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特開2024-143551導電ペーストの製造方法および電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143551
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】導電ペーストの製造方法および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 101/06 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 3/02 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C08K5/053
C08L101/06
C08K3/02
C08K5/29
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056286
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】菊川 結希子
(72)【発明者】
【氏名】前野 吉秀
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF00W
4J002CG01W
4J002CH02W
4J002CP03X
4J002CP03Y
4J002CP09Y
4J002DA016
4J002DA066
4J002DA076
4J002DA086
4J002DA116
4J002EC047
4J002EC057
4J002ER008
4J002FD116
4J002FD208
4J002GQ00
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】乳化状態の導電ペーストを実現する技術を提供する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、導電材Aと、ポリオールBと、シリコーン樹脂Cと、有機溶剤Dと、シリコーンオイルEとを含む原料を準備する準備工程と、各原料を混合する混合工程とを含む。そして、この製造方法は、以下の条件(1)~(4)を満たすように各原料を準備する。(1)ポリオールBとシリコーン樹脂Cとの第1相対エネルギー差REDBCが1.0以上2.0以下である。(2)シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとの第2相対エネルギー差REDCEが1.0未満である。(3)ポリオールBとシリコーンオイルEとの第3相対エネルギー差REDBEが1.0以上1.5以下である。(4)有機溶剤Dの極性項δPが1.5MPa0.5以上15MPa0.5以下である。これによって、ポリオール相にシリコーン相が乳化分散した導電ペーストを調製できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材Aと、ポリオールBと、シリコーン樹脂Cと、有機溶剤Dと、シリコーンオイルEとを含む原料を準備する準備工程と、
準備した原料を混合してペースト状に調製する混合工程と
を含み、
前記準備工程において、以下の条件(1)~(4):
(1)前記ポリオールBと前記シリコーン樹脂Cとの間のHSP距離RaB-Cを前記シリコーン樹脂Cの相互作用半径R0Cで除した値である第1相対エネルギー差REDBCが1.0以上2.0以下である;
(2)前記シリコーン樹脂Cと前記シリコーンオイルEとの間のHSP距離RaC-Eを前記シリコーンオイルEの相互作用半径R0Eで除した値である第2相対エネルギー差REDCEが1.0未満である;
(3)前記ポリオールBと前記シリコーンオイルEとの間のHSP距離RaB-Eを前記シリコーンオイルEの相互作用半径R0Eで除した値である第3相対エネルギー差REDBEが1.0以上1.5以下である;
(4)前記有機溶剤Dの極性項δPが1.5MPa0.5以上15MPa0.5以下である、
を満たすように各原料を準備することを特徴とする、導電ペーストの製造方法。
【請求項2】
前記原料は、イソシアネートFをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記導電材Aの形状は、樹枝状、平板状、針状、繊維状から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記導電材Aの比表面積は、0.5m/g以上である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記導電材Aのタップ密度は、5g/cm以下である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記導電材Aは、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ロジウム、炭素から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記シリコーン樹脂Cの重量Wに対する前記ポリオールBの重量Wの比率W/Wが0.6以上4.0以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記シリコーン樹脂Cの重量Wに対する前記シリコーンオイルEの重量Wの比率W/Wが0.35以上2.0以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記導電ペーストの総重量から前記有機溶剤Dを除いた重量を100wt%としたときの前記導電材Aの重量を25wt%以上85wt%以下に設定する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記シリコーンオイルEは、水酸基、イソシアネート基、カルボキシル基から選択される少なくとも一種の官能基を有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ポリオールBは、水酸基を3つ以上有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ポリオールBは、分子量が1000以上50000以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項13】
シリコーン製の基材と、
前記基材の表面に形成されており、導電材を含む導電膜と
を備えており、
前記導電膜は、
ウレタン樹脂を主成分とするウレタン領域と、
シリコーン樹脂を主成分とするシリコーン領域と
を備えており、
断面視における前記基材と前記導電膜との接触界面の長さ1μmあたりの前記シリコーン領域の存在数が1個以上20個以下である、電子部品。
【請求項14】
前記導電材は、複数の前記シリコーン領域の各々の内部で凝集しており、前記シリコーン領域が相互に接触している、請求項13に記載の電子部品。
【請求項15】
前記シリコーン領域の引張弾性率が0.1MPa以上10.0MPa以下である、請求項13または14に記載の電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、導電ペーストの製造方法および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルデバイスの開発が進み、プラスチックやゴムなどの可撓性の樹脂基板の表面に、電極や配線といった導電膜を形成した電子部品の需要が高まっている。この可撓性の電子部品は、例えば、基材表面に導電ペーストを塗布し、当該導電ペーストを硬化させることで製造される。この導電ペーストは、例えば、導電材とバインダ樹脂と有機溶剤とを含んでいる。このバインダ樹脂には、熱や光によって硬化して絶縁性基材に定着する硬化性樹脂が用いられる。
【0003】
