果皮ロウからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ミツロウ、およびウルシ果皮ロウがより好ましく、指ですくい取りやすい剤の柔らかさと45℃で固形状を保つ安定性との両立に特に優れ、セット力にも優れるため、ミツロウがさらに好ましい。
【0036】
ミツロウとしては、例えば、ミツバチの巣から得たロウを精製したミツロウ、漂白したサラシミツロウが挙げられる。
モクロウとしては、例えば、ハゼノキ(学名:Rhus succedanea)の実、幹から得られるモクロウが挙げられる。
【0037】
合成モクロウは、合成ワックスであり、例えば、モクロウの化学的組成と物理的性質に類似させたものが挙げられる。なお、モクロウと合成モクロウとは、区別できるものである。
【0038】
ウルシ果皮ロウとしては、例えば、ウルシの果皮から得たロウを精製したウルシ果皮ロウ、水添ウルシ果皮ロウが挙げられる。
固形油(A)は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
<融点が65℃以上85℃以下の固形油(B)>
本発明において、融点が65℃以上85℃以下の固形油(B)を、単に、固形油(B)とも記す。なお、固形油(B)には、固形油(A)に該当する成分は含まれない。
【0040】
本発明において、固形油(A)の質量から固形油(B)の質量を減じた値と、固形油(A)の質量との比((A-B)/A)を、単に、質量比((A-B)/A)とも記す。
本発明の毛髪用バームは、固形油(B)を含み、質量比((A-B)/A)が、(1)上述した固形油(A)を5質量%以上10質量%未満含む場合、0.950以上0.995以下、(2)上述した固形油(A)を10質量%以上30質量%以下含む場合、0.750以上0.995以下、(3)上述した固形油(A)を30質量%より多く40質量%以下含む場合、0.750以上0.900以下である。
【0041】
本発明の毛髪用バームは、固形油(A)を10質量%以上15質量%未満含む場合、質量比((A-B)/A)が0.950以上0.995以下が好ましい。
本発明の毛髪用バームは、固形油(A)を15質量%以上20質量%未満含む場合、質量比((A-B)/A)が0.900以上0.990以下が好ましく、0.950以上0.980以下がより好ましい。
【0042】
本発明の毛髪用バームは、固形油(A)を20質量%以上25質量%未満含む場合、質量比((A-B)/A)が0.800以上0.980以下が好ましく、0.850以上0.970以下がより好ましい。
【0043】
本発明の毛髪用バームは、固形油(A)を25質量%以上30質量%以下含む場合、質量比((A-B)/A)が0.770以上0.950以下が好ましい。
本発明の毛髪用バームは、固形油(A)を特定量含む場合、質量比((A-B)/A)が上記規定値であると、45℃で固形状を保つ安定性を付与することができ、常温において指ですくい取りやすさに特に優れるため好ましい。
【0044】
質量比((A-B)/A)が、上記規定値より小さい、または大きいと、45℃で固形状を保つ安定性に劣る傾向がある。また、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後に固形状を保つ安定性が劣る傾向がある。
【0045】
固形油(B)の配合量は、固形油(A)の配合量により調整されるが、本発明の毛髪用バームは、固形油(B)を好ましくは0.05質量%以上6.90質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上4.0質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以上3.0質量%以下含む。
【0046】
固形油(B)として、具体的には、カルナバロウ(融点83℃)、ヒマワリ種子ロウ(融点77℃)、キャンデリラロウ(融点70℃)、コメヌカロウ(融点76.5℃)、サトウキビロウ(融点75℃)が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、固形油(B)が、カルナバロウ、ヒマワリ種子ロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウ、およびサトウキビロウからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、指ですくい取りやすい剤の柔らかさの付与に特に優れる観点から、キャンデリラロウがより好ましい。
固形油(B)は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
<液状油(D)>
本発明において、液状油とは、20℃で液状であり、流動性のある油剤を指す。
本発明の毛髪用バームは、液状油(D)を含み、液状油(D)を50質量%以上94.97質量%以下含むことが好ましい。
本発明の毛髪用バームは、液状油(D)を含むことにより、剤の伸びの良さを付与することができるため好ましい。
【0049】
