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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143504
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】複合半透膜および造水方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/10 20060101AFI20241003BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241003BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D69/10
B01D69/00
B01D69/12
C02F1/44 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056225
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高谷 清彦
(72)【発明者】
【氏名】尾形 雅美
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006HA61
4D006HA65
4D006JA05A
4D006JA05C
4D006JA06A
4D006KE07Q
4D006KE12Q
4D006KE15Q
4D006KE16Q
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA25
4D006MA26
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB02
4D006MC16
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC27
4D006MC29
4D006MC33
4D006MC39
4D006MC46
4D006MC48
4D006MC54
4D006MC56X
4D006MC61
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC88
4D006NA41
4D006PA01
4D006PA04
4D006PB03
4D006PB05
4D006PB08
4D006PC02
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】初期造水量に優れ、高温度かつ高圧力運転後においても高い透水性保持性、塩除去性を有する複合半透膜を提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材上に設けられた多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層を有する複合半透膜であって、前記多孔質層の走査型電子顕微鏡による断面画像を厚み方向に20個に等分し、基材側から分離機能層側に向かってそれぞれ断面画像R1、R2、・・・Rn・・・R20(nは1~20までの整数である。)としたとき、前記多孔質層の平均孔径最大値が、前記断面画像R3~R18のいずれかに存在し、前記断面画像R1および前記断面画像R2における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、複合半透膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられた多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層を有する複合半透膜であって、
前記多孔質層の走査型電子顕微鏡による断面画像を厚み方向に20個に等分し、基材側から分離機能層側に向かってそれぞれ断面画像R1、R2、・・・Rn・・・R20(nは1~20までの整数である。)としたとき、
前記多孔質層の平均孔径最大値が、前記断面画像R3~R18のいずれかに存在し、
前記断面画像R1および前記断面画像R2における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、複合半透膜。
【請求項2】
前記断面画像R1における多孔質層の平均孔径をXとし、前記断面画像R1~R20における多孔質層の平均孔径最大値をYとしたとき、Y/Xが1.1以上10以下である請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記断面画像R1、前記断面画像R2、および前記断面画像R3における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記断面画像R1、前記断面画像R2、前記断面画像R3、および前記断面画像R4における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記断面画像R1、前記断面画像R2、前記断面画像R3、前記断面画像R4、および前記断面画像R5における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記断面画像R1~R20における多孔質層の平均孔径最大値は、0.5μm以上2.0μm以下である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項7】
前記複合半透膜の基材側のみに0.05質量%のメチルバイオレット水溶液を5分間接触させ、前記基材を多孔質層から剥離させた後の前記多孔質層の剥離面において、染色された剥離面の面積割合が、剥離面全体面積の15%以上、50%以下である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項8】
前記多孔質層の厚みが20μm以上70μm以下である、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の複合半透膜を用いて、温度35℃以上、TDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形物)40000mg/L以上の水溶液を濃縮水と透過水とに分離する分離工程を有する造水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合半透膜および造水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材、多孔質層、分離機能層を有する複合半透膜は、海水淡水化など、原水から溶質を除く逆浸透処理用の複合分離膜として用いられている。逆浸透処理では、供給水側の浸透圧と透過水側の浸透圧の差以上の圧力が複合分離膜の供給水側にかけられる。近年では、排水をゼロにするZLD(Zero Liquid Discharge)や有価物回収工程の濃縮にも使用されることがあり、溶質濃度によっては従来よりも高圧力で運転されるケースも増えてきている。
【0003】
このような逆浸透処理の高圧力運転では、複合半透膜の透水性は、低下することがある。透水性低下の原因として、多孔質層の高圧力運転下で圧密化による内部の孔の閉塞が、特許文献1~4で指摘されている。
【0004】
特許文献1では、5.5MPaの圧力を3時間加えてから圧力を解除した後の多孔質層の平均膜厚t(μm)と純水透過係数p(g/(cm・s・MPa))、膜厚方向に10MPaの圧力を3時間加えてから解除した後の多孔質層の平均膜厚t(μm)と純水透過係数p(g/(cm・s・MPa))において、t/tおよびp/pが特定の数値範囲を満たす複合半透膜が開示されている。特許文献1によると、t/tおよびp/pは、多孔質層の圧密化に抵抗する能力を表す指標、つまり、複合半透膜の骨格部分の強度を表す指標であり、上記条件を満足する膜は圧密化が抑制される。
【0005】
特許文献2の複合半透膜は、多孔質層が分離機能層に接する緻密層と、緻密層と基材との間に位置するマクロボイド層を備える。特許文献2では、特に、マクロボイド層における膜面方向の単位長さあたりのマクロボイドの数が特定の範囲にあると、高圧力での運転においても多孔質層の厚みが維持されることが開示されている。
【0006】
特許文献3では、運転中の性能の変化を小さく抑えるために、予め2時間以上、複合半透膜を圧密化することが開示されている。
【0007】
特許文献4では、多孔質層表面への分離機能層の落ち込みを抑制するために、多孔質層表面を細径化し、樹脂密度を高め、分離機能層から基材方向へかけて孔径が順次大径化していくような多孔質層の設計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-252538号公報
【特許文献2】特開2018-039003号公報
【特許文献3】特開2014-014739号公報
