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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143628
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】細隙灯顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/135 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61B3/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056402
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕司
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA03
4C316AA09
4C316AB06
4C316AB07
4C316AB16
4C316AB19
4C316AB20
4C316FA18
4C316FY02
4C316FY05
4C316FY09
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】スリット光の波長の変化に拘らず被検眼における観察対象を適切に観察することができる細隙灯顕微鏡を提供する。
【解決手段】細隙灯顕微鏡10は、被検眼Eに向けてスリット光を照射する照明系12と、照明系12において光源121からの光を任意の幅のスリット光とするスリット部125と、照明系12の光路上に任意のフィルタFを配置させるフィルタ部129と、光源121を制御する制御部(31)と、を備え、制御部(31)は、スリット光の幅と、照明系12の光路上でのフィルタFの有無と、照明系12の光路上におけるフィルタFの種類と、に応じて光源121の上限光量ILを変更することを特徴とする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に向けてスリット光を照射する照明系と、
前記照明系において光源からの光を任意の幅の前記スリット光とするスリット部と、
前記照明系の光路上に任意のフィルタを配置させるフィルタ部と、
前記光源を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記スリット光の幅と、前記照明系の光路上での前記フィルタの有無と、前記照明系の光路上における前記フィルタの種類と、に応じて前記光源の上限光量を変更することを特徴とする細隙灯顕微鏡。
【請求項2】
前記制御部は、前記スリット光の幅が最低設定間隔よりも小さい場合には、前記照明系の光路上の前記フィルタの有無に拘わらず前記上限光量を最大光量とすることを特徴とする請求項1に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項3】
前記制御部は、前記フィルタとして蛍光観察に用いられる蛍光フィルタが前記照明系の光路上にある場合には、前記スリット光の幅に拘わらず前記上限光量を最大光量とすることを特徴とする請求項2に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項4】
前記制御部は、前記スリット光の幅が前記最低設定間隔よりも大きくて前記蛍光フィルタ以外の前記フィルタが前記照明系の光路上にある場合には前記上限光量をフィルタ光量とすることを特徴とする請求項3に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項5】
前記制御部は、前記蛍光フィルタ以外の前記フィルタの種類に応じて前記フィルタ光量を異なる値とすることを特徴とする請求項4に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項6】
前記制御部は、前記スリット光の幅が前記最低設定間隔よりも大きい場合、前記スリット光の幅が大きくなるにつれて前記上限光量を段階的にさげることを特徴とする請求項5に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項7】
前記被検眼による反射光を観察または撮影する観察系を備え、
前記観察系は、前記上限光量を示す上限光量表示部を有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細隙灯顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検眼にスリット光を照射する照明系と、被検眼を観察するための観察系とを備える細隙灯顕微鏡がある。この細隙灯顕微鏡では、照明系におけるスリット光の幅や視野絞り部の開口の大きさ(径寸法)とに応じて、光源の光度値を変化させることにより、眼底への光障害に対する安全値を超えないように調整するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6904776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細隙灯顕微鏡では、被検眼における観察対象に応じて、スリット光の波長を変化させることが知られている。しかしながら、上記した従来の細隙灯顕微鏡では、スリット光の幅や視野絞り部の開口の大きさで光源の光度値を変化させてしまうので、スリット光の波長を変化させた場合に適切に被検眼を観察できなくなる虞がある。
【0005】
本開示は、上記の事情に鑑みて為されたもので、スリット光の波長の変化に拘らず被検眼における観察対象を適切に観察することのできる細隙灯顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために、本開示の細隙灯顕微鏡は、被検眼に向けてスリット光を照射する照明系と、前記照明系において光源からの光を任意の幅の前記スリット光とするスリット部と、前記照明系の光路上に任意のフィルタを配置させるフィルタ部と、前記光源を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記スリット光の幅と、前記照明系の光路上での前記フィルタの有無と、前記照明系の光路上における前記フィルタの種類と、に応じて前記光源の上限光量を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の細隙灯顕微鏡によれば、スリット光の波長の変化に拘らず被検眼における観察対象を適切に観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の細隙灯顕微鏡の全体構成を示す側面図である。