液状油(D)として、具体的には、植物油脂類、液状エステル油類、エーテル類、炭化水素類、シリコーン油類などが挙げられる。例えば、植物油脂類としては、マカデミアナッツ油、ホホバ種子油、オリーブ油、ローズヒップ油、アボカド油、パーシック油、アーモンド油、コーン油、ヒマワリ種子油、ハイブリッドヒマワリ油、ヘーゼルナッツ油、ヤシ油等が挙げられ、液状エステル油類としては、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル/ホホバ種子油エステルズ、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸ブチル、2-エチルヘキサン酸アルキル(例えば、2-エチルヘキサン酸セチル、エチルヘキサン酸アルキル(C14-18))、セバシン酸ジエチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ミリスチン酸2-ヘキシルデシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ポリプロピレングリコール-3ベンジルエーテル(ミリスチン酸PPG-3ベンジルエーテル)、パルミチン酸イソステアリル、ステアリン酸2-エチルヘキシル、イソステアリン酸フィトステリル等が挙げられ、エーテル類としては、グリセリンモノセチルエーテル、モノオレイルグリセリルエーテル等のアルキルグリセリルエーテル、炭酸ジカプリリル等が挙げられ、炭化水素類としては、ドデカン、イソドデカン、植物性スクワラン、スクワラン、流動パラフィン等が挙げられ、シリコーン油類としては、シクロメチコンが挙げられる。
【0050】
これらの中でも、液状油(D)が、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル/ホホバ種子油エステルズ、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、エチルヘキサン酸セチル、炭酸ジカプリリル、シクロメチコン、オリーブ油、マカダミアナッツ油、アーモンド油、植物性スクワラン、スクワラン、ドデカン、およびイソドデカンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、固形油(A)および固形油(B)が付与するセット力を低下させることなく、伸びの良さを付与できる観点から、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルがより好ましい。
液状油(D)は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
<20℃でペースト状の油脂(C)>
本発明において、20℃でペースト状の油脂(C)を、単に、油脂(C)とも記す。
本発明において、20℃でペースト状の油脂とは、一定の体積を有するもとで、20℃において形状を自在に変えてその変えた形状を保持することができる状態の油脂を指す。
油脂(C)は、融点が35℃以上70℃未満であることが好ましい。
【0052】
なお、油脂(C)には、固形油(A)または固形油(B)に該当する成分は含まない。
本発明の毛髪用バームは、20℃でペースト状の油脂(C)を1質量%以上15質量%以下含むことが好ましく、2質量%以上12質量%以下含むことがより好ましく、3質量%以上10質量%以下含むことがさらに好ましい。
【0053】
本発明の毛髪用バームは、任意で、20℃でペースト状の油脂(C)を上記の量含むことにより、剤を指で取る際の柔らかさと、45℃で固形状を保つ安定性との両立を損なわずに、さらに毛髪に束感やツヤを付与する効果に優れるため好ましい。
【0054】
油脂(C)として、具体的には、シアバター、テオブロマグランジフロルム種子油、カカオ脂、マンゴー種子脂、ホホバ脂等の植物油脂;(マカデミア種子油/水添マカデミア種子油)エステルズ、(ヒマワリ種子油/水添ヒマワリ種子油)エステルズ、(ユチャ種子油/水添ユチャ種子油)エステルズ、(マカデミア種子油/水添マカデミア種子油)エステルズ等のエステル;ワセリン、ラノリン脂肪酸オクチルドデシル、ビスPEG-18メチルエーテルジメチルシランが挙げられる。
【0055】
これらの中でも、剤を指ですくい取りやすい滑らかさ、手での伸ばしやすさに優れ、45℃で固形状を保つ安定性にも優れるという観点から、油脂(C)が、シアバター、(マカデミア種子油/水添マカデミア種子油)エステルズ、(ヒマワリ種子油/水添ヒマワリ種子油)エステルズ、および(ユチャ種子油/水添ユチャ種子油)エステルズからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後でも固形状を保つ安定性に特に優れることから、(マカデミア種子油/水添マカデミア種子油)エステルズがより好ましい。
油脂(C)は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0056】
<その他成分>
