(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143590
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】連結型ビニルポリマー化合物及びその製造方法、それを用いたプラスチック製品及びその分解処理方法、並びに接合体の分離方法
(51)【国際特許分類】
C08F 20/60 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08F20/60 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056348
(22)【出願日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名:高分子学会関東支部第7回神奈川地区講演会プログラム&一般・学生発表予稿集、第P1頁、発行者:公益社団法人高分子学会関東支部、発行年月日:令和4年12月7日 集会名:高分子学会関東支部 第7回神奈川地区講演会、主催者:公益社団法人高分子学会関東支部、開催日:令和4年12月9日 刊行物名:日本化学会第103春季年会講演予稿集、第K301-3am-07頁、発行者:公益社団法人日本化学会、発行年月日:令和5年3月8日 集会名:日本化学会第103春季年会、主催者:公益社団法人日本化学会、開催日:令和5年3月24日
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】木原 伸浩
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AB02P
4J100AL03P
4J100AM23Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA39
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA19
4J100FA28
4J100GA19
4J100JA03
4J100JA57
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低分子量ビニルポリマーをジアシルヒドラジン骨格で連結することで酸化剤と接触した際に低分子量化することが可能であり、かつ、ゲル化の抑制された高分子量ビニル系ポリマー、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ビニルモノマーと化学式(2)で表す架橋化合物とをラジカル重合させてポリマーとすることで、ジアシルヒドラジン骨格をもつ連結型ビニルポリマー化合物とする。このとき、三次元網目構造の発達によるゲル化や硬化を抑制するために、(a)連鎖移動剤を共存させる、又は(b)重合開始剤の量を適切に選択する。これにより、下記化学式(1)で表す部分構造を連結部に備え、塩化メチレン可溶割合が全体の80質量%以上となる、本発明の連結型ビニルポリマー化合物が得られる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表す部分構造を連結部に備え、塩化メチレン可溶割合が全体の80質量%以上となる連結型ビニルポリマー化合物。
【化1】
(上記化学式(1)中、*は、ビニルポリマー主鎖への結合を表す。)
【請求項2】
少なくとも1つの末端が、連鎖移動剤の残基、又はラジカル重合開始剤由来の重合開始末端で終止していることを特徴とする請求項1記載の連結型ビニルポリマー化合物。
【請求項3】
前記連鎖移動剤の残基が、フェニルセレニド基(-SePh)であり、前記重合開始末端がイソブチロニトリル基(-C(CH3)2CN)であることを特徴とする請求項2記載の連結型ビニルポリマー化合物。
【請求項4】
主鎖がスチレン又は(メタ)アクリル酸エステルの付加重合体で形成される請求項1記載の連結型ビニルポリマー化合物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステルが、アクリル酸ブチルである請求項4記載の連結型ビニルポリマー化合物。
【請求項6】
ビニルモノマーと下記化学式(2)で表す架橋化合物とを連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させることを特徴とする連結型ビニルポリマー化合物の製造方法。
【化2】
【請求項7】
前記連鎖移動剤が、ジフェニルジセレニドである請求項6記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法。
【請求項8】
前記ビニルモノマーがスチレン又は(メタ)アクリル酸エステルである請求項6又は7記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法。
【請求項9】
前記ビニルモノマーがスチレンであり、前記ジフェニルジセレニドの使用量が、スチレンのモル数に対して0.1モル%以上2モル%以下である請求項8記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法。
【請求項10】
前記ビニルモノマーがアクリル酸ブチルであり、前記ジフェニルジセレニドの使用量が、アクリル酸ブチルのモル数に対して0.1モル%以上0.4モル%以下であることを特徴とする請求項8記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法。
【請求項11】
ビニルモノマーと下記化学式(2)で表す架橋化合物とをラジカル重合させる連結型ビニルポリマー化合物の製造方法であって、前記ビニルモノマーとラジカル重合開始剤との比率を調節することにより、得られる重合体のゲル化を抑制することを特徴とする連結型ビニルポリマー化合物の製造方法。
【化3】
【請求項12】
スチレンと前記架橋化合物とをアゾビスイソブチロニトリルを用いてラジカル重合させる場合において、ラジカル重合時におけるアゾビスイソブチロニトリルの使用量が、スチレンのモル数に対して6モル%以上であることを特徴とする請求項11記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか1項記載の連結型ビニルポリマー化合物を含むことを特徴とするプラスチック製品。