図2】細隙灯顕微鏡の光学系を示す説明図である。
図3】一対のスリット刃を示す説明図である。
図4】コントローラの構成を示すブロック図である。
図5】光量調整部が明るさ調整ノブやスリット間隔判断部やフィルタ判断部からの信号に応じて光源を制御する構成の一例を示す説明図である。
図6】光量調整部による一対のスリット刃の間隔に対する光源の上限光量の変化の一例を示すグラフであり、縦軸を上限光量とし、横軸を間隔としている。
図7】メイン制御部における光量制御の流れを示すフローチャートである。
図8】上限光量表示部を示す説明図であり、図8(a)では最大光量であることを呈示し、図8(b)では第1光量であることを呈示し、図8(c)ではフィルタ光量であることを呈示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る細隙灯顕微鏡の一実施形態について図1から図8を参照しつつ説明する。
(実施例1)
【0010】
実施例1の細隙灯顕微鏡10の構成を、「全体構成」、「照明系の詳細構成」、「観察系の詳細構成」に分けて説明する。この細隙灯顕微鏡10は、スリット光を用いて被検眼Eの角膜の光切片を切り取ることにより、角膜の断面の画像を取得する眼科装置として使用される。
【0011】
[全体構成]
細隙灯顕微鏡10は、図1に示すように、顕微鏡本体11と、照明系12と、観察系13と、制御用のコントローラ30と、を備える。顕微鏡本体11は、テーブル1に設置され、照明系12、観察系13をそれぞれ支持する。顕微鏡本体11は、テーブル1の上面に固定された台座11aと、台座11aの上面に設けられた基台14と、基台14の上面に設けられた支持部15と、台座11aに支持された顎受け台16と、を有する。基台14は、台座11aに対し、移動機構部14aを介して被検眼Eから見て前後方向および左右方向に移動可能に設置されている。基台14は、操作ハンドル14bを傾倒操作することで移動する。また、操作ハンドル14bを軸周りに回転操作することで、基台14の上面に設けられた支持部15が上下方向に移動する。
【0012】
支持部15は、台座15aと第1支持アーム15bと第2支持アーム15cとを有する。台座15aは、基台14の上面に設けられ、この台座15aから第1支持アーム15bと第2支持アーム15cとが上方に伸びている。ここで、第1支持アーム15bと第2支持アーム15cとは、同軸の垂直軸を中心にそれぞれ独立して回転移動することが可能とされている。
【0013】
第1支持アーム15bは、上部に照明系12を収容する照明系ハウジング12aが取り付けられて、その照明系12を支持する。この第1支持アーム15bは、手動により回転移動可能とされており、自らが回転移動することで照明系ハウジング12aを被検眼Eの周囲で旋回させる。これにより、被検眼Eに対するスリット光の照射方向を変更できる。なお、第1支持アーム15bは、上下方向にも回転移動とする構成としてもよい。このような構成とすると、第1支持アーム15bは、は被検眼Eに対するスリット光の仰角や俯角を変更することができる。第2支持アーム15cは、上部に観察系13を収容した観察系ハウジング13aが取り付けられ、その観察系13を支持する。この第2支持アーム15cは、回転移動が可能とされており、自らが回転移動することで観察系ハウジング13aを第1支持アーム15bの周囲を旋回させる。これにより、被検眼Eに対する観察系13の観察方向を変更できる。
【0014】
なお、第1支持アーム15bおよび第2支持アーム15cは、電動により自動で回転移動する構成であってもよい。この場合、第1支持アーム15bと第2支持アーム15cとを回転移動させる駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構と、を有するアーム駆動機構が必要となる。アクチュエータとしては、例えばステッピングモータ(パルスモータ)を用いることができ、伝達機構としては、例えば歯車の組み合わせやラック・アンド・ピニオン等を用いることができる。
【0015】
顎受け台16は、観察系ハウジング13aの前方に対峙する位置に配置されている。この顎受け台16には、被検者の顔を安定させるための顎受け部16aおよび額当部16bが設けられている。この細隙灯顕微鏡10では、テーブル1に正対した被検者が顎受け部16aおよび額当部16bに顔を接触した状態で、検者が被検眼Eの観察を行う。
【0016】
照明系12は、被検眼Eに向けてスリット光を照射する。照明系12は、照明系ハウジング12aに収容されている。スリット光の強度は、基台14に設けられた明るさ調整ノブ14cを操作することで変更することができる。なお、「スリット光」とは、照射領域の一部を遮ることで照射領域が帯状に形成された光であり、被検眼Eの角膜や眼底を観察するための照明光である。照明系ハウジング12aの下方には、照明系12から照射されたスリット光を被検眼Eに向けて反射するミラー12bが配置されている。ミラー12bは、第1支持アーム15bに取り付けられている。
【0017】
観察系13は、被検眼Eによる反射光を観察および撮影する。ここで、「反射光」には、被検眼Eで反射されたスリット光だけでなく、例えば被検眼Eやその周辺からの散乱光などの各種の光が含まれる。実施例1では、これら各種の光を含めて「反射光」と呼ぶ。この観察系13は、観察系ハウジング13aに収容されている。観察系ハウジング13aの終端には、接眼部13bが設けられている。検者は、接眼部13bを覗き込むことで被検眼Eを肉眼で観察する。また、観察系ハウジング13aの側面には、観察倍率を変更するための観察倍率操作ノブ13cが配置されている。
【0018】
さらに、観察系ハウジング13aには、被検眼Eを撮影するための撮像装置13dが取り外し可能に接続されている。撮像装置13dは、撮像素子13eを有する。その撮像素子13eは、光を検出して電気信号(画像信号)を出力する光電変換素子である。撮像素子13eは、画像信号をコントローラ30に出力する。この撮像素子13eは、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサが用いられる。
【0019】
コントローラ30は、細隙灯顕微鏡10(顕微鏡本体11)に接続されており、細隙灯顕微鏡10の各部を制御するもので、各種の制御処理や演算処理を行う。このコントローラ30は、実施例1では基台14に内蔵されているが、顕微鏡本体11等に収容するものとしてもよく、顕微鏡本体11とは別体とされていてもよく、実施例1の構成に限定されない。
