(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143557
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20241003BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20241003BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241003BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/52
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056295
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】奥田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】林 博道
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB05
2C056FC01
2H186BA08
2H186DA18
2H186FB04
2H186FB15
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB56
4J039BA01
4J039BA15
4J039BA30
4J039BA35
4J039BA38
4J039BC02
4J039BC07
4J039BC13
4J039BC20
4J039BC25
4J039BE01
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4J039BE29
4J039CA07
4J039EA24
4J039EA46
4J039EA48
4J039FA01
4J039GA16
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】印刷膜の平滑性を高める技術を提供
【解決手段】ここで開示されるインクジェットインクは、電子部品の製造に用いられるインクジェットインクである。インクジェットインクは、無機粉末と、バインダ樹脂と、分散剤と、有機溶剤と、を含む。ここで、有機溶剤は、20℃における蒸気圧P1が100Pa以下であり、表面張力が22mN/m以上31mN/m以下である第1の有機溶剤と、20℃における蒸気圧P2が前記蒸気圧P1よりも小さく、かつ、4Pa以下である第2の有機溶剤と、を含む。有機溶剤全体を100体積%としたときに、第2の有機溶剤の体積割合は、30体積%以下である。インクジェットインク全体を100体積%としたときの第2の有機溶剤の体積割合Vs2と、インクジェットインク全体を100体積%としたときの無機粉末の体積割合Vpとの比(Vs2/Vp)は、1.5以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品の製造に用いられるインクジェットインクであって、
無機粉末と、
バインダ樹脂と、
分散剤と、
有機溶剤と、
を含み、
ここで、
前記有機溶剤は、
20℃における蒸気圧P1が100Pa以下であり、表面張力が22mN/m以上31mN/m以下である第1の有機溶剤と、
20℃における蒸気圧P2が前記蒸気圧P1よりも小さく、かつ、4Pa以下である第2の有機溶剤と、
を含み、
前記有機溶剤全体を100体積%としたときに、前記第2の有機溶剤の体積割合は、30体積%以下であり、
該インクジェットインク全体を100体積%としたときの前記第2の有機溶剤の体積割合Vs2と、該インクジェットインク全体を100体積%としたときの前記無機粉末の体積割合Vpとの比(Vs2/Vp)は、1.5以上である、インクジェットインク。
【請求項2】
前記無機粉末の平均粒子径が20nm以上200nm以下である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記無機粉末は、セラミック粉末または金属粉末を含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記無機粉末は、チタン酸バリウム粉末またはニッケル粉末を含む、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記第1の有機溶剤は、エーテル類、エステル類、およびアルコール類のうちの少なくともいずれか一つによって構成されており、
前記第2の有機溶剤は、エーテル類、エステル類、および炭化水素化合物のうちの少なくともいずれか一つによって構成されている、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記第1の有機溶剤は、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、および脂肪族アルコールのうちの少なくともいずれか一つによって構成されており、
前記第2の有機溶剤は、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、芳香族エステル、および炭素数が20以下の直鎖アルカンのうちの少なくともいずれか一つによって構成されている、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記有機溶剤全体を100体積%としたときに、前記第2の有機溶剤を少なくとも10体積%含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
模様や文字などの画像を印刷対象に描画する印刷方法の一つとして、従来からインクジェット印刷が用いられている。かかるインクジェット印刷は、精度の高い画像を低コストかつオンデマンドで印刷でき、印刷対象へのダメージも少ないため、種々の分野への応用が検討されている。近年では、電子部品の製造における導電回路パターン(配線、電極等)の形成に、インクジェット印刷を使用することが検討されている。
【0003】
かかる電子部品の製造では、例えば、金属粒子等を含む無機粉体が導電性材料として添加された導電性インクジェットインクが使用されることがある。かかる導電性インクジェットインクの一例として、銀や銀銅合金等のナノ金属パウダーを含むインクが特許文献1に開示されている。また、酸化銀、酸化銅、酸化パラジウム、酸化ニッケル、酸化鉛、酸化コバルト等の金属酸化物微粒子を含むインクが特許文献2に開示されている。一般に、インクジェット印刷を適切に行うためには、導電性インクが低粘度であり、かつ、無機粉体の濃度が高いことが求められる。上述した特許文献1および特許文献2では、これらのインクジェット適性を得るための技術が提案されている。
【0004】
