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特開2024-143532水質監視システムおよび水質監視プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143532
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水質監視システムおよび水質監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20230101AFI20241003BHJP
   B01D 21/30 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C02F1/00 D
C02F1/00 V
B01D21/30 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056261
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】藤永 葵衣
(57)【要約】
【課題】工事排水の水質トラブルの発生を適切、かつ、精度よく予測して報知することが可能な水質監視システムおよび水質監視プログラムを提供する。
【解決手段】水質監視システムの水質監視装置5は、水質計から水質データを取得し、監視カメラから工事現場の画像データを取得し、工事現場の気象データを取得するデータ取得タスク561と、取得した水質データ、画像データおよび気象データに基づいて、工事排水の水質トラブルの発生を予測し、予測された水質トラブルに対する対応手法を特定する水質トラブル対応タスク562と、水質トラブルの予測データおよび対応データを報知する報知タスク563とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事排水の水質を監視する水質監視システムであって、
前記工事排水の土砂を取り除く沈砂池に設置され、前記工事排水の水質を測定して水質データを出力する水質計と、
前記沈砂池およびその周辺を撮影し、撮影した画像データを出力する撮影手段と、
前記水質データと、前記画像データと、前記沈砂池が設置されている地域の気象データと、を取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された前記水質データと、前記画像データと、前記気象データとに基づいて、前記工事排水の水質トラブルの発生を予測し、予測された前記水質トラブルに対する対応手法を特定する水質トラブル対応手段と、
前記工事排水に水質トラブルが発生すると予測された場合に、前記水質トラブルの予測データと、前記対応手法を示す対応データとを、前記水質トラブルの対応部署へ報知する報知手段と、
を備えることを特徴とする水質監視システム。
【請求項2】
前記水質トラブル対応手段は、
過去に計測された前記工事排水の水質データである実績水質データと、
前記実績水質データの計測時に撮影された前記沈砂池およびその周辺の画像データである実績画像データと、
前記実績水質データの計測時に取得された前記沈砂池の設置地域の気象データである実績気象データと、
前記実績水質データの計測時に発生した水質トラブルの事例を示す水質トラブル事例データと、
前記水質トラブルに対して実施された対応事例を示す対応事例データと、
を教師データとし、
前記データ取得手段により取得された前記水質データと、前記画像データと、前記気象データとが入力されると、前記予測データと、前記対応データとを出力するように機械学習された学習済みモデルを備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の水質監視システム。
【請求項3】
前記報知手段は、
前記予測データに含まれる水質トラブルの発生予測時刻と、前記監視員による前記対応部署から前記沈砂池までの移動時間と、に基づいて、前記監視員が前記発生予測時刻の前に前記沈砂池に到着できるように報知を行なう、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水質監視システム。
【請求項4】
工事排水の水質を監視する水質監視プログラムであって、
コンピュータを、
前記工事排水の土砂を取り除く沈砂池に設置された水質計から前記工事排水の水質データを取得し、前記沈砂池およびその周辺を撮影する撮影手段から画像データを取得し、前記沈砂池が設置されている地域の気象データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段により取得された前記水質データと、前記画像データと、前記気象データとから、前記工事排水の水質トラブルの発生を予測し、予測された前記水質トラブルに対する対応手法を特定する水質トラブル対応手段と、
