(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143453
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】粉体材料、および粉体材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20241003BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B21/072 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056145
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
(57)【要約】
【課題】窒化物セラミックス表面への酸化物セラミックスの付着による改質効果、典型的には官能基の付与に代表される表面改質効果を得た粉体材料の提供を目的とする。
【解決手段】ここで開示される粉体材料は、窒化物セラミックスと、上記窒化物セラミックスの表面に付着した金属または半金属の酸化物セラミックスと、を含む粉体材料であって、上記粉体材料中の上記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、上記粉体材料のα
s法に基づく比表面積の比R
αが1.2以上であることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物セラミックスと、前記窒化物セラミックスの表面に付着した金属または半金属の酸化物セラミックスと、を含む粉体材料であって、
前記粉体材料中の前記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、前記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.2以上である、
粉体材料。
【請求項2】
前記粉体材料中の前記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、前記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.4以上である、
請求項1に記載の粉体材料。
【請求項3】
水と非極性溶媒の分離相と前記粉体材料とを攪拌したとき、前記粉体材料の70wt%以上が水相に存在する、請求項1に記載の粉体材料。
【請求項4】
前記酸化物セラミックスは、細孔を有し、
前記酸化物セラミックスの付着による前記粉体材料の比表面積増加に対する前記細孔の寄与率を以下の式:
粉体材料の比表面積増加に対する細孔の寄与率(%)=(粉体材料の単位質量当たりの細孔表面積)/(粉体材料のαs比表面積-粉体材料中の窒化物セラミックスのBET比表面積)×100
に基づいて算出した時、前記酸化物セラミックスの付着による前記粉体材料の比表面積増加に対する前記細孔の寄与率が20%以上である、
請求項2または3に記載の粉体材料。
【請求項5】
前記窒化物セラミックスが、窒化アルミニウムおよび窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、
請求項2または3に記載の粉体材料。
【請求項6】
前記酸化物セラミックスが、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、イットリア、酸化鉄、酸化亜鉛およびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、
請求項2または3に記載の粉体材料。
【請求項7】
前記酸化物セラミックスが、アモルファスアルミナ、γ-アルミナ、アモルファスシリカおよびアモルファスジルコニアからなる群から選ばれる混合物または複合酸化物を含む、
請求項2または3に記載の粉体材料。
【請求項8】
樹脂材料のフィラーである、
請求項2または3に記載の粉体材料。
【請求項9】
窒化物セラミックスと、前記窒化物セラミックスの表面に付着した金属または半金属の酸化物セラミックスとを含む粉体材料の製造方法であって、
前記酸化物セラミックスの原料となる金属または半金属を含むレジネートを、前記窒化物セラミックスに付着させる工程と、
前記レジネートを分解する工程と、を含み、
前記粉体材料中の前記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、前記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.4以上である、
粉体材料の製造方法。
【請求項10】
前記分解工程において、800℃以下で熱処理を行う、
請求項9に記載の粉体材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粉体材料および粉体材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを効率的に利用するために、電力用半導体素子(いわゆるパワーデバイス)が不可欠な存在となっている。また、省電力、高寿命の高輝度・パワーLEDランプ等に用いられる照明用半導体素子(いわゆるハイパワーLEDデバイス)の需要も高まっている。一般に、パワーデバイスの高密度化に伴い、パワーデバイスの発熱量が増大する。かかる発熱を放熱するための無機材料として、熱伝導性に優れた窒化物セラミックスが知られる。
【0003】
窒化物セラミックスは、表面官能基が少なく樹脂等との親和性(濡れ性)が低いため、たとえば、樹脂への分散性が良好でない。かかる問題の対応策として、窒化物セラミックスの表面に水酸基の多い酸化物セラミックスを被覆することが考えられる。上記技術に関連して、特許文献1には、金属窒化物粒子(窒化物セラミックス粒子)の表面にシリカ粒子(酸化物セラミックス粒子)を焼結させたものを直接結合し、概ね隙間なく被覆した、シリカ被覆金属窒化物粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、窒化物セラミックスに対し、シリカ粒子を直接結合させ、被覆している。このため、特許文献1に開示された技術で用いることができる酸化物セラミックスは、窒化物セラミックスと直接結合する材料に限られる。また、本発明者の検討によれば、窒化物セラミックスと酸化物セラミックスの親和性が低い組み合わせに上記技術を採用した場合、窒化物セラミックスと酸化物セラミックスとの濡れが悪いため、酸化物セラミックスが窒化物セラミックス上に付着した状態を保てず、表面改質効果がうまく得られないことが分かった。
【0006】
ここに開示される技術は、かかる点に鑑みて創出されたものであり、窒化物セラミックス表面への酸化物セラミックスの付着による改質効果、典型的には官能基の付与に代表される表面改質効果を得た粉体材料の提供を目的とする。また、他の側面として、該粉体材料の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される粉体材料は、窒化物セラミックスと、上記窒化物セラミックスの表面に付着した金属または半金属の酸化物セラミックスと、を含む粉体材料であって、上記粉体材料中の上記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、上記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rα(以下、単に「Rα」ともいう。)が1.2以上であることを特徴とする。
