(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143570
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20241003BHJP
F16H 63/18 20060101ALI20241003BHJP
F16H 59/70 20060101ALI20241003BHJP
F16H 59/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H63/18
F16H59/70
F16H59/08
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056318
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深澤 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】海部 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】荒井 大
【テーマコード(参考)】
3J067
3J552
【Fターム(参考)】
3J067BA17
3J067FB43
3J067GA05
3J552MA04
3J552NA08
3J552NB01
3J552NB04
3J552PA54
3J552QC07
3J552SA23
3J552SB01
3J552TA11
3J552TA12
3J552TB18
3J552VA65W
3J552VB00W
(57)【要約】
【課題】ドラム角度センサの出力が安定した状態を検知して、ニュートラル基準角度を示す学習情報を補正すること。
【解決手段】鞍乗り型車両は、変速段を切り替えるシフトペダルの操作により回動されたシフトスピンドルに伴って回動するシフトドラムの回転角度を検出するドラム角度センサと、予め行った学習により設定された、ニュートラルのシフトポジションに対応したドラム角度センサの回転角度の学習情報を記憶する記憶部と、鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であり、かつ、ドラム角度センサにより変速機のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、シフトペダルのペダル荷重が閾値荷重以下と想定される補正条件が成立する場合に、補正条件の成立時におけるドラム角度センサの検出値を補正情報として取得し、学習情報および補正情報に基づいて学習情報を補正する制御部と、を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(21)と、前記内燃機関(21)の駆動力を複数の変速段を切り替えて確立した伝達経路を介して出力軸(33)に伝達する変速機(31)と、を有する鞍乗り型車両であって、
前記内燃機関(21)の運転状態を検出する回転数センサ(81)と、
前記変速機(31)の変速段を切り替えるシフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)に伴って回動するシフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
予め行った学習により設定された、前記変速機(31)のニュートラルのシフトポジションに対応した前記ドラム角度センサ(84)の回転角度の学習情報を記憶する記憶部(88)と、
前記鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であり、かつ、前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、前記シフトペダル(63)のペダル荷重が閾値荷重以下と想定される補正条件が成立する場合に、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサの検出値を補正情報として取得し、前記学習情報および前記補正情報に基づいて前記学習情報を補正する制御部(80)と、
を備えることを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記制御部(80)は、前記鞍乗り型車両のイグニッションオンからイグニッションオフまでの運転サイクルにおいて、前記補正を少なくとも1回行うことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記鞍乗り型車両(1)のサイドスタンド(15)の回動を検出するスタンド回動センサ(181)と、
前記鞍乗り型車両(1)の車体フレーム(2)のロール角の変化を検出する傾斜センサ(182)と、を更に備え、
前記補正条件は、
前記スタンド回動センサ(181)の検出信号に基づいて、前記サイドスタンド(15)の回動を検出した状態である第1の補正条件と、
前記傾斜センサ(182)の検出信号に基づいて、前記車体フレーム(2)のロール角が所定の閾値範囲内に傾斜した状態である第2の補正条件と、
前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションがニュートラルに変更されてから所定時間以内の状態である第3の補正条件のうち、
少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記制御部(80)は、前記補正条件を複数有するものであり、
複数の補正条件には優先度が設定されており、前記制御部(80)は、前記優先度の高い条件の成立時の補正情報を用いて前記回転角度を補正することを特徴とする請求項3に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記第1の補正条件は前記第2の補正条件よりも優先度が高いことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記第1の補正条件は前記第3の補正条件よりも優先度が高いことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記第2の補正条件は前記第3の補正条件よりも優先度が高いことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項8】
前記制御部(80)は、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサ(84)の検出値と、前記記憶部(88)に記憶されている学習情報の値との差分に基づいて前記学習情報を補正するものであり、
前記差分を前記学習情報の補正に反映する補正係数が補正条件ごとに設定されており、
前記優先度の高い補正条件には、当該優先度の低い補正条件に比べて高い補正係数が設定されることを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項9】
