(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143547
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】透明導電性膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/02 20060101AFI20241003BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241003BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20241003BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241003BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20241003BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20241003BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20241003BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241003BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20241003BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20241003BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B05D3/02 Z
H01B13/00 503B
C09D5/24
C09D7/61
C09D4/00
C09D7/65
C08F2/50
B05D7/24 303B
B05D5/12 B
B05D7/24 301T
B05D7/24 303A
B05D3/06 Z
B05D7/24 302Z
B05D5/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056282
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】西本 智久
(72)【発明者】
【氏名】魚留 勝也
(72)【発明者】
【氏名】伏見 賢
【テーマコード(参考)】
4D075
4J011
4J038
5G323
【Fターム(参考)】
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5G323BC03
(57)【要約】
【課題】高い帯電防止性能を有しながら、基材との密着性および膜硬度に優れる透明導電性膜を、無溶剤系の透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物から形成するための方法を提供すること。
【解決手段】無機導電性微粒子を含む透明導電性膜の製造方法であって、
無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および重合開始剤を含み、有機溶剤および水の含有量が5質量%以下である透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜を基材上に形成する工程、
前記塗膜を加熱する工程、および
前記加熱後の塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化膜を形成する工程
を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機導電性微粒子を含む透明導電性膜の製造方法であって、
無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および重合開始剤を含み、有機溶剤および水の含有量が5質量%以下である透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜を基材上に形成する工程、
前記塗膜を加熱する工程、および
前記加熱後の塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化膜を形成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記塗膜を加熱する工程が対流伝熱方式、伝導伝熱方式または放射伝熱方式により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塗膜を加熱する工程後、空気下で硬化膜を形成する工程を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物における単官能活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が、該硬化性組成物の総質量に対して15質量%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
無機導電性微粒子は、酸化スズ、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、リン含有酸化スズ(PTO)、酸化亜鉛、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)、酸化アンチモン、酸化インジウム、スズ含有酸化インジウム(ITO)、銀ナノ粒子、銀ナノワイヤ、銅ナノ粒子およびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
活性エネルギー線硬化性化合物は、25℃にて1.0Pa以上500Pa以下の蒸気圧を有する活性エネルギー線硬化性化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
基材は、表面自由エネルギーが20~40mJ/m2の基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
無機導電性微粒子はアンチモン含有酸化スズ(ATO)である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
無機導電性微粒子が凝集粒子を含み、該凝集粒子の平均凝集粒子径が90nm以上180nm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物は分散剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
分散剤は、100KOHmg/g以上の酸価を有するポリマーである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分散剤は、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1つを有する構造単位を含むポリマーである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機導電性微粒子を含む透明導電性膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック製物品などの表面に対して帯電防止処理を施すために、導電材料を含んでなる導電性塗料が広く用いられている。そのような導電性塗料として、近年、環境への配慮や安全性、作業効率などの観点から、無溶剤系の塗料組成物の開発が進んでいる。例えば、特許文献1および2には、導電性微粒子と光硬化性樹脂やモノマーとを含む無溶剤系の塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-27405号公報
【特許文献2】特開2008-143999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無溶剤系の導電性塗料は、塗工性を確保するためにその固形分濃度が制限され、十分な量の導電材料を配合することが難しい。このため、電気特性の向上に対する課題が存在する。また、無機導電性微粒子などのフィラーの分散性を向上することで、固形分濃度を上げる試みもあるが、透明導電性膜中におけるフィラーや分散剤などの非硬化成分の増加につながり、密着性や膜硬度を阻害する要因となる。すなわち、得られる導電性膜の基材に対する密着性や膜硬度も必ずしも十分に満足いくものではなく、電気特性、密着性および膜硬度のすべてにおいて優れる導電性膜が要望されている。特に透明の導電性膜を得るための導電性塗料においては、高い透明性を確保しながら、電気特性、密着性および膜硬度を向上することへの要望が達成しなければならず、その困難性は高い。
【0005】
本発明は、高い帯電防止性能を有しながら、基材との密着性および膜硬度に優れる透明導電性膜を、無溶剤系の透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物から形成するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]無機導電性微粒子を含む透明導電性膜の製造方法であって、
無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および重合開始剤を含み、有機溶剤および水の含有量が5質量%以下である透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜を基材上に形成する工程、
前記塗膜を加熱する工程、および
前記加熱後の塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化膜を形成する工程
を含む、方法。
[2]前記塗膜を加熱する工程が対流伝熱方式、伝導伝熱方式または放射伝熱方式により行われる、前記[1]に記載の方法。
[3]前記塗膜を加熱する工程後、空気下で硬化膜を形成する工程を行う、前記[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物における単官能活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が、該硬化性組成物の総質量に対して15質量%以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]無機導電性微粒子は、酸化スズ、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、リン含有酸化スズ(PTO)、酸化亜鉛、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)、酸化アンチモン、酸化インジウム、スズ含有酸化インジウム(ITO)、銀ナノ粒子、銀ナノワイヤ、銅ナノ粒子およびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]活性エネルギー線硬化性化合物は、25℃にて1.0Pa以上500Pa以下の蒸気圧を有する活性エネルギー線硬化性化合物を含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]基材は、表面自由エネルギーが20~40mJ/m2の基材である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]無機導電性微粒子はアンチモン含有酸化スズ(ATO)である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]無機導電性微粒子が凝集粒子を含み、該凝集粒子の平均凝集粒子径が90nm以上180nm以下である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物は分散剤をさらに含む、前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]分散剤は、100KOHmg/g以上の酸価を有するポリマーである、前記[10]に記載の方法。