【0008】
上記粉体材料では、Rαが1.2以上であることにより、窒化物セラミックスの表面に酸化物セラミックスが微粒子の状態で存在している。かかる構成によれば、窒化物セラミックスと窒化物セラミックス表面に付着した酸化物セラミックスの界面(接触面)が小さくなる。従って、酸化物セラミックスと窒化物セラミックスの親和性(典型的には濡れ)が悪い場合であっても、酸化物セラミックスが窒化物セラミックス上に付着した状態が保たれる。これにより、酸化物セラミックスと窒化物セラミックスの親和性に影響されず、窒化物セラミックス表面が改質され、樹脂との親和性(濡れ性)向上をもたらした粉体材料を提供することができる。
【0009】
ここに開示される粉体材料の好ましい一態様では、上記粉体材料中の上記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、上記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.4以上である。かかる構成によれば、より好適に酸化物セラミックスが微粒子の状態で存在するため、より好適に窒化物セラミックス表面が改質される。
【0010】
ここに開示される粉体材料の好ましい一態様では、水と非極性溶媒の分離相と上記粉体材料とを攪拌したとき、上記粉体材料の70wt%以上が水相に存在する。かかる構成によれば、窒化物セラミックスの表面に好適に酸化物セラミックスが付着されているため、好適に窒化物セラミックスの表面の官能基を増加することができる。
【0011】
ここに開示される粉体材料の好ましい一態様では、上記酸化物セラミックスは、細孔を有し、上記酸化物セラミックスの付着による上記粉体材料の比表面積増加に対する上記細孔の寄与率を以下の式:粉体材料の比表面積増加に対する細孔の寄与率(%)=(粉体材料の単位質量当たりの細孔表面積)/(粉体材料のαs比表面積-粉体材料中の窒化物セラミックスのBET比表面積)×100に基づいて算出した時、上記酸化物セラミックスの付着による上記粉体材料の比表面積増加に対する上記細孔の寄与率が20%以上である。これにより、酸化物セラミックス付着部分における官能基の濃度を大きくすることができる。
【0012】
ここに開示される粉体材料の好ましい一態様では、上記窒化物セラミックスが、窒化アルミニウムおよび窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。かかる構成によれば、好適に酸化セラミックスを付着するため、表面官能基増加効果が好適に発現した粉体材料の提供が可能となる。
【0013】
ここに開示される粉体材料の好ましい一態様では、上記酸化物セラミックスが、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、イットリア、酸化鉄、酸化亜鉛およびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。また、ここに開示される粉体材料の好ましい一態様では、上記酸化物セラミックスが、アモルファスアルミナ、γ-アルミナ、アモルファスシリカおよびアモルファスジルコニアからなる群から選ばれる混合物または複合酸化物を含む。かかる構成によれば、表面に好適に官能基が導入されるため、表面官能基増加効果が好適に発現した粉体材料の提供が可能となる。
【0014】
ここに開示される粉体材料は、粉体材料表面の官能基が多いため、樹脂との分散性が良好である。したがって、ここに開示される粉体材料は、樹脂との分散性が良好な樹脂材料のフィラーとして好適に用いることができる。
【0015】
ここに開示される技術の他の側面として、粉体材料の製造方法が提供される。ここに開示される粉体材料の製造方法は、窒化物セラミックスと、上記窒化物セラミックスの表面に付着した金属または半金属の酸化物セラミックスとを含む粉体材料の製造方法であって、上記酸化物セラミックスの原料となる金属または半金属を含むレジネートを、上記窒化物セラミックスに付着させる工程と、上記レジネートを分解する工程と、を含み、上記粉体材料中の上記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、上記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.2以上である。かかる構成によれば、酸化物セラミックスによって窒化物セラミックス表面が改質され、樹脂との親和性(濡れ性)向上をもたらした粉体材料の製造方法を提供することができる。
【0016】
ここに開示される製造方法の好ましい一態様では、上記分解工程において、800℃以下で熱処理を行う。かかる構成によれば、好適に酸化物セラミックスの焼結が抑制され、酸化物セラミックスの比表面積が高くなる。従って、粉体材料のRαを好適に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る粉体材料を模式的に示す部分拡大図である。
【
図2】
図2は、他の一実施形態に係る粉体材料を示す模式的な部分拡大図である。
【
図3】
図3は、例1に係るFE-SEM像(50000倍)である。
【
図4】
図4は、例2に係るFE-SEM像(50000倍)である。
【
図5】
図5は、例3に係るFE-SEM像(50000倍)である。
【
図6】
図6は、例8に係るFE-SEM像(100000倍)である。
【
図7】
図7は、例9に係るFE-SEM像(100000倍)である。
【
図8】
図8は、例10に係るFE-SEM像(50000倍)である。
【
図9】
図9は、例11に係るFE-SEM像(50000倍)である。
【
図10】
図10は、例12に係るFE-SEM像(100000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術の一実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0019】
図1は、一実施形態に係る粉体材料100を示す模式的な部分拡大図である。
図1に示すように、ここに開示される粉体材料100は、窒化物セラミックス10と、窒化物セラミックス10の表面に付着した酸化物セラミックス20とを含む。また、粉体材料100は、図示しないその他成分を含み得る。
【0020】
本実施形態における、粉体材料中の粉体材料100の平均粒径は、特に限定されず、使用目的や使用態様に応じて適宜変更できる。粉体材料中の粉体材料100の平均粒径は、典型的にナノ~ミリサイズであって、例えば0.05μm以上であり、好ましくは0.1μm以上、0.2μm以上または0.5μm以上である。粉体材料中の粉体材料100の平均粒径は、特に限定されないが、例えば1000μm以下であり、好ましくは100μm以下、50μm以下または10μm以下である。本明細書における「平均粒子径」は、光学顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて取得した画像において、少なくとも100個以上の粒子の画像解析によって得られた円相当径の算術平均によって得られる粒径を示す。