前記制御部(80)は、前記鞍乗り型車両のイグニッションオンからイグニッションオフまでの運転サイクルにおいて、前記優先度の高い補正条件で補正処理を実施した場合には、前記運転サイクルの終了までの間において再度の補正処理を実施しないことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鞍乗り型車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、変速機の組付け時や交換時においても簡便な構成でギヤ位置を正確に検出するために、学習許可指令を受けたときのギヤ位置をニュートラル位置であると学習することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、基本的に工場での学習等が想定されているが、工場出荷後の車両の運転中における走行環境等の影響により、センサ情報の出力が変化する場合が生じ得る。
【0005】
本願は上記課題の解決のため、ドラム角度センサの出力が安定した状態を検知して、ニュートラル基準角度を示す学習情報を補正することが可能な車両の提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の鞍乗り型車両は、内燃機関(21)と、前記内燃機関(21)の駆動力を複数の変速段を切り替えて確立した伝達経路を介して出力軸(33)に伝達する変速機(31)と、を有する鞍乗り型車両であって、
前記内燃機関(21)の運転状態を検出する回転数センサ(81)と、
前記変速機(31)の変速段を切り替えるシフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)に伴って回動するシフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
予め行った学習により設定された、前記変速機(31)のニュートラルのシフトポジションに対応した前記ドラム角度センサ(84)の回転角度の学習情報を記憶する記憶部(88)と、
前記鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であり、かつ、前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、前記シフトペダル(63)のペダル荷重が閾値荷重以下と想定される補正条件が成立する場合に、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサの検出値を補正情報として取得し、前記学習情報および前記補正情報に基づいて前記学習情報を補正する制御部(80)と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ドラム角度センサの出力が安定した状態を検知して、ニュートラル基準角度を示す学習情報を補正することが可能な車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】車両に搭載されたパワーユニットの一部カバーを省略した側面図。
【
図3】クランクケースの一部を省略して変速機を示すパワーユニットの部分側面図。
【
図4】リンク機構を示すパワーユニットの要部斜視図。
【
図6】制御部による処理の流れを示すフローチャート。
【
図7】記憶部に記憶されている補正情報のテーブル、及び補正情報及び重み係数に基づいた学習情報の補正処理を例示する図。
【
図8】補正処理の具体的な処理の流れを説明するフローチャート。
【
図9】補正処理を行うタイミングに関する処理の流れを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
(車両の概略構成)
図1は、実施形態に係る車両(鞍乗型車両)である自動二輪車1の側面図である。なお、本明細書の説明において、前後左右の向きは、本実施形態に係る自動二輪車1の直進方向を前方とする通常の基準に従うものとし、図面において、FRは前方を示し、RRは後方を示し、LHは左方を示し、RHは右方を示すものとする。
【0011】
鞍乗型自動二輪車1の車体フレーム2は、ヘッドパイプ部3aから左右に分かれてメインフレーム(ダウンフレーム部3bを備える幅広のフレーム)3,3が後方に延出し、その後端に連結されたセンターフレーム4,4が下方に屈曲してリアフォークピボット部4aを構成している。センターフレーム4,4の屈曲部から後方斜め上方にシートレール5が延設されている。
【0012】
ヘッドパイプ部3aによって操向可能に支承されたフロントフォーク6の下端に前輪7が軸支され、フロントフォーク6にはステアリングハンドル8が連結されている。また、センターフレーム4のリアフォークピボット部4aにピボット軸9により前端を軸支されたリアフォーク10が後方に延び、その後端に軸支された後輪11が上下に揺動自在に設けられている。
【0013】
自動二輪車1の車体フレーム2に搭載されるパワーユニット20は、内燃機関21のクランクケース23内の後部にマニュアル変速式の多段変速機(以下、単に「変速機」という)31を一体に収容して構成されたもので、パワーユニット20は、メインフレーム3の前側のダウンフレーム部3bと後側のセンターフレーム4に懸架されている。
【0014】
パワーユニット20の上方には燃料タンク13がメインフレーム3およびセンターフレーム4に架設され、燃料タンク13の後方にシート14がシートレール5に支持されて設けられている。左側のセンターフレーム4の下端にサイドスタンド15が、回動軸回りに回動することにより起伏自在に枢着されている。
【0015】
センターフレーム4におけるリアフォーク10のピボット軸9の後方に支持ブラケット16が前端を固着されて後方に突設されており、支持ブラケット16に運転者の足を載せるバックステップ17が外側方に突出して設けられている。
【0016】
内燃機関21は、水冷4気筒の4ストロークサイクル内燃機関であり、そのクランク軸22を車幅方向(左右方向)に指向させて自動二輪車1に搭載されている。クランク軸22を回転自在に軸支するクランクケース23の上に、シリンダ軸線を若干前傾させて、シリンダブロック24、シリンダヘッド25が順次重ねられるように起立した姿勢で締結され、シリンダヘッド25の上にシリンダヘッドカバー26が被せられている。
【0017】
内燃機関21の前傾したシリンダヘッド25から上方にスロットルボディ27tを介して吸気管27が延出し、エアクリーナ27Aに接続されている。また、シリンダヘッド25から前方に延出した排気管28は、下方へ曲がり、さらに後方へ延びて後部のマフラー28Mに接続されている。
【0018】
