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  • 特開-全固体電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143622
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056395
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】葛籠 恵
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ12
5H029CJ22
5H029HJ08
(57)【要約】
【課題】 特性劣化を防止する、全固体電池の製造方法と、その製造方法で得られた全固体電池を提供すること。
【解決手段】 負極と、固体電解質膜と、正極とを積層して、電極積層体を形成する工程を含む、全固体電池の製造方法であって、
溶媒中に固体電解質を含むスラリーを、離型剤を含む離型剤層が形成されたフィルム表面上に塗布して、前記固体電解質膜を形成する工程と、
前記離型剤層から、前記フィルムを除去する工程と、
前記フィルムが除去されて露出された前記離型剤層を含む前記固体電解質膜を、前記正極に積層する工程と、を含み、
前記固体電解質膜と前記正極との間に、前記離型剤が、0.01mg/cm以上0.5mg/cm以下の密度で存在するように、前記固体電解質膜と前記正極とを積層する、
ことを特徴とする、全固体電池の製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、固体電解質膜と、正極とを積層して、電極積層体を形成する工程を含む、全固体電池の製造方法であって、
溶媒中に固体電解質を含むスラリーを、離型剤を含む離型剤層が形成されたフィルム表面上に塗布して、前記固体電解質膜を形成する工程と、
前記離型剤層から、前記フィルムを除去する工程と、
前記フィルムが除去されて露出された前記離型剤層を含む前記固体電解質膜を、前記正極に積層する工程と、を含み、
前記固体電解質膜と前記正極との間に、前記離型剤が、0.01mg/cm以上0.5mg/cm以下の密度で存在するように、前記固体電解質膜と前記正極とを積層する、
ことを特徴とする、全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記離型剤層が、シリコーン樹脂を含む、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質膜を備える全固体電池ならびに全固体電池の製造方法に関する。本発明の全固体電池には、リチウムイオン二次電池等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮から、自動車や家庭用のエネルギー源として繰り返し充放電が可能な二次電池の開発が進められている。高容量、高出力が期待できる二次電池の開発が期待されている一方で、同時に安全性もいっそう重視する必要がある。
【0003】
代表的な二次電池の1つであるリチウムイオン二次電池において、固体電解質を用いた固体電池が知られている。固体電池の1つである全固体電池は、固体電解質層と、当該固体電解質層の一方の面に形成された正極層と他方の面に形成された負極層と、正極層と接続される正極板および負極層に接続される負極板を備える。
【0004】
正極層は、正極活物質粒子、結着剤(バインダ)、固体電解質および溶媒を含むスラリーを正極集電体に塗工、乾燥して得ることができる。正極集電体としては、アルミ箔等を用いることができる。一方負極は、負極活物質粒子、結着剤(バインダ)、固体電解質および溶媒を含むスラリーを負極集電体に塗工、乾燥して得ることができる。負極集電体としては、銅箔を用いることができる。あるいは、ステンレス箔上にリチウム金属層を形成したものを負極として用いることもできる。正極層や負極層にはさらに導電助剤を含むことができる。
【0005】
固体電解質層は、固体電解質粉末を溶媒中に分散してスラリー化し、塗布、乾燥して形成することが出来る。たとえば、固体電解質層は、負極層や正極層の表面に直接形成することができる。また、固体電解質層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のポリエステル基材表面に固体電解質層を形成し、基材を剥離することで得ることもできる。
【0006】
得られた正極と負極とが固体電解質を挟んで積層された状態で加圧されることで、電極積層体が得られる。この電極積層体に正極端子や負極端子が取り付けられ、これら端子の一端が外部に引き出されるように外装容器に収容して封止されることで、全固体電池が得られる。
【0007】
ポリエステルフィルムの表面には、固体電解質層が剥離しやすいように、シリコーン化合物などの離型剤層が形成されることが一般的である。この離型剤層が固体電解質層に移行すると、固体電解質層と電極との接合の不良や、電解質イオンが離型剤層に取り込まれることによる不可逆容量の発生が懸念される。そのため、シリコーン化合物は、固体電解質層などに転写しないように、対策が検討されている。
【0008】