【特許文献4】特開2001-252537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ZLD(Zero Liquid Discharge)など高圧力で運転するプロセスにおいては、複合分離膜の造水量低下が懸念される。さらに、海水淡水化のような自然の供給水を用いる場合は、年間を通じて供給水の温度は一定ではなく、夏場は温度が高くなり、高圧力だけでなく高温供給水も造水量を低下させる要因となる。
【0010】
しかしながら、従来の多孔質層の圧密化抑制では、高温運転時の造水量保持性に劣るといった課題があった。
本発明は、高温度かつ高圧力運転後においても高い透水性保持性、塩除去性を有する複合半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す複合半透膜により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を解決するために、本発明における複合半透膜は、下記の構成を備える。
基材と、前記基材上に設けられた多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層を有する複合半透膜であって、
前記多孔質層の走査型電子顕微鏡による断面画像を厚み方向に20個に等分し、基材側から分離機能層側に向かってそれぞれ断面画像R1、R2、・・・Rn・・・R20(nは1~20までの整数である。)としたとき、
前記多孔質層の平均孔径最大値が、前記断面画像R3~R18のいずれかに存在し、
前記断面画像R1および前記断面画像R2における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、複合半透膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、高温度かつ高圧力運転後であっても高い透水性保持性、塩除去性を有する複合半透膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の一形態における複合半透膜の模式断面図である。
図2図2は、比較例2の複合半透膜における多孔質膜のSEM断面画像である。
図3図3は、実施例2の複合半透膜における多孔質膜のSEM断面画像である。
図4図4は、実施例および比較例で作製した複合半透膜における多孔質層のSEM断面画像と平均孔径の分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.複合半透膜
本発明の実施の一形態として、以下では、図1に示すように、基材2と、基材2上に設けられた多孔質層3と、多孔質層3上に設けられた分離機能層4を有する複合半透膜1について説明する。また、多孔質層3の、分離機能層側の主面を表面11とし、基材側の主面を裏面12とする。
【0015】
(基材)
基材を構成する材料としては、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、またはこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。中でも、機械的、熱的に安定性の高いポリエステル系重合体が特に好ましい。また、基材の形態としては、機械的、熱的に安定性の高い布帛が好ましい。布帛としては、長繊維不織布や短繊維不織布、織編物を好ましく用いることができる。ここで、長繊維不織布とは、平均繊維長300mm以上、かつ平均繊維径3~30μmの不織布のことを指す。
【0016】
(基材の厚み)
基材の厚みは10~200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30~150μmの範囲内である。
基材の厚みは、ダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージによって測定することができる。測定機器としては、尾崎製作所株式会社のPEACOCKや株式会社テクロックの製品などが使用できる。ダイヤルシックネスゲージやデジタルシックネスゲージを用いる場合は、任意の20箇所について厚みを測定してその相加平均を算出し、基材の厚みとする。
【0017】
(基材の目付量)
基材の目付は、40~120g/mであることが好ましい。目付を好ましくは40g/m以上、より好ましくは50g/m以上とすることにより、高分子溶液流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができ、高い膜剥離強度および機械的強度を有し耐久性に優れた複合半透膜を得ることができる。一方、目付を好ましくは120g/m以下、より好ましくは100g/m以下とすることにより、複合半透膜の厚さを低減し、複合半透膜エレメント1本あたりの半透膜面積を増大させることができ、さらに十分な通水性を確保できるため、多孔質層の形成時に、後述する「凝固流体流れ」を樹脂溶液中に形成しやすい。
【0018】
(基材の純水透過係数)
基材の25℃における純水透過係数は、100以上1400以下[×10-9/m・sec・Pa]であることが好ましく、200以上1000以下[×10-9/m・sec・Pa]であることがより好ましい。
基材の純水透過係数は以下の方法で求めることができる。まず、直径4.3cmの円形に基材を切り抜き、切り抜いたサンプルを撹拌型ウルトラホルダー(アドバンテック東洋株式会社製 UHP-43K)にセットする。続いて、セル内に25℃の純水を入れ、キャップを取り付けた後、窒素や圧空で一定圧力となるように昇圧する。最後に、一定時間における純水透過量を測定し、以下の式から純水透過係数[×10-9/m・sec・Pa]を算出する。
純水透過係数=純水透過量/(基材有効ろ過面積×採水時間×供給圧力)
基材の純水透過係数を上記範囲とすることで、多孔質層の形成時に、後述する「凝固流体流れ」を樹脂溶液中に形成しやすい。
【0019】
(多孔質層)
多孔質層は熱可塑性樹脂によって形成されることが望ましい。ここで、熱可塑性の樹脂とは、鎖状高分子物質からできており、加熱すると外力によって変形または流動する性質が表れる樹脂のことをいう。
【0020】
熱可塑性樹脂の例として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマー、あるいはこれらのコポリマーを単独で、あるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、塩素化塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。中でもポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニルあるいは塩素化塩化ビニルが好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂として、より好ましくは酢酸セルロース、ポリ塩化ビニルあるいは塩素化塩化ビニル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンが挙げられ、さらに、これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用できる。多孔質層は、これら列挙された化合物を主成分として含有することが好ましい。
【0022】
ポリスルホンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でN-メチルピロリドンを溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定した場合の質量平均分子量(Mw)が、10000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは15000以上100000以下である。ポリスルホンのMwは、10000以上であることで、多孔質層として好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。また、Mwが200000以下であることで、溶液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0023】
(多孔質層の平均孔径分布)
一般的に、非溶媒誘起相分離により、基材上に多孔質層を得る場合、樹脂溶液表面は、大量の凝固流体と接触するため、瞬時に相分離が進行し、凝固することで微細かつ緻密孔が形成される。
一方で、樹脂溶液内部は、樹脂溶液中を拡散してきた凝固流体と接触することになるため、比較的遅く凝固流体と接触することになり、凝固が遅くなり、粗大かつ疎な孔が形成され、多孔質層は非対称構造を形成する。
【0024】