図3を参照して、内燃機関21のクランクケース23は、上下割りの上側クランクケース23Uと下側クランクケース23Lとからなり、上側クランクケース23Uと下側クランクケース23Lの左右軸受壁の合わせ面にクランク軸22が軸支されている。変速機31の左右方向に指向したメイン軸32とカウンタ軸33のうちカウンタ軸33もクランク軸22の後方で上側クランクケース23Uと下側クランクケース23Lの左右軸受壁の合わせ面に軸支されている。
【0019】
変速機31のメイン軸32は、カウンタ軸33の上方で若干前寄りに位置して上側クランクケース23Uに軸支されている。変速機31は、メイン軸32に軸支された変速駆動ギヤ32g群とカウンタ軸33に軸支された変速被動ギヤ33g群とが変速比ごとに常時噛合している。変速駆動ギヤ32g群及び変速被動ギヤ33g群は、メイン軸32、カウンタ軸33にそれぞれ軸支された変速段数分のギヤを有する。変速機31は、メイン軸32及びカウンタ軸33間で、対応するギヤ対同士が常に噛み合った常時噛み合い式である。メイン軸32及びカウンタ軸33に支持された複数のギヤは、対応するシャフトに対して回転可能なフリーギヤと、対応するシャフトにスプライン嵌合するスライドギヤ(シフターギヤ)とに分類される。これらフリーギヤ及びスライドギヤ(シフターギヤ)の一方には軸方向で凸のドグが、他方にはドグを係合させるべく軸方向で凹のスロットがそれぞれ設けられている。
【0020】
カウンタ軸33は、パワーユニット20の出力軸であり、左側軸受壁を貫通して左方に突出しており、その左端部に出力スプロケット34が嵌着されており、出力スプロケット34を左側から出力スプロケットカバー37が覆っている(
図2参照)。
【0021】
出力スプロケット34は、センターフレーム4のリアフォーク10を枢支するピボット軸9の前方の近い位置に配設され、出力スプロケット34と後輪11の後車軸に嵌着された従動スプロケット35との間に駆動チェーン36が巻き掛けられ、パワーユニット20の出力が駆動チェーン36を介して後輪11に伝達されて自動二輪車1が走行する(
図1参照)。
【0022】
なお、
図3を参照して、変速機31の変速駆動ギヤ32g群および変速被動ギヤ33g群の上方を、上側クランクケース23Uの上壁23Uaが覆っており、上壁23Uaに上方から嵌挿されて設けられた回転速度センサ83が変速駆動ギヤ32g群のメイン軸32と一体に回転する変速駆動ギヤ32gの上に近接して配設されている。回転速度センサ83は近接センサであり、変速駆動ギヤ32gの歯の回転によりメイン軸32の回転速度を検出することができる。
【0023】
クランクケース23のクランク軸22を軸支する左右軸受壁の左側軸受壁を貫通したクランク軸22の左端部にはACジェネレータ38が設けられ、この左方に突設されたACジェネレータ38を左側からACGカバー39が覆っている(
図2,
図3参照)。
【0024】
他方、クランクケース23の右側軸受壁を貫通したメイン軸32の右端部には変速クラッチ45が設けられ、上側クランクケース23Uは変速機31を覆う上壁23Uaより上方に膨出したクラッチ収容部23Ubが変速クラッチ45の外周を覆っている(
図4、
図3参照)。
【0025】
変速クラッチ45の右側方はクラッチカバー46により覆われる(
図4参照)。クラッチカバー46にはクラッチ作動部(図示せず)が設けられ、手動操作により変速クラッチ45を作動することができる。
【0026】
図3を参照して、メイン軸32とカウンタ軸33は、内燃機関21のクランク軸22の後方にあって、互いに上下位置にあり、メイン軸32より上方でカウンタ軸33より後方位置に、シフトドラム41が配置されている。シフトドラム41の回転軸には、シフトドラム41の回転角を検出するドラム角度センサ84(ギヤポジションセンサ)が設けられている。
【0027】
シフトドラム41の斜め前下方で変速被動ギヤ群33gとの間にシフトフォーク軸42がメイン軸32やカウンタ軸33と平行に設けられ、シフトフォーク軸42にシフトフォーク43が左右軸方向に摺動自在に軸支されている。
【0028】
シフトフォーク43は、係合ピン43pがシフトドラム41のリード溝に摺動可能に係合し、二股に分かれたフォーク部がメイン軸32およびカウンタ軸33に摺動自在に軸支されたシフタギヤに係合している。
【0029】
したがって、シフトドラム41が回動されると、シフトドラム41のリード溝に案内されて軸方向に移動するシフトフォーク43がシフタギヤを移動して、シフタギヤのドグクラッチの噛合いにより、メイン軸32とカウンタ軸33の1対の変速ギヤ対の噛合いが有効となり1つの変速段が確立する。
【0030】
シフトドラム41の前方斜め上には、車幅方向(左右方向)に指向したシフトスピンドル51がクランクケース23に回動自在に軸支されて配置されている。
【0031】
図3および
図4を参照して、シフトスピンドル51は上側クランクケース23Uの上壁23Uaの左右方向に指向して半円筒状に膨出した膨出部23Ucの内面に沿って配設されている。
【0032】
シフトスピンドル51の右端にはラチェットアーム53が嵌着されており(
図4参照)、ラチェットアーム53とシフトドラム41の右側軸端部との間に動力を伝達し、間欠的にシフトドラム41を回動するシフトドラム駆動機構52が構成されている(
図4参照)。
【0033】
シフトスピンドル51は、クランクケース23を左方に貫通して外部に突出している。
図2および
図4を参照して、シフトスピンドル51の突出した左端部の下方には、支持ブラケット60が左側センターフレーム4の下端部に固着されて設けられており、支持ブラケット60に突設されたシフト支軸61に前端を軸支されたシフト操作レバー62が後方に延びて配設されている。シフト操作レバー62の後端部にはシフトペダル63が左方に向けて突設されている。
【0034】
シフト操作レバー62は、シフトスピンドル51の左端の下方に位置し、シフト操作レバー62とシフトペダル63とがリンク機構70を介して連結されている。
【0035】
図4を参照して、リンク機構70は、シフトスピンドル51のクランクケース23から左方に突出した左端部に嵌着されたシフトアーム71と下方のシフト操作レバー62とを、ほぼ鉛直方向に指向したシフトロッド部材72が連結して構成されている。
【0036】
シフトロッド部材72の下端は、シフト支軸61に軸支されて後端のシフトペダル63を上下に揺動可能なシフト操作レバー62の中央よりシフト支軸61に寄った部分に形成された支持片62aと連結ピン62pにより軸着接続され、シフトロッド部材72の上端は、シフトスピンドル51の左端部に前端を嵌着されたシフトアーム71の後端と連結ピン71pにより接続されている(
図2,
図4参照)。
【0037】
シフトロッド部材72には、弾性部材により操作力を伝達するロストモーション機構73(伝達機構)が介装されている。ロストモーション機構73は、変速機31のドグクラッチのドグ当たりの衝撃を吸収して、良好な変速操作フィーリングを得るものである。そして、ロストモーション機構73には、ロストモーション機構73により伸縮するシフトロッド部材72の伸縮ストローク量を検出するシフトストロークセンサ75が付設されている。
