(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143460
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01S13/90 111
G01S13/90 141
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056159
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田中 大地
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB08
5J070AE07
5J070AF08
5J070AH04
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
5J070BE02
(57)【要約】
【課題】メモリ消費量や信号処理量の増加を抑制する。
【解決手段】信号処理装置1は、分割処理部10と画像処理部20とチャープ乗算部30とを備えている。分割処理部10は、反射信号を所定の時間間隔で分割処理する。画像処理部20は、分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行する。第1座標系は、一方の軸が、飛翔体が照射するレーダーが散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、飛翔体がレーダーを照射する照射方向における飛翔体から散乱体までの時間又は距離を表す第2軸である。画像処理部20により処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含む。チャープ乗算部30は、第1軸又は第3軸に係るチャープ関数を第1信号データに乗算する。チャープ乗算部30は、第3軸に係る回り込みによる影響を除去してチャープ関数を乗算する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理する分割処理手段と、
前記分割処理手段により分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行する画像処理手段と、を備え、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
前記画像処理手段により処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算するチャープ乗算手段をさらに備え、
前記チャープ乗算手段は、前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する、信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置において、
前記分割処理手段は、PRF(Pulse Repetition Frequency)と、前記反射信号の、アジマス周波数の帯域幅との差を用いて、前記所定の時間間隔の幅を設定する、信号処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の信号処理装置において、
前記チャープ乗算手段により処理されて得られた第2信号データのうち、前記第1座標系に基づいている第3信号データを取得し、前記第3信号データを、前記第1座標系とは異なる第2座標系に基づいている第4信号データに、前記チャープ乗算手段により処理された影響を除去してから変換する座標系変換手段をさらに備え、
前記第2座標系は、一方の軸が前記飛翔体と前記散乱体との距離が最も近づいたときの時間を表す軸であり、他方の軸が前記進行方向に前記垂直な方向における前記飛翔体から前記散乱体までの距離又は時間を表す軸である、信号処理装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の信号処理装置において、
前記チャープ乗算手段により処理されて得られた第2信号データに紐づく画素データの位置情報を、前記チャープ乗算手段により処理された影響を除去してから、地球上での位置情報に変換する位置情報変換手段をさらに備える、信号処理装置。
【請求項5】
1つ以上のコンピュータが、
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理し、
分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行し、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
画像化処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算し、
前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する、信号処理方法。
【請求項6】
1つ以上のコンピュータに、
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理する手順、
分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行する手順、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
画像化処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算する手順、
前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する手順、を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置、信号処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
サブアパチャに分割する処理、及びチャープ関数を乗算する処理を含む、SAR画像に関する技術が、特許文献1に開示されている。
【0003】
SARセンサが移動する場合であっても、アジマスアンビギュイティが発生していないSAR画像を再生することができる技術が、特許文献2に開示されている。
【0004】
空中写真などの画像から建物の壁面座標を取得し、この壁面上の点群を利用して建物の輪郭を抽出しつつ数値表層モデルを作成する技術が、特許文献3に開示されている。
【0005】
ドップラー周波数の変位差分量がPRFの半分よりも大きい観測点の数を減らせることができるレーダー信号処理装置に関する技術が、特許文献4に開示されている。
【0006】
ハイスクイントでのSAR画像の生成に関する技術が、特許文献5に開示されている。
【0007】
SAR画像の生成手法におけるBaseband Azimuth Scalingに関する技術が、非特許文献1に開示されている。
【0008】
SAR画像の生成手法におけるOmega-K Algorithmに関する技術が、非特許文献2に開示されている。
【0009】
SAR画像の生成手法におけるSVD-Stoltに関する技術が、非特許文献3に開示されている。
【0010】
SAR画像の生成手法におけるExtended Wavenumber domainに関する技術が、非特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2009/003628号
【特許文献2】国際公開第2016/067419号
【特許文献3】特開2014-106118号公報
【特許文献4】特許第6961135号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開第2650695号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Pau Prats, Rolf Scheiber, Josef Mittermayer, Adriano Meta,and Alberto Moreira, “Processing of Sliding Spotlight and TOPS SAR Data Using Baseband Azimuth Scaling”,[online], IEEE TRANSACTIONS ON GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING, VOL. 48, NO. 2, FEBRUARY 2010,[令和5年2月15日検索],インターネット<https://elib.dlr.de/59115/1/prats_TGRS2010_baseband_azimuth_scaling.pdf>