【0020】
[照明系の詳細構成]
照明系12は、図2に示すように、照明光軸O1上に設けられた、光源121と、リレーレンズ122と、照明絞り123と、集光レンズ124と、スリット部125と、視野絞り部126と、結像レンズ127と、を有する。光源121は、被検眼Eの角膜や眼底を観察するためのスリット光の光源である。この光源121は、少なくとも可視光を出力することができ、実施例1では、定常光を出力する光源(ハロゲンランプ、LED(Light Emitting Diode)等)と、フラッシュ光を出力する光源(キセノンランプ、LED等)と、の双方を用いるものとされている。なお、照明系12は、単独の光源で構成されていてもよく、複数の光源で構成されていてもよい。照明系12は、例えば、角膜観察用の光源と眼底観察用の光源とを別々に設ける等のように複数の単色光源を別々に設けてもよい。光源121は、後述するメイン制御部31の制御下で印加電力の大きさにより光度(光量)を変更することが可能とされている。
【0021】
照明絞り123は、照明光の周縁部を遮蔽し、中央部分のみを透過させる。この照明絞り123は、透光部のサイズ(径寸法、開口面積)が変更可能となっており、被照明部の照度を調整する。照明絞り123は、被検眼Eの角膜Ecや水晶体による照明光の反射を低減させたり、照明光の明るさを調整したりすることができる。実施例1の照明絞り123は、照明系ハウジング12aに設けられた絞りノブ123aを有する。この絞りノブ123aは、リンク機構を介して透光部を形成する絞り枠部に連結されており、自らに為された回転操作に応じて透光部のサイズを変化させる。なお、絞りノブ123aは、透光部のサイズを、他の構成での手動操作により任意に調整可能としてもよいし、電動により後述するメイン制御部31の制御下で調整する構成としてもよい。
【0022】
スリット部125は、スリット光(細隙光)を生成するために用いられる。このスリット部125は、互いに所定間隔をおいて対向して配置された一対のスリット刃125a、125b(図2図3参照)を有する。スリット部125は、一対のスリット刃125a、125bを移動させることができ、その両スリット刃125a、125bの間隔(スリット幅)を任意の大きさとすることができる。実施例1のスリット部125は、第1支持アーム15bの下部に設けられたスリット開閉ノブ125c(図1参照)を有する。このスリット開閉ノブ125cは、リンク機構を介して一対のスリット刃125a、125bに連結されており、自らに為された回転操作が一対のスリット刃125a、125bの近づく方向や離れる方向への移動として伝達される。このため、スリット部125では、スリット開閉ノブ125cが回転操作されると、その回転方向に応じて一対のスリット刃125a、125bを接近または離れさせて任意の間隔dとさせる。このため、スリット部125は、スリット開閉ノブ125cの回転操作に応じてスリット光の幅を変更することができる。なお、スリット部125は、一対のスリット刃125a、125bの間隔dを、他の構成での手動操作により任意に調整可能としてもよいし、電動により後述するメイン制御部31の制御下で調整する構成としてもよい。
【0023】
また、照明系12は、光源121からの照明光束が通過する開口部128aの面積を変更可能な光束制御部128を有する。この光束制御部128は、光源121からの照明光束の一部を遮ることにより、被検眼E上の照明範囲を制限する。
【0024】
さらに、照明系12は、フィルタ部129を有する。このフィルタ部129は、任意のフィルタFを選択して光路上に挿入(配置)させたり、光路上から外したりする。そのフィルタFは、照明光の特定の成分を除去または弱める作用を持つ光学素子で構成される。フィルタFは、たとえば、被検眼Eの蛍光観察においてコントラストの向上のために用いられる蛍光フィルタ(青色に対応する波長成分を特に透過させるフィルタ(ブルーフィルタ))がある。このフィルタFは、他には、血管の観察を容易とする無赤色フィルタ(緑フィルタ)や、色を変えることなく光量を下げる減光フィルタ(NDフィルタ)等を用いることができる。以下では、フィルタFは、個別に示す際には、蛍光フィルタFa、無赤色フィルタFb、減光フィルタFcとする。
【0025】
実施例1のフィルタ部129は、選択されたフィルタF(蛍光フィルタFa、無赤色フィルタFb、減光フィルタFc等)を、照明系12の光路上に挿入させたり光路上から外したりするために、照明系ハウジング12aに設けられたフィルタ切換レバー129aを有する。このフィルタ切換レバー129aは、リンク機構を介して各フィルタF(その支持枠)に連結されており、自らに為されたスライド操作の位置に応じて任意のフィルタFを光路上に挿入させる。なお、フィルタ部129は、任意のフィルタFを光路上に挿入させたり光路上から外したりするものであれば、他の構成での手動操作により行うものとしてもよいし、電動により後述するメイン制御部31の制御下で行うものとしてもよい。
【0026】
[観察系の詳細構成]
観察系13は、左右一対の光学系を備える。検者は、観察系13の左右の光学系により被検眼Eを双眼で観察できる。なお、符号Ecは被検眼Eの角膜を、符号Epは虹彩を、符号Erは眼底をそれぞれ示している。符号Eoは検者眼を示している。観察系13では、左右の光学系が略同様の構成とされているので、以下の説明と図2とでは、一方のみを示すこととする。この観察系13の各光学系は、図2に示すように、観察光軸O2上に設けられた、対物レンズ131と、変倍光学系132と、絞り133と、ビームスプリッタ134と、結像レンズ135と、プリズムユニット136と、接眼レンズ137と、を有する。なお、ビームスプリッタ134は、観察系13の左右の光学系の一方のみに設けられていてもよく、左右の光学系の双方に設けられていてもよい。
【0027】
接眼レンズ137は、接眼部13b内に設けられている。観察系13では、結像レンズ135により観察部位の像が結像位置Pに結像される。検者(検者眼Eo)は、接眼レンズ137を介して結像位置Pの像を観察する。
【0028】
変倍光学系132は、被検眼Eの接眼レンズ137による観察像や撮影画像の倍率(画角)を変更する。この変倍光学系132は、観察光軸O2に対して選択的に挿入可能な複数の変倍レンズ群で構成される。その各変倍レンズ群は、複数(図2では2枚)の変倍レンズ132a、132bを有し、それぞれ異なる倍率を付与する。変倍光学系132では、各変倍レンズ群のうち、観察光軸O2上に配置された変倍レンズ群により倍率が設定される。この変倍光学系132では、倍率の変更、すなわち観察光軸O2上に配置される変倍レンズ群の切り替えを、観察倍率操作ノブ13cを操作することにより行うことができる。なお、変倍光学系132では、図示しないスイッチ等を用いて、電動により後述するメイン制御部31の制御下で倍率の変更(変倍レンズ群の切り替え)を行う構成としてもよい。
