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  • 特開-全固体電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143632
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056406
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】任 亜丹
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ22
5H029HJ01
(57)【要約】
【課題】 品質の向上した全固体電池を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 負極、固体電解質膜及び正極を積層して、電極積層体を形成する工程を含む全固体電池の製造方法において、
溶媒中に固体電解質を含むスラリーを、水分量が70ppm以上200ppm以下である離型剤層が形成されたフィルム表面上に塗布して、前記固体電解質膜を形成する工程を含む、
全固体電池の製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、固体電解質膜及び正極を積層して、電極積層体を形成する工程を含む全固体電池の製造方法において、
溶媒中に固体電解質を含むスラリーを、水分量が70ppm以上200ppm以下である離型剤層が形成されたフィルム表面上に塗布して、前記固体電解質膜を形成する工程を含む、
全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記離型剤層が、シリコーン樹脂を含む、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電解質の製造方法に関する。本発明の全固体電池には、リチウムイオン二次電池等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮から、自動車や家庭用のエネルギー源として繰り返し充放電が可能な二次電池の開発が進められている。高容量、高出力が期待できる二次電池の開発が期待されている一方で、同時に安全性もいっそう重視する必要がある。
【0003】
代表的な二次電池の1つであるリチウムイオン二次電池において、固体電解質を用いた固体電池が知られている。固体電池の1つである全固体電池は、固体電解質層と、当該固体電解質層の一方の面に形成された正極層と他方の面に形成された負極層と、正極層と接続される正極板および負極層に接続される負極板を備える。
【0004】
正極層は、正極活物質粒子、結着剤(バインダ)、固体電解質および溶媒を含むスラリーを正極集電体に塗工、乾燥して得ることができる。正極集電体としては、アルミ箔等を用いることができる。一方負極は、負極活物質粒子、結着剤(バインダ)、固体電解質および溶媒を含むスラリーを負極集電体に塗工、乾燥して得ることができる。負極集電体としては銅箔を用いることができる。あるいは、ステンレス箔上にリチウム金属層を形成したものを負極として用いることもできる。正極層や負極層には、さらに導電助剤を含むことができる。
【0005】
固体電解質層は、固体電解質粉末を溶媒中に分散してスラリー化し、塗布、乾燥して形成することが出来る。たとえば、固体電解質層は、負極層や正極層の表面に直接形成することができる。また、固体電解質層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の基材表面に固体電解質層を形成し、PETフィルムを剥離することで得ることもできる。ポリエステルフィルムの表面には、固体電解質層が剥離しやすいように、シリコーン化合物などの離型剤が形成されている。
【0006】
得られた正極と負極とが固体電解質を挟んで積層された状態で加圧されることで、電極積層体が得られる。この電極積層体に正極端子や負極端子が取り付けられ、これら端子の一端が外部に引き出されるように外装容器に収容して封止されることで、全固体電池が得られる。
【0007】
固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。硫化物固体電解質は、化学的に不安定であり、大気暴露などの際の水分によってイオン伝導性が低下することが知られている。そこで硫化物固体電解質を用いる場合には、正極又は負極活物質材料や固体電解質材料自体も事前に十分に乾燥させ、さらに正極、負極、固体電解質層の積層工程などにおいても露点を厳密に管理することによって、低水分濃度下のもとで速やかに組立が行われる
【0008】
特許文献1には、全固体電池の製造工程において、負極活物質層を作製後、全固体電池組立前に負極活物質層のみを加熱して、負極活物質層中の固体電解質が吸収した水を除去することが開示されている。特許文献2には正極活物質粒子の表面の一部がリチウムイオン伝導性酸化物で被覆された正極活物質粒子の水分量が319ppm以下であることが開示されている。また、特許文献3にはバインダに含まれる水分量を200ppmにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-50209号公報
