(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143533
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/24 20060101AFI20241003BHJP
H01S 5/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01S5/24
H01S5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056262
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】高氏 基喜
(72)【発明者】
【氏名】長倉 建人
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 康介
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA22
5F173AA32
5F173AB62
5F173AB65
5F173AH03
5F173AL07
5F173AL13
5F173AL14
5F173AR52
5F173AR96
5F173AR99
(57)【要約】
【課題】光損失の低減及び半導体レーザ素子の劣化の抑制を図ることができる。
【解決手段】半導体レーザ素子1Aは、基板2と、活性層33を含む半導体層3と、を備える。半導体層3は、共振器方向に互いに対向する一対の共振面間で共振器方向に沿って延び、共振器方向に光を導波させる導波路領域WRと、積層方向において導波路領域WRと重なり、電流が注入されるコンタクト領域CRと、を有する。半導体層3には、共振器方向に直交する幅方向における導波路領域WRの少なくとも一方側において、共振器方向における一部の領域を占め、少なくとも活性層33を積層方向に貫通する溝部10が設けられている。活性層33が設けられた位置における溝部10の導波路領域WR側の端部とコンタクト領域CRとの幅方向における間隔d1は、幅方向におけるコンタクト領域CRの幅w1よりも短い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を連続発振するように駆動される半導体レーザ素子であって、
基板と、
前記基板上に積層され、光を発生させる活性層を含む半導体層と、を備え、
前記半導体層は、
共振器方向に互いに対向する一対の共振面間で前記共振器方向に沿って延び、前記共振器方向に前記光を導波させる導波路領域と、
前記半導体層の積層方向において前記導波路領域と重なり、電流が注入されるコンタクト領域と、を有し、
前記半導体層には、前記共振器方向に直交する幅方向における前記導波路領域の少なくとも一方側において、前記共振器方向における一部の領域を占め、少なくとも前記活性層を前記積層方向に貫通する溝部が設けられており、
前記活性層が設けられた位置における前記溝部の前記導波路領域側の端部と前記コンタクト領域との前記幅方向における間隔は、前記幅方向における前記コンタクト領域の幅よりも短い、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記半導体層の前記基板側とは反対側の頂面を覆うように形成され、前記頂面の一部を露出させる開口部が設けられた絶縁層と、
前記半導体層の最上層に位置するコンタクト層のうち前記絶縁層の前記開口部を介して露出している部分と接触している電極と、を更に備え、
前記コンタクト領域は、前記開口部を介して前記電極と前記コンタクト層とが接触している領域である、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記幅方向における前記導波路領域の一方側に前記溝部が設けられると共に、前記幅方向における前記導波路領域の他方側にも前記溝部が設けられており、
前記一方側に設けられた前記溝部の前記活性層が設けられた位置における前記導波路領域側の端部は、前記幅方向において、前記他方側に設けられた前記溝部の前記活性層が設けられた位置における前記導波路領域側の端部と対向しないように配置されている、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記溝部は、前記共振器方向に互いに対向する一対の第1面を有し、
前記一対の第1面は、前記幅方向に対して傾斜している、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記一対の第1面は、前記幅方向に沿って前記導波路領域側に向かうにつれて前記一対の第1面の間の幅が短くなるように、前記幅方向に対して傾斜している、
請求項4に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記溝部は、前記共振器方向に互いに対向する一対の第1面を有し、
前記一対の第1面は、前記積層方向に対して傾斜している、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記幅方向における前記導波路領域の少なくとも一方側に、複数の前記溝部が前記共振器方向に互いに離間して設けられている、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記溝部は、前記共振器方向に互いに対向する一対の第1面を有し、
前記複数の前記溝部は、前記共振器方向に隣り合う第1溝部及び第2溝部を有し、
前記第1溝部における前記第2溝部側の前記第1面と前記第2溝部における前記第1溝部側の前記第1面とは、互いに非平行に形成されている、
請求項7に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記積層方向から見た場合において、前記溝部が設けられた領域の面積は、前記半導体レーザ素子の全体の面積の50%以下である、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記溝部は、前記共振器方向における前記半導体層の端面から離間した位置に設けられている、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記溝部は、前記半導体層の前記幅方向における端部から前記幅方向に沿って前記導波路領域に向かって延びている、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記半導体層には、前記溝部の前記導波路領域側とは反対側の端部と接続され、前記共振器方向における前記半導体層の全域に亘って前記共振器方向に沿って延在する外縁溝部が設けられている、
請求項11に記載の半導体レーザ素子。
【請求項13】
前記基板は、GaAs又はInPによって形成された化合物半導体基板である、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項14】
前記半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のNFPの5%値全幅及び98%透過幅は、120μm以下である、
請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項15】
前記半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のNFPの5%値全幅及び98%透過幅は、100μm以下である、
請求項14に記載の半導体レーザ素子。
【請求項16】
レーザ光を連続発振するように駆動される半導体レーザ素子であって、
基板と、
前記基板上に積層され、光を発生させる活性層を含む半導体層と、を備え、
前記半導体層は、共振器方向に互いに対向する一対の共振面間で前記共振器方向に沿って延び、前記共振器方向に前記光を導波させる導波路領域を有し、
前記半導体層には、前記半導体層の積層方向から見た場合に、前記共振器方向に直交する幅方向における前記導波路領域の少なくとも一方側において、前記共振器方向における一部の領域を占め、少なくとも前記活性層を前記積層方向に貫通する溝部が設けられており、
前記活性層が設けられた位置における前記溝部の前記導波路領域側の端部と前記活性層のうち所定の発光幅に対応付けられる部分の前記溝部側の端部との前記幅方向における間隔は、前記所定の発光幅よりも短く、