上記非対称構造の圧密化について考えると、高温度・高圧力運転における圧密化は、空隙率が低いほど、圧縮強度が高くなるので、圧密化は抑制される。一方で、空隙率は高いほど、圧密化には不利であるが、多孔質層内での透水経路が多くなるので、透水性が向上する。このように相反する潰れ抑制と透水経路の確保という要求に対して、発明者らは、多孔質層の平均孔径の孔径分布の形状を、従来の非対称構造ではなく、凸形構造として設計する検討を行った。
図2には、比較例2で作製した従来の複合半透膜における多孔質膜のSEM断面画像を示す。図2に示すように、従来の多孔質層は、平均孔径が、基材側の主面(裏面)付近において最大となり、分離機能層側の主面(表面)にかけて小さくなる、すなわち孔径分布の形状が非対称構造となることが通常である。
図3には、実施例2で作製した本発明の複合半透膜における多孔質膜のSEM断面画像を示す。図3に示すように、本発明の実施形態に係る複合半透膜における多孔質層では、平均孔径が多孔質層の表面付近や裏面付近では小さく、表面付近や裏面付近を除く範囲で、好ましくは中心部分において、最大となる、すなわち平均孔径分布の形状が凸形構造となる。
その結果、従来の非対称構造を有する多孔質層を用いた複合半透膜に比べ、本発明の実施形態に係る複合半透膜は、高温度・高圧力運転における複合半透膜の圧密化が抑制される。
【0025】
本発明の実施形態に係る多孔質層を得るためには、多孔質層の、基材側の主面(裏面)と分離機能層側の主面(表面)の両面から凝固流体を接触させる手段が挙げられる。そのため、凝固流体との接触に基材を介さない中空状多孔質膜や、樹脂シートの例では、樹脂溶液と凝固流体が両面から直接接触するため、容易に上記凸形構造の孔径分布は得られる。
【0026】
しかし、海水淡水化、かん水淡水化など高圧運転が必要である複合半透膜および、当該複合半透膜を用いたスパイラル型分離膜エレメントでは、複合半透膜の強度が必須となり、基材の存在が不可欠となるために、従来の技術では、多孔質層の裏面に緻密孔を有し、かつ孔径分布の形状が凸形構造を有する多孔質層から成る複合半透膜は得られていなかった。
【0027】
本発明に実施形態に係る複合半透膜は、基材と、前記基材上に設けられた多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層を有し、かつ多孔質層は、裏面(基材側の主面)から表面(分離機能層側の主面)への平均孔径分布が上に凸形の構造であって、裏面に緻密孔を有する。
【0028】
具体的には、多孔質層の走査型電子顕微鏡による断面画像を厚み方向に20個に等分し、基材側から分離機能層側に向かってそれぞれ断面画像R1、R2、・・・Rn・・・R20(nは1~20までの整数である。)としたとき、多孔質層の平均孔径最大値が、断面画像R3~R18のいずれかに存在する。これは、多孔質層の平均孔径分布が上に凸形の構造であることを意味する。
また、断面画像R1および断面画像R2における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である。これは、多孔質層が、裏面(基材側の主面)側に緻密孔を有することを意味する。
なお、平均孔径は多孔質層の断面構造をSEMで10,000倍にて観察することで測定できる。詳細は後述する。
【0029】
多孔質層の平均孔径最大値は、圧密化に耐え得る緻密層を多孔質層両面に有することが望ましいため、断面画像R3~R18のいずれかに存在することが好ましく、断面画像R6~R15のいずれかに存在することがより好ましい。
また、多孔質層の平均孔径が、表面付近や裏面付近よりも、表面付近や裏面付近を除く範囲で大きいことが、圧密化抑制の観点から有効であり、多孔質層の平均孔径の極大値は、断面画像R3~R18に複数存在してもよい。この場合、平均孔径分布は2以上の凸形構造を有することとなる。
【0030】
断面画像R1および断面画像R2における多孔質層の平均孔径は、0.1μm未満の場合には、圧密化抑制には有利であるが、高造水性の多孔質層を得ることが困難になる。また、断面画像R1および断面画像R2における多孔質層の平均孔径が0.6μm以上である場合、あるいは、断面画像R1における平均孔径が0.1μm以上、0.6μm未満であっても、断面画像R2における平均孔径が0.1μm以上、0.6μm未満を満たさない場合は、高造水性には有利であるが、圧密化抑制には不利である。
【0031】
さらに、圧密化抑制効果を高めるためには、圧密化に耐え得る緻密層、すなわち平均孔径の小さい層が、裏面側(基材側)に多いことが望ましい。
すなわち、断面画像R1、R2、およびR3における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満であることが好ましく、断面画像R1、R2、R3、およびR4における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満であることがさらに好ましく、断面画像R1、R2、R3、R4、およびR5における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満であることが特に好ましい。
【0032】
基材側における多孔質層の平均孔径が0.1μm以上、0.6μm未満であることで、高温・高圧力運転における圧密化は抑制されるが、造水量を確保することが困難となる。このように相反する潰れ抑制と透水経路の確保という要求を解決するために、本実施形態に係る多孔質層は、裏面から表面に向かって、孔径分布が凸形構造を有することが必要である。
【0033】
さらに、圧密化抑制と高造水性を両立するためには、より大きな凸形構造が必要であり、断面画像R1における多孔質層の平均孔径をX、断面画像R1~R20までの多孔質層の平均孔径最大値をYとしたときに、Y/Xが1.1以上10以下であることが好ましい。Y/Xが1.1以上であれば、空隙が多く、高造水性に有利であり、10以下であれば、多孔質層の空隙が過剰に大きくなりすぎず、圧密化抑制との両立が可能となる。
【0034】
また、圧密化抑制と高造水性を両立するためには、平均孔径の最大値Yが重要であり、最大値Yは、0.5μm以上、2.0μm以下であることが好ましく、0.7μm以上、1.4μm以下であることがさらに好ましい。最大値Yは、0.5μm以上であることで、多孔質層の緻密性が高くてもさらなる高造水性を確保でき、2.0μm以下であることで、疎な孔が多すぎず、圧密化抑制に有利である。
【0035】
(多孔質層の基材側主面(裏面))
さらに、高造水性を発現させるために、多孔質層の基材側主面に十分な流路が確保されることが好ましい。ここで、流路の有無を検証するために、たとえば特定の染料が用いられる。
一例として、染料物質であるメチルバイオレットを0.05質量%の濃度で含む水溶液を複合半透膜の基材側のみに5分間接触させ、基材から多孔質層を剥離させた場合に、多孔質層の基材剥離面において、メチルバイオレットで染色された剥離面の面積が、剥離面全体面積の15%以上50%以下が好ましく、20%以上50%以下がさらに好ましい。
多孔質層の基材との接触面の染色部分は、基材側から染料を接触させて染めていることから、透水流路を可視化していると考えられる。よって、染色面積が大きいほど、多孔質層裏面は流路が多いことを表しており、透水性を向上できる。
また、透水性は、孔径の累乗で影響を与えるため、メチルバイオレットで染色された染色部の平均孔径は0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がさらに好ましい。
【0036】
多孔質層において、基材と接触していた箇所は孔が存在しないため染色されない。そのため、染色面積が15%以上であれば、多孔質層は裏面側で流路を十分確保できており、さらなる高造水性を発現できる。また、染色面積が50%以下であることで、基材との接触面積は大きく、基材と多孔質層の接着強度が十分確保できる。
染色部の平均孔径と染色面積は、多孔質層の基材側剥離面をマイクロスコープで50倍にて観察することで測定できる。詳細は後述する。
【0037】
(多孔質層の厚み)
多孔質層の厚みは、10μm以上70μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。多孔質層の厚みは、上記範囲内に制御することによって、耐圧性のための十分な強度を保ち、かつ透水抵抗層を小さく設計できるため加圧運転による透水性変化を抑制できる。
また、基材と多孔質層との複合体(以下「多孔質支持体」とも称する)の厚みは、30μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であるとより好ましい。
【0038】
(多孔質層の表面平均孔径)
多孔質層の表面(分離機能層と接する主面)平均孔径は3nm以上10nm以下であることが好ましい。表面平均孔径がこの範囲にあることで、分離機能層の落ち込みを小さく抑えることができ、その結果、高圧運転後の脱塩率を安定させることができる。
