(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001435
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】マリンホースの監視システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
F17D 5/02 20060101AFI20231227BHJP
F16L 55/00 20060101ALI20231227BHJP
F16L 11/12 20060101ALI20231227BHJP
G06K 7/10 20060101ALI20231227BHJP
F16L 11/133 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
F17D5/02
F16L55/00 D
F16L11/12 H
G06K7/10 248
F16L11/133
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100070
(22)【出願日】2022-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和4年5月13日、掲載場所:横浜ゴム株式会社のウェブサイト https://www.y-yokohama.com/release/?id=3804
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石橋 裕輔
【テーマコード(参考)】
3H111
3J071
【Fターム(参考)】
3H111CC07
3H111DA17
3H111DA24
3H111DB27
3J071AA11
3J071CC07
3J071EE06
3J071EE24
3J071EE32
3J071EE37
3J071FF16
(57)【要約】
【課題】マリンホースの内部および外部の状態をより簡便に把握できる監視システムおよび方法を提供する。
【解決手段】マリンホース1の表面に配置したICタグ11の上方近傍空域にドローン21を移動させた状態で、ドローン21に搭載した通信機19から送信した発信電波R1により起動させたICタグ11から発信電波R1に応じて通信機19に送信する返信電波R2によって、検知器10による検知指標についての検知結果を送信して取得データとして演算装置20に入力し、取得データと基準データとの差異の大きさに基づいてマリンホース1の内部の状態を演算装置20により判断し、ドローン21がマリンホース1の上方空域にいる間にカメラ装置22により取得した画像データと基準画像データとの差異に基づいてマリンホース1の外部の状態を演算装置20により判断する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの監視システムにおいて、
前記マリンホースと、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続されたセンサ部を有する検知器と、前記ICタグと無線通信する通信機およびカメラ装置が搭載されたドローンと、前記通信機による取得データおよび前記カメラ装置による画像データが入力される演算装置とを備えて、
前記ICタグが前記マリンホースの表面に配置されて、前記検知器が前記ホース本体の内部での予め設定された検知指標を検知するように構成されていて、
前記ドローンを前記ICタグの上方近傍空域に移動させた状態で、前記通信機から送信された発信電波により前記ICタグが起動し、起動した前記ICタグから前記発信電波に応じて返信電波が送信されることにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信が行われ、前記ICタグが起動した際に前記検知器による前記検知指標についての検知結果が前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信されて前記取得データとして前記演算装置に入力され、入力された前記取得データと予め設定されている基準データとの差異の大きさに基づいて前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態が前記演算装置により判断され、かつ、前記ドローンが前記マリンホースの上方空域にいる間に前記カメラ装置により取得された前記画像データと予め設定されている基準画像データとの差異に基づいて前記マリンホースの外部の状態が前記演算装置により判断されるマリンホースの監視システム。
【請求項2】
前記検知指標が、前記内面層と前記補強層との間での圧力値または電気抵抗値の少なくとも一方であり、前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態として、前記流路からの前記流体の漏れの有無が判断される請求項1に記載のマリンホースの監視システム。
【請求項3】
前記演算装置では前記画像データと前記検知結果とが紐付けされ、前記画像データと前記基準画像データとの差異に基づいて前記流路からの前記流体の漏れの有無が判断される請求項2に記載のマリンホースの監視システム。
【請求項4】
前記ドローンが、予め把握されている前記マリンホースの位置情報に基づいて自動運転により前記ICタグの上方空域に移動され、前記ICタグと前記通信機との間で無線通信が行われる際には、前記ドローンが、自動運転によって、または、前記カメラ装置によりリアルタイムで取得される前記画像データに基づくドローン操縦者の操縦によって、前記ICタグの前記上方近傍空域に位置決めされる請求項1~3のいずれかに記載のマリンホースの監視システム。
【請求項5】
前記演算装置が、通信網を通して複数の端末機器に接続されていて、それぞれの前記端末機器に前記演算装置から前記取得データ、前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態についての前記演算装置による判断結果、前記画像データ、および、前記マリンホースの外部の状態についての前記演算装置による判断結果が送信される請求項1~3のいずれかに記載のマリンホースの監視システム。
【請求項6】
前記演算装置が、通信網を通して複数の端末機器に接続されていて、それぞれの前記端末機器に前記演算装置から前記取得データ、前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態についての前記演算装置による判断結果、前記画像データ、および、前記マリンホースの外部の状態についての前記演算装置による判断結果が送信される請求項4に記載のマリンホースの監視システム。
