(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143627
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20241003BHJP
B66C 23/00 20060101ALI20241003BHJP
B66C 13/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E02F9/20 M
B66C23/00 C
B66C13/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056401
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 駿斗
【テーマコード(参考)】
2D003
3F204
3F205
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003BA02
2D003CA02
2D003DA04
2D003DB02
2D003DB04
2D003DB05
3F204AA09
3F204BA02
3F204CA03
3F204EA17
3F204EB08
3F205AA05
3F205AA20
(57)【要約】
【課題】荷振れをより効果的に抑制する作業機械を提供する。
【解決手段】車体(101,102)及びフロント作業機(104,105,106)と、コントローラとを備えた作業機械(100)において、コントローラ(110)は、吊り荷(1)をフロント作業機によるフロント動作、旋回動作、及び走行動作の少なくとも一つにて目標停止位置に向かって移動した後、目標停止位置の手前にて一時起動停止を行った際の吊り荷振れ量を算出し、吊り荷が当該吊り荷の揺れの軌道において目標停止位置に向かって変位するタイミングで、吊り荷の吊り荷支点を目標停止位置に向かって移動させる制御を実行する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に取り付けられたフロント作業機と、
前記フロント作業機の姿勢を示す角度を計測する角度センサと、
前記車体の旋回速度を計測する旋回角度センサと、
前記フロント作業機の積載負荷を計測する積載負荷センサと、
コントローラと、を備えた作業機械において、
前記コントローラは、前記フロント作業機に吊り下げられた吊り荷の荷振れを抑制する荷振れ制御処理を実行し、前記荷振れ制御処理において、
前記角度センサから取得した角度情報に基づいて前記フロント作業機の姿勢を検出し、
前記積載負荷センサから取得した負荷情報に基づいて前記フロント作業機に吊り下げられた吊り荷の重量を算出し、
前記吊り荷をフロント作業機によるフロント動作、旋回動作、及び走行動作の少なくとも一つにて目標停止位置に向かって移動した後、前記目標停止位置の手前にて一時起動停止を行った際の吊り荷振れ量を算出し、
前記吊り荷が当該吊り荷の揺れの軌道において前記目標停止位置に向かって変位するタイミングで、前記吊り荷の吊り荷支点を前記目標停止位置に向かって移動させる制御を実行する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記吊り荷までの距離、速度、及び荷振れの周期を計測する計測カメラを更に備え、
前記計測カメラが、予め定めた荷振れ量を超える前記吊り荷の荷振れを検知すると、前記荷振れ制御処理を実行する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、
前記一時起動停止を行った際の吊り荷振れ量分の制御距離で前記吊り荷の吊り荷支点を前記目標停止位置に向かって平行移動させる制御を実行する、
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機械に係り、特に荷吊作業が行える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルでのクレーン作業では吊り荷の振れ抑制に関する制御技術としてフロントや旋回動作の起動停止前に減速や動作速度を制限して吊り荷の振れを抑制する制御技術が存在する。その一例として特許文献1の明細書段落0015には、「第4発明にかかる建設機械車両は、荷吊作業を行える建設機械車両において、荷吊作業機の要所に作業機姿勢検出手段および負荷検出手段が設けられ、前記荷吊作業機の駆動装置を制御する制御装置に前記作業機姿勢検出手段および負荷検出手段からの検知信号を送信して荷吊作業機の制御を行わせるようにされ、作業機の吊荷荷重が定格荷重限界に近づくにつれてその作業機の作動速度を減速・停止するように前記駆動装置をなす油圧回路中のパイロット操作弁を制御する構成であることを特徴とする。」と開示されている。