【非特許文献2】Ian G. Cumming, Frank H. Wong,“Digital Processing of Synthetic Aperture Radar Data ”,[online], ARTECH HOUSE ,[令和5年2月15日検索],インターネット<https://www.researchgate.net/profile/Ahmed-Azouz/post/Could_anyone_suggest_good_and_simple_reference_for_synthetic_aperture_radar_SAR/attachment/623282a9d411a95e64e84e40/AS%3A1134416655056897%401647477415675/download/Digital+Processing+of+Synthetic+Aperture+Radar+Data_+Algorithms+and+Implementation-Artech+House+%282005%29.pdf>
【非特許文献3】D.D’Aria,A. Monti Guarnieri,”High resolution spaceborne SAR focusing by SVD-STOLT”,[online],[令和5年1月12日検索],インターネット<https://www.researchgate.net/profile/Davide-Daria/publication/3449863_High-resolution_spaceborne_SAR_focusing_by_SVD-stolt/links/54e714e00cf277664ff7802f/High-resolution-spaceborne-SAR-focusing-by-SVD-stolt.pdf>
【非特許文献4】A.Reigber, E.Alivizatos, A.Potsis and A.Moreira,”Extended wavenumber-domain synthetic aperture radar focusing with integrated motion compensation”,[online],IEE Proc.-Radar Sonar Navig.,Vol.153,No.3,June 2006,[令和5年1月12日検索],インターネット<https://www.researchgate.net/profile/Alberto-Moreira-2/publication/3357927_Extended_wavenumber-domain_synthetic_aperture_radar_focusing_with_integrated_motion_compensation/links/00b4951ccc4bb99e83000000/Extended-wavenumber-domain-synthetic-aperture-radar-focusing-with-integrated-motion-compensation.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献1において、SAR(Synthetic Aperture Radar)画像に関する技術が開示されている。これらに記載のSAR画像生成手法において、飛翔体のスクイント角が大きくなると、飛翔体に係る情報処理(信号処理)において、メモリ消費量や情報処理量が増加する。
【0014】
本発明の目的の一例は、上述した課題を鑑み、メモリ消費量や信号処理量の増加を抑制する信号処理装置、信号処理方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によれば、
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理する分割処理手段と、
前記分割処理手段により分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行する画像処理手段と、を備え、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
前記画像処理手段により処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算するチャープ乗算手段をさらに備え、
前記チャープ乗算手段は、前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する、信号処理装置が提供される。
【0016】
本発明の一態様によれば、
1つ以上のコンピュータが、
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理し、
分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行し、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
画像化処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算し、
前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する、信号処理方法が提供される。
【0017】
本発明の一態様によれば、
1つ以上のコンピュータに、
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理する手順、
分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行する手順、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
画像化処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算する手順、
前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する手順、を実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、メモリ消費量や信号処理量の増加を抑制する信号処理装置、信号処理方法、及びプログラムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】人工衛星が地表面にレーダーを照射する際の概略図である。
【
図2】人工衛星が地表面の散乱体にレーダーを照射する様子の概略図である。
【
図3】人工衛星に係る信号を説明するための概略図である。
【
図5】第1実施形態に係る信号処理装置の概要を示すブロック図である。
【
図6】反射信号の分割処理について説明するための概略図である。
【
図7】回り込みを説明するためのイメージ図である。
【
図8】信号処理装置のハードウエア構成例を示す図である。
【
図9】第1実施形態に係る信号処理装置の信号処理のフロー図である。
【
図10】第2座標系(η-ρ系)での画像化処理を説明するための概略図である。
【
図11】第1実施形態に係るチャープ乗算部の処理の詳細を示すフロー図である。
【
図12】回り込みの考慮方法を説明するための図である。
【
図13】第2実施形態に係るチャープ乗算部の処理の詳細を示すフロー図である。
【
図14】第3実施形態に係る信号処理装置の概要を示すブロック図である。
【
図15】第3実施形態に係る信号処理装置の処理を示すフロー図である。
【
図16】ステップS400の処理の詳細を示すフロー図である。
【
図17】第4実施形態に係る信号処理装置の概要を示すブロック図である。
【
図18】第4実施形態に係る信号処理装置の処理を示すフロー図である。
【
図19】第4実施形態に係る位置情報変換部の処理の詳細を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0021】
合成開口レーダー(SAR:synthetic Aperture Radar)技術は、飛翔体(人工衛星や飛行機等)が移動しながら、飛翔体に搭載されたアンテナが電磁波(レーダー)を送受信することにより、大きな開口を持ったアンテナの場合と等価な画像(SAR画像)が得られるように人工的に開口を合成する技術である。以下、飛翔体として、人工衛星(SAR衛星)を例にする。
