(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143613
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
B63H 21/21 20060101AFI20241003BHJP
B63H 21/16 20060101ALI20241003BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241003BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241003BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B63H21/21
B63H21/16
C25B1/04
C25B9/00 A
C01B3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056379
(22)【出願日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/次世代船舶の開発/水素燃料船の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲司
【テーマコード(参考)】
4G140
4K021
【Fターム(参考)】
4G140BA02
4G140BB03
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA08
4K021CA09
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】ガス燃料に水素ガスを利用可能なエンジンシステムにおいて、その低コスト化を実現する。
【解決手段】船舶100に搭載されるエンジンシステムSは、ガス燃料に水素ガスを利用可能なエンジン1と、エンジン1の排ガスから熱エネルギを回収する第1回収器3と、第1回収器3によって回収された熱エネルギに基づいて電力を生成する第1発電モジュール4と、第1回収器3による熱エネルギの回収に伴って生じた凝縮水を排ガスから回収する第2回収器5と、第1発電モジュール4によって生成された電力に基づいて、第2回収器5によって回収された凝縮水を電気分解する電気分解槽7と、を備え、エンジン1は、電気分解槽7による電気分解によって生成された水素ガスをガス燃料に再利用する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に搭載されるエンジンシステムであって、
ガス燃料に水素ガスを利用可能なエンジンと、
前記エンジンの排ガスから熱エネルギを回収する第1回収器と、
前記第1回収器によって回収された熱エネルギに基づいて、電力を生成する発電装置と、
前記熱エネルギの回収に伴って生じた凝縮水を排ガスから回収する第2回収器と、
前記発電装置によって生成された電力に基づいて、前記第2回収器によって回収された凝縮水を電気分解する電気分解槽と、を備え、
前記エンジンは、前記電気分解槽による電気分解によって生成された水素ガスを、ガス燃料に再利用する
ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載されたエンジンシステムにおいて、
自然エネルギから電力を生成する第2の発電装置を備え、
前記電気分解槽は、前記発電装置によって生成された電力に加え、前記第2の発電装置によって生成された電力を用いることで、前記第2回収器によって回収された凝縮水を電気分解する
ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項3】
請求項2に記載されたエンジンシステムにおいて、
前記第2の発電装置は、前記船舶の甲板上に設置された、太陽光発電機及び風力発電機のうちの少なくとも一方により電力を生成する
ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項4】
請求項1に記載されたエンジンシステムにおいて、
前記第1回収器は、前記排ガスを通過させるとともに、該排ガスから受熱するエコノマイザによって構成され、
前記第2回収器は、前記排ガスを通過させるとともに、該排ガスから凝縮水を捕集するデミスタによって構成される
ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項5】
請求項1に記載されたエンジンシステムにおいて、