【特許文献2】特開2018-125214号公報
【特許文献3】国際公開第2022/44815号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、固体電解質はもちろん、活物質やバインダの水分量を十分に小さくしても、電池にしてサイクル特性を評価したときに製品の製造歩留まりが低下することがあった。
【0011】
発明者らが鋭意検討した結果、固体電解質層をポリエステルフィルムの表面に形成する際、ポリエステルフィルムの表面に形成されている離型剤に含まれる水分を適切に除去することで、固体電解質層を離型フィルムから剥離するときの固体電解質層の破損等を抑制し、電池にするときの製造歩留まりを改善できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、負極、固体電解質膜及び正極を積層して、電極積層体を形成する工程を含む全固体電池の製造方法である。全固体電池の製造方法は、溶媒中に固体電解質を含むスラリーを、水分量が70ppm以上200ppm以下である離型剤層が形成されたフィルム表面上に塗布して、前記固体電解質膜を形成する工程を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、全固体電池において電極と固体電解質膜との境界における剥離が抑制され、品質が高く、製造歩留まりが良好な全固体電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】全固体電池の組立工程の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
適宜図面を参照しながら、以下に本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で実施することができる。以下は例示であり、本発明を何ら限定するものではない。
【0016】
<全固体電池>
本明細書において、全固体電池とは、電解質が、後述する固体電解質からなる電池のことを指すものとする。また、本明細書において全固体電池の語は、二次電池及び一次電池を含む。
<負極>
負極は、非水系二次電池材料に用いられる負極を用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、負極は、銅箔等の負極集電体と、負極活物質および固体電解質を含む負極層と、を備える。負極層にはバインダを含むのが好ましい。銅箔等の負極集電体に代えてステンレス製の負極集電体を用い、負極活物質に代えてリチウム金属層を圧延等で負極集電体の表面に形成した負極を用いてもよい。負極活物質、固体電解質およびバインダを含む負極層は、負極集電体の少なくとも一方の面に形成することができる。
【0017】
負極に負極活物質を用いる場合には、炭素系活物質を用いることが好ましい。炭素系活物質としては、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラックまたはこれらの任意の混合物を選択することができる。天然黒鉛は粒子表面に非晶質炭素を被覆した天然黒鉛を含み、同様に人造黒鉛は粒子表面に非晶質炭素を被覆した人造黒鉛を含む。これらの天然黒鉛および人造黒鉛は、一次粒子または一次粒子が凝集して二次粒子を形成した粒子、およびこれらの混合物を用いることができる。また、負極活物質は、炭素系活物質とケイ素系活物質の混合物を用いてもよい。負極活物質には、アルミニウム、銀、ビスマス、カルシウム、セリウム、インジウム、マグネシウム、錫、亜鉛、ニッケルなどの金属材料を含んでもよい。
【0018】
負極層に用いられるバインダとしては、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を挙げることができる。また、バインダとして、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、およびこれらの任意の混合物を用いても良い。バインダの含有量は、負極層の固形分総量に対して、1質量%以上10質量%未満であることが好ましい。バインダの含有量が多すぎると、負極活物質表面がバインダに覆われる部分が多くなるため、イオン伝導性や電子伝導性が低下するおそれがある。また、バインダの含有量が少なすぎると、負極活物質粒子同士の電気的接触が適切に行われないおそれがある。
【0019】
バインダの成分として、上記の化合物のほか、さらにセルロースの誘導体であるカルボキシメチルセルロース(「CMC」と称する。)、またはカルボキシメチルセルロースの金属塩(たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム)を含むことができる。バインダ成分としてCMCまたはCMCの金属塩をさらに添加する場合、CMCまたはCMC金属塩の含有量は、負極層の固形分総量に対して0.05質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0020】