【0022】
(用語定義)
図1は、人工衛星5が地表面Eにレーダーを照射する際の概略図である。
図1を用いて、実施形態における用語の定義をする。地表面Eは、実際には凹凸を持った球面形状であるが、
図1では簡易的に平面で地表面を表している。
【0023】
図1に示すDR1は、人工衛星5の進行方向を示している。進行方向DR1に沿って描写されている平行四辺形の図形のそれぞれは人工衛星5を示している。そしてこれらにより、人工衛星5の移動軌跡が示されている。
【0024】
合成開口レーダーにおいては、複数の衛星位置から一定の広がり(幅)をもって(アンテナの視野角に依存)照射された電磁波の反射を合成することにより、ある衛星位置から仮に小さな広がり(幅)で照射された場合の電磁波の反射が算出される。その際の合成後の衛星位置のことをアジマス等と呼称する。実態として衛星位置との違いはないため、ここではアジマスと衛星位置とを区別しないことにする。すなわち、アジマス方向とは進行方向DR1のことである。
【0025】
図1に示すDR2は、面P内において、アジマス方向DR1(=進行方向DR1)に垂直な垂直方向である。垂直方向DR2は、ドップラーが0になる方向である。ドップラーが0になる方向を、ゼロドップラー(Zero Doppler)方向とも呼ぶ。以下、垂直方向DR2をゼロドップラー方向DR2ともよぶ。
【0026】
面Pは、アジマス方向DR1と照射方向DR3とで定義される面である。面Pは、SAR画像の投影面でもある。詳しくは後述するが、面P(投影面上)に、SAR画像の画素データが展開される。
照射方向DR3は、人工衛星5レーダーを照射する方向である。照射方向DR3は、人工衛星5のレーダーの中心が進行する方向である。照射方向DR3は、人工衛星5のアンテナが向く方向でもある。スクイントしている場合において、照射方向DR3は、ゼロドップラー方向DR2に対して斜めに傾斜して設けられている。以下、照射方向DR3をレンジ方向DR3とも呼ぶ。
【0027】
人工衛星5は、地表面Eに向けてレーダー(=電磁波)を照射し、レーダーの反射を表す反射信号を受信する。人工衛星5のアンテナからレンジ方向DR3に照射したレーダーが撮影領域Rに当たり、跳ね返ってきたものについて、その位相の遅れや反射の強さ等が記録される。そして、当該反射信号に係るデータを用いて、SAR画像が形成される。レーダーはアンテナの視野角に依存した一定の幅(広がり)を有しているため、地表面Eに向けて円錐状にレーダーが照射されることになる。
図1の撮影領域Rは、地表面Eのうちレーダーが照射される領域を示している。
【0028】
ゼロドップラー方向DR2とレンジ方向DR3とがなす角をスクイント角θsqとする。スクイント角θsqは、ゼロドップラー方向DR2に対するアンテナの傾きを示している。レンジ方向DR3は、ゼロドップラー方向DR2に対してθsq傾斜している。スクイント角θsqがおおよそ5度を超える場合をハイスクイントとする。代表スクイント角とは、例えば、ある衛星軌道において、人工衛星5のスクイント角のうち最もアンテナが向いていた時間が大きいスクイント角である。
【0029】
一般的に、SAR画像の画像形成において、ゼロドップラー方向とレンジ方向とを近似的に同一みなして扱うことが多い。しかし、ハイスクイントの場合にはゼロドップラー方向とレンジ方向との向きの違いを無視することができないため、明確に区別して扱うことが好ましい。少なくとも本願の実施形態においては、ゼロドップラー方向DR2とレンジ方向DR3とを区別して扱う。
【0030】
(座標系についての説明)
図2は、人工衛星5が地表面Eの散乱体Nにレーダーを照射する様子の概略図である。散乱体Nは、地表面Eにある仮想的な点を表したものであり、レーダーの照射を受けて、種々の方向にレーダー反射させる点である。
図2では、地表面Eの撮影領域Rにある散乱体Nに人工衛星5がレーダーを照射した際の様子を示している。
図2を用いて、本明細書で扱う座標系について説明する。
【0031】
(第1座標系(ξ-r系))
人工衛星5が照射するレーダーが散乱体Nを通過する時間をビーム通過アジマス時間(Beam crossing time)ξとし、ビーム通過アジマス時間ξにおいて、照射方向DR3における人工衛星5から散乱体Nまでの距離をレンジ距離rとする。
【0032】
ビーム通過アジマス時間ξは、人工衛星5aが、レンジ方向DR3(=照射方向DR3)において、ある散乱体Nの正面にきたときの時間でもある。ビーム通過アジマス時間ξは、スクイント角θsqを変えなかった場合(=代表スクイント角)にアンテナ(レーダー)の真正面に散乱体Nが来る時刻である。上述したように、照射方向DR3は、ゼロドップラー方向DR2に対して、スクイント角θsq傾斜している。
【0033】
そして、一方の軸をビーム通過アジマス時間ξとし、他方の軸をレンジ距離rとして展開される座標系を第1座標系(ξ-r系)と呼ぶ。すなわち、本明細書中のξ-r系とは、一方の軸が、人工衛星5が照射するレーダーが散乱体Nを通過する時間(ビーム通過アジマス時間ξ)を表す第1軸であり、他方の軸が、照射方向DR3における人工衛星5から散乱体Nまでの時間(レンジ時間τとよぶ、後述する)又は距離(レンジ距離r)を表す第2軸である。第1軸は、ビーム通過アジマス時間軸と呼ぶ。ビーム通過アジマス時間軸は、ビーム通過アジマス時間ξに依存する軸である。第2軸は、レンジ時間軸又はレンジ距離軸と呼ぶ。レンジ時間軸は、レンジ時間τに依存する軸であり、レンジ距離軸は、レンジ距離rに依存する軸である。
【0034】
(第2座標系(η-ρ系))
人工衛星5bと散乱体Nとの距離が最も近づいたときの時間を最近接時間ηとし、最近接時間ηにおいて、ゼロドップラー方向DR2(垂直方向DR2)における人工衛星5bから散乱体Nまでの距離をゼロドップラーレンジ距離ρとする(
図2参照)。最近接時間ηは、人工衛星5bが、ゼロドップラー方向DR2(=垂直方向DR2)において、ある散乱体Nの正面にきたときの時間でもある。
【0035】
一方の軸を最近接時間ηとし、他方の軸をゼロドップラーレンジ距離ρとして展開される座標系を第2座標系(η-ρ系)と呼ぶ。すなわち、本明細書中のη-ρ系とは、一方の軸が人工衛星5bと散乱体Nとの距離が最も近づいたときの時間(最近接時間η)を表す軸であり、他方の軸がゼロドップラー方向DR2における人工衛星5bから散乱体Nまでの距離(ゼロドップラーレンジ距離ρ)又は時間(ゼロドップラーレンジ時間)を表す軸である。
【0036】
なお、
図1に示すように平らな地表面Eとそれに平行となる直線である軌道に基づいて用語や座標系について説明してきたが、球状の地表面E、曲線状の衛星軌道に対しても、当該用語や座標系の定義は同様である。また、曲面である地表面と曲線である衛星軌道とによって取得されたレーダー画像に対して、地表面を平面に衛星軌道を直線に近似してレーダー画像を取得できることは公知である。この近似幾何上でのスクイント角を実効スクイント角等と呼称するが、以下の説明では特にそれらを区別しない。
【0037】
図3は、人工衛星5に係る信号を説明するための概略図である。人工衛星5に搭載されたレーダーは、電磁波のパルス(パルス信号)を次々に観測領域(撮影領域R)に発射(照射)する。そして、観測領域から反射された反射信号を受信する。
【0038】
図3の左図は、人工衛星5が受信した反射信号の分布を表している。
図3の左図は、ξ-r系において、ある散乱体Nに対してレーダーを照射したときにおけるビーム通過アジマス時間ξと、レンジ時間τ(後述する)との関係を示した図である。
図3の左図において、横軸はビーム通過アジマス時間軸を表している。
【0039】
図3の左図において、縦軸は、レンジ時間軸を表す。レンジ時間軸は、レンジ時間τに依存する軸であり、レンジ時間τは、レンジ距離r離れた場所にパルスを発射してから反射信号(反射波)が受信されるまでの時間を表す。レンジ時間τは、レーダー信号が発射されたタイミングから当該レーダー信号に対する反射を表す反射信号を受信するまでの経過時間であるということもできる。なお、縦軸(レンジ時間軸)は、光速をレンジ時間τで乗算した値であるレンジ距離rの往復距離に係る軸(レンジ距離軸)で表されてもよいし、その往復距離を1/2にしたレンジ距離rに係る軸であらわされても良い。
【0040】
図3の左図の楕円状の領域Cの幅は反射信号の強度を表している。例えば、人工衛星5のレーダーの中心が散乱体Nの真正面にさしかかる時間(真正面を通過する時間)をビーム通過アジマス時間ξ