この種の電子部品の絶縁性基材としては、シリコーン基材が広く使用される。シリコーン基材は、化学的耐久性、高耐熱性、生体安全性、低誘電率、高絶縁性などに優れているため、電子部品の品質向上に貢献し得る。一方で、シリコーン基材は、表面エネルギーが低いため、硬化後のバインダ樹脂が定着しにくい傾向がある。このため、シリコーン基材用の導電ペーストのバインダ樹脂には、絶縁性基材と同種の樹脂材料であるシリコーン樹脂が用いられる。例えば、特許文献1には、シリコーン樹脂を含む導電ペーストの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-193165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーン樹脂を含む導電ペーストには、当該シリコーン樹脂を溶解可能な有機溶剤が用いられる。このような有機溶剤は、塗布対象であるシリコーン基材に浸透するため、基材の膨潤や変形などのシートアタックが生じる原因になる。このため、シリコーン基材用の導電ペーストでは、基材への定着性を確保しつつ、シートアタックを抑制できる技術が要求されている。
【0006】
これに対して、本発明者らは、シリコーン基板に浸透しにくい液相に、シリコーン樹脂を含む液相を均一に分散させた乳化状態の導電ペーストを調製することに思い至った。このような乳化状態の導電ペーストは、シリコーン基板に浸透しにくいペーストであるにもかかわらず、シリコーン樹脂とシリコーン基材との接触面積を確保できる。すなわち、乳化状態の導電ペーストを実現できれば、基材への定着性を確保しつつ、シートアタックを抑制できると予想される。そして、本発明者らは、乳化状態の導電ペーストを実現する方法を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される製造方法は、導電材Aと、ポリオールBと、シリコーン樹脂Cと、有機溶剤Dと、シリコーンオイルEとを含む原料を準備する準備工程と、準備した原料を混合してペースト状に調製する混合工程とを含む。そして、この製造方法は、準備工程において、以下の条件(1)~(4)を満たすように各原料を準備することを特徴とする。(1)ポリオールBとシリコーン樹脂Cとの間のHSP距離RaB-Cをシリコーン樹脂Cの相互作用半径R0Cで除した値である第1相対エネルギー差REDBCが1.0以上2.0以下である。(2)シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとの間のHSP距離RaC-EをシリコーンオイルEの相互作用半径R0Eで除した値である第2相対エネルギー差REDCEが1.0未満である。(3)ポリオールBとシリコーンオイルEとの間のHSP距離RaB-EをシリコーンオイルEの相互作用半径R0Eで除した値である第3相対エネルギー差REDBEが1.0以上1.5以下である。(4)有機溶剤Dの極性項δPが1.5MPa0.5以上15MPa0.5以下である。
【0008】
上記構成の製造方法の条件(1)は、ポリオールBとシリコーン樹脂Cとが相溶しないように各材料を選択することを意味する。条件(2)は、シリコーンオイルEにシリコーン樹脂Cが溶解するように各材料を選択することを意味する。また、条件(3)は、ポリオールBとシリコーンオイルEとが適度に馴染むように各材料を選択することを意味する。そして、条件(4)は、ポリオールBを十分に溶解でき、かつ、安定した乳化状態を維持できる有機溶剤Dを選択することを意味する。これらの条件(1)~(4)を満たすことによって、ポリオールBと有機溶剤Dとを主体として含む液相(ポリオール相)に、シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとを主体として含む液相(シリコーン相)が乳化分散した導電ペーストを調製することができる。
【0009】
また、ここに開示される技術の他の側面として電子部品が提供される。ここに開示される電子部品は、シリコーン製の基材と、基材の表面に形成されており、導電材を含む導電膜とを備えている。この導電膜は、ウレタン樹脂を主成分とするウレタン領域と、シリコーン樹脂を主成分とするシリコーン領域とを備えている。そして、ここに開示される電子部品では、断面視における基材と導電膜との接触界面の長さ1μmあたりのシリコーン領域の存在数が1個以上20個以下である。
【0010】
ここに開示される電子部品は、上記構成の製造方法で得られた乳化状態の導電ペーストを用いて製造されたものである。具体的には、ポリオール相とシリコーン相を有する導電ペーストを硬化させると、ポリオール相の硬化によってウレタン領域が形成されると共に、シリコーン相の硬化によってシリコーン領域が形成される。このとき、導電ペーストが乳化状態になるまでシリコーン相が均一に分散していると、硬化後の電子部品では、断面視における基材と導電膜との接触界面の長さ1μmあたりのシリコーン領域の存在数が1個以上20個以下になる。これによって、シートアタックを抑制しつつ、基材に導電膜を好適に定着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ここに開示される製造方法で調製された導電ペーストを模式的に表す図である。
図2】ここに開示される製造方法で調製された導電ペーストの一例を示す光学顕微鏡写真(500倍)である。
図3】ここに開示される製造方法で調製された導電ペーストの他の例を示す光学顕微鏡写真(500倍)である。
図4図2に示す導電ペーストの拡大写真(1080倍)である。
図5】ここに開示される電子部品を模式的に表す断面図である。
図6】例1の電子部品のFE-SEM写真である。
図7】例1の電子部品のEDXマッピングによるSi元素の分布を示す写真である。
図8】例18の電子部品のFE-SEM写真である。
図9】例18の電子部品のEDXマッピングによるSi元素の分布を示す写真である。
図10】例1の第1視野におけるライン分析の結果を示すグラフである。
図11】例1の第2視野におけるライン分析の結果を示すグラフである。
図12】例18の第1視野におけるライン分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ここで開示される技術の一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて実施することができる。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0013】
なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B(A,Bは任意の値)」の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0014】
<導電ペーストの製造方法>
ここに開示される導電ペーストの製造方法は、少なくとも、準備工程と、混合工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0015】
1.準備工程
本工程では、導電材Aと、ポリオールBと、シリコーン樹脂Cと、有機溶剤Dと、シリコーンオイルEとを含む原料を準備する。以下、導電ペーストの原料について説明する。
【0016】
(1)導電材A
導電材Aは、硬化後の導電膜に電気伝導性を付与する成分である。導電材Aの種類は、特に限定されず、導電性を有する従来公知の材料の中から1種または2種以上を適宜選択できる。この導電材Aの一例として、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)などの導電性金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が挙げられる。また、導電材Aは、導電性を有する炭素材料(例えば、グラファイト、カーボンナノチューブなど)であってもよい。上述の材料の中でも、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、ロジウム、炭素は、導電性に優れた導電膜を低コストで形成できるため特に好ましい。
【0017】
