(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143493
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08G59/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056209
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳史
(72)【発明者】
【氏名】向井 浩二
(72)【発明者】
【氏名】小田 顕通
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AB01
4J036AB02
4J036AB03
4J036AB09
4J036AC01
4J036AH18
4J036AH19
4J036AH20
4J036AK19
4J036DA01
4J036DC02
4J036DC03
4J036DC26
4J036DC31
4J036DC35
4J036DD04
4J036DD05
4J036FA01
4J036FA02
4J036HA12
4J036JA08
4J036JA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】良好な取扱い性及びポットライフを有するとともに、硬化したときに比較的良好な曲げ弾性率を示すエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記化学式1で示されるエポキシ樹脂A、特定の式で示されるエポキシ樹脂B、特定の式で示されるエポキシ樹脂C、及び硬化剤を含有する、エポキシ樹脂組成物。
(式中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1つを表し、Xは、-CH
2-、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-NHCO-、-CONH-、-SO
2-から選択される1つを表す。)
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、前記エポキシ樹脂Aが、50~90質量%であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で示されるエポキシ樹脂A、
下記化学式2で示されるエポキシ樹脂B、
下記化学式3で示されるエポキシ樹脂C、及び
硬化剤
を含有する、エポキシ樹脂組成物。
【化1】
(式1中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1つを表し、Xは、-CH
2-、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-NHCO-、-CONH-、-SO
2-から選択される1つを表す。)
【化2】
(式2中、R
5、R
6は、それぞれ独立に、炭素原子数4~12の脂肪族炭化水素基である。)
【化3】
(式3中、mは、0~20の整数、R
7~R
10は、それぞれ独立に、水素原子又は下記化学式4で表されるグリシジル基であり、R
7~R
10のうち、少なくとも2つは、下記化学式4で表されるグリシジル基である。)
【化4】
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、前記エポキシ樹脂Aが、50~90質量%であり、かつ/又は、前記エポキシ樹脂B及びCの合計が、10~50質量%である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂組成物中における前記エポキシ樹脂Bの含有量Mb(g)と、前記エポキシ樹脂組成物中における前記エポキシ樹脂Cの含有量Mc(g)との比Mb/Mcが、0.8~3.5である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂B及び前記エポキシ樹脂Cのうちの少なくともいずれかが、バイオマス由来のエポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂Aが、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びテトラグリシジル-3,3’-ジアミノジフェニルメタンからなる群から選択される1又は2種以上の組み合わせである、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂Bが、下記化学式2-1で表されるエポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化5】
【請求項7】
前記エポキシ樹脂Cが、下記化学式3-1で表されるエポキシ樹脂である、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化6】
【請求項8】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物と、繊維強化基材とを含む、繊維強化複合材料。
【請求項10】
前記繊維強化基材が、炭素繊維強化基材である、請求項9に記載の繊維強化複合材料。
【請求項11】
繊維強化基材と、請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物とを含む中間複合体を形成すること、及び、
前記中間複合体を硬化処理して繊維強化複合材料を形成すること、
を含む、繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物を、型内に配置された繊維強化基材へ含浸させること、及び、
前記エポキシ樹脂組成物で含浸された前記繊維強化基材を加熱下で硬化処理して、繊維強化複合材料を形成すること、
を含む、繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関する。特に、本発明は、繊維強化基材を含む繊維強化複合材料に用いるためのエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂複合材料(繊維強化複合材料、又はコンポジットとも呼ぶ。)は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、釣り竿やゴルフシャフト等のスポーツ・レジャー用途、自動車や航空機等の産業用途等の幅広い分野で用いられている。
【0003】
繊維強化樹脂複合材料は、例えば、予め樹脂を繊維強化基材に含浸させてシート状に形成したプリプレグ(中間基材)を成型する方法によって得られる。また、繊維強化複合材料は、型内に配置した繊維強化基材に液状の樹脂(すなわち例えば未硬化の硬化性樹脂又は溶融状態の熱可塑性樹脂)を含浸させ、硬化あるいは固化して繊維強化樹脂複合材料を得る方法(レジン・トランスファー・モールディング法、RTM法)によって得ることもできる。
