(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143534
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】光透過性導電層および光透過性導電性シート
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20241003BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20241003BHJP
【FI】
H01B5/14 A
B32B7/025
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056263
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】田邉 凌祐
【テーマコード(参考)】
4F100
5G307
【Fターム(参考)】
4F100AA28A
4F100AA28B
4F100AK42C
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH66A
4F100EH66B
4F100EJ423
4F100EJ473
4F100JA11B
4F100JA12A
4F100JG01A
4F100JG01B
4F100JK17
4F100JN01A
4F100JN01B
5G307FA02
5G307FB01
5G307FC10
(57)【要約】
【課題】低い比抵抗を有しながら、屈曲性に優れる光透過性導電層、および、その光透過性導電層を備える光透過性導電性シートを提供すること。
【解決手段】光透過性導電層3は、厚み方向に互いに対向する第1主面11および第2主面12を備える。第1主面11を含む第1領域21と、第2主面12を含む第2領域22とを厚み方向一方側に向かって順に備える。第1領域21の主要な領域が、非晶質である。第2領域22の主要な領域が、結晶質である。第1領域21は不均一な厚みを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に互いに対向する第1主面および第2主面を備える、光透過性導電層であって、
前記第1主面を含む第1領域と、前記第2主面を含む第2領域とを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記第1領域の主要な領域が、非晶質であり、
前記第2領域の主要な領域が、結晶質であり、
前記第1領域は不均一な厚みを有する、光透過性導電層。
【請求項2】
前記第2領域の厚みは、前記第1領域の厚みよりも厚い、請求項1に記載の光透過性導電層。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光透過性導電層と、
前記光透過性導電層の前記第1主面側に位置する基材層と
を備える、光透過性導電性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性導電層および光透過性導電性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材と光透過性導電層とを順に備える光透過性導電性シートが知られている。このような光透過性導電性シートは、各種デバイス(例えば、タッチセンサ)において、好適に用いられる。
【0003】
このような光透過性導電性シートとして、例えば、樹脂層と光透過性導電層とを、厚み方向一方側に向かって順に備え、光透過性導電層が、非晶質である第1領域と、結晶質である第2領域とを厚み方向一方側に向かって順に含む光透過性導電性シートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2021/241118号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、光透過性導電層には、より低い比抵抗が求められる。比抵抗を低くする観点から、光透過性導電層の厚みを厚くすることも検討されるが、光透過性導電層の厚みを厚くすると、屈曲性が低下するという不具合がある。
【0006】
本発明は、低い比抵抗を有しながら、屈曲性に優れる光透過性導電層、および、その光透過性導電層を備える光透過性導電性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、厚み方向に互いに対向する第1主面および第2主面を備える、光透過性導電層であって、前記第1主面を含む第1領域と、前記第2主面を含む第2領域とを厚み方向一方側に向かって順に備え、前記第1領域の主要な領域が、非晶質であり、前記第2領域の主要な領域が、結晶質であり、前記第1領域は不均一な厚みを有する、光透過性導電層である。