【0038】
ロストモーション機構73は、上流側部分と下流側部分との間にコイルスプリングが介装されて伸縮する構造であり、シフトストロークセンサ75は、上流側部分と下流側部分の相対移動距離(伸縮ストローク量)を検出するリニア変位センサである。
【0039】
図2を参照して、シフト操作レバー62の後端のシフトペダル63の後方で若干高い位置にバックステップ17が突設されており、シート14に着座した運転者が左足をバックステップ17に載せた状態で、バックステップ17を支点に足先をシフトペダル63に下から引っ掛け蹴り上げると、シフトペダル63の操作方向に応じてシフト操作レバー62が上方に揺動してシフトアップ操作ができ、足先をシフトペダル63に載せて踏み込むと、シフトペダル63の操作方向に応じてシフト操作レバー62が下方に揺動してシフトダウン操作ができる。
【0040】
すなわち、シフトアップ時は、シフト操作レバー62を上方に揺動するので、連結ピン62pにより軸着されたシフトロッド部材72が押し上げられる。連結ピン71pを介してシフトアーム71は上方に揺動し、シフトアーム71が嵌着されたシフトスピンドル51を左側面視(
図2)で反時計回りに回動する。
【0041】
シフトダウン時は、シフト操作レバー62を下方に揺動するので、連結ピン62pにより軸着されたシフトロッド部材72が引き下げられる。連結ピン71pを介してシフトアーム71は下方に揺動し、シフトアーム71が嵌着されたシフトスピンドル51を左側面視(
図2)で時計回りに回動する。なお、前記したように、シフトスピンドル51の回動は、シフトドラム駆動機構52を介してシフトドラム41を回動して、変速機31の変速段が切り換えられる。
【0042】
シフトペダル63の操作による変速操作があり、シフト操作レバー62が揺動され、シフトロッド部材72の押し上げ・引き下げがあると、ロストモーション機構73のコイルスプリングが圧縮・伸長するので、シフトペダル63の荷重として、この伸縮ストローク量をシフトストロークセンサ75が検出することができる。
【0043】
図5は変速制御装置における制御ブロック図である。
図5に示されるように、各種のセンサの検出信号は、ECU(電子制御ユニット:制御部)80に入力される。回転数センサ81は内燃機関21の運転状態を検出する。ドラム角度センサ84はシフトドラム41の回転角を検出する。スタンド回動センサ181はサイドスタンド15の回動を検出する。スタンド回動センサ181は例えば、サイドスタンド15の近傍に設けられ、サイドスタンド15の検出面との相対距離の変化を検出する変位センサである。傾斜センサ182は鞍乗り型車両1(車体フレーム2)の接地面に対する鉛直線からの傾斜角度(ロール角)を検出するセンサである。
【0044】
図10は、鞍乗り型車両1の傾斜状態を例示する図である。
図10に示すように、鞍乗り型車両1の前後方向に延在する軸をx軸、鞍乗り型車両1の車幅方向に延在する軸をy軸、鞍乗り型車両1の上下方向に延在する軸をz軸とする。前後方向に延在するx軸に対する回転(傾斜)であり、接地面に対する鉛直線からの傾斜角度αをロール角として示す。
【0045】
ECU80は、各種のセンサの検出信号に基づいて、スロットル駆動装置85,燃料供給装置86,点火装置87、変速機31等に制御信号を出力して駆動制御する。また、記憶部88は、予め行った学習により設定された、ニュートラルのシフトポジションに対応したドラム角度センサ84の回転角度の学習情報を記憶する。また、記憶部88は、予め行った学習により設定された、ニュートラル位置の基準位置(基準角度)を示すニュートラル基準角度を記憶する。
【0046】
ECU80は、鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態で、ドラム角度センサ84により、変速機31のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、ドラム角度センサ84により検出された回転角度を、補正情報として取得し、補正情報に基づいて、記憶部88に記憶されたニュートラル基準角度を補正する。ECU80は、シフトストロークセンサ75の検出信号の変換に基づいて取得したペダル荷重が閾値荷重以下であり、後述するペダル荷重が実質的にゼロとなっていると判断できる補正条件が成立する場合に、補正情報の取得を行う。
【0047】
図6は、ECU80(制御部)による処理の流れを示すフローチャートである。
図6の各工程は、記憶部88に記憶されているコンピュータプログラムをECU80が実行することによって行われてもよい。なお、
図8、
図9の各工程における処理も
図6と同様に、ECU80が記憶部88に記憶されているコンピュータプログラムを実行することによって行われてもよい。
【0048】
S610において、ECU80は、鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であるか否かに基づいて、鞍乗り型車両が運転状態であるか否かを判定する。ここで、鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオフになってから所定時間内は、鞍乗り型車両の終了処理のためにECU80が起動状態であるので、鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオフになってから所定時間内も運転状態であると判定する。S610の判定において、鞍乗り型車両が運転状態でない場合に(S610-NO)、ECU80は処理を終了する。一方、鞍乗り型車両が運転状態である場合に(S610-YES)、ECU80は処理をS620に進める。
【0049】
S620において、ECU80は、ドラム角度センサ84の検出信号に基づいて、変速機31のシフトポジションとしてニュートラルが検出されたか判定する。S620の判定において、変速機31のシフトポジションとしてニュートラルが検出されていない場合に(S620-NO)、ECU80は処理を終了する。一方、シフトポジションとしてニュートラルが検出された場合に(S620-YES)、ECU80は処理をS630に進める。
【0050】
S630において、ECU80は、ドラム角度センサ84により検出された回転角度を、補正情報として取得して良い補正条件が成立しているか否かを判定する。
【0051】
ここで、補正条件とは、シフトストロークセンサ75の検出信号の変換に基づいて取得した、シフトペダル63に作用するペダル荷重が閾値荷重(基準電圧)以下であり、ペダル荷重が実質的にゼロとなっていると判断できる条件である。補正情報を取得できる補正条件には、複数の補正条件(第1の補正条件、第2の補正条件、第3の補正条件)が設定されており、各補正条件には優先度が設定されている。
【0052】
