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特開2024-143522火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する方法、及び水硬性組成物の製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143522
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する方法、及び水硬性組成物の製造
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/24 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 14/10 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 23/2273 20180101ALI20241003BHJP
   G01N 23/085 20180101ALI20241003BHJP
   G01N 23/095 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N33/24 B
C04B14/10 Z
G01N23/2273
G01N23/085
G01N23/095
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056249
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雅史
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA02
2G001BA03
2G001BA08
2G001BA13
2G001CA01
2G001CA02
2G001CA03
2G001KA01
2G001LA03
2G001NA10
2G001NA17
(57)【要約】
【課題】
迅速に火山噴出物の堆積物中のアロフェンの含有量を推定できる方法を提供すること。
【解決手段】
火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する方法であって、火山噴出物の堆積物のBET比表面積と火山噴出物の堆積物における鉄イオンのうちFe3+の含有割合を表す指標とに基づいて火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する工程を備える、方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する方法であって、
前記火山噴出物の堆積物のBET比表面積と前記火山噴出物の堆積物における鉄イオンのうちFe3+の含有割合を表す指標とに基づいて火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する工程を備える、方法。
【請求項2】
予め複数の火山噴出物の堆積物について得られたアロフェンの含有量とBET比表面積とFe3+及びFe2+の合計量に対するFe3+のモル比であるFe3+/T-Feとから、BET比表面積とFe3+/T-Feとを説明変数とし、火山噴出物の堆積物中のアロフェン含有量を目的変数とする重回帰式を作成し、当該重回帰式を用いてアロフェンの含有量が未知である火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記重回帰式は下記式(1)で表される、請求項2に記載の方法。
Y=-32.7215+123.9524×A-0.01036×B・・・(1)
(式中、Yはアロフェン含有量の推定値、Aは前記Fe3+/T-Feであり、BはBET比表面積である。)
【請求項4】
前記火山噴出物の堆積物は、火山噴火時に堆積した地層から得られたものであり、軽石、及び火山ガラスの少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記火山噴出物の堆積物におけるFe3+及びFe2+の含有量が吸光光度法、メスバウアー法、X線光電子分光法、又はX線吸収微細構造解析により測定されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
火山噴出物の堆積物、及びアルカリ刺激材を含有する水硬性組成物の製造において、
請求項1又は2に記載の方法により推定されたアロフェン含有量に基づいて決定された配合量で前記火山噴出物の堆積物を配合する工程を含む、製造方法。
【請求項7】
更に前記火山噴出物の堆積物について求められたLab表色系のa値に基づいて火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する方法、及び水硬性組成物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