【0008】
本発明[2]は、前記第2領域の厚みは、前記第1領域の厚みよりも厚い、上記[1]に記載の光透過性導電層を含んでいる。
【0009】
本発明[3]は、上記[1]または[2]に記載の光透過性導電層と、前記光透過性導電層の前記第1主面側に位置する基材層とを備える、光透過性導電性シートを含んでいる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光透過性導電層は、結晶質である第2領域を備える。そのため、低い比抵抗を有する。また、光透過性導電層において、非晶質である第1領域は、不均一な厚みを有する。そのため、屈曲性に優れる。
【0011】
本発明の光透過性導電性シートは、本発明の光透過性導電層を備える。そのため、低い比抵抗を有しながら、屈曲性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の光透過性導電層および光透過性導電性シートの一実施形態を示す。
【
図2】
図2A~
図2Cは、光透過性導電層および光透過性導電性シートの製造方法の一実施形態を示す。
図2Aは、基材層を準備する第1工程を示す。
図2Bは、第2工程において、基材層の厚み方向一方面に、第1領域を配置する第3工程を示す。
図2Cは、第2工程において、第1領域の厚み方向一方面に、第2領域を配置する第4工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を参照して、本発明の光透過性導電層および光透過性導電性シートの一実施形態を説明する。
【0014】
図1において、紙面上下方向は、上下方向(厚み方向)である。また、紙面上側が、上側(厚み方向一方側)である。また、紙面下側が、下側(厚み方向他方側)である。また、紙面左右方向および奥行き方向は、上下方向に直交する面方向である。具体的には、各図の方向矢印に準拠する。
【0015】
光透過性導電性シート1は、所定の厚みを有するフィルム形状(シート形状を含む。)を有する。光透過性導電性シート1は、厚み方向と直交する面方向に延びる。光透過性導電性シート1は、平坦な上面および平坦な下面を有する。光透過性導電性シート1は、好ましくは、可撓性を有する。
【0016】
図1に示すように、光透過性導電性シート1は、基材層2と、基材層2の厚み方向一方側に配置される光透過性導電層3とを備える。換言すれば、光透過性導電性シート1は、光透過性導電層3と、光透過性導電層3の第1主面11(後述)側に位置する基材層2とを備える。また、具体的には、光透過性導電性シート1は、基材層2と、基材層2の上面(厚み方向一方側)に直接配置される光透過性導電層3とを備える。光透過性導電性シート1は、好ましくは、基材層2と光透過性導電層3とからなる。
【0017】
光透過性導電性シート1の厚みは、例えば、400μm以下、好ましくは、200μm以下、また、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上である。
【0018】
<基材層>
基材層2は、フィルム形状を有する。基材層2は、好ましくは、可撓性を有する。基材層2は、光透過性導電層3の下面に接触するように、光透過性導電層3の下面全面に、配置されている。基材層2は、光透過性導電性シート1の最下層である。
【0019】
基材層2は、基材10を備える。基材層2は、基材10からなる。
【0020】
[基材]
基材10としては、例えば、高分子フィルム、ガラスが挙げられる。基材2として、好ましくは、屈曲性の観点から、高分子フィルムが挙げられる。
【0021】
高分子フィルムの材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、および、ポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。オレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、および、シクロオレフィンポリマーが挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロースが挙げられる。
【0022】
高分子フィルムの材料として、好ましくは、ポリエステル樹脂が挙げられる。高分子フィルムの材料として、より好ましくは、ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0023】
基材10の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、5μm以上、より好ましくは、10μm以上、また、例えば、200μm以下、好ましくは、150μm以下、より好ましくは、130μm以下である。