前記所定の発光幅は、前記半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のNFPの半値全幅、1/e2値全幅、及び5%値全幅から選択される少なくとも一つである、半導体レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、レーザ光を連続発振するように駆動される半導体レーザ素子(CWレーザ)が知られている。上記特許文献1に開示されている半導体レーザ素子では、リッジストライプの両側に光導波路方向に延在する溝部が形成されているが、当該溝部は活性層を貫通していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているような従来一般的な半導体レーザ素子の構成では、半導体レーザ素子のNFP(Near Field Pattern)の発光幅が比較的大きくなる。このため、例えば半導体レーザ素子から出力されるレーザ光を光ファイバー等の外部の光導波路に入力する構成において、当該レーザ光の全体が光ファイバーに入りきらず、光損失(結合損失)が生じる場合がある。また、光ファイバーに入らなかったレーザ光は、例えば半導体レーザ素子を収容するモジュール(筐体)の内部において迷光となり、モジュール内の部品(例えば、半導体レーザ素子自体)を劣化させる要因となる。
【0005】
そこで、本開示の一側面は、光損失の低減及び半導体レーザ素子の劣化の抑制を図ることができる半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の[1]~[16]の半導体レーザ素子を含む。
【0007】
[1]レーザ光を連続発振するように駆動される半導体レーザ素子であって、
基板と、
前記基板上に積層され、光を発生させる活性層を含む半導体層と、を備え、
前記半導体層は、
共振器方向に互いに対向する一対の共振面間で前記共振器方向に沿って延び、前記共振器方向に前記光を導波させる導波路領域と、
前記半導体層の積層方向において前記導波路領域と重なり、電流が注入されるコンタクト領域と、を有し、
前記半導体層には、前記共振器方向に直交する幅方向における前記導波路領域の少なくとも一方側において、前記共振器方向における一部の領域を占め、少なくとも前記活性層を前記積層方向に貫通する溝部が設けられており、
前記活性層が設けられた位置における前記溝部の前記導波路領域側の端部と前記コンタクト領域との前記幅方向における間隔は、前記幅方向における前記コンタクト領域の幅よりも短い、半導体レーザ素子。
【0008】
上記半導体レーザ素子においては、幅方向において導波路領域に一定以上近い位置まで達すると共に活性層を積層方向に貫通する溝部が半導体層に設けられている。このような溝部により、光を共振器方向に沿って導波及び共振させることが意図された導波路領域よりも幅方向の外側(導波路領域に対して溝部が設けられた側)では、共振器方向に沿った光の伝搬が抑制される。これにより、積層方向に活性層を貫通する溝部を設けない場合と比較して、半導体レーザ素子から出射されるレーザ光LのNFPの発光幅を狭く(小さく)することができる。その結果、例えば半導体レーザ素子から出力されるレーザ光を外部の光導波路(例えば、光ファイバー等)に入力する構成において、外部の光導波路に入りきらずに迷光となる光の発生を抑制することができる。また、仮に溝部を共振器方向における半導体層の全域に亘って連続的に設けた場合には、溝部の導波路領域側の端部における活性層と空気との界面(比較的大きい屈折率差が生じる領域)が、共振器方向における半導体層の全域に亘って、導波路領域から一定以上近い位置に形成されることになる。その結果、幅方向における上記界面に対応する位置に光密度の高い領域が発生し、当該領域において半導体レーザ素子の劣化が進行し易くなり、半導体レーザ素子の寿命が短くなるおそれがある。これに対して、上記半導体レーザ素子においては、溝部は共振器方向における一部の領域を占めるように形成されており、共振器方向における半導体層の全域に亘って連続的に形成されていないため、溝部を共振器方向における半導体層の全域に亘って連続的に設けた場合に生じ得る上述した問題を回避できる。以上により、上記半導体レーザ素子によれば、光損失(半導体レーザ素子から外部の光導波路へとレーザ光を入力する際の結合損失)を低減することができると共に、上記迷光に起因する半導体レーザ素子の劣化を抑制することができる。
【0009】
[2]前記半導体層の前記基板側とは反対側の頂面を覆うように形成され、前記頂面の一部を露出させる開口部が設けられた絶縁層と、
前記半導体層の最上層に位置するコンタクト層のうち前記絶縁層の前記開口部を介して露出している部分と接触している電極と、を更に備え、
前記コンタクト領域は、前記開口部を介して前記電極と前記コンタクト層とが接触している領域である、[1]の半導体レーザ素子。
【0010】
上記[2]の構成によれば、絶縁層の開口部の幅によってコンタクト領域及び導波路領域の幅を容易に調整できると共に、上述した溝部とコンタクト領域との位置関係を満たすような溝部を確実に設けることができる。
【0011】
[3]前記幅方向における前記導波路領域の一方側に前記溝部が設けられると共に、前記幅方向における前記導波路領域の他方側にも前記溝部が設けられており、
前記一方側に設けられた前記溝部の前記活性層が設けられた位置における前記導波路領域側の端部は、前記幅方向において、前記他方側に設けられた前記溝部の前記活性層が設けられた位置における前記導波路領域側の端部と対向しないように配置されている、[1]又は[2]の半導体レーザ素子。
【0012】
溝部の導波路領域側の端部においては、活性層と空気との界面(比較的大きい屈折率差が生じる領域)が形成される。このような界面同士が導波路領域を挟んで対向して配置された場合、屈折率差が大きい界面が導波路領域の幅方向両側に存在することに起因して、許容される導波モードの数が少なくなり、発振するモードが固定され易くなる。これにより、幅方向における当該界面に対応する位置に光密度の高い領域が発生し易くなる。その結果、当該領域において半導体レーザ素子の劣化が進行し易くなり、半導体レーザ素子の寿命が短くなるおそれがある。これに対して、上記[3]の構成のように、活性層が設けられた位置における溝部の導波路領域側の端部同士を、導波路領域を挟んで幅方向に対向しないように配置することにより、上記界面の位置を共振器方向に分散させることができる。その結果、上述したように発振するモードが固定され易くなることを抑制でき、上述したような半導体レーザ素子の劣化の進行及び寿命の短期化を抑制することができる。
【0013】
[4]前記溝部は、前記共振器方向に互いに対向する一対の第1面を有し、
前記一対の第1面は、前記幅方向に対して傾斜している、[1]~[3]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0014】
上記[4]の構成によれば、半導体レーザ素子から光ファイバー等の外部の光導波路に向けて出射されたレーザ光の戻り光が溝部の第1面に入射した場合において、当該戻り光が第1面で反射して上記光導波路に向けて進行すること(すなわち、戻り光が上記光導波路に再入射することにより、上記光導波路を伝搬するレーザ光の特性が意図しない影響を受けること)を抑制できる。また、仮に、溝部の第1面と共振器方向における半導体層の端面(共振面を含む面であり、共振器方向に垂直な面)とが互いに平行に構成された場合には、溝部の第1面と上記端面との間の領域に意図しない共振器が形成されるおそれがある。その結果、当該意図しない共振器によって共振されたレーザ光が、半導体レーザ素子から出射されるレーザ光の特性に意図しない影響を与えるおそれがある。これに対して、上記のように第1面を幅方向に対して傾斜させる構成によれば、溝部の第1面と上記端面とを非平行にすることができる。その結果、上述したような意図しない共振器が形成されることを回避でき、半導体レーザ素子の信頼性を高めることができる。
【0015】
[5]前記一対の第1面は、前記幅方向に沿って前記導波路領域側に向かうにつれて前記一対の第1面の間の幅が短くなるように、前記幅方向に対して傾斜している、[4]の半導体レーザ素子。
【0016】
上記[5]の構成によれば、溝部の導波路領域側の端部の共振器方向における幅を小さくすることができる。これにより、溝部の導波路領域側の端部における活性層と空気との界面(比較的大きい屈折率差が生じる領域)の幅を小さくでき、上述したような当該界面に起因する固定モードの発生と、それに起因する半導体レーザ素子の劣化の進行及び寿命の短期化を効果的に抑制することができる。
【0017】
[6]前記溝部は、前記共振器方向に互いに対向する一対の第1面を有し、
前記一対の第1面は、前記積層方向に対して傾斜している、[1]~[5]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0018】
上記[6]の構成によれば、上記[4]と同様の効果を得ることができる。
【0019】
[7]前記幅方向における前記導波路領域の少なくとも一方側に、複数の前記溝部が前記共振器方向に互いに離間して設けられている、[1]~[6]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0020】