多孔質層の表面平均孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察によって測定することができる。複合半透膜の場合には、分離機能層を除去することで、多孔質層表面を観察できる。複合半透膜から分離機能層を除去する手法として、分離機能層が後述するようにポリアミドで構成されている場合には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に複合半透膜を好ましくは24~100時間浸漬する方法が挙げられる。多孔質層(多孔質支持体であってもよい)を室温で風乾し、SEMにて200,000倍で表面観察する。得られた画像において、孔部分を画像解析して円相当直径を算出する。同様の操作を5つのサンプルで行い、全ての孔の円相当直径のデータの相加平均を算出し、表面平均孔径とする。なお、SEMで観察する前には、サンプルに、たとえば白金、白金-パラジウム、または四酸化ルテニウムから選ばれる材料を限りなく薄くコーティングするのが好ましい。また、SEMとしては走査型電子顕微鏡(例えば日立ハイテクノロジーズ製S-5500型)が使用でき、2~5kVの加速電圧で観察する。画像解析には、解析ソフト(imagej)を用いることができる。
【0039】
(加圧した多孔質層の純水透過係数)
多孔質層(または多孔質支持体)は、7MPa、45℃、6時間で加圧した後の純水透過係数が、0.15(×10-9/(m・sec・Pa))以上が好ましく、更に0.20(×10-9/(m・sec・Pa))以上がより好ましい。多孔質層(または多孔質支持体)の透水性が0.15(×10-9/(m・sec・Pa))以上であることで、高圧運転時の複合分離膜における多孔質層の抵抗が十分小さくなる。その結果、複合半透膜での高圧運転後の造水量低下を抑制できる。
【0040】
上記条件で加圧した後の多孔質層の純水透過係数が上記範囲にあるということは、多孔質層内で水が通る経路が高温かつ高圧条件下でも維持されることを意味する。すなわち、この条件を満たすことで、複合半透膜は高温高圧条件下でも透水性を維持することができる。
【0041】
なお、多孔質支持体の純水透過係数は、多孔質層の純水透過係数と同等であるので、多孔質支持体の純水透過係数が上記範囲にあってもよい。換言すれば、分離機能層を除去し、多孔質支持体の純水透過係数を測定することで、多孔質層の純水透過係数も算出できる。
【0042】
加圧は、45℃、7MPaで6時間にわたって、NaClの濃度3.5質量%、温度45℃、pH6.5の水溶液を複合半透膜に透過させることで行う。加圧の前に分離機能層を除去した場合は、多孔質層に、PTFEフィルムのような非透水性フィルムを多孔質層表面に重ねた状態で、非透水性フィルム側に水溶液によって同条件で圧力をかける。
【0043】
多孔質層(または多孔質支持体)の純水透過係数は、分離機能層が除去され、多孔質層の表面が露出した状態の多孔質層(または多孔質支持体)を用いて測定する。ここで、分離機能層の除去は、加圧の前または後のいずれで行ってもよい。例えば、複合半透膜から分離機能層を除去してから、多孔質層(多孔質支持体であってもよい)を加圧してもよいし、加圧した複合半透膜から分離機能層を除去してもよい。
【0044】
複合半透膜から分離機能層を除去する手法として、分離機能層がポリアミドで構成されている場合には、次亜塩素酸ナトリウム2質量%水溶液に複合半透膜を好ましくは24~100時間浸漬する方法が挙げられる。
【0045】
(分離機能層)
分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを含有することが好ましく、特に、架橋芳香族ポリアミドを主成分として含有することがより好ましい。主成分とは分離機能層の成分のうち、50質量%以上を占める成分を指す。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを50質量%以上含むことにより、高い除去性能を発現することができる。また、分離機能層における架橋芳香族ポリアミドの含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0046】
架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと、多官能芳香族酸クロリドとを化学反応させることにより形成できる。ここで、多官能芳香族アミンおよび多官能芳香族酸クロリドの少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。これにより、剛直な分子鎖が得られ、水和イオンやホウ素などの微細な溶質を除去するための良好な孔構造が形成される。
【0047】
多官能芳香族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有し、かつ、アミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基である芳香族アミンを意味する。多官能芳香族アミンとしては、例えば、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、p-ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。また、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,3,5-トリメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,3,5-トリエチルピペラジン、2-n-プロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、1,3-ビスピペリジルプロパン、4-アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。これらの多官能アミンは、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0048】
特に、膜の選択分離性、透過性および耐熱性を考慮すると、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及び1,3,5-トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAとも記載する)を用いることがより好ましい。これらの多官能芳香族アミンは、単独で用いてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0049】
多官能芳香族酸クロリドとは、一分子中に少なくとも2個のクロロカルボニル基を有する芳香族酸クロリドをいう。例えば、3官能酸クロリドでは、トリメシン酸クロリドなどを挙げることができ、2官能酸クロリドでは、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどを挙げることができる。また、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸クロリドであることが好ましい。
【0050】
2.複合半透膜の製造方法
(多孔質層の形成工程)
多孔質層の形成工程は、
(a)熱可塑性樹脂(以下、樹脂と呼ぶ。)を良溶媒に溶解させた樹脂溶液を基材表面上に配置する工程、
(b)相分離初期に、樹脂溶液中に基材側から分離機能層形成面側へ凝固流体の流れを形成する工程、(例えば基材裏面に非溶媒を含有する凝固流体を押し当てる、または吸引する工程)
(c)樹脂の凝固流体中で樹脂を凝固させる工程、を備える。
上記工程(a)により、基材上に樹脂溶液が塗布される。その後、上記工程(b)により、多孔質層裏面(基材側の主面)から相分離を開始させ、裏面側に上述の範囲の緻密な孔を有する領域を得る。すなわち、分離機能層形成面側からと基材側の両側からの相分離進行速度の競合により多孔質層を得る。その後、工程(c)において樹脂を完全に凝固させ、多孔質支持体を得る。
【0051】
多孔質層の形成工程は、多孔質層の成分である樹脂を、その樹脂の良溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程を、さらに含んでいてもよい。
【0052】
「樹脂」は多孔質層の主成分となる材料であり、具体的には上述したとおりである。