【0004】
繊維強化複合材料の構成成分として、エポキシ樹脂組成物が好適に用いられている。
【0005】
特許文献1は、特定の化学構造を有する脂肪族エポキシ樹脂と、このエポキシ樹脂とは異なるエポキシ樹脂とを含むエポキシ樹脂組成物を記載している。この文献は、エポキシ樹脂組成物と補強材とを含むプリプレグも記載している。
【0006】
特許文献2は、2官能以上の芳香族エポキシ樹脂と、芳香族アミン化合物及び/又は脂環式アミン化合物が配合されてなるエポキシ樹脂組成物であって、特定の物性を有するエポキシ樹脂組成物を記載している。この文献は、繊維強化複合材料の製造の方式としてプリプレグ法、RTM法等を記載している。
【0007】
特許文献3は、脂肪族エポキシ化合物、分子中に芳香環を有するエポキシ化合物、含窒素複素環化合物及び無機充填剤を含む圧縮成形型用液状樹脂組成物を記載している。この文献では、半導体ウエハーのそりの発生を抑制可能な圧縮成形用液状樹脂組成物及びこれを用いた電子部品装置を提供できるとしている。
【0008】
特許文献4は、特定の化学構造を有する鎖状多価アルコール骨格を有するエポキシ樹脂及び特定の化学構造を有するグリセリン骨格又はポリグリセリン骨格を有するエポキシ樹脂を含む樹脂用架橋剤組成物を記載している。
【0009】
特許文献5は、特定構造のエポキシ樹脂及び/又は特定構造のエポキシ(メタ)アクリレートを含む硬化性樹脂組成物を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-83216号公報
【特許文献2】国際公開第00/53654号
【特許文献3】国際公開第2018/221682号
【特許文献4】特開2017-66343号公報
【特許文献5】特開2023-19448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
エポキシ樹脂組成物を繊維強化複合材料に用いる場合、良好な取扱い性及びポットライフが求められるとともに、エポキシ樹脂組成物を硬化して得られる成型品についても高い物性(特には高い機械特性)が求められる。また、繊維強化複合材料に用いられるエポキシ樹脂組成物は、比較的高いガラス転移温度を有することが好ましい。
【0012】
従来のエポキシ樹脂組成物では、これらの要件を満足することが容易ではなかった。
【0013】
本発明の目的は、良好な取扱い性及びポットライフを有するとともに、硬化して得られる成形物の機械特性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、良好な取扱い性及びポットライフを有するとともに、比較的高いガラス転移温度を示し、かつ硬化して得られる成形物の機械特性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、本発明に係る下記の態様によって解決することができる。
<態様1>
下記化学式1で示されるエポキシ樹脂A、
下記化学式2で示されるエポキシ樹脂B、
下記化学式3で示されるエポキシ樹脂C、及び
硬化剤
を含有する、エポキシ樹脂組成物。
【化1】
(式1中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1つを表し、Xは、-CH
2-、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-NHCO-、-CONH-、-SO
2-から選択される1つを表す。)
【化2】
(式2中、R
5、R
6は、それぞれ独立に、炭素原子数4~12の脂肪族炭化水素基である。)
【化3】
(式3中、mは、0~20の整数、R
7~R
10は、それぞれ独立に、水素原子又は下記化学式4で表されるグリシジル基であり、R
7~R
10のうち、少なくとも2つは、下記化学式4で表されるグリシジル基である。)
【化4】
<態様2>
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、前記エポキシ樹脂Aが、50~90質量%であり、かつ/又は、前記エポキシ樹脂B及びCの合計が、10~50質量%である、態様1に記載のエポキシ樹脂組成物。
<態様3>
前記エポキシ樹脂組成物中における前記エポキシ樹脂Bの含有量Mb(g)と、前記エポキシ樹脂組成物中における前記エポキシ樹脂Cの含有量Mc(g)との比Mb/Mcが、0.80~3.5である、態様1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
<態様4>
前記エポキシ樹脂B及び前記エポキシ樹脂Cのうちの少なくともいずれかが、バイオマス由来のエポキシ樹脂である、態様1~3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
<態様5>
前記エポキシ樹脂Aが、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びテトラグリシジル-3,3’-ジアミノジフェニルメタンからなる群から選択される1又は2種以上の組み合わせである、態様1~4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
<態様6>
前記エポキシ樹脂Bが、下記化学式2-1で表されるエポキシ樹脂である、態様1~5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化5】
<態様7>
前記エポキシ樹脂Cが、下記化学式3-1で表されるエポキシ樹脂である、態様1~6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【化6】
<態様8>
態様1~7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物。
<態様9>
態様1~7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物と、繊維強化基材とを含む、繊維強化複合材料。
<態様10>
前記繊維強化基材が、炭素繊維強化基材である、態様9に記載の繊維強化複合材料。
<態様11>
繊維強化基材と、態様1~7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物とを含む中間複合体を形成すること、及び、
前記中間複合体を硬化処理して繊維強化複合材料を形成すること、
を含む、繊維強化複合材料の製造方法。
<態様12>
態様1~7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を、型内に配置された繊維強化基材へ含浸させること、及び、
前記エポキシ樹脂組成物で含浸された前記繊維強化基材を加熱下で硬化処理して、繊維強化複合材料を形成すること、