また、導電性インクジェットインクでは、印刷時の吐出性や印刷後の導電性等を確保するという観点から、無機粉体を安定的に分散させることも求められる。例えば、特許文献3では、酸点と塩基点とが表面に混在する固体微粒子(無機粉体)の分散性を高めるために、酸性吸着基または塩基性吸着基のいずれか一方のみを有する第一分散剤と、酸性吸着基と塩基性吸着基の両方を有する第二分散剤とを添加する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、スペーサ粒子と有機溶剤を主成分とする溶剤とを含有し、インクジェット装置を用いて基板上の任意の位置に前記スペーサ粒子を配置する際に用いられるスペーサ粒子分散液が開示されている。このスペーサ粒子分散液は、表面張力が30~65mN/mであることを特徴としている。同公報には、かかる構成によって、スペーサ粒子分散液は、インクジェット装置を用いて液晶表示装置の基板上に吐出したスペーサ粒子分散液の液滴が濡れ広がることがなく、スペーサ粒子を基板上の任意の位置に選択的に配置することができるスペーサ粒子分散液、および、スペーサ分散液を用いてなる液晶表示装置を提供することができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008-513565号公報
【特許文献2】特開2012-216425号公報
【特許文献3】特開2015-62871号公報
【特許文献4】特開2008-111985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電子部品の中には、電極層および絶縁層に高い平滑性が求められる積層型製品(例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)等)がある。かかる積層型の電子部品では、絶縁層にチタン酸バリウム等の強誘電体セラミック材料、電極層にパラジウムやニッケル等の金属材料が用いられる。電極層および絶縁層の製造工程では、まず、表面が平滑となるように処理を施したPETフィルム等のプラスチックフィルム上に、セラミックスラリーを用いて、ドクターブレード法、スクリーン印刷法等によってセラミック層を形成する。その上に金属スラリー(ペースト)を用いて、例えばスクリーン印刷法によって金属層を形成する。次に、印刷物を全てPETフィルムから剥離して積層したのち、プレス・焼成して積層型の電子部品とする。
【0008】
本発明者は、上記の高い平滑性が求められる電子部品の絶縁層パターンおよび電極層パターンを、チタン酸バリウム粒子を主成分としたセラミックインクジェットインクと、ニッケル粒子を主成分とした導電性インクジェットインクとを用いて、交互にインクジェット印刷することによって積層部品を形成することを検討している。その目的は、MLCC製造において部品の小型・大容量化が進むなか、グリーンシートと導電性ペーストとの組合せでは難しかった、電極層と絶縁層とを共に薄層化することにある。
【0009】
セラミックインクジェットインクと導電性インクジェットインクとを用いて、十分な薄層化を行うためには、各層ごとの表面を平滑にすることで、上下層の金属層がショートしないことが必須となる。このことは、導電性インクジェットインクのみならず、セラミックインクジェットインクにも求められる。セラミック層および金属層を共に平滑化することによって、従来のスクリーン印刷法ではできなかった程度にまで小型化し、PETフィルムを剥離することなく生産できる高い生産性を実現することができる。
【0010】
ただし、チタン酸バリウムを主成分とするインクジェットインクとニッケルを主成分とするインクジェットインクとにおいては、加熱乾燥による有機溶剤の揮発時に、絶縁層および電極層の外周部への集積(いわゆるコーヒーリング現象)が起こりやすい。これによって外周部の厚みが内周部の厚みよりも大きくなると、層の平滑化が不十分となり金属層のショートが起こる可能性が生じる。
【0011】
ドクターブレード法やスクリーン印刷法が用いられる場合には、セラミックスラリーや金属ペーストの粘度を大きくすることができ、加熱乾燥における流動性をあらかじめ小さくすることができる。このため、外周部の厚みが大きくなることを抑制できていると考えられる。また、これらの成膜・印刷法では、基材と成膜面のクリアランス(隙間)を一定にする観点からみれば、原理的に平滑な面が得られやすい。しかしながら、インクジェット法においては、高粘度ペーストを利用した場合、高粘度対応のインクジェット法が産業用途において一般的でないことや、吐出した高粘度な液滴同士のレベリング性が不十分になることから、平滑なインクジェットインク印刷層を形成することは困難であった。そのため、外周部の厚みが大きくなることを抑制でき、かつ平滑な印刷膜を得ることができる、セラミックインクジェットインク、金属インクジェットインクは従来なかった。
【0012】
本発明は、インクジェット法において高い平滑性を実現したいという要求に対して、層パターンの外周部への集積を抑制することが難しいという事情とを鑑みてなされたものであり、その主な目的は、インクジェットインクにおいて、加熱乾燥時の層パターンの外周部への集積を抑制し、もって印刷膜の平滑性を高める技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで開示されるインクジェットインクは、電子部品の製造に用いられるインクジェットインクである。インクジェットインクは、無機粉末と、バインダ樹脂と、分散剤と、有機溶剤と、を含む。ここで、有機溶剤は、20℃における蒸気圧P1が100Pa以下であり、表面張力が22mN/m以上31mN/m以下である第1の有機溶剤と、20℃における蒸気圧P2が前記蒸気圧P1よりも小さく、かつ、4Pa以下である第2の有機溶剤と、を含む。有機溶剤全体を100体積%としたときに、第2の有機溶剤の体積割合は、30体積%以下である。インクジェットインク全体を100体積%としたときの第2の有機溶剤の体積割合Vs2と、インクジェットインク全体を100体積%としたときの無機粉末の体積割合Vpとの比(Vs2/Vp)は、1.5以上である。かかる構成によると、インクジェット印刷によって形成される印刷膜の平滑性を向上させることができる。
【0014】
このインクジェットインクの好ましい一態様では、無機粉末の平均粒子径が20nm以上200nm以下である。かかる構成によると、印刷膜の平滑性をより一層高めることができる。
【0015】
このインクジェットインクの好ましい他の一態様では、無機粉末は、セラミック粉末または金属粉末を含む。かかる構成によると、セラミック製印刷膜または金属製印刷膜の平滑性を向上させることができる。また、好ましくは、無機粉末は、チタン酸バリウム粉末またはニッケル粉末を含む。
【0016】
このインクジェットインクの好ましい他の一態様では、第1の有機溶剤は、エーテル類、エステル類、およびアルコール類のうちの少なくともいずれか一つによって構成されている。また、第2の有機溶剤は、エーテル類、エステル類、および炭化水素化合物のうちの少なくともいずれか一つによって構成されている。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果が適切に実現される。