【0003】
そして同段落0016によると「作業機の運転操作で、荷吊作業機の要所に設けられる作業機姿勢検出手段および負荷検出手段が検出する信号によって、荷吊位置が定格荷重の規制領域に近づくと駆動装置の作動速度を減速させて、作業機の移動速度が減速されることにより、過度な移動を抑止すると同時に吊荷の荷振れを少なくし、荷下ろしなどの操作が円滑に行えるという効果がある。また、定格荷重の規制領域を越えて動作しようとすると動きを停止させる。こうすることによって、過荷重になるのを防止して安全性の確保を図ることができる。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の従来の油圧ショベルでのクレーン作業では、荷振れが発生すると振れが収まるのを待つ必要があるため、荷振れが収まるまで待つ時間が作業効率の低下を招くという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、荷振れをより効果的に抑制する作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は車体と、前記車体に取り付けられたフロント作業機と、前記フロント作業機の姿勢を示す角度を計測する角度センサと、前記車体の旋回速度を計測する旋回角度センサと、前記フロント作業機の積載負荷を計測する積載負荷センサと、コントローラと、を備えた作業機械において、前記コントローラは、前記フロント作業機に吊り下げられた吊り荷の荷振れを抑制する荷振れ制御処理を実行し、前記荷振れ制御処理において、前記角度センサから取得した角度情報に基づいて前記フロント作業機の姿勢を検出し、前記積載負荷センサから取得した負荷情報に基づいて前記フロント作業機に吊り下げられた吊り荷の重量を算出し、前記吊り荷をフロント作業機によるフロント動作、旋回動作、及び走行動作の少なくとも一つにて目標停止位置に向かって移動した後、前記目標停止位置の手前にて一時起動停止を行った際の吊り荷振れ量を算出し、前記吊り荷が当該吊り荷の揺れの軌道において前記目標停止位置に向かって変位するタイミングで、前記吊り荷の吊り荷支点を前記目標停止位置に向かって移動させる制御を実行する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、荷振れをより効果的に抑制する作業機械を提供することができる。上記した以外の目的、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】油圧ショベルの車体構成を示す上面図である。
【
図3】MLフックの拡大図であり、(a)はAリンクの側面図、(b)はAリンクの正面図、(c)はフック付きAリンクの正面図、(d)はMLフックを取り付けた状態の側面図、(e)はMLフックを取り付けた状態の正面図、(f)はMLフックを取り付けた状態の拡大正面図、(g)はMLフックを取り付けた状態の拡大側面図、(h)はMLフックを取り付けた状態の拡大斜視図である。
【
図4】油圧ショベルによる従来の吊り下げ作業の説明図である。
【
図5】油圧ショベルのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】油圧ショベルに搭載されるコントローラの機能ブロック図である。
【
図7】本実施形態に係る油圧ショベルによる吊り荷振れ抑制処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係る油圧ショベルによる吊り荷振れ抑制処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】フロント作業機の作業姿勢の求め方を示す説明図である。
【
図10】吊り荷の振れ制御に用いるパラメータの説明図である。
【
図13】本実施形態に係る油圧ショベルによる荷振れ抑制効果の説明図であり、(a)は従来例、(b)は本実施形態に係る油圧ショベルによる荷振れ抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一又は関連する符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