【請求項14】
請求項13記載のプラスチック製品に次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液を接触させることで、当該プラスチック製品に含まれる連結型ビニルポリマー化合物を低分子量化させることを特徴とする、プラスチック製品の分解処理方法。
【請求項15】
請求項1~5のいずれか1項記載の連結型ビニルポリマー化合物により接着されている接合体において、当該接合体の接合面に次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液を接触させることを特徴とする接合体の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結型ビニルポリマー化合物及びその製造方法、それを用いたプラスチック製品及びその分解処理方法、並びに接合体の分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点等から、廃棄しても自然に分解されるような、生分解性高分子や光分解性高分子に代表される分解性高分子材料の開発が盛んに行われている。しかし、生分解性高分子や光分解性高分子は、通常の使用環境において経時的な劣化を伴うことが問題となっている。
【0003】
このため、使用時に経時的に劣化することなく、廃棄時に速やかに分解可能なポリマー化合物が求められており、廃棄時に酸化剤により容易に分解可能な高分子化合物として、ポリ(ジアシルヒドラジン)が数例提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0004】
このポリ(ジアシルヒドラジン)は、上記のように酸化剤により容易に分解することができるので、プラスチック製品の廃棄物問題を解消し得るばかりでなく、例えば、これを接着剤組成物に応用すれば、酸化剤を用いることで容易に接合状態を解除することのできる接着剤組成物になるし、塗料組成物に応用すれば、酸化剤を用いることで容易に塗膜を剥離することのできる塗料組成物になると期待される。
【0005】
特許文献1に記載されたポリ(ジアシルヒドラジン)は、ジカルボン酸の反応性誘導体(酸クロライドや活性エステル誘導体)とヒドラジンとを重縮合させること、又はジカルボン酸の反応性誘導体とジカルボン酸のジヒドラジドとを重縮合させて得られるとされ、また、特許文献2に記載されたポリ(ジアシルヒドラジン)は、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物を適切な酸化剤の存在下で酸化重合させることで得られるとされる。そしてこれらは、いずれも酸化剤により切断可能なジアシルヒドラジン骨格を備える。他に、ジアシルヒドラジン構造を備えたジフェノールをエポキシ樹脂と重付加させて得られるポリマー化合物は、酸化剤により切断可能なジアシルヒドラジン骨格を備える(例えば、特許文献3を参照)。このように、ジアシルヒドラジン骨格を含むポリマー化合物は、ジカルボン酸ジヒドラジド化合物と二官能性アシル化剤との重縮合反応や重付加反応、又はジアシルヒドラジン構造を有するモノマーを用いた重縮合反応や重付加反応により得ることができる。
【0006】
また、非特許文献1には、下記化学式(2)で表すような、2つのビニル基とジアシルヒドラジン骨格とを備えた化合物であるビス(アクリロイルヒドラジン)とN,N-ジメチルアクリルアミド又はN,N-ジエチルアクリルアミドとを共重合(付加重合)させることで、架橋されたポリマー化合物の硬化物が得られるとされる。このポリマー化合物は、ビニル化合物を重合させたビニルポリマーとなる。そして、この硬化物は、それを構成するポリマー化合物の架橋部にジアシルヒドラジン骨格を備えるので、酸化剤で処理することで脱架橋されて水に可溶化するとされる。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-022315号公報
【特許文献2】特開2011-052075号公報
【特許文献3】特開2011-236381号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】N. Kihara, K. Yanaze, S. Yokoyama, M. Kaneko, Polym. J., 2019, 51, 1007-1013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の通り、酸化剤により分解可能なジアシルヒドラジン骨格を備えたポリマー化合物としては、(A)ジカルボン酸ジヒドラジド化合物を二官能性アシル化剤と重縮合反応や重付加反応させる、又はジアシルヒドラジン構造を有するモノマーを用いて重縮合反応や重付加反応させることにより、主鎖にジアシルヒドラジン骨格の導入されたものや、(B)2つのビニル基とジアシルヒドラジン骨格とを備えた化合物であるジアクリロイルヒドラジンと他のビニル化合物とを共重合させることで架橋部分にジアシルヒドラジン骨格の導入されたものが知られている。前者である(A)は、ポリマー化合物の主鎖が切断されることで低分子量化され、後者である(B)は、ポリマー化合物の架橋部分が切断されることで脱架橋された直鎖状ポリマーが得られる。
【0011】
これらのうち、(A)のような、主鎖にジアシルヒドラジン骨格の導入されたポリマー化合物は、直鎖状のポリマー化合物として得ることができ、成形も容易なので、様々なプラスチック製品に加工することができる。しかしながら、(B)のような、架橋部分にジアシルヒドラジン骨格の導入されたポリマー化合物は、ジアシルヒドラジン骨格の導入(すなわち架橋)に伴って三次元網目構造が発達する結果、成形等の加工が困難なゲル状ポリマーや硬化物となり、ジアシルヒドラジン骨格を切断(すなわち脱架橋)しても、生成する直鎖状ポリマーは高分子量ビニルポリマーである。このことは、ジアシルヒドラジン骨格の切断による低分子量化が可能であって、かつ、成形等の加工の可能なビニルポリマーを得ることが極めて困難であることを意味する。なお、本明細書において「ビニルポリマー」とは、ビニル基を有するモノマー化合物を1種以上用いた付加重合により得られるポリマーを意味するものとする。