【0017】
このインクジェットインクの好ましい他の一態様では、第1の有機溶剤は、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、および脂肪族アルコールのうちの少なくともいずれか一つによって構成されている。また、第2の有機溶剤は、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、芳香族エステル、および炭素数が20以下の直鎖アルカンのうちの少なくともいずれか一つによって構成されている。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果が適切に実現される。
【0018】
このインクジェットインクの好ましい他の一態様では、有機溶剤全体を100体積%としたときに、第2の有機溶剤を少なくとも10体積%含む。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果が適切に実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図2は、インクジェット装置1の全体図である。
【
図3】
図3は、インクジェットヘッド10の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、ここで開示される技術の実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施できる。本明細書において数値範囲を示す「P~Q」の表記は、「P以上Q以下」の場合、「Pを超えてQ未満」の場合、「Pを超えてQ以下の場合」、および「P以上Q未満」の場合を包含する。
【0021】
<インクジェットインク>
ここで開示されるインクジェットインク(以下、単に「インク」ともいう。)は、例えば、(A)無機粉末と、(B)バインダ樹脂と、(C)分散剤と、(D)有機溶剤と、を含みうる。インクでは、例えば、無機粉末が有機ビヒクル成分(バインダ樹脂と有機溶剤との混合物)中に分散されている。以下、ここで開示されるインクに含まれる各成分について説明する。
【0022】
(A)無機粉末
無機粉末は、基材上の印刷膜を構成する材料である。ここでは、「印刷膜」は、基材上にインクを塗布し、乾燥することによって得られた膜状物(乾燥膜)であり、未焼成体である。また、無機粉末は、かかる印刷膜を焼成して得られた、印刷膜の焼成体(以下、「焼成膜」とも称する。)(例えば、電極等)を構成する材料でもある。ここで開示されるインクでは、無機粉末は、主成分として、セラミック粉末または金属粉末を含みうる。ここで、本明細書において、「RがSを主成分として含む」とは、R全体(例えば、無機粉末全体)を100質量%としたときに、S(例えば、セラミック粉末または金属粉末)の含有割合が、例えば50質量%以上であり、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である(100質量%に近いほどよい)ことをいう。
【0023】
セラミック粉末は、例えば、セラミック粒子から構成される。セラミック粒子は、当該セラミック粒子を構成するセラミックの他、セラミック粒子の生成過程等において混入しうる不可避的不純物を含むことがある。なお、セラミック粉末は、1種のセラミック粉末で構成されてもよく、2種以上のセラミック粉末で構成されてもよい。
【0024】
セラミック粉末の種類は、ここで開示されるインクを用いて形成した焼成膜に付与する機能に応じて適宜設定されればよいため、特に限定されない。セラミック粉末は、例えば、誘電体として機能するセラミック粉末であるとよい。これによって、基材上に誘電性のセラミック層(例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の誘電体層)を形成することができる。セラミック粉末を構成するセラミックとしては、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸バリウム等のABO3で表されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物;二酸化チタン(ルチル)、五酸化チタン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、フォルステライト、酸化ニオブ、チタン酸ネオジム酸バリウム、希土類元素酸化物等;が挙げられる。なかでも、セラミックとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、および、チタン酸ジルコン酸バリウムのうちのいずれかが好ましく用いられうる。
【0025】
金属粉末は、例えば、金属粒子から構成される。金属粒子は、当該金属粒子を構成する金属の他、金属粒子の生成過程等において混入しうる不可避的不純物を含むことがある。なお、金属粉末は、1種の金属粉末で構成されてもよく、2種以上の金属粉末で構成されてもよい。
【0026】
金属粉末は、例えば、電子素子等において、電極、導線、電導膜等の電気伝導性(以下、単に「導電性」ともいう。)の高い導体物(導体膜を含む。)を主として形成するため材料である。このため、金属粉末としては、所望の導電性を備える各種の金属粉末が、特に制限することなく用いられうる。金属粉末を構成する金属としては、例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)等の金属の単体;これらの金属を含む合金;等が挙げられる。なかでも、化学的安定性、安全性等の観点から、金属として、ニッケル(Ni)が好ましく用いられうる。
【0027】
インク中での無機粉末の粒子径は、例えば、吐出性、経日安定性、印刷膜の平滑性等に影響を与える要素の一つである。例えば、インクジェット装置の吐出口への無機粉末の詰まりによって、該装置の吐出性が低下するのを抑制する観点から、無機粉末の平均粒子径は、例えば500nm以下であり、450nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、350nm以下がさらに好ましい。また、印刷膜の平滑性を向上させる観点から、無機粉末の平均粒子径は、320nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、250nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましい。一方、粒子同士の凝集を抑制し、インクの経日安定性の低下を抑制する観点から、無機粉末の平均粒子径は、例えば5nm以上であり、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、動的光散乱(Dynamic light scattering:DLS)法に基づく平均粒子径をいう。かかるDLS法に基づく平均粒子径は、JIS Z 8828:2013に準じて測定される。