火山噴出物の堆積物は日本に豊富に存在する材料であり、火山噴出物のうち、火山灰に含まれる火山ガラスはコンクリート用の混和材として利用されている。火山噴出物の堆積物は風化することで、アロフェン、ハロイサイト等の粘土鉱物が生成する。しかしながら、火山噴出物の堆積物に含まれる粘土鉱物の割合は、火山噴出物の堆積物ごとに異なっており、コンクリート用混和材等として利用する場合は、各粘土鉱物の含有量を把握する必要がある。火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンを定量する方法として、酸-アルカリ交互溶解法が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】北川靖夫著、「土壌中のアロフェンおよび非晶質無機成分の定量に関する研究」、農業技術研究所報告 B 土壌肥料、No.29、pp.1-48(1977)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸-アルカリ交互溶解法では、酸によるアロフェン等の溶出、アルカリによるアロフェン等の溶出、試料の乾燥及び重量分析を複数回繰り返すため、分析までに日数が必要である。そのため、迅速に分析可能な方法が求められている。
【0005】
本開示は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、迅速に火山噴出物の堆積物中のアロフェンの含有量を推定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する方法であって、
前記火山噴出物の堆積物のBET比表面積と前記火山噴出物の堆積物における鉄イオンのうちFe3+の含有割合を表す指標とに基づいて火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する工程を備える、方法。
[2]
予め複数の火山噴出物の堆積物について得られたアロフェンの含有量とBET比表面積とFe3+及びFe2+の合計量に対するFe3+のモル比であるFe3+/T-Feとから、BET比表面積とFe3+/T-Feとを説明変数とし、火山噴出物の堆積物中のアロフェン含有量を目的変数とする重回帰式を作成し、当該重回帰式を用いてアロフェンの含有量が未知である火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する、[1]の方法。
[3]
前記重回帰式は下記式(1)で表される、[2]の方法。
Y=-32.7215+123.9524×A-0.01036×B・・・(1)
(式中、Yはアロフェン含有量の推定値、Aは前記Fe3+/T-Feであり、BはBET比表面積である。)
[4]
前記火山噴出物の堆積物は、火山噴火時に堆積した地層であり、火山灰、火山礫、軽石、及び火砕流堆積物等の少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれか一つの方法。
[5]
前記火山噴出物の堆積物におけるFe3+及びFe2+の含有量が吸光光度法、メスバウアー法、X線光電子分光法、又はX線吸収微細構造解析により測定されたものである、[1]~[4]のいずれか一つの方法。
[6]
更に前記火山噴出物の堆積物について求められたLab表色系のa値に基づいて火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する、[1]~[5]のいずれか一つの方法。
[7]
前記火山噴出物の堆積物、及びアルカリ刺激材を含有する水硬性組成物の製造において、
[1]~[6]のいずれか一つの方法により推定されたアロフェン含有量に基づいて決定された配合量で火山噴出物の堆積物を配合する工程を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、迅速に火山噴出物の堆積物中のアロフェンの含有量を推定できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、アロフェンの含有量とBET比表面積との相関を示す図である。
図2図2は、アロフェンの含有量とFe3+/T-Feとの相関を示す図である。
図3図3は、アロフェンの含有量とFe3+/Fe2+との相関を示す図である。
図4図4は、式(1)を用いて算出されたアロフェンの含有量と、酸-アルカリ交互溶解法によりを求められたアロフェンの含有量との関係を示す図である。
図5図5は、アロフェンの含有量とLab表色系のa値との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態の火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する方法は、火山噴出物の堆積物のBET比表面積と前記火山噴出物の堆積物における鉄イオンのうちFe3+の含有割合を表す指標とに基づいて火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する工程を備える。
【0010】
アロフェンは火山噴出物の堆積物中の火山灰や長石が長期間の風化や熱水作用による変質で生成する。一般に、粒子径が0.05~0.2μmで中空球状の構造をしており、球の外側がAlが8面体シートを有し、球の内側にSiOが4面体シートを有する。アロフェンのBET比表面積は、250~600m/gである。火山噴出物の堆積物は長期間の風化により粒子径、及びBET比表面積が増加する。本発明者が鋭意検討したところによれば、火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量と火山噴出物の堆積物のBET比表面積との間には相関があることが見いだされた。
【0011】