【0029】
ビームスプリッタ134は、観察光軸O2に沿って進む光を二分割する。ビームスプリッタ134を透過した光は、結像レンズ135、プリズムユニット136および接眼レンズ137を介して検者の検者眼Eoに導かれる。そのプリズムユニット136は、2つの光学素子136a、136bを有し、像を反転するとともに検者の眼幅に合わせて左右の観察光軸O2の幅を変更する。また、ビームスプリッタ134により反射された光は、結像レンズ138およびミラー139を介して、撮像装置13dの撮像素子13eに導かれる。撮像素子13eは、この反射光を検出して画像信号を生成する。
[制御系の構成]
【0030】
細隙灯顕微鏡10の制御系となるコントローラ30について、図2図4等を参照しながら説明する。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)が用いられたメイン制御部31を有する。このメイン制御部31は、必要な情報を取得し、細隙灯顕微鏡10の照明系12、観察系13等に対して適宜制御指令を出力する。後述する記憶部32に、制御プログラムが予め記憶されている。メイン制御部31からの制御指令は、この制御プログラムとハードウェアとが協働することで実現される。このメイン制御部31には、記憶部32と、表示部33と、メイン操作部34と、が接続されている。
【0031】
メイン制御部31は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等を含んで構成される。このハードディスクドライブには、制御プログラムが予め記憶されている。メイン制御部31の動作は、この制御プログラムと上記ハードウェアとが協働することによって実現される。メイン制御部31は、メイン操作部34への入力操作に基づいて、細隙灯顕微鏡10(照明系12、観察系13等)を統括的に制御する。また、メイン制御部31は、記憶部32に記憶されたデータの読み出し処理や、記憶部32に対するデータの書き込み処理を行う。
【0032】
このメイン制御部31(その後述する光量調整部51)は、明るさ調整ノブ14c(メイン操作部34)に為された回転操作等に応じて、照明系12の光源121への印加電力の大きさを調整することにより、光源121の光度(光量)を変更する。このため、メイン制御部31は、光源121を制御する制御部として機能する。また、メイン制御部31は、観察系13の撮像素子13eにおける電荷蓄積時間の制御、受光感度の制御、フレームレートの制御等を行い、撮像素子13eが生成した画像信号を取得する。
【0033】
記憶部32は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ等を含む構成とされ、各種のデータやコンピュータプログラムが書き込まれるとともに、それらを読み出すことが可能とされている。
【0034】
表示部33は、LCD(Liquid Crystal Display)等により形成され、メイン制御部31からの制御指令を受けて各種の情報を表示する。表示部33は、基台14またはその近傍に設置され、検者から目視が可能とされている。なお、表示部33は、検者からの目視を可能とすれば、顕微鏡本体11に設けられていてもよく、他の場所に設けられてもよい。
【0035】
メイン操作部34は、操作パネル、スイッチ、ボタン、ダイアル、トラックボール、マウス、キーボード等からなる操作デバイスや入力デバイスである。このメイン操作部34は、検者によって操作され、この操作に応じた任意の指令がメイン制御部31に入力されるもので、基台14に設けた操作ハンドル14bや明るさ調整ノブ14cも含まれる。このメイン操作部34と表示部33とは個々に設けてもよいが、タッチスクリーン等を用いてこれらの少なくとも一部を一体化してもよい。
【0036】
また、メイン制御部31には、倍率検出部41と、スリット間隔検出部42と、絞り検出部43と、フィルタ検出部44と、が接続されている。これら4つの検出部は、自らが検出した検出結果(その信号)をメイン制御部31に出力する。
【0037】
倍率検出部41は、観察系13の変倍光学系132において設定された倍率、すなわち変倍レンズ群の切り替えの状態を検出する。この倍率検出部41は、例えば、移動される各変倍レンズを支持する支持枠等にタグ等の読出部を設けるとともに、光路上の変倍レンズの読出部を検出する検出部を設ける構成とすることができる。なお、倍率検出部41は、変倍光学系132における倍率を検出してメイン制御部31に出力するものであれば、他の構成としてもよく、実施例1の構成に限定されない。
【0038】
スリット間隔検出部42は、スリット部125における一対のスリット刃125a、125bの間隔(スリット幅)を検出する。このスリット間隔検出部42は、例えば、一対のスリット刃125a、125bの位置を検出する位置センサを用いる構成にできる。また、スリット間隔検出部42は、スリット部125における両スリット刃125a、125bの駆動箇所の位置を検出する位置センサを用いる構成にできる。さらに、スリット間隔検出部42は、両スリット刃125a、125bの間から照射された光量を取得する光量センサを用いるとともに、その検出結果と光源121の光量との関係から算出する構成とすることもできる。加えて、スリット間隔検出部42は、撮像素子13eからの画像信号(取得された画像)に基づいて、照射されたスリット光の幅から判断する構成とすることもできる。なお、スリット間隔検出部42は、スリット部125における倍率を検出してメイン制御部31に出力するものであれば、他の構成としてもよく、実施例1の構成に限定されない。
【0039】
絞り検出部43は、照明系12の照明絞り123における透光部のサイズ(径寸法、開口面積)を検出する。この絞り検出部43は、例えば、照明絞り123における透光部のサイズを変更する機構部に位置センサを設ける構成とすることができる。また、絞り検出部43は、透光部を通した光の光量を取得する光量センサを用いるとともに、その検出結果と光源121の光量との関係から算出する構成とすることもできる。なお、絞り検出部43は、倍率検出部41における倍率を検出してメイン制御部31に出力するものであれば、他の構成としてもよく、実施例1の構成に限定されない。
【0040】