pとする。ビーム通過アジマス時間ξ
pでは、人工衛星5のレーダーの中心が散乱体Nの正面(中心)に当たっている時間なので、反射信号の強度は最も強い(ビーム通過アジマス時間ξ
pにおける楕円状の領域Cの幅は最も大きい)。
【0041】
図3の右図は、
図3の左図に係る反射信号データを周波数領域において2次元フーリエ変換した際のデータである。
図3の右図の横軸は、ビーム通過アジマス時間ξを周波数領域に変換したビーム通過アジマス周波数f
ξに係る軸(以下、ビーム通過アジマス周波数軸とする)である。
【0042】
図3の右図の縦軸は、レンジ時間τを周波数領域に変換したレンジ周波数f
τに係る軸(以下、レンジ周波数軸とする)である。レンジ周波数f
τは、人工衛星5が照射するレーダーの周波数である。レンジ周波数f
τにおける中心周波数f
cは、人工衛星5が照射するレーダー(電磁波)の周波数帯の中心の周波数であり、人工衛星5ごとに予め定められている。
【0043】
図3の領域Dは、反射信号をフーリエ変換した後のスペクトルDである。スペクトルDは、信号が存在する領域であるともいえる。ビーム通過アジマス周波数軸方向とレンジ周波数軸方向のそれぞれに、スペクトルDの帯域が広がっている。第1座標系(ξ-r系)が用いられる場合、スペクトルDは、平行四辺形状になる。
【0044】
多数の散乱体Nに対して、
図3の左図及び右図のような反射信号に係るデータの各々を集約することにより、SAR画像が形成される。すなわち、
図3の左図及び右図のような、レーダーの反射信号に係るデータは、画素データということもできる。画素データは、2次元の格子の各々に対して紐づけられた値である。
【0045】
図4は、2次元の格子のイメージ図である。
図4では、一方の軸がビーム通過アジマス時間軸、他方の軸がレンジ時間軸である。
図4のレンジ時間軸は、ゼロドップラー方向DR2に対して、スクイント角θ
sq傾いている。
【0046】
図4に示す領域Kは、1つの格子Kを示している。1つの格子Kに対して、1つの散乱体Nに係るデータ(ビーム通過アジマス時間、レンジ時間、位相、振幅、信号強度など)が紐づいている。格子は、空間を分割する複数の縦の線と横の線との各々を意味する。格子で囲まれた平行四辺形のメッシュは画素に相当する。すなわち、SAR画像は、多数のメッシュで構成される。2次元の格子は、
図1に示す投影面(面P)内における座標系を示している。
【0047】
図4のように格子Kの2軸をビーム通過アジマス時間軸、及びゼロドップラー方向DR2に対してスクイント角θ
sq傾いたレンジ時間軸とすることにより、2次元の各格子Kが、ビーム通過アジマス時間ξ、及びレンジ時間τに紐づける形で、各散乱体Nの位相と絶対値(振幅や信号強度とも言う)を画素データとして記録する(記憶部3に記憶する)。また、格子Kが、
図3の左図の反射信号(楕円状の領域C)と対応しているとすると、格子Kは、
図3の左図の反射信号に係るビーム通過アジマス時間ξ、レンジ時間τ、各散乱体Nの位相と絶対値とを、画素データとして記憶している。
【0048】
図3右図の平行四辺形状の領域Dにおいては、当該格子の2軸をビーム通過アジマス周波数軸、及びレンジ周波数軸とすることにより、2次元の各格子が画素データとして、レンジ周波数f
τ、及びビーム通過アジマス周波数f
ξに紐づける形で、各散乱体Nの位相や絶対値を画素データとして記録する。
【0049】
<第1実施形態>
図5は、第1実施形態に係る信号処理装置1の概要を示すブロック図である。信号処理装置1は、分割処理部10、画像処理部20、及びチャープ乗算部30を備えている。
【0050】
(分割処理部10)
分割処理部10は、反射信号を、所定の時間間隔で分割処理する。反射信号は、人工衛星5から照射されるレーダーに対する散乱体Nからの反射を表す信号である。反射信号は、記憶部3に記憶されていてもよく、分割処理部10が人工衛星5から受信した直後の信号であってもよい。
【0051】
図6は、反射信号の分割処理について説明するための概略図である。
図6の黒塗りの領域Hが反射信号の領域である。横軸がアジマス時間(反射信号Hを表す系におけるアジマス時間を、以下単にアジマス時間ξと呼ぶ)、縦軸がアジマス周波数f
ξ(反射信号Hを表す系におけるアジマス周波数を、以下単にアジマス周波数f
ξと呼ぶ)で、反射信号Hをプロットすると
図6のように表現される。分割処理部10は、反射信号を、アジマス時間軸方向において、所定の時間間隔で分割処理する。分割処理部10は、反射信号を、アジマス時間における所定の時間間隔で分割処理する。
【0052】
(分割幅について)
第1実施形態において、分割処理部10は、PRF(Pulse Repetition Frequency)と、反射信号Hの、アジマス周波数f
ξの帯域幅B(
図6参照)との差を用いて、上記所定の時間間隔の幅を設定する。
【0053】
人工衛星5は、レーダーを所定の間隔で発射しているが、当該所定の間隔に対応する周波数がPRF(Pulse Repetition Frequency)である。一般的に、PRFは信号処理におけるサンプリングレートと同じである。偽像が発生する場合があるので、一般的に、信号処理をするにあたっては、PRFよりも小さい帯域幅を扱う。PRFの定義は、非特許文献1に記載されているものと同様である。
【0054】
分割処理部10は、以下の式(1)を用いて、反射信号Hの分割幅T(所定の時間間隔の幅)を設定する。
【数1】
・・・(1)
【0055】
分割処理部10は、上記分割幅Tで、反射信号Hを複数に分割する。反射信号Hを分割した後のそれぞれのデータを以下、サブアパチャと呼ぶ。
【0056】
(画像処理部20)
図5に戻り画像処理部20は、分割処理部10により分割された後の信号データ(サブアパチャ)を用いて、第1座標系(ξ-r系)において画像化処理を実行する。画像処理部20により処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、第1軸(ビーム通過アジマス時間軸)の周波数領域に係る第3軸(ビーム通過アジマス周波数軸)であり、他方の軸が第2軸(レンジ時間軸)の周波数領域に係る第4軸(レンジ周波数軸)であるデータを含んでいる。すなわち、画像処理部20が出力するデータは、一方の軸が、ビーム通過アジマス周波数軸であり、他方の軸がビーム通過レンジ周波数軸であるデータを含んでいる。
【0057】
画像処理部20の画像化処理方法については、任意であるが、例えば、Omega-K Algorithm(非特許文献2参照)を用いて、画像化処理を行ってもよい。なお、画像化処理の方法はOmega-K Algorithmに限らず、Range Doppler Algorithm、Chirp Scaling Algorithm、SVD stolt(非特許文献3参照)、及びExtended Wave Number Domain(非特許文献4参照)でもよい。
【0058】
(Omega-K Algorithm)
非特許文献2を参照して、Omega-K Algorithmを用いた、ξ-r系における画像化処理について説明する。非特許文献2のStolt mapping along the range frequency axisにおいて下記の処理を行うと記載されている。
【0059】
f
0を送信信号の中心周波数、f
τを送信信号の周波数から中心周波数f
0を引いたもの、f
ξをアジマス周波数として、式(2)の位置にあるスペクトルを式(3)に移す(なお、非特許文献2におけるf
ηをf
ξとして記載している(
図6で説明した「反射信号Hを表す系」を用いて記載している))。
【数2】
・・・(2)
【数3】
・・・(3)
【0060】
f’τは新しく定義したレンジ周波数であり、この結果を逆フーリエ変換で時間領域に直すと、Zero Dopplerでのレンジ時間(本明細書でいうゼロドップラーレンジ時間)とアジマス時間(本明細書でいう最近接時間)で結像した結果が得られる。
【0061】
本願の第1座標系(ξ-r系)において結像するには、式(4)の位置にあるスペクトルを式(5)に移す。
【数4】
・・・(4)
【数5】
・・・(5)
【0062】
これにより、第1座標系(ξ-r系)において結像することになる。
【0063】
ここで、式(6)は、式(7)の式(8)まわりでの一次テイラー展開に相当する。
【数6】
・・・(6)
【数7】
・・・(7)
【数8】
・・・(8)
【0064】
また、式(9)は、ドップラーセンタと呼ばれるアジマスの帯域中心に相当する。