を含む、態様11に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、良好な取扱い性及びポットライフを有するとともに、硬化して得られる成形物の機械特性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、良好な取扱い性及びポットライフを有するとともに、比較的高いガラス転移温度を示し、かつ硬化して得られる成形物の機械特性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<<エポキシ樹脂組成物>>
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、
下記の化学式1で表されるエポキシ樹脂A、
下記の化学式2で表されるエポキシ樹脂B、
下記の化学式3で表されるエポキシ樹脂C、及び
硬化剤
を含有する。
【0018】
本件発明者らは、検討を重ねた結果、下記の特定化学構造のエポキシ樹脂を3種類含有するエポキシ樹脂組成物によれば、所望の優れた特性を得ることができることを見出した。より具体的には、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、比較的低い100℃粘度を有するため取り扱い性に優れており、比較的高い硬化開始温度を有するためポットライフの点でも優れている。さらに、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、硬化して得られる成形物の機械特性に優れており、特に、比較的良好な曲げ弾性率を示す。さらに、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、比較的高いガラス転移温度を示しうる。
【0019】
理論によって限定する意図はないが、本発明では、分子中におけるエポキシ基の数、芳香族環の有無、炭素鎖の長さ、酸素原子の数などの点で互いに異なる特定の3種類のエポキシ樹脂組成物を用いることによって、エポキシ樹脂組成物の粘度、硬化開始温度、さらにはガラス転移温度の点で良好な物性が得られるとともに、硬化して得られる成形物に関して比較的高い曲げ弾性率が得られると考えられる。
【0020】
<エポキシ樹脂A>
エポキシ樹脂Aは、下記の化学式1で表される。
【化7】
(式1中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及びハロゲン原子からなる群から選択される1つを表し、Xは、-CH
2-、-O-、-S-、-CO-、-C(=O)O-、-O-C(=O)-、-NHCO-、-CONH-、-SO
2-から選択される1つを表す。)
【0021】
本開示に係るエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂Aとして、上記式1に該当する化合物を複数種類含有してもよい。
【0022】
上記式1中、R1~R4は、好ましくは、それぞれ独立に、水素原子及び脂肪族炭化水素基からなる群から選択される1つを表し、特に好ましくは、いずれも水素原子である。
【0023】
R1~R4の少なくともいずれかが脂肪族炭化水素基である場合、この脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数1~6のアルキル基が挙げられる。R1~R4の少なくともいずれかが脂肪族炭化水素基である場合、これらは、好ましくは炭素原子数1~4のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基又はエチル基である。R1~R4の少なくともいずれかが脂環式炭化水素基である場合、この脂環式炭化水素基は、炭素原子数3~12、特には炭素原子数6~10であってよい。
【0024】
上記式1中、Xは、好ましくは、-CH2-又は-O-である。
【0025】
エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂Aの含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、35~90質量%であってよい。
【0026】
エポキシ樹脂Aは、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、好ましくは、40~90質量%若しくは40~85質量%、50~90質量%若しくは50~85質量%、50質量%超85質量%以下、又はさらには60~82質量%である。
【0027】
エポキシ樹脂Aが、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、40質量%以上、又はさらには50質量%超、特には60質量%以上である場合には、より高いガラス転移温度が得られうる。
【0028】
エポキシ樹脂Aが、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、85質量%以下、特には82質量%以下である場合には、硬化開始温度が過度に高くならないことによって、エポキシ樹脂組成物を硬化処理する際の硬化効率が向上しうる。
【0029】
本開示に係る特に好ましい実施態様では、エポキシ樹脂Aは、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びテトラグリシジル-3,3’-ジアミノジフェニルメタンからなる群から選択される1又は2種以上の組み合わせである。
【0030】
エポキシ樹脂Aの具体例としては、特には、下記の式1-1又は式1-2で表される化合物が挙げられる。
【0031】
【0032】
1つの好ましい実施態様では、エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂Aとして、上記の式1-1で表される化合物及び式1-2で表される化合物を、いずれも含有する。
【0033】
エポキシ樹脂組成物が式1-1で表される化合物及び式1-2で表される化合物をいずれも含有する場合、式1-1で表される化合物の含有量は、エポキシ樹脂Aの全質量に対して、60~90質量%であってよく、65~80質量%であることが好ましい。
【0034】
また、エポキシ樹脂組成物が式1-1で表される化合物及び式1-2で表される化合物をいずれも含有する場合、式1-2で表される化合物の含有量は、エポキシ樹脂Aの全質量に対して、10~40質量%であってよく、20~35質量%であることが好ましい。
【0035】
<エポキシ樹脂B>
エポキシ樹脂Bは、下記の化学式2で表される。
【化9】
(式2中、R
5、R
6は、それぞれ独立に、炭素原子数4~12の脂肪族炭化水素基である。)
【0036】