前記工事排水に水質トラブルが発生すると予測された場合に、前記水質トラブルの予測データと、前記対応手法を示す対応データとを、前記水質トラブルの対応部署へ報知する報知手段と、
して機能させることを特徴とする水質監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工事排水の水質を監視する水質監視システムおよび水質監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
山間部などで行なわれる土木工事の現場では、掘削やコンクリートの打設などの土木工事により発生した工事排水を沈砂池に流し込み、工事排水に含まれる土砂を沈砂池に沈殿・堆積させて取り除き、きれいになった沈砂池の工事排水を、排水路を介して河川などの自然水域に排水している。また、工事排水は、沈砂池に設置された水質計によって濁度とpHとが測定され、濁度およびpHが環境基準値を超えないように管理されている。工事排水の濁度またはpHが環境基準値を超えた場合には、沈砂池から排水路に工事排水が流れ込まないように排水ゲートを閉じたり、濁水処理設備によって工事排水を処理したりするなどして濁度またはpHを環境基準値未満まで下げてから排水している。
【0003】
このような工事排水の水質トラブルの発生時に監視員が対応できるようにするため、従来は、水質計により測定された水質データを土木工事の管理事務所などに設置された水質監視装置により常時取得して監視している。そして、水質データが予め設定された閾値を超過した場合には、水質監視装置や、水質監視装置に接続された携帯端末(携帯電話、スマートフォンなどを含む)によって監視員に水質トラブルの発生を報知し、報知を受けた監視員は、沈砂池まで赴いて状況確認および水質トラブルの対応を行なう。なお、監視員が常駐する管理事務所から沈砂池までは、移動に数十分程度の時間がかかる場合があり、監視員が沈砂池に到着するまで水質データが環境基準値を超えないようにするため、水質監視装置の閾値は環境基準値よりも低く設定されている。
【0004】
遠隔地の排水の水質監視については、例えば、水質データをインターネット経由で情報処理センターに送り、情報処理センターでは送られて来たデータを蓄積記憶しておき、ユーザのアクセスに応じてそのデータを分析編集し結果を出力させるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-208083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来は、工事排水の水質データを監視し、水質データが環境基準値よりも低い閾値を超過したときにその旨が報知されるため、監視員は工事排水の水質トラブルに適宜対応することは可能である。しかしながら、水質データの閾値は環境基準値よりも低いため、実際には水質トラブルが発生しない状況であっても報知が行なわれてしまう誤報が多くなる。例えば、水質計の測定部にゴミや落ち葉などの浮遊物が付着し、あるいは、豪雨などによって濁度が一時的に閾値を超過することがある。また、沈砂池に繁茂した藻類の光合成や、豪雨などによってpHが一時的に閾値を超過することがある。このような一時的な水質の変化については、監視員の状況確認やトラブル対応が不要であるにも関わらず、水質トラブルの発生として報知されてしまう。
【0007】
そこでこの発明は、工事排水の水質トラブルの発生を適切、かつ、精度よく予測して報知することが可能な水質監視システムおよび水質監視プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、工事排水の水質を監視する水質監視システムであって、前記工事排水の土砂を取り除く沈砂池に設置され、前記工事排水の水質を測定して水質データを出力する水質計と、前記沈砂池およびその周辺を撮影し、撮影した画像データを出力する撮影手段と、前記水質データと、前記画像データと、前記沈砂池が設置されている地域の気象データと、を取得するデータ取得手段と、前記データ取得手段により取得された前記水質データと、前記画像データと、前記気象データとに基づいて、前記工事排水の水質トラブルの発生を予測し、予測された前記水質トラブルに対する対応手法を特定する水質トラブル対応手段と、前記工事排水に水質トラブルが発生すると予測された場合に、前記水質トラブルの予測データと、前記対応手法を示す対応データとを、前記水質トラブルの対応部署へ報知する報知手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の水質監視システムにおいて、前記水質トラブル対応手段は、過去に計測された前記工事排水の水質データである実績水質データと、前記実績水質データの計測時に撮影された前記沈砂池およびその周辺の画像データである実績画像データと、前記実績水質データの計測時に取得された前記沈砂池の設置地域の気象データである実績気象データと、前記実績水質データの計測時に発生した水質トラブルの事例を示す水質トラブル事例データと、前記水質トラブルに対して実施された対応事例を示す対応事例データと、を教師データとし、前記データ取得手段により取得された前記水質データと、前記画像データと、前記気象データとが入力されると、前記予測データと、前記対応データとを出力するように機械学習された学習済みモデルを備える、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の水質監視システムにおいて、前記報知手段は、前記予測データに含まれる水質トラブルの発生予測時刻と、前記監視員による前記対応部署から前記沈砂池までの移動時間と、に基づいて、前記監視員が前記発生予測時刻の前に前記沈砂池に到着できるように報知を行なう、ことを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、工事排水の水質を監視する水質監視プログラムであって、コンピュータを、前記工事排水の土砂を取り除く沈砂池に設置された水質計から前記工事排水の水質データを取得し、前記沈砂池およびその周辺を撮影する撮影手段から画像データを取得し、前記沈砂池が設置されている地域の気象データを取得するデータ取得手段と、前記データ取得手段により取得された前記水質データと、前記画像データと、前記気象データとから、前記工事排水の水質トラブルの発生を予測し、予測された前記水質トラブルに対する対応手法を特定する水質トラブル対応手段と、前記工事排水に水質トラブルが発生すると予測された場合に、前記水質トラブルの予測データと、前記対応手法を示す対応データとを、前記水質トラブルの対応部署へ報知する報知手段と、して機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1および請求項4の発明によれば、工事排水の水質データと、沈砂池などの周辺の画像データと、気象データとに基づいて、工事排水の水質トラブルの発生を予測し、予測された水質トラブルに対する対応手法を特定するとともに、水質トラブルの予測データと、対応手法を示す対応データとを報知するので、工事排水の水質トラブルの発生を適切、かつ、精度よく予測して報知することが可能である。また、水質トラブルが発生するという誤報を減らすことができるので、監視員が工事現場まで出向く頻度を減らすことができ、水質監視の業務効率を向上させることが可能である。
【0013】
請求項2の発明によれば、過去の実績水質データ、実績画像データ、実績気象データ、水質トラブル事例データ、および対応事例データを教師データとして機械学習された学習済みモデルを用いて工事排水の水質トラブルの発生を予測し、対応手法を特定するので、水質トラブルの発生を適切、かつ、精度よく予測し、予測された水質トラブルに最適な対応手法を提案することが可能である。
【0014】
請求項3の発明によれば、予測データに含まれる水質トラブルの発生予測時刻と、監視員による沈砂池までの移動時間とに基づいて、監視員が発生予測時刻の前に沈砂池に到着できるように報知を行なうようにしたので、水質トラブルが発生する前に工事排水に対応することができ、環境基準値を超過した工事排水が自然水域に排水されるのを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態に係る水質監視システムが適用された工事現場の構成を示す概要図である。
図2】実施の形態に係る水質監視システムの概略構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態に係る水質監視システムによる水質監視の概要を示す概念図である。
図4図2に示す水質監視装置の構成を示す機能ブロック図である。
図5図4に示す監視データ記憶部のデータ構成を示す図である。
図6図5に示す画像データの一例を示す画像図である。
図7図4に示す実績データベースのデータ構成を示す図である。
図8図4に示す水質トラブル学習済モデルの概要を示す概念図である。
図9図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果の一例を示すグラフである。
図10図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果の別の例を示すグラフである。
図11図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果のさらに別の例を示すグラフである。
図12図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果のさらにまた別の例を示すグラフである。
図13図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果の一例を示す画像図である。
図14図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果の別の例を示す画像図である。