また、全固体電池で用いられる正極、負極および固体電解質層が、これらの間の接合界面にて剥離しやすいという課題があった。これらの間の接合界面の強度を高めるために、接着層を介してこれらを積層する対策もされている。
【0009】
特許文献1には、ポリエステルフィルムの表面にあらかじめ帯電防止層を形成して、アンカーコート、コロナ処理、プラズマ処理、大気圧プラズマ処理等の前処理を行い、離型剤の固体電解質層への転写を防ぐ技術が開示されている。また、特許文献2では、接着層を介して固体電解質層と電極とを接合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2022-142259号公報
【特許文献2】国際公開第2020/137354号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、接着層を介して正極や負極などの電極と固体電解質とを接合するか、または固体電解質同士を接合すると、接着層の成分が抵抗となり、電池特性に悪影響を与える。一方で、接着層を完全に除去すると正極や負極などの電極と固体電解質との接合性、または固体電解質同士の接合性が弱くなり、接合面が剥離することがあった。
【0012】
発明者らが鋭意検討した結果、フィルムから固体電解質に転写する離型剤を適切な量、固体電解質または電極表面に残すことで、全固体電池の抵抗を許容できる最小限の範囲に抑え、電池の絶縁を防ぐことができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、負極と、固体電解質膜と、正極とを積層して、電極積層体を形成する工程を含む、全固体電池の製造方法である。全固体電池の製造方法は、溶媒中に固体電解質を含むスラリーを、離型剤を含む離型剤層が形成されたフィルム表面上に塗布して、前記固体電解質膜を形成する工程と、前記離型剤層から、前記フィルムを除去する工程と、前記フィルムが除去されて露出された前記離型剤層を含む前記固体電解質膜を、前記正極に積層する工程と、を含み、前記固体電解質膜と前記正極との間に、前記離型剤が、0.01mg/cm以上0.5mg/cm以下の密度で存在するように、前記固体電解質膜と前記正極とを積層する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、全固体電池において、電極と固体電解質膜との境界における剥離が抑制され、短絡可能性およびサイクル特性に優れた高品質な全固体電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】全固体電池の組立工程の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
適宜図面を参照しながら、以下に本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で実施することができる。以下は例示であり、本発明を何ら限定するものではない。
【0017】
<全固体電池>
本明細書において、全固体電池とは、電解質が、後述する固体電解質からなる電池のことを指すものとする。また、本明細書において全固体電池の語は、二次電池及び一次電池を含む。
<負極>
負極は、非水系二次電池材料に用いられる負極を用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、負極は、銅箔等の負極集電体と、負極活物質および固体電解質を含む負極層と、を備える。負極層にはバインダを含むのが好ましい。銅箔等の負極集電体に代えてステンレス製の負極集電体を用い、負極活物質に代えてリチウム金属層を圧延等で負極集電体の表面に形成した負極を用いてもよい。負極活物質、固体電解質およびバインダを含む負極層は、負極集電体の少なくとも一方の面に形成することができる。
【0018】
負極に負極活物質を用いる場合には炭素系活物質を用いることが好ましい。炭素系活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラックまたはこれらの任意の混合物を選択することができる。天然黒鉛は粒子表面に非晶質炭素を被覆した天然黒鉛を含み、同様に人造黒鉛は粒子表面に非晶質炭素を被覆した人造黒鉛を含む。これらの天然黒鉛および人造黒鉛は、一次粒子または、一次粒子が凝集して二次粒子を形成した粒子、およびこれらの混合物を用いることができる。また、負極活物質は、炭素系活物質とケイ素系活物質の混合物を用いてもよい。負極活物質にはア、ルミニウム、銀、ビスマス、カルシウム、セリウム、インジウム、マグネシウム、錫、亜鉛、ニッケルなどの金属材料を含んでもよい。
【0019】
負極層に用いられるバインダとしては、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を挙げることができる。また、バインダとして、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム;ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、およびこれらの任意の混合物を用いても良い。バインダの含有量は、負極層の固形分総量に対して、1質量%以上10質量%未満であることが好ましい。バインダの含有量が多すぎると、負極活物質表面がバインダに覆われる部分が多くなるため、イオン伝導性や電子伝導性が低下するおそれがある。また、バインダの含有量が少なすぎると、負極活物質粒子同士の電気的接触が適切に行われないおそれがある。