【0024】
基材10の厚みは、ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、「DG-205」)を用いて測定できる。
【0025】
また、基材10は、好ましくは、透明性を有する。具体的には、基材層2の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、50%以上、好ましくは、70%以上、より好ましくは、80%以上、好ましくは、85%以上である。
【0026】
<光透過性導電層>
光透過性導電層3は、フィルム形状を有する。光透過性導電層3は、基材層2の上面に接触するように、基材層2の上面全面に、配置されている。光透過性導電層3は、光透過性導電性シート1の最上層である。
【0027】
光透過性導電層3は、厚み方向に互いに対向する第1主面11および第2主面12を備える。
【0028】
第1主面11は、平坦面である。第1主面11は、基材層2の厚み方向一方面に接触する。
【0029】
第2主面12は、厚み方向一方側に露出する。第2主面12は、第1主面11に略平行な平坦面である。
【0030】
光透過性導電層3の材料としては、例えば、導電性酸化物が挙げられる。導電性酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、および、Wからなる群より選択される少なくとも1種の金属または半金属を含む金属酸化物が挙げられる。金属酸化物には、必要に応じて、さらに上記群に示された金属原子または半金属原子をドープしていてもよい。
【0031】
導電性酸化物としては、例えば、金属酸化物が挙げられる。金属酸化物として、例えば、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、および、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられる。
【0032】
導電性酸化物として、透明性および電気伝導性を向上する観点から、好ましくは、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が挙げられる。以下の説明では、光透過性導電層3の材料が、インジウムスズ複合酸化物(ITO)である場合について、詳述する。
【0033】
インジウムスズ複合酸化物(ITO)において、酸化スズの濃度は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、10質量%以上、例えば、30質量%以下、好ましくは、15質量%以下である。
【0034】
光透過性導電層3は、第1領域21と、第2領域22とを厚み方向一方側に向かって順に備える。
【0035】
[第1領域]
第1領域21は、第1主面11を含む。第1領域21は、光透過性導電層3における厚み方向他方側部分である。第1領域21は、光透過性導電層3の厚み方向他方面を含む。また、第1領域21は、光透過性導電層3における面方向すべてに渡って形成されている。第1主面11は、第1領域21の厚み方向他方面である。
【0036】
第1領域21の主要な領域は、非晶質(非晶性)である。詳しくは、第1領域21は、断面視において、主要な領域として、非晶質である領域を含む。具体的には、このような第1領域21の態様として、例えば、断面視において、第1領域21におけるすべての領域が非晶質である態様、例えば、断面視において、第1領域21において主要な領域が非晶質であり、残りわずかな領域が、結晶質である態様が挙げられる。
【0037】
第1領域21における非晶性は、断面TEM画像の観察によって確認される。また、高倍率の断面TEM観察にて、格子縞の有無および格子縞が確認される領域の割合を観察することにより、第1領域21が非晶質であること、および/または、非晶質が主要な領域であることを同定することができる。
【0038】
また、断面視において、第1領域21における主要な領域の面積比(非晶質の面積比)は、例えば、0.6以上、好ましくは、0.8以上、より好ましくは、0.9以上であり、また、例えば、1以下である。
【0039】
また、第1領域21は、不均一な厚みを有する。具体的には、第1領域21における第1主面11と反対側の第1表面13は、不均一な表面を有する。
【0040】
より具体的には、第1領域21が、不均一な厚みが有するとは、光透過性導電層3の断面像において、第1領域21が最も厚い位置における厚さと、第1領域21が最も薄い位置における厚さとの差分が5nm以上であることを言う。第1領域21の厚さは、第1表面13と、第1主面11の差分から求める。詳しくは、後述する実施例において詳述する。
【0041】