前記エンジンのシリンダ内に空気を導入する吸気通路と、
前記シリンダ内から排ガスを排出する排気通路と、
前記吸気通路に配置されるコンプレッサ及び前記排気通路に配置されるタービンを有し、前記タービンに供給される排気によって前記コンプレッサを駆動する排気タービン式過給機と、
前記吸気通路における前記エンジンと前記コンプレッサの間に配置され、該コンプレッサによって圧縮された空気を冷却するエアクーラと、を備え、
前記電気分解槽は、前記第2回収器によって回収された凝縮水に加え、前記エアクーラにおいて生じた凝縮水を電気分解する
ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項6】
請求項1に記載されたエンジンシステムにおいて、
前記発電装置の発電量に基づいて、前記電気分解槽による水素ガスの生成可能量を判定するコントローラを備え、
前記コントローラは、前記生成可能量の判定結果に基づいて、前記電気分解槽における貯水量が所定範囲に収まるように、前記第1回収器による熱エネルギの回収量を調整する
ことを特徴とするエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船舶に搭載されるエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンシステムの一例が開示されている。具体的に、この特許文献1には、水素を燃料とするエンジンと、このエンジンからの排ガスを熱源とし、熱化学反応を利用して水から水素を生成する第1の水素生成器と、この第1の水素生成器で生成された水素の一部を燃焼させて、該第1の水素生成器に導入される排ガスを昇温させるバーナと、を備えた水素エンジンシステムが開示されている。
【0003】
前記特許文献1によると、前記水素エンジンシステムは、第1の水素生成器で生成された水素の少なくとも一部を、燃料としてエンジンに供給する。エンジンの排ガスを利用して水の熱化学反応に必要な熱量を得ているので、省エネルギ化が実現されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、インフラの未整備、グリーン水素の価格等の事情から、ガス燃料としての水素ガスは、重油等の既存の燃料と比べて高コストになる傾向がある。そのため、前記特許文献1に開示されているように、熱化学反応を利用して水素ガスを生成し、それをエンジンに供給することが考えられる。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている手法は、水素ガスの一部を燃焼させることで、排ガスを昇温する必要がある。この手法は、高コストな水素ガスを消費することになるため、燃料コストを抑制するには不十分である。
【0007】
また、前記特許文献1に開示されているような熱化学反応器は、一般に高価であり、その導入コストという点で、船舶に搭載するには不都合である。船舶に搭載されるようなエンジンシステムにおいて、その導入コスト及び燃料コストを含めたトータルのコストを抑制できるような仕組みが求められていた。
【0008】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ガス燃料に水素ガスを利用可能なエンジンシステムにおいて、その低コスト化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、船舶に搭載されるエンジンシステムに係る。このエンジンシステムは、ガス燃料に水素ガスを利用可能なエンジンと、前記エンジンの排ガスから熱エネルギを回収する第1回収器と、前記第1回収器によって回収された熱エネルギに基づいて、電力を生成する発電装置と、前記第1回収器による熱エネルギの回収に伴って生じた凝縮水を排ガスから回収する第2回収器と、前記発電装置によって生成された電力に基づいて、前記第2回収器によって回収された凝縮水を電気分解する電気分解槽と、を備える。
【0010】
そして、前記第1の態様によれば、前記エンジンは、前記電気分解槽による電気分解によって生成された水素ガスを、ガス燃料に再利用する。
【0011】
前記第1の態様によると、前記エンジンシステムは、エンジンの排ガスから電力と水分を回収し、前者の電力によって後者の水分を電気分解することで、ガス燃料に再利用される水素ガスを得る。これによれば、排ガスから回収した熱エネルギに基づいて電気分解を行うため、熱化学反応を利用した場合のように、水素ガスの一部を燃焼させることは不要となる。水素ガスの一部燃焼が不要になる分、より多くの水素ガスを確保することができ、ひいては燃料コストを抑制することが可能になる。