以下の実施形態では、クレーン機能を有する作業機械として油圧ショベルを例に挙げて説明するが、天井クレーン、ラフテレーンクレーン、クローラクレーンも本実施形態に係る作業機械として用いてもよい。
【0012】
図1から
図3を参照して、本実施形態に係る作業機械としての油圧ショベルの構造について説明する。
図1は、油圧ショベルの構成を示す左側面図である。
図2は、油圧ショベルの車体構成を示す上面図である。
図3は、MLフックの拡大図であり、(a)はAリンクの側面図、(b)はAリンクの正面図、(c)はフック付きAリンクの正面図、(d)はMLフックを取り付けた状態の側面図、(e)はMLフックを取り付けた状態の正面図、(f)はMLフックを取り付けた状態の拡大側面図、(g)はMLフックを取り付けた状態の拡大斜視図である。
【0013】
図1に示す油圧ショベル100は、下部走行体101と、走行体に角度センサ付センタジョイント107を介して旋回自在に支持される上部旋回体102と、上部旋回体102に取り付けられるキャブ103と、上部旋回体102に俯仰可能に連結されたフロント作業機とを備える。下部走行体101及び上部旋回体102を総称して車体と表現する。
【0014】
上部旋回体102は、メインフレームにエンジン、油圧ポンプ、旋回装置、ラジエタ、燃料タンク、作動油タンク、及びキャブ103を搭載して構成される。
【0015】
下部走行体101は、左クローラ101L、右クローラ101Rのそれぞれの内周面前方にスプロケット101s、後方にアイドラ101iを備えて構成され、スプロケット101sが回転駆動することで左クローラ101L、右クローラ101Rのそれぞれが循環回送する。
【0016】
上部旋回体102から下部走行体101への作動油の供給は旋回中心に配置された角度センサ付センタジョイント107を介して行われる。角度センサ付センタジョイント107は、上部旋回体102に旋回速度を検出する。
【0017】
フロント作業機は、上部旋回体102に対して俯仰自在に支持されるブーム104、該ブーム104に上下揺動自在に支持されるアーム105、該アーム105に回転自在に支持されるバケット106を含む。
【0018】
また油圧ショベル100は、下部走行体101を用いた前進動作、後退動作、上部旋回体102の旋回動作、及びブーム104、アーム105、バケット106の俯仰動作、揺動動作、回転動作を各々するために、油圧モータや油圧シリンダといった油圧アクチュエータを備えている。具体的には、後述する
図6に示すように、アクチュエータとしてブームシリンダ、アームシリンダ、旋回装置を備えている。なお、ここでは油圧式を想定したがそれに拘るものでなく、例えば電動モータやリニアアクチュエータなど電動式でもよい。
【0019】
また油圧ショベル100は、ブーム104、アーム105、及びバケット106の各回転角度を検出するブーム角度センサS1、アーム角度センサS2、バケット角度センサS3、上部旋回体102の傾斜角度を検出する旋回体傾斜角度センサS4を備える。
【0020】
また角度センサ付センタジョイント107に取り付けられた旋回角度センサS5は、上部旋回体102の旋回角度及び速度を検出する。
【0021】
バケット106の底部には、MLフック108が取り付けられる。そしてMLフック108に吊り荷1が吊り下げられる。
【0022】
キャブ103の天面における前部には吊り荷1の位置及び振れ周期を計測する計測カメラ109が搭載される。計測カメラ109は、吊り荷1の振れを感知し、MLフック108と吊り荷1の距離を計測する。そのため、計測カメラ109として、測距カメラが用いられる。具体的には、示唆を有するステレオカメラや測距センサを搭載してカメラが計測カメラ109として用いられる。
【0023】
図3に示すように、アーム105とバケット106とを連結するAリンク1056(
図3(a)(b)参照)として、本実施形態ではフック付きAリンク1056f(
図3(c)参照)を用いる。フック付きAリンク1056fにMLフック108を取り付けて吊り荷作業を行う(
図3(d)~(h))。
【0024】
図4は、油圧ショベルによる従来の吊り下げ作業の説明図である。
【0025】
吊り荷1の振れは、主に車体のフロント動作、旋回動作、及び走行動作で発生する慣性力による。特に吊り荷作業の起動開始時と起動停止時に発生する慣性力で吊り荷1が大きく振れる。(
図4参照)
【0026】