フィルタ検出部44は、照明系12において、フィルタ部129が光路上にフィルタFを挿入させているか否かを検出するとともに、挿入させている場合にはそのフィルタFの種類を検出する。このフィルタ検出部44は、例えば、各フィルタFを支持する支持枠等にタグ等の読出部を設けるとともに、光路上のフィルタFの読出部を検出する検出部を設ける構成とすることができる。なお、フィルタ検出部44は、フィルタ部129における光路上のフィルタFの有無と種類とを検出してメイン制御部31に出力するものであれば、他の構成としてもよく、実施例1の構成に限定されない。
【0041】
なお、メイン制御部31は、メイン操作部34に為された操作等に応じて、観察系13の制御として絞り133(その絞り値)も変更するものとしてもよい。また、メイン制御部31は、アーム駆動機構を制御することにより、メイン操作部34に為された操作等に応じて、第1支持アーム15bおよび第2支持アーム15cをそれぞれ回転移動させる構成としてもよい。
[光量調整の構成]
【0042】
実施例1のメイン制御部31は、光量調整部51と、スリット間隔判断部52と、フィルタ判断部53と、を有する。光量調整部51は、光源121の光量を変化させるために光源121への印加電力の大きさを調整するものであり、基本的には、上述したように明るさ調整ノブ14c(メイン操作部34)に為された操作等に応じて印加電力の大きさを調整する。実施例1の光量調整部51は、図5に示すように、明るさ調整ノブ14cにおける為された回転操作を、回転位置に応じた抵抗値(検出電流や検出電圧)の変化として取得する。そして、光量調整部51は、その抵抗値の変化に応じて、光源121への印加電力を変化させることにより、光源121を明るさ調整ノブ14cへの回転操作に応じた明るさ(光量)で点灯させる。また、光量調整部51は、後述するように、スリット間隔判断部52からの検出結果や、フィルタ判断部53からの検出結果に応じて、光源121への印加電力の大きさの制限値すなわち光源121の上限光量ILを変化させる。実施例1の光量調整部51は、基本的には、上記のように明るさ調整ノブ14cへの回転操作に応じて光源121への印加電圧を変化させるが、後述するようにスリット間隔判断部52やフィルタ判断部53からの検出結果に応じて、印加電圧の制限値すなわち光源121の上限光量ILを変化させる。
【0043】
ここで、光量調整部51は、基本的に明るさ調整ノブ14cの回転操作の範囲を消灯(光量ゼロ)から最大光量Imまでに合わせており、回転操作量と光量の上昇とを比例させるように印加電力を変化させる。そして、光量調整部51は、上限光量ILを変化させた場合、その変化させた上限光量IL(後述する各光量(I1、I2、I3、I4)、フィルタ光量If等)に明るさ調整ノブ14cの回転操作の範囲を合わせるものとする。すなわち、光量調整部51は、変化させた上限光量ILに応じて、回転操作量に対する光量の上昇の割合を少なくする。なお、光量調整部51は、回転操作量に対する光量の上昇の割合を変化させることなく、設定した上限光量ILに達すると明るさ調整ノブ14cの回転操作に拘わらず上限光量ILを維持するものとしてもよく、上限光量IL以上の範囲では明るさ調整ノブ14cの回転操作をできなくする構成としてもよい。
【0044】
スリット間隔判断部52は、スリット間隔検出部42からの検出結果に基づいて、スリット部125における一対のスリット刃125a、125bの間隔dを判断する。実施例1のスリット間隔判断部52は、取得した間隔dが、最低設定間隔dmin以下であるか否かを判断する。この最低設定間隔dminは、光源121が最大光度値とされたスリット光が被検眼Es(眼底Er)を照射した状態において、その眼底Erに対して光障害に対する安全値(以下では安全照度ともいう)に基づいて設定される。その安全照度は、例えば、光源121の特性(スペクトル(分光特性)等)と、網膜に対する熱的障害を示す関数等と、を用いて設定する。実施例1の最低設定間隔dminは、光源121を最大光量Imで点灯させた場合に、眼底Erに対する安全照度を超えるか否かの境目となる間隔dとしている。なお、実際の最低設定間隔dminは、安全照度を超えるか否かの境目から所定の値だけ狭めることにより、確実に安全照度となるものとしている。このため、光源121を最大光量Imで点灯させている場合、間隔dが最低設定間隔dminよりも狭いと安全照度を超えないこととなり、間隔dが最低設定間隔dminよりも広いと安全照度を超えることとなる。なお、一対のスリット刃125a、125bの間隔d(最低設定間隔dmin等)は、スリット光における間隔(設定間隔)と比例する関係であるので、実質的に同一視することができる。
【0045】
また、実施例1のスリット間隔判断部52は、取得した間隔dを段階的に判断する。この一例を図6に示す。この図6の例では、スリット間隔判断部52は、最低設定間隔dminから、それよりも大きな第1設定間隔d1、それよりも大きな第2設定間隔d2、それよりも大きな第3設定間隔d3の4つの間隔dを判断するものとしている。そして、スリット間隔判断部52は、最低設定間隔dmin以下であるか、最低設定間隔dminから第1設定間隔d1の間であるか、第1設定間隔d1から第2設定間隔d2の間であるか、第2設定間隔d2から第3設定間隔d3の間であるか、第3設定間隔d3よりも大きいか、の5段階のいずれに該当するのかを判断する。そして、最低設定間隔dminから第1設定間隔d1の間に対応して第1光量I1を設定し、第1設定間隔d1から第2設定間隔d2の間に対応して第2光量I2を設定し、第2設定間隔d2から第3設定間隔d3の間に対応して第3光量I3を設定し、第3設定間隔d3よりも大きいものに対応して第4光量I4を設定している。これらは、最大光量Imが最も大きく、そこから第1光量I1、第2光量I2、第3光量I3、第4光量I4の順に小さくされている。この各間隔(d1、d2、d3)と各光量(I1、I2、I3、I4)とは、最低設定間隔dminと最大光量Imとの関係と同様に、対応する間隔の範囲の最大値とした場合に安全照度を超えない光量となるようにそれぞれ設定されている。
【0046】
フィルタ判断部53は、フィルタ検出部44からの検出結果に基づいて、フィルタ部129において、照明系12の光路上のフィルタFを挿入しているか否かを判断する。また、フィルタ判断部53は、フィルタ検出部44からの検出結果に基づいて、フィルタ部129において、照明系12の光路上に挿入されたフィルタFの種類を判断する。
[光量調整制御]
【0047】
次に、メイン制御部31において実行される光量制御の処理構成を、図7に示すフローチャートを用いて説明する。この光量制御処理は、細隙灯顕微鏡10の電源スイッチがオン状態とされることにより開始され、電源スイッチがオフ状態とされるまで繰り返し行われる。