【0012】
さらに、排ガスから熱エネルギを奪ったことで生じた凝縮水を電気分解に用いることで、電気分解用の水を保管する水タンクを別途設けたり、飲料水を電気分解に流用したりすることも不要となる。熱化学反応器のような高コストの設備が不要となることと相まって、低コスト化を実現する上でさらに有利になる。
【0013】
また、本開示の第2の態様によれば、前記エンジンシステムは、自然エネルギから電力を生成する第2の発電装置を備え、前記電気分解槽は、前記発電装置によって生成された電力に加え、前記第2の発電装置によって生成された電力を用いることで、前記第2回収器によって回収された凝縮水を電気分解する、としてもよい。
【0014】
前記第2の態様によると、熱エネルギに加えて自然エネルギも用いることで、より多くの凝縮水を電気分解することが可能になる。これにより、より多くの水素ガスを確保することができ、燃料コストを抑制する上で有利になる。
【0015】
また、本開示の第3の態様によれば、前記第2の発電装置は、前記船舶の甲板上に設置された、太陽光発電機及び風力発電機のうちの少なくとも一方により電力を生成する、としてもよい。
【0016】
一般に、太陽光発電機及び風力発電機は、その設置スペースの確保に難がある。しかしながら、船舶の甲板を用いることで、各発電機の設置スペースを容易に確保することができる。このように、前記第3の態様に係る構成は、船舶に搭載されるエンジンシステムにおいて取り分け有効となる。
【0017】
また、本開示の第4の態様によれば、前記第1回収器は、前記排ガスを通過させるとともに、該排ガスから受熱するエコノマイザによって構成され、前記第2回収器は、前記排ガスを通過させるとともに、該排ガスから凝縮水を捕集するデミスタによって構成される、としてもよい。
【0018】
また、本開示の第5の態様によれば、前記エンジンシステムは、前記エンジンのシリンダ内に空気を導入する吸気通路と、前記シリンダ内から排ガスを排出する排気通路と、前記吸気通路に配置されるコンプレッサ及び前記排気通路に配置されるタービンを有し、前記タービンに供給される排気によって前記コンプレッサを駆動する排気タービン式過給機と、前記吸気通路における前記エンジンと前記コンプレッサの間に配置され、該コンプレッサによって圧縮された空気を冷却するエアクーラと、を備え、前記電気分解槽は、前記第2回収器によって回収された凝縮水に加え、前記エアクーラにおいて生じた凝縮水を電気分解する、としてもよい。
【0019】
前記第5の態様によると、熱エネルギの回収によって生じた凝縮水に加えて、エアクーラにおいて生じた凝縮水も用いることで、より多くの凝縮水を電気分解することが可能になる。これにより、より多くの水素ガスを確保することができ、燃料コストを抑制する上で有利になる。
【0020】
また、本開示の第6の態様によれば、前記エンジンシステムは、前記発電装置における発電量に基づいて、前記電気分解槽による水素ガスの生成可能量を判定するコントローラを備え、前記コントローラは、前記生成可能量の判定結果に基づいて、前記電気分解槽における貯水量が所定範囲に収まるように、前記第1回収器による熱エネルギの回収量を調整する、としてもよい。
【0021】
前記第6の態様によると、水素ガスの生成可能量(生成可能な水素ガスの上限)に基づいて熱エネルギの回収量を調整することで、熱エネルギの回収に伴う凝縮水の生成を、より適切に制御することができる。これにより、電気分解槽からの凝縮水のオーバーフローを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本開示によれば、ガス燃料に水素ガスを利用可能なエンジンシステムにおいて、その低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、エンジンシステムが搭載された船舶を例示する図である。
【
図2】
図2は、エンジンシステムの概略構成を例示するシステム図である。
【
図3】
図3は、コントローラの構成を例示するブロック図である。
【
図4】
図4は、水素ガスの製造方法を例示するフローチャートである。
【
図5】
図5は、凝縮水の回収量の調整手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は例示である。
図1は、エンジンシステムSが搭載された船舶100を例示する図である。また、
図2は、エンジンシステムSの概略構成を例示するシステム図であり、
図3は、コントローラ8の構成を例示するブロック図である。