R5、R6は、それぞれ独立に、炭素原子数5~10の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数6~8の脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。R5は、アルキレン基であってよく、R6は、アルキル基であってよい。
【0037】
好ましいエポキシ樹脂Bの具体例としては、下記の化学式2-1で表されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【化10】
【0038】
エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂Bの含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、2~35質量%であることが好ましく、6~28質量%であることがより好ましく、8~22質量%又はさらには12~22質量%であることが特に好ましい。
【0039】
<エポキシ樹脂C>
エポキシ樹脂Cは、下記の化学式3で表される。
【化11】
(式3中、mは、0~20の整数、R
7~R
10は、それぞれ独立に、水素原子又は下記化学式4で表されるグリシジル基であり、R
7~R
10のうち、少なくとも2つは、下記化学式4で表されるグリシジル基である。)
【化12】
【0040】
mは、好ましくは1~10の整数、より好ましくは2~6又はさらには2~4の整数であり、特に好ましくは、m=3である。
【0041】
特に好ましくは、R7~R10のうち4つが、上記式4で表されるグリシジル基である。すなわち、式3で表される化合物が、4つのグリシジル基を含有する化合物であることが特に好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂Cは、特に好ましくは、下記化学式3-1で表されるエポキシ樹脂である。
【化13】
【0043】
エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂Cの含有量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、2~35質量%であることが好ましく、6~28質量%であることがより好ましく、8~18質量%又はさらには10~18質量%であることが特に好ましい。
【0044】
<B成分及びC成分について>
【0045】
エポキシ樹脂B及びCの合計は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、5~65質量%であってよい。
【0046】
エポキシ樹脂B及びCの合計は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の全質量を基準として、10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%、又はさらには16~45質量%であることがより好ましく、18~42質量%、又はさらには20~40質量%であることが特に好ましい。エポキシ樹脂B及びエポキシ樹脂Cは、いずれも、バイオマス由来成分として提供することができるので、環境適合性にさらに優れる組成物を得る観点からは、エポキシ樹脂B及びCの含有量が比較的高いことが好ましい。
【0047】
エポキシ樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂Bの含有量Mb(g)と、エポキシ樹脂組成物中におけるエポキシ樹脂Cの含有量Mc(g)との比Mb/Mcは、0.2~5.0であってよい。
【0048】
この比Mb/Mcは、0.4~4.5であることが好ましく、0.6~4.0であることがより好ましく、0.8~3.5であることが特に好ましい。
【0049】
<バイオマス由来成分>
本開示に係る1つの実施態様では、エポキシ樹脂B及びエポキシ樹脂Cのうちの少なくともいずれかが、バイオマス由来のエポキシ樹脂である。
【0050】
エポキシ樹脂B及びエポキシ樹脂Cは、いずれも、バイオマス由来成分として提供することができる。具体的には、例えば、B成分は、カシューナッツシェルオイルから製造でき、C成分は、パーム油から製造できる。市販されているバイオマス由来の製品としては、B成分については、Cardolite(商標)NC-514S(カードライト社製)が挙げられ、C成分については、デナコールEX-512(ナガセケムテックス社製)が挙げられる。
【0051】
本発明によれば、エポキシ樹脂B及びエポキシ樹脂Cのいずれかを単独で含む場合と比較して、エポキシ樹脂B及びエポキシ樹脂Cを併用することによって、同等の量に関して、比較的良好な特性が得られる。したがって、本発明によれば、エポキシ樹脂組成物の良好な性能を保持しつつ、エポキシ樹脂組成物中におけるバイオマス由来成分の割合を増やすことができる。エポキシ樹脂組成物中に含有されるバイオマス由来成分の量を比較的多くすることによって、環境に対してより適合性の高いエポキシ樹脂組成物及びこれを用いた製品を提供できる。
【0052】
<硬化剤>
本開示に係るエポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含む。硬化剤としては、公知の硬化剤を用いることができる。硬化剤として特にアミン系硬化剤を用いることが、硬化物の機械特性の観点から好ましい。
【0053】
アミン系硬化剤としては、エチレンジアミン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6-トリスアミノメチルヘキサン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステル、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、アジピン酸ヒドラジド、メンセンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、N-アミノエチルピペラジン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ノルボルネンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、m-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノジエチルジフェニルメタン等の分子中に第1級アミンを有するアミン化合物;1,2-プロパンジアミンや、1,3-ブタンジアミンなどの鎖状式ポリアミン化合物、N-メチルピペラジン、モルホリン、ピペリジン、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-エチルトルイジン、ジフェニルアミン、ヒドロキシフェニルグリシン、N-メチルアミノフェノールサルフェート等の分子中に第2級アミンを有するアミン化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