本発明の毛髪用バームは、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外に、増粘剤、金属封鎖剤、保湿剤、生薬類、pH調整剤、キレート剤、防腐剤、酸化防止剤、清涼剤、ビタミン類、タンパク質、香料、抗菌剤、および色素等の添加剤を含有することができる。
【0057】
本発明の毛髪用バームは、45℃で固形状を保つ安定性を付与し、毛髪に束感やツヤを付与する観点から、実質的に水を含まないことが好ましい。実質的に水を含まないとは、各成分の不純物として存在する水や、本発明の毛髪用バームを製造する際に大気中から混入する水については、毛髪用バームに含まれていてもよいが、通常水を意図的に添加しないことを意味する。
本発明の毛髪用バームは、水の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0058】
<毛髪用バームの製造等>
本発明の毛髪用バームは、上述した各成分を上述の量で使用する以外は、例えば公知の方法で、撹拌、混合、加熱、溶解、分散等することによって製造することができ、製造方法は特に限定されない。製造方法としては各成分を均一に混合するために、好ましくは加熱条件下、例えば65℃以上85℃以下の加熱条件下で、撹拌、混合し、容器に充填した後、常温に冷却して本発明の毛髪用バームを製造することが好ましい。
【0059】
〔剤型〕
本発明の毛髪用バームの剤型は、20℃において固形状である。
本発明の毛髪用バームは、非水系であることが好ましい。非水系とは、実質的に水を含まない油性の剤を指す。
【0060】
本発明の毛髪用バームは、40℃での針入度が30以上60未満が好ましく、40以上60未満がより好ましい。
40℃での針入度が30以上60未満であると、試料が20℃である場合に、剤を指の腹ですくい取りやすい傾向があるため好ましい。
【0061】
40℃での針入度が40以上60未満であると、試料が20℃である場合に、剤が指の腹でとてもすくい取りやすく、丁度よい傾向があるためより好ましい。
40℃での試料の針入度が30以上40未満であると、試料が20℃である場合に、剤がやや硬い傾向がある。
針入度は、例えば、日本油脂工業株式会社製「PENETRO METER」TESTER TYPE201等で測定することができる。
【0062】
<用途>
本発明の毛髪用バームは、毛髪に塗布して使用することができる。
本発明の毛髪用バームは、洗髪後の水分等が付着していない乾いた状態の毛髪、および、セミドライの毛髪に塗布して使用することが好ましい。
【実施例0063】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0064】
〔実施例1~48、比較例1~20〕
実施例および比較例では、表1に記載の市販品を使用した。
【0065】
【表1】
【0066】
表2~5の処方の数値は、毛髪用バーム全体を100質量%とした場合の、各成分の質量%を表しており、純分換算した値を示す。
表2~5に示す処方で各成分を混合することにより毛髪用バームを製造し、試料として以下の方法で評価した。評価に使用した毛束は、約30cm、10gの人毛(製品名BS-B3A、ビューラックス社製)であった。
【0067】
〔評価方法:官能評価〕
室温(20℃)の条件下で、専門パネラー(美容師)10名が1人ずつ、(1)~(4)の各項目に記載した評価項目および評価基準に従って官能評価を行った。
各項目につき10名の評価点の平均を算出し、以下のとおり評価した。
◎:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が3.5点以上である。
○:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が2.5点以上3.5点未満である。
△:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が1.5点以上2.5点未満である。
×:10人の専門パネラー(美容師)の評価点の平均点が1.5点未満である。
【0068】
(1)剤の取りやすさ
試料を円筒形のPET容器(直径4cm、高さ2.5cm)に20g充填し、20℃で保存した。保存した試料を指で1g程度すくい取る際に、指の腹ですくい取りやすいかどうかを触感で評価した。
4点:試料にスムーズに指が入り、試料が滑らかでとてもすくい取りやすい。
3点:試料がやや硬い、または、やや柔らかいが、すくい取れる。
2点:試料が硬くて指が入りにくい、または、試料に指を入れた際にボロッと崩れてすくい取りにくい。
1点:試料が硬すぎて指が入らず、すくい取れない。
【0069】
(2)剤の伸び
試料1gを手に取り、手のひらで伸ばし広げる際の伸びやすさについて、触感で評価した。
4点:非常に滑らかで伸びが良い。
3点:伸びが良い。
2点:やや伸びが悪い。
1点:非常に伸びが悪く、広がりにくい。
【0070】
(3)塗布時の均一塗布性
試料0.5gを手に取り、手に取った試料を毛束に均一に塗布しやすいかどうかについて、触感で評価した。
4点:毛先から根元まで非常に均一に塗布しやすい。