【0048】
ステップS1では、フィルタFがないか否かを判断して、YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合はステップS4へ進む。このステップS1では、フィルタ判断部53が、照明系12の光路上にフィルタF(種類は問わない)が挿入されているか否かを判断する。
【0049】
ステップS2では、間隔dが最低設定間隔dminよりも広い否かを判断して、YESの場合はステップS3へ進み、NOの場合はステップS5へ進む。このステップS2では、スリット間隔判断部52が、一対のスリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも広いか否かを判断する。
【0050】
ステップS3では、間隔dに応じた上限光量ILの設定を行って、この光量制御を終了する。このステップS3では、光量調整部51が、光源121の光量の上限光量ILを間隔dに応じたものとするように、光源121への印加電力の大きさの制限値を設定する。図6の例では、それぞれの上限光量ILを、最低設定間隔dminから第1設定間隔d1の間の場合には第1光量I1とし、第1設定間隔d1から第2設定間隔d2の間の場合には第2光量I2とし、第2設定間隔d2から第3設定間隔d3の間の場合には第3光量I3とし、第3設定間隔d3よりも大きい場合には第4光量I4とする。なお、間隔dに応じて上限設定するものであれば、その段数は適宜設定すればよく、図6の例に限定されない。
【0051】
ステップS4では、蛍光フィルタFaがあるか否かを判断して、YESの場合はステップS5へ進み、NOの場合はステップS6へ進む。このステップS4では、フィルタ判断部53が、フィルタFとしての蛍光フィルタFaが光路上に挿入されているか否かを判断する。
【0052】
ステップS5では、上限光量ILを最大光量Imとして、この光量制御を終了する。このステップS5では、光量調整部51が、光源121の上限光量ILを最大光量Imとするように、光源121への印加電力の大きさの制限値を設定する。すなわち、ステップS5では、実質的に光源121の光量の上限をないものとする。
【0053】
ステップS6では、特定フィルタがあるか否かを判断して、YESの場合はステップS7へ進み、NOの場合はステップS2へ進む。このステップS6では、フィルタ判断部53が、フィルタFとしての特定フィルタが光路上に挿入されているか否かを判断する。この特定フィルタは、蛍光フィルタFaとは異なる透過率のものであって、両スリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも広い場合に、最大光量Imでは眼底Erでの安全照度を超えてしまうが、光路上にフィルタFがない場合よりは高い光量としても安全照度を超えない特性を有するものとする。実施例1では、無赤色フィルタFbを特定フィルタとしている。
【0054】
ステップS7では、間隔dが最低設定間隔dminよりも広い否かを判断して、YESの場合はステップS8へ進み、NOの場合はステップS5へ進む。このステップS7では、スリット間隔判断部52が、一対のスリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも広いか否かを判断する。
【0055】
ステップS8では、上限光量ILをフィルタ光量Ifとして、この光量制御を終了する。このステップS8では、光量調整部51が、光源121の上限光量ILをフィルタ光量Ifとするように、光源121への印加電力の大きさの制限値を設定する。このフィルタ光量Ifは、一対のスリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも広くされて特定フィルタ(無赤色フィルタFb)を通した場合に、眼底Erに対する安全照度を超えることのない光源121における光量である。フィルタ光量Ifは、最大光量Imよりも小さい値となる。
[上限光量表示部の構成]
【0056】
細隙灯顕微鏡10の観察系13では、図8に示すように、上限光量表示部60が設けられている。この上限光量表示部60は、上記のようにメイン制御部31が設定した光源121の上限光量ILを示すものであり、観察している検者が視認することが可能とされている。実施例1の上限光量表示部60は、透過型のディスプレイを用いるものとしており、観察系13の観察光軸O2上に配置される。上限光量表示部60は、観察系13による被検眼Eの観察の邪魔とはならない位置に上限光量ILを表示するものとされており、図8では上端近傍の上限光量呈示箇所61と、その下のライン呈示箇所62と、を有する。上限光量表示部60は、両呈示箇所61、62の下方では何らの表示をしないことにより、被検眼Eの観察の邪魔となることを避けている。
【0057】
上限光量呈示箇所61は、設定された光源121の上限光量ILを文字で示すものであり、設定された上限光量ILの把握を容易とする。上限光量呈示箇所61は、図8(a)では最大光量Imであることを呈示し、図8(b)では第1光量I1であることを呈示し、図8(c)ではフィルタ光量Ifであることを呈示している。これにより、検者は、観察系13により被検眼Eを観察した状態を維持したままで、上限光量呈示箇所61により現在の上限光量ILを容易に認識できる。
【0058】
ライン呈示箇所62は、光源121の光量を横方向に伸びるラインの長さで示すもので、上限光量ILを枠状に示すとともに、その枠内で塗りつぶされた箇所で現状の光源121の光量を示す。ライン呈示箇所62は、図8(a)では、上限光量ILの最大光量Imに合わせて枠が最も長くされているとともに、その枠内で現状の光源121の光量を示している。また、ライン呈示箇所62は、図8(b)では、(a)と比較して上限光量ILの第1光量I1に合わせて枠が短くされているとともに、その枠内で現状の光源121の光量を示している。さらに、ライン呈示箇所62は、図8(c)では、(a)と(b)との中間となるフィルタ光量Ifに合わせて枠の長さが設定されているとともに、その枠内で現状の光源121の光量を示している。これにより、検者は、観察系13により被検眼Eを観察した状態を維持したままで、ライン呈示箇所62により現在の上限光量ILと現状の光量とを直感的に認識できる。
【0059】
なお、上限光量表示部60は、設定された光源121の上限光量ILを、観察している検者が視認できるものであれば、他の構成としてもよく、実施例1の構成に限定されない。例えば、上限光量呈示箇所61は、設定された上限光量ILを数値で示してもよく、最大光量Imに対する割合(最大光量Imの70%等)を示してもよい。また、ライン呈示箇所62は、目盛りを用いるものとしてもよい。さらに、上限光量呈示箇所61とライン呈示箇所62とのいずれか一方のみを提示するものとしてもよい。