硬化剤は、好ましくは、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン(M-MIPA)である。
【0055】
硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、40~80重量部、又はさらには45~70重量部であってよい。
【0056】
本発明で用いることができるエポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の合計量は、特には、組成物中に配合されるすべてのエポキシ樹脂を硬化させるのに適した量であり、用いるエポキシ樹脂及び硬化剤の種類等に応じて適宜調節できる。
【0057】
具体的には、例えば、組成物中のエポキシ樹脂に由来するエポキシ基の数と、硬化剤に由来する活性水素の数との比率を、0.7~1.3とすることが好ましい。
【0058】
<他の成分>
本開示に係るエポキシ樹脂組成物は、上記のエポキシ樹脂及び硬化剤以外に、他の成分を含んでよく、例えば、硬化促進剤、他のエポキシ樹脂、着色剤、充填材、各種添加剤等を含んでいてもよい。また、マトリクス樹脂の耐衝撃性を向上させるため、他の成分として、熱可塑性樹脂成分や樹脂粒子(例えばコアシェルゴム粒子)を含んでもよい。これらの他の成分は、エポキシ樹脂組成物の全質量に対して、合計で、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下であることが好ましい。
【0059】
(硬化促進剤)
エポキシ樹脂組成物は、促進剤(硬化促進剤)を含むこともできる。
【0060】
硬化促進剤としては、ウレア化合物、特には芳香族ウレア化合物(芳香族尿素化合物)が挙げられる。その具体例としては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)、N-フェニル-N’,N’-ジメチル尿素、N-(4-クロロフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3,4-ジクロロフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3-クロロ-4-エチルフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(3-クロロ-4-メトキシフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、N-(4-メチル-3-ニトロフェニル)-N’,N’-ジメチル尿素、2,4-ビス(N’,N’-ジメチルウレイド)トルエン、メチレン-ビス(p-N’,N’-ジメチルウレイドフェニル)等を挙げることができる。このうち、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、1,1’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
硬化促進剤を含有する場合、その含有量は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、1~10重量部、又はさらには2~6重量部であってよい。
【0062】
(コアシェルゴム粒子)
本開示に係るエポキシ樹脂組成物は、さらなる靭性付与のために、コアシェルゴム粒子(CSR)を含有することができる。
【0063】
このようなコアシェルゴム粒子としては、ポリブダジエンのコアにテトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンのシェルを有する粒子が挙げられる。市販されている具体的な製品としては、カネカ社のカネエース(登録商標)MXシリーズの製品が挙げられる。
【0064】
コアシェルゴム粒子を含有する場合、その含有量は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計100質量部に対して、1~15質量部、1~10質量部、又はさらには2~6質量部であってよい。
【0065】
(他のエポキシ樹脂)
本開示に係るエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果が阻害されない範囲で、上記のエポキシ樹脂A~C以外の他のエポキシ樹脂を含んでよい。他のエポキシ樹脂は、好ましくは、エポキシ樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以下、5質量%以下、又3質量%以下で含有されることが好ましい。他のエポキシ樹脂としては、DGEBA及びGOTが挙げられる。
【化14】
【0066】
エポキシ樹脂A~C以外の他のエポキシ樹脂を含有する場合、その含有量は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計100重量部に対して、0.5~8重量部、又はさらには1~4重量部であってよい。
【0067】
<組成>
本開示に係る1つの実施態様では、エポキシ樹脂組成物が、下記の成分を、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂の合計100重量部に対して下記の含有量で含む:
35質量部~90質量部のエポキシ樹脂A
2質量部~35質量部のエポキシ樹脂B
2質量部~35質量部のエポキシ樹脂C
0質量部~10質量部の他のエポキシ樹脂
0質量部~10質量部のコアシェルゴム粒子
40質量部~80質量部の硬化剤。
【0068】
本開示に係る好ましい1つの実施態様では、エポキシ樹脂組成物が、下記の成分を、エポキシ樹脂組成物の全質量に対して下記の含有量で含む:
50質量部超82質量部以下のエポキシ樹脂A
6質量部~28質量部のエポキシ樹脂B
6質量部~28質量部のエポキシ樹脂C
0質量部~6質量部の他のエポキシ樹脂
0質量部~5質量部のコアシェルゴム粒子
45質量部~80質量部の硬化剤。
【0069】
本開示に係る好ましい1つの実施態様では、エポキシ樹脂組成物が、下記の成分を、エポキシ樹脂組成物の全質量に対して下記の含有量で、含む:
60質量部~82質量部のエポキシ樹脂A
8質量部~22質量部のエポキシ樹脂B
8質量部~18質量部のエポキシ樹脂C
0質量部~3質量部の他のエポキシ樹脂
0質量部~6質量部のコアシェルゴム粒子
45質量部~70質量部の硬化剤。
【0070】
<樹脂硬化物>
本開示は、本開示に係るエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物を含む。
【0071】
エポキシ樹脂組成物を硬化して樹脂硬化物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、本開示に係るエポキシ樹脂組成物を130~180℃で0.5~2時間にわたって加熱処理することによって、樹脂硬化物を製造できる。