本実施形態に係る油圧ショベル100は、予め定められた吊り荷1の目標停止位置に吊り荷1の振れを抑制しつつ停止させる制御を行う点に特徴がある。吊り荷振れ制御処理は、油圧ショベル100に搭載したコントローラ110(
図5参照)により、吊り荷1の振れを示す物理量を演算し、その振れを抑制する方向に吊り荷1の吊り支点を平行移動させるために必要なフロント作業機の俯仰又は回転動作、上部旋回体102の旋回動作、及び走行動作の少なくとも一つ以上を行う指令を該当するアクチュエータに出力することで実現する。
【0027】
図5は、油圧ショベルのハードウェア構成を示すブロック図である。
【0028】
コントローラ110は、CPU(Central Processing Unit)等からなるプロセッサ111、RAM(Random Access Memory)112、ROM(Read Only Memory)113、記憶装置114、入力I/F115、出力I/F116を含みこれらがバス117を介して互いに接続される。
【0029】
記憶装置114は、データを不揮発に記憶できるデバイスであればよく、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)など種類を問わない。
【0030】
入力I/F115には、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2、バケット角度センサS3、旋回体傾斜角度センサS4、角度センサ付センタジョイント107、ブームシリンダ圧力センサS6(積載負荷センサに相当する。)、及び計測カメラ109が接続され、角度情報、ブーム圧力情報(負荷情報に相当する。)、及び映像情報を取得する。
【0031】
出力I/F116は、比例電磁弁23に接続される。
【0032】
図6は、油圧ショベルに搭載されるコントローラの機能ブロック図である。
【0033】
コントローラ110は、信号受信部210、姿勢情報算出部220、吊り荷質量算出部230、吊り荷慣性力算出部240、吊り荷支点の移動方向及び速度算出部260、吊り荷振れ量B検出部270、指令出力部280を含む。
【0034】
これら各部は、ROM113又は記憶装置114に記憶された吊り荷振れ制御プログラムをプロセッサ111がRAM112にロードして実行することで構成され、各部の機能が実現する。各部の機能の詳細は、
図7、
図8のフローチャートを参照しつつ、説明する。
【0035】
図7及び
図8は、本実施形態に係る油圧ショベルによる吊り荷振れ抑制処理の流れを示すフローチャートである。
図9は、吊り荷の振れ制御に用いるパラメータの説明図である。
【0036】
油圧ショベル100のオペレータが操作入力装置(不図示)を操作して動作モードとしてMLクレーンモードをONに設定し(S01:ON)、吊り荷振れ制御機能をONに設定すると(S02:ON)、コントローラ110にて吊り荷振れ制御処理が開始する。これに伴い、信号受信部210が、ブームシリンダ圧力センサS6から圧力情報を、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2、角度センサ付センタジョイント107、及び旋回体傾斜角度センサS4の其々から角度情報を、計測カメラ109から計測結果情報及び映像情報を取得する。
【0037】
油圧ショベル100のオペレータがMLフック108にて吊り荷作業を開始すると(S03)、姿勢情報算出部220は、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2から取得した角度情報を基にフロント作業機の作業姿勢を算出する(S04)。
【0038】
図9は、フロント作業機の作業姿勢の求め方を示す説明図である。
【0039】
図9に示すように、ブーム104の起点Aの座標を(x
A、y
A)、吊り支点Eの座標を(x
E、y
E)、点Bはブームとアームの連結点、点Cは、点Bを通る鉛直方向の垂線と点Aを通る水平線との交点、点Dは点Bを通る鉛直方向の垂線と点Eを通る水平線との交点、ブーム角度θ
bm、アーム角度θ
am、二点間の距離をL、例えば点AB間の距離をL
AB、点BC間の距離をL
Bc、で表すと、吊り支点E(x
E、y
E)の座標は下式(1)により求められる。
【数1】
【0040】
上記式1では、起点Aの座標を(xA、yA)を基準とする吊り支点E(xE、yE)が求まるので、姿勢情報算出部220は、角度センサ付センタジョイント107から取得した旋回体角度情報、及び旋回体傾斜角度センサS4から取得した角度情報が示す上部旋回体102の姿勢情報を用いて、起点Aの座標(xA、yA)及び吊り支点E(xE、yE)の座標を上部旋回体102の水平面を含む座標系に変換する。旋回体傾斜角度センサS4は水平面に対する傾斜角度で定義されるので、補正及び座標変換を行い、吊り支点E(xE、yE)の座標を上部旋回体102の姿勢で補正した絶対座標系に変換できる。