導波路領域の幅方向における側方において、溝部が形成されていない領域であって共振器方向に比較的長い領域(以下「側方領域」という。)が形成されていると、当該側方領域内において光が増幅される可能性がある。そして、このような光の増幅が生じると、キャリアが当該側方領域で使用されてしまい、導波路領域内のキャリアの数が減少する結果、レーザ光の発光効率が低下するおそれがある。また、このように側方領域で発生した光が当該側方領域の共振器方向における端部に位置する溝部(第1面)に当たることにより、溝部(第1面)が損傷するおそれもある。これに対して、上記[7]の構成によれば、溝部間に設けられる側方領域の共振器方向に沿った長さを短くすることができる。言い換えれば、共振器方向に長大な長さを有する側方領域を排除することができる。その結果、上述したような問題の発生を抑制できる。
【0021】
[8]前記溝部は、前記共振器方向に互いに対向する一対の第1面を有し、
前記複数の前記溝部は、前記共振器方向に隣り合う第1溝部及び第2溝部を有し、
前記第1溝部における前記第2溝部側の前記第1面と前記第2溝部における前記第1溝部側の前記第1面とは、互いに非平行に形成されている、[7]の半導体レーザ素子。
【0022】
仮に、共振器方向に隣り合う第1溝部及び第2溝部の互いに対向する第1面同士が平行に構成されている場合には、第1溝部と第2溝部との間の領域に意図しない共振器が形成されるおそれがある。その結果、当該意図しない共振器によって共振されたレーザ光が、半導体レーザ素子から出射されるレーザ光の特性に意図しない影響を与えるおそれがある。これに対して、上記[8]の構成によれば、上述したような意図しない共振器が形成されることを回避でき、半導体レーザ素子の信頼性を高めることができる。
【0023】
[9]前記積層方向から見た場合において、前記溝部が設けられた領域の面積は、前記半導体レーザ素子の全体の面積の50%以下である、[1]~[8]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0024】
上記[9]の構成によれば、半導体レーザ素子の基板側とは反対側の表面をモジュールの支持部(例えば、支持基板)に接合する場合において、半導体レーザ素子と支持部との接触面積を一定以上確保することができる。これにより、上記のように半導体レーザ素子がモジュール化される場合において、半導体レーザ素子において発生した熱の支持部への放熱性を確保でき、その結果、半導体レーザ素子の寿命の長期化を図ることができる。
【0025】
[10]前記溝部は、前記共振器方向における前記半導体層の端面から離間した位置に設けられている、[1]~[9]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0026】
仮に、共振器方向における半導体層の端面にまで達する溝部(すなわち、共振器方向に垂直な半導体層の端面の一部を切り欠くことで形成された溝部)を形成した場合、当該溝部が形成された部分において、光学損傷(COD)及び戻り光劣化等が生じ易くなる。これに対して、上記[10]の構成によれば、上述したような問題の発生を抑制できる。
【0027】
[11]前記溝部は、前記半導体層の前記幅方向における端部から前記幅方向に沿って前記導波路領域に向かって延びている、[1]~[10]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0028】
上記[11]の構成によれば、溝部を半導体層の幅方向における端部から延びる形状(すなわち、溝部が半導体層の幅方向における端部に開口している形状)に設計することにより、このような溝部をウェットエッチングによって容易に形成することができる。すなわち、ウェットエッチングよりも高コスト且つ半導体レーザ素子に与えるダメージが大きいドライエッチングを用いることなく、溝部を低コスト且つ安定的に形成することが可能となる。
【0029】
[12]前記半導体層には、前記溝部の前記導波路領域側とは反対側の端部と接続され、前記共振器方向における前記半導体層の全域に亘って前記共振器方向に沿って延在する外縁溝部が設けられている、[11]の半導体レーザ素子。
【0030】
上記[12]の構成によれば、溝部及び外縁溝部の両方をウェットエッチングによって低コスト且つ安定的に形成することが可能となる。
【0031】
[13]前記基板は、GaAs又はInPによって形成された化合物半導体基板である、[1]~[12]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0032】
上記[13]の構成によれば、従来一般的に用いられる基板を用いて、上述した効果を有する半導体レーザ素子を実現できる。
【0033】
[14]前記半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のNFPの5%値全幅及び98%透過幅は、120μm以下である、[1]~[13]のいずれかの半導体レーザ素子。
【0034】
上記[14]の構成によれば、光ファイバー等の外部の光導波路に半導体レーザ素子の出射光を効率的に入射させることができる。
【0035】
[15]前記半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のNFPの5%値全幅及び98%透過幅は、100μm以下である、[14]の半導体レーザ素子。
【0036】
上記[15]の構成によれば、光ファイバー等の外部の光導波路に半導体レーザ素子の出射光をより一層効率的に入射させることができる。
【0037】
[16]レーザ光を連続発振するように駆動される半導体レーザ素子であって、
基板と、
前記基板上に積層され、光を発生させる活性層を含む半導体層と、を備え、
前記半導体層は、共振器方向に互いに対向する一対の共振面間で前記共振器方向に沿って延び、前記共振器方向に前記光を導波させる導波路領域を有し、
前記半導体層には、前記半導体層の積層方向から見た場合に、前記共振器方向に直交する幅方向における前記導波路領域の少なくとも一方側において、前記共振器方向における一部の領域を占め、少なくとも前記活性層を前記積層方向に貫通する溝部が設けられており、
前記活性層が設けられた位置における前記溝部の前記導波路領域側の端部と前記活性層のうち所定の発光幅に対応付けられる部分の前記溝部側の端部との前記幅方向における間隔は、前記所定の発光幅よりも短く、
前記所定の発光幅は、前記半導体レーザ素子から出射されるレーザ光のNFPの半値全幅、1/e2値全幅、及び5%値全幅から選択される少なくとも一つである、半導体レーザ素子。
【0038】
上記[16]の半導体レーザ素子においても、幅方向において導波路領域に一定以上近い位置まで達すると共に活性層を積層方向に貫通する溝部が半導体層に設けられていることにより、上記[1]の半導体レーザ素子と同様の効果、すなわち、光損失(半導体レーザ素子から外部の光導波路へとレーザ光が入力される際における結合損失)を低減することができると共に迷光に起因する半導体レーザ素子の劣化を抑制する効果が得られる。
【発明の効果】
【0039】
本開示の一側面によれば、光損失の低減及び半導体レーザ素子の劣化の抑制を図ることができる半導体レーザ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、第1実施形態の半導体レーザ素子の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II線に沿った半導体レーザ素子の概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のIII-III線に沿った半導体レーザ素子の概略断面図である。
【
図4】
図4は、
図1のIV-IV線に沿った半導体レーザ素子の概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例のNFPの光強度の測定結果を示す図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の半導体レーザ素子の溝部を含む部分の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。また、図面においては、実施形態に係る特徴部分を分かり易く説明するために誇張している部分がある。このため、図面における各部の寸法比率は、実際の寸法比率とは異なる場合がある。
【0042】
[第1実施形態]
図1~
図4を参照して、第1実施形態に係る半導体レーザ素子1Aについて説明する。なお、
図1においては、後述する絶縁層4及び電極5の図示が省略されている。
図1に示されるように、半導体レーザ素子1Aは、基板2と、基板2上に積層された半導体層3と、を備える。本明細書では、便宜上、基板2の厚さ方向に平行な方向をZ軸方向とし、半導体層3の導波路方向(後述する導波路領域WRの延在方向)に平行な方向をY軸方向とし、Z軸方向から見てY軸方向に垂直な幅方向をX軸方向とするXYZ直交座標系を定義する。Z軸方向は、基板2と半導体層3とが互いに対向する方向でもあり、半導体層3に含まれる複数の層の積層方向でもある。また、Y軸方向は、Y軸方向と交差する半導体層3の一対の端面3aが互いに対向する方向である。すなわち、Y軸方向は、半導体レーザ素子1Aのレーザ光Lの出射端面(一方の端面3a)に垂直な方向であり、レーザ光Lの出射方向である。