[12]分散剤は、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1つを有する構造単位を含むポリマーである、前記[10]または[11]に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い帯電防止性能を有しながら、基材との密着性および膜硬度に優れる透明導電性膜を、無溶剤系の透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物から形成するための方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0009】
本発明の透明導電性膜の製造方法は、溶剤を実質的に含まないいわゆる無溶剤系の導電性活性エネルギー線硬化性組成物から導電性膜を形成するための方法である。本発明の透明導電性膜の製造方法は、
無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および重合開始剤を含み、有機溶剤および水の含有量が5質量%以下である透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜を基材上に形成する工程(以下、「塗膜形成工程」ともいう)、
前記塗膜を加熱する工程(以下、「塗膜加熱工程」ともいう)、および
前記加熱後の塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化膜を形成する工程(以下、「硬化膜形成工程」ともいう)
を含む。
【0010】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程は、透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物を基材上に塗工して、該導電性組成物の塗膜を形成する工程である。本発明の方法で用いられる透明導電性活性エネルギー線硬化性組成物(以下、単に「導電性組成物」または「本発明の導電性組成物」ともいう)は、無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および重合開始剤を含み、有機溶剤および水の含有量が5質量%以下である無溶剤系の組成物である。その具体的な組成や好適な態様の詳細は、後述する。
【0011】
導電性組成物の塗膜を形成するための基材は、導電性組成物の組成、導電性膜の特性や用途、リサイクル対応や環境規制、化学物質安全性による使用制限等に応じて、各種材料からなる当該分野で公知の基材から選択できる。導電性膜の形成に使用し得る基材としては、例えば、ガラス基材、セラミック基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート等のセルロース系樹脂、ナイロン、アラミド等のアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホンエーテル等のポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、シクロオレフィンポリマー類、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオキシメチレン等のアセタール樹脂等の樹脂材料から構成される透明樹脂フィルム基材などが挙げられる。
【0012】
従来、塗膜形成工程では、表面自由エネルギーが低い材料からなる基材を用いると、塗料の濡れ性が悪く、表面ハジキが発生しやすい。さらには、塗工する組成物と基材との表面自由エネルギーの差異から、塗膜表面や塗膜内部、基材界面における組成物材料の偏在化が発生して、密着性や膜硬度が悪くなることがある。これに対して、本発明の方法における塗膜加熱工程は、ウェット塗膜中の材料対流を促し、材料同士の偏在化を防ぐ効果がある。塗膜加熱工程は、特に無機導電性微粒子などのフィラーの不要な凝集を防止し、活性エネルギー線硬化性化合物と重合開始剤との均質化をもたらして、各成分の配合効果を最大化できると考えられる。このため、本発明の方法においては、表面自由エネルギーが比較的低い材料からなる基材を用いる場合であっても、高い帯電防止性能を有しながら、基材との密着性および膜硬度に優れる透明導電性膜を提供することができる。したがって、本発明の一実施態様において、基材として表面自由エネルギーが低い材料からなる基材を用いる場合に、本発明の効果をより顕著に得られる。
【0013】
本明細書において、「表面自由エネルギーが低い材料」とは表面自由エネルギーが40mJ/m2以下である材料をいう。本発明の一実施態様において、基材の表面自由エネルギーは、好ましくは20~40mJ/m2、より好ましくは27~40mJ/m2、さらに好ましくは32~40mJ/m2である。基材の表面自由エネルギーが前記範囲内であると、本発明における上記効果をより一層期待できる。
【0014】
基材の表面自由エネルギーは、例えば、接触角法や濡れ試薬法により測定できる。詳細には、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0015】
基材の表面自由エネルギーは、例えば、基材を構成する材料、基材の加工方法、基材の表面処理方法を適宜選択することによって所望の範囲に制御することができる。例えば、材料として、後述する表面エネルギーが低い樹脂材料を選択する、物理的表面処理や化学的表面処理などの表面処理によって表面自由エネルギーの低い基材を得ることができる。
【0016】
低表面自由エネルギーの基材を構成し得る材料として、種々の樹脂が挙げられる。そのような樹脂材料としては、例えば、樹脂フィルム基材を構成する樹脂材料として先に例示したものが挙げられる。特に、表面自由エネルギーが20~40mJ/m2である基材を形成するのに適する樹脂材料として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル系樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン樹脂、ポリオキシメチレンなどのアセタール樹脂などが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、汎用性や加工性、コストの観点から、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル樹脂、アセタール樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂材料を含み形成される基材が好ましい。このような樹脂を、溶媒キャスト法、溶融押出法等の公知の手段により製膜して樹脂フィルム基材とすることができる。
【0017】
基材表面の表面自由エネルギーを上記所望の範囲に制御するための表面処理としては、物理的表面処理や化学的表面処理があり、例えば、真空から大気圧の雰囲気下で、コロナまたはプラズマで基材の表面を処理する方法、基材の表面をレーザー処理する方法、基材の表面をオゾン処理する方法、基材の表面をケン化処理する方法、基材の表面を火炎処理する方法、基材の表面にカップリング剤を塗工する方法、基材の表面をプライマー処理する方法、基材の表面を酸やアルカリなどの薬液で洗浄する方法が挙げられる。中でも、加工性や表面自由エネルギーの制御容易性の観点からコロナまたはプラズマで基材の表面を処理する方法が好ましい。
【0018】
基材上への導電性組成物の塗工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、グラビアロール法、マイクログラビアロール法、マイクログラビアコータ法、スリットダイコート法、スプレー法、スピン法、リバースロール法、ディップ法、バーコート法等の塗工法、またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット法等の印刷法が挙げられる。これらの塗工法には、採用する塗工法に対応する公知の塗工機を用いることができる。
【0019】
導電性組成物を基材上へ塗工する際の塗膜の厚み(ウェット膜厚)は、導電性組成物の組成、粘度、導電性膜の特性や用途等に応じて適宜決定できる。本発明の一実施態様において、塗膜の厚み(ウェット膜厚)は、好ましくは1.0~30.0μm、より好ましくは1.2~25.0μm、さらに好ましくは1.5~20.0μmである。塗膜の厚み(ウェット膜厚)が前記範囲内であると、塗膜形成工程に続く加熱工程において、効率的に塗膜を加熱することができる。これにより、得られる塗膜中の無機導電性微粒子の濃度(導電性膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量)を高めることができ、導電性膜の表面電気抵抗値を低くすることができる。
塗膜の厚みは、例えば、くし形、ロータリー式、電磁誘導式、過電流式、電気抵抗式、電解式、超音波式、触針式等の接触式膜厚計、反射分光式、赤外線式、静電容量式、放射線式(蛍光X線、ベータ線)等の非接触式膜厚計、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の 断面観察式膜厚計により測定できる。中でも、ウェット膜厚の測定は、簡便で洗浄性のよいくし形、ロータリー式などの接触式膜厚計、硬化エネルギーを与えずオンラインで使用できる反射分光式などの非接触式膜厚計が好ましい。
【0020】
<塗膜加熱工程>
塗膜加熱工程は、塗膜形成工程において形成された導電性組成物の塗膜を加熱する工程である。本発明は、有機溶剤や水などの溶剤を実質的に含まない無溶剤系の活性エネルギー線硬化型の導電性組成物から導電性膜を作製する方法である。従来、このような無溶剤系の活性エネルギー線硬化型組成物から硬化膜を作製する方法においては、組成物の塗膜を形成後、加熱工程を経ることなく、活性エネルギー線硬化性化合物を硬化する工程が行われる。これは、無溶剤系の活性エネルギー線硬化型組成物には、活性エネルギー線硬化性化合物を硬化させる前に除去すべき溶剤が存在しないため、加熱の必要性が存在しないからである。また、加熱工程を必要としないことは製造効率の面においても有利である。これに対して、本発明者等は、無溶剤系の導電性組成物を用いながら、該組成物の塗膜の形成後、活性エネルギー線硬化性化合物の硬化前に前記塗膜を加熱することによって、得られる導電性膜の表面電気抵抗値を大きく低下できることを見出した。これは、必ずしも限定されるものではないが、塗膜加熱工程により、塗膜を構成する活性エネルギー線硬化性化合物が一部蒸発することにより、得られる塗膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量(濃度)を高めることができるためと考えられる。また、塗膜の加熱を経て塗膜内の無機導電性微粒子の濃度を高める本発明の方法においては、塗工時には適度な粘度に基づく良好な塗工性を確保することができる点でも有利である。さらに、本発明者等は、硬化前の加熱が、膜硬度、基材に対する密着性および透明性の向上ももたらし得ることを見出した。これは、塗膜加熱工程にはウェット塗膜中の材料対流を促し、材料同士の偏在化を防ぐ効果があり、特に無機導電性粒子などのフィラーの不要な凝集を防止し、活性エネルギー線硬化性化合物と重合開始剤との均質化により、各成分の配合効果を最大化できるからであると考えられる。すなわち、塗膜表面や塗膜内部、基材界面における組成物材料の偏在化を防ぐことは、塗膜と基材界面における硬化性化合物の未硬化部分や無機導電性微粒子などのフィラーや分散剤といった非硬化成分による密着性の低下を抑え、硬化性化合物と重合開始剤との架橋ネットワークを促進し膜硬度が良化すると推察される。