【0025】
<主要構成>
エンジンシステムSは、船舶100に搭載されており、
図1及び
図2に示すように、ガス燃料に水素ガスを利用可能なエンジン1と、その水素ガスを貯留する水素タンク2と、を備えている。
【0026】
エンジンシステムSは、排ガスの含有成分及び熱エネルギに基づいて水素ガスを生成し、これをガス燃料に再利用することができる。水素ガスの生成に関連する要素として、エンジンシステムSは、排ガスから熱エネルギを回収する第1回収器3と、熱エネルギに基づいて発電する第1発電モジュール4と、排ガスから凝縮水を回収する第2回収器5と、自然エネルギに基づいて発電する第2発電モジュール6と、電気分解槽7と、コントローラ8と、を備えている(
図1~
図3を参照)。これらの要素のうち、コントローラ8は
図3にのみ示す。
【0027】
以下、エンジンシステムSの各部について、順番に説明する。
【0028】
(1)エンジン1
本実施形態に係るエンジン1は、水素ガスをシリンダ11内で燃焼させる水素エンジンである。なお、エンジン1は、水素ガスと、他の油燃料又はガス燃料とを併用するものであってもよい。例えば、エンジン1は、重油に併せて水素ガスを燃焼させるものであってもよいし、メタンガス等、他のガス燃料に併せて水素ガスを燃焼させるものであってもよい。
【0029】
エンジン1は、ユニフロー掃気方式の2ストローク1サイクル機関として構成されており、タンカー、コンテナ船、自動車運搬船等、
図1に例示するような大型の船舶100に搭載される。
【0030】
エンジン1は、搭載先の船舶100を推進させるための主機関として用いられる。
図1に示すように、エンジン1の出力軸は、プロペラ軸101を介してプロペラ102に連結されている。エンジン1が運転することで、その出力がプロペラ102に伝達されて、船舶100が推進するようになっている。
【0031】
具体的に、本実施形態に係るエンジン1は、
図2に示すように、前述のシリンダ11を有する機関本体10と、この機関本体10に接続された吸気通路12及び排気通路13と、排気通路13を流れる排気によって作動する排気タービン式過給機14と、排気を還流させるEGR(Exhaust Gas Recirculation)システム15と、を有している。
【0032】
このうち、機関本体10は、2ストローク式の機関であり、船舶100の機関室に設置されている。機関本体10は、複数のシリンダ11(
図2においては、4つのシリンダ11のみを例示)を有している。各シリンダ11内には、ピストン(不図示)が往復動可能にそれぞれ挿入されている。各シリンダ11の内壁、シリンダヘッド(不図示)の天井面、及び、ピストンの頂面によって、シリンダ11毎に燃焼室が区画されている。
【0033】
吸気通路12は、エンジン1のシリンダ11内に空気を導入するように構成されている。この吸気通路12には、上流側から順に、外部(大気)から取り込んだ空気(新気)を圧縮するコンプレッサ14aと、コンプレッサ14aにより圧縮された空気を冷却するエアクーラ16と、が設けられている。エアクーラ16によって冷却された空気は、掃気トランク10aを経由してシリンダ11内に至る。また、エアクーラ16が空気を冷却することで凝縮した空気中の水分は、凝縮水として電気分解槽7に供給されるようになっている(
図2の破線を参照)。
【0034】
一方、排気通路13は、シリンダ11内から排ガスを排出するように構成されている。この排気通路13には、上流側から順に、コンプレッサ14aに対して駆動連結されたタービン14bと、第1回収器3及び第2回収器5と、後述のEGR通路15aへと分岐する分岐部(EGR通路15aの上流端部と排気通路13との接続部)13aと、が設けられている。シリンダ11内から排出された排ガスは、排気マニホールド10bを介して排気通路13に流入し、タービン14b、第1回収器3及び第2回収器5を通過して大気に開放される。
【0035】
排気タービン式過給機14は、吸気通路12に配置されるコンプレッサ14aと、排気通路13に配置されるタービン14bと、を有しており、タービン14bに供給される排気によってコンプレッサ14aを駆動するように構成されている。ここで、コンプレッサ14aとタービン14bとは連結されており、互いに同期して回転する。そのため、タービン14bを通過する排気によってコンプレッサ14aが回転駆動されると、このコンプレッサ14aを通過する空気を圧縮することができる。
【0036】