また、導電材Aの形状は、非球形が好ましい。詳しくは後述するが、ここに開示される製造方法で得られた導電ペーストを硬化させると、シリコーン領域の内部に導電材Aが凝集しやすい。このとき、非球形(高アスペクト比)の導電材Aを使用すると、シリコーン領域の外部に導電材Aの一部が突出しやすくなる。これによって、導電膜内に導通経路が生じやすくなるため、低抵抗の導電膜を形成することができる。例えば、導電材Aの平均アスペクト比は、1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上がさらに好ましく、2.5以上が特に好ましい。一方、導電材Aの平均アスペクト比の上限値は、特に限定されず、20以下でもよく、15以下でもよく、10以下でもよく、5以下でもよい。また、導電材Aの具体的な形状としては、樹枝状、平板状、針状、繊維状などが挙げられる。これらの非球形の導電材Aを使用することによって、硬化後の導電膜内に好適な導通経路のネットワークを形成できる。なお、本明細書における「平均アスペクト比」は、電子顕微鏡で複数(例えば100個)の導電材Aを観察し、各々の導電材Aのアスペクト比(長辺/短辺)の算術平均値を算出することによって得ることができる。
【0018】
また、導電材Aの比表面積は、0.5m/g以上が好ましく、1.5m/g以上がより好ましく、2m/g以上がさらに好ましく、3m/g以上が特に好ましい。導電材Aの比表面積が大きくなるにつれて、導電材A同士が接触する機会が増加する。これによって、硬化後の導電膜の導電性を向上できる。一方、導電材Aの比表面積の上限値は、特に限定されず、20m/g以下でもよく、10m/g以下でもよい。また、導電材Aの比表面積が大きくなりすぎると、導電材Aの分散性や導電ペーストの印刷性が低下しやすくなる傾向がある。かかる観点から、導電材Aの比表面積は、8m/g以下が好ましく、7m/g以下がより好ましく、6m/g以下がさらに好ましく、5m/g以下が特に好ましい。
【0019】
また、導電材Aのタップ密度は、5g/cm以下が好ましく、2.5g/cm以下がより好ましく、1.5g/cm以下がさらに好ましく、1g/cm以下が特に好ましい。これによって、硬化後の導電膜の可撓性を保持しつつ、当該導電膜内での導電経路を容易に形成できる。一方、導電性を高めるという観点では、導電材Aのタップ密度は、0.01g/cm以上が好ましく、0.05g/cm以上がより好ましく、0.1g/cm以上がさらに好ましく、0.2g/cm以上が特に好ましい。
【0020】
なお、導電ペーストの総重量を100wt%としたときの導電材Aの重量Wは、75wt%以下がより好ましく、72wt%以下が好ましく、70wt%以下がさらに好ましく、65wt%以下が特に好ましい。これによって、他の成分(例えば、ポリオールB、シリコーン樹脂C)の添加量を十分に確保できるため、シリコーン基材への定着性をさらに改善できる。一方、硬化後の導電膜の導電性を考慮すると、導電材Aの重量Wは、15wt%以上が好ましく、20wt%以上がより好ましく、23wt%以上がさらに好ましく、25wt%以上が特に好ましい。
【0021】
また、導電材Aの添加量は、導電ペーストの総重量から有機溶剤Dを除いた重量を100wt%としたときの重量比率を基準にして調節するとより好ましい。これによって、硬化後の導電膜の性能(定着性と導電性)をより正確に制御できる。例えば、有機溶剤Dを除いた際の導電材Aの添加量は、85wt%以下が好ましく、82wt%以下がより好ましく、80wt%以下がさらに好ましく、77wt%以下が特に好ましい。これによって、製造後の電子部品におけるバインダ樹脂と基材との接触面積が増大するため、導電膜の定着性をより改善できる。一方、有機溶剤Dを除いた際の導電材Aの添加量は、10wt%以上が好ましく、15wt%以上がより好ましく、20wt%以上がさらに好ましく、25wt%以上が特に好ましい。これによって、導電膜の導電性をより正確に改善できる。
【0022】
(2)ポリオールB
ポリオールBは、後述するウレタン領域を形成するバインダ樹脂である。ポリオールBの種類は、特に限定されず、ウレタン樹脂の形成に使用され得る従来公知の材料の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜選択できる。具体的には、ポリオールBは、2つ以上の水酸基(-OH)を有する有機化合物である。かかるポリオールBは、例えば、イソシアネートFとの反応によってウレタン樹脂を生成して硬化する。かかるポリオールBの一例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコールにエチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)等のアルキレンオキサイドを付加するなどして重合させて得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。また、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合する等して得られるポリエステルポリオールが挙げられる。他に、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、エポキシポリオール、植物油ポリオール、ポリオレフィンポリオール、アクリルポリオール、フッ素ポリオール、ビニルモノマー変性ポリオールなどが挙げられる。
【0023】
なお、ポリオールBは、水酸基を3つ以上有していることが好ましい。これによって、硬化後のウレタン樹脂(ウレタン領域)に、変形に対する復元性を付与し、電子部品を折り曲げた際の導電膜の破損を抑制できる。なお、ポリオールBの水酸基数の上限は、特に限定されず、6つ以下でもよく、5つ以下でもよい。
【0024】
また、ポリオールBの分子量は、1000以上が好ましく、1300以上がより好ましく、1700以上がさらに好ましく、2000以上が特に好ましい。ポリオールBの分子量が大きくなるにつれて、硬化後のウレタン樹脂(後述のウレタン領域)が柔軟になるため、導電膜の可撓性が向上する傾向がある。一方、ポリオールBの分子量の上限値は、50000以下が好ましく、25000以下がより好ましく、10000以下がさらに好ましく、6000以下が特に好ましい。ポリオールBの分子量が小さくなるにつれて、ウレタン樹脂の強度が高まる傾向がある。
【0025】
また、導電ペーストの総重量を100wt%としたときのポリオールBの重量Wは、1wt%以上が好ましく、3.5wt%以上がより好ましく、5wt%以上がさらに好ましく、7wt%以上が特に好ましい。ポリオールBの重量Wが大きくなるにつれて、ペースト中のポリオール相が相対的に多くなるため、シートアタックが抑制されやすくなる傾向がある。ポリオールBの重量Wの上限値は、35wt%以下が好ましく、30wt%以下がより好ましく、25wt%以下がさらに好ましく、20wt%以下が特に好ましい。ポリオールBの重量Wが小さくなるにつれて、シリコーン相が相対的に多くなるため、導電膜の定着性が向上する傾向がある。
【0026】
(3)シリコーン樹脂C
シリコーン樹脂Cは、シリコーン領域を形成するバインダ樹脂である。シリコーン樹脂Cの種類は、特に限定されず、熱硬化性のシリコーン樹脂として従来から使用されている材料の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜選択できる。具体的には、シリコーン樹脂Cは、Si-O-Si結合(シロキサン結合)を有する単位構造を複数備えた有機化合物である。かかるシリコーン樹脂Cの単位構造の一例として、シリコーンオリゴマー、オルガノシロキサン、ジオルガノシロキサン、オルガノポリシロキサン、ジオルガノポリシロキサン等が挙げられる。なお、シリコーン樹脂Cの骨格部は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。そして、熱硬化性のシリコーン樹脂Cとしては、Si-H基とビニル基がヒドロシリル化反応によって結合し硬化する付加硬化型シリコーン樹脂、シラノール基の脱水縮合反応により硬化する縮合硬化型シリコーン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、付加硬化型シリコーン樹脂がより好ましい。付加硬化型シリコーン樹脂は、硬化時の副生成物の生成が抑制されるため、硬化後の導電膜に気泡やクラックが形成されることを防止できる、また、シリコーン樹脂は、エポキシ基、イソシアネート基、水酸基、カルボキシル基などの反応性官能基を有していても良い。これらの反応性官能基は、シリコーン樹脂同士を架橋させたり、ウレタン樹脂とシリコーン樹脂とを結合させたりすることができる。また、このような単位構造に付与された反応性官能基の数は、特に限定されず、1~5でもよく、2~4でもよい。