【請求項7】
内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの監視方法において、
パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続されたセンサ部を有する検知器と、前記ICタグと無線通信する通信機およびカメラ装置が搭載されたドローンと、前記通信機による取得データおよび前記カメラ装置による画像データが入力される演算装置とを用いて、
前記ICタグを前記マリンホースの表面に配置し、前記検知器により前記ホース本体の内部での予め設定された検知指標を検知するように構成して、
前記ドローンを前記ICタグの上方近傍空域に移動させた状態で、前記通信機から送信した発信電波により前記ICタグを起動させ、前記発信電波に応じて返信電波を前記ICタグから前記通信機に送信することにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信を行い、前記ICタグを起動させた際に前記検知器による前記検知指標についての検知結果を、前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信して前記取得データとして前記演算装置に入力し、入力された前記取得データと予め設定されている基準データとの差異の大きさに基づいて前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態を前記演算装置により判断し、かつ、前記ドローンが前記マリンホースの上方空域にいる間に前記カメラ装置により取得した前記画像データと予め設定されている基準画像データとの差異に基づいて前記マリンホースの外部の状態を前記演算装置により判断するマリンホースの監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マリンホースの監視システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マリンホースの流体漏れの有無を検知する方法、装置は種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1で提案されている方法では、マリンホースの流体滞留層に配置されたパッシブ型のICタグを利用して、マリンホースの外部にある検知機から送信した発信電波をICタグが受信し、この発信電波に応じてICタグが発信する返信電波を検知機が受信する。そして、検知機が受信する返信電波の強弱に基づいてマリンホースの流体漏れの有無が判断される。
【0003】
この方法によれば、作業者の測定スキルの程度に拘わらず、ICタグと検知機の間での無線通信によって流体漏れの有無を容易に検知できる。しかしながら、パッシブ型のICタグを利用するので、ICタグと検知機の間で無線通信を行う際には、作業者はマリンホースの近傍に移動して検知機をICタグから1m~2m程度の位置に近接させる必要がある。また、この方法では、マリンホースの内部の状態として流体の漏れの有無を把握できるが、マリンホースの外部の状態を把握することができない。それ故、マリンホースの内部および外部の状態をより簡便に把握するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、マリンホースの内部および外部の状態をより簡便に把握できるマリンホースの監視システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のマリンホースの監視システムは、内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの監視システムにおいて、前記マリンホースと、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続されたセンサ部を有する検知器と、前記ICタグと無線通信する通信機およびカメラ装置が搭載されたドローンと、前記通信機による取得データおよび前記カメラ装置による画像データが入力される演算装置とを備えて、前記ICタグが前記マリンホースの表面に配置されて、前記検知器が前記ホース本体の内部での予め設定された検知指標を検知するように構成されていて、前記ドローンを前記ICタグの上方近傍空域に移動させた状態で、前記通信機から送信された発信電波により前記ICタグが起動し、起動した前記ICタグから前記発信電波に応じて返信電波が送信されることにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信が行われ、前記ICタグが起動した際に前記検知器による前記検知指標についての検知結果が前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信されて前記取得データとして前記演算装置に入力され、入力された前記取得データと予め設定されている基準データとの差異の大きさに基づいて前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態が前記演算装置により判断され、かつ、前記ドローンが前記マリンホースの上方空域にいる間に前記カメラ装置により取得された前記画像データと予め設定されている基準画像データとの差異に基づいて前記マリンホースの外部の状態が前記演算装置により判断されることを特徴とする。
【0007】