EGRシステム15は、排気通路13におけるタービン14b下流側の部位(分岐部13a)と、吸気通路12におけるコンプレッサ14a上流側の部位と、を接続するEGR通路15aを有している。EGRシステム15は、いわゆる低圧EGRシステムとして構成されており、EGR通路15aを介して排気を循環させるように構成されている。具体的に、本実施形態に係るEGR通路15aには、循環される排気の流れ方向の上流側から順に、EGR弁15bと、EGRユニット15cと、が設けられている。
【0037】
このうち、EGR弁15bは、EGR通路15aを開閉する。このEGR弁15bは、例えばコントローラ8と電気的に接続された電磁弁によって構成されており、コントローラ8から入力される制御信号にしたがって作動する。
【0038】
EGRユニット15cは、EGRガスからスート、SOx等を除去するスクラバと、EGRガスを冷却するEGRクーラと、EGRガスを昇圧するブロワと、を組み合わせることで構成されている。なお、スクラバやEGRクーラでの圧損が少なく、EGR弁15bの開度調整だけで必要なEGRガス量を循環可能な場合には、ブロワは必須ではない。
【0039】
(2)水素タンク
水素タンク2は、ガス燃料としての水素ガスを貯留している。この水素タンク2は、機関本体10の各シリンダ11と流体的に接続されており、この機関本体10に対して水素ガスを圧送するように構成されている。水素タンク2と各シリンダ11とを流体的に接続し、かつ水素ガスを流通させる流通路(
図2の一点鎖線を参照)には、ガスゲート弁2aが設けられている。
【0040】
ガスゲート弁2aは、前記流通路を開閉する。このガスゲート弁2aは、例えばコントローラ8と電気的に接続された電磁弁によって構成されており、コントローラ8から入力される電気信号にしたがって作動する。
【0041】
(3)第1回収器3
第1回収器3は、エンジン1の排ガスから熱エネルギを回収する。詳しくは、本実施形態に係る第1回収器3は、排ガスを通過させるとともに、その排ガスから受熱する排ガスエコノマイザによって構成されている。
【0042】
さらに詳しくは、第1回収器3は、水と排ガスとの間で熱交換させるエコノマイザ本体31と、このエコノマイザ本体31及び後述の蒸気タービン41の間で水を循環させる循環ポンプ33と、エコノマイザ本体31及び循環ポンプ33の間に介在する高圧ドラム32と、高圧ドラム32及びエコノマイザ本体31の間に介在するメインポンプ34と、を有している。ここでいう「水」には、液相の水と気相の水との両方が含まれるが、以下の記載では、前者の水を単に「水」と呼称し、後者の水を「蒸気」と呼称する。
【0043】
なお、図示は省略するが、蒸気タービン41には、蒸気タービン41を回転させた蒸気を凝縮する復水器が設けられている。また、
図2では、簡単のため1つの循環ポンプ33のみを例示したが、エコノマイザ本体31及び循環ポンプ33を結ぶ循環路の途中に、液相又は気相の水を圧送するための1つ又は複数の他のポンプを設けてもよい。
【0044】
循環ポンプ33は、不図示の復水器から供給された水を高圧ドラム32に送り込む。メインポンプ34は、高圧ドラム32に送り込まれた水を、エコノマイザ本体31に供給する。エコノマイザ本体31は、該エコノマイザ本体31を通過する排ガスと、メインポンプ34によって高圧ドラム32から送り込まれた水との間で熱交換させる。熱交換された水は、排ガスから受熱して蒸気となり、高圧ドラム32に戻る。高圧ドラム32に戻った蒸気は、再びエコノマイザ本体31に送り込まれて加熱された後、蒸気タービン41に送り込まれる。
【0045】
つまり、第1回収器3によって回収された熱エネルギ、つまり第1回収器3において水に吸収させた熱エネルギは、高温の蒸気によって、第1発電モジュール4の蒸気タービン41に供給される。
【0046】
なお、本実施形態に係る循環ポンプ33及びメインポンプ34は、それぞれ、コントローラ8と電気的に接続されている。循環ポンプ33及びメインポンプ34の出力は、コントローラ8から入力される制御信号にしたがって調整することができる。例えば、メインポンプ34の出力を弱めることで、第1回収器3における熱エネルギの回収量(言い換えると、第1回収器3による排ガスの冷却量)を減少させることができる。これにより、後段の第2回収器5における凝縮水の回収量を減少させることが可能になる。
【0047】
(4)第1発電モジュール4
第1発電モジュール4は、第1回収器3によって回収された熱エネルギに基づいて、電力を生成する発電装置である。詳しくは、本実施形態に係る第1発電モジュール4は、前述の蒸気タービン41と、発電用モータ42と、を有している。
【0048】