【数9】
・・・(9)
【0065】
つまり、上記の変換はfξの一次関数としてあらわされる中で、所望の信号のアジマス帯域中心付近において、もとのレンジ周波数からのシフト量が小さくなるような変換である。そのため、本願におけるレンジ周波数ごとに異なる結合処理を実現する上で必要となる、レンジ周波数の変形が小さいという要件を満たす。
【0066】
すなわち、fτとf’τは近い量としてあつかうことが可能であり、以下のチャープ乗算内において、このように得られたレンジ周波数fτ’をもちいて諸々の処理を実現する。このことは、Omega-K Algorithm以外の他の画像化手法によってξ-r系への画像化を実現した場合でも同様の効果があり、ほかの画像化手法によって得られた画像のレンジ軸にそって周波数領域に変換して得られるレンジ周波数はf'τと同様である。以下で述べるf'τは一般的にξ-r系においてレンジrに対応する周波数を指すこととする。
【0067】
(チャープ乗算部30)
チャープ乗算部30は、第1軸(ビーム通過アジマス時間軸)又は第3軸(ビーム通過アジマス周波数軸)に係るチャープ関数(チャープ波形、チャープ信号)を第1信号データ(画像処理部20により処理されて得られる信号データ)に乗算する。
【0068】
チャープ乗算部30が、チャープ関数をアジマス周波数領域で乗算し、アジマス時間領域に逆フーリエ変換し、もう一度チャープ関数を乗算し、アジマス周波数領域にフーリエ変換し、もう一度チャープ関数を乗算し、アジマス時間領域に逆フーリエ変換すると、拡大した画像が得られる。この処理を、サブアパチャ(分割処理部10により分割された後の信号データ)のそれぞれに適切な順番で適用することで、高解像度のSAR画像の生成を行うことができる。
【0069】
第1実施形態において、チャープ乗算部30は、第3軸(ビーム通過アジマス周波数軸)に係る回り込みによる影響を除去して、第1信号データにチャープ関数を乗算する。
【0070】
(回り込み)
図7は、回り込みを説明するためのイメージ図である。
図7の左図のように、PRFが十分に大きい場合、スペクトルDの全ての信号がサンプリング可能となる。すなわち、スペクトルD内の全ての信号を対象としてサンプリングしようとすると、スペクトルDを包含する領域Aを対象とする必要がある。なお、サンプリングは、ビーム通過アジマス周波数軸とレンジ周波数軸との2軸のそれぞれに沿って実行されるとする。
【0071】
しかし、PRFが小さい場合(
図7の右図)、スペクトルDが巡回シフト(circular shift)したかのようになる。具体的には、領域M1の部分が、領域M1’の部分にシフトし、領域M2の部分が、領域M2’の部分にシフトする。本明細書ではこの現象を「回り込み」と表現する。
【0072】
離散フーリエ変換は、ある長さの離散信号を周波数領域に変換するものであって、同じ要素数を持つ配列に収める、配列から配列への変換である。二次元の配列のことを画像と呼ぶ。二次元のフーリエ変換、離散フーリエ変換、及び離散時間フーリエ変換は、二次元の各次元に対して一次元と同様のフーリエ変換の処理を行うことに相当する。
【0073】
このとき、出力として得られる配列の各要素番号がどの周波数に対応しているのかについては、エイリアシング等と呼ばれる現象によって一意には定まらなくなる。この現象の結果、高周波数の成分が小さなインデックスに、低周波数の成分が大きなインデックスに入ることが起こり、スペクトルを巡回シフト(circular shift)したかのようになるため、これを本明細書では「回り込み」と表現する。
【0074】
(ハードウエア構成例)
図8は、信号処理装置1のハードウエア構成例を示す図である。信号処理装置1は、バス1010、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060を有する。
【0075】
バス1010は、プロセッサ1020、メモリ1030、ストレージデバイス1040、入出力インタフェース1050、及びネットワークインタフェース1060が、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路である。ただし、プロセッサ1020などを互いに接続する方法は、バス接続に限定されない。
【0076】
プロセッサ1020は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などで実現されるプロセッサである。
【0077】
メモリ1030は、RAM(Random Access Memory)などで実現される主記憶装置である。
【0078】
ストレージデバイス1040は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、メモリカードなどのリムーバブルメディア、又はROM(Read Only Memory)などで実現される補助記憶装置であり、記録媒体を有している。ストレージデバイス1040の記録媒体は信号処理装置1の各機能(例えば、分割処理部10、画像処理部20、及びチャープ乗算部30)を実現するプログラムモジュールを記憶している。プロセッサ1020がこれら各プログラムモジュールをメモリ1030上に読み込んで実行することで、そのプログラムモジュールに対応する各機能が実現される。また、ストレージデバイス1040は信号処理装置1に接続された記憶部3として機能してもよい。
【0079】
入出力インタフェース1050は、信号処理装置1と各種入出力機器とを接続するためのインタフェースである。
【0080】
ネットワークインタフェース1060は、信号処理装置1をネットワークに接続するためのインタフェースである。このネットワークは、例えばLAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)である。ネットワークインタフェース1060がネットワークに接続する方法は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。信号処理装置1は、ネットワークインタフェース1060を介して人工衛星5と通信してもよい。
【0081】
(信号処理のフロー)
図9は、第1実施形態に係る信号処理装置1の信号処理のフロー図である。
図9を用いて、第1実施形態に係る信号処理装置1の信号処理について説明する。
【0082】
ステップS100では、分割処理部10は、反射信号を、
図6に示すようにビーム通過アジマス時間軸において、所定の時間間隔で分割処理する。
【0083】
ステップS200では、画像処理部20は、分割処理部10により分割された後の信号データ(サブアパチャ)を用いて、第1座標系(ξ-r系)において画像化処理を実行する。
【0084】
図10は、第2座標系(η-ρ系)での画像化処理を説明するための概略図である。
図10の横軸は、最近接時間ηを周波数領域に変換したアジマス周波数、縦軸は、ゼロドップラーレンジ時間を周波数領域に変換したゼロドップラーレンジ周波数である。なお、
図10の縦軸は、レンジ周波数で表されていてもよい。
【0085】
図10の左図は、反射信号の二次元スペクトルを表している。
図10の左図の領域Sは、分割処理部10により分割された後の信号データ(サブアパチャS)を示している。
図10の左図では、4つのサブアパチャSがアジマス周波数軸に沿って並んでいる。
【0086】
図10の右図は、画像処理部が第2座標系(η-ρ系)で画像化処理をした場合の図である。
図10の右図で示すように、第2座標系で画像化処理をした場合、画像処理後のスペクトルがスクイント角に依存した傾きを持つことになる。この場合、レンジ周波数ごとにチャープ乗算をしようとしても(後述する)、サブアパチャS’ごとにレンジ周波数の帯域が変わっているので、処理が非常に複雑になる。
【0087】
画像処理部20が、分割処理部10により分割された後の信号データ(サブアパチャ)を用いて、第1座標系(ξ-r系)において画像化処理をすることで、画像化処理の後に出力されるスペクトルがスクイント角に依存した傾きを持つことを抑制することができる。そのため、レンジ周波数帯域ごとにチャープ乗算処理をしやすくなる。
【0088】
なお、
図9のステップS200において、画像処理部20が最終的に出力するデータ(第1信号データ)は、一方の軸が、第3軸(ビーム通過アジマス周波数軸)であり、他方の軸が第4軸(レンジ周波数軸)であるデータを含んでいる。すなわち、画像処理部20は、画像化処理の過程で、処理するデータをビーム通過アジマス周波数領域・レンジ周波数領域に変換する。