また、このような第1領域21は、例えば、後述するスパッタリングにおける水分圧を所定の範囲とすることで形成することができる。
【0042】
第1領域21の最低厚みは、好ましくは、後述する第2領域22の厚み(最低厚み)よりも薄く、例えば、1nm以上、好ましくは、3nm以上、より好ましくは、5nm以上、また、例えば、50nm以下、好ましくは、30nm以下、より好ましくは、20nm以下である。
【0043】
また、光透過性導電層3の厚み(最低厚み)に対する第1領域21の厚み(最低厚み)の比は、例えば、0.02以上、好ましくは、0.04以上、また、例えば、0.10以下、好ましくは、0.08以下、より好ましくは、0.05以下である。
【0044】
上記比が、上記の範囲内であれば、低い比抵抗を有しながら、屈曲性を向上させることができる。
【0045】
また、第1領域21の厚み(最低厚み)の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0046】
[第2領域]
第2領域22は、第2主面12を含む。第2領域22は、光透過性導電層3における厚み方向一方側部分である。第2領域22は、光透過性導電層3の厚み方向一方面を含む。また、第2領域22は、第1領域21の厚み方向一方側に連続する。また、第2領域22は、光透過性導電層3における面方向すべてに渡って形成されている。第2主面12は、第2領域22の厚み方向一方面である。
【0047】
第2領域22の主要な領域は、結晶質(結晶性)である。詳しくは、第2領域22は、断面視において、主要な領域として、結晶質である領域を含む。具体的には、このような第2領域22の態様として、例えば、断面視において、第2領域22におけるすべての領域が結晶質である態様、例えば、断面視において、第2領域22において主要な領域が結晶質であり、残りわずかな領域が、非晶質である態様が挙げられる。
【0048】
第2領域22における結晶性は、断面TEM画像の観察によって確認される。また、高倍率の断面TEM観察にて、格子縞の有無および格子縞が確認される領域の割合を観察することにより、第2領域22が結晶質であること、および/または、結晶質が主要な領域であることを同定することができる。また、第2領域22が結晶質である場合には、例えば、第2領域22を、5質量%の塩酸水溶液に15分間浸漬した後、水洗および乾燥し、第2領域22の表面において15mm程度の間の二端子間抵抗を測定し、二端子間抵抗が10kΩ以下である。
【0049】
また、断面視において、第2領域22における主要な領域の面積比(結晶質の面積比)は、例えば、0.7以上、好ましくは、0.8以上、より好ましくは、0.9以上であり、また、例えば、1以下である。
【0050】
第2領域22は、不均一な厚みを有する。具体的には、第2領域22における第2主面12と反対側の第2表面14は、上記第1表面13と対応する不均一な表面を有する。
【0051】
第2領域22は、第1領域21の厚み方向一方面に配置されるため、第1領域21が不均一な厚みを有すれば、第2領域22も不均一な厚みを有する。
【0052】
第2領域22の厚み(最低厚み)は、低比抵抗および屈曲性の観点から、好ましくは、第1領域21の厚み(最低厚み)よりも厚く、例えば、70nm超過、好ましくは、80nm以上、より好ましくは、90nm以上、また、例えば、150nm以下、好ましくは、120nm以下、より好ましくは、110nm以下である。
【0053】
また、光透過性導電層3の厚み(最低厚み)に対する第2領域22の厚み(最低厚み)の比は、例えば、0.90以上、好ましくは、0.92以上、より好ましくは、0.95以上、また、例えば、0.98以下、好ましくは、0.96以下である。
【0054】
上記比が、上記の範囲内であれば、低い比抵抗を有しながら、屈曲性を向上させることができる。
【0055】
第2領域22の厚み(最低厚み)の測定方法は、後述する実施例において詳述する。
【0056】
第2領域22の厚み(最低厚み)が、第1領域の厚み(最低厚み)よりも厚ければ、屈曲性をより一層向上することができる。
【0057】
そして、第1領域21の厚み(最低厚み)に対する第2領域22の厚み(最低厚み)の比は、例えば、1超過、好ましくは、2.0以上、より好ましくは、4.0以上、さらに好ましくは、7以上、とりわけ好ましくは、15以上、また、例えば、50以下、好ましくは、25以下である。
【0058】
上記比が、上記の範囲内であれば、低い比抵抗を有しながら、屈曲性を向上させることができる。
【0059】
[光透過性導電層の物性]
光透過性導電層3の厚み(最低厚み)は、第1領域21の厚みおよび第2領域22の厚みの総和であって、低抵抗の観点から、例えば、80nm以上、好ましくは、100nm以上、また、例えば、200nm以下、好ましくは、150nm以下、より好ましくは、120nm以下である。