【0021】
塗膜加熱工程における塗膜の加熱方式は、導電性組成物の組成、基材の種類、導電性膜の特性や用途 等に応じて適宜決定し得る。加熱効率や作業性の観点から、本発明の方法においては、加熱工程が対流伝熱方式、伝導伝熱方式または放射伝熱方式により行われることが好ましい。加熱方式としては、1つの方式を採用してもよく、2つ以上の方式を組み合わせて採用してもよい。
【0022】
対流伝熱方式は、高温に熱せられた加熱空気(熱風)などの加熱用流体を処理すべき塗膜に直接接触させて、加熱用流体の熱を塗膜に供給する方式である。対流伝熱方式による塗膜の加熱は、例えば、熱風乾燥機、熱風オーブン、ドライヤー、箱型乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機、流動層乾燥機、気流乾燥機、噴出流乾燥機(ノズルジェット)などの対流伝熱方式で加熱し得る公知の乾燥機を用いて行うことができる。
【0023】
伝導伝熱方式は、熱せられた加熱ロールなどの高温体に基材付き塗膜を接触させることによって、接触面を介して熱伝導により塗膜を加熱する方式である。伝導伝熱方式による塗膜の加熱は、例えば加熱ロール、真空乾燥機、箱型乾燥機、撹拌乾燥機、円筒乾燥機(ドラムドライヤー)、多円筒乾燥機(シリンダードライヤー)などの伝導伝熱方式で加熱し得る公知の装置を用いて行うことができる。
【0024】
放射伝熱方式は、軸射伝熱方式ともよばれ、高温体が放出する赤外線の放射エネルギーを熱源として利用する方式であり、塗膜に吸収された赤外線が熱に変わり塗膜を加熱することができる。放射伝熱方式による塗膜の加熱は、例えば、赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーター、赤外線ランプなどの放射伝熱方式で加熱し得る公知の装置を用いて行うことができる。
【0025】
塗膜加熱工程における加熱条件は、導電性組成物の組成、採用する加熱方式、基材の種類、導電性膜の特性や用途等に応じて適宜決定し得る。
【0026】
本発明の一実施態様において、加熱温度は、例えば50~150℃であってよく、好ましくは60~120℃、より好ましくは70~110℃、さらに好ましくは80~100℃である。塗膜加熱工程における加熱温度が前記範囲内であると、塗膜の加熱を効率的に行い、塗膜を構成する活性エネルギー線硬化性化合物の一部を蒸発させることができる。これにより得られる塗膜(以下、「乾燥塗膜」ともいう)の膜厚が薄くなり、塗膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量を高めることができる。塗膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量が高まることにより、得られる導電性膜の表面電気抵抗を大きく低下させることができる。また、活性エネルギー線硬化性化合物の過度な蒸発を防ぎ、膜硬度に優れる導電性膜を得ることができる。他方、基材の耐熱温度や融点が低い場合、加熱温度が高くなりすぎると、基材が変形する可能性がある。熱可塑性樹脂から構成される基材を用いる場合、塗膜加熱工程は通常100℃以下であることが好ましい。
なお、本明細書において加熱温度とは、各種乾燥方式において塗膜に加熱エネルギーを与える部位と同じ位置で直接計測した空間または塗膜の温度を意味する。
【0027】
本発明の一実施態様において、加熱時間は、例えば10秒~10分であってよく、好ましくは10秒~8分、より好ましくは10秒~5分、さらに好ましくは30秒~3分である。塗膜加熱工程における加熱時間が前記範囲内であると、塗膜の加熱を効率的に行い、塗膜を構成する活性エネルギー線硬化性化合物の一部を蒸発させることができる。これにより乾燥塗膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量を高めることができる。塗膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量が高まることにより、得られる導電性膜の表面電気抵抗を大きく低下させることができる。また、活性エネルギー線硬化性化合物の過度な蒸発を防ぎ、膜硬度に優れる導電性膜を得ることができる。他方、基材の厚みが薄い場合、加熱時間が長くなりすぎると、基材のカールや収縮など変形が生じる可能性がある。例えば、厚みが5μm~5000μmの基材を用いる場合、塗膜加熱工程は通常10分未満であることが好ましい。
【0028】
本発明の方法において、塗膜の加熱は、加熱後に得られる乾燥塗膜の厚み(乾燥膜厚)が、加熱前の塗膜の厚み(ウェット膜厚)より薄くなるよう行われることが好ましい。乾燥塗膜の膜厚が薄くなることにより、塗膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量が高まる。これにより、得られる導電性膜の表面電気抵抗を下げることができる。本発明の一実施態様において、塗膜加熱工程後の塗膜の乾燥膜厚は、乾燥前の塗膜のウェット膜厚の好ましくは98%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以下、特に好ましくは70%以下であり、場合によっては例えば60%以下、または55%以下であり得る。加熱工程前後の膜厚は、導電性組成物の組成や採用する加熱方式等に応じて、乾燥温度や乾燥時間を適宜選択することにより制御できる。
なお、塗膜の厚みは、例えば、電磁誘導式、過電流式、電気抵抗式、電解式、超音波式、触針式等の接触式膜厚計、反射分光式、赤外線式、静電容量式、放射線式(蛍光X線、ベータ線)等の非接触式膜厚計、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等の断面観察式膜厚計により測定できる。
【0029】
乾燥塗膜の厚み(乾燥膜厚)は、導電性組成物の組成、導電性膜の特性や用途、加熱方式、等に応じて適宜決定できる。本発明の一実施態様において、乾燥塗膜の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.3~25μm、より好ましくは0.4~20μm、さらに好ましくは0.5~15μmである。乾燥塗膜の厚み(乾燥膜厚)が前記範囲内であると、導電性膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量を高まりやすく、導電性膜の表面電気抵抗値を大きく低下しやすい。また、膜硬度や密着性が向上しやすい。
【0030】
本発明の好適な一実施態様において、塗膜加熱工程は対流伝熱方式を含む方法により行われる。具体的には、熱風乾燥機、熱風オーブン、またはドライヤーを使用する対流伝熱方式が好ましい。
【0031】
<硬化膜形成工程>
硬化膜形成工程は、加熱後の塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化膜を形成する工程である。加熱後の塗膜に活性エネルギー線を照射して、塗膜中の活性エネルギー線硬化性化合物を重合し、硬化させることにより、導電性組成物の硬化膜として導電性膜が形成される。本発明の方法においては、加熱された塗膜を冷却することなく、硬化膜形成工程に用いることができる。無溶剤系の導電性組成物のウェット塗膜を加熱したまま硬化するメリットとして、溶媒としても機能する硬化性化合物(以下、「溶媒モノマー)ともいう)の対流により各種材料の分散と均質化がより進むことや、溶媒モノマーの粘度低下による開始剤ラジカルとモノマーラジカルの拡散速度(モビリティ)を増加できるため、透明性、密着性、および/または膜硬度を向上できることが挙げられる。これに対して、加熱したウェット塗膜を冷やす過程では、溶媒モノマーに対する溶解度の低い材料の過飽和析出や、無機導電性微粒子の不要な凝集が起こり得る可能性がある。ウェット塗膜を冷却することなく硬化することにより、前記冷却工程に起因する導電性や透明性の低下を抑制できる。また、作業工程や時間が短くなるため、生産効率の向上においても有利である。
【0032】
乾燥塗膜に照射する光は、該乾燥塗膜に含まれる活性エネルギー線硬化性化合物の種類(特に、該硬化性化合物が有する重合性基の種類)、重合開始剤の種類およびそれらの量に応じて適宜選択される。具体的には、例えば、可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線およびγ線からなる群より選択される1種以上の活性エネルギー線や活性電子線が挙げられる。中でも、重合反応の進行を制御しやすい点、当該分野で広く用いられている装置を使用できる点で、紫外光が好ましい。
【0033】
前記活性エネルギー線の光源としては、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザー、波長範囲265~440nmを発光するLED光源、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が挙げられる。
【0034】
活性エネルギー線照射条件は、導電性組成物の組成によって適宜決定され、特に限定されるものではない。例えば、積算光量が好ましくは10~3,000mJ/cm2、より好ましくは50~2,000mJ/cm2、さらに好ましくは100~1,000mJ/cm2となるよう、照射強度、照射回数や照射時間を適宜決定することができる。
【0035】
本発明の一実施態様において、硬化膜形成工程は空気下で行うことが好ましい。硬化膜形成工程を空気下で行うとは、活性エネルギー線を照射される導電性組成物の塗膜が空気に触れる状態で、活性エネルギー線の照射が行われることを意味する。塗膜が空気に触れない状態としては、例えば、導電性組成物を基材上に塗工して塗膜を形成後、例えば酸素による重合阻害を防止する目的などのために前記塗膜を適当な樹脂フィルムで被覆し、これを塗膜加熱工程や硬化膜形成工程に用いる場合が挙げられる。硬化膜形成工程は空気下で行うことにより、導電性組成物に含まれる活性エネルギー線硬化性化合物の蒸発が適度に進行しやすい。これにより、導電性膜の厚み当たりの無機導電性微粒子の含有量を高めることができ、導電性膜の表面電気抵抗が大きく低下しやすい。また、ウェット塗膜の加温・蒸発による、積極的な材料の対流、膜厚の減少、無機導電性微粒子の含有率の増加などの相乗効果のため、膜硬度や密着性をより一層向上できる。さらに、硬化膜形成工程を空気下で行う場合、塗膜上に上述したような塗膜を空気から遮断するための層を設ける必要がなく、また、塗膜の硬化後にこれを除去する必要もないため、導電性膜の製造効率やコスト面においても有利である。
【0036】
<導電性組成物>
本発明の方法においては、無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および重合開始剤を含み、有機溶剤および水の含有量が5質量%以下である、いわゆる無溶剤系の導電性組成物から導電性膜を形成する。
【0037】
(無機導電性微粒子)