【0012】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、低分子量ビニルポリマーをジアシルヒドラジン骨格で連結することで酸化剤と接触した際に低分子量化することが可能であり、かつ、ゲル化の抑制された高分子量ビニル系ポリマー、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ビニルモノマーと上記化学式(2)で表す架橋化合物とをラジカル重合させてポリマーとする際、(a)連鎖移動剤を共存させる、又は(b)ラジカル重合開始剤の量を適切に選択することにより、ゲル化を抑制しながら高分子量ポリマーを得ることができ、かつ得られるポリマーが酸化剤との接触により低分子量化することを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、以下のようなものを提供する。
【0014】
(1)本発明は、下記化学式(1)で表す部分構造を連結部に備え、塩化メチレン可溶割合が全体の80質量%以上となる連結型ビニルポリマー化合物である。
【化2】
(上記化学式(1)中、*は、ビニルポリマー主鎖への結合を表す。)
【0015】
(2)また本発明は、少なくとも1つの末端が、連鎖移動剤の残基、又はラジカル重合開始剤由来の重合開始末端で終止していることを特徴とする(1)項記載の連結型ビニルポリマー化合物である。
【0016】
(3)また本発明は、上記連鎖移動剤の残基が、フェニルセレニド基(-SePh)であり、上記重合開始末端が、イソブチロニトリル基(-C(CH3)2CN)であることを特徴とする(2)項記載の連結型ビニルポリマー化合物である。
【0017】
(4)また本発明は、主鎖がスチレン又は(メタ)アクリル酸エステルの付加重合体で形成される(1)項~(3)項のいずれか1項記載の連結型ビニルポリマー化合物である。
【0018】
(5)また本発明は、上記(メタ)アクリル酸エステルがアクリル酸ブチルである(4)項記載の連結型ビニルポリマー化合物である。
【0019】
(6)本発明は、ビニルモノマーと下記化学式(2)で表す架橋化合物とを連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させることを特徴とする連結型ビニルポリマー化合物の製造方法でもある。
【化3】
【0020】
(7)また本発明は、上記連鎖移動剤が、ジフェニルジセレニドである(6)項記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法である。
【0021】
(8)また本発明は、上記ビニルモノマーがスチレン又は(メタ)アクリル酸エステルである(6)項又は(7)項記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法である。
【0022】
(9)また本発明は、上記ビニルモノマーがスチレンであり、上記ジフェニルジセレニドの使用量が、スチレンのモル数に対して0.1モル%以上2モル%以下である(8)項記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法である。
【0023】
(10)また本発明は、上記ビニルモノマーがアクリル酸ブチルであり、上記ジフェニルジセレニドの使用量が、アクリル酸ブチルのモル数に対して0.1モル%以上0.4モル%以下であることを特徴とする(8)項記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法である。
【0024】
(11)本発明は、ビニルモノマーと下記化学式(2)で表す架橋化合物とをラジカル重合させる連結型ビニルポリマー化合物の製造方法であって、上記ビニルモノマーとラジカル重合開始剤との比率を調節することにより、得られる重合体のゲル化を抑制することを特徴とする連結型ビニルポリマー化合物の製造方法でもある。
【化4】
【0025】
(12)また本発明は、スチレンと前記架橋化合物とをアゾビスイソブチロニトリルを用いてラジカル重合させる場合において、ラジカル重合時におけるアゾビスイソブチロニトリルの使用量が、スチレンのモル数に対して6モル%以上であることを特徴とする(11)項記載の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法である。
【0026】
(13)本発明は、(1)項~(5)項のいずれか1項記載の連結型ビニルポリマー化合物を含むことを特徴とするプラスチック製品でもある。
【0027】
(14)本発明は、(13)項記載のプラスチック製品に次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液を接触させることで、当該プラスチック製品に含まれる連結型ビニルポリマー化合物を低分子量化させることを特徴とする、プラスチック製品の分解処理方法でもある。
【0028】
(15)本発明は、(1)項~(5)項のいずれか1項記載の連結型ビニルポリマー化合物により接着されている接合体において、当該接合体の接合面に次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液を接触させることを特徴とする接合体の分離方法でもある。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、低分子量ビニルポリマーをジアシルヒドラジン骨格で連結することで酸化剤と接触した際に低分子量化することが可能であり、かつ、ゲル化の抑制された高分子量ビニル系ポリマー、及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、連結型ビニルポリマー化合物6、及びそれを次亜塩素酸ナトリウム水溶液で処理して得られた白色固体7のGPC測定により得られたチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の連結型ビニルポリマー化合物の一実施形態、本発明の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法の第一実施態様及び第二実施態様、本発明のプラスチック製品の一実施形態、本発明のプラスチック製品の分解処理方法の一実施態様、並びに本発明の接合体の分離方法のそれぞれについて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態や実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0032】