【0027】
また、シリコーン樹脂Cの分子量は、1000以上が好ましく、2000以上がより好ましく、3000以上がさらに好ましく、4000以上が特に好ましい。シリコーン樹脂Cの分子量が大きくなるにつれて、粘度が高くなるため、後述するシリコーンオイル(E)との相溶性が低下する傾向がある。一方、シリコーン樹脂Cの分子量の上限値は、500000以下が好ましく、200000以下がより好ましく、100000以下がさらに好ましく、80000以下が特に好ましい。シリコーン樹脂Cの分子量が小さくなるにつれて、粘度が低くなり、シリコーンオイル(E)との相溶性が向上する傾向がある。
【0028】
また、導電ペーストの総重量を100wt%としたときのシリコーン樹脂Cの重量Wは、1wt%以上が好ましく、2wt%以上がより好ましく、5wt%以上がさらに好ましく、7wt%以上が特に好ましい。シリコーン樹脂Cの重量Wが大きくなるにつれて、シリコーン相が相対的に多くなるため、導電膜の定着性が向上する傾向がある。シリコーン樹脂Cの重量Wの上限値は、30wt%以下が好ましく、20wt%以下がより好ましく、16wt%以下がさらに好ましく、10wt%以下が特に好ましい。シリコーン樹脂Cの重量Wが小さくなるにつれて、ポリオール相が相対的に多くなるため、シートアタックが抑制されやすくなる傾向がある。
【0029】
(4)有機溶剤D
詳しくは後述するが、ここに開示される製造方法で使用される有機溶剤Dには、ポリオールBとシリコーン樹脂Cとの乳化状態を安定的に維持できる溶剤が用いられる。すなわち、ここに開示される製造方法では、後述する条件(4)を満たす溶剤が選択される。なお、有機溶剤Dは、単独で使用した際にシリコーン基板に浸透し得る有機溶剤であってもよい。具体的には、ポリオールBを溶解したポリオール相の状態で、シリコーン基板に浸透しにくいHSP値となっていれば、有機溶剤DのHSP値は特に限定されない。換言すると、有機溶剤Dは、ここに開示される技術の効果を著しく損ねない限りにおいて、導電ペーストの調製に使用され得る従来公知の有機溶剤の中から1種または2種以上を適宜選択できる。例えば、ここに開示される技術では、後述する条件(4)を満たすという基準の下で、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ジグライム、トリグライム、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸ブテニル、酢酸イソアミル、酢酸イソボルニル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、蟻酸イソアミル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸アミル、乳酸イソアミル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、2-ヒドロキシイソ酪酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、蟻酸ベンジル、蟻酸フェニルエチル、3-フェニルプロピオン酸メチル、プロピオン酸ベンジル、フェニル酢酸エチル、酢酸2-フェニルエチル、トルエン、キシレン、ソルベントナフサの中から適切な溶剤を適宜選択することができる。
【0030】
また、有機溶剤Dの含有量は、導電ペーストの粘度を適切な状態に調節するという観点で適宜変更することができ、ここに開示される技術を限定するものではない。一例として、導電ペーストの総重量を100wt%としたときの有機溶剤Dの重量Wは、5wt%以上が好ましく、7.5wt%以上がより好ましく、10wt%以上が特に好ましい。これによって、導電ペーストの粘度が低下する傾向がある。一方、有機溶剤Dの重量Wは、17.5wt%以下が好ましく、15wt%以下がより好ましく、12.5wt%以下が特に好ましい。有機溶剤Dの重量Wが少なくなるにつれて、導電ペーストの粘度が増加する傾向がある。
【0031】
(5)シリコーンオイルE
シリコーンオイルEは、シリコーン樹脂を溶解させる油剤である。このシリコーンオイルEの種類も、特に限定されず、シリコーン樹脂を溶解可能なシリコーンオイルとして従来から使用されている材料の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜選択できる。具体的には、シリコーンオイルEは、Si-O-Si結合(シロキサン結合)を有する単位構造を複数備えた有機化合物のうち、常温で液体のものをいう。かかるシリコーンオイルEの一例として、ジメチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、ジシロキサン、トリシロキサン、メチルトリメチコン、カプリリルメチコン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルヘキシルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどが挙げられる。また、上述のシリコーンオイルEの主鎖(シロキサン骨格)の末端には、アルキル基やフェニル基などが存在している。これらのシリコーンオイルEの末端は、所定の官能基(水酸基、イソシアネート基、カルボキシル基、)で置換されていてもよい。これらの置換基の中では、水酸基、イソシアネート基、カルボキシル基などが特に好ましい。これらの官能基を有するシリコーンオイルEがシリコーン相に含まれていると、シリコーン相とポリオール相との複合性が向上する。これによって、硬化後の導電膜の伸張性を向上することができる。
【0032】
また、導電ペーストの総重量を100wt%としたときのシリコーンオイルEの重量Wは、1wt%以上が好ましく、1.5wt%以上がより好ましく、1.9wt%以上が特に好ましい。シリコーンオイルEの重量Wが多くなるにつれて、シリコーン相が相対的に多くなるため、導電膜の定着性が向上する傾向がある。一方、シリコーンオイルEの重量Wは、15wt%以下が好ましく、14wt%以下がより好ましく、13wt%以下が特に好ましい。シリコーンオイルEの重量Wが少なくなるにつれて、ポリオール相が相対的に多くなるため、シートアタックが抑制されやすくなる傾向がある。
【0033】
(6)イソシアネートF
また、ここに開示される技術では、導電ペーストの原料としてイソシアネートFを添加することが好ましい。イソシアネートFは、イソシアネート基(-N=C=O)を1つ以上有する有機化合物である。このイソシアネートFは、ポリオールBの水酸基とウレタン結合してウレタン樹脂を生成する。また、イソシアネートFは、イソシアネート基を2つ有するジイソシアネートでもよいし、イソシアネート基を3つ以上有するポリイソシアネートでもよい。
【0034】
また、導電ペーストの総重量を100wt%としたときのイソシアネートFの重量Wは、1wt%以上が好ましく、2wt%以上がより好ましく、2.5wt%以上が特に好ましい。イソシアネートFの重量Wが多くなるにつれて、硬化後の導電膜においてウレタン領域が形成されやすくなる。一方、イソシアネートFの重量Wは、20wt%以下が好ましく、17wt%以下がより好ましく、14wt%以下が特に好ましい。これによって、導電ペーストにおける他の原料の含有量を十分に確保することができる。