本発明のマリンホースの監視方法は、内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの監視方法において、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続されたセンサ部を有する検知器と、前記ICタグと無線通信する通信機およびカメラ装置が搭載されたドローンと、前記通信機による取得データおよび前記カメラ装置による画像データが入力される演算装置とを用いて、前記ICタグを前記マリンホースの表面に配置し、前記検知器により前記ホース本体の内部での予め設定された検知指標を検知するように構成して、前記ドローンを前記ICタグの上方近傍空域に移動させた状態で、前記通信機から送信した発信電波により前記ICタグを起動させ、前記発信電波に応じて返信電波を前記ICタグから前記通信機に送信することにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信を行い、前記ICタグを起動させた際に前記検知器による前記検知指標についての検知結果を、前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信して前記取得データとして前記演算装置に入力し、入力された前記取得データと予め設定されている基準データとの差異の大きさに基づいて前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態を前記演算装置により判断し、かつ、前記ドローンが前記マリンホースの上方空域にいる間に前記カメラ装置により取得した前記画像データと予め設定されている基準画像データとの差異に基づいて前記マリンホースの外部の状態を前記演算装置により判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記ドローンを前記ICタグの上方近傍空域に移動させた状態で、前記ICタグと前記通信機との間で無線通信を行うことで、前記検知器による前記検知指標についての前記検知結果を取得できる。そのため、作業者が前記ICタグの近くに移動して前記通信機を前記ICタグに近接させる作業が不要になり、作業の軽労化に大きく寄与する。そして、前記検知結果が前記取得データとして入力された前記演算装置により、前記取得データと予め設定されている基準データとの差異の大きさに基づいて前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態が判断される。また、前記ドローンが前記マリンホースの上方空域にいる間に前記カメラ装置により取得した前記画像データと予め設定されている基準画像データとの差異に基づいて前記マリンホースの外部の状態が前記演算装置によって判断される。そのため、マリンホースの内部および外部の状態をより簡便に把握するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】監視システムの実施形態を例示する説明図である。
【
図2】
図1のマリンホースの一部を拡大して縦断面視で例示する説明図である。
【
図3】
図2のA-A断面視でマリンホースの一部を例示する説明図である。
【
図4】
図2の検知器を拡大して縦断面視で例示する説明図である。
【
図5】
図5(A)はマリンホースの基準画像データを例示し、
図5(B)はカメラ装置により取得されたマリンホースの画像データを例示する説明図である。
【
図6】
図6(A)はマリンホースの別の基準画像データを例示し、
図6(B)はカメラ装置により取得されたマリンホースの別の画像データを例示する説明図である。
【
図7】通信網を通じて演算装置と端末機器とが接続されている監視システムの構成を例示する説明図である。
【
図8】監視システムが適用された別のマリンホースの一部を拡大して縦断面視で例示する説明図である。
【
図9】
図8のB-B断面視でマリンホースの一部を例示する説明図である。
【
図10】
図8のケーシングおよびセンサ部を拡大して縦断面視で例示する説明図である。
【
図13】ループ回路の配置をマリンホースの一部を切欠いて上面視で例示する説明図である。
【
図14】ループ回路の別の配置をマリンホースの一部を切欠いて上面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のマリンホースの監視システム(以下、監視システムという)および監視方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1に例示する監視システムの実施形態は、水面に浮かんだ状態で使用されるフローティング仕様のマリンホース1に適用されて、マリンホース1の内部および外部の状態を把握する。マリンホース1は、円筒状のホース本体と、このホース本体の長手方向両端にそれぞれ連接された連結金具2と、で構成されている。それぞれの連結金具2は、ホース本体の長手方向に延在するニップル2bと、ニップル2bの長手方向一端に接合されたフランジ2aとを有している。マリンホース1どうしは互いの連結金具2を介して連結され、一般的には10本程度のマリンホース1が連結されて使用される。
【0012】
図2、
図3に例示するようにマリンホース1のホース本体には、内周側から外周側に向かって、内面層3、第一補強層4、本体ワイヤ層5、流体滞留層7、第二補強層6、浮力層8、外面層9が順に積層されている。このマリンホース1は、流体滞留層7を介在させてホース本体の半径方向に間隔をあけて積層された第一補強層4および第二補強層6を有するタブルカーカスタイプである。本体ワイヤ層5は任意で設けることができる。内面層3の内周側領域が流体Lの流路1aになる。流体Lとしては、原油、重油、ガソリン、LPG、水、海水、薬品(ガソリンから精製されたアルコール類)等を例示できる。
【0013】
内面層3は、流体Lの種類に応じて適切な材質が選択され、流体Lに対する耐久性および耐浸食性に優れた材質により構成されている。流体Lが原油、重油、ガソリン等の場合は、内面層3は耐油性に優れたニトリルゴム等で構成される。
【0014】
第一補強層4、第二補強層6はそれぞれ、並列した多数の補強コードがゴムで被覆された補強コード層が複数積層されて構成されている。本体ワイヤ層5は、第一補強層4の外周面に金属ワイヤが所定間隔をあけて螺旋状に巻付けられて構成されている。第一補強層4、本体ワイヤ層5、第二補強層6は、それぞれの両端部にあるニップルワイヤ4w、5w、6wと、ホース本体の両端部のニップル2bの外周面に突設された固定リング2c等を用いて、それぞれのニップル2bに固定されている。第一補強層4と第二補強層6との間に形成されている流体滞留層7は、流路1aから漏出した流体Lを貯留する空間になっている。
【0015】
浮力層8は、スポンジゴムや発泡ポリウレタン等のマリンホース1を海上に浮上させる浮力を発揮する材料で構成されている。外面層9は、ゴム等の非透水性材料で構成されていて、かつ、その表面には視認性に優れた基準ラインRLなどが付される。
【0016】
この監視システムは、マリンホース1と、検知器10と、通信機19およびカメラ装置22が搭載されたドローン21と、演算装置20とを備えている。この実施形態では、演算装置20がマリンホース1の使用場所に対して遠隔地に配置されていて、通信機19と演算装置20とがそれぞれ分離独立した構成になっているが、通信機19と演算装置20とを一体化してドローン21に搭載した構成にすることもできる。