【0089】
第1実施形態において、画像処理部20は、所定のアルゴリズムを用いて、画像化処理の最中で処理するデータをビーム通過アジマス周波数領域・レンジ周波数領域に変換しているが、画像化処理とビーム通過アジマス周波数領域・レンジ周波数領域に変換する処理とが分かれていてもよい。すなわち、画像処理部20が画像化処理した後に、画像処理部20が出力したデータを、画像処理部20がビーム通過アジマス周波数領域・レンジ周波数領域にフーリエ変換してもよい。
【0090】
図9に戻りステップS300では、チャープ乗算部30は、第1軸(ビーム通過アジマス時間軸)又は第3軸(ビーム通過アジマス周波数軸)に係るチャープ関数を第1信号データ(画像処理部20が出力するデータ)に乗算する。
【0091】
第1実施形態において、スクイントした際に顕著になるレンジ周波数ごとのシフト量の違いを打ち消すため、先行技術とは異なり、チャープ乗算部30は、レンジ周波数ごとに異なる処理を行う。
【0092】
(チャープ乗算処理)
図11は、第1実施形態に係るチャープ乗算部30の処理の詳細を示すフロー図である。
図11を用いて、第1実施形態に係るチャープ乗算部30の処理の詳細について説明する。ステップS310では、チャープ乗算部30は、ビーム通過アジマス周波数領域におけるチャープ関数を第1信号データに乗算する。ステップS310のスケーリングチャープ乗算処理は、画像処理部20により結像された像を拡大する処理であり、非特許文献1中においてそのパラメータがscaling Doppler rateやscaling rangeと呼ばれている二次の位相の挿入と同じ処理である。スケーリングチャープ乗算処理を行うことで、後述するサブアパチャの結合処理を実行することができる(像が小さいと結合できない)。
【0093】
スケーリングチャープ乗算処理の一例を以下に示す。
撮像領域中心と、撮影時刻中心の衛星位置との距離をr
scとして、スケーリングチャープ乗算処理に関する式を以下の式(10)のように示す。
【数10】
・・・(10)
なお、式(10)以降の式は、第1座標系(ξ-r系)において、表現されており、f
τ、f’
τはレンジ周波数であり、f
ξはビーム通過アジマス周波数を示している。
チャープ乗算部30では、レンジ周波数・ビーム通過アジマス周波数領域のスペクトルS
2d (f'
τ,f
ξ)に対して、チャープ関数が以下式(11)のように表される。
【数11】
・・・(11)
式(10)のgの関数にはf
ξに対する定数項が入っているが、抜いても、後述するphase maintenanceの際に相殺すれば問題はない。したがって、式(10)は以下のような式(12)で表すことができる。
【数12】
・・・(12)
なお、f'
τを定数とみなし、たとえば送信信号の周波数の中心で代表させることでf’
τの影響を除去しても構わない。この場合、ステップS320以降の処理が簡易化できる場合がある。
【0094】
チャープ乗算部30は、レンジ周波数ごとの処理として回り込み(
図7参照)を考慮する。回り込みの考慮方法について以下に述べる。
【0095】
(回り込みの考慮方法)
図12は、回り込みの考慮方法を説明するための図である。
図12を用いて回り込みの考慮方法について説明する。
【0096】
各レンジ周波数における帯域はおよそ以下の式(13)のように表される。
【数13】
・・・(13)
一方でアジマス離散フーリエ変換を行った場合、その離散サンプリングのレートによって回り込みが生じる。アップサンプリングが行われていない場合、離散サンプリングのレートはPRFと同じなので、離散フーリエ変換結果の上において以下の式(14)に現れるようになる。
【数14】
・・・(14)
ただし0以下になる部分、PRF以上になる部分は回り込みを起こす。
【0097】
よって、以下の式(15)を満たすf’
τに対しては、以下の式(16)の整数部をNとして、
【数15】
・・・(15)
【数16】
・・・(16)
離散フーリエ変換後の周波数である以下の式(17)を、以下の式(18)とみなし、
【数17】
・・・(17)
【数18】
・・・(18)
以下の式(19)を、以下の式(20)とみなして処理すればよい。
【数19】
・・・(19)
【数20】
・・・(20)
【0098】
また、以下の式(21)を満たすf’
τに対しては、以下の式(22)の整数部をNとして、
【数21】
・・・(21)
【数22】
・・・(22)
離散フーリエ変換後の周波数である以下の式(23)を、以下の式(24)とみなし、
【数23】
・・・(23)
【数24】
・・・(24)
以下の式(25)を、以下の式(26)とみなして処理すればよい。
【数25】
・・・(25)
【数26】
・・・(26)
【0099】
このようにして、チャープ乗算部30は、第3軸(ビーム通過アジマス周波数軸)に係る回り込みによる影響を除去してチャープ関数を乗算する。
【0100】
図11に戻りステップS320では、チャープ乗算部30は、ステップS310の後のデータをビーム通過アジマス時間領域に逆フーリエ変換する。
【0101】
ステップS330では、チャープ乗算部30は、サブアパチャの結合処理を実行する。
【0102】
ステップS340では、チャープ乗算部30は、ビーム通過アジマス時間におけるチャープ関数を乗算する。ステップS340は、非特許文献1に示すDe-rotation処理と同様である。ステップS340のチャープ乗算処理(Derotation処理)は、スケーリングチャープ乗算処理の影響の一部を除去する処理である。
【0103】
Derotation処理の一例を以下に示す。スケーリングチャープ乗算処理で述べたSscaled(f’τ,fξ)を逆フーリエ変換でビーム通過アジマス時間領域に戻し、非特許文献1同様にビーム通過アジマス時間方向にサブアパチャを結合したデータに関する関数をSjoin(f’τ,ξ)とする。
【0104】
Derotation処理は、以下の式(27)を用いて処理される。
【数27】
・・・(27)
ただし、g
rot(f’
τ,ξ)は以下の式(28)で表される。
【数28】
・・・(28)
【0105】
ステップS350では、チャープ乗算部30は、ステップS340の後のデータをビーム通過アジマス周波数領域にフーリエ変換する。
【0106】
ステップS360では、チャープ乗算部30は、ビーム通過アジマス周波数領域におけるチャープ関数を乗算する。ステップS360は、非特許文献1に示すAzimuth compression and weighting処理と同様である。ステップS360のチャープ乗算処理(Compression処理)は、Derotation処理でスケーリングチャープ乗算処理の影響のうち除去しきれなかったものを除去する処理である。
【0107】
Compression処理の一例を以下に示す。S
derot(f’
τ,ξ)をアジマス周波数領域にフーリエ変換したものをS
derot(f’
τ, f
ξ)とすると、Derotation処理は、以下の式(29)を用いて処理される。
【数29】
・・・(29)
ただし、g
comp(f’
τ,f
ξ)は、以下の式(30)で表される。
【数30】
・・・(30)
【0108】
ステップS370では、チャープ乗算部30は、ステップS360の後に得られたデータをビーム通過アジマス時間領域に逆フーリエ変換する。
【0109】
ステップS380では、チャープ乗算部30は、ビーム通過アジマス時間におけるチャープ関数を乗算する。ステップS380は、非特許文献1に示すPhase preservation処理で得られる効果を得るための処理である。ステップS380のチャープ乗算処理(Phase maintenance処理)は、位相の誤差を除去する処理である。
【0110】
Phase maintenance処理の一例を以下に示す。
S
comp(f’
τ,f
ξ)をビーム通過アジマス時間領域に逆フーリエ変換したものをS
comp(f’
τ,ξ)とすると、Phase maintenance処理は、以下の式(31)を用いて処理される。
【数31】
・・・(31)
ただし、g
maintenance(f’
τ,ξ)は、以下の式(32)で表される。
【数32】
・・・(32)
【0111】
ステップS390では、チャープ乗算部30は、ステップS380の後に得られるデータをレンジ時間領域に逆フーリエ変換する。以上のステップを経ることで、第1座標系に結像されたSAR画像の高解像度画像が得られる。
【0112】