【0035】
(7)他の添加材
また、ここに開示される製造方法は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限りにおいて、導電ペーストの原料として使用される添加剤を特に制限なく使用することができる。かかる添加剤の一例として、分散剤、表面張力調整剤、界面活性剤、密着性付与剤、強度向上材(フィラー)などが挙げられる。なお、これらの添加材の含有量も、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない範囲で適宜調整される。
【0036】
2.混合工程
本工程では、準備した原料を混合してペースト状に調製する。具体的には、混合工程では、準備工程で準備・秤量した各原料を均質に撹拌混合する。これによって、導電ペーストを調製することができる。なお、本工程における撹拌混合には、従来公知の撹拌混合装置を使用できる。かかる撹拌混合装置の一例として、自転公転ミル、ロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等が挙げられる。
【0037】
3.分散条件
そして、ここに開示される製造方法では、準備工程において、以下の条件(1)~(4)が所定の範囲に制御されるように各原料を準備する。これによって、ポリオール相にシリコーン相が乳化分散した導電ペーストを調製することができる。
【0038】
(1)第1相対エネルギー差REDBC
まず、ここに開示される製造方法では、ポリオールBとシリコーン樹脂Cとの間のHSP距離RaB-Cをシリコーン樹脂Cの相互作用半径R0Cで除した値である第1相対エネルギー差REDBCを1.0以上2.0以下に制御する。これによって、ポリオールBとシリコーン樹脂Cとが相溶することを防止できる。以下、具体的に説明する。
【0039】
まず、上記「HSP距離Ra」は、2つの物質のハンセン溶解度パラメータ(HSP:Hansen solubility parameter:HSP)の差である。具体的には、上記HSPは、分散項δDと極性項δPと水素結合項δHとからなる三次元空間(ハンセン空間)における座標位置によって表される。そして、HSP距離Raは、ハンセン空間内での2つの物質の距離である。このHSP距離Raが小さいほど、2つの物質の溶解性が近似しているとみなすことができる。次に、「相互作用半径R」は、対象物質を中心としたハンセン空間内での球体(ハンセン球)の半径である。このハンセン球の半径(相互作用半径R)は、対象物質を溶解可能な物質の座標を含むように設定される。ここで、所定の2つの物質が相溶するか否かは、一方の物質の相互作用半径Rに対する2つの物質のHSP距離Raの比率(Ra/R)によって決定される。一般に、この比率Ra/Rは、「相対エネルギー差RED」と称される。この相対エネルギー差REDが大きくなると、対象となる2つの物質の界面が反発するため、ペースト中で分離しやすくなる。一方、相対エネルギー差REDが小さくなると、2つの物質の界面が馴染みやすくなるため、ペースト中で均一に分散しやすくなる。さらに、相対エネルギー差REDがさらに小さくなって1未満になった場合には2つの物質が相溶する。
【0040】
ここに開示される製造方法では、ポリオールBとシリコーン樹脂Cとの相対エネルギー差RED(第1相対エネルギー差REDBC)の下限値を1.0以上に設定している。かかる条件を満たすようにポリオールBとシリコーン樹脂Cを選択することによって、導電ペースト中でポリオールBとシリコーン樹脂Cとが相溶することを防止できる。なお、第1相対エネルギー差REDBCの下限値は、1.2以上が好ましく、1.4以上がより好ましく、1.6以上がさらに好ましく、1.8以上が特に好ましい。これによって、ポリオールBとシリコーン樹脂Cとを好適に分離させることができる。
【0041】
一方で、本発明者が実施した実験によると、第1相対エネルギー差REDBCが2.0を超えると、硬化後の導電膜の定着性が大きく低下することが確認されている。このため、ここに開示される製造方法では、第1相対エネルギー差REDBCの上限値が2.0以下に設定されている。なお、第1相対エネルギー差REDBCの上限値は、1.98以下が好ましく、1.96以下がより好ましく、1.94以下がさらに好ましく、1.92以下が特に好ましい。これによって、導電膜の定着性の低下をより好適に防止できる。
【0042】
(2)第2相対エネルギー差REDCE
次に、ここに開示される製造方法では、シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとの間のHSP距離RaC-EをシリコーンオイルEの相互作用半径R0Eで除した値(第2相対エネルギー差REDCE)を1.0未満に制御する。かかる条件を満たすようにシリコーン樹脂CとシリコーンオイルEを選択することによって、シリコーンオイルEにシリコーン樹脂Cを溶解させることができる。この結果、製造後の導電ペーストでは、シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとを含むシリコーン相が生じやすくなる。なお、第2相対エネルギー差REDCEは、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましく、0.5以下が特に好ましい。これによって、シリコーン相をより適切に生じさせることができる。一方、第2相対エネルギー差REDCEの下限値は、特に限定されず、0以上でもよく、0.01以上でもよく、0.05以上でもよく、0.1以上でもよい。
【0043】
(3)第3相対エネルギー差REDBE
次に、ここに開示される製造方法では、ポリオールBとシリコーンオイルEとの間のHSP距離RaB-EをシリコーンオイルEの相互作用半径R0Eで除した値である第3相対エネルギー差REDBEを1.0以上に制御する。かかる条件を満たすようにポリオールBとシリコーンオイルEを選択することによって、シリコーンオイルEにポリオールBが溶解しにくくなる。この結果、調整後の導電ペーストに、ポリオールBを含む液相(ポリオール相)と、シリコーン樹脂Cを含む液相(シリコーン相)の両方が生じやすくなる。なお、第3相対エネルギー差REDBEの下限値は、1.02以上が好ましく、1.04以上がより好ましく、1.06以上が特に好ましい。これによって、ポリオール相とシリコーン相との相溶がより生じにくくなる。
【0044】
一方、ここに開示される製造方法では、第3相対エネルギー差REDBEの上限値を1.5以下に制御する。これによって、ポリオールBとシリコーンオイルEとの界面が馴染みやすくなる。この結果、ポリオール相とシリコーン相とが均一に乳化分散しやすくなる傾向がある。なお、第3相対エネルギー差REDBEの上限値は、1.41以下が好ましく、1.3以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。これによって、乳化状態の導電ペーストをより容易に調製できる。
【0045】
(4)有機溶剤Dの極性項δP
また、ここに開示される製造方法では、ポリオール相とシリコーン相との乳化状態を安定した状態に維持するという観点で、有機溶剤Dのハンセン溶解度パラメータの極性項δPが適宜設定される。具体的には、有機溶剤Dの極性項δPの上限値は、15MPa0.5以下(好適には14MPa0.5以下、より好適には13MPa0.5以下、さらに好適には12MPa0.5以下、特に好適には11MPa0.5以下)に設定される。一方、有機溶剤Dの極性項δPの下限値は、1.5MPa0.5以上(好適には1.6MPa0.5以上、より好適には1.7MPa0.5以上、さらに好適には1.8MPa0.5以上、特に好適には1.9MPa0.5以上)に設定される。
【0046】
(5)まとめ