本発明の方法に用いる導電性組成物は、無機導電性微粒子を含む。無機導電性微粒子を含むことにより、該導電性組成物から得られる硬化膜に所望の電気特性を付与し得る。一般に、無機導電性微粒子や分散剤などは非硬化成分となり、基材界面に存在した場合、阻害要因となり、得られる硬化膜の密着性を低下させる傾向にある。しかしながら、本発明においては無機導電性微粒子を比較的多くの含有量で配合した場合であっても、塗膜加熱工程において溶媒モノマー対流による各種材料の分散と均質化が進むことによって、密着性の低下を抑制できるため、基材に対する高い密着性を確保することができる。これにより、本発明の方法によって得られる導電性膜は、低い表面電気抵抗を示しながら、基材に対する高い密着性を確保し得る。
【0038】
本発明において、無機導電性微粒子は、導電性を有する粒子であればその成分(材料)は特に限定されず、導電性粒子として公知の成分を用いることができる。具体的には、例えば、酸化スズ、酸化亜鉛等の導電性金属酸化物粒子;導電性窒化物粒子;酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛および酸化カドミウムからなる群から選ばれる1種類以上の金属酸化物を主成分として、さらにスズ、アンチモン、リン、アルミニウム、ガリウムを含む導電性金属酸化物粒子、例えば、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、リン含有酸化スズ(PTO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)等;銀ナノ粒子;銀ナノワイヤ;および銅ナノ粒子;カーボンナノチューブ;導電性カーボン;導電材を被覆したコアシェル粒子、例えば酸化チタンの表面をATOなどの導電材料で被覆した粒子;等が挙げられる。無機導電性微粒子は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、導電性、透明性、熱安定性、光安定性等に優れることから、無機導電性微粒子は、酸化スズ、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、リン含有酸化スズ(PTO)、酸化亜鉛、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、ガリウム含有酸化亜鉛(GZO)、酸化アンチモン、酸化インジウム、スズ含有酸化インジウム(ITO)、銀ナノ粒子、銀ナノワイヤ、銅ナノ粒子およびカーボンナノチューブからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、酸化スズおよびアンチモン含有酸化スズ(ATO)から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、アンチモン含有酸化スズ(ATO)を含むことがさらに好ましい。
【0039】
導電性組成物において無機導電性微粒子は凝集粒子を含み、無機導電性微粒子が主に凝集粒子として存在することが好ましい。本明細書において凝集粒子とは、無機導電性微粒子の一次粒子が複数互いに接触して形成された二次粒子をいう。無機導電性微粒子が凝集粒子として存在すると、一次粒子として存在する場合と比較してより少ない配合量で得られる硬化膜の表面電気抵抗値を同等以下とすることができるため、導電性組成物の良好な塗工性を確保しながら、所望の表面電気抵抗値への調整がしやすくなる。凝集粒子の形状は、球状、楕円体状、扁平状など無機導電性微粒子の一次粒子が凝集して形成されるいかなる形状であってもよいが、好ましくは球状である。
なお、本明細書において、「主に凝集粒子として存在する」とは、無機導電性微粒子の総質量に対して50質量%を超える無機導電性微粒子が凝集粒子として存在することを意味する。本発明の一態様において、無機導電性微粒子の総質量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上の無機導電性微粒子が凝集粒子として存在する。
【0040】
本発明において、上記無機導電性微粒子の凝集粒子の平均凝集粒子径は90nm以上180nm以下であることが好ましい。無機導電性微粒子の平均凝集粒子径が90nm以上であると、凝集粒子内に導電経路が形成されやすくなる。これにより、粒子間の電気抵抗が少なくなるため、比較的少量の無機導電性微粒子の配合によって高い電気特性を得ることができる。このため、優れた塗工性と良好な帯電防止性能とを両立することができる。また、平均凝集粒子径が180nm以下であると、無機導電性微粒子が必要以上に凝集した状態にならず、分散性や均一性を高めることができる。これにより、可視光の散乱や回折が起こり難くなり、ヘイズ値が低く、透明性に優れる導電性膜を得ることができる。平均凝集粒子径を特定の範囲に制御することによる上記効果をより得やすい観点から、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径は、好ましくは92nm以上、より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは105nm以上、特に好ましくは110nm以上であり、また、好ましくは175nm以下、より好ましくは165nm以下、さらに好ましくは155nm以下、特に好ましくは150nm以下である。
【0041】
本発明において、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径は、動的光散乱法にて測定可能な凝集粒子の平均粒子径であり、体積粒度分布における中心粒径(D50)を意味する。無機導電性微粒子の平均凝集粒子径の測定には、動的光散乱法による平均粒子径を測定し得る一般的な測定機器を用いることができるが、無溶剤系の導電性組成物における凝集粒子の測定機器としては、試料の希釈有無に関わらず、凝集粒子として分散した状態の無機導電性微粒子の粒子径を測定できる必要がある。そのような測定機器としては、例えば、大塚電子株式会社製の濃厚系粒径アナライザー、多検体ナノ粒子径測定システム、マイクロトラック社製の粒子径分布測定装置、島津製作所社製レーザー回折式粒子径分布測定装置、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置等を採用し得る。なお希釈する場合には、無機導電性微粒子の凝集状態を変化させない溶媒を選択する必要がある。より詳細には、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径は、例えば後述する実施例に記載の方法に従い測定できる。
【0042】
無機導電性微粒子の平均凝集粒子径は、例えば、導電性組成物を構成する活性エネルギー線硬化性化合物の種類、分散剤の種類やその量、無機導電性微粒子の分散処理条件(例えば、無機導電性微粒子濃度、処理時間、処理温度、ビーズの材質やビーズ径、速度や充填率など)等を調整することにより、所望の範囲に制御することができる。
【0043】
本発明において、無機導電性微粒子の平均一次粒子径は、通常、10nm以上50nm以下であり、好ましくは10nm以上30nm以下である。無機導電性微粒子の平均一次粒子径が上記範囲内であると、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径を特定の範囲に制御しやすくなる。
なお、本明細書において無機導電性微粒子の平均一次粒子径は、無機導電性微粒子のナノ粒子そのものをサンプルとして、透過型電子顕微鏡(TEM)により、粒界で区切られた個々の一次粒子の粒子径を観察、測定した後、少なくとも100個の粒子の粒子径を平均した平均粒子径をいう。
【0044】
本発明において、一次粒子として存在する無機導電性微粒子の量は、無機導電性微粒子の総質量に対して、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0045】
導電性組成物中の無機導電性微粒子の含有量は、導電性組成物の総質量に対して好ましくは40質量%以上60質量%以下である。無機導電性微粒子の含有量が前記下限以上であると、得られる硬化膜に十分な帯電防止性能を付与することができる。また、含有量が前記上限以下であると、無機導電性微粒子を含むことに起因する組成物の粘度上昇、塗工性の低下、密着性の低下を抑制できる。優れた塗工性を確保しながら、得られる硬化膜に良好な帯電防止性能を付与し得る観点から、無機導電性微粒子の含有量は、導電性組成物の総質量に対して、好ましくは42質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、また、好ましくは58質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。
【0046】
(活性エネルギー線硬化性化合物)
本発明において導電性組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物を含む。活性エネルギー線硬化性化合物は、無機導電性微粒子の分散媒として機能し、得られる硬化膜中に無機導電性微粒子を分散固定するマトリックス樹脂を形成する成分である。
【0047】
活性エネルギー線硬化性化合物は、紫外線等の活性エネルギー線の照射により重合して硬化する特性を有する成分であり、分子中に少なくとも1つの反応性基を有する重合性化合物などが挙げられる。反応性基としては、例えば、重合開始剤から発生する活性ラジカルや酸などによって重合反応に関与し得る基が挙げられ、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、オキシラニル基、オキセタニル基等が挙げられる。中でも、ラジカル重合性基が好ましく、ビニル基、(メタ)アクリロイル基がより好ましく、(メタ)アクリロイル基がさらに好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルおよびメタクリロイルの双方またはいずれかを表し、以下、「(メタ)アクリレート」等においても同様である。活性エネルギー線硬化性化合物は、モノマー、プレポリマー、オリゴマーのいずれであってもよい。活性エネルギー線硬化性化合物は、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本発明において、活性エネルギー線硬化性化合物としては、無機導電性微粒子の分散媒として機能することができ、活性エネルギー線により硬化し得る化合物であることが好ましい。このような活性エネルギー線硬化性化合物として、当該分野で従来用いられている重合性化合物等を広く採用し得る。反応性に優れ、得られる硬化膜に適度な強度や硬度を付与しやすい傾向にあることから、本発明の一実施態様において、導電性組成物は活性エネルギー線硬化性化合物として、少なくとも2個の反応性基を有する活性エネルギー線硬化性化合物(以下、「多官能活性エネルギー線硬化性化合物」ともいう)を含むことが好ましい。多官能活性エネルギー線硬化性化合物は、モノマー、オリゴマーおよびポリマーのいずれであってもよい。例えば、分子内にエチレン性二重結合を2つ以上有する多官能エチレン性不飽和単量体(モノマー)が挙げられる。
【0049】
少なくとも2個の反応性基を有する活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、