【0021】
窒化物セラミックス10は、粉体材料100の基材部(コア部)である。窒化物セラミックス10は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ガリウム(GaN)等が挙げられ、窒化物セラミックス10は、窒化アルミニウムまたは窒化ホウ素、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。酸化物セラミックスによる窒化物セラミックス10表面に官能基を増加させる効果を好適に発現する観点から、窒化物セラミックス10として、窒化ホウ素を用いることが特に好ましい。窒化物セラミックス10に用いられる窒化ホウ素としては、例えば、立方晶窒化ホウ素(cBN)、六方晶窒化ホウ素(hBN)等が挙げられ、中でも六方晶窒化ホウ素が好適に用いられる。窒化物セラミックス10は、粉体材料100の要求される特性や用途に応じ、いずれか1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
酸化物セラミックス20は、典型的には、金属または半金属の酸化物セラミックスを含む。酸化物セラミックス20は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、イットリア、酸化鉄、酸化亜鉛、ゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。また、酸化物セラミックス20は、アモルファスアルミナ、γ-アルミナ、アモルファスシリカおよびアモルファスジルコニアからなる群から選ばれる混合物または複合酸化物を含むことが好ましい。かかる構成によれば、酸化物セラミックス20表面に高濃度の官能基(主に水酸基)が導入され、表面が親水化しやすく、かつ微粒化しやすい。このため、微粒子である酸化物セラミックス20を形成しやすい点で好適に用いることができる。なお、明細書中における「半金属」とは「半金属元素」を示し、典型的にはSi、B、Sb、Teを示す。
【0023】
酸化物セラミックス20は、窒化物セラミックス10の表面に付着する。例えば
図1に示すように、酸化物セラミックス20は、微粒子の状態で付着している。ここでは、酸化物セラミックス20は、概ね均一に付着している。酸化物セラミックス20は窒化物セラミックス10の表面の広範囲に付着する(広く存在する)ことが好ましい。これにより酸化物セラミックスによる窒化物セラミックス10の表面改質の効果、典型的には官能基を増加させる効果を好適に発現することができる。
【0024】
酸化物セラミックス20の態様は
図1に示すようなものに限られず、様々な態様で存在し得る。
図2は、他の一実施形態に係る粉体材料100を示す模式的な部分拡大図である。いくつかの好適な態様において、
図2に示すように、酸化物セラミックス20は、微粒子の集合体として付着している。この場合、酸化物セラミックス20は、多数の細孔を有する多孔体(多孔質構造)となる。かかる構造によると、酸化物セラミックス20が付着した部分において、官能基濃度が大きくなる。なお、明細書中における「微粒子の集合体」とは、例えば、微粒子の凝集体や不完全な焼結体(微粒子同士がネッキングしたもの)を示す。また、
図2に示すように、酸化物セラミックス20の微粒子間に細孔11を有してもよい。酸化物セラミックス20の細孔11の態様は特に限定されず、例えば、
図2のような微粒子の集合体によるものであってよく、酸化物セラミックスの粒子表面に形成されるものでもよい。
【0025】
粉体材料100の少なくとも一部に、窒化物セラミックス10の表面が露出している表面露出部12を有してもよい。換言すれば、表面露出部12は、窒化物セラミックス10の表面に酸化物セラミックス20が付着していない部分を示す。これにより、窒化物セラミックス10の特性(例えば、熱伝導性等。)の抑制が低減される。
【0026】
粉体材料100における窒化物セラミックス10の表面露出率(%)は、2%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上が好ましい。一方、粉体材料100における窒化物セラミックス10の表面露出率(%)は、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下が好ましい。かかる表面露出率が低すぎると、窒化物セラミックス10の特性(例えば、熱伝導性等。)の発現が抑制される点で好ましくない。一方で、かかる表面露出率が高すぎると、酸化物セラミックスによる窒化物セラミックス10の表面改質効果が小さくなるため好ましくない。なお、本明細書における「窒化物セラミックスの表面露出率」は、例えば、以下の手順に基づいて測定することができる。まず、画像上における粉体材料の平面面積が100μm2以上含まれるSEM画像を取得する。取得したSEM画像の解析により、粉体材料の全体面積と露出した窒化物セラミックス表面の面積をそれぞれ算出し、以下の式(I)で求めることができる。
表面露出率(%)=(露出した窒化物セラミックス表面の面積)/(粉体材料の全体面積)×100・・・(I)。
【0027】
粉体材料100全体における酸化物セラミックス20の付着率(wt%)は、0.1wt%以上、0.2wt%以上、0.3wt%以上、0.5wt%以上、1wt%以上が好ましい。一方で、酸化物セラミックス20の付着率(wt%)は、30wt%以下、20wt%以下、15wt%以下、10wt%以下、5wt%以下、3wt%以下が好ましい。かかる付着率が低すぎると、粉体材料100の表面に窒化物セラミックスの表面露出部分が多くなるため好ましくない。一方で、かかる付着率が高すぎると、窒化物セラミックス10の熱伝導性等特性の発現が抑制される点で好ましくない。なお、酸化物セラミックス20の付着率については以下の式(II)で求めることができる。
酸化物セラミックスの付着率(wt%)=酸化物セラミックスの重量(g)/(窒化物セラミックスの重量(g)+酸化物セラミックスの重量(g))・・・(II)
【0028】
ここに開示される粉体材料100は、BET法に基づく窒化物セラミックス10の比表面積に対する、粉体材料100のαs法に基づく比表面積の比Rα(以下、単に「Rα」ともいう。)が1.2以上であることを特徴とする。以下、本明細書において、BET法に基づいた比表面積については「BET比表面積」といい、αs法に基づいた比表面積については、「αs比表面積」という。Rαが1.2以上の粉体材料100においては、窒化物セラミックス10の表面に酸化物セラミックス20が微粒子の状態で存在している。これにより、窒化物セラミックス10と窒化物セラミックス10の表面に付着した酸化物セラミックス20の界面(接触面)が小さくなる。従って、酸化物セラミックス20と窒化物セラミックス10の親和性(典型的には濡れ)が悪い場合であっても、酸化物セラミックス20が窒化物セラミックス10上に付着した状態が保たれる。これにより、酸化物セラミックス20と窒化物セラミックス10の親和性に影響されず、窒化物セラミックス10表面が改質され、樹脂との親和性(濡れ性)向上をもたらす。なお、本明細書において「αs比表面積」とは、吸着質として窒素(N2)ガスを用いたガス吸着法によって測定された吸着等温線を、αs法で解析した値を示す。また、本明細書において「BET比表面積」とは、JIS Z 8830:2013(ISO9277:2010)に規定される「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準じ、吸着質として窒素(N2)ガスを用いたガス吸着法によって測定された吸着等温線を、BET法で解析した値を示す。また、後述の「BET表面積」についても、同様の方法で解析した値を示す。なお、上記Rαの算出に用いられる「BET法に基づく窒化物セラミックスの比表面積」は、粉体材料から酸化物セラミックスを取り除いた窒化物セラミックスの解析値でもよく、酸化物セラミックスを付着させる前の窒化物セラミックスの解析値でもよい。