【0072】
<繊維強化複合材料>
本開示は、繊維強化複合材料も含む。繊維強化複合材料は、本開示に係るエポキシ樹脂組成物を硬化して成る樹脂硬化物と、繊維強化基材とを含む。
【0073】
本開示に係る繊維強化複合材料は、例えば、繊維強化基材に液状の樹脂(すなわち例えば未硬化のエポキシ樹脂組成物)を含浸させ、硬化あるいは固化することによって、得ることができる。
【0074】
繊維強化複合材料の作製方法としては、特に制限はなく、繊維強化基材にあらかじめマトリクス樹脂を含浸させたプリプレグを成形してもよく、レジントランスファー成形法(RTM法)や、レジンフィルムインフュージョン成形法(RFI法)等により成形と同時に繊維強化基材とマトリクス樹脂とを複合化しても良い。繊維強化複合材料を得るための具体的な製造方法については、後述する。
【0075】
<繊維強化基材>
繊維強化基材は、強化繊維を含む。繊維強化基材は、好ましくは、炭素繊維強化基材である。
【0076】
(強化繊維シート)
繊維強化基材は、強化繊維を含む1又は複数の強化繊維シートを有してよい。
【0077】
強化繊維シートは、経糸及び緯糸としての強化繊維を平織や朱子織などで織った織物であってよい。このような織物では、例えば、経糸としての強化繊維と、緯糸としての強化繊維とが、直交して延在する。
【0078】
これに対して、強化繊維が一方向に引き揃えられている一方向性(UD:Uni-directional)強化繊維シートを用いることができる。このような一方向性強化繊維シートとしては、一方向性織物(UD-woven fabric)が挙げられる。一方向性織物は、経糸としての一方向に引き揃えられた強化繊維と、緯糸としての補助糸とから構成される織物であり、いわゆるすだれ織物である。
【0079】
また、繊維強化基材のために、ノンクリンプ布帛(non-crimp fabric)を用いることもできる。ノンクリンプ布帛では、一方向に引き揃えられた強化繊維からなる強化繊維シートが複数積層されており、積層されたこれらの強化繊維シートが、補助糸としてのステッチ糸によって縫合されている。換言すると、ノンクリンプ布帛では、一方向に引き揃えられた強化繊維からなる強化繊維シートの積層体が、積層体を厚さ方向に貫通する補助糸(特にはステッチ糸と呼ばれる)で縫合されることによって、一体化している。
【0080】
(強化繊維)
繊維強化基材を構成する強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、金属繊維などが挙げられる。強化繊維は、好ましくは炭素繊維である。
【0081】
強化繊維の平均長さは、特に限定されないが、例えば5cm~100mであってよい。
【0082】
本開示に係る繊維強化基材は、好ましくは100~2000g/m2、より好ましくは150~1500g/m2の目付を有する。また、本開示に係る繊維強化基材の厚さは、成形品の用途などにより適宜選択することができるが、0.1~2mm、又は0.5~1.5mmであってよい。
【0083】
(補助糸)
繊維強化基材において、補助糸は、強化繊維同士及び/又は強化繊維シート同士を連結させることによって、強化繊維シート及び/又は繊維強化基材の一体性を維持する役割を有する。補助糸は、ポリオレフィン繊維、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース繊維、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、若しくはポリエーテルイミド(PEI)樹脂の繊維、又はこれらの混合体を含んでよい。あるいは、補助糸が、これらのうちの少なくとも1つからなっていてよい。
【0084】
(樹脂材料層)
本開示に係る繊維強化基材は、1又は複数の強化繊維シートを含むとともに、1又は複数の樹脂材料層を含んでよい。樹脂材料層は、熱可塑性樹脂繊維を含むシート、特には熱可塑性樹脂繊維を含む不織布であってよい。本開示に係る1つの実施態様では、樹脂材料層が、メルトブロー法によって製造された不織布である。メルトブロー法を用いることによって、スパンボンド法を用いた場合と比較して、より繊維径の細い熱可塑性樹脂繊維を含む不織布を製造することができる。
【0085】
樹脂材料層は、例えば、強化繊維シートと一緒に積層されて、積層体を形成することができる。樹脂材料層は、このような積層体において、強化繊維シートの間に配置されてよい。好ましくは、樹脂材料層は、強化繊維シートに隣接しており、特には、強化繊維シートの表面上に配置される。繊維強化基材が樹脂材料層を有することによって、繊維強化基材から製造される繊維強化樹脂複合材料の耐衝撃性を向上させることができる。
【0086】
<繊維強化複合材料の製造方法>
本開示は、繊維強化複合材料を製造する方法も含み、この方法は、
繊維強化基材と、本開示に係るエポキシ樹脂組成物とを含む中間複合体を形成すること、及び、
中間複合体を硬化処理して繊維強化複合材料を形成すること、
を含む。
【0087】
「中間複合体」は、例えば、エポキシ樹脂組成物で含浸された繊維強化基材であってよい。この製造方法の詳細について、例示的な実施態様を参照して下記に説明する。
【0088】
本開示に係る繊維強化複合材料を製造する方法の1つの例示的な実施態様は、
本開示に係るエポキシ樹脂組成物を、型内に配置された繊維強化基材へ含浸させること、及び、
本開示に係るエポキシ樹脂組成物で含浸された繊維強化基材を加熱下で硬化処理して、繊維強化複合材料を形成すること、
を含む。
【0089】
エポキシ樹脂組成物を含浸する際には、例えば、型内に配置した繊維強化基材に、マトリクス樹脂として硬化前の液状のエポキシ樹脂組成物を含浸する。
【0090】
型は、剛性材料からなるクローズドモールドを用いてもよく、剛性材料のオープンモールドと可撓性のフィルム(バッグ)を用いることも可能である。後者の場合、繊維強化基材は、剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムの間に設置することができる。剛性材料としては、スチールやアルミニウムなどの金属、繊維強化プラスチック(FRP)、木材、石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムの材料には、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが用いられる。
【0091】
剛性材料のクローズドモールドを用いる場合は、通常、加圧して型締めし、樹脂組成物を加圧して注入することが行われる。このとき、注入口とは別に吸引口を設け、真空ポンプに接続して吸引することも可能である。吸引を行い、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみで樹脂組成物を注入することも可能である。この方法は、複数の吸引口を設けることにより大型の部材を製造することができるため、好適に用いることができる。