炭素数10~25の直鎖または分岐のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはとして、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2-nブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、アルコキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジ(メタ)アクリレート等;
炭素数10~30の環状構造含有ジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレートとして、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート等、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルなどのビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;2-(アリルオキシメチル)(メタ)アクリル酸メチルなどのアリル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;
アミノ(メタ)アクリレート、アミン変性ポリエーテル(メタ)アクリレート、アミン変性ポリエステル(メタ)アクリレート、アミン変性エポキシ(メタ)アクリレート、アミン変性ウレタン(メタ)アクリレート等の2官能以上のアミノアクリレート類等、が挙げられる。
【0050】
導電性組成物の硬化性を向上できる観点から、少なくとも2個の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート化合物(以下、「多官能(メタ)アクリレート化合物」ともいう)を含むことが好ましい。また、導電性組成物の硬化性を向上できるとともに、塗膜加熱工程において適度に除去しやすいことから、分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する2官能(メタ)アクリレート化合物(以下、「2官能(メタ)アクリレート化合物」ともいう)を含むことがより好ましい。本発明において特に好適な2官能(メタ)アクリレート化合物としては、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、および2-(アリルオキシメチル)(メタ)アクリル酸メチルが挙げられる。本発明の一実施態様においては、導電性組成物がこれらの2官能(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、2官能(メタ)アクリレート化合物として1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、2-(アリルオキシメチル)(メタ)アクリル酸メチルを含むことが特に好ましい。これらの化合物は、前記無機導電性微粒子の分散媒として優れた機能を果たし、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径や粘度を所望の範囲に制御しやすい点においても有利である。
【0051】
本発明の一実施態様において、活性エネルギー線硬化性化合物として2官能(メタ)アクリレート化合物とともに、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。多官能活性エネルギー線硬化性化合物として複数種の化合物を含むことによって、得られる硬化膜の硬度や密着性をより一層高めることができる。3官能以上の(メタ)アクリレート化合物は、より好ましくは3官能(メタ)アクリレート化合物であり、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明の一実施態様において、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としてペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートを含むことが特に好ましい。
【0052】
導電性組成物は、活性エネルギー線硬化性化合物として分子内に1個の反応性基を有する活性エネルギー線硬化性化合物(以下、「単官能活性エネルギー線硬化性化合物」ともいう)を含んでいてもよい。単官能活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、分子内にエチレン性二重結合を1つ有する単官能エチレン性不飽和単量体が挙げられ、具体的には、例えば、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、分子内に、脂環式構造、芳香環構造または複素環構造等の環状構造を有する(メタ)アクリレート、ならびに(メタ)アクリルアミドおよびN-ビニルラクタム類などの窒素原子を含有する単官能エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
【0053】
上記単官能活性エネルギー線硬化性化合物としては、例えば、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマル(メタ)アクリレート、アルコキシ化テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-tert-ブチルシクロヘキサノール(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0054】
本発明の一実施態様において、導電性組成物に含まれる活性エネルギー線硬化性化合物の総量に占める多官能活性エネルギー線硬化性化合物の割合(2種以上含む場合はその総量)は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上であり、導電性組成物に含まれる全ての活性エネルギー線硬化性化合物が多官能活性エネルギー線硬化性化合物であってもよい。また、導電性組成物に含まれる多官能活性エネルギー線硬化性化合物の総量に占める多官能(メタ)アクリレート化合物の割合(2種以上含む場合はその総量)は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、多官能活性エネルギー線硬化性化合物が全て多官能(メタ)アクリレート化合物であってもよい。さらに、導電性組成物に含まれる多官能活性エネルギー線硬化性化合物の総量に占める2官能(メタ)アクリレート化合物の割合(2種以上含む場合はその総量)は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは75質量%以上であり、特に好ましくは80質量%以上、とりわけ好ましくは85質量%以上である。導電性組成物における多官能活性エネルギー線硬化性組成物の割合、多官能活性エネルギー線硬化性化合物における多官能または2官能(メタ)アクリレート化合物の割合が上記下限以上であると、無機導電性微粒子の良好な分散性および活性エネルギー線硬化性化合物を配合することによる良好な塗工性を維持しながら、得られる硬化膜の硬度や電気特性を向上できる。
【0055】
また、本発明の一実施態様において、導電性組成物における多官能活性エネルギー線硬化性化合物の含有量(2種以上含む場合はその総量)は、前記導電性組成物の総質量に対して、好ましくは20~55質量%、より好ましくは25~50質量%、さらに好ましくは30~45質量%である。導電性組成物における多官能活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が前記範囲にあると、無機導電性微粒子の良好な分散性や塗工性を維持しながら、得られる硬化膜の硬度や電気特性を向上できる。
【0056】
本発明の一実施態様において、導電性組成物に含まれる活性エネルギー線硬化性化合物の総量に占める単官能活性エネルギー線硬化性化合物の割合(2種以上含む場合はその総量)は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下、とりわけ好ましくは5質量%以下であり、単官能活性エネルギー線硬化性化合物を含まなくてもよい。導電性組成物における単官能活性エネルギー線硬化性組成物の割合が上記範囲にあると、単官能活性エネルギー線硬化性化合物を配合することによる塗工性を確保しながら、得られる硬化膜の強度や硬度を向上できる。
【0057】
また、本発明の一実施態様において、導電性組成物における単官能活性エネルギー線硬化性化合物の含有量(2種以上含む場合はその総量)は、前記導電性組成物の総質量に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下であり、導電性組成物は単官能活性エネルギー線硬化性化合物を含まなくてもよい。導電性組成物における単官能活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が前記範囲にあると、単官能活性エネルギー線硬化性化合物を配合することによる塗工性を確保しながら、得られる硬化膜の強度や硬度を向上できる。
【0058】
本発明において、導電性組成物は、25℃にて1.0Pa以上500Pa以下の蒸気圧を有する活性エネルギー線硬化性化合物を含むことが好ましい。このような蒸気圧を有する硬化性化合物を含んで構成される導電性組成物は、塗膜加熱工程を行った後も、塗膜中に蒸気圧の低い活性エネルギー線硬化性化合物が適度に残存する。このため、塗膜加熱工程で無機導電性微粒子の濃度を高めることができるとともに、硬化膜形成工程において活性エネルギー線硬化性化合物の重合を十分に進行できる。これにより、表面電気抵抗が低く、膜硬度に優れた導電膜を得ることができる。上記効果をより一層高める観点から、導電性組成物は、25℃の蒸気圧が好ましくは1.0~500Pa、より好ましくは1.0~300Pa、さらに好ましくは1.0~100Paである活性エネルギー線硬化性化合物を含む。
なお、活性エネルギー線硬化性化合物の蒸気圧は、測定対象とする試料の性状や試料量、蒸気圧の大きさによって適用する手法が異なり、例えば、気体流通法、アイソテニスコープ法、DSC法、沸点法、静止法から適切な方法を用いて25℃にて測定できる。
【0059】
本発明の一実施態様において、導電性組成物における25℃にて1.0Pa以上500Pa以下の蒸気圧を有する、好ましくは前記好適な範囲内の蒸気圧を有する活性エネルギー線硬化性化合物の含有量(2種以上含む場合はその総量)は、活性エネルギー線硬化性化合物の総質量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。前記特定の蒸気圧を有する活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が上記範囲内にあると、塗膜加熱工程における活性エネルギー線硬化性化合物の揮発性と、硬化膜形成工程における活性エネルギー線硬化性化合物の反応性とのバランスがとりやすくなる。これにより、表面電気抵抗が低く、膜硬度に優れた導電膜を得ることができる
【0060】
また、無機導電性微粒子の分散性に優れながら、組成物の良好な塗工性を確保しやすい観点から、活性エネルギー線硬化性化合物として、25℃における単体粘度が150mPa・s以下である活性エネルギー線硬化性化合物(以下、「活性エネルギー線硬化性低粘度化合物」ともいう)を含むことが好ましい。本発明の一実施態様において、活性エネルギー線硬化性低粘度化合物の25℃における単体粘度は、より好ましくは60mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下である。活性エネルギー線硬化性低粘度化合物の25℃における単体粘度は、通常、1mPa・s以上である。