【0029】
窒化物セラミックス10のBET比表面積に対する粉体材料100のαs比表面積の比Rαは、1.2以上であって、1.4以上、1.5以上、1.7以上、2以上、または3以上であることが好ましい。一方、窒化物セラミックス10のBET比表面積に対する粉体材料100のαs比表面積の比Rαの上限は特に限定されないが、かかる比が過剰に高い場合、窒化物セラミックス10の熱伝導率特性が抑制される虞がある。従って、窒化物セラミックス10のBET比表面積に対する粉体材料100のαs比表面積の比Rαは、100以下、50以下、30以下、または20以下であることが好ましい。
【0030】
いくつかの好適な実施形態において、水と非極性溶媒の分離相と粉末状態の粉体材料100とを攪拌したとき、粉体材料100の70wt%以上(以下、「大半」ともいう。)、より好ましくは、75wt%以上、80wt%以上が水相に存在する。粉体材料100が上記の性質を持つとき、窒化物セラミック表面が酸化物セラミックスによって改質された傾向を持つことがわかる。すなわち、かかる性質を持つ粉体材料では、一定以上の窒化物セラミックス表面に酸化物セラミックスが付着していることが分かる。なお、上記評価(以下、「水-非極性溶媒嗜好性評価」ともいう。)は、例えば、まず、粉末状の粉体材料と水と非極性溶媒とを容器(例えば、ガラス瓶等。)に入れ、攪拌(例えば、人手によるシェイク、シェイカー等。)を行う。その後、容器を静置し、粉体材料の大半が水相、非極性溶媒相のどちらに存在するかを確認することで行う。かかる確認は目視によって行うことができる。水-非極性溶媒嗜好性評価に用いる非極性溶媒は、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカンのいずれかを用いることができる。なお、水-非極性溶媒嗜好性を評価する際、酸化物セラミックスの脱落等による表面性状変化を起こさない程度に、溶媒及び粉体材料の容器に対し、超音波分散等の分散処理を施してもよい。また、水と非極性溶媒の分離相中の粉体材料の割合は、例えば、水相または非極性溶媒相のいずれか一方の層を除去(言い換えれば、水相と非極性溶媒相とを分離。)し、他方の相の溶媒を乾燥除去したのち、当該相に含まれる粉体材料の重量を測定し、該重量と全粉体材料の重量(容器中に投入した粉体材料全体の重量)に対する比率より求めることができる。
【0031】
いくつかの好適な態様において、酸化物セラミックス20は、細孔11を有する多孔質構造であることが好ましい。この時、酸化物セラミックス20の付着による粉体材料100の比表面積増加に対する細孔の寄与率(%)(以下、「比表面積増加に対する細孔の寄与率」ともいう。)は、例えば、20%以上であって、30%以上、40%以上、50%以上、70%以上、または、80%以上であることが好ましい。なお、明細書中において「比表面積増加に対する細孔の寄与率」は、以下の式(III)によって求めることができる。
比表面積増加に対する細孔の寄与率(%)=(粉体材料の単位質量当たりの細孔表面積)/(粉体材料のαs比表面積-粉体材料中の窒化物セラミックスのBET比表面積)×100・・・式(III)
【0032】
酸化物セラミックス20の酸化物セラミックス単位質量当たりの細孔体積(cm3/g)は、粉体材料100の比表面積を好適に増加させ、粉体材料100の表面官能基を好適に増加させる観点から、好ましくは0.002cm3/g以上、より好ましくは、0.005cm3/g以上、0.01cm3/g以上、0.015cm3/g以上、0.02cm3/g以上である。一方、酸化物セラミックス20の酸化物セラミックス単位質量当たりの細孔体積(cm3/g)は、窒化物セラミックス10上に付着した酸化物セラミックス20の強度を保ち、酸化物セラミックス20の脱落を抑制する観点から好ましくは2cm3/g以下、より好ましくは、1cm3/g以下、0.7cm3/g以下または0.5cm3/g以下である。
【0033】
酸化物セラミックス20の気孔率(%)は、粉体材料100の比表面積を好適に増加させ、粉体材料100の表面官能基を好適に増加させる観点から、好ましくは1%以上、より好ましくは、1.5%以上、2%以上、3%以上、5%以上である。また、酸化物セラミックス20の気孔率(%)は、窒化物セラミックス10上に付着した酸化物セラミックス20の強度を保ち、酸化物セラミックス20の脱落を抑制する観点から好ましくは80%以下、より好ましくは、75%以下、70%以下または60%以下である。なお、本明細書において「酸化物セラミックスの気孔率」とは、上記の酸化物セラミックスの酸化物セラミックス単位質量当たりの細孔体積を用いて、以下の式(IV)によって得られた値を示す。
酸化物セラミックスの気孔率(%)=酸化物セラミックスの酸化物セラミックス単位質量当たりの細孔体積(cm3/g)/{酸化物セラミックスの酸化物セラミックス単位質量当たりの細孔体積(cm3/g)+(1/酸化物セラミックスの密度(g/cm3))}×100・・・式(IV)
【0034】
酸化物セラミックス20の平均細孔径(nm)は特に限定されないが、15nm以下であるとよく、10nm以下、8nm以下、5nm以下、または2nm以下であるとよい。かかる数値範囲によれば、窒化物セラミックス10上において多孔質構造を形成する酸化物セラミックス20の微粒子径が小さいことを示し、即ち、窒化物セラミックス10上に酸化物セラミックス20が薄く存在可能であることを示す。これにより、少量の酸化物セラミックス20により、窒化物セラミックス10表面に官能基を効率的に導入することができる。なお、本明細書において「酸化物セラミックスの平均細孔径」とは、上記したαsプロット法によって得られた酸化物セラミックスの細孔体積および酸化物セラミックスの細孔表面積を用いて、以下の式(V)によって得られた値を示す。
酸化物セラミックスの平均細孔径(nm)=4×酸化物セラミックスの単位質量当たりの細孔体積/酸化物セラミックスの単位質量当たりの細孔表面積・・・式(V)
酸化物セラミックス20の平均細孔径の下限は特に限定されないが、例えば、0.35nm以上であることが好ましい。なお、窒素ガス吸着法による細孔径解析の測定限界の下限は0.35nmである。
【0035】
窒化物セラミックス単位BET表面積当たりの酸化物セラミックス20の細孔表面積(m2/m2)は、0.1m2/m2以上、0.2m2/m2以上、0.3m2/m2以上、0.5m2/m2以上、1m2/m2以上が好ましい。
【0036】