「良溶媒」は、樹脂を溶解するものである。良溶媒の選択によって、上記工程(b)において樹脂溶液から流出する良溶媒の速度を調整することができる。その結果、基材側の孔径および多孔質層基材面の流路を制御することができる。良溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラメチル尿素(THU)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)・N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルイソブチルアミド(DMIB)、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)イソブチルアミド等のアミド;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等の低級アルキルケトン;リン酸トリメチル等のエステル;γ-ブチロラクトン等のラクトンからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒が好ましく用いられる。より好ましくは、良溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0053】
例えば、上記ポリスルホンの溶液を、基材上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数1~20nmの微細な孔を有する多孔質層を得ることができる。
【0054】
工程(a)は、基材に樹脂の溶液を塗布すること、または基材を樹脂の溶液に浸漬することによって実行可能である。
基材上への樹脂の溶液の塗布は、種々のコーティング法によって実施できるが、正確な量のコーティング溶液を供給できるダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング等の前計量コーティング法が好ましく適用される。さらに、多孔質層の形成においては、樹脂の溶液を塗布するスリットダイ法がさらに好ましく用いられる。
【0055】
樹脂溶液がポリスルホンを含有する場合、ポリスルホン濃度(すなわち固形分濃度)は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは16質量%以上、更に好ましくは17質量%以上である。また、樹脂の溶液のポリスルホン濃度は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0056】
裏面緻密孔領域の厚みは、ポリスルホン濃度を上記範囲内とすることと、後述のとおり凝固流体の流れを形成することで調整することができる。
【0057】
また、ポリスルホン濃度が30質量%以下であることで、樹脂溶液の粘度が適切な範囲となり、緻密孔領域の空孔が連結した構造を得ることができる。よって、この範囲であれば、複合半透膜の良好な初期造水量および高温度・高圧力運転後の造水量を得ることができる。
【0058】
樹脂溶液塗布時の樹脂溶液の温度は、ポリスルホンを用いる場合、通常10~60℃の範囲内で塗布するとよい。この範囲内であれば、樹脂溶液が析出することなく、塗布ができ好ましい。なお、樹脂溶液の好ましい温度範囲は、用いる樹脂溶液の粘度などによって適宜調整すればよい。
【0059】
なお、樹脂溶液が含有する高分子は、適宜、製造する多孔質層の強度特性、透過特性、表面特性などの諸特性を勘案して調整することができる。
【0060】
なお、樹脂溶液が含有する溶媒は、樹脂の良溶媒であれば同一の溶媒でも、異なる溶媒でもよい。適宜、製造する多孔質層の強度特性、樹脂溶液の基材への含浸を勘案して、調整することができる。
非溶媒としては、例えば水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0061】
また、上記樹脂溶液は、多孔質層の緻密孔領域、ボイド領域、孔径、空孔率、親水性、弾性率などを調節するための添加剤を含有してもよい。孔径および空孔率を調節するための添加剤としては、水、アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の水溶性高分子またはその塩、さらに塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム等の無機塩、ホルムアルデヒド、ホルムアミド等が例示されるが、これらに限定されるものではない。親水性や弾性率を調節するための添加剤としては、種々の界面活性剤が挙げられる。
【0062】
また、凝固流体中に水等の非溶媒と良溶媒を含有させることで、非溶媒誘起相分離により膜表面に緻密層を形成することが可能となる。凝固流体は、液体であっても、気体であっても良い。
【0063】
凝固浴における良溶媒の濃度は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
また、凝固浴における非溶媒の濃度は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0064】
断面平均孔径が0.1μm以上0.6μm未満の領域を裏面側に形成させ、かつ、断面孔径分布が上に凸形である多孔質層を形成するためには、相分離初期(多孔質層を形成する樹脂溶液が完全に凝固する前)に、樹脂溶液で形成された層の厚み方向において裏面(基材側)から逆側に向かう凝固流体の流れを形成することが好ましい。
【0065】
相分離初期とは、熱可塑性樹脂の種類や濃度、温度によるが、例えば熱可塑性樹脂としてポリスルホン樹脂、良溶媒としてDMFを用いた場合は、凝固液に接触してから好ましくは3秒以内、より好ましくは2秒以内、さらに好ましくは1秒以内である。凝固液を流入する手段として、具体的には、基材側から樹脂溶液側に向けて凝固液を押込む方法が挙げられ、凝固液を押込む場合には、その圧力は好ましくは5kPa以上であり、より好ましくは7kPa以上であり、さらに好ましくは9kPa以上である。また、2回以上の多段階で凝固液を押込むことが好ましく、その場合には、1回あたりの圧力は好ましくは1kPa以上であり、より好ましくは3kPa以上であり、さらに好ましくは5kPa以上である。
【0066】
多段階で凝固流体を押し込むことで、凝固流体が多孔質層内部まで含浸するため基材側から分離機能層方向へより多くの範囲に微細孔が形成できる。
【0067】
押し込みまたは吸引の時間は、1回あたり、好ましくは0.1~3秒、より好ましくは、0.5~3秒の範囲である。この範囲で制御することで、十分に凝固流体を押し込むことができ、凝固流体が多孔質層内部まで含浸するため基材側から分離機能層方向へより多くの範囲に微細孔が形成できる。
【0068】
凝固前に凝固流体の流れを形成することで、基材側に上述の範囲の緻密な孔を有する領域の厚みを制御することができる。また、凝固流体の流れを形成する時間を制御することにより断面孔径分布の凸形構造度合いを制御でき、凝固流体の流れの強さを制御することで、基材側の流路を確保することができる。
【0069】
流れを形成する手段として、具体的には、上記方法のように圧力により、基材側から樹脂溶液に向けて凝固流体を押し込むか、または基材側から凝固流体を吸引することや、親水化基材を使用して、樹脂溶液への凝固流体の流れを誘起させる方法などが挙げられる。
【0070】
凝固浴の液体温度は、好ましくは5~30℃、より好ましくは5~20℃の範囲内である。30℃以下であれば、熱運動による凝固浴面の振動が激化せず、多孔質層の表面の平滑性が高くなる。また5℃以上であれば十分な凝固速度が得られ、製膜性が良好である。
【0071】
次に、得られた多孔質支持体を、膜中に残存する製膜溶媒を除去するために熱水洗浄することが好ましい。このときの熱水の温度は50~100℃が好ましく、さらに好ましくは60~95℃である。100℃以下で洗浄することで、多孔質支持体の収縮度を小さく抑えることができる。50℃以上で洗浄することで、高い洗浄効果が得られる。
【0072】
(分離機能層の形成工程)
次に、分離機能層の形成方法について説明する。
分離機能層は、たとえば上記したように多官能芳香族アミンと、多官能芳香族酸クロリドとを化学反応させることにより架橋芳香族ポリアミドを形成することで得られる。化学反応の方法として、界面重合法が生産性、性能の観点から最も好ましい。すなわち、分離機能層は、多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒とを用い、多孔質層の表面で界面重縮合を行うことにより形成される。この工程により、架橋芳香族ポリアミドが形成される。
【0073】
より詳細には、界面重合の工程は、(d)多官能芳香族アミンを含有する水溶液を多孔質層に接触させる工程と、(e)工程(d)の後に、多官能芳香族酸クロリドを溶解させた溶液を多孔質層に接触させる工程と、を有する。
【0074】
工程(d)において、多官能芳香族アミン水溶液における多官能芳香族アミンの濃度は0.1質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下の範囲内である。多官能芳香族アミンの濃度がこの範囲であると十分な溶質除去性能および透水性を得ることができる。
【0075】
多官能芳香族アミン水溶液の接触は、多孔質層上に均一かつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能芳香族アミン水溶液を多孔質層にコーティングする方法や、多孔質層を多官能芳香族アミン水溶液に浸漬する方法などを挙げることができる。多孔質層と多官能芳香族アミン水溶液との接触時間は、1秒以上10分間以下であることが好ましく、10秒以上3分間以下であるとさらに好ましい。