【0043】
半導体レーザ素子1Aは、Y軸方向に互いに対向する半導体層3の端面3a(主に、後述する下部ガイド層32、活性層33、及び上部ガイド層34の端面3aを含む共振面)間でレーザ光を共振させ、一方の端面3aからY軸方向にレーザ光Lを出射する端面出射型のレーザダイオードとして構成される。半導体レーザ素子1Aは、レーザ光Lを連続発振するように駆動される半導体レーザ素子(いわゆる、CWレーザ)である。半導体レーザ素子1AのY軸方向の長さ(共振器長)は、例えば0.5mm~6mmであり、本実施形態では一例として4mmである。半導体レーザ素子1AのX軸方向の幅は、例えば100μm~1000μmであり、本実施形態では一例として500μmである。
【0044】
基板2は、半導体層3が積層される主面2aと、Z軸方向において主面2aとは反対側に位置する裏面2bと、を有する。基板2は、全体として直方体状に形成されている。基板2は、例えば、半導体基板である。基板2の例としては、GaAsによって形成されたGaAs基板(化合物半導体基板)又はInPによって形成されたInP基板(化合物半導体基板)が挙げられる。本実施形態では一例として、基板2は、GaAs基板である。基板2は、例えば、n型の導電型を有している。
【0045】
半導体層3は、基板2の主面2a上に形成されている。半導体層3は、Y軸方向に交差する一対の端面3aと、X軸方向に交差する一対の側面3bと、基板2の主面2aに対向する側とは反対側の頂面3cと、を有する。
図2及び
図3に示されるように、側面3bは、Z軸方向に沿って基板2に近づくにつれてX軸方向における半導体レーザ素子1Aの外側に向かうように、Z軸方向に対して傾斜している。すなわち、Y軸方向から見た場合に、半導体層3は、基板2に近づくにつれてX軸方向の幅が大きくなる台形状に形成されている。
【0046】
図2及び
図3に示されるように、半導体層3は、基板2に近い側から、下部クラッド層31と、下部ガイド層32と、活性層33と、上部ガイド層34と、上部クラッド層35と、コンタクト層36と、を有する。
【0047】
下部クラッド層31は、基板2の主面2a上に形成されている。本実施形態では、下部クラッド層31は、AlGaAsによって形成されており、基板2と同じ導電型(本実施形態ではn型)を有している。
【0048】
下部ガイド層32は、下部クラッド層31上に形成されている。本実施形態では、下部ガイド層32は、AlGaAsによって形成されている。
【0049】
活性層33は、下部ガイド層32上に形成されている。本実施形態では、活性層33は、AlGaAsからなる障壁層とInGaAsからなる井戸層とが交互に積層された単一又は多重の量子井戸層として構成されている。量子井戸層は、異なるエネルギーバンドギャップを有する2種以上の材料で形成され、バンドギャップの小さい材料の薄膜(井戸層)がバンドギャップの大きい材料の薄膜(障壁層)で挟まれたものであってもよい。活性層33は、電流が注入されることにより光を発生させる。
【0050】
上部ガイド層34は、活性層33上に形成されている。本実施形態では、上部ガイド層34は、AlGaAsによって形成されている。
【0051】
上部クラッド層35は、上部ガイド層34上に形成されている。本実施形態では、上部クラッド層35は、AlGaAsによって形成されており、基板2と反対の導電型(本実施形態ではp型)を有している。
【0052】
コンタクト層36は、上部クラッド層35上に形成されている。コンタクト層36は、上部クラッド層35のX軸方向中央部において、上部クラッド層35よりも小さい幅に形成されている。本実施形態では、コンタクト層36は、GaAsによって形成されており、基板2と反対の導電型(本実施形態ではp型)を有している。
【0053】
図2及び
図3に示されるように、半導体レーザ素子1Aは、絶縁層4と、電極5と、電極6と、を有する。
【0054】
絶縁層4は、半導体層3の基板2側とは反対側の頂面3cを覆うように形成されている。本実施形態では一例として、絶縁層4は、半導体層3の頂面3cだけでなく、半導体層3の側面3bの全体と、基板2の主面2aの一部(半導体層3の縁部の近傍)と、に成膜されている。絶縁層4は、例えばシリコン窒化膜又はシリコン酸化膜等によって形成される。本実施形態では、絶縁層4は、シリコン窒化膜によって形成されている。絶縁層4のうち頂面3cを覆う部分には、頂面3cの一部(本実施形態では、コンタクト層36のX軸方向における中央部の上面)を露出させるための開口部4aが設けられている。開口部4aは、X軸方向において一定の幅を有し、Y軸方向に延びている。本実施形態では、X軸方向における開口部4aの幅は、90μmである。
【0055】
電極5は、半導体層3の最上層に位置するコンタクト層36のうち絶縁層4の開口部4aを介して露出している部分と接触している。
図1に示されるように、電極5とコンタクト層36との接触面(後述するコンタクト領域CR)は、Y軸方向に延びている。本実施形態では、Z軸方向から見た場合に、開口部4aのY軸方向における両側端部(すなわち、コンタクト領域CRのY軸方向における両側端部)は、半導体層3のY軸方向における両側の端面3aよりも若干内側に位置している。
【0056】
なお、本実施形態では、電極5は、絶縁層4を覆うように形成されており、半導体層3の頂面3c上だけでなく側面3b上及び基板2の主面2a上にも形成されている。ただし、電極5は、Z軸方向から見た場合に、少なくとも開口部4aと重なる領域に配置されていればよい。電極6は、基板2の裏面2bに設けられている。電極5は、例えば、Ti/Pt/Auによって形成され得る。電極6は、例えば、AuGe/Ni/Auによって形成され得る。
【0057】
半導体レーザ素子1Aは、以下のように、駆動部7によって駆動される。駆動部7は、半導体レーザ素子1Aがレーザ光Lを連続発振するように駆動電流を半導体レーザ素子1Aに供給する。駆動部7によって電極5と電極6との間に駆動電流が供給されると、活性層33内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層33が発光する。この発光に寄与する電子及び正孔、並びに発生した光は、下部クラッド層31及び上部クラッド層35の間に効率的に閉じ込められる。そして、このように閉じ込められた光が、導波路領域WRにおいてY軸方向(共振器方向)に導波、増幅及び共振させられる。導波路領域WRは、半導体層3の一対の共振面(本実施形態では、下部ガイド層32、活性層33、及び上部ガイド層34の一対の端面3a)間でY軸方向に沿って延びる部分である。その結果、一方の端面3a(出射端面)からY軸方向にレーザ光Lが出射される。
【0058】
図1~
図3に示されるように、本実施形態では、開口部4aの内側において電極5とコンタクト層36とが接触している領域が、半導体層3に電流が注入されるコンタクト領域CRを構成している。また、半導体層3の下部ガイド層32、活性層33、及び上部ガイド層34のうちZ軸方向においてコンタクト領域CR(開口部4a)と重なる部分を含み、一対の端面3a間においてY軸方向に延びる部分が、活性層33において生成される光の大部分を伝搬させる導波路領域WRを構成している。
【0059】
図1に示されるように、半導体層3には、X軸方向(幅方向)における導波路領域WRの少なくとも一方側において、一以上の溝部10が設けられている。本実施形態では一例として、X軸方向における導波路領域WRの両側のそれぞれにおいて、複数(一例として3つずつ)の溝部10が設けられている。各溝部10は、Y軸方向(共振器方向)における一部の領域を占めるように形成されている。すなわち、各溝部10は、Y軸方向の全域に亘って連続的に形成されておらず、Y軸方向において断続的に形成されている。
図3及び
図4に示されるように、上述した絶縁層4及び電極5は、溝部10の表面(すなわち、溝部10の内部)にも成膜されている。
【0060】
本実施形態では、各溝部10は、半導体層3のX軸方向における端部(側面3b)からX軸方向に沿って導波路領域WRに向かって延びるように形成されている。すなわち、
図1に示されるように、Z軸方向から見た場合に、各溝部10は、X軸方向外側に(導波路領域WRから見て、X軸方向における基板2の外側に向かうように)開口している。また、半導体層3には、各溝部10の導波路領域WR側とは反対側の端部と接続され、Y軸方向における半導体層3の全域に亘ってY軸方向に沿って延在する外縁溝部11が更に設けられている。外縁溝部11は、例えば、半導体レーザ素子1Aの製造過程において、基板2の主面2aのうちX軸方向における端縁部を露出させるように、半導体層(半導体層3となる予定の部分と共に他の部分を含む積層体)の一部(すなわち、基板2の主面2aの端縁部上に形成された部分)が除去されることによって形成される。本実施形態では、上述したようにZ軸方向に対して傾斜する側面3bが形成されるように、上記半導体層のX軸方向の縁部が除去されることにより、半導体層3のX軸方向両側の各々に、Y軸方向に延在する外縁溝部11が形成されている。
【0061】