窒化物セラミックス単位BET表面積当たりの酸化物セラミックス20の付着重量(g/m2)は、粉体材料100の表面官能基を好適に増加させる観点から、0.001g/m2以上、0.002g/m2以上、0.003g/m2以上、0.005g/m2以上、0.007g/m2以上が好ましい。窒化物セラミックス単位BET表面積当たりの酸化物セラミックス20の付着重量(g/m2)は、窒化物セラミックスの特性を好適に発現させる観点から、1g/m2以下、0.5g/m2以下、0.1g/m2以下、0.05g/m2以下が好ましい。
【0037】
また、窒化物セラミックス単位BET表面積当たりの酸化物セラミックス20の付着体積(nm3/nm2)は、粉体材料100の比表面積を好適に増加させる観点から、0.2nm3/nm2以上、0.5nm3/nm2以上、0.7nm3/nm2以上、1nm3/nm2以上、2nm3/nm2以上が好ましい。また、窒化物単位BET表面積当たりの酸化物セラミックス20の付着体積(nm3/nm2)は、窒化物セラミックス10の特性を好適に発現させる観点から、100nm3/nm2以下、50nm3/nm2以下、40nm3/nm2以下、30nm3/nm2以下、20nm3/nm2以下が好ましい。
【0038】
いくつかの好適な実施形態において、粉体材料100は、窒化物セラミックス10表面に付着した酸化物セラミックス20によって表面の官能基が好適に増加している。これにより、樹脂との濡れ及び分散性が良好な性質を有する。したがって、ここに開示される粉体材料は、樹脂との濡れ及び分散性が良好な樹脂材料のフィラーとして好適に用いることができる。
【0039】
ここに開示される粉体材料の用途は特に限定されないが、窒化物セラミックスの熱伝導性特性の発現が要求される用途、例えば、放熱部材(例えばエレクトロニクス用途の放熱シート等)の無機材料として好適に用いることができる。
【0040】
以下、ここで開示される粉体材料の製造方法について説明する。ここに開示される粉体材料の製造方法は、レジネート付着工程と、レジネート分解工程と、を典型的にこの順に含む。また、これに限定されず、他の工程を含んでもよい。ここでは、レジネート付着工程の前に材料準備工程を更に含む。以下、各工程について説明する。
【0041】
(1)材料準備工程
材料準備工程では、酸化物セラミックスの原料となる金属または半金属を含むレジネートと、窒化物セラミックスと、溶媒と、を準備する。なお、窒化物セラミックスについては、上述した粉体材料の窒化物セラミックスと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0042】
材料準備工程で準備する、窒化物セラミックスの平均粒径は、特に限定されないが、例えば0.05μm以上であり、好ましくは0.1μm以上、0.2μm以上または0.5μm以上である。窒化物セラミックスの平均粒径は、特に限定されないが、例えば1000μm以下であり、好ましくは100μm以下、50μm以下または10μm以下である。
【0043】
レジネートは、たとえば、Al、Si、Zr、Ti、Ce、Y、Fe、Znからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む従来公知の有機金属化合物レジネートを用いてもよい。また、該レジネートは、後述するレジネート分解工程において、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、イットリア、酸化鉄、酸化亜鉛、ゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を形成するようなものが好ましい。アモルファスアルミナ、γ-アルミナ、アモルファスシリカおよびアモルファスジルコニアからなる群から選ばれる混合物または複合酸化物を形成するような化合物を含むものがより好ましい。これにより、後述するレジネート分解工程において、好適に微粒子の酸化物セラミックスを形成し、窒化物セラミックスの表面に付着することができる。
【0044】
レジネート中に含まれる金属または半金属成分については、上述した粉体材料の酸化物セラミックスと同様であるため、ここでは説明を省略する。レジネート中における金属または半金属成分の含有率は、酸化物セラミックス換算で70wt%以下であり得、60wt%以下、50wt%以下、40wt%以下または30wt%以下が好ましい。これにより、レジネート中における金属または半金属成分の含有率が少ないため、好適に微粒子である酸化物セラミックスを形成する。一方、レジネート中における金属または半金属成分の含有率は、酸化物換算で2wt%以上であり得、5wt%以上または10wt%以上が好ましい。
【0045】
レジネートの熱分解温度は、特に限定されないが、大気中雰囲気で150℃以上であり得、200℃以上、300℃以上、または400℃以上が好ましい。また、レジネートの熱分解温度は、大気中雰囲気で1000℃以下であり得、900℃以下、800℃以下、または700℃以下が好ましい。
【0046】
材料準備工程で準備する溶媒は、水系溶媒でもよいし、有機系溶媒であってもよい。水系溶媒としては、水(例えば、純水、脱イオン水等)または水を主体とする混合液(例えば、水と低級アルコールとの混合溶液)を用いることができる。なお、本明細書において、「水を主体とする混合液」は、混合液のうち50vol%以上が水である混合液のことをいう。一方、有機系溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、若しくは、アセトン、メチルケトンのようなケトン類、若しくは、酢酸エチルのようなエステル類、等を用いることができる。
【0047】
(2)レジネート付着工程
レジネート付着工程では、上記材料準備工程で用意した酸化物セラミックスを含有するレジネートを窒化物セラミックスに付着させる。ここでは、副工程として、(2-1)混合工程、(2-2)乾燥工程を含む。
【0048】
(2-1)混合工程
混合工程では、酸化物セラミックスを含有するレジネートと窒化物セラミックスと溶媒とを混合する。これにより、溶媒中に該レジネートと該窒化物セラミックスとが均一に存在する混合物を得る。
【0049】
混合工程においては、従来公知で用いられる攪拌装置、混合装置等を用いてよい。混合工程における混合時間は、混合物中のレジネートおよび窒化物セラミックスが均一に存在できればよく特に限定されない。また、混合工程の後、より好適に混合物中の各成分を均質化するため、超音波分散等の分散処理を行ってもよい。
【0050】
混合物中における、窒化物セラミックスの濃度は特に限定されないが、濃度が低すぎる場合、コストバランスの観点から好ましくない。そのため、混合物中における窒化物セラミックスの濃度は、例えば、10g/l以上であって、100g/l以上または300g/l以上であるとよい。一方で窒化物セラミックスの濃度が高すぎる場合、粉体材料が凝集する虞がある。そのため、混合物中における窒化物セラミックスの濃度は、例えば、50000g/l以下であって、10000g/l以下または3000g/l以下であるとよい。
【0051】
レジネート中の酸化物セラミックスを換算した時、混合物中における、酸化物セラミックスと窒化物セラミックスとの総量に対する酸化物セラミックスの割合(wt%)は、0.1wt%以上、0.2wt%以上、0.3wt%以上、0.5wt%以上、1wt%以上が好ましい。また、混合物中における、酸化物セラミックスと窒化物セラミックスとの総量に対する酸化物セラミックスの割合(wt%)は、30wt%以下、20wt%以下、15wt%以下、10wt%以下、5wt%以下、3wt%以下が好ましい。かかる割合が低すぎると、官能基増加効果を発現するための酸化物セラミックスを窒化物セラミックスに十分に付着できない場合がある。一方で、かかる割合が高すぎると、酸化物セラミックスが過度に窒化物セラミックスに付着し、窒化物セラミックスの特性の発現が抑制される場合がある。