【0092】
剛性材料のオープンモールドと可撓性フィルムを用いる場合は、吸引を行い、特別な加圧手段を用いることなく大気圧のみで樹脂組成物を注入しても良い。大気圧のみでの注入で良好な含浸を実現するためには、樹脂拡散媒体を用いることが有効である。さらに、繊維強化基材の設置に先立って、剛性材料の表面にゲルコートを塗布することが好ましく行われる。
【0093】
エポキシ樹脂組成物を繊維強化基材に含浸させる際の含浸圧力は、その樹脂の粘度・樹脂フローなどを勘案し、適宜決定できる。具体的な含浸圧力は、0.001~10MPaであり、0.01~1MPaであることが好ましい。繊維強化複合材料を製造する際のエポキシ樹脂の粘度は、100℃における粘度が、5000mPa・s未満であることが好ましく、1~1000mPa・sであることがより好ましい。
【0094】
上記の製造方法において、樹脂組成物の粘度は、注入温度において、0.01~1Pa・sが好ましい。注入する樹脂を予め加熱する等の方法で処理して注入時の粘度を上記範囲に調節しておくことが好ましい。
【0095】
本開示に係る製造方法では、エポキシ樹脂組成物で含浸された繊維強化基材を、加熱下で硬化処理する。加熱硬化時の型温は、通常、熱硬化性樹脂の注入時における型温より高い温度が選ばれる。加熱硬化時の型温は80~200℃であることが好ましい。加熱硬化の時間は1分~20時間好ましい。加熱硬化が完了した後、脱型して繊維強化複合材料を取り出す。その後、得られた繊維強化複合材料をより高い温度で加熱して後硬化を行っても良い。後硬化の温度は150~200℃が好ましく、時間は1分~4時間が好ましい。
【0096】
エポキシ樹脂組成物の量は、繊維強化基材100質量部に対して20~60質量部であってよい。
【0097】
<プリフォーム材>
繊維強化基材を用いて繊維強化複合材料を成型する場合には、繊維強化基材をそのまま用いることもできるが、取扱い性、作業性の観点から繊維強化基材を積重して予備成形したプリフォーム材を用いることが好ましい。
【0098】
プリフォーム材は、繊維強化基材とバインダー樹脂とを含む複合体(特にはこれらから構成される複合体)を加圧下で加熱する工程を含む方法によって、製造することができる。例えば、プリフォーム材の製造は、プリフォーム作製型の一面に繊維強化基材を所望の厚さとなるまで積み重ね、必要に応じてバインダーとなる樹脂(バインダー樹脂)の粉体を散布あるいは樹脂シートを積層して、加熱プレート等を用いたプレス等により加圧下で加熱して予備成形することにより行う。加熱により樹脂が溶融し、繊維強化基材同士が型に倣って成型され、型の形状を保持したプリフォーム材となる。
【0099】
バインダー樹脂として用いる樹脂材料は、特に制限はなく、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド、ポリエーテルスルホンなどの熱可塑性樹脂、およびそれらの混合物を適宜用いることができる。これらの樹脂は粉末を散布して用いても良いし、シートや不織布等に形成して本発明の繊維強化基材に積層しても良い。あるいは本発明の繊維強化基材を構成する各糸条に予め付着させても良い。
【0100】
プリフォーム材を構成するバインダー樹脂の量は、本発明の繊維強化基材100質量部に対して1~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。プリフォーム材の厚さは使用目的によっても異なるが、1~40mmが好ましい。
【0101】
<用途>
本開示に係るエポキシ樹脂組成物及び本開示に係るエポキシ樹脂組成物から製造される繊維強化樹脂複合材料の用途は、特に限定されないが、例えば、航空機、自動車、鉄道車両および船舶の構造材料に用いることができる。
【実施例0102】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記に、実施例及び比較例で使用する各成分及び測定方法を記載する。
【0103】
<<成分>>
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂A
・テトラグリシジル-3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(合成例1の方法で合成、下記化学式1-1で表される化合物。以下「3,4’-TGDDE」と略記する。)
【化15】
・テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(ハンツマン社製 Araldite MY721。下記化学式1-2で表される化合物。以下「TGDDM」と略記する)
【化16】
【0104】
エポキシ樹脂B
・下記化学式2-1の構造を有するエポキシ樹脂(カードライト社製 NC-514S)
【化17】
【0105】
エポキシ樹脂C
・下記化学式3-1の化学構造を有するポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製 EX-512)
【化18】
【0106】
その他のエポキシ樹脂
・ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル(三菱ケミカル社製 jER825、以下「DGEBA」と略記する)
・N,N-ジグリシジル-o-トルイジン(日本化薬社製 GOT、以下「GOT」と略記する)
・下記化学式5で表されるソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製 EX-612)
【化19】
【0107】
(アミン系硬化剤)
・4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン(ロンザ社製 Lonzacure M-MIPA、以下「M-MIPA」と略記する)
【化20】
【0108】
(添加剤)
・MX-416(カネカ社製MX-416、グリシジルアミン型4官能エポキシ樹脂へ粒子状ブタジエンゴム成分(CSR)を25質量%の濃度となる様に分散させたマスターバッチ)(製品中のグリシジルアミン型4官能エポキシ樹脂は本発明のエポキシ樹脂Aに相当するテトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンである。)
【0109】
<合成例1>
3,4’-TGDDEの合成