【0060】
光透過性導電層3の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上、また、例えば、100%以下である。
【0061】
光透過性導電層3の表面抵抗は、例えば、40Ω/□以下、好ましくは、35Ω/□以下、また、例えば、0Ω/□超過である。表面抵抗は、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定できる。
【0062】
光透過性導電層3の比抵抗は、例えば、2.8×10-4Ωcm以下、より好ましくは、2.5×10-4Ωcm以下、また、例えば、0Ωcm超過、好ましくは、0.1×10-4Ωcm以上、より好ましくは、1.0×10-4Ωcm以上である。比抵抗は、表面抵抗に厚みを乗じて得られる。
【0063】
<光透過性導電性シートの製造方法>
図2A~
図2Cを参照して、光透過性導電性シート1の製造方法を説明する。
【0064】
光透過性導電性シート1の製造方法は、基材層2を準備する第1工程と、スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、光透過性導電層3を配置する第2工程とを備える。また、この方法では、各層を、例えば、ロールトゥロール方式で、順に配置する。このような場合には、搬送速度は、例えば、1.0m/分以上、また、例えば、20.0m/分以下である。
【0065】
[第1工程]
第1工程では、基材層2を準備する。
【0066】
基材層2を準備するには、
図2Aに示すように、基材10を準備する。
【0067】
[第2工程]
第2工程では、スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、光透過性導電層3を配置する。
【0068】
詳しくは、第2工程は、基材層2の厚み方向一方面に、第1領域21を配置する第3工程と、第1領域21の厚み方向一方面に、第2領域22を配置する第4工程と、加熱により、第2領域22を結晶化させる第5工程とを備える。
【0069】
(第3工程)
第3工程では、
図2Bに示すように、スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、第1領域21を配置する。
【0070】
スパッタリング法によって、基材層2の厚み方向一方面に、第1領域21を配置するには、必要により、基材層2の厚み方向一方面に表面処理を施す。
【0071】
表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、および、ケン化処理が挙げられる。
【0072】
次いで、スパッタリング法では、真空チャンバー内にターゲット(第1領域21の材料)および基材層2を対向配置する。また、スパッタリングにおいて、基材層2は、成膜ロールの周方向に沿って、密着している。
【0073】
次いで、スパッタリングガスを供給するとともに電源から電圧を印加することによりガスイオンを加速しターゲットに照射させて、ターゲット表面からターゲット材料をはじき出す。そして、そのターゲット材料を基材層2の表面(厚み方向一方面)に堆積させて、第1領域21を配置する。
【0074】
スパッタリングガスとしては、例えば、不活性ガス(例えば、クリプトンガス、アルゴンガス)および酸素ガスが挙げられる。スパッタリングガスとして、好ましくは、不活性ガスおよび酸素ガスを併用する。不活性ガスとして、好ましくは、アルゴンガスが挙げられる。不活性ガスとして、アルゴンガスを用いる場合には、第1領域21は、アルゴン原子を含む。
【0075】
酸素ガスの導入量は、不活性ガスおよび酸素ガスの総量に対して、例えば、1.0流量%以上、好ましくは、2.0流量%以上、また、例えば、5.0流量%以下、好ましくは、3.0流量%以下である。
【0076】
スパッタリング時の気圧は、例えば、0.1Pa以上、好ましくは、0.2Pa以上、また、例えば、2.0Pa以下、好ましくは、1.0Pa以下である。
【0077】
スパッタリング時の水分圧は、例えば、0.5×10-4Pa超過、好ましくは、0.6×10-4Pa以上、より好ましくは、0.6×10-4Pa以上、また、例えば、1.8×10-4Pa以下、好ましくは、1.5×10-4Pa以下、より好ましくは、1.0×10-4Pa以下である。
【0078】
スパッタリング時の水分圧が、上記範囲内であれば、不均一な厚みを有する第1領域21を確実に形成することができる。
【0079】
また、スパッタリング時の水分圧が、上記範囲内であれば、第5工程において、第1領域21を非晶質に維持することができる。
【0080】