【0076】
多官能芳香族アミン水溶液を多孔質層に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように液切りすることが好ましい。液切りによって、分離機能層における欠点の発生を抑制することができる。液切りの方法としては、多官能芳香族アミン水溶液接触後の多孔質支持体を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0077】
有機溶媒溶液中の多官能芳香族酸クロリドの濃度は、0.01質量%以上10質量%以下の範囲内であると好ましく、0.02質量%以上2.0質量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。0.01質量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10質量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができるためである。
【0078】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能芳香族酸クロリドを溶解し、多孔質支持体を破壊しないものが好ましく、多官能芳香族アミンおよび多官能芳香族酸クロリドに対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、イソオクタン、イソデカン、イソドデカンなどの炭化水素化合物および混合溶媒が挙げられる。
【0079】
多官能芳香族酸クロリドの有機溶媒溶液の多官能芳香族アミン水溶液と接触させた多孔質層への接触の方法は、多官能芳香族アミン水溶液の多孔質層への被覆方法と同様に行えばよい。
【0080】
反応後には、膜面から有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去は、例えば、支持膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法、送風機で風を吹き付けることで有機溶媒を乾燥除去する方法、水とエアーの混合流体で過剰の有機溶媒を除去する方法等を用いることができる。
【0081】
また、目的とする複合半透膜の性能に応じて、多官能芳香族アミンの代わりに脂肪族アミンまたは脂環式多官能アミンを用い、かつ多官能芳香族酸クロリドの代わりに脂肪族2官能酸ハロゲン化物または脂環式2官能酸ハロゲン化物を用いることにより、架橋脂肪族ポリアミドまたは架橋脂環式ポリアミドを形成してもよい。
【0082】
(複合半透膜の利用方法)
本発明の実施形態に係る複合半透膜は、プラスチックネットなどの供給水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合分離膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合分離膜モジュールとすることもできる。
【0083】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプや、その供給水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0084】
本発明の実施形態に係る複合半透膜によって処理される供給水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「質量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5℃以上40.5℃以下の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0085】
流体分離装置の操作圧力は高い方が溶質除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5MPa以上、12MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると溶質除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、55℃以下が好ましい。
一般的な複合半透膜は、35℃以上のTSD40000mg/L以上の運転において、多孔質層の圧密化による造水量低下が著しいため、流体分離装置の造水量を一定にするため操作圧力を上昇させる必要があり、運転に必要なエネルギーが増加する。
本発明の実施形態に係る複合半透膜を用いる造水方法では、35℃以上のTSD40000mg/L以上の運転においても多孔質層の圧密化が進行しないために、複合半透膜の造水量低下が抑制され、流体分離装置の造水量を一定に保つための操作圧力の上昇幅を小さくでき、運転に必要なエネルギーの増加幅を小さくできる。
また、供給水pHが高くなると、海水などの高溶質濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0086】
以上より、本明細書は下記の複合半透膜および分離膜エレメントを開示する。
〔1〕基材と、前記基材上に設けられた多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層を有する複合半透膜であって、
前記多孔質層の走査型電子顕微鏡による断面画像を厚み方向に20個に等分し、基材側から分離機能層側に向かってそれぞれ断面画像R1、R2、・・・Rn・・・R20(nは1~20までの整数である。)としたとき、
前記多孔質層の平均孔径最大値が、前記断面画像R3~R18のいずれかに存在し、
前記断面画像R1および前記断面画像R2における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、複合半透膜。
〔2〕前記断面画像R1における多孔質層の平均孔径をXとし、前記断面画像R1~R20における多孔質層の平均孔径最大値をYとしたとき、Y/Xが1.1以上10以下である〔1〕に記載の複合半透膜。
〔3〕前記断面画像R1、前記断面画像R2、および前記断面画像R3における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、〔1〕または〔2〕に記載の複合半透膜。
〔4〕前記断面画像R1、前記断面画像R2、前記断面画像R3、および前記断面画像R4における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の複合半透膜。
〔5〕前記断面画像R1、前記断面画像R2、前記断面画像R3、前記断面画像R4、および前記断面画像R5における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の複合半透膜。
〔6〕前記断面画像R1~R20における多孔質層の平均孔径最大値は、0.5μm以上2.0μm以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の複合半透膜。
〔7〕前記複合半透膜の基材側のみに0.05質量%のメチルバイオレット水溶液を5分間接触させ、前記基材を多孔質層から剥離させた後の前記多孔質層の剥離面において、染色された剥離面の面積割合が、剥離面全体面積の15%以上、50%以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の複合半透膜。
〔8〕前記多孔質層の厚みが20μm以上70μm以下である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の複合半透膜。
〔9〕〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の複合半透膜を用いて、温度35℃以上、TDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形物)40000mg/L以上の水溶液を濃縮水と透過水とに分離する分離工程を有する造水方法。
【実施例0087】
以下実施例をもって本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0088】
1.多孔質層の平均孔径
多孔質形態保持のための前処理として膜サンプルを液体窒素に浸漬して凍結させたものを、割断して乾燥させた後、膜断面に白金/パラジウムまたは四酸化ルテニウム、好ましくは四酸化ルテニウムを薄く蒸着し、観察サンプルを得た。
多孔質層の断面画像から算出される平均孔径は、多孔質層(または多孔質支持体)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により、倍率10,000倍にて、基材側から分離機能層側に連続的に観察することよって測定した。