【0017】
図4に例示するように検知器10は、パッシブ型のICタグ11およびICタグ11に接続されたセンサ部15を有している。ICタグ11は、マリンホース1の表面に配置されて水上に位置する。検知器10は、ホース本体の内部での予め設定された検知指標ixを検知するように構成されている。この実施形態では、この検知指標ixが内面層3と第二補強層6との間(流体滞留層7)での圧力値になっていて、センサ部15として圧力センサ15aが用いられている。そして、この監視システムでは、この検知指標ixに起因するマリンホース1の内部の状態として、流路1aからの流体Lの漏れの有無が演算装置20により判断される。
【0018】
ICタグ11は、ICチップ12と、ICチップ12に接続されたアンテナ部13とを有している。圧力センサ15aはICタグ11(ICチップ12)に接続されている。ICチップ12のサイズは非常に小さく、例えば、縦寸法および横寸法がそれぞれ50mm以下(外径相当で50mm以下)、厚みが5mm以下である。アンテナ部13のサイズも非常に小さく、例えば、縦寸法および横寸法がそれぞれ50mm以下(外径相当で50mm以下)、厚みが10mm以下である。この実施形態ではアンテナ部13としてセラミックアンテナが採用されているので非常にコンパクトになっている。
【0019】
ICチップ12には、そのICタグ11の識別番号などのタグ固有情報、その他に必要な情報が任意で記憶されている。ICタグ11には一般に流通している仕様が採用され、例えばRFIDタグを用いることができる。
【0020】
ICタグ11は、マリンホース1の長手方向端部に配置することが好ましい。この実施形態では、ホース本体の長手方向一方端部の連結金具2の表面(ニップル2bの外周面)にICタグ11が配置されている。詳述すると、
図4に例示するようにICタグ11および圧力センサ15aは、ケーシング18の内部に設置されている。ケーシング18は、筒状のベース部18aと、ベース部18aの上端部に取付けられる蓋部18bとを有している。
【0021】
ベース部18aは、外面層9に被覆されたニップル2bの外周面に立設されている。ベース部18aは例えばステンレス鋼などの金属で形成される。蓋部18bは、ベース部18aの上端部と螺合してその上端開口を水密に塞ぎ、ICタグ11および圧力センサ15aはケーシング18の水密に塞がれた内部空間に配置されている。蓋部18bは、発信電波R1および返信電波R2を透過させる材質で形成されていて、その材質として例えばポリカーボネート、ポリアミド、エポキシ樹脂などが採用される。ケーシング18(蓋部18b)は海洋で目立つように例えばオレンジ色にするとよい。
【0022】
ICタグ11および圧力センサ15aは配置されている内部空間の下部には逆止弁15eが設置されている。また、ベース部18aの下端部には、流体滞留層7に連通する連通管15dが接続されている。したがって、ベース部18aの下方空間は流体滞留層7を連通しているが、ICタグ11および圧力センサ15aが配置されている内部空間との間には逆止弁15eが介在していてこの内部空間は保圧室になっている。
【0023】
逆止弁15eは、保圧室への流体Lおよび気体の流れのみを許容して、保圧室から連通管15d側への流れを規制する。そのため、保圧室の圧力値が上昇するとその圧力状態が保持される。逆止弁15eは公知のものを使用すればよい。
【0024】
圧力センサ15aは、保圧室の圧力値を検知し、検知した圧力値はその後、通信機19による取得データDrとして演算装置20に入力される。圧力センサ15aは公知のものを使用すればよい。圧力センサ15aのサイズはICチップ12と同等程度である。尚、図面ではICチップ12および圧力センサ15aは吊り下げられた状態になっているが、アンテナ部13のように平置きされた状態にすることもできる。
【0025】
図2に例示するように通信機19は、電波発信部19aおよび電波受信部19bを備えている。電波発信部19aからICタグ11に対して発信電波R1が送信される。アンテナ部13が受信した発信電波R1によって、ICタグ11には電力が発生してICタグ11が起動する。起動したICタグ11はこの電力によってアンテナ部13を通じて返信電波R2を送信し、この返信電波R2が電波受信部19bにより受信される。このように、発信電波R1に応じて返信電波R2が送信されることによりICタグ11と通信機19との間で無線通信が行われる。
【0026】
通信機19としては、パッシブ型のRFIDタグとの間で無線通信を行うことができる一般に流通している仕様が採用される。これにより、ICタグ11と通信機19とがRFID(RadioFrequencyIDentification)システムを構成する。パッシブ型のICタグ11を使用するので、ICタグ11と通信機19との間の電波R1、R2の通信距離は例えば数十cm~数m程度になる。
【0027】
ICタグ11と通信機19との間での無線通信に使用される電波(R1、R2)の周波数は主にUHF帯(国によって異なるが860MHz以上930MHz以下の範囲、日本では915MHz以上930MHz)であり、HF帯(13.56MHz)が用いられることもある。
【0028】
カメラ装置22はマリンホース1の上方空域からマリンホース1の画像データを取得する。カメラ装置22としては、静止画または動画の画像データMrを取得する公知の種々のデジタルカメラなどを採用することができる。
【0029】
ドローン21は、上述した通信機19およびカメラ装置22を搭載して所望位置まで飛行して定位置でホバリングできる公知の仕様を採用することができる。ドローン21にはGNSS受信機23が設置されていて、ドローン21の位置座標がGNSSによってリアルタイムで把握される。所望位置の位置座標をドローン21の制御部に入力することで、自動制御運転によってドローン21を所望位置まで飛行させることができる
【0030】
演算装置20としては、公知のコンピュータが用いられ、演算装置20は入力されたデータを用いて様々な演算処理を行う。演算装置20には、通信機19による取得データDrおよびカメラ装置22による画像データMrが入力される。
【0031】
演算装置20には、
図5(A)、