蒸気タービン41は、第1回収器3によって生成された高温の蒸気によって回転駆動される。発電用モータ42は、蒸気タービン41と駆動連結されており、蒸気タービン41の回転に伴って駆動することで電力を生成する。
【0049】
第1発電モジュール4によって生成された電力は、蓄電池9に蓄電された後、適宜、その蓄電池9から電気分解槽7に供給される(
図2の二点鎖線を参照)。なお、蓄電池9は必須ではない。
【0050】
(5)第2回収器5
第2回収器5は、第1回収器3による熱エネルギの回収に伴って生じた凝縮水を、排ガスから回収する。詳しくは、本実施形態に係る第2回収器5は、熱エネルギ回収後の排ガスを通過させるとともに、該排ガスから凝縮水を捕集するデミスタによって構成されている。
【0051】
さらに詳しくは、第2回収器5は、排ガスの流れ方向において、第1回収器3の下流側、かつ分岐部13aの上流側に配置されている。この第2回収器5は、タービン14bと第1回収器3を通過した後、分岐部13aに到達する前の排ガス(つまり、第1回収器3によって熱エネルギが回収された後の排ガス)を流通させる。
【0052】
第2回収器5によって回収された凝縮水は、
図2の破線に示すように電気分解槽7に供給される。一方、第2回収器5を通過した排ガスは、そのまま大気に放出されたり、分岐部13aからEGR通路15aを介して環流されたりするようになっている。
【0053】
なお、第1回収器3は、
図2に示すようにEGRシステム15の上流(具体的には、分岐部13aの上流)に配してもよいし、EGRシステム15の下流(具体的には、分岐部13aの下流)に配してもよい。上流に配した場合は、全排ガスの熱エネルギを使用し、水素を最大限生成可能になる。下流に配した場合は、EGRガス量で水の回収量を調整でき、配管の取り回し距離が減少し、コンパクトな装置になる。
【0054】
(6)第2発電モジュール6
第2発電モジュール6は、自然エネルギから電力を生成する第2の発電装置である。詳しくは、第2発電モジュール6は、船舶100の甲板103上に設置された、太陽光発電機及び風力発電機のうちの少なくとも一方により電力を生成する。
【0055】
さらに詳しくは、第2発電モジュール6は、
図1に例示するように、太陽光により電力を生成する太陽光発電機61と、風力により電力を生成する風力発電機62と、を双方とも有しており、これらの発電機61,62によって電力を生成する。
【0056】
第2発電モジュール6によって生成された電力は、蓄電池9に蓄電された後、適宜、その蓄電池9から電気分解槽7に供給される。なお、第2発電モジュール6は必須ではない。太陽光発電機61及び風力発電機62の一方又は双方を省略してもよい。また、第1発電モジュール4用の蓄電池9と、第2発電モジュール6用の蓄電池9とを別ユニットとしてもよい。
【0057】
(7)電気分解槽7
電気分解槽7は、第1発電モジュール4によって生成された電力に基づいて、第2回収器5によって回収された凝縮水を電気分解する。前述のように第2発電モジュール6を設けた場合、この電気分解槽7は、第1発電モジュール4によって生成された電力に加え、第2発電モジュール6によって生成された電力も用いることで、第2回収器5によって回収された凝縮水を電気分解することになる。
【0058】
さらに、本実施形態に係る電気分解槽7は、第2回収器5によって回収された凝縮水に加え、エアクーラ16において生じた凝縮水も電気分解するように構成されている。
【0059】
電気分解槽7における電気分解によって生成される水素ガスは、
図2に一点鎖線で示したように水素タンク2に供給された後、その水素タンク2を介してエンジン1に供給される。これにより、エンジン1は、電気分解槽7による電気分解によって生成された水素ガスを、ガス燃料に再利用することになる。
【0060】
(8)コントローラ8
コントローラ8は、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、入出力デバイスを有している。コントローラ8には、種々のセンサ類が接続されている。例えば
図3に示すように、本実施形態に係るコントローラ8には、SOCセンサSw1と、貯水量センサSw2と、が電気的に接続されている。
【0061】
ここで、SOCセンサSw1は、例えば蓄電池9に設けられており、該蓄電池9における充電状態又は充電率を検出する。貯水量センサSw2は、例えば電気分解槽7に設けられており、該電気分解槽7における水の貯留量(貯水量)を検出する。
【0062】