<連結型ビニルポリマー化合物>
まずは、本発明の連結型ビニルポリマー化合物について説明する。本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、下記化学式(1)で表す部分構造を連結部に備え、塩化メチレン可溶割合が全体の80質量%以上となることを特徴とする。
【0033】
【0034】
化学式(1)で表す部分構造は、ジアシルヒドラジン骨格であり、本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、2つのビニルポリマー主鎖同士が化学式(1)で表す部分構造により連結されている。すなわち、一般式(1)において、*は、ビニルポリマー主鎖への結合を表す。なお、一般式(1)において、*を付した結合は、ビニルポリマー主鎖へ直結してもよいし、1又は複数の原子を介してビニルポリマー主鎖へ結合してもよい。
【0035】
本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、例えばプラスチック製品や接着剤等に適用される。そして、これらの適用物が通常使用される条件において、この連結型ビニルポリマー化合物は安定であり、ゆえにその適用物は優れた耐久性を示すものとなる。一方で、化学式(1)で表すジアシルヒドラジン骨格は、次亜塩素酸又はその塩の水溶液と接触した際に下記の化学反応を経て分解する。上記のように、化学式(1)で表すジアシルヒドラジン骨格は、連結型ビニルポリマー化合物におけるビニルポリマー主鎖同士を連結するので、この骨格が分解されるとビニルポリマー主鎖同士の連結が解除され、連結型ビニルポリマー化合物の分子量が急激に減少することになる。これにより、本発明の連結型ビニルポリマー化合物が適用されたプラスチック製品の廃棄処理や再資源化が容易になる他、例えばこれが接着剤に適用されれば、接着剤により接合された物品同士の接合を解除することができる等のメリットを享受することができる。なお、下記の化学反応式では、次亜塩素酸又はその塩として次亜塩素酸ナトリウムを示したが、これに限定されるものではない。
【0036】
【0037】
上記化学反応式において、R及びR’は、それぞれビニルポリマー主鎖を表す。上記化学式(1)で表すジアシルヒドラジン骨格により2つのビニルポリマー主鎖が連結された連結体1は、次亜塩素酸ナトリウムにより酸化されて反応性の高いアゾジカルボニル化合物2に変換され、このアゾジカルボニル化合物2が直ちに加水分解されることで2つのカルボン酸とジイミド3とに分解される。そして、ジイミド3はこの反応条件では直ちに窒素ガスと水に酸化される。このような化学反応で、ビニルポリマー主鎖同士を連結していたジアシルヒドラジン骨格が切断され、本発明の連結型ビニルポリマー化合物の分子量が急激に減少することになる。
【0038】
このような連結型ビニルポリマー化合物は、ビニル化合物をラジカル重合により重合させる際に、例えば下記化学式(2)で表す化合物のように2以上のビニル基とジアシルヒドラジン骨格とを備えた架橋化合物を共存させることで合成される。しかしながら、このとき、ラジカル重合中に架橋が進むため、一定量以上の架橋化合物が共存すると三次元網目構造の発達により、ポリマー化合物は、ゲル化したりや硬化したりする。ゲル化や硬化をしてしまったポリマー化合物は、成形等の加工が困難になってしまい、プラスチック製品等への応用ができなくなる。そこで、分解性を持たせるために十分な量の架橋化合物を共存させながらゲル化や硬化を抑制するために、ラジカル重合に際しては、下記化学式(2)で表す架橋化合物を共存させることに加えて、次のような2つの手段を講じることができる。1つは、架橋化合物に加えて連鎖移動剤を共存させることであり、もう1つは、ラジカル重合開始剤の添加量を調節して高分子量化を抑制することである。これらについては、本発明のビニルポリマーの製造方法の説明にて述べる。
【0039】
【0040】
連鎖移動剤は、ラジカル重合系中で成長するポリマー鎖の末端からラジカルを受取って、新たなラジカルを発生させる。この働きにより、ポリマーの伸長を停止させるが、その一方で別の成長反応を開始させる。その結果、得られるポリマーの分子量が小さくなる。連鎖移動剤がラジカルを受け取って新たなラジカルを生成させる際、連鎖移動剤の開裂により生じた残基が成長停止ポリマーの末端に結合している。そして、その開裂で生じた他方の残基がラジカルとなって、系中に存在するモノマーにラジカルを渡して成長反応を開始させる。この場合にも、成長反応を開始させた残基がポリマーの末端に結合することになる。したがって、連鎖移動剤を共存させてラジカル重合させて得た連結型ビニルポリマー化合物の末端には、連鎖移動剤の残基が結合することになる。このように、連鎖移動剤を共存させてラジカル重合させることで得た、少なくとも一つの末端が連鎖移動剤の残基で終止した連結型ビニルポリマー化合物を本発明の好ましい形態として挙げることができる。
【0041】
このような連鎖移動剤として、任意のチオール化合物、任意のジスルフィド化合物、任意のジセレニド化合物等を用いることができる。これらの中でも、ベンゼンチオール(PhS-H)、ジフェニルジスルフィド(PhS-SPh)、ジフェニルジセレニド(PhSe-SePh)等を好ましく挙げることができ、ジフェニルジセレニドをより好ましく挙げることができる。例えば、連鎖移動剤としてジフェニルジセレニドを用いた場合、ジフェニルジセレニド中の2個のセレン原子間で開裂して2個の残基を生成させることになり、得られる連結型ビニルポリマー化合物の末端にはフェニルセレニド基(-SePh)からなる残基が結合することになる。
【0042】