電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、および、RF電源のいずれであってもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0081】
放電出力は、例えば、1.0kW以上、好ましくは、10.0kW以上、また、例えば、20kW以下である。
【0082】
ターゲットの水平磁場強度は、例えば、10mT以上、好ましくは、20mT以上、また、例えば、100mT以下、好ましくは、50mT以下である。
【0083】
また、成膜ロールの温度は、例えば、20℃以下、好ましくは、10℃以下、より好ましくは、0℃以下、また、例えば、-50℃以上、好ましくは、-25℃以上である。
【0084】
(第4工程)
第4工程では、
図2Cに示すように、スパッタリング法によって、第1領域21の厚み方向一方面に、第2領域22を配置する。
【0085】
次いで、スパッタリング法では、真空チャンバー内にターゲット(第2領域22の材料)および第1領域21を対向配置する。次いで、スパッタリングガスを供給するとともに電源から電圧を印加することによりガスイオンを加速しターゲットに照射させて、ターゲット表面からターゲット材料をはじき出す。そして、そのターゲット材料を第1領域21の表面(厚み方向一方面)に堆積させて、第2領域22を形成する。また、スパッタリングにおいて、基材層2は、成膜ロールの周方向に沿って、密着している。
【0086】
また、スパッタリングガスとしては、例えば、不活性ガス(例えば、クリプトンガス、アルゴンガス)および酸素ガスが挙げられる。不活性ガスとして、好ましくは、アルゴンガスが挙げられる。不活性ガスとして、アルゴンガスを用いる場合には、第2領域22は、アルゴン原子を含む。
【0087】
酸素ガスの導入量は、不活性ガスおよび酸素ガスの総量に対して、例えば、0.05流量%以上、好ましくは、0.1流量%以上、また、例えば、5.0流量%以下、好ましくは、3.0流量%以下である。
【0088】
スパッタリング時の気圧は、例えば、0.1Pa以上、好ましくは、0.2Pa以上、また、例えば、2.0Pa以下、好ましくは、1.0Pa以下である。
【0089】
スパッタリング時の水分圧は、好ましくは、第3工程における水分圧よりも高く、例えば、1.8×10-4Pa超過、好ましくは、2.0×10-4Pa以上、また、例えば、4.0×10-4Pa以下、好ましくは、3.0×10-4Pa以下、より好ましくは、2.5×10-4Pa以下である。
【0090】
スパッタリング時の水分圧が、上記範囲内であれば、第5工程において、第2領域22を確実に結晶化させることができる。
【0091】
電源は、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、および、RF電源のいずれであってもよい。また、これらの組み合わせであってもよい。
【0092】
放電出力は、例えば、1.0kW以上、好ましくは、10.0kW以上、また、例えば、20kW以下である。
【0093】
ターゲットの水平磁場強度は、例えば、10mT以上、また、例えば、200mT以下、好ましくは、100mT以下、より好ましくは、40mT以下である。
【0094】
また、成膜ロールの温度は、例えば、20℃以下、好ましくは、10℃以下、より好ましくは、0℃以下、また、例えば、-50℃以上、好ましくは、-25℃以上である。
【0095】
(第5工程)
第5工程では、加熱により、第2領域22を結晶化させる。
【0096】
第2領域22を結晶化させるには、第2領域22を加熱する。具体的には、スパッタリング後に、加熱ロールを用いて、第2領域22を加熱する。
【0097】
加熱条件として、加熱温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、120℃以上、また、例えば、250℃以下、好ましくは、200℃以下である、また、加熱時間は、10分以上、また、例えば、120分以下である。
【0098】
これにより、第2領域22が結晶化する。一方、第1領域21が結晶化せず、非晶質を維持する。詳しくは、第3工程における水分圧が、上記範囲内であれば、希ガス由来の不純ガスと水の合算量が非晶質を維持するのに好適な水準となり、第1領域21が結晶化せず、非晶質を維持し、また、第4工程における水分圧が、上記範囲内であれば、結晶性を得るのに工程な不純物の量となり、第2領域22が結晶化する。
【0099】
以上により、光透過性導電性シート1が得られる。
【0100】
<作用効果>
光透過性導電層3は、結晶質である第2領域22を備える。そのため、低い比抵抗を有する。また、光透過性導電層3において、非晶質である第1領域21は、不均一な厚みを有する。そのため、屈曲性に優れる。