【0028】
インク中の無機粉末の体積割合は、特に限定されず、印刷目的に応じて適宜設定されうる。例えば、インク中の無機粉末の体積割合が大きくなるにつれて、少ない印刷回数で好適な厚みの印刷層を形成することができる。かかる観点から、インク全体を100体積%としたとき、無機粉末の体積割合は、概ね0.1体積%以上であり、0.5体積%以上が好ましく、1体積%以上がより好ましい。一方、無機粉末の体積割合が小さくなるにつれて、経日安定性、吐出性等が向上する傾向がある。かかる観点から、インク全体を100体積%としたとき、無機粉末の含有量は、概ね20体積%以下であり、15体積%以下が好ましく、10体積%以下がより好ましい。
【0029】
また、インク中の無機粉末の含有量は、例えば、所望の印刷膜の厚みに応じて適宜設定されうる。ここでは、インク全体を100質量%としたときに、無機粉末の含有量は、概ね1質量%以上であるとよく、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、10質量%以上が特に好ましい。一方で、インク全体を100質量%としたときに、無機粉末の含有量は、例えば50質量%以下であるとよく、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が特に好ましい。ここで開示されるインクの一態様では、インク全体を100質量%としたときに、無機粉末の含有量は、概ね5質量%~30質量%であるとよく、10質量%~20質量%であることが好ましい。
【0030】
(B)バインダ樹脂
バインダ樹脂は、インクを基材にインクジェット印刷した後、無機粉末を基材上に固定させる成分である。基材上にインクジェット印刷されたインクは、例えば、基材上で加熱乾燥された後、焼成処理を受ける。そのため、バインダ樹脂は、焼成処理で完全に消失する(燃え抜ける)ものであることが好ましい。バインダ樹脂としては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂等が好ましく用いられる。
【0031】
ここで開示されるインクは、バインダ樹脂としてポリアセタール樹脂を含んでいることが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒドでアセタール化することによって生成される樹脂である。ポリビニルアセタール樹脂は、無機粉末を基材に固定する上述した機能に加えて、有機溶剤中に分散し、分散剤による無機粉末の沈殿抑制効果を補助する機能を有している。さらに、ポリビニルアセタール樹脂では、例えば、当該樹脂に含まれる水酸基の含有量を調整することで、シートアタックの発生を抑制するのに適切な構成が実現され得る。このため、ポリアセタール樹脂は、ここで開示されるインクのバインダ樹脂として好適である。ポリビニルアセタール樹脂の好適例としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等が挙げられる。
【0032】
バインダ樹脂の重量平均分子量は、ここで開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて適宜設定されうる。例えば、無機粉末の沈殿抑制効果を適切に発揮させる観点から、バインダ樹脂の重量平均分子量は、例えば0.5×104以上であるとよく、1.0×104以上が好ましく、1.5×104以上がより好ましく、2.0×104以上がさらに好ましい。一方、インクの粘度を適切な状態に維持し、吐出性の低下を抑制させる観点から、バインダ樹脂の重量平均分子量は、例えば10×104以下であるとよく、7.5×104以下が好ましく、5.0×104以下がより好ましく、4.5×104以上がさらに好ましい。バインダ樹脂、および分散剤の重量平均分子量としては、例えば、ゲルクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatog raphy:GPC)によって測定され、標準ポリスチレン検量線を用いて換算された重量基準の平均分子量が採用される。かかる測定には、例えば、東ソー株式会社製のGPC装置(HLC-8320)が用いられるとよい。あるいは、樹脂バインダおよび分散剤に関するメーカー等の公称値、または化学式に基づいて計算によって求められた値が採用されてもよい。
【0033】
バインダ樹脂のガラス転移温度は、ここで開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて適宜設定されうる。例えば、定着性に優れた乾燥膜を形成する観点から、バインダ樹脂のガラス転移温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。かかるガラス転移温度は、例えば100℃以下であり、90℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。なお、本明細書において「ガラス転移点」とは、示差走査熱量分析(Differential Scanning Calorimetry:DSC)に基づくガラス転移温度(Tg)をいう。あるいは、メーカー等の公称値等が採用されてもよい。
【0034】
インク中のバインダ樹脂の体積割合は、ここで開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて適宜設定されうる。例えば、インク全体を100体積%としたとき、バインダ樹脂の体積割合は、概ね0.3体積%~3体積%であり、0.5体積%~1.5体積%であることが好ましい。
【0035】
(C)分散剤
分散剤は、無機粒子をインク中に均一に分散させ、当該無機粒子の凝集および沈降を抑制する成分である。ここで開示されるインクは、カチオン系分散剤を含むことが好ましい。カチオン系分散剤は、例えば、カチオン性官能基を有する分散剤である。カチオン系分散剤は、例えば、カチオン性官能基を介して金属粒子の表面に付着し、立体障害を生じさせる。このため、無機粒子同士の凝集を抑制し、延いては、インクの経日安定性を向上させることができる。
【0036】
カチオン系分散剤としては、この種の用途に用いられる従来公知のカチオン系分散剤が特に制限なく用いられうる。カチオン系分散剤としては、例えば、アミン系分散剤、イミダゾリン系分散剤、第四級アンモニウム系分散剤等が挙げられる。アミン系分散剤としては、例えば、アルキルポリアミン系分散剤、ポリアルキレンポリアミン系分散剤、脂肪酸アミン系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤等が挙げられる。イミダゾリン系分散剤としては、例えば、アルキルイミダゾリン等が挙げられる。なお、カチオン系分散剤は、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