【0052】
(2-2)乾燥工程
乾燥工程では、上記混合工程によって得られた混合物を乾燥し、混合物中の溶媒を除去する。これにより、窒化物セラミックスの表面にレジネートが付着した乾燥物を得ることができる。
【0053】
乾燥工程では、従来公知で用いられる乾燥手段を用いてよく、例えば、熱風乾燥装置、低湿風乾燥装置、真空乾燥装置、各種赤外線乾燥装置、電磁誘導乾燥装置、マイクロ波乾燥装置、ドライエアー等や、送風、減圧、加熱等の乾燥促進手段を単独または組み合わせて用いることができる。かかる手段は、混合物中の溶媒の種類や量によって適宜選択し得る。
【0054】
乾燥工程の乾燥温度(乾燥装置の設定温度等)は、混合物中の溶媒の種類や量によって適宜選択し得るが、例えば60℃~150℃、典型的には80℃~120℃、に設定され得る。また、乾燥時間についても、混合物中の溶媒の種類や量によって適宜選択し得、特に限定されない。
【0055】
(3)レジネート分解工程
レジネート分解工程では、上記乾燥工程によって得られた乾燥物中のレジネートを分解する。これによりレジネート分解生成物として、微粒子の酸化物セラミックスが生成される。ここでは、熱処理によるレジネート分解工程(レジネートの熱分解)が行われる。ここでは、酸化物セラミックスは微粒子の状態としてあり得る。また、レジネート分解工程の前に該乾燥物を解砕してもよい。かかる操作により、より好適にレジネート分解工程後の粉体材料の凝集を抑制することができる。
【0056】
レジネート分解工程における熱処理の温度は、800℃以下、780℃以下、750℃以下、720℃以下、700℃以下が好ましい。かかる温度範囲において、好適に酸化物セラミックスの焼結が抑制され、酸化物セラミックスの比表面積が高くなる。換言すれば、酸化物セラミックスの無孔化を抑制し、多孔質構造を持つ酸化物セラミックスを得ることができる。一方、熱処理の温度の下限はレジネートの分解温度以上であれば特に制限されないが、例えば200℃以上であり、250℃以上、300℃以上、350℃以上が好ましい。
【0057】
レジネート分解工程における雰囲気は、レジネートが分解できればよく、特に制限されないが、有機成分由来の残留物(例えばカーボン等)を粉体材料中から好適に除去する観点から、酸化雰囲気(例えば大気中等)で実施されることが好ましい。
【0058】
レジネート分解工程における熱処理のトップ温度保持時間は、レジネートが完全に分解できればよく、特に制限されないが、例えば、おおよそ0.1時間~2時間程度で実施し得る。
【0059】
熱処理後、得られた粉体材料について解砕処理をおこなってもよい。これにより、粉体材料が粉末状となる。従って、得られた粉体材料を粉体材料として好適に用いることができる。解砕工程における、粉体材料の解砕方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
【0060】
以上のとおり、ここに開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
【0061】
項1:窒化物セラミックスと、上記窒化物セラミックスの表面に付着した金属または半金属の酸化物セラミックスと、を含む粉体材料であって、上記粉体材料中の上記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、上記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.2以上である、粉体材料。
【0062】
項2:前記粉体材料中の前記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、前記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.4以上である、項1に記載の粉体材料。
【0063】
項3:水と非極性溶媒の分離相と上記粉体材料とを攪拌したとき、上記粉体材料の70wt%以上が水相に存在する、項1または2に記載の粉体材料。
【0064】
項4:上記酸化物セラミックスは、細孔を有し、上記酸化物セラミックスの付着による上記粉体材料の比表面積増加に対する上記細孔の寄与率を以下の式:粉体材料の比表面積増加に対する細孔の寄与率(%)=(粉体材料の単位質量当たりの細孔表面積)/(粉体材料のαs比表面積-粉体材料中の窒化物セラミックスのBET比表面積)×100に基づいて算出した時、上記酸化物セラミックスの付着による上記粉体材料の比表面積増加に対する上記細孔の寄与率が20%以上である、項1~3のいずれかに記載の粉体材料。
【0065】
項5:上記窒化物セラミックスが、窒化アルミニウムおよび窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、
項1~4のいずれかに記載の粉体材料。
【0066】
項6:上記酸化物セラミックスが、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、セリア、イットリア、酸化鉄、酸化亜鉛およびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む、項1~5のいずれかに記載の粉体材料。
【0067】
項7:上記酸化物セラミックスが、アモルファスアルミナ、γ-アルミナ、アモルファスシリカおよびアモルファスジルコニアからなる群から選ばれる混合物または複合酸化物を含む、項1~6のいずれかに記載の粉体材料。
【0068】
項8:樹脂材料のフィラーである、項1~7のいずれかに記載の粉体材料。
【0069】
項9:窒化物セラミックスと、上記窒化物セラミックスの表面に付着した金属または半金属の酸化物セラミックスとを含む粉体材料の製造方法であって、上記酸化物セラミックスの原料となる金属または半金属を含むレジネートを、上記窒化物セラミックスに付着させる工程と、上記レジネートを分解する工程と、を含み、上記粉体材料中の上記窒化物セラミックスのBET法に基づく比表面積に対する、上記粉体材料のαs法に基づく比表面積の比Rαが1.2以上である、粉体材料の製造方法。
【0070】
項10:上記分解工程において、800℃以下で熱処理を行う、項9に記載の粉体材料の製造方法。
【0071】
以下、ここに開示される技術に関する試験例について説明するが、かかる試験例は本技術を限定することを意図したものではない。
【0072】
<評価用サンプルの作製>
本試験例では、以下に示す例1~12に係る評価用サンプルを準備した。
【0073】
(例1)