アロフェンは、通常数%の鉄化合物を含有する。アロフェンを含有する火山噴出物の堆積物によっては色が異なることから、色に影響を与える鉄イオンの価数に着目したところ、本発明者が鋭意検討したところによれば、鉄イオンのうちFe3+の含有割合を表す指標とアロフェンの含有量との間には相関があることを見出した。鉄イオンのうちFe3+の含有割合を表す指標としては、Fe3+の含有量の有理関数(例えば分子及び分母共に1次以下であるもの)等が挙げられ、二価の鉄イオン(Fe2+)と三価の鉄イオン(Fe3+)のモル比(Fe3+/Fe2+等)、Fe2+とFe3+の合計であるT-Feに対するFe3+の割合(Fe3+/T-Fe)等が挙げられる。
更に本発明者が鋭意検討したところによれば、火山噴出物の堆積物について求められたLab表色系のa値とアロフェンの含有量との間には相関があることを見出した。Fe(III)イオンを含む鉱物は黄褐色のものが多く、Fe(II)イオンを含む鉱物は淡緑色のものが多いため、Lab表色系のa値は、Fe(III)イオンの含有量に関係していると考えられる。そのため、アロフェンの含有量の推定には、鉄イオンのうちFe3+の含有割合を表す指標に加えてLab表色系のa値も用いてよい。火山噴出物の堆積物についての表色系は、ハンター表色系であってよく、分光色差計により測定してよい。
【0012】
(火山噴出物の堆積物中の鉄イオン)
火山噴出物の堆積物に含まれる二価の鉄イオンを含有する鉄化合物としては、FeOを挙げることができる。また、三価の鉄イオンを含有する化合物としてはFeを挙げることができる。
【0013】
本実施形態の方法は、例えば、以下のとおり実施することができる。まず、予め複数の火山噴出物の堆積物を用意する。これらの火山噴出物の堆積物についてアロフェンの含有量とBET比表面積とFe3+/T-Feとを測定する。次に、その測定結果に基づいて重回帰分析を行い、BET比表面積とFe3+/T-Feとを説明変数とし、火山噴出物の堆積物中のアロフェン含有量を目的変数とする重回帰式を作成する。そして当該重回帰式を用いてアロフェンの含有量が未知である火山噴出物の堆積物に含まれるアロフェンの含有量を推定する。
【0014】
例えば、求められる重回帰式は以下のとおりである。
Y=-32.7215+123.9524×A-0.01036×B・・・(1)
(式中、Yはアロフェン含有量の推定値、Aは前記Fe3+/T-Feであり、BはBET比表面積である。)
重回帰式では、説明変数として2つ又はそれ以上の変数を用いてよい。例えば、上記Fe3+/T-Fe、及びFe3+/Fe2+等の変数に加えて、更に火山噴出物の堆積物について求められたLab表色系のa値も用いてよい。
【0015】
火山噴出物の堆積物のアロフェンの含有量は、酸-アルカリ交互溶解法により求めることができる。
【0016】
火山噴出物の堆積物におけるFe3+及びFe2+の含有量は、吸光光度法、メスバウアー法、X線光電子分光法、紫外可視分光分析法又はX線吸収微細構造解析により測定してよい。回帰分析を行う際に使用する火山噴出物の堆積物と、回帰式によりアロフェンの含有量を求める火山噴出物の堆積物とでFe3+及びFe2+の含有量の測定方法が同じであってよい。
【0017】
火山噴出物の堆積物は、火山噴火時に堆積した地層から得られたものであってよい。火山噴火時に堆積した地層であり、火山灰、火山礫、軽石、及び火砕流堆積物等の少なくとも1種を含んでいてよい。
【0018】
本実施形態の推定方法では、火山噴出物の堆積物についてアロフェンのFe3+の含有割合を表す指標及びBET比表面積を求めることによりアロフェンの含有量が推定できるため、従来、測定に数日~10日程度必要であったアロフェンの含有量の推定を非常に迅速に行うことができる。
【0019】
本実施形態の推定方法は、火山噴出物の堆積物を含む水硬性組成物の製造方法に組み込むことができる。このような製造方法は、火山噴出物の堆積物の必要量を迅速に求めることができるため、効率が良い。
【0020】
本実施形態の水硬性組成物は、火山噴出物の堆積物とアルカリ刺激材とを含むものが挙げられる。
【0021】
アルカリ刺激材としては、ポルトランドセメントクリンカ、ポルトランドセメント、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2、Sで示す。)、消石灰、アルカリ炭酸塩等が挙げられる。
【0022】
ポルトランドセメントクリンカは、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントを調製するため使用されるポルトランドセメントクリンカを使用することができる。上記各種ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等が挙げられる。ポルトランドセメントクリンカとしては、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントを調製するために使用されるポルトランドセメントクリンカであってよい。
【0023】
ポルトランドセメントクリンカの鉱物組成はBogue式によって算出することができる。ここで、Bogue式とは、化学組成の含有比率からポルトランドセメントクリンカ中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、ポルトランドセメントクリンカ中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2、Sで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2、Sで示す。)、及びアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al3、Aで示す。)の含有量を算出することができる。なお、下記式中の「%」は「質量%」を意味する。