カチオン系分散剤としては、アミン系分散剤が好ましく用いられうる。アミン系分散剤は、例えば、分子内にアミン基を有する有機化合物である。なかでも、少なくとも一方の末端にアミン基を有した鎖状のアミン系分散剤が好ましく用いられる。かかるアミン系分散剤の好適例としては、脂肪酸アミン系分散剤、ポリエステルアミン系分散剤等が挙げられる。特に限定するものではないが、アミン系分散剤の重量平均分子量は、例えば、1×103~5×104に設定されるとよい。なお、カチオン系分散剤の具体例として、日油株式会社製のエスリームADシリーズ(登録商標)AD-508E等が好適に用いられる。
【0038】
インク中のカチオン系分散剤の体積割合は、ここで開示される技術の効果を阻害しない限りにおいて適宜設定されうる。例えば、インク全体を100体積%としたとき、カチオン系分散剤の体積割合は、概ね0.5体積%~5体積%であり、1体積%~3体積%であることが好ましい。
【0039】
また、必要に応じて、分散剤は、ノニオン系分散剤を含んでもよい。ノニオン系分散剤は、水に溶解した際にイオン化する基を有さない分散剤である。ノニオン系分散剤は、カチオン系分散剤と比べて無機粒子の表面に付着し難い。しかし、例えば、一方の末端にカチオン性官能基(例えば、アミン基)を有するカチオン系分散剤が無機粒子の表面に付着した場合、当該カチオン系分散剤の他方の末端にノニオン系分散剤が付着しうる。そうすると、無機粒子の表面に生じたカチオン系分散剤により立体障害を強めることができる。そのため、分散剤による無機粒子の凝集抑制効果を高めることができる。
【0040】
(D)有機溶剤
有機溶剤は、無機粉末を分散させ、インクに、インクジェット印刷に適した流動性等を付与することができる。有機溶剤には、インクジェットインクとしてリフィル性を向上させるために適した表面張力を有することに加えて、インクジェット印刷後、印刷膜を加熱乾燥する時のインクの流動を抑制できることが求められている。本発明者は、有機溶剤の揮発速度に着目した。加熱乾燥時においては、印刷膜の、空気に触れている表面から有機溶剤が揮発する。一方で、本発明者の検討によれば、このとき、周囲の有機溶剤の蒸気圧との関係によって、特に印刷膜の外周部で揮発速度が大きくなることがわかった。このことから、本発明者は、印刷膜の内周部から外周部に、有機溶剤の膜内流動が生じることとなると考えた。印刷膜の乾燥が進んでいない段階では、この流動は印刷膜内部で完結し、印刷膜内における固形分(ここでは、無機粉末)の均質性は保たれる。しかし、乾燥が進み、外周部の固形分の流動が内周部よりも先に止まると、外周部に固形分が集積してしまう。これによって、印刷膜の平滑性が損なわれることがある。
【0041】
これに対して、本発明者は、二成分の有機溶剤を用いることを着想した。本発明者は、かかる二成分のうちの相対的に体積割合が小さい成分を、揮発性が相対的に小さい有機溶剤で構成することとした。さらに、本発明者は、この成分を、固形分の体積に対して所定の体積割合でインクに含ませることを考え、鋭意検討を行った。かかる検討によると、相対的に少量の低揮発性成分があることによって、あたかもすでに平滑な印刷が施された高粘度ペーストのように、印刷膜全体で同時に流動性を失い、低揮発性の溶剤が膜内に均質に拡散供給されるため、外周部への固形分集積を抑制することができることがわかった。なお、上述したメカニズムは、本発明者の推測に基づくものであり、ここで開示される技術の作用効果が得られるメカニズムをこれに限定する意図はない。
【0042】
ここで開示されるインクでは、有機溶剤は、第1の有機溶剤と第2の有機溶剤とを含む。第1の有機溶剤と第2の有機溶剤とについて、それぞれの20℃における蒸気圧が、所定の範囲にある。有機溶剤の、20℃における蒸気圧としては、メーカー等の公称値が採用されうる。
【0043】
第1の有機溶剤は、例えば、20℃における蒸気圧P1が100Pa以下であり、表面張力が22mN/m~31mN/mである有機溶剤である。第1の有機溶剤は、例えば、無機粉末の流動性を高め、印刷膜の薄層化に寄与しうる。これに加えて、第1の有機溶剤は、インクの経日安定性を高める機能を有しうる。蒸気圧P1は、後述する第2の有機溶剤の蒸気圧P2よりも大きいとよい。蒸気圧P1は、上記範囲であり、かつ、蒸気圧P2よりも大きければ特に限定はないが、例えば4Pa超過であり、5Pa以上であってもよく、10Paであってもよい。また、蒸気圧P1は、50Pa以下であってもよく、40Pa以下でもよい。
【0044】
第1の有機溶剤は、例えば、エーテル類、エステル類、およびアルコール類のうちの少なくともいずれか一つによって構成されうる。第1の有機溶剤は、例えば、エーテル類、エステル類、またはアルコール類に分類される化合物のうち、100Pa以下の蒸気圧P1と、22mN/m~31mN/mの表面張力とを有する少なくとも一つの化合物によって構成されうる。本明細書において、「エーテル類」とは、主鎖(母核)にエーテル結合(-C-O-C-)を少なくとも1つ有する化合物群をいう。本明細書において、「エステル類」とは、主鎖にエステル結合(R-C(=O)-O-R’)を少なくとも1つ有する化合物群をいう。なお、以下の説明において、1分子中に複数の官能基を有する場合にはIUPACの命名法に従って分類する。ただし、1分子中にエーテル結合とヒドロキシル基とを有する場合は、エーテル類に分類している。
【0045】
第1の有機溶剤として用いられるエーテル類としては、例えば、グリコールエーテルが挙げられる。第1の有機溶剤として用いられるエステル類としては、例えば、グリコールエーテルアセテートが挙げられる。第1の有機溶剤として用いられるアルコール類としては、例えば、脂肪族アルコールが挙げられる。
【0046】
本明細書において、「グリコールエーテル」とは、2つのヒドロキシル基が2つの異なる炭素原子に結合している脂肪族または脂環式化合物において、該2つのヒドロキシル基のうちの1つまたは2つのヒドロキシル基の水素原子が、炭化水素基またはエーテル結合を含む炭化水素基で置換された化合物をいう。グリコールエーテルは、例えば、1つのヒドロキシル基の水素のみが置換されているグリコールモノアルキルエーテルと、2つのヒドロキシル基の水素がいずれも置換されているグリコールジアルキルエーテルとを包含する。第1の有機溶剤におけるグリコールエーテルとしては、例えば、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル等が好ましく用いられうる。
【0047】
本明細書において、「グリコールエーテルアセテート」とは、上述のグリコールエーテルがエステル化された化合物をいう。第1の有機溶剤におけるグリコールエーテルアセテートとしては、例えば、ブチルモノグリコールアセテート(BMGAC)、ブチルジグリコールアセテート(BDGAC)等が好ましく用いられうる。
【0048】
本明細書において、「アルコール類」とは、炭化水素の水素原子がヒドロキシル基で置換された化合物群であり、一般式:R-OHで表される化合物群をいう。第1の有機溶剤におけるアルコールとしては、例えば、1-オクタノール、テトラヒドロリナロール等が好ましく用いられうる。
【0049】
第2の有機溶剤は、20℃における蒸気圧P2が4Pa以下である有機溶剤である。また、蒸気圧P2は、第1の有機溶剤の蒸気圧P1よりも小さい。第2の有機溶剤は、第1の有機溶剤よりも高い沸点を有する有機溶剤であり、第1の有機溶剤よりも揮発しにくい。第2の有機溶剤は、第1の有機溶剤によって無機粉末の流動性と分散性とが高まりすぎるのを抑制し、インク中で無機粉末が適度な分散状態となるのに寄与しうる。蒸気圧P2は、例えば、3Pa以下であってもよく、2Pa以下であってもよい。一方で、蒸気圧P2は、例えば、0.5Pa以上であってもよく、1Pa以上であってもよい。特に限定するものではないが、第2の有機溶剤の表面張力は、25mN/m~35mN/mであるとよい。
【0050】
第2の有機溶剤は、例えば、エーテル類、エステル類、および炭化水素化合物のうちの少なくともいずれか一つによって構成されうる。本明細書において、「炭化水素化合物」とは、炭素原子と水素原子とで構成された化合物をいう。第2の有機溶剤は、例えば、エーテル類、エステル類、または炭化水素化合物に分類される化合物のうち、4Pa以下の蒸気圧P2を有する少なくとも一つの化合物によって構成されうる。
【0051】
第2の有機溶剤として用いられるエーテル類としては、例えば、グリコールエーテルが挙げられる。第2の有機溶剤として用いられるエステル類としては、例えば、グリコールエーテルアセテートと芳香族エステルとが挙げられる。第2の有機溶剤として用いられる炭化水素化合物としては、例えば、炭素数20以下(好ましくは、炭素数10~16)の直鎖アルカンが挙げられる。
【0052】
第2の有機溶剤におけるグリコールエーテルとしては、例えば、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)が好ましく用いられうる。第2の有機溶剤におけるグリコールエーテルアセテートとしては、例えば、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール1-モノイソブチレートが好ましく用いられうる。また、本明細書において、「芳香族エステル」とは、芳香環における水素原子がエステル基で置換された化合物群をいう。第2の有機溶剤における芳香族エステルとしては、例えば、安息香酸ブチルが好ましく用いられうる。第2の有機溶剤における直鎖アルカンとしては、例えば、テトラデカンが好ましく用いられうる。
【0053】
ここで開示されるインクでは、例えば、有機溶剤全体を100体積%としたときに、第2の有機溶剤の体積割合は、30体積%以下である。第2の有機溶剤は、第1の有機溶剤よりも蒸気圧が低いため、沸点がより高く、インク中での無機粉末の流動性を低下させ、分散するのを抑制する傾向がある。このため、有機溶剤における第2の有機溶剤の体積割合を所定の範囲とすることによって、インクにおける無機粉末の流動性と分散性とを適切な状態とすることができ、延いては、印刷膜の平滑性を高めることができる。かかる観点から、有機溶剤全体を100%としたときに、第2の有機溶剤の体積割合は、例えば3体積%以上がよく、5体積%以上が好ましく、7体積%以上がより好ましく、10体積%以上がさらに好ましい。
【0054】
また、ここで開示されるインクでは、例えば、インク全体を100体積%としたときの第2の有機溶剤の体積割合Vs2と、インク全体を100体積%としたときの無機粉末の体積割合Vpとの比(Vs2/Vp)は、1.5以上である。第2の有機溶剤が、無機粉末の体積に対して1.5倍以上の体積でインク中に含まれることによって、インク中で無機粉末を適度な分散状態とすることができる。また、インクが基材上に塗布されて乾燥されていく過程において、インクの乾燥にともなって無機粉末が移動するのを抑制することができ、延いては、印刷膜の平滑性を高めることができる。かかる観点から、比(Vs2/Vp)は、2以上が好ましく、2.3以上がより好ましい。一方で、インク中で無機粉末を適切に分散させる観点から、比(Vs2/Vp)は、例えば20以下であり、15以下が好ましく、10以下がさらに好ましい。比(Vs2/Vp)は、例えば1.5~20であり、2~10が好ましく、2.3~9.8がより好ましい。
【0055】
特に限定するものではないが、例えば、インクの吐出性を向上する観点から、インク全体を100体積%としたとき、有機溶剤の体積割合は、例えば80体積%以上であり、85体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましい。
【0056】
(E)その他の成分
ここで開示されるインクは、ここで開示される技術の効果を損なわない範囲で、インクジェットインクに用いられる公知の添加剤をさらに含有してもよい。かかる添加剤の種類、その添加量等については、従来公知の技術常識に基づいて適宜変更することができ、ここで開示される技術を特徴づけるものではない。そのため、ここでの説明を省略する。
【0057】
<インクジェットインクの調製>
次に、ここで開示されるインクを調製(製造)する手順について説明する。ここで開示されるインクは、上述の各成分を混合した後、無機粉末の解砕・分散を行うことによって調製される。
図1は、撹拌粉砕機100の断面図である。なお、以下の説明は、ここで開示されるインクを調製する手段の一例を示すものであり、ここで開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0058】
ここで開示されるインクを製造する際には、まず、上述した各成分を秤量して混合することによって、当該インクの前駆物質であるスラリー(ペーストおよびサスペンションを含む。)を調製する。そして、
図1に示されているような撹拌粉砕機100を用いて、スラリーの撹拌と無機粉末の解砕とを行うことによって、インクが調製される。例えば、解砕用ビーズ(例えば、平均粒子径が10μm~150μmのジルコニアビーズ)をスラリーに添加した後に、供給口110から撹拌容器120内にスラリーを供給する。撹拌容器120内には、複数の撹拌羽132を有したシャフト134が収容されている。シャフト134の一端はモータ(図示省略)に取り付けられており、モータを稼働させてシャフト134を回転させることによって、複数の撹拌羽132でスラリーを送液方向Dの下流側に送り出しながら撹拌する。この撹拌の際に、解砕用ビーズによって無機粉末が解砕され、微粒化した無機粉末がスラリー中に分散される。
【0059】
そして、送液方向Dの下流側まで送り出されたスラリーは、フィルター140を通過する。これによって、微粒化されなかった無機粉末、解砕用ビーズ等がフィルター140に捕集され、無機粉末が十分に分散されたインクが排出口150から排出される。なお、本工程において、フィルター140の孔径、解砕用ビーズの平均粒子径等を適宜調節することによって、無機粉末の平均粒子径等を所望の範囲に調節できる。
【0060】
<インクジェットインクの用途>