温度計、滴下漏斗、冷却管および攪拌機を取り付けた四つ口フラスコに、エピクロロヒドリン1110.2g(12.0mol)を仕込み、窒素パージを行いながら温度を70℃まで上げて、これにエタノール1000gに溶解させた3,4’-ジアミノジフェニルエーテル200.2g(1.0mol)を4時間かけて滴下した。さらに6時間撹拌し、付加反応を完結させ、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル)-3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを得た。続いて、フラスコ内温度を25℃に下げてから、これに48%NaOH水溶液500.0g(6.0mol)を2時間で滴下してさらに1時間撹拌した。環化反応が終わってからエタノールを留去して、400gのトルエンで抽出を行い5%食塩水で2回洗浄を行った。有機層からトルエンとエピクロロヒドリンを減圧下で除くと、褐色の粘性液体が361.7g(収率85.2%)得られた。主生成物である3,4’-TGDDEの純度は、84%(HPLC面積%)であった。
【0110】
<<評価方法>>
(1)樹脂組成物の物性
(1-1)エポキシ樹脂組成物の調製
下記の表1及び表2に記載する割合で、80℃に加温したエポキシ樹脂および添加剤を攪拌機を用いて混合した後、硬化剤を添加して30分間混合し、エポキシ樹脂組成物を調製した。なお、表1及び表2に記載の組成においては、エポキシ樹脂のグリシジル基と硬化剤のアミノ基は当量となる。
【0111】
(1-2)100℃粘度
上記(1-1)で得られたエポキシ樹脂組成物について、東機産業株式会社製B型粘度計TVB-15Mを用い、100℃の条件にて粘度の計測を行った。
【0112】
(1-3)硬化開始温度
上記(1-1)で得られたエポキシ樹脂組成物を2.5~3.5mg計量し、DSC測定を行った。得られたチャートの硬化に伴う発熱ピークにおいて、ベースラインと低温側の変曲点における 接線との交点を硬化開始温度とした。DSC測定は以下の条件で行った。
・測定温度域:30~350℃
・昇温速度:10℃/min
【0113】
(2)樹脂硬化物の物性
(2-1)樹脂硬化物の作成
上記(1-1)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、4mm厚のシリコーン樹脂製スペーサーにより厚み4mmになるように設定したシリコーン樹脂製モールド中に注入した。180℃の温度で2時間硬化させ、厚さ4mmの樹脂硬化物を得た。
【0114】
(2-2)吸水後ガラス転移温度(DMA-wet-Tg)
SACMA 18R-94法に準じて、ガラス転移温度を測定した。上記(2-1)で得られた樹脂硬化物を切断、研磨し、50mm×6mm×2mmの寸法の試験片を準備した。プレッシャークッカー(エスペック社製、HASTEST PC-422R8)を用い、121℃、24時間の条件にて準備した樹脂試験片の吸水処理を行った。UBM社製動的粘弾性測定装置Rheogel-E400を用い、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分、ひずみ0.0167%の条件で、チャック間の距離を30mmとし、50℃からゴム弾性領域まで、吸水処理した樹脂試験片の貯蔵弾性率E’を測定した。logE’を温度に対してプロットし、logE’の平坦領域の近似直線と、E’が転移する領域の近似直線との交点から求められる温度をガラス転移温度(wet-Tg)として記録した。
【0115】
(2-3)樹脂曲げ弾性率
JIS K7171法に準じて、試験を実施した。その際の、樹脂試験片の寸法80mm×10mm×h4mmで準備した。支点間距離Lは、16×h(厚み)、試験速度2m/minで曲げ試験を行い、曲げ弾性率を測定した。
【0116】
<<実施例1~9>>
実施例1~9では、下記の表1に記載する成分を攪拌機を用いて混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物及び硬化させた樹脂硬化物の各物性を、表1に示した。なお、CSRを全樹脂組成物重量に対して表1に記載の質量パーセントとなるように、MX-416の添加量を調整した。
【0117】
【0118】
<<比較例1~9>>
比較例1~9では、表2に記載する成分を攪拌機を用いて混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物及び硬化させた樹脂硬化物の各物性を、表2に示した。なお、CSRを全樹脂組成物重量に対して表2に記載の質量パーセントとなるように、MX-416の添加量を調整した。
【0119】
【0120】
表1で見られるとおり、エポキシ樹脂A~Cをいずれも含有していた実施例1~9に係るエポキシ樹脂組成物では、各物性についていずれも良好な結果が得られた。具体的には、組成物物性である100℃粘度及び硬化開始温度がいずれも良好であるとともに、硬化物物性である吸水後ガラス転移温度(wet-Tg)及び曲げ弾性率も良好であった。
【0121】
一方で、表2で見られるとおり、エポキシ樹脂A~Cのうちの少なくともいずれかを含有していなかった比較例1~9では、いずれかの物性が比較的劣る結果となった。
【0122】
具体的には、比較例1及び5では、エポキシ樹脂Bを含有する一方でエポキシ樹脂Cを含有しておらず、硬化物の曲げ弾性率が比較的劣っていた。また、比較例1(B成分のみ)と実施例1~2(B成分+C成分)とを比較すると、比較例1ではガラス転移温度が比較的低かった。比較例5(B成分のみ)と実施例3~4(B成分+C成分)とを比較した場合にも同様であった。
【0123】
比較例2、6及び7は、エポキシ樹脂Cを含有する一方でエポキシ樹脂Bを含有しておらず、過度に高い粘度を示した。粘度が高すぎる場合、エポキシ樹脂組成物の取り扱い性に劣る。
【0124】
比較例3は、エポキシ樹脂Cとしての上記化学式3-1で表される化合物を用いずに、代わりに上記化学式5で表される化合物を用いた例である。上記化学式5で表される化合物は、エポキシ樹脂Cの要件である上記化学式3に該当しない。表2でみられるとおり、比較例3は、過度に高い粘度を示した。
【0125】
比較例4では、エポキシ樹脂Aを用いずに、代わりにGOTを用いた結果、wet-Tgが著しく低下した。
【0126】
比較例8及び9は、エポキシ樹脂B及びエポキシ樹脂Cを用いなかった結果、過度に高い粘度を示し、また、過度に高い硬化開始温度を示した。硬化開始温度が過度に高い場合には、エポキシ樹脂組成物を硬化処理する際の硬化効率が不十分になるおそれがある。
【0127】
特に、上記の結果から、エポキシ樹脂B及びCを併用することによって、エポキシ樹脂B又はエポキシ樹脂Cを単独で用いた場合よりも優れた物性が得られることがわかる。エポキシ樹脂B及びCとしてはバイオマス由来のものを用いることが可能であり、実際、実施例でエポキシ樹脂B及びCとして用いたNC514S及びEx-512は、いずれもバイオマス由来のエポキシ樹脂である。したがって、本発明に従ってエポキシ樹脂B及びCを併用することによって、所望の優れた物性を確保しつつ比較的多くのバイオマス由来成分をエポキシ樹脂組成物中で使用することができる。