図6(A)に例示するような、健全なマリンホース1が捻じれなく、かつ、直線状に延在している状態を示す基準画像データMcが入力されている。この基準画像データMcは、マリンホース1の上方空域から実際に撮影した画像データでも、設計データなどから作製したデータでもよい。マリンホース1の表面に付されているラインRLは、マリンホース1の軸心に平行に延在させて付された基準ラインRLである。例えば、基準ラインRLの直線性などを基準画像データMcとして用いることもできる。演算装置20には例えばモニタなどの出力手段が接続される。
【0032】
以下、この監視システムの実施形態を使用してマリンホース1の内部および外部状態を把握する手順の一例を説明する。
【0033】
図1に例示するように、陸上や船上などの測定基地からドローン21を飛行させてマリンホース1の表面に配置されているICタグ11の上方近傍空域に移動させた状態にする。例えば、予め把握されているマリンホース1の位置情報に基づいて、ドローン21に設置されたGNSS受信機23を使用してドローン21を自動運転によりICタグ11の上方空域に移動させる。ICタグ11と通信機19との間で無線通信を行なう際には、ドローン21を引き続き自動運転によってICタグ11の上方近傍空域に位置決めして、ICタグ11と通信機19との離間距離を1m程度にする。或いは、カメラ装置22によりリアルタイムで取得される画像データに基づいてドローン操縦者の操縦によって、ドローン21をICタグ11の上方近傍空域に位置決めすることもできる。
【0034】
図2に例示するように、ドローン21(通信機19)をICタグ11の上方近傍空域に位置決めした状態で、電波発信部19aから送信した発信電波R1によりICタグ11を起動させる。発信電波R1に応じてICタグ11から送信された返信電波R2を電波受信部19bにより受信してICタグ11と通信機19との間で無線通信を行う。
【0035】
ICタグ11を起動させた際に、検知器10による検知指標ixの検知結果として、圧力センサ15aにより検知された圧力値が、返信電波R2によってICタグ11から通信機19に送信されて取得データDrとして演算装置20に入力される。演算装置20は、入力された取得データDrと予め設定されている基準データDcとの差異の大きさに基づいて検知指標ixに起因するマリンホース1の内部の状態として、流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断する。
【0036】
ここで、流路1aから流体Lが漏出していない健全な状態での流体滞留層7での内圧データを、事前テストなどを行って予め把握しておいて基準データDcにする。流路1aから漏出した流体Lが流体滞留層7に流入すると、流体滞留層7の内圧は高くなる。そこで例えば演算装置20は、取得データDrが基準データDcの許容範囲(例えば、基準データDcの1.1倍以上)を超えた場合は流路1aから流体Lが漏出していると判断し、この許容範囲内の場合は流体Lが漏出していないと判断する。この許容範囲は事前テストの結果に基づいて適切に設定すればよい。
【0037】
さらに、
図1に例示するようにドローン21がマリンホース1の上方空域にいる間に、カメラ装置22によりマリンホース1の画像データMrを取得する。
図5(B)、
図6(B)に例示するように、マリンホース1(ホース本体)の全長を網羅する画像データMrを取得することが好ましい。この画像データMrを取得するタイミングは、ICタグ11と通信機19との間で無線通信を行う前であっても後であってもよい。
【0038】
取得された画像データMrは、演算装置20に入力される。演算装置20は、取得された画像データMrと予め設定されている基準画像データMcとの差異に基づいてマリンホース1の外部の状態を判断する。例えば、
図5(A)に例示する基準画像データMcと
図5(B)に例示する取得された画像データMrのそれぞれの基準ラインRLが比較される。演算装置20は、
図5(A)の基準ラインRLに対して
図5(B)の基準ラインRLの乖離具合(曲がり具合)が予め設定された許容範囲を超えている場合はマリンホース1に異常な曲げが生じていると判断し、この許容範囲内の場合は異常な曲げが生じていないと判断する。
図5(A)の基準画像データMcと
図5(B)の画像データMrとを重ね合わせることで、マリンホース1の曲がり具合を演算装置20により容易に算出することができる。画像データMrでの基準ラインRLの屈曲半径を演算装置20により算出して、基準画像データMcとしての基準ラインRLの直線(曲率半径は無限大)と比較してもよい。または、基準画像データMcと画像データMrのそれぞれのホース本体の輪郭どうしを比較してもよい。
【0039】
或いは、
図6(A)の基準画像データMcと
図6(B)の取得された画像データMrのそれぞれの基準ラインRLが比較される。演算装置20は、
図6(A)の基準ラインRLに対して
図6(B)の基準ラインRLの周方向のずれ具合(捻じれ具合)が予め設定された許容範囲を超えている場合はマリンホース1に異常な捻じれが生じていると判断し、この許容範囲内の場合は異常な捻じれ生じていないと判断する。
図6(A)の基準画像データMcと
図6(B)の画像データMrとを重ね合わせることで、マリンホース1の捻じれ具合を演算装置20により容易に算出することができる。
図5で例示したマリンホース1の曲がり具合と
図6で例示したマリンホース1の捻じれ具合のいずれか一方ではなく、両方についての異常の有無を判断してマリンホース1の外部の状態を把握することがより好ましい。
【0040】
上述した圧力センサ15aに加えて、または、代えて温度センサ15bを用いることもできる。即ち、温度センサ15bを用いることで、検知指標ixを内面層3と第二補強層6との間(流体滞留層7)での温度にする。そして、この検知指標ixに起因するマリンホース1の内部の状態として、マリンホース1の内部の異常加熱の有無を把握する。温度センサ15bは、ケーシング18の内部で逆止弁15eよりも連通管15d側に配置することもでき、流体滞留層7の内部に配置することもできる。演算装置20は、入力された取得データDr(温度センサ15bによる温度データ)と予め設定されている基準データDc(基準温度データ)との差異の大きさに基づいて、マリンホース1の内部の状態として、マリンホース1の内部の異常加熱の有無を判断する。
【0041】