コントローラ8は、これらのセンサから入力された検出信号に基づいて制御信号を生成し、その制御信号を、ガスゲート弁2a、EGR弁15b、循環ポンプ33、メインポンプ34等、エンジンシステムSの各部に入力する。
【0063】
コントローラ8は、例えばガスゲート弁2aに制御信号を入力することで、シリンダ11内での水素ガスの燃焼を制御したり、EGR弁15bに制御信号を入力することで、吸気通路12への排ガスの環流を制御したりすることができる。
【0064】
その他、コントローラ8は、メインポンプ34に制御信号を入力することで、第1回収器3における熱エネルギの回収量、ひいては第2回収器5における水の回収量を調整することができる。
【0065】
<水素ガスの製造方法の具体例>
図4は、水素ガスの製造方法を例示するフローチャートである。
【0066】
まず、
図4のステップS1において、エンジン1が、水素タンク2から供給された水素ガスを、シリンダ11内で燃焼させる。この燃焼によって生じた排ガスは、タービン14bを回転駆動させた後、第1回収器3に至る。
【0067】
続くステップS2において、第1回収器3が、エンジン1の排ガスから熱エネルギを回収する。第1回収器3によって回収された熱エネルギは、高温の蒸気によって第1発電モジュール4の蒸気タービン41に供給される。また、第1回収器3によって熱エネルギが回収された排ガスは、その回収量に応じて温度低下した後、第2回収器5に供給される。
【0068】
続くステップS3において、第1発電モジュール4が、ステップS1で回収された熱エネルギに基づいて電力を生成する。具体的に、第1発電モジュール4は、第1回収器3から供給された蒸気によって蒸気タービン41を回転駆動させるとともに、その回転による機械的仕事によって発電をする。第1発電モジュール4によって生成された電力は、蓄電池9に供給される。
【0069】
同じステップS3において、第2発電モジュール6が、自然エネルギに基づいて電力を生成する。具体的に、第2発電モジュール6は、太陽光発電機61と、風力発電機62とによって発電をする。第2発電モジュール6によって生成された電力は、第1発電モジュール4によって生成された電力と同様に、蓄電池9に供給される。
【0070】
続くステップS4において、第2回収器5が、ステップS2で熱エネルギが回収された排ガスから凝縮水を回収する。具体的に、第2回収器5は、ステップS2で温度低下させたことで生じた凝縮水を、排ガスから捕集する。第2回収器5によって回収された凝縮水は、電気分解槽7に供給される。また、第2回収器5によって凝縮水が回収された排ガスは、EGR通路15aを介して吸気通路12に環流されたり、船外(大気)に排出されたりする。
【0071】
同じステップS4において、エアクーラ16が、空気の冷却によって生じた凝縮水を回収する。エアクーラ16によって回収された凝縮水は、第2回収器5によって回収された凝縮水と同様に、電気分解槽7に供給される。
【0072】
続くステップS5において、電気分解槽7が、ステップS3で生成されて蓄電池9から供給された電力に基づいて、第2回収器5及びエアクーラ16から供給された凝縮水を電気分解する。
【0073】
続くステップS6において、電気分解槽7が、ステップS5における電気分解によって生成された水素ガスを、水素タンク2に供給する。これにより、電気分解によって生成された水素ガスが、ガス燃料に再利用されることになる。
【0074】
<水の回収量の調整手順>
図5は、凝縮水の回収量の調整手順を例示するフローチャートである。
【0075】
まず、
図5のステップS11において、コントローラ8が、各種センサの検出信号を読み込む。具体的に、コントローラ8が、SOCセンサSw1及び貯水量センサSw2の検出信号を読み込む。
【0076】
続くステップS12において、コントローラ8が、第1発電モジュール4及び第2発電モジュール6の発電量に基づいて、電気分解槽7による水素ガスの生成可能量(生成量の上限)を判定する。
【0077】
詳しくは、前記ステップS12において、コントローラ8は、SOCセンサSw1の検出信号に基づいて、第1発電モジュール4及び第2発電モジュール6による発電量及び蓄電池9の蓄電量を算出し、その発電量及び蓄電量に対応した水素ガスの生成可能量を算出する。なお、第2発電モジュール6を具備しない場合、コントローラ8は、第1発電モジュール4による発電量のみを算出する。
【0078】
続くステップS13~ステップS16において、コントローラ8が、水素ガスの生成可能量の判定結果に基づいて、電気分解槽7における貯水量が所定範囲に収まるように、第1回収器3による熱エネルギの回収量を調整する。