以上、第1実施形態の信号処理装置1は、分割処理部10と画像処理部20とチャープ乗算部30とを備えている。
【0113】
人工衛星5の送信信号が広帯域であって、かつ、スクイント角が大きい場合、送信信号の各周波数において生じるドップラーシフト量が著しく異なることになり、アジマス方向(進行方向)にエイリアシングを起こしやすい。エイリアシングの発生を抑制するためには、サンプリングレートを上げることが挙げられるが、サンプリングレートを上げると、メモリ消費量や信号処理量が増加する。
【0114】
しかし、分割処理部10がビーム通過アジマス時間(衛星の移動時間)ごとに反射信号を区切って(サブアパチャ)画像化し、その画像化結果を再合成(
図11のステップS330)することで、各サブアパチャに対してはサンプリングレートを上げることなく処理することができる。これにより、メモリ消費量や信号処理量の増加を抑制することができる。
【0115】
また、画像処理部20が第1座標系において画像化処理を実行することにより、結像後においてレンジ周波数の変化幅を小さくすることができるので、レンジ周波数ごとに処理しやすくなる。
【0116】
また、画像処理部20により処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、ビーム通過アジマス周波数軸であり、他方の軸がレンジ周波数軸であるデータを含み、チャープ乗算部30は、アジマス周波数軸に係る回り込みによる影響を除去してチャープ関数を乗算する。
【0117】
これにより、レンジ周波数領域で、チャープ乗算処理することができる。仮に、レンジ時間領域でチャープ乗算処理すると、回り込みが発生した場合に、回り込んだ信号が混ざり合って分離して処理できなくなる。レンジ周波数領域で、チャープ乗算処理する場合、サンプリングレート(PRF)を小さく設定して回り込みが発生したとしても、チャープ乗算部30が回り込みによる影響を除去してチャープ乗算処理を行うことができる。そのため、サンプリングレート(PRF)を小さく設定することができる。したがって、メモリ消費量や信号処理量の増加を抑制することができる。
【0118】
さらに、分割処理部10は、PRF(Pulse Repetition Frequency)と、反射信号Hの、ビーム通過アジマス周波数軸に係る周波数の帯域幅Bとの差を用いて、所定の時間間隔の幅を設定する。これにより、分割処理部10は、分割幅を効果的に設定することができる。
【0119】
<第2実施形態>
図13は、第2実施形態に係るチャープ乗算部30の処理の詳細を示すフロー図である。
図13を用いて、第2実施形態に係るチャープ乗算部30の処理の詳細について説明する。第2実施形態に係る信号処理装置1は、第1実施形態に係る信号処理装置1と、チャープ乗算部30の機能が異なっている。
【0120】
図13のフローについて、ほとんど第1実施形態と同じであるが、第2実施形態ではステップS390がなく、かつ、ステップS320の代わりにステップS321の処理がある。
【0121】
ステップS310からステップS380までの処理は、第1実施形態と同様である。ステップS321では、チャープ乗算部30は、ステップS310の後のデータをビーム通過アジマス時間領域及びレンジ時間領域に逆フーリエ変換する。
【0122】
第1実施形態で説明したf’τの依存性を、回り込み以外の部分で無視すれば、第2実施形態に係る信号処理装置1においても、第1実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0123】
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態に係る信号処理装置1の概要を示すブロック図である。第3実施形態に係る信号処理装置1は、第1実施形態に係る信号処理装置1と異なり、座標系変換部40をさらに備えている。
【0124】
座標系変換部40は、チャープ乗算部30により処理されて得られた第2信号データのうち、第1座標系に基づいている第3信号データを取得する。座標系変換部40は、当該第3信号データを、第1座標系とは異なる第2座標系(η-ρ系)に基づいている第4信号データに変換する。座標系変換部40は、チャープ乗算部30により処理された影響を除去してから、当該第3信号データを当該第4信号データに変換する。座標系変換部40の処理の詳細については後述する。
【0125】
(座標系変換処理)
図15は、第3実施形態に係る信号処理装置1の処理を示すフロー図である。
図15を用いて、第3実施形態に係る信号処理装置1の信号処理について説明する。ステップS100からステップS300は第1実施形態と同様である。ステップS400では、座標系変換部40は、第1座標系(ξ-r系)に基づいている第3信号データを、第2座標系(η-ρ系)に基づいている第4信号データに変換する。
【0126】
図16は、ステップS400の処理の詳細を示すフロー図である。
図16を用いて、ステップS400の詳細について説明する。前提として、ξ-r系における結像結果、及びスクイント角が既知であるとする。
【0127】
ステップS410において、座標系変換部40は、チャープ乗算部30により処理されて得られた第2信号データのうち、第1座標系(ξ-r系)に基づいている第3信号データを取得する。
【0128】
ステップS420において、座標系変換部40は、チャープ乗算部30のスケーリングチャープ乗算処理により拡大された像の拡大率を計算する。非特許文献1に記載されているように、スケーリングチャープ乗算処理により、SAR画像はビーム通過アジマス軸方向に1/(1―rscl/rrot)倍に拡大されて再生されるので、その拡大率を計算する。
【0129】
ステップS430において、座標系変換部40は、人工衛星5の各アジマス時間(アジマス位置)に対して、拡大率の逆数(1―rscl/rrot)を第3信号データに乗算して、縮小する。
【0130】
ステップS440において、座標系変換部40は、実際の衛星位置と、縮小した後の衛星位置との相対位置に基づいて、各画素データの人工衛星5に対する位置情報(ξ-r系)を各々算出する。画素データの人工衛星5に対する位置情報とは、画素データに対応する散乱体Nと、人工衛星5との距離(レンジ距離)、又はレンジ時間に関する情報である。
【0131】
ステップS450において、座標系変換部40は、各画素データと人工衛星5との最近接距離及び最近接時間を算出する。最近接距離は、ある画素データに対応する散乱体Nと人工衛星5とが最も近づく際の距離である。すなわち、最近接距離は、η-ρ系における人工衛星5から散乱体Nまでの距離であり、ゼロドップラーレンジ距離ρである。最近接距離は、最近接時間における人工衛星5から散乱体Nまでの距離でもある。最近接時間は、人工衛星5が最近接距離にあるときの時間でもある。
【0132】
ステップS460において、座標系変換部40は、第3信号データの座標系を第2座標系に基づいている第4信号データに変換する。座標系変換部40は、ステップS450で算出した最近接時間に係る軸をアジマス時間軸、最近接距離に係る軸をゼロドップラーレンジ時間(距離)軸としてデータ変換する。このようにして、座標系変換部40は、チャープ乗算部30により処理された影響を除去してから、第3信号データに係るξ-r系を、第4信号データに係るη-ρ系に変換する。
【0133】
以上、第3実施形態に係る信号処理装置1は、座標系変換部40をさらに備えている。これにより、チャープ乗算処理の影響を除去して、SAR画像の傾きを修正することができる。そのため、人の目でも見やすいSAR画像を生成することができる。
【0134】
<第4実施形態>
図17は、第4実施形態に係る信号処理装置1の概要を示すブロック図である。第4実施形態に係る信号処理装置1は、第1実施形態に係る信号処理装置1と異なり、位置情報変換部50をさらに備えている。
【0135】
位置情報変換部50は、チャープ乗算部30により処理されて得られた第2信号データに紐づく画素データの位置情報を、チャープ乗算部30により処理された影響を除去してから、地球上での位置情報に変換する。画素データは、位置情報を保有している。当該位置情報は、当該画素データに対応する散乱体Nと人工衛星5とのレンジ距離rに関する情報を含む。
【0136】
(位置情報変換処理)
図18は、第4実施形態に係る信号処理装置1の処理を示すフロー図である。