【0101】
詳しくは、光透過性導電層3において、非晶質である第1領域21は、不均一な厚みを有すると、第1領域21によって、屈曲による応力が緩和される。その結果、屈曲性を向上できる。
【0102】
光透過性導電性シート1は、光透過性導電層3を備える。そのため、低い比抵抗を有しながら、屈曲性に優れる。
【0103】
<変形例>
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0104】
上記した説明では、基材層2は、基材10からなるが、基材層2は、さらに、硬化樹脂層を備えることもできる。このような場合には、基材層2は、基材10と硬化樹脂層とを厚み方向一方側に向かって順に備える。
【0105】
硬化樹脂層としては、誘電体層およびハードコート層が挙げられる。
【0106】
また、上記した説明では、第3工程および第4工程における水分圧を所定の範囲に調整することによって、第1領域21および第2領域22の結晶状態を調整するが、例えば、第3工程および第4工程における電力密度を所定の範囲に調整することによって、第1領域21および第2領域22の結晶状態を調整することもできる。
【0107】
また、上記した説明では、第1領域21における第1主面11と反対側の第1表面13は、不均一な表面を有するが、第1表面13が、不均一な表面を有さず(つまり、平坦面を有する)、第1主面11が不均一な表面を有してもよい。このような場合であっても、第1領域21は、不均一な厚みを有する。また、このような場合には、第2領域22における第2表面14は、平坦面を有する。
【0108】
また、第1領域21において、第1主面11および第1表面13が不均一な表面を有してもよい。このような場合であっても、第1領域21は、不均一な厚みを有する。また、このような場合には、第2領域22における第2表面14は、不均一な表面を有する。
【0109】
好ましくは、屈曲性を向上させる観点から、第1領域21において、第1表面13が、不均一な表面を有し、かつ、第1主面11が平坦面を有する。また、このような場合には、第2領域22において、第2領域22における第2表面14は、不均一な表面を有する。
【実施例0110】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替できる。
【0111】
<光透過性導電層および光透過性導電性シートの製造>
実施例1
[第1工程]
基材としての長尺のPETフィルム(厚さ125μm、三菱ケミカル社製)を準備した。これにより、基材層を準備した。
【0112】
[第2工程]
基材層の厚み方向一方面に、反応性スパッタリング法により、光透過性導電層を配置した。反応性スパッタリング法では、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施できるスパッタ成膜装置(DCマグネトロンスパッタリング装置)を使用した。
(第3工程)
具体的には、まず、基材層の厚み方向一方面に、第1領域を配置した。
【0113】
詳しくは、ターゲットとして、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度は12.5質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。ターゲット上の水平磁場強度は30mTとした。スパッタリング装置において、基材層を、成膜ロールの周方向に沿って、密着させた。成膜ロールの温度は、-5℃とした。スパッタ成膜装置が備える成膜室内の到達真空度が0.9×10-4Paに至るまでスパッタ成膜装置内を真空排気した後、スパッタ成膜装置内に、スパッタリングガスとしてのアルゴンと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、スパッタ成膜装置内の気圧を0.2Paとした。また、スパッタ時の水分圧が、0.8×10-4Paとなる環境で、スパッタを実施した。スパッタ成膜装置に導入されるアルゴンおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2.4流量%であった。これにより、基材層の厚み方向一方面に、第1領域(厚み5~20nm(最低厚み5nm))を配置した。
【0114】
(第4工程)
第1領域の厚み方向一方面に、第2領域を配置した。
【0115】