図15図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果のさらに別の例を示す画像図である。
図16図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果のさらにまた別の例を示す画像図である。
図17図8に示す水質トラブル学習済モデルによる水質トラブルの予測結果の異なる例を示す画像図である。
図18図4示す報知タスクによる報知タイミングを示すグラフである。
図19】工事排水の監視手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態に係る水質監視システムが適用された工事現場Csの概要図であり、図2は、水質監視システム1の概略的な構成を示すブロック図であり、図3は、水質監視システム1による水質監視の概要を示す概念図である。
【0018】
本実施の形態に係る水質監視システム1は、例えば、山間部などで行なわれる土木工事において、掘削やコンクリートの打設などにより発生した工事排水の水質を監視し、環境基準値を満たした工事排水を自然水域へ排水するためのシステムである。
【0019】
工事現場Csには、例えば、ショベルカーScにより掘削された地面から湧出した工事排水Cdが法面Sを介して流れ込む沈砂池Gcと、沈砂池Gcにて土砂が沈殿・堆積されて取り除かれた工場排水Cdを河川Nwなどの自然水域へ排水する排水路Dcと、が設けられている。沈砂池Gcと、排水路Dcとの間には、排水路Dcを開閉する排水ゲートDgが設置されている。また、沈砂池Gcの近傍には、工場排水Cdの濁度やpHなどの水質が環境基準値を超過する場合に、沈砂池Gc内の工場排水Cdを処理して濁度やpHなどを環境基準値未満まで下げてから、河川Nwへ排水する濁水処理設備Tfが設置されている。
【0020】
工事現場Csには、本実施の形態に係る水質監視システム1を構成する水質計2と、監視カメラ(撮影手段)3とが設置されている。水質計2は、排水ゲートDgよりも手前の沈砂池Gcに設置されており、沈砂池Gcにて土砂が取り除かれた工場排水Cdの濁度(mg/L)と、pHと、水温(°C)とを測定し、測定した水質データを出力する機能を備えている。監視カメラ3は、例えば、動画および静止画が撮影可能なデジタルカメラからなり、沈砂池Gc、排水路Dcおよびそれらの周辺を撮影し、撮影した画像データを出力する機能を備えている。
【0021】
水質監視システム1は、図2に示すように、水質計2と、監視カメラ3と、気象情報配信システム4と、水質監視装置5と、工場排水Cdを監視する複数の監視員Hがそれぞれ所持する携帯端末(携帯電話、スマートフォンなどを含む)6と、これらを相互に通信可能に接続する通信ネットワーク7と、を備える。通信ネットワーク7は、例えば、携帯電話通信網やインターネットなどの公衆通信網である。
【0022】
水質計2および監視カメラ3は、上述したように工事現場Csに設置されており、測定した水質データおよび撮影した画像データを、通信ネットワーク7を介して水質監視装置5へ送信する機能を備えている。
【0023】
気象情報配信システム4は、例えば、契約ユーザに所定の地域の気象データ(例えば、日照時間、降雨量および気温など)を提供する事業者が運営するシステムである。気象情報配信システム4は、工事現場Csがある地域の気象データを所定時間ごとに通信ネットワーク7を介して水質監視装置5へ送信する。
【0024】
水質監視装置5は、例えば、工事現場Csまで自動車で数十分程度かかる位置に設置された管理事務所内に設置されている。水質監視装置5は、図3に示すように、通信ネットワーク7を介して、水質計2から工事排水Cdの水質データ21を所定時間ごとに取得し、監視カメラ3から沈砂池Gc周辺の画像データ31を所定時間ごとに取得し、気象情報配信システム4から工事現場Csがある地域の気象データ41を所定時間ごとに取得する機能を備えている。
【0025】
また、水質監視装置5は、取得した水質データ21と、画像データ31と、気象データ41とに基づいて、工事排水Cdに発生し得る水質トラブル(濁度やpHの環境基準値超過など)を予測し、予測した水質トラブルに対する対応手法を特定するともに、水質トラブルの予測データ81と、対応手法を示す対応データ82とを生成して、監視員Hの携帯端末6へ送信(報知)する機能を備えている。監視員Hは、携帯端末6に送信されてきた水質トラブルの予測データ81および対応データ82を確認し、工事現場Csに移動して水質トラブルに対する対応を行なう。
【0026】
図4は、水質監視装置5の概略構成を示す機能ブロック図である。水質監視装置5は、主として、入力部51、表示部52、記憶部53、メモリ54、通信部55、メインタスク56、およびこれらを制御などする中央処理部57などを備える。
【0027】