まず、レジネートとしてのトリス(2-エチルヘキサン酸)エトキシシランのエタノール溶液(シリカ換算7.15wt%、大気中熱分解温度350℃)7.0g(シリカ換算0.5g)にエタノールを10ml加え、溶解した。ここに、無孔性の窒化ホウ素粉末(株式会社トクヤマ製、S03)を9.5g加え、攪拌した。そして、超音波洗浄機を用いて2分間分散処理を行うことにより、スラリー状の混合物を得た。かかる混合物を80℃ホットプレート上に設置した剥離フィルム上にスポイトで滴下し、乾燥させた。さらに、上記剥離フィルムを120℃の真空オーブンに入れ、真空オーブンによって1時間乾燥させ、乾燥物を得た。上記得られた乾燥物を乳鉢で軽く解砕した。その後、大気雰囲気中において、温度400℃、昇温速度10℃/min、0.5時間の条件で上記乾燥物を焼成し、レジネート分解を行った。これにより、窒化ホウ素上にアモルファスシリカの微粒子が5wt%付着した粉体材料を得た。なお、得られた粉体材料は乳鉢を用いて解砕することにより、例1に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0074】
(例2)
大気雰囲気中において、温度700℃、昇温速度5℃/min、1時間の条件で得られた乾燥物を焼成したこと以外は、例1と同様とした。これにより、窒化ホウ素上にアモルファスシリカの微粒子が5wt%付着した、例2に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0075】
(例3)
Siレジネートとしてシリコン樹脂酸塩(Si13%、シリカ換算27.8wt%、大気中分解温度617℃)を用い、該Siレジネート1.80g(シリカ換算0.5g)にエタノール12mlを加え、溶解したこと以外は、例2と同様とした。これにより、窒化ホウ素上にアモルファスシリカの微粒子が5wt%付着した、例3に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0076】
(例4)
Siレジネートを0.36g(シリカ換算0.1g)用い、かつ、窒化ホウ素粉末を9.9g用いたこと以外は、例3と同様とした。これにより、窒化ホウ素上にアモルファスシリカの微粒子が1wt%付着した、例4に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0077】
(例5)
Siレジネートを0.72g(シリカ換算0.2g)用い、かつ、窒化ホウ素粉末を9.8g用いたこと以外は、例3と同様とした。これにより、窒化ホウ素上にアモルファスシリカの微粒子が2wt%付着した、例5に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0078】
(例6)
Siレジネートを3.60g(シリカ換算1.0g)用い、かつ、窒化ホウ素粉末を9.0g用いたこと以外は、例3と同様とした。これにより、窒化ホウ素上にアモルファスシリカの微粒子が10wt%付着した、例6に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0079】
(例7)
まず、Alレジネートとしてアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート(川研ファインケミカル製、ALCH)(アルミナ換算18.47wt%、大気中分解温度295℃)1.08g(アルミナ換算0.2g)にエタノールを12ml加え、溶解した。ここに、無孔性の窒化アルミニウム粉末(株式会社トクヤマ製、HF-01D)を19.8g加え、攪拌した。そして、超音波洗浄機を用いて2分間分散処理を行うことにより、スラリー状の混合物を得た。かかる混合物を80℃ホットプレート上に設置した剥離フィルム上にスポイトで滴下し、乾燥させた。さらに、上記剥離フィルムを120℃の真空オーブンに入れ、真空オーブンによって1時間乾燥させ、乾燥物を得た。上記得られた乾燥物を乳鉢で軽く解砕した。その後、大気雰囲気中において、温度400℃、昇温速度10℃/min、0.5時間の条件で上記乾燥物を焼成し、レジネート分解を行った。これにより、窒化アルミニウム上にアモルファスアルミナの微粒子が1wt%付着した粉体材料を得た。なお、得られた粉体材料は乳鉢を用いて解砕することにより、例7に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0080】
(例8)
Alレジネートを5.4g(アルミナ換算1.0g)用い、かつ、窒化アルミニウム粉末を19.0g用いたこと以外は、例7と同様とした。これにより、窒化アルミニウム上にアモルファスアルミナの微粒子が5wt%付着した、例8に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0081】
(例9)
焼成および解砕を経た上記例8に係る粉末状の粉体材料を、大気雰囲気中において、温度650℃、昇温速度10℃/min、0.5時間の条件でさらに焼成した。これにより、窒化アルミニウム上にγ-アルミナの微粒子が5wt%付着した粉体材料を得た。なお、得られた粉体材料は乳鉢を用いて解砕することにより、例9に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0082】
(例10)
大気雰囲気中において、温度900℃、昇温速度5℃/min、1時間の条件で得られた乾燥物を焼成したこと以外は、例1と同様とした。これにより、窒化ホウ素上にアモルファスシリカが5wt%付着した例10に係る評価用サンプルとしての粉体材料を得た。
【0083】
(例11)
例1で使用した窒化ホウ素粉末(株式会社トクヤマ製、S03)を、酸化物セラミックスを付着させず、そのまま評価用サンプルとして用いた。
【0084】
(例12)
例7で使用した窒化アルミニウム粉末(株式会社トクヤマ製、HF-01D)を、酸化物セラミックスを付着させず、そのまま評価用サンプルとして用いた。
【0085】
<評価試験>
上記の粉体材料に関し、以下に示す評価試験を行った。
【0086】
(1)細孔解析
各サンプルについて、真空中250℃で1時間前処理を行った後、マイクロトラック・ベル社製の比表面積測定装置(型番:Belsorp-max(登録商標))に供試し、-196℃における窒素吸着等温線を取得した。そして、解析ソフト(BELLMaster Version 7.3.2.0)を用いて以下に示す解析を行った。
【0087】
(1-1)BET法による解析
例1~10の各例において、上記した解析ソフトを用いてBET法による窒化物セラミックスの比表面積解析を行った。得られた窒化物セラミックスのBET比表面積の値(m2/g)を用いて、窒化物セラミックスの単位BET表面積当たりの酸化物セラミックスの付着重量(g/m2)および体積(nm3/nm2)を算出した。同様に、かかる方法により測定した、例11および例12の窒化物セラミックスのBET比表面積を、各例で使用した窒化ホウ素粉末および窒化アルミニウム粉末の値とした。なお、各例で使用した窒化ホウ素粉末および窒化アルミニウム粉末のBET比表面積の値はそれぞれ、1.3m2/g、3.2m2/gであった。なお、付着した酸化物セラミックスについて、アモルファスアルミナ、γ―アルミナ、アモルファスシリカの密度はそれぞれ、3.0g/cm3、3.7g/cm3、2.2g/cm3として算出を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(1-2)αs法による解析
例1~12の各例において、上記した解析ソフトを用いてαsプロットを作成した。なお、かかるαsプロットの作成に際し、基準αs曲線について、例1~6および例10ではシリカを、例7~9および例12ではアルミナを、例11ではGCB(グラファイト化カーボンブラック)を選択した。
