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  • 特開-血管硬化度算出方法 図1
  • 特開-血管硬化度算出方法 図2
  • 特開-血管硬化度算出方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143491
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】血管硬化度算出方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20241003BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20241003BHJP
   A61B 5/0225 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61B5/02 A
A61B5/022 400A
A61B5/0225 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056207
(22)【出願日】2023-03-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】723003878
【氏名又は名称】石黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA07
4C017AA08
4C017AA09
4C017AB01
4C017BC11
4C017BD04
4C017BD05
4C017CC02
4C017DE01
4C017FF05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】動脈局所のスティフネスパラメータβを求める方法は、動脈硬化を非観血的に定量診断する最良の手法であるが、収縮期・拡張期の血管径の変化を精度良く測定するために、高精度・高価格な装置と高度な画像解析技術が必要であるため普及に至っていない。これを解決する手法として、CAVIが導入されたが、CAVIは、局所ではなく血管系全体の評価になってしまう。また、モデルと比較する方法も提案されているが、厳密さに欠けることはいなめない。
【解決手段】本発明では、(1)カフ圧を大きくかけなくても正確に脈波を取得できる、高感度で小型なセンサを使い、2点の微小カフ圧下での収縮期と拡張期の血管径変化量の比を皮膚表面から計測し、(2)同時に測定した、収縮期血圧と拡張期血圧と合わせ、多元連立方程式を数値解析的に解き、スティフネスパラメータβを直接求めることで、上記の課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2点の微小カフ圧下での収縮期と拡張期の血管径変化量の比の測定値と収縮期血圧と拡張期血圧とで、林の式
ln(P/Pstd)=β(D/Dstd&#8722;1)
を応用した、多元連立方程式を解き、スティフネスパラメータβを直接求める
ことを特徴とする血管硬化度算出方法。
【請求項2】
前記の、2点の微小カフ圧下での収縮期と拡張期の血管径変化量の比を、センサを使って体表面から変位波形として測定することを特徴とする請求項1記載の血管硬化度算出方法。
【請求項3】
前記センサが速度検出型の振動センサであることを特徴とする請求項2記載の血管硬化度算出方法。
【請求項4】
前記多元連立方程式が、
ln((Ps-Po)/(Pd-Po)) = β(Ds/Dd-1)
ln((Ps-Pc)/(Pd-Pc)) = β(Dsc/Ddc-1)
ln((Pd-Pc)/(Pd-Po)) = β(Ddc/Dd-1)
ln((Ps-Pc)/(Ps-Po)) = β(Dsc/Ds-1)
(Ds-Dd) / (Dsc-Ddc) = e
但し、Psは収縮期血圧、Pdは拡張期血圧、カフ圧Poをかけた時の収縮期血管径をDs 、拡張期血管径をDd、カフ圧Pcをかけた時の収縮期血管径をDsc 、拡張期血管径をDdc、カフ圧をPcからPoに変化させた際の、血管径変化量の比の計測値をeとする。
であることを特徴とする請求項1記載の血管硬化度算出方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管の硬化度を算出する血管硬化度算出装置、および、演算処理装置内で実
行されその演算処理装置を血管硬化度算出装置として動作させる血管硬化度算出プログラ
ムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、益々の高齢化社会を迎え、動脈硬化性疾患の早期診断、早期治療への対策が急務
とされている。このためには、先ずは、動脈硬化がどの程度進んでいるかを正しく測定、
評価する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許第6028898号