上述の通り、ここに開示される製造方法では、ポリオールBを含むポリオール相と、シリコーン樹脂Cを含むシリコーン相とを含む複数の液相が生じ、かつ、ポリオール相とシリコーン相との界面がある程度馴染むように、各原料の相対的な溶解度が設定されている。これによって、ポリオール相にシリコーン相が乳化分散した導電ペーストを調製することができる。また、ここに開示される製造方法では、ポリオール相とシリコーン相との乳化状態が安定化されるように、有機溶剤Dの極性項δPが設定されている。
【0047】
(6)他の条件
以上、ここに開示される製造方法の条件の一例について説明した。なお、ここに開示される製造方法は、上述した条件(1)~(4)以外の条件が設定されていてもよい。
【0048】
(6-1)イソシアネートに関する相対エネルギー差RED
例えば、ここに開示される製造方法では、他の原料の相対エネルギー差を調節してもよい。以下、イソシアネートFに関する相対エネルギー差の一例について説明する。なお、乳化状態の導電ペーストは、上述の条件(1)~(4)を満たせば実現できる。以下の条件は、乳化状態の導電ペーストをより容易に調製するためのものであり、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0049】
上述した通り、ここに開示される製造方法では、イソシアネートFを添加してもよい。このイソシアネートFは、調製後の導電ペーストのポリオール相に主に存在するように、他の原料に対する相対エネルギー差が設定されていることが好ましい。例えば、イソシアネートFとポリオールBとの間のHSP距離RaF-BをイソシアネートFの相互作用半径R0Fで除した値である第5相対エネルギー差REDFBは、1.0未満(より好適には0.8以下、さらに好適には0.6以下、特に好適には0.5以下)が好ましい。これによって、ポリオールBとイソシアネートFを含むポリオール相を形成できる。なお、第5相対エネルギー差REDFDの下限値は、特に限定されず、0以上でもよく、0.01以上でもよく、0.05以上でもよい。
【0050】
一方、シリコーン樹脂CとイソシアネートFとの間のHSP距離RaC-Fをシリコーン樹脂Cの相互作用半径R0Cで除した値である第6相対エネルギー差REDCFは、1.0以上(より好適には1.1以上、さらに好適には1.15以上、特に好適には1.2以上)が好ましい。これによって、イソシアネートFとシリコーン樹脂Cとの相溶を防止できる。また、第6相対エネルギー差REDCFを大きくすることによって、イソシアネートFによるシートアタックも抑制できる。なお、上記第6相対エネルギー差REDCFの上限値は、1.5以下が好ましく、1.4以下がより好ましく、1.3以下が特に好ましい。これによって、ポリオール相とシリコーン相とが馴染みやすくなるため、乳化状態の導電ペーストをより容易に調製できる。
【0051】
(6-2)各原料の配合比率
また、ここに開示される製造方法では、各原料の溶解度だけでなく、配合比率も所定の範囲に調節することが好ましい。なお、以下に記載の配合比率は、ペーストの塗布対象(基材)の組成や、硬化後の導電膜に要求される性能(導電性、伸縮性など)に応じて適宜変更され得るものであり、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0052】
(a)シリコーン樹脂CとポリオールBとの重量比W/W
例えば、シリコーン樹脂Cの重量Wに対するポリオールBの重量Wの比率W/Wは、0.6以上(より好適には0.8以上、さらに好適には1.0以上、特に好適には1.2以上)に設定することが好ましい。これによって、ポリオール相と基材との接触面積が増加するため、シートアタックをより好適に抑制することができる。一方、上記比率W/Wの上限値は、4.0以下(より好適には3.6以下、さらに好適には3以下、特に好適には2.5以下)に設定することが好ましい。これによって、シリコーン相と基材との接触面積が増加するため、硬化後の導電膜の定着性をより好適に改善することができる。
【0053】
(b)シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとの重量比W/W
また、シリコーン樹脂Cの重量Wに対するシリコーンオイルEの重量Wの比率W/Wは、0.35以上(より好適には0.4以上、さらに好適には0.5以上、特に好適には0.7以上)に設定することが好ましい。これによって、ポリオール相とシリコーン相とを十分に馴染ませることができる。一方、上記比率W/Wの上限値は、2.0以下(より好適には1.9以下、さらに好適には1.8以下、特に好適には1.7以下)に設定することが好ましい。これによって、シリコーン樹脂Cの硬化が阻害されることを防止できるため、硬化膜に十分な強度を持たせると共に、基材との密着性を担保できる。
【0054】
<導電ペースト>
次に、上記構成の製造方法によって製造された導電ペーストについて説明する。図1は、ここに開示される製造方法で得られた導電ペーストを模式的に表す図である。図2は、ここに開示される製造方法で得られた導電ペーストの一例を示す光学顕微鏡写真(500倍)である。図3は、ここに開示される製造方法で得られた導電ペーストの他の例を示す光学顕微鏡写真(500倍)である。図4は、図2に示す導電ペーストの拡大写真(1080倍)である。なお、図3は、図2に示す例よりも導電材の量を少なくした導電ペーストの光学顕微鏡写真である。
【0055】
まず、この導電ペーストは、少なくとも、導電材Aと、ポリオールBと、シリコーン樹脂Cと、有機溶剤Dと、シリコーンオイルEとを含む。これらの原料の詳細は、既に説明したため、重複する説明を省略する。
【0056】
そして、図1図4に示す導電ペーストは、ポリオール相1とシリコーン相2とを有する二相系のペーストである。そして、この導電ペーストでは、ポリオール相1中にシリコーン相2が乳化分散している。
【0057】
ここでの「ポリオール相」とは、ポリオールBと有機溶剤Dとを主体として含む液相のことをいう。また、上記「主体として含む」とは、ポリオール相1の大部分がポリオールBと有機溶剤Dであることをいい、これら以外の成分を含むことを排除することを意図したものではない。例えば、ポリオールB用の硬化剤としてイソシアネートFを添加した場合には、当該イソシアネートFもポリオール相1に含まれていることが好ましい。より具体的には、本明細書における「ポリオール相」とは、ポリオールBと有機溶剤DとイソシアネートFとの合計量が、液相の総量(100wt%)に対して20wt%以上(好適には25wt%以上、より好適には30wt%以上、特に好適には35wt%以上)である液相のことをいう。
【0058】
一方、「シリコーン相」とは、シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとを主体として含む液相のことをいう。そして、ポリオール相と同様に、ここでの「主体として含む」とは、シリコーン相の大部分がシリコーン樹脂CとシリコーンオイルEであることをいい、これら以外の成分を含むことを排除することを意図したものではない。例えば、本明細書における「シリコーン相」とは、シリコーン樹脂CとシリコーンオイルEとの合計量が、液相の総量(100wt%)に対して20wt%以上(好適には25wt%以上、より好適には30wt%以上、特に好適には35wt%以上)である液相のことをいう。また、図3および図4に示すように、調製後の導電ペースト1では、シリコーン相3の内部に導電材Aが保持されやすい。これは、表面が疎水性である導電材Aが疎水性のシリコーン樹脂と馴染みやすいためと推測される。
【0059】
また、本明細書における「乳化分散」とは、エマルジョン、マイクロエマルジョン、両連続エマルジョンを包含する概念である。なお、ここでの「エマルジョン」とは、1~1000μm程度の略球状のシリコーン相がポリオール相に均一に分散した状態をいう。また、「マイクロエマルジョン」とは、1μm以下の略球状のシリコーン相がポリオール相に均一に分散した状態をいう。そして、「両連続エマルジョン」とは、シリコーン相とポリオール相の両方が連続構造を有する状態をいう。なお、ここに開示される技術を限定するものではないが、上記構成の製造方法で得られた導電ペーストは、調製後に25℃で1日以上(好適には5日以上、より好適には10日以上、さらに好適には15日以上、特に好適には20日以上)静置した後でも乳化分散が維持されている。上述した通り、ここに開示される製造方法は、各材料の相対エネルギー差を適切に制御しているため、調製後の導電ペーストにおいて、シリコーン相とポリオール相との分離が生じることを防止できる。