この監視システムによれば、ICタグ11と通信機19との間で無線通信を行う際には、ドローン21をICタグ11の上方近傍空域に移動させればよい。それ故、作業者がICタグ11の近くに移動して通信機19をICタグ11に近接させる作業が不要になり、作業が大幅に軽労化される。そして、演算装置20が検知指標ixに起因するマリンホース1の内部の状態を判断するので、その判断結果によって、マリンホースの内部の状態をより簡便に把握できる。また、演算装置20がカメラ装置22により取得された上方空域からのマリンホース1の画像データMrと基準画像データMcとの差異に基づいてマリンホース1の外部の状態を判断するので、その判断結果によって、マリンホース1の外部の状態をより簡便に把握できる。
【0042】
図7に例示するように演算装置20は、所望の端末機器24とインターネットなどの通信網を介して接続された構成にするとよい。例えば、マリンホース1の使用場所に対して遠隔地にあるマリンホース1の運用会社(ユーザ)の管理室、マリンホース1の販売会社、製造会社などの関係者の端末機器24に対して、様々な情報(データ)を演算装置20から送信する。それぞれの端末機器24に送信する情報は例えば、通信機19による上記の取得データDrや、検知指標ixに起因するマリンホースの内部の状態に対する演算装置20による判断結果、カメラ装置22により取得された画像データMr、マリンホース1の外部の状態に対する演算装置20による判断結果である。この構成によれば、これら端末機器24を有する関係者はマリンホース1の使用場所に対して遠隔地に居ながらマリンホース1の内部および外部の状態を把握できる。
【0043】
図8~
図10に例示する監視システムの実施形態が適用されているマリンホース1のホース本体には、内周側から外周側に向かって、内面層3、第一補強層4、浮力層8、外面層9が順に積層されている。このマリンホース1は流体滞留層7を有していないのでシングルカーカスタイプである。
【0044】
第一補強層4は、並列した多数の補強コードがゴムで被覆された補強コード層4A~4Hが複数積層されて構成されている。この実施形態では、8層の補強コード層4A~4Hが積層された1つの補強コード層群が第一補強層4になっているが、補強コード層4A~4Hの積層数はマリンホース1に対する要求性能に基づいて適宜決定される。
【0045】
この監視システムの実施形態は、先の実施形態とはさらに検知器10の構成が異なっていて、その他の構成は実質的に同じである。この実施形態では、この検知指標ixが内面層3と第二補強層6との間での電気抵抗値になっていて、センサ部15として検出素子15cが用いられている。そして、この監視システムでは、この検知指標ixに起因するマリンホース1の内部の状態として、流路1aからの流体Lの漏れの有無が演算装置20により判断される。
【0046】
図11、
図12に例示するように、この実施形態で使用されている検知器10は、パッシブ型のICタグ11およびICタグ11に接続されたループ回路17を有している。ICタグ11は、マリンホース1の表面に配置されて水上に位置する。ループ回路17は検出素子15cにより形成されていて、内面層3と第一補強層4との間でホース本体の長手方向に連続して延在する。
【0047】
詳述すると、ICタグ11は、ICチップ12と、ICチップ12に接続されたアンテナ部13とを有している。ICチップ12およびアンテナ部13は、基板14の上に配置されている。ICチップ12およびアンテナ部13は絶縁層14aによって覆われていて、ICタグ11の全体は外部と電気的に絶縁されている。ただし、ICタグ11と検出素子15cとは電気的に通電可能に接続されている。絶縁層14aは例えば絶縁ゴム、ポリエステルなどの樹脂、天然繊維などの公知の絶縁材料によって形成される。
【0048】
ICチップ12には、そのICタグ11の識別番号などのタグ固有情報、ICタグ11に接続される検出素子15cを特定する素子識別情報、その他に必要な情報が任意で記憶されている。アンテナ部13は公知の種々のタイプを用いることができるが、この実施形態ではICチップ12から左右対称に延在するダイポールアンテナが採用されている。
【0049】
検出素子15cは、導電性を有する線状体であり、流路1aを流れる流体Lが含侵することにより電気抵抗値が変化する導電ゴムまたは導電ペースト(金属粒子を含有するペースト)により形成されている。検出素子15cの外径(幅)は例えば1mm以上20mm以下、より好ましくは5mm以上10mm以下である。検出素子15cは、単純な断面円形の線材でもよいが、扁平した線状体(帯状の線材)にすることが好ましい。
【0050】
検出素子15cは、外周面が絶縁体16により被覆されていて、検出素子15cは外部と電気的に絶縁されている。絶縁体16は、絶縁層14aと同様に公知の絶縁材料によって形成される。ただし、絶縁体16は流体Lが浸透する材質で形成され、或いは、貫通孔を有していて、流体Lは絶縁体16を通過して検出素子15cに到達可能になっている。
【0051】
検出素子15cの長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、ICチップ12と通電可能に接続されて、ICタグ11の外部でループ回路17を形成している。ループ回路17で平行に延在する検出素子15cどうしの間隔は例えば5mm以上50mm以下である。ICタグ11(基板14)には、ICチップ12に接続された多数の一対の端子が設けられている。検出素子15cの長手方向一端部と他端部とはそれぞれ、この一対の端子に接続されることでICチップ12と電気的に接続されている。検出素子15cと一対の端子とは、ハトメおよび圧着端子を用いて接続したり、導電性接着剤、溶接、ハンダなどで接続する。この実施形態では、一対の端子が5つ設けられているが、ICタグ11(基板14)に設けられる一対の端子の数は特に限定されず1個でもよい。スペースの制約があるため、1つのICタグ11(基板14)に設けられる一対の端子の数は、例えば1個~6個程度である。
【0052】
ループ回路17(検出素子15c)は、ホース本体の長手方向一端部から他端部まで連続して延在させてホース本体の全長を網羅させることが好ましい。この実施形態では、
図10に例示するようにICタグ11は、ケーシング18の内部に設置されている。蓋部18bは、ベース部18aの上端部と螺合してその上端開口を水密に塞ぎ、ICタグ11はケーシング18の水密に塞がれた内部空間に配置されている。
【0053】
検出素子15c(ループ回路17)は、ケーシング18の内部からホース本体に向かって延在し、ホース本体では内面層3と第一補強層4との間に配置されてホース本体の長手方向一端部から他端部に連続して延在している。この実施形態では、