【0020】
バインダの成分として、上記の化合物のほか、さらにセルロースの誘導体であるカルボキシメチルセルロース(「CMC」と称する。)、またはカルボキシメチルセルロースの金属塩(たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム)を含むことができる。バインダ成分としてCMCまたはCMCの金属塩をさらに添加する場合、CMCまたはCMC金属塩の含有量は、負極層の固形分総量に対して0.05質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0021】
負極層は、さらに導電助剤を含んでいても良い。導電助剤は、電極の抵抗を低減するための材料である。導電助剤として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラシ等のカーボン繊維等が挙げられる。
【0022】
導電助剤としてカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーを用いる場合、これらの導電助剤の含有量は、負極層の固形分総量に対して、0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.03質量%以上1質量%以下である。
【0023】
その他、負極層には、上記に記載した材料のほか、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる
【0024】
<固体電解質膜>
実施形態の製造方法で用いる負極、固体電解質膜、および正極は、固体電解質を含む。ここで用いられる固体電解質は、酸化物系固体電解質と硫化物系固体電解質を例示することができる。酸化物系固体電解質としては、ガーネット型、NASICON型又はペロブスカイト型などの酸化物系材料を用いることができるがこれに限定されない。硫化物系固体電解質としては、公知のすべての硫化物系物質を用いることができ、たとえば、LiPO-LiS-SiS、75%LiS-25%P混合物、LiS-SiS、LiS-P、LiPS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-B、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-PLiS-P-LiCl、LiPSCl、Li10GeP12、Li3.25Ge0.250.75などが挙げられるがこれらに限定されない。実施形態においては、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。
実施形態で用いられる固体電解質膜は、所定の面積を有する薄い形状の平面であって、固体電解質から構成される物を指す。固体電解質膜は、単層(1種類の固体電解質からなる固体電解質膜)であってもよいし、複層(2種類以上の固体電解質膜が積層された固体電解質膜)であってもよい。
【0025】
本発明において、固体電解質膜の膜厚は、15~150μmとなるように成形することが好ましい。この膜厚よりも小さくすると、高圧力で固体電解質をプレス成形した場合に、電池が短絡を生じやすくなる。一方で、この膜厚よりも大きくすると、セル体積の過剰な増加につながり、全固体電池の単位体積当たりのエネルギー密度があがらない。
【0026】
<離型シート>
離型シートとは、シート部材の表面に固体電解質膜を剥離しやすくする離型剤層が形成された可撓性のシートを指す。可撓性のシートとしては、たとえば、ポリエステルをフィルム化した一般的なものを使用することができ、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびこれらの混合物から選択される成分を主に含むフィルムを使用することができるが、これに限らない。離型剤層を構成する離型剤としては、シリコーン系、アルキド系、オレフィン系、フッ素系、あるいはアルキル系の離型剤や、これらの組み合わせを用いることができる。なかでも、温度を制御することにより離型剤の転写量を容易に制御でき、紫外線や熱などで硬化する反応性官能基を持つシリコーン樹脂を含む離型剤を用いることが好ましい。
【0027】
<正極>
正極は、非水系二次電池材料に用いられる正極を用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、正極は、正極集電体と正極活物質と、固体電解質を含む正極層を備える。正極層にはバインダを含むのが好ましい。正極活物質、固体電解質およびバインダを含む正極層は、正極集電体の少なくとも一方の面に形成することができる。
【0028】
正極集電体には、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン及びアルミニウム又はステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀で表面処理した正極集電体を用いることができる。