【0060】
<電子部品>
次に、上記構成の導電ペーストを用いて製造した電子部品について説明する。図5は、電子部品の一例を模式的に示した断面図である。
【0061】
ここに開示される電子部品の形成では、まず、上記構成の導電ペーストを基材表面に塗布した後、所定の温度で加熱する。これによって、導電ペースト中のバインダ樹脂(ポリオールB、シリコーン樹脂C)が熱硬化する。この結果、図5に示す構成の電子部品100が製造される。電子部品100は、シリコーン製の基材10と、当該基材10の表面に形成された導電膜20とを備えている。
【0062】
(1)基材
ここに開示される電子部品100の基材10は、シリコーン製の絶縁基材である。なお、かかる基材10の詳細な材料および構造は、特に限定されず、この種の電子部品の基材として使用され得る従来公知の基材を特に制限なく使用することができる。
【0063】
(2)導電膜
図5に示すように、導電膜20は、ウレタン領域22と、シリコーン領域24とを備えている。ウレタン領域22は、図1に示す導電ペーストのポリオール相2が熱硬化した領域である。このため、ウレタン領域22は、ポリオールがウレタン結合したウレタン樹脂を主成分として含んでいる。ここでの「ウレタン樹脂を主成分として含む」とは、ウレタン領域22に含まれる有機化合物の50%以上(好適には55%以上、より好適には60%以上、特に好適には65%以上)がウレタン樹脂であることを指すものとする。なお、ウレタン領域22中のウレタン樹脂の上限値は、特に限定されず、100%でもよく、95%以下でもよく、90%以下でもよい。
【0064】
次に、シリコーン領域24は、図1に示す導電ペースト1のシリコーン相3が熱硬化した領域である。このため、シリコーン領域24は、加熱による脱水縮合反応で硬化したシリコーン樹脂を主成分として含んでいる。ここでの「シリコーン樹脂を主成分として含む」とは、シリコーン領域24に含まれる有機化合物の50%以上(好適には55%以上、より好適には60%以上、特に好適には65%以上)がシリコーン樹脂であることを指すものとする。なお、シリコーン領域24中のシリコーン樹脂の上限値は、特に限定されず、100%でもよく、95%以下でもよく、90%以下でもよい。
【0065】
そして、硬化前の導電ペーストでは、ポリオール相1にシリコーン相2が分散している。このため、硬化後の導電膜20には、ポリオール相1に由来するウレタン領域22と、シリコーン相2に由来するシリコーン相2とが形成される。このとき、乳化状態になるまでシリコーン相2を分散させた導電ペーストを熱硬化させると、図5に示すような断面視における基材10と導電膜20との接触界面の長さ1μmあたりのシリコーン領域24の存在数が1個以上20個以下になる。これによって、基材10に対するシートアタックを抑制しつつ、基材10と導電膜20との接着性を十分に確保することができる。
【0066】
なお、ここでの「基材と導電膜との接触界面の長さ1μmあたりのシリコーン領域の存在数」は、EDX(Energy Dispersive X-ray;エネルギー分散型X線)を利用したライン分析を行うことによって測定できる。かかる「1μmあたりのシリコーン領域の存在数」は、次の手順によって測定されたものである。まず、FE-SEMを用いて電子部品の断面写真を撮影する。なお、FE-SEM撮影用の試料は、電子部品を包埋した樹脂部材にイオンミリングによる研磨を行った後、露出した断面(撮影面)にカーボンを蒸着させることによって作製される。次に、取得したFE-SEM画像中の導電膜に、基材の上面と平行な測定線を引く。このとき、測定線を引く領域は、基材の上面から500nm以内の領域に設定する。そして、この測定線に沿って、ラインスキャンEDX測定を実施する。そして、得られたラインスキャン画像を画像解析ソフトウェア(Web Plot Digitizer Version 4.6など)を用いて、測定線上のSi元素の存在数を数値化する。なお、このSi元素の存在数の計測では、歪度の絶対値が0.35以上の視野で評価することが好ましい。これによって、測定結果にノイズが含まれることを抑制できる。また、より正確な測定結果を得るという観点から、測定対象のFE-SEM画像の倍率は、3000~5000倍程度(測定線の長さが2~4μm)であることが好ましい。そして、ここでは、凝集体やボイド等の存在によるエラーを排除するために、複数(3~10個)の視野においてライン分析を実施する。そして、各視野におけるSiカウント数の偏差(個々の数値-平均値)を計算した後に、当該偏差を平均値で除す。そして、この偏差を平均値で除した値が正の値となった領域を「シリコーン領域」とみなし、当該シリコーン領域の存在数を測定線の長さで除することによって、「1μmあたりのシリコーン領域の存在数」を得ることができる。
【0067】
なお、上記「1μmあたりのシリコーン領域の存在数」は、18個以下が好ましく、16個以下がより好ましく、14個以下がさらに好ましく、10個以下が特に好ましい。これによって、シリコーン領域24(シリコーン相)による基材10へのシートアタックをより好適に抑制することができる。一方、「1μmあたりのシリコーン領域の存在数」の下限値は、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましく、4個以上が特に好ましい。これによって、基材10と導電膜20との接着性をさらに向上できる。
【0068】
また、図1図3に示すように、硬化前の導電ペーストでは、導電材Aがシリコーン相2に主に存在している。このため、硬化後の導電膜20では、図5に示すように、複数のシリコーン領域24の各々の内部で導電材Aが凝集する。そして、ここに開示される電子部品100の導電膜20では、シリコーン領域24が相互に接触している。これによって、複数のシリコーン領域24内の導電材Aが相互に接続され、導電膜20内部に導電経路が形成される。なお、かかる形態は、ここに開示される電子部品を限定することを意図したものではない。例えば、図5に示すように、ウレタン領域22に存在する導電材A1を介して、シリコーン領域24に存在する導電材A2が接続されていることもある。かかる場合でも、導電膜20内部に適切な導電経路を形成することができる。
【0069】
また、シリコーン領域24の引張弾性率は、0.1MPa以上が好ましく、0.3MPa以上がより好ましく、0.5MPa以上がさらに好ましく、0.7MPa以上が特に好ましい。これによって、一定以上の強度を有する導電膜20を形成できる。一方、シリコーン領域24の引張弾性率は、10.0MPa以下が好ましく、7.5MPa以下が好ましく、5MPa以下が好ましく、3.4MPa以下が特に好ましい。これによって、導電膜20の伸縮性を向上することができる。
【0070】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関するいくつかの試験例を説明する。なお、以下の試験例に関する説明は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0071】
[導電性組成物の調製]
まず、表1~5に示す導電材Aと、ポリオールBと、シリコーン樹脂Cと、有機溶剤Dと、シリコーンオイルEとを用意した。そして、ポリオールBと、シリコーン樹脂Cと、有機溶剤Dと、シリコーンオイルEのハンセン溶解度パラメータを測定した。各材料の詳細を表2~表5に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