図13に例示するようにループ回路17は、ホース本体に対してスパイラル状に巻回されてホース本体の長手方向一方端部から他方端部まで延在している。即ち、ループ回路17は内面層3の外周面にスパイラル状に巻き付けられている。ループ回路17のスパイラルピッチは例えば20cm以上50cm以下である。尚、図中の一点鎖線CLは、マリンホース1(ホース本体)の横断面中心CLを通る軸心である。ループ回路17をこのようにスパイラル状にして延在させると、1つのループ回路17であってもホース本体の全範囲を効率的に網羅できるメリットがある。
【0054】
図14、
図15に例示するように、独立した複数のループ回路17をホース本体に対して周方向に間隔をあけて配置して、ホース本体の長手方向に直線状に延在させることもできる。それぞれのループ回路17はホース本体の周方向に等間隔で配置されることが好ましい。
図14、
図15に例示する仕様を採用すると、1つのループ回路17が何らかの理由によって故障しても他のループ回路17によって流体Lの漏れの有無を検知できるメリットがある。また、ループ回路17をスパイラル状の延在させる場合に比して、それぞれのループ回路17の全長を短くできるので、それぞれのループ回路17での電気抵抗値の変化をより敏感に(高感度で)検知するには有利になる。
【0055】
以下、この監視システムの実施形態を使用してマリンホース1の内部の状態を把握する手順の一例を説明する。この実施形態は先の実施形態とは検知指標ixが異なるだけで、その他は先の実施形態と実質的に同じであるので、先の実施形態と異なる部分を説明する。マリンホース1の外部の状態を把握する手順は先の実施形態と同様である。
【0056】
電波通信部19aから送信された発信電波R1をアンテナ部13が受信してICタグ11が起動した際にループ回路17には電流が流れる。このループ回路17での電気抵抗値データが、検知器10による検知指標ixの検知結果として、返信電波R2によってICタグ11から通信機19に送信される。この電気抵抗値のデータは電波受信部19bにより受信され、その後、通信機19による取得データDrとして演算装置20に入力される。
【0057】
演算装置20は、入力された取得データDrと、基準データDcとして予め設定されている基準抵抗値データとの差異の大きさに基づいて流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断する。内面層3が健全で流体Lが内面層3から漏出していない場合は、取得データDrと基準データDcとは実質的に同じであり殆ど差異がない。
【0058】
一方、内面層3が破損して、流体Lが流路1aから内面層3の外側に漏出していると、流体Lがループ回路17を形成している検出素子15cに接触してループ回路17の電気抵抗値が急速に大きく変動して(極めて大きくなって)、絶縁状態または絶縁に近い状態になる。即ち、ICタグ11が起動した際のループ回路17の電気抵抗値データ(取得データDr)は、基準データDcに比して著しく大きくなる。
【0059】
そこで演算装置20は、入力された取得データDrと基準データDcとを比較する。その結果、演算装置20は、取得データDrが基準データDcに対して許容範囲を超えて大きい場合は流路1aから流体Lが漏出していると判断し、この許容範囲内の場合は流体Lが漏出していないと判断する。
【0060】
図8~
図15に例示する実施形態は、シングルカーカスタイプのマリンホース1に限らず、ホース本体に流体滞留層7を有するタブルカーカスタイプのマリンホース1に適用することもできる。タブルカーカスタイプのマリンホース1では、上述したようにループ回路17を内面層3の外周面に配置してもよいが、流体滞留層7に配置することもできる。ループ回路17を流体滞留層7に配置する場合は、ループ回路17はホース本体の長手方向一端からホース本体の全長の例えば20%以上50%以下の位置まで連続して延在させればよい。何故ならば、流体滞留層7の一部に流体Lが流入すると、流体Lは次第に流体滞留層7の全長に行き渡るためである。
【0061】
演算装置20では取得された画像データMrと検知器10による検知結果とを紐付けして、画像データMrと基準画像データMcとの差異に基づいて流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断する構成にしてもよい。即ち、流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断する際に、検知器10により検知された検知指標ixの検知結果を用いるだけでなく画像データMrも利用することができる。
【0062】
例えば、マリンホース1の局部的な屈曲に伴い、検出素子15cが屈曲されると検出素子15の電気抵抗値はある程度大きくなる。それ故、検出素子15cの電気抵抗値の変化が、検出素子15cに流体Lが含侵したことが原因であるのか、検出素子15cが屈曲したことが原因であるのか曖昧になる。即ち、検知器10により検知されたループ回路17での電気抵抗値データ(取得データDr)だけに基づいて流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断すると、流体Lの漏れの有無を高精度で判断をするには不利になる。
【0063】
そこで、ドローン21により取得された上方空域からのマリンホース1の画像データMrと基準画像データMcとの差異に基づいて、流体Lの漏れの有無を判断する際にこの画像データMrを考慮するか否かを決定する。画像データMrと基準画像データMcとの差異(曲がり具合)が小さくて許容範囲内の場合は、マリンホース1の屈曲状態はループ回路17での電気抵抗値データ(取得データDr)の大きさに影響しないと見做して、画像データMrは無視する。そして、演算装置20に入力された取得データDrと基準データDcとの差異の大きさだけに基づいて流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断する。
【0064】