図18を用いて、第4実施形態に係る信号処理装置1の信号処理について説明する。ステップS100からステップS300は第1実施形態と同様である。ステップS500では、位置情報変換部50は、チャープ乗算部30により処理された影響を除去してから、第2信号データに紐づく画素データの位置情報を、地球上での位置情報に変換する。
【0137】
図19は、第4実施形態に係る位置情報変換部50の処理の詳細を示すフロー図である。
図19を用いて、位置情報変換部50の処理の詳細について説明する。前提として、ξ-r系における結像結果、軌道データ、地形データ及びスクイント角が既知であるとする。
【0138】
ステップS510において、位置情報変換部50は、チャープ乗算部30により処理されて出力された第2信号データを、チャープ乗算部30から取得する。
【0139】
ステップS520において、座標系変換部40は、チャープ乗算部30のスケーリングチャープ乗算処理により拡大された像の拡大率を計算する。第4実施形態においても同様に、非特許文献1に記載されているように、スケーリングチャープ乗算処理により、SAR画像はアジマス方向に1/(1―rscl/rrot)倍に拡大されて再生されるので、その拡大率を計算する。
【0140】
ステップS530において、座標系変換部40は、人工衛星5の各ビーム通過アジマス時間(アジマス位置)に対して、拡大率の逆数(1―rscl/rrot)を第2信号データに乗算して、縮小する。
【0141】
ステップS540において、位置情報変換部50は、ξ-r系において、各画素データに対応する、ビーム通過アジマス時間ξにおける人工衛星5の位置に関する情報と、人工衛星5の速度に関する情報(速度ベクトル)を、それぞれ取得する。位置情報変換部50は、記憶部3に記憶された軌道データから当該人工衛星5の位置に関する情報及び当該人工衛星5の速度に関する情報を取得してもよいし、人工衛星5から直接取得してもよい。
【0142】
ステップS550において、位置情報変換部50は、当該各画素データについて、人工衛星5の位置からの相対位置を、レンジ距離rを用いて算出する。
【0143】
ステップS560において、位置情報変換部50は、ビーム通過アジマス時間ξにおける人工衛星5の速度ベクトルと平行な直線であって、人工衛星5のアジマス位置を通る直線を軸にして、各画素データに対応した場所を回転させ(回転半径は、レンジ距離r)、各画素データに対応した場所が描く軌跡を算出する。
【0144】
ステップS570において、位置情報変換部50は、当該軌跡と、地球とが交わる点をその画素データの地上位置とする。地球表面の位置データは、記憶部3に記憶された地形データより抽出してもよい。このようにして、位置情報変換部50は、チャープ乗算部30により処理された影響を除去(拡大率を計算し、拡大率の逆数を乗算して縮小)してから、第2信号データに紐づく画素データの位置情報を、地球上での位置情報に変換する。
【0145】
以上、第4実施形態に係る信号処理装置1は、位置情報変換部50をさらに備えている。第4実施形態に係る信号処理装置1では、従来の座標系(η―ρ系)に変換する処理をすることなく、直接的に画素データの位置情報を、地球上での位置情報に変換することができる。そのため、簡易にSAR画像の傾きを修正することができる。
【0146】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0147】
なお、信号処理装置1は、1つのコンピュータにより実現されてもよい。また、信号処理装置1は、2つ以上のコンピュータにより実現されてもよい。例えば、信号処理装置1は、複数のコンピュータに信号処理装置1の各機能(分割処理部10、画像処理部20、及びチャープ乗算部30)をそれぞれ任意に搭載させて実現されてもよい。
【0148】
また、上述の説明で用いた複数のフローチャートでは、複数の工程(処理)が順番に記載されているが、各実施形態で実行される工程の実行順序は、その記載の順番に制限されない。各実施形態では、図示される工程の順番を内容的に支障のない範囲で変更することができる。また、上述の各実施形態は、内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【0149】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下に限られない。
1. 飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理する分割処理手段と、
前記分割処理手段により分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行する画像処理手段と、を備え、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
前記画像処理手段により処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算するチャープ乗算手段をさらに備え、
前記チャープ乗算手段は、前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する、信号処理装置。
2. 1.に記載の信号処理装置において、
前記分割処理手段は、PRF(Pulse Repetition Frequency)と、前記反射信号の、アジマス周波数の帯域幅との差を用いて、前記所定の時間間隔の幅を設定する、信号処理装置。
3. 1.又は2.に記載の信号処理装置において、
前記チャープ乗算手段により処理されて得られた第2信号データのうち、前記第1座標系に基づいている第3信号データを取得し、前記第3信号データを、前記第1座標系とは異なる第2座標系に基づいている第4信号データに、前記チャープ乗算手段により処理された影響を除去してから変換する座標系変換手段をさらに備え、
前記第2座標系は、一方の軸が前記飛翔体と前記散乱体との距離が最も近づいたときの時間を表す軸であり、他方の軸が前記進行方向に前記垂直な方向における前記飛翔体から前記散乱体までの距離又は時間を表す軸である、信号処理装置。
4. 1.から3.のいずれか1項に記載の信号処理装置において、
前記チャープ乗算手段により処理されて得られた第2信号データに紐づく画素データの位置情報を、前記チャープ乗算手段により処理された影響を除去してから、地球上での位置情報に変換する位置情報変換手段をさらに備える、信号処理装置。
5. 1つ以上のコンピュータが、
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理し、
分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行し、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
画像化処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算し、
前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する、信号処理方法。
6. 1つ以上のコンピュータに、
飛翔体から照射されるレーダーに対する散乱体からの反射を表す反射信号を、所定の時間間隔で分割処理する手順、
分割された後の信号データを用いて、第1座標系において画像化処理を実行する手順、
前記第1座標系は、一方の軸が、前記飛翔体が照射するレーダーが前記散乱体を通過する時間を表す第1軸であり、他方の軸が、前記飛翔体が前記レーダーを照射する照射方向における前記飛翔体から前記散乱体までの時間又は距離を表す第2軸であって、
前記照射方向は、前記飛翔体の進行方向と前記照射方向とで定義される面内において前記進行方向に垂直な方向に対して斜めに傾斜しており、
画像化処理されて得られた第1信号データは、一方の軸が、前記第1軸の周波数領域に係る第3軸であり、他方の軸が前記第2軸の周波数領域に係る第4軸であるデータを含み、
前記第1軸又は前記第3軸に係るチャープ関数を前記第1信号データに乗算する手順、
前記第3軸に係る回り込みによる影響を除去して前記チャープ関数を乗算する手順、を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0150】
1 信号処理装置
3 記憶部
5 人工衛星
5a 人工衛星
5b 人工衛星
10 分割処理部
20 画像処理部
30 チャープ乗算部
40 座標系変換部
50 位置情報変換部
DR1 進行方向、アジマス方向
DR2 垂直方向、ゼロドップラー方向
DR3 照射方向、レンジ方向
N 散乱体