【0041】
吊り荷質量算出部230は、フロント作業機の作業姿勢とブームシリンダ圧力センサS6から取得したブームシリンダ圧力から吊り荷質量を算出する(S05)。
【0042】
計測カメラ109は、吊り荷1の振れを感知し、MLフック108と吊り荷1との距離を計測する(S06)。
【0043】
図10は、吊り荷の振れ制御に用いるパラメータの説明図である。計測カメラ109にて、
図10に示すように吊り荷1の上端部からMLフック108までの距離を計測する。また計測カメラ109は、後述する式(3)で用いる吊り荷支点から吊り荷1の重心までの距離L
AO(
図12参照)も必要に応じて計測してもよい。この場合、計測カメラ109からみて吊り荷1の重心として例えば吊り荷1の高さ方向の中央かつ幅方向の中央の点を重心とみなして距離L
AOを計測してもよい。
【0044】
吊り荷慣性力算出部240は、フロント作業機の動作、旋回動作、及び走行動作の起動停止で発生する吊り荷1の振れ量を求める。吊り荷1の振れ量は、吊り荷1の慣性モーメントに主に起因することから振れ量として吊り荷1の慣性モーメントを算出する。具体的には、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2の角度情報、バケット角度センサS3、及び角度センサ付センタジョイント107で算出されたMLフック108の位置及び加速度と、計測カメラ109で計測したMLフック108と吊り荷1の距離と、ブームシリンダ圧力センサS6から算出された吊り荷1の重量から吊り荷1の慣性力を算出する(S07)。
【0045】
吊り荷支点の移動方向及び速度算出部260は、ブーム角度センサS1及びアーム角度センサS2の角度情報から吊り荷支点速度と移動方向を算出する(S08)。吊り荷支点の移動方向及び速度算出部260は、角度センサ付センタジョイント107では旋回角度と速度を計測し、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2、バケット角度センサS3から得た角度情報を用い、MLフック108の旋回中心からの距離を算出し、MLフック108の旋回動作時の速度を算出する。
【0046】
計測カメラ109で起動開始時と起動中に発生し残存した吊り荷1の振れ量Aを検知する(S09)。計測カメラ109は、起動開始時と起動中に発生し残存した吊り荷1の振れ幅、周期、フック位置と吊り荷1の位相ずれを計測する。また、計測カメラ109にてMLフック108と吊り荷1の距離も計測する。「位相のずれ」とは、起動開始時に発生し残存された吊り荷1の揺れ幅及び周期と、MLフック108の位置と吊り荷1の位相ずれを計測する。
【0047】
吊り荷1に荷振れがあると判断すると(S09:荷振れ有)、予め設定した吊り荷1の目標停止位置よりも、手前で一時起動停止する(S10)。
【0048】
吊り荷振れ量B検出部270は、起動停止時に発生した吊り荷1の振れ量Bを算出する(S11)。振れ量Bは、起動停止時の慣性力と残存した吊り荷1の振れ量とによる荷振れ量である。吊り荷振れ量B検出部270は、吊り荷慣性力算出部240が算出した慣性力と、吊り支点の移動方向及び速度算出部260が算出した結果とに基づいて、振れ量Bを検出する。
【0049】
指令出力部280は、吊り荷の振れ量Bを止める動作(
図9)の指令信号を生成し、アクチュエータに出力する(S12)。具体的には、吊り荷1が吊り荷1の揺れの軌道において目標停止位置に向かって変位するタイミングで、吊り荷1の吊り荷支点を目標停止位置に向かって移動させる。望ましくは、一時停止位置から振れ量B分の制御距離で目標停止位置方向に吊り荷支点を平行移動させる。上記アクチュエータの具体例として、ブームシリンダ、アームシリンダ、及び旋回装置などがあり、これらの少なくとも一つ以上を動作させるために比例電磁弁23に対して制御弁制御信号を出力する。
【0050】
指令信号に従って、ブームシリンダ、アームシリンダ、及び旋回装置の少なくとも一つ以上が動作し、吊り荷目標停止位置へ吊り荷支点を移動し、停止する(S13)。フロント作業機の動作、旋回動作、及び走行動作の少なくとも一つ以上を行い、下記の起動停止時の吊り荷振れを止める制御を行う。その結果、吊り荷振れが発生すると同時に吊り荷目標停止位置までMLフック108を平行移動することで吊り荷1の振れが収まる。