ECU80は、スタンド回動センサ181の検出信号及び傾斜センサ182の検出信号、およびインギヤ状態からニュートラルに変更されてから時間を計測するタイマー信号に基づいて、補正条件が成立しているかを判定する。ECU80は、補正条件が成立しない場合(S630-NO)に処理を終了する。一方、ECU80は、補正条件が成立する場合(S630-YES)、処理をS635に進めて、補正情報を取得する。
【0053】
S635において、ECU80は、補正情報としてドラム角度センサ84により検出された回転角度を取得する。ここで、ECU80は取得した補正情報が正常な値であるか判定し、補正情報が正常である場合に処理をS640に進める。ECU80は、補正情報が正常な値であるか否の判定を、取得した補正情報と、基準電圧(基準角度)との比較に基づいて行う。ここで、基準電圧は、工場出荷時もしくは車両整備時にペダル荷重が無い状態で学習したイニシャル値として記憶部88に設定されているデータである。補正情報と基準電圧との差分Δ1が閾値TH以内である場合に、ECU80は、取得した補正情報が正常と判定し、処理をS640に進める。
【0054】
S640において、ECU80は、S635で取得した補正情報に基づいて、ニュートラル基準角度(=学習情報)の補正を行う。
【0055】
ここでは、サイドスタンド15の回動(サイドスタンド15の出し入れ)をスタンド回動センサ181により検出する。また、左足で鞍乗り型車両1を支えている状態として、傾斜センサ182により、運転者から見て、車体フレーム2の車体左側(紙面から見て
図10の右側)におけるロール角α(
図10)を検出する。あるいは、インギヤ状態からニュートラルに変更されてからドラム角度が安定する第1の所定時間が経過後、第1の所定時間よりも長い第2の所定時間が経過する前であるか否かを検出する。これらの補正条件は、ペダル荷重が実質的にゼロとなっていると推定される状態であり、その確実性によって各条件に優先度を設定する。本実施形態では、サイドスタンド15の回動を検出した状態の優先度を最も高く、次いで車体フレーム2の車体左側への傾斜を検出した状態、最後にインギヤからニュートラルに変更されてから所定時間内の状態を設定する。なお優先度の設定は任意に変更することが可能である。また、ECU80は、スタンド回動センサ181及び傾斜センサ182以外のセンサの検出信号を用いて、運転者がシフトペダル63を操作していない状況を判定することも可能である。例えば、シフトストロークセンサ75の検出信号を用いて、ペダル荷重が閾値荷重(閾値操作量)以下となる状況を判定することも可能である。
【0056】
図7は、記憶部88に記憶されている補正情報のテーブルST700、及び、補正情報及び重み係数に基づいた学習情報の補正処理ST710を例示する図である。優先度として、第1の優先度、第2の優先度、第3の優先度が設定されている。なお、優先度の分類は、
図7の例では3つであるが、この例に限定されず、第4の優先度以上に分類して、補正情報を設定することも可能である。
【0057】
テーブルST700において、第1の優先度に対応する補正情報は、第1の補正情報w1であり、第2の優先度に対応する補正情報は、第2の補正情報w2であり、第3の優先度に対応する補正情報は、第3の補正情報w3である。第1の補正情報w1は第2の補正情報w2よりも大きい重み係数が設定され、第2の補正情報w2は、第3の補正情報w3よりも大きい重み係数が設定されている。
【0058】
図7のテーブルST700に示すように、第1の補正情報及び第1の重み係数により学習情報が補正されると、補正回数の欄には、補正済であることを示す識別情報(「1」)が設定され、鞍乗り型車両のイグニションOFFまで、識別情報(「1」)の設定は保持される。識別情報(「1」)の設定は鞍乗り型車両のイグニションOFFのタイミングでリセットされ、識別情報として「0」が設定される。ECU80は、第1の補正情報及び第1の重み係数により補正を行った後に、鞍乗り型車両のイグニッションONからイグニッションOFFまでの運転サイクルにおいて、補正を行わない。つまり、補正情報を取得できる補正条件が成立した場合であっても、より優先度の高い補正条件に基づいて、学習情報の補正が既に行われている場合には、優先度の低い補正条件での補正処理は行われない。
図7のST700ように第1の優先度の補正処理を行った場合には、車両のイグニッションOFFまでの運転サイクルにおいて、その後の補正処理を行わない。例えば、第1の優先度の第1の補正条件が成立して、学習情報の補正処理が行われている場合には、その後、第1の優先度よりも低い、第2の優先度の第2の補正条件、または第3の補正条件が成立するような場合であっても、車両のイグニッションOFFまでの運転サイクルにおい補正処理を行わない。
【0059】
図8は、補正処理の具体的な処理の流れを説明するフローチャートである。
【0060】
S810において、ECU80は、スタンド回動センサ181の検出信号に基づいて、サイドスタンド15の回動が検出されたか判定する。S810の判定において、サイドスタンド15の回動が検出された場合(S810-YES)、ECU80は処理をS820に進める。
【0061】
S820において、ECU80は、ドラム角度センサ84により検出された回転角度を補正情報として取得する。ECU80は、取得した補正情報が基準電圧と比較して所定の範囲内であれば、正常な補正情報として取得する。ECU80は、ニュートラルポジションで、ドラム角度センサ84により出力された補正情報と基準電圧(工場学習値)との差分Δ1が閾値TH以内であるか否かを判定する。ここで、閾値THとは、ST710に示すように、工場出荷時にイニシャル値として設定されている基準電圧(工場学習値)と、補正情報を信頼できる上限値との差分である。ECU80は、差分Δ1が閾値TH以内である場合(Δ1≦閾値TH)、取得した補正情報(第1の補正情報)は正常と判定し、処理をS830に進める。
【0062】
S830において、ECU80は、補正情報として取得した現在のシフトドラム41のニュートラル角度と、ニュートラル基準角度(=学習情報)とを比較して、現在のニュートラル角度とニュートラル基準角度(学習情報)との差分(オフセット角度Δ2)を取得する。そして、ECU80は、取得したオフセット角度Δ2に、現在のニュートラル角度を取得した補正条件の優先度に応じた重み係数(第1の重み係数)を掛けた値を、学習情報に加算することにより、学習情報(ST710)を補正する。補正された学習情報は、新たな学習情報(新たなニュートラル基準角度)として記憶部88に記憶され、次回の補正処理で補正される対象となる。
【0063】
ニュートラル基準角度(学習情報)は記憶部88に記憶されている情報であり、走行履歴がある場合には、前回の補正処理により補正された学習情報であり、走行履歴が無く、最初の補正処理の場合には、工場出荷時にイニシャル値として設定されている値が学習情報となる。以上の流れにより、第1の補正情報を用いた補正処理を終了する。