なお、前記活性エネルギー線硬化性化合物の単体粘度は、単量体(モノマー)の単体粘度であり、例えば、東機産業社製E型粘度計TVE-22により測定できる。
【0061】
本発明の一実施態様において、導電性組成物に含まれる活性エネルギー線硬化性化合物の総量に占める、25℃における単体粘度が150mPa・s以下である活性エネルギー線硬化性化合物(活性エネルギー線硬化性低粘度化合物)の割合は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上であり、また、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0062】
導電性組成物中の活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は、導電性組成物の総質量に対して、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が上記範囲内であると、無機導電性微粒子の分散性に優れながら良好な塗工性を有する導電性組成物を得ることができる。
【0063】
<重合開始剤>
本発明において、導電性組成物は重合開始剤を含む。重合開始剤は、活性エネルギー線硬化性化合物の重合反応を開始し得る化合物である。重合開始剤としては、より低温条件下で重合反応を開始できる点において光の作用により活性ラジカルまたは酸を発生する光重合開始剤が好ましく、光の作用によりラジカルを発生する光重合開始剤がより好ましい。重合開始剤として、1種のみを用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0064】
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができる。例えば、アシルフォスフィンオキサイド化合物、α-アミノアルキルフェノン化合物、α-ヒドロキシキノン化合物、チオキサントン化合物、ベンゾイン化合物、アントラキノン化合物およびケタール化合物等が挙げられる。中でも、重合開始剤として、α-アミノアルキルフェノン化合物を含むことが好ましい。
【0065】
上記アシルフォスフィンオキサイド化合物としては、具体的には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、4-メチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、4-エチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、4-イソプロピルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、1-メチルシクロヘキサノイルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸メチルエステル、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィン酸イソプロピルエステル、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なアシルフォスフィンオキサイド化合物としては、例えば、BASF社製の“DAROCURE TPO”等が挙げられる。
【0066】
上記α-アミノアルキルフェノン化合物としては、具体的には、例えば、2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メトキシチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-2-オン等が挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なα-アミノアルキルフェノン化合物としては、例えば、IGM Resins社製の“Omnirad 369”、“Omnirad 907”等が挙げられる。
【0067】
上記α-ヒドロキシキノン化合物としては、具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチループロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ2-メチル-1-プロパン1-オン等が挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なα-ヒドロキシキノン化合物としては“Omnirad 184”、“DAROCURE 1173”“Omnirad 2959”、“Omnirad 127”等が挙げられる。
【0068】
上記チオキサントン化合物としては、具体的には、例えば、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン等が挙げられる。これらは単独でまたは複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なチオキサントン化合物としては、例えば、日本化薬社製の“MKAYACURE DETX-S”、ダブルボンドケミカル社製の“Chivacure ITX”等が挙げられる。
【0069】
上記ベンゾイン化合物としては、具体的には、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等が挙げられる。
【0070】
上記アントラキノン化合物としては、具体的には、例えば、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン等が挙げられる。
【0071】
上記ケタール化合物としては、具体的には、例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等〕、炭素数13~21のベンゾフェノン化合物〔例えば、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノン等が挙げられる。
【0072】
重合開始剤の含有量は、活性エネルギー線硬化性化合物100質量部に対して、好ましくは8質量部以上27質量部以下であり、より好ましくは8.5質量部以上、さらに好ましくは9質量部以上であり、また、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。重合開始剤の含有量が上記下限以上であると、導電性組成物の硬化性を十分に高めることができ、上記上限以下であると、未硬化のまま残存する活性エネルギー線硬化性化合物の量を低減することができる。一方、重合開始剤の含有量が少なすぎると、得られる硬化膜の表面電気抵抗値が高くなり過ぎて帯電防止性能を得られないことがある。また、重合開始剤の量が多すぎると、導電性組成物中で重合開始剤が十分に溶解し難くなる。
【0073】
<分散剤>
導電性組成物は分散剤をさらに含むことが好ましい。ここでいう分散剤は、上述した無機導電性微粒子を分散させるための分散剤を意味する。本発明において導電性組成物は、導電性組成物に含まれる無機導電性微粒子を分散させるための少なくとも1種の分散剤を含むことが好ましい。該分散剤の構造は、分散媒となる活性エネルギー線硬化性化合物中に、無機導電性微粒子を所望の平均凝集粒子径を有する凝集粒子として分散させ得る限り、粒子の分散性向上や沈降防止などを目的として用いられる種々の分散剤を採用し得る。そのような分散剤としては、例えば、変性アクリル系(共)重合体、アクリル系(共)重合体、酸基を有する高分子(共)重合体の塩、水酸基含有カルボン酸エステル、アルキロールアミノアマイド、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、高分子共重合体のアルキルアンモニウム塩またはリン酸エステル塩等が挙げられる。分散剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
本発明の一実施態様において導電性組成物は、100mgKOH/g以上の酸価を有するポリマーを分散剤として含むことが好ましい。100mgKOH/g以上の酸価を有するポリマーを用いる場合、本発明において特定する範囲の平均凝集粒子径を有する凝集粒子として、組成物中に無機導電性微粒子を存在させやすくなり、導電性組成物の粘度を、良好な塗工性に適切な範囲に制御しやすくなる。この理由は明らかではないが、無機導電性微粒子表面には水酸基が存在することが多く、酸価が高くなると見かけ上のpHが低下し、無機導電性微粒子表面に存在する水酸基がプラスに荷電するため、分散剤が有する酸基が吸着しやすくなって、分散性の向上につながると推測される。分散剤の酸価の上限値は特に限定されるものではないが、酸性基一個当たりの分子鎖の長さの観点から、通常200mgKOH/g以下であり、好ましくは150mgKOH/g以下である。なお、前記酸価は、分散剤固形分1gを中和するのに必要なKOHのmg数を意味し、JIS K 0070に準じて、例えば電位差滴定法によって求めることができる。
【0075】
また、分散剤のアミン価は90mgKOH/g以下であることが好ましく、80mgKOH/g以下であることがより好ましく、アミン価は0mgKOH/gであってもよい。アミン価が上記上限以下であると、無機導電性微粒子の分散性や塗工性がより向上しやすくなる。なお、前記アミン価は、分散剤固形分1gを中和するのに必要なHCl量に対して当量となるKOHのmg数を意味し、JIS K 7237に準じて、例えば電位差滴定法により測定することができる。
【0076】
上記所望の酸価を有しやすい構造として、分散剤が少なくとも1種の酸基を有する構造単位を含んで構成されるポリマーであることが好ましい。酸基を有する構造単位における酸基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、水酸基、チオール基等が挙げられる。中でも、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基および水酸基からなる群から選択される少なくとも1つを有することが好ましく、カルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基からなる群から選択される少なくとも1つを有することがより好ましく、リン酸基を有することがさらに好ましい。
【0077】
分散剤の重量平均分子量は、好ましくは800以上、より好ましくは1000以上であり、また、好ましくは30000以下、より好ましくは10000以下である。分散剤の重量平均分子量が上記下限以上であると、分散剤による良好な分散安定性が得られやすく、上記上限以下であると、粘度の過度の上昇を抑え、導電性組成物の塗工性が向上し得る。
なお、前記重量平均分子量は、一般的なゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりスチレン換算分子量として求めることができる。
【0078】
分散剤として、市販の製品を用いてもよい。そのような市販の分散剤としては、例えば、ビックケミー社製のDISPERBYK-102、DISPERBYK-106、DISPERBYK-145、DISPERBYK-111、DISPERBYK-180、BYK-P105、TEGO Disper655等が挙げられる。
【0079】