ラジカル重合開始剤は、重合開始末端となるラジカルを発生させ、これがモノマーと反応することでラジカル重合を開始させる。また、重合開始末端ラジカルは、ラジカル重合の成長末端と反応してポリマーの伸長を停止させる働きもある。その結果、ラジカル重合開始剤を多く用いると、得られるポリマーの分子量が小さくなる。したがって、連鎖移動剤を使用せず、ラジカル重合開始剤の添加量を調節して高分子量化を抑制した場合には、連結型ビニルポリマー化合物の末端には重合開始末端の残基が結合することになる。一例として、ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いた場合には、重合開始末端の残基であるイソブチロニトリル基(-C(CH3)2CN)が連結型ビニルポリマー化合物の末端に結合することになる。このように、ラジカル重合開始剤の添加量を調節してラジカル重合させることで得た、少なくとも一つの末端が重合開始末端の残基で終止した連結型ビニルポリマー化合物もまた、本発明の好ましい形態として挙げることができる。
【0043】
本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、上記のように、連鎖移動剤を用いたり、ラジカル重合開始剤の添加量を調節したりすることにより、ゲル化や硬化を抑制しつつ調製される。このため、本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、ゲル化又は硬化してしまったポリマー化合物とは異なり、溶媒に可溶である。具体的には、本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、塩化メチレンへの可溶割合が全体の80質量%以上となる。すなわち、本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、架橋が進んでゲル化してしまったゲル部の割合が20質量%以下ということになる。上記非特許文献1で開示されたビニルポリマー化合物は硬化物なので、本発明の連結型ビニルポリマー化合物とは明確に異なるものとなる。本発明の連結型ビニルポリマー化合物の塩化メチレンへの可溶割合としては、全体の85質量%以上がより好ましく挙げられ、全体の90質量%以上がさらに好ましく挙げられる。
【0044】
本発明の連結型ビニルポリマー化合物の数平均分子量としては、700~20000程度を例示できるが、特に限定されない。
【0045】
本発明の連結型ビニルポリマー化合物を形成するビニルモノマーとしては、エチレン、ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルベンゾエート、スチレン、テトラフルオロエチレン、ジフルオロエチレン等を挙げることができる。なお、これらのビニルモノマーは、いずれも他のビニルモノマーと任意の割合で混合して用いることができ、付加重合体となって本発明の連結型ビニルポリマー化合物におけるビニルポリマー主鎖を形成することになる。本発明におけるビニルポリマー主鎖は、どのようなビニルモノマーで形成されてもよいが、これらの中でも、ビニルポリマー主鎖がスチレン又は(メタ)アクリル酸エステルの付加重合体で形成されることを好ましく挙げることができる。また、こうした(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸ブチルを好ましく挙げることができる。アクリル酸エステルでビニルポリマー主鎖が形成された連結型ビニルポリマー化合物は、溶解性や粘着性が高く、例えば接着剤用途として好ましく用いることができる。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0046】
本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、成形等の加工が可能である一方で、次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液と接触した際に連結部が切断されて低分子量化する。このため、これを応用したプラスチック製品では、その廃棄物としての処理や再資源化が容易なものとなる。また、これを接着剤に応用すれば、それにより接合された物品と物品の間に次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液を浸透させることで、容易に接合解除することが可能になる。なお、これら用途は一例であり、本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、様々な用途に用いることが可能である。
【0047】
<連結型ビニルポリマー化合物の製造方法の第一実施態様>
次に、本発明の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法の第一実施態様について説明する。本実施態様の製造方法は、ビニルモノマーと下記化学式(2)で表す架橋化合物とを連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させることを特徴とする。なお、本実施態様の説明においては、これまでの説明と重複する説明を適宜省略するものとする。
【0048】
【0049】
ビニルモノマーは、ラジカル重合により本発明の連結型ビニルポリマー化合物におけるビニルポリマー主鎖を形成する。この付加重合反応の際に、化学式(2)で表す化合物が存在すると、この化合物が持つ2つのビニル基が上記の付加重合時に互いに異なる2本のビニルポリマー主鎖に組み込まれ、これらの主鎖を連結する。こうして形成された連結部分に、化学式(2)で表す化合物に由来するジアシルヒドラジン構造が含まれることになることは既に述べた通りである。
【0050】
化学式(2)で表す化合物は、ジアクリロイルヒドラジンの化学名を持ち、例えば、アクリル酸クロライドとヒドラジン一水和物とを2:1のモル比で反応させることにより得られる。
【0051】