水質監視装置5は、例えば、パーソナルコンピュータなどに、装置全体の制御プログラム(オペレーションシステム)や、工事排水Cdの水質を監視するための各種処理を行うアプリケーション(水質監視プログラム531)がインストールされて構成される。
【0028】
入力部51は、利用者の命令などを受けて水質監視装置5へ情報を入力する機能を備えるインターフェースであり、例えばキーボードやマウスによって構成される。表示部52は、入力部51を介して入力される情報を表示したり、水質監視装置5の処理結果である水質トラブルの予測データ81および対応データ82などを表示したり、などする機能を備え、例えば液晶ディスプレイによって構成される。
【0029】
記憶部53は、各種の情報、プログラム、およびデータなどを記憶する機能を備える記憶領域/記憶装置であり、例えばハードディスクによって構成される。なお、データなどを記憶する記憶部53として、外部のデータサーバなどを用いてもよい。記憶部53には、水質監視装置5全体の制御プログラムや水質監視プログラム531が格納されるとともに、監視データ記憶部532、実績データベース533、および水質トラブル学習済みモデル(学習済みモデル)534などが記憶されている。なお、図4では、データベースをDBと表記している。
【0030】
メモリ54は、中央処理部57が工事排水Cdの水質監視に関わる処理を実行する際に生成される情報・データを一時的に記憶などするための作業領域となる機能を備える記憶領域/記憶装置であり、例えばRAM(Random Access Memory の略)により構成される。
【0031】
通信部55は、例えばLAN(Local Area Network の略)やWAN(Wide Area Network の略)を含む各種の無線/有線の通信ネットワーク7を介して伝送される信号・情報の送受信/入出力を行う機能を備える通信インターフェースである。
【0032】
メインタスク56は、記憶部53に格納されている水質監視プログラム531が中央処理部57により実行されることによって実現される、工事排水Cdの水質監視に関わる各種処理を実行するためのタスク群である。
【0033】
中央処理部57は、水質監視装置5を構成する各部を統制して制御などする機能を備え、例えば、中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)を含んで構成される。中央処理部57は、記憶部53に格納されている制御プログラムや水質監視プログラム531に従って各機能を実現する。
【0034】
監視データ記憶部532は、水質データなどの監視データを記憶する記憶領域であり、図5に示すように、水質計2から所定時間ごと(T1、T2、T3・・・)に取得した工事排水Cdの水質データ(濁度(mg/L)、pHおよび水温(°C))21と、監視カメラ3から所定時間ごとに取得した沈砂池Gc周辺の画像データ31と、気象情報配信システム4から所定時間ごとに取得した工事現場Csの気象データ(日照時間、降雨量(mm)および気温(°C))41とを記憶する。監視データ記憶部532は、例えば、新しい監視データが記憶されると、最も古い監視データが破棄されるFIFO形式の記憶領域であり、最新の監視データから遡った数日分の監視データが記憶されている。
【0035】
図6は、監視データ記憶部532に記憶される画像データ31の一例である画像データ31aを示す。この画像データ31aは、動画像であってもよいし、静止画像であってもよい。
【0036】
監視データからは、水質データ21や気象データ41の数値から工事排水Cdの状態を把握・推測することが可能である。例えば、工事排水Cdの濁度が一定値以上で推移している場合には、法面Sが崩壊している可能性がある。また、工事排水Cdの濁度が計測不能である場合には、水質計2が故障している可能性がある。さらに、工事排水Cdの濁度が一時的に上昇している場合には、ゴミや落ち葉などの浮遊物や、生物などによって水質計2の測定部が塞がれている可能性がある。工事排水CdのpHが上昇している場合には、沈砂池Gc内で藻類が繁茂して光合成を行なっている可能性や、工事排水Cdに酸性またはアルカリ性の土壌成分が多く含まれている可能性がある。
【0037】
また、監視データの画像データ31からも工事排水Cdの状態を把握・推測することが可能である。例えば、沈砂池Gcに流れ込む工事排水Cdの色や量、流れ込む範囲などから法面Sの崩壊などを把握・推測することが可能である。また、沈砂池Gcの色や色の濃さなどから、藻類の繁殖を把握・推測することが可能である。さらに、水質計2の周囲にゴミや落ち葉などの浮遊物が集まっていたり、野生生物などが存在している場合には、水質計2の計測部が浮遊物などによって塞がっていると把握・推測することが可能である。
【0038】