【0079】
具体的に、ステップS13において、コントローラ8は、前記生成可能量の算出値に基づいて、その算出値に対応した凝縮水の消費上限(電気分解によって消費可能な水量の上限)を算出する。
【0080】
続くステップS14において、コントローラ8は、ステップS13で算出した凝縮水の消費上限が、電気分解槽7における現在の貯水量以上であるか否かを判定する。この判定がYESの場合、制御プロセスはステップS15に進む。この場合、コントローラ8は、例えばメインポンプ34の出力を向上することで、凝縮水の生成を増加させる。言い換えると、コントローラ8は、第1回収器3による排ガスの冷却量を増加させることで、凝縮水の生成ペースを向上させる。
【0081】
一方、ステップS14の判定がNOの場合、制御プロセスはステップS16に進む。この場合、コントローラ8は、例えばメインポンプ34の出力を低下させることで、凝縮水の生成を抑制する。言い換えると、コントローラ8は、第1回収器3による排ガスの冷却量を現状から低下させることで、凝縮水の生成ペースを現状よりも抑制する。
【0082】
<エンジンシステムの低コスト化について>
図4のステップS2~ステップS5に例示したように、本実施形態に係るエンジンシステムSは、エンジン1の排ガスから電力と水分を回収し、前者の電力によって後者の水分を電気分解することで、ガス燃料に再利用される水素ガスを得る。これによれば、排ガスから回収した熱エネルギに基づいて電気分解を行うため、熱化学反応を利用した場合のように、水素ガスの一部を燃焼させることは不要となる。水素ガスの一部燃焼が不要になる分、より多くの水素ガスを確保することができ、ひいては燃料コストを抑制することが可能になる。
【0083】
さらに、排ガスから熱エネルギを奪ったことで生じた凝縮水を電気分解に用いることで、電気分解用の水を保管する水タンクを別途設けたり、飲料水を電気分解に流用したりすることも不要となる。熱化学反応器のような高コストの設備が不要となることと相まって、低コスト化を実現する上でさらに有利になる。
【0084】
また、
図1、
図2及び
図4のステップS3に例示したように、熱エネルギに加えて自然エネルギも用いることで、より多くの凝縮水を電気分解することが可能になる。これにより、より多くの水素ガスを確保することができ、燃料コストを抑制する上で有利になる。
【0085】
また、一般に、太陽光発電機61及び風力発電機62は、その設置スペースの確保に難がある。しかしながら、
図1に例示したように船舶100の甲板103を用いることで、各発電機61,62の設置スペースを容易に確保することができる。このように、
図1に例示した構成は、船舶100に搭載されるエンジンシステムSにおいて取り分け有効となる。
【0086】
また、
図2及び
図4のステップS4に例示したように、熱エネルギの回収によって生じた凝縮水に加えて、エアクーラ16において生じた凝縮水も用いることで、より多くの凝縮水を電気分解することが可能になる。これにより、より多くの水素ガスを確保することができ、燃料コストを抑制する上で有利になる。
【0087】
また、
図5を用いて説明したように、水素ガスの生成可能量に基づいて熱エネルギの回収量を調整することで、熱エネルギの回収に伴う凝縮水の生成を、より適切に制御することができる。これにより、電気分解槽7からの凝縮水のオーバーフローを抑制することができる。
【0088】
<他の実施形態>
前記実施形態では、コントローラ8に貯水量センサSw2が接続されていたが、この線は必須ではない。例えば、排気通路13を通過する排ガスの流量、及び/又は、第2回収器5から電気分解槽7に供給される凝縮水の流量を検出し、その検出結果に基づいて第1回収器3による熱エネルギの回収量を調整してもよい。
【0089】
また、前記実施形態では、メインポンプ34の出力調整を通じて熱回収量(凝縮水の生成量)を制御するように構成されていたが、そうした構成は必須ではない。例えば、排ガスに第1回収器3を迂回させるバイパス路と、そのバイパス路を開閉するバイパス弁と、を設け、バイパス弁の開度調整を通じて熱回収量を制御してもよい。
【符号の説明】
【0090】
S エンジンシステム
1 エンジン
12 吸気通路
13 排気通路
14 排気タービン式過給機
14a コンプレッサ
14b タービン
3 第1回収器
4 第1発電モジュール(発電装置)
5 第2回収器
6 第2発電モジュール(第2の発電装置)
61 太陽光発電機
62 風力発電機
7 電気分解槽
8 コントローラ
100 船舶
103 甲板