ビニルモノマーとしては、エチレン、ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルベンゾエート、スチレン、テトラフルオロエチレン、ジフルオロエチレン等を挙げることができる。なお、これらのビニルモノマーは、いずれも他のビニルモノマーと任意の割合で混合して用いることができ、付加重合体となって本発明の連結型ビニルポリマー化合物におけるビニルポリマー主鎖を形成することになる。これらのビニルモノマーの中でも、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル等を好ましく挙げることができる。また、こうした(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸ブチルを好ましく挙げることができる。
【0052】
連鎖移動剤としては、任意のチオール化合物、任意のジスルフィド化合物、任意のジセレニド化合物等を挙げることができえる。これらの中でも、ベンゼンチオール(PhS-H)、ジフェニルジスルフィド(PhS-SPh)や、ジフェニルジセレニド(PhSe-SePh)等を好ましく挙げることができ、ジフェニルジセレニドをより好ましく挙げることができる。例えば、連鎖移動剤としてジフェニルジセレニドを用いた場合、ジフェニルジセレニド中の2個のセレン原子間で開裂して2個の残基を生成させることになり、得られる連結型ビニルポリマー化合物の末端にはフェニルセレニド基(-SePh)からなる残基が結合することになる。
【0053】
本発明の製造方法では、ラジカル重合により連結型ビニルポリマー化合物を得るために、ラジカル重合開始剤を用いる。このようなラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)のようなアゾ化合物や、過酸化ベンゾイルのような過酸化物を例示することができる。
【0054】
本実施態様のように、連鎖移動剤の存在下でビニルモノマーとジアクリロイルヒドラジン(上記化学式(2)で表す化合物)とをラジカル重合させる場合、ラジカル重合開始剤の添加量は、ビニルモノマーのモル数に対して2~15モル%とするのが好ましく、2~10モル%とするのがより好ましい。また、ジアクリロイルヒドラジンの添加量は、ビニルモノマーのモル数に対して1~20モル%とするのが好ましく、3~12モル%とするのがより好ましい。また、連鎖移動剤の添加量は、用いる連鎖移動剤の種類によって大きく異なるが、連鎖移動剤としてジフェニルジセレニドを用いた場合には、ビニルモノマーのモル数に対して0.01~2モル%とするのが好ましく、0.2~1.8モル%とするのがより好ましく、0.2~1.5モル%とするのがさらに好ましい。
【0055】
特に、ビニルモノマーとしてスチレンを用い、連鎖移動剤としてジフェニルジセレニドを用いる場合には、ジフェニルジセレニドの使用量が、スチレンのモル数に対して0.1モル%以上2モル%以下であることを好ましく挙げることができる。また、ビニルモノマーとしてアクリル酸ブチルを用い、連鎖移動剤としてジフェニルジセレニドを用いる場合には、ジフェニルジセレニドの使用量が、アクリル酸ブチルのモル数に対して0.1モル%以上0.4モル%以下であることを好ましく挙げることができる。
【0056】
ラジカル重合により上記本発明の連結型ビニルポリマー化合物を合成するに際しては、重合に用いるビニルモノマーを溶解させる適切な溶媒を用いることが望ましい。このような溶媒としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等の極性溶媒を好ましく挙げることができる。ラジカル重合を行うに際しては、用いる溶媒に対して凍結真空脱気等の手段により溶存酸素を除いておくことが好ましい。また、ラジカル重合の際の反応条件としては、特に限定されないが、一例として反応温度を60~80℃程度とし、反応時間を24~150時間程度とすることを挙げることができる。
【0057】
上記のように、本発明の連結型ビニルポリマー化合物を合成する場合の化学反応式の一例を下記に示す。なお、下記の化学反応式では、単純化により理解を助けるために、ビニルモノマーとしてスチレンを用い、連鎖移動剤としてジフェニルジセレニドを用いた例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
【0059】
<連結型ビニルポリマー化合物の製造方法の第二実施態様>
次に、本発明の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法の第二実施態様について説明する。本実施態様の製造方法は、ビニルモノマーと下記化学式(2)で表す架橋化合物とをラジカル重合させる連結型ビニルポリマー化合物の製造方法であって、上記ビニルモノマーとラジカル重合開始剤との比率を調節することにより、得られる重合体のゲル化を抑制することを特徴とする。
【0060】
【0061】
既に説明したように、化学式(2)で表すジアクリロイルヒドラジンを架橋化合物として用い、これの存在下でビニルモノマーをラジカル重合する場合、得られる連結型ビニルポリマー化合物の重合度を制御してゲル化や硬化を抑制するために、上記第一実施態様では連鎖移動剤を用いたが、本実施態様では連鎖移動剤を用いるのではなく、ビニルモノマーとラジカル重合開始剤との比率を調節することにより、連結されるビニルポリマー化合物の重合度を制御してゲル化や硬化を抑制する。用いるラジカル重合開始剤の量が多くなるほど、重合開始末端ラジカルがラジカル重合の成長末端と反応する割合が増えてポリマーの伸長を停止させるように働くことで、連結されるビニルポリマー化合物の平均分子量が低下する。このような作用により、本実施態様の製造方法では、得られる連結型ビニルポリマー化合物のゲル化や硬化を抑制する。
【0062】
ビニルモノマー、ジアクリロイルヒドラジン及びラジカル重合開始剤については、上記第一実施態様と同様であるのでここでの説明を省略する。
【0063】
本実施態様においてビニルモノマーとジアクリロイルヒドラジンとをラジカル重合させるに際して、ラジカル重合開始剤の添加量は、使用するビニルモノマーの種類と架橋化合物であるジアクリロイルヒドラジンの添加量に応じて適宜調節すればよい。使用するビニルモノマーの種類と、ジアクリロイルヒドラジンの添加量とを固定し、ラジカル重合開始剤の添加量をビニルモノマーのモル数に対して2モル%~20モル%程度で変化させて重合反応を実施し、ゲル化や硬化を抑制できるラジカル重合開始剤の使用量を決定すればよい。なお、この決定において必要になる実験の回数は限られており、過度な試行錯誤を実験者に求めるものとはならない。また、ラジカル重合反応における各条件、すなわち、反応に用いる溶媒、反応温度及び反応時間については、上記第一実施態様におけるものと同様である。