【0051】
計測カメラ109で吊り荷1の振れ量A、Bを検知する(S14)。
【0052】
荷振れがあれば(S14:荷振れ有)ステップS10へ戻り、計測カメラ109で吊り荷の振れ量Aを再度検知する。
【0053】
荷振れが検知されない場合(S14:荷振れ無)、MLクレーンモードがOFFの場合(S01:OFF)、吊り荷振れ防止モードがOFFの場合(S02:OFF)、又は計測カメラ109で吊り荷の振れ量Aを検知しなかった場合(S09:荷振れ無)、処理を終了する。
【0054】
【0055】
振れ量Bは、下式(2)に示す振り子の一般的な運動方程式により求める。下式において吊り荷1の質量mは、ブームシリンダ圧力センサS6により求められる。
【数2】
【0056】
【0057】
図12に示すように、吊り荷1は、吊り荷支点(
図13では点Oで示す)を中心として振り子運動を行う。そこで、吊り荷1の振り子運動の軌跡のうち、吊り荷支点Oの鉛直方向真下を点C、起動開始側の最大変位点を点A、目標停止位置側の最大変位点を点B、点Aを通る鉛直方向の垂線と点Cを通る水平面との交点D、点Bを通る鉛直方向の垂線と点Cを通る水平面との交点Eで表すと、一時起動停止位置から吊り荷1の荷振れを止めるために、吊り荷支点を平行移動させる制御距離L
CEは下式により求められる。
【数3】
【0058】
図13を参照して本実施形態に係る油圧ショベル100の作用効果について説明する。
図13は本実施形態に係る油圧ショベルによる荷振れ抑制効果の説明図であり、(a)は従来例、(b)は本実施形態に係る油圧ショベルによる荷振れ抑制効果を示す。
【0059】
図13(a)に示す従来例では、吊り荷1を吊り下げて目標停止位置に向けて起動を開始し、目標停止位置にて起動を停止する。吊り荷は起動開始に伴い吊り荷1に振れ量Aが発生し、起動停止位置では振れ量Bが発生する。従って、目標停止位置にて起動停止すると、吊り荷1の振れ量Bが収まるまで待つ必要がある。
【0060】
これに対して、
図13(b)に示す本実施形態によれば、目標停止位置の手前で一時起動停止を行い吊り荷の振れ量Bを算出する。そして吊り荷の振れ量A及び振れ量Bの振れ量を相殺するようにMLフック108のフック位置を移動させる。具体的にはMLフック108の揺れ方向が一時起動停止位置から目標停止位置に向かう位相において、制御距離L
CEの平行移動を実行する。これにより、吊り荷1の揺れ方向と同方向にMLフック108を移動させることができ、吊り荷1のMLフック108に対する相対変位を相殺し、吊り荷1を目標停止位置に移動させ終わった時点での荷振れを抑制することができる。
【0061】
上記の実施形態は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない変形態様は本発明の権利範囲に含まれる。
【0062】
例えば、
図7、
図8のフローチャートにおいて、処理の順序を入れ替えても本発明と同様の作用効果を奏する処理は、本発明に含む。
【0063】
また計測カメラ109に代えて、単視点で映像情報を撮像する公知のカメラを用い、プロセッサ111が映像情報を解析して吊り荷1の速度、振れ幅など振れ量の計測を行ってもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 :吊り荷
23 :比例電磁弁
100 :油圧ショベル
101 :下部走行体
101L :左クローラ
101R :右クローラ
101i :アイドラ
101s :スプロケット
102 :上部旋回体
103 :キャブ
104 :ブーム
105 :アーム
106 :バケット
107 :角度センサ付センタジョイント
108 :MLフック
109 :計測カメラ
110 :コントローラ
111 :プロセッサ
112 :RAM
113 :ROM
114 :記憶装置
115 :入力I/F
116 :出力I/F
117 :バス
210 :信号受信部
220 :姿勢情報算出部
230 :吊り荷質量算出部
240 :吊り荷慣性力算出部
260 :吊り荷支点の移動方向及び速度算出部
270 :吊り荷振れ量B検出部
280 :指令出力部
1056 :Aリンク
1056f :フック付きAリンク
S1 :ブーム角度センサ
S2 :アーム角度センサ
S3 :バケット角度センサ
S4 :旋回体傾斜角度センサ
S5 :旋回角度センサ
S6 :ブームシリンダ圧力センサ