負極層は、さらに導電助剤を含んでいても良い。導電助剤は、電極の抵抗を低減するための材料である。導電助剤として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンブラシ等のカーボン繊維等が挙げられる。
【0021】
導電助剤としてカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーを用いる場合、これらの導電助剤の含有量は、負極層の固形分総量に対して、0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.03質量%以上1質量%以下である。
【0022】
その他、負極層には、上記に記載した材料のほか、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0023】
<固体電解質膜>
実施形態の製造方法で用いる負極、固体電解質膜、および正極は、固体電解質を含む。ここで用いられる固体電解質は、酸化物系固体電解質と硫化物系固体電解質を例示することができる。酸化物系固体電解質としては、たとえば、ガーネット型、NASICON型又はペロブスカイト型の酸化物系材料を用いることができる。硫化物系固体電解質としては、公知のすべての硫化物系物質を用いることができ、たとえば、LiPO-LiS-SiS、75%LiS-25%P混合物、LiS-SiS、LiS-P、LiPS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-B、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-PLiS-P-LiCl、LiPSCl、Li10GeP12、Li3.25Ge0.250.75などが挙げられるがこれらに限定されない。実施形態においては、硫化物系固体電解質を用いることが好ましい。
実施形態で用いられる固体電解質膜は、所定の面積を有する薄い形状の平面であって、固体電解質から構成される物を指す。固体電解質膜は、単層(1種類の固体電解質からなる固体電解質膜)であってもよいし、複層(2種類以上の固体電解質膜が積層された固体電解質膜)であってもよい。また、ポリエチレン、ポリプロピレンのような一般的な多孔質セパレータ中に前述の固体電解質を充填することも可能である。
【0024】
本発明において、固体電解質膜の膜厚は、15~150μmとなるように成形することが好ましい。この膜厚よりも小さくすると、高圧力で固体電解質をプレス成形した場合に短絡を生じやすくなる。一方で、この膜厚よりも大きくすると、セル体積の過剰な増加につながり、全固体電池の単位体積当たりのエネルギー密度があがらない。
【0025】
<離型シート>
離型シートとは、シート部材の表面に固体電解質膜を剥離しやすくする離型剤層が形成された可撓性のシートを指す。可撓性のシートとしては、たとえば、ポリエステルをフィルム化した一般的なものを使用することができ、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびこれらの混合物から選択される成分を主に含むフィルムを使用することができるが、これに限らない。離型剤層を構成する離型剤としては、シリコーン系、アルキド系、オレフィン系、フッ素系、あるいはアルキル系の離型剤や、これらの組み合わせを用いることができる。なかでも、温度を制御することにより離型剤の転写量を容易に制御でき、紫外線や熱などで硬化する反応性官能基を持つシリコーン樹脂を含む離型剤を用いることが好ましい。
【0026】
<正極>
正極は、非水系二次電池材料に用いられる正極を用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、正極は、正極集電体と、正極活物質及び固体電解質を含む正極層を備える。正極層にはバインダを含むのが好ましい。正極活物質、固体電解質およびバインダを含む正極層は、正極集電体の少なくとも一方の面に形成することができる。
【0027】
正極集電体には、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン及びアルミニウム又はステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀で表面処理した正極集電体を用いることができる。
【0028】