【0064】
一方、S810の判定において、サイドスタンド15の回動が検出されていない場合(S810-NO)、ECU80は処理をS840に進める。
【0065】
S840において、ECU80は、傾斜センサ182の検出信号に基づいて、車体フレーム2のロール角αが所定の閾値範囲内(例えば、2度から4度の範囲内)であるか判定する。S840の判定において、所定の閾値範囲内のロール角が検出された場合(S840-YES)、ECU80は処理をS850に進める。
【0066】
S850において、ECU80は、ドラム角度センサ84により検出された回転角度を補正情報として取得する。ECU80は、取得した補正情報が基準電圧と比較して所定の範囲内であれば、正常な補正情報として取得する。取得した補正情報が正常か否かの判定はS820の処理と同様である。ECU80は、取得した補正情報(第2の補正情報)が正常である場合、処理をS860に進める。
【0067】
S860において、ECU80は、補正情報として取得した現在のシフトドラム41のニュートラル角度と、ニュートラル基準角度(=学習情報)とを比較して、現在のニュートラル角度とニュートラル基準角度(学習情報)との差分(オフセット角度Δ2)を取得する。そして、ECU80は、取得したオフセット角度Δ2に、現在のニュートラル角度を取得した補正条件の優先度に応じた重み係数(第2の重み係数)を掛けた値を、学習情報に加算することにより、学習情報(ST710)を補正する。補正された学習情報は、新たな学習情報(新たなニュートラル基準角度)として記憶部88に記憶され、次回の補正処理で補正される対象となる。以上の流れにより、第2の補正情報を用いた補正処理を終了する。
【0068】
一方、サイドスタンド15の回動が検出されておらず(S810-NO)、かつ、所定の閾値範囲内のロール角が検出されていない場合(S840-NO)、ECU80は処理をS870に進める。
【0069】
S870において、ECU80は、インギヤからニュートラル(N)に変更されてからドラム角度が安定する第1の所定時間経過後であって、第1の所定時間よりも長い第2の所定時間内であるか否か判定し、第2の所定時間経過後であれば(S870-NO)、処理を終了する。一方、S870の判定で、第2の所定時間内である場合(S870-YES)に処理をS880に進める。
【0070】
S880において、ECU80は、ドラム角度センサ84により検出された回転角度を補正情報として取得する。ECU80は、取得した補正情報が基準電圧と比較して所定の範囲内であれば、正常な補正情報として取得する。取得した補正情報が正常か否かの判定はS820の処理と同様である。ECU80は、取得した補正情報(第3の補正情報)が正常である場合、処理をS890に進める。
【0071】
S890において、ECU80は、補正情報として取得した現在のシフトドラム41のニュートラル角度と、ニュートラル基準角度(=学習情報)とを比較して、現在のニュートラル角度とニュートラル基準角度(学習情報)との差分(オフセット角度Δ2)を取得する。そして、ECU80は、取得したオフセット角度Δ2に、現在のニュートラル角度を取得した補正条件の優先度に応じた重み係数(第3の重み係数)を掛けた値を、学習情報に加算することにより、学習情報(ST710)を補正する。補正された学習情報は、新たな学習情報(新たなニュートラル基準角度)として記憶部88に記憶され、次回の補正処理で補正される対象となる。以上の流れにより、第3の補正情報を用いた補正処理を終了する。
【0072】
ECU80は、補正情報として取得した、現在のシフトドラム41のニュートラル角度と、記憶部88に記憶されているニュートラル位置(N位置)の基準位置(基準角度)を示すニュートラル基準角度(=学習情報)とを比較する。そして、ECU80は、現在のニュートラル角度とニュートラル基準角度(学習情報)との差分(オフセット角度Δ2)を取得する。ECU80は、取得したオフセット角度Δ2に、現在のニュートラル角度を取得した補正条件の優先度に応じた重み係数を掛けた値(オフセット角度×重み係数)を、学習情報に加算して、学習情報を補正する。ここで補正された学習情報が新たな学習情報として取得される。以上の流れにより、補正処理を終了する。
【0073】
なお、ST710の補正処理の例では、補正情報がニュートラル基準角度(学習情報)よりも大きい場合を例示しているが、補正情報がニュートラル基準角度(学習情報)よりも小さい場合には、例えば、オフセット角度Δ2に重み係数を掛けた値を学習情報から減算して、学習情報を補正することにより、新たな学習情報を取得してもよい。
【0074】
図9は、補正処理を行うタイミングに関する処理の流れを説明するフローチャートである。
【0075】
S910において、鞍乗り型車両を起動する(イグニションON)。S920において、ECU80は、ドラム角度センサ84から、変速機31のシフトポジションとしてニュートラルを検出する検出信号を取得する。
【0076】
S930において、ECU80は、ドラム角度センサ84によりニュートラルが検出された時点から閾値時間が経過したか判定する。閾値時間が経過していない場合(S930-NO)、ECU80は処理をS920に戻し、ニュートラルの検出状態が継続した状態で、閾値時間が経過するまで待機状態とする。
【0077】
S930の判定において、閾値時間が経過した場合(S930-YES)、ECU80は処理をS940に進める。
【0078】
S940において、ECU80は、第1の補正情報によりシフトドラム41の回転角度が補正済であるか判定する。
図7のテーブルST700に示すように、第1の補正情報によりシフトドラム41の回転角度が補正されると、補正回数の欄には、補正済であることを示す識別情報(「1」)が設定される。ECU80は、テーブルST700の識別情報の設定に基づいて、第1の補正情報によりシフトドラム41の回転角度が補正済であるか否かを判定する。
【0079】
第1の補正情報によりシフトドラム41の回転角度が補正済である場合(S940-YES:識別情報「1」)、ECU80は処理をS970に進める。
【0080】
一方、S940の判定において、第1の補正情報によりシフトドラム41の回転角度が補正済でない場合(S940-NO:識別情報「0」)、ECU80は処理をS950に進める。
【0081】
S950において、ECU80は、補正条件が成立するか否かを判定する。ECU80は、補正条件の成立判定として、
図8のS810、S840、S870の条件が成立するか否かを判定し、いずれか一方の補正条件(S810、S840、S870)が成立する場合(S950-YES)、処理をS960に進める。補正条件(S810、S840、S870)が成立しない場合(S950-NO)、ECU80は処理をS970に進める。
【0082】