次に、ここで開示されるインクの用途について説明する。インクは、電子部品の製造に用いられる。なお、本明細書において「電子部品に用いられる」とは、インクを無機基材の表面に直接印刷する態様だけでなく、転写紙等の中間材を介して間接的に無機基材の表面にインクを付着させる態様をも包含する。
【0061】
(1)印刷
図2は、インクジェット装置1の全体図である。
図3は、インクジェットヘッド10の断面図である。インクは、
図2に示されているようなインクジェット装置1によって、印刷対象の表面に印刷される。印刷対象である無機基材Wの材料や形状は、特に限定されず、一般的な電子部品の基材として用いられるものが、特に制限なく用いられる。
【0062】
図2に示されているように、インクジェット装置1は、インクを貯蔵するインクジェットヘッド10を備えている。インクジェットヘッド10は、印刷カートリッジ40の内部に収容されている。印刷カートリッジ40は、ガイド軸20に挿通されており、ガイド軸20の軸方向Xに沿って往復動作するように構成されている。また、図示は省略するが、インクジェット装置1は、ガイド軸20を垂直方向Yに移動させる移動手段を備えている。これによって、インクジェット装置1は、無機基材Wの所望の位置にインクを吐出することができる。
【0063】
インクジェットヘッド10には、例えば、
図3に示されているようなピエゾ型のインクジェットヘッドが用いられるとよい。ピエゾ型のインクジェットヘッド10には、ケース12内にインクを貯蔵する貯蔵部13が設けられており、貯蔵部13が送液経路15を介して吐出部16と連通している。吐出部16には、ケース12外に開放された吐出口17が設けられているとともに、吐出口17に対向するようにピエゾ素子18が配置されている。インクジェットヘッド10では、ピエゾ素子18を振動させることによって、吐出部16内のインクを吐出口17から無機基材W(グリーンシート)(
図2参照)に向けて吐出する。
【0064】
(2)乾燥処理
次に、インクが付着した無機基材W(グリーンシート)を所定の温度で加熱する乾燥処理を行う。これによって、インクから有機溶剤が除去されて無機基材Wに印刷膜(乾燥膜)が形成される。ここで開示されるインクは、有機溶剤として、所定の体積割合において、所定の特性を有する第1の有機溶剤と第2の有機溶剤とを含んでいるため、インクにおいて、無機粉末は、適切な分散状態にある。また、乾燥処理時に、無機基材に付着したインクでは、相対的に蒸気圧が高い(相対的に沸点が低い)第1の有機溶剤が先に揮発し、その後、相対的に蒸気圧が低い(相対的に沸点が高い)第2の有機溶剤が揮発する。このため、乾燥の過程においても、インク中では、無機粉末について適切な分散状態が保たれている。これによって、乾燥後に、平滑性が高められた印刷膜を得ることができる。なお、乾燥処理における加熱温度は、有機溶剤が除去され、かつ、無機粉末の焼結が生じない温度(例えば50℃~150℃)に設定されうる。
【0065】
(3)焼成
この製造方法では、印刷膜形成後の無機基材Wを焼成することを包含する。これによって、バインダ樹脂を含む有機成分が焼失するとともに、無機粉末が焼結して無機基材Wの表面に固着する。この結果、無機粉末(例えば、セラミック粉末または金属粉末)を主成分とした焼成膜を有する電子部品が製造される。焼成温度は、例えば、インクに含まれる無機粉末(例えば、セラミック粉末または金属粉末)の種類によって適宜設定されうる。例えば、焼成温度は、500℃~2000℃に設定されるとよい。
【0066】
次に、ここで開示される技術に関する試験例を説明する。なお、以下に示す試験例は、ここで開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0067】
[材料の用意]
(無機粉末)
無機粉末として、以下の3種類のセラミック粉末と1種類の金属粉末とを用意した。
・セラミック粉末PC1:
チタン酸バリウム粉末(平均粒子径:0.30μm)
・セラミック粉末PC2:
チタン酸バリウム粉末(平均粒子径:0.10μm)
・セラミック粉末PC3:
チタン酸バリウム粉末(平均粒子径:0.05μm)
・金属粉末PM1:
ニッケル粉末(平均粒子径:0.06μm)
【0068】
(有機溶剤)
有機溶剤として、以下の10種類の有機溶剤を用意した。なお、以下の有機溶剤の物性を表1に示す。表1に示された物性のうち、沸点(大気圧条件下における沸点)と20℃における蒸気圧とは、各メーカーの公称値である。表1に示された各有機溶剤の表面張力は、静的表面張力計(協和界面科学株式会社製、DYNEMASTER DY-300)を用いて、各有機溶剤について測定された測定値である。
【0069】
・有機溶剤S1:
ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(ハイソルブBDM)、東邦化学工業株式会社製、「7382-32-3」
・有機溶剤S2:
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート(PGMEA)、東京化成工業株式会社製、「108-65-6」
・有機溶剤S3:
テトラヒドロリナロール、東京化成工業株式会社製、「78-69-3」
・有機溶剤S4:
ブチルモノグリコールアセテート(BMGAC)、株式会社ダイセル製、「112-07-2」
・有機溶剤S5:
1-オクタノール、富士フイルム和光純薬株式会社製、「117-87-5」
・有機溶剤S6:
ブチルジグリコールアセテート(BDGAC)、株式会社ダイセル製、「124-17-4」
・有機溶剤S7:
2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール1-モノイソブチレート(NG-120)、「25265-77-4」
・有機溶剤S8:
安息香酸ブチル、東京化成工業株式会社製、「136-60-7」
・有機溶剤S9:
テトラデカン、関東化学株式会社製、「629-59-4」
・有機溶剤S10:
ブチルカルビトール、富士フイルム和光純薬株式会社製、「112-34-5」
【0070】
【0071】
(バインダ樹脂)
バインダ樹脂として、以下の2種類のバインダ樹脂を用意した。
・バインダ樹脂B1:
水酸基が23mol%、重量平均分子量が23,000のポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製、「BL-S」)
・バインダ樹脂B2:
水酸基が21mol%、重量平均分子量が39,000のポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業社製、「BL-5Z」)
【0072】
(分散剤)
分散剤として、カチオン系分散剤C1(日油株式会社製、「AD-508E」)を用意した。
【0073】
[インクの調製]