正極活物質は、好ましくはリチウムニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウムニッケル系複合酸化物とは、一般式LiNiMe(1-y)(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物である。また、リチウムマンガン系複合酸化物を含むことができるリチウムマンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)等を挙げることができる。また正極活物質は、特に、一般式LiNiCoMn(1-y-z)で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含むことが好ましい。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以上である。高容量の電池を得るためには、y>1-y-z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウムニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物である。リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物は、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウムニッケル系複合酸化物である。また、正極活物質は、一般式LiMPO(Mは、Mn、Fe、CoおよびNiの群から選ばれる少なくとも1種)を含んでもよい。正極層の表面には、LiNbOなどの物質をコーティングして、バッファー層を形成してもよい。バッファー層は、バッファー層形成物質を10nm以下に形成して、正極層と固体電解質膜との間の界面抵抗を抑制することができる。バッファー層は、ゾルゲル法などで正極層の表面に形成することができる。
【0029】
正極活物質とともに正極層を形成するバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を挙げることができる。
【0030】
また正極層には、導電助剤が含まれていても良い。導電助剤として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノブラシ等のカーボン繊維等が挙げられる。その他、正極層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0031】
<セルの作製>
まず、負極の作製を説明する。負極の作製はいくつかの方法があるが。いずれの方法で負極を作製するにしても、固体電解質への水分の吸着を抑制するため、露点管理のもと少ない水分環境で作製するのが好ましい。
【0032】
<負極の作製>
負極集電体上に負極活物質が形成された負極を用いる場合、脱水処理された有機溶媒に負極活物質、固体電解質およびバインダを分散したスラリーを銅箔等の負極集電体の表面の一部または全部に塗布、乾燥し、負極前駆体シートを得る。得られた負極前駆体シートをロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などのプレス成形法で圧縮し、負極シートを得ることができる。有機溶媒としては、アセトニトリル、キシレン、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、トリエチルアミン等の第三級アミン系溶媒、ヘプタン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、N-メチルピロリドンのほか、エーテル系溶媒、チオール系溶媒、酪酸ブチル等を挙げることができ、いずれも脱水処理されたものであることが好ましい。
【0033】
あるいは、負極活物質、固体電解質、バインダを少なくとも含む負極活物質の造粒体を負極集電体に転写して、負極前駆体シートを得ることができる。このとき負極集電体の表面には負極活物質の造粒体との密着性を高めるバインダ等のポリマー成分を含んだ表面層を予め形成しておいてもよい。また負極層には導電助剤を含めてもよい。得られた負極前駆体シートをロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などのプレス成形法で圧縮し、負極のシートを得ることができる。
【0034】
あるいは、ステンレス製の負極集電体上の一部または全部にリチウム箔などの金属リチウム層を配置し、圧延処理などでこれらを密着させることで負極シートを得ることができる。
【0035】
<固体電解質膜の作製>
次に負極の表面に固体電解質膜を形成する。いずれの方法で固体電解質膜を形成するにしても、固体電解質に水分が吸着することを抑制するために、露点管理のもと少ない水分環境で作成するのが好ましい。
【0036】
銅箔上に形成した負極層の表面またはステンレス箔上に形成した金属リチウムの表面に対して、有機溶媒中に固体電解質が分散されたスラリーを塗布、乾燥することで、負極の表面に固体電解質膜を形成することができる。有機溶媒としては、アセトニトリル、キシレン、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、トリエチルアミン等の第三級アミン系溶媒、ヘプタン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、N-メチルピロリドンのほか、エーテル系溶媒、チオール系溶媒、酪酸ブチル等を挙げることができ、いずれも脱水処理されたものであることが好ましい。