実績データベース533には、過去に計測された工事排水Cdの水質データなどが記憶されている。図7は、実績データベース533に記憶されている実績データのデータ構成を示す概念図である。実績データには、それぞれ識別番号(例えば、No.001、002、003、004~など)が付与されている。例えば、識別番号No.001の実績データ5331には、実績水質データ5331aと、実績画像データ5331bと、実績気象データ5331cと、水質トラブル事例データ5331dと、対応事例データ5331eと、が対応付けて記憶されている。
【0039】
実績水質データ5331aは、過去に計測された工事排水Cdの水質データ(濁度、pHおよび水温など)である。実績画像データ5331bは、実績水質データ5331aの計測時に撮影された沈砂池Gc、排水路Dcおよびそれらの周辺の画像データである。実績気象データ5331cは、実績水質データ5331aの計測時に取得された工事現場Cs付近の気象データである。水質トラブル事例データ5331dは、実績水質データ5331aの計測時に発生した水質トラブル(法面崩落による濁度上昇、藻類繁茂によるpH上昇など)の事例を示すデータである。対応事例データ5331eは、発生した水質トラブルに対して実施された対応事例(排水ゲートDgの閉鎖、濁水処理設備Tfによる濁水処理など)を示すデータである。
【0040】
水質トラブル学習済モデル534は、図8に示すように、監視データ記憶部532に記憶されている水質データ21、画像データ31および気象データ41が入力されると、工事排水Cdに発生し得る水質トラブル(濁度やpHの環境基準値超過など)を予測し、予測した水質トラブルに対する対応手法(排水ゲートDgの閉鎖、濁水処理設備Tfによる濁水処理など)を特定するともに、水質トラブルの予測データ81と、対応手法を示す対応データ82とを生成して出力するように機械学習された学習済みモデルである。
【0041】
より具体的には、水質トラブル学習済モデル534は、水質データ21、画像データ31および気象データ41が入力される入力層と、入力された水質データ21、画像データ31および気象データ41に基づいて、工事排水Cdに発生し得る水質トラブルを予測し、予測した水質トラブルに対する対応手法を特定する中間層と、予測した水質トラブルに関する予測データ81と、水質トラブルへの対応手法に関する対応データ82とを生成して出力する出力層と、を備える。
【0042】
水質トラブル学習済モデル534の中間層は、実績データベース533に記憶されている多数の実績データの実績水質データ5331aと、実績画像データ5331bと、実績気象データ5331cと、水質トラブル事例データ5331dと、対応事例データ5331eとを教師データとし、水質データ21、画像データ31および気象データ41が入力されると、水質トラブルの予測およびその対応手法を特定するように、ニューラルネットワーク等の公知の機械学習、深層学習(ディープラーニング)などの技術を利用して生成されている。
【0043】
特に中間層は、実績水質データ5331aおよび実績気象データ5331cの数値の遷移と、実績画像データ5331bの画像解析結果と、水質トラブル事例データ5331dとに基づいて、工事排水Cdに発生し得る水質トラブルを予測し、予測した水質トラブルへの対応を対応事例データ5331eに基づいて特定するので、監視員Hへの報知が必要な水質トラブルが発生するか否かを適切、かつ、高精度に予測することが可能である。
【0044】
水質トラブル学習済モデル534は、例えば、図9に示すように、工事排水Cdの濁度が急激に増加した場合には、ゴミや落ち葉などの浮遊物や、野生生物などが水質計2の計測部を塞ぐように集まったり、通過しているものと推測する。
【0045】
また、水質トラブル学習済モデル534は、例えば、図10に示すように、工事排水Cdの濁度が徐々に上昇するとともに一定値以上で推移し、時間雨量が所定値以上であるときには、降雨によって工事排水Cdに含まれる土砂が増えているものと推測する。また、図中破線で示すように、雨が降り続き、工事排水Cdの濁度が上昇し続ける場合には、沈砂池Gcに連なる法面Sが崩落したものと推測する。
【0046】
さらに、水質トラブル学習済モデル534は、例えば、図11に示すように、工事排水Cdの濁度が上下に乱高下する場合には、水質計2が故障しているものと推定する。
【0047】
また、水質トラブル学習済モデル534は、例えば、図12に示すように、工事排水CdのpHと、工事排水Cdの水温との関係性に基づき、水温が高くなると沈砂池Gcの藻類が活発に光合成を行なってpHが上昇するという事象について学習し、工事排水CdのpHの上昇が一時的なものか、あるいは、継続的に上昇するかなどを推測する。
【0048】
水質トラブル学習済モデル534は、実績画像データ5331bの画像解析結果に基づいて学習し、監視データの画像データ31から工事排水Cdの状態を把握・推測する。例えば、図13に示す画像データ31bからは、沈砂池Gcに流れ込む工事排水Cdの色が茶色く、その濃度が高いことから、工事排水Cdに多量の土砂が含まれていると推測する。