無機粉末と、バインダ樹脂と、分散剤と、有機溶剤とを含む25種類のインクを調製した。まず、無機粉末と有機ベヒクル(有機溶剤、バインダ樹脂、および分散剤)とを、所定の質量比となるように混合し、スラリーを調製した。当該スラリーに対して、解砕用ビーズ(平均粒子径100μmのジルコニアビーズ)を使用した解砕・分散処理(回転数:1500rpm、混合時間:4時間)を実施し、加圧を伴うフィルターろ過をすることによってインクを得た。各例で用いられた無機粉末と有機溶剤とは、表2~表4の該当欄に示されているとおりである。各例で用いられたバインダ樹脂は、上述のバインダ樹脂B1とバインダ樹脂B2との少なくともいずれか一方で構成された。各例で用いられた分散剤は、上述のカチオン系分散剤C1であった。
【0074】
この試験例で作製された例1~例25のインクの評価について、例1~例14の結果を表2に示す。また、例15~例21の結果を表3に示す。また、例22~例25の結果を表4に示す。
【0075】
なお、無機粉末と有機溶剤とに関して、表2~表4の「インク中の割合(体積%)」欄に記載の数値は、インク全体を100体積%としたときの各成分の体積割合である。また、有機溶剤に関して、表2~表4の「有機溶剤全体における第2の有機溶剤の含有割合Vs2(体積%)」欄に記載の数値は、有機溶剤全体を100体積%としたときの第2の有機溶剤の体積割合である。また、表2~表4の「Vs2/Vp」欄に記載の数値は、インク全体を100体積%としたときの第2の有機溶剤の体積割合Vs2と、インクジェットインク全体を100体積%としたときの無機粉末の体積割合Vpとの比(Vs2/Vp)である。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
[評価試験]
各例のインクを用いて、以下のパターン印刷試験および吐出試験を実施した。なお、例18に関して、インクの調製中に、無機粉末が凝集し、分散状態とならなかった。このため、例18については、評価試験を実施しなかった。表2~表4の「印刷膜の平滑性」欄に記載の「-」は、試験の不実施を示している。
【0080】
-パターン印刷試験-
インクジェット印刷機(富士フイルム株式会社製:マテリアルプリンター DMP-2831)を用いて、各例のインクのパターン形成能を評価した。この試験では、インクジェット印刷機の吐出周波数を1kHzに設定して、アルミナ製の基材の表面に2mm×2mmのパターンを4個まとめてベタ印刷した。印刷したパターンについて、表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製、「SURFTEST SV-3100」)を用いて、コーヒーリング現象発生の有無を評価した。具体的には、各パターンの縁部について、3箇所の膜厚を測定し、最大値を得た。また、各パターンの中心部について、3箇所の膜厚を測定し、平均値を得た。得られた計算値に関して、以下の数式(A):
縁部の最大厚み/中心部の平均厚み<2 (A)
を、満たした例について、「○(コーヒーリング現象の発生なし)」と評価した。一方、上記式(A)を満たさなかった例について、「×(コーヒーリング現象の発生あり)」と評価した。結果を表2~表4の「印刷膜の均一性」欄に示す。
【0081】
表2~表4に示されているように、無機粉末と、有機溶剤と、バインダ樹脂と、分散剤と、を含むインクジェットインクについて、例1~例3、例15、例16、例22、および例23のインクは、20℃における蒸気圧P1が100Pa以下であり、表面張力が22mN/m以上31mN/m以下である第1の有機溶剤と、20℃における蒸気圧P2が蒸気圧P1よりも小さく、かつ、4Pa以下である第2の有機溶剤と、を含んでいる。有機溶剤全体を100体積%としたときに、第2の有機溶剤の含有量は、30体積%以下であった。また、インクジェットインク全体を100体積%としたときの第2の有機溶剤の体積割合Vs2と、インクジェットインク全体を100体積%としたときの無機粉末の体積割合Vpとの比(Vs2/Vp)は、1.5以上であった。例1~例3、例15、例16、例22、および例23のインクを用いた場合、印刷膜にコーヒーリング現象の発生が確認されず、印刷膜の平滑性が向上されていることがわかった。
【0082】
以上、ここで開示される技術を説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される技術には、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得る。
【0083】
ここで開示される技術は、以下の項に記載の技術を包含する。
項1:
電子部品の製造に用いられるインクジェットインクであって、
無機粉末と、
バインダ樹脂と、
分散剤と、
有機溶剤と、
を含み、
ここで、
前記有機溶剤は、
20℃における蒸気圧P1が100Pa以下であり、表面張力が22mN/m以上31mN/m以下である第1の有機溶剤と、
20℃における蒸気圧P2が前記蒸気圧P1よりも小さく、かつ、4Pa以下である第2の有機溶剤と、
を含み、
前記有機溶剤全体を100体積%としたときに、前記第2の有機溶剤の体積割合は、30体積%以下であり、
該インクジェットインク全体を100体積%としたときの前記第2の有機溶剤の体積割合Vs2と、該インクジェットインク全体を100体積%としたときの前記無機粉末の体積割合Vpとの比(Vs2/Vp)は、1.5以上である、インクジェットインク。
項2:
前記無機粉末の平均粒子径が20nm以上200nm以下である、項1に記載のインクジェットインク。
項3:
前記無機粉末は、セラミック粉末または金属粉末を含む、項1または2に記載のインクジェットインク。
項4:
前記無機粉末は、チタン酸バリウム粉末またはニッケル粉末を含む、項1~3のいずれか一つに記載のインクジェットインク。
項5:
前記第1の有機溶剤は、エーテル類、エステル類、およびアルコール類のうちの少なくともいずれか一つによって構成されており、
前記第2の有機溶剤は、エーテル類、エステル類、および炭化水素化合物のうちの少なくともいずれか一つによって構成されている、項1~4のいずれか一つに記載のインクジェットインク。
項6:
前記第1の有機溶剤は、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、および脂肪族アルコールのうちの少なくともいずれか一つによって構成されており、
前記第2の有機溶剤は、グリコールエーテル、グリコールエーテルアセテート、芳香族エステル、および炭素数が20以下の直鎖アルカンのうちの少なくともいずれか一つによって構成されている、項1~5のいずれか一つに記載のインクジェットインク。
項7:
前記有機溶剤全体を100体積%としたときに、前記第2の有機溶剤を少なくとも10体積%含む、項1~6のいずれか一項に記載のインクジェットインク。
【符号の説明】
【0084】
1 インクジェット装置
10 インクジェットヘッド
12 ケース
13 貯蔵部
15 送液経路
16 吐出部
17 吐出口
18 ピエゾ素子
20 ガイド軸
40 印刷カートリッジ
100 撹拌粉砕機
110 供給口
120 撹拌容器
132 撹拌羽
134 シャフト
140 フィルター
150 排出口