[光量調整の動作]
【0060】
次に、細隙灯顕微鏡10を用いて、被検眼Eを観察する動作について説明する。細隙灯顕微鏡10では、観察倍率操作ノブ13cや明るさ調整ノブ14cやスリット開閉ノブ125cが適宜操作されて、任意の明るさのスリット光が照射された被検眼Eを観察できる。
【0061】
このとき、細隙灯顕微鏡10では、照明系12の光路上に何もフィルタFが挿入されてなく、スリット部125における一対のスリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも広い場合には、ステップS1→S2→S3へと進む。また、細隙灯顕微鏡10では、照明系12の光路上に蛍光フィルタFaや特定フィルタ以外のフィルタFが挿入されていて、一対のスリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも広い場合には、ステップS1→S4→S6→S2→S3へと進む。そして、細隙灯顕微鏡10では、これらの場合には、間隔dに応じて光源121の上限光量ILを設定する(図6参照)。このため、細隙灯顕微鏡10では、間隔dが大きくなるほど光源121の上限光量ILを下げることとなるので、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ、その安全照度の中でも効果的に光源121の光量を高めて被検眼Eを観察できる。特に、図6の例では、最大光量Imも含めて5段階で間隔dに応じて光源121の上限光量ILを設定するので、その限光量ILを間隔dに対する安全照度の上限に近いものにでき、より適切に被検眼Eを観察できる。
【0062】
また、細隙灯顕微鏡10では、照明系12の光路上にフィルタFが挿入されてなく、スリット部125における一対のスリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも狭い場合には、ステップS1→S2→S5へと進む。また、細隙灯顕微鏡10では、照明系12の光路上に特定フィルタ(実施例1では無赤色フィルタFb)が挿入されていて、間隔dが最低設定間隔dminよりも狭い場合には、ステップS1→S4→S6→S7→S5へと進む。そして、細隙灯顕微鏡10では、これらの場合には、光源121の上限光量ILを最大光量Imとする。このため、細隙灯顕微鏡10では、最低設定間隔dminよりも狭い場合には、フィルタFの有無に拘わらず、明るさ調整ノブ14cの操作に応じて光源121を最大光量Imとすることを許容する。これにより、細隙灯顕微鏡10では、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ、光源121の光量を最大限利用して被検眼Eを観察できる。
【0063】
さらに、細隙灯顕微鏡10では、照明系12の光路上に蛍光フィルタFaが挿入されていると、ステップS1→S4→S5へと進み、光源121の上限光量ILを最大光量Imとする。このため、細隙灯顕微鏡10では、蛍光フィルタFaが用いられている場合には、スリット部125における一対のスリット刃125a、125bの間隔dに拘わらず、明るさ調整ノブ14cの操作に応じて光源121を最大光量Imとすることを許容する。これにより、細隙灯顕微鏡10では、蛍光フィルタFaが用いられることにより過度に暗くなることを防止でき、被検眼Eの蛍光観察においてコントラストの確認が困難となることを抑えることができる。
【0064】
細隙灯顕微鏡10では、照明系12の光路上に特定フィルタ(無赤色フィルタFb)が挿入されていて、間隔dが最低設定間隔dminよりも広い場合には、ステップS1→S4→S6→S7→S8へと進んで、光源121の上限光量ILをフィルタ光量Ifとする。このため、細隙灯顕微鏡10では、最低設定間隔dminよりも広い場合であっても、特定フィルタが用いられている場合には、明るさ調整ノブ14cの操作に応じて光源121をフィルタ光量Ifまで高くすることを許容する。これにより、細隙灯顕微鏡10では、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ、特定フィルタが用いられることにより過度に暗くなることを防止でき、被検眼E(実施例1では血管の観察)を適切に観察できる。
【0065】
次に、細隙灯顕微鏡の技術の課題について説明する。上記した従来の細隙灯顕微鏡では、被検眼における観察対象に応じて、フィルタを用いることによりスリット光の波長を変化させることが知られている。そのフィルタでは、透過率に応じて光源からの光量が低減することとなる。しかしながら、上記した従来の細隙灯顕微鏡では、スリット光の幅や視野絞り部の開口の大きさで光源の光度値を変化させてしまうので、フィルタを通すことでスリット光の波長を変化させた場合に、安全照度に対してフィルタの透過率に応じた光量だけスリット光を暗くさせてしまう。このため、上記した従来の細隙灯顕微鏡では、適切に被検眼を観察する観点から改良の余地がある。
【0066】
これに対し、本開示の細隙灯顕微鏡10は、メイン制御部31が、スリット光の幅と、照明系12の光路上におけるフィルタFの有無と、照明系12の光路上におけるフィルタFの種類と、に応じて光源121の上限光量ILを変更する。このため、細隙灯顕微鏡10は、スリット光の幅だけではなく、フィルタFにおける減光率を考慮して光源121の上限光量ILを設定できる。これにより、細隙灯顕微鏡10は、フィルタFを通してスリット光の波長を変化させた場合であっても、過度に暗くなることを抑制して被検眼Eの適切な観察を可能としつつ、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止できる。また、細隙灯顕微鏡10は、フィルタFが照明系12の光路上にない場合には、スリット光の幅に応じた上限光量ILを上限として光量を調節できるので、眼底Erに対する安全照度を超えることを確実に防止しつつ、被検眼Eを適切に観察できる。
【0067】
本開示に係る細隙灯顕微鏡の実施例1の細隙灯顕微鏡10は、以下の各作用効果を得ることができる。