なお、本試験におけるハンセン溶解度パラメータの測定手順は以下の通りである。まず、測定対象(ポリオールB、シリコーン樹脂C、シリコーンオイルE)を10mg秤量した。そして、測定対象を溶剤(10ml)に添加し、密封容器内で25℃24時間保持した。そして、測定対象が完全に溶解しているか否かを判定した。次に、2種類のシリコーン基材を5mm角の試験片にカットし、当該試験片を溶剤(2ml)の各々に浸漬させた。ここで使用したシリコーン基材は、スキン層付シリコーンゴムスポンジシート(δD=15.9、δP=2.5、δH=3.4、R0=4.7)と、低硬度シリコーンゴムシート(δD=16.4、δP=4.2、δH=2.5、R0=5.8)である。そして、浸漬から5時間後に試験片を取り出し、表面に付着した有機溶剤Dを拭きとった後に膨潤度を測定した。なお、ここでの膨潤度は、「浸漬前後の重量差」を「浸漬前の重量」で割った値である。そして、この膨潤度が0.3以上になったものを試験片の膨潤が生じたと判定した。そして、「樹脂の溶解性」と「基材の膨潤性」を良好/不良の2段階で判定した結果を、ソフトウェアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)に入力し、δD、δP、δH、R0を算出した。なお、溶解性および膨潤性の試験は、純溶剤および混合溶剤を用いて行った。
【0078】
次に、表1~表5に示す各材料を表6および表7に示す重量比(wt%)で混合して、19種類の導電ペーストを調製した(例1~例19)。なお、導電ペーストの調製では、真空装置付撹拌・脱泡装置(マゼルスターKK-VT300、倉敷紡績株式会社製)を用いて均一に撹拌混合を行った。なお、本試験では、イソシアネートFとしてポリイソシアネート(三井化学株式会社製、タケネートB-820NP)を添加し、硬化触媒としてチタンエチルアセトアセテート(マツモトファインケミカル株式会社製、TC-750)を添加した。これらの添加剤の含有量も表6および表7に示す。また、不純物として、シリコーン樹脂(c-1)と(c-3)にはシリカが含まれており、シリコーン樹脂(c-3)には酸化鉄が含まれていた。表6および表7では、これらの不純物の含有量も示す。
【0079】
【表6】
【0080】
【表7】
【0081】
1.評価試験
(1)試験片の作製
メタルマスク(開口部のサイズ:10mm×10mm、厚み:0.05mm)を用いた印刷により、上記2種類のシリコーン基材の各々の表面に導電ペーストを塗布した。そして、100℃で3時間の加熱処理を実施することによって、導電ペーストを熱硬化させた。これによって、シリコーン基材の表面に導電膜が形成された試験片を作製した。なお、本試験例では、2種類×2個のシリコーン基材を対象とした評価試験を行った。そして、以下の評価試験の結果は、この2個のシリコーン基材の平均値に基づいたものである。
【0082】
(2)断面観察
本試験では、例1、例18の試験片に対して断面観察を行った。具体的には、まず、樹脂に埋包された試験片を薄片化し、FE-SEM画像を取得した。また、取得したFE-SEM画像に対してEDX元素マッピングを行い、Si元素の分布を調べた。例1のFE-SEM写真を図6に示し、Si元素のEDXマッピングを図7に示す。また、例18のFE-SEM写真を図8に示し、Si元素のEDXマッピングを図9に示す。なお、EDX測定は、以下の条件で実施した。
【0083】
[EDX測定の条件]
FE-SEM装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU-8200
EDX分析装置 :株式会社堀場製作所製、X-Max80
解析ソフトウェア:EMAX ENERGY バージョン 2.04
【0084】
[EDX検出条件]
加圧電圧:15.0kV
エミッション電流:10μA
引き出し電圧:4.2kV
プローブ電流設定:High
コンデンサレンズ1:4.0
ワーキングディスタンス:15.0±0.5mm
【0085】
また、本試験では、上述した手順に従って、例1及び例18に対して、「基材と導電膜との接触界面の長さ1μmあたりのシリコーン領域の存在数」の測定を行った。なお、本試験では、3視野におけるライン分析を実施した。例1の第1視野における分析結果を図10に示し、第2視野における分析結果を図11に示す。一方、例18の第1視野における分析結果を図12に示す。なお、例18の第2~3視野では、Siカウント数の歪度が0以下となったため測定対象から除外した。なお、図10図12における横軸は「ラインスキャンの距離(測定線の長さ)」を示し、縦軸は「ラインスキャンのカウント数(Si元素数)」を示す。なお、このライン分析における条件は、以下の通りである。
【0086】
[ラインスキャン条件]
フレーム数:5
デュエルタイム:50000 s
【0087】
<WebPlotDigitizerの解析条件>
Algorithm:ΔX step w/Interpolation
ΔX step :0.05 units
Smoothing:50% of ΔX
【0088】
(3)体積抵抗率
各試験片の導電膜の体積抵抗率を抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製、型式:ロレスタGP MCP-T610)を用いて測定した。測定結果を表8および表9に示す。なお、表中の「OL」は、測定上限値を越えたことを意味する。
【0089】
(4)定着性試験
各例の試験片を2mm幅で格子状に切断し、25個の微小片を作製するクロスカット試験を行った。そして、各々の微小片に対して基材と導電膜との界面で破損(剥離)が生じているか否かを観察した。この試験において、破損が確認されなかった微小片が23個以上であった場合を「○」と判定し、23未満であった場合を「×」と判定した。評価結果を表8および表9に示す。
【0090】
(5)シートアタック試験
各例の試験片に対して、基材と導電膜との界面を水平方向から観察した。そして、基材の膨潤による反りが確認された試験片を「×」と判定し、確認されなかった試験片を「○」と判定した。評価結果を表8および表9に示す。
【0091】
【表8】
【0092】
【表9】
【0093】
図6及び図7に示すように、例1の導電ペーストを用いて製造した電子部品では、シリコーン領域(図7中のSi元素が確認される領域)と基材との接触面積が一定の範囲に制御されていた。具体的には、図10および図11に示すように、例1では、基材と導電膜との界面に沿ったライン分析において、Si元素のカウント数が多い領域(シリコーン領域)が約1.75個/μm(約7個/4μm)の割合で存在していた。そして、例1の導電ペーストを光学顕微鏡で観察すると、図2および図4に示すように、ポリオール相にシリコーン相が乳化分散していた。これによって、例1は、定着性とシートアタック抑制性能が高いレベルで両立されたと解される。一方、図8及び図9に示すように、例18の導電ペーストを用いて製造した電子部品では、シリコーン領域と基材との接触面積が十部に確保されていなかった。具体的には、図12に示すように、例18では、上記ライン分析におけるシリコーン領域の存在数が約0.5個(2個/4μm)であった。これによって、例18の定着性が低下したと解される。
【0094】
以上の点を考慮すると、(1)第1相対エネルギー差REDBCが1.0以上2.0以下であり、(2)第2相対エネルギー差REDCEが1.0未満であり、(3)第3相対エネルギー差REDBEが1.0以上1.5以下であり、かつ、(4)有機溶剤Dの極性項δPが1.5MPa0.5以上15MPa0.5以下であるという4つの条件を満たすと、ポリオール相にシリコーン相が乳化分散した導電ペーストを調製できることが分かった。そして、この乳化状態の導電ペーストを用いて電子部品を製造すると、導電性と定着性とシートアタック抑制性能の各々を好適に改善できることが分かった。
【0095】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1 ポリオール相
2 シリコーン相
10 基材
20 導電膜
22 ウレタン領域
24 シリコーン領域
100 電子部品
A 導電材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12