【0064】
一例として、スチレンと架橋化合物であるジアクリロイルヒドラジンとをアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いてラジカル重合させる場合を挙げると、スチレンのモル数に対してジアクリロイルヒドラジンの添加量を10モル%としたときに、AIBNの使用量をスチレンのモル数に対して2モル%から10モル%まで変化させると、AIBNの使用量が6モル%以上となるあたりから、得られる連結型ビニルポリマー化合物におけるゲル分率がほぼ0%となり、そのゲル化が効果的に抑制されるようになる。
【0065】
<プラスチック製品>
次に、本発明のプラスチック製品の一実施形態について説明する。本発明のプラスチック製品は、本発明の上記連結型ビニルポリマー化合物を含むことを特徴とする。具体的には、上記連結型ビニルポリマー化合物を成形することにより製造されたものが本発明のプラスチック製品となる。
【0066】
既に説明したように、本発明の連結型ビニルポリマー化合物は、ジアシルヒドラジン骨格を備えた連結部分により、ビニルポリマー主鎖同士が連結された構造をもつ。このため、本発明のプラスチック製品は、次亜塩素酸又はその塩を含んだ水溶液と接触することで、それに含まれる連結型ビニルポリマー化合物の連結部分が切断されて低分子量化する。連結が解除されて低分子量化したビニルポリマー化合物は、プラスチック製品の形状を維持できず、可溶化したり簡単に粉砕されたりするので、容易に廃棄物処理や再資源化処理に付すことが可能となる。
【0067】
<プラスチック製品の分解処理方法>
次に、本発明のプラスチック製品の分解処理方法の一実施態様について説明する。本発明のプラスチック製品の分解処理方法は、上記本発明のプラスチック製品に次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液を接触させることで、当該プラスチック製品に含まれる連結型ビニルポリマー化合物を低分子量化させることを特徴とする。これについては、既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0068】
<接合体の分離方法>
上記本発明の連結型ビニルポリマー化合物により接着されている接合体において、当該接合体の接合面に次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液を接触させることを特徴とする接合体の分離方法も本発明の一つである。これは、本発明の連結型ビニルポリマー化合物を接着剤として用いた場合に、その接着面に存在する連結型ビニルポリマー化合物が次亜塩素酸又はその塩を含む水溶液と接触した際に低分子量化することで、固着性を失う性質を利用したものである。これについても、既に説明した通りなのでここでの説明を省略する。
【実施例0069】
以下、実施例を示すことにより、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、下記の実施例では、特に断りのない限り、「%」は質量%を意味する。
【0070】
[連結型ビニルポリマー化合物の調製1]
まずは、本発明の連結型ビニルポリマー化合物の調製についての第一パターンを説明する。この第一パターンは、ビニルモノマーと、ジアクリロイルヒドラジンと、連鎖移動剤としてのジフェニルジセレニドと、を用いてラジカル重合開始剤であるAIBNによりラジカル重合させるものになる。この第一パターンは、上記本発明の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法の第一実施態様に相当する。
【0071】
【0072】
アクリル酸クロリド19mL(235mmol)をテトラヒドロフラン30mLに溶解させ、この溶液を、水酸化ナトリウム10g(255mmol)及びヒドラジン一水和物5.0mL(103mmol)を水70mLに溶解させた水溶液に40分間かけて滴下してから3時間撹拌し、析出した固体を濾取した。得られた固体を真空乾燥させた後に、酢酸エチル-ヘキサンにより再結晶することで、無色結晶のジアクリロイルヒドラジンを得た。収量は、4.7g(収率33%)だった。
【0073】
・アクリル酸ブチルをモノマーとした連結型ビニルポリマー化合物4の合成
【化12】
【0074】
底を丸めた8φガラス管にジアクリロイルヒドラジン(0.0117g、0.084mmol)、ジフェニルジセレニド(0.0016g、0.0051mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;0.0127g、0.073mmol)及びアクリル酸ブチル(0.1957g、1.52mmol)を入れ、これにジメチルアセトアミド(DMAc;1mL)を加えて均一溶解させた。これらを液体窒素で凍結してから真空中で融解させる操作を3回行うことで凍結脱気してから封管し、70℃で24時間反応させた。封管を開け、塩化メチレンを加えたが不溶部は生じなかった。このことから、得られた連結型ビニルポリマー化合物は、ゲル部が0%であることが示された。塩化メチレンを減圧留去し、残渣をメタノール100mL中に激しく撹拌しながら滴下した。沈殿が凝集するまで撹拌してから沈殿を濾取し、メタノールで洗浄してから真空乾燥することで、連結型ビニルポリマー化合物を0.0514g(収率25%)得た。この合成において、得られた連結型ビニルポリマー化合物のゲル部は0%であり、ポリマー部は100%だったことになる。
【0075】
用いたジアクリロイルヒドラジンを0.0116g(0.083mmol)とし、AIBNを0.0131g(0.080mmol)とし、アクリル酸ブチルを0.2466g(1.92mmol)としたことを除き、上記と同じ手順で連結型ビニルポリマー化合物を合成した。その結果、連結型ビニルポリマー化合物を0.0669g(収率26%)得た。この合成において、得られた連結型ビニルポリマー化合物のゲル部は0%であり、ポリマー部は100%だったことになる。