化学式は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0024】
<Bogue式>
S[%]=(4.07×CaO[%])-(7.60×SiO[%])-(6.72×Al[%])-(1.43×Fe[%])-(2.85×SO[%])
S[%]=(2.87×SiO[%])-(0.754×CS[%])
A[%]=(2.65×Al[%])-(1.69×Fe[%])
AF[%]=3.04×Fe[%]
【0025】
アルカリ炭酸塩は、炭酸ナトリウム10水和物(NaCO・10HO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、セスキ炭酸ナトリウム2水和物(NaH(CO・NaHCO・2HO)が挙げられる。アルカリ炭酸塩としては、1種又は2種以上を使用してよい。
【0026】
水硬性組成物におけるアルカリ刺激材の含有量は、圧縮強さの観点から、水硬性組成物の全量を基準として、10~90質量%であってよく、20~80質量%であってよい。
【0027】
水硬性組成物における火山噴出物の堆積物及びアルカリ刺激材の含有量は、圧縮強さの観点から、水硬性組成物の全量を基準として、60質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってよく、100質量%(実質的に火山噴出物の堆積物及びアルカリ刺激材からなる)であってもよい。
【0028】
水硬性組成物は、火山噴出物の堆積物、及びアルカリ刺激材以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては無機質微粉末、石膏、炭酸塩等が挙げられる。その他の成分は、水硬性組成物の全量を基準として40質量%以下とすることができ、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。
【0029】
水硬性組成物は炭酸塩を含んでいてもよい。炭酸塩はアルカリ刺激材と火山噴出物の堆積物に含まれる火山ガラス等との水和反応の促進を目的として水硬性組成物に添加される。炭酸塩としては、アルカリ金属塩以外の炭酸塩、例えばアルカリ土類金属の炭酸塩及びそれらの水和物等が挙げられ、例えば、炭酸カルシウム(石灰石)、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
石灰石としては、例えば、一般に販売されている石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
水硬性組成物における炭酸塩の含有量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、一方圧縮強さの観点から20質量%以下であってよい。
【0030】
無機質微粉末は圧縮強さの向上を目的として水硬性組成物に添加される。無機質微粉末としては、例えば、珪石、砕石等の粉末状の材料が挙げられる。
水硬性組成物における無機質微粉末の含有量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、一方圧縮強さの観点から15質量%以下であってよい。
【0031】
石膏は水和反応速度の調整を目的として水硬性組成物に添加される。石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が挙げられる。
水硬性組成物における石膏の含有量は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏量と同等でよい。水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、一方良好な水和反応速度を維持し易い観点から5質量%以下であってよい。
【0032】
本実施形態の水硬性組成物の製造方法では、例えば、本実施形態の推定方法により使用量が決定された火山噴出物の堆積物、アルカリ刺激材及び任意成分である上記その他の成分を混合する工程(混合工程)を備える。火山噴出物の堆積物及びアルカリ刺激材の混合時に、上記その他の成分を共に混合してもよい。各原料の配合量は上記のとおりである。
【0033】
混合工程においては、各原料を粉砕してもよい。破砕を行う場合、混合及び破砕の順序は特に限定されるものではない。すなわち、各原料を混合した後に破砕を行ってもよく、各原料を個別に破砕した後に混合してもよく、また各原料の混合及び破砕を同時に行ってもよい。混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、リボンミキサー等の混合機を用いて行ってよく、ボールミル、竪型ローラーミル、ローラープレス等の粉砕機を用いて混合粉砕してもよく、各原料のそれぞれを粉砕した後に機械混合機等の混合機で混合してもよい。
【0034】
混合工程の前に火山噴出物の堆積物をか焼する工程を備えていてよい。か焼温度は、圧縮強さを増加させる観点から、500℃以上であってよい。また、4配位Al及び5配位Alが他の鉱物の生成(例えばムライトの生成)に使用されることを抑制する観点から、950℃以下であってよい。これらの観点から、か焼温度は600~900℃であってよい。