【0037】
実施形態では、ポリエステルを主成分とするポリエステルフィルムに離型剤を含む離型剤層が形成された離型フィルム表面に、有機溶媒中に固体電解質が分散されたスラリーを塗布し、乾燥して固体電解質膜を形成したのち、負極層の表面または金属リチウムの表面に固体電解質膜が接触するようにポリエステルフィルムも一緒に積層することで、負極の表面に固体電解質膜を形成することができる。たとえば離型剤として好ましく用いられるシリコーン樹脂は、吸湿性があるため、固体電解質に水分が過剰に吸着しないように十分に乾燥させることが好ましい。ただし、離型剤を乾燥しすぎると、離型性が低下し、離型フィルムから剥離する際に固体電解質膜の一部が離型フィルム側に残って、歩留まりが低下することがある。その原因は定かではないが、離型フィルムに含まれる離型剤層の水分量が関係していると考えられる。実施形態では、離型フィルムに固体電解質膜が残らない、離型剤層の条件を得ることができた。離型剤層の水分量が所望の範囲になれば、乾燥方法は特に問わない。離型シート自体をシリカゲルなどの乾燥剤とともに保管してもよいし、さらに離型シートを減圧下で加熱脱水することも好ましい。離型剤がシリコーン樹脂を含む場合には、離型シートは100~150℃で加熱することが好ましい。なお、水分量はカールフィッシャー滴定により測定できる。離型剤が形成されているポリエステルフィルムシートの水分量と、離型剤が形成されていないポリエステルフィルムシートだけの水分量との差を離型剤の水分量とすることができる。
【0038】
積層された負極と離型シートの離型面に形成された固体電解質膜とをロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などのプレス方法で圧縮することで、負極-固体電解質膜積層体が得られる。圧縮後、離型フィルムを固体電解質膜から剥離する。
【0039】
<正極の作製>
次に正極の作製について説明する。いずれの方法で正極を作製するにしても、水分の吸着を抑制するため、露点管理のもと少ない水分環境で作成するのが好ましい。
【0040】
脱水処理された有機溶媒に正極活物質、固体電解質およびバインダを分散したスラリーをアルミニウム等の正極集電体の表面の一部または全部に塗布、乾燥して正極シートを得る。有機溶媒としては、アセトニトリル、キシレン、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、トリエチルアミン等の第三級アミン系溶媒、ヘプタン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、トルエン、N-メチルピロリドンのほか、エーテル系溶媒、チオール系溶媒、酪酸ブチル等を挙げることができ、いずれも脱水処理されたものであることが好ましい。
【0041】
<電極積層体の形成>
正極シートを、負極-固体電解質膜積層体に積層し、電極積層体前駆体を得る。固体電解質として硫化物固体電解質を用いる場合、水分への暴露によって固体電解質のイオン伝導性が低下する。そのため、電極積層体前駆体を得たのちには、所定時間以内に電極積層体前駆体をロールプレス、一軸プレス、ラバープレス、等方等圧プレス(CIP、WIP)などの方法で圧縮し、電極積層体を得ることが望ましい。所定時間とは、露点-40℃、水分濃度127ppm以下の環境においてたとえば2日間以内である。これ以上の時間が経過すると、固体電解質の吸水による性能劣化のおそれがあり、全固体電池の生産性が低下する観点からも好ましくない。
【0042】
<電極積層体の封止>
得られた電極積層体は、外装ケース内に速やかに密閉することが望ましい。負極集電体に負極端子となる矩形状の金属板の一端を取り付け、また、正極集電体に正極端子となる矩形状の金属端子の一端を取り付けた後、電極積層体をアルミニウム製の外装ケースに収容する。外装ケースの内面のうち、少なくとも電極積層体と対向する面には、ポリオレフィン等の樹脂層が形成されていることが好ましい。当該樹脂層を加熱して樹脂を溶融させ、再度固化することでアルミニウム外装ケースで電極積層体を密封する。このとき、正極端子の他端および負極端子の他端は、外装ケースの外に引き出されるように配置される。正極端子および負極端子が外装ケース内面の樹脂層と接触する部分には、外装ケース内面の樹脂層に用いられている樹脂と同一または別の種類の樹脂の層を設けて、当該箇所における外装ケースの接着を強固にすることもできる。
【実施例0043】
発明の実施の形態に示すフローに従って電池を作製した。図1は発明の実施の形態を要約したフロー図である。
【0044】
[I]負極-固体電解質膜積層体の形成
(1)厚さ10μmのステンレス製の負極集電体の表面に20μmの金属リチウム層を形成した箔(本城金属株式会社製)を負極として準備した。