【0029】
正極活物質は、好ましくはリチウムニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウムニッケル系複合酸化物とは、一般式LiNiMe(1-y)(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物である。また、リチウムマンガン系複合酸化物を含むことができるリチウムマンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)等を挙げることができる。また正極活物質は、特に、一般式LiNiCoMn(1-y-z)で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含むことが好ましい。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以上である。高容量の電池を得るためには、y>1-y-z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウムニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物である。リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物は、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウムニッケル系複合酸化物である。また、正極活物質は、一般式LiMPO(Mは、Mn、Fe、CoおよびNiの群から選ばれる少なくとも1種)を含んでもよい。正極活物質の表面はLiNbOなどの物質をコーティングしてバッファー層を形成してもよい。バッファー層は、バッファー層形成物質を10nm以下に形成して正極層と固体電解質膜との間の界面抵抗を抑制することができる。バッファー層は、ゾルゲル法などで正極層の表面に形成することができる。
【0030】
正極活物質とともに正極層を形成するバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジ
エンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を挙げることができる。
【0031】
また正極層には、導電助剤が含まれていても良い。導電助剤として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノブラシ等のカーボン繊維等が挙げられる。その他、正極層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0032】
<セルの作製>
まず、負極の作製を説明する。負極の作製はいくつかの方法があるが、いずれの方法で負極を作製するにしても、固体電解質への水分の吸着を抑制するため、露点管理のもと少ない水分環境で作製するのが好ましい。
【0033】
<負極の作製>
負極集電体上に負極層が形成された負極を用いる場合、脱水処理された有機溶媒に負極活物質、固体電解質およびバインダを分散したスラリーを銅箔等の負極集電体の表面の一部または全部に塗布、乾燥し、負極前駆体シートを得る。得られた負極前駆体シートをロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などのプレス成形法で圧縮し、負極シートを得ることができる。有機溶媒としては、アセトニトリル、キシレン、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、トリエチルアミン等の第三級アミン系溶媒、ヘプタン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、N-メチルピロリドンのほか、エーテル系溶媒、チオール系溶媒、酪酸ブチル等を挙げることができ、いずれも脱水処理されたものであることが好ましい。
【0034】
あるいは、負極活物質、固体電解質、バインダを少なくとも含む負極活物質の造粒体を負極集電体に転写して、負極前駆体シートを得ることができる。このとき負極集電体の表面には負極活物質の造粒体との密着性を高めるバインダ等のポリマー成分を含んだ表面層を予め形成しておいてもよい。また負極層には導電助剤を含めてもよい。得られた負極前駆体シートをロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などのプレス成形法で圧縮し、負極のシートを得ることができる。
【0035】
あるいは、ステンレス製の負極集電体上の一部または全部にリチウム箔などの金属リチウム層を配置し、圧延処理などでこれらを密着させることで負極シートを得ることができる。
【0036】
<固体電解質膜の作製>
次に負極の表面に固体電解質膜を形成する。いずれの方法で固体電解質膜を形成するにしても、固体電解質に水分が吸着することを抑制するために、露点管理のもと少ない水分環境で作製するのが好ましい。
【0037】