詳しくは、ターゲットとして、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度は12.5質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。ターゲット上の水平磁場強度は30mTとした。スパッタリング装置において、基材層を、成膜ロールの周方向に沿って、密着させた。成膜ロールの温度は、-5℃とした。スパッタ成膜装置が備える成膜室内の到達真空度が0.9×10-4Paに至るまでスパッタ成膜装置内を真空排気した後、スパッタ成膜装置内に、スパッタリングガスとしてのアルゴンと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、スパッタ成膜装置内の気圧を0.2Paとした。また、スパッタ時の水分圧が、2.1×10-4Paとなる環境で、スパッタを実施した。スパッタ成膜装置に導入されるアルゴンおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2.3流量%であった。これにより、第1領域の厚み方向一方面に、第2領域(厚み100~120nm(最低厚み100nm))を配置した。
【0116】
(第5工程)
加熱により、第2領域を結晶化させた。具体的には、熱風オーブンにて加熱した。加熱温度は140℃とし、加熱時間は30分とした。これにより、第2領域を結晶化した。一方、第1領域は、結晶化されず、非晶質を維持した。以上により、光透過性導電層および光透過性導電性シート1を製造した。
【0117】
比較例1
実施例1と同様の手順に基づいて、光透過性導電層および光透過性導電性シートを製造した。但し、第3工程における水分圧を、0.5×10-4Paに変更した。
【0118】
比較例2
実施例1と同様の手順に基づいて、光透過性導電層および光透過性導電性シートを製造した。但し、第3工程を実施しなかった。
【0119】
比較例3
実施例1と同様の手順に基づいて、光透過性導電層および光透過性導電性シートを製造した。但し、第5工程を実施しなかった。
【0120】
<評価>
[光透過性導電層の厚み]
各実施例および各比較例の光透過性導電層(各領域)の厚みを、FE-TEM観察により測定した。具体的には、まず、FIBマイクロサンプリング法により、各実施例および各比較例の光透過性導電層の断面観察用サンプルを作製した。FIBマイクロサンプリング法では、FIB装置(商品名「FB2200」、Hitachi製)を使用し、加速電圧を10kVとした。次に、断面観察用サンプルにおける光透過性導電層の厚さを、FE-TEM観察によって測定した。FE-TEM観察では、FE-TEM装置(商品名「JEM-2800」、JEOL製)を使用し、加速電圧を200kVとした。
【0121】
また、第2領域の厚みは、光透過性導電層全体の厚みから、第1領域の厚みを差し引くことにより算出した。その結果を表1に示す。
【0122】
[第1領域2が不均一な厚みが有する否かの確認]
上記光透過性導電層の厚みの評価と同様にして、FE-TEMの断面像を確認した。観察倍率を50万倍(撮影範囲 横長さ275nm)とし、第1領域2が最も厚い位置における厚さと、第1領域21が最も薄い位置における厚さとの差分が5nm以上であることを確認できた実施例1は、第1領域2が不均一な厚みを有すると判定した。
【0123】
[抵抗値]
各実施例および各比較例の光透過性導電層の抵抗値(R0)を、四端子法にて、測定した。以下の基準に基づいて、抵抗値を評価した。その結果を表1に示す。
{基準}
〇:抵抗値が40Ω/□以下であった。
×:抵抗値が40Ω/□超過した。
【0124】
[屈曲性]
各実施例および各比較例の光透過性導電性シートについて、屈曲性を評価した。具体的には、各実施例および各比較例の光透過性導電性シートを、それぞれ幅10mm、長さ150mmに切断して、サンプルを調製した。次いで、このサンプルを、光透過性導電層が外側となる状態かつ基材の厚み方向他方面がマンドレルと接触する状態となるように、マンドレルの上に配置した。続いて、光透過性導電性シートの長手方向の両端をクリップで留め、そのクリップの中央に1000gの重りを取り付けた。すなわち、光透過性導電性シートの幅に対して100g/mmの荷重を、下側に向かって印加して、光透過性導電性シートを折り曲げた。この折り曲げ状態を10秒間持続させた。
【0125】
この折り曲げ状態で、屈曲部にマジック塗りを実施した後、折り曲げ状態を開放し、該マジック部を顕微鏡にて観察した。本試験方法にて、マンドレルの直径を大径から小径に1mmごとに変更していき、このマジック塗り部の顕微鏡において、クラックが確認できなかった最小の径を表1に記載した。本数値が小さいほど、耐屈曲性に優れると評価できる。その結果を表1に示す。
【0126】
なお、上記試験では、マンドレルの直径を大径から小径に1mmごとに変更するが、その変更ごとに、サンプルを変更した。つまり、上記試験では、1つのサンプルについての、折り曲げ回数は1回であり、折り曲げるごとに、別のサンプル(同一条件で製造した別のサンプル)に変更した。
【0127】