(2)有機溶媒としてキシレンに固体電解質であるLiPSCl(D50:8μm)が分散されたスラリーを、離型剤としてシリコーン樹脂による離型剤層を有するポリエステルフィルム(離型シート)の表面に塗布し、オーブンで加熱し乾燥して、離型シート上に固体電解質膜を形成した。得られた固体電解質膜を、金属リチウムの表面と接触するように、離型シートとともに積層した。このとき、離型シートの離型剤層の水分量は、オーブンによる乾燥温度を変化させることによって、表1のように各種変更した。
(3)上記(2)の負極-固体電解質膜積層体をナイロン製の真空パック中にラミネート真空封止し、室温(25℃)において圧力400MPa下で1分間保持した。その後、ラミネート封止したまま、負極-固体電解質膜積層体を等方等圧プレス法により圧縮し、負極層の空隙率が7%の負極-固体電解質膜積層体を得た。負極と固体電解質の積層体の大きさは、50mm×70mmであった。
(4)固体電解質膜からポリエステルフィルムを剥離して、負極-固体電解質膜積層体を得た。
【0045】
[II]正極シートと負極-固体電解質膜積層体の積層
(1)正極活物質としてLiNi0.8Co0.1Mn0.1(D50:8μm)を70質量%と、固体電解質としてLiPSCl(平均粒径1μm)を25質量%と、アセチレンブラック(ティムカル・ジャパン株式会社製)2質量%と、バインダとしてスチレン-ブタジエンゴム(SBR)3質量%を有機溶媒であるキシレンに分散したスラリーを、厚さ10μmのアルミニウム箔(株式会社UACJ製)に塗布し、乾燥して正極層を形成し、正極を得た。
(2)上記(1)で得られた正極を45mm×65mmにカットして、正極層が[I]で準備した負極-固体電解質膜積層体の固体電解質膜と接するように積層して、電極積層体前駆体を得た。正極と負極-固体電解質膜積層体の積層数は、それぞれ1ずつであった。
【0046】
[III]電極積層体の加圧
(1)各実施例で得られた電極積層体前駆体をナイロン製の真空パック中にラミネート真空封止し、室温(25℃)において圧力400MPa下で1分間保持した。次いでラミネート封止したまま、電極積層体前駆体を等方等圧プレス法によって圧縮して、正極層の空隙率が5%の電極積層体を得た。
【0047】
[IV]外装ケースへの封入
(1)上記[III]で得られた電極積層体を、発明の実施の形態に記載した方法で外装ケースに封入し、正極端子および負極端子がアルミニウム製の外装ケースの外に引き出された電池を得た。
【0048】
乾燥条件を変更して残存水分量が表1に記載された状態の離型シートを用いて、電池をそれぞれ40個作製した。工程[I](4)で剥離したフィルムを目視により観察し、フィルムの50mm×70mmの範囲内に固体電解質が残っていないかを確認した。40個の電池作製中に剥離されたいずれのフィルム上にも固体電解質が残っていない場合、剥離性が「良好」であると判定し、固体電解質が残っていることが確認されたフィルムが1つでもあった場合、剥離性が「不良」であると判定した。
離型シートの離型剤層の残存水分量が10ppmである離型シートを用いた場合(比較例1)、固体電解質が微量に残っているフィルムが2つ確認できた。
また出来上がった電池の充放電を行ったところ、比較例1の電池のうち4個の電池については絶縁が認められた(歩留まりは90%)。比較例1の電池作製中に剥離されたフィルムで、目視で固体電解質の残存が確認されたものは2つのみだったにも関わらず、4個の電池に絶縁が認められたことになる。比較例1の電池の作製中、フィルムの剥離の際に、固体電解質に何らかのダメージが加わったものが2つあったものと考えられる。なお、実施例1~3の条件で作製した電池には、いずれも絶縁は認められず、歩留まりは100%であった。
得られた電池について、0.05Cで4.25Vまで定電流充電したのち、定電圧充電に切り替え、0.005Cで充電カットした。そののち、0.05Cで2.5Vまで定電流で放電をしたときの放電平均動作電圧を取得した。表1には、実施例1の放電平均動作電圧を1とした時の他の実施例および比較例の放電平均動作電圧を示す。離型剤層の残存水分量が1000ppmの電池では、シリコーン樹脂に含まれる水分量が固体電解質に影響を与え、放電容量が得られなかったと考えられる。水分量は150℃でカールフィッシャー滴定により測定した。
【表1】
【0049】
このように離型シートにおける離型剤層の残存水分量を特定の範囲に制御して、固体電解質膜の劣化を抑制し、品質の高い全固体電池を得ることが可能となった。
【0050】
本発明における実施例はあくまで一例であってこれに限定されるものではない。たとえば、外装ケースにはアルミニウム性のラミネートフィルムを用いたが、アルミニウム性の強固な缶ケースでも円筒型でも構わない。固体電解質にLiPSClを用いているが、水との化学的安定性が低い硫化物系固体電解質であれば本発明が適用できる。正極や負極にあらかじめ所定寸法に調整した正極や負極を用いているが、積層してから速やかに所定形状に裁断してもよい。その他、発明に影響のない範囲で設計変更可能であることは言うまでもない。

図1