銅箔上に形成した負極層の表面またはステンレス箔上に形成した金属リチウムの表面に対して、有機溶媒中に固体電解質が分散されたスラリーを塗布、乾燥することで、負極の表面に固体電解質膜を形成することができる。有機溶媒としては、アセトニトリル、キシレン、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、トリエチルアミン等の第三級アミン系溶媒、ヘプタン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、N-メチルピロリドンのほか、エーテル系溶媒、チオール系溶媒、酪酸ブチル等を挙げることができ、いずれも脱水処理されたものであることが好ましい。
【0038】
あるいは、ポリエステルを主成分とするポリエステルフィルム表面に、有機溶媒中に固体電解質が分散されたスラリーを塗布、乾燥して固体電解質膜を形成したのち、負極層の表面または金属リチウムの表面に固体電解質膜が接触するようにポリエステルフィルムも一緒に積層することで、負極の表面に固体電解質膜を形成することができる。この際、上述の離型シートの、離型剤層を施した面に、固体電解質膜を形成したのち、負極層の表面または金属リチウムの表面に固体電解質膜が接触するように離型シートも一緒に積層することが好ましい。得られた積層体から、離型フィルムを剥離すると、負極-固体電解質膜積層体が得られ、この固体電解質膜の表面上には、離型シートの離型剤層がいくらか転写され、固体電解質膜表面に離型剤が残存していることが非常に好ましい。このような負極-固体電解質膜積層体を、後述する正極に積層することにより、固体電解質膜と正極との間に、離型剤を存在させることができる。固体電解質膜と正極との間には、離型剤が、0.01mg/cm以上0.5mg/cm以下の密度で存在することが非常に好ましい。
【0039】
積層された負極と固体電解質膜をロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などのプレス成形法で圧縮することで、負極-固体電解質膜積層体が得られる。なお、固体電解質をポリエステルシートも一緒に積層し加圧した場合には、ポリエステルフィルムを固体電解質膜から剥離する。このとき、ポリエステルフィルムが固体電解質膜から剥離しやすくなるように、ポリエステルフィルムの表面にはシリコーン等の離型剤がコーティングされているものを用いることも好ましい。
【0040】
<正極の作製>
次に正極の作製について説明する。いずれの方法で正極を作製するにしても、水分の吸着を抑制するため、露点管理のもと少ない水分環境で作製するのが好ましい。
【0041】
脱水処理された有機溶媒に正極活物質、固体電解質およびバインダを分散したスラリーをアルミニウム等の正極集電体の表面の一部または全部に塗布、乾燥して正極シートを得る。有機溶媒としては、アセトニトリル、キシレン、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、トリエチルアミン等の第三級アミン系溶媒、ヘプタン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、N-メチルピロリドンのほか、エーテル系溶媒、チオール系溶媒、酪酸ブチル等を挙げることができ、いずれも脱水処理されたものであることが好ましい。
【0042】
<電極積層体の形成>
正極シートを負極-固体電解質膜積層体に積層し、電極積層体前駆体を得る。固体電解質として硫化物系固体電解質を用いる場合、水分への暴露によって固体電解質のイオン伝導性が低下する。そのため、電極積層体前駆体を得たのちには、所定時間以内に電極積層体前駆体をロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などのプレス成形法で圧縮し、電極積層体を得ることが望ましい。所定時間とは、露点-40℃、水分濃度127ppm以下の環境においてたとえば2日間以内である。これ以上の時間が経過すると、固体電解質の吸水による性能劣化のおそれがあり、全東風電池の生産性が低下する観点からも好ましくない。
【0043】
正極は、正極集電体に正極層を形成しただけの厚みが薄いシートの状態でまずロールプレスされて、次いで負極-固体電解質膜積層体に積層されることができるほか、生産効率の観点から、正極シート単体を加圧せず、もしくは、積層機の搬送アームで正極シートを押さえつける程度の圧力しか加えずに、負極-固体電解質膜積層体に載置されることもできる。この工程は、電極積層体を形成するための等方等圧プレスをする直前の工程となる。
【0044】
ここまで負極-固体電解質膜積層体を作製してから正極シートを重ねる実施の形態を説明してきたが、正極とポリエステルシートの表面に形成された固体電解質膜を積層、プレスしてからポリエステルシートを剥離し正極-固体電解質膜積層体を作成してから、離型剤が残る面に負極シートを重ねてもよい。
【0045】
<電極積層体の封止>
得られた電極積層体は、外装ケース内に速やかに密閉することが望ましい。負極集電体に負極端子となる矩形状の金属板の一端を取り付け、また、正極集電体に正極端子となる矩形状の金属端子の一端を取り付けた後、電極積層体をアルミニウム製の外装ケースに収容する。外装ケースの内面のうち、少なくとも電極積層体と対向する面には、ポリオレフィンなどの樹脂層が形成されていることが好ましい。当該樹脂層を加熱し樹脂を溶融させ、再度固化することでアルミニウム外装ケースで電極積層体を密封する。このとき、正極端子の他端および負極端子の他端は、外装ケースの外に引き出されるように配置される。正極端子および負極端子が外装ケース内面の樹脂層と接触する部分には、外装ケース内面の樹脂層に用いられている樹脂と同一または別の種類の樹脂の層を設けることもできる。