3点:毛先から根元まで均一に塗布しやすい。
2点:毛先から根元までやや均一に塗布しにくい。
1点:毛先から根元まで非常に均一に塗布しにくい。
【0071】
(4)べたつきの無さ
試料0.5gを毛束に塗布した後、試料が塗布された毛束を指で触った際の、べたつきと油の手移りとを触感で評価した。
4点:毛髪表面が全くべたつかず、毛束を触った際に油の手移りが全く気にならない。
3点:毛髪表面がべたつかず、毛束を触った際に油の手移りがあまり気にならない。
2点:毛髪表面がややべたついて、毛束を触った際に油の手移りがやや気になる。
1点:毛髪表面が非常にべたついて、毛束を触った際に油が手移りする。
【0072】
〔評価方法:物性評価〕
後述する(5)~(7)の各項目に記載した評価項目および評価基準に従って物性評価を行った。
【0073】
〔評価項目および評価基準〕
(5)針入度
試料をPET素材の50mL透明容器に40g充填し、日本油脂工業株式会社製「PENETRO METER」TESTER TYPE201を用いて、40℃での試料の針入度(硬さ)を測定した。得られた値を以下のように評価した。
◎:針入度40以上60未満
○:針入度30以上40未満、または、針入度60以上70未満
△:針入度20以上30未満、または、針入度70以上80未満
×:針入度20未満、または、針入度80以上
【0074】
(6)高温安定性
試料を円筒形のPET容器(直径4cm、高さ2.5cm)に20g充填し、室温(20℃)で24時間静置した後、45℃の恒温槽に30日間保管した後、剤の外観を目視で評価した。
◎:試験前後で剤の外観に変化が無く、固形状を保ち安定している。
○:剤の表面にごくわずかに油滴が生じているが、固形状を保っている。
△:剤が溶けて粘性のある状態になっており、容器を傾けると剤がゆっくり流動する。
×:剤が溶けて粘性のない液体状になっている。
【0075】
(7)温度サイクル安定性
試料を円筒形のPET容器(直径4cm、高さ2.5cm)に20g充填し、室温(20℃)で24時間静置した。その後、試料を45℃で12時間保管し、次いで、直ちにマイナス5℃で12時間保管した。この温度差がある保管を1サイクルとして、14サイクル行った。14サイクル終了時に、試料をマイナス5℃から取り出し、直ちに、剤の外観を観察し、目視で評価した。
◎:試験前後で剤の外観に変化が無く、固形状を保ち安定している。
〇:剤の表面にごくわずかに油滴が生じている。剤を20℃に戻すと油滴が消え、均一な状態に見える。
△:剤の表面に油滴が生じている。剤を20℃に戻しても油滴が消えない。
×:剤全体が溶けている。剤を20℃に戻すと、剤全体が不均一に見える。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
実施例1~48で製造した毛髪用バームは、いずれも(1)~(7)の全評価項目において良好な結果となった。また、実施例33~40は、特に良好な結果となった。
本発明の毛髪用バームは、45℃で固形状を保つ安定性を有し、45℃およびマイナス5℃の温度変化にさらされた後でも固形状を保つ安定性に優れ、20℃において指ですくい取りやすい硬さと滑らかさのある固形状の剤型を有し、かつ、整髪しやすく、毛髪に塗布した際にべたつかないことがわかる。
【0081】
比較例1で製造した毛髪用バームは、固形油(A)の配合量が少ないため、45℃で固形状を保てず、温度変化にさらされた後の安定性も悪かった。
比較例2で製造した毛髪用バームは、固形油(A)の配合量が多いため、剤が硬すぎて、取りやすさ、伸び、均一塗布性が悪く、べたつきも生じていた。
【0082】
比較例3~6で製造した毛髪用バームは、(1)固形油(A)を5質量%以上10質量%未満含む場合に該当する。質量比((A-B)/A)が0.950以上0.995以下の範囲内ではないため、45℃で固形状を保てず、温度変化にさらされた後の安定性も悪かった。
【0083】
比較例7~10で製造した毛髪用バームは、(3)固形油(A)を30質量%より多く40質量%以下含む場合に該当する。質量比((A-B)/A)が0.750以上0.900以下の範囲内ではないため、剤が取りにくく、べたつきもあった。
【0084】
比較例11で製造した毛髪用バームは、固形油(A)の配合量が少ないため、45℃で固形状を保てず、温度変化にさらされた後の安定性も悪かった。
比較例12で製造した毛髪用バームは、固形油(A)の配合量が多いため、剤が硬すぎて、取りやすさ、伸び、均一塗布性が悪く、べたつきも生じていた。
【0085】
比較例13~16で製造した毛髪用バームは、(1)固形油(A)を5質量%以上10質量%未満含む場合に該当する。質量比((A-B)/A)が0.950以上0.995以下の範囲内ではないため、45℃で固形状を保てず、温度変化にさらされた後の安定性も悪かった。
【0086】
比較例17~20で製造した毛髪用バームは、(3)固形油(A)を30質量%より多く40質量%以下含む場合に該当する。質量比((A-B)/A)が0.750以上0.900以下の範囲内ではないため、剤が取りにくく、べたつきもあった。