得られたαsプロットより、原点を通る近似直線と、該近似直線より高αs領域のプロットから、より傾きの小さい近似直線を作成し、上記2本の近似直線より、粉体材料の比表面積、細孔体積、外部表面積を求めた。なお、αsプロットに明確な屈折部が存在せず二本目の直線を作成できなかったサンプルについては、無孔性と判断し、比表面積のみを算出した。また、以下の式(a)~(e)を用いて、Rα、細孔表面積、酸化物セラミックスの平均細孔径(nm)、比表面積増加に対する細孔の寄与率(%)、酸化物セラミックスの気孔率(%)をそれぞれ算出した。
Rα=(粉体材料のαs比表面積)/(窒化物セラミックスのBET比表面積)・・・式(a)
細孔表面積=粉体材料のαs比表面積-粉体材料の単位質量当たりの外部表面積・・・式(b)
酸化物セラミックスの平均細孔径(nm)=4×酸化物セラミックスの単位質量当たりの細孔体積/酸化物セラミックスの単位質量当たりの細孔表面積・・・式(c)
比表面積増加に対する細孔の寄与率(%)=(粉体材料の単位質量当たりの細孔表面積)/(粉体材料のαs比表面積-粉体材料中の窒化物セラミックスのBET比表面積)×100・・・式(d)
酸化物セラミックスの気孔率(%)=酸化物セラミックスの酸化物セラミックス単位質量当たりの細孔体積(cm3/g)/{酸化物セラミックスの酸化物セラミックス単位質量当たりの細孔体積(cm3/g)+(1/酸化物セラミックスの密度(g/cm3))}×100・・・式(e)
なお、式(e)中の「酸化物セラミックスの密度」について、アモルファスアルミナ、γ―アルミナ、アモルファスシリカの密度はそれぞれ、3.0g/cm3、3.7g/cm3、2.2g/cm3として算出を行った。また、細孔表面積および細孔体積については、粉体材料の単位質量当たりの値と、酸化物セラミックス単位質量当たりの値と、粉体材料中の窒化物セラミックス単位BET表面積当たりの値を併せて算出した。結果を表1に示す。
【0089】
【0090】
表1に示すように、例1~9においては、Rαがいずれの例についても1.4以上であった。このことから、例1~9では、酸化物セラミックスが微粒子の状態で好適に窒化物セラミックス上に存在していることがわかる。従って、例1~9に係る粉体材料では、窒化物セラミックスの表面に官能基が付与され、好適に表面改質がなされていると考えられる。一方、例10については、Rαが1.31であった。
【0091】
表1に示すように、例1~9においては、いずれの結果についても、粉体材料の比表面積増加に対する細孔の寄与率が50%以上と良好な結果が得られた。このことから、例1~9の粉体材料では、酸化物セラミックスが概ね微粒子の集合体(細孔を有する多孔体)として存在していると考えられる。
【0092】
(2)水-非極性溶媒嗜好性評価
例1~12の各例について、サンプル約200mgをガラス瓶にとり、純水20mlを加えふたをして人手でシェイクした。その後、ふたを開け、非極性溶媒としてのn-ヘキサン20mlを加え、再びふたをして人手でシェイクした。その後、ガラス瓶を静置し、サンプルの大半(すなわち、70%以上。)が水相、非極性溶媒相(ヘキサン相)のどちらに存在するかを目視で確認した。例8~9,12については、n-ヘキサンに代えてn-デカンとした点以外は上記した実施方法と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0093】
【0094】
表2に示すように、例1~9ではいずれのサンプルも大半が水相に存在することが確認された。このことから、窒化物セラミック表面が酸化物セラミックスによって改質されたこと、すなわち、一定以上の窒化物セラミックス表面に酸化物セラミックスが付着していることが分かった。一方、例10および例11については、サンプルの大半が非極性溶媒相に存在することが確認された。なお、例12は、目視ではサンプルが溶媒全体に存在し、水相、非極性溶媒相(n-デカン相)のどちらに大半に存在するかの境界が明確でなかったため、「不明確」とした。
【0095】
(3)表面形態観察
例1~12の各例について、日立ハイテクノロジーズ社製の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて観察を行った。そのうちいくつかの例の反射電子像を
図3~10に示す。
図3は、例1に係るFE-SEM像(50000倍)である。
図4は、例2に係るFE-SEM像(50000倍)である。
図5は、例3に係るFE-SEM像(50000倍)である。
図6は、例8に係るFE-SEM像(100000倍)である。
図7は、例9に係るFE-SEM像(100000倍)である。
図8は、例10に係るFE-SEM像(50000倍)である。
図9は、例11に係るFE-SEM像(50000倍)である。
図10は、例12に係るFE-SEM像(100000倍)である。
【0096】
図9,10に示すように、酸化物セラミックスが配置されてない窒化物セラミックスについては、表面に凹凸が確認されず、無孔質であることが確認された。その一方で、
図3~7に示すように、例1~3、8および9において、粉体材料の表面に細かい凹凸が観察されたことから、酸化物セラミックスが微粒子の集合体あるいは微粒子の不完全な焼結体として窒化物セラミックス表面に付着し、多孔質構造をとっていることが確認できた。同様に、例1~3、8および9では、窒化物セラミックスの表面露出が確認された。また、ここでは図示を省略するが、例4~7においても、微粒子の集合体あるいは微粒子の不完全な焼結体としての酸化物セラミックスの付着および多孔質形成と窒化物セラミックスの表面露出が確認された。例1~9においては、粉体材料の表面の一部に窒化物セラミックスが露出した部分を有することにより、該露出部から窒化物セラミックスの熱伝導性を好適に発現することができる。同様に、かかる構成によって、窒化物セラミックスのその他の特性についても発現することができると考えられる。
【0097】
図8に示すように、酸化物セラミックスの緻密化が進んだ例10においては、窒化物セラミックス(窒化ホウ素)の安定で官能基が少ない(0001)面(
図8)では酸化物セラミックスが球状化されているのが確認された。これは、酸化物セラミックスの焼結が進みすぎたことにより、該焼結による緻密化の過程で、酸化物セラミックスが窒化ホウ素の(0001)面上ではじかれて
図8に示すような球状化した形態となったものとみられる。酸化物セラミックスが
図8のような球状化の状態で存在する場合、該酸化物セラミックスは容易に窒化物セラミックスの表面から脱落しやすい傾向にある。一方で、例10では窒化物セラミックスの端面(
図8の右下)において、酸化物セラミックスが帯状に集中しているのが確認された。これは、窒化物セラミックスを構成する窒化ホウ素端面が、(0001)面と比較して官能基が多い領域であり、酸化物との親和性が高いためと考えられる。また、例10(
図8)に示すような、酸化物セラミックスの窒化物セラミックス端面への集中が見られる場合、窒化物セラミックスの熱伝導を阻害するため好ましくない。
【0098】
以上、本開示の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0099】
10 窒化物セラミックス
11 細孔
12 表面露出部
20 酸化物セラミックス
100 粉体材料