動脈硬化を非観血的に定量診断する手法の1つとして、動脈のスティフネスパラメータβを測定する検査法が注目されている。スティフネスパラメータβ は,収縮期および拡張期の、心拍動に伴う血管径の変化と測定時の血圧から算出される、局所の動脈壁の固有の硬化度(硬さ)を示す指標である。同一局所の血管でも、血圧の変動により血管壁の伸展性は変化するが、測定時血圧で補正することにより血圧の影響を受けにくい指標として提唱された。臨床においては、(1)エコートラッキングシステムを装備した超音波法による総頸動脈、大腿動脈の体表動脈、腹部大動脈の局所の血管径の変化、および(2)局所動脈内血圧の代替として上腕動脈の収縮期血圧および拡張期血圧の測定値を用いた定義式から算出される。しかし、本手法では、0.1 mm単位での血管径の測定精度を得るために、高解像度プローブ(7.5MHz以上)を搭載した超音波機器で測定することが必要であるため、普遍性・再現性などの問題が指摘され、普及に至っていない。
【0004】
特許第4606836号
そこで、この問題を解決するために、大動脈起始部から、下肢、足首までの動脈全体の弾性を表す指標であるCAVIが開発された。スティフネスパラメータβは、局所の動脈スティフネスを示すが、これを長さのある血管に応用したのがCAVIであり、局所の値を対象血管全体に対して加算平均した値と考えられる。それを可能にしたのは、血管径の変化はPWV(脈波伝搬速度、Pulse Wave Velocity)の2乗に関係するというBramwell-Hillの式を使うことで、動脈全体のスティフネスを求めている。しかし、本来,局所の血管径変化と血圧変化から求めるスティフネスパラメータβを長さのある血管に当てはめることに意味があるかという議論があり、CAVIも確立された評価方法に至っていない。
【0005】
特許第5751540号
また、局所の血管径の変化を推定するために、圧力を変化させながら血管を加圧し、加圧中の血管の圧力を測定し、血管圧力計算手段により、圧力段階毎に、血管の圧力の平均圧力と圧力振幅とを求め、その結果を、あらかじめ用意した、平均圧力に対する圧力振幅の変化に関する特性指標とスティフネスパラメータとの関係性に関するモデルと比較することで、スティフネスパラメータβを求めるという手法も提案されている。しかし、この手法は、モデルを使うために、測定した結果といいづらいという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、動脈局所のスティフネスパラメータβを求める方法は、血管弾性を厳密に評価できるため、動脈硬化を非観血的に定量診断する最良の手法であるが、収縮期・拡張期の血管径の変化を精度良く測定するために、高精度・高価格の超音波診断装置と高度な画像解析技術が必要であるため普及に至っていない。また、これを解決する手法として、CAVIが導入されたが、CAVIは、局所の動脈の評価ではなく、弾性動脈だけでなく、筋性動脈を含む、血管系全体のスティフネスの評価になってしまう。また、平均圧力に対する圧力振幅の変化に関する特性指標とスティフネスパラメータとの関係性に関するモデルと比較する方法も提案されているが、モデルを使用するため、厳密さに欠けることはいなめない。
【0007】
本発明は、動脈局所の、収縮期・拡張期の血管径の変化を精度良く、しかも、簡便に測定評価し、モデル等を使わず、直接、スティフネスパラメータβを求める手法を確立することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)カフ圧を大きくかけなくても正確に脈波を取得できる変位センサ、速度センサ、加速度センサなどの、高感度で小型なセンサを使い、2点の微小カフ圧下での収縮期と拡張期の血管径変化量の比を皮膚表面から計測し、(2)同時に測定した、収縮期血圧と拡張期血圧と合わせて、林の式
ln(P/Pstd)=β(D/Dstd&#8722;1)
を使って、多元連立方程式を数値解析的に解き、スティフネスパラメータβを直接求めることで、上記の課題を解決する。
【0009】
なお、検出に、速度センサや加速度センサを使用する場合には、それぞれ、1階積分あるいは2階積分を行い、変位に変換して使用する。この時に、変位の絶対値を測定できる必要はなく、カフ圧を変化させた時の、変位量の変化率を測定できればよい。
【0010】
収縮期血圧をPs、拡張期血圧をPd、カフ圧Poをかけた時の収縮期血管径をDs 、拡張期血管径をDd、カフ圧Pcをかけた時の収縮期血管径をDsc 、拡張期血管径をDdcとすると、林の式から、以下の等式が成立する。ここで、下式の左辺は血圧とカフ圧であるため、外部から測定可能であるので、これらを定数a, b, c, dとおく。
ln((Ps-Po)/(Pd-Po)) = β(Ds/Dd-1) = a ・・・(i)
ln((Ps-Pc)/(Pd-Pc)) = β(Dsc/Ddc-1) = b ・・(ii)
ln((Pd-Pc)/(Pd-Po)) = β(Ddc/Dd-1) = c ・・(iii)
ln((Ps-Pc)/(Ps-Po)) = β(Dsc/Ds-1) = d ・・・(iv)
また、カフ圧をPcからPoに変化させた際の、変位に変換した波形のエンベロープの比の計測値をeとすると
(Ds-Dd) / (Dsc-Ddc) = e ・・・(v)