溝部10及び外縁溝部11は、少なくとも活性層33をZ軸方向(積層方向)に貫通している。本実施形態では、溝部10及び外縁溝部11は、コンタクト層36を除く半導体層3の全体(すなわち、下部クラッド層31から上部クラッド層35までの部分)をZ軸方向に貫通するように形成されている。
【0062】
溝部10は、一対の側面10a(第1面)と、側面10bと、を有する。一対の側面10aは、溝部10を画定する面のうち、Y軸方向(共振器方向)に互いに対向する面である。側面10bは、溝部10を画定する面のうち、溝部10における導波路領域WR側の端部を構成し、一対の側面10aの導波路領域WR側の端部同士を接続する面である。
【0063】
図3に示されるように、活性層33が設けられた位置(例えば、Z軸方向における活性層33の中央位置)における溝部10の導波路領域WR側の端部(すなわち、側面10bのうち活性層33が設けられた位置に対応する部分)とコンタクト領域CRとのX軸方向(幅方向)における間隔d1は、X軸方向におけるコンタクト領域CRの幅w1よりも短い。なお、本実施形態では、コンタクト領域CRの幅w1は、上述した開口部4aの幅によって規定されており、一例として90μmである。また、間隔d1は、例えば、0μm~50μmであり、本実施形態では一例として30μmである。
【0064】
[第1実施形態の作用効果]
以上述べた半導体レーザ素子1Aにおいては、X軸方向(幅方向)において導波路領域WRに一定以上近い位置まで達すると共に活性層33をZ軸方向(積層方向)に貫通する溝部10が半導体層3に設けられている。このような溝部10により、光をY軸方向(共振器方向)に沿って導波及び共振させることが意図された導波路領域WRよりもX軸方向の外側(導波路領域WRに対して溝部10が設けられた側)では、Y軸方向に沿った光の伝搬が抑制される。本実施形態では、導波路領域WRのX軸方向両側の各々に溝部10が設けられているため、導波路領域WRのX軸方向両側の領域において、Y軸方向に沿った光の伝搬が抑制される。これにより、溝部10を設けない場合と比較して、半導体レーザ素子1Aから出射されるレーザ光LのNFPの発光幅を狭く(小さく)することができる。その結果、例えば半導体レーザ素子1Aから出力されるレーザ光Lを外部の光導波路(例えば、光ファイバー等)に入力する構成において、外部の光導波路に入りきらずに迷光となる光の発生を抑制することができる。また、仮に溝部10をY軸方向における半導体層3の全域に亘って連続的に設けた場合(すなわち、上述した「d1<w1」を満たす溝部10の端部(側面10b)がY軸方向における半導体層3の全域に亘って連続的に形成される場合)には、溝部10の端部(側面10b)における活性層33と空気との界面(比較的大きい屈折率差が生じる領域)が、Y軸方向における半導体層3の全域に亘って、導波路領域WRから一定以上近い位置に形成されることになる。その結果、X軸方向における上記界面に対応する位置に光密度の高い領域が発生し、当該領域において半導体レーザ素子の劣化が進行し易くなり、半導体レーザ素子の寿命が短くなるおそれがある。これに対して、半導体レーザ素子1Aにおいては、溝部10はY軸方向における一部の領域を占めるように形成されており、Y軸方向における半導体層3の全域に亘って連続的に形成されていないため、溝部10をY軸方向における半導体層3の全域に亘って連続的に設けた場合に生じ得る上述した問題を回避できる。以上により、半導体レーザ素子1Aによれば、光損失(すなわち、半導体レーザ素子1Aから外部の光導波路へとレーザ光Lを入力する際の結合損失)を低減することができると共に、上記迷光に起因する半導体レーザ素子1Aの劣化を抑制することができる。
【0065】
なお、レーザ光を連続発振するように駆動される半導体レーザ素子(いわゆる、CWレーザ)は、レーザ光をパルス発振するように駆動される半導体レーザ素子(いわゆる、パルスレーザ)と比較して、平均出力が大きくなるため、一般に、パルスレーザよりも素子寿命が短い。このため、特にCWレーザにおいて、素子寿命の低下につながる構成(すなわち、半導体レーザ素子1Aのように、導波路領域WRから比較的近い位置の活性層33を切り欠く構成)を採用することについて、強い抵抗感が存在していた。本発明者らは、このような背景事情がある中において、Y軸方向(共振器方向)における一部の領域のみを切り欠いた溝部10(すなわち、Z軸方向から見た場合に、Y軸方向における一部の領域のみにおいて「d1<w1」を満たす端部が形成される溝部)をY軸方向において断続的に設けることにより、上述したような素子寿命の低下の影響を抑えつつ、NFPの発光幅の抑制を図ることができ、ひいては上述したような光損失の低減及び迷光に起因する劣化の抑制が可能な半導体レーザ素子1Aを得ることに成功した。
【0066】
図2及び
図3に示されるように、半導体レーザ素子1Aは、開口部4aが設けられた絶縁層4と、コンタクト層36のうち開口部4aを介して露出している部分と接触している電極5と、を備えており、コンタクト領域CRは、開口部4aを介して電極5とコンタクト層36とが接触している領域である。上記構成によれば、絶縁層4の開口部4aの幅によってコンタクト領域CR及び導波路領域WRの幅を容易に調整できると共に、上述した溝部10とコンタクト領域CRとの位置関係(すなわち、「d1<w1」の関係式)を満たすような溝部10を確実に設けることができる。
【0067】
図1に示されるように、本実施形態では、X軸方向(幅方向)における導波路領域WRの両側の各々に、溝部10が設けられている。すなわち、X軸方向における導波路領域WRの一方側(例えば、
図1における左側)に一以上(本実施形態では3つ)の溝部10が設けられると共に、X軸方向における導波路領域WRの他方側(例えば、
図1における右側)にも一以上(本実施形態では3つ)の溝部10が設けられている。活性層33が設けられた位置(例えば、Z軸方向における活性層33の中央位置)における一方側の溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)は、X軸方向において、活性層33が設けられた位置における他方側の溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)と対向しないように配置されている。
【0068】
溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)においては、活性層33と空気との界面(比較的大きい屈折率差が生じる領域)が形成される。このような界面同士が導波路領域WRを挟んでX軸方向に対向して配置された場合、屈折率差が大きい界面が導波路領域WRのX軸方向両側に存在することに起因して、許容される導波モードの数が少なくなり、発振するモードが固定され易くなる。これにより、X軸方向における当該界面に対応する位置に光密度の高い領域が発生し易くなる。その結果、当該領域において半導体レーザ素子1Aの劣化が進行し易くなり、半導体レーザ素子1Aの寿命が短くなるおそれがある。これに対して、半導体レーザ素子1Aのように、活性層33が設けられた位置における溝部10の導波路領域WR側の端部同士を、導波路領域WRを挟んでX軸方向に対向しない(すなわち、X軸方向から見た場合に、当該端部同士が重ならない)ように配置することにより、上記界面の位置をY軸方向(共振器方向)に分散させることができる。その結果、上述したように発振するモードが固定され易くなることを抑制でき、上述したような半導体レーザ素子1Aの劣化の進行及び寿命の短期化を抑制することができる。なお、上記効果を得るためには、少なくとも活性層33が設けられた位置における溝部10の導波路領域WR側の端部同士がX軸方向に対向しないように配置されていればよく、溝部10の他の部分(例えば、下部クラッド層31が設けられた位置)における導波路領域WR側の端部同士は、X軸方向に対向するように配置されてもよい。
【0069】
図1に示されるように、本実施形態では、溝部10は、Y軸方向(共振器方向)に互いに対向する一対の側面10aを有しており、当該一対の側面10aは、X軸方向(幅方向)に対して傾斜している。上記構成によれば、半導体レーザ素子1Aから光ファイバー等の外部の光導波路に向けて出射されたレーザ光Lの戻り光が溝部10の側面10aに入射した場合において、当該戻り光が側面10aで反射して上記光導波路に向けて進行すること(すなわち、戻り光が上記光導波路に再入射することにより、上記光導波路を伝搬するレーザ光の特性が意図しない影響を受けること)を抑制できる。より具体的には、仮に、側面10aがX軸方向と平行となっている場合、Y軸方向と略平行に側面10aに入射した戻り光が、Y軸方向と略平行に反射される結果、半導体レーザ素子1Aの出射端面(一方の端面3a)に対向する位置に配置された上記光導波路に再入射し易くなる。これに対して、上記のように側面10aがX軸方向に対して傾斜するように構成されることにより、上記光導波路に対する戻り光の再入射を効果的に抑制できる。また、仮に、溝部10の側面10aとY軸方向における半導体層3の端面3a(共振面を含む面であり、Y軸方向に垂直な面)とが互いに平行に構成された場合には、溝部10の側面10aと端面3aとの間の領域(例えば、