【0049】
また、図14に示す画像データ31cからは、排水路Dcの水質計2の周囲にゴミや落ち葉などの浮遊物Fが通過して計測部を塞いでいることが推測できる。図15に示す画像データ31dからは、沈砂池Gcに流れ込む工事排水Cdと、沈砂池Gc内の工事排水Cdと、排水路Dcの工事排水Cdの色が茶色く、その濃度が高いことから、工事排水Cdに沈砂池Gcでは除去できない量の土砂が含まれていると推測することができる。
【0050】
さらに、図16に示す画像データ31eからは、工事排水Cdが法面S全体に広がって沈砂池Gcに流れ込んでいることから、法面Sが崩壊している可能性があることが推測できる。図17に示す画像データ31fからは、沈砂池Gcに工事排水Cdが流れ込んでいないにも関わらず、沈砂池Gc内の工事排水Cdの色が緑色で、その濃度が高いことから、藻類などが繁茂していることが推測できる。
【0051】
水質トラブル学習済モデル534は、上記のような学習結果を利用して水質データ21、画像データ31および気象データ41を分析し、現時点で工事排水Cdの濁度やpHが上昇している場合でも、環境基準値を超過する可能性がない場合には、水質トラブルが発生しないと予測する。また、環境基準値を超過する可能性がある場合には、水質トラブルが発生すると予測し、予測データ81および対応データ82を生成して出力する。したがって、監視員Hへの報知が必要な水質トラブルが発生するか否かを適切、かつ、高精度に予測することができ、監視員Hへの誤報を減らすことが可能である。
【0052】
次に、水質監視装置5のメインタスク56について説明する。水質監視装置5は、工事排水Cdの水質データ21、画像データ31および気象データ41などを取得し、取得した水質データ21、画像データ31および気象データ41に基づいて、工事排水Cdの水質トラブルを予測し、水質トラブルへの対応手法を特定するための各種処理を実行する。この処理は、記憶部53に格納されている水質監視プログラム531が中央処理部57によって実行されることにより構成される、メインタスク56によって行われる。メインタスク56は、データ取得タスク(データ取得手段)561と、水質トラブル対応タスク(水質トラブル対応手段)562と、報知タスク(報知手段)563と、学習タスク564とを含む。
【0053】
データ取得タスク561は、通信ネットワーク7を介して、水質計2から工事排水Cdの水質データ21を所定時間ごとに取得し、監視カメラ3から沈砂池Gc周辺の画像データ31を所定時間ごとに取得し、気象情報配信システム4から工事現場Csがある地域の気象データ41を所定時間ごとに取得する。なお、データ取得を行なう時間間隔は、任意に設定可能であり、数分~数十分、あるいは1時間~数時間であってもよい。
【0054】
水質トラブル対応タスク562は、水質トラブル学習済モデル534を用いて、取得した水質データ21、画像データ31および気象データ41から、工事排水Cdに発生し得る水質トラブルを予測し、予測した水質トラブルに対する対応手法を特定するともに、水質トラブルの予測データ81と、対応手法を示す対応データ82とを生成して出力する。
【0055】
報知タスク563は、水質トラブル対応タスク562において、工事排水Cdに水質トラブルが発生し得ると予測された場合に、水質トラブルの予測データ81と、対応データ82とを、水質トラブルの対応部署に所属する監視員Hの携帯端末6へ送信(報知)する。
【0056】
報知タスク563は、水質トラブル対応タスク562により、例えば、工事排水Cdの濁度が図18に示すように上昇し、時刻Tpで環境基準値を超過すると予測された場合に、この水質トラブルの発生予測時刻Tpと、監視員Hによる管理事務所から工事現場Csまでの移動時間Tmと、に基づいて、監視員Hが発生予測時刻Tpの前に工事現場Csに到着できるように、発生予測時刻Tpよりも移動時間Tm以上前の時刻Tsに報知を行なう。これにより、監視員Hは、水質トラブルの発生予測時刻Tpよりも前に工事現場Csに到着して水質トラブルに対応することが可能である。
【0057】
学習タスク564は、実績データベース533に基づいて水質トラブル学習済モデル534を生成・更新するためのタスクである。より具体的には、学習タスク564は、実績データベース533に記憶されている多数の実績データの実績水質データ、実績画像データ、実績気象データ、水質トラブル事例データ、および対応事例データを教師データとして、ニューラルネットワーク等の公知の機械学習、深層学習(ディープラーニング)の技術を利用し、水質トラブル学習済モデル534を生成・更新する。
【0058】
水質トラブル学習済モデル534は、水質データ21、画像データ31および気象データ41が入力される入力層と、入力された水質データ21、画像データ31および気象データ41に基づいて、水質トラブルの発生予測などを行なう中間層と、水質トラブルの予測データ81および対応データ82を出力する出力層とを備えている。これらのうち、中間層は実績データベース533の更新に応じて随時更新されるので、常に最新の実績データに基づいて、適切、かつ、精度よく水質トラブルの発生を予測することが可能である。