【0076】
得られた連結型ビニルポリマー化合物のFT-IRスペクトルを観察すると、1656cm-1に連結部となるジアシルヒドラジンのC=O伸縮振動吸収が観察された。このことから、連鎖移動剤により連鎖長を制御しながらジアクリロイルヒドラジンとの共重合を行うことで、連結部にジアシルヒドラジン骨格が組み込まれた連結型ビニルポリマー化合物が得られたことがわかる。
【0077】
・スチレンをモノマーとした連結型ビニルポリマー化合物5の合成
【化13】
【0078】
下記表1に記載の試薬量及び反応時間で、RUN1~8の合成を行った。底を丸めた8φガラス管にスチレン(St)、ジアクリロイルヒドラジン(DAH)、ジフェニルジセレニド(Ph2Se2)及びAIBNを入れ、これにDMAc(0.5mL)を加えて均一溶解させた。これらを液体窒素で凍結してから真空中で融解させる操作を3回行うことで凍結脱気してから封管し、70℃で所定時間反応させた。封管を開け、塩化メチレンを加えて不溶部を濾取して真空乾燥の後、これをゲル部として計量した。濾液から塩化メチレンを減圧留去した後、残渣をメタノール100mLに激しく撹拌しながら滴下した。沈殿が凝集するまで撹拌してから沈殿を濾取し、メタノールで洗浄してから真空乾燥することで、連結型ビニルポリマー化合物のポリマー部を得た。こうして得たゲル部及びポリマー部の収率、並びにポリマー部のGPC測定(溶媒:クロロホルム、ポリスチレン換算)で算出された数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)を表2にまとめた。なお、表2に記載したスチレン(St)、ジアクリロイルヒドラジン(DAH)及びAIBNの量は、スチレンのモル数に対するモル%値である。
【0079】
【0080】
【0081】
表2に示すように、いずれのサンプルもポリマー部の比率の方がゲル部の比率よりも優勢だった。このことから、ジアクリロイルヒドラジンのような2官能モノマーを用いてビニルモノマーを共重合させた場合であっても、連鎖移動剤の存在によりゲル化が抑制されることがわかる。そして、これまで重付加反応や重縮合反応でなければ、ゲル化を避けてジアシルヒドラジン骨格を導入することができなかったが、本発明によれば、ビニルモノマーの付加重合反応により、ゲル化を避けつつジアシルヒドラジン骨格を導入できることがわかる。
【0082】
[連結型ビニルポリマー化合物の調製2]
次に、本発明の連結型ビニルポリマー化合物の調製についての第二パターンを説明する。この第二パターンは、ビニルモノマーと、ジアクリロイルヒドラジンと、を用いてラジカル重合開始剤であるAIBNによりラジカル重合させるものになる。すなわち、第一パターンで用いていた連鎖移動剤を用いないのが第二パターンとなる。この第二パターンは、上記本発明の連結型ビニルポリマー化合物の製造方法の第二実施態様に相当する。
【0083】
・スチレンをモノマーとした連結型ビニルポリマー化合物6の合成
【化14】
【0084】
下記表3に記載の試薬量及び反応時間で、RUN1~7の合成を行った。底を丸めた8φガラス管にスチレン(St)、ジアクリロイルヒドラジン(DAH)、及びAIBNを入れ、これにDMAc(0.5mL)を加えて均一溶解させた。これらを液体窒素で凍結してから真空中で融解させる操作を3回行うことで凍結脱気してから封管し、65℃で所定時間反応させた。封管を開け、塩化メチレンを加えて不溶部を濾取して真空乾燥の後、これをゲル部として計量した。濾液から塩化メチレンを減圧留去した後、残渣をメタノール100mLに激しく撹拌しながら滴下した。沈殿が凝集するまで撹拌してから沈殿を濾取して真空乾燥することで、連結型ビニルポリマー化合物のポリマー部を得た。こうして得たゲル部及びポリマー部の収率、並びにポリマー部のGPC測定(溶媒:クロロホルム、ポリスチレン換算)で算出された数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を表4にまとめた。なお、表4に記載したAIBNの量は、スチレンのモル数に対するモル%値である。
【0085】
【0086】
【0087】
表4に示すように、AIBNの量がスチレンのモル数に対して5モル%以下では、ゲル部が優勢となるが、AIBNの量がスチレンのモル数に対して6モル%以上では、ポリマー部が優勢となり、連結型ビニルポリマー化合物のゲル化が抑制されることがわかる。このことから、連鎖移動剤を用いない場合であっても、ラジカル重合開始剤の濃度を適切に調節することにより、ラジカル重合開始剤が連鎖移動剤と同様の作用を発揮してゲル化を抑制できることがわかる。
【0088】
【0089】
上記の手順で得た連結型ビニルポリマー化合物6の酸化分解反応を実施した。まず、連結型ビニルポリマー化合物6(0.0103g、0.00010mmolのジアシルヒドラジン部位を含む。)のDMAc溶液(1mL)に、5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液0.6507g(1.3mmolの次亜塩素酸ナトリウムを含む。)を加え、2時間放置した。3mol/L塩酸水溶液0.2279g(0.7mmol)を加え、激しく撹拌しながら100mLのメタノールに滴下した。沈殿が凝集するまで撹拌し、この沈殿を濾取して減圧乾燥することで0.0071g(69%)の白色固体7を得た。
【0090】
連結型ビニルポリマー化合物6及び得られた白色固体7のGPC測定を実施した。その結果を
図1に示す。
図1は、連結型ビニルポリマー化合物6、及びそれを次亜塩素酸ナトリウム水溶液で処理して得られた白色固体7のGPC測定により得られたチャートである。
【0091】
図1に示すように、処理前の連結型ビニルポリマー化合物6は、多峰性の分子量分布をもつ高分子量(M
n9900、M
w/M
n62)のポリマーであるが、次亜塩素酸ナトリウム水溶液で処理して得られた白色固体7は、単峰性の低分子量(M
n1600、M
w/M
n7.2)のポリマーだった。このことから、連結型ビニルポリマー化合物6は、ポリマー7の連鎖長を持つオリゴマーが連結した構造を備えていると推測された。