図1における導波路領域WRの側方に形成される領域A1)に意図しない共振器が形成されるおそれがある。その結果、当該意図しない共振器によって共振されたレーザ光が、半導体レーザ素子1Aから出射されるレーザ光Lの特性に意図しない影響を与えるおそれがある。これに対して、上記のように側面10aをX軸方向に対して傾斜させる構成によれば、溝部10の側面10aと端面3aとを非平行にすることができる。その結果、上述したような意図しない共振器が形成されることを回避でき、半導体レーザ素子1Aの信頼性を高めることができる。
【0070】
図1に示されるように、本実施形態では、1つの溝部10の一対の側面10a(Y軸方向に互いに対向する2つの側面10a)は、X軸方向に沿って導波路領域WR側に向かうにつれて一対の側面10aの間の幅が短くなるように、X軸方向(幅方向)に対して傾斜している。すなわち、Z軸方向から見た場合に、溝部10は、導波路領域WRからX軸方向外側に向かうにつれて幅が拡がるように形成されている。なお、1つの溝部10の一対の側面10aは、本実施形態とは逆に、X軸方向に沿って導波路領域WR側に向かうにつれて一対の側面10aの間の幅が長くなるように、X軸方向(幅方向)に対して傾斜するように構成されてもよい。すなわち、Z軸方向から見た場合に、溝部10は、導波路領域WRからX軸方向外側に向かうにつれて幅が狭まるように形成されてもよい。このような場合でも、上述したような外部の光導波路に対する戻り光の再入射を抑制できると共に、領域A1に意図しない共振器(すなわち、仮に側面10aと端面3aとが互いに平行に構成された場合に形成され得る共振器)が形成されることを回避できる。ただし、本実施形態の構成によれば、以下のような追加の効果を得ることができる。すなわち、X軸方向に沿って導波路領域WR側に向かうにつれて一対の側面10aの間の幅が長くなる構成(すなわち、本実施形態と逆の構成)と比較して、溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)のY軸方向(共振器方向)における幅を小さくすることができる。これにより、溝部10の導波路領域WR側の端部における活性層33と空気との界面(比較的大きい屈折率差が生じる領域)の幅を小さくでき、上述したような当該界面に起因する固定モードの発生と、それに起因する半導体レーザ素子1Aの劣化の進行及び寿命の短期化を効果的に抑制することができる。
【0071】
図4に示されるように、本実施形態では、1つの溝部10における一対の側面10aは、Z軸方向(積層方向)に対して傾斜している。これによれば、上述した構成(すなわち、一対の側面10aがX軸方向(幅方向)に対して傾斜している構成)と同様の効果が奏される。すなわち、側面10aで反射した戻り光の外部の光導波路への再入射を抑制できると共に、領域A1に意図しない共振器(すなわち、仮に側面10aと端面3aとが互いに平行に構成された場合に形成され得る共振器)が形成されることを回避できる。また、本実施形態のように、側面10aをX軸方向(幅方向)及びZ軸方向(積層方向)の両方に対して傾斜させた場合には、側面10aに入射した戻り光を外部の光導波路に向かう方向からより大きく外れた方向へと反射させることができる。また、領域A1における側面10aと端面3aとの間に共振器が構成されないため、領域A1における光の増幅をより効果的に抑制することができる。
【0072】
なお、
図4に示されるように、本実施形態では、X軸方向(幅方向)から見た場合に、一対の側面10aは、基板2側に向かうにつれて一対の側面10aの間の幅が長くなるように、Z軸方向(積層方向)に対して傾斜しているが、一対の側面10aがZ軸方向に対して傾斜する方向は、本実施形態とは逆でもよい。すなわち、X軸方向から見た場合に、一対の側面10aは、基板2側に向かうにつれて一対の側面10aの間の幅が短くなるように、Z軸方向に対して傾斜するように構成されてもよい。すなわち、X軸方向から見た場合に、溝部10は、基板2側から外側(半導体層3側)に向かうにつれて幅が拡がるように形成されてもよい。絶縁層4を溝部10内に容易且つ安定的に成膜する観点においては、後者の構成の方が前者の構成よりも有利である。
【0073】
なお、本実施形態では、後述するように、ウェットエッチングにより溝部10が形成されるが、側面10aの傾斜方向は、基板2の面方位(すなわち、エピタキシャル成長によって基板2の面方位と同じ面方位とされる半導体層3の面方位)に依存する。すなわち、基板2の面方位に対する半導体層3の向き(すなわち、X軸方向(幅方向)及びY軸方向(共振器方向))によって、ウェットエッチングにより形成される溝部10の側面10aの傾斜方向を定めることができる。側面10bの傾斜方向についても同様である。
【0074】
図1に示されるように、本実施形態では、X軸方向(幅方向)における導波路領域WRの少なくとも一方側(本実施形態では両側)に、複数(本実施形態では一例として3つ)の溝部10がY軸方向(共振器方向)に互いに離間して設けられている。導波路領域WRのX軸方向における側方において、溝部10が形成されていない領域であってY軸方向(共振器方向)に比較的長い領域(以下「側方領域」という。)が形成されていると、当該側方領域内において光が増幅される可能性がある。そして、このような光の増幅が生じると、キャリア(電子及び正孔)が当該側方領域で使用されてしまい、導波路領域WR内のキャリアの数が減少する結果、レーザ光Lの発光効率が低下するおそれがある。また、このように側方領域で発生した光が当該側方領域のY軸方向における端部に位置する溝部10(側面10a)に当たることにより、溝部10(側面10a)が損傷するおそれもある。これに対して、上記のように複数の溝部10をY軸方向に互いに離間して設ける構成(すなわち、複数の溝部10をY軸方向において分散して配置する構成)によれば、溝部10間に設けられる側方領域(例えば、
図1における領域A2)のY軸方向に沿った長さを短くすることができる。言い換えれば、Y軸方向に長大な長さを有する側方領域を排除することができる。その結果、上述したような問題の発生を抑制できる。
【0075】
図1に示されるように、本実施形態では、X軸方向(幅方向)において導波路領域WRに対して同じ側に設けられた複数の溝部10は、Y軸方向(共振器方向)に隣り合う第1溝部(例えば、
図1における溝部10A)及び第2溝部(例えば、
図1における溝部10B)を有している。また、溝部10Aにおける溝部10B側の側面10aと溝部10Bにおける溝部10A側の側面10aとは、互いに非平行に形成されている。仮に、溝部10A,10Bの互いに対向する側面10a同士が平行に構成されている場合には、溝部10A,10B間の領域A2に意図しない共振器が形成されるおそれがある。その結果、当該意図しない共振器によって共振されたレーザ光が、半導体レーザ素子1Aから出射されるレーザ光Lの特性に意図しない影響を与えるおそれがある。これに対して、上記のようにY軸方向に隣り合う溝部10A,10Bの互いに対向する側面10a同士を非平行に形成する構成によれば、上述したような意図しない共振器が形成されることを回避でき、半導体レーザ素子1Aの信頼性を高めることができる。
【0076】
図1に示されるように、Z軸方向(積層方向)から見た場合において、溝部10が設けられた領域の面積は、半導体レーザ素子1Aの全体の面積の50%以下である。本実施形態では、Z軸方向から見た場合において、複数(6つ)の溝部10及びX軸方向両側の2つの外縁溝部11を合わせた領域の面積(すなわち、半導体層3に対して基板2が位置する側とは反対側からZ軸方向に沿って半導体レーザ素子1Aを見た場合において、半導体レーザ素子1Aの全体のうち半導体層3の頂面3cが存在する部分を除いた領域の面積)が、半導体レーザ素子1Aの全体の面積の50%以下とされている。上記構成によれば、半導体レーザ素子1Aの基板2側とは反対側の表面(本実施形態では、絶縁層4を介して半導体層3の頂面3cを覆う電極5の表面)をモジュールの支持部(例えば、支持基板)に接合(例えば、はんだ接合)する場合(いわゆる、エピサイドダウンの状態で半導体レーザ素子1Aが支持基板に搭載される場合)において、半導体レーザ素子1Aと支持部との接触面積(本実施形態では、絶縁層4を介して半導体層3の頂面3cを覆う電極5の表面と支持部との接触面積)を一定以上確保することができる。これにより、上記のように半導体レーザ素子1Aがモジュール化される場合において、半導体レーザ素子1Aにおいて発生した熱の支持部への放熱性を確保でき、その結果、半導体レーザ素子1Aの寿命の長期化を図ることができる。なお、上記の放熱性を更に効果的にする観点から、Z軸方向から見た場合において、溝部10及び外縁溝部11を合わせた領域の面積は、半導体レーザ素子1Aの全体の面積の16%以下とされてもよい。
【0077】