【0059】
次に、図19に示すフローチャートに基づいて、上記の実施の形態の作用について説明する。
【0060】
データ取得タスク561は、通信ネットワーク7を介して、水質計2から工事排水Cdの水質データ21を所定時間ごとに取得し、監視カメラ3から沈砂池Gc周辺の画像データ31を所定時間ごとに取得し、気象情報配信システム4から工事現場Csがある地域の気象データ41を所定時間ごとに取得する(ステップS1)。
【0061】
水質トラブル対応タスク562は、データ取得タスク561により取得した水質データ21、画像データ31および気象データ41に、特異データ(例えば、濁度やpHが急激に上昇するようなデータ)が発生している場合に(ステップS2でYES)、水質トラブル学習済モデル534を用いて、取得した水質データ21、画像データ31および気象データ41から、工事排水Cdに発生し得る水質トラブルを予測する(ステップS3)。
【0062】
水質トラブル対応タスク562は、工事排水Cdに水質トラブルが発生する可能性があると予測した場合には(ステップS4でYES)、水質トラブルの予測データ81および対応データ82を生成する(ステップS5)。
【0063】
報知タスク563は、予測データ81に含まれる水質トラブルの発生予測時刻と、監視員Hによる工事現場Csまでの移動時間とに基づいて、監視員Hが水質トラブルの発生予測時刻の前に工事現場Csに到着できるように報知を行なう(ステップS6)。
【0064】
以上で説明したように、本実施の形態に係る水質監視システム1によれば、工事排水Cdの水質データ21と、沈砂池Gcなどの周辺の画像データ31と、気象データ41とに基づいて、工事排水Cdの水質トラブルの発生を予測し、予測された水質トラブルに対する対応手法を特定するとともに、水質トラブルの予測データ81と、対応手法を示す対応データ82とを報知するので、工事排水Cdの水質トラブルの発生を適切、かつ、精度よく予測し、予測された水質トラブルに最適な対応手法を提案することが可能である。また、水質トラブルが発生するという誤報を減らすことができるので、監視員Hが工事現場Csまで出向く頻度を減らすことができ、水質監視の業務効率を向上させることが可能である。
【0065】
また、本実施の形態に係る水質監視システム1によれば、過去の実績水質データ5331a、実績画像データ5331b、実績気象データ5331c、水質トラブル事例データ5331d、および対応事例データ5331eを教師データとして機械学習された水質トラブル学習済モデル534を用いて工事排水Cdの水質トラブルの発生を予測するので、水質トラブルの発生を適切、かつ、精度よく予測することが可能である。
【0066】
さらに、本実施の形態に係る水質監視システム1によれば、予測データ81に含まれる水質トラブルの発生予測時刻と、監視員Hによる工事現場Csまでの移動時間とに基づいて、監視員Hが発生予測時刻の前に工事現場Csに到着できるように報知を行なうようにしたので、水質トラブルが発生する前に工事排水Cdに対応することができ、環境基準値を超過した工事排水Cdが河川Nwに排水されるのを抑制することが可能である。
【0067】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0068】
例えば、上記の実施の形態では、山間部の工事現場Csにおける工事排水Cdの監視について説明したが、山間部以外の工事現場全般における工事排水の監視にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 水質監視システム
2 水質計
3 監視カメラ(撮影手段)
4 気象情報配信システム
5 水質監視装置
6 携帯端末
7 通信ネットワーク
21 水質データ
31 画像データ
41 気象データ
81 予測データ
82 対応データ
531 水質監視プログラム
532 監視データ記憶部
533 実績データベース
534 水質トラブル学習済モデル(学習済モデル)
561 データ取得タスク(データ取得手段)
562 水質トラブル対応タスク(水質トラブル対応手段)
563 報知タスク(報知手段)
564 学習タスク
Cs 工事現場
Cd 工事排水
Gc 沈砂池
Dc 排水路
Nw 河川(自然水域)
Dg 排水ゲート
Tf 濁水処理設備
S 法面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
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図11
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図19