一方、画像データMrと基準画像データMcとの差異(曲がり具合)が大きくて許容範囲を超えている場合は、マリンホース1の屈曲状態はループ回路17での電気抵抗値データ(取得データDr)の大きさに影響すると見做す。そして、画像データMrを考慮して、演算装置20に入力された取得データDrと基準データDcとの差異の大きさに基づいて流路1aからの流体Lの漏れの有無を判断する。この許容範囲は事前テストなどを行って適切な範囲を把握して設定する。画像データMrを考慮する場合は、例えば、画像データMrでのマリンホース1の屈曲半径に応じて、電気抵抗値データ(取得データDr)に係数(<1)を乗じる。画像データMrでのマリンホース1の屈曲半径が小さい程、乗じる係数を小さくして、マリンホース1が屈曲することで電気抵抗値データ(取得データDr)が大きくなる影響を相殺する。この係数も事前テストなどを行って適切な数値を把握して設定すればよい。
【0065】
本開示は、以下の発明を包含する。
[発明1]内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの監視システムにおいて、前記マリンホースと、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続されたセンサ部を有する検知器と、前記ICタグと無線通信する通信機およびカメラ装置が搭載されたドローンと、前記通信機による取得データおよび前記カメラ装置による画像データが入力される演算装置とを備えて、前記ICタグが前記マリンホースの表面に配置されて、前記検知器が前記ホース本体の内部での予め設定された検知指標を検知するように構成されていて、前記ドローンを前記ICタグの上方近傍空域に移動させた状態で、前記通信機から送信された発信電波により前記ICタグが起動し、起動した前記ICタグから前記発信電波に応じて返信電波が送信されることにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信が行われ、前記ICタグが起動した際に前記検知器による前記検知指標についての検知結果が前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信されて前記取得データとして前記演算装置に入力され、入力された前記取得データと予め設定されている基準データとの差異の大きさに基づいて前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態が前記演算装置により判断され、かつ、前記ドローンが前記マリンホースの上方空域にいる間に前記カメラ装置により取得された前記画像データと予め設定されている基準画像データとの差異に基づいて前記マリンホースの外部の状態が前記演算装置により判断されるマリンホースの監視システム。
[発明2]前記検知指標が、前記内面層と前記補強層との間での圧力値または電気抵抗値の少なくとも一方であり、前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態として、前記流路からの前記流体の漏れの有無が判断される[発明1]に記載のマリンホースの監視システム。
[発明3]前記演算装置では前記画像データと前記検知結果とが紐付けされ、前記画像データと前記基準画像データとの差異に基づいて前記流路からの前記流体の漏れの有無が判断される[発明2]に記載のマリンホースの監視システム。
[発明4]前記ドローンが、予め把握されている前記マリンホースの位置情報に基づいて自動運転により前記ICタグの上方空域に移動され、前記ICタグと前記通信機との間で無線通信が行われる際には、前記ドローンが、自動運転によって、または、前記カメラ装置によりリアルタイムで取得される前記画像データに基づくドローン操縦者の操縦によって、前記ICタグの前記上方近傍空域に位置決めされる[発明1]~[発明3]のいずれかに記載のマリンホースの監視システム。
[発明5]前記演算装置が、通信網を通して複数の端末機器に接続されていて、それぞれの前記端末機器に前記演算装置から前記取得データ、前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態についての前記演算装置による判断結果、前記画像データ、および、前記マリンホースの外部の状態についての前記演算装置による判断結果が送信される[発明1]~[発明4]のいずれかに記載のマリンホースの監視システム。
[発明6]内面層と外面層との間に内周側から順に補強層と浮力層とが積層されたホース本体と、このホース本体の長手方向両端部にそれぞれ連接された連結金具とを有して、前記内面層の内周側領域を流路にしたマリンホースの監視方法において、パッシブ型のICタグおよびこのICタグに接続されたセンサ部を有する検知器と、前記ICタグと無線通信する通信機およびカメラ装置が搭載されたドローンと、前記通信機による取得データおよび前記カメラ装置による画像データが入力される演算装置とを用いて、前記ICタグを前記マリンホースの表面に配置し、前記検知器により前記ホース本体の内部での予め設定された検知指標を検知するように構成して、前記ドローンを前記ICタグの上方近傍空域に移動させた状態で、前記通信機から送信した発信電波により前記ICタグを起動させ、前記発信電波に応じて返信電波を前記ICタグから前記通信機に送信することにより前記ICタグと前記通信機との間で無線通信を行い、前記ICタグを起動させた際に前記検知器による前記検知指標についての検知結果を、前記返信電波によって前記ICタグから前記通信機に送信して前記取得データとして前記演算装置に入力し、入力された前記取得データと予め設定されている基準データとの差異の大きさに基づいて前記検知指標に起因する前記マリンホースの内部の状態を前記演算装置により判断し、かつ、前記ドローンが前記マリンホースの上方空域にいる間に前記カメラ装置により取得した前記画像データと予め設定されている基準画像データとの差異に基づいて前記マリンホースの外部の状態を前記演算装置により判断するマリンホースの監視方法。
【符号の説明】
【0066】
1 マリンホース
1a 流路
2 連結金具
2a フランジ
2b ニップル
2c 固定リング
3 内面層
4 第一補強層
4A~4H 補強コード層
4w ニップルワイヤ
5 本体ワイヤ層
5w ニップルワイヤ
6 第二補強層
6w ニップルワイヤ
7 流体滞留層
8 浮力層
9 外面層
10 検知器
11 ICタグ
12 ICチップ
13 アンテナ部
14 基板
14a 絶縁層
15 センサ部
15a 圧力センサ
15b 温度センサ
15c 検出素子
15d 連通管
15e 逆止弁
16 絶縁体
17 ループ回路
18 ケーシング
18a ベース部
18b 蓋部
19 通信機
19a 電波発信部
19b 電波受信部
20 演算装置
21 ドローン
22 カメラ装置
23 GNSS受信機
24 端末機器