以上の方法により、負極、固体電解質膜および正極を積層してなる電極積層体を含む全固体電池を得ることができる。本発明のもう一つの実施形態は、負極が、少なくとも負極層を含み、正極が、少なくとも正極層を含み、負極層と固体電解質膜とが接しており、かつ正極層と固体電解質膜とが接しており、負極層と固体電解質膜との境界および正極層と固体電解質膜との境界のうちの少なくともいずれか一方に、シリコーン樹脂および導電性粉末を含む離型剤層が存在する、全固体電池である。
【実施例0046】
発明の実施の形態に示すフローに従って電池を作製した。図1は発明の実施の形態を要約したフロー図である。
【0047】
[I]負極-固体電解質膜積層体の形成
(1)厚さ10μmのステンレス製の負極集電体の表面に20μmの金属リチウム層を形成した箔(本城金属社株式会製)を負極として準備した。
(2)有機溶媒としてキシレンに固体電解質であるLiPSCl(D50:8μm)が分散されたスラリーを、ポリエステルを主成分とするポリエステルフィルムに離型剤層が形成された離型フィルム(離型シート)表面に塗布、乾燥して固体電解質膜を得た。得られた固体電解質膜を金属リチウムの表面と接触するようにポリエステルフィルムとともに積層した。
(3)上記(2)の負極-固体電解質膜積層体をナイロン製真空パック中にラミネート真空封止し、室温(25℃)において圧力400MPa下で1分間保持した。その後、ラミネート封止したまま、負極-固体電解質膜積層体を等方等圧プレス法により圧縮し、負極層の空隙率が7%の負極-固体電解質膜積層体を得た。負極-固体電解質膜積層体の大きさは、50mm×70mmであった。
(4)固体電解質膜からポリエステルフィルムを剥離して、負極-固体電解質膜積層体を得た。
【0048】
[II]離型シートの剥離
(1)上記[I](3)で等方等圧プレス法の際の温度を調整することで、上記[I](4)で得られる負極-固体電解質膜積層体への離型剤の転写量を、表1のように変化させた。
【0049】
[III]正極シートと負極-固体電解質膜積層体の積層
(1)正極活物質として厚さ10nmのLiNbOが粒子表面にコーティングされたLiNi0.8Co0.1Mn0.1(D50:8μm)を70質量%と、固体電解質としてLi6PS5Cl(平均粒径1μm)を25質量%と、アセチレンブラック(ティムカル・ジャパン株式会社製)2質量%と、バインダとしてスチレン-ブタジエンゴム(SBR)3質量%を有機溶媒であるキシレンに分散したスラリーを、厚さ10μmのアルミニウム箔(株式会社UACJ製)に塗布し、乾燥して正極層を形成し、正極を得た。
(2)上記(1)で得られた正極を45mm×65mmにカットして、[I]で負極-固体電解質膜積層体のうち、離型剤を転写して離型剤層を設けた面と、正極層とが接するように積層して、電極積層体前駆体を得た。正極と負極-固体電解質膜積層体の積層数は、それぞれ1層ずつであった。
【0050】
[IV]電極積層体の加圧
(1)各実施例で得られた電極積層体前駆体をナイロン製真空パック中にラミネート真空封止し、室温(25℃)において圧力400MPa下で1分間保持した。次いでラミネート封止したまま、電極積層体前駆体を等方等圧プレス法によって圧縮して、正極層の空隙率が5%の電極積層体を得た。
【0051】
[V]外装ケースへの封入
(1)上記[IV]で得られた電極積層体を、実施形態に記載した方法で外装ケースに封入し、正極端子および負極端子がアルミニウム製の外装ケース(第日本印刷株式会社製)の外に引き出された電池を得た。
【0052】
得られた電池について、25℃で1kHzの抵抗値と、充放電(20サイクル後に、短絡の有無を表1に示す。
1kHz抵抗は、交流(1kHz±0.2Hz)四端子法で抵抗値を測定した値である(HIOKI 3560 ACミリオームハイテスタ使用)。固体電解質膜上に転写された離型剤の量に応じて、1kHz抵抗が変化することがわかった。
また、20サイクル充放電の後の電池の短絡の有無は、以下の充放電条件:45℃の恒温槽内に0.05Cで上限電圧4.2Vまで定電流充電した後、1サイクルの全充電時間が20時間となるようにして定電圧充電、0.05Cで3.0Vまで定電流放電を20回繰り返し、電池に通電して、短絡が発生している場合を「有」、短絡が発生していなかった場合を「無」と評価した。
【表1】
【0053】
本発明における実施例はあくまで一例であってこれに限定されるものではない。たとえば、外装ケースにはアルミニウム性のラミネートフィルムを用いたが、アルミニウム性の強固な缶ケースでも円筒型でも構わない。固体電解質にLiPSClを用いているが、水との化学的安定性が低い硫化物系固体電解質であれば本発明が適用できる。正極や負極にあらかじめ所定寸法に調整した正極や負極を用いているが、積層してから速やかに所定形状に裁断してもよい。その他、発明に影響のない範囲で設計変更可能であることは言うまでもない。

図1