なお、S950の補正条件の判定処理では、優先度の高い補正条件が成立している場合には、補正処理を行わない。すなわち、第1の補正条件は第2の補正条件よりも高い優先度が設定されており、また、第1の補正条件は第3の補正条件よりも高い優先度が設定されている。第1の補正条件が成立して、補正処理が行われている場合には、ECU80は、第2の補正条件及び第3の補正条件による補正処理を行わない(S950-NO)。第2の補正条件または第3の補正条件が成立する場合(S950-YES)、ECU80は処理をS960に進める。
【0083】
また、第2の補正条件は第3の補正条件よりも高い優先度が設定されている。第1の補正条件または第2の補正条件が成立して、補正処理が行われている場合には、第3の補正条件による補正処理を行わない(S950-NO)。第3の補正条件が成立する場合(S950-YES)、ECU80は処理をS960に進める。
【0084】
S960において、ECU80は、成立した補正条件の補正処理を行う。この場合、補正条件(S810、S840、S870)のうち、補正条件が成立したいずれかの補正情報(第1の補正情報、第2の補正情報、第3の補正情報)を用いて、補正処理を行う。本ステップにおいて、第1の補正情報を用いた補正処理が行われた場合に、
図7のテーブルST700における識別情報は、「0」から「1」に変更される。同様に、第2の補正情報、第3の補正情報を用いた補正処理が行われた場合に、
図7のテーブルST700における識別情報は、「0」から「1」に変更される。ECU80は、補正処理の終了後、処理をS970に進める。
【0085】
S970において、ECU80は、鞍乗り型車両の起動終了(イグニションOFF)か否かを判定、鞍乗り型車両の起動終了でない場合(S970-NO)、処理をS920に戻し、同様の処理を繰り返す。一方、S970の判定により、鞍乗り型車両の起動終了の場合(S970-YES)、処理を終了する。
【0086】
<実施形態のまとめ>
(項目1)上記実施形態の鞍乗り型車両は、内燃機関(21)と、前記内燃機関(21)の駆動力を複数の変速段を切り替えて確立した伝達経路を介して出力軸(33)に伝達する変速機(31)と、を有する鞍乗り型車両であって、
前記内燃機関(21)の運転状態を検出する回転数センサ(81)と、
前記変速機(31)の変速段を切り替えるシフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)に伴って回動するシフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
予め行った学習により設定された、前記変速機(31)のニュートラルのシフトポジションに対応した前記ドラム角度センサ(84)の回転角度の学習情報を記憶する記憶部(88)と、
前記鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であり、かつ、前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、前記シフトペダル(63)のペダル荷重が閾値荷重以下と想定される補正条件が成立する場合に、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサの検出値を補正情報として取得し、前記学習情報および前記補正情報に基づいて前記学習情報を補正する制御部(80)と、を備える。
【0087】
項目1の鞍乗り型車両によれば、ドラム角度センサの出力が安定した状態を検知して、ニュートラル基準角度を示す学習情報を補正することが可能な車両を提供することができる。ペダル操作が行われていないと想定されるシチュエーションで学習情報を補正する機会を設けることができ、ニュートラルポジションの精度を保つことができる。
【0088】
(項目2)前記制御部(80)は、前記鞍乗り型車両のイグニッションオンからイグニッションオフまでの運転サイクルにおいて、前記補正を少なくとも1回行う。
【0089】
項目2の鞍乗り型車両によれば、過度に補正処理が行われることを抑制することにより、ニュートラルポジションの精度を保ちつつ、ECU(制御部)の処理負荷を低減することができる。
【0090】
(項目3) 前記鞍乗り型車両(1)のサイドスタンド(15)の回動を検出するスタンド回動センサ(181)と、
前記鞍乗り型車両(1)の車体フレーム(2)のロール角の変化を検出する傾斜センサ(182)と、を更に備え、
前記補正条件は、
前記スタンド回動センサ(181)の検出信号に基づいて、前記サイドスタンド(15)の回動を検出した状態である第1の補正条件と、
前記傾斜センサ(182)の検出信号に基づいて、前記車体フレーム(2)のロール角が所定の閾値範囲内に傾斜した状態である第2の補正条件と、
前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションがニュートラルに変更されてから所定時間以内の状態である第3の補正条件のうち、少なくとも一つを含む。
【0091】
項目3の鞍乗り型車両によれば、優先度に応じた補正条件の補正情報を用いて学習情報を補正することが可能になる。
【0092】
(項目4)前記制御部(80)は、前記補正条件を複数有するものであり、
複数の補正条件には優先度が設定されており、前記制御部(80)は、前記優先度の高い条件の成立時の補正情報を用いて前記回転角度を補正する。
(項目5)前記第1の補正条件は前記第2の補正条件よりも優先度が高い。
(項目6)前記第1の補正条件は前記第3の補正条件よりも優先度が高い。
(項目7)前記第2の補正条件は前記第3の補正条件よりも優先度が高い。
(項目8) 前記制御部(80)は、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサ(84)の検出値と、前記記憶部(88)に記憶されている学習情報の値との差分に基づいて前記学習情報を補正するものであり、
前記差分を前記学習情報の補正に反映する補正係数が補正条件ごとに設定されており、
前記優先度の高い補正条件には、当該優先度の低い補正条件に比べて高い補正係数が設定される。
(項目9) 前記制御部(80)は、前記鞍乗り型車両のイグニッションオンからイグニッションオフまでの運転サイクルにおいて、前記優先度の高い補正条件で補正処理を実施した場合には、前記運転サイクルの終了までの間において再度の補正処理を実施しない。
【0093】
項目4乃至9の鞍乗り型車両によれば、優先度の高い条件の補正情報を用いて学習情報を補正することが可能になる。
【0094】
本発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1:自動二輪車、20:パワーユニット、21:内燃機関、31:変速機、
32:メイン軸、33:カウンタ軸(出力軸)、41:シフトドラム、
43:シフトフォーク、45:変速クラッチ、63:シフトペダル、
70:リンク機構、75:シフトストロークセンサ、