図1に示されるように、溝部10は、Y軸方向(共振器方向)における半導体層3の端面3aから離間した位置に設けられている。すなわち、溝部10は、半導体層3の端面3aを含む部分を切り欠かないように形成されている。仮に、半導体層3の端面3aにまで達する溝部(すなわち、半導体層3の端面3aの一部を切り欠くことで形成された溝部)を形成した場合、当該溝部が形成された部分において、光学損傷(COD)及び戻り光劣化等が生じ易くなる。これに対して、上記のように半導体層3の端面3aから離間した位置に溝部10を設ける構成によれば、上述したような問題の発生を抑制できる。
【0078】
なお、本実施形態では、Y軸方向に延在する外縁溝部11は、半導体層3の端面3aに達しているが、外縁溝部11の導波路領域WR側の端部(すなわち、側面3b)は、導波路領域WRの端部(コンタクト領域CRの端部)からX軸方向において十分に離間しているため、上記のような問題の影響は小さいと考えられる。本実施形態では、活性層33が設けられた位置における外縁溝部11の導波路領域WR側の端部(すなわち、活性層33が設けられた位置における側面3b)とコンタクト領域CRとのX軸方向における間隔は、例えば、コンタクト領域CRの幅w1の1.5倍以上に設定され、より好ましくは2倍以上に設定される。
【0079】
図1に示されるように、溝部10は、半導体層3のX軸方向(幅方向)における端部(側面3b)からX軸方向に沿って導波路領域WRに向かって延びている。すなわち、Z軸方向から見た場合に、溝部10は、半導体層3のX軸方向における端部(側面3b)に開口している。上記構成によれば、溝部10をウェットエッチングによって容易に形成することができる。すなわち、ウェットエッチングよりも高コスト且つ半導体レーザ素子1Aに与えるダメージが大きいドライエッチングを用いることなく、溝部10を低コスト且つ安定的に形成することが可能となる。より具体的には、仮にZ軸方向から見た場合に側面3bに開口しない溝部(すなわち、Z軸方向から見た場合に、溝部の周囲が半導体層3で囲まれた構成)を形成する場合には、ウェットエッチングにおける液だまりが生じ易くなる。また、ウェットエッチングによる溝部形成過程において、溝部の内部にエッチング液を導入し難いという問題も生じ得る。これに対して、本実施形態のように、Z軸方向から見た場合に側面3bに開口するように溝部10を形成することにより、溝部10における側面3b側の開口を介してエッチング液が出入りすることが可能となるため、上述した問題の発生を回避できる。
【0080】
図1に示されるように、半導体層3には、各溝部10の導波路領域WR側とは反対側の端部(開口端)と接続され、Y軸方向(共振器方向)における半導体層3の全域に亘ってY軸方向に沿って延在する外縁溝部11が設けられている。上記構成によれば、溝部10及び外縁溝部11の両方をウェットエッチングによって低コスト且つ安定的に形成することが可能となる。また、外縁溝部11によって、上述したような悪影響を及ぼす可能性のある側方領域の面積(幅)を全体的に小さくすることができる。
【0081】
基板2は、GaAs又はInPによって形成された化合物半導体基板(単結晶基板)である。上記構成によれば、従来一般的に用いられる基板2を用いて、上述した効果を有する半導体レーザ素子1Aを実現できる。
【0082】
また、一例として、活性層33が設けられた位置(例えば、Z軸方向における活性層33の中央位置)における側面10bのY軸方向における長さ(以下、「長さA」という。)は、20μmである。また、長さAは、半導体レーザ素子1AのY軸方向における長さの1/25以下であることが好ましく、より好ましくは1/200以下である。また、本実施形態のように、複数の溝部10がY軸方向に沿って配置される場合、隣り合う溝部10の間の領域(後述する領域A2)について、以下の関係が成り立つことが好ましい。すなわち、長さAは、好ましくは、活性層33が設けられた位置における領域A2のY軸方向における長さよりも短くなるように設定される。また、隣り合う溝部10の側面10a及び端面3aの間の領域(後述する領域A1)について、以下の関係が成り立つことが好ましい。すなわち、長さAは、好ましくは、活性層33が設けられた位置における領域A1のY軸方向における長さよりも短くなるように設定される。上述したように、溝部10の長さAを一定以下の長さに抑えて短くすることにより、半導体レーザ素子1Aの劣化の進行及び寿命の短期化を効果的に抑制できる。
【0083】
また、半導体レーザ素子1Aは、主に上述したような溝部10を設ける構成によって、以下を実現できるように構成されることが好ましい。すなわち、半導体レーザ素子1Aから出射されるレーザ光LのNFPの5%値全幅及び98%透過幅は、120μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。5%値全幅(1/20幅)は、レーザ光Lの遅軸方向(すなわちX軸方向)のプロファイルにおいて光強度が最大値の5%となる2点間の距離である。98%透過幅は、スリットを設定した際に、透過光パワーが入射光パワーの98%となる場合のスリット幅(ただし、スリット開口の両側端部における光強度は等しいものとする)である。上記構成によれば、コア径(光を入力可能な幅)が規格化された光ファイバー等の外部の光導波路に半導体レーザ素子1Aの出射光(レーザ光L)を効率的に入射させることができる。
【0084】
図5を参照して、本実施形態で説明した半導体レーザ素子1Aと同様の構成を有する実施例と、複数(6つ)の溝部10以外について半導体レーザ素子1Aと同様の構成を有する比較例(すなわち、6つの溝部10が形成されていない点において実施例と相違する構成)と、のそれぞれについてのNFPの光強度の測定結果を説明する。
図5のグラフの横軸は、X軸方向(幅方向)における半導体レーザ素子1Aの中心位置(すなわち、導波路領域WRの幅方向中心)を原点(0)とした場合のX座標を示している。
図5のグラフの縦軸は、実施例及び比較例の各々において、X軸方向において最大の強度を示したレーザ光(NFP)の強度の大きさを100%として個別に規格化した後の各X座標におけるNFPの強度を示している。
図5は、実施例及び比較例の各々において、駆動部7から5Aの電流を供給した場合の測定結果を示している。
【0085】
図5に示されるように、主に範囲R(主に、「-80μm」から「-50μm」までの範囲、及び「40μm」から「80μm」までの範囲)において、比較例の方が、実施例よりもX軸方向(幅方向)に拡がったNFPの強度分布を示すことが確認された。すなわち、溝部10を設けた実施例によれば、比較例よりも、NFPの強度分布のX軸方向における幅を狭める(すなわち、レーザ光の出力の大部分をX軸方向における導波路領域WRの中心付近に集める)ことができることが確認された。すなわち、実施例の方が、比較例よりもNFPの発光幅を小さくできることが確認された。なお、発光幅の定義は様々であるが、特に98%透過幅及び5%値全幅について、実施例と比較例の間で顕著な差が確認された。具体的には、比較例の98%透過幅が約115μmであったのに対して、実施例の98%透過幅は約100μmであった。また、比較例の5%値全幅が約98.5μmであったのに対して、実施例の5%値全幅は約97μmであった。
【0086】
[第2実施形態]
図6を参照して、第2実施形態に係る半導体レーザ素子1Bについて説明する。半導体レーザ素子1Bは、以下に述べる点において、半導体レーザ素子1Aと相違している。すなわち、半導体レーザ素子1Bは、絶縁層4を有していない。また、半導体レーザ素子1Bにおいては、コンタクト層36が、上部クラッド層35の上面全体を覆うように形成されると共に、第1部分36A及び第2部分36Bを有している。また、半導体レーザ素子1Bは、電極5の代わりに、コンタクト層36の少なくとも第1部分36Aと重なるように、コンタクト層36の上面においてY軸方向に沿って設けられた電極5Aを備えている。半導体レーザ素子1Bの他の構成は、半導体レーザ素子1Aと同様である。
【0087】
半導体レーザ素子1Bでは、コンタクト層36は、X軸方向(幅方向)における中央部に設けられた第1部分36Aと、第1部分36AのX軸方向両側に位置する2つの第2部分36Bと、を有する。すなわち、第1部分36Aは、コンタクト層36におけるX軸方向中央部において、Y軸方向に沿って延びている。また、第1部分36Aは、第1部分36AのX軸方向両側においてY軸方向に沿って延びる2つの第2部分36Bによって挟まれている。第2部分36Bは、イオン注入等の処理が施されることによって、第1部分36Aよりも高い抵抗を示すように高抵抗化された部分である。当該構成においては、実質的に、第2部分36Bが、半導体レーザ素子1Aにおける絶縁層4に対応する機能を有し、第1部分36Aが、電極5Aを介して駆動部7(
図2参照)から供給される電流が主に流れる部分(すなわち、半導体レーザ素子1Aにおけるコンタクト領域CR)に対応する機能を有する。なお、