導電性組成物における分散剤の含有量は、無機導電性微粒子100質量部に対して、好ましくは8質量部以上25質量部以下である。分散剤の量が上記下限以上であると導電性組成物の粘度を、良好な塗工性に適する粘度範囲に制御しやすくなる。また、分散剤の量が上記上限以下であると、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径を所望の範囲に制御しやすくなる。分散性および塗工性の観点から、分散剤の含有量は、無機導電性微粒子100質量部に対して、より好ましくは9質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上であり、また、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは18質量部以下、特に好ましくは15質量部以下である。
【0080】
本発明の方法に用いる導電性組成物は、いわゆる無溶剤系の組成物である。本明細書において、無溶剤系とは、導電性組成物における有機溶剤および水の含有量(有機溶剤および水を含む場合、または、複数種の有機溶剤を含む場合にはその合計量)が、導電性組成物の総質量に対して、5質量%以下であることをいう。本発明において導電性組成物中の有機溶剤および水の含有量は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下であり、本発明の一実施態様において導電性組成物は有機溶剤および水を含まない。
【0081】
本発明において導電性組成物は、透明導電性組成物である。本明細書において、透明導電性組成物とは、光、特に可視光を透過し得る透光性を有する導電性膜を形成し得る導電性組成物を意味し、具体的には、全光線透過率が60以上になる特性をいう。なお、全光線透過率は、例えば、JIS K 7361に従い測定できる。
【0082】
本発明において導電性組成物は、本発明の方法において使用する際に本発明の効果を阻害しない範囲で、無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物、重合開始剤および分散剤に加えて、必要により、透明導電性組成物に一般に配合し得る添加剤等を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、保存安定化剤、表面調整剤、酸化防止剤、光安定剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、光増感剤等が挙げられる。これらは、それぞれ、1種のみを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
例えば、表面調整剤を含むことにより、導電性組成物の表面張力を適切な範囲に制御しやすくなり、塗工性がより向上しやすくなる。表面調整剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリアラルキル変性ポリジメチルシロキサン等のポリジメチルシロキサン構造を有するシリコーン系化合物、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。
【0084】
導電性組成物が表面調整剤を含む場合、その含有量は、導電性組成物の総質量に対して、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0085】
重合禁止剤としては、例えば、ニトロソ系重合禁止剤、ハイドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p-メトキシフェノール、TEMPO、TEMPOL(HO-TEMPO)、クペロンAl、ヒンダードアミン等が挙げられる。
【0086】
導電性組成物が重合禁止剤を含む場合、その含有量は、導電性組成物の総質量に対して、好ましくは0.001~1質量%、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。
【0087】
透明導電性膜を形成するための導電性組成物は、通常、着色剤を含まないが、透明である限り、例えばブルーイング剤等の顔料および/または染料を少量含むことによって着色されていてもよい。したがって、導電性組成物における着色剤の含有量は、導電性組成物の総質量に基づいて、通常0.3質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下であり、その下限は0質量%である。
【0088】
本発明において導電性組成物は、25℃で20mPa・s~150mPa・sの粘度を有することが好ましい。より良好な塗工性を確保し得る観点から、25℃における粘度は、好ましくは20~100mPa・sであり、より好ましくは20~60mPa・sである。上記粘度の測定は、JIS K5600-2-3に準拠し、例えば、E型粘度計を用いて行うことができる。導電性組成物の粘度は、活性エネルギー線硬化性化合物の種類およびその配合量、無機導電性微粒子の配合量、分散剤の種類およびその添加量等を調整することにより制御することができる。
【0089】
<導電性組成物の製造方法>
本発明において導電性組成物は、例えば、無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および分散剤を混合して混合物を得る工程(以下、「混合工程」ともいう)、および、無機導電性微粒子に含まれる凝集粒子の平均凝集粒子径を制御するために前記混合物に分散処理を施す工程(以下、「分散処理工程」ともいう)を含む方法により製造することができる。
【0090】
導電性組成物を調製する際に、導電性組成物を構成する全ての成分を同時に混合、撹拌することもできるが、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径を所望の範囲に制御しやすくするために、無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および分散剤の3成分を予め混合することが好ましい。かかる混合工程は、例えば、最終的に所望する無機導電性微粒子の平均凝集粒子径よりも大きな粒子径を有する粒子または凝集体として存在する、原料となる無機導電性微粒子(以下、「原料無機導電性微粒子」ともいう)を、該原料無機導電性微粒子を分散させるための分散剤と、分散媒である活性エネルギー線硬化性化合物と混合してこれらの混合物を得る工程である。
【0091】
導電性組成物を構成する無機導電性微粒子の凝集粒子を得るために用いる原料無機導電性微粒子の平均(凝集)粒子径は特に限定されるものではなく、例えば、最終的に所望する無機導電性微粒子の平均凝集粒子径よりも10~50倍程度大きな粒子径を有していてもよい。最終的に所望する無機導電性微粒子の平均凝集粒子径よりも適度に大きな粒子径を有する粒子または凝集体として存在する無機導電性微粒子を原料とすることで、所望する特定の範囲の平均凝集粒子径を有する無機導電性微粒子の凝集粒子を効率的に得ることができる。
【0092】
混合工程において、原料無機導電性微粒子の投入量は、所望の導電性組成物の組成、無機導電性微粒子の種類、分散剤の種類、活性エネルギー線硬化性化合物の種類等に応じて適宜決定し得る。後述する分散処理の過程以降における無機導電性微粒子の減少量を考慮して、混合工程で配合される原料無機導電性微粒子の量は、最終的な導電性組成物を構成すべき無機導電性微粒子の量より多い、具体的には、例えば5~10質量%程度多いことが好ましい。したがって、本発明の一実施態様において導電性組成物の製造方法において、混合工程で配合される原料無機導電性微粒子の量は、原料無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および分散剤、並びに、必要に応じて他の成分(例えば、重合開始剤等)を混合して得られる混合物の総質量に対して、好ましくは43質量%以上65質量%以下であり、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは47質量%以上であり、また、より好ましくは63質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。混合物中の原料無機導電性微粒子の割合(濃度)が上記範囲内であると、原料無機導電性微粒子を分散処理する条件において効率がよい。
【0093】
原料無機導電性微粒子と活性エネルギー線硬化性化合物と分散剤との混合条件は、特に限定されるものではなく、原料無機導電性微粒子の(凝集)粒子径、濃度、活性エネルギー線硬化性化合物の種類、混合に用いる機器や設備等に応じて、均一な混合物が得られるよう適宜決定すればよい。例えば、撹拌機として、ディソルバーやバタフライミキサー等を用いてもよい。
【0094】
分散処理工程は、原料無機導電性微粒子を所望の平均凝集粒子径、好ましくは90nm以上180nm以下の凝集粒子へ分散させる工程である。該工程において、得られる無機導電性微粒子の総質量に対して50質量%を超える、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上の無機導電性微粒子が、90nm以上180nm以下の平均凝集粒子径を有する凝集粒子となるよう分散されることが好ましい。
【0095】
原料無機導電性微粒子の分散は、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ピコミル、ペイントコンディショナー、ロールミル、ジェットミル、超音波分散機、ホモジナイザー、ディスパー等の公知の分散処理用機器を用いて行うことができる。中でも、短時間で効率的に所望の粒子径を有する凝集粒子を得やすい観点から、メディアを介在させた機械的分散処理機が好ましく、ビーズミルを用いることがより好ましい。これらの機器は、必要に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0096】
分散処理においてボールミルやビーズミルを使用する場合、そのメディア(ボールまたはビーズ)の材質は、特に限定されず、例えばガラス、アルミナ、セラミックス、チタニア、ジルコニア、スチールなどを使用することができる。分散処理時間を短縮しやすく、所望の凝集粒子への分散化をより効率的に行い得る観点から、ビーズ径(直径)は0.2~1mmであることが好ましく、0.2~0.5mmであることがより好ましい。分散処理機へのメディアの充填率は特に限定されないが、分散時の異型化を抑制しやすい観点から、好ましくは50~95%であり、より好ましくは70~90%である。分散処理時間は、所望の平均凝集粒子径となり得るよう、原料無機導電性微粒子の粒子径や用いる分散処理機器の種類等に応じて適宜決定すればよいが、通常、1~120分であり、好ましくは10~60分である。
【0097】
分散処理時間は、特に限定されるものではなく、原料無機導電性微粒子の(凝集)粒子径、濃度、活性エネルギー線硬化性化合物の種類、混合に用いる機器や設備等に応じて適宜決定すればよい。通常、分散処理時間が長いほど、無機導電性微粒子の平均凝集粒子径は小さくなる。
【0098】
分散処理工程を経て得られる無機導電性微粒子の分散液の粘度が、例えば20~400mPa・sの範囲になるよう制御しておくことにより、無機導電性微粒子の凝集状態に影響を与えることなく、最終的な導電性組成物の粘度を良好な塗工性を得るのに適した範囲に制御しやすくなる。上記粘度の測定は、JIS K5600-2-3に準拠し、例えば、E型粘度計を用いて行うことができる。
【0099】
分散処理工程により得られた無機導電性微粒子、活性エネルギー線硬化性化合物および分散剤の混合物に対して、重合開始剤等の導電性組成物を構成する残りの成分を加えて、混合することにより、本発明の導電性組成物を得ることができる。
【0100】
<導電性膜>