まず、得られた断面画像について、画像を連結し、多孔質層全体の画像を生成した。生成した画像を多孔質層の厚みTに対して20個に等分し、20個の断面画像R1、R2、・・・Rn・・・R20(nは小さいほど裏面に近く、1~20までの整数である。)を得た。これら各画像に対して画像解析ソフトであるimage-Jにより以下の処理および解析を行った。
まず、「image」機能で画像を8bit画像に変換した。次に、閾値の最小値を0、最大値を105にして、最小値~最大値の範囲内を黒、それ以外を白として「Threshold」にて2値化処理を行った(孔部分が黒となる)。
各画像について、黒色部(孔)の面積Sと、孔数Nを求め、断面孔径Zを同面積の円の直径(円相当径)として、Z=2×(S/π)1/2/Nで算出した。これらの操作により、20枚の画像から基材側から分離機能層方向に向かって、20点の断面孔径Zが得られる。
長軸が5μm以上の孔がある位置は除き、同様の操作を10回繰り返し、各画像での断面孔径Zを算出し、基材に対し平行な方向の断面孔径10点の算術平均値を平均断面孔径とした。
【0089】
2.メチルバイオレット水溶液の染色面積
0.05質量%のメチルバイオレット水溶液を湿潤状態の複合半透膜の基材側に5分間接触させた後に、基材から水溶液を除去して室温で風乾させた。次に、基材を多孔質層から剥離速度50mm/分で180度方向に剥離させ、剥離により露出した多孔質層の基材との接触面をデジタルマイクロスコープで50倍にて観察して画像を取得した。得られた多孔質層の基材との接触面の画像について、解析ソフト(image-j)にて画像解析して、解析範囲全体の面積に対する染色面積割合を算出した。同様の操作を3つのサンプルで行い、3点の相加平均値を採用した。
【0090】
3.多孔質層の厚み
室温で風乾させた複合半透膜の厚みをダイヤルシックネスゲージ(株式会社テクロック製、定圧厚さ測定器 PG-01A)を用いて測定した。次に、基材を多孔質層から剥離速度50mm/分で180度方向に剥離させ、得られた基材の厚みをダイヤルシクネスゲージで測定した。最後に、複合半透膜の厚みから基材の厚みを差し引いて多孔質層の厚みを算出した。
なお、任意の20箇所について厚みを測定してその相加平均を算出し、基材および複合半透膜の厚みとした。
【0091】
4.加圧後の多孔質層の純水透過係数
複合分離膜に温度35℃以上45℃以下、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度 4.0質量%)を操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行なった。次に、複合分離膜を次亜塩素酸ナトリウム2質量%水溶液に25℃で100時間浸漬してポリアミド分離機能層を除去し、多孔質支持体を得た。得られた多孔質支持体を直径4.3cmの円形に切り抜き、切り抜いたサンプルを撹拌型ウルトラホルダー(アドバンテック東洋株式会 社製 UHP-43K)にセットした(有効ろ過面積:10.9cm)。続いて、容器内に25℃の純水を入れ、キャップを取り付けた後、窒素で多孔質支持体は0.2MPaとなるように昇圧した。最後に、一定時間における純水透過量を測定し、以下の式から純水透過係数(× 10-9/m・s・Pa)を算出した。
純水透過係数=純水透過量÷(多孔質支持体の有効ろ過面積×採水時間×供給圧力)
【0092】
5.複合半透膜の脱塩率(NaCl除去率)、造水量(Flux)
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度、3.2質量%)を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を2時間行ない、その後、供給水および透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製マルチ水質計(MM60R)で測定した。次に、事前に作成した検量線を用いて、この電導度を換算しNaCl濃度を算出した。このNaCl濃度から、次の式により塩除去性能すなわちNaCl除去率を求めた。
NaCl除去率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
また、上記試験において、一定時間における膜透過水量を測定し、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)に換算し、造水量(m/m/日)として表した。
【0093】
6.複合半透膜の脱塩率(MgSO除去率)、造水量(Flux)
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5、MgSO濃度2000mg/Lに調整した塩水を操作圧力0.48MPaで供給して膜ろ過処理を行なった。その後、供給水および透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製マルチ水質計(MM60R)で測定した。次に、事前に作成した検量線を用いて、この電導度を換算しMgSO濃度を算出した 。このMgSO濃度から、次の式により塩除去性能すなわちMgSO濃度を求めた。
MgSO除去率(%)=100×{1-(透過水中のMgSO濃度/供給水中のMgSO濃度)}
また、上記試験において、一定時間における膜透過水量を測定し、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)に換算し、造水量(m/m/日)として表した。
【0094】
7.加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量
上記5にて性能評価を実施した複合半透膜に、pH6.5に調整した原水を(NaCl濃度 4.0質量%)温度35℃、または45℃、操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行ない、更に温度25℃、操作圧力を5.5MPaに戻し、上記5と同様の方法で加圧後のNaCl除去率、造水量を求めることで、高圧運転後の脱塩率や造水量を求めた。
【0095】
8.加圧後脱塩率(MgSO除去率)、加圧後造水量
上記6にて性能評価を実施した複合半透膜に、pH6.5に調整した原水を(MgSO濃度 4.0質量%)45℃、操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行ない、更に温度25℃、操作圧力を0.48MPaに戻し、上記6と同様の方法で加圧後のMgSO除去率、造水量を求めることで、高圧運転後の脱塩率や造水量を求めた。
【0096】
9.基材の純水透過係数
基材を直径4.3cmの円形に切り抜き、切り抜いたサンプルを撹拌型ウルトラホルダー(アドバンテック東洋株式会社製 UHP-43K)にセットした(有効ろ過面積:10.9cm)。続いて、容器内に25℃の純水を入れ、キャップを取り付けた後、窒素で10kPaとなるように昇圧した。最後に、一定時間における純水透過量を測定し、以下の式から純水透過係数(×10-9/m・s・Pa)を算出した。
純水透過係数=純水透過量÷(基材有効ろ過面積×採水時間×供給圧力)
【0097】
(実施例1)
基材である長繊維ポリエステル不織布ポリエステル不織布(厚み90μm、純水透過係数800(×10-9/(m・sec・Pa)))上にポリスルホンの18質量%DMF溶液を25℃の条件下で160μmの塗布厚みで塗布してから、1.0秒後に20℃の純水中に浸漬させた。浸漬開始から1.0秒後に、基材側から圧力5kPaで、0.5秒間、20℃の純水を押し当てた。
その後、純水中に1分間放置し、多孔質支持体を作製した。多孔質層の厚みは40μmであった。
得られた多孔質支持体をm-フェニレンジアミン(m-PDA)の3質量%水溶液中に2分間浸漬した。多孔質支持体を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルによって窒素を吹き付けることで多孔質支持体表面から余分な水溶液を取り除いた。その後、トリメシン酸クロリド(TMC)を0.165質量%含むデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。さらに膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、純水で洗浄した。以上の操作により架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量は、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度、4.0質量%)を温度45℃、操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行った後に、温度25℃、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度、3.2質量%)を操作圧力5.5MPaで膜ろ過処理を2時間行ない測定した。