この5元連立方程式を数値解析的に解けば、βを求めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、動脈局所の、収縮期・拡張期の血管径の変化を精度良く、しかも、簡便に測定評価でき、モデル等を使わず、直接、スティフネスパラメータβの値を求める手法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の原理を示す図である。この図から、収縮期血圧をPs、拡張期血圧をPd、カフ圧Poをかけた時の収縮期血管径をDs 、拡張期血管径をDd、カフ圧Pcをかけた時の収縮期血管径をDsc 、拡張期血管径をDdcとすると、林の式から、(i)-(iv)の等式が成立し、カフ圧をPcからPoに変化させた際の、変位波形のエンベロープの比の計測値をeとすると、(v)式が成立することが分かる。
図2】実施例で使用した、AYAPMultiの解析画面である。本図は実施例1の結果が示されており、図上部が変位波形、下部が、エンベロープ値の推移を示している。カフ圧を40mmHgから20mmHgに途中で変更しており、エンベロープの強度が変化しており、その比率が、右下のダイアログに表示されている。
図3】実施例で使用した、GetBetaの解析画面である。GetBetaはPythonベースのアプリで、Scipy.optimize.rootというソルバーを使って多元連立方程式の解を求めるものである。本図には実施例1の結果が表示されており、収縮期血圧Ps=125mmHg、拡張期血圧Pd=85mmHg、低カフ圧Po=20mmHg、高カフ圧Pc=40mmHg、エンベロープ比=0.888を入力し、β=11.854を得ている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例0014】
ここで、本発明の実施例1について説明する。実施例1では、カフ圧を変えた時の、変位波形の変化を検出するセンサとして、速度型の振動センサを使用した。
【0015】
橈骨部に、速度検出型の振動センサAYA-Pを装着し、その上から、アネロイド血圧計のカフを巻いた。まず、カフ圧を40mmHgとし、10秒間ほど脈波を測定。次いで、カフ圧を抜いて、20mmHgとし、再度、脈波を測定した。測定には、自作のアプリ”AYAPMulti”を使用した(図2)。測定終了後、両条件での、積分波形のエンベロープ値を測定し、その比を求め、0.888を得た。さらにそのままの条件で、カフ圧を上げ、アネロイド血圧計として使用することで、収縮期血圧、拡張期血圧を求め、125mmHgと85mmHgを得た。こうして得た、5つの測定値を、これも自作の数値解析を行うアプリ”GetBeta”に入力し、β=11.85を得た。
【実施例0016】
上腕部に、高感度の加速度センサを装着し、その上から、アネロイド血圧計のカフを巻いた。まず、カフ圧を45mmHgとし、20秒間脈波を測定。次いで、カフ圧を抜いて、25mmHgとし、再度、20秒間脈波を測定した。測定には、実施例1と同様、”AYAPMulti”を使用し、両条件での、2階積分波形のエンベロープ値を測定し、その比を求め、0.875を得た。さらにそのままの条件で、カフ圧を上げ、アネロイド血圧計として使用することで、収縮期血圧、拡張期血圧を求め、120mmHgと80mmHgを得た。こうして得た、5つの測定値を、”GetBeta”に入力し、β=21.10を得た。
【実施例0017】
腹部に、AYA-Pセンサを背中の腹部大動脈付近に装着し、その上からカフを巻いた。まず、カフ圧を50mmHgとし、20秒間脈波を測定。次いで、カフ圧を抜いて、25mmHgとし、再度、20秒間脈波を測定した。測定には、実施例1と同様、”AYAPMulti”を使用し、両条件での、積分波形のエンベロープ値を測定し、その比を求め、0.865を得た。血圧測定は、腹部では困難であるため上腕で行い、収縮期血圧、拡張期血圧を求め、125mmHgと80mmHgを得た。こうして得た、5つの測定値を、”GetBeta”に入力し、β=24.04を得た。
【0018】
<他の実施例> なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例では、変位波形検出用のセンサとして、速度検出型の振動センサAYA-Pと高感度加速度センサが使われているが、高感度の変位センサや変位に換算できる圧力センサも使用可能である。なお、検出に、速度センサや加速度センサを使用する場合には、それぞれ、1階積分あるいは2階積分を行い、変位に変換して使用する。
(2)また、前記実施例では、脈波の測定部位として、橈骨、上腕、腹部大動脈の背中部が使われているが、総頸動脈、指尖、足首、股間等、様々な部位に応用可能である。。
(3)さらに、前記実施例では、血圧計として、アネロイド血圧計が使用されているが、超音波血圧計等、様々な血圧計を使用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、動脈局所の、収縮期・拡張期の血管径の変化を精度良く、しかも、簡便に測定評価でき、モデル等を使わず、直接、スティフネスパラメータβの値を求める手法を提供することができる。
【符号の説明】
【0020】
10:動脈壁
11:動脈
20:AYAPMulti画面
30:GetBeta画面
100:高カフ圧時の積分波形
101:低カフ圧時の積分波形
102:積分波形のエンベロープ変化
103:積分波形のエンベロープ変化率の測定結果


図1
図2
図3