図6の例では、高抵抗化領域(第2部分36B)は、コンタクト層36の頂面を含んでいるが、高抵抗化領域は、コンタクト層36の頂面を含んでいなくてもよい。例えば、高抵抗化領域は、コンタクト層36の頂面から離間した位置(例えば、コンタクト層36の頂面から数μm下方の領域)に形成されてもよい。
【0088】
上記構成を有する半導体レーザ素子1Bにおいても、導波路領域WR(
図2参照)に一定以上近い位置まで達する溝部10が設けられていることにより、上述した半導体レーザ素子1Aと同様の効果が奏される。なお、半導体レーザ素子1Bにおける導波路領域WRは、半導体層3の下部ガイド層32、活性層33、及び上部ガイド層34のうちZ軸方向において第1部分36Aと重なる部分を含み、一対の端面3a間においてY軸方向に延びる部分である。
【0089】
半導体レーザ素子1Bにおいては、開口部4aを有する絶縁層4が設けられていない。また、コンタクト層36における第1部分36Aと第2部分36Bとの境界を正確に特定することは困難である。したがって、活性層33が設けられた位置における溝部10の導波路領域WR側の端部が導波路領域WRに十分に近い位置まで達しているか否かの指標として、第1実施形態の指標(すなわち、「d1<w1」の関係式を満たすか否か)を用いることができない。そこで、半導体レーザ素子1Bにおいては、第1実施形態の指標に代えて、以下のような指標(後述する「d2<w2」)が用いられてもよい。
【0090】
すなわち、
図6に示されるように、半導体レーザ素子1Bにおいては、活性層33が設けられた位置における溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)と活性層33のうち所定の発光幅に対応付けられる部分(発光部EA)の溝部10側の端部とのX軸方向(幅方向)における間隔d2は、上記所定の発光幅(すなわち、発光部EAの幅w2)よりも短い。ここで、所定の発光幅とは、半導体レーザ素子1Bの出射端面(端面3a)から出射されるレーザ光LのNFPの半値全幅、1/e
2値全幅、及び5%値全幅から選択される少なくとも一つである。半値全幅は、レーザ光Lの遅軸方向(すなわちX軸方向)のプロファイルにおいて光強度が最大値の半分となる2点間の距離である。1/e
2値全幅は、上記プロファイルにおいて光強度が最大値の1/e
2となる2点間の距離である。
【0091】
また、発光部EAは、活性層33のうち上記所定の発光幅のレーザ光Lの生成に主に寄与する部分である。発光部EAは、活性層33のうち、Y軸方向(レーザ光Lの出射方向)から見た場合に上記所定の発光幅と重なる部分(すなわち、上述したいずれかの定義の発光幅を規定する2点間の領域)である。
【0092】
なお、半値全幅、1/e2値全幅、及び5%値全幅のうち、半値全幅が最も小さい幅を有しており、5%値全幅が最も大きい幅を有している。このため、半値全幅に対応する発光部EAにおいて、上記の関係(すなわち、「d2<w2」)を満たすように溝部10を設けることにより、他の発光幅(1/e2値全幅、及び5%全幅)を用いる場合よりも溝部10を導波路領域WRに近づけることができ、NFPの発光幅をより効果的に小さくすることができる。
【0093】
[他の変形例]
以上、本開示のいくつかの実施形態(第1実施形態及び第2実施形態)について説明したが、本開示は、上記実施形態に限られない。半導体レーザ素子1A,1Bの各構成の材料及び形状には、上述した具体的な材料及び形状に限らず、上述した以外の様々な材料及び形状を採用することができる。また、上記各実施形態に含まれる一部の構成は、適宜省略又は変更されてもよいし、任意に組み合わせることが可能である。
【0094】
上記実施形態では、溝部10は、半導体層3のうちコンタクト層36を除く全ての層をZ軸方向に貫通するように形成されたが、溝部10は、少なくとも活性層33を貫通していればよい。例えば、溝部10は、半導体層3の上半分(上部クラッド層35、上部ガイド層34、及び活性層33)のみをZ軸方向に貫通するように形成されてもよい。或いは、溝部10は、半導体層3の下半分(下部クラッド層31、下部ガイド層32、及び活性層33)のみをZ軸方向に貫通するように形成されてもよい。或いは、溝部10は、活性層33を含む半導体層3の中間部分(例えば、下部ガイド層32、活性層33、及び上部ガイド層34)のみをZ軸方向に貫通するように形成されてもよい。
【0095】
また、溝部10は、X軸方向における導波路領域WRの一方側のみに形成されてもよい。このような場合においても、少なくとも導波路領域WRに対して溝部10を設けた側において、レーザ光LのNFPの発光幅を小さくする効果が発揮されるため、半導体レーザ素子1A,1Bと同様の効果(すなわち、光損失の低減及び半導体レーザ素子の劣化の抑制)が奏される。例えば、第1実施形態において、コンタクト領域CRをX軸方向における半導体層3の一方側の端部(側面3b)よりも他方側の端部(側面3b)に近い位置に設ける構成が考えられる。すなわち、コンタクト領域CRを、X軸方向における半導体層3の中央位置ではなく、X軸方向における他方側に寄せて設ける構成が考えられる。このような構成において、X軸方向における導波路領域WRの一方側(すなわち、より幅が大きい側方領域が形成される側)に溝部10を形成することで、溝部10を形成する工数を削減できると共に、溝部10による効果をより効率的に得ることができる。
【0096】
また、溝部10は、上記実施形態のようにX軸方向における導波路領域WRの同じ側に複数設けられてもよいし、1つだけ設けられてもよい。なお、このように溝部10を1つだけ設ける場合には、レーザ光Lの出射端面(端面3a)に近い位置における側方領域(例えば、
図1の領域A1に対応する領域)のY軸方向(共振器方向)の長さが短くなるように溝部10を設けることが、レーザ光Lに対する悪影響(すなわち、当該側方領域における光の増幅による影響)を抑制する観点において効果的である。すなわち、溝部10は、X軸方向における導波路領域WRの少なくとも一方側において、Y軸方向における半導体層3の中央部よりもレーザ光Lの出射端面(端面3a)に近い位置に設けられてもよい。
【0097】
また、上記実施形態のようにX軸方向における導波路領域WRの同じ側に複数の溝部10が設けられる場合において、複数の溝部10はY軸方向において略等間隔に形成されてもよいし、不均一な間隔で形成されてもよい。上記実施形態のように複数の溝部10を略等間隔に設けた場合には、隣り合う溝部10間に形成される側方領域(
図1における領域A2)のY軸方向の長さを均一化することができる。その結果、Y軸方向における長さが極端に長い側方領域が形成されること、ひいては、このような側方領域に起因する悪影響(上述したような発光効率の低下等)を抑制することができる。
【0098】
また、Z軸方向から見た場合に、溝部10は、半導体層3のX軸方向における端部(側面3b)に開口していなくてもよい。また、外縁溝部11は、形成されていなくてもよい。また、上記実施形態では、導波路領域WRを挟んで互いに反対側に設けられた2つの溝部10について、活性層33が設けられた位置における一方側の溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)は、活性層33が設けられた位置における他方側の溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)と完全に対向しないように配置されていた。すなわち、活性層33が設けられた位置において、導波路領域WRを挟んで配置される側面10b同士が全く対向しない(すなわち、X軸方向から見た場合に重ならない)ように構成されていた。これに対して、活性層33が設けられた位置における一方側の溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)は、活性層33が設けられた位置における他方側の溝部10の導波路領域WR側の端部(側面10b)と対向する部分を含んでいてもよい。すなわち、X軸方向から見た場合に、活性層33が設けられた位置において、一方側の溝部10の側面10bの一部は、他方側の溝部10の側面10bの一部と重なっていてもよい。このような場合であっても、一方側の溝部10の側面10bと他方側の溝部10の側面10bとが完全に対向するように配置される場合と比較して、上述した効果(すなわち、発振するモードが固定され易くなることの抑制)を得ることが期待できる。なお、上述した効果を高める観点から、活性層33が設けられた位置において、一方側の溝部10の側面10bと他方側の溝部10の側面10bとが対向する部分(X軸方向から見た場合に重なる部分)のY軸方向における長さは、側面10bのY軸方向における長さの1/2以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0099】
1A,1B…半導体レーザ素子、2…基板、3…半導体層、3a…端面(共振面)、3c…頂面、4…絶縁層、4a…開口部、5…電極、10…溝部、10a…側面(第1面)、11…外縁溝部、33…活性層、36…コンタクト層、CR…コンタクト領域、EA…発光部(活性層のうち所定の発光幅に対応付けられる部分)、WR…導波路領域。