【0098】
(実施例2)
多孔質支持体作製に際し、純水中に浸漬開始から1.0秒後に、基材側から圧力7kPaで、0.3秒間、20℃の純水を押し当てた点以外は、実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0099】
(実施例3)
多孔質支持体作製に際し、純水中に浸漬開始から1.0秒後に、基材側から圧力9kPaで、0.2秒間、20℃の純水を押し当てた点以外は、実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0100】
(実施例4)
多孔質支持体作製に際し、ポリスルホン溶液の塗布厚みを120μmとした点以外は、実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0101】
(実施例5)
多孔質支持体作製に際し、ポリスルホン溶液の塗布厚みを180μmとした点以外は、実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0102】
(実施例6)
多孔質支持体作製に際し、純水中に浸漬開始から0.5秒後に、基材側から圧力3kPaで、0.3秒間、20℃の純水を押し当て、さらに1.0秒後に基材側から圧力5kPaで、0.3秒間、20℃の純水を押し当てた後、そのまま純水中に1分間静置した点以外は、実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0103】
(実施例7)
多孔質支持体作製に際し、純水中に浸漬開始から1.0秒後に、基材側から圧力5kPaで、0.3秒間、20℃の純水を押し当て、さらに0.5秒後に基材側から圧力5kPaで、0.3秒間、20℃の純水を押し当てた後、そのまま純水中に1分間静置した点以外は、実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0104】
(実施例8)
実施例1と同様の方法で、架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量は、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度、4.0質量%)を温度35℃、操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行った後に、温度25℃、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度、3.2質量%)を操作圧力5.5MPaで膜ろ過処理を2時間行ない測定した。
【0105】
(実施例9)
まず、実施例1と同様の方法で、多孔質支持体を作製した。
得られた多孔質支持体をピペラジンが1.0質量%、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが100ppmとなるように溶解した水溶液に30秒間浸漬した後、多孔質支持体を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け多孔質層表面から余分な水溶液を取り除いた。次に、トリメシン酸クロリド(TMC)0.40質量%を含むデカン溶液を多孔質層表面が完全に濡れるように塗布して30秒間静置したのち、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、送風機を使い25℃の空気を吹き付けてデカン溶液を乾燥させた。最後に、80℃の純水で洗浄することで、架橋脂肪族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0106】
(実施例10)
実施例7と同様の方法で、多孔質支持体を作製した点以外は、実施例9と同様に架橋脂肪族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0107】
(比較例1)
基材であるポリエステル不織布(厚み90μm、純水透過係数700(×10-9/(m・sec・Pa))上にポリスルホンの18質量%DMF溶液を25℃の条件下で塗布し(塗布厚み:150μm)、塗布してから1.0秒後に20℃の純水に浸漬させた。純水中に浸漬後1秒以内に、基材側から圧力3kPaで10秒ほど純水を押し当てたのち、そのまま純水中に1分間放置し、基材上に多孔質層が形成された多孔質支持体を作製した。
それ以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0108】
(比較例2)
基材である長繊維ポリエステル不織布(厚み90μm、純水透過係数800(×10-9/(m・sec・Pa))上にポリスルホンの18質量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔質支持体を作製した。ポリスルホン層の厚みは40μmであった。
それ以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0109】
(比較例3)
ポリスルホン濃度を14.5質量%にした点以外は比較例2と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。また、実施例1と同様に、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0110】
(比較例4)
比較例1と同様に多孔質支持体を作製した点以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。実施例8と同様の方法で、加圧後脱塩率(NaCl除去率)、加圧後造水量を測定した。
【0111】
(比較例5)
比較例1と同様に多孔質支持体を作製した点以外は実施例6と同様に架橋脂肪族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0112】
以上より得られた多孔質層の特性を表1に、複合半透膜の性能を表2および表3に示す。
また、実施例2、6、7及び比較例1、2における多孔質層のSEM断面画像と平均孔径の分布を図4に示す。
さらに、比較例2の複合半透膜における多孔質膜のSEM断面画像を図2に示し、実施例2の複合半透膜における多孔質膜のSEM断面画像を図3に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
表1、表2、表3およびに示す結果から明らかなように、多孔質層の平均孔径最大値が画像R3~R18のいずれかに存在し、画像R1および画像R2における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である実施例1~9の複合半透膜は、高温度かつ高圧力運転後においても、十分な造水性、塩除去性を備え、かつ造水量低下を抑制できているといえる。
さらに、多孔質層の平均孔径最大値が画像R10や画像R11において観察された実施例2および実施例3の複合半透膜は、多孔質層の中心付近において平均孔径が最大となり、特に高い造水性、塩除去性、かつ造水量低下抑制効果が得られた。
またさらに、画像R1~画像R5における多孔質層の平均孔径がそれぞれ0.1μm以上0.6μm未満である実施例6、実施例7、実施例10の複合半透膜も、特に高い造水性、塩除去性、かつ造水量低下抑制効果が得られた。これは、平均孔径の小さい孔が存在する領域が多孔質層の裏面側(基材側)に広く存在することにより、高圧運転でも孔がつぶれにくく圧密化抑制効果が得られやすいためと考えられる。
画像R2における多孔質層の平均孔径が0.6μmを超えた比較例1、比較例4および比較例5の複合半透膜は、高温度かつ高圧力運転後に造水量が低下した。これは、平均孔径の小さい孔が存在する領域が多孔質層の裏面側(基材側)に存在しないため、高圧運転により孔がつぶれてしまい圧密化抑制効果が得られなかったためと考えられる。
多孔質層の平均孔径最大値が画像R1に存在する比較例2および比較例3の複合半透膜も、高温度かつ高圧力運転後に造水量が低下した。これは、多孔質層の孔径分布が、裏面(基材側)から表面(分離機能層側)に向かって凸形構造を有さないため、十分な透水経路が確保されなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の実施形態に係る複合半透膜は、複合分離膜として有用であり、たとえば、海水淡水化、かん水淡水化、飲料水製造、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられる。
【符号の説明】
【0118】
1 複合半透膜
2 基材
3 多孔質層
4 分離機能層
11 表面
12 裏面
図1
図2
図3
図4