例えば、基材上に上記の導電性組成物を塗工して塗膜を形成した後、上述した本発明の方法に従って、塗膜加熱工程を施し、得られる乾燥塗膜に活性エネルギー線を照射することにより導電性組成物の硬化膜として導電性膜を得ることができる。
【0101】
本発明の方法に従って得られる導電性膜は、良好な帯電防止性能を確保する観点から、その表面電気抵抗値が5×105Ω/□以上1×109Ω/□以下であることが好ましく、より好ましくは1×106Ω/□以上、さらに好ましくは5×106Ω/□以上であり、また、より好ましくは5×108Ω/□以下、さらに好ましくは1×108Ω/□以下である。表面電気抵抗値は、導電性組成物における無機導電性微粒子の種類、その量および平均凝集粒子径、活性エネルギー線硬化性化合物の種類およびその量等を調整した上で、本発明の方法における塗膜加熱工程を経ることにより制御できる。
なお、表面電気抵抗値は、表面電気抵抗測定器を用いて測定することができる。詳細には、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0102】
本発明の方法に従って得られる導電性膜における全光線透過率は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。全光線透過率の上限は、100%である。また、本発明の導電性組成物からなる硬化膜におけるヘイズは、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2.5%以下である。全光線透過率およびヘイズが上記範囲にあると、より透明性に優れる導電性膜となる。
なお、硬化膜の全光線透過率およびヘイズは、例えば、JIS K 7361に従い測定できる。
【0103】
本発明の方法に従って得られる導電性膜は、高い膜硬度を確保する観点から、その表面における鉛筆硬度が、好ましくはH以上、より好ましくは2H以上であり、場合によっては例えば3H以上であり得る。
なお、鉛筆硬度は、例えばJIS K 5400に従い測定できる。
【0104】
本発明の方法に従って得られる導電性膜は、帯電防止性能、膜硬度および基材に対する密着性に優れ、かつ、高い透明性を有するため、基材上に導電性膜を備えた積層体として、例えば、プラスチック製品用の帯電防止フィルム、窓ガラス用の帯電防止フィルム、半導体製品の包装フィルム、設備カバー用プラスチック帯電防止シート、ディスプレイの帯電防止、タッチパネル電極、配線電極、調光フィルム電極、太陽電池電極等の用途に好適である。
【実施例0105】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」および「部」は、特記ない限り、質量%および質量部である。
【0106】
1.導電性組成物および導電性膜の調製
<実施例1>
(1)導電性組成物の調製
(i)無機導電性微粒子の分散液の調製
直径0.3mmの粒径を有するジルコニアビーズ(250g)を入れた250mlのプラスチック製容器に、表1の「分散液」に記載の組成に従い、活性エネルギー線硬化性化合物、無機導電性微粒子、分散剤および重合禁止剤を投入し、ペイントシェーカー(東洋精機製作所製)で20分間分散処理した。分散処理後、ビーズを除去して無機導電性微粒子の分散液を得た。
【0107】
(ii)導電性組成物(分散液配合組成物)の調製
上記(i)で得られた無機導電性微粒子の分散液に、表1の「分散液配合組成物」に記載の組成に従い、活性エネルギー線硬化性化合物、重合開始剤、重合禁止剤および表面調整剤を投入し、スターラーを用いて30分間撹拌することにより、分散液配合組成物(導電性組成物)を調製した。なお、分散液配合組成物に含まれる全成分の配合量を、導電性組成物の組成として表1に示した。
【0108】
(2)活性エネルギー線硬化性化合物の物性
(i)単体粘度
各活性エネルギー線硬化性化合物の単体粘度は、E型粘度計、TV22形コーンタイプ(東機産業社製)を用いて、測定温度25℃で測定した。
(i)蒸気圧
各活性エネルギー線硬化性化合物の蒸気圧は、気体流通法を用いて、測定温度25℃ より測定した。
【0109】
(3)導電性組成物の物性
(i)導電性組成物の粘度
導電性組成物の粘度は、E型粘度計、TV22形コーンタイプ(東機産業社製)を用いて、測定温度25℃にて測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(ii)表面張力
導電性組成物の表面張力は、25℃で、測定開始から20秒後の値を、全自動平衡式エレクトロ表面張力計ESB-V(協和界面科学社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0111】
(iii)無機導電性微粒子の平均凝集粒子径
導電性組成物における無機導電性微粒子の平均凝集粒子径は、それぞれ、濃厚系粒径アナライザー FPAR-1000(大塚電子社製)を用いて測定した。測定は、測定対象とする無機導電性微粒子の分散液または導電性組成物をジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(DPMA)で光量が10000~50000cpsになるように希釈した測定用組成物を用いて、測定温度25℃にて行った。結果を表1に示す。
【0112】
(4)硬化膜(導電性膜)の作製
(i)導電性膜の作製手順
(塗膜形成工程)
基材として透明なアクリル樹脂シート(クラレ社製、押出製法、表面自由エネルギー38mJ/m2)を用いた。前記基材上に、上記で調製した導電性組成物を、バーコーターPI-1210(テスター産業社製)を用いて塗工し、ウェット膜厚3μmの塗膜を形成した。
(塗膜加熱工程)
次いで、防爆型乾燥機を用いて、90℃で1分間、ウェット塗膜を乾燥した。
(硬化膜形成工程)
塗膜加熱工程において熱風乾燥した直後に、UVランプECS-1511S(アイグラフィックス社製、高圧水銀ランプ)を用いて、照度200mW/cm2、積算光量500mJ/cm2の紫外光を、空気雰囲気下で照射することにより、硬化膜を得た。
【0113】
(ii)基材の表面自由エネルギーの測定
基材の表面自由エネルギーは、接触角計(マツボー社製、PG-X)を用いて、基材表面に対する、水、ジヨードメタン、n-ヘキサデカンの各溶液の接触角を測定し、得られた接触角から表面自由エネルギーを求めるための理論式(拡張Fowkes式)に基づき算出した。
【0114】
(iii)ウェット膜厚の測定
ウェット膜厚は、反射分光式干渉膜厚計によって測定した。
【0115】
<実施例2>
実施例1と同じ導電性組成物を用いて、塗膜加熱工程の条件を70℃1分間とした以外は、実施例1の硬化膜(導電性膜)の作製方法と同様にして、導電性膜を作製した。
【0116】
<実施例3>
実施例1と同じ導電性組成物を用いて、塗膜形成工程でウェット塗膜の上に厚み50μmPETフィルム(東レ社製)をラミネートし、塗膜加熱工程の条件を70℃1分間とした以外は、実施例1の硬化膜(導電性膜)の作製方法と同様にして、導電性膜を作製した。なお、ラミネート処理は、ウェット塗膜表面から活性エネルギー線硬化性化合物の蒸発を防ぐこと、UVランプ照射時の酸素阻害を抑えることが目的となる。
【0117】
<実施例4>
活性エネルギー線硬化性化合物の種類、配合量を表1の記載に従い変更した以外は、実施例1と同様にして導電性組成物および導電性膜を作製した。
【0118】
<比較例1>
実施例1と同じ導電性組成物を用いて、塗膜加熱工程を導入しないこと以外は、実施例1の硬化膜(導電性膜)の作製方法と同様にして、導電性膜を作製した。
【0119】
<比較例2>
無機導電性微粒子を配合せず、活性エネルギー線硬化性化合物の配合量を表1の記載に従い変更した以外は、実施例1と同様にして導電性組成物を調製した。得られた導電性組成物を用いて、塗膜形成工程でウェット塗膜の上に厚み50μmPETフィルム(東レ社製)をラミネートし、塗膜加熱工程の条件を70℃1分間とした以外は、実施例1の硬化膜(導電性膜)の作製方法と同様にして、導電性膜を作製した。
【0120】
<比較例3>
活性エネルギー線硬化性化合物の種類および配合量を表1の記載に従い変更し、有機溶剤を配合した以外は、実施例1と同様にして導電性組成物および導電性膜を作製した。
【0121】
【0122】
表1中に記載の各成分の詳細は以下の通りである。
・無機導電性微粒子:ATO粒子、SN-100P(石原産業製)、平均一次粒子径:10~30nm)
・分散剤:BYK-106(ビックケミージャパン製)、リン酸基を有するポリマーの塩、酸価:132mgKOH/g、アミン価:74mgKOH/g
・活性エネルギー線硬化性化合物-1:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(ビスコート#230:大阪有機化学工業製)、二官能、25℃における蒸気圧:2.0Pa、25℃における単体粘度:7.0mPa・s
・活性エネルギー線硬化性化合物-2:テトラヒドロフルフリルアクリレート(サートマーSR285:アルケマ社製)、単官能、25℃における蒸気圧:199.0Pa、25℃における単体粘度:2.8mPa・s
・活性エネルギー線硬化性化合物-3:ペンタエリスリトールトリアクリレート(ライトアクリレートPE-3A:共栄社化学製)、三官能、25℃における蒸気圧:測定不可、25℃における単体粘度:525.0mPa・s
・重合禁止剤:4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(H-TEMPO:エボニック・デグサ・ジャパン社製)
・重合開始剤:2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルフォリニル)-1-プロパノン(Omnirad 907、IGM Resins B.V.製)
・表面調整剤:アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメルシロキサン(BYK-UV3500、ビックケミージャパン製)
・有機溶剤:シクロヘキサノン(UBE製)
【0123】
【0124】
2.導電性膜の特性評価
実施例および比較例で作製した導電性膜の特性を以下の方法により評価した。結果を表3に示す。
(1)膜厚
導電性膜の膜厚は、基材のアクリルシートごと切断し、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所社製“S-4500”)にて断面観察して測定した。
【0125】
(2)外観
導電性膜の外観は、目視にて評価した。
[外観の評価基準]
A:塗工スジなし、粒子凝集ブツなし、透明でクリア
B:塗工スジわずかにあり、粒子凝集ブツわずかにあり、やや不透明
C:塗工ムラあり、粒子凝集ブツあり、不透明で曇りあり
【0126】
(3)表面電気抵抗値
導電性膜の表面電気抵抗値は、ハイレスタ(三菱ケミカル社製)、URSプローブを用いて印可電圧を測定しうる最大電圧にて測定した。
【0127】
(4)全光線透過率およびヘイズ
導電性膜の全光線透過率およびヘイズは、ヘイズメーターNDH-2000(日本電色工業製)を用いて、「ホウホウ3」のモードで測定した。
【0128】
(5)鉛筆硬度
導電性膜の鉛筆硬度は、新東科学社製の表面性試験機“HEIDON-14DR”を用いて測定した。
【0129】
(6)密着性
導電性膜の密着性は、導電性膜をクロスカットし、粘着シート[セロテープ(登録商標)(ニチバン社製)]の粘着層側の面を貼り付け、引き剥がす操作を行って評価した。
[密着性の評価基準]
A:全く剥離しなかった
B:わずかに剥離した
C:一部剥離した
D:粘着シートを貼りつけた部分の全面が剥離した
【0130】