細隙灯顕微鏡10は、被検眼Eに向けてスリット光を照射する照明系12と、そこで光源121からの光を任意の幅のスリット光とするスリット部125と、照明系12の光路上に任意のフィルタFを配置させるフィルタ部129と、光源121を制御するメイン制御部31と、を備える。メイン制御部31は、スリット光の幅と、照明系12の光路上でのフィルタFの有無と、照明系12の光路上におけるフィルタFの種類と、に応じて光源121の上限光量ILを変更する。このため、細隙灯顕微鏡10は、スリット光の幅に加えて、フィルタFの種類も含めて光源121の上限光量ILを設定するので、フィルタFを用いていない場合であってもフィルタFを通してスリット光の波長を変化させた場合であっても、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ、被検眼Eを適切に観察できる。
【0068】
また、細隙灯顕微鏡10では、メイン制御部31が、スリット光の幅が最低設定間隔dminよりも小さい場合には、照明系12の光路上のフィルタFの種類に拘わらず光源121の上限光量ILを最大光量Imとする。このため、細隙灯顕微鏡10は、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ、光源121の光量を最大限利用して被検眼Eを観察できる。
【0069】
さらに、細隙灯顕微鏡10では、メイン制御部31が、フィルタFとして蛍光観察に用いられる蛍光フィルタFaが照明系12の光路上にある場合には、スリット光の幅に拘わらず光源121の上限光量ILを最大光量Imとする。ここで、蛍光フィルタFaは、比較的大きな減光率とされているので、スリット光が最大幅とされた場合であっても、眼底Erに対する安全照度を超えることはない。このため、細隙灯顕微鏡10は、コントラストを向上させて被検眼Eの蛍光観察を適切に行うことができるとともに、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止できる。また、細隙灯顕微鏡10は、スリット光の幅が最低設定間隔dminよりも小さい場合と、蛍光フィルタFaを用いる場合と、で同じ最大光量Imを光源121の上限光量ILとするので、実質的に光源121の光量の上限のない状態とすることができ、被検眼Eを適切に観察できる。
【0070】
細隙灯顕微鏡10では、メイン制御部31が、スリット光の幅が最低設定間隔dminよりも大きくて蛍光フィルタFa以外のフィルタFが照明系12の光路上にある場合には光源121の上限光量ILをフィルタ光量Ifとする。このため、細隙灯顕微鏡10は、スリット光の幅が最低設定間隔dminよりも大きい場合には、フィルタFの有無に応じて光源121の上限光量ILを変化させるので、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ、状況に合わせた被検眼Eの適切な観察を可能とすることができる。
【0071】
細隙灯顕微鏡10では、蛍光フィルタFa以外のフィルタFの種類に応じてフィルタ光量を異なる値とする。このため、細隙灯顕微鏡10は、光路上のフィルタFの特性(減光率や観察の態様等)に合わせて、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ被検眼Eの適切な観察を可能とすることができる。
【0072】
細隙灯顕微鏡10では、メイン制御部31が、スリット光の幅が最低設定間隔dminよりも大きい場合、スリット光の幅が大きくなるにつれて光源121の上限光量ILを段階的にさげる。このため、細隙灯顕微鏡10は、眼底Erに対する安全照度を超えることを防止しつつ、その安全照度の中でも効果的に光源121の光量を高めて被検眼Eを観察できる。
【0073】
細隙灯顕微鏡10では、被検眼Eによる反射光を観察または撮影する観察系13を備え、観察系13は、光源121の上限光量ILを示す上限光量表示部60を有する。このため、細隙灯顕微鏡10は、検者が、観察系13により被検眼Eを観察した状態を維持したままで、現在の光源121の上限光量ILを認識でき、上限を設定することによる違和感を和らげることができる。
【0074】
以上、本開示の細隙灯顕微鏡を実施例1に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0075】
なお、実施例1では、無赤色フィルタFbを特定フィルタとしている。しかしながら、特定フィルタは、蛍光フィルタFaとは異なる透過率のものであって、両スリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも広い場合に、最大光量Imでは眼底Erでの安全照度を超えてしまうが、光路上にフィルタFがない場合よりは高い光量としても安全照度を超えない特性を有するものであればよく、実施例1の例に限定されない。
【0076】
また、実施例1では、無赤色フィルタFbを特定フィルタとして、その無赤色フィルタFbが挿入されている場合にフィルタ光量Ifとしている。しかしながら、特定フィルタは、複数の種類のフィルタを設定してもよく、実施例1の構成に限定されない。この場合、フィルタ光量は、それぞれの特定フィルタの特性(減光率や観察の態様等)に応じて互いに異なるフィルタ光量を設定することができる。
【0077】
さらに、実施例1では、無赤色フィルタFbを特定フィルタとしているが、特定フィルタを設定しないものとしてもよく、実施例1の構成に限定されない。この場合、図7のフローチャートでは、ステップS6からステップS8をなくして、ステップS4でNOの場合はステップS2へ進むものとする。この場合には、一対のスリット刃125a、125bの間隔dが最低設定間隔dminよりも狭いときと蛍光フィルタFaが挿入されているときとは上限光量ILを最大光量Imとし、それ以外のときには上限光量ILを一対のスリット刃125a、125bの間隔dに応じて設定することとなる。
【0078】
細隙灯顕微鏡10では、特定フィルタ(無赤色フィルタFb)が挿入されている場合にフィルタ光量Ifとしている。しかしながら、特定フィルタが挿入されている場合であっても、ステップS3と同様に、光源121の上限光量ILを間隔dに応じたものとするように、光源121への印加電力の大きさの制限値を設定するものとしてもよい。この場合、特定フィルタが挿入されているので、その特定フィルタの特性に応じて、ステップS3が用いている上限光量ILの各値(実施例1では図6参照)とは異なる値としてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 細隙灯顕微鏡 12 照明系 31 (制御部の一例としての)メイン制御部 60 上限光量表示部 121 光源 125 スリット部 129 フィルタ部 dmin 最低設定間隔 E 被検眼 F フィルタ Fa 蛍光フィルタ Im 最大光量 If フィルタ光量 IL 上限光量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8