か焼時間は特に制限されないが、結晶構造への影響の観点から0.5~5時間とすることができ、1~4時間であってもよい。
【実施例0035】
アロフェンを含有する火山噴出物の堆積物として、セカードP-1(品川ゼネラル株式会社製)、鹿沼土(あかぎ園芸株式会社製)、さつま土(山一軽石有限会社性)、VGP-1(株式会社プリンシプル製)及び黒ぼく土を使用した。
【0036】
(BET比表面積の測定方法)
窒素ガス雰囲気下にて各火山噴出物の堆積物に105℃で1時間の前処理(か焼)を実施した。前処理後の各火山噴出物の堆積物について、マイクロトラック・ベル社製のBELSORPMINIを用いて窒素ガスの吸着量を測定した。その測定結果をもとに比表面積を算出した。結果を表1に示す。
【0037】
(Fe2+及びFe3+の含有量の測定方法)
JIS K 0102:2016「工場排水試験方法」に準拠して紫外可視分光光度計(U-2900型:日立ハイテクサイエンス社製)によりか焼前の火山噴出物の堆積物中のFe2+及びFe3+の含有量を測定した。結果を表1に示す。なお、表1において、T-Feは、Fe2+及びFe3+の合計量を意味し、Fe2+、Fe3+及びT-Feの含有量は、火山噴出物の堆積物中の全原子に対するこれらの原子(イオン)数の割合(原子%)である。結果を表1に示す。
火山噴出物の堆積物の色について、分光色差計(日本電色工業社製、SE7700)を使用して、Hunter1948の方法でL値、a値、b値を3回測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0038】
各火山噴出物の堆積物について、酸-アルカリ交互溶解法により、アロフェンの含有量を求めた。酸-アルカリ交互溶解法は、具体的には、以下のとおり行われた。
以下の方法により、火山噴出物の堆積物から有機物を除去した。具体的には、まず、0.425mmのふるいにかけた。ふるいを通過した試料に10質量%の過酸化水素水50mlを添加し、湯浴加熱した。続いて、30質量%の過酸化水素水20mlを添加し、湯浴加熱を24時間行った。その後、試料に十分な量の蒸留水を添加し、遠心分離(2800rpm、6分間)により水相を分離して試料を洗浄した。洗浄は2回行われた。洗浄後の試料を105℃で24時間乾燥した。
乾燥後の試料に対して以下の(1)~(7)の一連の工程を5回行った。
(1)試料(火山噴出物の堆積物)に8Mの塩酸50mlを添加し、30分間振とうした。
(2)試料に十分な量の蒸留水を添加し、遠心分離(2800rpm、6分間)により水相を分離して試料を洗浄した。洗浄は2回行われた。
(3)洗浄後の試料に0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液50mlを添加し、60℃で5分間湯浴加熱した。
(4)遠心分離(2800rpm、6分間)により水相を分離して試料を洗浄した。
(5)試料に十分な量の蒸留水を添加し、遠心分離(2800rpm、6分間)により水相を分離して試料を洗浄した。洗浄は2回行われた。
(6)洗浄後の試料を105℃で24時間乾燥した。
(7)乾燥後、試料の重量を測定した。
(1)~(7)の一連の工程を5回繰り返すことにより溶出による重量変化がほぼなくなったことを確認した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1におけるアロフェンの含有量及びBET比表面積の相関関係について分析した。図1に結果を示す。図1に決定係数R及び回帰式を示す。なお、回帰式におけるyはBET比表面積であり、xはアロフェンの含有量(質量%)である。
【0041】
表1におけるアロフェンの含有量及びFe3+/T-Feの相関関係について分析した。図2に結果を示す。図2に決定係数R及び回帰式を示す。なお、回帰式におけるyはFe3+/T-Feであり、xはアロフェンの含有量(質量%)である。
【0042】
表1におけるアロフェンの含有量及びFe3+/Fe2+の相関関係について分析した。図3に結果を示す。図3に決定係数R及び回帰式を示す。なお、回帰式におけるyはFe3+/Fe2+であり、xはアロフェンの含有量(質量%)である。
【0043】
表1のデータを用いてBET比表面積とFe2+/Fe2+とを説明変数とし、火山噴出物の堆積物におけるアロフェン含有量を目的変数とし、最小二乗法による残差が最小となる目的変数A及びBを求め、それらの結果をもとに重回帰式を求めた。求められた重相関係数等の統計的指標について表2及び表3に示す。
【0044】
重回帰分析の結果、重回帰式は以下のとおりであった。
Y=-32.7215+123.9524×A-0.01036×B・・・(1)(式中、Yはアロフェン含有量の推定値、Aは前記Fe3+/T-Feであり、BはBET比表面積である。)
【0045】
表4に上記式(1)を用いて算出されたアロフェンの含有量(予測値とする)と、酸-アルカリ交互溶解法によりを求められたアロフェンの含有量(実測値とする)とを示す。また、図4に予測値と実測値の関係を図示する。本開示の方法による予測値は実測値と非常に近い値が得られることがわかる。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
表1におけるアロフェンの含有量及びLab表色系のa値の相関関係について分析した。図5に結果を示す。図2に決定係数R及び回帰式を示す。なお、回帰式におけるyはa値であり、xはアロフェンの含有量(質量%)である。
図1
図2
図3
図4
図5