80:ECU(制御部)、84:ドラム角度センサ、88:記憶部、181:スタンド回動センサ、182:傾斜センサ
【手続補正書】
【提出日】2024-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(21)と、前記内燃機関(21)の駆動力を複数の変速段を切り替えて確立した伝達経路を介して出力軸(33)に伝達する変速機(31)と、を有する鞍乗り型車両であって、
前記内燃機関(21)の運転状態を検出する回転数センサ(81)と、
前記変速機(31)の変速段を切り替えるシフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)に伴って回動するシフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
予め行った学習により設定された、前記変速機(31)のニュートラルのシフトポジションに対応した前記ドラム角度センサ(84)の回転角度の学習情報を記憶する記憶部(88)と、
前記鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であり、かつ、前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、前記シフトペダル(63)のペダル荷重が閾値荷重以下と想定される補正条件が成立する場合に、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサの検出値を補正情報として取得し、前記学習情報および前記補正情報に基づいて前記学習情報を補正する制御部(80)と、を備え、
前記補正条件には、サイドスタンド(15)の回動を検出した状態である第1の補正条件と、車体フレーム(2)のロール角が所定の閾値範囲内に傾斜した状態である第2の補正条件と、前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションがニュートラルに変更されてから所定時間以内の状態である第3の補正条件のうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記制御部(80)は、前記鞍乗り型車両のイグニッションオンからイグニッションオフまでの運転サイクルにおいて、前記鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であり、かつ、前記ドラム角度センサ(84)により変速機(31)のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、前記補正条件が成立した場合には、前記補正を少なくとも1回行うことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
前記鞍乗り型車両(1)の前記サイドスタンド(15)の回動を検出するスタンド回動センサ(181)と、
前記鞍乗り型車両(1)の前記車体フレーム(2)のロール角の変化を検出する傾斜センサ(182)と、を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
前記制御部(80)は、前記補正条件を複数有するものであり、
複数の補正条件には優先度が設定されており、前記制御部(80)は、前記優先度の高い条件の成立時の補正情報を用いて前記回転角度を補正することを特徴とする請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記第1の補正条件は前記第2の補正条件よりも優先度が高いことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記第1の補正条件は前記第3の補正条件よりも優先度が高いことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記第2の補正条件は前記第3の補正条件よりも優先度が高いことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項8】
前記制御部(80)は、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサ(84)の検出値と、前記記憶部(88)に記憶されている学習情報の値との差分に基づいて前記学習情報を補正するものであり、
前記差分を前記学習情報の補正に反映する補正係数が補正条件ごとに設定されており、
前記優先度の高い補正条件には、当該優先度の低い補正条件に比べて高い補正係数が設定されることを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【請求項9】
前記制御部(80)は、前記鞍乗り型車両のイグニッションオンからイグニッションオフまでの運転サイクルにおいて、前記優先度の高い補正条件で補正処理を実施した場合には、前記運転サイクルの終了までの間において再度の補正処理を実施しないことを特徴とする請求項4に記載の鞍乗り型車両。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の一態様の鞍乗り型車両は、内燃機関(21)と、前記内燃機関(21)の駆動力を複数の変速段を切り替えて確立した伝達経路を介して出力軸(33)に伝達する変速機(31)と、を有する鞍乗り型車両であって、
前記内燃機関(21)の運転状態を検出する回転数センサ(81)と、
前記変速機(31)の変速段を切り替えるシフトペダル(63)の操作により回動されたシフトスピンドル(51)に伴って回動するシフトドラム(41)の回転角度を検出するドラム角度センサ(84)と、
予め行った学習により設定された、前記変速機(31)のニュートラルのシフトポジションに対応した前記ドラム角度センサ(84)の回転角度の学習情報を記憶する記憶部(88)と、
前記鞍乗り型車両のイグニッションスイッチがオン状態であり、かつ、前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションとしてニュートラルが検出された状態で、前記シフトペダル(63)のペダル荷重が閾値荷重以下と想定される補正条件が成立する場合に、前記補正条件の成立時における前記ドラム角度センサの検出値を補正情報として取得し、前記学習情報および前記補正情報に基づいて前記学習情報を補正する制御部(80)と、を備え、
前記補正条件には、サイドスタンド(15)の回動を検出した状態である第1の補正条件と、車体フレーム(2)のロール角が所定の閾値範囲内に傾斜した状態である第2の補正条件と、前記ドラム角度センサ(84)により前記変速機(31)のシフトポジションがニュートラルに変更されてから所定時間以内の状態である第3の補正条件のうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする。